4
42-1 無補強煉瓦造壁体の面内曲げ及びせん断耐力の算定法に関する考察 貴志 拓哉 1. はじめに 歴史的組積造建築物の耐震性を評価する方法は未だ 確立しておらず、 個々のケースに応じて様々な手法を用 いて耐震診断が行われているのが現状である。 著者らは 文献 1 において、 引張強度の小さい煉瓦造壁体では高 さ幅比が比較的小さい壁体でも面内曲げ破壊が生じうると 考え、 せん断破壊に加え、 曲げ破壊を考慮し、 保有水 平耐力を算定する手法を提案した。 一方で、 現状の耐 震診断事例には、「鉄筋コンクリート造建築物の耐 震診断基準」の一次診断に準じてせん断破壊のみ を考慮して耐震診断を行っているものが多い 2) 。ま た、 煉瓦造壁体の地震時の破壊はせん断が支配的にな 3) との報告もある。 そこで、 本研究では、 既往の無補 強煉瓦造壁体の実験的研究を調査し、 それらの実験結 果を用いて、 壁体の面内曲げおよびせん断耐力の算定 方法に関する考察を行い、 今後の煉瓦造建築物の耐震 診断に資する情報を示すことを目的とする。 2. 組積体の強度推定式の検証 壁体の耐力を算定するためには、煉瓦と目地モ ルタルからなる組積体の各強度が必要となるが、 収集した壁体の試験体にはそれらが明記されてい ないものが多く存在した。また、煉瓦やモルタル 単体の材料強度から組積体の各強度を推定する式 は種々存在する。そこで、本研究では、まず組積 体の各強度推定式を既往の組積体の実験結果を用 いて検証し、精度の確認を行った上で、壁体の耐 力の算定に用いることとする。組積体に関する既 往の研究を表1 に示す論文集から収集した。対象 は材料強度が明記されているものとし、圧縮実験 が行われた 113 体、一面及び二面せん断実験が行わ れており、かつ組積体の圧縮強度が明記されてい 100 体、直接引張実験が行われた 108 体である。 なお、実験結果が複数の試験体の平均値で示されてい るものは、 評価の際に、 その試験体数に応じて重み付 けを行う。 また、 試験体数が示されていない場合は 1 とする。 2.1 圧縮強度 収集した試験体の圧縮強度 ex σ cu と煉瓦及びモルタル 単体の圧縮強度 f cb f cj との関係を図1 に示す。 なお、 図 には試験体を既存建築物から取り出した試験体(以下、 既存試験体と呼ぶ)と、 新規に組積した試験体(以下、 新 規試験体と呼ぶ)で印を分けて示している。 多くの試験体 の圧縮強度が煉瓦単体の圧縮強度よりも小さくなってお り、 組積体の圧縮強度として煉瓦単体の圧縮強度を代用 する 4) ことは過大評価であるといえる。 Hilsdorf 5) は、 組 積体の圧縮強度推定式として下式を提案している。 ここで、 f tb は煉瓦単体の引張強度、 j は横目地モルタル の厚さ、 h b は煉瓦一枚の厚さ、 U はばらつきを考慮する ための係数である。 なお、 本研究では、 U の値を文献 6 を参考に 1.5 とする。 また、 煉瓦単体の引張強度を既 往の 24 体の煉瓦単体の引張実験結果から得られた相関 より圧縮強度の 1/10 とする ( 図2 参照 ) 図3 に試験体 の圧縮強度の実験値と計算値の比 ex σ cu / cl σ cu を断面積 を横軸にとり、 試験体高さ h で印を分けて示す。 ex σ cu / cl σ cu のばらつきは大きいが、 断面積が増えるにつれて 実験値と計算値との差が小さくなる傾向にある。 また、断面積及び高さの大きな実大の壁体に近いと考え られる新規試験体の実験結果に対して強度の推定精度が cb tb cj tb cb cu cl f f f f U f 図1 試験体の圧縮強度 ex σ cu と材料強度の関係 b h j 1 . 4 図2 煉瓦単体の圧縮強度 f cb と引 張強度 f tb の関係 図3 ex σ cu / cl σ cu と寸 法の関係 (1) 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 新規試験体(104体) 既存試験体(9体) 試験体圧縮強度 ex σ cu (N/mm 2 ) 煉瓦単体圧縮強度f cb (N/mm 2 ) 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 新規試験体(104体) 既存試験体(9体) 試験体圧縮強度 ex σ cu (N/mm 2 ) モルタル単体圧縮強度f cj (N/mm 2 ) 0 3 6 9 12 15 0 30 60 90 120 150 割裂試験(15体) 曲げ試験(5体) 試験方法不明(4体) 煉瓦単体引張強度f tb (N/mm 2 ) 煉瓦単体圧縮強度f cb (N/mm 2 ) 表 1 . 文献の調査範囲 0 1 2 3 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 新規試験体(0cm<h<50cm)(97体) 新規試験体(50cm≦h<100cm)(5体) 新規試験体(100cm≦h)(2体) 既存試験体(0cm<h≦50cm)(6体) 既存試験体(50cm≦h<100cm)(3体) ex σ cu / cl σ cu 断面積(cm 2 ) (a). 煉瓦単体圧縮強度 調査対象文献 調査対象年数 建築学会構造系論文集 1936年~2014年 建築学会技術報告集 1995年~2014年 建築学会総合論文誌 2003年~2014年 建築学会大会学術講演梗概集 1966年~2015年 日本建築学会支部研究報告集 1949年~2014年 コンクリート工学会コンクリート工学論文集 1990年~2014年 コンクリート工学会コンクリート工学年次論文報告集 1979年~2012年 平均値:10.1 変動係数:0.68 f cb /f tb 全体 平均値:10.1 変動係数:0.25 f cb /f tb 割裂のみ 平均値:1.16 変動係数:0.41 平均値:1.19 変動係数:0.39 全体 新規のみ (b). モルタル単体圧縮強度

無補強煉瓦造壁体の面内曲げ及びせん断耐力の算定 …...cv の関係を図4に示す。σ cv が大きくなるにつれて、 ex τ u は大きくなる傾向が明確に見られる。中浜ら2)は組積体

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 無補強煉瓦造壁体の面内曲げ及びせん断耐力の算定 …...cv の関係を図4に示す。σ cv が大きくなるにつれて、 ex τ u は大きくなる傾向が明確に見られる。中浜ら2)は組積体

42-1

無補強煉瓦造壁体の面内曲げ及びせん断耐力の算定法に関する考察

貴志 拓哉

1. はじめに

 歴史的組積造建築物の耐震性を評価する方法は未だ

確立しておらず、 個々のケースに応じて様々な手法を用

いて耐震診断が行われているのが現状である。 著者らは

文献 1 において、 引張強度の小さい煉瓦造壁体では高

さ幅比が比較的小さい壁体でも面内曲げ破壊が生じうると

考え、 せん断破壊に加え、 曲げ破壊を考慮し、 保有水

平耐力を算定する手法を提案した。 一方で、 現状の耐

震診断事例には、「鉄筋コンクリート造建築物の耐

震診断基準」の一次診断に準じてせん断破壊のみ

を考慮して耐震診断を行っているものが多い 2 )。 ま

た、 煉瓦造壁体の地震時の破壊はせん断が支配的にな

る 3) との報告もある。 そこで、 本研究では、 既往の無補

強煉瓦造壁体の実験的研究を調査し、 それらの実験結

果を用いて、 壁体の面内曲げおよびせん断耐力の算定

方法に関する考察を行い、 今後の煉瓦造建築物の耐震

診断に資する情報を示すことを目的とする。

2 . 組積体の強度推定式の検証

 壁体の耐力を算定するためには、煉瓦と目地モ

ルタルからなる組積体の各強度が必要となるが、

収集した壁体の試験体にはそれらが明記されてい

ないものが多く存在した。また、煉瓦やモルタル

単体の材料強度から組積体の各強度を推定する式

は種々存在する。そこで、本研究では、まず組積

体の各強度推定式を既往の組積体の実験結果を用

いて検証し、精度の確認を行った上で、壁体の耐

力の算定に用いることとする。組積体に関する既

往の研究を表 1 に示す論文集から収集した。対象

は材料強度が明記されているものとし、圧縮実験

が行われた 113 体、一面及び二面せん断実験が行わ

れており、かつ組積体の圧縮強度が明記されてい

る 100 体、直接引張実験が行われた 108 体である。

なお、実験結果が複数の試験体の平均値で示されてい

るものは、 評価の際に、 その試験体数に応じて重み付

けを行う。 また、 試験体数が示されていない場合は 1 体

とする。

2 . 1 圧縮強度

 収集した試験体の圧縮強度 ex σ cu と煉瓦及びモルタル

単体の圧縮強度 fcb、 fcj との関係を図1に示す。 なお、 図

には試験体を既存建築物から取り出した試験体(以下、

既存試験体と呼ぶ)と、 新規に組積した試験体(以下、 新

規試験体と呼ぶ)で印を分けて示している。 多くの試験体

の圧縮強度が煉瓦単体の圧縮強度よりも小さくなってお

り、 組積体の圧縮強度として煉瓦単体の圧縮強度を代用

する 4) ことは過大評価であるといえる。 Hilsdorf5) は、 組

積体の圧縮強度推定式として下式を提案している。

ここで、 ftb は煉瓦単体の引張強度、 j は横目地モルタル

の厚さ、 hb は煉瓦一枚の厚さ、 U はばらつきを考慮する

ための係数である。 なお、 本研究では、 U の値を文献

6 を参考に 1.5 とする。 また、 煉瓦単体の引張強度を既

往の 24 体の煉瓦単体の引張実験結果から得られた相関

より圧縮強度の 1/10 とする ( 図 2 参照 )。 図 3 に試験体

の圧縮強度の実験値と計算値の比 ex σ cu/cl σ cu を断面積

を横軸にとり、 試験体高さ h で印を分けて示す。 ex σ cu/cl

σ cu のばらつきは大きいが、 断面積が増えるにつれて

実験値と計算値との差が小さくなる傾向にある。

また、断面積及び高さの大きな実大の壁体に近いと考え

られる新規試験体の実験結果に対して強度の推定精度が

cbtb

cjtbcbcucl ff

ffUf

図 1  試験体の圧縮強度e x

σc u

と材料強度の関係

bhj1.4

図 2  煉瓦単体の圧縮強度 fc b

と引

張強度 ft b

の関係

図 3 e x

σc u/

c lσ

c uと寸

法の関係

(1)

0

20

40

60

80

0 20 40 60 80

新規試験体(104体)

既存試験体(9体)

試験体

圧縮強

度exσ

cu(N/m

m2 )

煉瓦単体圧縮強度fcb(N/mm2)

0

20

40

60

80

0 20 40 60 80

新規試験体(104体)既存試験体(9体)試

験体

圧縮強

度exσ

cu(N/m

m2 )

モルタル単体圧縮強度fcj(N/mm2)

0

3

6

9

12

15

0 30 60 90 120 150

割裂試験(15体)曲げ試験(5体)試験方法不明(4体)煉

瓦単

体引張

強度f tb(N/m

m2 )

煉瓦単体圧縮強度fcb(N/mm2)

表 1 . 文献の調査範囲

0

1

2

3

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500

新規試験体(0cm<h<50cm)(97体)新規試験体(50cm≦h<100cm)(5体)新規試験体(100cm≦h)(2体)既存試験体(0cm<h≦50cm)(6体)既存試験体(50cm≦h<100cm)(3体)

exσ

cu/ c

lσcu

断面積(cm2)

( a ) . 煉瓦単体圧縮強度

調査対象文献 調査対象年数

建築学会構造系論文集 1936年~2014年

建築学会技術報告集 1995年~2014年建築学会総合論文誌 2003年~2014年

建築学会大会学術講演梗概集 1966年~2015年日本建築学会支部研究報告集 1949年~2014年

コンクリート工学会コンクリート工学論文集 1990年~2014年コンクリート工学会コンクリート工学年次論文報告集 1979年~2012年

平均値:10 .1変動係数:0 .6 8

fcb/f tb 全体

平均値:10 .1変動係数:0 .2 5

fcb/f t b 割裂のみ

平均値:1 .16変動係数:0 .4 1平均値:1 .19変動係数:0 .3 9

全 体

新 規 の み

( b ) . モルタル単体圧縮強度

Page 2: 無補強煉瓦造壁体の面内曲げ及びせん断耐力の算定 …...cv の関係を図4に示す。σ cv が大きくなるにつれて、 ex τ u は大きくなる傾向が明確に見られる。中浜ら2)は組積体

42-2

良いと考えられる。 しかし、 既存試験体に関しては計算

値が実験値を過大評価する傾向にある。

2 . 2 . せん断強度

 収集した試験体のせん断強度 ex τ u と軸圧縮応力度σ cv

の関係を図 4 に示す。 σ cv が大きくなるにつれて、 ex τ

u は大きくなる傾向が明確に見られる。 中浜ら 2) は組積体

のせん断強度推定式として以下の (2) 式を、 Paulay ら6) は

(3) 式を提案している。

参考に、図 7 に示す方法で、せん断破壊、曲げひ

び割れ破壊、曲げ終局破壊の 3 つに分類する。な

お、図 7 で破壊形式を再検討と判断される試験体

は 5 体存在するが、ひび割れ性状が典型的なせん断

ひび割れであるので、せん断破壊と判断する。

3 . 1 曲げひび割れ耐力

 曲げひび割れ耐力算定式は、 平面保持を仮定し、 壁

体を線形弾性体として、 引張縁の応力度が引張強度に

達した時の曲げモーメントを反曲点高さ h’ で除した式とし

ている。cvucl 0

一般的な値

及び範囲

ここで、 Ft は目地モルタルと煉瓦の界面の引張強度、 μ

は摩擦係数、 τ 0 はσ cv が 0 時のせん断強度である。 図

5 に実験値と (2) 式及び一般的な値を用いた場合の (3) 式

の計算値の比 ex τ u/cl τ u をσ cv を横軸にしてそれぞれ示

す。 両式ともσ cv が 0 の時は ex τ u/cl τ u に大きなばらつき

がみられる。 σ cv が 0 の試験体以外では、 (2) 式の計算

値は実験値を過大評価しており、 ex τ u/cl τ u のばらつきも

大きい。 (3) 式は概ね平均値を捉えており、 (2) 式と比べ

ると、 ex τ u/cl τ u のばらつきは小さい。 これより、 本研究

では、 組積体のせん断強度推定式には (3) 式を、 τ 0 及

びμにはそれぞれ 0.04 σ cu、 0.5 を使用する。

2 . 3 . 引張強度

 収集した試験体の引張強度 ex σ tu と fcb、 fcj との関係を図

6 に示す。 既存試験体の引張強度は大きくばらついてい

る。 また、 新規試験体では、 煉瓦単体の圧縮強度と引

張強度の関係に明確な傾向はみられないが、 モルタル

単体の圧縮強度が大きくなるにつれて引張強度が大きく

なる相関が明確にみられる。 したがって、 新規試験体の

みの図 6(b)に示す ex σ tu-fcj 関係から得られた直線近似式

(以下の (4) 式)を組積体の引張強度推定式として使用す

る。

cu 04.00 2.13.0 ≦≦

(2)

5.0

5.11.0 0 ≦≦

0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5

新規試験体(75体)既存試験体(25体)

試験

体せ

ん断

強度

exτ

u(N/m

m2 )

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5

新規試験体(75体)既存試験体(25体)

exτ

u/ c

lτu

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

図 5 e x

τu/

c lτ

uとσ

c vの関係

図 6  試験体の引張強度e x

σt u

と材料強度の関係

21

4.109.0 tcvcjucl Ff

(3)

cjtucl f05.0 (4)

図 4  試験体のせん断強度e x

τuと軸

圧縮応力度σc v

の関係

(a) . 中浜ら式

( a ) . 煉瓦単体圧縮強度 ( b ) . モルタル単体圧縮強度

(b) .Pau lay ら式

平均値:0 .59変動係数:0 .5 1

全体( 軸力 0 除く)

新規のみ( 軸力 0 除く)

0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5

新規試験体(75体)既存試験体(25体)

exτ

u/clτ

u

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

start

中央部のひび割れ状況

端部のひび割れ状況

曲げひび割れ破壊 曲げ終局破壊せん断破壊

ロッキング現象

最大荷重後の荷重変形関係

最大荷重後の荷重変形関係

除外

その他

その他のひび割れ

水平方向の目地のひび割れ

斜め方向のひび割れ

急な低下

急な低下を示し、その後ほぼ一定

ほぼ一定

有無

有無の判断不可

0

Q

0

Q

δ

δ

0 δ

Q

緩やかな低下を示し、その後ほぼ一定

0 δ

Q

2通りで検討

再検討

0

Q

δ

緩やかな低下あるいはほぼ一定

ここで、 Z は壁体の水平断面の断面係数である。 なお、

軸圧縮応力度σ cv には、 壁体及び加力スタブの自重を

考慮した軸力 ( 表 2 中の N’) を用いる。 曲げひび割れ破

壊に分類した 12 体に、 曲げ終局破壊とも考えうる 3 体を

加え、 計 15 体の実験結果を用いて検証を行う。 図 8 に

実験値と計算値の比 exQ mc/ clQ mc を壁厚 t( 直交壁があ

る場合は直交壁の壁幅 D f) を横軸にして示す。計算

値は実験値を過大評価する傾向にあり、ばらつき

はかなり大きい。これはそれぞれの試験体の施工

状態などが影響していると考えられ、実際の煉瓦

図 7  破壊形式の分類方法

平均値:0 .62変動係数:0 .4 7

0

0.5

1

1.5

2

0 10 20 30 40 50 60 70 80

新規試験体(55体)既存試験体(53体)

試験

体引

張強

度exσ

tu(N/m

m2 )

煉瓦単体圧縮強度fcb(N/mm2)

0

0.5

1

1.5

2

0 10 20 30

新規試験体(55体)

既存試験体(53体)

試験

体引

張強

度exσ

tu(N/m

m2 )

モルタル単体圧縮強度fcj(N/mm2)

y=0.05x

平均値:1 .19変動係数:0 .3 2

全体( 軸力 0 除く)

新規のみ( 軸力 0 除く)

平均値:1 .19変動係数:0 .3 4

※既存 試験 体の f c b は煉 瓦単 体 の 圧 縮 実 験 結 果 か ら得られた 1 1 体の平均値

※既存試験体の f c j はモルタル 単 体 の 圧 縮 実 験 結 果 から得られた 6 体の平 均値

実 験 値 と推 定 値 の 比平均値:0 .82変動係数:0 .3 7

3 . 壁体の耐力算定式の検証

 表 1 に示す国内の論文集等から無補強煉瓦造壁

体の水平加力実験を実施した研究を収集した。分

析対象は、実験値の読み取りが不可能であったも

の、加力方法に問題があると思われるもの、壁厚

が 100mm 未満のものを除いた 44 体 7)~17) の試験体で

ある ( 表 2 参照 )。本研究では、試験体の破壊形式

をひび割れ状況、荷重変形関係、文中の記述等を

'h

ZQ cvtumccl

(5)

100/cjt fF

Page 3: 無補強煉瓦造壁体の面内曲げ及びせん断耐力の算定 …...cv の関係を図4に示す。σ cv が大きくなるにつれて、 ex τ u は大きくなる傾向が明確に見られる。中浜ら2)は組積体

42-3

造壁体の曲げひび割れ耐力を正確に評価すること

は難しいといえる。また、壁厚が大きくなるにつ

れて、exQmc/clQmc が小さくなる傾向が見られるが、こ

れは寸法効果の影響とも考えられる。

3 . 2 曲げ終局耐力

 曲げ終局耐力算定式は、壁体が引張を負担せず、

圧縮側に圧縮強度の 0 . 8 5 倍の矩形応力ブロックを

仮定して求めた曲げモーメントを反曲点高さで除

したものとし、直交壁が無い場合は (6 ) 式、ある場

合は (7) 式とする。

表 2  既往文献の試験体一覧

※t:壁厚,D:壁幅,tf:直交壁の壁厚,Df:直交壁の壁幅,N:文献に記載の軸力,N’:曲げ耐力算定時に用いる軸力で、 載荷軸力に壁体及び加力スタブの重量を考慮。ただし、反曲点高さが試験体高さの1/2以上のものは載荷軸力に加力スタブ及び壁体の重量を加算し、反曲点高さが1/2のものは壁体の重量は加算せず、加力スタブの重量のみを加算。(壁体及び加力スタブの単位容積重量は建築物荷重指針 18)によった)、exQmax:最大荷重実験値,exQmu:曲げ終局時の荷重,FC:曲げひび割れ破壊,FU:曲げ終局破壊,S:せん断破壊,F:曲げひび割れあるいは曲げ終局破壊 ,R:再検討 ※ 1 括弧内の数値は (1) 式により推定 , 太字の数値は JIS 規格 19) を参考に設定 ※ 2 括弧内の数値はモルタルの曲げ引張強度を 10 倍したもの ※ 3 括弧内の数値は(1) 式により推定 ※ 4 括弧内の数値は (3) 式により推定 , グレー部分の数値は二面せん断実験結果にモールクーロンの破壊規準を適用して推定 , 太字の数値は文中の耐力式から逆算(文献 16では実験値と計算値の比較及び検証を行っていることから、 組積体の強度実験は行われているものと判断し、 強度記載有りの試験体とした) ※ 5 括弧内の数値は (4) 式により推定 , 太字の数値は組積体の曲げ引張強度 ※ 6 グレー部分の数値は二面せん断実験結果にモールクーロンの破壊規準を適用して推定 , 太字の数値は文中の耐力式から逆算(文献 16 では実験値と計算値の比較及び検証を行っていることから、 組積体の強度実験は行われているものと判断し、 摩擦係数記載有りの試験体とした)

圧縮応力度σ cv には、 壁体及び加力スタブの自重を考

慮した軸力 ( 表 2 中の N’) を用いる。 曲げ終局破壊に分

類した 16 体に、 曲げひび割れ破壊に分類した試験体の

中から曲げ終局時の荷重を推定した7体及び曲げひび割

れとも考えうる 3 体を加え、 計 26 体の実験結果を用いて

検証を行う。 図 9 に実験値と計算値の比 exQmu/clQmu を

σ c v を横軸にして示す。計算値は実験値を概ね評

価しており、そのばらつきは軸圧縮応力度が大き

くなるにつれて小さくなっている。

3 . 3 せん断耐力

 せん断耐力算定式は、 壁体の加力方向のせん断応力

度分布を一様とした (8) 式、 放物線状とした (9) 式及び

G.Magenes ら 20) が提案している (10) 式とする。

'285.01

2

htDQ cv

cu

cvmucl

(6)

ここで、 D は壁幅、 tf は直交壁の壁厚である。 なお、 軸

'2

2285.0

221

hDtttDtD

DDtttDtD

Q cvfff

fcu

cvfffmucl

(7)

t D tf Df fcb※1 fcj※

2 σcu※3 τ0※

4 σtu※5 exQmax exQmu

(mm) (mm) (mm) (mm) (N/mm2) (N/mm2) (N/mm2) (N/mm2) (N/mm2) (kN) (kN)2D-H0-H0V0-48 - - (104.7) 51.7 59.6 (2.38) (2.59) 84 90 51 51 FU2D-H0-H0V0-84 - - (73.8) 53.6 45.3 (1.81) (2.68) 147 153 79 79 FU

NO.1 0.58 105 105 755 (71.6) 44.4 42.5 (1.70) (2.22) 269 281 198 - SM-2.0B1-0 - - 0 5 36 - FC

M-2.0B1-450 - - 450 455 228 228 FUM-2.0Y1-360 - - 360 365 174 174 FUM-2.0Y1.5-0 - - 0 7 21 - FC

M-2.0Y1.5-450 - - 450 457 153 153 FUM-2.0B1.5-360 - - 360 367 120 120 FU

M-2.0Y2-0 - - 0 9 3 - FCM-2.0Y2-450 - - 450 459 109 109 FUM-2.0B2-360 - - 360 369 91 91 FUM-2.5Y1-0 - - 0 7 21 - FC

M-2.5Y1-450 - - 450 457 217 217 FUM-2.5B1-450 - - 450 457 216 216 FUM-2.5B1.5-0 - - 0 9 28 5 FC

M-2.5Y1.5-450 - - 450 459 148 148 FUM-2.5Y2-0 - - 0 12 26 - FC

M-2.5B2-450 - - 450 462 115 115 FU9 無補強試験体 0.60 320 650 - - 42.2 45.0 (28.7) (1.15) 0.61 - 10 10 14 12 FC

W1-00I - - 10.7 13.3 (0.53) (0.54) 11 11 19 6 FCW1-06I - - 20.5 18.8 (0.75) (1.03) 129 129 75 68 F

2D-L0-H0V0-48 - - (45.5) 28.3 27.0 (1.08) (1.42) 88 95 78 78 FU2D-L0-H0V0-84 - - (34.7) 22.7 20.8 (0.83) (1.14) 154 161 127 - R→S3D-L0-H0V0-48 105 755 (38.0) 34.7 24.7 (0.99) (1.74) 154 165 184 68 FC3D-L0-H0V0-84 105 755 (35.7) 26.9 22.1 (0.88) (1.35) 269 281 227 - S

12 従来型試験体 0.29 100 870 - - (76.2) (9.1) (37.9) 0.09 0.19 0.58 20 20 17 - R→SNO.1(新規) - - 27 29 90 40 FCNO.2(新規) - - 27 29 60 - SNO.1(既存) - - 27 29 38 - SNO.2(既存) - - 27 29 45 30 FNO.3(既存) 0.45 - - 11 13 29 - SNO.4(既存) - - 8 10 27 17 FNO.5(既存) - - 1.06 21 23 60 35 FC

14 UB210 0.33 210 1750 - - (26.8) 30.5 18.6 (0.74) (1.53) - 144 158 292 - SNO.1 - - (94.4) 25.8 49.7 (1.99) (1.29) 63 70 43 43 FUNO.5 - - (18.0) 19.6 12.3 (0.49) (0.98) 236 243 102 - R→S

B1-0.2 0.96 760 - - 32 33 23 22 FUB2-0.2 0.61 1200 - - 50 52 61 - SB3-0.2 0.32 1310 - - 55 57 72 - R→SB1-1.2 0.96 760 - - 192 193 96 96 FUB2-1.2 0.61 1200 - - 302 304 196 - R→SB3-1.2 0.32 1310 - - 330 333 256 - S

17 S-1 0.64 430 1200 - - 42.2 45.0 (28.7) (1.15) 0.61 0.60 20 35 52 23 FC

210

0.50

0.50

0.97

350500

400

100 1310

1.00

0.58 105

210 1020

1750

1001750

447

561

0.95

0.99

1.50

2.01

0.99

1.50

2.01

674

0.330.24

12.8 26.0 (11.0)0.73

(0.44)

0.80

-

0.62

-

-

-

1.241.43

-

軸力

1.71(1.26)

15

16

70.0 17.9 41.3

33.1

30.0 - 3.9

55.5 27.5 (31.6)

8

11

13

7

せん断スパン比

αv

水平断面形状

10

N(kN)

N'(kN)

破壊形式

材料強度及び組積体の各種強度 摩擦係数

μ※6

実験値文献番号

試験体名

Page 4: 無補強煉瓦造壁体の面内曲げ及びせん断耐力の算定 …...cv の関係を図4に示す。σ cv が大きくなるにつれて、 ex τ u は大きくなる傾向が明確に見られる。中浜ら2)は組積体

42-4

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0 0.5 1 1.5 2

新規、強度記載有、直交壁無新規、強度記載有、直交壁有新規、強度記載無、直交壁無既存、強度記載無、直交壁無

exQ

mu/

clQ

mu

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

参考文献1)辻,他:歴史的組積造建築物の耐震診断手法に関する研究(その4),日本建築学会大会学

術講演梗概集,2015.09 2)中浜,他:煉瓦目地のせん断試験方法および破壊基準に関する実

験的研究,日本建築学会構造系論文集,2009.07 3)劉可,他:既存煉瓦造建築物の壁体の強度

試験法に関する研究,コンクリート工学年次論文集,2003 4)北海道建築技術協会:煉瓦造建築

物の耐震診断規準,2012 5)Hilsdorf:Investigation into the failure mechanism of brick masonryloaded in axial compression,Engineering and Constructing with Masonry Products, FB JohnsonEd,1969 6)T.Paulay,他:Seismic Design of Concrete and Masonry Buildings,1992 7)板井,他:

組積造壁体の耐震性向上に関する実験的研究(その7-10),日本建築学会大会学術講演

梗概集,2004.08 8)森永,他:三菱一号館の復元に伴う構造耐力試験(その2-4),日本建築学

会大会学術講演梗概集,2006.09 9)吉田,他:ステンレスピンにより耐震補強された開口部付組

積造壁の繰り返し面内曲げせん断試験(その1-2),日本建築学会大会学術講演梗概集

,2009.08 10)荒木,他:煉瓦組積造壁のエポキシ樹脂補強効果,日本建築学会技術報告集

,2011.02 11)吉村,他:枠組煉瓦造壁体の耐震性向上に関する実験的研究,日本建築学会構

図 8  実験値と計算値の比

e xQ

mc/

c lQ

mcと壁厚 t の関係

図 1 2  実験値と計算値の比e xQ

s/

c lQ

sと

軸圧縮応力度σc v

の関係

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

0 100 200 300 400 500 600 700 800

新規、強度記載有、直交壁無既存、強度記載有、直交壁無新規、強度記載無、直交壁無新規、強度記載無、直交壁有

exQ

mc/

clQ

mc

壁厚t(mm)図 9  実験値と計算値の比

e xQ

m u/

c lQ

m uと軸圧縮応力度σ

c vの関係

平均値:1 .10変動係数:0 .2 3

全 体平均値:0 .65変動係数:0 .4 6

全 体

強 度 記 載 有 り平均値:0 .58変動係数:0 .4 5

(a ) . (8 )式 (b). (9 )式 (c ) . (1 0 )式

ここで、 αvはせん断スパン比である。 せん断破壊に分

類した 15 体の実験結果を用いて検証を行う。 図 10 に実

験値と計算値の比 exQ s / c l Q s をせん断スパン比αv

横軸にしてそれぞれ示す。なお、組積体のσ c v が 0時のせん断強度と摩擦係数が明示されていない試

験体(●印以外の試験体)にはそれぞれ 0.04 σ cu、0.5を用いて算定した。( 8 ) 式は実験値を過大評価し、

(9)、(10) 式はそれぞれ平均値、下限値を概ね捉えて

いる。また、●印で示す 5 体の試験体は (9)、(10) 式

ともに比較的ばらつきが小さい結果となっている。

一方、せん断スパン比による明確な傾向は 3 式とも

あまりみられない。図 10 に (9)、(10) 式の実験値と

計算値の比 exQ s/clQs を壁厚 t を横軸にしてそれぞれ示

す。(9) 式では、壁厚が大きくなるにつれて exQ s/ clQ s

が小さくなる傾向がみられるが、(10 ) 式ではこの傾

向はみられない。図 11 に●印以外の試験体に (3) 式

の摩擦係数の最小値 0.3、最大値 1.2 を用いた場合の

(9)、(10) 式の実験値と計算値の比 exQs/clQs を軸圧縮応

力度σ c v を横軸にして示す。( 9 ) 式では摩擦係数が

1.2 の場合、exQs/clQs が 1.0 を下回る試験体が多くなる。

一方、(10) 式では摩擦係数が 1.2 の場合でも exQ s/clQ s

が 1 . 0 を下回る試験体は 1 体のみであり、計算値は

実験値を安全側に評価しているといえるが、極端

に過小評価しているものもみられる。

4 . まとめ

 無補強煉瓦造壁体の耐力の算定方法を既往の実

験結果を用いて考察した。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

exQ

s/clQ

s

せん断スパン比αv

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

exQ

s/clQ

s

せん断スパン比αv

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

exQ

s/clQ

s

せん断スパン比αv

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 100 200 300 400

exQ

s/clQ

s

壁厚t(mm)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 100 200 300 400

exQ

s/clQ

s

壁厚t(mm)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2

exQ

s/clQ

s

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2

exQ

s/clQ

s

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2

exQ

s/clQ

s

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2exQ

s/clQ

s

軸圧縮応力度σcv(N/mm2)

( a ) . ( 9 )式 μ =0 .3 (b) . (9 )式 μ =1 .2

(c ) . (1 0 )式 μ =0 .3 (d) . ( 1 0 )式 μ =1 .2

図 1 1  実験値と計算値の比e xQ

s/

c lQ

sと壁厚 t の関係

図 1 0  実験値と計算値の比e xQ

s/

c lQ

sとせん断スパン比α

vの関係

(a). (9 )式 (b). (1 0)式

強 度 記 載 有 り平均値:1 .07変動係数:0 .2 1

平均値:0 .62変動係数:0 .3 3

全 体

強 度 記 載 有 り平均値:0 .71変動係数:0 .1 4

平均値:0 .92変動係数:0 .3 3

全 体

強 度 記 載 有 り平均値:1 .07変動係数:0 .1 4

平均値:1 .61変動係数:0 .3 2

全 体

平均値:1 .41変動係数:0 .3 1

全 体

平均値:0 .79変動係数:0 .3 8

全 体

平均値:0 .99変動係数:0 .3 3

全 体

平均値:1 .55変動係数:0 .3 2

全 体

強 度 記 載 有 り平均値:1 .15変動係数:0 .1 5

造系論文集,2003.09  12)真田,他:枠組組積造

壁の水平力抵抗機構から推察される無補強組

積造建築の高耐震化技術,日本建築学会構造

系論文集,2006.07 13)中浜,他:旧三井製糸所

の煉瓦および煉瓦目地の力学特性評価に関す

る実験的研究 , 日本建築学会構造系論文集

,2010.12 14)吉村,他:焼成レンガによる無補

強組積造耐力壁の耐震補強に関する実験的研

究(その1-2),日本建築学会九州支部研究

報告集,2000.03 15)豊留,他:ポリマーセメン

トモルタルにより補強されたれんが造壁体の

耐震性能に関する実験的研究(その1-2),

日本建築学会九州支部研究報告集,2007.03 

16)青木,他:組積造壁体の地震時挙動に関する

実験的研究,コンクリート工学年次論文集,2002 

17)多幾山,他:ステンレスピンにより耐震補強

された組積壁の面内曲げせん断特性,コンク

リート工学年次論文集,2008 18)日本建築学会:

建築物荷重指針 ・ 同解説 ,1993 19)JIS R1250,2011 20)G.Magenes,他:In-plane SeismicResponse of Brick Masonry Walls,Earthquake En-gineering and Structural Dynamics,1997

新規、強度記載有、直交壁無新規、強度記載無、直交壁無新規、強度記載無、直交壁有既存、強度記載無、直交壁無

図10,11,12に示す凡例

cvscl tDQ 0 (8) (9) cvscl tDQ 032

tb

cv

V

tb

V

cv

cv

v

cvscl f

ftDQ

1

13.2,

1,

31

5.1min 0

0

0 (10)