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― 31 ― Department of Molecular and Cellular Biology

細胞機能制御学部門― 32 ― 分子医科学分野 Division of Cell Biology 教 授:中山 敬一 Professor:Keiichi Nakayama, M.D., Ph.D. 分子医科学分野(旧分子発現制御学分野)では,細胞の基本的性質である細胞周期と細胞死を

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― 31 ―

細 胞 機 能 制 御 学 部 門

D e p a r t m e n t o f M o l e c u l a r a n d C e l l u l a r B i o l o g y

― 32 ―

分子医科学分野

Division of Cell Biology 教 授:中山 敬一

Professor:Keiichi Nakayama, M.D., Ph.D.

分子医科学分野(旧分子発現制御学分野)では,細胞の基本的性質である細胞周期と細胞死を

制御する分子メカニズムを,遺伝学的・生化学的・細胞生物学的・発生工学的手法を用いて研究

を進めている.つまり細胞周期や細胞死の制御に関わっていると推測される分子の遺伝子を単離

同定し,最終的にはその遺伝子を破壊したマウス(ノックアウトマウス)を人工的に作製し,そ

の異常を調べることによって,その分子の生理的役割を個体レベルで明らかにしようというもの

である.同時に最新のプロテオミクス技術を駆使して,これらの変異マウスにおけるタンパク質

の異常を網羅的に解析している.つまり遺伝学と生化学の両面から生物現象に迫るという手法を

用いて,細胞の分化段階特異的な細胞周期と細胞死の制御因子の量的制御機構を,選択的タンパ

ク質分解の視点から取り組んでいる.またこれらの異常がどのように発癌に関与するかという分

子メカニズムの解明から,癌に対する根本的治療法の確立を目指している.

分子医科学分野は,中山敬一教授(主幹教授),白根道子准教授,束田裕一准教授,西山正章

助教の教員を中心に,学術研究員7名,大学院生13名(博士課程10名,修士課程3名),テクニ

カルスタッフ6名,技能補佐員1名の体制で研究を進めている(2012年3月31日現在).

人事異動について,2011 年4月より武石昭一郎,松﨑芙美子,松本有樹修を学術研究員として,

青坂有紗をテクニカルスタッフとして雇用した.また 2011 年 4 月より大学院博士課程に,西村泰

亮(佐賀大学・医学部卒),大学院修士課程に,大西隆史(九州大学・薬学部卒),西光悦(東京

理科大学・薬学部卒)が入学した.

次いで退職者として,2012年3月に大学院博士課程の諸石寿朗(学術研究員として引き続き採

用予定)と立石悠基(就職 九州大学病院・研修医)が卒業し,大学院修士課程の喜多泰之(引

き続き,博士課程へ進学)が修士課程を修了した.さらに学術研究員の松本有樹修が米国へ留学の

ために離脱した.

1997年11月より当研究室は科学技術振興機構(JST)による戦略的創造研究推進事業(CREST)

「脳を守る(1997〜2002 年度)」・「生物の発生・分化・再生(2002〜2007 年度)」・「生命システ

ムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出(2007 年度〜)」の支援を受けている.2011

年度は研究員として中津海洋一(継続),弓本佳苗(継続),武石昭一郎(新規),松﨑芙美子(新

規),松本有樹修(新規),技術員として小山田浩二(継続),研究補助員として濵﨑亜佳里(継続),

事務員として太田茜(継続)を受け入れている.

A.造血幹細胞の静止期と機能維持におけるp57の役割の解明

血液の中には白血球や赤血球,血小板などといった多彩な細胞が存在しており,これら全ての

細胞は共通の造血幹細胞という細胞から作られることが知られている.すなわち,造血幹細胞を

人工的に増殖させることが可能となれば,様々な血液疾患に対する再生医療への可能性が広がる

ことが予想される.しかし,造血幹細胞は体外に取り出すとストレスによって自己を複製できず

― 33 ―

分子医科学分野

Division of Cell Biology 教 授:中山 敬一

Professor:Keiichi Nakayama, M.D., Ph.D.

分子医科学分野(旧分子発現制御学分野)では,細胞の基本的性質である細胞周期と細胞死を

制御する分子メカニズムを,遺伝学的・生化学的・細胞生物学的・発生工学的手法を用いて研究

を進めている.つまり細胞周期や細胞死の制御に関わっていると推測される分子の遺伝子を単離

同定し,最終的にはその遺伝子を破壊したマウス(ノックアウトマウス)を人工的に作製し,そ

の異常を調べることによって,その分子の生理的役割を個体レベルで明らかにしようというもの

である.同時に最新のプロテオミクス技術を駆使して,これらの変異マウスにおけるタンパク質

の異常を網羅的に解析している.つまり遺伝学と生化学の両面から生物現象に迫るという手法を

用いて,細胞の分化段階特異的な細胞周期と細胞死の制御因子の量的制御機構を,選択的タンパ

ク質分解の視点から取り組んでいる.またこれらの異常がどのように発癌に関与するかという分

子メカニズムの解明から,癌に対する根本的治療法の確立を目指している.

分子医科学分野は,中山敬一教授(主幹教授),白根道子准教授,束田裕一准教授,西山正章

助教の教員を中心に,学術研究員7名,大学院生13名(博士課程10名,修士課程3名),テクニ

カルスタッフ6名,技能補佐員1名の体制で研究を進めている(2012年3月31日現在).

人事異動について,2011 年4月より武石昭一郎,松﨑芙美子,松本有樹修を学術研究員として,

青坂有紗をテクニカルスタッフとして雇用した.また 2011 年 4 月より大学院博士課程に,西村泰

亮(佐賀大学・医学部卒),大学院修士課程に,大西隆史(九州大学・薬学部卒),西光悦(東京

理科大学・薬学部卒)が入学した.

次いで退職者として,2012年3月に大学院博士課程の諸石寿朗(学術研究員として引き続き採

用予定)と立石悠基(就職 九州大学病院・研修医)が卒業し,大学院修士課程の喜多泰之(引

き続き,博士課程へ進学)が修士課程を修了した.さらに学術研究員の松本有樹修が米国へ留学の

ために離脱した.

1997年11月より当研究室は科学技術振興機構(JST)による戦略的創造研究推進事業(CREST)

「脳を守る(1997〜2002 年度)」・「生物の発生・分化・再生(2002〜2007 年度)」・「生命システ

ムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出(2007 年度〜)」の支援を受けている.2011

年度は研究員として中津海洋一(継続),弓本佳苗(継続),武石昭一郎(新規),松﨑芙美子(新

規),松本有樹修(新規),技術員として小山田浩二(継続),研究補助員として濵﨑亜佳里(継続),

事務員として太田茜(継続)を受け入れている.

A.造血幹細胞の静止期と機能維持におけるp57の役割の解明

血液の中には白血球や赤血球,血小板などといった多彩な細胞が存在しており,これら全ての

細胞は共通の造血幹細胞という細胞から作られることが知られている.すなわち,造血幹細胞を

人工的に増殖させることが可能となれば,様々な血液疾患に対する再生医療への可能性が広がる

ことが予想される.しかし,造血幹細胞は体外に取り出すとストレスによって自己を複製できず

に枯渇してしまう.そこでこの問題を克服するためには,造血幹細胞の自己複製機構を理解し,

それを適切に調節する技術の確立が必要となっている.

造血幹細胞は細胞増殖をあまり行っておらず,細胞周期の静止期に留まっている.しかし造血

幹細胞はごくたまに分裂を行うことにより,自己を複製する場合(自己複製能)と,血液前駆細

胞を経て多くの血液細胞を産生する場合(多分化能)がある.造血幹細胞から生み出された血液

前駆細胞は活発に細胞増殖を行い,その後様々な血液細胞へと分化していく.つまり造血幹細胞

はあまり増殖しないが,血液前駆細胞は盛んに増殖し,血液全体のバランスを保っている.しか

しなぜ造血幹細胞はあまり分裂しないのか,そして分裂しないことが幹細胞の維持にとって大切

であるのかは,今までよく分かっていなかった.

われわれはまず,造血幹細胞の静止期の維持を行っている分子の探索を行った.そこで,3 種

類の CDK 阻害分子(p21, p27, p57)が候補としてあがってきた.細胞が増殖を行うためには,

サイクリン/CDK複合体と呼ばれる分子群が活性化することが必須である.CDK阻害分子はサイク

リン/CDK複合体の機能を阻害することによって,細胞の分裂を抑制している.これまでの解析に

より,血液系の細胞において,p57 は造血幹細胞に特に高発現していることが分かっていた.こ

のことは,p57 が造血幹細胞の静止期の維持に重要である可能性を示唆している.そこでわれわ

れは,造血幹細胞においてp57を欠損させることによって,造血幹細胞の静止期の維持を破綻さ

せることができるのではないかと考えた.

p57ノックアウトマウスは生直後に死亡してしまうため,われわれは血液系特異的p57コンデ

ィショナルノックアウトマウスを作製した.予想通り,p57 を欠損した造血幹細胞は,増殖が異

常に亢進していた.しかし,p57 を欠損した造血幹細胞は,異常に細胞増殖が亢進していたにも

関わらず,時間の経過とともに造血幹細胞自身の細胞数は減少していった.すなわちp57を欠損

した造血幹細胞は,自己を複製せずに異常に血液前駆細胞を産生しまい,最終的に造血幹細胞が

枯渇していくことが分かった.

次に造血幹細胞の血液細胞を産生する能力を測定するために,造血幹細胞の移植実験を行った.

p57 を欠損したマウスから造血幹細胞を取り出し,放射線を当てた別のマウスに移植を行った.

移植したコントロールマウスの造血幹細胞は,マウスの体内で自己を複製することにより造血幹

細胞を十分に増やしながら,血液細胞の産生を行う.そのため,非常に多くの血液細胞が産生さ

れる.しかし,p57を欠損した造血幹細胞はあまり血液細胞を産生することができなかった.p57

を欠損した造血幹細胞は,自己を複製せずに血液前駆細胞を異常に産生してしまうため,造血幹

細胞を増やすことができずに枯渇してしまう.その結果,最終的にできる血液細胞の量も非常に

少なくなっていた.

今回のわれわれの発見により,p57 によって造血幹細胞が適切な増殖速度を保つことが,その

自己複製に重要であることが明らかとなった.このメカニズムを詳細に調べることにより,試験

管内での造血幹細胞の大量複製が可能となれば,輸血や白血病治療などへの応用が広がることが

期待される.

B.神経発生に関わるp57の役割の解明

p57 はp27と同じくサイクリン依存性キナーゼインヒビター (CKI)ファミリーに属する分子で

あり,CKIは細胞周期を負に制御することが知られている.われわれは,神経系特異的p57コン

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ディショナル KO (CKO)マウスを作製したところ,p57 CKO マウスは水頭症を発症し生後2~3 週

間で死亡することを見出した.また,小脳の形態においても著しい異常があり,小脳の層構造が

破綻していた.

p57 CKO マウスでなぜ小脳層構造の破綻が起こったのかを解明するために,正常マウスにおけ

るp57の発現パターンを検討したところ,p57は小脳において深部小脳核と抑制性介在神経の前

駆細胞のみに発現していた.さらにp57発現細胞は,p57 CKO マウスにおいてアポトーシスによ

って胎生期に除去されていた.また,交連下器官の分泌性上衣細胞の欠損は水頭症を引き起こす

ことが知られているが,p57 CKOマウスでもこれらの細胞がアポトーシスによって欠損していた.

そこで p57 CKO/p53 KO マウスを作製したところ,水頭症や小脳層構造の破綻は完全に回復した

ため,アポトーシスの亢進が水頭症や小脳層構造の破綻の原因であると考えられる.

p57 のどのような機能の欠損によりアポトーシスが引き起こされるかを検討するために,p57

の遺伝子座を同じCKIに属するp27に置換したノックインマウスを作製した.このマウスは水頭

症や小脳の形成異常を全く示さなかったため,CKI ドメインの機能が重要であると考えられた.

CKIドメインはサイクリン-CDK複合体の機能を阻害しE2Fを抑制することから,p57 CKOマウス

ではE2Fが異常に活性化することによりp53を誘導し,アポトーシスが生じると推定された.こ

のことを裏付けるようにp57 CKO/E2F1 KOマウスでは水頭症や小脳の形成異常を示さなかった.

神経系におけるp57の欠損は,過剰なE2F経路の活性化によるp53の誘導を引き起こし,分泌

性上衣細胞と深部小脳核や抑制性介在神経の前駆細胞の欠損が生じ,水頭症や小脳層構造の破綻

が起こることが明らかとなった.

C.鉄代謝制御の中核をなすFBXL5の個体内機能解析

人間の体内にはおよそ釘1本分の重さの鉄(約4〜5 g)が存在し,全身への酸素運搬に利用さ

れている.また遷移金属である鉄は容易に電子の授受を行いうるので,酸化還元反応を触媒する

酵素の活性中心としても利用されている.そのため地球上のほぼ全ての生物にとって,鉄はその

生存に必須な元素である.一方で,過剰に鉄が存在すると,その高い反応性ゆえにフリーラジカ

ルの産生を促進し,細胞傷害性をもたらす.つまり,鉄は不足しても過剰でも生体に悪影響を及

ぼすため,生体内では鉄量が常に適切な量になるように厳密に調節される必要がある.

細胞が利用できる鉄の量は,鉄代謝制御因子 IRP2(iron-regulatory protein 2)の作用によ

って増加する.IRP2はmRNA結合タンパク質で,鉄の取り込みを行うタンパク質のmRNAを安定化

し,その発現量を増加させる.一方で,鉄の利用・貯蔵・排出といった,細胞が利用できる鉄の

量を減らす作用のあるタンパク質のmRNAに結合すると,その翻訳を抑制し発現量を低下させる.

細胞内の鉄量が不足すると,細胞は IRP2 の量を増やすことで鉄量を増加させる.逆に細胞内の

鉄量が増えると,IRP2の量を減少させ,鉄の過剰な増加を防いでいる.このように,細胞内鉄量

に応じて IRP2 の量が増減することで細胞内の鉄量は常に適切に保たれるが,細胞がどのように

してIRP2の量を制御しているのかは,長い間謎のままであった.近年,IRP2がSCF複合体型ユ

ビキチンリガーゼFBXL5(F box and leucine-rich repeat protein 5)の作用によって分解され

ることが報告されたが,その鉄代謝制御における生物学的意義はいまだに不明のままであった.

今回筆者らは,FBXL5-IRP2系が生体の鉄代謝制御に不可欠であることを発見した.

われわれは,鉄代謝制御におけるFBXL5の機能を解析するため,FBXL5ノックアウトマウスを

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作製した.このマウスはIRP2を分解できず,その結果IRP2の量が増加して,鉄過剰による酸化

傷害によって胎生早期に死亡した.次に,FBXL5 ノックアウトマウスにおける鉄の過剰蓄積の原

因が,IRP2 の過剰活性化にあるのかを検証するため,FBXL5/IRP2 ダブルノックアウトマウスを

作製した.すると,驚いたことにこのダブルノックアウトマウスは生存可能で,若干の貧血を示

すほかはほぼ正常であった.つまり,このダブルノックアウトマウスでは,FBXL5 ノックアウト

マウスにおける IRP2 の増加が解除され,鉄の過剰な蓄積が阻止されたために,胎生期死亡を回

避したと考えられる.このことは,FBXL5ノックアウトマウスの死因がIRP2の過剰な活性化にあ

ることを遺伝学的に証明しており,FBXL5とIRP2による細胞内鉄量の管理が生体内における鉄代

謝の中心的な制御機構であることを示している.

さらに FBXL5 による鉄代謝制御が成体のマウスにおいてどのような意義を持つか調べるため,

肝臓のみでFBXL5を欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作製した.肝臓のみでFBXL5

を欠損したマウスは胎生期に死亡することはなかったが,生後肝細胞内に鉄が過剰に蓄積し,脂

肪肝炎を発症した.また,この変異マウスに高鉄含有食を与えると,FBXL5を欠損した肝臓では,

さらなる鉄の蓄積から肝臓の広範囲にわたって酸化ストレスがかかり,重篤な肝細胞死をおこし

て,高鉄含有食摂取後わずか1日で死亡した.このことから,通常の成体肝臓においてFBXL5は,

鉄過剰による傷害から肝臓を守る防御機構として働いていることが明らかとなった.

近年,肝臓における鉄の蓄積は非アルコール性脂肪性肝炎やC型慢性肝炎,さらには肝臓癌の

増悪因子となることが注目されている5).肝臓におけるFBXL5の発現低下は,鉄の蓄積によって

このような疾患の増悪因子になる可能性があり,今後 FBXL5-IRP2 系を制御することで細胞内の

鉄量を適切な量に調節し,これらの疾患に対する治療応用が期待される.

業績目録

原著論文

1. Lu, C., Huang, X., Zhang, X., Roensch, K., Cao, Q., Nakayama, K. I., Blazar, B. R., Zeng, Y., Zhou, X. 2011.

miR-221 and miR-155 regulate human dendritic cell development, apoptosis, and IL-12 production through

targeting of p27kip1, KPC1, and SOCS-1.

Blood, 117, 4293-4303.

2. Matsumoto, A., Onoyama, I., Sunabori, T., Kageyama, R., Okano, H., Nakayama, K. I. 2011.

Fbxw7-dependent degradation of Notch is required for control of "stemness" and neuronal-glial differentiation in

neural stem cells.

J. Biol. Chem., 286, 13754-13764.

3. Matsumoto, A., Tateishi, Y., Onoyama, I., Okita, Y., Nakayama, K., Nakayama, K. I. 2011.

Fbxw7beta resides in the endoplasmic reticulum membrane and protects cells from oxidative stress.

Cancer Sci., 102, 749-755.

4. Tachiyama, R., Ishikawa, D., Matsumoto, M., Nakayama, K. I., Yoshimori, T., Yokota, S., Himeno, M., Tanaka, Y.,

Fujita, H. 2011.

Proteome of ubiquitin/MVB pathway: possible involvement of iron-induced ubiquitylation of transferrin receptor in

― 36 ―

lysosomal degradation.

Genes Cells, 16, 448-466.

5. Inoue, S., Matsushita, T., Tomokiyo, Y., Matsumoto, M., Nakayama, K. I., Kinoshita, T., Shimazaki, K. 2011.

Functional analyses of the activation loop of phototropin2 in Arabidopsis.

Plant Physiol., 156, 117-128.

6. Fotovati, A., Abu-Ali, S., Nakayama, K., Nakayama, K. I. 2011.

Impaired ovarian development and reduced fertility in female mice deficient in Skp2.

J. Anat., 218, 668-677.

7. Chow, C., Wong, N., Pagano, M., Lun, S. W., Nakayama, K. I., Nakayama, K., Lo, K. W. 2011.

Regulation of APC/CCdc20 activity by RASSF1A-APC/CCdc20 circuitry.

Oncogene,

8. Yu, Z., Ono, C., Kim, H. B., Komatsu, H., Tanabe, Y., Sakae, N., Nakayama, K. I., Matsuoka, H., Sora, I., Bunney,

W. E., Tomita, H. 2011.

Four mood stabilizers commonly induce FEZ1 expression in human astrocytes.

Bipolar Disord., 13, 486-499.

9. Zou, P., Yoshihara, H., Hosokawa, K., Tai, I., Shinmyozu, K., Tsukahara, F., Maru, Y., Nakayama, K., Nakayama,

K. I., Suda, T. 2011.

p57Kip2 and p27Kip1 cooperate to maintain hematopoietic stem cell quiescence through interactions with Hsc70.

Cell Stem Cell, 9, 247-261.

10. Matsumoto, A., Takeishi, S., Kanie, T., Susaki, E., Onoyama, I., Tateishi, Y., Nakayama, K., Nakayama, K. I. 2011.

p57 is required for quiescence and maintenance of adult hematopoietic stem cells.

Cell Stem Cell, 9, 262-271.

11. Moroishi, T., Nishiyama, M., Takeda, Y., Iwai, K., Nakayama, K. I. 2011.

The FBXL5-IRP2 axis is integral to control of iron metabolism in vivo.

Cell Metab., 14, 339-351.

12. Matsumoto, A., Susaki, E., Onoyama, I., Nakayama, K., Hoshino, M., Nakayama, K. I. 2011.

Deregulation of the p57-E2F1-p53 axis results in nonobstructive hydrocephalus and cerebellar malformation in

mice.

Mol. Cell. Biol., 31, 4176-4192.

13. Okumura, F., Okumura, A. J., Matsumoto, M., Nakayama, K. I., Hatakeyama, S. 2011.

TRIM8 regulates Nanog via Hsp90β-mediated nuclear translocation of STAT3 in embryonic stem cells. Biochim. Biophys. Acta, 1813, 1784-1792.

14. Fuster, J. J., Gonzalez-Navarro, H., Vinue, A., Molina-Sanchez, P., Andres-Manzano, M. J., Nakayama, K. I.,

Nakayama, K., Diez-Juan, A., Bernad, A., Rodriguez, C., Martinez-Gonzalez, J., Andres, V. 2011.

Deficient p27 phosphorylation at serine 10 increases macrophage foam cell formation and aggravates

atherosclerosis through a proliferation-independent mechanism.

Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 31, 2455-2463.

15. Matsuzaki, F., Shirane, M., Matsumoto, M., Nakayama, K. I. 2011.

Protrudin serves as an adaptor molecule that connects KIF5 and its cargoes in vesicular transport during process

― 37 ―

formation.

Mol. Biol. Cell, 22, 4602-4620.

16. Rodriguez, S., Wang, L., Mumaw, C., Srour, E. F., Celso, C. L., Nakayama, K. I., Carlesso, N. 2011.

The SKP2 E3 Ligase regulates basal homeostasis and stress-induced regeneration of hematopoietic stem cells.

Blood, in press.

17. Ellman, M. B., Kim, J., An, H. S., Kroin, J. S., Li, X., Chen, D., Yan, D., Buechter, D. D., Nakayama, K. I.,

Mochly-Rosen, Liu, B., Qvit, N., Morganand, S., Im, H.-J. 2011.

The pathophysiological role of the PKCδ pathway in the intervertebral disc: In vitro, ex vivo and in vivo studies. Arthritis Rheumat., in press.

18. Sistrunk, h., Macias, E., Nakayama, K. I., Kim, Y., Rodriguez-Puebla, M. L. 2011.

Skp2 is necessary for Myc-induced keratinocyte proliferation but dispensable for Myc oncogenic activity in the oral

epithelium.

Am. J. Pathol., in press.

19. Bargagna-Mohan, P., Paranthan, R. R., Hamza, A., Zhan, C. G., Lee, D. M., Kim, K. B., Lau, D. L., Srinivasan, C.,

Nakayama, K., Nakayama, K. I., Herrmann, H., Mohan, R. 2012.

Corneal antifibrotic switch identified in genetic and pharmacological deficiency of vimentin.

J. Biol. Chem., 287, 989-1006.

20. Nishiyama, M., Skoultchi, A. I., Nakayama, K. I. 2012.

Histone H1 recruitment by CHD8 is essential for suppression of the Wnt-β-catenin signaling pathway. Mol. Cell. Biol., 32, 501-512.

21. Oshikawa, K., Matsumoto, M., Oyamada, K., Nakayama, K. I. 2012.

Proteome-wide identification of ubiquitylation sites by conjugation of engineered lysine-less ubiquitin.

J. Proteome Res., 11, 796-807.

22. Kanie, T., Onoyama, I., Matsumoto, A., Yamada, M., Nakatsumi, H., Tateishi, Y., Yamamura, S., Tsunematsu, R.,

Matsumoto, M., Nakayama, K. I. 2012.

Genetic reevaluation of the role of F-box proteins in cyclin D1 degradation.

Mol. Cell. Biol., 32, 590-605.

23. Chan, C.-H., Li, C.-F., Yang, W.-L., Gao, Y., Lee, S.-W., Feng, Z., Huang, H.-Y., Tsai, K. K. C., Flores, L. G., Shao,

Y., Hazle, J. D., Yu, D., Wei, W., Sarbassov, D., Hung, M.-C., Nakayama, K. I., Lin, H.-K. 2012.

The Skp2-SCF E3 ligase regulates Akt ubiquitination, glycolysis, Herceptin sensitivity and tumorigenesis.

Cell, in press.

総説

1. 喜多泰之, 西山正章, 中山敬一. 2011.

初期発生におけるCHD8依存的なp53の制御機構.

BioClinica, 26, 466-470.

2. 中津海洋一, 松本雅記, 中山敬一. 2011.

プロテオミクスが拓くタンパク質分解研究.

実験医学(増刊)「細胞内のリノベーション機構:タンパク質分解系による生体制御」, 29, 2047-2053.

― 38 ―

3. 松本有樹修, 中山敬一. 2011.

造血幹細胞の自己複製にはp57による増殖速度の抑制が重要である.

細胞工学, 30, 1074-1075.

4. 諸石寿朗, 中山敬一. 2011.

FBXL5-IRP2系は生体内の鉄代謝制御に不可欠である.

細胞工学, 30, 1188-1189.

5. 松本有樹修, 中山敬一. 2011.

p57は造血幹細胞の静止期と幹細胞性の維持に必須である.

実験医学, 29, 2998-3001.

6. 武石昭一郎, 中山敬一. 2012.

癌幹細胞の静止期維持機構.

細胞工学, 31, 18-23.

学会発表

1. 中山敬一. (2011, 4/9).

次世代プロテオミクスによるユビキチンシステムの全貌解明. (シンポジウム)

第28回日本医学会総会, 東京.

2. Moroishi, T., Nishiyama, M., Yumimoto, K., Matsumoto, M., Iwai, K., Nakayama, K. I. (2011, 5/18).

Loss of Fbxl5 results in deregulation of iron metabolism in mice.

Cold Spring Harbor Symposium "The Ubiquitin Family", Cold Spring Harbor, NY.

3. Kanie, T., Onoyama, I., Matsumoto, A., Nakayama, K. I. (2011, 5/18).

Genetic reevaluation of the role of four F-box proteins in cyclin D1 degradation.

Cold Spring Harbor Symposium "The Ubiquitin Family", Cold Spring Harbor, NY.

4. Nakayama, K. I., Yumimoto, K., Matsumoto, M., Oyamada, K., Moroishi, T. (2011, 5/18).

Comprehensive and unbiased identification of substrates for ubiquitin ligases by differential proteomic analysis.

(Invited speaker)

Cold Spring Harbor Symposium "The Ubiquitin Family", Cold Spring Harbor, NY.

5. Yumimoto, K., Matsumoto, M., Nagai, R., Imaizumi, K., Nakayama, K. I. (2011, 5/19).

Fbxw7 controls mesenchymal differentiation through degradation of functionally related transcription factors.

Cold Spring Harbor Symposium "The Ubiquitin Family", Cold Spring Harbor, NY.

6. Nakayama, K., Onoyama, I., Matsumoto, A., Ishikawa, Y., Aoyama, S., Nakayama, K. I. (2011, 5/19).

Tissue-specific funcitons of Fbxw7 revealed by conditional gene targeting in multiple organs.

Cold Spring Harbor Symposium "The Ubiquitin Family", Cold Spring Harbor, NY.

7. Wei, W., Inuzuka, H., Shaik, S., Onoyama, I., Gao, D., Tseng, A., Maser, R. S., Zhai, B., Wan, L., Gutierrez, A.,

Lau, A. W., Aster, J., Settleman, J., Gygi, S. P., Kung, A. L., Look, T., Nakayama, K. I., DePinho, R. A. (2011,

5/21).

SCFFbw7 regulates cellular apoptosis by targeting Mcl-1 for ubiquitination and destruction. (Invited speaker)

Cold Spring Harbor Symposium "The Ubiquitin Family", Cold Spring Harbor, NY.

8. 中山敬一. (2011, 5/26).

― 39 ―

次世代プロテオミクスが拓く生命科学研究の新地平:もうウェスタンブロッティングは要らない?!.

(招待講演)

第11回日本分子生物学会春季シンポジウム, 金沢.

9. 中山敬一. (2011, 6/24).

癌幹細胞性に必要なG0期維持機構. (招待講演)

第15回日本がん分子標的治療学会, 東京.

10. Shiromizu, T., Narumi, R., Kuga, T., Adachi, J., Matsubara, H., Matsumoto, M., Nakayama, K. I., Tomonaga, T.

(2011, 6/27).

Large scale phosphoproteomic analysis of colon cancer metastasis.

第63回日本細胞生物学会大会, 札幌.

11. 中山敬一. (2011, 7/17).

Cell cycle and cancer stem cells. (教育講演)

第17回日本遺伝子治療学会学術集会, 福岡.

12. 中山敬一. (2011, 9/1).

次世代プロテオミクスが拓く生命科学研究の新地平:もうウェスタンブロッティングは要らない?!.

(特別講演)

がん若手研究者ワークショップ, 茅野.

13. 中山敬一. (2011, 10/3).

細胞周期と癌幹細胞. (シンポジウム)

第70回日本癌学会学術総会, 名古屋.

14. Matsumoto, A., Takeishi, S., Nakayama, K. I. (2011, 10/26).

p57 is required for quiescence and maintenance of adult hematopoietic stem cells.

The 5th International Workshop on Cell Regulations in Division and Arrest, Onna, Okinawa, Japan.

15. Nakayama, K. I. (2011, 10/26).

Road to absolute quantification of all human proteins by large-scale targeted proteomics. (Invited speaker)

The 5th International Workshop on Cell Regulations in Division and Arrest, Onna, Okinawa, Japan.

16. 中山敬一. (2011, 10/27).

がん幹細胞の細胞周期制御機構の解明に基づく治療法の開発. (パネルディスカッション)

第49回日本癌治療学会学術集会, 名古屋.

17. Nakayama, K. I. (2011, 11/24).

Road to Human Proteome Project: Absolute quantification of all human proteins by large-scale targeted proteomics.

(Invited speaker)

France-Japan Cancer Meeting, Montpellier, France.

18. 大西隆史, 白根道子, 中山敬一. (2011, 12/13).

Identification and functional analysis of novel protrudin isoform.

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

19. 山村聡, 弓本佳苗, 松本雅記, 今泉和則, 中山敬一. (2011, 12/13).

Fbxw7 controls mesenchymal differentiation through degradation of functionally related transcription factors.

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

― 40 ―

20. 白根道子, 中山敬一. (2011, 12/13).

Protrudin regulates vesicular trafficking in neurons via interaction with PtdIns5P. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

21. 沖田康孝, 松本有樹修, 中山敬一. (2011, 12/13).

Fbxw7α regulates the maintenance and differentiation of neural stem cells. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

22. 武石昭一郎, 松本有樹修, 小野山一郎, 仲一仁, 平尾敦, 中山敬一. (2011, 12/13).

Ablation of Fbw7 eliminates leukemia stem cells by preventing quiescence. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

23. 松本有樹修, 武石昭一郎, 中山敬一. (2011, 12/13).

p57 is required for quiescence and maintenance of adult hematopoietic stem cells. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

24. 柚木克之, 久保田浩行, 豊島有, 玲, 野., 曽我朋義, 松本雅記, 中山敬一, 黒田真也. (2011, 12/14).

A trans-omics analysis of insulin- stimulated Fao rat hepatoma cell.

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

25. 中山敬一, 松本雅記. (2011, 12/14).

Road to absolute quantification of all human proteins by large-scale targeted proteomics. (シンポジウム)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

26. 黒田真也, 柚木克之, 久保田浩行, 曽我朋義, 松本雅記, 中山敬一. (2011, 12/14).

An automatic and unbiased identification of insulin signaling dependent metabolic control pathway by metabolome

and phospho-proteome

analysis. (シンポジウム)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

27. 松﨑芙美子, 白根道子, 松本雅記, 中山敬一. (2011, 12/15).

Protrudin-KIF5 complex contributes to vesicular transport during neuritogenesis.

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

28. 村上裕輔, 前田武志, 岸ちひろ, 松本雅記, 中山敬一, 塩見泰史, 西谷秀男. (2011, 12/15).

Protection of licensing factor Cdt1 from degradation in M phase by mitotic kinase Plk1 and Cdk1- CyclinB

phosphorylation. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

29. 細田將太郎, 白根道子, 中山敬一. (2011, 12/15).

The mitochondrial protein translocation from mitochondria in mitophagy. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

30. 諸石寿朗, 西山正章, 武田有紀, 岩井一宏, 中山敬一. (2011, 12/15).

The FBXL5-IRP2 axis is integral to control of iron metabolism in vivo. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

31. 西山正章, 中山敬一. (2011, 12/15).

Histone H1 recruitment mediated by CHD8 is essential for suppression of Wnt/beta-catenin signaling pathway. (一

般講演)

― 41 ―

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

32. 片山雄太, 西山正章, 中山敬一. (2011, 12/15).

Long isoform of chromatin remodeling factor CHD8 is necessary for development and cell differentiation. (一般講

演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

33. 弓本佳苗, 秋吉清百合, 立石悠基, 小野山一郎, 三森功士, 森正樹, 中山敬一. (2011, 12/15).

Promotion of cancer metastasis by deletion of Fbxw7 in host environment. (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

34. 藤兼亜耶, 早川浩, 伊東理世子, 中山敬一, 関口睦夫. (2011, 12/16).

Specific binding of human proteins to 8-oxoguanine-containing RNA.

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

35. 立石悠基, 蟹江共春, 松本有樹修, 中山敬一. (2011, 12/16).

Generation and characterization of mice lacking all CIP/KIP CDK inhibitors (p21/p27/p57). (一般講演)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

36. 中津海洋一, 松本雅記, 小山田浩二, 中山敬一. (2011, 12/16).

mTOR regulates transcription through FOXK1 phosphorylation. (ワークショップ)

第34回日本分子生物学会年会, 横浜.

37. 中山敬一. (2012, 1/13).

Next -generation proteomics and its application to biology and medicine: Say good-bye to western blotting.

(Keynote Lecture)

第9回心血管幹細胞研究会, 東京.

38. 中山敬一. (2012, 1/31).

がん幹細胞と細胞周期:"G0期追出し療法"によるがん根治の可能性. (招待講演)

第3次 対がん10か年総合戦略・文科省がん研究支援活動合同公開シンポジウム, 東京.

― 42 ―

器官発生再生学分野 Division of Organogenesis and Regeneration

准 教 授:鈴木 淳史

Associate Professor:Atsushi Suzuki, Ph.D.

器官発生再生学分野では、哺乳動物の「発生」や「再生」、「疾患」について、幹細胞

の性状理解と機能制御を中心に研究を展開している。特に、代謝や解毒の中枢器官であ

る肝臓の発生メカニズムや損傷後の再生メカニズム、幹細胞の機能破綻による疾患の発

症メカニズムの解明に向け、遺伝子、細胞、組織、器官、個体レベルの実験を通じて多

角的に研究を行っている。そして、得られる知見から「肝臓」という器官を統合的に理

解し、肝疾患に対する革新的な治療法の開発へとつなげていく。

2011 年度においては、鈴木淳史(准教授)、高島康郎(非常勤研究員)、三浦静(大

学院生・修士 1年)、大城戸絵理(学部生・生命科学科 4年)、関谷明香(テクニカルス

タッフ)、郡島英理子(技能補佐員)、中野貴子(大学病院医員・呼吸器科)の 7名で研

究を開始し、途中、郡島英理子が退職し、寺田茉衣子(テクニカルスタッフ)と海江田

千晶(テクニカルスタッフ)が加わった。

A.特定因子による皮膚細胞から肝細胞への直接変換

通常、肝細胞は多くの転写因子の働きによって発生期に肝前駆細胞から分化するのが

普通だが、稀に、障害を受けた膵臓の外分泌細胞や骨髄などに含まれる間葉系幹細胞か

ら肝細胞が分化することがある。また、骨髄移植後に血液細胞が肝細胞と融合し、肝細

胞として肝臓組織を構築することもある。これらの事象は、肝細胞以外の細胞を肝細胞

に変化させる因子の存在を示唆しており、ある環境下ではそれらの因子が活性化して肝

細胞以外の細胞を肝細胞に変化させていると考えられる。したがって、もし、このよう

な肝細胞の運命決定因子を同定することができれば、それらを使って皮膚の線維芽細胞

を肝細胞へと直接変化させることが可能になるかもしれない。そこで我々は、肝細胞の

運命決定を担う特定因子を同定し、線維芽細胞から肝細胞を直接作り出すことを試みた

(Sekiya and Suzuki, Nature, 2011; 特許出願済み)。

a.肝細胞の運命決定因子の探索とマウス胎仔線維芽細胞からの iHep 細胞作製

肝細胞の運命決定因子をスクリーニングするために、我々のこれまでの研究や他の公

開データから、肝臓の発生過程において肝細胞の分化に関連する 12 個の転写因子を抽

― 43 ―

出した。レトロウイルスを用いてこれら 12 因子を同時にマウス胎仔線維芽細胞(MEF)

に導入すると、肝細胞マーカーであるアルブミンやα-フェトプロテイン、及び、上皮

細胞マーカーである E-cadherin の発現が強く誘導された。そこで次に、12 因子のうち

必須の因子を抽出するために、12 因子から 1 因子を除いたウイルスをそれぞれ用意し

て解析を行った。その結果、Hnf4αを除いたときのみ、肝細胞マーカーの発現誘導が強

く阻害されることが判明した。そこで、Hnf4αとその他の 1因子、計 2因子を MEF に導

入したところ、Hnf4α & Foxa1、Hnf4α & Foxa2、Hnf4α & Foxa3 の 3 つの組み合わ

せにおいてのみ肝細胞マーカーや上皮細胞マーカーの発現が強く誘導された。さらに、

これらの遺伝子セットを導入した MEF をコラーゲンや肝細胞増殖因子と共に培養する

と、およそ 1 ヶ月後には MEF が上皮様形態をもった細胞に変化することが明らかとなっ

た。我々は、これらの上皮様細胞を iHep 細胞(induced hepatocyte-like cells)と名

付けた。

b.iHep 細胞の性状解析

MEF から作製された iHep 細胞は、そのほとんどが E-cadherin、アルブミンともに陽

性であった。また、iHep 細胞はグリコーゲンの蓄積や低比重リポタンパク質(LDL)の

取り込み、アルブミンの分泌、アンモニア代謝と尿素合成、シトクロム P450 活性、イ

ンドシアニングリーンの取り込みと排出、脂質代謝、薬物代謝などの肝細胞に特有の機

能を有しており、肝細胞と同様に細胞間をタイトジャンクションで連結して毛細胆管を

形成していた。さらに、iHep 細胞は肝機能を発揮する一連の酵素群をコードする遺伝

子も発現していた。以上から、iHep 細胞は肝細胞のもつ形態的・機能的特徴を有する

ことが明らかとなった。

c.iHep 細胞による肝臓組織の再構築と肝機能補助

肝機能不全で死に至る高チロシン血症モデルマウスの肝臓に対し、正常マウスから取

得した肝細胞を移植すると、肝細胞は損傷を受けた肝臓組織を機能的に再構築し、マウ

スの命を救うことができる。そこで本研究では、iHep 細胞を高チロシン血症モデルマ

ウスの肝臓へ移植し、iHep 細胞が肝細胞として機能するか否かを調べた。その結果、

iHep 細胞は損傷を受けた高チロシン血症モデルマウスの肝臓組織を再構築し、肝機能

を補助することで、マウスの致死率を大幅に減少させることが可能であった。

― 44 ―

d.iHep 細胞を用いた遺伝子治療/組織再生モデル

次に、iHep 細胞を用いた治療モデルの可能性を検証すべく、高チロシン血症モデル

マウスの MEF から作製した iHep 細胞に対し、欠損遺伝子を導入して遺伝的な肝機能疾

患の治療を行った。その後、これらの細胞を高チロシン血症モデルマウスの肝臓に移植

したところ、移植した細胞は正常細胞と同じように損傷を受けた肝臓組織を再構築可能

なことが判明した。この結果は、遺伝的な肝疾患をもつ患者自身の線維芽細胞を用いて

iHep 細胞を作製し、生体外における遺伝子治療を経てから肝臓へ移植することで、肝

臓を機能的に再生させて治療することが可能な新しい治療モデルを提示しているとい

える。

e.成体マウス線維芽細胞からの iHep 細胞作製

以上に述べたように、我々はMEFからiHep細胞を作製することに成功したことから、

続いて、成体マウスの皮膚から抽出した線維芽細胞(MDF)からも iHep 細胞の作製を試

みた。その結果、MEF と同様に、MDF に対しても Hnf4αと Foxa(Foxa1、Foxa2、Foxa3

のいずれかひとつ)を導入することで、肝細胞のもつ形態的・機能的特徴を有した iHep

細胞を作製することができた。また、これら MDF 由来 iHep 細胞は、高チロシン血症モ

デルマウスの肝臓へ移植後に損傷を受けた肝臓組織を再構築することも可能であった。

f.iHep 細胞の将来展望

本研究では、たった 2 つの転写因子を線維芽細胞に発現させるだけで、人工多能性幹

細胞(iPS 細胞)を経由することなく、線維芽細胞から肝細胞を直接作製することに成

功した。これら 2つの転写因子は肝細胞の運命を決定する「マスター制御因子」と考え

られ、肝細胞分化を促す複雑な転写因子ネットワークの根幹に位置するものと考えられ

る。2 つの転写因子が細胞内でどのような変化を引き起こし、細胞の運命転換を誘導し

て肝細胞を作り出すのか、そのメカニズムは非常に興味深い。一方、本研究はヒト iHep

細胞の作製に向けた基盤科学となることは言うまでもなく、ヒトで iHep 細胞が作製さ

れれば、肝疾患に対する細胞移植や人工肝臓への応用が期待できる。また、創薬研究に

おいて、薬の効果や毒性を評価するためのツールとして iHep 細胞が利用される可能性

も十分に考えられる。

B.肝臓の再生に必要な肝細胞の増殖活性化機構の解明

アポロドーロスが著わしたギリシャ神話にも登場するように、肝臓は我々哺乳類で唯

― 45 ―

一の「再生する器官」であり、その再生の様子は小さい頃に見たトカゲ尾の再生を彷彿

とさせるエレガントでダイナミックなものである。一般的な肝再生は、幹細胞や前駆細

胞の増殖を伴わない成熟肝細胞の増殖再活性化による代償性肥大であるが、そのメカニ

ズムには未だ謎の部分が多い。そこで我々は、肝細胞の増殖再活性化や再生終了時の増

殖停止など、肝再生を司る重要なステップを制御する分子メカニズムを明らかにすべく

研究を行っている。最近の研究では、細胞の運動や分化、増殖、生存などにおいて重要

な機能を有する転写因子のひとつ、Snail に着目し、肝再生における Snail の役割につ

いて解析を行った。その結果、肝再生シグナルに応じて誘導される Glycogen

synthase kinase (GSK)-3β依存的な Snail の分解が、肝細胞の増殖活性化のトリガー

になっていることを見出した(Sekiya and Suzuki, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2011)。

本研究成果やそこから導きだされる新しい概念は、今後の肝再生療法や肝硬変・肝が

んの原因究明や治療法の開発に貢献することが期待される。また、肝臓はなぜ再生でき

るのか、他の臓器はなぜ再生できないのかといった疑問に対する生物学的理解を深める

こともできる。複雑な肝臓の再生には Snail の他にも多くの分子が関与するはずであり、

今後は肝臓における Snail の機能的役割の解析をさらに進めながら、他の分子の関与も

積極的に解析することで、肝再生の分子メカニズムの全体像を明らかにしていきたい。

また、肝再生の研究を行いながら肝再生の異常も視野に入れ、肝再生不全から生じる肝

硬変や肝がんの発症に関しても研究を進めていきたい。

C.マウス胎仔肝幹細胞の分離・回収と機能解析

肝臓の発生は、心臓に近接した前腸内胚葉が心臓や間質組織からの刺激によって肝臓

に特化することで始まる。肝臓を構成する細胞には肝上皮細胞(肝細胞と胆管上皮細胞)

や血液細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞など複数あるが、そのうちの肝細胞と胆管上皮

細胞だけが前腸内胚葉由来であり、それらの起源は同一の細胞であると考えられている。

この細胞は、数十年前から肝芽細胞(hepatoblast)と呼ばれ、肝芽細胞こそ肝臓の幹

細胞(肝幹細胞)であると考えられてきた。ところが、肝芽細胞が肝幹細胞の性質を満

たす細胞か否かを実験的に証明するには、従来の実験技術では不十分であった。それは、

肝臓が肝上皮細胞以外にも多くの種類の細胞を含む複雑な構造体であるがために、数が

少なく、形態的に他の細胞と見分けがつかない肝芽細胞だけを肝芽細胞以外の細胞から

完全に切り離して解析することが難しかったためである。そこで我々は、肝芽細胞を他

の細胞から選別する手法として、細胞表面抗原を抗体で染色した細胞を生きたまま回収

可能な装置であるフローサイトメトリー(fluorescence activated cell sorting: FACS)

― 46 ―

を利用した。そして、回収された細胞の性状をクローナルな解析系(1つ 1つの細胞を

個別に解析する手法)にて調べ、結果として、高い増殖能、多分化能、自己複製能、肝

組織再構築能といった肝幹細胞の特性をすべて満たし、マウス胎仔肝臓細胞の 10 万個

にわずか 6個しか存在しない肝芽細胞が c-Met+ CD49f+/low c-Kit- CD45- TER119- 細胞画分

中に極めて限定して含まれることを突き止め、その同定と特異的分離・回収に成功した

(Suzuki et al., Hepatology, 2000; Suzuki et al., J. Cell Biol., 2002; 特許登

録済み)。

このように、独自の手法を確立してマウス胎仔肝臓から肝芽細胞(=肝幹細胞)を分

離できることから、肝発生において肝芽細胞の増殖や分化を司る分子メカニズムにアプ

ローチすることが可能になった。実際に、これまで行った研究では、肝芽細胞の自己複

製や肝細胞分化が、肝細胞増殖因子(HGF)やオンコスタチン M(OSM)などの液性因

子、C/EBPαや Tbx3 などの転写因子、コラーゲンやラミニンなどの細胞外マトリックス

によって制御されていることを明らかにした(Suzuki et al., Development,

2003; Suzuki et al., Development, 2008)。現在では、これまでに我々が同定した転

写因子やマイクロ RNA による肝芽細胞の制御機構について新たな知見が得られており、

今後の研究展開が楽しみな状況である。

D.成体マウス肝幹細胞の分離・回収と機能解析

成熟肝細胞の増殖が阻害された特殊な状況では幹/前駆細胞の増殖が活性化して肝臓

を再生すると考えられており、我々は肝臓の幹細胞システムの全体像を理解する目的で

成体マウス肝臓に存在する肝幹細胞の分離・回収とその機能解析も行っている。これま

での研究では、慢性肝炎を誘導した成体マウスの肝臓から CD133+ CD45- TER119- 細胞を

分離し、クローナルな解析系を用いて機能解析を行った結果、それらが高い増殖能、多

分化能、自己複製能といった肝幹細胞の特性を有することを明らかにした。また、高チ

ロシン血症モデルマウスである FAH 欠損マウスの肝臓に CD133+ CD45- TER119- 細胞を移

植したところ、ドナー細胞は肝臓内に生着して増殖し、2 ヶ月後には肝臓の大部分を再

構築していた。以上から、マウス胎仔肝臓と同様に、成体マウス肝臓からも肝幹細胞を

分離することが可能になった(Suzuki et al., Hepatology, 2008)。また、これら特殊

状況下で出現する肝幹細胞の形態的特徴は、人の肝炎や肝がんなどで観察される細胞に

似ていることから、成体マウスの肝幹細胞研究は、肝炎や肝がんに対する肝幹細胞の役

割を検証するための基盤科学になりうる。そこで、慢性肝炎を誘導した p53 欠損マウス

から CD133+ CD45- TER119- 細胞を分離し、CD133+ CD45- TER119- 細胞画分以外の細胞画分

― 47 ―

に含まれる細胞と腫瘍形成能について比較した。その結果、p53 を欠損し

た CD133+ CD45- TER119- 細胞のみが免疫不全マウスの皮下で腫瘍を形成し、腫瘍の内部

には肝細胞がんと胆管上皮細胞がんの両者が混在していた(Suzuki et al., Hepatology,

2008)。このことから、慢性肝炎で出現する CD133+ CD45- TER119- 細胞は肝がんに含まれ

る「がん幹細胞」のもとになる細胞である可能性が高い。そこで現在では、肝がんのが

ん幹細胞についても研究を進めている。

業績目録

原著論文

1. Sekiya, S., Suzuki, A. 2011.

Direct conversion of mouse fibroblasts to hepatocyte-like cells by defined factors.

Nature 475, 390-393.

2. Sekiya, S., Suzuki, A. 2011.

Glycogen synthase kinase 3β-dependent Snail degradation directs hepatocyte proliferation

in normal liver regeneration.

Proc Natl Acad Sci USA 108, 11175-11180.

総説等

1. 鈴木淳史、関谷明香. 2011

マウスの皮膚細胞から肝細胞を直接作製することに成功

新着論文レビュー、http://first.lifesciencedb.jp/archives/3217

2. 鈴木淳史. 2011

特定因子による皮膚細胞から肝細胞への直接変換

肝細胞研究会ホットトピックス、http://hepato.umin.jp/hottopics/hottopics007.html

3. 鈴木淳史. 2011

がん幹細胞とエピジェネティクス — 環境の変化がいざなう細胞運命のリプログラミング

実験医学増刊「がん幹細胞 — ステムネス, ニッチ, 標的治療への理解」、Vol. 29, No. 20.

4. 鈴木淳史. 2011

特定因子による皮膚細胞から肝細胞への直接変換

分子消化器病、Vol. 8, No. 4.

― 48 ―

5. 鈴木淳史. 2012

肝再生の仕組みに関する新知見 — 増殖を求め続ける肝細胞と負の制御

医学のあゆみ、Vol. 240, No. 9.

学会発表等

1. 鈴木淳史(2011, 7/8)

マウスの繊維芽細胞から肝細胞を直接作製する方法の開発(招待講演)

再生医療の実現化プロジェクト 第 4 回夏のワークショップ、大阪

2. 鈴木淳史(2011, 8/22)

肝臓の発生再生研究から肝細胞を作る技術への展開(招待講演)

第 50 回消化器・総合外科セミナー(九州大学大学院 消化器・総合外科)、福岡

3. 鈴木淳史(2011, 8/28)

肝臓の発生再生研究から肝細胞を作る技術への展開(特別講演)

京都大学医学研究科大学院教育コース「再生医療・臓器再建医学」コース合宿、滋賀

4. 鈴木淳史(2011, 8/28)

キャリアパスプログラム(招待講演)

京都大学医学研究科大学院教育コース「再生医療・臓器再建医学」コース合宿、滋賀

5. Suzuki, A. (2011, 9/14)

Induction of functional hepatocytes from fibroblasts by defined factors (Invited Speaker)

The 7th FAOPS Congress, Taipei, Taiwan

6. Suzuki, A. (2011, 9/15)

Expanding from studies on liver development and regeneration to artificial production

of hepatocytes (Invited Speaker)

Seminar at Academia Sinica, Taipei, Taiwan

7. 鈴木淳史(2011, 9/22)

皮膚細胞から人工肝細胞(iHep細胞)を作製する方法(推薦講演)

第10回産学官連携推進会議「若手研究者による科学・技術説明会」、東京

8. 鈴木淳史(2011, 9/22)

肝幹細胞のプロスペクティブな解析: 生体外の解析から生体内の解析へ(招待講演)

日本遺伝学会第83回大会、京都

9. 鈴木淳史(2011, 10/3)

肝臓の再生機構と発癌(招待講演)

― 49 ―

第70回日本癌学会学術総会・腫瘍別シンポジウム、名古屋

10. Suzuki, A. (2011, 10/23)

Induction of functional hepatocytes from fibroblasts by defined factors (Invited Speaker)

2011 International Forum for Stem Cell Translational Research, Shanghai, China

11. 鈴木淳史(2011, 12/5)

細胞運命の人為的制御 ~皮膚から肝臓をつくる~(招待講演)

先端医療・バイオニックMEMS 共創フォーラム、福岡

12. 鈴木淳史(2011, 12/8)

肝臓の発生再生研究から肝細胞をつくる技術への展開(招待講演)

東北大学生態適応グローバルCOE・第64回生態適応セミナー、仙台

13. 高島康郎、鈴木淳史(2011, 12/13)

Lin28b は肝芽細胞の増殖を制御する(一般口演)

第34回日本分子生物学会年会、横浜

14. 鈴木淳史(2012, 2/17)

肝臓の発生再生研究から肝細胞をつくる技術への展開(招待講演)

東京大学分子細胞生物学研究所セミナー、東京

15. 鈴木淳史(2012, 2/28)

肝臓の発生再生研究から肝細胞を作る技術への展開(招待講演)

福島県立医科大学次世代医学セミナー「細胞・組織の可塑性 — 再生医学の実現に向けた

細胞分化の制御」、福島

16. 鈴木淳史(2012, 3/24)

細胞運命の直接転換 ~皮膚から肝臓をつくる~(特別講義)

第10回国際幹細胞学会年次大会記念コラボレーション授業(横浜市立横浜サイエンスフロ

ンティア高等学校)、横浜

― 50 ―