Upload
others
View
8
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
1熊本大学文学部 横山 智
東南アジアの現在の焼畑
横山横山 智(熊本大学文学部智(熊本大学文学部 地理空間学研究室)地理空間学研究室)
焼畑の定義と起源(その1)
佐々木高明 1972 『日本の焼畑』 古今書院
熱帯および温帯の森林・原野において,(1)樹木あるいは叢林を伐採・焼却して耕地を造成し、(2)一定の期間作物栽培をおこなったのち、(3)その耕作を放棄し,耕地を他に移動する粗放的な農業
森林を伐採して火を入れる 野蛮・原始的
伐採・乾燥 火入れ・整地 作付け 収穫
休閑(約10年)
ある企業のCMから・・・・
「生きるために森を焼く人たちに、森を守ろう、という言葉は届かない」
焼畑による森林破壊:毎分約30,000m3
2002年10月3日毎日新聞朝刊一面広告
広告主が社会貢献活動として熱帯雨林保護に取り組むことをPRする内容。具体的には,焼畑から定着型農業への移行をパプアニューギニアで支援している。
火入れの効用と問題定義
野本寛一 1984 『焼畑民俗文化論』 雄山閣
焼畑農業の原点は「野火の効用」の発見だった
1. 意図的な野火(「野焼き」「山焼き」)をうながし,採集食物の繁殖増進を求める
2. 本格的な焼畑農業へと発展
CMでは、森林が燃えている状態が誇張され、焼畑のイメージは「森林を破壊する農法」とされている。はたして、焼畑は環境破壊の原因なのか?
焼畑農民には定着型の農業への移行が必要なのか?
焼畑に対する正しい理解を目指して・・・
福井勝義 1994 (掛谷誠編『環境の社会化』雄山閣)
ある土地を既存植生の伐採・焼却などの方法を用いることによって整地し、作物を短期間栽培したのち、放棄し、自然の遷移によりその土地を回復させる休閑期間をへて再度利用する、循環的な農耕である
1. 伐採・焼却のプロセスが「など」といったぼかした表現にされているのが特徴
2. 植生を自然の力で回復させて、再度土地を利用することである。すなわち、焼畑が持続的かつ循環的に自然を利用して行われる農耕であることが強調
この講演で何を話すか・・・
1. 現在、東南アジアで森林破壊とされている焼畑はいかにして生じたのか?
2. 森林減少の対策として東南アジア政府が実施している政策とはどのようなものなのか?
3. 焼畑に価値を求めるとしたら、どのような視点が大切なのか?
4. そして、焼畑は将来的にどうすべきなのか?
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
2熊本大学文学部 横山 智
照葉樹林帯とラオス北部の位置 ラオス北部の林相
ラオスの焼畑(伐採・整地後) ラオスの焼畑(火入れ)
ラオス北部の典型的な焼畑陸稲作 焼畑耕地に混作される作物(一例)
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
3熊本大学文学部 横山 智
焼畑耕地での陸稲収穫(穂摘み) 焼畑耕地での収穫後の刈跡放牧
ラオスの焼畑(休閑1年目) ラオスの焼畑(休閑2年目)
ラオスの焼畑(休閑3年目) ラオスの焼畑(萌芽再生を促す伐採方法)
東南アジア大陸部の焼畑は、二次林を使用する「叢林休閑式」である。休閑の初期段階でいかにして木本類の遷移を促し植生を回復させるかが大切。
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
4熊本大学文学部 横山 智
焼畑の持続性はどのようにして成り立つのか・・・
1. 土壌を攪乱しない
短期の耕作(1年間だけ)
火入れ後は耕起せずに「点播」
耕起しない
2. 萌芽を促進させる伐採方法の採用
無耕起で1年間の短期耕作のため、表土の攪乱は最低限に抑えられ、森林の二次遷移の進行は比較的スムーズ。東南アジア大陸部でみられる1年耕作焼畑の休閑期間は、おおむね10年前後。
焼畑の生態
作物栽培によって土壌の肥沃度は低下し、雑草を繁殖させる(現代農業では、農薬や肥料を投入して対処)
焼畑では長い休閑期間を設ける → 草本類から木本類へと植生が遷移し、樹木が回復すると、草本の雑草は自然に減少する
腐食した草本 葉 根 枝などが有機物とし 土壌に腐食した草本・葉・根・枝などが有機物として土壌に蓄積される
火入れの熱で有機物が分解されて養分が増加し、また同時に土壌が殺菌されて病虫害を防ぐ効果
地上の植物バイオマスは灰の形で土壌にもどされるため肥料になる
焼畑における休閑期間と土壌生産力
短期(1年間)の作付けで土地生産力が低下するレベル
10年 1年久馬(1990)を改変
7年 1年 耕作放棄
これ以上生産力を収奪するともはや簡単には回復を望めない限界的レベル
投入に見合うだけの産出もあげ得ない極限レベル
4年 1年放棄後に、このように土壌生産力が回復するかどうかも疑問である耕作放棄
人口増加と焼畑休閑期間の短縮
休閑1年目休閑4年目
A B C
伝統的な1年耕作焼畑
(集落人口100人)
人口が増加した時(集落人口200人)
Bの状態を継続させた時
(集落人口200人)
1耕地+11休閑地12年サイクル
1耕地+5休閑地6年サイクル
1耕地+3休閑地4年サイクル
人口の増加と共に耕地が不足する・・・
人口増加に対する政府の対策
人口増加は、耕地不足を発生させ、休閑期間を短縮。
この状態で焼畑を継続させると、休閑地の植生が回復せずに、最悪の場合、森林破壊へと至る。
政府は森林保護を目的に土地の用途と所有を明確化することを試みる(森林の囲い込み)。
東南アジアでは、森林所有権が政府に帰属(=国有林)しているため、中央政府が策定した森林政策によって、村落の森林を勝手に囲い込むことができる。
地形的に水田開発が困難
Vietnam
Thailand
LaosLaos SouthChinaSea
0
0 200kmChina
ラオスの事例
ラオスは、国土の70%が山地
焼畑で自給目的の陸稲栽培が営まれている
0
1,000
2,000m Cambodia
現金収入の多くは林産物の採取による
1993年: NBCA(国家生物多様性保護地域)の指定1996年: 土地法・森林法の制定。土地・森林区分と分
配の開始
ラオス政府による土地・森林区分と分配の開始
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
5熊本大学文学部 横山 智
「JICAによる土地森林分配の評価と政策提言」
Muangxay
LuangNamtha
Phongsaly
VietnamVietnamChinaChina
Myan-merMyan-mer
DienBien
LaiChau
Mengla
Jinghong
2003~2005年にかけて、JICAの依頼で調査を実施
森林の囲い込みで伝統的な村はどのように変化するか?
0 100km Vientiane
SayaboulyPhonsavang
LuangPhabang
Houayxay
ThailandThailand
PuaN
ナーサオ村
北部最大の都市ルアンパバーンまで車で約15分。集落は道路沿いに立地。ラオ人の集落。
ラオスにおける森林の囲い込み
土地・森林区分:(1)村落の土地を農地、居住地、森林に区分、(2)森林はさらに、a.保全林、b.保護林、c.生産林、d.再生林、e.衰退林に5区分。森林での焼畑は禁止。
土地・森林分配:各世帯に売買可能な土地の使用権を与 部 は
土地・森林区分が導入された村には区分地図の看板が設置
権を与える。山間部では5人の世帯で3区画、約3ha程度が基準。
土地・森林分配の目的:
生物多様性の保護、常畑への転換促進による焼畑面積の安定化(これ以上拡大させない)
ナーサオ村の土地利用(2003年)
農業目的に使用することはできない(全面積の62%)
村民に分配(192ha)
土地森林分配後のナーサオ村では・・・
土地利用 面積(ha) 家族 区画
ハトムギ 41.84 43 52
休閑地 78.04 49 82
水田/その他 37.75 40 -
Total 157.63 132
主要作物:主食の陸稲から商品作物のハトムギに変化
ハトムギCoix lacryma-jobi
ハトムギ:休閑地 = 1:2
ナーサオ村のハトムギ耕作システム
1 2 3 4 5 6 7 8 9
耕作
耕作
耕作
休閑休閑
区画A
区画B
区画C
(年)
休閑
休閑 耕作区画C 休閑
区画A
区画B区画C
3年間耕作・6年間休閑をわずか3カ所でローテーションする→ 持続的かどうか疑問である
ハトムギの耕作システム
森林政策と焼畑
土地森林分配に必要なもの
Standardized(標準化) と Uniformed(画一化)
ラオスでは、上記3点が揃っていない地域が多い。
(1)市場アクセス、(2)商品作物の仲買人、(3)常畑耕作システムの確立
(標準化) と (画 化)
Flexible(柔軟的) と Location-specific(地域性)
二次林(休閑地)の消失→有用な林産物の消失
耕地へ行く機会の減少→副次的生業活動が衰退
焼畑が消えることによって、同時になくなるもの
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
6熊本大学文学部 横山 智
焼畑と林産物採集
Muangxay
LuangNamtha
Phongsaly
VietnamVietnamChinaChina
Myan-merMyan-mer
DienBien
LaiChau
Mengla
Jinghong
2000~2002年にかけて、トヨタ財団のプロジェクト調査を実施
市場にもアクセスできない僻地で焼畑を営む山岳地域住民の収入源を調査。
0 100km Vientiane
SayaboulyPhonsavang
LuangPhabang
Houayxay
ThailandThailand
PuaN
ルアンパバーン県北部ウー川流域
カムー族、ラオ族、モン族の16集落を調査対象
平均世帯収入(160世帯)
300,000kip/世帯
1,000,000
(1ドル=9,000kip)
陸稲 商品作物
0 3 6km
ラオス北部山岳部(ウー川流域)の現金収入(2001)
平均農家世帯収入(136林産物 家畜
調査地域の小学校教諭(公務員): 311ドル
平均農家世帯収入(世帯):259ドル(林産物 48.9%, 家畜23.0%)
換金される林産物7種のうち6種が焼畑休閑地から
焼畑二次林から採取されていた経済価値を持つ林産物
カルダモン(漢方・香辛料)Amomum villosum
安息香(香料)Styrax tonkinensis
和名・英名なし(線香のつなぎ)
B h i
ヤダケガヤ(ほうき)Thysanolaena latifolia
野生ショウガの実(漢方)Alpinia galanga
Boehmeria sp.
カジノキ(紙)Broussonetia papyrifera
焼畑二次林と林産物の関係
休閑年数
林産物1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
カルダモン
安息香
プアクムアック
採取量: 少量 普通
プアクムアック
カジノキ
野生ショウガ
ヤダケガヤ
山地部の住民は、どの休閑年数から何が採取されるのか理解している。また、多様な森林が存在する休閑林は、収入源としても重要で、焼畑は重要と認識している。
「有用植物採取地図」プロジェクト
Muangxay
LuangNamtha
Phongsaly
VietnamVietnamChinaChina
Myan-merMyan-mer
DienBien
LaiChau
Mengla
Jinghong
2003~2006年にかけて、地球研のプロジェクト調査を実施
住民の植物利用を地図化し、どの森から何を採取しているか明らかにする。
0 100km Vientiane
SayaboulyPhonsavang
LuangPhabang
Houayxay
ThailandThailand
PuaN
フエイペー村
ポンサリー県コア郡の道路から歩いて30分の山の中に立地。アカ・ニャーウー人の集落。
フエイペー村の調査ルートと有用植物採取位置(2005年)
8月24日(3.2km) 焼畑休閑地 密
8月21日(3.5km) 焼畑休閑地、密な森林、キャッサバ畑、小川沿い
8月22日(1.3km)焼畑休閑地、 密な森林、旧集落跡地
畑休閑地、密な森林、小川沿い、道路沿い
8月20日(7.8km)焼畑休閑地、密な森林、焼畑耕地、道路沿い
森林、 集落跡
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
7熊本大学文学部 横山 智
フエイペー村における有用植物の採取空間(2005年)
大区分 小区分 採取数
集落 集落および幹線道路 13
集落近傍の小道 11
集落跡地 5
農地 キャッサバ畑および脇 6
焼畑の脇 1
焼畑と森林の間 3
フエイペー村を調査した結果、134点の有用植物を確認した。そのうち67点が焼畑と関係する土地(うち63点は焼畑休閑地)から得られた。
焼畑と森林の間 3
森林 短期休閑(5年未満) 36
長期休閑(5年以上) 27
密な森林 18
竹林 4
水系 河川内部 1
河川脇 10
計 134現地調査(落合雪野氏と共同調査)により作成
日常生活のさまざまな場面で使用される植物
「どぶろく 用のストロ 新生児誕生時の魔除け
食料(クレソン)薬草
「どぶろく」用のストロー 新生児誕生時の魔除け
インタビューで住民の空間認知を把握する試み(2007年)
9区分した空間(焼畑耕地・休閑1年目・休閑2~4年・休閑5~6年・休閑7~20年・20年以上・幹線道路沿い・小道・河川とその周辺)から、それぞれ採集し、利用している植物最大3種類について、全43世帯に対して呼称、用途、利用部位を聞き取る。実際に、インフォーマントが言及した植物の生育する位置を確認し、標本を採集する。
かく乱環境から集める
耕地 1 2-4 5-6 7-20 20- 幹線 小道
シプヤム 14 5 1
ダロゴニュ 18 4 5 1
シプアパ 12 2 4 2
コディヤム 13 11 1 1コディヤム 13 11 1 1
フチャナボ 7 10 3 1
ダーハ 6 1
セホコカ 1 31
シゲナジュ 5
パロアパ 1 8
シプヤム・コディヤム:キク科草本、ダロゴニュ:カニクサのなかま、フチャナボ:チドメグサのなかま、セホコカ:Momordica charantia
耕地は作物を栽培するためだけの空間ではない
焼畑耕地で食べられる雑草とキノコ
左から、「シプヤム」、「コディヤム」、「ダロゴニュ」、「アフフチ」
植生の変化とともに
耕地 1 2-4 5-6 7-20 20- 幹線 小道
ロト 15 2ルピャ 7 5 1セピ 8 2 1ウチュペザ 3 4 2 1トゥシアボ 2 4 4アポポド 1 4 1 2マーソ 1 4 8ログドペ 4 15ビュウアスィ 1 3 1アブシャウ 4スーショスーシ 18
ルピャ:Macaranga sp.
椎葉村講演会 焼畑(パワーポイント資料) 2007年9月8日
8熊本大学文学部 横山 智
多様な空間の認識
耕地 1 2-4 5-6 7-20 20- 幹線 小道 水系
ソロ 6 12 11 6 1 1ポロ 6 7 10 8 2ミチェミレ 6 11 12 2 1
色々な場所で採集可能
耕地 1 2-4 5-6 7-20 20- 幹線 小道 水系
ダーレ 27ウーユ 11アゴゴニュ 12ブーツィ 13アジオパ 8
水系は別の場所
焼畑を実施する村民の空間認知から分かること
(1)住民の生業
「焼畑農耕民」ではなく、「狩猟・採集・漁労・農耕・牧畜民」? 複合的生業 (狩猟、採集、漁労、農耕、牧畜の5本柱)
(2)住民の空間認知
生活にかかわる植物とその生育環境との相関がはっきり生活にかかわる植物とその生育環境との相関がはっきりしている。単に、位置の問題ではなく、住民は耕地から森林に至るまでの動態を利用している。
(3)住民の生活空間の構造
人の活動、植生の遷移、水環境によって形成される区分を含んだセットとして,生活空間が存在する。
焼畑を考える視点
焼畑という用語がもつ意味領域の限界を痛感
学問のテリトリーが理解の妨げの原因か?
焼畑を耕地として考える農学者
→ 「農業」だけでは、生活は完結しない。
焼畑が終わった後の二次林だけ考える林学者
「 産物 集 だ 態 す が→ 「林産物採集」だけで、この利用実態を表すことができない。
耕地とも森林ともカテゴライズできない空間もある。しかも,その空間が内包する有用植物の種類が時間とともに変化
→ すべての生業活動を動態として理解する視点
→ 生業と空間を結びつける視点
焼畑を見る視点
「農地」として他の農法(特に水田)と比較され、収量の低さや労働投下量の多さなどが指摘される
農19
東南アジア大陸部の焼畑を見るこれまでの視点
焼畑は、耕地と森林の両側面→定期的に人の手によって火入れ
焼畑を見るこれからの視点
2
3
45
6
7
8集落
定期的に人の手によって火入れされ攪乱された結果、植生が変化→変化することで異なった有用植物を入手する場となる。耕地から森林までの全ての空間が住民にとって機能と役割を持つ
すなわち「森畑」
休閑地の価値も考慮した焼畑研究の蓄積が必要