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2007年に長谷工コーポレーション創業70周年を記念して始 まった 長谷工 住まいのデザイン コンペティション」.1目が 300人のための集合住宅として集合住宅がつくり出す 密度を2回目が 30年後の集合住宅として時間に対する 変化をテーマとしましたそれぞれ難易度の高いテーマでし たがその分集合住宅を考えるレベルの高い案が多く寄せ られました3回目の新たなテーマに向けて現状で考え 得る課題を審査員に話していただきました30 戸の曖昧さとリアリティ ──今回のテーマは 30戸の住宅から生まれ変わ る集合住宅ですこのテーマについてまたれまで2回のコンペについて感想とお考えを聞か せていただけますか 1回目のテーマにあった300人という規模 それより少ない数字であれば具体性が出てき ますが実際のところは 多数と意味はそれほど 違いませんでした時間についても5年後ならば かなり現実的な提案が必要ですし100年後なら ば今とは無関係な未来的にならざるを得ないので すが30年後だとその間で各自に解釈が任されて いたと言えるでしょう一方で今回の30戸の戸 建て住宅を建て替えるとなるとよりリアリティが 求められるでしょうねその意味を深く考えなけれ ばならないというのはこれまでと違って面白いん じゃないでしょうか大栗 今回のテーマは設計の実務者の方が取り 組みやすいものかもしれません30戸の戸建てか 等価交換方式で60戸の集合住宅にするとか実 際に事業化できるくらいに具体性があるからですしかしこのコンペはむしろ建て替え後の戸数は限 定せず自由に想定してもらった方が面白いアイデ アが出てくるのではないでしょうか建て替え後の 形は1棟に限らずバラバラなものや線形のも のなどいろいろ考えられると思いますテーマは シンプルながら曖昧さが残っていて自由に発 想できる方がよいでしょうね30戸というのは適度に曖昧さがあってよい 設定だと思いますこれまでの300人も30年もそ れぞれ数と時間という点においては明確な単位で したしかし30戸の場合戸数はたしかに具体的 なのですがそこで暮らす人数は曖昧ですよね30戸に暮らす人数をいかに設定するかというのは 現代的な問題のような気がします建て替え後の 戸数を限定すると事業的な意味合いが強くなりす ぎるので住戸数は各自が設定できる方がよいと 思いますこのコンペは毎回よい提案を応募してもらえるので今回もレベルの高い提案を楽しみにしています藤本 前回はテーマが大きかったのにもかかわ らず学生がちゃんと彼らなりのリアリティを持っ た案を出してくれたのが印象的でしたただ30 戸という今回のテーマを考えるとやはりこれまで のテーマは漠然としていたと思いますというのも敷地の設定を無視しているような案が多かったから ですしかし30戸のいわば街があってそれをまと めて建て替えるとすると今ある環境からの連続 性を考えなければなりませんそれが今回の面白 さだと思いますテーマによりリアリティがある分 だけ発想の手がかりは増えているでしょうねもうひとつ今回のテーマが面白いと思うのは度の問題が提案の骨格になり得るということです既存の30戸をそのまま30戸にするのかそれとも 10戸にするのか300戸にするのかそれは戸数 の問題ではなくどういった環境をつくり出すかと いうことと関わってきますしそのまま地球環境に も繋がる問題です密度が高ければよいというわ けではないし低すぎるとリアリティがなくなりま そこで住環境に対する明確なビジョンが必要に なるでしょうね集合住宅が街を変える ──課題敷地についてはどのような街を想定したら よいでしょうか 今回課題となる敷地はリアルな方がよい と思いますその場所が集合住宅になった時に街がどう変わるかそれはマンション産業が都市に 対して善たり得るのかという回答にもなりますまり真価が問われるということですテーマは周辺 の環境とも深く関わってくるのでたとえばミニ開 発のような敷地にするのか下町の雰囲気が残る ところにするのかで大きく結果が変わってくると思 います藤本 ミニ開発のような敷地とするとそれに 対するアンチテーゼのような案が多くなりそうでよ くないでしょうねそれよりも既によい要素をい くつか持っている街からそのよさを抽出してかに新しいものへ置き換えていくのかというポジ ティブな発想ができる敷地条件がよいのではない でしょうかそうすることで周辺の街を含めてど う変化させるかという視点が出てくると思います単に集合住宅をつくるだけではなく同時に街をつ くるという相互的な視点ですね具体的でありなが 広がりのあるような提案を期待します大栗 私たちが手がけた再開発でも当初は開 発に反対していた近隣の住民から竣工した集合 住宅を見て同じようにできないかと声をかけてい ただいたことがあります今回のテーマでも辺の人たちが連鎖してつくっていきたいと思えるよ うなよい影響を与えるような地域開発に繋がる提 案が見てみたいですねたとえば高低差が明確な街はとても特徴の ある場所になりますがその特徴は具体的でもあ り抽象的でもあるような感じがしますできている 風景は固有性を持ちながらも一般的でもあるよう な感じもします高低差という要素が歴史や文化と 無関係に街をつくる骨格になっているからかもしれ ません何かそうした場所を敷地にするのはどう でしょうか周辺の環境を考える ──では現在の一般的な集合住宅についてうお考えですか 集合住宅では通常外部を第一に考えるこ とは少ないのではないでしょうかできるだけボ リュームを取ってできるだけ採光を取れるかだけ に主眼が置かれがちですもっと外部を考えい面でも悪い面でも既存環境にどう影響を与えた かを考えてほしいと思いますそれは公共性を考 えることにも繋がるんじゃないでしょうかエコ的 な環境問題も重要ですがそれよりも周辺とどう 関わっていくかという環境の方により興味がありま すね大栗 景観法で条例が制定されこれから周辺 環境についてはわれわれも真剣に取り組んでい かなければなりませんつまり公共性は集合住宅 において非常に大事になってくると思いますただ行政の判断では長さ何m以上の壁 面はだめだとか建築を単体の彫刻的なものだと 思っているのではないかと感じることがありますわれわれが目指す環境は別のものだということを 伝えなければなりません地球環境と生活環境 ──ではエコや地球環境についてはいかがでしょ うか太陽電池など環境への取り組みに対して補助金などのインセンティブが働くようになってき ましたよねエコはたしかに重要なのですが今回のコ ンペでは性能的な話をしても仕方がないと思いま それよりも生活環境を考えてほしいですね藤本 そうですね仕掛けや装置をどうしたかで はなくどういう生活環境を再発見できるのかがポ イントでそれを具体的な形にまで落とし込んでも らえれば面白いと思いますたとえばエコ的な視 点を考えるとしてもこんな生活が考えられてんな集合住宅ができるんじゃないかというようなこ とですねそうした問題にはわれわれプロの設計者も正面 から対応していかなければなりませんそれを若 い人にも考えてほしいと思います周囲に対して閉じない建築というのは必ず環境 に繋がることになりますそれはある種の不自由さ である場合もあるかもしれませんがその不自由 さとどう折り合いをつけて形にするのかにも興味が あります外の世界との関係性の持ち方を定義するの が重要だと思いますそこで地球環境問題を考え ることはあくまでもその関係性のうちのひとつですつまり関係性とはあらゆる要素を含んだ問題だから ですそれをいかに広い範囲で捉えられるかが今 回の鍵になると思いますああこうしたものも環 境のひとつかもなと気付かせてくれるような提案 があるとよいですね概念を突き崩す 藤本 ちょうど今オランダで集合住宅のコンペを やっているところです小さなのどかな街で平和 なところです伝統的な三角屋根の住宅がぽつぽ つと建っているようなところの密度を少しだけ高め るというのが条件なのです既存の街はそれほど 不便とは言えないところでそこをどう変化させる そして周辺の都市環境をどうレベルアップさせ るかそれを考えるのが面白いところです今回 のテーマのように街が舞台となると残すところ と残さないところが出てくるでしょうがそれらを 総合的に判断してほしいですねたとえばヨーロッパの建築は新築の割合は かなり低くほぼすべてがリノベーションですかし新築とリノベーションを分けること自体が20 世紀的なのかもしれません敷地という概念も所 有権や売買という概念がなければ成立しないような 曖昧なものですだからそれらを超えるような発想 がほしいですね一方で僕が最近頻繁に行って いる中国は逆の状況です共産主義が続く中で敷地の私有という概念が出始めそれが経済を活 性化していますヨーロッパでも土地や建物の私有 という概念を使って経済を拡大していこうとしてき ました本来なら手に入るはずのない別荘をいくつ も持つように煽るのはその典型だと思いますしか しそれも資本主義の最後の持ち駒だったようにも 思えますそれを使い切って破綻したのがサブプラ イムローン問題ですから今度は私有化の後に何 が来るのかに僕は興味がありますね藤本 現状では戸建て住宅と集合住宅がはっき り分かれていますが僕はその間にある領域に興 味があります両方の概念が混ざり合って分断し ないようなアイデアが出てくると面白いと思います戸建て集合住宅という定義も実は法律 などに縛られた便宜的なものですよねですから今回の30戸の戸建てを集合住宅に建て替えるとい うテーマ自体もその制度に縛られていると言えるか もしれません ).その概念を突き崩して課題 自体を問い直すような提案が現れるとよいですね200969長谷工コーポレーションにて 文責本誌編集部環境との関係性 ── 30戸の住宅から生まれ変わる集合住宅長谷工 住まいのデザイン コンペティションへ向けて 隈研吾×乾久美子×藤本壮介×大栗育夫 左から藤本壮介氏隈研吾氏大栗育夫氏乾久美子氏撮影新建築写真部 1 300 人のための集合住宅最優秀賞 300 人のランドスケープ高池葉子 慶應義塾大学大学院)+湯浅崇史 慶應義塾大学2 30 年後の集合住宅最優秀賞 小さな都市大きな家族富山晃一岩元俊輔津野田祐基 鹿児島大学大学院

環境との関係性 - 新建築.compe2007年に長谷工コ ーポレ ション創業70周年を記念して始 まった「長谷工住まいのデザインコンペティション」.第1回

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  • 2007年に長谷工コーポレーション創業70周年を記念して始

    まった「長谷工 住まいのデザイン コンペティション」.第1回

    目が「300人のための集合住宅」として集合住宅がつくり出す

    密度を,第2回目が「30年後の集合住宅」として時間に対する

    変化をテーマとしました.それぞれ難易度の高いテーマでし

    たが,その分,集合住宅を考えるレベルの高い案が多く寄せ

    られました.第3回目の新たなテーマに向けて,現状で考え

    得る課題を審査員に話していただきました.      (編)

    30戸の曖昧さとリアリティ

    ──今回のテーマは『30戸の住宅から生まれ変わ

    る集合住宅』です.このテーマについて,また,こ

    れまで2回のコンペについて,感想とお考えを聞か

    せていただけますか?

    隈  第1回目のテーマにあった300人という規模

    は,それより少ない数字であれば具体性が出てき

    ますが,実際のところは「多数」と意味はそれほど

    違いませんでした.時間についても,5年後ならば

    かなり現実的な提案が必要ですし,100年後なら

    ば今とは無関係な未来的にならざるを得ないので

    すが,30年後だとその間で各自に解釈が任されて

    いたと言えるでしょう.一方で,今回の30戸の戸

    建て住宅を建て替えるとなると,よりリアリティが

    求められるでしょうね.その意味を深く考えなけれ

    ばならないというのは,これまでと違って面白いん

    じゃないでしょうか.

    大栗  今回のテーマは設計の実務者の方が取り

    組みやすいものかもしれません.30戸の戸建てか

    ら,等価交換方式で60戸の集合住宅にするとか実

    際に事業化できるくらいに具体性があるからです.

    しかしこのコンペは.むしろ建て替え後の戸数は限

    定せず,自由に想定してもらった方が面白いアイデ

    アが出てくるのではないでしょうか.建て替え後の

    形は1棟に限らず,バラバラなものや,線形のも

    のなど,いろいろ考えられると思います.テーマは

    シンプルながら,曖昧さが残っていて,自由に発

    想できる方がよいでしょうね.

    乾  30戸というのは適度に曖昧さがあってよい

    設定だと思います.これまでの300人も30年もそ

    れぞれ数と時間という点においては明確な単位で

    した.しかし30戸の場合,戸数はたしかに具体的

    なのですが,そこで暮らす人数は曖昧ですよね.

    30戸に暮らす人数をいかに設定するかというのは

    現代的な問題のような気がします.建て替え後の

    戸数を限定すると事業的な意味合いが強くなりす

    ぎるので,住戸数は各自が設定できる方がよいと

    思います.

    このコンペは毎回よい提案を応募してもらえるので,

    今回もレベルの高い提案を楽しみにしています.

    藤本  前回はテーマが大きかったのにもかかわ

    らず,学生がちゃんと彼らなりのリアリティを持っ

    た案を出してくれたのが印象的でした.ただ,30

    戸という今回のテーマを考えると,やはりこれまで

    のテーマは漠然としていたと思います.というのも,

    敷地の設定を無視しているような案が多かったから

    です.しかし30戸のいわば街があってそれをまと

    めて建て替えるとすると,今ある環境からの連続

    性を考えなければなりません.それが今回の面白

    さだと思います.テーマによりリアリティがある分

    だけ,発想の手がかりは増えているでしょうね.

    もうひとつ今回のテーマが面白いと思うのは,密

    度の問題が提案の骨格になり得るということです.

    既存の30戸をそのまま30戸にするのか,それとも

    10戸にするのか,300戸にするのか.それは戸数

    の問題ではなく,どういった環境をつくり出すかと

    いうことと関わってきますし,そのまま地球環境に

    も繋がる問題です.密度が高ければよいというわ

    けではないし,低すぎるとリアリティがなくなりま

    す.そこで住環境に対する明確なビジョンが必要に

    なるでしょうね.

    集合住宅が街を変える

    ──課題敷地についてはどのような街を想定したら

    よいでしょうか?

    隈  今回課題となる敷地は,リアルな方がよい

    と思います.その場所が集合住宅になった時に,

    街がどう変わるか.それはマンション産業が都市に

    対して善たり得るのかという回答にもなります.つ

    まり真価が問われるということです.テーマは周辺

    の環境とも深く関わってくるので,たとえばミニ開

    発のような敷地にするのか,下町の雰囲気が残る

    ところにするのかで大きく結果が変わってくると思

    います.

    藤本  ミニ開発のような敷地とすると,それに

    対するアンチテーゼのような案が多くなりそうでよ

    くないでしょうね.それよりも,既によい要素をい

    くつか持っている街から,そのよさを抽出して,い

    かに新しいものへ置き換えていくのかというポジ

    ティブな発想ができる敷地条件がよいのではない

    でしょうか.そうすることで,周辺の街を含めてど

    う変化させるかという視点が出てくると思います.

    単に集合住宅をつくるだけではなく,同時に街をつ

    くるという相互的な視点ですね.具体的でありなが

    ら,広がりのあるような提案を期待します.

    大栗  私たちが手がけた再開発でも,当初は開

    発に反対していた近隣の住民から,竣工した集合

    住宅を見て,同じようにできないかと声をかけてい

    ただいたことがあります.今回のテーマでも,周

    辺の人たちが連鎖してつくっていきたいと思えるよ

    うな,よい影響を与えるような地域開発に繋がる提

    案が見てみたいですね.

    乾  たとえば高低差が明確な街はとても特徴の

    ある場所になりますが,その特徴は具体的でもあ

    り抽象的でもあるような感じがします.できている

    風景は固有性を持ちながらも一般的でもあるよう

    な感じもします.高低差という要素が歴史や文化と

    無関係に街をつくる骨格になっているからかもしれ

    ません.何か,そうした場所を敷地にするのはどう

    でしょうか.

    周辺の環境を考える

    ──では,現在の一般的な集合住宅について,ど

    うお考えですか?

    隈  集合住宅では通常,外部を第一に考えるこ

    とは少ないのではないでしょうか.できるだけボ

    リュームを取って,できるだけ採光を取れるかだけ

    に主眼が置かれがちです.もっと外部を考え,よ

    い面でも悪い面でも既存環境にどう影響を与えた

    かを考えてほしいと思います.それは公共性を考

    えることにも繋がるんじゃないでしょうか.エコ的

    な環境問題も重要ですが,それよりも周辺とどう

    関わっていくかという環境の方により興味がありま

    すね.

    大栗  景観法で条例が制定され,これから周辺

    環境については,われわれも真剣に取り組んでい

    かなければなりません.つまり公共性は集合住宅

    において非常に大事になってくると思います.

    隈  ただ,行政の判断では,長さ何m以上の壁

    面はだめだとか,建築を単体の彫刻的なものだと

    思っているのではないかと感じることがあります.

    われわれが目指す環境は別のものだということを

    伝えなければなりません.

    地球環境と生活環境

    ──ではエコや,地球環境についてはいかがでしょ

    うか.太陽電池など環境への取り組みに対して,

    補助金などのインセンティブが働くようになってき

    ましたよね.

    隈  エコはたしかに重要なのですが,今回のコ

    ンペでは性能的な話をしても仕方がないと思いま

    す.それよりも生活環境を考えてほしいですね.

    藤本  そうですね.仕掛けや装置をどうしたかで

    はなく,どういう生活環境を再発見できるのかがポ

    イントで,それを具体的な形にまで落とし込んでも

    らえれば面白いと思います.たとえばエコ的な視

    点を考えるとしても,こんな生活が考えられて,こ

    んな集合住宅ができるんじゃないかというようなこ

    とですね.

    そうした問題には,われわれプロの設計者も正面

    から対応していかなければなりません.それを若

    い人にも考えてほしいと思います.

    周囲に対して閉じない建築というのは,必ず環境

    に繋がることになります.それはある種の不自由さ

    である場合もあるかもしれませんが,その不自由

    さとどう折り合いをつけて形にするのかにも興味が

    あります.

    乾  外の世界との関係性の持ち方を定義するの

    が重要だと思います.そこで地球環境問題を考え

    ることはあくまでもその関係性のうちのひとつです.

    つまり関係性とはあらゆる要素を含んだ問題だから

    です.それをいかに広い範囲で捉えられるかが今

    回の鍵になると思います.ああ、こうしたものも環

    境のひとつかもな、と気付かせてくれるような提案

    があるとよいですね.

    概念を突き崩す

    藤本  ちょうど今オランダで集合住宅のコンペを

    やっているところです.小さなのどかな街で,平和

    なところです.伝統的な三角屋根の住宅がぽつぽ

    つと建っているようなところの密度を少しだけ高め

    るというのが条件なのです.既存の街はそれほど

    不便とは言えないところで,そこをどう変化させる

    か.そして周辺の都市環境をどうレベルアップさせ

    るか,それを考えるのが面白いところです.今回

    のテーマのように,街が舞台となると,残すところ

    と残さないところが出てくるでしょうが,それらを

    総合的に判断してほしいですね.

    隈  たとえばヨーロッパの建築は新築の割合は

    かなり低く,ほぼすべてがリノベーションです.し

    かし,新築とリノベーションを分けること自体が20

    世紀的なのかもしれません.敷地という概念も所

    有権や売買という概念がなければ成立しないような

    曖昧なものです.だからそれらを超えるような発想

    がほしいですね.一方で,僕が最近頻繁に行って

    いる中国は逆の状況です.共産主義が続く中で,

    敷地の私有という概念が出始め,それが経済を活

    性化しています.ヨーロッパでも土地や建物の私有

    という概念を使って経済を拡大していこうとしてき

    ました.本来なら手に入るはずのない別荘をいくつ

    も持つように煽るのはその典型だと思います.しか

    しそれも資本主義の最後の持ち駒だったようにも

    思えます.それを使い切って破綻したのがサブプラ

    イムローン問題ですから,今度は私有化の後に何

    が来るのかに,僕は興味がありますね.

    藤本  現状では戸建て住宅と集合住宅がはっき

    り分かれていますが,僕はその間にある領域に興

    味があります.両方の概念が混ざり合って,分断し

    ないようなアイデアが出てくると面白いと思います.

    隈  戸建て,集合住宅という定義も,実は法律

    などに縛られた便宜的なものですよね.ですから,

    今回の30戸の戸建てを集合住宅に建て替えるとい

    うテーマ自体もその制度に縛られていると言えるか

    もしれません(笑).その概念を突き崩して,課題

    自体を問い直すような提案が現れるとよいですね.

    (2009年6月9日,長谷工コーポレーションにて

    文責:本誌編集部)

    環境との関係性──『30戸の住宅から生まれ変わる集合住宅』 長谷工 住まいのデザイン コンペティションへ向けて隈研吾×乾久美子×藤本壮介×大栗育夫

    左から藤本壮介氏,隈研吾氏,大栗育夫氏,乾久美子氏.撮影:新建築写真部

    第1回「300人のための集合住宅」最優秀賞「300人のランドスケープ」 高池葉子(慶應義塾大学大学院)+湯浅崇史(慶應義塾大学)

    第2回「30年後の集合住宅」最優秀賞「小さな都市、大きな家族」 富山晃一+岩元俊輔+津野田祐基(鹿児島大学大学院)

    『新建築』 2009年08月号  34頁/ B折ー 8  4C  出力見本grid version 2.11

    『新建築』 2009年08月号  35頁/ B折ー 9  4C  出力見本grid version 2.11