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熊本地震にみる特別支援学校の避難所運営と環境整備の課題 -県立特別支援学校2校と市立小学校1校の事例分析- Management and Environment Maintenance Issues of Schools for Special Needs Education Used as Temporary Shelter in the 2016 Kumamoto Earthquake -A Case Study of Two Prefectural Schools for Special Needs Education and A Municipal Mainstream School- 菅原麻衣子 1 ・水村容子 2 ・鈴木孝明 3 Maiko Sugawara 1 ・Hiroko Mizumura 2 ・Takaaki Suzuki 3 本研究では、熊本地震において①児童生徒の避難だけでなく、地域住民、またペットも受け入れた 熊本県立熊本かがやきの森支援学校(重度重複障害対象)、②臨時福祉避難所として利用された熊本 県立大津支援学校(知的障害対象)、並びに③通常学校の一般的な避難所利用として熊本市立A小学 校の3校を研究対象とし、各校の校舎の特徴と被害状況、避難所開設のプロセス、避難者の受け入れ 状況、避難生活エリアの利用状況と問題点、児童生徒や要配慮者への個別対応状況、避難所の運営体 制、学校再開と今後の課題等について①を軸に比較分析を行った。これより特別支援学校ならではの 避難所運営・環境の特徴と今後期待される役割について考察した。 The purpose of this study is to indicate the roles of schools for special needs education as a shelter in earthquake and the issues of environment management for people who need special support. The research targets are two prefectural schools for special needs education and one municipal mainstream school all of which were used as shelters in the Kumamoto earthquake, 2016. We analyzed the common and individual features of the three schools in the process of management of the shelters, the situation of acceptance of the evacuees, the way of using school facilities as a shelter, the needs and supply of special support, the issues of shelter management and so on. キーワード:熊本地震、特別支援学校、避難所、重度重複障害、医療的ケア Keywords:Kumamoto Earthquake, School for special needs education, Shelter, Profound and multiple disabilities, Medical care 東洋大学ライフデザイン学部・博士(工学)・〒351-8510朝霞市岡48-1 TEL:048-468-6357 2 東洋大学ライフデザイン学部・博士(学術)・〒351-8510朝霞市岡48-1 TEL:048-468-6345 3 中日本ハイウェイ・エンジニアリング㈱・修士(人間環境デザイン学)・〒422-0846静岡市駿河区中 島235-1(静岡道路事務所) TEL: 054-288-5371 論文受理日:2017年5月1日 掲載決定日:2018年1月9日 原著論文 日本福祉のまちづくり学会 福祉のまちづくり研究 第 20 巻第 1 号 2018 年 3 月 15 日 発行 1.研究の背景と目的 熊本地震では366校 1) の学校が避難所として利 用され、避難所全体の約半分を占めた。そのう ち、特別支援学校については県内19校中4校 2)3) が避難所として利用された。 避難所としての学校施設の在り方や防災機能 強化については文部科学省が各種報告 4) をまと めており、特別支援学校に関する特有の留意点 として、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化 の促進に関する法律」に基づく学校施設のバリ アフリー化の義務、医療的ケアが必要な児童生 徒への安定的な電力の供給、児童生徒の個人用 食糧や医療器具等の必要物品の保管が挙げられ ているが、この範囲にとどまる。 一方、内閣府による指針では、特別支援学校 は福祉避難所 5) としての機能が期待されている 第 20 巻第 1号 福祉のまちづくり研究 1

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熊本地震にみる特別支援学校の避難所運営と環境整備の課題-県立特別支援学校2校と市立小学校1校の事例分析-

Management and Environment Maintenance Issues of Schools for Special Needs Education Used as Temporary Shelter in the 2016 Kumamoto Earthquake

-A Case Study of Two Prefectural Schools for Special Needs Education and A Municipal Mainstream School-

菅原麻衣子1・水村容子2・鈴木孝明3

Maiko Sugawara1・Hiroko Mizumura2 ・Takaaki Suzuki3

 本研究では、熊本地震において①児童生徒の避難だけでなく、地域住民、またペットも受け入れた熊本県立熊本かがやきの森支援学校(重度重複障害対象)、②臨時福祉避難所として利用された熊本県立大津支援学校(知的障害対象)、並びに③通常学校の一般的な避難所利用として熊本市立A小学校の3校を研究対象とし、各校の校舎の特徴と被害状況、避難所開設のプロセス、避難者の受け入れ状況、避難生活エリアの利用状況と問題点、児童生徒や要配慮者への個別対応状況、避難所の運営体制、学校再開と今後の課題等について①を軸に比較分析を行った。これより特別支援学校ならではの避難所運営・環境の特徴と今後期待される役割について考察した。

The purpose of this study is to indicate the roles of schools for special needs education as a shelter in earthquake and the issues of environment management for people who need special support. The research targets are two prefectural schools for special needs education and one municipal mainstream school all of which were used as shelters in the Kumamoto earthquake, 2016. We analyzed the common and individual features of the three schools in the process of management of the shelters, the situation of acceptance of the evacuees, the way of using school facilities as a shelter, the needs and supply of special support, the issues of shelter management and so on.

キーワード:熊本地震、特別支援学校、避難所、重度重複障害、医療的ケアKeywords: Kumamoto Earthquake, School for special needs education, Shelter, Profound and

multiple disabilities, Medical care

1 東洋大学ライフデザイン学部・博士(工学)・〒351-8510朝霞市岡48-1 TEL:048-468-63572 東洋大学ライフデザイン学部・博士(学術)・〒351-8510朝霞市岡48-1 TEL:048-468-63453 中日本ハイウェイ・エンジニアリング㈱・修士(人間環境デザイン学)・〒422-0846静岡市駿河区中島235-1(静岡道路事務所) TEL: 054-288-5371

論文受理日:2017年5月1日 掲載決定日:2018年1月9日

原著論文

日本福祉のまちづくり学会 福祉のまちづくり研究第20巻第1号 2018年3月15日 発行

1.研究の背景と目的熊本地震では366校1)の学校が避難所として利

用され、避難所全体の約半分を占めた。そのうち、特別支援学校については県内19校中4校2)3)

が避難所として利用された。避難所としての学校施設の在り方や防災機能

強化については文部科学省が各種報告4)をまとめており、特別支援学校に関する特有の留意点

として、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に基づく学校施設のバリアフリー化の義務、医療的ケアが必要な児童生徒への安定的な電力の供給、児童生徒の個人用食糧や医療器具等の必要物品の保管が挙げられているが、この範囲にとどまる。

一方、内閣府による指針では、特別支援学校は福祉避難所5)としての機能が期待されている

第20巻第1号 福祉のまちづくり研究 1

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が、今回の地震では4校のうち1校は在校生・学校関係者の小規模な避難にとどまり、1校は指針にそった福祉避難所として利用され、2校は在校生のみならず地域住民も広く受け入れた。2)

本研究では、この福祉避難所機能を超えて、地域住民の避難を受け入れた特別支援学校に着目する。実際の避難所運営や環境整備の課題を捉え、またその比較分析対象として福祉避難所となった特別支援学校、および一般的な避難所利用がなされた通常学校を取り上げることで、特別支援学校ならではの避難所運営・環境の特徴を明らかにし今後期待される役割を考察する。

2.研究方法まず本研究で着眼した「地域住民の避難も受

け入れた特別支援学校」は前述のとおり2校あるが、より多くの避難者注1)を受け入れ、かつ校舎が重度重複障害や医療的ケアへの対応も考慮された最新の設計である熊本県立熊本かがやきの森支援学校(以下、かがやきの森)を対象とする。施設面において、より多様な人々を受け入れられる環境・設備があると位置づけられる。

またこの比較分析対象には、今回特別支援学校の中で唯一福祉避難所となった大津支援学校

(以下、大津支援/知的障害部門)、および一般的な通常学校の避難所利用として熊本市立A注2)

小学校(以下、A小)を取り上げる。A小は校舎プランが典型的な片廊下型で、築年数が30~40年以上を経ている校舎であり、他の2校と同様に周辺地域は住宅地で、調査協力を得られた学校である。

以上の3校を対象にヒアリング調査および施設見学を行った(表1)。また各校の立地特性、校舎の特徴、震度、被害状況を表2に示す。

表1 調査概要

調査概要

①かがやきの森 調査日:2016年9月23日 �教頭先生および児童生徒の保護者5名に対するヒアリング調査、及び施設見学

②大津支援 調査日:2016年11月8日 �校長先生、事務局長、小学部教諭、高等部教諭の計4名にヒアリング調査、及び施設見学

③A小 調査日:2016年11月9日 校長先生にヒアリング調査、及び施設見学

調査対象校の児童生徒数(2016年度)

①�かがやきの森 児童生徒数67名(療育医療センター分教室・訪問教育を除くと本校は43名)のうち、15名(本校のみ/胃ろうが約10名、気管切開が約10名、等)の児童生徒が医療的ケアを必要とする。

②�大津支援 児童生徒数は163名、うち89名が自宅から、74名が児童入所施設(4学園)から通学。校区は熊本市、西原村、益城町、南阿蘇町、高森町など。

③A小 児童数は約400名。

ヒアリング調査項目は、校舎の特徴と被害状況、避難所開設のプロセス、避難者の受け入れ状況、避難生活エリアの利用状況と問題点、児童生徒や要配慮者への個別対応状況、電気・水・物資の確保状況、避難所の運営体制、地域との関係、学校再開と今後の課題等についてである。

まず3~5章は、3校での各調査から得られた避難所運営・環境の実態と学校関係者の見解のみで構成する。そして、6章でそれらの比較分析・考察を行い、7章でまとめを述べる。

比較分析の手法と視点は、調査対象校3校のうちかがやきの森を主軸に据える。福祉避難所となった大津支援と、一般の地域住民を受け入れたかがやきの森との比較では、避難所運営・環境の利点や課題の相違を探ることで、特別支援学校が避難所としてどこまでの役割を果たしうるかを捉える。また、周辺地域からあらゆる避難者を受け入れた点が共通するA小とかがやきの森の比較については、施設環境のスペックが大きく異なる中で、避難所運営・環境の共通点と相違点を明らかにする。

2 第20巻第1号 福祉のまちづくり研究

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3.�熊本県立熊本かがやきの森支援学校における臨時避難所としての実態と課題

重度重複障害のある児童生徒と家族、地域住民、さらにはペットも受け入れ、ピーク時は700人規模注3)となる臨時避難所が開設された6)

(図1)。[避難所開設]前震時(4月14日21時26分)

は教室の棚や机から物が落ちた程度であったが、県の施設課の要請により4月15日午前1時頃に避難所を開設した。その後、本震(4月16日1時25分)があり津波警報も出たため、周辺の地域住民はかがやきの森のはす向かいにある指定避難所の城西小学校(約1200人が避難)へも避難したが、かがやきの森にも避難し始め、体育館、会議室、廊下にぞくぞくと集まった。学校としてはまず避難所運営の対応を迫られ、児童生徒の安否確認はその後となった。学校敷地内に次々と車が入ってきたが、巡回のために来た警備会社が車の誘導をしてくれた。[児童生徒・卒業生の避難受け入れ]全児童

生徒67名のうち、かがやきの森への避難は延べ14家族で約60人を受け入れた。児童生徒の家族

に学校への避難を呼びかけても、震災による不確かな道路事情や職場との関係、また他の兄弟がいるなどの理由で来れないケースもあった。[避難スペースの区画化]本震時、管理棟と

特別棟を仕切る廊下の防火扉が閉まり、これにより結果として特別棟・教室棟は児童生徒とその家族、管理棟・体育館は一般避難者に区画できた。体育館や管理棟前の廊下で多くの人々が避難している中で、広い教室棟や多目的ルームをなぜ使えないのかと尋ねてくる住民もいたが、その都度理由を丁寧に伝え、防火扉部分には、「医療的ケアの必要な子どもがいます」と貼り紙をして区画を死守した。[一般住民の避難生活エリア]避難者名簿確

認によるとピーク時は約700名で、駐車場等の車中泊や名簿未記入者はこれに含まれない。一般の利用場所は体育館、体育館前廊下、会議室、管理棟廊下となる。

全館冷暖房完備であり、校内で日常利用しているセラピーマット約100枚やマットレス等を避難者に提供して快適性の確保に努めた。ただし、これら使用したセラピーマットは、学校再

表2 調査対象校の概要

第20巻第1号 福祉のまちづくり研究 3

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開後、衛生面からすべて新しい物に取替えた。また、体育館と管理棟をつなぐ位置に車いす

対応トイレがあり、この周囲に多くの高齢者たちがおり、すぐ利用できるような場所にいた。

さらに体育館は舞台裏のシャッターが開閉可能であったため、物資の搬入や避難口として、また空気の入れ替えや光の取り込み、そしてコミュニティの場として様々に活用された。

広い多目的ルームや、ケアルーム・保健室なども開放するか検討されたが、学校再開後の衛生管理の面から開放しなかった。[児童生徒・卒業生の避難生活エリア]児童

生徒・卒業生の延べ14家族の約60人は教室棟を生活エリアとし、概ね1家族に2教室を充て、余裕をもって使えるようにした。各教室棟にある学部ホールの使用は少なく、教室内で家族ごとに生活が完結しプライバシーを保っていた。[医療的ケアが必要な児童生徒への個別対応]

日常の医療的ケアは家族、看護師、研修を受けた担当教員が主に行うが、避難所での看護師たちは県からの派遣のため、その範疇の仕事にならざるを得ない。震災から数日後に放課後デイサービスが利用できるようになり、その間は親が医療的ケアを気にすることなく、家の片づけや買い出し等に出ることが出来るようになった。

また避難生活中、ラコール(経管栄養剤)の注入のみだった子が下痢をしてしまい、お風呂も入れずお尻がただれてしまったが、近隣の弁当屋がおかゆをもってきてくれ、ミキサーをかけて注入することができ下痢も治まった。[要配慮事項]一般の避難者には、精神疾患

や糖尿病でインシュリン注射が必要な高齢者、鎮痛剤依存や統合失調症(幻覚・夜中徘徊)、高齢の車いす利用者、病気により流動食でないと食べられない人等、個別対応が必要な人がいた。一方、校長先生は手話が出来るため、手話通訳対応の貼り紙もした。

施設環境面では、女性のための更衣室・授乳室・おむつ交換室については相談室をあてた。また、統合失調症の人には訪問教育室を使用してもらった。さらに体調を崩した人の療養場所としても相談室は活用され感染予防を徹底した。

避難所内での病気に対しては、児童生徒の多くがかかりつけとしている熊本市民病院が倒壊し、救急車を要請しても来られない状況であった。看護師派遣はあったものの、実際には医師の指示がないと動けず、指示以外であると血圧測定さえも医行為であるからと断られた。[ペット対応]衛生面の観点から、当初校内

へ入れるのは不可とし、ペットの様子がガラス

図1 熊本かがやきの森支援学校 校舎プラン

4 第20巻第1号 福祉のまちづくり研究

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越しにみえる管理棟廊下に居てもらうこととした。しかしながら本震後に停電があり真っ暗な環境の中では指示や注意喚起等の管理が徹底できず、結局室内へ連れ込んでしまう避難者が続き、その後もペットも室内で過ごす形となった。

避難生活においてペットの対応は飼い主に任せたが、排泄物を校内に放置したり、体育館横が排泄の場となったり、校舎外周が周遊できることから朝晩の散歩コースになったりしたため、汚物がその経路に散在してしまう。これに対して、飼い主への注意喚起を行うと共に、汚物の処理は実質的に職員で対応した。また室内は常にアルコール消毒をして清潔を保った。学校再開にあたっては業者を入れ一斉消毒し、不十分なところは職員で再度掃除をした。[電気]自家発電装置を備えていたが、深夜

時間帯には自動で切り替わる設定ではなかったため、本震時に装置は起動しなかった。また非常灯は、そもそも避難所指定されていないため設置されていなかった。そのため停電時は真っ暗になった。[水の確保・供給]体育館とプールに降る雨

を地下に貯水できるタンク(50t)があったため、トイレの衛生管理に非常に役立った。しかし、晴天が続き本震から5日目で貯水が底をつく。校内の屋内プールは水を抜いている状態だった。向かいの城西小までプールの水を汲みに行き、ボランティアがバケツリレーで、トイレ横の廊下に置いたタンクまで運んだ。[物資の確保・配給]指定避難所でなかった

ため、そもそも備蓄品がほとんどなく、支援物資頒布ラインにも入っていないかった。当初は向かいの城西小に物資をもらいに行っていた。4月16日14時40分頃にようやくパン110ケが届くものの、700人にどう渡すか苦慮した。第一優先を60歳以上、第二優先を小学生未満児とし、しかも1家族に1個とした。しかし、配給するにも体の不自由な人は並ぶのが遅くなってしまう。また両手で杖をつく人は手で持ち帰りにくい。このことから配給の優先順位を体の不自由

な人、子連れの人とした。食事が用意できるようになってからは、体の不自由な人には箱に1セットとしてその人のところまで運んだ。

また避難者には配給されたものはその日に食べるように伝え、賞味期限切れの物は勇気をもって捨てるように周知した。実際に近隣の避難所では胃腸炎が発生したとの情報が入った。かがやきの森でも児童生徒の身体状況から校内での感染症は特に恐れていたことである。

また物資の受け取りと管理も大きな問題である。かがやきの森は、職員室にトラックをつけて校舎裏から搬入することができる造りだったため、その点は効率的に搬入できた。[避難所の運営体制]市民による自主運営組

織は作らず、管理職を中心に部門長等の少数(約10名)で行い、その他の教員は本人・家族の生活確保のため自宅待機命令を出した。これにより情報統制を図った。避難所運営の後半にあたる4月25-27日の3日間については全職員で3パターンの勤務形態に分け4班で行った。

市からは4月22日になって市職員が来校するも、2交代制で夜には自宅に戻ってしまうため、担当者間の情報共有が不十分で、学校は毎回新たな担当者に説明を繰り返すことになった。[地域との日頃の関係]月1回、校長・教頭

は8町内の自治会長が集まる自治協議会に出席しており、学校行事の案内も出している。開校3年目ながら地域に根ざした学校づくりに取り組んできたが、避難所生活では住民同士のトラブルが起った際、自治会長が間に入って収めてくれたり、住民向けの学校再開の説明も自治会長が対応してくれたりした。[学校再開と学校が考える今後の課題]5月

2日に臨時総務会を行い、5月8日に避難所を閉鎖、5月10日に学校再開となった。

今後もまた同じような震災が起きた場合、学校としてはペットも含めた共存になると考えている。福祉避難所に指定したとしても、家から近い学校に避難する人が多くいるであろうことから、「ここでは受け付けない」と追い返すよ

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うなことは心情的にも出来ない。まず児童生徒にとって、最初の3日間を守り

抜くために何が必要か、看護師をどう確保するか、医療的ケアをどうするか、急変時のドクターヘリをどう呼べるかなど課題は多く残る。

また地域の要配慮者については、どのような障害や特性をもった人が、この地域に何人いるのか、学校としてはリスト化して把握しておきたい。ただしこれは本来市の業務であり、また自治会・町内会等の地域自治組織においても災害時の要配慮者の把握を自主的に行うことが望ましいと考えている。

4.�熊本県立大津支援学校における臨時福祉避難所としての実態と課題

福祉避難所として利用された大津支援は、述べ65人注4)ほどの避難者を受け入れた(図2)。[避難所開設]前震時は棚から荷物が落ちて

いたりしたので、翌日は休校とした。水道も電気も問題なかったが本震後は遮断された。

本震後、学校近くの官舎から校長が駆け付けた。隣接する室小学校が指定避難所で、多くの人が避難し始めていた。しかし室小は人がいっぱいで中に入れないという高齢家族2人が午前3時頃大津支援にきた。職員玄関に隣接した保

健室に誘導し、余震からいつでも逃げられるようにした。

近隣の若草児童学園は町の福祉避難所として指定されていたが、ここも近くの室小学校から避難者が溢れて、100人くらい押し寄せたという。さらにここの学園にも入れず、大津支援まで来た人もいた。学園に電話を入れても不通で、職員が直接確認を取りにいった。

学校から大津町災害対策本部へ連絡し、要請を受けて臨時福祉避難所を開設した。周辺住民の中には、「水がほしい」、「トイレを貸してほしい」と立ち寄る人がいたが、避難の受け入れを断ったのは1件のみである。[児童生徒の避難状況と避難者受け入れ]全

児童生徒の7割強が避難生活となり、親戚の家に身を寄せた家族もいたが、車中泊が多かった。児童生徒のうち近隣の指定避難所に行けたのはごく一部である。大津支援への避難は、自宅から離れることに躊躇する家族が大半であった。

大津支援の利用は延べ65人(被災した教員とその家族も含めた人数)で、ピークは16~18日である。近隣の高齢者施設では土砂崩れの恐れから、入所者とスタッフ合せて約20人で大津支援を訪ねて来た日もあった。結果として児童生徒の避難はなく、卒業生家族や指定避難所に入

図2 大津支援学校 校舎プラン

6 第20巻第1号 福祉のまちづくり研究

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れなかった高齢者、認知症のある高齢者とその家族、発達障害のある成人などを受け入れた。[避難生活エリア]校舎は冷暖房完備でトイ

レの一部にも空調があるが、体育館にはない。ここでも体育用のセラピーマットが活躍し、床の冷たさや硬さの緩和に役立った。

避難者の中で、ある認知症の高齢者は、近隣の室小の混雑した環境に精神的に不安定になり、町から大津支援に受け入れ要請があった。高齢夫婦とその娘で一緒に避難してもらい、高等部A棟の1教室をあてた。このように、高齢者の避難は必ず家族で避難してもらうようにした。本人だけでは個別のケアまで十分対応できないためである。一方で体を動かせるという理由から体育館の利用を希望した避難者もいた。

避難者の受け入れにあたり校舎・体育館の使用方法はおおむね想定していたが、避難者が少なかったから対応できたことでもある。

現在25教室あり、1教室に1家族としていたため、その方法でいくと最大受入可能数は25家族となる。それ以上の受け入れ要請があった場合の対応方法は、まだ十分考えられていない。

体育館には隣接して屋外トイレがあるのはよかったが車いす対応トイレはないため、必要な人には管理棟のトイレを案内した。

またシャワーは学校にもあるが、学校の道向かいの老人ホームが無料で温泉を提供するなど、近隣に温泉が多いのはとても助かった。[ペット対応]大型犬と一緒に避難してきた

人がいたが、犬を校舎内に入れることはなく、外で対応してもらうことにした。[要配慮事項]避難者の中に感染症の疑いが

出れば別棟を用意する準備も進めていた。授乳室や着替えの場の確保も必要であるが保健室をあてたり、生活エリアを1教室につき1家族としたことで概ねプライバシーを保てていた。[電気]大津支援にも自家発電機があったが、

ガスボンベタイプのもので、ごく短時間の停電に対応する一時しのぎでしかない。2時間はもつが、役に立ったのは携帯の充電である。停電

は本震の翌日夕方には復旧した。[水の確保・供給]水の確保が非常に問題だっ

た。園芸実習で使用しているポリタンクで屋外プールの水を運んだ。学校に来ても水道が出ないのが不安といって結局帰った避難者もいる。[物資の確保・配給]16日は備蓄品で対応し、

17日には災害対策本部から毛布、マットなどが順次届いた。大津支援で備蓄していた食料は水と缶ぱんだけで、児童生徒が1晩しのげる応急的なものしか置いてなかった。物資は少しずつ届くが、菓子パンやおにぎりと簡易食が4日間ほど続いた。コンビニが3日目くらいから再開し始めて、外で物が買えるようになった。[避難所運営体制]本来なら、町から学校に

職員を派遣すべきところだが現実には職員数が限られているため難しい。近隣の室小には常駐の役場職員がいたが、1人で切り盛りしている状況に職員体制の限界を感じ、避難所運営の中心は学校の管理職で対応することとした。

町とは徐々に連携したが、運営の主体は学校であった。1週間経ったところで避難所運営のシフト表を作成し、一般教員の協力も得ながら運営した。一緒に避難してきたその教員家族もスタッフ側になり、避難所運営を支えた。

避難者の健康状態の把握は、看護師や保健師が2日に1回は来てくれ、県外からも看護チームが来てくれた。[町や他施設との連携]避難者の受け入れは

大津町の災害対策本部からの連絡に基づき対応した。逆に、直接学校に来た避難者は、役場や地域包括支援センターに情報を上げるようにした。各避難所への振り分けは、高齢者は地域包括支援センター、障害者は福祉課が当人やその家族と面談し、避難者に選択してもらうこととした。また避難者が大津支援を選択した場合、学校でも教員等が面談をして本人に納得してもらってから入るようにした。[地域との日頃の関係]大津支援は近隣の室

小と日頃から交流を重ねている。学校が捉えている地域の特徴として、自治会のまとまりがよ

第20巻第1号 福祉のまちづくり研究 7

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く、コミュニティの土壌があり、町内に小・中学校、高等学校、特別支援学校があるなど教育施設も充実している。町として福祉に積極的な面があり、町がコンパクトだからこそ行政や周辺の福祉施設とも顔が見える関係にある。[学校再開と学校が考える今後の課題]県下

一斉に休校は5月9日までと示され、それを目安に動いた。実際の避難所運営は4月30日で終了した。

再開後は児童生徒の不安やフラッシュバック等の心のケアについて、委員会を週1回開催するなど対処してきた。ハード面では、中水利用ができる設備や、体育館にも車いす対応トイレが必要と考えている。行政や他施設とは互いに連携が取れた。避難所のそれぞれの役割、すみわけが出来たこと、また今後も各避難所の特性について地域への周知が大事である。

5.�熊本市立A小学校における地域の避難所としての実態と課題

A小は人口減および高齢化率が高い校区に位置し、地域の避難所として利用された(図3)。[避難所開設]4月14日の前震で避難してき

た人がいた。体育館の鍵は開けたものの天井の筋違が余震のたびにガチャガチャと音がして怖

いということから、主に運動場の車中泊であった。15日の朝は備蓄倉庫にあったアルファ米50人分と、毛布10枚程度しか出せず到底足りなかった。運動場の約半分が車中泊の車で埋まっていたが、朝になって多くの人が帰った。

本震後にどっと避難者が押し寄せ、体育館、運動場ともに埋まっていき区画整理が十分出来なかった。また体育館に入れなかった避難者を順次教室に案内し、この時点で7教室を開放した。最初は保健室前の廊下にも多くの人がおり、家庭科室にも土足であがるような状況だった。[避難生活エリア]屋外にもテントをはった

り、車中泊をしたりする避難者が多くいた。主たる生活エリアの体育館はダンボール等を敷き、高齢者にはベッドがないため、体育館用のマットをあてがったりした。ダンボールで目隠しとなるパーティションも設けた。

その後、市教育委員会施設課の検査が入り、体育館の内壁の一部から石膏ボードが余震で落ちてくる可能性があるとの指摘を受け、安全のため区画を再整理した。当初は体育館の中央に本部席を置いていたが、石膏ボードが落ちてきそうな壁際を本部席とした。

体育館の館内に車いす対応トイレが1つあり、これが高齢者や車いす使用者にとても役

図3 A小学校 校舎プラン

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立った。トイレの前に椅子を並べて、順番待ちのスペースをつくった。校舎のトイレは和式が基本で、洋式は各トイレに1箇所あるだけある。足腰に不安がある高齢者にとって和式は非常に利用しにくい。一方でトイレの管理が大変だった。普段と使用頻度が明らかに異なるので汚れやすい。断水時はプールの水で流すよう、トイレ前にバケツをいくつも用意しておいた。

さらに体育館へのアクセスはスロープがあるので車いすでも問題ない。ただし車いすで外からそのまま上がってしまうことがあるため、砂が落ちて玄関周りの清掃が大変であった。

校舎内は、1・2階の教室や、家庭科室、生活科室を開放した。保健室については、薬品管理や児童の個人情報保護の観点から開放しなかった。お風呂はシャワーが体育館にあるが、ここを開放するとまた管理の負荷が大きくなることから使用しなかった。学校から歩いて10分のところに銭湯があり無料開放していた。[要配慮事項]高齢者施設から約20人でまと

まってA小に一時的に避難してきた日もあった。車いすを常時使用している人や電動車いすの人の多くは高齢者である。避難所に来て、車いすが必要になった人もいた。このような人たちには、体育館の本部席前にいてもらうことにした。介助が必要な際はプレートを上げてもらって移動の介助を教員等が行った。

本部前は介護が必要な高齢者のゾーンとし、段ボールベッド(高さ約35cm)を5ヶ程度用意した。ベッドは体が楽な面もあるが、ベッドが揺れたり、簡易な手すりはあっても起き上がりや立ち上がりの際に不安定で怖いといったことから、やはり床で寝るという人もいた。体育館の壁際にはベンチがあるので、それを支えに立ち上がったり、車いすに移乗している人もいた。

一人暮らしや介護が必要な高齢者の福祉避難所への誘導は、市職員が何度か意向調査をしていたが、A小の方が自宅への行き来のしやすさから実際にはあまり移りたがらなかった。

感染症が広がることはなかったが、下痢や嘔吐をした避難者がいた。これらは看護師が対応し、大事には至らなかった。

また体育館の避難者の中には、精神疾患ぎみの人もいた。避難者間のトラブルも生じたが、校区内に住むカウンセラーが、カウンセリングのボランティアをしてくれた。トラブルが生じても当人に「別室に移ってほしい」と安易に言えるものではなく、対応に苦慮した。

授乳室や女性専用の更衣室は体育館の器具庫をあてた。[ペット対応]犬を連れてくる避難者もいた。

周囲に迷惑にならないよう、車の中で過ごさせている様子がみられた。[水の確保・供給]発災後2~3日は水道が

使えず、近隣に湧水があるとのことで、ボランティアを募って水を運んだ。[物資の確保・配給]一時避難場所の指定に

より市の分散備蓄倉庫を有していたが、備蓄品に飲料水はなく、食料もアルファ米と缶パン程度であった。炊き出しは地域の女性たちの協力を得て家庭科室で行ったが、最初のおにぎりはピンポン玉1個くらいの小さなものだった。食事の提供は年代別とし、90代以上、80代以上、75歳以上、70代…といった順で渡した。

支援物資も十分に管理出来ていたわけではなかった。なにがどこにあるのか分からない状態のものもあり、自分で探してもらうようなことがあった。物資の中には賞味期限が迫っているものもあり、放送をかけて希望者を募ったり、お菓子の詰め合わせを作って配ったりした。物資の管理も非常に大変であった。[避難所の運営体制]地震直後、校長、そし

て教頭が対応した。マニュアルでは自治会役員も学校に来ることになっていたが、実際には数名だった。これは地域でも臨時の避難場所が出来ており、自治会役員はそちらの対応に追われていたためである。また高齢化率が高い地域ゆえに、最も体を動かしたのは中学生や小学校高学年の子たちだった。

第20巻第1号 福祉のまちづくり研究 9

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発災後は市職員が2名ずつ来ていたが、半日で交代して次は同じ職員が来ないため引継ぎが十分行われなかった。震災後1週間程度は学校でチームをつくり、食事や衛生環境、物資の対応をしていた。しかし学校職員だけでは避難所運営に限界を感じ、自治会長に助けを求め役割分担をした。学校は民間ボランティアに運営を引き継ぎながらリーダーを出してもらい、自治会メンバーもそのチームに入って一緒に運営し、連休が終わった頃に民間ボランティアは撤収し、自治会からリーダーを出してもらった。

教員体制(34名)は役割分担を決めて、半分は片づけ、半分は運営とした。子どもの安否確認や家庭訪問なども行った。夜間は誰かが泊まることとし、管理職もどちらか1人がいるようにした。スタッフ会議は毎朝実施し、学校、自治体、市民病院スタッフ、ボランティアの各リーダーが集まり、現況確認や、予定を組んだり、情報共有をしたりしていた。

外部の支援は、福岡市から市職員のボランティア4名が約1週間泊まり込みで来てくれた。一定期間滞在してくれると避難者の顔が見えてきて運営がしやすくなる。

また市民病院の看護師が派遣されたり、他県からの派遣ナースが3日サイクルで学校に常駐してくれたりするようになった。

連休が終わり自治会主体で避難所運営をする段階に至ったが、その担い手も多くは高齢者であり限界となってしまった。自治会による運営は厳しいことを行政に強く訴え、市主導で同じ市職員が交代しながら運営を行った。市民病院も派遣ナースは5月いっぱいで終了した。[地域との日ごろの関係]地域と日ごろから

つながりのある教員は、毎日避難所に顔を出してコミュニケーションを取り信頼を得ていた。

従来から町内でも避難訓練をしており、自治会役員が本部をつくって、被災者を避難場所に連れていくという訓練をしているが、現実にはA小に来られた役員は少なかった。[学校再開と学校が考える今後の課題]5月

の連休中に市職員が避難者に聞き取りを行い、自宅に帰れるか否か、どこの避難所に移るかなどの希望を聞いたが、A小から移動してもよいという人はあまりいなかった。集約された市民体育館に移った場合、片付けなどで自宅までの行き来が難しくなり交通手段の問題が出てくる。

当初は5月11日の学校再開と共に閉鎖を見込んでいたが、結果として8月15日までかかった。

また運動場は車中泊で長く利用されたため、かなり傷んででこぼこが出来てしまい、土を入れたりしたが、水はけが悪くなった。

今後の課題として、発災時の対応は、その時に運営側に回れる人材がいるか、物があるか、その中で臨機応変に対応せざるを得ない。初期段階が最も厳しい状況であり、最も必要であったのは人手であった。動ける若い世代は家の片づけもあり、仕事もある中で、その世代で自主組織を作って運営するのは難しい。

また、今回の市の対応は担当職員が日ごとに変わったため人間関係がつくれず、むしろ、県外から1週間滞在してくれたボランティアメンバーとはよい関係を築けた。

6.比較分析・考察(1)�かがやきの森と大津支援の比較①:特別支

援学校への地域住民の避難行動の相違点かがやきの森には多くの地域住民が避難して

きた一方、大津支援ではそのようなことはなかった。いずれも住宅地に位置するが、同じ特別支援学校でありながら、この差が生じた理由には、①かがやきの森に隣接する指定避難所が許容を相当数超え、その距離的近さから避難者が流れ移ったこと、②かがやきの森は築2年程度の木造校舎で地域住民から快適性や安全安心が期待されたこと、③地域住民の指定避難所に対する認識の差等が考えられる。

①や③の背景には、政令指定都市と町という自治体規模の違いにより人口や人口密度、コミュニティ形成の違いの影響もあると推察され

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る。また③については大津支援より、指定避難所に対する住民の認識が比較的浸透していたのではないかとの見解を得ている。

(2)�かがやきの森と大津支援の比較②:特別支援学校の児童生徒と家族の避難受け入れにかかる共通点

かがやきの森では児童生徒と卒業生の14家族(67家族中)を受け入れ、大津支援では卒業生1家族のみの受け入れにとどまった。通学校への避難が難しかった理由に、①校区の広さによる学校までの遠さ、②道路事情の不安や不確かな情報、③兄弟の状況や保護者の仕事の都合等が2校共通して捉えられた。

都道府県立が多くを占める特別支援学校では、校区が複数の市区町村にまたがるため、この2校に限らず共通課題になりうると考えられる。

(3)�かがやきの森と大津支援の比較③:避難所運営の人的体制における共通・相違点

2校共通して、避難者の心身状況に対するケアや感染症予防、医療的ケア(かがやき森のみ)にあたり、保健師・看護師等の医療関係者に対するニーズが大きいことが捉えられた。

相違点としては、両校とも県立校でありながら、かがやきの森では県と市の狭間で、行政との連携がうまく取れなかったことが避難所運営を一層難しいものとし、大津支援では町との日頃の関係から円滑に運営できたとの見解を各校より得た。特別支援学校の多くは都道府県立であることから、市町村との連携体制が強く問われるところである。

(4)�かがやきの森とA小との比較①:特別支援学校ならではの避難環境

避難生活をおくる環境として、冷暖房完備、複数の車いす対応トイレ、100枚ほどのセラピーマットやベッド等、通常学校より格段に配備されているのは特別支援学校ならではである。

また、避難所の利用エリアをどこまで開放す

るか慎重な判断が必要となるが、中でも特別支援学校は学校再開後を見据えた徹底した衛生管理が求められる。また震災時に利用された物品は、学校再開後に消毒や全て新しく買い替えるといったことが生じており、そのようなことを念頭に置いておく必要がある。

(5)�かがやきの森とA小との比較②:特別支援学校ならではの人材体制

両校とも多くの地域住民を受け入れ、地域の要配慮者に対する支援も行われた。中でもかがやきの森は、校長先生が手話通訳に応じたり、物資の配給にあたり優先順位の設定や配布の仕方についてきめ細かく対応することができたのは、障害に関する知識や技術等の高い専門性を有した教職員が避難所運営の中枢を担っていたことが背景の一部にあると考えられる。

(6)�かがやきの森のみにみられた課題:医療的ケアへの対応

衛生面から、一般の避難者とは徹底した区画が必要とされた。またラコールやチューブ、流動食等の食事・薬・関連器具は、日頃から一定量を保管しておく必要性もあらわとなった。

避難生活中の医療的ケアは、派遣の看護師も対応できる仕組みがあれば、親が医療的ケアを気にせずに、家の片づけや買い出しがしやすくなる。これは児童生徒に限らず地域住民で医療的ケアが必要な人にもあてはめられる。理想は看護師が常駐し、かつ避難者の医療的ケアへの対応が望まれていた。

また、吸引や人工呼吸器には電源が必須である。バッテリーや自家発電機等により停電時も電力供給が可能な体制を整えておく必要がある。

7.まとめ①特別支援学校ならではの避難所としての特徴:特別支援学校はその特徴的な施設の造りや、障害に関する専門知識・技術を有した教職

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員体制があることから、要配慮者の避難生活の場として優位性をもち、一般の避難者にとっても快適性を高める一面があることが、本調査より捉えられた。②特別支援学校の避難所としての役割:前項

の特徴を踏まえ、学校の立地や周辺地域の居住状況等を鑑み、福祉避難所に特化するか、広く一般の地域住民も受け入れるか、地域の中での役割を、行政、周辺施設、また地域住民に予め明示しておくことの重要性が捉えられた。

特に、都道府県立の特別支援学校は、避難所運営の主体となる市町村と、行政間での連携が求められる。

また広く一般の地域住民を受け入れるにあたっては、児童生徒の心身状況を踏まえ、児童生徒とその家族や、その他の要配慮者の人々との区画整理、また施設運用に十分留意すべきことが分かった。③避難生活での重度重複障害や医療的ケアに対する対応のあり方:重度重複障害や医療的ケアを必要としている児童生徒が通う特別支援学校は、避難時において、重い障害や医療的ケアを必要とする地域住民も比較的受け入れやすい施設環境にあるという特徴が捉えられた。

ただし、児童生徒の通学校への避難が一部に限られていたように、家から遠い避難所は敬遠される傾向がみられた。重度重複障害や医療的ケアにも対応しうる施設環境を備えた特別支援学校が、自宅から近い範囲にあれば避難先の一つとして考えられる一方、遠い場合は、自身のニーズに即した別の避難所を認識しておくことが要配慮者とその家族や支援者側に求められる。またそのような要配慮者を地域全体で面的にカバーできるよう、福祉避難所の規模・配置や避難誘導について、特別支援学校が担う役割も含めた議論・検討が必要と考えられる。

以上は、熊本地震における3校の比較分析から得られたことであるが、これらの視点は他地域における特別支援学校においても震災への対応策を検討していく上での一助となりうる。

謝辞本研究は、日本福祉のまちづくり学会におけ

る平成28年度「熊本震災支援活動補助事業」において実施したものである。調査協力校の先生方、専門知識の提供や助言をくださった日建設計の中島究氏、髙木研作氏、さいたま市立さくら草特別支援学校事務職員の礒田勝氏に深く感謝申し上げる。

参考文献1) 「熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備につい

て」緊急提言、文部科学省、2016.72) 避難所となった学校における施設面の課題等につい

て:熊本県教育委員会、2016.63) 避難場所開設・避難所運営マニュアル:熊本市、

2014.64) 例えば「災害に強い学校施設の在り方について~津

波対策及び避難所としての防災機能の強化~」報告書:文部科学省、2014.3

5) 避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針:内閣府(防災担当)、2016.4より

「(2)福祉避難所の整備…②必要な人員の確保という観点から老人福祉センター、障害福祉施設及び特別支援学校等の施設(以下、「社会福祉施設等」という。)を活用することが望ましいこと。」

6) 2016年熊本地震 熊本県立熊本かがやきの森支援学校被害状況調査報告書、日建設計、2016.4

注釈1) 2校中1校が約200名の避難受け入れ、かがやきの

森が約700名である。2) 当該校の意向により匿名とする。3) 平成28年熊本地震に関する災害対策本部会議資料の

うち直近の第256報(平成29年10月13日現在)によると、熊本市の人的被害は死者75人、重傷者756人、軽傷者943人、住家被害は全壊2,456棟(5,755世帯)、半壊15,207棟(47,681世帯)、一部破損104,204棟(81,000世帯)、罹災世帯数は53,436世帯(人数不明)である。

4) 平成28年熊本地震に関する災害対策本部会議資料のうち直近の第256報(平成29年10月13日現在)によると、大津町の人的被害は死者4人、重傷者26人、軽傷者10人、住家被害は全壊154棟(127世帯)、半壊1365棟(1,433世帯)、一部破損3,963棟(3,790世帯)、罹災世帯数は1,560世帯(3,895人)である。

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