16
Critical Care 情報誌 Vol.01 CC Journal 01

Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

edwards.com/jp東京都新宿区西新宿6丁目10番1号本社:

製造販売元

※記載事項は予告なく変更されることがありますので予めご了承ください。

© 2015 Edwards Lifesciences Corporation. All rights reserved. EW2015112 1512_0_5000

製品に関するお問い合わせは下記にお願い致します。

232)540(.leT -7328(代)横 浜東 京 6859)30(.leT -0920(代)162)110(.leT -6810(代)札 幌

622)680(.leT -2440(代) 岡 山

522)220(.leT -4743(代)仙 台

242)280(.leT -2425(代)広 島大 阪 0536)60(.leT -6341(代)537)250(.leT -7610(代)名古屋

182)290(.leT -5414(代)福 岡

Critical Care 情報誌 Vol.01

CC Journal

01

Page 2: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

2

INDEX

02

03

05

周術期輸液管理

手稲渓仁会病院 麻酔科 副院長 片山 勝之 先生

外科における術後早期回復を目指したERAS®

膵頭十二指腸切除における目標指向型循環管理導入の結果解析

術後早期回復を目指した手稲渓仁会病院でのチーム医療

手稲渓仁会病院 外科 部長 中村 文隆 先生

手稲渓仁会病院 麻酔科 医長 石原 聡 先生

CC JournalVol . 01

これからの急性期病院に求められる周術期管理―患者さんが早期回復を実感できる環境づくりを目指して―手稲渓仁会病院 副院長/手稲渓仁会クリニック 院長 樫村 暢一 先生 Page 1

Page 2

Page 4

Page 8

Page11

01

―GDTの現状―

☞エキスパート達に聞いてみよう!

―当院外科での取り組みと成績―

04

エドワーズライフサイエンス(株)の依頼により執筆

Page 3: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

1

INDEX

トコルが発表されました。術後の早期回復は、社会復帰を早め、患者の視点からも、病院運営の視点からも、さらに社会の視点からも有益です。現在、多くの施設で様々な領域に導入され、周術期管理の改善だけではなく、医療経済的にもその効果が広く認識されています。最近では術式別にガイドラインが作成されていますが、一方、17〜30項目あるERAS®

要素の適応、それぞれのマネジメントなどの課題が指摘されています。ERAS®には特別な決まりはなく、どの要素を取り入れ、また、新たに何を足すかは施設、あるいは術式ごとに違って良いと考えます。一度にすべての要素を取り入れるのではなく、できるところから始めてみることも考慮されて良いと思います。つまり、ガイドラインのERAS®要素を参考に、それぞれの施設で扱っている疾患や施設の実情にあわせて、術後回復促進のケアバンドルを作り、その成果を検証していくことが大切なのです。現在、ERAS®

をわが国の実情にあわせて改良した学会主導のプロジェクトも進行中です。 術後回復促進のケアバンドルを考えるとき、ERAS®要素の一つである周術期の水分管理、特に術中輸液管理は麻酔科との関連もあり、積極的に導入している施設が少ないのが現状です。しかし、きめ細やかな血行動態管理(輸液管理)が術後合併症を減らし、術後早期回復促進につながるという多くのエビ

 これからの急性期病院に大切なことは、一言で言えば、良質な医療を適切な在院日数で提供することです。当院では、それぞれの疾患を治療する“適切な在院日数の追求”を病院の目標として取り組んでいます。“適切”とは何かは難しい問題ですが、個々の疾患には、その疾患を治療するために必要かつ十分な日数があるはずで、その過不足のない日数を求めていくことと考えています。そのためには、地域連携による入退院支援も重要ですが、まずは、院内での予定通りの医療の実現が必要となります。つまり、手術のある疾患では、術後合併症がないこと、パスが設定された疾患ではパス通りの医療が実施できることです。通常、パスには各施設での“適切な在院日数”が設定されているはずです。したがって、急性期病院に求められる周術期管理の目標は、手術による合併症がなく、パス通りの医療を実践することに尽きます。さらに、治療経過が良いことは結果的に最大の経済効果となり、病院運営にも貢献することになるのです。そのためには、常に進歩している医療に対応して、診療経過の改善に絶え間なく取り組む姿勢も忘れてはなりません。 近年、周術期の管理が目覚ましく進歩してきました。その代表の一つがERAS®

(Enhanced Recovery After Surgery)プログラムです。1999年にERAS®の概念が提唱され、2009年にはERAS®プロ

これからの急性期病院に求められる周術期管理―患者さんが早期回復を実感できる環境づくりを目指して―

手稲渓仁会病院 副院長/手稲渓仁会クリニック 院長 樫村 暢一 先生

デンスが報告され、その重要性が認識されるようになってきました。また、どの術式のERAS®ガイドラインにも輸液管理が記載され、キーワードとしてNearly zero balanceが推奨されています。しかし、臨床現場でそれをどのように知るのかが問題となります。尿量や血圧は必ずしも正確な指標とは言えません。最適化の指標として、血流量管理のゴールを設定したGDT(Goal Directed Therapy, 目標指向型療法)の概念による一回拍出量変化/心拍出量などのモニタリングが助けになると考えます。周術期の適正な水分管理には、術前から術中、術後を通じて、外科と麻酔科の協力体制が不可欠です。 本ケースレポートでは、当院外科での術後早期回復への取り組みと成績、麻酔科でのきめ細やかな水分管理の実践とその効果を報告します。さらに、最終目標である“患者さんが早期回復を実感できる環境づくり”を達成するには、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士など多くの職種の支援が必要です。究極のチーム医療と言われるERAS®における多職種とのかかわりも紹介します。

01CC JournalVol.01

Page 4: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

2

法では、不整脈と右心不全がなく、非自発呼吸下で一回換気量を8mL/kg(理想体重)以上に設定する必要がある。その上で、一つの目安として術中の85%以上の時間、CI≧2.5L/min/m2、およびPPVあるいはSVV≦13%に保つことがハイリスク手術での目標7)とされ、当院でもほぼ同様のプロトコルを採用している。今後、GDTの臨床指標としては益々非侵襲的なモニターでのパラメータが基準となっていくものと思われる。 周術期におけるGDTに関するコクランの系統的レビュー8)では、31のRCTで検討された5292名の患者から得られた結果をメタ解析した結果、長期フォローアップによる死亡率には差は認められなかったが、腎不全、呼吸不全、創感染の発生率を減らす結果が得られ、在院日数を平均1.16日減らすことができることが示された。対象となった各報告が用いた指標は、CI、DO2、SV、SVI、SVV、VO2I、FTc、SVO2、DO2I、乳酸値と様々で、対象となった外科手術も様々であったが、少なくともこれらの指標を使ってGDTを行うことに有害なことはないと結論付けている。  2014年に英国で行われたOPT IM ISE

(Optimisat ion of Cardiovascular Management to Improve Surgical Outcome)9)トライアルではハイリスク消化器手術患者のアウトカム評価が行わ

 目標指向型療法(Goa l D i rec ted Therapy、以下GDT)は様々な臨床場面において、いくつかのモニタリングテクニックを系統的に利用して、輸液や血管作動薬、またはその他の治療を行い、患者に最善な循環動態と組織・臓器の酸素需給の改善をもたらそうとする方法である。 基本概念は1970年代から始まっていたが、1980年代にはスワンガンツカテーテルをゴールデンスタンダードとしたGDTがShoemakerらにより始められた1)。その後2001年にRiversらが重症敗血症と敗血症性ショック患者の治療において、集中治療室(以下ICU)入室前までの早期に循環と酸素需給を改善することによって生命予後を改善できるとするEGDT(Early Goal Directed Therapy)の有用性を報告2)し、Surviving Sepsis Campaignガイドライン3)に取り入れられたことからGDTが広まった。まもなくこの方法は術中循環管理と術後のICU管理において広く用いられ、これまでに行われた多くの研究から、GDTの潜在的な有益性が示唆されてきた。 RiversらのプロトコルはCVP、MAP、ScvO2を指標に輸液、カテコールアミン、輸血を調節するものであったが、その後オーストラリアとニュージーランドにおいてARISE(Australasian Resuscitation in Sepsis Evaluation)4)、米国におい

てProCESS (Protocolized Care for Early Septic Shock)5)、英国においてProMISe(Protocolised Management in Sepsis)6)などの大規模検証が行われた。その結果、患者の生存期間、病院内死亡率、臓器サポート期間、在院期間のいずれもコントロール群と介入群で差が得られず、90日時点での全死亡率を改善しないと報告された。 元々のRiversらの報告ではコントロール群の死亡率が50%以上と非常に高く、EGDTにより死亡率が16%以上改善した。この報告は、一定の基準に照らし合わせてResuscitation Bundle (一連の治療)を行うという方向性を示した点で意義はあったと考えられる。しかし大規模検証の結果を受けて、現状ではScvO2

を指標とした敗血症性ショックにおけるEGDTの有用性は議論されている。 一方、周術期におけるGDTに関しては、そのプロトコルに動脈圧波形解析

(フロートラック センサー/LiDCO)、経食道ドップラーエコー、胸壁バイオインピーダンス測定による心拍出量(以下CO)や一回拍出量(以下SV)、一回拍出量変化(以下SVV)や脈波変動指数(以下PVI)、脈圧変動指数(以下PPV)などを取り入れ、有用であるとするものが数多く報告されている。 SVVやPPV、PVIのような呼吸による脈波変動をダイナミックに測定する方

周術期輸液管理―GDTの現状―

02CC JournalVol.01

手稲渓仁会病院 麻酔科 副院長 片山 勝之 先生

Page 5: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

3

れた。17病院における50歳以上の734名のハイリスク患者に対して無作為化評価者盲検を行ったもので、GDT群では非侵襲的COモニターのLiDCOを用いて、目標とする一回拍出量が得られるまで膠質液ボーラス投与とドペキサミンが持続投与された。結果としてGDT群ではより多くの膠質液が投与され、術中術後にわたってより多くの輸血が行われた。プライマリーアウトカムの30日手術死亡率、セカンダリーアウトカムの7日目の合併症発生率、術後感染発症率、ICU滞在期間、在院日数、全ての原因による30日および180日死亡率にはGDT群と対照群に差がなく、このトライアルではGDTの有用性は示されなかった。しかし、同時に行われたOPTIMISEを含む38のRCTトライアルを対象としたメタ解析では、術後合併症発生率の低下、術後28日または30日目での病院内死亡率の低下、長期フォローアップにおける死亡率の低下が示唆された。

―ERAS®とGDT― 前述したようにGDTは患者に最善な循環動態と酸素需給の改善をもたらすことを目的としているが、その結果がERAS®に結びつくのであろうか?コクランレビューでは在院日数を1.16日減らすことができるとされているものの、OPTIMISEでは在院日数を減らすことはなかった。しかし、その一方で様々な術後合併症を減らすとされている。 GDTによる利点の一つに内臓の微小循環を改善し、悪心嘔吐や腸閉塞のリスクを減少させることが報告されている。これはERAS®にとって有用な利点と考えられるだろう。またGDTを行った場合の循環器合併症は対照群に比べて少なくなることも報告されている。CO、SVを指標としたGDTでは創部感染(SSI)を減少させることができるという報告も見られる。一方で、GDTを適用すること

でOPTIMISEのように輸液・輸血負荷をむしろ増してしまうことがあるため、単純に輸液制限した場合に比べてERAS®の立場から整合性をもつか否かについてはさらなる検討が必要とされる。現在、オーストラリアとニュージーランドでは単純輸液制限群と従来輸液群の大規模比較を行うRELIEF10)検討が行われており、その結果が待たれている。 以上のように、これまでに行われた多くの研究から、周術期におけるGDTの潜在的な有益性は示唆されているが、GDTで利用すべき指標については依然明確なコンセンサスは得られておらず、今後のGDT研究は臨床指標を如何に設定するか、治療手段としての輸液内容をどのように選択するか、使用するカテコールアミンをどのように選択するかなどに向かっていくと思われる。ハイリスク手術を外科医、麻酔科医と集中治療医が患者の早期回復を目標に、同じGDTとERAS®プロトコルを共有して治療に当たる試みは、今後ともチーム医療が目指すべき一つの形であろう。

引用文献1) William C Shoemaker et.al. Prospective Trial of

Supranormal Values of Survivors as Therapeutic Goals in High Risk Surgical Patients. Chest 1988;94:1176-1186

2) Rivers E et.al. Early Goal-Directed Therapy Collaborative Group. Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med. 2001;345(19):1368-77.

3) The Surviv ing Sepsis Campaign Guidel ines Committee including The Pediatric Subgroup. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock, 2012. Intensive Care Med 2013;39:165–228

4) ARISE Investigators; ANZICS Clinical Trials Group, Peake SL, Delaney A, Bailey M, Bellomo R, Cameron PA, Cooper DJ, Higgins AM, Holdgate A, Howe BD, Webb SA, Williams P Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med. 2014;371(16):1496-506.

5) Yealy DM et.al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med. 2014;370(18):1683-93.

6) Mouncey PR et.al. Trial of early, goal-directed resuscitation for septic shock.N Engl J Med.

2015;372(14):1301-11. 7) Rinehart J et.al. First closed-loop goal directed fluid

therapy during surgery: a pilot study. Ann Fr Anesth Reanim. 2014;33(3):e35-41.

8) Grocott MP, Dushianthan A, Hamilton MA, Mythen MG, Harrison D, Rowan K; Optimisation Systematic Review Steering Group. Perioperative increase in global blood flow to explicit defined goals and outcomes after surgery: a Cochrane Systematic Review. Br J Anaesth.2013;111(4):535-48

9) Pearse RM et.al. Effect of a perioperative, cardiac output-guided hemodynamic therapy algorithm on outcomes following major gastrointestinal surgery: a randomized clinical trial and systematic review. JAMA. 2014;311(21):2181-90.

10)http://www.relief.org.au

02CC JournalVol.01

Page 6: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

4

大腸・胃でのERAS®の実施項目と成績

 当科では、2011年8月より腹腔鏡下大腸手術(結腸および直腸S状部)に、2012年4月より腹腔鏡下幽門側胃切除を対象とし、早期の経口栄養摂取を取り入れたERAS®プロトコルを導入した。

術前管理: 手術前のカウンセリングをしっかり行い、退院条件を明示する。大腸の患者は手術前日の昼・夕食は、低残渣スープ食、胃の患者は夕食まで常食を摂取する。大腸の術前の腸管処置に関しては、クエン酸マグネシウムを用いている。ERAS®では腸管前処置は、脱水や電解質異常をもたらす可能性もあり、また術後合併症を減少させるという根拠も乏しいため、行わない事が推奨されている。しかしながら、腸管内に便が少ないほうが、手術操作はしやすく、手術の質を担保する上で必要な処置と考え、腸管処置を行っている。手術当日は入室2時間前までに、炭水化物飲料(100mL、200kcal)を摂取する。

術中管理: 麻酔は硬膜外麻酔を併用した短時間作用型の麻酔薬を用い、維持輸液は5mL/kg/時の制限的輸液としている。手術操作は愛護的に行い、腹腔内ドレーンは、できるだけ挿入しない

(当院におけるドレーン挿入率:大腸20%程度、胃40%程度)。胃管は手術室で抜去している。また、PONV対策としてリスク因子に基づいたステロイド投与を行う。

術後管理: 術後の鎮痛管理は自己調節型硬膜外鎮痛(PCEA)を用い、術後1日目の朝から、アセトアミノフェンおよびNSAIDsを内服。離床は、術後1日目より開始し、術後2日目に尿道バルーンを抜去。術後の早期栄養管理は、大腸において術後1日目の

朝回診時より水分摂取を許可し、昼食からスープ食を提供し、輸液は2日目で終了。術後3日目から全粥食、術後4日目から常食とする。胃切除術後では、術後1日目の昼食より無脂肪・無残渣の消化態流動食開始。術後2日目からスープ食、輸液は2日目で終了。3日目全粥、4日目から常食となる。

大腸・胃ERAS®におけるアウトカムの検証

大腸ERAS®

対象:結腸直腸癌(大腸から直腸)の待機手術患者術式:腹腔鏡下結腸手術ERAS群:220名(2011年8月〜2014年7月)従来群:55名(2010年12月〜2011年8月)

胃ERAS®

対象:胃癌の待機手術患者術式:腹腔鏡幽門側胃切除術ERAS群:70名(2012年4月〜2014年7月)従来群:22名(2011年9月〜2012年3月)

 大腸手術・胃手術共にプロトコル完遂率は90%に達することができた(表①)。大腸ERAS®の結果を表②③に示す。術後在院日数は、ERAS®群において8日から5日に短縮し、医療費も有意差をもって軽減した。Clavien-Dindo分類でGRADE2以上の術後合併症は、ERAS®群7.2%、従来群10.9%であった。 胃ERAS®の結果を表④に示す。こちらも術後在院日数を、8日から5日に短縮することができた。GRADE2以上の術後合併症は、ERAS®群7.1%、従来群9.1%であった。

外 科 における術 後 早 期 回 復 を目指したERAS ®

―当院外科での取り組みと成績―

03CC JournalVol.01

Page 7: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

5

手稲渓仁会病院 外科 部長

中村 文隆 先生

考察 大腸、胃症例において臨床的な指標である合併症発生率の減少効果を出す事はできなかった。しかしながら、在院日数の短縮を達成することができた。術後管理の見直し、早期の栄養摂取が要因と考える。

中止、遅延理由 症例数(計17例)悪心、嘔吐 5腹部膨満 5腸閉塞 3縫合不全 2縫合不全疑い 1嗜好合わず 1

中止、遅延理由 症例数(計7例)悪心、嘔吐 2腹部膨満 2腹痛,創部痛 1術後出血 1吻合部出血疑い 1

表 ② 結果:大腸ERAS®術後成績ERAS®(n=220) 従来群(n=55) P値

術後合併症発生率 %(人数) 7.2%(16/220) 10.9%(6/55) N.S.再入院率 %(人数) 2.2%(5/220) 3.6%(2/55) N.S.

消化管機能術後初回排ガス(日) 1.0 (1.3-1.5) 1.0 (1.3-1.7) N.S.術後初回排便(日) 2.0* (1.9-2.4) 3.0* (2.4-3.2) 0.01術後在院日数(日/中央値) 5 8 0.016医療費(点数) 115,884 135,414 0.033

表 ③ 結果:大腸ERAS®術後合併症ERAS®(n=220) 従来群(n=55) P値

術後合併症 Grade2以上 16(7.2%) 6(10.9%) 0.54腸閉塞 5 0縫合不全 2 1創感染 5 5腹腔内膿瘍 1 0胃潰瘍出血 1 0腹壁血腫 1 0慢性硬膜下出血(転倒) 1 0

再入院(30日以内)化学療法除く 5(2.2%) 1(1.8%) 0.89

死亡 0 0

表 ④ 結果:胃ERAS®術後成績ERAS®(n=70) 従来群 (n=22) P値

術後合併症発生率 %(人数) 7.1% (5/70) 9.1% (2/22) N.S.

内訳(人数)腸閉塞 1 1縫合不全 1 0吻合部狭窄 1 0腹腔内膿瘍(膵液漏) 1 0腹腔内出血 1 0

30日以内再入院(%/人)化学療法を除く 4.2% (3/70) 4.5% (1/22) N.S.

術後在院日数(日/中央値) 5 8 0.01医療費(点数) 141,739 148,014 0.07

大腸:完遂率: 92.3% (203/220)

表 ① 大腸・胃手術ERAS®早期栄養プロトコル達成率

胃:完遂率: 90.0% (63/70)

達成未達

達成未達

03CC JournalVol.01

Page 8: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

6

表 ⑥ 結果:PD患者背景ERAS®群 (n=21)

(カッコ内はrange)従来群 (n=59)

(カッコ内はrange) P値

年齢(歳) 67(50-83) 67 (19-84) N.S.

性別(男/女) 10/11 34/25 N.S.

BMI 20.8(15.5-24.8) 23.1 (15.6-29.4) 0.0035

ASA(1/2) 3/18 14/45 N.S.

疾患(人)

膵癌 12 31 N.S.

胆管癌 1 12 N.S.

膵のう胞性腫瘍 4 4 N.S.

Vater乳頭がん 2 6 N.S.

その他 2 6 N.S.

PD ERAS®におけるアウトカムの検証

 ERAS®対象は2014年7月からの21症例。2013年4月から2014年6月までの59例を従来群とした(表⑥)。ERAS®プロトコルは全例に完遂できた。結果を表⑦〜⑨に示す。術後合併症は従来群33/59例(55.9%)、ERAS®群10/21例(47.6%)、術後在院日数は、従来群/ERAS®群18.5日/18.0日であった。周術期の水分管理では、ERAS®群の術中のIn-Outバランスは従来群と比較し有意に減少していたが、尿量は同程度に保たれていた。術中のIn-Outバランスの減少は、PDのような長時間手術においては、術後の腸管浮腫の軽減による消化管機能の改善に寄与するものと考えられる。実際に、PD術後の早期栄養開始は、全例で可能であり、約7割の患者で半量以上の摂取を達成する事が出来た。

考察 PD症例において、合併症低減、在院日数短縮の目標を共に達成することは出来なかった。しかしながら、術中フロートラックシステムの使用による輸液量の適正化を図ったことで、術中輸液量、In-Outバランスが減少した。術中輸液の減少が、術後腸管浮腫の軽減による消化管機能改善に寄与した可能性があり、術後の早期経口摂取は約7割の患者で達成することができた。また、術中輸液の適正化の影響で術後早期に輸液不要となる症例が多かった。

血糖管理目標<180〜200 mg/dLSoft Pancreasのときはサンドスタチン使用

膵頭十二指腸切除(PD)でのERAS®の導入と実践項目と成績

 大腸・胃のERAS®が、安全に導入出来た経験を踏まえ、2014年7月から膵頭十二指腸切除(PD)にERAS®を導入した。PDでのERAS®導入にあたり、大腸・胃ERAS®で導入した項目の多くを踏襲しながらも、2013年に発表されたPDにおけるERAS®ガイドラインを参考にPD特有の項目を追加した。ガイドラインでは27項目挙げられていたが、当科ではそのうち22項目を実践するプロトコルを作成した。この中で特に注視したのは、周術期の輸液バランスである。PDは、長時間の手術であり、その手術侵襲も大きいことから、術中輸液の管理方法において、術後合併症が最も少なくなる理想的な輸液バランスをめざし、目標指向型療法(GDT:Goal Directed Therapy)を導入した。PDのERAS®のプロトコル項目の詳細は、表に示した(表⑤)。

輸液は制限輸液、GDTによる管理硬膜外麻酔PONVリスク管理低体温予防血栓症予防

適 応 疾 患: 膵癌、膵IPMT再 建 方 法: 亜全胃温存PD(SSPPD)、Child法膵空腸吻合 : Blumgart法 ロストチューブステント

術後1日目 : 流動食開始、理学療法士によりリハ開始術後2日目 : スープ食(低脂肪)術後3日目 : 全粥(6回食)術後4日目 : 常食(6回食)

腹腔内ドレーンは3日目のアミラーゼ値が低値であれば4−7日目抜去

術後10日目 : 退院可能日(従来は16日目)

夕食まで常食、免疫賦活栄養剤なし下剤はプルゼニド2T午前6時30分までに、炭水化物含有飲料(200kcal)

術前管理

術中管理

術後管理

表 ⑤ PDに対するERAS®プロトコル

Page 9: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

7

表 ⑨ 結果:PDの術後合併症ERAS®群(n=21) 従来群(n=59) P値

術後合併症 人数(%) 10(47.6%) 33(55.9%) N.S.

C-D分類Ⅱ以上 5(23.8%) 20(33.9%) N.S.

創感染 0 4(6.8%) NA

腹腔内膿瘍 1(4.8%) 7(11.9%) N.S.

イレウス 0 1(1.7%) NA

乳び腹水 5(23.8%) 4(6.8%) 0.0485

胃内容排泄遅延 1 (4.8%) 1(1.7%) N.S.

膵液瘻(GradeA) 2(9.5%) 12(20.3%) N.S.

膵液瘻(GradeB,C) 2(9.5%) 16(27.1%) N.S.

その他 0 4(6.8%) NA

乳び腹水 C-D Ⅰ/Ⅱ 4/1 4/0

表 ⑧ 結果:PDの術後成績ERAS®群(n=21)中央値(range)

従来群(n=59)中央値(range) P値

尿道カテ抜去(日) 3(2-4) 4(2-11) 0.0005

術後在院日数(日) 18(11-36) 18.5(10-68) N.S.

再入院症例数 1 1 N.S.

医療費(点数) 242,115(204,423-318,403) 267,455(183,110-638,841) N.S.

表 ⑦ 結果:PDの手術結果 ERAS®群(n=21)中央値(range)

従来群(n=59)中央値(range) P値

手術時間(分) 412(297-689) 440(310-647) N.S.

出血量(mL) 500(30-1,214) 526(60-2,238) N.S.

術中In-Outバランス(mL) +2,714(1,204-4,309) +3,844(890-7,470) 0.00002

術中総輸液量(mL) 3,940(2,200-6,150) 5,114(1,869-9,380) 0.0024

術中尿量(mL) 700(100-2,400) 600(100-4,400) N.S.

術後総輸液量(mL) 6,563(4,128-10,814) 8,836(6,062-13,556) 0.00002

術当日(術後) 1,347(570-2,112) 1,371(924-2,716) N.S.

POD1 2,205(1,816-3,833) 2,579(1,999-3,661) 0.0003

POD2 1,100(1,000-3,000) 1,500(1,500-3,000) 0.0013

POD0 尿量(mL) 600(207-2,590) 700(235-4,090) N.S.

POD1 尿量 900(400-2,930) 1,350(600-3,700) N.S.

POD2 尿量 1,500(750-2,550) 1,700(500-4,400) N.S.

引用文献Kristoffer Lassen et al. Guidelines for Perioperative Care for Pancreaticoduodenectomy: Enhanced Recovery After Surgery (ERAS) Society Recommendations. Clin Nutr. 2012;31(6):817-30

03CC JournalVol.01

2015年静脈経腸栄養学会にて発表

Page 10: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

8

膵頭十二指腸切除における目標指向型循環管理導入の結果解析

04CC JournalVol.01

 周術期の目標指向型療法(Goal Directed Therapy; GDT)は、心拍出量や血圧に関して既定の目標を達成するよう、輸液や循環作動薬を使用するものである。GDTは、術後合併症の低減や術後在院日数の短縮をもたらすことが示されており、術後回復促進プログラム(Enhanced Recovery After Surgery; ERAS®)の中でも実施が推奨されている。 GDTの導入によって循環管理の内容や血圧等の生理変数がどのように変化するかについては報告が少なく、特に膵頭十二指腸切除(以下PD)のような長時間手術を対象とした報告は少ない。当院では2014年7月よりPDの術中管理にGDTを導入しており、その結果を従来の管理方法と比較し検討した。

対象と方法

対  象:2014年7月から2015年1月の間に当院で行ったPD症例(以下GDT群)

比  較:2013年7月から2014年6月の間に当院で行ったPD症例(以下対照群)

除外基準:維持透析の症例、緊急手術、他臓器の合併切除を行った症例(結腸、腎臓など)

介  入:当院のPDの術中循環管理では中心静脈ラインは使用しておらず、末梢静脈ライン2本と動脈ラインを用いている。GDT群は動脈ラインにフロートラック センサー(エドワーズライフサイエンス社)を用い、GDTプロトコルに従って輸液・循環作動薬を使用した。対照群において、循環管理の一切は担当麻酔医の判断により行われた。

GDTプロトコル:GDTプロトコル策定にあたっては先行研究を参考にし、SVV(Stroke Volume Variation:一回拍出量変化)12%、CI(Cardiac Index:心係数)≧2.5L/min/m2、mAP(Mean Arterial Pressure:平均動脈圧)≧60mmHgを管理目標とし、輸液・強心薬

(ドブタミン)・血管収縮薬(ノルアドレナリンまたはフェニレフリン)で調節することとした。他施設のプロトコルと比較すると決して高い目標設定ではなく、担当麻酔医の裁量の余地も比較的残すようなものとなっている。誰もが同じように実施できるよう、分かりやすさを意識した。担当麻酔医はこのプロトコルを示したチャートを見ながら循環管理を行っている(図①)。

図①: GDTのプロトコル

SVV<12% ?

CI≧2.5L/min/m2 ?

mAP≧60mmHg ?

経過観察と再評価

輸液負荷

強心薬を開始または増量

血管収縮薬を開始または増量

・晶質液・膠質液いずれでも良い・SVV 9-11%なら、ボーダーラインとして輸液負荷をしても良い

・SVV≦8%なら輸液負荷はしない

・フェニレフリンまたはノルアドレナリン持続静注

・輸液や強心薬での血圧上昇を期待できそうなら、そちらを優先しても良い

・ドブタミン持続静注

Yes

Yes

Yes

No

No

No

Page 11: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

9

結果

 GDT導入後7ヶ月間に行われたGDT群における術中の循環管理の内容と生理変数を、対照群のものと比較した結果を下記に示す。

結果① 症例数と患者背景

 解析の対象となった症例数はGDT群28例、対照群45例であった。GDT群は有意にBMIが低かったが、その他患者背景に有意差はなかった(表①)。

04CC JournalVol.01

手稲渓仁会病院 麻酔科 医長石原 聡 先生

表 ① GDT群(n = 28) 対照群(n = 45) P値

年齢(歳) 68.2±9.7 65.8±12 N.S.

性別 男64.3% 男62.2% N.S.

BMI 21.0±3.3 22.9±3.4 0.0178

ASA分類Ⅰ 14.3%Ⅱ 78.6%Ⅲ 7.1%

Ⅰ 26.7%Ⅱ 73.3%Ⅲ 0%

N.S.

手術時間(分) 440±87 433±78 N.S.

出血量(mL) 506±281 576±450 N.S.

輸血した症例 7.1% 4.4% N.S.

門脈合併切除 17.8% 17.9% N.S.

全麻種類(TIVAor吸入) TIVA 62.2% TIVA 60.7% N.S.

硬膜外麻酔 100% 100% N.S.

表 ② GDT群 対照群 P値

輸液量(mL) 4,148±1,199 4,723±1,355 N.S.

膠質液輸液量(mL) 571±499 613±472 N.S.

強心薬使用率 35.7% 13.3% 0.026

血管収縮薬使用率 32.1% 6.7% 0.006

結果② 輸液量、循環作動薬使用状況

 輸液量は平均値で12%少なくなった(有意差なし)。強心薬や血管収縮薬の使用率は有意に上昇した(表②)。

結果③ mAPと心拍数

 GDT群のmAPは、多くの時点において対照群と同等かより高くなっていた。特に手術開始60分後から180分後の各時点において、GDT群では有意にmAPが高かった(図②)。心拍数はいずれの時点においても有意差はなかった。

図②:平均動脈圧

50

60

70

80

90

100

mmHg

mAP

GDT群 対照群

時間 分

エラーバーは95%信頼区間を示す

Page 12: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

10

は輸液量と尿量の相関関係の問題と言い換えることができ、統計学的に調べてみると確かにGDT群では輸液量と尿量の相関関係は認められ、対照群では相関関係はないという結論が出た。恐らく、「輸液量が多く尿量が少ない症例」こそが過剰輸液による合併症を懸念すべき患者群であると想像でき、GDTによってそれを回避できる可能性が示唆された。また、表面的にはGDTの適用で水分バランスが減少するという効果が得られたわけであるが、尿量に結びつくような輸液管理を可能にすること、輸液を尿量に結び付けるような薬剤使用を可能にすること、これらがGDT有益性の本質にあるのではないかと考える。こうしたことは過去に報告がなく、大変興味深い結果であった。

引用文献1) Goal-directed therapy: what we know and what we need to know. O'Neal JB Perioper Med (Lond) 2015;4(1):12) Perioperative increase in global blood flow to explicit defined goals and outcomes after surgery: a Cochrane Systematic Review. Grocott MP Br J Anaesth 2013 Oct;111(4):535-483) Guidelines for perioperative care in elective colonic surgery: Enhanced Recovery After Surgery (ERAS(R)) Society recommendations. Gustafsson UO Clin Nutr 2012 Dec;31(6):783-8004) Bench-to-bedside review: Functional hemodynamics during surgery - should it be used for all high-risk cases? Perel A Crit Care 2013 Jan 28;17(1):203

考察

 本院におけるGDTは輸液量を減らすことを目的とはしておらず、プロトコルは輸液反応性が予測される場面では輸液負荷するよう規定している。それにもかかわらず、水分バランスが減少したことは、従来の循環管理が輸液に頼りがちで、かつ輸液反応性の評価があまりなされないまま血圧低下に輸液負荷で対応していたためと解釈している。SVVのような動的指標は輸液反応性の予測において最も信頼すべき指標とされており、GDTの導入で従来よりも的確な輸液管理に近づいたと考える。 水分バランスに大きく影響する輸液量と尿量の関係を検討してみると、対照群で散見される「輸液量が多く尿量が少ない症例」が、GDT群では認められないことがわかった。このこと

表 ③ GDT群 対照群 P値

尿量(mL) 550(337-1,700) 500(300-750) N.S.

水分バランス(mL) 2,689±720 3,565±1,093 0.00012

図③:輸液量と尿量の関係

0

1000

2000

3000

0 2500 5000 7500 10000

尿量

mL

輸液量mL

GDT群

0

1000

2000

3000

0 2500 5000 7500 10000

尿量mL

輸液量mL

対照群

04CC JournalVol.01

結果④ 尿量、水分バランス、輸液量と尿量の関係

 尿量には2群間で有意差は見られなかった。輸液量から出血量と尿量を引いた水分バランスは、GDT群において平均値で876mL、割合にして25%減少した(P=0.00012)(表③)。輸液量と尿量を散布図に描くと以下(図③)のようになり、GDT群では輸液量と尿量の間に順位相関が認められた(スピアマンの順位相関係数法、P=0.0019、相関係数0.648)。対照群にはこのような関係は見られなかった。術後のICU滞在中も含めた終日の水分バランスを比較しても、ほぼ同様の結果であった。

2015年日本麻酔科学会第62回学術集会にて発表

Page 13: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

11

05CC JournalVol.01

術後早期回復を目指した手稲渓仁会病院でのチーム医療☞エキスパート達に聞いてみよう!

手稲渓仁会病院におけるチーム医療の具体的な取り組みを教えてください。

樫 特別な取り組みをしているわけではないのですが、ERAS®

においては外科と麻酔科の協力関係が重要だと思います。また、栄養士や理学療法士、薬剤師の関与も特に重要で、積極的にERAS®に関与してくれています。

中 当院の栄養士の方々は全て管理栄養士の資格をもっており、病棟毎に配置されています。管理栄養士は患者さんへの食事の指導が可能というところが一般の栄養士と異なります。そのことがERAS®を実施する上で支えになっているのだと思います。

樫 当院では毎朝のカンファレンスで患者さん一人一人の情報を共有しています。また、その場に看護師、管理栄養士が参加してくれているので、医師との連携が進んでいるのだと思います。その場でERAS®のプロトコルやクリニカ

ルパスも共有されますので、周術期の流れ全体が全員で共有されています。ERAS®を導入する前からそういった取り組みを行っているのが当院特有の文化なのではと思い ます。

片 栄養士や薬剤師が患者さん一人一人の事をよく知っていますね。

樫 ERAS®を導入する際は、患者さんからも抵抗がある場合があります。その際にコメディカルの方々がきちんと説明してくれていることが成功につながっていると思います。

ERAS®を導入した後の患者さんの経過の変化をコメディカルの方々も実感していますか?

中 看護師さんがERAS®導入後患者さんの回復が早くなっている事を実感しており、逆に何故ERAS®をやらないの?と聞かれますよ。

D I S C U S S I O N

樫村先生:樫 中村先生:中 石原先生:石片山先生:片左から:

Page 14: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

12

樫 まさにそこが重要ですね。在院日数を短縮することが目的ではなく、治療に必要な適切な在院日数を求めていくことが大事です。患者さんに回復したことを実感して頂き、適切な日数で退院して頂く。結果として在院日数が適正化して病院経営にもプラスに働ければいいのではないでしょうか。ERAS®は一つの手段です。

今回GDTを術中の輸液管理に導入しましたが、どのような変化がありましたか?

中 今、PDでGDTを行っていますが、腸管の浮腫が少なくなりましたね。お腹を閉める際に難渋することがよくあるのですが、それが少なくなった印象を持っています。輸液のIn-OutバランスもGDT群で明らかに減っていますから、GDTによって輸液がしぼり気味に管理できているのですね。また腸管浮腫が少ないことで早期飲食が可能になる効果もあると考えています。PDの症例で手術翌日に飲食を出来るのか最初は不安でした。実際に出来てみるとびっくりしますね。

片 GDTによってしっかりと循環が維持され、微小循環も維持されることで消化管の機能が保たれているのでしょうね。

樫 石原先生は研究の中で尿量と輸液量の関係を比較されていますが、尿量の反応は参考になりますか?それとも尿量の反応が遅いから、心拍出量やSVVなど見た方が血行動態を迅速に把握できるのですか?

石 結局、輸液をして尿量が増えてくるには時間差が生じるのですね。輸液をして心拍出量や血管内ボリュームは増えますが、その結果として尿量が増えてくるので、反応としては遅くなります。それよりは心拍出量やSVVを見る方が適切だと考えます。

片 尿量も重要なパラメータですが、臓器循環を把握するためには複数のパラメータを総合的に見ることが重要ですね。

GDTを行う目的は輸液量を減らすことではないと思いますが、結果として輸液量が減少しバラツキが減っている事は興味深いですね。

石 従来は血圧が下がった時に輸液に頼りがちだったのが、薬剤をうまく用いることで管理出来たことが影響していると思います。今後、私たちが考えなければいけないこととして膠質液の活用があると思います。私たちのプロトコルでは膠質液を積極的に用いていないのですが、もしかしたら膠質液を使うとさらに輸液量が減少しバラツキも小さくなるかもしれないのではと思っています。

ERAS®を導入して在院日数が短縮されていますが、この点も目標とされていましたか?

片 確かに、在院日数というのは重要な指標ですが、在院日数の短縮というのは必ずしも患者さんにとって幸せな事ではないのですよ。それでも医学的に見れば十分回復しているのです。

ERAS®を導入する上で外科と麻酔科の協力は重要と仰いましたが、具体的にどのように協力されているのですか?

樫 ERAS®を行う上で麻酔科の先生方の協力は大きいです。ERAS®は外科単独で出来るものではないので、これほど麻酔科から協力を得られているのは心強いですよ。

片 でも当院ではERAS®を導入する前から外科と麻酔科で協力していましたよね。麻酔科でも保温をしたり硬膜外麻酔を使用するようにしたり、当たり前のように協力していたのでERAS®が始まってからもすんなり受け入れられました。

石 そうですね。ERAS®の導入準備は既に出来ていました。それに加えてGDTを新しく入れるだけなので、本当に導入がしやすかったです。

樫 麻酔科の先生方には術後の回診などに来て頂いていますが、ERAS®を行った患者さんの術後の経過はどうですか?

石 見た目で受ける患者さんの重症度の印象が変わりましたね。患者さんと話してみるとお水を飲みたいとか、歩いてみたいとか、リクエストされることが多くなりました。患者さんも術後に歩くことの重要性を理解していますね。

片 患者さんに歩いてもらう際、嫌がることもないですね。

中 でも、それには麻酔科の先生方がきちんと痛みのコントロールなどをしてくれていることも影響していますよ。

Page 15: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

13

片 Tidal Volumeの設定にも色々な考え方がありますから、個々の病態に合わせたSVVのカットオフ値なども考えないといけませんね。

現在のプロトコルはどういう点を重要視しているのですか?

石 パラメータとしてSVV、CI、mAPを用いていますが、そのカットオフ値が全ての患者さんに当てはまるのか、悩みました。ただ、達成すべき目標値は必ずしも高くなく、個々の患者さんの特性や麻酔科医の裁量も活かされると思います。

術後のGDTの可能性はありますか?

片 術後ICUで管理するハイリスクな患者さんには行う必要がありますね。中程度のリスクで術後病棟に戻るような場合をどうするかは課題ですが、水分管理は行った方がいいと思います。

石 GDTの本質は、必要な時に必要な介入をするということだと思いますので、ICUでも病棟でも実施可能だと思います。病棟でも使いやすい、看護師さんに分かりやすいデバイスがあれば術後GDTの可能性は広がると思います。

術前の化学療法を行っている場合など、何か術式に変化はありますか?

樫 たしかに術前化学療法を行った場合、術後の合併症が増える傾向はありますね。そういった患者さんには厳密な管理が必要であり、術中の輸液管理を含めた厳密な周術期管理も重要だと思います。

最後に、今後の手稲渓仁会病院におけるERAS®のゴールをお聞かせください。

樫 やはり患者さんに回復を実感してもらう。早く元気になってもらうことです。

石 そこに麻酔科医が協力できることにやりがいを感じます。

樫 水分管理一つをとっても術中だけでもダメなのですよ。術前、術中、術後で総合的に管理しないと意味が無くなってしまいます。どれが欠けても成り立たないと私は思います。

片 水分管理によってPONVやSSIが減ったという報告もありますから、その辺も今後見ていきたいと思っています。

樫 せっかく外科と麻酔科が協力して色々なデータを集めたのだから、様々な切り口から見てみたいですよね。

中 全ての症例にERAS®のコンセプトを導入したいですよね。ガイドラインで定められた項目を全てやる必要はないの

05CC JournalVol.01

で、いいと思った項目を組み合わせて導入したいですね。緊急手術にも適応可能だと思いますよ。

樫 ERAS®の概念自体が早期回復なので、当てはめることは可能だと思いますよ。

中 そうですね。術後の回復を早くするための手術の低侵襲化、疼痛管理、輸液管理、どれも症例や術式に限る必要はないと思うのです。それをチームで行うところにERAS®

を行う本質があるのではないかな。

樫 施設毎に環境や術式に合わせてERAS®を改良してもいいと思います。全ての病院が同じ条件な訳ではないので、個々のERAS®を発展させることは問題ないと思います。その中に水分管理は必ず入れた方がいいですね。

本日はどうもありがとうございました。

Page 16: Critical Care Vol.01 CC Journal - Edwards Lifesciences...1 INDEX トコルが発表されました。術後の早期回 復は、社会復帰を早め、患者の視点から も、病院運営の視点からも、さらに社会

edwards.com/jp東京都新宿区西新宿6丁目10番1号本社:

製造販売元

※記載事項は予告なく変更されることがありますので予めご了承ください。

© 2015 Edwards Lifesciences Corporation. All rights reserved. EW2015112 1512_0_5000

製品に関するお問い合わせは下記にお願い致します。

232)540(.leT -7328(代)横 浜東 京 6859)30(.leT -0920(代)162)110(.leT -6810(代)札 幌

622)680(.leT -2440(代) 岡 山

522)220(.leT -4743(代)仙 台

242)280(.leT -2425(代)広 島大 阪 0536)60(.leT -6341(代)537)250(.leT -7610(代)名古屋

182)290(.leT -5414(代)福 岡

販売名 承認・認証番号

フロートラック センサー 21700BZY00348

スワンガンツCCO/CEDVサーモダイリューションカテーテル 21300BZY00160

ビジレオ モニター 21700BZY00328

EV1000 クリティカルケアモニター 22300BZX00363