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短期大学におけるグラフィックデザイン教育の実践についてharp.lib.hiroshima-u.ac.jp/hijiyama-u/file/12239/...214 (1)グラフィックデザイン教育のための3つの力・5つの観点・13の要点

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    1 グラフィックデザインとは?

    グラフィックデザインとは,ポスターやチラシや新聞・雑誌広告のように,主に印刷(紙)媒体を使って情報を伝達したり宣伝や広告に利用する場合や,書籍・雑誌・冊子などの出版物の装幀や題字や全体の構成レイアウト,商品のパッケージやラベルや包装紙,案内図やピクトグラムやサイン・看板,企業やブランドや団体のシンボルマークやロゴタイプ,和文欧文などの文字(フォント)など,視覚的に訴える様々な事物を,より分かりやすく・より見やすく・より機能的に・より美しく・より楽しく・より効果的に・より印象的に・より象徴的に,見る者の心に訴える表現力を持つように,与条件を整理整頓し,必要条件を必ず全うし,施主(クライアント=仕事の依頼者)を十分に満足させた上でなおかつ自らの美学を貫きながら,造形力や審美眼をもって工夫し,計画的に意図的に形作ることである。またその技術(職能)を持つ者をグラフィックデザイナーと呼ぶことが出来るが,現在の広告業界では,実際のデザイン作業もさることながら,全体のイメージを決定し監督統轄する者としてのアートディレクターが重要視されている。

    2 グラフィックデザイン教育とは?

    今で言うグラフィックデザイナーは,かつては図案工などと呼ばれ高い技術を持つことは認められつつも,あくまでも地味な職人であり,画家や彫刻家などに比べ創造者・表現者(クリエイター)としては,十分に評価されてこなかったと言わざるを得ない。しかし 19 世紀末頃から東京美術学校でも絵画や彫刻とは別の価値ある一領域として認識され教育されるようになってくると,美術系大学でグラフィックデザインを教育することが当たり前の時代となってきた。それはグラフィックデザインが,どのような社会の中でも必ず必要とされる高度な職能(決して誰にでも備わっているわけではない秀でた美的表現構成能力)と認識されているからである。従って,グラフィックデザインを教育する場合,第一に求められる基本的素養として「❶美的・造形表現力」が上げられる。そもそも美術系大学が入試に実技試験を課して選抜している所以である。だが,それだけではグラフィックデザイン教育としては十分ではない。むしろ最も重要視されているのは「❷発想・思考力に優れ,全体を監督統括しアートディレクションできる能力」である。何故ならグラフィックデザインは個人のための創作物ではなく,施主や消費者など社会の中で有効に働いて初めて完結するものだからである。そして現代のグラフィックデザインに欠かせないもう一つが「❸パソコン技術力」である。グラフィックデザインは,活字・活版印刷から写植・オフセット印刷へと,常に時代とともに大きく変化してきたが,パソコン時代に入り,さらにその方法が大きく変化した。

    短期大学におけるグラフィックデザイン教育の実践について

    The Practice of GraphicDesign Education in a Junior College

    斉 藤 克 幸Katsuyuki SAITO

    キーワード:グラフィックデザイン・アートディレクション・美術教育

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    3 本学美術科のグラフィックデザイン教育

    本学美術科では,他の多くの美術系大学がそうであるように,実技系の授業が教育の柱となっている。様々な課題に取り組み実際に作品を制作していきながら,グラフィックデザインにとって必要な技術や能力を身に付けていく方法である。これに加えて美術史や色彩学やデザイン・造形論などの美術理論系科目,さらに CG 系科目を加えることによって総合的に教育していく。また 2 年間の実技系授業は学期の進行を意識して「修練期~導入期~成長期~発展期」と区別し,意図的に難易度を変化させている。最初は与えられた課題に従って制作する割合が高く,学期が進むに従い自分で考えて決定しなければならない割合を増加させ,卒業制作に至っては,ほぼ全てのことを学生自身が決定しなければならないように組み立てている。卒業制作では,教員は学生がやろうとしていることに対して,それをより良く完成させるためのアドバイスや支援をする程度の関与に留めるように努めている。(図 1)

    ただし本学美術科は短期大学であるため四年制大学に比べ,十分な時間を取ることができないという現実がある。また,難関大学を勝ち抜いてきた学生とは違い,必ずしも最初から一定の基礎的素養が備わっている学生ばかりでもない。さらにグラフィックデザインに対する理解も低く,イラストレーションを描くことがグラフィックデザインであるなどと誤解している学生もおり,基礎から発展段階まで限られた時間を有効に使って,効果的に教育していかなければならない。また絵画や彫刻と違い,グラフィックデザインには多面的な要素があり,一つの課題・方法で全てを網羅することは不可能である。そのため,それぞれの課題がグラフィックデザイン教育にとって,どのような意味を持つのか課題毎の観点を明確にし,またそのことを学生に理解させながら実施していく必要がある。そのために考案した指標が以下の「グラフィックデザイン教育のための 3 つの力・5つの観点・13 の要点」である。(表 1)

    図1

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    表 1 グラフィックデザイン教育のための 3つの力・5つの観点・13の要点

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    (1)グラフィックデザイン教育のための 3 つの力・5 つの観点・13 の要点上述した「❶美的・造形表現力」は,さらに大きく二つに分けることができる。一つは「①基礎

    的造形」で,これはいわゆる基礎造形と呼ばれる分野で,多くの美術系大学の初年時の基礎として用いられていて,絵画におけるデッサンのような位置づけとなる。具体的には「A:造形面の訓練や発見」,「B:構成・レイアウト・デザイン力の強化」,「C:配色感覚を磨くこと」に分けることができる。もう一つは「②実際的造形」と定義したもので,これらは「D:イラストレーションの訓練」,「E:写真の基礎知識と技術」,「F:文字(の成り立ち)・レタリング・タイポグラフィ・ロゴタイプに関する知識と訓練」のことである。これらはグラフィックデザインにとって直接的に役立つ要素であるが,一定の訓練を要する分野であることから,要点としている。次に「❷発想・思考力に優れ,全体を監督統括しアートディレクションできる能力」は,さらに大きく二つに分けることができる。一つは「③ディレクション」で,現在の広告業界では,最も重要視されている素養である。これは具体的には「G:アートディレクションする意識,意味やメッセージ性の意識,コンセプトを構築する力」,「H:発想力の訓練・プレゼンテーション・グラフィックデザインや様々な芸術に関する知識」,「I:楽しさ・面白さ・ユーモア・驚きを与えようとする感覚,斬新さの追求」,「J:社会正義の意識」,「K:完成度の高さの追求」に分けることができる。中でも「G:アートディレクションする意識,意味やメッセージ性の意識,コンセプトを構築する力」は最も重要である。もう一つは「④論理的思考」で,具体的には「L:機能性を追求し改善する力」である。このこともまた,デザインにとって根本的に必要で重要な態度であり素養である。最後に「❸パソコン技術力」は「M:DTP の技術」のことである。

    (2)グラフィックデザインコースから見た美術科教育課程本学美術科の教育課程をグラフィックデザインの観点から見てみると,(表 2)のように理解す

    ることができる。グラフィックデザインコースとしては,実技系科目の授業に加え,美術理論系科目のうち「デザイン・造形論Ⅰ・Ⅱ」,「色彩学」と,CG 系科目のうち「CG 演習Ⅰ・Ⅱ」,「DTP演習」,「WEB デザイン演習」を重要視している。〈1 年次前期〉基礎的造形表現の修練期である。本学美術科では入学後最初の学期は,まだ各コースには別れずに,全ての学生が基礎実習と称する共通の科目を履修する。様々な分野の造形表現に触れることは,グラフィックデザインコースに分かれてからの下敷きとしても極めて重要な過程である。〈1 年次後期〉

    1 年次後期からグラフィックデザインコースに分かれていくが,ここではグラフィックデザインへの導入期と位置づけて,グラフィックデザインの全体的様相を理解させることが主眼である。そのため比較的ショートスパンで多数の課題を課している。〈2 年次前期〉専門性をしっかりと意識し深めていく学期である。この学期からは,比較的ロングスパンで少数の課題を課していく。このことは,一つの課題にかける時間が長くなること=考える時間が長くなることを意味している。特に,この学期で実施している「広島平和ポスター学生コンペティション」への出品は,大きなイベントとなっている。このコンペは公開で審査が実施されるため貴重な勉強の機会となっており,審査委員である外部の現役グラフィックデザイナー(アートディレクター)の厳しい評価は,学生にとって貴重な体験である。〈2 年次後期〉

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    学生が,自分なりの考え方や嗜好を表面化させて制作していく学期である。この学期に実施する課題は前期に比べてさらに少数となる。この学期になると,学生自身にグラフィックデザインに関する自分なりの考え方・哲学が芽生えてくることが期待される。

    表 2 グラフィックデザインコースから見た美術科専門科目教育課程表

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    (3)グラフィックデザインコースの学期毎の課題の考え方上述した通り,グラフィックデザインの教育を一つの課題で全てを網羅することは不可能である

    し現実的ではないから,それぞれの課題に重点的な目標を置き,それを学生に意識させながら実施していく。さらに,それらの課題設定は,学期の進行に従って学生の成長を意識したものとなっているべきである。課題は,1 年次には,与えられたフォーマットに従ったり,あらかじめ設定されたテーマをこなすことに力点を置き,学生の自由度をある程度制限することで易しい課題設定となっており,しばしば学生作品に教員の手が入ることも少なくない。例えばアドビ・イラストレーターなどのパソコンソフトの技術が未熟な段階においては,やはり教員が積極的に手ほどきする必要があるからだ。しかし学期が進むに従って,学生が自分で決定すべき要素を多くすることによって,より難しい内容になっていく。(表 3)によれば,各科目について,13 の要点のうち重要視するものが,1 年次には A,B,C ~など「❶美的・造形表現力を磨くこと」に傾斜しており,2 年次なってくると,G ~ M「❷発想・思考力に優れ,全体を監督統括しアートディレクションできる能力を持たせること」に傾斜しているのが見て取れるのも,意図的な課題設定の結果である。

    表 3 グラフィックデザインコースの各学期毎の課題の要点

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    (4)グラフィックデザインコースの学期毎の課題以下に各学期,各科目のシラバスを記載する。

    1 年前期:基礎造形の修練期

    「デザイン」演習 1 単位/シラバス概要 石ころをモチーフにして色彩平面構成を制作します。石ころの造形的魅力を理解し抽出するため,じゅうぶんなス

    ケッチを重ねます。やがて,ただの石ころに,様々な造形的面白さや美を発見できるでしょう。それを基に構成や配色を

    検討しながら全体のイメージを作っていきます。制作する過程で画材の扱いに慣れ,その特性を理解し,美しく丁寧に仕

    上げるコツを掴んでください。直線部分はマスキングせずに溝引きで制作します。

    教育目標との関連 この授業では造形表現における面白さに加えて,緻密で几帳面な仕事の完成度の高さを求めています。

    このことは学生諸君にとって苦しい作業と映るかもしれませんが,特にデザインにとって大切な態度であり,このことを

    よく学んでほしいと願っています。 

    到達目標 構成・変化・リズム・バランス等工夫し意図的に考えられているか。配色・色相・明度・彩度・対比・調和等

    工夫し意図的に考えられているか。石をよく観察し,その造形美を抽出し造形化しているか。彩色の仕事が丁寧で,完成

    度高く美しく仕上げてあり,余白まで神経の行き届いた制作をしているか。作品表現として,よく自覚して制作し明快な

    イメージをもっているか。(要点/ A:造形面の訓練や発見,B:構成・レイアウト・デザイン力の強化,C:配色感覚を

    磨くこと)

    評価方法 上記 5 つの到達目標を評価基準とし,総合的に判断して採点します。

    備考 財産的に価値のない路傍の石ころが,造形として見た場合,実に面白く魅力あるのではないだろうか。そういった

    視線で身の回りを見てみよう。

    テキスト・教材・経費等 ポスターカラー(またはアクリルガシュ)と用具一式,クロッキー帳,B2 ケント紙 1 枚,アク

    リル定規 (溝付き)45 センチ,刷毛,その他必要に応じて。

    授業計画

    1:課題説明,用具説明

    2:水張り,石のスケッチ

    3:石のスケッチと構成アイデアスケッチ

    4:構成アイデアスケッチ

    5:構成アイデアスケッチのチェック

    6:構成完成

    7:配色検討,イメージ作り

    8:配色のチェック

    9:配色完成

    10:制作(下描き)

    11:制作(着彩)

    12:制作(着彩,詳細部分)

    13:制作(着彩仕上げ)

    14:制作(着彩修正)

    15:講評会

    学習上(予習・復習)のアドバイス ポスターカラーで着彩する際に,マスキングせず溝引きという技術によって制作し

    てもらいますから,授業外の空き時間や自宅にて,じゅうぶん溝引きの練習をしてください。

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    1 年後期:グラフィックデザイン実習 導入期

    「造形演習Ⅰ」(グラフィック)演習 2 単位/シラバス概要 グラフィックデザインには,誰にも共通した分かりやすいイメージで制作し,きちんと正確に伝達する使命があり

    ます。そのためにデザインマップの考え方について学び理解します。次にグラフィックデザインの基本であり小宇宙とも

    言える名刺のデザインを手がけ,オリジナルフォント,オリジナルレターセットへと繋げていき,基本的でありながら実

    践的な課題によって,グラフィックデザインの様相を端的に知り・体験していきます。

    教育目標との関連 美しい名刺とは,美しくない名刺とはどんなものだろう?小さな長方形の空間を,徹底的に見つめて

    みよう。

    到達目標 余白やバランスまた文字の大きさや間隔などについて十分注意してレイアウトすることができたか。名刺やレ

    ターセットは小さなものだが,その空間をしっかり意識しデリケートに注意深くデザインすることができたか。(要点/ B:

    構成・レイアウト・デザイン力の強化,F:文字(の成り立ち)・レタリング・タイポグラフィ・ロゴタイプに関する知識

    と訓練)

    評価方法 作品・講評会におけるプレゼンテーション及び出席状況によって評価します。

    備考 本・雑誌・フリーペーパーなどを,余白に注目して見るように心がけよう。

    テキスト・教材・経費等 適宜,資料を配布し説明します。材料費はそのつど徴収します。

    授業計画

    1:デザインマップ(イメージゾーニング)

    2:デザインマップ(イメージゾーニング)講評会

    3:ネームカード&ロゴマーク 1

    4:ネームカード&ロゴマーク 2

    5:ネームカード&ロゴマーク 3

    6:ネームカード&ロゴマーク講評会

    7:オリジナルフォントデザイン 1

    8:オリジナルフォントデザイン 2

    9:オリジナルフォントデザイン 3

    10:オリジナルフォントデザイン 4

    11:オリジナルフォントデザイン 5

    12:オリジナルフォントデザイン講評会

    13:オリジナルレターセット 1

    14:オリジナルレターセット 2

    15:オリジナルレターセット講評会

    学習上(予習・復習)のアドバイス 街中はユニークなフォント(文字)の宝庫です。きれいにデザインされたものから,

    職人が手作りで制作したもの,工事現場にガムテープで作られたものまで様々なフォントに溢れています。面白いと思っ

    たフォントの写真を撮りためておきましょう。また,小さめのクロッキー帳などをいつも持ち歩き,授業外の空きコマや

    通学中の車内・家庭などにおいて,常にアイデアスケッチをするよう心がけましょう。ヒントはどこにあるか分かりません。

    どんなアイデアでも記録する習慣をつけましょう。

    「造形表現(グラフィック)」演習 4 単位/シラバス概要 グラフィックデザインの全体的な様相や考え方を,多数の課題を体験することで理解していきます。まず,様々な

    造形の面白さを認識するところから入っていき,文字の大切さを学び練習します。グラフィックデザインの歴史とは文字

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    の歴史と言っても過言ではありません。特に明朝体とローマン体を中心に,文字の成り立ちを体感していきます。さらに

    画面構成,アートディレクションするという考え方の実体験,写真,イラストレーション,問題点を見つけて改善するこ

    と(機能性)を意識した課題など,グラフィックデザインの根幹部分に触れていきます。

    教育目標との関連 グラフィックデザインとは何か?ということを,様々な課題を体験することで,全体的に理解しよう。

    到達目標 課題について熟慮し多くのアイデアスケッチを制作し最善の答えを見いだす努力をしたか。その結果優れた作

    品を制作することができたか。また,作品を愛し,細部にまで神経の行き届いた美しい仕事をしたか。(要点/ A:造形面

    の訓練や発見,B:構成・レイアウト・デザイン力の強化,D:イラストレーションの訓練,E:写真の基礎知識と技術,F:

    文字(の成り立ち)・レタリング・タイポグラフィ・ロゴタイプに関する知識と訓練,G:アートディレクションする意識,

    意味やメッセージ性の意識,コンセプトを構築する力)

    評価方法 作品・講評会におけるプレゼンテーション及び出席状況によって評価します。

    備考 日頃から,あらゆるデザインをはじめとした造形や芸術に関心を持ち鑑賞すること。継続的に読書し映画鑑賞する

    こと。自分自身の内部を豊かに磨いてください。

    テキスト・教材・経費等 適宜,資料を配布し説明します。材料費はそのつど徴収します。

    授業計画

    1:紙のサイズに関すること

    2:造形の面白さの採集と応用

    3:画面構成~色彩平面構成と文字

    4:文字・レタリングについて

    5:アートディレクション~比治山大学図書館 PR 用ポスターのデザイン 1 図書館に行き調査する

    6:比治山大学図書館 PR 用ポスターのデザイン 2 どのような図像で図書館を表現するか検討する

    7:比治山大学図書館 PR 用ポスターのデザイン 3 見る人に訴えるコピーを考える

    8:比治山大学図書館 PR 用ポスターのデザイン 4 イラストや写真を制作する

    9:比治山大学図書館 PR 用ポスターのデザイン 5 素材をレイアウトし構成し大型プリンターで出力する

    10:比治山大学図書館 PR 用ポスターのデザイン講評会

    11:写真について

    12:レタリング演習~冊子の表紙デザインの試み

    13:『あまず graphic』のロゴタイプのデザイン

    14:イラストレーション模写

    15:問題の解決~紙の立体によるデザイン

    学習上(予習・復習)のアドバイス 自分の気に入ったデザインやイラストレーションをスクラップブックに蒐集したり,

    それは誰がデザインしたのか・描いたのかを調べてください。また,あらゆるアイデアを記録しておくためのアイデア帳

    を日頃から持ち歩き,さらに造形的に面白いと思った写真を撮りためておきましょう。

    上記「造形表現」では特に多数の課題を課している。これは,コースに分かれて最初の学期の授業であることから,まずここでグラフィックデザインというものの全体的様相を,学生に体験させたいからである。短期大学の場合,四年制大学のように,学生の成長に合わせてゆっくりと育んでいては間に合わないという側面があるからで,とにかく一度,全体感を見せておくことが重要であると考える。グラフィックデザインとは何か・どういうことをする領域なのか? ということを捉えきれないまま,先に進んでしまうことを,できるだけ避けたいと考えるからである。

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    2 年前期:グラフィックデザイン実習 成長期

    「造形演習Ⅱ(グラフィック)」演習 2 単位/シラバス概要 DTP を実践するため,30 ページ程度 A4 サイズの冊子を制作します。各自見開き 2 ページ程度を担当しデザインし

    ます。全体を統一するフォーマットに則りながら各自の個性を発揮して,魅力ある冊子を作りましょう。各担当ページの

    内容は,イラストレーションや写真など自由です。記事も自分で書くことで,ライターの仕事も体験します。

    教育目標との関連 自分が担当するページを責任を持って完成させることが大切です。

    到達目標 ページ全体が,どういったコンセプトで作られているのかが明快か,構成・レイアウト・配色がバランス良く

    美しく作られているか,印刷データとして最低限の約束事が守られているか。(要点/ B:構成・レイアウト・デザイン力

    の強化,C:配色感覚を磨くこと,G:アートディレクションする意識,意味やメッセージ性の意識,コンセプトを構築す

    る力,K:完成度の高さの追求,M:DTP の技術)

    評価方法 作品・講評会におけるプレゼンテーション及び出席状況によって評価します。

    備考 人に読ませることを意識しましょう。

    テキスト・教材・経費等 適宜,資料を配布し説明します。材料費はそのつど徴収します。

    授業計画

    1:課題説明

    2:冊子のデザインの方向性・イメージを全員でディスカッションし検討する

    3:各担当ページの区分け,統一フォーマット配布

    4:各自,担当紙面の内容を決定

    5:取材・調査・イラストレーションの制作・写真撮影・記事を書く

    6:レイアウト等紙面をデザインする

    7:紙面デザインの完成

    8:印刷会社を訪問し,印刷現場を視察する(印刷現場の実際を理解する体験学習)

    9:表紙・裏表紙(目次・奥付け含む)は全員が制作し競合する

    10:表紙・裏表紙(目次・奥付け含む)制作

    11:表紙・裏表紙(目次・奥付け含む)の決定

    12:仮出力し,誤字脱字等のチェック

    13:仮出力したものにて講評会

    14:色校正

    15:印刷会社に発注 

    学習上(予習・復習)のアドバイス デザインが気に入った雑誌等を集めておいてください。また,小さめのクロッキー

    帳などをいつも持ち歩き,授業外の空きコマや通学中の車内・家庭などにおいて,常にアイデアスケッチをするよう心が

    けましょう。ヒントはどこにあるか分かりません。どんなアイデアでも記録する習慣をつけましょう。

    「ビジュアル表現Ⅰ(グラフィック)」実技 2 単位/シラバス概要 グラフィックデザインの世界でパッケージデザインと呼ばれるもの,またジェネラル・グラフィックと呼ばれる箱物・

    小物などの実際的な課題を実施します。ここでは商品化を意識した完成度の高さと,アイデア・楽しさ・驚きのある表現

    や見せ方を重要視します。

    教育目標との関連 ただ形にするだけではなく,何か面白いアイデアや工夫があると,グラフィックデザインは輝きを増

    していきます。自分がお金を出して買いたいと思うものを作ろう。

    到達目標 課題について熟慮し多くのアイデアスケッチを制作し最善の答えを見いだす努力をしたか。その結果優れた作

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    品を制作することができたか。また,作品を愛し,細部にまで神経の行き届いた美しい仕事をしたか。(要点/ I:楽しさ・

    面白さ・ユーモア・驚きを与えようとする感覚,斬新さの追求,L:機能性を追求し改善する力,M:DTP の技術)

    評価方法 作品・講評会におけるプレゼンテーション及び出席状況によって評価します。

    備考 身近にあるパッケージやカレンダーに問題点や不満はありませんか?もっとこうだったらいいのに,何故こうなっ

    ているんだろう?と,批評的な視線で見てみよう。

    テキスト・教材・経費等 適宜,資料を配布し説明します。材料費はそのつど徴収します。

    授業計画

    1:パッケージデザインにとって大切な包む事の歴史を,日本のパッケージデザインの歴史を顧みながら考察

    2:テンプレートを利用したパッケージデザイン(課題説明,アイデア検討)

    3:テンプレートを利用したパッケージデザイン(デザインワーク)

    4:テンプレートを利用したパッケージデザイン(プレゼン,講評会)

    5:オリジナルパッケージデザイン(課題説明,アイデア検討)

    6:オリジナルパッケージデザイン(アイデア検討,試作)

    7:オリジナルパッケージデザイン(デザインワーク 1)

    8:オリジナルパッケージデザイン(デザインワーク 2)

    9:オリジナルパッケージデザイン(プレゼン,講評会)

    10:卓上で自立するカレンダーのデザイン(課題説明,アイデア検討)

    11:卓上で自立するカレンダーのデザイン(アイデア検討・試作)

    12:卓上で自立するカレンダーのデザイン(デザインワーク 1)

    13:卓上で自立するカレンダーのデザイン(デザインワーク 2)

    14:卓上で自立するカレンダーのデザイン(プレゼン,講評会)

    15:T シャツ等布物にアイロンプリントでデザインする

    学習上(予習・復習)のアドバイス デザインが気に入ったパッケージなどを集めておいてください。それらが,どんな

    工夫をしているのかを見極めてみましょう。また,小さめのクロッキー帳などをいつも持ち歩き,授業外の空きコマや通

    学中の車内・家庭などにおいて,常にアイデアスケッチをするよう心がけましょう。ヒントはどこにあるか分かりません。

    どんなアイデアでも記録する習慣をつけましょう。

    「グラフィックデザインⅠ」4 単位/シラバス概要 (公益社団法人)日本グラフィックデザイナー協会 JAGDA 広島地区主催の「広島平和ポスター学生コンペティショ

    ン」に出品するためのポスターを制作します。ポスターは,情報を伝達するメディアとしては決して新しくなく,ごく小

    規模の訴求力しかないにもかかわらず昔も今もグラフィックデザイナーから重要視されています。何故ならポスターには

    グラフィックデザインの基本が全部詰まっており,優れたバランス感覚が要求され,まさにデザイナーの実力が問われる

    からでしょう。色や形や造形(アイコン)と心に訴えるコピーによって,人に何をどう訴えたいのかを考えましょう。

    教育目標との関連 与えられた仕事をこなすだけのオペレーターではなく,自ら問題意識を持ち全体を構築していくこと

    ができるアートディレクターを目指します。

    到達目標 課題について熟慮し多くのアイデアスケッチを制作し最善の答えを見いだす努力をしたか。その結果優れた作

    品を制作することができたか。また,作品を愛し,細部にまで神経の行き届いた美しい仕事をしたか。(要点/ G:アート

    ディレクションする意識,意味やメッセージ性の意識,コンセプトを構築する力,H:発想力の訓練・プレゼンテーション・

    グラフィックデザインや様々な芸術に関する知識,J:社会正義の意識,M:DTP の技術)

    評価方法 作品・講評会におけるプレゼンテーション及び出席状況によって評価します。

    備考 自分で平和について考え調査など行い,自分なりの結論を出すという意味で,この授業はアクティブラーニングで

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    あると言えます。 

    テキスト・教材・経費等 適宜,資料を配布し説明します。材料費はそのつど徴収します。

    授業計画

    1:平和とは何かということについて調べる,ブレーンストーミング

    2:平和に関する資料収集・聞き取り調査を行う

    3:アイデアスケッチ 1

    4:アイデアスケッチ 2

    5:デザインのアイデア決定,制作方法(手描きか CG か)を検討 1

    6:デザインのアイデア決定,制作方法(手描きか CG か)を検討 2

    7:デザインのアイデア決定,制作方法(手描きか CG か)を決定

    8:制作 1

    9:制作 2

    10:制作 3

    11:制作 4

    12:制作 5

    13:制作 6

    14:制作 7(出力)

    15:講評会,出品準備 

    学習上(予習・復習)のアドバイス 自分がデザインするポスターのテーマについて,十分に考え,多くのアイデアスケッ

    チを制作すること。考えて考えて考え抜いてから方向性を定めよう。決して妥協しないこと。また,家族親戚などから平

    和について聞き取り調査をするなどしてみよう。小さめのクロッキー帳などをいつも持ち歩き,授業外の空きコマや通学

    中の車内・家庭などにおいて,常にアイデアスケッチをするよう心がけましょう。ヒントはどこにあるか分かりません。

    どんなアイデアでも記録する習慣をつけましょう。

    関連リンク http: / /www.jagda.org/hiroshima/ 

    2 年後期:グラフィックデザイン実習 発展期

    「ビジュアル表現Ⅱ(グラフィック)」実技 2 単位/シラバス概要 絵本の制作をします。製本機で製本しハードカバー製本として完成させます。絵本の場合はストーリー作りがまず

    重要です。絵柄の魅力が大切ですから,この点にも力を入れたいところです。アイデアがあり,完成度の高く楽しい作品

    を目指しましょう。 

    教育目標との関連 読者の対象年齢を何歳くらいに設定するのか?どう読ませたいのか?をしっかり意識して制作しま

    しょう。

    到達目標 絵と文字のバランス,レイアウトなど最低限の仕事をきちんとこなした上で,楽しい絵本になっているか。全

    体に完成度高く作られているか。DTP の技術が身に付いているか。(要点/ I:楽しさ・面白さ・ユーモア・驚きを与えよ

    うとする感覚,斬新さの追求,K:完成度の高さの追求,M:DTP の技術)

    評価方法 作品・講評会におけるプレゼンテーション及び出席状況によって評価します。

    備考 日頃から,あらゆるデザインをはじめとした造形や芸術に関心を持ち鑑賞すること。継続的に読書し映画鑑賞する

    こと。自分自身の内部を豊かに磨いてください。

    テキスト・教材・経費等 適宜,資料を配布し説明します。材料費はそのつど徴収します。

    授業計画

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    1:課題説明

    2:ストーリーを作る 1

    3:ストーリーを作る 2

    4:ストーリーを作る 3

    5:絵本の原画を描く 1

    6:絵本の原画を描く 2

    7:絵本の原画を描く 3

    8:絵本の原画を描く 4

    9:絵本の原画を描く 5

    10:絵本の原画をスキャナーでスキャンする

    11:パソコンで編集デザインワーク 1

    12:パソコンで編集デザインワーク 2

    13:パソコンで編集し出力

    14:ハードカバー製本

    15:講評会

    学習上(予習・復習)のアドバイス 図書館で多くの絵本を見ておくこと。その上で,自分がデザインし制作するものの

    スタイルを作りあげていきます。また,小さめのクロッキー帳などをいつも持ち歩き,授業外の空きコマや通学中の車内・

    家庭などにおいて,常にアイデアスケッチをするよう心がけましょう。ヒントはどこにあるか分かりません。どんなアイ

    デアでも記録する習慣をつけましょう。

    「グラフィックデザインⅡ」実技 4 単位/シラバス概要 卒業制作として発表するための作品を制作します。これまで学んできたことの集大成ですから,精一杯の実力を発

    揮してください。自分で考え,自分で行動し,自分で結論を出していきます。また卒業制作の場合,美術館で人に見せる

    という要素が入ってきます。デザインは,絵画と違って作品が比較的小さなサイズになる場合も少なくありませんからプ

    レゼンテーションをいかにするかがポイントです。プレゼンは,デザインにとって切っても切りはなせない重要な要素で

    すから,うまく見せる工夫をしましょう。

    教育目標との関連 与えられた仕事をこなすだけのオペレーターではなく,自ら問題意識を持ち全体を構築していくこと

    ができるアートディレクターを目指します。

    到達目標 課題について熟慮し多くのアイデアスケッチを制作し最善の答えを見いだす努力をしたか。その結果優れた作

    品を制作することができたか。また,作品を愛し,細部にまで神経の行き届いた美しい仕事をしたか。 

    評価方法 しっかりとアートディレクションできているか。完成度の高い仕事ができているか。

    備考 日頃から,あらゆるデザインをはじめとした造形や芸術に関心を持ち鑑賞すること。継続的に読書し映画鑑賞する

    こと。自分自身の内部を豊かに磨いてください。

    テキスト・教材・経費等 適宜,資料を配布し説明します。材料費はそのつど徴収します。

    授業計画 卒業制作展の搬入日が〆切となります。各自がスケジュールを意識して順調に制作してください。作品の内容・

    展示方法等を担当教員と相談しながら,それぞれが計画を立てて制作していきます。

    1:各自,制作目標を検討,アイデアスケッチ・資料収集など

    2:アイデア・イメージスケッチ,調査・写真撮影など

    3:作品の内容・展示方法等を担当教員と相談し計画を立てる

    4:作品の内容・展示方法等を決定

    5:制作 1(材料調達など)

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    6:制作 2

    7:制作 3

    8:制作 4

    9:制作 5

    10:制作 6

    11:制作 7

    12:制作 8(配色・構図・作品のバランス・完成度の検討と修正)

    13:制作 9(作品制作仕上げ・完成・出力・パネル貼りなど)

    14:制作 10(作品養生・梱包など)

    15:広島県立美術館地下 1 階県民ギャラリーに搬入・展示・写真撮影・搬出 

    学習上(予習・復習)のアドバイス デザインの場合,アイデアやデザインの方向性を決定(アートディレクション)す

    るまでに,時間を要する場合があります。〆切が気になり焦る気持が,つい,安易なデザインに逃げる口実となってしま

    う場合がありますが,少し我慢して,最善の案を待つことも一つの方法です。また短大生にとっての最終学期は,比較的

    時間に余裕のある時間割となっているはずですが,授業外の時間もフル活用して制作にあたってください。

    「特別制作(グラフィック)」実技 2 単位/シラバス同上

    おわりに

    現代のグラフィックデザインは,とりわけ商業主義経済社会における存在感が大きく,ともすれば,企業の売り上げ増に寄与することだけが使命のように考えられてしまう側面がある。しかし実際には社会や生活の向上,良質な文化の創造に役立ち,しばしば純粋芸術を凌駕するほど優れた造形表現力を発揮することは言うまでもない。しかし一方で,そのような高い職業意識を持って,質の高い仕事をしているグラフィックデザイナーばかりではない現実もあるだろう。街中に氾濫しているグラフィックデザインは,けばけばしく自己主張し,大量生産・大量消費・大量廃棄の片棒を担いでいると言わざるを得ない。だからこそ大学でグラフィックデザインを教育する場合は,「デザイン論」などの授業を必ず開講し,そういった現実についても講義することによって戒めているはずで,本学もまた例外ではない。結局のところ,グラフィックデザイン教育の最終目標とは一体何だろうか?理想から言えば,情報伝達や宣伝・広告に対して深い知見を持ち,幅広い教養や社会性・正義感に基づいたアートディレクションができる能力を持つ人物を養成し,ひいては我が国のグラフィックデザイン業界全体の質を,さらに向上させ,機能的・抑制的で尚かつ美しく,例えば「イタリアンデザイン」とか「スカンジナビアデザイン」とか「スイススタイル」などと称されるような,個性的であり憧れの対象となるような良質なデザイン社会になりたいのだ。本学美術科グラフィックデザインコース出身の者が,やがて優れたアートディレクターとなって,我々の良きライバルとなることを願っている。

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