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Photon Factory Activity Report 2013 #31(2014) B PF AR NW12A/2013G515 放線菌由来新規プレニル基転移酵素の X 線結晶構造解析 X-ray crystal structure analysis of novel prenyltransferases from Actinomyces. 森貴裕, 阿部郁朗 * 東京大学薬学系研究科, 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 Takahiro Mori and Ikuro Abe * Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo, 7-3-1, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033, Japan 1 はじめに 植物や微生物が産出する二次代謝産物は、構造多 様性と多様な生物活性を示し、医薬品の創薬ターゲ ットとして重要な役割を担っている。この特徴を生 み出しているのが二次代謝酵素であり、中には活性 部位を構成するアミノ酸残基の差異により活性が大 きく変化する酵素が多く存在する。そのため、一次 配列から詳細な反応性、メカニズムを推測すること は難しく、X 線結晶構造解析による立体構造の解明 が必要となる。 放線菌 Streptomyces blastmyceticus 由来 TldC は、 indolactam V と炭素鎖 C 10 geranyl diphosphate GPP)を縮合して lyngbyatoxin A を生成する新規 インドールプレニルトランスフェラーゼである。 TldC の酵素反応は、GPP C-3 位からインドール 環の C-7 位への求電子置換反応を触媒する(図1)。 このようなプレニル基転移反応は逆プレニル化反応 と呼ばれる。インドール環に対する GPP の逆プレ ニル化反応は他に例がなく、酵素の詳細な反応メカ ニズムは興味深い。さらに最近、Marinactinospora thermotolerans より、TldC の基質と同じ indolactam V に対して炭素鎖 C 5 DMAPP を縮合し、 pendolmycin を生成するインドールプレニルトラン スフェラーゼ、MpnD が報告された(図1)[1]。両 酵素の基質特異性の違いがどのような要因によりも たらされるのか、興味が持たれる。本研究では、 TldCMpnD 両酵素の X 線結晶構造解析から詳細な 反応メカニズムと基質認識機構を明らかとする事を 目指した。 2 実験 TldCMpnD を大腸菌に 6 残基のヒスチジンとの C 末融合タンパク質として異種発現させ,Ni-キレー トアフィニティーカラム、ゲル濾過カラムを用いて 精製した。精製した酵素を用いて結晶化スクリーニ ングを行った結果、TldCMpnD ともに硫酸アンモ ニウムを沈殿剤とする結晶化条件で結晶が再現性よ く得られた。X 線回折強度データの収集は、Photon Factory の構造生物学ビームライン( PF-AR NW12A)を利用した。TldC の結晶構造は、Se-Met 誘導体結晶を用いた SAD 法で決定し、MpnD の結 晶構造は、TldC をモデルとした分子置換法で決定し た。 (-)-indolactam V N H N H N O OH OPP 3 GPP TldC N H N H N O OH lyngbyatoxin A 7 (-)-indolactam V N H N H N O OH OPP DMAPP MpnD N H N H N O OH pendolmycin 図1:TldC MpnD の触媒反応 3 結果と考察 TldC の野生型結晶と Se-Met 誘導体結晶の全体構 造をそれぞれ 1.95 Å2.11 Å の分解能で決定した。 さらに、MpnD apo 体構造を 1.6 Å indolactam V DMAPP アナログの DMSPP との複合体構造を 1.4 Å の分解能で決定した。TldC MpnD の全体構造 は他のインドールプレニルトランスフェラーゼと同 様なαββαフォールディングを有していた(図2)。 Diphosphate を認識する部位は多くの塩基性アミノ酸 とチロシンが存在し、水素結合を形成することで、 diphosphate を安定化させていた。また、indolactam V の結合部位においては、 E106 K297 N367 TldC numbering)が indolactam V と水素結合を形 成し、強固に indolactam V を結合していることが明 らかとなった(図3)。これらの残基に関しては TldCMpnD 間でアミノ酸残基の種類、およびその 位置がよく保存されていた。一方、prenyl 基の結合 部位においては TldCMpnD 間でその配列、および 配向が大きく異なっていた。これらの違いがプレニ ル基の長さの認識に大きな役割を担っていることが 考えられた。そこで、TldC のアミノ酸残基を MpnD の残基へと変異した W97YF170WA173M 三重変 異体を作成し、活性評価を行った。その結果、TldC 変異体は GPP に対して顕著な活性の低下を示した にもかかわらず、DMAPP に対しては野生型と同程

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Photon Factory Activity Report 2013 #31(2014) B

PF AR NW12A/2013G515 放線菌由来新規プレニル基転移酵素の X線結晶構造解析

X-ray crystal structure analysis of novel prenyltransferases from Actinomyces.

森貴裕, 阿部郁朗*

東京大学薬学系研究科, 〒113-0033東京都文京区本郷 7-3-1 Takahiro Mori and Ikuro Abe*

Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo, 7-3-1, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033, Japan

1 はじめに 植物や微生物が産出する二次代謝産物は、構造多

様性と多様な生物活性を示し、医薬品の創薬ターゲ

ットとして重要な役割を担っている。この特徴を生

み出しているのが二次代謝酵素であり、中には活性

部位を構成するアミノ酸残基の差異により活性が大

きく変化する酵素が多く存在する。そのため、一次

配列から詳細な反応性、メカニズムを推測すること

は難しく、X 線結晶構造解析による立体構造の解明が必要となる。 放線菌 Streptomyces blastmyceticus 由来 TldC は、

indolactam V と炭素鎖 C10 の geranyl diphosphate(GPP)を縮合して lyngbyatoxin A を生成する新規インドールプレニルトランスフェラーゼである。

TldC の酵素反応は、GPP の C-3 位からインドール環の C-7 位への求電子置換反応を触媒する(図1)。このようなプレニル基転移反応は逆プレニル化反応

と呼ばれる。インドール環に対する GPP の逆プレニル化反応は他に例がなく、酵素の詳細な反応メカ

ニズムは興味深い。さらに最近、Marinactinospora thermotoleransより、TldCの基質と同じ indolactam Vに 対 し て 炭 素 鎖 C5 の DMAPP を 縮 合 し 、

pendolmycin を生成するインドールプレニルトランスフェラーゼ、MpnD が報告された(図1)[1]。両酵素の基質特異性の違いがどのような要因によりも

たらされるのか、興味が持たれる。本研究では、

TldC、MpnD 両酵素の X 線結晶構造解析から詳細な反応メカニズムと基質認識機構を明らかとする事を

目指した。 2 実験

TldC、MpnD を大腸菌に 6 残基のヒスチジンとのC 末融合タンパク質として異種発現させ,Ni-キレートアフィニティーカラム、ゲル濾過カラムを用いて

精製した。精製した酵素を用いて結晶化スクリーニ

ングを行った結果、TldC、MpnD ともに硫酸アンモニウムを沈殿剤とする結晶化条件で結晶が再現性よ

く得られた。X 線回折強度データの収集は、Photon Factory の 構 造 生 物 学 ビ ー ム ラ イ ン ( PF-AR NW12A)を利用した。TldC の結晶構造は、Se-Met

誘導体結晶を用いた SAD 法で決定し、MpnD の結晶構造は、TldCをモデルとした分子置換法で決定した。

(-)-indolactam V

NH

NHN

OOH

OPP3

GPP

TldCNH

NHN

OOH

lyngbyatoxin A

7

(-)-indolactam V

NH

NHN

OOH

OPP

DMAPP

MpnD

NH

NHN

OOH

pendolmycin 図1:TldCと MpnDの触媒反応

3 結果と考察

TldC の野生型結晶と Se-Met 誘導体結晶の全体構造をそれぞれ 1.95 Å、2.11 Åの分解能で決定した。さらに、MpnDの apo体構造を 1.6 Å 、indolactam Vと DMAPP アナログの DMSPPとの複合体構造を 1.4 Å の分解能で決定した。TldC や MpnD の全体構造は他のインドールプレニルトランスフェラーゼと同

様なαββαフォールディングを有していた(図2)。Diphosphateを認識する部位は多くの塩基性アミノ酸とチロシンが存在し、水素結合を形成することで、

diphosphate を安定化させていた。また、indolactam V の結合部位においては、E106、K297、N367(TldC numbering)が indolactam V と水素結合を形成し、強固に indolactam V を結合していることが明らかとなった(図3)。これらの残基に関しては

TldC、MpnD 間でアミノ酸残基の種類、およびその位置がよく保存されていた。一方、prenyl 基の結合部位においては TldC、MpnD 間でその配列、および配向が大きく異なっていた。これらの違いがプレニ

ル基の長さの認識に大きな役割を担っていることが

考えられた。そこで、TldC のアミノ酸残基を MpnDの残基へと変異した W97Y、F170W、A173M三重変異体を作成し、活性評価を行った。その結果、TldC変異体は GPP に対して顕著な活性の低下を示したにもかかわらず、DMAPP に対しては野生型と同程

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Photon Factory Activity Report 2013 #31 (2014) B

度の活性を維持していた。以上より、TldC と MpnDで特異的に置換されているこれらのアミノ酸残基が

prenyl 基質の基質特異性に重要な役割を担っていることが示された。

TldC MpnD

図2:TldC、MpnDの全体構造

図3:Diphospahteとの結合部位 (青:TldC、緑:MpnD)

W97!Y80!

F170!W157!

A173!M159!E106!

E89!

N367!N349!

K297!K279!

A254!Q239!

V297!V282!

E214!R218!

A255!S221!

2.9!

2.8!

2.9!

3.5!

3.0!

Indolactam V�

DMAPP�

図4:Indolactam Vとの結合部位 (青:TldC、緑:MpnD)

4 まとめ

本申請で決定した TldC と MpnD の結晶構造から、両酵素と indolactam V の結合様式および、TldC とMpnD で基質特異性が異なる要因となるアミノ酸残基を明らかとした。

参考文献 [1] Ma et al., Chembiochem., 13, 547 (2012)