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稲作における施肥の現状と課題 資料1

稲作における施肥の現状と課題 - maff.go.jp...4.施肥低減技術 米の販売環境が一段と厳しくなる中で、消費者ニーズに即した特徴のある米の生産とともに、低コスト、安定栽培技術の定着により稲

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平 成 2 1 年 4 月

稲作における施肥の現状と課題

資料1

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目 次

1.稲作経営に占める肥料費の位置づけ

2.我が国の水稲作における施肥の実態

3.我が国の水田土壌の実態

4.施肥低減技術

5.施肥低減技術の普及状況

6.側条施肥田植機の現状と課題

7.肥効調節型肥料の現状と課題

8.育苗箱全量施肥の現状

9.有機物施用の現状

10.たい肥施用の減少の要因

11.施肥低減技術の開発

(1)車速に連動した高精度な可変施肥技術

(2)水田用豚ぷん堆肥ペレットの活用技術の開発

12.土壌診断の現状と必要性

(1)高成分化成の施用抑制への期待

(2)実施状況と診断料金

13.減肥の指導の現状

14.減肥の指導のあり方について

(1)土壌診断や減肥試験データを活用した指導体制の確立

(2)肥料選択の見直し

取組事例1 土壌蓄積リン酸に対応したリン酸低投入施肥(岩手県)

取組事例2 土壌蓄積リン酸に対応したリン酸低投入施肥(石川県)

15.水稲の施肥改善の課題と今後の対応方向

・・・ 1

・・・ 2

・・・ 3

・・・ 4

・・・ 5

・・・ 6

・・・ 7

・・・ 8

・・・ 9

・・・10

・・・11

・・・13

・・・15

・・・16

・・・20

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水田作 露地野菜 果樹作経営 畑作経営 作経営 経営

平均経営耕地面積(a) 171 495 181 152経営費(千円) 1,432 4,268 2,608 2,646

うち肥料費(千円) 126 709 320 236(参考)円/10a

7,368 14,323 17,680 15,529肥料費の占める割合(%) 8.8 16.6 12.3 8.9資料:農林水産省統計資料「18年営農類型別統計」

(1戸当たり・個別経営)

1.稲作経営に占める肥料費の位置づけ

○ 従来、水田作経営の経営費に占める肥料費の割合は8.8%と低く、米生産費に占める肥料費の割合も7%程

度にとどまっている。

○ 近年の肥料価格は急激に上昇していることから、21年産の米生産費における肥料費は前年に比べ3割程度、費用合計に占める割合で2ポイント程度の上昇が見込まれる。

1

○ 米生産費における肥料費の割合(単位:円/10a、%)

構成

比①

構成

比②

構成

上昇率

(②/①)

物財費 75,183 65 75,659 65 78,330 66 4

肥料費 8,034 7 8,510 7 11,181 9 31

労働費 40,538 35 40,538 35 40,538 34 -

費用合計 115,721 100 116,197 100 118,868 100 2

資料:19年産は米生産費統計、20年産以降は農業生産支援課推計。

注:20年産以降の肥料費以外の経費は、19年産と同額とし、肥料費は、農 家購入価格(農業物価統計)の上昇率等から推計。

19年産 20年産(推計) 21年産(推計)

142

175

149

130

100

110

120

130

140

150

160

170

180

190

200

H12(暦年) 13 14 15 16 17 18 19 20

硫安 尿素

高度化成 普通化成

○ 肥料の農家購入価格の推移

資料:農林水産省統計資料「農業物価統計」

○営農類型別の経営費に占める肥料費の割合

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2.我が国の水稲作における施肥の実態

○ 化学肥料の施肥量は、元来収量増を目的としていた施肥基準から、近年は良食味への対応や環境に配慮した施

肥を重視する施肥基準への転換が進み、実際の施肥量も減少傾向で推移している。

○水稲作における施肥量の推移

資料:農林水産省統計資料「米及び麦の生産費」

2

○新潟県コシヒカリ栽培における施肥基準の変遷

資料:新潟県「水稲移植栽培指針」

(kg/10a)

(kg/10a)

(kg/10a)成分 P2O5

施肥時期 基肥 追肥 基肥 基肥 追肥

下越北部 (壌質) 4 3~6 10 8 3

新潟平坦地 (粘質) 3 2~5 7 6 2

中越 (粘質) 3 2~5 7 6 2

上越 (粘質) 3 2~5 7 6 2

山間地 (粘質) 4~5 3~6 10 8 3

佐渡 (粘質) 3~4 2~5 8 6 3

主要地帯(土性)

K2ON

成分 P2O5

施肥時期 基肥 追肥 基肥 基肥 追肥

下越北部 (壌質) 3~4 2~3 8 8 3

平坦部 (粘質) 2~3 1~3 7 6 2

(砂質) 3~4 1~3 8 8 3

山間地 (黒ボク) 4 2~3 10 8 3

(粘質) 2~3 1~3 10 6 3

佐渡 (粘質) 3 2~3 8 6 3

N K2O主要地帯(土性)

(成分:kg/10a)

(成分:kg/10a)

昭和62年

平成17年

資料:新潟県「水稲栽培指針」

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3.我が国の水田土壌の実態

○ 水田土壌では、長年の施肥により有効態リン酸及び交換性カリウムが蓄積される傾向にある。

○ 昨年10月、「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書(平成20年7月)を受けて地力増進基本指針を改

正し、水田土壌における有効態リン酸含有量について乾土100g当たり20mgを超える場合には、20mgを超えないよ

う土壌改善を行うことが望ましいとしている。

○ 直近の土壌機能モニタリング調査(1999~2003年)における水田土壌においての有効態リン酸は乾土100g当た

り20mgを超える地点が半数を超えている。カリにおいても約3割近くが超過している。

○水田土壌におけるリン酸及びカリの過剰実態

資料:「土壌機能モニタリング調査(99~03)」

○水田土壌に蓄積している有効態リン酸及び交換性カリウムの推移

資料:「土壌環境基礎調査(79~98)」、「土壌機能モニタリング調査(99~03)」1巡目:79~83年(9842地点)、2巡目:84~88年(9657地点)、3巡目:89~93年(9553地点)、4巡目:94~98年(9075地点)、5巡目:99~03年(2864地点)注:点線は、「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書に基づく有効態リン酸含有量の上限値(20mg)

3

注:肥料成分の過剰域設定・リン酸の過剰域については、地力増進基本指針(平成20年10月16日、農林水産省)に基づき乾土100g当たりの有効態リン酸含有量の上限値を20mg/100gと設定した。・カリウムの過剰域については、地力増進基本方針等において設定されていないため、各県で定められている土壌診断基準、JA全農監修「土づくり肥料のQ&A」及び独法研究者への聞き取りを基に、乾土100g当たりの交換性カリウム含有量の適正域(上限値)を推定して設定した。

水田調査地点数

リン過剰(20mgP2O5/100g以上)

カリ過剰(30mgK2O/100g以上)

地点数 2,6151,377(52.7%)

769(29.4%)

○地力増進基本指針(最終改正平成20年10月16日、農林水産省)

2.基本的な改善方策

(8)有効態りん酸含有量の改善

不足分に相当するりん酸質肥料を施用する。この場合、りん酸質肥料としては効果の持続するく溶性りん酸を主体とするものを選び、特に酸性の土壌の場合には、アルカリ性のものを施用するよう留意するものとする。なお、有効態りん酸の含有量が乾土100g当たり20mgを超える場合には、りん酸施肥による増収効果が認められない事例が多くみられることから、生産コスト等を勘案すると20mgを超えないよう土壌改善を行うことが望ましい。

有効態リン酸または交換性カリ(m

g/10

0g)

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4.施肥低減技術

○ 米の販売環境が一段と厳しくなる中で、消費者ニーズに即した特徴のある米の生産とともに、低コスト、安定栽培技術の定着により稲

作農家の経営安定を図ることが課題となっている。

○ これに対応して、良食味品種の作付割合が拡大するとともに、稲作経営の安定化と規模拡大に向けて、農用地の利用集積、生産組織

や作業受委託組織の育成が図られ、施肥の場面でも省力化が求められた。

○ その結果、肥料の溶出調整技術が進み、長期間の肥効の持続が可能な被覆肥料が開発され、水稲の窒素の利用効率の増加に大きく

貢献するとともに、同肥料が側条施肥や育苗箱全量施肥に応用され、更なる窒素の利用効率の向上と施肥量の低減につながる技術と

して普及が図られている。

4

側条施肥 移植と同時に基肥が施用できることと、苗の近傍の

土中に施肥することで田面水中の肥料成分の溶出

低減が期待され、窒素利用率も側条施肥の方が表

層施肥や全層施肥よりも高い。

育苗箱全量施肥

水稲の育苗箱内に、本田期間

中の(窒素等)肥料をあらかじめ

施用する技術であり、濃度障害

を回避するため肥効調節型肥

料を使用

肥効調節型肥料

施用された肥料の成分が徐々

に溶出することで、肥料成分の

利用効率が向上する肥効調節

の機能を持った肥料の利用に

より、施肥量を低減する技術

葉色診断に基づく効率的施肥

生育途中の作物の葉色による栄

養診断の結果を踏まえて、適切な

追肥量等を決定する技術

単位(%)

基肥位置 利用率 土壌残存 未回収

全層 27.5 48.0 24.5

表層 16.6 34.4 49.0

側条 36.1 25.0 29.4

基肥施用量はそれぞれ4kg/10a資料:環境保全型農業事典

表 基肥の施用位置と水稲の窒素利用率など( N法)15

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5.施肥低減技術の普及状況

○ 側条施肥は、側条施肥機の効果が認識されたこと等により、乗用型田植機への装着比率が高まり、施肥田植機

の普及に伴い拡大してきた。

○ 農業従事者の高齢化等に対応した施肥の省力化を推進するため、水稲の吸収パターンに同調して肥料成分が

徐々に供給される緩効性肥料や被覆肥料等の肥効調節型肥料の普及割合は増加しているものの、まだ1/3程

度にとどまっている。

○側条施肥田植機の装着率の推移 ○水稲作における肥効調節型肥料の普及状況の推移

資料:農林水産省生産流通振興課調べ注1:普及割合は、肥効調節型肥料使用面積を水稲作付面積で除したもの。注2:データが不明な都道府県を除いて算出している。

5

資料:農林水産省生産流通振興課調べ注1:側条施肥田植機の装着率とは、6条植以上の乗用型施肥田植機普及面積を6条植以上の乗用型田植機普及面積で除して算出したもの。

注2:データが不明な都道府県を除いて算出している。

40.0%

45.0%

50.0%

55.0%

H15 H16 H17 H18 H19

46.948.2 48.7

50.2

側条施肥田植機の装着率(

%)

43.6

25.0%

30.0%

35.0%

40.0%

H15 H16 H17 H18 H19

肥効調節型肥料の普及割合(

%)

29.0

30.833.1 33.8

34.9

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6.側条施肥田植機の現状と課題

○ 側条施肥田植機の装着率は、北陸、東海、近畿、中国四国地域で6割を超え、その他の地域は5割に達しない

状況となっている。

○ 北海道では、高品質米の生産を行うため、追肥をしない栽培体系になっていることもあり、土壌によっては、追肥

が必要となる側条施肥は課題が多い。

○ また、側条施肥田植機は人員を1人多く要する場合があり、雨天の際は粒状肥料は作業がしづらいので、これ

までの栽培体系(全層施肥)を変更するインセンティブが働かない面がある。

○ 一方、側条施肥機の目詰まりの改善も進んでおり、今後、普及率は向上するものと考えられる。

6

側条施肥田植機の装着率が低い地域における普及上の課題

・ 側条施肥のみで対応している生産者は少なく、全層

施肥と組み合わせて対応している。(北海道)

・ 土壌によっては、肥切れを起こす恐れがあり、追肥

が必要になる(肥培管理の難しさ)。(北海道)

・ BB肥料の普及率が高いが、側条施肥用のBB肥

料銘柄が少なかった。(北海道)

・ 側条施肥機への肥料補充に手間がかかる。(関東)

・ 全層施肥する栽培体系が既に定着している。(関

東)

・ 側条施肥田植機は、目詰まりすることが多いという

機械性能上の問題から普及しにくかった。(九州)

注:農林水産省生産流通振興課・農業生産支援課調べ(平成21年4月)

37.3

46.9 46.7

66.3

78.0

85.8

72.8

44.6

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

北海道

東北

関東

北陸

東海

近畿

中国四国

九州

装着率(%)

○地域別の側条施肥田植機の装着率(H18)

資料:農林水産省生産流通振興課調べ注1:側条施肥田植機の装着率とは、6条植以上の乗用型施肥田植機普及面積を6条植以上の乗用型田植機普及面積で除して算出したもの。

注2:岩手県、茨城県、福井県、石川県、奈良県、和歌山県、鳥取県、山口県、沖縄県を除く。

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2.7

30.3 35.8

52.3

36.6 29.0

42.8 31.2

0

20

40

60

80

100

北海道

東北

関東

北陸

東海

近畿

中国四国

九州

普及率(%)

7.肥効調節型肥料の現状と課題

7

資料:農林水産省生産流通振興課調べ注1:普及率は、肥効調節型肥料使用面積を水稲作付面積で除したもの。

注2:新潟県、鳥取県、山口県、沖縄県を除く

○ 普及上の課題としては、価格が高く、気象条件で肥効が不安定とするところが多い。そのほかの要因としては、①食味への影響、②

従来の施肥法への意識が強いなどである。

○ 北海道では品質を重視した追肥を行わない栽培体系であること、移植時期の水温が低く、肥効調節型肥料では初期生育を確保で

きないので、肥効調節型肥料のメリットがなく普及していないが、北海道を除くすべての地域でおおむね3~5割となっている。

○ しかしながら、肥効調節型肥料は、追肥の削減や施肥量の減量など省力化が可能であり、適地においては、推進の強化が必要で

ある。

○平成18年度地域別の肥効調節型肥料の普及状況

資料:肥効調節型肥料に関するアンケート調査結果(全中、平成16年3月)注:①デメリットに関する評価を抜粋。②全中が各都道府県の農業改良指導普及センター141(各都道府県3センター)に対し、郵送によるアンケート調査を実施。

省力化 品質向上 施肥量低減 環境保全 その他

農業生産法人 73 29 26 22 7

中核農家 84 25 35 16 4

○肥効調節型肥料を使用している理由(複数回答)

資料:基肥一発型肥料の使用実態調査((財)肥料経済研究所 平成13年)

○肥効調節型肥料使用時における費用について(A農協)

資料:農林水産省農業生産支援課調べ注:肥効調節型肥料は、側条施肥技術を活用。

慣行型(化成) 肥効調節型

基肥 1,710 35 2,993 基肥 3,420 38 ②6,498追肥 2,130 30 3,195

計 ①6,188 311

費用(円/10a)

使用量(kg/10a)

肥料単価(円/20kg)

費用差(②-①)(円/10a)

費用(円/10a)

肥料単価(円/20kg)

使用量(kg/10a)

項目 左記の主な内容 回答数

1.価格が高い 値段が高く採算に合わない 等 17

2.気象条件で肥効不安定 気象に対応した管理不可 等 11

3.生産物の品質食味への影響懸念、コシヒカリへの施用は不適

7

4.従来の施肥体系根強い新技術を受け入れられない高齢化の進展 等

5

(回答数68)

○普及指導員による肥効調節型肥料の課題

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8.育苗箱全量施肥の現状

○ 育苗箱全量施肥は、水稲根と肥料が近接した接触施肥であり、濃度障害回避のため肥効調節型肥料が用いられる。その中でも、育

苗期間中の養分の溶出が抑えられるシグモイド型(S字型)の肥効調節肥料の利用が基本となっている。

なお、育苗箱全量施肥で使用する肥効調節型肥料は窒素だけのものと窒素とカリを含むものとがある。

○ 育苗箱全量施肥は慣行栽培に比較して、作業的、コスト的にみても、優れているとともに、肥料を根にからませて本田に移植するた

め、代かき水への肥料混入もなく、水稲による利用率が向上する。

○ しかしながら、新しい施肥技術であることから、ほとんど普及していない。

8

○育苗箱全量施肥における窒素減肥率の目安○慣行栽培と育苗箱全量基肥栽培法の作業体系

全層施肥 育苗箱全量施肥

硫安 23~33%

被覆尿素 61~67% 72~82%

資料:農業及び園芸71、金田(1996)より

○基肥窒素利用率の比較(移植水稲)

土壌タイプ 慣行施用量(基肥+追肥)に対する減肥率(%)

灰色低地土 10~20

多湿黒ボク土 20~30

グライ土 30~40

○東北各県主力品種の施肥窒素量と箱施用における減肥率

品種 慣行施肥量 箱施肥量 減肥率

ひとめぼれ 6.5~7.0 5~6 10~30

あきたこまち 9 6~7 20~30

コシヒカリ 5~6 4~4.5 10~30

ササニシキ 5 4~4.5 10~20

つがるロマン 8 7~8 0~10

肥料・育苗土混和

追肥基肥散布

耕起 灌水 代かき 移植除草剤散布

追肥(2回)

収穫

肥料・育苗土混和

耕起 灌水 代かき 移植除草剤散布

収穫

慣行栽培

育苗箱全量基肥施肥技術

(全層施肥)

本田期間育苗期間

本田期間育苗期間 資料:大潟村の新しい水田農法(新しい水田農法編集委員会)

資料:大潟村の新しい水田農法(新しい水田農法編集委員会)

資料:農林水産省農業生産支援課聞き取り調査(平成21年4月)

○平成20年度稲作主要県における育苗箱全量施肥の普及率

資料:「環境保全と新しい施肥技術」一部改変注:育苗箱全量施肥で使用しない成分については、春先に全層施肥により投入

青森県 秋田県 茨城県 新潟県 愛知県 兵庫県 熊本県

10% 10% 0% 若干 0% 0% 0%

P,K

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9.有機物施用の現状

○ 地力増進基本指針では、たい肥の標準的な施用量を1~1.5トン/10aと定めているが、耕種と畜産の特化・分離、農業労働力の減少・高齢化等を要因として、たい肥の施用量は年々減少する一方、稲わらのすき込み量が増加している。

9

○たい肥施用量の推移

資料:農林水産省統計資料「米及び小麦の生産費」

249

342

377 351

0

100

200

300

400

500

S60S61S62S63H元H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10H11H12H13H14H15H16H17H18

(kg/10a)

○稲わらすき込み量の推移

資料:農林水産省生産流通振興課調べ

203215

114

84

0

50

100

150

200

250

S60S61S62S63H元 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10H11H12H13H14H15H16H17H18

(kg/10a)

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10.たい肥施用の減少の要因

○ 18年産から19年産にかけて水稲におけるたい肥施用量の減少が顕著であった東北、中国四国地方の全ての

農協(155農協)に対して本年4月上旬に実態把握調査を実施したところ、約4割弱の農協がたい肥の施用量が

減少していると認識している。

○ 要因としては、①農家の高齢化等により労力がかかる作業が難しい、②米価が低水準であり、たい肥施用コスト

をまかなえない、③たい肥の確保が困難などが上位にあげられている。

○ また、平成16年度に実施した「家畜排せつ物たい肥の利用に関する意識・意向調査」によると、散布に労力が

かかることの他、品質・効果面での問題がたい肥の施用を行わない理由の上位を占めている。

10

○家畜排せつ物たい肥の品質のバラツキ

電気伝導率

畜 種 試料数 集計方法 EC% mS/cm % % ppm %

平 均 52.3 8.6 2.4 2.2 1.8 50 97.0乳用牛 319 最 大 82.9 9.7 7.7 5.6 13.3 906 100.0

最 小 15.7 7.0 0.2 0.9 0.5 5 70.3平 均 52.2 8.2 2.6 2.2 2.5 31 96.4

肉用牛 303 最 大 76.6 9.5 6.2 4.1 6.7 313 100.0最 小 10.5 5.3 0.3 0.9 0.5 3 70.0平 均 36.7 8.3 3.6 3.5 5.6 226 91.0

豚 144 最 大 72.0 12.7 7.6 7.2 22.7 654 100.0最 小 16.6 5.5 0.7 1.4 1.6 45 4.4

P2O5水分 pH 全窒素 発芽率銅

資料:堆肥の品質実態調査報告書((財)畜産環境整備機構 平成17年3月)

○たい肥の販売価格等

販売価格 運搬費 散布費

4,000~6,000 500~1,250 1,000~3,150資料:農林水産省農産振興課調べ(たい肥センターからの聞き取り調査)

(単位:円/トン)

要因 割合

農家の高齢化等により労力を要する作業が困難 83

米価が低水準であり、たい肥用コストがまかなえない 57

たい肥の確保が困難 37

たい肥の効果が見えにくい 28

畜産との連携が不十分 20

化学肥料価格が高騰し、たい肥施用コストがまかなえない 17

たい肥の品質の問題 15

○家畜排せつ物たい肥を利用したくない理由(複数回答)

資料:家畜排せつ物たい肥の利用に関する意識・意向調査(平成17年1月)

○水稲におけるたい肥施用量の減少の要因(複数回答)

資料:農業環境対策課調べ(平成21年4月)

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○ (独)農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)では、農業機械等緊急

開発事業(緊プロ)により、農業機械メーカーと共同で水稲などに幅広く利用できる可変施肥装置を開発し、平成20年度

に実用化したところ。可変施肥装置は、従来の早見表による設定と比べ、簡単な設定操作で正確な施肥を行うことができ

るため、施肥量の節減が期待される。

○ また、農用車両用作業ナビゲーター(一部試販中)と接続すれば、施肥マップに基づき、マップ毎に設定された施肥量調

節を自動で行うことも可能である。

可変施肥装置可変施肥装置

資料: 農研機構

1.「目標の施肥量(kg/10a)」と肥料袋等に記載された「かさ密度」を入力することにより、車速に連動した高精度な施肥作業ができる。

2.肥料の操出機構を大幅に改良し、1~100kg/10aという幅広い散布量域の全域において高い施肥精度(±5%程度)を実現した。

(これらにより、実証試験において約1割の施肥量を節減できた実例がある。)

1.「目標の施肥量(kg/10a)」と肥料袋等に記載された「かさ密度」を入力することにより、車速に連動した高精度な施肥作業ができる。

2.肥料の操出機構を大幅に改良し、1~100kg/10aという幅広い散布量域の全域において高い施肥精度(±5%程度)を実現した。

(これらにより、実証試験において約1割の施肥量を節減できた実例がある。)

農用車両用作業ナビゲーターを用いた施肥量の自動調節農用車両用作業ナビゲーターを用いた施肥量の自動調節

農用車両用作業ナビゲーターを接続することにより、施肥マップに基づく施肥量調節を、手入力することなく自動で行うことができる。農用車両用作業ナビゲーターを接続することにより、施肥マップに基づく施肥量調節を、手入力することなく自動で行うことができる。

収量コンバイン等が取得したデータを基に、施肥マップを作成

作業ナビゲータが可変施肥装置にマップ毎の施肥量を自動指示

追肥用(平成21年3月より市販中)

GPS

位置情報を取得

11

11.施肥低減技術の開発(1)車速に連動した高精度な可変施肥技術

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水稲用豚ぷん堆肥ペレットの製造と効率的施用技術の確立水稲用豚ぷん堆肥ペレットの製造と効率的施用技術の確立

(2)水田用豚ぷん堆肥ペレットの活用技術の開発

○ 農林水産省では、肥料原料価格の高騰に対応するため、平成21年度より「地域内資源を循環利用する省資源型農業

確立のための研究開発」プロジェクト研究を開始することとしている。

○ 本プロジェクト研究では、土壌診断や効率的な施肥方法による養分利用効率のよい栽培技術体系や土壌に蓄積された

養分も併せて有効に活用する技術体系を開発する。

水田における豚ぷんペレット堆肥の有効活用技術の開発水田における豚ぷんペレット堆肥の有効活用技術の開発

窒素肥効の高い密閉縦型発酵装置製造堆肥は易分解性有機物が多い

研究の背景 研究内容

期待される波及効果

・ 高い窒素肥効を活かすためには、栽培直前の施用が前提→異常還元の危険が増大→適正な施用量、時期の策定

・ 水田での利用が温暖化ガスの発生に及ぼす影響が未解明

・水田地帯での堆肥利用促進

易分解性有機物の多い堆肥の水田での安定利用技術を開発前半 還元障害程度を予測可能な指標を作出後半 水田での適正施用法に基づき、水稲作で

の減肥栽培法を実証

現状と課題

<密閉縦型発酵堆肥の効率的水田利用法の開発>

研究開発の目標

水田での利用では異常還元に伴う生育阻害とメタン発生増加が懸念

メタン発生抑制のための施用法・施用量・施用時期がメタン発生に及ぼす影響

生育阻害回避のための施用法・春施用を前提とした施用量・施用時期の策定

連用による養分蓄積を考慮した適性施肥技術・水田での有効態窒素・リン酸の推移

寒冷地の堆積方式、開放攪拌方式では、水分低下が困難

研究の背景

・ ケイ酸は水稲に有用・ 労力・コストの面からケイ酸資材の施用が減少

• 有効態ケイ酸、潅漑水ケイ酸濃度が低下

・ 高水分でペレット化が困難• 乾燥機導入は高コスト

・ コンクリート、ガラスの原料となる硅砂採掘で残渣粘土が多量に発生

現状と課題

期待される波及効果 ・ 寒冷地水田地帯での堆肥利用促進・ ケイ酸添加による堆肥中リン酸肥効の向上

前半 ケイ酸含量25%の水稲用ペレット堆肥の製造技術を確立後半 堆肥の有効成分と土壌蓄積養分を考慮した利用技術を確立

堆肥施用による土壌のケイ酸供給能の維持効果を示す

研究開発の目標

<寒冷地の堆肥センターを対象とした残渣粘土の混合による水分低下とペレット化>

堆肥センターで残渣粘土を一括購入、混合ペレット化

豚ぷん堆肥

混合による低コスト低水分化

残渣粘土

リン酸、ケイ酸肥効の確認と減肥実証低リン酸水田での肥効試験現地実証(水稲)

研究内容

ペレット堆肥

資料: 農研機構資料: 農研機構 12

※ 密閉縦型発酵製造堆肥とは、臭気対策のため、都市近郊養豚農家で導入している密閉縦型発酵装置で生産される豚ぷんペレット堆肥。

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○生産費に占める肥料費(高成分化成)及びその割合の推移

3,6123,235 3,144 3,181 3,113

43.6%

41.8%

40.3%39.8%

38.7%38.0%

40.0%

42.0%

44.0%

0500

1,0001,5002,0002,5003,0003,5004,000

H9 H16 H17 H18 H19

高成分化成肥料費 肥料費に占める割合

12.土壌診断の現状と必要性(1)高成分化成の施用抑制への期待

○ 肥料費に占める高成分化成の割合は、直近10年をみると、5ポイント程度の低下はみられるものの、ほぼ4割

で推移しており、高成分肥料に依存した施肥となっている。

○ 一方、土壌分析の結果から土壌中にはリン酸やカリが水田土壌中に蓄積されていることが明らかとなっており、

肥料高騰に対応していくためには、稲作においても今後、リン酸やカリの施肥量を抑えていくことが必要ではない

か。

○ しかしながら、稲作においては連作障害や土壌病害虫の発生がみられないことから、農家自らが土壌診断を行

う機会が少なく、水田土壌の状況を把握するインセンティブが働きにくい状況にある。

13

資料:農林水産省統計資料「米及び小麦の生産費」

注:高成分化成とはN,P,Kの成分含量の合計が30%以上のもの。資料:農林水産省統計資料「米の生産費」

○平成19年産米生産における肥料費10a当たり原単位評価額(円)

肥料費に占める割合(%)

化学肥料 5,617 69.9

高成分化成 3,113 38.7

低成分化成 311 3.9

配合肥料 1,417 17.6

固形肥料 13 0.2

単肥 763 9.5

たい肥・きゅう肥 320 4.0

その他 2,097 26.1

肥料費計(B) 8,034 100.0

生産費(費用合計) 115,721 -

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(2)実施状況と診断料金

○ 稲作における土壌診断点数は施設野菜に比べ半数程度であり、診断密度は33haに1点となっている。これは、

平成18年の水稲作付農家の水稲作付面積が1.2haであることから、28軒の農家に1軒の割合で実施されてい

るにすぎない。

14

○全国農業協同組合連合会における土壌診断の分析項目と料金

分 析 項 目調査項目数(中央値)(最小値~最大値)

料金(中央値)(最小値~最大値)

水 田①pH ②EC ③有効態窒素④硝酸態窒素 ⑤有効態リン酸⑥カルシウム ⑦マグネシウム⑧カリウム ⑨有効態ケイ酸⑩CEC ⑪リン酸吸収係数⑫遊離酸化鉄 ⑬マンガン⑭腐植⑮ホウ素 ⑯銅 ⑰亜鉛⑱土性 ⑲土色 ⑳仮比重

7.5(3~14)

1,256円(無料~3,150円)

露地野菜8.0(5~14)

1,506円(無料~10,500円)

施設野菜8.0(6~14)

1,512円(無料~10,500円)

資料:全国農業協同組合連合会アンケート調査(2006年)

○作物別の土壌診断実績(平成18年度)

注:診断密度は、診断点数÷作付面積により計算。作付面積は、野菜は「野菜生産出荷統計」、花きは「花き生産出荷統計」、それ以外は「平成18年耕地及び作付面積統計」。

(参考)診断密度

水稲 76,175 38,865 33haにつき1点畑作物 61,747 42,461 19haにつき1点茶 9,158 6,684 5.3haにつき1点果樹 43,406 35,305 5.9haにつき1点露地野菜 88,581 70,651施設野菜 133,598 107,629露地花き 9,144 7,060施設花き 37,095 29,408飼料作物 15,709 10,335 40haにつき1点

作  物 診断点数 処方箋件数

2.3haにつき1点

0.4haにつき1点

資料:農林水産省農産振興課調べ

○平成18年水稲作付農家の水稲平均作付面積

水稲作付面積(A) 水稲作付農家数(B)水稲作付農家の水稲平均作付面積(A/B)

1,702千ha 1,402千戸 1.2ha

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13.減肥の指導の現状

○ 本年3月に実施した都道府県への減肥基準策定調査によると、昨年7月に肥料高騰に対応するため各都道府

県で減肥基準に基づく施肥指導を徹底するよう農林水産省生産局長通知を発出した後の状況をみると、29の県

で基準の策定がなされているものの、13の県で基準の策定が進んでいない状況である。

○ 基準づくりに着手できていない理由としては、そもそも減肥試験を実施しておらず基準を定める基礎データの不

足が大きな要因となっている。

15

○減肥基準の策定状況

(1)減肥基準を策定しない理由・人員・予算が不足し対応できない(2県)・根拠となるデータがない(4県)・策定しても実効性があると思えない・収量低下等のリスクがあり、一律の減肥基準の策定は困難

(2)基準策定以外の取り組み・独自にデータ収集、検討を開始する(3県)・減肥の考え方や隣県の基準等の情報提供(3県)

(3)減肥基準策定や減肥指導の推進に必要なこと・データ収集や普及に係る人員の確保、減肥による農家のリスクに係る補てん措置等に対する支援・近隣県とのデータ・情報等の共有化等の連携

予定なし・未定と回答した県の意見等

資料:農林水産省農業生産支援課調べ(平成21年3月)

策定中

一部作物について策定済み

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14.減肥の指導のあり方について(1)土壌診断や減肥試験データを活用した指導体制の確立

○ 水田土壌中に肥料成分のリン酸やカリが、過剰に蓄積している事実を、農家等への施肥指導をする上での必須事

項と位置づけ、普及指導センターや農協等から土壌診断を行うよう指導するべきではないか。

○ 減肥基準が策定されていない都府県においては、他道県の試験研究機関等と協力し、減肥試験データの共有化

を図り、早期に基準づくりに取り組むべきではないか。

○ 普及指導センターや農協等は、試験研究機関等の減肥試験データに基づき、農家にわかりやすい説明資料を作

成するとともに、生産現場に減肥実証圃を設け、減肥による収量減や品質劣化の影響を農家自身の実感として受

け止めやすい工夫に努め、減肥率の高い農家の取り組みを事例として広く農業者へ紹介するべきではないか。

○ 減肥に取り組む農家は、収量減や品質劣化に対する不安が大きいことから、普及指導センター及び農協等が、減

肥指導に関する相談窓口の設置など日頃にも増して濃密な助言・指導ができる体制を確立するべきではないか。

16

○土壌診断に基づく施肥設計の流れ

減肥実証圃の設置

施肥基準等に基づく栽培ごよみの作成

普 及 指 導 セ ン タ ー

農 協 等

分析依頼

分析依頼

土壌診断の指導

土壌診断の指導

配達発注

土壌中肥料成分(リン

酸・カリウム)の蓄積

土壌の採取

土壌分析

土壌分析結果に基づく

処方箋の作成

処方箋に基づく施肥指

導者による農家相談

農家による発注肥料の

検討

農家による肥料の発注

農協等からの農家庭先

への肥料配達

農家の施肥の実施(減

肥の実践)

実施段階での助言・指導

実施段階での助言・指導

処方箋の提示と助言

処方箋の提示と助言

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(2)肥料選択の見直し

○ 土壌中のリン酸やカリウムが蓄積傾向にある中、施肥設計の見直しに伴い農家がリン酸やカリウムを減肥するた

めの肥料の選択肢を増やしていくことが不可欠である。

○ BB肥料を有し、地域で一体となって土壌診断に取組む場合は、リン酸やカリウムの配合割合を低くしたBB肥料

の開発・普及を図るべきではないか。

○ BB肥料を有さない地域においては、単肥を自家配合する取組を促進するべきではないか。

○ 肥料の選定に当たっては、集落内で成分比の統一を図るとともに、これまでのフラットな配合割合ではなく、土壌に

蓄積したリン酸、カリ成分を踏まえた、L字型の配合割合の肥料を導入するべきではないか。

17

20

15

10

窒素 リン酸 カリ

14 14 14

フラット

窒素 リン酸 カリ

14

L字型 愛知県におけるL字型肥料への転換の取組

愛知県では、土壌中にリン酸やカリウムが蓄積していることから、農試が中心となって施肥量の見直しを行い、経済連がL字型肥料を銘柄に追加した結果、現在では水稲銘柄の約9割を占めている。

配合割合%

配合割合のパターン例

資料:愛知経済連からの聞き取り(農林水産省生産局農業生産支援課)

25

20

15

10

25

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○ 土壌診断を実施し、土壌に過剰蓄積したリン酸を有効活用することにより、リン酸施肥の大幅な減肥が可能。

18

土壌蓄積リン酸に対応した寒冷地水田のリン酸低投入施肥管理

・土壌環境基礎調査によると、岩手県内の水田土壌中の有効態リン酸含有量は黒ボク土・非黒ボク土とも着実に増加。

・水稲のリン酸吸収量と土壌診断結果に応じたリン酸施肥を実施

<新しい施肥基準>トールオーグリン酸 リン酸施肥量

① 6mg/100g :7kg+リン酸改良資材② 6mg/100g以上30mg未満:7kg③ 30mg/100g以上 :無施用

資料:岩手県農業研究センター「平成11年度試験研究成果」

取組の効果

図4 リン酸減肥試験ほ場手前のリン酸無施用と奥のリン酸20kg/10a施用による生育の差は見られない。

図1 岩手県内での水田土壌中有効態リン酸含量の推移

図2 リン酸施肥量と稲体リン酸吸収量

図3 リン酸施用効果注)収量増加係数:無リン酸区あるいはリン酸3~5kg区の収量を100としてリン酸増施区の収量を指数化したもの

取組事例1 土壌蓄積リン酸に対応したリン酸低投入施肥(岩手県)

資料:岩手県農業研究センター「平成11年度試験研究成果」

資料:岩手県農業研究センター「平成11年度試験研究成果」

○ 有効態リン酸が30mg/100g以上蓄積しているほ場では、無リン酸栽培・リン酸

減肥栽培を行っても収量減少の影響

は、ほぼ認められない。

○ 稲のリン酸吸収量は、品種・施肥

量にかかわらず、ほぼ5~7kg/10aである。

有効態リン酸

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○ 土壌診断を実施し、土壌に過剰蓄積したリン酸を有効活用することにより、リン酸施肥の大幅な減肥が可能。

19

水稲におけるリン酸の低投入施肥管理

・石川県では、水田のリン酸の施肥量基準として、8

~13kg/10a、土壌診断基準として、10mg/100g以上と策定。

・しかしながら、高濃度リン酸肥料の連用により、土

壌中には過剰に蓄積。

・そこで、無リン酸栽培・リン酸減肥栽培を行い、水

田土壌中のリン酸の経年変化や水稲収量への影

響を測定。

・リン酸過剰土壌(20mg/100g以上)には、稲わらを施用。

取組の効果

○ リン酸の減肥・無施用栽培を5ヵ年継続しても、土壌中の有効態リン酸の低下が見られない。

○ リン酸過剰では、収量が減少。リン酸減肥区では、収量が増加。

土壌診断の結果、リン酸過剰土壌では、リン酸施肥量を4kg/10a以下と積極的な減肥が可能。

取組事例2 土壌蓄積リン酸に対応したリン酸低投入施肥(石川県)

資料:石川県農業総合研究センター「水稲におけるリン酸の低投入施肥管理」

資料:石川県農業総合研究センター「水稲におけるリン酸の低投入施肥管理」

※ブレイ第2法リン酸カルシウムに加えてリン酸アルミニウム、リン酸鉄の一部を抽出し、有効態リン酸として評価する方法。

※トルオーグ法リン酸カルシウムやリン酸マグネシウムを抽出し、有効態リン酸として評価する方法。土壌診断で最もよく使われている。

リン酸施用量

kg/10a

ブレイⅡリン酸増肥区 47

ブレイⅡ対照区 10

ブレイⅡリン酸減肥区 4

ブレイⅡリン酸無施肥区 0

トルオーグリン酸増肥区

トルオーグ対照区

トルオーグリン酸減肥区

トルオーグリン酸無施肥区

図 有効態リン酸の推移

トルオーグ: 20

ブレイⅡ: 98

試験前土壌

mg/100g

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15.水稲の施肥改善の課題と今後の対応方向

現状と課題 今後の対応方向

○ 土壌診断の実施割合(33haに1点)及び処方箋の作成割合(約5割)が低い。

○ 側条施肥田植機や肥効調節型肥料は、気象条件によっては課題があるものの、適地においても取り組みが進まない地域があり、普及余地がある。

○ 育苗箱全量施肥技術については、肥料コストの低減は認められるものの、生産現場にほとんど普及していない。

○ たい肥は散布労力がかかること等から、その施用量が減少している。また、たい肥中の肥料成分が施肥検討に十分反映されていない。

○ 土壌診断・分析は、個々の農家が行うのではなく、出荷組合単位など地域での取組を検討すべきではないか。

○ 施肥低減技術の改善を進めつつ、側条施肥田植機等を活用した栽培体系を確立し、生産現場に積極的に提示していくべきではないか。

○ 実証展示ほ場を設置し、生産現場への浸透を推進するとともに、既存技術との比較検討を行い、普及の可能性を検討すべきではないか。

○ 農家の高齢化に対応したたい肥散布体制の整備やペレット化たい肥等の利用を推進するとともに、たい肥中の肥料成分を適確に施肥設計に反映させるべきではないか。

○ 土壌中の肥料成分量に応じて施肥設計ができる基準(減肥基準)の整備が遅れている。

○ 各県における減肥基準の整備を進めるとともに、農業者が土壌診断結果に応じて適正な施肥を行えるよう、指導体制の強化に努めるべきではないか。