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他の疾患を持った糖尿病患者の血糖管理コツとピットフォール
神戸大学糖尿病・内分泌内科
助教
坂口一彦
11月4日(金)12:15~12:45
①ICUにおける高血糖(stress hyperglycmia)
外科ICUにおける厳格な血糖管理のもたらしたインパクトは大きかった血糖を80-110 mg/dlに低下させることで、死亡率が40%低下した
N Engl J Med 345:1359-67, 2001
しかし、追随するデータは出ず、むしろICUにおける厳格な血糖管理は不要ではないか、というmeta-analysisも出た
JAMA 300:933-44, 2008
Contravertial な問題に答えを出すべくNice-Suger studyが行われた
N Engl J Med. 2009;360:1283-97ACP Journal Club. 2009 ;151:JC2-5.より作図
強化療法
血糖値
生存率
介入からの日数 介入からの日数
従来療法
強化療法
従来療法
重症低血糖
死亡率
0
10
20
30
intensive insulintherapy conventional
glucose control
6.8
0.5
2825
Stress hyperglycemiaを厳格にコントロールすることに意味はあるか?
Normoglycemia in Intensive Care Evaluation and Survival Using Glucose Algorithm Regulation trial
種々原因疾患によるICU患者の血糖を厳格に管理することで,90日以内の総死亡率が減少するかどうかを検討する多施設共同研究
むしろ生存率は低下する
3
P<0.02
現在のBig JournalにおけるICUにおける血糖管理の考え方
Lancet N Engl J Med
新しいガイドラインでは180 mg/dlを超えたらインスリンで治療をはじめ、140-180ぐらいを目標としているものが多い
病態別血糖管理のコツとピットフォール
・既知でなかった高血糖でも180mg/dlを超えていれば、介入した方がよさそう・インスリンの持続静脈内投与を・コントロール目標は140-180mg/dl程度に・低血糖を来さないことや、血糖変動を小さくすることも重要
②ACS患者における血糖管理
ACS発症時の血糖値と予後
①ACS発症時の高血糖は予後不良を意味する
No diabetesでは110~120以上で死亡率が増えるDiabetesでは200ぐらいまでは増えない
②発症時に血糖が低いのも予後不良
第1報であるDIGAMI研究以外、AMI発症時の血糖を(厳格に)さげて良かったという報告はない
病態別血糖管理のコツとピットフォール
・ 半数以上のACS患者に糖尿病の既往がないにもかかわらず、高血糖が見られる・ 低血糖が起こる患者の死亡率はむしろ高い・ 現実には血糖降下剤の投与を(急性期は)行わないことが多い。・ 行う場合の目標は140~180mg/dlとする(*)・本邦においてACSを起こした患者の2/3は耐糖能障害を有している。従って、退院
までにきちんと耐糖能評価(75g OGTTなど)を行うこと・退院時に耐糖能障害がなくてもその後に糖尿病を発症する頻度が高いという報告
もあり、DM→ACSばかりか、ACS→DMもあることを知る
(*)最近でたNICE GuidanceではACS発症後48時間以内の血糖マネジメントとして「ACSで入院した患者の高血糖(>200mg/dl)は、低血糖を避けながら、200 mg/dl未満をキープする」としている
③糖尿病性胃麻痺患者の管理糖尿病自律神経障害の一つ。器質的閉塞を欠く、胃排泄時間の延長。
【重要ポイント】1)糖尿病患者の1/3のヒトに存在2)糖尿病以外の原因として、胃手術後、神経・リウマチ疾患、特発性(多くはウイルス感染)などがgastroparesisを起こす3)罹患歴10年以上で、細小血管合併症が多い人(特に神経障害 DPN, DAN)4)胃の機能:近位部はリザーバー、遠位部はグラインダー5)健康な状態では、食物は2mm大になってから胃から排泄される
健康人では固形物の排泄は3-4時間6)Diabetic gastroparesisの原因
・神経障害(主な機序:迷走神経の障害)・ホルモンの変化(グルカゴンの高値)・高血糖そのもの(ある実験では血糖を180に引き上げることで、胃の排泄時間が15分延長)・使用薬剤(アミリンアナログ、GLP-1アナログ)
7)早朝空腹状態における嘔吐は別の機序を疑う所見(妊娠悪阻、尿毒症、脳腫瘍)8)食物反芻症候群を除外すること
9)胃の膨満感、嘔気などが胃排泄時間の延長だけではなく、排泄時間の短縮の症状であることもあるため、治療開始前に検討が必要。10)欧米ではシンチで診断する。胃の内容物が4時間以上経過しても10%以上残存しているのは異常である。
他の診断法として、アイソトープを含んだものを摂取し、呼気ガス中の活性を測定や、レントゲンでうつる固形物が摂取後6時間でどこにあるか?などの方法、胃の内圧や電気活性を見る方法など。
11)治療のポイント増悪因子を除く:Ca拮抗薬(!)抗コリン薬、GLP-1アナログ、抗うつ薬電解質・血糖の正常化薬物療法:胃の運動を調節する薬剤重症の場合はNG tubeも含んだ栄養療法その他:内視鏡的前庭部ボツリヌストキシン注入(効果は否定的)、胃の前庭部に電極を埋め込んで、刺激する(理論はよくわかっていないが、FDAは認可している。DeviceはEnterraの名称でメドトロニクスが発売)
病態別血糖管理のコツとピットフォール
④胃切除後患者の血糖管理食後早期の急峻な高血糖(→インスリン分泌の亢進→引き続いて起こる反応性の低血糖)血糖変動が非常に大きくなりがち。(同じ現象はBasedow病患者でも認められることがある。)
早期ダンピング症候群 後期ダンピング症候群
出現時期 食後20~30分後 食後2~3時間
発生機序 食物(高張物)流入
↓ ↓細胞外液が内くうに移動 消化管ホルモン↑
↓ ↓循環血漿量↓ 末梢循環血流↓
小腸運動亢進
食後の一過性高血糖↓
インスリン過剰分泌↓
低血糖
主な症状 発汗、顔面紅潮、動悸、めまい、脱力感、失神、腹痛、悪心、嘔吐、腹部膨満感
空腹感、手指振戦、動悸、冷汗、疲労感、脱力感、立ちくらみ、めまい
治療 食事療法(少量ずつ、頻回に、時間をかけて)で消失することが多い
食事療法(高蛋白・高脂肪・低炭水化物)
後期ダンピング症候群の出やすい状況胃全摘>部分切除Billroth II法>Billroth I 法Roux-Y > 空腸間置法
もともと初期分泌能の落ちている人で、
胃切御の急峻な血糖上昇に、インスリン分泌がおいつかない人に起きやすい
治療のコツ分割食、α-GIの併用など
いわゆるoxyhyperglycemia
病態別血糖管理のコツとピットフォール
・急峻な高血糖を来さないような食事療法・炭水化物が食後血糖を急激に上昇させる・線維を多く含む食事、野菜から食べ始める・分割食の導入
・α-glucosidase inhibitorの導入
これらが病態を改善させる
⑤腎不全患者の血糖管理の注意点食事
病期に応じて食事中の蛋白質が制限され、また推奨される摂取カロリーは増える
したがって糖質の摂取量が増えるため、食後の血糖は上昇しやすい
検査
CPRは腎排泄のため、腎機能の悪化とともに、血中濃度が上昇する
HbA1cが血糖値と乖離して、コントロールの指標とならない
病態生理
インスリンの必要量が減少する
インスリンの分解が遅れ、血中濃度の頂値が遷延する
治療
内服薬はα-GI, 一部のDPP-4阻害薬以外は使用できない。
特にメトホルミンは禁忌(乳酸アシドーシスのリスクが高まる)
参考資料
⑥膵性糖尿病の特徴・外分泌障害を伴うため、消化吸収障害を伴う
(・いつもα-GIを投与されているような状態)
・グルカゴン分泌障害も伴うため、DKAは比較的起きにくいが低血糖は遷延する傾向
・外分泌障害を伴うために、大量の消化酵素(高力価パンクレアチン)が必要
・膵外分泌機能の低下により、十二指腸内における中性化が落ちている膵性糖尿病の患者においてはPPI(プロトンポンプ阻害剤)の投与は、重要
・膵疾患の患者ではうつが多い
・膵性糖尿病には膵癌が多い
・病態的には、肝におけるインスリン抵抗性(pancreatic polypeptideの低下による)とやせに起因する末梢のインスリン感受性の増大が特徴(MDI(multiple daily injection)でインスリンを補充する場合、TDD(total daily dose)にしめるbasalインスリンの
量が多くなる)
参考資料
米国においては膵性糖尿病はtype 3C diabetesとも表現される
膵性糖尿病でケトーシスが少ないのは「ケトンの産生にグルカゴンを必要とする」から
⑦肝硬変患者の血糖管理の注意点
・特徴的な血糖パターン食後の高血糖、空腹時の血糖はあまり高くない
・内服薬は原則使えない。超速効型インスリンの使用がすすめられる
・HbA1cは過去の血糖平均と乖離する
参考資料:肝硬変患者の食事
1. エネルギー必要量栄養必要量 (生活活動強度別)1)を目安にする耐糖能異常のある場合:25~30 kcal/ kg標準体重/ 日
2. 蛋白必要量蛋白不耐症がない場合2) 1.0~1.5 g/kg/日蛋白不耐症がある場合:低蛋白食
3. 脂質必要量エネルギー比:20~25%
4. 食塩腹水・浮腫がある場合:5~7g/ 日
5. 分割食(4~6回/ 日)あるいは夜食(約200kcal相当)3)
1) 第六次改定日本人の栄養所要量(厚生労働省. 2000)2) 低アルブミン3.5 g/dL以下,Fisher比1.8以下,BTR3.0以下の場合にはBCAA顆粒を投与することがある.3) 肥満例では夜食を給与する場合には,1日の食事総量を変化させないが減量する必要がある.また,やせ例では,
夜食も含めて1日の食事総量の増加を検討する.夜食などはバランス食であることが望ましい.
⑧ステロイド使用者の血糖管理の注意点
グルココルチコイドによる血糖上昇のメカニズム
・肝臓糖産生亢進(糖新生系酵素遺伝子の発現増加)
・末梢(骨格筋、脂肪組織)でのインスリン感受性低下
(多量では直接作用としてインスリン分泌を軽度抑制)
グルココルチコイドによる血糖上昇
プレドニゾロン
・ピーク:3-4時間、持続:8-10時間
ヒドロコルチゾン
・ピーク:1-2時間、持続:5-8時間
グルココルチコイド投与は短期間(単回)でも副腎機能を抑制
・内因性分泌抑制・外因性の効果が消失
早朝低血糖、食後高血糖
プレドニゾロン10mg→0.1単位/kg 程度
体重60kg
20mg 12単位
30mg 18単位
60mg 36単位
50mg
24単位
4単位×3
6単位×3
・経口剤で良いコンロールが得られていた
グルココルチコイド使用下での糖尿病管理ーパルス・大量経口投与期ー
インスリン必要量の目安
・糖尿病の治療は受けていなかったがHbA1c6.2%
40mg
30単位
8単位×3
10単位×3
12単位×3
60-70%から開始
通常、血糖は午後から夕方にかけて上がりやすい従って、昼のインスリン使用量が相対的に多くなる
グルココルチコイド使用下での糖尿病管理ーパルス・大量経口投与期ー
・数日から1週間かけて血糖上昇効果が最大に
・耐糖能は「糖毒性」で悪化する
糖毒性:血糖上昇自体がインスリン分泌とインスリン感受性を悪化させる
頻回の血糖測定で経過を観察
毎食前は必須 パルスの際は(時々)食後2時間血糖も
食後は必須?次の食前血糖が十分に降下する状態なら急性合併症は起こる可能性は低い
以下は参考資料
循環器薬剤と低血糖・高血糖シベンゾリン(商品名シベノール)、ジソピラミド(商品名リスモダン、ノルペース)
・Vaughan-WilliamsのIa群に分類される薬剤の中で、上記2剤はNa channel blockerとしての作用だけでなく、弱いながらK channel blockerとしての働きも持つ。
・膵β細胞のATP-dependent K channelが閉鎖すると、Voltage dependent Ca2+ channelが開き、Ca2+ の流入が起き、インスリンが分泌されることとなる。
・高齢者、腎機能低下者は血中濃度があがりやすく、低血糖発症の高危険因子となる。
逆に二コランジル(商品名シグマート)で高血糖の心配をしなくていいのはなぜか?
ここに働く
シグマートは亜硝酸剤とATP-sensitive K channnel openerの合剤だが、β細胞のK channel には作用しない(受容体サブタイプが異なる)。従ってインスリン分泌には影響を与えない。
SMBGの限界を認識して使用していますか① 検査質の大型の測定装置に比べて当然誤差があるが、どの程度か認識していますか?
現行の血糖自己測定器は、2003年に発行された国際規格 ISO (International Organization for Standization) 15197 に準拠しています。国際規格 ISO 15197では、「血糖値75 mg/dl未満では、± 15 mg/dl、血糖値75 mg/dl以上では、± 20% 以内に測定値の95%以上が入っていること」となっている。
SMBG で300 mg/dlということは、実際の血糖は240~360の範囲であってもよい、という話
② blood glucoseとplasma glucoseの違いを認識していますか?
SMBGで測定しているのは、毛細血管血(全血)である。その上、ブドウ糖は末梢で消費されることを考えると、血糖値は動脈血>毛細血管血>静脈血である。
従って、SMBGの方が、静脈血サンプルの血漿中の血糖よりも、20 mg/dl程度高いのが普通
③ SMBGは、患者さんが家庭で血糖を測定することを前提に作成されている。
従って、救急現場で出会うアシドーシス、低体温、低血圧、ドーパミンやアセトアミノフェン、マニトールの使用下などでの性能が保証されている訳ではない。
④ 器種によって、酸素濃度やマルトースの影響を受けるものがある
SMBGの測定原理と器種による差異
SMBGの測定原理 グルコース・オキシダーゼ(GOD)
グルコース・デヒドロキシゲナーゼ(GD)
色素法
電極法:溶存酸素の影響を受ける
低酸素血症では高値誤差、高酸素血症では低値誤差
GDには2種類有る
①補酵素としてNADまたはNADPを必要とするGD②補酵素としてキノンまたはその類似化合物を必要とするGD②はグルコース以外の糖(アルトース、ガラクトース、イコデキストリンなど)とも反応する
ICUにおける血糖管理は、SMBGでは種々の影響を受けるため、不適切。動脈血ガス分析の値を用いるべき、という本もある
ICUにおける厳格な血糖管理:なぜLeuven’s study(外科ICU)だけが傑出してよかったのか?