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災害情報とラジオの機能 ─ 19 ─ 災害情報とラジオの機能 社会学部メディアコミュニケーション学科教授 島崎 哲彦 日本放送協会ラジオセンター 山下  信 【要旨】 本稿では、2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災時に、ラジオは被災地においてどの ような機能を果したのか、同時に首都圏で発生した帰宅困難者に対してどのような機能を果 したのかについて調査結果を分析して明らかにし、阪神淡路大震災でも言われた災害時にお ける情報メディアとしてのラジオの有用性を検証しようと試みた。 その結果、被災地では被害の甚大さと停電、通信網の切断のため、ほとんどのメディアの 利用が困難になるなか、他メディアを圧倒して ( 電池式 ) ラジオが避難所居住者に情報源と して利用されたことが判明した。また、「余震の可能性や規模の見通し」「水道・ガス・電気・ 電話の復旧の見通し」「救援活動の状況」「原子力発電所の状況」「病院」といった情報につ いて、ラジオの有用性が評価されたことが検出された。したがって、災害時の情報伝達メディ アとしてのラジオの有用性は、東日本大震災においても検証されたといえる。 【キーワード】 ラジオの機能、災害情報、東日本大震災、避難所居住者、帰宅困難者 【目次】 1.はじめに 2.災害情報とラジオの機能 3.東日本大震災による避難所居住者にとってのラジオ 4.首都圏の帰宅困難者にとってのラジオ 5.被災地 3 県でのラジオ放送の内容 6.まとめ

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災害情報とラジオの機能

─ 19 ─

災害情報とラジオの機能

社会学部メディアコミュニケーション学科教授

島崎 哲彦日本放送協会ラジオセンター

山下  信

【要旨】

 本稿では、2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災時に、ラジオは被災地においてどの

ような機能を果したのか、同時に首都圏で発生した帰宅困難者に対してどのような機能を果

したのかについて調査結果を分析して明らかにし、阪神淡路大震災でも言われた災害時にお

ける情報メディアとしてのラジオの有用性を検証しようと試みた。

 その結果、被災地では被害の甚大さと停電、通信網の切断のため、ほとんどのメディアの

利用が困難になるなか、他メディアを圧倒して ( 電池式 ) ラジオが避難所居住者に情報源と

して利用されたことが判明した。また、「余震の可能性や規模の見通し」「水道・ガス・電気・

電話の復旧の見通し」「救援活動の状況」「原子力発電所の状況」「病院」といった情報につ

いて、ラジオの有用性が評価されたことが検出された。したがって、災害時の情報伝達メディ

アとしてのラジオの有用性は、東日本大震災においても検証されたといえる。

【キーワード】

ラジオの機能、災害情報、東日本大震災、避難所居住者、帰宅困難者

【目次】

1.はじめに

2.災害情報とラジオの機能

3.東日本大震災による避難所居住者にとってのラジオ

4.首都圏の帰宅困難者にとってのラジオ

5.被災地 3 県でのラジオ放送の内容

6.まとめ

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1.はじめに 2011 年 3 月 11 日 ( 金 ) 午後 2 時 46 分に発生した東日本大震災は、岩手、宮城、福島の東

北 3 県を中心とする東日本に地震と津波による甚大な被害をもたらし、被災地で多くの避難

民を生じさせると同時に、首都圏においてもJR・私鉄の運行停止により多くの帰宅困難者

を生じさせた。これら被災地の避難民も首都圏の帰宅困難者も、地震発生後さまざまな内容

の情報要求から、各種のメディアに接触を試みる情報行動を行っている。では、避難民、帰

宅困難者に対して、どのメディアがどのような機能を果したのか。

 1995 年の阪神・淡路大震災における芦屋市と宝塚市の調査結果 1) では、地震直後芦屋市

では 98.6%、宝塚市では 97.2% が停電し、復旧時間との関係もあろうが、もっとも役に立っ

た情報を得たメディアは、芦屋市では「NHKラジオ」46.8%、「NHKテレビ」33.8%、「大

阪の民間テレビ」25.9%、「大阪の民間ラジオ」22.5%、宝塚市では「NHKテレビ」60.4%、「大

阪の民間テレビ」49.6%、「NHKラジオ」35.8%、「大阪の民間ラジオ」23.0% であった。こ

のため、被災地の情報伝達にラジオの果す役割が大きいと言われてきた。

 では、今回の東日本大震災では、ラジオはどのような役割を果したのであろうか。本稿で

は、この点を明らかにしようと試みた。

2.災害情報とラジオの機能 中村功は、災害に関連して必要とされる情報として、被害情報、職員の招集・安否情報、

ライフライン情報といった防災組織にとって必要な情報と、避難関連情報、生活情報、安否

情報といった住民に必要な情報、さらには住民向けの事前啓発情報とさまざまな情報がある

としている 2)。本論では、対象を災害発生時に住民が必要とする情報に限定するが、それら

の情報の伝達メディアとして、中村は表 1 に示すメディアをあげている。

表 1 住民に必要な情報とメディア

( ) ( )( )

( )

( ) ()

7 2008 86

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災害情報とラジオの機能

─ 21 ─

 ここで、電波・通信媒体に絞って災害情報との関連をみると、中森広道は「広い範囲の多

くの人々に同時に、また速やかに情報を伝えることができることから、同時性や速報性に長

けている」3) が、「情報は一過性のもので、見逃したり、聞き逃したり、聞き流したりして

しまう」4) という短所も指摘している。

 では、電波・通信メディアのなかでもラジオは、災害情報との関連でどのように位置付け

られているのか。宮田加久子は、速報性にもっとも優れており浸透度が高い上、番組の編成

も自由だが、聴取率が低く、情報が瞬間的であるという問題点も指摘している 5)。

 なお、ラジオの放送現場からは、1995 年の阪神・淡路大震災時に地震担当記者であった

大牟田智佐子が、当時のラジオの報道内容は、①記者やアナウンサーが被災地から入れる中

継、あるいは電話リポート ( 現状など )、②報道スタジオから伝えるニュース ( 被害情報や政

府・行政の動きなど )、③生活情報 ( ライフラインや生活再建にかかわる情報 )、④災害対策

本部などのやりとり ( 被災者へのお知らせも含む )、⑤リスナーからのFAXや電話 ( 現在な

らメール )、⑥励ましの音楽の要素で構成されたものであったとしている 6)。

3.東日本大震災による避難所居住者にとってのラジオ では、東日本大震災で被災し、避難所生活をしている人々は、被災直後の数日間でどのよ

うな情報要求の下にどのような情報メディアを利用したのか。この点を明らかにするために、

( 株 ) サーベイリサーチセンターが宮城県の避難所で実施した調査 7) の結果を再分析した。

 表 2 に示す「地震発生から数日間で知りたかった情報」では、「家族・知人の安否」(67.4%)

が最も多く、「地震や津波の被害状況」「水・食料や生活物資」「今後の余震の可能性や、規

模の見通し」「水道・ガス・電気・電話の復旧の見通し」「今回の地震についての震源地、規

模など」「行方不明者の救出や捜索活動」についての情報に対する要求が多い。なお、「原子

力発電所の状況」については、福島の原発から離れた宮城県での調査であるためか、それ程

高い数値ではない。

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表 2 地震発生から数日間で知りたかった情報

451

67.4% 48.3 37.3 34.6 33.3 31.9 23.5 19.1 19.1 18.8 15.7 15.1 9.3 3.8 1.3

( ) 20115 60 61

 表 3 は、表 2 に示した情報についての「主な情報源」と「最も役に立った情報源」を示し

ている。このうち、「最も役に立った情報源」をみると、「ラジオ」(50.8%) が最も多く、「新聞」

「口コミ」を大きく引き離している。流出や停電、避難所に専用テレビがないためか、「テレ

ビ」をあげるものは少なく、同様の理由と思われるが、パソコンやインターネットを利用し

たメディアをあげるものも極く少数であった。

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災害情報とラジオの機能

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表 3 地震発生から数日間の災害に関する主な情報源・最も役に立った情報源

451 451 ( )

( )

61.9% 31.0 29.0 13.7 13.5 13.3 3.1 1.8 0.4 2.9 6.4 0.7

50.8% 12.6 11.1 2.9 4.0 8.6 0.9 0.4 1.6 6.4 0.7

( ) 20115 62 63

 この両者の関係を明らかにするために、表 4 に示すクロス集計を行い、集計結果の度数を

用いてコレスポンデンス・アナリシスを実施し、図 1 に示すように 2 次元上に両者の項目を

同時布置した。この手法は、2 つの質問の関係、すなわち各項目に○を付けたものが、他の

どの項目に○を付ける傾向が強いか、あるいは、どの項目に○を付けない傾向が強いかを一

挙に解くものである。

表4 地震発生から数日間で知りたかった情報 × 最も役立った情報源

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図 1 コレスポンデンス・アナリシス

(地震直後に知りたかったこと×知るのに役に立ったメディア)(2 軸まで)

 さらに、「地震発生から数日間で知りたかった情報」と「最も役に立った情報源」の関係

を明確にするために、コレスポンデンス・アナリシスにおける各項目の布置位置を示す 1 軸

と 2 軸の数値を用いて、クラスター分析 ( 階層法のうちワード法 ) を行った。この結果をみ

ると、「ラジオ ( 通常のAMやFM )」は、「救援活動の状況」「余震の可能性や規模の見通し」

「原子力発電所の状況」「水道・ガス・電気・電話の復旧の見通し」と結びつき、さらに「情

報源その他」と「病院」のクラスターとも結びついている。「ラジオ」は、「最も役立った情

報源」としての評価が高かったことと考え合わせると、クラスター分析で抽出された情報に

ついて、役立つ情報を大いに提供したと言えよう 8)。なお、1995 年の阪神・淡路大震災にお

ける芦屋市と宝塚市の調査結果 9) と比べると、東日本大震災における宮城県調査のラジオの

役立ち評価度は、芦屋市の傾向と似通っている。

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災害情報とラジオの機能

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図2 コレスポンデンス・アナリシスのカテゴリースコアとサンプルスコア(2 軸まで)を

用いたクラスター分析(ウォード法)

4.首都圏の帰宅困難者にとってのラジオ 東日本大震災発生当日の 2011 年 3 月 11 日、首都圏でも大半の地域で震度 5 弱~ 5 強を観

測し、JR・私鉄が運行を停止、特にJRは翌 12 日朝まで運行を再開しなかった。3 月 11

日は金曜日で、首都圏では多くの人々が就業などで外出しており、「帰宅難民」と呼ばれる

帰宅困難者が多数発生した。その数、都内だけでも 300 万人と言われている 10)。この帰宅困

難者の情報要求とメディアの利用の関係を明らかにするために、( 株 ) サーベイリサーチセ

ンターと「災害と情報研究会」が実施した調査 11) の結果を再分析した。

 調査結果から地震発生当時の調査対象者の置かれた状況をみると、「勤務中で社内にいた」

人が 50.4%、「私用で屋内にいた」人が 18.1%、「私用で屋外にいた」人が 11.7%、「勤務中で

社外 ( 屋内 ) にいた」人が 8.2%、「勤務中で社外 ( 屋外 ) にいた」人が 4.6%、「私用で自動車

など乗り物に乗っていた」人が 4.5%、「勤務中で自動車など乗り物に乗っていた」人が 2.3%

であった。外出中の人の約 6 割が勤務中であったことになる。

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 なお、これらの人々のうち当日帰宅できた人は 80.1% で、会社等に泊まったものが

11.6%、会社以外の場所に泊まったものが 6.3%、帰宅途中であきらめたものが 2.0% であった。

 これらの地震当日自宅外にいた人々の情報要求の内容は、表 5 に示すとおりである。その

内容は、「今回の地震についての震源地や規模」「余震の可能性やその規模」「まもなく大き

な地震が来る前ぶれかどうか」といった地震そのものについての一般情報、「家族の安否や

居所」「自分の住む地域にどんな被害が起こっているか」「道路・通信・電気・ガス・水道が

大丈夫かどうか」「自分や家族が避難すべきかどうか」「市町村や消防の応急措置の内容や指

示・連絡」といった家族・自宅にかかわる情報、「今自分のいる場所でどんな被害が起こっ

ているか」「鉄道などの公共交通機関が復旧する時刻」「会社に戻るべきかどうか」といった

情報、さらに家族・自宅にかかわる情報とまたがって、「道路・通信・電気・ガス・水道が

大丈夫かどうか」「自分や家族が避難すべきかどうか」といった項目からなる自分のこれか

らの行動にかかわる情報に分類できる。それぞれの情報内容に対する比率の高低、すなわち

情報に対する要求の多少からは、地震そのものについての一般的情報への要求が多いのは当

然としても、自分のこれからの行動にかかわる情報より家族・自宅にかかわる情報、特に家

族の安否と自宅周辺の状況に関する情報への要求が多い傾向が読みとれる。

表 5 地震直後に知りたかったこと

2,026

( )

79.2 66.5 58.9 47.2 41.9 39.6 34.0 27.4 23.3 9.0 5.5 1.3 1.3

( ) () 2011 4 http://www.surece.co.jp

 他方、情報を得るのに役立ったメディアは、表 6 に示すとおり、NHKと民放のテレビ、

次いで、インターネット ( ホームページ等 )、携帯電話メール、携帯電話、携帯電話のワン

セグ機能、民放とNHKのラジオの順である。テレビやインターネットの利用率が高い背景

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には、首都圏で停電地域が少なかったことがある 12)。また、帰宅困難者の多くは、携帯型ラ

ジオを所持していなかったと思われる。

表 6 地震直後に知りたかった情報を知るために役立ったもの

2,026

( )

(i )

53.7 30.6 25.5 19.9 19.8 15.8 11.0 11.0 8.4 7.0 5.8 4.1 1.1 2.8 7.8

( ) () 2011 4 http://www.surece.co.jp

 この両者の関係を明らかにするために、避難所居住者における同様の解析に用いた手法を

採用した。表 7 に示す両者のクロス集計の度数を用いてコレスポンデンス・アナリシスを行

い、図 3 に示す結果を得た。

表7 地震直後に知りたかったこと×知るために役立ったメディア

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図 3 コレスポンデンス・アナリシス

(地震直後に知りたかったこと×知るのに役に立ったメディア)(2 軸まで)

 さらに、コレスポンデンス・アナリシスにおける各項目の布置位置を示す 2 軸までの値を

用いて、クラスター分析 ( 階層法のうちワード法 ) を実施し、図 4 に示す解析結果を得た。

 この結果をみると、「NHK ラジオ」は「NHK テレビ」「民放テレビ」と同じクラスター

に属し、それらのメディアと同様、「震源地や規模などの情報」「余震の可能性やその規模」「自

分の住む地域にどんな被害が起こっているか」といった情報の取得に役立ったと考えられる。

他方、「民放ラジオ」は「インターネットメール」と同様、「まもなく大きな地震が来る前ぶ

れかどうか」「道路・通信・電気・ガス・水道が大丈夫かどうか」といった情報の取得に役立っ

たと考えられる。いずれにせよ、ラジオは地震そのものについての一般的情報と、自宅にか

かわる情報の一部、自分のこれからの行動にかかわる情報の一部に利用されたといえる。な

お、「家族の安否や居所」「鉄道などの公共交通機関が復旧する時刻」「今自分のいる場所で

どんな被害が起こっているか」といった家族の安否情報と自分のこれからの行動にかかわる

情報の多くは、「電話」「携帯電話」「携帯電話メール」「携帯電話のインターネット機能」「携

帯電話のワンセグ機能」「インターネット」といったパーソナル・コミュニケーションのメディ

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ア ( 端末 ) と結びついており、外出者が「会社に戻るべきかの判断」と「市町村や消防の応

急措置の内容や指示・連絡」は、「市町村の防災無線」「市町村の広報車」と結びついている。

これらの傾向から、帰宅困難者が、必要とする情報内容によってメディアを使い分けたこと

がわかる。

図 4 コレスポンデンス・アナリシスのカテゴリースコアとサンプルスコア(2 軸まで)を

用いたクラスター分析(ウォード法)

 なお、家族・知人との連絡手段は、表 6 にみられるように携帯電話 ( メールを含む ) が中

心であったが、利用制限のため、表 8 に示すとおり、利用できなかったものも多数発生して

いる。携帯電話も携帯メールもすぐにつながったものは僅かで、携帯電話で通話を試みたも

のを母数にすると約 3 分の 2 が利用できず、携帯メールで通信を試みたものを母数にすると

約 3 割が利用できなかったことになる。注 ) 災害用伝言ダイヤルやサービスは利用意向が低く、

利用方法を知らないものも他メディアに比べて多い。装置がシステム・サービス提供各社に

よって異なり、利便性に劣り、また利用方法が周知されていないといった問題があると考え

られる。

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表 8 家族・知人への連絡手段

2,026 9.3 25.0 28.5 36.8 0.4 2,026 2.3 28.8 58.9 9.9 0.1

2,026 8.3 50.4 25.5 15.1 0.6

2,026 12.5 10.2 7.4 68.5 1.4

(171)

2,026 1.3 1.9 3.3 74.8 18.8

( )

2,026 3.7 3.1 3.1 70.8 19.3

( )

2,026 1.1 1.1 1.8 76.9 19.1

( ) () 2011 4 http://www.surece.co.jp

 また、帰宅困難者が帰宅検討時に利用しようとしたメディアは、表 9 の「利用できた」と

「利用しようとしたが使えなかった」を合わせたものであり、携帯電話、テレビ、パソコン、

ラジオの順となるが、利用を試みたものが利用できた率は携帯電話が 4 割強と低く、他のメ

ディアは 7 ~ 8 割程度となっている。

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災害情報とラジオの機能

─ 31 ─

表 9 帰宅検討時に利用したメディア

2,026 50.8 11.4 37.8 2,026 28.7 8.6 62.7

2,026 35.2 47.1 17.7 2,026 39.1 13.4 47.5

2,026 7.7 6.3 86.0 ( ) (

) 2011 4 http://www.surece.co.jp

 しかし、一旦帰宅のために居場所を離れた後は、もっとも役に立つメディアは、電池式の

ラジオである。ラジオの利用を考えなかったものが多いのは、身近にラジオがなかったため

であろう。東日本大震災直後、電器店などで電池と携帯型ラジオが品薄となったことがこれ

を証明していると考えられる。

5.被災地 3 県でのラジオ放送の内容 まず、NHKのラジオ放送の対応を追ってみる。NHKの全国放送では、東日本大震災発

生直後に 1 分弱の緊急地震速報の自動送出を行い、その後、ラジオ・スタジオから警戒を呼

びかけた。その直後、大津波警報が発表され、ラジオはテレビと同時放送に切り換えられ、

緊急警報速報が開始された。地震発生から 44 分後までラジオ・テレビ同時放送が続けられ

た後、ラジオとテレビの放送は分離され、ラジオ独自の放送はおよそ 60 時間、災害報道を

放送している。地震発生から 3 日後の 3 月 14 日月曜日の朝 5 時からは通常番組を復活させ、

その番組枠内で震災情報を放送している。なお、安否情報については、途中からNHKFM

放送で全国向けに放送を行った。

 震災発生直後の全国放送は強制的な措置であり、多くの地方局は東京からのニュースをそ

のまま放送したが、被災地の放送局はそれを区切り、独自の情報を放送している。そこで、

次に被災地の地方局である、盛岡放送局、仙台放送局、福島放送局のラジオ放送の状況を追っ

てみる。

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─ 32 ─

 盛岡放送局では、3 月 11 日 14 時 49 分に全国放送を打ち切り、岩手県域での余震・津波

の警戒を呼びかけた。11 日には、合計 20 回以上、全国ニュースを中断しながら、県域の震

災関連情報を放送している。3 月 14 日以降は、1 日延べ 10 時間、安否情報やライフライン

などの生活情報を中心に放送を行い、3 月 21 日以降は、9 時、10 時、13 時、15 時、17 時の

全国ニュースの後に、55 分間、1 日あたり延べ 5 時間程度、生活情報を中心に放送を行って

いる。安否情報については、NHKFM放送で全国向けに放送を開始したため、盛岡放送局

は対応していない。3 月 28 日からは、生活情報を中心に、11 時、13 時、14 時の全国ニュー

スの後に 55 分間、1 日あたり延べ 3 時間程度の地域独自の放送に変更している。

 仙台放送局でも、地震発生直後は東京からの緊急警報速報などを送出していたが、16 時 6

分から東北管内向けの放送を開始し、地震と津波に対する警戒を呼びかけた。以降、1 ヶ月

間は、東京からの全国向けニュースやニュース系の番組をそのまま放送しながら、それ以外

に 1 日あたり 10 時間にわたり、東北管内および宮城県域向けの生活情報を放送している。

安否情報は、盛岡放送局同様、全国向けのNHKFM放送に依存している。

 福島放送局も、地震発生直後は東京からの全国放送である緊急ニュースを送出したが、盛

岡、仙台、福島の被災 3 県の地方局ではもっとも早く、3 月 11 日 15 時 20 分過ぎから県域

放送を開始した。以降、随時ライフラインをはじめとする生活情報などの地域情報を放送し

た。なお、東京電力福島原子力発電所の事故情報については、この件に関する情報が一元的

に集約されるはずのオフサイトセンターが事故を起こした原発の 10km 圏内にあって機能し

なかったため、また関連情報が東京の東京電力本社や原子力安全保安院などの発表に限られ

たために、福島放送局は原発事故の現地局ではあったが、東京からの情報に委ねざるを得な

かった。震災関連の県域放送は、地震発生 1 週間後には、毎正時前 20 分枠でローカル・ニュー

スと生活情報を放送し、1 日に 13 コマ、最大で 1 日あたり 260 分となっている。その放送は、

4 月下旬から 5 月上旬の連休前までは、毎正時前 20 分枠で 8 コマ、その後 5 月末までは毎

正時前 20 分枠で 4 コマとなり、6 月には終了した。

 他方、被災地の民間ラジオ放送 ( IBC岩手放送、東北放送、ラジオ福島 ) では、地震発

生直後から 5 日間程度、24 時間の特番放送を行っている。その内容は、避難所やリスナー

を情報源とした「安否情報」やライフラインなどの「生活情報」である 13)。また、IPサイ

マルラジオ「ラジコ」( 東阪 13 局参加 ) では、4 月 13 日夕方から放送エリア制限を解除し、

放送エリア外でも聴取可能とする措置をとった。また、FM放送が加盟する全国FM放送協

議会 ( JFN ) では、「TOKYO FM」と東北FM 6 局の放送を震災支援サイトに配信し

た 14)。

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災害情報とラジオの機能

─ 33 ─

6.まとめ 前掲の避難所における調査 15) では、ラジオは「余震の可能性や規模の見通し」「水道・ガス・

電気・電話の復旧の見通し」「救援活動の状況」「原子力発電所の状況」「病院」の情報を提

供した点で避難所住民 (2011 年 4 月中旬当時 ) に評価されている。ただし、もっとも役に立っ

たメディア (50.8%) として他メディア ( いずれも 12.6% 以下 ) を圧して評価されているため、

表 4 に示すように、それ以外の情報についても評価されているといえる。

 この調査は宮城県沿岸部の避難所で実施されたので、NHK仙台放送局対応をみてみる。

地震発生直後の緊急地震速報、大津波警報 ( 全国放送 ) の後、地震発生当日の 16 時 6 分から、

全国ニュースのほかに、相当の時間を割いて東北管内・宮城県域向けに生活情報を中心とし

た独自放送を行っている。この状況は 1 ヶ月間続いており、避難所調査は丁度地震発生から

1 ヶ月後のこの時期に実施されている。同時期、民放の東北放送も避難所やリスナーを情報

源とした生活情報を放送している 16)。したがって、避難所調査におけるラジオに対する高い

評価はNHK仙台放送局や東北放送のこのような対応を評価するものであるといえよう。

 この結果から、中村は前掲のとおり、ラジオを災害時における避難関連情報と生活情報の

伝達メディアとしてあげているが 17)、東日本大震災においても阪神・淡路大震災と同様 18)、

このことが検証されたといえる。

 なお、TBSラジオは、3 月 18 日に家庭で使用していないラジオを被災地に送るキャンペー

ンを開始し、FMラジオのJFNも海外で調達したラジオを被災 3 県に贈ることを始めてい

る 19)。このような運動も、今回の災害におけるラジオの社会的機能の達成を支えていると評

価できる。

 他方、震災直後首都圏で発生した帰宅困難者が要求した情報は、「地震そのものについて

の一般的情報」「家族・自宅にかかわる情報」「自分のこれからの行動にかかわる情報」に大

別される。この日、首都圏では停電がほとんど発生しなかったためか、それらの情報取得の

ためにテレビやインターネットのホームページの利用率が高く、また通信規制によって困難

な状況下ではあったが、電話、携帯電話、同メールが利用されており、ラジオの利用はNH

K、民放とも 11% 程度の利用であった。帰宅困難者がラジオを所持していなかったことも、

その原因のひとつであろう。それでも、ラジオは「地震そのものについての一般的情報」と、

「自分の住む地域にどんな被害が起きているか」「道路・通信・電気・ガス・水道が大丈夫か

どうか」といった「自宅にかかわる情報」や「自分のこれからの行動にかかわる情報」の一

部には役立ったといえる。

Page 16: 災害情報とラジオの機能 - Toyo University災害情報とラジオの機能 21 ここで、電波・通信媒体に絞って災害情報との関連をみると、中森広道は「広い範囲の多

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1) 東京大学社会情報研究所 (1995)「災害と情報」研究会『阪神・淡路大震災における住民の対応

と災害情報の伝達に関する調査-兵庫県芦屋市・宝塚市-』

2) 中村功 (2008)「災害情報メディアのマッピング」田中淳、吉井博明編『シリーズ災害と社会 7

災害情報論入門』弘文堂、86 ~ 92 頁

3) 中森広道 (2008)「被災地住民向けの広報」吉井博明、田中淳編『シリーズ災害と社会 3 災害危

機管理論入門』弘文堂、178 頁

4) 同上、178 頁

5) 宮田加久子 (1986)「災害情報の内容特性」東京大学新聞研究所『災害と情報』東京大学出版会、

186 ~ 224 頁

6) 大牟田智佐子 (2008)「ラジオと災害報道」田中淳、吉井博明編『シリーズ災害と社会7 災害

情報論入門』弘文堂、184 頁

7) ( 株 ) サーベイリサーチセンター (2011)『宮城県沿岸部における被災地アンケート調査報告書』

<調査概要>①調査対象:宮城県沿岸部の南三陸町、女川町、石巻市、多賀城市、仙台市若

林区、名取市、亘理町、山元町の住民で調査実施当時 18 ヵ所の避難所に避難中の 20 歳以上

の男女個人 451 人、②調査方法:面接調査法、③調査実施期間:2011 年 4 月 15 日~ 17 日、

④調査実施機関:( 株 ) サーベイリサーチセンター

8) 島崎哲彦 (2011)「新聞社のためのマーケティング講座〔9〕東日本大震災による避難所居住者

の情報要求と行動」( 社 ) 日本新聞協会『NSK経営リポート』’11 夏 (No.9)、7 頁

9) 注 1) を参照

10) 朝日新聞 (2011)4 月 9 日付夕刊 1 面

11) (株 )サーベイリサーチセンター+「災害と情報研究会」『東日本大震災に関する調査(帰宅困難)』

http://www.surece.co.jp

<調査概要>①調査地域:首都圏 ( 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県 )、②調査対象:調査

地域に居住する 20 歳以上の男女個人のうち、地震発生時に首都圏の自宅外にいた人、③調査

方法:インターネット調査 ( モニターに対するクローズド調査 )、④回収標本数:2,026 人、⑤

調査実施期間:2011 年 3 月 25 日~ 28 日、⑥調査実施機関:( 株 ) サーベイリサーチセンター

12) 島崎哲彦 (2011)「新聞社のためのマーケティング講座〔8〕東日本大震災による首都圏の帰宅

難民の情報行動」( 社 ) 日本新聞協会『NSK経営リポート』’11 春 (No.8)、14 頁

13) ( 社 ) 日本民間放送連盟 (2011)『民間放送』4 月 3 日号 1 面

14) ( 社 ) 日本民間放送連盟 (2011)『民間放送』3 月 23 日号

15) 注 7) を参照

16) ( 社 ) 日本民間放送連盟 (2011)『民間放送』4 月 3 日号 1 面

Page 17: 災害情報とラジオの機能 - Toyo University災害情報とラジオの機能 21 ここで、電波・通信媒体に絞って災害情報との関連をみると、中森広道は「広い範囲の多

災害情報とラジオの機能

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17) 注 2) を参照

18) 注 1) を参照

19) ( 社 ) 日本民間放送連盟 (2011)『民間放送』4 月 3 日号 3 面

引用文献

朝日新聞 (2011)4 月 9 日付夕刊

大牟田智佐子 (2008)「ラジオと災害報道」田中淳、吉井博明編『シリーズ災害と社会7 災害情報

論入門』弘文堂

( 株 ) サーベイリサーチセンター (2011)『宮城県沿岸部における被災地アンケート調査報告書』

( 株 ) サーベイリサーチセンター+「災害と情報研究会」『東日本大震災に関する調査 ( 帰宅困難 )』

http://www.surece.co.jp

島崎哲彦 (2011)「新聞社のためのマーケティング講座〔8〕東日本大震災による首都圏の帰宅難民

の情報行動」( 社 ) 日本新聞協会『NSK経営リポート』’11 春 (No.8)

島崎哲彦 (2011)「新聞社のためのマーケティング講座〔9〕東日本大震災による避難所居住者の情

報要求と行動」( 社 ) 日本新聞協会『NSK経営リポート』’11 夏 (No.9)

東京大学社会情報研究所 (1995)「災害と情報」研究会『阪神・淡路大震災における住民の対応と災

害情報の伝達に関する調査-兵庫県芦屋市・宝塚市-』

中村功 (2008)「災害情報メディアのマッピング」田中淳、吉井博明編『シリーズ災害と社会 7 災害

情報論入門』弘文堂

中森広道 (2008)「被災地住民向けの広報」吉井博明、田中淳編『シリーズ災害と社会 3 災害危機管

理論入門』弘文堂

社 ) 日本民間放送連盟 (2011)『民間放送』3 月 23 日号

( 社 ) 日本民間放送連盟 (2011)『民間放送』4 月 3 日号

宮田加久子 (1986)「災害情報の内容特性」東京大学新聞研究所『災害と情報』東京大学出版会

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The Functions of Radio when the Great East Japan Earthquake

SHIMAZAKI, AkihikoYAMASHITA, Makoto

【Summary】

What kind of functions did a radio serve in the disaster area when the Great East Japan

Earthquake hit there on March 11, 2011? And what kind of role did it play toward the

people who had difficulties returning home on that day?

Analyzing the result of the survey, here we attempt to verify the usability of a radio as

information media at the time of disaster, as was pointed out at the time of the Great

Hanshin Earthquake.

As a result, it was revealed that battery-operated radios were overwhelmingly used as an

information source among the people in the evacuation centres while most other media

became unavailable to use due to an enormous damage, blackout and disruption of

communication networks. Also a radio received a favourable evaluation of its usability as

an information source regarding the ‘Forecast of the possibility of aftershocks and their

sizes’, the ‘Forecast of restoration of water, gas, electricity supplies and telephone

networks’, the ‘Relief activities condition’, the ‘Circumstances of the nuclear plant

accident’ and the ‘Hospital information’.

These results show the usability of a radio as information media is also verified in the

time of the Great East Japan Earthquake.

【Keywords】

Disaster information

The Great East Japan Earthquake

The role of a radio

The people in the evacuation centres

The people who have difficulties returning home