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生食とリンゲル2018年4月10日
中西智博 / 遠藤新大March 1, 2018N Engl J Med 2018; 378:829-839 819-828DOI: 10.1056/NEJMoa1711584
アルブミン、HES製剤、生理食塩水、調整晶質液
についてのreview
輸液についてのこれまでの変遷
アルブミンのその後のその後
2015/06/02
慈恵ICU勉強会
阿部 建彦
ICUでも何度か勉強会をしている輸液の話
6) まとめ①➢過剰輸液にならない管理をする
➢アルブミンを投与すると輸液バランスを減らせる
➢敗血症でのアルブミンの投与は死亡率をわずかに改善させる傾向がある(Resuscitation fluidとしての推奨はなし)。
薬剤名 薬価(円) 1日分(円)
アルブミナー5%静注/250ml 4,575 26,307
献血アルブミネート4.4%静注/250ml 5,259 29,727
ソルアセトF 500ml 143 1,144
大塚生食注 500ml 149 894
2015年6月22日 阿部先生のスライドから
6) まとめ②
➢頭部外傷に対してアルブミンは投与しない
➢特定の病態ではアルブミン投与を考慮する
※肝硬変(腹水穿刺、SBP)、ALIの酸素化改善、熱傷
➢アルブミンは生食と同じ効果を持つ安全なコロイド
ここまで阿部先生の勉強会スライドから
Hydroxyethyl Starch or Saline for Fluid Resuscitation in Intensive Care
John A. Myburgh, M.D., Ph.D., Simon Finfer, M.D., Rinaldo Bellomo, M.D.,Laurent Billot, M.Sc., Alan Cass, M.D., Ph.D., David Gattas, M.D.,Parisa Glass, Ph.D., Jeffrey Lipman, M.D., Bette Liu, Ph.D., Colin McArthur, M.D.,Shay McGuinness, M.D., Dorrilyn Rajbhandari, R.N., Colman B. Taylor, M.N.D.,and Steven A.R. Webb, M.D., Ph.D., for the CHEST Investigators and the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group*
N Engl J Med 2012;367:1901-11
2013年 1月29日 五十嵐先生のスライドから
➢6%HES(130/0.4) 、生理食塩水いずれで蘇生輸液を受けても、90 日死亡率に有意差は認められなかった。
➢VISEP trialや6S trialにて腎代替療法導入されなかったHES投与群の患者死亡率は、晶質液投与群に比して明らかな有意差は無かった。
➢上記3つの研究共に、HESの使用により急性腎傷害の発症率や腎代替療法の使用頻度が有意に上昇することを示した。
まとめると
ここまで五十嵐先生の勉強会スライドから
アルブミンとHES製剤については研究がなされていて
結果についても次第に周知されつつある
では生理食塩水と晶質液はどうか
Normal Saline : NS Balanced Crystalloid : BC
本日の話題
March 1, 2018N Engl J Med 2018; 378:829-839DOI: 10.1056/NEJMoa1711584
まずはICUに入室する重症患者で
Introduction
クリティカルケア領域で投与される晶質液の組成が
患者予後に影響をあたえるかどうかは不明。
N Engl J Med 2013; 369: 1243-1251
生理食塩水は歴史的に最も使用された晶質液だが
高Cl性アシドーシス、AKI、死亡と関連する可能性Crit Care Med 2014; 42; 1585-1591
生理食塩水と体液の組成に近い晶質液の投与群で
予後に違いがなかったとする研究Am J Respir Crit Care Med 2017; 195: 1362-1372
重症成人患者における輸液について、等張晶質液
を使用する方が生理食塩水を使用した場合と比較して
死亡、新たな腎代替療法(RRT)、継続的な腎機能障害
の発生率が低いと仮定した。
Solutions and Major Adverse Renal Event Trial(SMART)
Medical patients (SMART MED)
Nonmedical patients (SMART SURG)
Hypothesis
Methods
Design: 実用的(pragmatic)
非盲検化
クラスター・ランダム化
多段交差試験
Setting: 2015年6月1日~2017年4月30日
Vanderbilt 大学医療センターにある
5つのICU
Patients: ICUに入院した18歳以上の成人
5つのICUの内訳
Medical ICU 34床
Trauma ICU 31床
Surgical ICU 22床
Neuro ICU 22床
Cardiovascular ICU
27床
2016年1月1日~2017年4月30日
Emergency Department
と協力し該当月の輸液を
揃えた
Operation Roomでも
可能な限り割り当てられた
輸液を行った
患者、医療者、研究者とも割り付けられた輸液について
盲検化されていない
割り付けは各ICUごとに月単位で
輸液オーダ時に
➢ 生理食塩水群では0.9% 生理食塩水(NS)を投与
➢ 調整晶質液群(BC)では電子カルテ上で表示
その後相対的禁忌の有無を確認(高K血症、脳損傷)
Lactate Ringer液または Plasma Lyte A液を投与
上記以外の溶液を投与することも可能
電子カルテ上の表示と
各種輸液の組成
Data Collection
研究参加前の腎機能、患者背景、診断
予測院内死亡リスク、輸液・輸血使用量
電解質、クレアチニン、腎代替療法
退院時データ
割り付けを知らされていない研究者がRRT導入の有無
と適応検討のためのカルテの参照を行った
RRT導入の際の指標
乏尿、血清Cre値上昇、BUN上昇、acidosisなど
Outcome
Primary outcome
30日以内の1つ以上の主要な腎障害の割合
退院または入室30日経過どちらか早い時点での
死亡、新規RRT導入、持続性の腎障害
(ベースライン値から2倍以上のCre値上昇)
ベースラインのCre値決定においては入院前1年間
の値を今研究の入院後の値よりも優先
Outcome
Secondary outcome
ICU退室前または30日, 60日経過時点での死亡
あるいはICU離脱期間
人工呼吸器離脱期間、血管作動薬離脱期間
研究参加後28日以内におけるRRTなしでの生存期間
Statistical Analysis
生理食塩水投与群における30日以内の主要な
有害事象発生率を22%と想定
晶質液と生理食塩水投与群とで12%の差異を
検出するために60 unit× month 合計8,000人
の患者を必要とした
その後、研究開始の1年前からICU入室患者の
観察データを収集し、生理食塩水投与による
有害事象発生率は15%程度であった
Statistical Analysis
有害事象発生率15%, 差異12%として再計算
82 unit × month で合計14,000人の患者
Type 1 errorを0.05として 90%のpowerで
相対的差異12%を検出可能
分析は各ICUでIntention To Treatで施行
連続変数は平均値と標準偏差、あるいは中央値とIQR
によって、カテゴリー変数は頻度と割合を使用
Results
ICU入室患者のうち成人は全員参加
生食投与が 7,860人
晶質液投与が 7,942人
年齢の中央値は両群とも58歳であり57.6%が男性
研究参加時点で34%が人工呼吸器装着され、
26%が血管収縮薬投与されていた。
背景因子としてその他の差異はなかった。
ICU入室から退室または30日経過時点までの輸液の
中央値BC群では 1020 ml [IQR 0-3210 ml]
NS群では1000 ml [IQR 0-3500 ml]
月変わりで、割り付けられた輸液以外の輸液を
された割合は、
BC群で426人 (5.4 %) NS群で343人 (4.4 %)
等張液以外の輸液や輸血の量について2群間での
中央値の差はなかった
こちらはmean と 95% CIでの表示
こちらはmean と 95% CIでの表示
Cl値が110 mmol/Lを超えた割合は
BC vs. NS = 24.5% vs. 35.6% (p
介入後の最高値と最低値
電解質異常の基準にかかる割合について
Clと重炭酸の値で有意差あり
Primary Outcome
BC群の1139人(14.3%)、NS群の1211人(15.4%)が
入室後30日以内に主要な腎障害を発症
Odds比 0.91 (95%CI 0.84-0.99)
Sensitivity Analysis
介入から72時間以内に500ml以上輸液した患者のみ
月末1週間に入院した患者を除いた
ICU間での移動または月をまたいでICUに滞在した患者を除いた
初回のICU入室に限定
ベースのCre値の欠損を明記
異なるモデルの使用
いずれの場合も結果はほぼ同じであった。
Subgroup 解析
Sepsisの患者における30日以内の死亡率
BC群 vs. NS群 = 25.2% vs. 29.4%
Odds比 0.80 (95% CI 0.67-0.97 p=0.02)
Secondary outcome
Secondary outcome
ICU退室前または30日, 60日経過時点での死亡
あるいはICU離脱期間
人工呼吸器離脱期間、血管作動薬離脱期間
研究参加後28日以内におけるRRTなしでの生存期間
いずれも有意差なしの結果となった。
ICU入室から30日以内で退院前の死亡は
BC群で818人(10.3%) NS群 875人(11.1%)
odds比 0.93 (95% CI 0.84-1.02)
新規 RRT導入数は、
BC群 189人(2.5%) NS 220人(2.9%)
p値 0.08
Discussion
30日以内の腎障害発生に関して、生理食塩水よりも
晶質液投与を平均値の差で1.1%支持する結果
同時に施行されたSALT-ED(後述)と一致する結果
今回の研究の結果では新規のRRT、持続性の腎障害
死亡を防ぐNNT = 94 であった。
特にsepsis患者と大量輸液を受ける患者で大きな影響
適切な輸液の組成は個々の患者により異なる
Strengths
✓ サンプルサイズが大きいため、わずかな患者予後
の差を検出可能
✓ これまでの研究同様、割り付けがICUで行われた
研究では重症患者の治療初期から割り付けられた
輸液投与が可能なデザイン
✓ ICU入室した全患者を対象としており
セレクションバイアスが小さく一般化可能性が高い
Limitations
✓ 単一施設での研究
✓ 医師が盲検化されていない
✓ 死亡とCre値は客観的なアウトカムだがRRT導入には
医師の判断というバイアスがある
✓ 入室後30日での判断では死亡発生率を少なく、
持続性腎障害の発生率を高く見積もる可能性
✓ 酢酸リンゲルとPlasma-Lyte Aの選択には介入せず
まとめ
ICU入室患者における研究では
生食投与群における30日以内の腎障害発生率は
晶質液投与群と比較して有意に高い
とくに大量輸液群とsepsis群では生食の影響が
大きいようである
March 1 2018N Engl J Med 2018; 378:819-828DOI: 10.1056/NEJMoa1711586
救急部に来院し入院した非重症患者における輸液の
臨床的効果について調整晶質液と生理食塩水とを
比較する研究
調整晶質液の輸液投与によって、生理食塩水と
比較して早期退院と主要な腎障害が減少
Hypothesis
Methods
Design: 実用的(pragmatic)
非盲検化
多段交差試験
Setting: 2016年1月1日~2017年4月30日
Vanderbilt 大学医療センターにある
Emergency Department : ED
(年間75,000人が来院)
Patients: EDで少なくとも500ml以上輸液され
ICU外に入院した18歳以上の成人
Outcome
Primary outcome
入院後28日以内で生存退院できた日数
院内死亡か、ED受診後28日以内で生存し退院
した場合のいずれかが転帰となる
Secondary outcome
1. 30日以内の1つ以上の主要な腎障害の割合
退院または入室30日経過どちらか早い時点での
死亡、新規RRT導入、持続性の腎障害
(ベースライン値から2倍以上のCre値上昇)
Outcome
Secondary outcome
2. KDIGO分類でStage 2以上のAKI
ベースラインのCre値より2倍以上の上昇
Cre値4.0mg/dLかつ増加量の絶対値 > 0.5mg/dL
新規RRT導入
3. 院内死亡
救急外来におけるCre値がベースライン
入院後のCre値をoutcomeとして判定
Statistical analysis
NSとBCの十分な交代期間、SMARTとの兼ね合い、
患者背景を揃え、2群間で0.5日以上の差異を
検出するpowerを考慮し、16か月とした
NS群では退院期間が24±4日 (mean±SD)
16か月の研究期間に14,000人が参加すると想定
Type 1 error 発生率を0.05として 0.5日の差異を
90%のpowerで検出可能と考えられた
Primary outcomeとSecondary outcomeに対して
Intention To Treatによる分析を施行
退院期間について多変量比例オッズモデルを使用
30日以内の主要な腎障害、AKI、院内死亡は
多変量ロジスティック回帰分析を使用
各々のモデルは年齢、性別、人種、入院診療科
研究開始からの経過日数により調整
Results
19,949人の成人患者が晶質液投与され入院
入院した月により割り付け
晶質液投与量500ml未満の患者を除外、
ICU入室患者を除外
背景因子、併存症、入院科、腎機能
は変わらず。
年齢の中央値は50台前半
女性の割合は51% 前後
内科系 80%, 外科系20%
EDで投与された晶質液の中央値
1079 ml [IQR 1000-2000ml]
95.3%が酢酸リンゲル Plasma-LyteAは 4.7%
88.3%が割り付け通りの輸液であり
両群における輸液の遵守率はほぼ同じ
EDで投与された輸液量の分布
NS投与群ではBC群よりも高Cl・低重炭酸値であり
入院後もしばらく継続
Major Adverse Kidney Events within 30 days : MAKE30
新規 RRT導入、死亡、持続性腎障害
Primary Outcome
退院日数の中央値は2群とも25日で有意差なし
Odds比 0.98 ( 95% CI 0.92-1.04 )
Secondary Outcome
30日以内の主要腎障害(複合Outcome)の割合
BC群が4.7% NS群 5.6% (p = 0.01)
Odds比 0.82 (95% CI 0.70-0.95)
各項目ごとでは有意差は出ず
Stage 2以上の腎障害でも有意差は出ず。
Subgroup解析
患者背景についてのsubgroup解析では有意な因子なし
ED到着時のCre ≧ 1.5 mg/dl, Cl > 110 mmol/l の患者で
NSよりもBC投与の恩恵が大きいよう
Subgroup解析
条件 対象
末期腎不全患者を除いた群 13,112 人
Cre値測定群 8,681 人
ED来院初回群 10,573 人
Per protocol分析 11,780人
Sensitivity Analysis
いずれも結果に変わりはなし
Discussion
NS群と比較してBC群では退院期間の短縮は
みられなかったが、Secondary outcomeである
死亡、新規RRT導入、持続性腎機能障害
の複合アウトカムについてBC群で発生率が低い
30日以内の主要な腎障害が少ない結果は
SMARTの結果と一致していた
SMARTの患者群と比べると腎障害や死亡のリスク
は今研究の患者群の方が低い。
しかし30日以内の主要な腎障害(MAKE30)に関して
0.9% の平均値の差(NNT = 111)が出たということは、
日々輸液を受けている数百万人単位で考えると
大きな差が生じる可能性がある。
✓ 割り付けに対する高い遵守率
✓ 非盲検化、pragmaticな研究デザインであり
日常業務の中で施行できた点、入院時より
すぐに割り付けられた輸液投与が可能であった点
Strength
単施設研究であり、盲検化されていない点
Outcomeが入院期間であるという点
電子カルテを使用しておりより詳細なデータ収集が困難
入院後薬剤投与時の溶解液は介入困難
晶質液の95%が酢酸リンゲルであり、
リンゲルとPlasma-Lyte A、生理食塩水は比較されず
初療の輸液を晶質液でなく患者に合わせた輸液にする
選択肢が今後の検討課題
Limitation
まとめ
非重症患者における研究でも
生食投与群における30日以内の腎障害発生率は
晶質液投与群と比較して有意に高い
とくにCre ≧ 1.5 mg/dl, Cl > 110 mmol/l の患者で
BC投与の恩恵が大きいよう
✓ 患者群は病院の立地でも規定される:
疾患の急性度や有害事象のリスクなど
✓ 短期間の生化学検査の改善(Cre)や生理学的指標は
サロゲートマーカであり必ずしも患者中心のアウトカム
とは言えず有益とも言えない可能性
✓ 発生率が低いため、複合アウトカムを採用おり
統計学的処理を行っても交絡因子を生じやすい
✓ 死亡、新規RRT導入、Cre値2倍が同列のアウトカムとして
論じられているが、患者中心のアウトカムとして同列には
扱うことができない
結果の解釈で注意すべき点
✓ アメリカの主要な医療機関単施設で施行された非盲検研究が
患者の生存率や考え方も異なる他国の医療機関に
適応可能かどうか
✓ 現在使用されているいわゆる生理的輸液が安全で効果的か
という疑問
✓ 患者中心のアウトカムの検討そして医療経済面における
長期的な評価が重症患者における輸液の選択の基本
✓ 今回の研究は臨床上の絶対的指標を与えるというよりは
臨床的な思考のきっかけをあたえるもの
私見
論文内でも指摘されているように必ずしも細胞外液に限らず
患者の病態に沿った輸液を心がけることが重要だと実感した。
今回の病院では、この研究の1年前までICU入室患者の
69 %で使用されていた。生食の害は提唱されていても、
明白なEvidenceが少ない分野とおもわれる。
透析患者の割合は日本の方が多く、こうした患者背景での
MAKE 30の結果は影響はあるのだろうか
輸液自体の安全性を検討する研究は難しい課題だと思われた
これまでの前向き研究の規模は2,000人程度で有意差が
出たり出なかったりというものであった(SPLITなど)
今回は前向きで14,000人以上が参加している
1,000人弱のPilot studyで遵守率が低く有意差が示せなかった
ことから、今研究ではICU入室前のEDやOpe室
における輸液から介入したことで遵守率をあげている
病床数が多い単施設のため数を増やしながら遵守率を
あげることができたことはあるかもしれない
今回の研究のPilot study
4か月間にICUへ入院した974人の患者に対して施行された
生理食塩水はNS群の91%, BC群の21%に投与された。
MAKE 30
NS vs. BC = 24.7% vs. 24.6%
有意差なし