見たい 知りたい 27 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 26 山口研究室の皆さん。右から 2 番目が Pepper 君 国際色豊かな沼尾研究室。英語を共通言語 としている 見たい 知りたい a college expedition 人工知能(AI)研究 人と AI との共存の 時代をめざす! 慶應義塾大学理工学部管理工学科 山口研究室 大阪大学産業科学研究所第1研究部門 沼尾研究室 探検大学 Artificial Intelligence 70 80 !? 使10 10 10 10 使60

人工知能(AI)研究 人とAIとの共存の 時代をめざす! · しかも、これからはAI・知能ロボッ ... 探検を始める前に、AI研究の歴史を

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

見たい! 知りたい!

27 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 26

山口研究室の皆さん。右から 2番目が Pepper 君

国際色豊かな沼尾研究室。英語を共通言語としている

見たい! 知りたい!

a college expedition

人工知能(AI)研究―人とAIとの共存の時代をめざす!

慶應義塾大学理工学部管理工学科 山口研究室大阪大学産業科学研究所第1研究部門 沼尾研究室探検大学

人工知能(AI:A

rtificial Intelligence

)研究が進み、今や第3

次AIブームと呼ばれている。しかも、これからはAI・知能ロボッ

ト、IOT、ビッグデータが全産業の牽引役になるという指摘も。

AI研究の最前線を探検してみよう。

取材・文/浅松須磨夫  撮影/浅野剛 がまたみきお

だ。ア

メリカの未来学者R・カーツワイル

は、AIが人間の知能を凌駕するシンギ

ュラリティ(技術的特異点)が2045

年頃に到来すると予言している。いわゆ

る「2045年問題」だが、少なくとも

囲碁などのゲームの世界では、すでにこ

の問題が現実化しているわけだ。

しかし、AIが人間よりも賢くなるな

んて、にわかに信じがたい話だ。ここは

ぜひAI研究者を訪ね、真偽のほどを確

かめなくてはならない。というわけで、

今回のテーマはAI研究。探検先は慶應

義塾大学理工学部の山口研究室、そして

大阪大学産業科学研究所の沼尾研究室だ。

探検を始める前に、AI研究の歴史を

ざっとふり返っておこう。

AI研究は1950年代後半にスター

トした。その目標は言語や推論、問題解

決など人間にしかできない知的な働きを、

万能の計算機械、コンピュータ上に実現

すること。以来、記号表現と論理的推論

を武器にさまざまな技術・手法が開発さ

れ、第2次ブームの70年代後半から80年

代前半には、医師や法律家など専門家の

知識をコンピュータに載せ、専門家並み

の知能を持つ「役に立つAI」、エキス

パートシステムが脚光を浴びた。

ところが、ここで「フレーム問題」が

立ちはだかる。AIを実現するにはすべ

ての手順をプログラム化すればよいが、

現実問題、そんなことができるはずはな

い。だが、何をして何をすべきでないか、

この枠組みを決めることが、コンピュー

タは大の苦手なのだ。人間はこれを持ち

前の「常識」でクリアしている。

そんな中、新たな挑戦も出てきた。オ

ントロジー(概念体系)を通じて、知識

の背景にある関係性をAIに理解させる

研究手法、ビッグデータの中にどんな関

人間の知的な働きを

コンピュータ上に実現したい!

空前の人工知能(AI)ブームといわ

れている。アメリカ、イギリス、中国、

韓国などが国を挙げてAI研究の覇を競

い、日本もこれに続こうとしている。だ

が、第3次と呼ばれる今回のAIブーム

の大きな特徴は、民間企業のインターネ

ット・ビッグ5、GAFMA

―グーグ

ル、アップル、フェイスブック、マイク

ロソフト、アマゾンの5社およびiBM

が巨額の資金を投じて火をつけ、主導し

ている点だ。例えば、グーグル社の年間

売上高は7兆円、利益はその約3割だが、

そのうち数千億円をAI・知能ロボット

の研究開発費に充てているそうだ。

AI・知能ロボットは、車の自動運転

技術をはじめ農業、建設、医療、防災な

ど広範な産業分野への応用が期待され、

「第4次産業革命」の起爆剤になるとい

われている。また、これまでICT(情

2045年、AIが

人間の知能を超える!?

連があるかをAIに推定させ、それを専

門家が評価するアプローチ法などだ。

こうした技術・手法が生まれた背景に

は、もちろんコンピュータの性能の驚異

的向上、インターネットの普及、ウェブ

技術の確立がある。

一方、人間の脳の仕組みや働き、特に

情報処理に特化した機能を持つニューロ

ン(神経細胞)のネットワークに着目し

たAI研究も進んでいる。実は「アルフ

ァ碁」はこの流れをくむもので、「ディ

ープラーニング(深層学習)」という機

械学習の手法を用い、グーグル傘下のデ

ィープ・マインド社が開発したものだ。

にわかに注目を集めている「ディープ

ラーニング」と「2045年問題」だが、

前者について、慶應義塾大学理工学部の

山口高平教授に尋ねてみた。

「ディープラーニングはちょっと誤解さ

れ過ぎですね(笑)。ビッグデータを使

ったこの機械学習で、確かに画像認識の

精度は従来に比べ格段に高まりましたが、

決して万能ではない。究極のAIは、あ

る仕事をするAIをより高次のAIが自

動制御する、プログラムの自動生成や言

究極のAIはプログラムの

自動生成と言葉の意味理解

報通信技術)が産業の下支え役だったが、

これからはAI・知能ロボット、IOT

(モノのインターネット)、ビッグデータ

があらゆる産業の牽引役になるとの声も

聞かれる。GAFMAなどはきっとその

辺を見据えているのだろう。

そんな中、一つのニュースが世界中を

駆け巡った。今年3月、AI囲碁ソフト

「アルファ碁」が、世界2位の実力を誇

る韓国人プロ棋士のイ・セドル九段に4

勝1敗で勝利を収めたのだ。これは囲碁

ファンだけでなく、AI研究者にとって

も衝撃的な事件だった。

AIはすでに、チェスや将棋ではプロ

棋士に勝っているが、囲碁の指し手はチ

ェスの「10の120乗通り」、将棋の「10

の220乗通り」に比べ、「10の360

乗通り」と桁違いに多く、昨年10月、二

段のプロ棋士に勝ったとはいえ、その5

カ月後にイ九段に勝てるとは誰も考えて

いなかった。ところが「アルファ碁」は

その予想(期待?)を覆してしまったの

葉の意味理解ですが、例えば言葉の意味

理解に関しては、ディープラーニングを

使っても、今のところあまり精度は改善

されないのです」

では「2045年問題」、シンギュラ

リティについてはどうだろう? 

今度は

大阪大学産業科学研究所の沼尾正行教授

の意見を聞いてみよう。

「面白い切り口ですが、ちょっと面白過

ぎる(笑)。人間とAIの能力を単純比較

できるかというと、これは難しい。ただ、

シンギュラリティが話題になったことで、

多くの人々がAIに注目し、考えるきっ

かけになった。これは評価できると思い

ますね」

AI研究が始まって約60年。まだまだ、

発展途上ということだろうか。それでは

探検を始めよう。