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第三部「世界中で唯一のペアリング」 その日は遂にやってきた!! Viola とのめぐり合い、これで鳴らしてみたいスピーカー。 そして Avantgarde を知り、組み合わせてみたいアンプ。そんな贅沢な、しかも最初で最後に なるかもしれないという垂涎のシステムでどんな世界が見えてくるのだろうか!? 9 月28日の こと、展示期間をあと三日残すところとなった TRIO+6BASSHORN を惜しむように、やっと夢の ペアリングが実現した。しかし、初日の音は到底納得の行くものではなかった。好例のPAD SYSTEM ENHANCER で徹夜のバーンインを繰り返し、TRIO+6BASSHORN が明日はなくなってしま うという最終日の30日に、とうとうその真価を発揮する演奏を聴くことが出来たのである。 その時のシステム構成は次のような組み合わせであり、マスタークロック・ジェネレーター の ESOTERIC G-0s の加入がシステム全体をより高度な状態に仕上げてくれたようである。 ESOTERIC G-0s (AC DOMINUS ) Esoteric P-0s ( AC/DC DOMINUS & RK-P0)→PAD DIGIT AES/EBU 1.0m × 2→dcs 974 (AC DOMINUS) →PAD DIGITAL DOMINUS BNC 3 → dcs Elgar plus 1394 (AC DOMINUS) Viola BLUES SILV ER INTERCONNECT 2 Viola SPIRITO (AC DOMINUS) Viola BLUES SILVER INTERCONNECT 6m Viola BRAVO 2BOX (AC DOMINUS ) PAD DOMINUS SP BI-WIER 5m → Avantgarde TRIO+BASSHORN (With PAD TAN MIZUNOSEI SPK) まず、最初に聴きなれた David Sanborn TIMEAGAIN」をかけてみることにした。三日間と いう熟成の時間を経て、Viola を核とするシステム構成で TRIO+6BASSHORN はどのような変貌 を遂げているのか期待の一瞬である。さあ、一曲目の「COMIN' HOME BABY」 がスタートした。 「えっ!? これは違うぞ!!」 イントロで始まったスティーヴ・ガッドのブラシワークの鮮明さ、クリスチャン・マクブ ライドのベースの重量感、それらリズムセクションの緊張感に目を見張り解像度の高まりに 思わず唸ってしまった。特にドラムヘッドに軽やかに打ち下ろされるブラシが、それ自体に しなりを加えてヒットする瞬間にブラシの先端の一本一本が明確に独立している様が感じら れるのである。そしてそのブラシのスピーディーで軽快なアクションにピンスポットが当て られたように、以前にも増して音像を目の前に差し出してくる躍動感として私の感性をヒッ トしてくるのである。これには驚いた!! そして、デヴィッド・サンボーンのアルト・サックスが入ってきたときに、その音像がこ れまでにないほど凝縮されていることにわが耳を疑ってしまった。シャープな音像表現に変 化していくと、それ自身の質感が硬質化してしまい耳に刺さるような刺激成分を図らずも含 んでしまう演奏を経験したことが多々あるが、リードの質感を極めて微妙なヴァイブレーシ ョンとして発散し豊富な余韻感に周囲を包まれているので極めてストレスフリーな質感なの である。マイク・マイニエリのヴァイブを前述では“漂うような…”という表現をしていた が、このときのヴァイブはヒットの瞬間が際立って鮮明になっているので、TRIO の両翼に展 開する打音の連続はしっかりと空間にきらめきを見せるので明らかに前言撤回という印象だ。 とにかく、打楽器のインパクトがこれほど鮮明になろうとは予想もしてい なかったので、それでは…、ということでドラムでの反応を見ることにした。 ドライな録音というか、極力演出をしていないレコーディングでドラムの 質感をチェックするにはこのディスクが最適だ。 dmp Morello Standard から Take Five を聴く。 1

第三部「世界中で唯一のペアリング」 その日は遂にやってき …このときの Joe Morello は凄まじかった!! 今まで何年間もこの曲を聴いてきたのだが、こ

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Page 1: 第三部「世界中で唯一のペアリング」 その日は遂にやってき …このときの Joe Morello は凄まじかった!! 今まで何年間もこの曲を聴いてきたのだが、こ

第三部「世界中で唯一のペアリング」

その日は遂にやってきた!! Viola とのめぐり合い、これで鳴らしてみたいスピーカー。

そして Avantgarde を知り、組み合わせてみたいアンプ。そんな贅沢な、しかも最初で最後に

なるかもしれないという垂涎のシステムでどんな世界が見えてくるのだろうか!? 9月28日の

こと、展示期間をあと三日残すところとなった TRIO+6BASSHORN を惜しむように、やっと夢の

ペアリングが実現した。しかし、初日の音は到底納得の行くものではなかった。好例の PAD

SYSTEM ENHANCER で徹夜のバーンインを繰り返し、TRIO+6BASSHORN が明日はなくなってしま

うという最終日の 30 日に、とうとうその真価を発揮する演奏を聴くことが出来たのである。

その時のシステム構成は次のような組み合わせであり、マスタークロック・ジェネレーター

の ESOTERIC G-0s の加入がシステム全体をより高度な状態に仕上げてくれたようである。

ESOTERIC G-0s(AC DOMINUS) →Esoteric P-0s(AC/DC DOMINUS & RK-P0)→PAD DIGITAL DOMINUS

AES/EBU 1.0m ×2→dcs 974 (AC DOMINUS)→PAD DIGITAL DOMINUS BNC 3ch/1tube(SPDIF-2)

→ dcs Elgar plus 1394(AC DOMINUS) → Viola BLUES SILVER INTERCONNECT 2m → Viola

SPIRITO(AC DOMINUS) →Viola BLUES SILVER INTERCONNECT 6m→Viola BRAVO 2BOX SET (AC

DOMINUS) →PAD DOMINUS SP BI-WIER 5m→Avantgarde TRIO+BASSHORN(With PAD TANTUS &

MIZUNOSEI SPK)

まず、最初に聴きなれた David Sanborn「TIMEAGAIN」をかけてみることにした。三日間と

いう熟成の時間を経て、Viola を核とするシステム構成で TRIO+6BASSHORN はどのような変貌

を遂げているのか期待の一瞬である。さあ、一曲目の「COMIN' HOME BABY」がスタートした。

「えっ!? これは違うぞ!!」

イントロで始まったスティーヴ・ガッドのブラシワークの鮮明さ、クリスチャン・マクブ

ライドのベースの重量感、それらリズムセクションの緊張感に目を見張り解像度の高まりに

思わず唸ってしまった。特にドラムヘッドに軽やかに打ち下ろされるブラシが、それ自体に

しなりを加えてヒットする瞬間にブラシの先端の一本一本が明確に独立している様が感じら

れるのである。そしてそのブラシのスピーディーで軽快なアクションにピンスポットが当て

られたように、以前にも増して音像を目の前に差し出してくる躍動感として私の感性をヒッ

トしてくるのである。これには驚いた!!

そして、デヴィッド・サンボーンのアルト・サックスが入ってきたときに、その音像がこ

れまでにないほど凝縮されていることにわが耳を疑ってしまった。シャープな音像表現に変

化していくと、それ自身の質感が硬質化してしまい耳に刺さるような刺激成分を図らずも含

んでしまう演奏を経験したことが多々あるが、リードの質感を極めて微妙なヴァイブレーシ

ョンとして発散し豊富な余韻感に周囲を包まれているので極めてストレスフリーな質感なの

である。マイク・マイニエリのヴァイブを前述では“漂うような…”という表現をしていた

が、このときのヴァイブはヒットの瞬間が際立って鮮明になっているので、TRIO の両翼に展

開する打音の連続はしっかりと空間にきらめきを見せるので明らかに前言撤回という印象だ。

とにかく、打楽器のインパクトがこれほど鮮明になろうとは予想もしてい

なかったので、それでは…、ということでドラムでの反応を見ることにした。

ドライな録音というか、極力演出をしていないレコーディングでドラムの

質感をチェックするにはこのディスクが最適だ。

dmp の Morello Standard から Take Five を聴く。

1

Page 2: 第三部「世界中で唯一のペアリング」 その日は遂にやってき …このときの Joe Morello は凄まじかった!! 今まで何年間もこの曲を聴いてきたのだが、こ

「おー!! このスピード感は何なんだ!!」

このときの Joe Morello は凄まじかった!! 今まで何年間もこの曲を聴いてきたのだが、こ

れほどアタックが早い高速な立ち上がりのドラムは聴いたことがない。他のシステムで聴い

てきたドラムの音は、いうなれば太鼓に張りつめた皮というイメージがあり、打撃の瞬間で

はスティックがはね返されるような何がしかの弾力性をもったドラムヘッドをイメージした

ものであった。しかし、このときの打音は違った。皿を硬い床に叩きつけたような“破砕音”

のようでもあり、スネアーのテンションがパリンッ!!と音をたてて TRIO の前面で炸裂するの

である。そして、キックドラムの音。これが BASSHORN のチューニングがやはり正しかった、

と再確認させてくれるように「ダッ、ダッ、ダッ!!」と乾いた波動を打ち出してくる。「ドス

ッ、ドスッ、ドスッ」ではない、もっと高速なブレーキングによってイコランジングしてい

ないキックドラムの質感がリアルサイズの打音を高速、かつゆとりを持って再現している。

「いや~、Avantgarde って、こんなに凄いドラムを鳴らすんだ!! 全然イメージが違うぞ!!」

という驚きにそそられて、もう一枚の Joe Morello をかけてみる。Going Places からは、

この一曲 Autumn Leaves である。この曲はドラムとウッドベースという珍しいデュオの演奏

なのだが、そのスリリングなドラムはたちどころにスピーカーの性格を

暴露してくれるものだろう。さあ、この曲がスタートしたら CD プレーヤーの

カウンターを見ていて欲しい。ブラシを使った小気味よいリズムとキック

ドラムの正直な音がベースと絡まりあって展開していくその時、スタート

してからカウンターが 00:24 を示した瞬間に炸裂するスネアーの打音が

私をのけぞらせたのである。直接音を 85%リスナーに伝えるという

Avantgarde の理論とはこれのことなのか。そして、その瞬発力を寸分たが

わず発揮される Viola との相乗効果なのか。はたまたルビジウムによって楽音

のにじみを究極的に取り払ってくれる G-0s の貢献なのか。とにかく、この一瞬のアタックの

素晴らしさは筆舌に尽くしがたい爽快感を持って私を魅了してしまった。そして、ドラムの

エネルギッシュな演奏もさることながら、巨大な BASSHORN を背景にして Gary Mazzaroppi の

ベースがきっちりと輪郭を見せる解像度の高い演奏が、BASSHORN のチューニングにおける節

度を裏付けているではないか。これでいい!!

私は過去の随筆で音波の性質を「音の天気予報 その 1」

と「音の天気予報 その 2」で、そしてスピーカーのデザ

インの原理も「職人の千里<耳>眼」というタイトルで述べ

ているので基礎知識として再読して頂ければありがたいも

のだ。そこでも触れているのだが、音圧は距離の二乗に反

比例して減衰するという性質がある。そして、音波は音源

から 360°のあらゆる方向に球面体で、毎秒 340m/秒という

等しい音速で進行・拡散していくという原理を思い出して

頂けただろうか。さて、その原理原則にのっとって図 1 を

ご覧頂ければと思う。これは Avantgarde の資料からの転記

であるが、長年 Nautilus をリファレンスとしてきた私には

彼らの言わんとしていることは大変に良く理解できるもの

だ。これは Nautilus が室内で発生する間接音を、このよう

に多分に含んでいるから良くない…、という単純なもので

はない。この図は直線音を効率よくリスナーに届けるという

ているものなので、スピーカーのデザインと音波の拡散パタ

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図 1 一般的なスピーカーの直接

音と反射音の割合

同社の考え方を優先して作られ

ーンの重要性には触れていない

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ことを私から補足させて頂く。

さて、ここでもう一つ注目しなければいけないのが Avantgarde の製品で大きな特徴とされ

る高能率である。TRIO においては 109dB/1w/1m という驚異的な高能率なのだが、スタジオユ

ースを前提にして設計された B&W の Nautilus801 の 91dB/2.3V/1m と比較すると、なんと実数

値では約 63 倍という感度の違いが存在することになる。これをどのように理解するかが大切

なのだが、B&W の N801 よりも同じ出力で 63 倍の音量を出すことが出来る…、という事ではな

いのだ。単純に高能率=大音量という発想は PA や SR のようなコンサートのための業務用ス

ピーカー並に大きな音響出力が可能だ、という事とはまったく逆の発想が家庭用スピーカー

としての Avantgarde の設計思想の根幹なのである。それは同じアンプの出力の中に潜む 63

分の 1 という微小信号を音として取り出すことが出来るということなのである。能率が 90dB

程度かそれ以下というスピーカーが主流を占める近代のオーディオシーンの中にあって、そ

れらよりも 60 倍以上の感度を持っているということは、私達が聴き取ることの出来なかった

極微小な情報を見事に引き出してくれるということは本当に意義深いものがあるということ

だ。最後にもう一つだめ押しの快挙。BASSHORN の感度は 99dB/2.83V/1m という事実である。

このような背景を元に私が感じたドラムの鮮烈さを分析すると、正に上記に述べてきた事

柄が Avantgarde の醍醐味として思い起こされるのである。

ここで図 2をご覧頂きたい。TRIO+6BASSHORN で実現したとん

でもない高能率が録音の奥底に眠っていたミクロの楽音、ニ

ュアンス、空気感、それらを情報として鮮明に引き出したと

しても、リスナーに届く前の空気中でロスしてしまったので

は元もこうもない。しかし、これまでに述べてきたように、

私が今まで皆様に推奨する気持ちを持ち得なかったホーン

スピーカーという分野において、納得できなかった要素を

Avantgarde は Spherical horn という新技術、あるいは以前

から原理は存在していたもののユーザーに手に出来る商品

として提供してくれたことによって、私の既成概念はことご

とく覆されてしまったのである。それを象徴するのが直接音

の85%をリスナーに届けるという自信たっぷりなAvantgarde

が作成したイラストである。

図 2 Avantgarde の直接音

Joe Morello のドラムがそれほど素晴らしかったのはなぜか!? いや、それだけではなく他

の多くの曲においてもバックバンドできちんと叩かれているパーカッションを、これまで見

過ごしていたということを明確に私に訴えてくるのである。持続する楽音はボリュームの上

げ方で拡大することは出来るが、ほんの一瞬で叩かれて消えていく打楽器には、演奏者の情

熱をそれと感じさせてくれるスピーカーの登場に私は大きな拍手をおくりたいものだ!!

さて、前述のように 99dB/2.83V/1m という極めて高感度な BASSHORN

のチューニングを考えると、さっとひらめいたのがこのディスクだった。

やはり今は廃盤になってしまったが、Jennifer Warnes の The Hunter で

ある。この 8トラック目の「Way down deep」は、これまで数多くのスピ

ーカーでバスレフポートから盛大にエアーを排出して、そのタブラを音源

にしたサンプリングの低域における再現性のあり方を教えてくれたものだ。

さあ、ここではどのような暴れ方をするのだろうか? と意地悪な期待感をもってディスクを

ローディングした。するとどうだろうか!? 連続する大振幅の低域音源によって、これまで

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のスピーカーではこの低域のコントロールにおいて散々苦労させられてきたものなのに、い

とも簡単に BASSHORN はその重量感、スピード感、テンションのあり方を私が体験したことの

ないレベルできっちりと再現するではないか!! しかも、その後に登場するジェニファーのヴ

ォーカルが何とも見事に中空に定位し、低域のモーメントに影響されない解像度を見事に提

示する。

2ウェイ、3ウェイのスピーカーで皆さんはこんな実験をしたことがあるだろうか? それ

らのスピーカーの入力端子がバイワイヤーであり、ウーファーのみに接続してヴォーカルの

入った曲を再生してみるのである。スペックでは 100Hz から 300Hz 程度のクロスオーバー周

波数で帯域分割していると言うのだが、それだったらヴォーカルの帯域のかなり下で区切ら

れているはずだ。しかし、大半のスピーカーではウーファーのみ接続すると、そこからヴォ

ーカルが聴こえてくるのである。さて、ここで私は最初にティアックの試聴室を訪れたとき

に、真っ先にやった実験を思い出した。TRIO の接続を解除して BASSHORN のみ鳴らしてみたの

だ。すると…、まあ何とも見事に完全に低域のみでヴォーカルは微塵も BASSHORN からは聴こ

えてこないのだ。当たり前だが実は中々このようなスピーカーはないものだ。

上記に私は“低域のモーメントに影響されない解像度”と述べているが、ウーファーの再

生音を周波数の上の方向へ目を向けて考えると前例のようなヴォーカルを含む中高域の帯域

を再生してしまうことで、上の帯域に対する混変調の要因を含んでくるものである。そして、

一般的なウーファーの動作で今度は下の周波数の方向へ目を向けてみると、ウーファーの上

限のクロスオーバー周波数の 10 分の 1 となる帯域もいっしょに再生するという事実である。

録音年代が古いものは、あまりその影響を受けないだろうが、近代の録音では上記のように

100Hz 以下を含むものは結構多く見受けられる。最もポピュラーでありながら、その録音成分

を見逃しているのがこれ、Eric Clapton「Un plugged」であろう。この 3、7トラックの冒頭

に入っている低域は、Clapton がテレビ局のスタジオに設営された台座の中が空洞のステージ

を足で叩いてリズムを取る場面で聴けるものだが、このようにウーファーの動作には 10 倍以

上の違いがある周波数を、それも大振幅で再生しなければならないという宿命があり、前記

の “低域のモーメントに影響される状況”というものを私は強く感じてしまうのである。

つまり低域再生においても混変調歪は多分に発生しているということだ。しかし、それは

スピーカーのエンクロージャーの設計やバスレフポートのチューニングによる“ノリのいい

気持ちいい低音”という演出にマスクされてしまって中々その正体に気付かない人々が多い

ということなのだ。周波数が低くなればなるほど一定の音圧を求めると振動板の振幅は必然

的に大きくなってくる。100Hz 以下の超低域を出力せんがために、大きくストロークを繰り返

すウーファーに数百 Hz の音声が同時に再生されるということが、私が言いたい“低域のモー

メント”なのである。それが TRIO+6BASSHORN では一切感じられないのである。

TRIOのLow-/Midrangeホーンは第二部の図4でわかるように100Hz以上を受け持っている。

しかも、それには他のスピーカーのようにエンクロージャーという“演出家”を一切否定し

た箱のない低域の再生を行っているものだ。ちなみに、このシステムで BASSHORN の接続を外

してしまうと、一般的な解釈での低音はほとんどなくなってしまう。測定器では正確に 100Hz

以上のレスポンスを持っているのだろうが、肉眼…、いや“肉耳?”で聴いてみると箱の演出

でサポートされない 100Hz から 600Hz の低音というのは驚くほど無いに等しいボリューム感

なのである。私から見ると、それは正攻法で周波数特性をにらんだ場合には極めて正確な低

域再生ということに他ならない。つまり、一般的なウーファーから 100Hz 以下の再生という

重荷を取り去ってやると、本当に純粋でハイスピード・ハイテンションな低音が再現できる

ということなのである。BASSHORN の貢献は大変に大きなものであるということだ。

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そんなことを考えながら、更に意地悪なテストを…ということで、実測で 28Hz が録音され

ているという 10 トラック目の「I can’t hide」をかけてみることにした。

イントロからドラムロールが展開するが、たっぷりとイコライズしてリヴァーヴをかけて

ゆったりとした低域だが、その奥深さは尋常ではない。そのうねりのような低域の波間から

すっくと立ち上がったかのようにヴォーカルやパーカッションが空間に表れてくる。そして、

Avantgarde のスピーカーで聴くヴォーカルに共通することなのだが、まるで 3D 映画のように

リスナーの眼前に熱のこもったヴォーカルをステージがせり出して来たかのように“ほら、

そこに…”と言わんばかりに距離感を縮めて提示するのである。この温度感の高まりと解像

度の素晴らしさは未体験のものであった。ここでも、ヴォーカルを彩るバックとしてクラビ

スなどのパーカッションが「カチーンッ!!」と叩かれるのだが、この一瞬の打音の保存性は

何と素晴らしいことであろうか。そして、キックドラムの切れ味は正に低域のモーメントか

ら開放されて小気味良く途切れ、トライアングルの打音は輝きスチールギターの響きが濃厚

に漂う。私がこれまでに聴いてきたスピーカーよりも 63 倍の感度が、わずか 15%の間接音と

いう鮮度で届けられると音楽とはこれほどまでに変貌するのだろうか!? 演奏が熱いのだ!!

低域の大きな振幅が中高域にいかに影響をもたらしていたか、これを

逆説的に具現化したのが TRIO+6BASSHORN であるということだ。そして、

この辺まで聴き進んでくるとそれでは果たしてどのくらいの超低域にお

ける再生能力があるのか、このディスクを使って試してみたくなった。

鬼太鼓座の「伝説」の 1 曲目、ズバリそのもののタイトルで「大太鼓」

である。他の一部の和太鼓のディスクに収録されていた大太鼓の音が、

演奏空間に残存する「ぶるる~ん、ぶるる~ん」というインパクトの後

に残る残響を誇張したような録音が見受けられる中で、ここでの大太鼓は正にインパクトの

瞬間に目に見えて震える太鼓の皮の振幅を捉えている録音なのである。そして、その大きな

振幅にきちっと制動されなければ、このディスクの持ち味がわからないものだろう。これま

でにも多数のスピーカーで聴いてきたが、各々のキャビネット構成とウーファーの特質から、

録音されていない低音がいかに演出を加えているかということをわからせてくれたものだ。

さあ、冒頭は尺八の独奏から始まる。時折聴こえてくる金物のリズムに尺八の息遣いが交

じり合って、刺激のない、それでいて鋭い尺八のイントロが続く。そして、最初の一打!!

それまで BASSHORN の巨大さに畏怖の念を持ち固唾を飲んで、どれほど“おどろおどろした大

太鼓”が飛び出してくるのか、という怖いもの見たさの期待感とも言える心境が聴く人の胸

に宿るものだ。この音圧にしてインパクトの鋭い大太鼓が打ち鳴らされた瞬間に、その予想

は大きく覆される。エンクロージャーという決められた容積を持つスピーカーが、ウーファ

ーの振幅が目に見えるほどにストロークしている、いわば高速で回転させないとトルクが得

られないエンジンのように必死に超低域をひねり出しているという印象はさらさらないのだ。

BASSHORN のドライブにも前出のように最新のサーボテクノロジーが使われているものの、

ホーンロードをかけられながら正確なブレーキングがきちっとかけられ、その大太鼓は重量

感をたたえながら軽く反応しインパクトの瞬間が鮮明に描かれるのである。確かに部屋の空

気を揺さぶるのだが、それはぴたっと挙動と静止とを繰り返し私がこれまでに体験したこと

のない透明度の高い演奏空間を見せてくれるのである。前述のように 100Hz 以下の再現性を

BASSHORN がどのように確保しているか、その BASSHORN 自体が再生する帯域に関係してくるの

が独自のテクノロジーADRIC である。この大太鼓の響きを従来のスピーカーでの体験と比較し

ながら、私は 6台の BASSHORN が使用される場合 ADRIC 回路は、24Hz 以下を補償するというコ

メントをしみじみと思い出してしまった。これまでのスピーカーでは、この大太鼓の打撃か

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ら残響の終息まで、今思い出してみるとうねりのような脈動感というか、ウーファーとエン

クロージャーの演出によるエネルギー感の変動があったようなのだ。しかし、それも低音の

演出という欺瞞を心地良いと錯覚しながら聴いてきたということが、たった今わかってしま

ったようなのだ。素晴らしい!! 私が理想とする箱のないスピーカーとは正にこのことだ!!

さて、これまでは打楽器を中心

にして、打ち出される低域に関し

て BASSHORN の素晴らしさを聴い

てきたが、通奏楽音としての低域

の表現力はどうだろうか? と、こ

れまた廃盤になってしまった古

いディスクを取り出してきた。

あの Wilson Audio の「Discovery

and Music for Christmas」であ

る。1989 年の、作品でありご紹介

できるジャケットの画像もない

のだが、Dr. James Welch による

パイプオルガンのソロである。

これも色々なスピーカーでパスレフポートから盛大にエアーがあふれ出てきて、楽音の輪

郭を表現するのにやっかいなディスクである。そして、オルガンの極低い特定の音階になる

と、その鍵盤を指が押した瞬間にポートとキャビネットの低域共振によって、その一音だけ

が音圧がぐっと盛り強調されてしまうというやっかいな録音だ。

さあ、始まった…。まず冒頭の数秒間を聴いて直ちに感じられることは、先ほどの鬼太鼓

座での尺八でもそうだったのだが、オルガンのリードとしてスリットを空けた金属管に空気

が吹き込まれ、そのヴァイブレーションが TRIO と Viola の貢献によってか素晴らしく鮮明に

聴き取れることである。かすれたような響きを何のストレスもなく吐き出すオルガンに、ま

ずこれまで聴こえなかった情報量の大きさを直感した。パイプオルガンの低域は部屋全体を

包み込むような豊満な響きをするものだが、それに対して同じ楽器が発する中高域の“管の

共鳴音”は見上げるような高さと距離感を印象付けるものだが、リードと空気の摩擦感とい

うのか、そのかすれながらの発音が 85%の直接音による情報として TRIO の周囲を駆け巡ると

なんともリアルであることか!! 楽音のエネルギーを保存する…、いや再現するということが

いかに感動的であるか、この冒頭部分の演奏で私の耳を釘付けにしてしまったのである。

そして、次第に低い音階に向けて演奏者の指が運ばれていくと…、今まで、その一音で唸

りを交えたかのように音圧が高まっていたパートがあっさりとこなされていくではないか!!

超低域の連続で素肌に音があたって産毛が、ささっと揺さぶられるような感触を感じている

のだが、従来のように皮膚に微妙な圧迫感を与えるような低域ではないのだ。

オルガンの低音階では正確な脈動感がきちっと再現され、その脈動の一山一山がどんなに

音階が下がっていても見事に再現される超低域のトランジェントは過去の記憶に照合しても

なかったものだ。低域のモーメント現象はここでもしっかりと確認できた。低域のエネルギ

ーを蓄積しては放出するという音響的コンデンサーのような、エンクロージャーによる低域

の演出から開放されると何と素晴らしいことか。

ついつい BASSHORN の素晴らしさに耳を奪われがちだが、今回このオーケストラを聴いて今

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までにない爽快な印象を持ったものがある。

エサ=ペッカ・サロネン指揮によるロスアンジェルス・フィルハーモニックの GUSTAV MAHLER

交響曲第 3 番ニ短調である。その第一楽章のホルンを中心とした管楽器の表現力において、

600Hz から 4KHz を受け持つミッドレンジとトゥイーターを擁する

TRIOの中高域の連続性の素晴らしさにしばらくはうっとりと聴き

入ってしまった。今まで他のスピーカーで聴いた時には感じられ

なかった管楽器の響きの美しさが、前述のヴォーカルでの印象と

同様に濃厚に、そして抜群の切れ味で引き立てられていく。

ロス・フィルにしては遠めに聴こえていたそれらが、これほど

の色彩感を伴って TRIO の身の丈そのものの上方からゆったりと

ホルンが響き渡る快感は、今まで他のスピーカーでは感じられな

かったことである。そして、この主題がヴァイオリンのソロで中央やや左よりから演奏され

たとき、TRIO のミッドレンジから 4KHz 以上を引き継ぐトゥイーターへの連続性が極めて自然

なことに思わずため息をつく。最初に CDC システムという耳慣れない単語を聞いた時には一

体何のことかわからなかったが、これまで解説してきたようにクロスオーバー・ネットワー

クによる電気的な帯域分割に依存しない新しい手法は、ホーンシステムという古典的なアイ

テムを使用する上で間違いなく音質に貢献する近代化を成し遂げているのであった。

思えば通常のスピーカーよりも 63 倍という感度を持っているということは、再生音に含ま

れる歪成分にも敏感になるということだろう。それは私だけでなく、ここを訪れたユーザー

にも面白いエピソードを残していった。ある曲のソプラノのヴォーカルがフォルテになると

声が歪むという現象を確認したのである。今までそんなことはなかったのだが…!?

それは、Avantgarde では感じることが出来たのだが、他のスピーカーではわからなかった。

実はこの時には dcs Elgar plus 1394→HALCRO dm8 という組み合わせで、音質的に評価して

いる Elgar plus1394 の出力を 6V のハイレベルで使用していたのである。それまで色々と配

線を変えて、この歪感の原因がどこにあるのかと調べていくと、HALCRO dm8 から他のプリア

ンプに切替えると症状がなくなるのである。

「お~、原因はここか!? 」

と輸入元のサービスで調べてもらったがHALCROに異常は認められなかった。そして、HALCRO

dm8 は通常の CD プレーヤーの出力が最大変調時では 2V の定格出力ということで、これに合わ

せて入力段を設定しているということが判明した。

つまりは、Elgar plus1394 の 6V 出力が HALCRO dm8 のライン入力の許容範囲をオーバーし

ていたということが原因であったのだ。両者ともに異常なしであり、偶発的にセッティング

した組み合わせの設定に問題があったのだ。これを突き止めるまでに Avantgarde も疑ってテ

ィアックにも検証して頂くなど、各社にお手数をおかけしてしまったのだが、他のスピーカ

ーでは感じられなかった微妙な歪感を見事に検出する Avantgarde は、言い換えれば楽音をそ

れだけ正確に再生するということだ。

繰り返すが直接音 85%、そして他社のスピーカーに比較して 63 倍の感度。これが皆様の部

屋にセッティングされた暁には、これまで見えなかった世界が現れること請け合いである。

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さて、前頁の二枚の写真であるが、これは何を隠そうティアック・エソテリックカンパニ

ー・プレジデント大間知 基彰 邸にセッティングされた TRIO と SUB230CTRL である。このセ

ッティングでは SUB230CTRL が TRIO の陰になって前方からは見えないと言う絶妙な位置関係

によって一般家庭で使用されているという好例と言えるのでご紹介しておく。

更に、Avantgarde では BASSHORN を二台単位で TRIO のセンターに置けない場合には、

BASSHORN を垂直に立てることによって大分スペースセービングになること。また、BASSHORN

を二台別々に部屋のコーナーに設置することなども推奨している。しかし、そうは言っても

まだまだ巨体であることに変わりはないだろう。前頁の大間知 邸頁では SUB230CTRL が大変

納まりよくセッティングされているのだが、この SUB230CTRL でさえもコンパクトながら大変

な能力を持ったサブ・ウーファーなのである。それを承知していながら Avantgarde はなぜ

BASSHORN のような怪物を作り上げたのだろうか? BASSHORN にはあって SUB230CTRL にはない

ものがあるのだろうか? これを問い合わせたところ次のような回答があった。

「音楽の再生では、スピーカーから放射された音波を空気という媒体を使ってリスナーに伝

えるために、全ての帯域で各々の楽音を比較してみるとどうしても質感として異なった感じ

を受けてしまいます。そして、それは波長が長いためにより多くの空気を動かすことが必要

となるバスの領域で顕著に表れます。私はこれを『耳だけでのリスニング』では無く『体全

体でのリスニング』と表現しています。これは音量の違いによるものではありません。

BASSHORN のダイヤフラム(振動板・コーン紙)は、ホーンロードのあり方からストローク

をそれほど長く取る必要がなくなってきます。そうすることによって逆に高速で速く動かす

ことが出来るようになります。短いストロークは常により速い加速が可能であり、結果とし

て、よりスピード感のある、透明感のある音楽を再生します。ヴォーカルや楽器の中高域も、

3 次元的ステージ感の向上同様、この透明感のある再生の恩恵を受けます。

もう一つの点は、BASSHORN だけが可能にする全く混ざり気の無い薄く透き通った空気の圧

力です。(空気感?)よって、オルガンやダブルベースあるいは大太鼓などの大型楽器の力強

さが SUB230CTRL よりもよりバスホーンで感じられるのです。」

なるほど、最後の混じり気のない…ということは既に述べているようにホーンを形成する

上で私が“低域のモーメント”という表現を述べているところがあるが、それと同義語であ

ると解釈してよいだろう。つまり、超低域の振幅の大きい信号と、それ以上のものを完璧に

分離してやることで、すべての帯域で楽音の鮮度が向上するということだと考えられる。

また、これは余談であるが Holgar Fromme 氏が数年前に BASSHORN のアイデアと開発を社内

で発表したときには大変な猛反対があったそうだ。それを押し切って独断で開発を進め、先

ずは自分で買い取るから自分の自宅に1セットをセッティングしろ!! ということで自室にセ

ッティングされた TRIO+6BASSHORN を写真 29 で紹介したものだった。その BASSHORN を発表・

発売してから、まだ一年も経っていないのに同社が生産し出荷した台数は何と!! 200 台に及

ぶ BASSHORN を世界中に送り出しているというから驚きではないか!?

さて、一音一音を、そのディティールをひたすら鮮明に表現していく Avantgarde は録音の

錬度をつぶさに聴き手に伝えてくる。スタジオモニターとしては実用的ではないかもしれな

いが、その解像度の素晴らしさと間接音の影響を受けにくい体質という見地から、ユーザー

が評価しうるディスクに厳密なレベルの格差を認識させてくれる。そして、同時に Viola と

いうアンプがニュートラル性を追求しているという姿勢が、これほど敏感な Avantgarde とい

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Page 10: 第三部「世界中で唯一のペアリング」 その日は遂にやってき …このときの Joe Morello は凄まじかった!! 今まで何年間もこの曲を聴いてきたのだが、こ

うパートナーを得たときに、それ自身のクォリティーを立証する格好の機会となってくれた。

実は、その余波はここ H.A.L.での体験だけではなく、当社の第 27 回「マラソン試聴会」にお

いても同じペアリングがイベントのフィナーレを飾ることになったのである。

その模様は私の Brief News でも公開しているが、ここで演奏された音楽の実体験によって

更に BASSHORN がなぜ必要になったかという前述のポイントが、今回の会場となった大きな空

間での実演によって証明されたものであった。鬼太鼓座の「伝説」の 1 トラック「大太鼓」

の演奏は、この画像のスピーカー位置から 10 メートル以上離れた客席の皆様に大きなインパ

クトを与えたものだった。自分と試聴室から、この会場でのエアーボリュームまでと国内で

もっとも TRIO+6BASSHORN を鳴らしてきた私としては、正にそのフィナーレにふさわしい体験

であり、これまでに述べてきた理論の認証体験でもあった。

私は…、数あるスピーカーは往々にして二つの種類に分類できると考えている。

一つはスピーカーの音質調整をユーザーに任せるという考え方、言い換えればユーザーの

ルームアコースティックに合わせて自由度のあるセッティングが出来るように配慮されたス

ピーカーたちだ。例を挙げれば JBL の 4343 シリーズのようにウーファー以外のユニットにす

べてアッテネーターが付いているもの。インフィニティーやジェネシスのように、アーノル

ド・ヌデール氏が設計したスピーカーはサーボアンプで低域を自由に設定し、中・高域もア

ッテネーターによって自由にレベル設定が出来てしまう。

もう一つは設計者の感性をそのままに使用するという調整箇所がまったくないスピーカー。

AVALON、WILSON、B&W、lumen white、などが代表的なところだろう。

私は両者ともに、その設計思想を認めるものであり、それはそれでいいのだが、この

Avantgarde だけは上記のようにポンとおいて“それなりの音”が出るというスピーカーでは

ないということを本当に強く印象に残すことになったのである。

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その第一の要因は、上記の二種類のスピーカーのなかでも前者の場合には電気的にいじれ

る調整手段をユーザーに開放したということなのだが、それらは“ほぼ量的な問題”という

ことで、初心者であっても聴きながら経験を積んでいくうちにひとしおのレベルまで持って

いけると思う。しかし、Avantgarde の調整方法というのはサブ・ウーファーの調整も前述の

ように重要ではあるのだが、位置的、角度的なアライメントの調整がことのほか“楽音の質

的な問題”として重要になってくるということなのだ。

第二の要因として上記の調整箇所がまったくないAVALONなどを事例に挙げて考えられるの

だが、まったくいじれないということに関してはよしとしても室内でのセッティングは位置

的にも大きな変化を見せるものである。言い換えれば間接音の影響をうまく処理していかな

いと一定レベルを超えられないということだろう。しかし、Avantgarde は極論を言えば後方

の壁にぴったりと密着させても、図 2 で表現されているように主要な楽音には影響がないの

である。これはセッティング上でのメリットとして上げられるものだが、逆に考えれば

Avantgarde の製品はそれ自身の質感の調整をうまくやらなければ本領を発揮しないというこ

とだと思う。これは前記同様に位置的、角度的なアライメントの調整と言うことになる。

そこで前述の大きく分けてスピーカーにおける二つの分類に対して、Avantgarde の登場に

よって第三の分類が発生したと私は考えているのである。それは、前記の二つの分類は

Avantgarde の論法を借用すれば間接音と直接音をほぼ半分ずつリスナーに届ける形式という

スピーカーの分類と、Avantgarde のように直接音を 85%も聴かせるという違いである。これ

によって、Avantgarde の場合には、それ自身の調整が音質に顕著に現れ、単に置いただけで

は本領発揮はしないどころか、オーナーが望まない音質にまで落ち込んでしまう可能性もあ

るということだ。直接音の割合が多いだけに、それ自身の使いこなしが問われるということ

だろう。難しい表現になってしまったが、これを簡単に言えば自分はこういう音が好きなん

だ…という美意識をきちんと持たれていることがユーザーに求められると言うことだと思う。

私も本当に数多くのスピーカーを扱ってきたが、Avantgarde は本当にスィートスポットが

極小である。ジャストミートすれば素晴らしいが、外してしまうと期待はずれになりやすい。

それだけオーナーの資質を問うスピーカーなのだが、それに挑戦して見合うだけの価値が

十分にある。どれだけ多くのスピーカーを買い換えてきたかが問題ではない。むしろ、ひと

つのスピーカーに対してどれだけ情熱を傾けてチューニングしてきたか、その愛着心と執念

とも言うべき真剣な取り組みを信条とされるユーザーにこそ Avantgarde をお勧めしたい。

前章でも述べているが、Holgar Fromme 氏は理論の上で理想とされる spherical horn を自

分自身でソフトウェアから開発して具現化した言わばパイオニアである。高性能なユニット

をカタログ上で選び、または特注して他社からキーパーツの供給を受けてスピーカーを作っ

ているメーカーと根本的に違うところはここである。理論を実証し製品のすべてを自社で製

作する。そのモノ作りの根底からの自信がなければ、到底“Avantgarde”などいう社名を思

いつかないだろうし名前負けしてしまうことだろう。そして、オリジナリティーということ

で Viola の熟成した技術力と感性は、彼らの伝統的な技法を踏襲しながらもアンプ分野にお

ける“Avantgarde”を成し遂げてきたものだと考えている。

これらの作品が輸入されたことに私は大きな喜びを感じるものである。そして、日本のオ

ーディオシーンにおいても“Avantgarde”な感性が広まっていくことを期待して止まない。

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謝辞

大変長い文章を最後までご精読頂き本当にありがとうございました。

私は、この随筆の執筆に多大な時間を使って取り組んできました。そして、その過程におい

て海外のメーカーに質問することが多ければ多いほど、彼らから見て日本のディーラー、ひ

いては日本というマーケットは手厳しいものであるという印象を与えてきたのではないかと

自負しています。世界的に見て日本のオーディオ・ファイルに対して、単に表面的な仕上げ

にうるさい注文をつける国民性というものが言われてきました。商品にとって確かに重要な

外観は価値観をそのままとしても、海外のメーカーの首脳陣にテクノロジーとクォリティー

での検証を行ってから商品を認知するという厳しさを訴えていきたいと私は考えています。

私が 10 年前に命名した H.A.L.(Hi-End Audio Laboratory)は、単に販売という目的だけで

なく文字通りハイエンドオーディオを追求し研究するという姿勢をテーマに歌ったものです。

そして、この信条を形式化して公開していく手段として「音の細道」を長年にわたって執筆

してきました。モノを選ぶという行為は当事者の情報と質と量によってレベルを高めていく

ものと考えていますが、私から見ての“顧客のレベル”と言うものを同時に高めていくこと

が究極の目的であると考えています。ここで言う“顧客のレベル”とは購入される製品の価

格が高くなっていく、ということでは決してありません。私が普段提示している演奏の質を

ご理解ご記憶頂き、同業他社での体験よりも、ここ H.A.L.を知る人の演奏の質が素晴らしい

ものであって欲しいというシンプルなものです。そのために私に何が必要か!?

他でもありません、私自身が素直に“Avantgarde”な感性を認め、それを実際の音質に仕上

げていくことで演奏のレベルを高めていくという基本に回帰するものです。どうぞ、これか

らも H.A.L.での演奏にご注目頂き、皆様の感性を自己発見していく場として活用して頂けれ

ばと思います。皆様の感性を再発見することが“Avantgarde”に他ならないのです!!

〔完〕

2003 年 11 月吉日 Dynamic audio 5555 店長 川又利明