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東京大学工学部 社会基盤学科 社会基盤学専攻 The University of Tokyo Department of Civil Engineering

Department of Civil Engineering東京大学工学部 社会基盤学科 社会基盤学専攻 The Universit yofTo kyo Department of Civil Engineering 1 人間・人間・自自然然環環境境のの再再生生とと創創造造——社社会会基基盤盤学学のの領領域域——

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東京大学工学部社会基盤学科社会基盤学専攻

The University of Tokyo

Department of Civil Engineering

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人間・自然環境の再生と創造—社会基盤学の領域—人間・自然環境の再生と創造—社会基盤学の領域—

私たちの生活と社会基盤学

社会基盤学は,私たちの日常生活を支える技術体系です。たとえば道路や公園,橋,駅や鉄道,物流や情報通信施

設,電気や水道などのライフラインは,現代の都市生活に欠かすことはできません。一方都市をはなれて,川や海,

美しい山々を訪ねれば,そこにも快適な水辺を創り,豊かな川や森を保全して自然環境を維持していくための社会

基盤技術が存在しています。

人間・自然環境の再生と創造

現代の生活は,人間が技術を利用して周囲の環境を改善したり保全することによって,成り立っています。社会基

盤学とは,私たちが文明的・文化的な生活を営むために必要なあらゆる技術を含み,いわば人間が人間らしく生き

るための環境を創造する大切な役割を担っています。加えて,今や地球規模の自然環境再生が重要なテーマです。

現代のシビル・エンジニアは,大都市機能の再構築と都市防災,地方都市の再生,自然環境や田園風景の保全,河

川環境の再生と水害対策,地球規模での環境・エネルギー問題,国際社会における技術協力など,実に多くの課題

と向き合っているのです。

多彩な人材と職能

社会基盤学の分野には多様な人材が求められています。たとえば国土や都市のあり方を大局的に構想し実現する戦

略家,歴史や景観・自然環境を生かしながら都市や地域のあり方を先導するプランナー,科学的方法論に基づいて

公共施設を計画・設計・施工するエンジニア,地域の人々のために快適で美しい橋や都市空間を実現するデザイナ

ー。歴史・哲学・社会学など諸分野とわたりあって人間社会とは何かを洞察できる人材も必要です。しかも,社会

基盤学が対象として見据えている環境は,身近な生活空間から地球環境に至る壮大なスケールのひろがりをもって

います。次代のシビル・エンジニアが活躍する舞台は,わずか数十人の村のための環境整備から,地球規模での技

術開発・環境保全戦略まで,実に多彩なものとなるでしょう。

次代の環境創造を担うために

東京大学社会基盤学科/社会基盤学専攻は,人間の生活や環境に関わる実に多様な専門領域が総合化したグループ

であり,次代の環境創造を担う多彩で個性豊かな人材の育成を目指しています。人それぞれの個性や資質を生かせ

る場所が,きっと見つかるはずです。

シビル・エンジニアリング

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社会基盤学科の構成と履修コース社会基盤学科の構成と履修コース

国際プロジェクトコース

社会基盤学科には,社会基盤学A(設計・技術戦略),社会基盤学B(政策・計画),社会基盤学C(国際プロジェクト)の三つの進学振り分け部門があり,各部門の進学生は,それぞれ設計・技術戦略,政策・計画,国際プロジェクトの各履修コースに配属されます。

現在,わが国の国内経済は曲がり角を迎え,グローバルスタンダードが押し寄せてくるとともに,環境問題など地球全体で取り組むべき課題も山積しています。これからは,地域社会で貢献できる人材とともに,国際社会で活躍できる人材が求められています。世界銀行やアジア開発銀行,ユネスコなどの国連機関,国際的なNPO

や企業グループなど,日本人が活躍すべきフィールドは世界に大きく広がっています。そんな国際社会で活躍できる人材を輩出することが,国際プロジェクトコースの目的です。

設計・技術戦略コース

人々の居住や移動や通信を可能にし,快適な生活空間を創出するとともに,都市を災害から守り,危機に瀕した自然環境を保全し蘇らせる。自然と人間の望ましい関係を保ちつつ人間の生活を支える基盤技術の重要性は,社会が変革期を迎えている今,世界規模でますます高まっています。人や自然が何を求め,どんな問題を抱えているのかを敏感に感じ取り,技術を通して次代の文明の創出に貢献する。設計・技術戦略部門は,そのようなシビル・エンジニアの養成を目指しています。

政策・計画コース

わが国を含む多くの国々において,国土・都市の整備に関わる合意形成を含めた高度なプランニング,都市や地域のサステイナブルなマネジメント,自然・産業・文化が渾然一体となった国土のデザインなど,さまざまな価値観や手法を総合的にコーディネートしながら的確に問題を解決すると同時に,将来のビジョンを提示していくことが求められています。政策・計画コースは,個々の施設や空間の計画・デザインはもちろん,専門分化した各技術を総合して国土や地域・都市のビジョンを描くことのできる人材の育成を目指しています。

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カリキュラム体系カリキュラム体系

本学科では,講義・演習・実習を軸にした体系的なカリキュラムを用意していますが,各自関心ある分野を主体的に学んでほしいという意図から,必修科目は「社会基盤プロジェクト(卒業研究)」と「フィールド演習」のみとし,他学科・他学部の関連講義科目の履修の自由度を高くしてあります。

設計・技術戦略コース:主として,シビルエンジニアとして必須の設計,構造,材料,地盤の工学基礎系科目とその応用である設計を扱う科目群,また高級技術者となるための問題解決の方法論や技術戦略系の科目群を提供しています。政策・計画コース:一部の工学基礎科目に加え,人文・社会・自然に関わる教養的科目,計画方法論の基礎科目,プランナーとして必須のプレゼンテーションやディスカッションを中心とする科目を提供しています。国際プロジェクトコース:経済学・公共選択論等のインフラ経済に関わる基礎科目群,技術移転等の国際技術戦略に関わる基礎科目群,国際プロジェクトの実際・方法に関する専門科目群を提供しています。

なお,伝統的な座学系講義と共に,ケースメソッド等を活用した新しい教育メニューも提供しており,より実践的な場を想定した課題発見力や問題解決能力を養うことができます。

社会基盤学は実践のための学問です.教室で得た知識を現実の問題に応用するトレーニングとして,二年冬学期から四年夏学期に至る一貫した演習プログラムを用意しています.工学の本質を自然に習得できる基礎的演習から,プランナーやデザイナー・マネージャーなど各職能を想定した専門的な演習まで,段階的に履修が可能です。例えば,東海・東南海・南海連動型地震が生じた場合の被

害を想定し,それに対する対策や防災計画を具体的に立案する演習や,クラス全員が合宿形式でエンジニアとしての方法論のエッセンスを集中的に学ぶ演習などが用意されています.

春休みには動機づけ見学会として,アジアや中東など,インフラ整備が盛んな国々を訪問し,現地で活躍するエンジニアやプランナーの実際の姿に触れる機会を提供しています.また夏季休暇中

には,国内および海外の企業,研究機関,および行政機関などで,最長で1か月間程度実地の仕事に従事し,大学では得られない体験を積んで学習の一助とする夏季実習が提供されています.国内の場合には,実習先は北海道から沖縄におよぶ全国各地,また海外の場合には,アジアや欧米諸国など様々な国と地方にわたり,学生生活の貴重な楽しい思い出となっています.

カリキュラムの特徴

講義

プロジェクト演習

実習

数学1数学1数学1基礎情報学基礎情報学基礎情報学

河川-海岸計画概論河川-海岸計画概論河川-海岸計画概論基礎流体力学基礎流体力学基礎流体力学

水理学

地盤の工学海岸工学

国際プロジェクト序論

国際プロジェクト序論

国際プロジェクト序論

地球環境学技術移転と開発

国際プロジェクトのケーススタディ

地球水循環と社会

途上国プロジェクト特論

国際コミュニケーションの基礎Ⅰ/Ⅱ

企業と技術経営

自然災害と都市防災

社会技術論

河川流域の環境とその再生流砂保全計画沿岸環境計画

アジアの経済開発

開発とインフラ

導入プロジェクト 基礎プロジェクトⅠ/Ⅱ/Ⅲ/Ⅳ国際プロジェクト実習

駒場関連科目

●総合科目東京のインフラストラクチャー自然共生システムのデザイン学国際プロジェクトを考える—社会基盤学の視点から—

人間社会と交通システム都市施設の今と昔

●全学自由ゼミナール・体験ゼミナールi.school KOMABAなど

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コンクリート工学橋の設計とリスク分析

社会基盤学序論社会基盤学序論社会基盤学序論

空間情報学Ⅰ

統計解析手法

マネジメント原論

材料の力学性能照査と設計

基盤技術設計論基盤技術設計論基盤技術設計論構造の力学構造の力学構造の力学

地盤の構造学振動・制御・計測

交通学景観学

都市学

プロジェクトマネジメント

評価論

社会基盤史社会基盤史社会基盤史

基礎経済学基礎経済学基礎経済学数理分析の基礎数理分析の基礎数理分析の基礎

風と構造物

国土学

空間情報学Ⅱ

環境・エネルギー政策論

物理数学の基礎情報システム設計

社会的意思決定論

法学基礎財務学

公共経営学

土地学

社会基盤学科の講義体系入門科目群:二年冬学期に履修基礎科目群:主に三年夏学期に履修応用科目群:主に三年冬~四年夏学期に履修演習科目群:二年冬~四年夏学期に履修

応用プロジェクトⅠ/Ⅱ/Ⅲ/Ⅳ/Ⅴ

演習科目群

総合プロジェクトフィールド演習

[夏学期]コンクリートの連動機構モデリングE計算力学E

風と構造物E

地盤耐震工学E

構造設計特論E

土質工学原論E

地盤工学特論E

環境復元学E

河川工学特論E

海岸水理学E

水文学特論E

地理情報システムE

写真測量とリモートセンシングE

交通・地域学特論ⅡE道路交通工学特論E社会基盤マネジメント特論E

景観学特論都市災害軽減工学E

社会基盤学インターン(学外)社会基盤学のフロンティアⅠ都市の持続再生学AE都市の持続再生学C社会技術特論社会基盤技術者のための国際英語ⅠE

[冬学期]鉄筋コンクリートの非線形力学社会基盤メインテナンス工学E

計算地震工学E

社会基盤学の非線形解析法E

基礎工学E

地盤工学のフロンティアE

地震工学E

自然災害と都市防災海岸漂砂論E

空間統計解析E

交通・地域学特論ⅠE環境流体力学特論E社会基盤のフロンティアⅡE都市の持続再生学BE振動・制御・計測マイクロ波リモートセンシングE国際プロジェクトの事例分析特論社会基盤技術者のための国際英語ⅡE

大学院

(卒業研究)

社会基盤プロジェクト

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卒業研究および大学院の研究グループ配属卒業研究および大学院の研究グループ配属

4年生に進級すると全員がいずれかの研究グループに配属され,卒業論文を作成することになります。グループ配属は各自の希望に基づいて行われますが,原則として設計・技術戦略コースからは基盤技術と設計グループ・水圏環境システムグループに,政策・計画コースからは都市と交通・マネジメント・デザインと景観グループに,国際プロジェクトコースからは国際プロジェクトグループに,それぞれ優先的に配属されることになっています。各研究グループでは,本人の興味や研究の社会的意義を考慮のうえ,卒業研究のテーマが決められ,各学生は卒業までの一年間,そのテーマのもとで論文の作成に取り組むことになります。

大学院に進学する場合,本人の希望と一定のルールのもとに,改めて生産技術研究所・地震研究所の社会基盤学関連部

門を含めた各研究グループに配属されることになります。4

年次と同じグループに所属して研究を継続することも可能ですが,卒業研究を通して培った素養や問題意識のもと,異なるグループで修士論文に取り組むことも奨励しています。

大学院では,卒業研究時と同様,研究グループという比較的少人数の組織の中で数年を過ごすことになります。この期間は勉学と研究だけでなく,旅行やスポーツ,あるいは学会活動に関わるなど,グループごとに特色あるさまざまな活動をともにします。国内外の会議やシンポジウムで研究発表する学生も少なくありません。

このような,教職員,社会人研究員,留学生といった異なる背景を有する先輩後輩との広い交流が,将来のキャリアにも活かされ,一生の財産にもなっていくのです。

基盤技術と設計A/B

水圏環境

マネジメント

デザインと景観

都市と交通/空間情報

国際プロジェクト

基盤技術と設計

設計・技術戦略

水圏環境

マネジメント

政策・計画 デザインと景観

都市と交通

国際プロジェクト国際プロジェクト

都市・防災

センシング&シミュレーション

研究グループ(大学院)履修コース 研究グループ(卒業研究)

*注 図は各履修コースから優先的に配属される研究グループを示しています。状況によって,希望の研究グループに配属されることが可能です。

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研究グループ紹介研究グループ紹介

水圏環境

研究/活動例 田島芳満 准教授

沿岸域における生活・安全・環境の調和にむけて世界の人口の約1割が集中していると言われる海抜10m以下の沿岸域では,海からの豊かな恩恵を享受する一方で,様々な時空間スケールで発生する災害リスクにも曝されています。我々の研究目標の一つは,東日本を襲った津波はもちろん,より高頻度に発生する高波や高潮,慢性的な海岸侵食などの様々な自然現象を現地観測や実験,数値解析を通じて解明し,沿岸域における人々の生活と安全,環境を調和させるためのしくみを考究することにあります。

研究/活動例 知花武佳 准教授

地域の自然特性を活かした河川再生川は多くの生物が生活を営んでおり,我々人間も癒しを得る貴重な空間です。そこで,洪水防御や水利用のために作り替えられてしまった川をもう一度再生させようと言うのが我々の目標です。とは言え,我々が安全に生活するには,完全に原自然に戻すのは不可能です。そこで,地域によって異なる川の環境特性,自然現象を解明し,どの様な河川管理を行えば安全かつその地域らしい川の姿になるかを解析していきます。

地球水循環変動の観測とモデリング河川生物の生息環境調査と評価河川−海岸の土砂移動マネジメント沿岸域の波と流れの解析沿岸域の水質・物質循環モデリング

水と人間社会との望ましい関係を構築するため,河川流域,沿岸域から海洋,さらには地球規模までの広い水環境を対象とした研究を進めています。国内外での現地調査や数値解析,水理実験を通して,水やそれに伴う土砂,栄養塩等の物質の動態を把握し,さらにそこに暮らす人々の生活や文化,環境との調和を考えることにより,それぞれの国や地域に即した安全で快適な社会の構築に貢献しています。

左/西湘海岸における長周期波の瞬間波形(上)とその振幅(下)。直線的な海岸でも海底地形の影響を受けて被災外力が集中する特性が再現されている。右/東日本大震災による津波被災調査の様子(上)と破壊された堤防(下)

現地で起こっている現象は一見非常に複雑ですが,調べ方を工夫することで実に明解なメカニズムが見えてきます。そのために,実際に川に入り,仮説・検証を繰り返しながら謎を解明していきます。

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基盤技術と設計A/B

研究/活動例 前川宏一 教授(基礎技術と設計B)

都市基盤の寿命推定と診断・治療都市基盤の変容を時間と空間軸に対して予測し,これを治療・設計支援する“都市医療技術”の開発を目指しています。雨,風,日射,交通荷重等はもちろんのこと,二酸化炭素,酸素,塩化物イオン,酸など,都市基盤の寿命を左右する物質の侵入・反応・固定をマイクロスケール空隙中の固体科学から解明し,キロメートル・300年スケール

のインフラストックの構造非線形応答を,巨大地震時の巨視的な損傷も含めて数値解析するシステムを構築しています。

研究/活動例 内村太郎 准教授(基礎技術と設計A)

市民防災のための斜面災害のモニタリング技術我が国では,都市への人口集中で急斜面地域が開発される一方で,地方では山岳部の住居や施設が残され,大雨による斜面災害が毎年発生しています。リスクの高い地域の住民が主体的に参加できる自助的な防災を目指して,災害の前兆を捉える,安くて使いやすい警報システムを開発しています。電子回路や運用方法の改良を重ね,コストが1

桁安く,30分で設置でき,電池で3年動くセンサーができました。神戸市六甲や中国四川省など,国内外の被災斜面で検証試験中です。

社会基盤の安全・防災・環境負荷低減地盤・岩盤の工学と廃棄物地盤コンクリート工学・耐震・耐久設計橋梁の計画・設計・モニタリング風と構造物・風力エネルギーバイオマス活用技術の開発

社会基盤に係わる理論の構築・現象の解明と,実社会への応用を両軸に活動しています。伝統的な分野をさらに強化し,それを社会の新たな問題に応用し,豊かなそして安全な社会を築くことに貢献することが目的です。これは,環境負荷低減・循環型社会の実現,省資源・エネルギー型社会の創出,汚染浄化,社会基盤の維持管理・長寿命化,安全といった,現代の文明社会を持続させる「知」・「技術」を生み出そうとする試みです。

六甲砂防斜面での計測器設置 開発した無線監視装置『感太郎』

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研究グループ紹介研究グループ紹介

デザインと景観

研究/活動例1 中井祐 教授

都市と地域の風景再生のための公共空間デザイン少子高齢化や市街地空洞化などの地方都市が抱える問題に対して,デザインは何ができるでしょうか。われわれのグループは,将来の町や風景のあり方を描きながら,広場や道、施設などの個々の公共空間のデザインに取り組んでいます。建築家や都市計画家,自然環境の専門家とも恊働しながら,地元の人たちと議論を重ね、生き生きとした町を取り戻すために日々奮闘しています。

研究/活動例2 中井祐 教授

フィールド研究とまちづくりまちづくりに必要なものは,そのまちを想う熱い気持ちと,そのまちを冷静に見つめる専門家としての視点です。われわれは,現地に滞在し,そのまちらしさとは何か,その場所の風景を特徴づけているものは何なのか,という視点からフィールド調査を行っています。現地に実際に滞在することによって,風土・人情・文化などを自分の身体で学び,教室で学んだ理論を実際への応用する専門家として必要な資質を習得してゆきます。

景観論・都市空間論地域の景観計画とまちづくり都市空間と社会基盤施設のデザイン計画設計思想史・デザイン史

デザインと景観グループは,生き生きとした都市や人の心の支えとなる風景を生み出すことを目標に,社会基盤施設のデザインやまちづくりの研究・実践を行っています。風景にはその土地の自然風土や歴史文化,社会基盤,人々の日常生活などがトータルに映り込んできます。プロジェクトの実践と研究を通して,日常を生きる豊かさや貴さを実感できる町や風景を生み出すべく思考し行動する,そんなプランナー・デザイナーの育成を目指しています。

コロンビアメディジン市におけるベレン公園図書館の設計プロジェクト。地域再生の核となる公共空間の創出を行った。

岩手県O町 東日本大震災の津波被災地における屋台製作プロジェクト。心の拠り所となる場を創るためのデザインと実践を試みた。

大分県T市 自然と人の営みが織りなす農村風景や,中世の城下町の構造・現状等についてフィールド調査や研究,デザイン・スタディを重ね,行政や市民に向けてまちづくりのための提案を行った。

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マネジメント

研究/活動例1 小澤一雅 教授

社会資本におけるアセットマネジメントの導入高度成長期に建設された社会資本は,更新時代を迎えつつある。社会資本におけるアセットマネジメントとは,国民の共有財産である社会資本を,国民の利益向上のために,長期的視点に立って,効率的,効果的に管理・運営する体系化された実践活動である。資源配分の考え方,長期に亘る費用低減の方策,新規建設を含めた新しい社会資本マネジメントのシステムを再構築することを目的としている。

研究/活動例2 Petr Matous 特任講師

インフラマネジメントの為に社会的ネットワークを活かすインフラ開発の焦点は途上国に移りつつある。しかし,制度が未熟な地域では,プロジェクトマネジメントの為に,現地のヒトや組織の間のインフォーマルな関係の構造を配慮したアプローチが求められる。以上のような観点から,ネットワーク科学の知見を利用して、複雑な社会技術システムを概念化し,インフラ開発や新技術普及と地域社会の関係を解析している。

社会基盤プロジェクトマネジメント建設マネジメント社会基盤の産業政策と戦略政策過程マネジメント

マネジメントグループは社会基盤の施設や組織をいかに管理・運営していくかという課題に取り組んでいます。インフラストラクチャの整備に関わる規制や事業執行の仕組みをあるべきに姿にし,分野間の古い垣根を取り払って未来のインフラビジネスの担い手を育てることが私達の使命です。組織設計,人的資源管理,知識活用,意思決定などマネジメントの諸活動を自ら実践して考える練習場を皆さんに提供します。

社会資本の資産運用のしくみ

エチオピアの農村地域のコミュニケーション・ネットワーク

調査中の学生

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国際プロジェクト

研究/活動例 堀井秀之 教授

水資源が限られている都市における持続可能な上水道供給サービス計画策定手法給水サービスは,人々が健康・快適な生活を送るために欠かせない社会基盤であると同時に,経済成長を促すための生産能力向上のための原動力です。こうした社会基盤の充実を図るためには,地域固有の社会システムや人々の生活習慣を考慮した事業計画を策定し,随時モニタリングによって持続可能な事業としていくことが必要です。さらに,水資源が限られた都市において限りある水資源を持続可能的かつ適切に配分するためには,デマンド・サイド・マネジメントの考え方を発

展させ積極的に導入していくことも重要です。以上を踏まえて,複数ドナーの支援により給水サービス改善事業が実施されているネパールカトマンズ首都圏を例として,需要を満たしつつ持続可能な事業を実現するための方法論を発展させることを目指しした研究を行っています。

研究/活動例 加藤浩徳 准教授

アジアの都市交通問題の解決に向けてアジアの多くの都市では,急激な人口増加やインフラの慢性的不足が発生し,さらにそれらに起因して,交通渋滞,環境汚染,貧富格差の拡大等が深刻な問題となっています。ところが,特に途上国では,現状の把握から問題解決に至るまで多くの課題が残されたままです。この研究では,アジア諸都市を対象に,地元の人々と協力しながら交通問題を的確に把握・評価し,持続的発展に向けた処方箋を見いだす方法論の開発を目指しています。

東南アジアのインフラ・アセットマネジメントアジアの発展と基盤構築・老朽化動態防災技術の途上国移転の手法開発国際コンフリクト・マネジメント国際技術移転論

国際プロジェクトグループでは,プロジェクトの計画(設計)・実施(マネジメント)・評価に関わる研究を行っています。元来,社会基盤学は市民のため,社会のための工学として生まれ,「公共・技術」をキーワードに教育が行われてきました。社会固有の問題を理解した上で,問題解決策を設計し,事業実施後には評価を行い将来計画に活かす。これは社会基盤学が得意としてきたところであり,国際舞台に移っても大きな役割を果たせると我々は信じています。

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共同水栓で水を待つ人 (々ネパール・カトマンズ盆地)

アジア諸都市の深刻な交通渋滞(タイ・チェンマイ市)

地元関係者との都市交通問題の検討(インドネシア・メダン市)

都市と交通/空間情報

研究/活動例 家田仁 教授

インフラ整備に見られる計画思想・価値観をあぶり出すあらゆるインフラは,その時代や地域の潜在的な社会的価値観や計画思想のもとに建設されてきました。こうした潜在的な価値観や思想を探り,共通性や固有の価値観・考え方とその証拠を見出すことは,東日本大震災などの大災害を踏まえて今後インフラを計画していく我々にとっては,柔軟かつ合理的により良い計画を立てる上で極めて有効な参考情報となります。そのため,実現された結果から潜在的な価値観や計画思想をあぶり出す方法論について,国内外の高速道路,整備新幹線など高速鉄道,ターミナル駅,地下鉄路線など様々なインフラの整備を対象に研究を進めています。

研究/活動例1 布施孝志 准教授

人の流れのモニタリング駅構内,駅前広場,横断歩道といった公共空間の高度利用にともない,より緻密な空間設計や流動制御の必要性が高まっています。そのためには,対象空間における群集内での人物挙動の詳細把握が重要になります。しかし,多数の人物が同時に行動している中で,個々人の詳細な動きを観測する方法は確立されていません。そこで,近年の高度なセンシング技術やシミュレーション技術を統合し,自動的に人物を追跡する手法を開発しています。人物挙動の自動認識が可能となれば,群集の密度と個人の動きや群集化との関係性の議論や,より効率的な流動制御の方策への貢献が期待されます。さらに,ビデオカメラなどによる,局所的ではあるものの詳細な情報と,GPSやICタグのような広域のサンプリング情報とを統合することにより,都市空間における人物の動態をモニタリング・解析する方法の構築を目指しています。

大交流時代の国際交通ネットワーク戦略アジアに適した交通システム持続可能な国土・都市とモビリティ国土・都市の歴史と現状の分析国土・都市のセンシングとモデリング国土・都市の情報の視覚化

当グループは,「交通・都市・地域・国土などに関わる諸問題」に関する研究,教育,及び研究成果等の社会への反映を通じ,社会厚生を改善することを目指しています。各教員は,多様な学問領域を俯瞰しつつそれぞれ先鋭的な学問領域を開拓・発展させ,これを国土や都市,地域,交通分野への政策提言・計画プロセスに利活用し,活力ある魅力的な国土や都市の実現に寄与するために努力しています。

上海虹橋駅の広大な待合ホール 中国の高速鉄道(北京南駅)

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画像情報,距離情報,人物挙動シミュレーションを統合した人物の自動追跡

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研究グループ紹介研究グループ紹介

センシング&シミュレーション

研究/活動例 堀宗朗 教授・市村強 准教授・ラリス・ウィジャラトネ 准教授

社会基盤のセンシングとシミュレーションより安全で快適な社会を作るために,構造施設はもとより,情報・環境に関わる多様な社会基盤に対し,現在の状態を調べ次の状態を予測する技術が必要とされています。社会基盤は規模が大きく複雑に関連するため,高密度のセンシングと大規模なシミュレーションが有効です。地震等の自然災害時を主な対象とし,先端的なセンサやシミュレーション手法の開発を中心に,社会基盤学と情報・計算科学の境界で研究を進めています。

研究/活動例2

破壊現象の数値解析手法,PDS-FEMの開発計算機の発達により大規模計算が手軽に行える数値解析万能の世の中が来て久しいですが,まだうまく解けない重要な問題があります。それが構造物の崩壊など,破壊の問題です。この問題を解くための手法PDS-FEM(粒子離散化有限要素法)を開発しています。不連続な関数を用いて偏微分方程式を解くという逆説的な手法ですが,精度と簡便さを併せ持つこの手法ならば,構造物崩壊過程のモンテカルロ・シミュレーションという力業も実現可能かもしれません。

統合地震シミュレーション社会基盤センシング技術の開発破壊現象の数値解析災害復旧マルチエージェントシミュレーション

計測と計算の融合による次世代社会基盤の創造を目標として,社会基盤学やその周辺の計測・計算科学や地球物理学分野にまたがる研究開発を行っています。新しい解析理論と計算手法の構築,次世代計測デバイスの設計と開発,都市を丸ごと計算する超大規模シミュレーションシステムなど,地震・構造物から人間・経済・社会を料理するための「よく切れる刀」作りに取り組んでいます。

不均質体の一軸引張破壊の数値解析。破壊面の形状・発生位置が解析モデルごとに異なり,物理実験の代替となる「数値実験」としてのポテンシャルがうかがわれる。

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GISと先端シミュレーションを組み合わせた都市の地震シミュレーション

都市・防災

研究/活動例 目黒公郎 教授・大原美保 准教授

危機管理・災害情報ステーション防災対策が適切に進展しない最大の原因は,様々な立場の人々の災害状況に対する想像力が低いことにあります。この想像力の向上には,①災害現象と防災対策の効果の高精度な可視化,②災害情報のわかり易い整理,③簡便で効果的な学習環境の整備が不可欠です。私たちは,子供から老人までが簡単に操作できるユーザフレンドリーな入出力インターフェイスを用意した上で,上記の①〜③を統合した「危機管理・災害情報ステーション」の構築を進めています。

研究/活動例 小長井一男 教授・清田隆 准教授

地震被害と復興のケースヒストリー1847年(弘化4年)の善光寺地震から40年が過ぎた1884年から茶臼山の斜面で亀裂が拡大,1898年に下端部が隆起,1911年には斜面全体が93m/年の速度で動き出しました。地震で傷ついた地形が長期にわたり変動することは,国土保全の深刻な課題です。地震の直接的な被害のみならず,その後の課題の膨大なデータをアーカイブスとして集約し科学のメスを加え,教訓を後世に伝えています。

地盤地震工学計算地震工学都市災害軽減工学計測地震工学

社会基盤施設や都市に関わる防災を研究分野としています。特に,自然防災の社会基盤施設や都市情報に関して先端的な研究を進めています。同時に,都市整備の国内国際プロジェクトの企画・推進に関わることで,社会基盤の自然防災の専門家を育成することを目標としています。

高精度3次元GISをプラットフォームとした地域危険度評価システム。東京23区を対象に,上空の自由自在の高さから任意の角度で選択した住所を眺めたり,避難場所までの経路や距離,各種の地震危険度を表示できる。

信濃川・魚野川合流部。暖色系が地震による地盤の隆起。2004年の中越地震の8ヵ月後,隆起した下流部の影響で洪水が発生。

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学生生活学生生活

修士課程の前半は主としてスクーリングで,基礎学問のさらに高度な内容及びより専門的な内容を扱った講義が中心となります。大学院では自由な時間が多く,研究グループ単位での調査研究や,自主的な学習・研究にその多くが充てられます。なお,外国人留学生も積極的に受け入れており,現在は約

80名の留学生が在籍しています。そのため大学院講義の多くは英語で行われており,国際色豊かな大学院生活が展開されています。

毎年多くの学生が海外に留学しています。ドイツのシュツットガルト工科大学,アメリカのワシントン大学・カリフォルニア大学,フランスのエコールサントラル,イギリスのダーラム大学ビジネススクールなどとの間には,社会基盤学分野の学生・教員の交流制度があり,在籍したまま留学することが可能で,先方で取得した単位も認定されるようになっています。この他にも多くの留学制度が工学系研究科にあり,留学しやすい環境が整っています。

社会基盤学専攻は,日本で初めて留学生特別プログラムを設置した専攻で,世界各国から毎年20名を超える留学生が修士および博士課程に入学します。出身国の第一級の教育機関で最上位の成績を挙げた学生のみに入学が許可される狭き門であり,すでに200名を超える留学生が当専攻を修了し,世界各国で活躍しています。研究グループは,これらの留学生,ひいては異国文化との交流の場でもあります。

社会基盤学専攻では,大学院生諸君が国際機関等で数ヶ月から一年間の研修を行う国際インターンシップ制度を設けています。毎年,アジア開発銀行など,開発援助,経済協力の最前線の現場で学生諸君が研鑽を積んでいます。受け入れ側の専門技術者と本専攻教員の共同指導体制によって,海外インターンシップでの成果を修士論文とすることも可能です。また,技術コンサルティング登録を通じて,教員と学生が国際開発援助に直接関与する環境と機会を整備しています。当専攻では,国際コミュニケーション技術の向上を目的に,

外国人専任講師による少人数の技術英会話レッスンを毎日行っています。また国際インターンシップを希望する学生のために,文書作成も含むビジネス英語の特別コースも用意しています。

大学院

留学生

留学

国際インターンシップと英語教育

様々なイベントが催されます

海外からの留学生との交流会

設計演習の作業風景

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専攻教員一覧専攻教員一覧(2012年4月現在 1:専門分野,2:主な担当講義)※最新情報は専攻HP(http://www.civil.t.u-tokyo.ac.jp)をご覧ください

マネジメント

小澤一雅 教授 1 建設マネジメント,プロジェクトマネジメント,インフラマネジメント,公共調達制度2 マネジメント原論,公共経営学,プロジェクトマネジメント,社会基盤マネジメント特論E,基礎プロジェクトⅡ

堀田昌英 教授(兼) 1 公共マネジメント,社会的意思決定論2 社会基盤学序論,マネジメント原論

マイケル・ 教授 1 ビジネス英語,会話分析,多文化コミュニケーションハンドフォード 2

アレクサンダー・准教授 1 技術英語,応用言語学教育ギルモア 2 社会基盤技術者のための国際英語ペトゥル・ 講師 1 社会的ネットワーク分析,インフラ開発マトウシュ 2 社会基盤マネジメント特論E,エンジニアの為のソーシャルネットワーク分析E

水圏環境

磯部雅彦 教授(兼) 1 海の波と流れ,海岸防災,波と構造物の相互作用,沿岸環境モデル,沿岸域管理政策2 流砂系保全計画

小池俊雄* 教授 1 河川・水資源計画,大気境界層の力学,地球水循環変動の観測とモデリング2 河川・海岸計画概論,水理学,地球環境学,環境復元学E,環境流体力学E

佐藤愼司 教授 1 海岸侵食,沿岸の波と流れの力学,水辺の利用と防災,流砂系の土砂移動マネジメント,海岸保全計画2 河川・海岸計画概論,海岸漂砂論E

沖 大幹* 教授 1 グローバルな水循環変動と世界の水資源需給,水と気候変化・食料・エネルギー,都市の里川2 地球水循環と社会,社会基盤のフロンティア,環境復元学E,水文学特論E

田島芳満* 准教授 1 沿岸域の波と流れ,海浜変形予測技術,海岸防災,流砂系の土砂制御技術2 基礎流体力学,海岸水理学E,海岸漂砂論E,基礎プロジェクトⅣ,応用プロジェクトⅢ,環境復元学E

知花武佳 准教授 1 河川生態環境工学,河川地形学,河道計画,流域環境の保全と再生2 基礎プロジェクトⅠ,応用プロジェクトⅠ,河川流域の環境とその再生,河川工学特論E,環境復元学E

平林由希子 准教授 1 水循環の情報科学,水資源の持続可能性,雪氷水文学2 地球環境学,環境流体力学E,環境復元学E

芳村 圭 准教授 1 同位体気象・気候学,物質循環2 地域水循環と社会

鯉渕幸生 准教授(兼)1 沿岸域の水環境,水質・生態系・流動・物質循環・シミュレーション,沿岸域の環境計画2 応用プロジェクトⅢ,沿岸環境計画

瀬戸心太 特任准教授 1 水循環のリモートセンシング2 地球水循環と社会,水文学特論E,マイクロ波リモートセンシングE

沖 一雄 准教授 1 広域生態環境計測,流域の生態・環境モデリング2 地球水循環と社会,水文学特論E

基盤技術と設計A

東畑郁生 教授 1 地盤工学,地盤耐震工学2 基盤技術設計論,地盤の工学,地盤耐震工学E

古関潤一 教授 1 地盤工学2 土質工学原論E,地盤工学特論E,基礎工学E

桑野玲子 准教授 1 土質力学,地盤工学,地盤機能保全工学2 地盤工学特論E,地盤工学のフロンティアE

内村太郎 准教授 1 地盤工学2 技術移転と開発,基礎プロジェクトⅢ,企業と技術経営,応用プロジェクトⅣ,地盤の構造学,地盤工学特論E

基盤技術と設計B

藤野陽三 教授(特任) 1 橋,構造計画・設計,振動・制御・モニタリング2 基盤技術設計論,信頼性設計とリスク分析,橋の計画と設計,振動・制御・計測E,構造設計特論E

前川宏一 教授 1 コンクリート工学2 基盤技術設計論,企業と技術経営,構造設計特論E,

石原 孟 教授 1 風工学,構造物の信頼性設計,風力発電工学2 信頼性設計とリスク分析,環境エネルギー政策論,情報システム設計,風と構造物E

岸 利治 教授 1 コンクリート機能循環工学,コンクリート材料科学2 コンクリートの連関機構モデリングE,コンクリート工学

石田哲也* 准教授 1 コンクリート工学,地圏環境工学,多孔体熱力学2 基礎プロジェクトⅡ,応用プロジェクトⅣ,コンクリート工学,技術移転論,基盤技術政策論

長井宏平 准教授 1 コンクリート工学2 性能照査と設計,鉄筋コンクリートの非線形力学E

長山智則 講師 1 橋梁振動,構造ヘルスモニタリング,無線センサネットワーク,移動体センシング2 基礎情報学,基礎プロジェクトⅢ,応用プロジェクトⅣ,振動・制御・計測

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都市と交通/空間情報

家田 仁 教授 1 地域・交通システムの計画,アジア規模の交通・都市ネットワーク2 社会基盤学序論,国土学,都市学,交通学,交通地域学特論ⅠE

清水英範 教授 1 歴史地理学,数理地理学,土地政策,都市計画2 土地学,空間情報学Ⅰ,空間統計解析E

大口 敬 教授 1 交通工学,交通制御工学2 道路交通工学特論E

柴崎亮介 教授 1 空間情報工学,情報マネジメント2 空間情報学Ⅱ,地理情報システムE

沢田治雄 教授 1 応用リモートセンシング,生態系情報,地球観測2 写真測量とリモートセンシングE

布施孝志 准教授 1 空間情報学,画像処理,地域の動態解析2 空間情報学Ⅰ,統計解析手法,空間情報学実習,応用プロジェクトⅢ,写真測量とリモートセンシングE

竹内 渉 准教授 1 環境・災害リモートセンシング2 空間情報学Ⅱ,写真測量とリモートセンシングE,マイクロ波リモートセンシング

鳩山紀一郎 講師 1 交通計画,交通工学,交通環境心理学2 交通学,交通・地域特論ⅡE,基礎プロジェクトⅠ,応用プロジェクトⅠ

デザインと

景観 中井 祐 教授 1 公共空間・公共施設の設計,地域の景観計画とまちづくり,近代土木デザイン史

2 導入プロジェクト,社会基盤史,景観学,都市学,応用プロジェクトⅡ,景観学特論

国際プロジェクト

堀井秀之 教授 1 社会技術論,安全安心研究,国際プロジェクトのケーススタディ2 国際プロジェクト実習,国際プロジェクトの発掘・形成,社会技術論,応用プロジェクトⅤ

本田利器 准教授 1 防災の動学,社会ネットワーク分析,地震工学,応用力学2 構造の力学,材料の力学,計算力学E,応用プロジェクトⅤ,国際プロジェクトの事例分析特論,技術移転と開発,数理分析の基礎

加藤浩徳 准教授 1 交通計画,交通政策,交通行動分析2 基礎経済学,財務学,評価論,開発とインフラ,応用プロジェクトⅤ,社会的意思決定論,国際プロジェクトの事例分析特論

都市・防災

小長井一男 教授 1 地震工学2 自然災害と都市防災,地震工学E

目黒公郎* 教授 1 都市震災軽減工学,防災戦略論2 自然災害と都市防災,都市災害軽減工学E

大原美保 准教授 1 総合防災管理工学2 自然災害と都市防災,都市災害軽減工学E

清田 隆 准教授 1 地圏災害軽減工学,地盤工学2 自然災害と都市防災,地震工学E

堀 宗朗 教授 1 応用力学,計算地震工学,社会シミュレーション2 計算地震工学E,社会基盤学の非線形解析法E

市村 強 准教授 1 計算地震学,計算地震工学,計算科学2 計算地震工学E,社会基盤学の非線形解析法E

ラリス・ 准教授 1 計算地震工学,システム統合,マルチエージェントシミュレーションウィジャラトネ 2 計算地震工学E,社会基盤学の非線形解析E

兼:兼担教員 *:国際プロジェクトグループ併任教員

センシング&

シミュレーション

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大学院入試案内大学院入試案内

■募集要項

1募集人員 52名程度2試験科目●英語英語の評価はTOEFLの点数により行う。詳細は,東京大学大学院工学系研究科学生募集要項,および本専攻入学試験案内を参照のこと。

●社会基盤学出願時に,[表1]に掲げる7分野から,入学後に希望する専攻分野にかかわらず2分野を選択して解答する。

●口述試験口述試験では,思考力・理解力・表現力などを,一人あたり10分程度の面接により判定する。

3試験日程●調査票受付 7月中頃●試験日程  8月下旬〜9月初旬●合格発表  9月中頃日程は年によって変更があるので,必ず専攻ホームページ等で確認すること。

専攻への調査書とは別に,工学系研究科へ願書の提出が必要です。詳細は,工学系研究科の学生募集要項をご覧下さい。

■指導教員グループの志望と決定受験者は,入学後に希望する専門分野に応じて,配属を希

望する指導教員グループ([表2]参照)を選択する。各グループとも所属する教員数に応じて配属学生数に基本定員が設けられている。いずれの合格者についても,指導教員の決定は各人の配属が決定したグループ内で適宜行われる。なお,詳細は入学試験案内を参照すること。

■10月入学について社会基盤学専攻においては,入学願書提出時に学部を卒業,

または入学年度9月30日までに学部を卒業見込みであり,かつ希望する者については,合格直後の10月の入学を認めている。

■問い合わせ先社会基盤学科・社会基盤学専攻事務室

TEL 03-5841-6084

FAX03-5841-6085

e-mail [email protected]

homepage http://www.civil.t.u-tokyo.ac.jp

なお,専攻ホームページでは詳細な入学試験案内のほか,過去の入試問題も一部公開しているので,参照されたい。

社会基盤学専攻の入学試験(修士課程)

[表1] [表2]

1 構造・設計2 材料・地盤3 水圏工学4 土地・経済・空間情報5 国土・都市・交通・景観6 国際プロジェクト・マネジメント7 数学

基盤技術と設計A基盤技術と設計B水圏環境マネジメントデザインと景観都市と交通空間情報国際プロジェクト都市・防災センシング&シミュレーション

*試験の詳細は年度によって変更されることがあるので,必ず専攻ホームページ等により本専攻入学試験案内を確認し,常に最新の情報を入手すること。

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分野 指導教員グループ

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卒業生の進路卒業生の進路

社会基盤学が取り組む課題の幅広さに応じて,社会基盤学科/社会基盤学専攻の卒業生も多彩な分野で活躍しています。地球環境から河川・流域,交通,都市計画やまちづくり,橋などの構造物まで対象は多岐にわたり,それぞれの分野で政策立案やプロジェクト管理を行うプランナーやプロジェクトマネージャー,技術開発,設計・デザインなどを行うエンジニアとして,国内外を問わず活躍しています。

今後は環境問題に取り組むエンジニアやまちづくりのプランナー,空間デザイナー,海外のプロジェクトマネージャーへのニーズがますます高まると考えられます。いずれの分野・職能を選んだ場合でも,他分野の専門家と議論し,協働できる柔軟性と幅広さが求められるでしょう。

最近3年間の学部卒業生,大学院修士課程修了生の進路は下図の通りです。学部卒業生の7割以上が大学院に進学しています。大学院修士課程の場合は中央官庁や地方自治体,エネルギー・鉄道等の公益事業への就職が3割を占めています。大学院博士課程への進学し,研究に従事する学生もいます。最近の傾向としては,会社規模の大小よりも職能を判断基準とする学生が増えており,進路の多様化が非常に顕著であるといえます。特に設計事務所や都市計画事務所でエンジニア,デザイナー,プランナーとして公共施設の計画設計やまちづくりに取り組んだり,総合コンサルタントやシンクタンクで広い知識や判断力を活かす仕事に就きたいと望む学生が増える傾向にあります。

卒業後の活躍分野 最近の進路状況

■76% 大学院 13%■

■1% 金属・重工・メーカー 4%■

■1% 設計会社・デザイン事務所 5%■

■6% その他 3%■

■1% 建設会社 12%■

■4% 運輸 12%■

■1% エネルギー 6%■

■0% 独立行政法人 2%■

■1% 地方公務員 3%■

■1% 国家公務員 10% ■

■学部卒業生の進路平成20年・21年・22年度卒業生161名中

■大学院修士課程修了生の進路平成20年・21年・22年度修了生164名中

■2% コンサルタント・シンクタンク 5%■

■1% 通信・情報 5%■

■6% 金融・商社 18%■

■その他 日経BP, 住友生命, TBSテレビ, 産経新聞社, 山崎製パン, 山梨放送, サッポロビール, スタジオよんどしい■金融・商社 日本政策投資銀行, 三菱東京UFJ銀行, マッキンゼーアンドカンパニーインクジャパン, 住友商事, 三井不動産株式会社, 東急不動産, 丸紅, みずほ銀行、住友信託銀行, 三菱商事、野村證券, 三井物産, 三井住友銀行, 三菱UFJ信託銀行, 日本政策投資銀行, 日本銀行, みずほ証券■通信・情報 NTT東日本, Soft Bank, NTTデータ, 光通信■コンサルタント・シンクタンク 野村総合研究所, パシフィックコンサルタンツ, 電通, 三菱総合研究所, 博報堂, 長大, オリエンタルコンサルタンツ, ボストンコンサルティング, ローランドベルガー■金属・重工・メーカー シャープ, 三菱重工, ソニー, トヨタ自動車, 新日本製鉄, ニコン■設計会社・デザイン事務所 GK設計, 建設技術研究所, 日建設計, 日建設計シビル, 日本工営, アトリエ74建築都市計画研究所, 文化財保存計画協会■建設会社鹿島建設, 大成建設, 大林組, 清水建設, 五洋建設, 横河ブリッジ, 森ビル, 日揮, 千代田化工

■運輸JR東日本, JR東海, JR西日本, 全日本空輸, NEXCO東日本,MEXCO中日本 , NEXCO西日本, 小田急電鉄, 山九■エネルギー東京電力, 中部電力, 関西電力, 国際石油開発帝石, 九州電力, 四国電力■独立行政法人 独立行政法人鉄道・運輸機構, 国土技術政策総合研究所■地方公務員東京都, 岐阜県, 横浜市, 上尾市, 東京消防庁■国家公務員 国土交通省, 財務省, 経済産業省, 文部科学省, 環境省, 厚生労働省, 特許庁, 国土地理院■大学院東京大学, ウィーン工科大学

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i

qqq家田先生はカヌーが趣味だそうですね。

野田知佑さんの『日本の川を下る』という本を随分前に読んで「あっ,川っ

て下ってみたいな」と思ったんです。それまで僕は山に登っていて,沢登

りもやっていた。でも30代後半になって体力も落ちて,沢もしんどくな

っていたときに,沢登りを反対にすれば川下り(笑)。それでカヌー。qqq山や川が好きというのは,シビルエンジニアとしての家田先生の根源

に関わっていますか。

おおいに関わっていますね。学生時代,当時の土木工学科に進学を決めた

とき,「お前,何で土木なんだ。自然破壊のところに行くのか」と山登りの

友人に言われた。そのときの,「いや,おれは本来自然とマッチしていた

はずの土木,むしろ人々を自然に振り向けるための土木をいずれやってみ

せるぞ」という気持ちのもとになっている気がします。qqqそういえば,先生は理科二類から当時の土木工学科に進学したんですね。

高校のときは理系のことをやりたくて,でも対象を何にしたらいいのか絞

り込めなかった。だから,幅広く専門が得られそうな理科二類にしたんで

す。その頃は,砂漠の緑化をやってみたかった。役に立つだろうし,おも

しろそうだし。でも,どこでどう勘違いしたのか,それを土木だと思い込

んだんですね。駒場で土木のゼミを取って,幅広く世の中のものをつくる

ことによってみんなが喜んでくれる,そういう話を聞いて「ああ,僕がや

りたいことはここにある」と感じたんです。qqq実際に土木に来て,砂漠の緑化をやりたいという当初の目的とは……。

全然違っていたね(笑)。でも入ってみるととても幅の広い世界で,別に砂

漠の緑化がやれなかったらといってがっかりすることはなかった。qqq特に印象に残った講義や先生は?

河川工学の高橋裕先生ですね。といっても講義の内容はほとんど覚えてい

ませんけど(笑)。個々の事例とか,歴史的な話ばかりで,基礎知識がない

人間には講義の価値がよくわからなかった。ただ印象深いのは「なんとい

ってもフィールドです」と言われたこと。たとえば川を見なさい。だいた

いどのくらいの勾配で流れているか,見ただけでわからなければいけない。

川の幅,深さを見なさい。そして,今1秒間に何トンぐらい流れているか

見当をつけなさい。河原の砂利を見なさい。洪水がどのくらいかわかるで

しょう。そういうことをおっしゃって,要するにフィールドで直感的に現

象を理解して,その感覚を大事にして設計をする,あるいは施策を打つ。

そういうことが大事である,とじんわり教えられましたね。qqqでも,河川ではなく交通研究室を選んだのですよね。

当時の八十島義之助先生の交通の講義を受けて,どう考えても楽そうだと

思ったから(笑)。ところが楽に見えることが実は難しいということを,卒

業論文で思い知った。甘かった。qqq卒論ではどんなテーマに取り組んだのですか。

地下鉄のある路線を想定して,駅を開業したらどう需要が伸びるか。需要

予測ですね。当時は今のように洗練された方法論はまだありませんでした

から。八十島先生は僕に「君は都市高速鉄道(地下鉄)の研究をしなさい」と

5月頃に言って,あとは発表の間近に1回会って,発表の日と打ち上げの

日に会ったから,合計4回ぐらいしか会っていない(笑)。その間は勝手に

やれという世界で,今から思うと僕の卒論なんて,これはもうレポートに

もならない。大学に戻ってきたとき,すぐに見つけ出して捨てちゃいまし

た(笑)。ともかく,論文指導ゼロの中で悩んだ。一見楽そうに見えるとい

うことは自分で悩まなければいけないということであって,おもしろいけ

どすごく大変である。逆に難しく見えることは,実はフレームと論理がは

っきりしているから難しそうに見えるので,勉強をしてみれば案外楽だっ

たりする。それを学んだことに意義がありましたね。でも大学院には行か

なかった。このまま単に悩むだけの2年間が続いてもそんなに伸びないと

思って,国鉄(日本国有鉄道,現在のJRの前身)に就職したんです。qqq国鉄を選んだのは何か思うところがあったのですか。

研究はいやだけど交通は好きだった(笑)。国鉄に魅力を感じたのは,線路,

その上を走る車両,電力,通信,そして営業システムがあって,少なくと

も鉄道の内部ではいろいろな歯車がぴたっとかみ合って動いていく。この

ハーモニーの世界で仕事をやってみたいと思った。商社マンだった僕の親

父には,国鉄に入ると言ったら「何で最初から赤字で,時間の問題でつぶれ

ると決まっているところに行くんだ」と言われたけど(笑)。でも入社式で,

技術系の理事の人が「君たちを採用したのは,決まりきった法律や基準を

守ってもらうためじゃない。おかしいものは全部変えていいし,いいもの

は全部採用していい。そのつもりで仕事をしてほしい」と言われた。これ

はいいところに入ったと思いました。常に改革していこう,ルールは自分

でつくり直そうというマインド。それから東海道新幹線(*1)は当時,まだ

フランスのTGVもできていない頃で,世界の最先端でしたからね。世界の

トップランナーという自負。トップランナーにはプライドがあるから,少

しでもよそより劣る技術というのはいやでしょう。だから頑張りますよね。qqq国鉄では主にどんな仕事を担当したのですか。

たとえば24,5歳の頃,東北新幹線の速度を210キロから240キロに上げ

るというプロジェクトがあって,線路の調整に関する事実上の責任者が僕

だった。速度をわずか30キロ上げるために,ものすごい努力をするんで

す。少しずつスピードを上げながら,「あそこで横に当たりました」「こう

いうふうに揺れました」「だから線路をこう直しましょう」とやるわけです

ね。毎日営業をしている列車の間に試験列車を走らせて測定して,夜中に

直す。3カ月ぐらいかけて少しずつ速度を上げていくのですが,あるとき

は横揺れの激しい場所が生じて,測定データを見て,この部分の線路を3

ミリこっちへ,その隣の5メートル離れたところを5ミリ向こうにずらし

なさい,と作業指示書を出したら,現場で間違えて逆方向に動かした。翌

日測定したら,とんでもない揺れになっている。脱線するかと思った。脱

線したらクビだけじゃ済まない。人が死ぬからね。現場を守っている時は,

夜事故の夢を見て,ガバッと起きて「ああ,夢だったか」という,そういう

緊張感の中での仕事を若いころに経験しておいて良かったと思う。qqqその後,大学に助手として戻ったわけですね。

「あなた方は,これから何を社会基盤に足してくれますか?」人間を中心に据えれば,社会基盤がやるべきことはいくらでも外に拡がっていくのですから。

「あなた方は,これから何を社会基盤に足してくれますか?」人間を中心に据えれば,社会基盤がやるべきことはいくらでも外に拡がっていくのですから。

家田 仁(いえだ・ひとし)■1955年生まれ。1978年東京大学工学部土木工学科卒業。工学博士。■専門/地域・交通システムの計画,アジア規模の交通・都市ネットワーク,ユーザー協働型インフラ・マネジメント。■著書・共著・編著/『東京の交通問題』『東京のインフラストラクチャー』『それは足からはじまった』『都市再生—交通学からの解答—』等。■プロジェクト/社会資本整備審議会,公共事業評価システム委員会等の委員多数。国土交通省,自治体による都市及び交通プロジェクト多数。

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いうまでもなく世界で先駆的な超高速旅客輸送システムである。安

全で快適な高速運転のために,高度な車両設計技術はもちろんのこと,非常に高精度なインフラ設計・施工と軌道管理が要求されている。

プロジェクトによって様々な経済主体(利用者,事業者,政府,地主)が享受する便益と整備自体にかかる費用を,ある時間スパン全体で比較して,プロジェクトの価値を客観的に判断する方法である。

モータリゼーションとそれに伴

う都市の郊外化により,日本の地方都市では公共交通の事業採算性が悪化している。逆に世界では公共交通を活用して魅力ある中心市街地を形成する取り組みが盛んである。

バスは多くの都市で交通の中核を担っている。バス停やターミナルを魅力的な空間にしている例も多い(左:クリチバのバス停,右:名古屋のオアシス21)

新幹線では深夜時間帯に短時間でバラスト交換を行うシステム(写真左)と走行しながら軌道を検査する車両(写真右)が導入され,軌道管理の高度化が図られている

そうです。qqq博士論文はどういうテーマで書いたのですか。

鉄道の混雑がどんな損失をもたらしているのか。逆に言えば,混雑を緩和

すると人にとってどれだけのメリットがあるのかを定量的に評価する研究

です。最初に,座席に座れるということの価値を緻密に研究しました。当

時は「何でそんな意味もない研究をやるんだ」と言われましたね。だけど,

四面楚歌の中で測量研究室(現在の地域情報研究室)の中村英夫先生だけが

「君,ぜひやりなさい」と応援してくれた。そして3年ぐらい研究を続けて,

トータルでは4,5年かかったかな。博士号を取った後も続けて。その成

果が,今の鉄道プロジェクト評価の費用便益分析の方法にとり入れられて

いる。混雑緩和のための複々線化や新線整備プロジェクトの経済評価に使

われています。qqqそういうテーマに着目したそもそものきっかけは何だったのですか。

実を言うと,社会的なニーズから始まったわけじゃないんです。当時丸の

内線の池袋駅を使っていたんだけど,ホームで見ていると,列車が2分お

きに来るのにお客さんは来た列車にすぐには乗らないで,座るために何列

車か待っている。行き先はたかだか15分の大手町とか20分の霞ヶ関なの

に,わざわざ10分もホームに立って待っている。実におもしろい。そこ

で思った。混んでいること,あるいは座れることは,相当大きなことなん

だ,と。それで池袋駅で緻密な測定をして,解析して混雑費用の関数,つ

まり混雑というものを人間がどう感じているか,座れることの価値をどの

程度感じているかを導き出した。人間の行動を分析することのおもしろさ

を感じましたね。それがきっかけです。qqq当時は,人間の行動やその価値を定量的に示そうとする研究は珍し

かったのですか。

当時は費用便益分析(*2)もまだなくて,僕らがその関数をつくった1,2

年後から,やっと鉄道や道路のプロジェクトで使われるようになりました

からね。ただ,緻密に人間の行動を分析すれば世の中の課題がすべて解決

できるわけではない。違うアプローチも要りますよね。qqq最近はどのようなアプローチを?

ひとことで言えば,協働型のマネジメントです。たとえばある道路の問題

を,そこを使うユーザー,道路管理者,信号管理をする警察,それからバ

ス事業者などすべての主体が関与して,きちんと問題を把握して,何をや

るかを検討する。そしてユーザー自身がこの協働型マネジメントに貢献す

るという持続的な体制をつくっていく。qqq確かに従来は,社会基盤に限らずそれぞれの専門や領分が縦割りで,

横断的な連携や協働はほとんどありませんでしたね。

結局はユーザーがキイだと思います。川も,道も,あるいは水道も,人間の

長い歴史の中では,ユーザーが主体となってつくってきた。今のような完

全な分業体制ではなくて,どの人もそれぞれのインフラづくりに少しずつ

関わっていたはずなんです。ところが近代になって,すごいスピードで経

済を成長させるためにはそれでは間に合わなくて,専門家をつくってきた。

しかも一般のユーザーを除外して。役所の中も,川のプロと道のプロとは

分けたほうが能率がいいから分ける。でも,今や日本は人口も減るし,能

率ばかりをそんなに追い求めなくていい。量ではなく質を充実させる時代

です。ですから「しばらく離れていたけど,もともとのやり方に戻しまし

ょう。インフラは本当はユーザーが主役なんですよ。明日は川ですけれど

も,今日は道をつくりましょう」と,こうなればいいと思うんです。ユー

ザーを真ん中に置けば,いろいろな人たちが協働して,総合的にインフラ

をつくっていくことはそんなに難しくないと思う。月並みですが,結局ユ

ーズ重視でものを考えていく。新たな展開の鍵はそこだと思っています。qqqそういうアプローチに,将来の都市や交通に対するどういうメッセー

ジが込められているのですか。

たとえば東京都市圏は,世界で最も鉄道を使っている都市圏です。その結

果として,世界で最も交通から出る環境負荷が小さい都市圏なんです。し

かも,それを民営鉄道が赤字を出さないでやっている。この成功体験がく

びきになって,同じことを,つまり東京の中で完結している考え方を,地

方の都市にも要求する。簡単に言うと,たとえば高い採算性を要求するわ

け。ところが,地方都市は東京とはつくりが違うから,当然同じことは成

立しない。いま,日本の地方都市の公共交通(*3)は,おそらく先進国の

中ではかなり悲惨な状況です。東京の成功体験ゆえに,地方都市でうまく

いかないんです。でも世界に視野を広げれば,東京とは違うモデルはたく

さんある。そして,ユーザーを巻き込んで,ユーザー自身も自分たちの町

の交通がどうあるべきか,どうして自分たちの町ではうまくいかないのか

ということを考える。その上で,本当に何をすべきかを決めていく。そう

すれば,今まで隘路に陥っていた日本の中小都市の都市交通が新たにジャ

ンプをするチャンスになるのではないかと思います。qqq駒場で進路についていろいろ考えている学生に,何かメッセージは

ありますでしょうか。

駒場のときに別段役に立たないようなものでも,好きで取ったゼミとか,

好きで読んだ本というのが,結局心の底で生きている感じがしますね。若

い頃は自分に制限をつけずに知的な関心を広げて,小手先のテクニカルな

ところだけ勉強しようと思わないで,どんどん本を読むことが重要だと思

う。古典でいいと思うんだけどね。時代を超えて受け継がれるものをまず

はじっくり読む。人間の思考の歴史的蓄積をどのくらい自分のフィルター

に通すかということで,その人間のポテンシャルが変わってくると思う。qqq最後に,若いこれからのシビルエンジニアに期待することはありますか。

社会基盤は,その定義に外枠がないことが特徴だと思う。交通の分野に限

っても,道や水道や港は数千年来の社会基盤ですが,この100年で新たに

鉄道が,この50年で航空輸送が社会基盤になった。それから携帯電話や

インターネットはここ10年で社会基盤になりましたよね。「あなた方は,

これから何を社会基盤に足してくれますか?」。これがポイントだと思い

ます。人間を中心に据えれば,社会基盤がやるべきことはいくらでも外に

拡がっていくのですから。

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iii

qqqはじめに先生ご自身のことをお聞きしますが,社会基盤学をやりたい

とか,川や水の問題に興味をもちはじめたのはいつ頃だったのですか?

社会基盤学(社基)を選んだのは,大学2年の進振りの直前。それまで建築

に行きたかった,本当は(笑)。いろいろ揺れてたんだけど,山歩きが好き

だから,自然に近いことをやりたかった。社基(当時は土木工学科)は,来

る前は道路とか橋とかコンクリートという印象があったけど,悩んでいる

ときにいろいろ見て,ああ,自然により近いかなあ,と感じた。片や人間

に近いのが建築かな,と。今は,人間と自然により近いのが社基だと思っ

てますけど(笑)。社基に来て河川をやろうと思ったのははっきりしていて,

3年の時,昭和53年の福岡渇水。これはぼくにとってすごいインパクトだ

った。実家が福岡ですから。あのとき,二つのことを感じたんですね。一

つは,雨の降らない状態がこんなに続くことを,何で予測できないのか。

もう一つ,それでも福岡の人たちは何とか工夫しながら生活しているわけ

ですよ。ああ,人間って結構適応力があるんだなあ,と思った。それから,

あのとき超法規的措置として,本来は水利権のない寺内ダムの水を,バイ

パスを通して福岡に緊急導水した。そういう社会的な対応も必要になる。

つまり,自然現象と人間,社会。みんな含まれている。ぜひこういうこと

を研究したいと思った。qqqちなみに,東京でも渇水は起こる可能性はあるのでしょうか?

昭和39年以来,東京ではしばらくないですけど,実は十年前はすごく危な

いと思っていた。利根川の上流の水資源はかなり雪に依存しているんだけ

れど,その年は,衛星データを見ていると,今まで観測してきた中で一番

冬の雪が少ない。利根川のダムの水は融雪流出水をうまく使っていて,そ

れで5〜6月の農業需要をまかないながら夏の東京の水資源が確保されるわ

けです。ところが雪が少ないと,4〜5月に水田のためにずいぶん水をとり

ますから,ダムから補給しなければいけない。普通は5月20日頃からダム

の水位が下がり始めるんですけど,案の定,その年は5月の1日あたりから

下がり始めた。このまま農業用水を補給し続けると,平年の降水量だった

ら,7月1日には夏期制限水位の30%くらいしか水がなくなってしまう。こ

れは水利調整の準備をしたほうがいい,と考えていたのが5月1〜2日頃。

そしたら,連休後半に大雨が降ったんですね。その雨量を見て,安心した。qqqいろんな要因が複合して東京の水は保たれているわけで,たとえば,た

またま,雪が少ない,雨も少ない,ということが重なれば,東京も危ない・・・

非常に危ないですね。qqq今やダムは絶対悪みたいなことになってますけど(笑),例えば雪も雨

も少ないということが重なれば,現実問題として,首都圏にこれだけの人間

が住んで,ふんだんに水を使い続けるのは難しい?

ふんだんでなくても難しい。もちろん,飲み水と農業用水のバランスを操

作する,いわゆる水利調整を行えば,利根川の場合は飲み水が枯渇して危

機に瀕するようなことは起こらないでしょうね。ただ,都民の生活と農業

のバランスをどうとるかというのは,かなりの議論がありますね。qqqしかし,降水予測がもっと正確にできれば,事情は変わってくる。

そう。たとえば地球水循環(*1)の季節変化に基づく降水の1カ月予報の精

度は上がると考えています。そうなると,もっと効率的な水利用が可能に

なるでしょう。梅雨前線とか台風による集中的な降水は全然ちがうメカニ

ズムだから無理だけれども,1〜2日の短期予報が可能となるでしょう。こ

ちらは洪水管理に役立ちます。qqq地球環境観測は大切ですけど,それをなかなか理解してもらえない。

観測は十年二十年続けてだんだん価値がでてくるものですね。そのサポー

トが,なかなか得られない。

ぼくがCEOP(*2)を最初に言い始めたのが97年。その時はいろいろ批判

されて,当時進行中だったプロジェクトの集中観測が始まる前から次の研

究のことなんて,と言われた。でも,ぼくの気持ちはね,チベットで観測

をやったとき,その準備に本当にすごい努力をした。観測システムをつく

ることそのものよりも,まず問題意識をお持ちでない方たちと話をはじめ

て,文化の違いを克服して,観測機器を通関することに全精力を使った。

あのとき,チベットだけでなく世界各地で同じように苦労して観測してい

たから,その苦労を長期的な観測へつなげていきたい,全地球的観測ネッ

トワークを水循環の観点から整備したいと思った。それがCEOPの一番

大きな役割だと,あのとき考えたんです。もう一つは,今でも良く覚えて

いますけど,1986年に,宇宙開発事業団(NASDA)の田中さんという方

が,極軌導プラットフォーム(POP)構想というので,東京で会議を開い

た。米国航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)との代表がいてね,

それでぼくはびっくりしたんですよ。あのときはNASDAが2基,NASA

が2基,ESAが1基,大型衛星を打ちあげようとしていて,その議論を日

本がリードしていた。ああ日本はこんなことをリードできるんだと思った。

NASDAの1号機であるADEOS-Ⅰは,NASDAが先行して計画をつくっ

たんだけど,2号機のADEOS-Ⅱは研究者の総意でつくろうということで,

91年の地球観測委員会でさんざん議論した。マイクロ波放射計(AMSR)

と可視赤外放射計(GLI)を積んで,海面風速も測ろうという構想ですね。

2004年の12月に無事打ちあがった。構想を含めると15年,この計画に

一貫してかかわることができて,本当によかったと思う。2004年の5月4

日にNASAの2号機として打ち上げたAquaには日本が提供したAMSRと

同型センサーが搭載されました。あれはもう,本当に水循環専用のセンサ

ーみたいなものですしね。もともと,地上観測ネットワークを整備して衛

星観測(*3)技術を組み合わせれば,長期的な観測体制がつくれると思っ

ていたんです。あるときジュネーブで統合地球観測戦略(IGOS)(*4)の

会議に出る機会があって,そこで水循環をやろう,CEOPをやろうとい

う話をしたら,それが受けたんですね。つまり,衛星機関側からすると地

上データのネットワーク,地上観測側からすると衛星のネットワークが使

える。両方を組み合わせる,というのはそれまでなかった。あれで一気に

話が進みましたね。qqq今回ヨハネスブルグの世界サミットに参加して,いかがでしたか?

非常によかった。宇宙開発事業団と文部科学省と一緒に参加したんですが,

社会基盤学は結局人間を対象にしているんですね。人間と人間の調和というのが学問の対象です。

社会基盤学は結局人間を対象にしているんですね。人間と人間の調和というのが学問の対象です。

小池俊雄(こいけ・としお)■1956年生まれ。1980年東京大学工学部土木工学科卒業,1985年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。■専門/地球水循環・地域水資源学。■著書・共著・編著/『地球環境論』『水・物質循環系の変化』『大気圏の環境』等。■プロジェクト/チベット高原の水循環における雪氷の役割(CREQ),アジアモンスーンエネルギー水循環観測研究(GAME),統合強化観測期間プロジェクト(CEOP)等。

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iv

われわれがやっている水循環や水環境の問題について,社会にすごくアピ

ールできた気がします。たとえばアフリカの方がたくさん来られていて,

現在東アフリカと南アフリカにはCEOPのサイトがないんですけど,ど

うやってつくればいいんだ,と聞かれました。もともとCEOPはたかだ

か2年3カ月の集中プロジェクトなので,そのあとにその成果を活用して,

国連各機関や各国政府と連携して,それから研究のコミュニティや各観測

機関が協力して,地球観測の体制を築き上げたいというのが世界サミット

でのわれわれの提案だったので,アフリカの方々の意見はこちらの方向性

と一致していた。イランの方や,エジプトの大臣も来られたけれども,彼

らともいい議論ができました。あと一般の方々と話していて感じたのは,

新しいテクノロジー,たとえば衛星とかコンピューターの計算能力だとか,

ここ10年すごい勢いで発展してきているのに,それをほとんど知らない。

先端の科学が知られていないんです。だから,そういうことをもっとアピ

ールしなければいけない。行政も遅れている部分があって,新しい技術が

あってそれが行政に利用できるんだということを,かなり説明をしないと

わかっていただけない。人工衛星を使った水循環の観測なんて,最近よう

やく行政も本気で使ってみようか,ということになってる。qqq水循環の科学,つまり水文学にとって,広域のことをきちんと知るため

には,衛星によるリモートセンシングしかないという気がするんですが,その

わりに,研究者層がなかなか厚くならないですね。どうしたものでしょう(笑)。

ぼくが学生の頃,水文・水資源の分野で衛星をきちんと使っている人はほ

とんどいなかった。助手になったとき,これではいけないと思って,虫明

先生と相談して勉強会をはじめたんです。それが核になって学会で勉強会

や講習会を続けて,それで衛星をやる人が少しずつ出てきて,拡がった。

気象学の場合は,放射伝達プロセスがそもそも研究の対象だったから,そ

の基礎ができている人がリモートセンシングをやりはじめたわけだけど,

水文学の場合は,おもに水の力学がベースの人たちだったから,放射伝達

理論が弱いんですね。だから依然として画像処理が主で,定量的な利用に

進めない。qqqこれまでの研究生活で,これがブレークスルーだった,というのは?

二つあります。一つは修士論文を書いたとき,みんなランドサットで雪の

深さを出すというのをいっしょうけんめいやってたんだけれども,どう考

えても放射伝達だけで解くのは不可能なんですね。だからぼくは最初から,

ランドサットから得られる面のデータに積雪の物理過程を導入すること

で,雪の量を算定する手法を考えた。あれは大きかったですね。画像デー

タと積雪特性を組み合わせて高次のプロダクトをつくるという意味で,ブ

レークスルーだったと思う。二つ目は,放射伝達をきちんと勉強したあと

につくったデータ同化手法ですね。力学やエネルギー収支の方程式と放射

伝達方程式を組み合わせることによって,実用的な土壌水分や積雪の算定

が可能になった。これも恵まれてましてね。世界トップクラスの高精度の

マイクロ放射計が二台も研究室にあって,両方とも使えたんだから。普通

では考えられない。

qqqそういう研究は,必ずしも当時の土木工学から外れていますよね?

周囲からはどのように見られてました(笑)?

ぼくは周囲の目に関しては無頓着なたちですから(笑)。ただ,社基で育っ

たのはメリットですね。博士課程のとき,研究室にほとんどいないで山ば

かり行ってて,帰ってきたら雪焼けでまっくろで(笑)。それでもみなさん

あたたかく見ていただきましたし。それからもう一つ,衛星を使うという

のは,実は地球物理あたりでは,ぼくらの世代の方々はものすごく苦労し

ているわけですよ。現地行ってデータをとるということが地球物理の本質

なのに,衛星なんか使って適当に観測してると見られていた。ところがぼ

くは社基で,リモートセンシングは写真測量技術の一部としてすでにあっ

た。だから,非難されるどころか応援していただいた。そういう面では非

常によかったと思いますね。qqq今,水がビッグサイエンスになりつつありますが,その中でも社基の人

は,マネジメントに長けた人が多いような気がします。そういうところに,社

基のメンタリティがでていると思いますが?

確かにわれわれ水の分野だと,よくつきあうのは理学系や農学系の方なん

ですが,モデルもやって,現地観測もやって,衛星もやって,それから利

用にも関心があって,というのは,シビルエンジニアしかいない。社基は

百貨店みたいにやっている(笑)。他分野の人は,一つに特化してやってい

る場合が多いから,まとめ役になることはなかなか難しい。あと,社基は

結局人間を対象にしているんですね。人間と人間の調和というのが学問の

対象ですから,そういう中で育っているので,計画論とか合意形成とか,

そういうセンスを知らず知らずのうちに身につけている。qqq社基は,技術の上にたったマネジメントであるという言い方ができると思

うんですが,このことが社会的にあまり知られていないというのが残念ですね。

この間取材にきた人は,ぼくが地球水循環をやっている,というと「社基

では毛色の変わった」と書くわけ。そういう社会の目があることは残念で

すね。自然と人間の調和を考えるためには自然のことを勉強するし,人間

同士の調和を考えるには人間を勉強するし。それが社基ですよ,といった

んだけど,そこは書いてもらえなかった(笑)。qqq最後に,若い学生たちに何かメッセージがありますか?

観測するときには,ああでもないこうでもないといっしょうけんめい考え

て観測するわけですね。でも大概の場合ちがう結果がでる。そのときぼく

はすごくうれしいんですね。全然思ってもみないことの片鱗をつかまえた

ような気がして。ところが今の学生は,先生失敗しました,と言うわけ。

なんで,と聞くと,いや,これぜんぜんちがう結果がでてきて・・・と答え

る。本当はそれこそが発見であって,思った通りの結果がでるのであれば,

最初から観測なんかする必要はない。自然に対して素直になるということ

が重要なんですね。素直に,ああ,こんなことがあるのか,と受け入れる

ことも大事です。ぼくの場合も,自然が教えてくれることの方が多くて,

自分が机の上で考えてその通りだったことは,まあ半分もないような気が

する。物事に素直に取り組むのがいいのでしょうね。

統合地球水循環強化観測期間(Coordinated

Enhanced Observing Period)は,地上の水循環観測研究グループ,衛星機関,気象機関が協力して,局所的〜地域規模〜地球規模の全水循環過程のデータセットを作成し,水循環のプロセスの解明などを行う国際プロジェクト。

離れたところから電磁波を用いて対象物を特定し,その状態を探査する技術をリモートセンシングという。衛星技術の発達に

より,宇宙からのリモートセンシングによる地球観測精度が近年著しく向上している。

TRMMマイクロ波放射計によるチベット高原の積雪の年々変動

地球上の水は,海洋〜大気〜陸域を循環している。水の相変化に伴う潜熱の吸収,

放出を通して地球全体として温和な環境を作り出している。

統合地球観測戦略(Inte­grated Global Observ­ing Strategy)。UNESCOなどの国連各機関や国際科学計画(世界気候研究計画や国際

生物圏地球物理圏計画など),NASDAやNASAなどの衛星機関でつくる地球観測衛星委員会が参加して,研究と応用双方を視野にいれた地球規模の観測戦略を議論する。

H-ⅡaによるADEOS-Ⅱ打ち上げ(種子島宇宙センターにて)

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東京大学工学部社会基盤学科東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻

〒113−8656 東京都文京区本郷7−3−1

http://www.civil.t.u-tokyo.ac.jp

表紙:帝都復興事業で東京隅田川に建設された永代橋の一般図(東京大学社会基盤学科所蔵)。太田圓三(明治37年卒)と田中豊(大正2年卒)の設計。 yoshida design office 2012.05