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1.まえがき 我が国は,水素エネルギーをCO 2 フリーなエネルギーと しての新たな選択肢の一つに位置付け,積極的な施策を展 開している。経済産業省が 2017 年 12 月に公表した「 水素 基本戦略」 を起点として,水素閣僚会議が2018年10月 に採択した東京宣言 や,水素・燃料電池戦略協議会が 2019年9月に策定した水素・燃料電池技術開発戦略 によ り,取り組みの具体化が進んでいる。 このような背景の下,東芝グループは,「 水素基本戦略」 で掲げられたエネルギーセキュリティーの確保とCO 2 排出量 の削減という課題に対応し,再生可能エネルギー由来の水素 ( 以下,再エネ水素と略記 )を利活用するソリューション事 業を推進しており,純水素燃料電池システム( H2Rex™ ), 分散電源システム( H2One™ ),余剰電力を水素に変換す る大規模設備( P2G )などを開発・展開している ⑷-⑹ 。これ らのシステムを広範囲に普及させて水素社会を実現していく には,顧客がシステムを安全かつ安定的に運用するための 仕組み作りが重要となる。 これまで,東芝エネルギーシステムズ( 株 )が製造・販売し てきたH2Rex™とH2One™には,遠隔で運転状態を監視・ 制御する水素エネルギーマネジメントシステムH2EMS™が 搭載されていた が,このシステムは,個別の水素エネル ギーシステムのニーズに対応したものであった。 そこで,今回新たに,水素エネルギーシステムの運用を 容易にするCPS( サイバーフィジカルシステム)ソリューショ ンである “ 運転・保守デジタルサービスシステム” を,東芝 IoTリファレンスアーキテクチャーに基づいて構築し,状態 監視・制御機能を具備したシステムとして,クラウドシステ ム上の共通プラットフォーム “水素 IoTクラウド” に実装した。 ここでは,開発した運転・保守デジタルサービスシステムの 特長やサービスの内容を中心に述べる。 2.運転・保守デジタルサービスシステムの機能と特徴 2.1 システムの概要 図1 に,今回開発した運転・保守デジタルサービスシステ ム全体の概念図を示す。H2Rex™,H2One™及び P2Gに 搭載されているH2EMS™には,運転データが逐次記録され ている。運転・保守デジタルサービスシステムは,これらの 運転データをクラウドシステムに収集する。収集されたデー タは,目的に応じたデータベース( DB )によって管理され, 運転履歴としてダッシュボード上で可視化される。必要に応 33 東芝レビュー Vol. 75 No. 3 (2020年5月) SPECIAL REPORTS 水素エネルギーシステムの状態監視・制御を 実現するクラウド型デジタルサービス Cloud-Based Digital Service for Monitoring and Control of Hydrogen Power Generation Systems 田上 哲治 TANOUE Tetsuharu 八城 美里 YATSUSHIRO Misato 熊澤 俊光 KUMAZAWA Toshimitsu 東芝グループは,我が国の「 水素基本戦略」で掲げられたエネルギーセキュリティーの確保及び CO 2 ( 二酸化炭素 )排出 量の削減という課題に対応し,再生可能エネルギー由来の水素を利用した水素エネルギーシステムを開発・提供している。 ユーザーがシステムを安全かつ安定的に運用するために,その運用を容易にする状態監視・制御機能を具備したデジタル サービスを開発した。このサービスは,東芝 IoTリファレンスアーキテクチャーに基づくクラウドシステム上の共通プラット フォームに実装しており,IoT( Internet of Things )データを用いて水素の貯蔵量や太陽光発電量のトレンドなどを確認 できるダッシュボードや,不具合発生時の電子メール発報サービス,遠隔保守などのサービスを提供できる。 In line with the Basic Hydrogen Strategy being promoted by the Japanese government, the Toshiba Group is making continuous efforts to develop technologies both to secure stable energy sources from the standpoint of energy security and to reduce carbon dioxide (CO2) emissions, and to deliver a broad range of hydrogen power generation systems that can produce hydrogen using renewable energy and utilize the produced hydrogen as a fuel for power generation. As part of these efforts, we have developed a cloud-based digital service incorporating monitoring and control functions that is implemented on a common platform compatible with the Toshiba IoT Reference Architecture. This service includes (1) a dashboard to grasp trends, such as the amounts of hydrogen and photovoltaic (PV) power generation, using Internet of Things (IoT) data, (2) an email notification service in the event of a problem, and (3) a remote maintenance service.

水素エネルギーシステムの状態監視・制御を 実現するクラウド型 … · 析や評価検証を実現している。 2.2.1 システム構成 運転データを集約するための環境として,データ分析基

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Page 1: 水素エネルギーシステムの状態監視・制御を 実現するクラウド型 … · 析や評価検証を実現している。 2.2.1 システム構成 運転データを集約するための環境として,データ分析基

1.まえがき

我が国は,水素エネルギーをCO2フリーなエネルギーとしての新たな選択肢の一つに位置付け,積極的な施策を展開している。経済産業省が2017年12月に公表した「 水素基本戦略 」 ⑴を起点として,水素閣僚会議が2018年10月に採択した東京宣言⑵や,水素・燃料電池戦略協議会が2019年9月に策定した水素・燃料電池技術開発戦略⑶により,取り組みの具体化が進んでいる。このような背景の下,東芝グループは,「 水素基本戦略 」で掲げられたエネルギーセキュリティーの確保とCO2排出量の削減という課題に対応し,再生可能エネルギー由来の水素(以下,再エネ水素と略記)を利活用するソリューション事業を推進しており,純水素燃料電池システム(H2Rex™),分散電源システム(H2One™),余剰電力を水素に変換する大規模設備(P2G)などを開発・展開している⑷-⑹。これらのシステムを広範囲に普及させて水素社会を実現していくには,顧客がシステムを安全かつ安定的に運用するための仕組み作りが重要となる。これまで,東芝エネルギーシステムズ(株)が製造・販売してきたH2Rex™とH2One™には,遠隔で運転状態を監視・

制御する水素エネルギーマネジメントシステムH2EMS™が搭載されていた⑺が,このシステムは,個別の水素エネルギーシステムのニーズに対応したものであった。そこで,今回新たに,水素エネルギーシステムの運用を容易にするCPS(サイバーフィジカルシステム)ソリューションである“ 運転・保守デジタルサービスシステム ”を,東芝IoTリファレンスアーキテクチャーに基づいて構築し,状態監視・制御機能を具備したシステムとして,クラウドシステム上の共通プラットフォーム“ 水素IoTクラウド ”に実装した。ここでは,開発した運転・保守デジタルサービスシステムの特長やサービスの内容を中心に述べる。

2.運転・保守デジタルサービスシステムの機能と特徴

2.1 システムの概要図1に,今回開発した運転・保守デジタルサービスシステ

ム全体の概念図を示す。H2Rex™,H2One™及びP2Gに搭載されているH2EMS™には,運転データが逐次記録されている。運転・保守デジタルサービスシステムは,これらの運転データをクラウドシステムに収集する。収集されたデータは,目的に応じたデータベース(DB)によって管理され,運転履歴としてダッシュボード上で可視化される。必要に応

33東芝レビューVol. 75 No. 3 (2020年5月)

SPECIAL REPORTS

水素エネルギーシステムの状態監視・制御を実現するクラウド型デジタルサービスCloud-Based Digital Service for Monitoring and Control of Hydrogen Power Generation Systems

田上 哲治 TANOUE Tetsuharu  八城 美里 YATSUSHIRO Misato  熊澤 俊光 KUMAZAWA Toshimitsu

東芝グループは,我が国の「 水素基本戦略 」で掲げられたエネルギーセキュリティーの確保及びCO2(二酸化炭素)排出量の削減という課題に対応し,再生可能エネルギー由来の水素を利用した水素エネルギーシステムを開発・提供している。ユーザーがシステムを安全かつ安定的に運用するために,その運用を容易にする状態監視・制御機能を具備したデジタルサービスを開発した。このサービスは,東芝IoTリファレンスアーキテクチャーに基づくクラウドシステム上の共通プラットフォームに実装しており,IoT(Internet of Things)データを用いて水素の貯蔵量や太陽光発電量のトレンドなどを確認できるダッシュボードや,不具合発生時の電子メール発報サービス,遠隔保守などのサービスを提供できる。

In line with the Basic Hydrogen Strategy being promoted by the Japanese government, the Toshiba Group is making continuous eff orts to develop

technologies both to secure stable energy sources from the standpoint of energy security and to reduce carbon dioxide (CO2) emissions, and to deliver

a broad range of hydrogen power generation systems that can produce hydrogen using renewable energy and utilize the produced hydrogen as a fuel

for power generation.

As part of these eff orts, we have developed a cloud-based digital service incorporating monitoring and control functions that is implemented on a

common platform compatible with the Toshiba IoT Reference Architecture. This service includes (1) a dashboard to grasp trends, such as the amounts

of hydrogen and photovoltaic (PV) power generation, using Internet of Things (IoT) data, (2) an email notification service in the event of a problem, and

(3) a remote maintenance service.

Page 2: 水素エネルギーシステムの状態監視・制御を 実現するクラウド型 … · 析や評価検証を実現している。 2.2.1 システム構成 運転データを集約するための環境として,データ分析基

積されたデータを基に処理を行い,その処理結果を分析基盤上のDBやMicrosoft Azureが提供するBlob Storageなどの各種ストレージに蓄積する。蓄積された時系列データは,ダッシュボードツールのGrafanaにより,ストレージ上から簡単に取得できる。2.2.2 運用事例燃料電池のデータ分析機能で日常的な監視に用いられる代表的なグラフ例として,図3⒜に,1日の稼働状況を確認するためのデイリートレンドグラフを示す。H2Rex™の電池電流に対し,セルの電圧の平均値や,水素燃料流量,アノードブロワー出力,燃料利用率などを同時に確認できるようになっており,同様なグラフを保守・監視に必要なデータの組み合わせで複数出力している。また,システムの長期変化を確認するため,累積発電時間を横軸に取ったグラフ(図3⒝)を作成したり,評価指標間の相関関係を運転時間別にプロットしたり(図4)することで,長期的な変化を確認できる。これらの基本的なグラフは,レポートとして随時出力され,監視業務に活用されている。更に,トラブル発生時には,重要な時刻やその時刻における計測値を即時に確認でき,早期の原因究明と復旧を可能としている。

じて顧客にも展開し,保守サービス計画にも活用される。監視対象のシステム・機器ごとの各種エンジニアリング情報は,体系化され,収集した運転データと関連付けることで,異常時の原因究明や設備改善の解析などに活用できる。2.2 データ収集・分析・状態可視化機能各地に導入・設置されたH2Rex™やH2One™に対し,適切なタイミングで運転監視と保全管理を行っていくためには,クラウドシステムに集約された運転データを簡易に取得し,適切なデータを抽出した上で活用する必要がある。東芝グループは,水素エネルギーシステムを構成する機器の特性やシステム全体の運用に関するノウハウと知見から,独自の指標を採用して活用することで,より高度で効率的な分析や評価検証を実現している。2.2.1 システム構成運転データを集約するための環境として,データ分析基盤をクラウドサービスであるMicrosoft Azure上に構築した(図2)。データ分析基盤は,Kubernetesを利用しており,各種アプリケーションを搭載したDockerコンテナを効率良く管理できる。データ分析基盤では,REST API(Representational State Transfer Application Program Interface)を介して必要な逐次運転データを周期的にMeister RemoteX™(当社製の設備メーカー向けアセットIoTクラウドサービス)から取得し,InfluxDBと呼ばれる時系列データ向けDBに蓄積している。分析・評価検証を行う各種システムは,蓄

東芝レビューVol. 75 No. 3 (2020年5月)34

図1.運転・保守デジタルサービスシステム概念図H2Rex™,H2One™及びP2Gの各機器に搭載されているH2EMS™から収集した運転データを設計情報と合わせて分析・評価し,運転・保守活動を行う。Conceptual diagram of cloud-based digital service

水素製造装置

水素貯蔵タンク

水素燃料電池

システム制御

エンジニアリング情報

設計情報図面情報

IoTサーバー

(統合WEB)

ソリューション

クラウドサービス

H2ビュー ダッシュボード

データ分析

故障予測

資源管理

最適演算 AI統

合DB

データソース

運転

データ

データ収集・蓄積,システム運用・ユーザー管理

管理DB

H2One™

H2Rex™

P2G

図2.運転・保守デジタルサービスシステムの構成クラウドサービスのMicrosoft Azure上に構築されており,Meister RemoteX™,データ分析基盤を主軸として構成されている。System configuration of cloud-based digital service

データ蓄積・

見える化

Microsoft Azure

Kubernetesデータ分析基盤

データ分析・故障予測コンテナ

データ連係コンテナ

Grafanaコンテナ

H2One™,H2Rex™

EMS IoT GWデータ送信モジュール

Meister RemoteX™

UIDB REST APIIoTハブ

データ分析

故障予測

資源管理

最適演算統

合DB

クラウドサービス

Blob StorageAI

InfluxDBコンテナ

ソリューション

分析・予測結果ファイル

分析・故障予測

サイト

UI:ユーザーインターフェース  EMS:Energy Management SystemGW:ゲートウェイ

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3.運転・保守デジタルサービスシステムを活用したサービスの概要

水素エネルギーシステムH2Rex™・H2One™は,水素エネルギーマネジメントシステムH2EMS™によって自動運転制御され,運転員や監視員は不要である。これに加え,顧客が更に安心して使えるように,当社は,今回実装した運転・保守デジタルサービスシステムを用いて,図5に示すような,監視機能や遠隔保守サービスを提供している。これらのサービスについて,以下に説明する。3.1 Web監視ダッシュボードによる見える化ダッシュボード画面(図6)では,システムフロー図上にユーティリティーの温度,圧力情報などを掲載し,水素の貯蔵量や太陽光発電量などが確認できる。また,日中のトレンドデータを示し,エネルギーの可視化を可能にしてい

る。ダッシュボードは,通常のWebブラウザーを用いて閲覧できるため,モバイル端末でも利用できるほか,水素エネルギーシステムに隣接してサイネージを設置し,ダッシュボードを表示することでシステムの効果をアピールすることも可能としている。3.2 メール発報サービスシステムの運転状態を定期的にレポートするメールをシステムから発報することで,運用メンバーによる日常監視業務を簡易化できる。また,不具合発生時には,故障情報や故障モードなどを即時にメールで発報するので,迅速に不適合の通知と情報共有が行える。メール発報は,顧客の要求レベルに応じて任意に設定可能である。3.3 リモートデスクトップ接続による遠隔保守リモートデスクトップ接続によるメンテナンスが可能である。故障発生時に,システム状態の確認やパラメーターの変

SPECIAL REPORTS

水素エネルギーシステムの状態監視・制御を実現するクラウド型デジタルサービス 35

図5.運用・保守デジタルサービスシステムが提供するサービストレンドデータの確認ができるWeb監視ダッシュボードや,不具合発生時のメール発報サービス,リモートメンテナンスによる遠隔保守などが提供できる。Services provided by cloud-based digital service

クラウドサービス水素IoTクラウド

データ収集 分析・評価

インターネット網

ナレッジ保守記録

東芝エネルギーシステムズ(株)顧客

水素エネルギーシステム

サービス提供

見える化メール通知 遠隔保守

図4.H2Rex ™の計測項目間における相関グラフの例水素燃料電池の計測項目間の関係が,運転時間の経過によってどのように変化しているかを確認できる。Example of correlation diagram of H2Rex™

電池電流(任意単位)

運転時間 0~3,644 h運転時間 3,645~7,289 h運転時間 7,290~10,934 h運転時間 10,935~14,578 h

サンプル周期:10分,サンプル数:87,473

セル電圧平均値(任意単位)

運転時間 0~3,64運転時間 3,645~運転時間 7,290~運転時間 10,935~

図3.H2Rex ™の時系列計測データの表示例水素燃料電池の燃料に関する各種計測データを時系列に表示したグラフが,毎日定時にレポートとして生成され,短期的なトレンドを確認できる。また,横軸を累積発電時間としたグラフから長期的トレンドも確認できる。Examples of displays showing time-series measurement data of H2Rex™ hydrogen fuel cell system

⒜ 短期トレンドの表示例 ⒝ 長期トレンドの表示例

セル当たりの平均電圧(任意単位)

水素燃料流量FT001(任意単位)

アノードブロワー出力BL5(任意単位)

燃料利用率Uf(任意単位)

電池電流(任意単位)

00:00 03:00 06:00 09:00 12:00

時刻

15:00 18:00 21:00 24:00

セル当たりの平均電圧(任意単位)

水素燃料流量FT001(任意単位)

アノードブロワー出力BL5(任意単位)

燃料利用率Uf(任意単位)

電池電流(任意単位)

0 500 1,000 1,500累積発電時間(h)

2,000 2,500

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更・調整が遠隔で行える。これにより,故障箇所の特定やシステム復旧の迅速化に貢献できる。

4.新たな付加価値を創造するデジタルサービス

4.1 様々なデジタルサービスを実現する機能体系H2EMS™は,水素エネルギーシステムを様々な目的で運用するために必要な,予測機能,計画機能,制御機能を備えている。これらH2EMS™の機能や,運転・保守デジタルサービスシステムの保守・監視機能に加え,エネルギーの分散化に対応した電力安定化機能や,電力自由化に対応した電力取引機能,システムの運用実績を評価する分析支援機能なども開発・実装を進めている(図7)。また,保守・監視機能も,より効率的な保守を実現するため,故障の予兆診断などの機能拡張を進めている。4.2 故障の予兆診断水素エネルギーシステムは,水素を“ つくる ”,“ ためる ”,“ つかう ”の一連の機能を実行するためのコンポーネントと,蓄電池システムや制御システムなどの機器から構成されており,水,ガス,電気のユーティリティーが混在した複雑なシステムである。これらのコンポーネントやユーティリティーに対し,系統ごとに故障の予兆診断を行い,システム全体としての最適な保守メンテナンス時期を提供する。これにより,客先の保守コストを低減させ,かつ運転時間の長期化が図れる。図8に,故障の予兆診断の実施例を示す。実際

に故障が発生した運転データを開発中の予兆診断ツールで処理し,その故障を発生前に判断できることを確認した。このように,各コンポーネントやユーティリティー系統のデータを組み合わせ,システム全体の故障の予兆診断を実現する技術を開発している。

東芝レビューVol. 75 No. 3 (2020年5月)36

図6.ダッシュボードの画面例水素の貯蔵量や太陽光発電量のトレンドなどが確認できる。Example of dashboard display

図7.水素エネルギーシステム向けデジタルサービスの処理フロー水素エネルギーシステムを運用するために必要な機能とその入出力関係を示す。時間的な制約が少ない機能は,水素IoTクラウドに実装している。Flow of processes for cloud-based digital service

計画

保守・監視

分析支援

制御

機器操作

電力安定化

劣化・故障情報 効率・コスト

発電量,電力・熱・水素需要

発電量,電力・熱・水素需要

監視・稼働データ

売買量

稼働データ

監視・稼働データ

監視データ系統出力電力

H2Rex™H2One™

電力・熱・水素需給量電力・熱・水素需給量

装置運転出力装置運転出力

電力取引

状態監視・データ収集

水素IoTクラウド水素IoTクラウド装置停止期間

電力市場気象情報イベント情報

予測

Page 5: 水素エネルギーシステムの状態監視・制御を 実現するクラウド型 … · 析や評価検証を実現している。 2.2.1 システム構成 運転データを集約するための環境として,データ分析基

5.あとがき

水素は,再生可能エネルギーの変動吸収やモビリティーの燃料としての役割を期待されており,今後,地域コミュニティ内で利活用されていくと考えられる。また,再生可能エネルギーを中心とした電力供給だけでなく,鉄道交通や通信などインフラネットワーク内でのセクターカップリングの実現主体としても水素の活用が期待されている。こういった地域コミュニティやインフラネットワークの中で水素エネルギーを利活用する際には,デジタルサービスを活用することで,更に多くの付加価値を提供できる。東芝グループは,最先端のデジタル化技術を用い,来るべき水素社会に向けて,今後も新たな顧客サービスを提供していく。

文 献

⑴ 再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議.水素基本戦略.経済産業省,2017,34p.<http://www.meti.go.jp/press/2017/12/20171226002/20171226002-1.pdf >,(参照 2020-01-10).

⑵ 水素閣僚会議.東京宣言.経済産業省,2018,3p.<https://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181023011/20181023011-4.pdf >,(参照 2020-01-10).

田上 哲治 TANOUE Tetsuharu

東芝エネルギーシステムズ (株)水素エネルギー事業統括部 フィールド・サービス部Toshiba Energy Systems & Solutions Corp.

八城 美里 YATSUSHIRO Misato

東芝デジタルソリューションズ (株)ICT ソリューション事業部 O&M・IoT ソリューション&サービス部Toshiba Digital Solutions Corp.

熊澤 俊光 KUMAZAWA Toshimitsu

研究開発センター 知能化システム研究所システム AI ラボラトリー情報処理学会・エネルギー ・資源学会会員System Engineering Lab.

⑶ 水素・燃料電池戦略協議会.水素・燃料電池技術開発戦略.経済産業省,2019,17p.<https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190918002/20190918002-1.pdf >,(参照 2020-01-10).

⑷ 中島良, 山田正彦.水素製造や燃料電池など水素社会に向けた技術への取組.電気評論.2014,99,11,p.38‒42.

⑸ 吉野正人,ほか.高効率な水素電力貯蔵システム.東芝レビュー.2015,70,5,p.8 ‒11.

⑹ 小野田裕之,ほか.再生可能エネルギーを用いた自立型水素エネルギー供給システム.電気設備学会誌.2016,36,4,p.234 ‒ 237.

⑺ 佐藤純一,ほか.水素エネルギーマネジメントシステムH2EMS™の開発.東芝レビュー.2016,71,5,p.51‒ 55.<https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2016/05/71_05pdf/b06.pdf >,(参照 2020-01-10).

SPECIAL REPORTS

水素エネルギーシステムの状態監視・制御を実現するクラウド型デジタルサービス 37

図8.故障の予兆診断の実施例実際に故障が発生した運転データを予兆診断ツールで処理し,故障が発生前に予兆を捉えて運転制御につなげるための判断ができることを確認した。Example of failure predictive diagnosis

交流出力電流(任意単位)

7/19 7/21 7/23 7/25

異常停止発生日付(月/日)

7/27

異常停止の予兆を捉えて運転制御につなげる

異常停止前後のクラスターが同一(正常稼働→異常停止→正常稼働の復帰動作を確認した)

!