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ベストプラクティス事例発表会 レポート (2020 年 12 月度) 経営革新等支援機関推進協議会 Vol.1 ■ ベストプラクティス事例発表会とは 中小企業経営者から求められているのは、 補助金支援や金融支 援など、 税務会計以外の付加価値業務を通して顧問先を積極的 に支援できる会計事務所である。 経営革新等支援機関推進協議会 (以下、 「協議会」) では、 中 小企業への付加価値支援を積極的に実施した会員事務所を対象 に、 2020 年 12 月より毎月数事務所をベストプラクティス賞して表彰することとした。 なお、 ベストプラクティス賞は単なる表彰企画ではなく、 会員 事務所の独自の取り組み事例や、 成功事例をすべての会員へ共 有することが目的である。 ベストプラクティス事例発表会については、 毎月中旬 (次回は 1 月 22 日) に YouTube ライブにて配信することとし、 約 30 分の動画配信の中で、 受賞事務所の発表と当該事務所の取り組 み事例を紹介する。 作成 : 藤本 英敏 (株式会社エフアンドエム) ■ ベストプラクティス事例の選定方法 一般的に表彰というと、 すでに十分な実績を残していることが 条件であると思われがちだが、 ベストプラクティス賞においては そうではない。 すでに実績を残した会計事務所だけでなく、 独自の取り組みを スタートさせたばかり事務所でも表彰の対象となる。 あくまでも ベストプラクティス (手法、 プロセス、 活動) な事例を協議会会 員へ共有することが目的である。 ベストプラクティス事例へのエントリーは以下の基準を参考にし てほしい。 ・ 補助金支援の最初の 1 件を受注したきっかけは○○だった ・ 金融機関から案件紹介を受けたきっかけは○○だった ・ 事業承継支援で協議会ツールを利用したら社長に感謝された など 「いかに多くの案件を対応したのか」 という点は重要ではないた め、 独自の取り組みを実施した会員事務所は気軽にエントリーし てほしい。 1/3 © 2021 F&M co.,ltd. ■ 持続化補助金で採択率100%!? ベストプラクティス事例の記念すべき 1 事務所目としてご紹介す るのは、 2020 年 7 月に協議会に入会された、 北村嘉章税理士 事務所 (香川県仲多度郡) である。 北村先生は 2020 年 6 月 に独立開業されたばかりであ るが、 小規模事業者持続化 補助金の支援件数 (採択数) が 10 件に達している。 さらに驚くべきはその採択 率である。 上述した 10 件の 採択率は驚愕の 100%だと いう。 なんと 10 件申請して そのすべてが採択されたとい うのだ。 北村嘉章税理士事務所 所長 北村 嘉章 氏 また、 取材当時では北村先生が申請を支援した案件の中で、 一 部が審査中であったため実際には 16 件を申請支援しており、 10 件がすでに採択済、 残り 6 件は審査中という状態であった。 ■ 受注経路は地元の信用金庫から紹介 北村嘉章税理士事務所の顧問先数は、 法人と個人を合わせて約 50 社であるが、 いかにして補助金案件を 16 件も受注したのか。 北村先生によれば以下のルートで受注しているという。 補助金案件は地元信用金庫からの紹介で受注しており、 北村先 生は信用金庫の担当者にズバリ 「案件をご紹介ください」 と伝え ている。 ここで気になるのが、 そのようなド直球のアプローチで 金融機関から案件を紹介いただけるものなのかという点である。 当然、 この点には北村先生による日ごろからの活動に秘密が あった。 北村先生は地元の金融機関には普段から頻繁に足を運 んでいるようだ。 これにより金融機関の担当行員とのコミュニケー ションが発生し、 何かあったときに案件を紹介いただける信頼関 係を築くことができていた。 また、 補助金案件に限らず、 税務顧問の案件についても独自の 紹介方法を確立しているようだ。 それは、 顧問先企業からの紹介 である。

経営革新等支援機関推進協議会 ベストプラクティス事例発表 …ベストプラクティス事例発表会 レポート (2020年12月度) 経営革新等支援機関推進協議会

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ベストプラクティス事例発表会 レポート(2020 年 12 月度)

経営革新等支援機関推進協議会

Vol.1

■ ベストプラクティス事例発表会とは

 中小企業経営者から求められているのは、 補助金支援や金融支

援など、 税務会計以外の付加価値業務を通して顧問先を積極的

に支援できる会計事務所である。

 経営革新等支援機関推進協議会 (以下、 「協議会」) では、 中

小企業への付加価値支援を積極的に実施した会員事務所を対象

に、 2020 年 12 月より毎月数事務所をベストプラクティス賞と

して表彰することとした。

 なお、 ベストプラクティス賞は単なる表彰企画ではなく、 会員

事務所の独自の取り組み事例や、 成功事例をすべての会員へ共

有することが目的である。

 ベストプラクティス事例発表会については、 毎月中旬 (次回は

1 月 22 日) に YouTube ライブにて配信することとし、 約 30

分の動画配信の中で、 受賞事務所の発表と当該事務所の取り組

み事例を紹介する。

作成 : 藤本 英敏 (株式会社エフアンドエム)

■ ベストプラクティス事例の選定方法

 一般的に表彰というと、 すでに十分な実績を残していることが

条件であると思われがちだが、 ベストプラクティス賞においては

そうではない。

 すでに実績を残した会計事務所だけでなく、 独自の取り組みを

スタートさせたばかり事務所でも表彰の対象となる。 あくまでも

ベストプラクティス (手法、 プロセス、 活動) な事例を協議会会

員へ共有することが目的である。

 ベストプラクティス事例へのエントリーは以下の基準を参考にし

てほしい。

・ 補助金支援の最初の 1 件を受注したきっかけは○○だった

・ 金融機関から案件紹介を受けたきっかけは○○だった

・ 事業承継支援で協議会ツールを利用したら社長に感謝された

                                       など

 「いかに多くの案件を対応したのか」 という点は重要ではないた

め、 独自の取り組みを実施した会員事務所は気軽にエントリーし

てほしい。

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■ 持続化補助金で採択率100%!?

 ベストプラクティス事例の記念すべき 1 事務所目としてご紹介す

るのは、 2020 年 7 月に協議会に入会された、 北村嘉章税理士

事務所 (香川県仲多度郡) である。

 北村先生は 2020 年 6 月

に独立開業されたばかりであ

るが、 小規模事業者持続化

補助金の支援件数 (採択数)

が 10 件に達している。

 さらに驚くべきはその採択

率である。 上述した 10 件の

採択率は驚愕の 100%だと

いう。 なんと 10 件申請して

そのすべてが採択されたとい

うのだ。北村嘉章税理士事務所

所長 北村 嘉章 氏

 また、 取材当時では北村先生が申請を支援した案件の中で、 一

部が審査中であったため実際には 16 件を申請支援しており、

10 件がすでに採択済、 残り 6 件は審査中という状態であった。

■ 受注経路は地元の信用金庫から紹介

 北村嘉章税理士事務所の顧問先数は、 法人と個人を合わせて約

50 社であるが、 いかにして補助金案件を 16 件も受注したのか。

北村先生によれば以下のルートで受注しているという。

 補助金案件は地元信用金庫からの紹介で受注しており、 北村先

生は信用金庫の担当者にズバリ 「案件をご紹介ください」 と伝え

ている。 ここで気になるのが、 そのようなド直球のアプローチで

金融機関から案件を紹介いただけるものなのかという点である。

 当然、 この点には北村先生による日ごろからの活動に秘密が

あった。 北村先生は地元の金融機関には普段から頻繁に足を運

んでいるようだ。 これにより金融機関の担当行員とのコミュニケー

ションが発生し、 何かあったときに案件を紹介いただける信頼関

係を築くことができていた。

 また、 補助金案件に限らず、 税務顧問の案件についても独自の

紹介方法を確立しているようだ。 それは、 顧問先企業からの紹介

である。

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© 2021 F&M co.,ltd.

 しかし、 顧問先企業から知り合いの企業を紹介してもらうことな

ど、 誰でもやっていることで、 特別な手法ではないとお考えの先

生方も多いだろう。

 北村先生は、 案件紹介をいただいた顧問先企業の社長には謝礼

を用意しているという。 謝礼を受け取られた企業の社長に喜んで

いただけているようだ。 これがまた次の紹介へつながる。

■ 申請書は企業に作成させている!?

 補助金支援に取り組んだことがある先生であれば、 今回の北村

先生の事例に対して次のような疑問を持たれたのではないだろう

か。 「開業まもない事務所でどのようにして16件も申請支援した

のか?」

 北村先生にその秘密をお伺いした。

 まず前提として、 北村先生は開業前には補助金申請の経験は無

かったようで、 開業後に初めて補助金支援に取り組まれた。 協議

会への入会理由も 「補助金対応できるようになるため」 というも

のであった。

 そのよう状況の中、 開業初年度から 16件もの案件に対応でき

た理由は以下の3つがあるようだ。

 まず1つは、 協議会の動画コンテンツをすべて視聴して補助金申

請に必要なノウハウをキャッチしたことである。 Knowledge ラ

イブラリーにある補助金関連の動画は約 30本あるが、 そのすべ

てを視聴したというのだ。

 2つ目は、 協議会のツールである 「ヒアリングシート」 と 「申請

書記載例」 を申請企業へ渡して、 申請書の土台は企業側に作成

させたことである。 申請企業の実情や将来の展望などは、 当然

企業の社長がもっとも把握しているわけで、 基本的には企業が自

ら申請書を作成するべきというのが北村先生の考えだ。

 3つ目は、 企業が作成した申請書のブラッシュアップである。 事

務所としてのキャパシティの問題もあり、 16件すべての申請書作

成を対応するわけにはいかないが、 とは言え、 補助金申請が採

択されるためには一定以上のレベルで申請書を作らなければなら

ない。

 具体的には、 申請書の構図や文章の組み立ては北村先生が対応

されたようだ。 さらには申請書が完成したあとに、 協議会の 「添

削サービス」 を全案件で利用した。 これにより、 補助金支援につ

いてはまだ初心者であった北村先生でも、 企業と協力して高品質

な申請書を完成させられたのだ。

■ 財務コンサル事業を新たに立ち上げ

 2020年 12月度のベストプラクティス事例、 2事務所目は

2019年 4月に協議会に入会された、 税理士法人創研 (福岡県

福岡市、 長崎県長崎市) である。

 税理法人創研は、 税務 ・会計 ・ コンサルティング等の業務はも

ちろんのこと、 事業承継対策や医業等の業務についても幅広くサ

ポートされており、 現在は 35名のスタッフを抱えて事務所を運

営されている。

税理士法人創研

代表社員 / 税理士 伊藤 大作 氏

 ここ最近では、 コロナ融資

の影響で要償還債務額が増加

している顧問先が多くなって

いるため、 キャッシュ・フロー

を中心とした経営計画の策定

支援に力をいれている。 事務

所内でも新たに 「財務コンサ

ル事業」 を立ち上げ、 すでに

2件の契約を締結し、 さらに

追加で3件提案中だという。

 なお、 税理士法人創研では財務コンサル事業を立ち上げる前よ

り、 経営力向上計画、 先端設備等導入計画、 中小企業経営強化

税制など、 中小企業支援のメニューは幅広く対応しており、 早期

経営改善計画にいたっては 10件の支援実績があるようだ。

■ 財務コンサル契約は 30,000 円 / 月~

 財務コンサルティング契約では、 税務顧問料とは別に月額で

30,000円~という料金を設定している。 この費用をいただき

ながら、 税務顧問として月に 1回の面談、 財務コンサルとしてさ

らに月に 1回の面談を実施しているという。

 財務コンサルとしての面談では、 顧問先企業とどのような話を

しているのか。 財務コンサル事業の担当者である反田 (たんだ)

氏に話を伺った。

 財務コンサルの面談では、 まず現状のキャッシュフローについて

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アドバイスをしている。 また、 現在の経営状況であれば期末にど

のような財務状況になるのかという、 当期末のキャッシュフロー

シミュレーションをサービスとして提供しているようだ。

■ きっかけは 1 枚のチラシから

 反田氏によると、 財務コンサル提案のきっかけとして協議会の

ツールである 「FAS チラシ」 を活用しているようだ。 特に今はコ

ロナの影響があるため、 経営者から資金繰りに関する相談が多く

上がってきている。

 資金繰りの相談を多く受け

る中で、 FAS 業務の3つ目

の 「F」 である、 フルサポー

ト (Full support) として、

相談企業ごとに該当する公的

制度をもれなく提案するよう

に心がけているという。

 経営者に寄り添った支援体

制を示すことで顧問先企業に

も喜んでいただき、 結果とし

て財務コンサル契約につな

がったと反田氏は語る。

税理士法人創研

反田 悠 氏

 「財務コンサル事業」 の運営体制についても聞いてみた。 現時

点では、 3 名のプロジェクトメンバーにて財務コンサル事業に取

り組んでいるという。

 プロジェクト運営のポイントについて反田氏はこう話す。メンバー

の 3 名が同一のサービスを提供するために、 協議会の FAS チラ

シを少しアレンジして、 事務所の支援内容と価格表を記載した。

 支援価格までを事前に決めておくことで、 財務コンサルティング

を事務所の付加価値サービスとして明確に商品化したのだ。

■ 収益化のポイントはサービスの商品化

■ 担当企業にて当座貸越を 3 件設定

 税理士法人創研がおこなう財務コンサルとは、 具体的にどのよ

うな支援なのだろうか。

 反田氏によれば、 協議会のエグゼクティブプロデューサーである

小寺氏が提唱する 「短長最適」 の考え方を参考にし、 所要運転

資金は短期借入で調達する。 また、 小寺氏がキングオブファイナ

ンスと語る 「当座貸越」 での資金調達をゴールとして企業への財

務改善アドバイスを実施しているようだ。

 なお、 短長最適や当座貸越についてこれから学習される先生は、

Knowledge ライブラリーにある 「金融機関と対等に会話できる

ようになる講座」 シリーズをご視聴いただきたい。

 ちなみに、 反田氏の担当企業ではすでに 3 件の当座貸越を設

定できたようだ。 このレポートをご覧いただいている先生方もぜ

ひ金融機関への交渉にチャレンジしてほしい。

 なぜ、 反田氏は金融機関との交渉において次々に成果を残せて

いるのだろうか。 反田氏が大切にしているのは 「金融機関の業界

ワードをあえて話すようにしている」 ということだ。

 具体的には、 協議会の講座動画でも小寺氏が頻繁に語る 「債務

償還年数」 や 「自己資本比率」、 他には 「金融庁の形式基準」 な

どを意識的に発言することによって、 担当行員から驚かれる (一

目置かれる) ことがあるようだ。

 こういった反田氏の積極的な姿勢により、 反田氏ひいては税理

士法人創研に対する金融機関からの評価が上がっていることが予

想される。 まさに、 小寺氏の講座タイトルの通り 「金融機関と対

等に会話できる」 状態が生まれたのである。

■ 業界ワードは積極的に発言する

■ まとめ

 2020 年 12 月度は初めてのベストプラクティス事例発表とい

うことで、 北村嘉章税理士事務所と税理士法人創研を紹介させて

いただいた。 小規模事務所から大規模事務所まで、 すべての会

計事務所に参考となるような事例だったのではないだろうか。

 まとめとして、 このレポートを読んでいる先生方にぜひ明日から

実践してほしいアクションプランをいくつか提示したい。

① 地元の金融機関には頻繁に足を運び、 補助金等の案件が発生

した際に紹介いただけるような信頼関係を構築しておく

② 信頼関係がある金融機関の担当行員にはズバリ 「案件紹介く

ださい」 と話してみる

③ 顧問先企業からの紹介制度を準備しておく (例 : 謝礼制度)

④ 補助金申請書の作成について、 事務所で対応できない場合に

企業側に申請書の土台は作成してもらう

⑤ 税務顧問とは別に 「財務コンサル」 というサービスを明確に商

品化する

⑥ 財務コンサルのチラシと料金表を準備する (協議会の FAS チ

ラシを参考にする)

⑦ 金融機関との折衝では積極的に金融業界ワードを発言する

(了)