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28 2019 February 地図中心 ●概要 じんばがたやま 馬形山は、長野県上伊那郡中川 村にある標高 1445m の山です。山 頂の看板に的確な説明があるので、 引用しましょう。 「陣馬形山は、伊那山地から飛び 出した形の山で、標高 1445m。山頂 からは、東に南アルプス、西に中央 アルプス、天気が良ければ北アルプ スまで望むことができます。眼下に は南北に流れる天竜川と地形遺産と いえる伊那谷を一望することがで き、山頂からの眺望はまさに絶景で す。また、戦国時代には武田軍のノ ロシ台があったと伝えられていま す。 2013年(平成25年)9月、信州の ふるさとの風景を見渡せるビューポ 田代博の展望図採点紀行 42 陣馬形山(長野県中川村) イント「信州ふるさとの見える山」 に、上伊那地域では第1号として認 定されました」。 中川村が作成している「陣馬形山 への道順」というルートマップの紹 介文には、「伊那谷随一の絶景が拝 める中川村民の心の山」という表現 が使われています。 ●展望の様子 看板に偽りなし!ここからの山岳 展望は上記の看板に書いてある通り です。特に中央アルプス(図2)は、 横方向の大パノラマはもちろんです が、伊那谷を見下ろし中央アルプス を見上げるという縦方向の展望が大 きなポイントです。その伊那谷を刻 む田切地形、河岸段丘は、自然の作 り上げた芸術作品であり、この陣馬 形山からの山岳展望の何よりの特徴 です。 中央アルプスは、北アルプスや南 アルプスと違い、顕著なピークがあ まりありません。また、私自身、中 央アルプスを見る機会が少ないこと 図1 図2 図6 図5 1恵那山 2高森山(本高森山) 3大島山 図3 図4 南駒ヶ岳 伊那谷

田代博の展望図採点紀行 42yamao.lolipop.jp/tenbo/saiten/42.pdf看板に偽りなし!ここからの山岳 展望は上記の看板に書いてある通り です。特に中央アルプス(図2)は、

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Page 1: 田代博の展望図採点紀行 42yamao.lolipop.jp/tenbo/saiten/42.pdf看板に偽りなし!ここからの山岳 展望は上記の看板に書いてある通り です。特に中央アルプス(図2)は、

28 2019 February 地図中心

●概要

陣じんばがたやま

馬形山は、長野県上伊那郡中川村にある標高 1445m の山です。山頂の看板に的確な説明があるので、引用しましょう。「陣馬形山は、伊那山地から飛び

出した形の山で、標高 1445m。山頂からは、東に南アルプス、西に中央アルプス、天気が良ければ北アルプスまで望むことができます。眼下には南北に流れる天竜川と地形遺産といえる伊那谷を一望することができ、山頂からの眺望はまさに絶景です。また、戦国時代には武田軍のノロシ台があったと伝えられています。

2013 年(平成 25 年)9月、信州のふるさとの風景を見渡せるビューポ

田代博の展望図採点紀行 42 陣馬形山(長野県中川村)

イント「信州ふるさとの見える山」に、上伊那地域では第1号として認定されました」。 中川村が作成している「陣馬形山への道順」というルートマップの紹介文には、「伊那谷随一の絶景が拝める中川村民の心の山」という表現が使われています。

●展望の様子

看板に偽りなし!ここからの山岳展望は上記の看板に書いてある通りです。特に中央アルプス(図2)は、横方向の大パノラマはもちろんですが、伊那谷を見下ろし中央アルプスを見上げるという縦方向の展望が大きなポイントです。その伊那谷を刻む田切地形、河岸段丘は、自然の作り上げた芸術作品であり、この陣馬

形山からの山岳展望の何よりの特徴です。

中央アルプスは、北アルプスや南アルプスと違い、顕著なピークがあまりありません。また、私自身、中央アルプスを見る機会が少ないこと

図1

図2

図6図5

1恵那山 2高森山(本高森山) 3大島山

図3

図4

陣馬形山

南駒ヶ岳北岳

伊那谷

Page 2: 田代博の展望図採点紀行 42yamao.lolipop.jp/tenbo/saiten/42.pdf看板に偽りなし!ここからの山岳 展望は上記の看板に書いてある通り です。特に中央アルプス(図2)は、

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採点(100 点満点)採点項目 採点/満点 備  考

展望図 37 点/ 50 点 見えない木曽駒ヶ岳の記載は残念。

景観 23 点/ 25 点 素晴らしい!富士山が見えれば完璧。

施設・アクセス等 20 点/ 25 点 キャンプ場。車利用者に向けて、途中の案内表示が詳しい。

特記事項 ―  / 10 点 大景観にふさわしい詳細な展望の作成・設置を是非検討して欲しい。合計 80 点 (山岳展望が前提)

もあって、ここからの展望には色々な発見がありました。

良く知っている宝剣岳が脇役になっていることが意外でした。空木岳もあまり凜々しくは見えません。主役は、南駒ヶ岳や赤

あかなぎ

梛岳、そして

田 代   博

(一財)日本地図センター相談役図2、3の山名は、図5の展望

図にあるものを入れました(範囲外2つ、見えていない山1つは除外しています)。

仙せんがいれい

涯嶺です。赤梛岳には田切岳が重なっています。山頂について山岳景観に圧倒されましたが、どの山が見えているのかにわかにはわからず、パニックになったほどです(少しオーバーですが)。

中央アルプス最高峰の木曽駒ヶ岳が見えないのも驚きでした。元々そんなに存在感のある山ではないのですが、伊那前岳の陰になってしまいます。

なお、宝剣岳は大きな山容ではあ

りませんが、何と言っても鋭鋒ですから、目立ちます。千畳敷のカールも明瞭で、アップにすれば、千畳敷ホテルの建物もわかります。 南アルプス(図3)も北部から南部までずらっと並びますが、伊那山地によってかなりの部分が遮られ、頭が少し覗くのみです。一番よく見える仙丈ヶ岳でも見えている部分は山頂から約 700 m下ったところまでです。中央アルプスの南駒ヶ岳の場合、標高差 2000 m以上が見えているのと大きな違いです(図4)。もちろん、山頂が見えていることに意味があるので、展望の名山・陣馬形山

の価値がいささかも損なわれるわけではありません。

なお、北アルプスは図7の通りです。これで富士山が見えたら文句なしなのですが。

●展望図の状況

山頂には展望図が2点あります(図5、6)。図5は銅板にレリーフ式で描かれています。年代物です

(作成年次の記載はありません)。真ん中に中川村と書いてあります。特徴的なのは中央アルプスと南アルプスの二つの展望図が、それぞれの方向を向いて描いてあることです。今

まで数多くの展望図を見てきましたが、このような形で、二つをまとめているのは初めてでした。それができ、不自然に感じない立地条件であるわけです。

山名はあまり詳しくはありませんが、必要最小限のものは記してあり、材質からしてこれはこれで良しとしましょう。

図6はシンプルです。シンプル過ぎると言った方がよいでしょうか。稜線を簡単な線で描き、幾つかの山名等を添えています。もっともこれは展望図を示すのが目的ではなく、

「信州ふるさとの見える山」をアピールするための標識で、展望図はおまけだったのかもしれません。そう考えるとシンプルさが納得できるというものです。

(2018 年 11 月 24 日調査)

4安平路山 5念丈岳 6烏帽子岳 7越百山 8仙涯嶺 9南駒ヶ岳 10空木岳 11熊沢岳 12桧尾岳 13宝剣岳 (9の右側が赤梛岳)

1仙丈ヶ岳 2北岳 3間ノ岳 4農鳥岳 5塩見岳 6東岳(悪沢岳) 7荒川岳 8赤石岳 9聖岳

図7 1鹿島槍ヶ岳 2五竜岳 3白馬鑓ヶ岳 4白馬岳 5小蓮華山