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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title <研究>判例に映る民法(其一) 著者 Author(s) 柚木, 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,49(1):86-109 刊行日 Issue date 1930-07 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00054259 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00054259 PDF issue: 2021-07-16

一~第三者の行為について、債務者が責を負ふや否やの問題 …clupa につき責を負ふたものであることを知 ることが出来る。() その他、上の設を哀害する

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Page 1: 一~第三者の行為について、債務者が責を負ふや否やの問題 …clupa につき責を負ふたものであることを知 ることが出来る。() その他、上の設を哀害する

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le <研究>判例に映る民法(其一)

著者Author(s) 柚木, 馨

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,49(1):86-109

刊行日Issue date 1930-07

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00054259

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00054259

PDF issue: 2021-07-16

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(入六)

入六

(其一)

— ...

ヵゞ

判例の研究が、今

Hの法學者の任務の軍大な部分を構成する今日に於て、今更判例研究の法律學に於ける地位

を.絃に喋々するの愚を學びたくない。只私は我國の判例が現府に我民法を如何に形作りつつあるか、いびかへ

れば民法學の歩みつつある姿が≫判例といふ鏡の中に如何に映されてゐるか`を.その最も著るしき間題につい

て、考察し≫それを機縁として。私が今民法上の諸問題について包蔵してゐる所の考へを、序を追つて間隙した

いと、思ふのである。

本稿は畜私が目下敬場に於て試みつつある所の、判例による教授法の、原案の一部を加筆したものである。師

朝後の忽忙裡に。講義案として作成しつつあるものであり.従つて•多く諸書を渉獄するの餘暇を有しないこと

はヽ

誠に遺憾であるけれども、

この訣は時を追ふて補正しようと思ふが故に.

との黙御諒恕

4

ゲ得ば、幸甚であ

る。

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n 次

(本競所載)

I

履行哺助者の過失に男する債務者の維過失責任

III II

債樺の不可侵性

混同による他物櫂の哨減

I

履行補助者の過失に判すろ債務者の無過失責任

一~第三者の行為について、債務者が責を負ふや否やの問題には、凡そ四つの場合があり得る。(註

l)その一

は.第三者が債務者の意息及び認識と無闘係に、且債務者の側に何等の過失なく、債膀闘係を侵害した場合であ

つて、かくの如き場合に第四一五條によつて伍務者の責任を問はんとする偵櫂者に野しては.債務者はその過失

なかりしことを證明して,責を免れ得べきこと、論をまたない。ー—ーこの際.第三者の行為が.債椒の侵害によ

る不法行総として.倍横者に野する損害賠償義務を彼生することは、近時の判例の認むるところであるけれども.

とれは本問題とは闘係がない。(註2l)

ーーその二は、偵務者自ら履行すべぎことが債務の内容とされてゐる場合

に.債務行が第三者をして偵務を履行せしめた場合であつて、この場合には第三者を用ふること自閤が紺務の本

旨に適せざるものであるから、債椒者はーー信義誠賓の原則に反せざる限り1

債務不履行に劉する偵務者の責

任を問ふことが出来る。その三は,債務者自身の履行が要件たされてゐない場合に於て,債務者がその履行につ

ぎ補助者を用びた所が、補助者が何唸過失なき行為によつて、債訪を不屈行ならしめたときである。この際に於

判例に映ろ民法

(入七)

入七

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第四十九倦

第一就

C八入)

A 八

ては‘柿助者を用ふるこ4自開はー債務者を責むべき何等の事由とはならないけれども,債務者は場合の事情に

應じ、補助者をして自己の依務を正営に履行せしむるがために、嬰するあらゆろ注意を彿はなければならない。

帥ち.補助者の選任藍骨。指闘.補助者の要する補助手段の供典.

5ざにつき。善良なる管珊行の採るべきあらゆ

る注意を用ふることを要する。従つてかくの如き注意が訣けた場合には,偵務者はその結呆につき責を負

5、補

助省の加へた担害を賠償しなければならない。この場合.偵務者ぶ賠償費任を負ふのは、全く自己の過失に悲づ

くものなのであって、債務屈行のために工作物を川びた場合に、その設置保存筈に瑕疵があったため.債務不履

行を惹起した場合と理論上何等異なる所がないのである。従つて.袖功者に過失なきに係はらず、使用者たる債

務布に負ありといふがためには、決して第七

I五條をまつべきものでなく、直に第四一五條をー~而も同條に於

いても、駆證責任は値務者にあり4―するのを通説とするのだからーー,適用することによつて、解決がつく筈であ

る。(註3)

第四一五條の直接の湖川から解繹すろことの困難な間四は賓に最後の場合であって層債務者に何等の

濶失なきに係はらす。柿助者の過失について果して債務者は責を負ふべきであらふか否かの問題これである°け

だしこれは近泄謡法が採る所の所謂過失主義〔Ve:s,huldensprinzip)

の範園を訊越するものであり、従つて畜同

じく過失主義を原則とする~稲せらるる所の我民法上の解繹についても.大いなる疑問を生すべぎが故である。

二、普通法上この問題は頗る論議せられた。古き通説によれば

(Hasse,Goldschmidt, v. Wyss, WindscheidY

特別の合意ある場合又は偶恐賓任の場合を除き、俯務村は補助者の過失に野して責を負ふべきものでなく"たゞ

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自己の過失についてのみ、帥ち補助者の演任につき過失ある場合(culpain eligendo)又は,指躙、監督。設備等

に過失ある場合.或は.許されざるに補助者を利用した場合.にのみ.資を負ふぺきものである、としてゐる。

これに反して、少くとも請負人

(conductoroperis)は、その補助者の過失につき資を負ふものである"とする詭

次第に通説となり

(Puchta,Dernburg, Brinz,)" 獨逸大審院亦この設を採用するに至った。

a註4)

問題となる

Quelle

は略ぽ次の如くである。

(、)

L. 25 e 7D. locati 19, 2 C Paulus libro trigesimo quarto ad edictum).

Qui columnam transportandam conduxit, si ea, dum tollitur aut portatur aut reponitur, fracta sit, ita id

periculum praestat, si qua ipsius eorumqm: quorum opera uteretur, culpa acciderit.

この傍線を施した所郎ち

ipsiuseorumqueを

うque"とあつて

,,-ve"となきことに却づき,

conductor自ら及

びその被用者の過失に碁づく損害についてのみ•conductor

に賠償貨任がある.と解するものがあったけれども

賀質上から言つても.債務者及びその被用者の雨方に過失がなければ.債務者に損害賠償がないと.ローマ法學

者が考へたものとも思へないし、文字の上から云つても、

et,et ..¥.1はしてゐないのだから、この

Quelleは、債務

者の逼失もしくはその被用者の過失によつて、生じた損害につき偵務者が変

4

を負ふとしたものであると解する浣

の方が正しい様であるo(註5)

(b)

L. 20§2 D. 19, 5 (Ulpianus libro trigesimo secundo ad edictum).

判例に映る民法

(入九)

t

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第四十九倦

第一競

aO) 九〇

Certe culpam eorum, quibus custodiendum perferendumve dederis, praestar~te

oportere Labeo ait, et

puto praescriptis vcrbis actionem in hoc competere.

尤もこの

Quelleはlocatioconductio operis C註6)に闘するものではなく,

actiopraescriptis verbis C註7)に騨

するものではあるが、これによつても畜債務者がその履行補助者の

clupaにつき責を負ふたものであることを知

ることが出来る。

()

その他、上の設を哀害する

Quelleは,少くない。(註8)

――-,かくて獨逸民法は、不法行鯰に闘して規定した所の

codecivil

の第一三八四條に現はるる法律思想になら

ひ.且営時の限設判例の避勝に察して.次の如ぎ規定をたすに至った(第二七八條)

「債務者ハ、ソノ法律上ノ代理人及ヒ、義務履行ノタメニ用ヒタル者,ノ過失ニッキ、自己ノ過失卜同範刷二於

テ、貨ラ負7」

ついで瑞債務法も亦.この息想を納れて、袖助者の行岱に野する責任を規定した(第

10一條)

「偵務ノ履行又ハ債務闘係ヨリ生スル椒利ノ行使.ュノ.家人、努働者又ハ被用行ラシテ、ナサシムJV者ハーー0

l利用行腐自閤ノ)許サルヽ場合二於テモーー'ソノ補助者ヵ事業行使二於テ他人二加ヘタル損害プ‘賠俯スル貢

ニ任ス」

堺国民法に於ては≫永らくこの種の規定がなかったけれども.判例は、

一般的法律確似並に取引の需要に適應

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して、既に早くから.かくの如き責任を認めてゐた°然るにその後一九一六年に至り、途に明文を以て、との種

賓任が明かにせらるることとなった(第一三一一

1

一條

a)

(註9)

「他人二詞シ給付義務ラ負フモノハ`ソノ法律上ノ代理人及ヒ,履行ノタメニ用ヒタル者,ノ過失ニッキ.自己

ノ過失二鉗スルト同

i

ノ責ラ負7」

四,不幸にして我民法は、この種の規定を置くことを怠った。民法第四一五條は明かに「債務者ノ」旦二蹄スへ

キ事由二因リテ履行テナスコト能^サルニ至リタルトキ」と規定して≫履行不能による狽害賠償義務あるがため

には,債務者の責に蹄すべき事由あることを、必要とする旨を宣言してゐるのであって、現行法が,儀務不履行

に過失主義を採用してゐることは、これを察知するに難くないのであるから,初め云った様に`履行補助者にの

み過失があって、使用者たる債務者に過失のない場合には`賞然伍務者は債務を免れ,履行不能による損害は債

櫂者の負掠に錨すると、解すべきが如くに恩ばれる。にも係はら中、私はこの問題を積極に決して、現行法の鮒

繹としても、この場合債務者には、履行不能による損害賠頂責任ありと、解することが出来ると息ふのであるo

私はその根撮を,衡平トの舞由と、賞事者の意思の解繹4に求めたいと思ふ°

大衰本企業と,院働の分業と、新痰明和器の頻出と.その他等々、に満たされた現代文明は、必

あらゆる事

業|ー廣き意義に於けるーーに補助者を用ふることを.餘儀なくせしめた。その事業の少なる間は、従つて補助

者の数も少敷で足りる間は、その選任監督に注意を用ふることによつて,補助者の過失.従つてその結果として

判例に映る民法

(九一)

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第四十九巻

第一競

(九一l)

の履行不能も,これを避けることが容易である。しか

Lながら.事業が大規模となるに従つて,夫故に,補助者

の敷も増すに従つて,補助者の選任監督に向けられた使用者ー|fit務者ーーーの注意も.数多き補助者の過失

I

従つてその間超る所の履行不能ーーを.避け難くなることはぶ品然である°しからば.債務者の債務履行のために

川ひらるる補助者のー—とうした使用者が注意を憲したに係はらす生じた所の!ーー過失の結果ーー損害ー—ーが、

偵椒者と債務者との間に,如何に分配さるべきであらうか°偵務者の事業が大きくなればなるほど.従つて補助

者が多くなれげなる程.債務者の受くる所の能力披張の利盆は大になるものである。しかるにかく、偵務村が自

己の能力躾張のために補助者を川ふることによつて»債轍者か、もし債務者か自ら依務履行に賞ったならば|—`

伍務者の過失について第四一五條の賠償請求櫂を有する結果ーーI

有したるべき地位よりも,悪き地位にーー'補助

者があれぼある程、情務者の無過失にも係はらす、損害の生する危瞼が撰大する露であるからーー陥れらるると

するのは、果して衡平の珂を解した見解といふことが出来ようか。いひかへて見るならば.補助者を用ふること

の利盆は、使用者たる債務者に飩し、それより生する危瞼は畜債椒者の負搬となる。といふやうなことが、果

L

て是認でぎるであらふか。衡千の理は`補助者使用より生する危瞼は、補助者使用の利盆を牧むる者に、蹄する

ととを要求する。況んや偵務者のこの責任壻大に伴ふ負樅は、代債又はー|債務者の受くる'_ー報酬の増大によ

つて、

一般人に轄化されるのを常とするに於てをやo(註11)

私はかく、衡平上、かくの如き場合にをける偵務者の無過失責任を、認むぺぎ所以を、見来った。たゞかくの

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如き理論は.直ちにこれを親行砧の解繹に`裳つることを得ない。けだし民法は、依務者の責任に紅失を要すと`

明言してゐること前述の如くであるが故に,その例外を認むるがためには.上述衡平観念の他に。何等かの法律

構成がなければならない。私はこれを営事者の意息に求め.偵椒者債膀者間に獣示の樅保約束の存するものと解

して、解秤上の途を見出したいと見ふのである。息ふに債務者が自ら履行をなすべき債務を負ふときは,自ら過

失なく履行をなすの貌移がある。他人をして履行をなさしむべき依務を負ふものは,この他人が過失なく履行と

なすべきことを,約するものである。識商が依頼者に釘して、有名な某粛家をして塵識を描かしむべきことを約

したときは、その某粛エが退失た<履行すべきととを、約するものである。繰沢して言へば,自らの履行を約す

るものは、自らの過失なき履行を約するものである。他人をして履行をなさしむることを約するものは.その他

人が過失な(履行することを»約するものである。而して»通常起る場合の如くヽー~最初からは一定してゐな

い所のーー舗助者によつてなさるべき履行を約するものは、その履行をなさしむる者が過失なく屈行をなすこと

を、約するものといはねばならない。(註12>

いひかへるたらば、常事芥の意想は、他人をして履行をなさしむる

債務者は、その他人が過失なく履行すれば貨を免れりとれに反し.その他人の屈行に過失があったならば、自ら

その貨に任する、といふにあるのである。(註13)も一っ明瞭に言ふならば、債務者は、自ら履行のために使用す

ることあるべき柿助者の過失につき、自己の過失に於けると同じく責を負ふ者の`獣示の飯休約束をなすものな

のである。だから柚助者の履行が過失なく行はるればそれでよし‘萬一補助者の過失のため債務が不履行に餡つ

判例に映ろ民法

(九一デ)

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第四十九巻

第一賊

(九四[)

九四

たならば,自分には過失がなくつても.この欺示的約束に基づいて≫自己の過失に於けると同じ範同の,資任を

負はなければならないものである、と私は考へるのであるo

五.以上私は、我現行法の解繹としても、股行補助者の無過失査任が認めらるべき所以を説いた。従来我閻の

學説は勿論かくの如き責任を否認した。(註14)然るに大審院は咋昭和四年に至り.これらの學説を一蹴して、債

務省の無過失責任を認むるに至った。その事件は次の如くである。甲はその帆船を乙に賃貸し、乙は甲の承謡を

得てその腑を更に丙に轄貸した。所が該船は.丙の被用者たる船疫及び船員の過失によつて、坐砿難破し、乙及

丙か甲に負搬する賃貸伯並に轄貸借上の義務履行が不能となった。そこで、甲は乙及び丙に釘して損害賠償を要

求し,原審はとの要求を認めたので.

乙及び丙は次の様な主張の下に上告したのである°帥ち、本件の如く。債

務石がその被用村の過失により雁行不能となった場合に於て、使用者たる偵務者に責任ありとするがためには≫

獨瑞塊に於けスふぃ如き特別規定なき我民法の下に於ては.債務者に被用者の選任監督上の過失のあったことを要

する。然るに原審が、内に船員の選任監督上の過失があったか否かを審碑しないで、その責任を認めたのは不裳

である、といふのが、上告人等の主張である、然るに大審院は次の如き理由の下に,この上告を棄却して,原審

の態度を是認したのである。「債務テ負揃スル者ハ、契約又ハ法律二依リ命セラレタル一定I注意I下―-.

ソl給

付タル行為プナスヘキ義務ァルラ以テ。債務者ヵ情務ノ履行二付キ・ソノ義務タル注意テ雫竿、ンタルャ否ャハ、綿

テ債務ノ履行タル行為テナスヘキ者ニッキ之ラ定ムヘク.従テ‘債務者ヵ債務履行ノタメ他人ラ使用スル場合ニ

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コノ外ナ*盲ソノ他人テ

使用シテ債務ノ履行テナサシムル節園二於テハ、被用者ラシテソノナスヘキ履行=一伴ヒ必要ナル注意テ盛サシム

ァッテハ、債蒋者ハ、自ラソノ被用者ノ選任監督ニッキ過失ナキコトテ要スル^勿論.

ヘキ資テ免レサルモノニシテ、使用者タJV債務者ハ、ソ/履行ニッキ被用者ノ不注意ョ

lJ生・ンタル結果=二5

シ.

憤務ノ履行=一闘ス庄一切ノ責任テ同造スルコトテ得サルモノト云ハサルヘカラス°竿皿,債務者ハ被用者ノ行為ラ

利用シテソノ偵務テ履行セムトス5

バモノニシテ‘

コノ範園円二於ケル被用者ノ行為ハ帥債務者ノ行総ソノモノニ

外ナラサルテ以テ,アリo(註15)」この判旨3

いび娼しには。まことにあきたらない所がある°殊に終りの、「憤務者

ハ被用者ノ行為テ利用シテソノ債務テ股行セントスルモノニシテ」以下は、全くあいまいな物のいひ方であって.

こうした大きなしかも新らしい間図の解決に導く推論としては、何としても滴足か出来ない。しかしながら、そ

の全般を任細に熟讀するときは.私の所謂伍窃者の獄示的搬保約束を以て.使用者たる債務者の無過失賓任の板

拙としてゐるやうに≫見受けられる,もしそれとすれば,

テクニックとしても誠に結構であつて、満腟の替意と

をしまぬ阿である,ともかく大審院が,補助布の過失に野する使用者たる債務者の無過失責任を認めやうとした

努力には.そ0

テクニックの巧拙を問はす、衷心敬意を表するも0である。小町谷氏が大審院のこうしたテクニ

ックにあきたらすとし、衡平上かくの如き責任を認むべき所以を高唱して居られることは、(註16)既に前に述ペ

た如く、同感であるけれども。この解繹上の根披を第四一五條に求め、而して同條は過失主義を採ったものでは

たい占してをられることには.今にはかに賛意を表することが出来ない。

判例に映ろ民法

(九五)

九五

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第四十九倦

第一駆

(九六)

1

最後に傍誨として注意してをきたいことは.轄借人が船是以下をして船を運轄亡しめた行腐は.轄借人の債務

履行行岱でなくて、利用行偽に局すべきものであり.従つて債務者がその履行補助者

(Erfiillungsgehilfe)

の過

失について責を負ふことを是認するとしても、

この資任を利用補助者

(Ausiibur,gsgahilfe)

にも及ぼすがために

は。何等かの推論を要するものではあるまいか書といふ疑問についてである。(註17)しかしながら.かくの如き

ほ大きな誤解であつて。履行

(Er;iilJung)

..lJいふ観念には.義務を完全に解泊せしむべき最終的行為(例へば賃

借物返還行総)のみならす,義務に基づいて偵務者に屍するところのすべての行動.例へば質

t又は哲借人の有

する物の保管義務の途行の如きも亦、履行の観念に入るものである。(註18)従って.本件の場合に於ける糾是船

員も亦`轄借人の履行補助者なのであつて、決してこれと意義を異にする所の利用補助者と桐すべきものでなく.

、、、、、

従つて、この貼大審院が何得属別をなさすして畜轄借人の責任を直ちに履行補助者の過失に野する無過失責任の

珂に求めたことは、全く正常であって畜何等批難に賞らないのであるo

(註1)

Titze, Recht der Schuldverhaltnisse, 3 Aull. s. 58.

本稿「憤械の不可侵性」の節参照

v. Tuhr, Allgemeiner Tei! des Schweizerischen Ob!igationenrechts. II. s. 519 f;

Titze, a, a. 0. S. 58

(註2)

(註3)

(註4)

] ors, R , omisches Recht, S. 166. Enneccerus, Recht der SchulJverhaltn¥sse, 27 Aufl. S. 141•

Anm, 1.

(註5〉

Enneccerus, a. a. 0. S. 141. Anm. l.

G

註6)

Vgl, Jors, a. a. O. S. 166.

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(註9)

(註10)

(註ll)

(註12)

(註13)

(註14)

(註15)

(註16)

(註17)

(註18)

(註7)

(註8)

Vg!. Jors, a. a. 0. S. 169.

L. 13言D.19. 2; L. 12~1

D. 13, 6; L. 65 pr. D. 7. I ; L. 4

0 u. 41 D. 19. 2.

Ehrenzweig, System de, allgemein~n

Privatrechts 2. S. 273 ff.

鳩山博士盲

H木債構法続論一六

O頁以下

Titze, a. a. 0. S. 59, v•

Tuhr. a. a. 0. S. 520.

Enneccerm, a. a. 0. S, 142. u•

Anm.4.

Ehrenzweig, a. a. 0. S. 27:f.

石坂博文

EJ本民法一硲四五四頁、鳩山博士前褐一六

Q且

昭和四・三・――

-O・民三‘集入倦六戟=11-1~111

直‘その評繹法學協會雑誌第四十入倦第五撃一五一頁以ド(小町谷操

w氏)

小町谷氏前撚評繹一五三真以下

小町谷氏前揖一五三頁以下

Enneccerm, a. a. 0. S. 144, u. Anm. 10.

一、債梱に不可佼性ありや否ゃ.いびかへれば、依櫂の侵害による不法行為なるものありや否や庄一般不法行

II

債椛の不可侵性

為の要件を定めた所の|ー心につて我民法七

0九條に賞る所のーー獨逸民法第八二三條第一項中所謂9

)

das E'g~n

,

tum oder ,'ein sonstigcs Recht"の範国に開して、又瑞依努法第四十一條第一項に闊して、論傘ぜらるる所であるo

これを消臨に訣しやうとする論者(Titz~,

0 g tmann, Dcrnburg, v. Blume)は‘債椒はたゞ債椒者依務者間にのみ

封例に映る民法

(九七)

九七

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第四十九怨

第一戟

(九入)

九入

効力あるものであつて"第三者の債椒侵害なることは、概念上不可能であると.する。卯ち。第三者が慣務の目

的物や債務者の身閤の侵害によつて,債務者の履行を不可能ならしむることは、勿論あり得るけれども•これが

とりも直さす、偵櫂の侵害であるといふことは,いび得ない。けだし。債務者の身骰や、偵務目的物を毀損しだ

第三者は、銭務者の人身椒や物椒の侵害者として~不法行為の資任を負搬するけれども`自己に討して義務履行

を請求し得ざる偵椒者に鉗しては、何等の不法を励くものではない。従つて債横者はこの履行不能の結果≫債務

者を責めることは出来ても≫第三者の不法を責め得べきではない、といふのである。(註l)

これに到して、積棒詭を主張する者(Cosack,Kipp, v•L邸zt,Kuhlenbeck)は`債務の目的物や債務者の身閤に

、、

副する侵害によつて、債務の履行が妨げられた以上.それが債椒の侵害でなくて何であらうとし,

Cosackのやゆ

してゐるが如く"憤椒なるものは、債椒者債務者間の郊力であるから≫第三者の債櫂使害なるものはこれを考ふ

るを得す≫といふが如きは、人は不滅のものなるが故に、これを殺害するが如きは概念上不可能である.といふ

に等しい、としてゐる。(註2)而してこれらの設の背穀をなすものは≫近代に於ける債構の重要性であり、債櫂

保護の緊要性である。かうした南者の間に立つて、例外の場合にのみ.第三者の債椒侵害を認めやうとする學者

も亦、その数少しとせぬ(Planck,E:mecceru0, Schollmeyer, Crome, Hellwig, Otto, Goldmann, Dume-hen `

Ebbecke, v, Gierke)。そのいふ所を見れば、特別規定に基いて、.第三者が債椛自閲を侵害し得る場合.特にこれ

を消滅せしめ得る場合(こ4

に得るといふのは

konnenの意味であつて

d日fenを指すものではない)、にのみ、

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債櫂侵害がある、例へば.謀渡人が譲渡を知らざる債務者より.故意又は過失によつて支彿を受け.或はその債

務を免除した場合≫無記名讃券又は免責證券の無棚限所持者が、故意叉は過失により債務を取立てた場合.その

他これと同様の例外の場合にのみ.偵椒侵害による不法行為が存在する.と考へる。(註3o)

獨逸大審院は消認設

を支持してゐるが。誤渡人による依椒取立の場合に窮して.誤渡に甚づく有因契約元混細賣買)より生する契約上

の責任であるとするのテクニックを用ぴて.その破綻をつくらつてゐるのである。(註4)

我園に於ては、この問題は過去のものとなり終った。學説に於ては付て.有力なる學者(石坂、松本,岡松諸

氏)が消膨説を唱へ、また折衷説を主張する論者(川名博士)もないではなかったけれど、大正四年に至り、大

審院がその従来の態度をひるがへして積棒設をとり、「荀モ椒利タル以上.皮尉ノ規定ナキ限リ、共ノ種類如何ラ

問ハス、総テ野泄的性質'~不可侵性ーーテ有ス」として、従て、故意過失により違法に依椒を侵害した者は,

民法第七

0九條にいふ不法行為者として、損害賠償の責を有す.と判決して以来丘註5ご學説.判例相協力して、

これが主張を,もりそだてて来たのであった(學説に於いては、宮井.平沼.菱谷、鳩山.園野.二上、池田.

末弘•中島.磯谷、遊佐、平野,吾妻諸氏°判例に於ては,大lE七年十月十二日民録二四輯一九五四頁,同十一

年八月七日大判.新聞二

0四

0眺ニ―頁)。時と共に盆々その優越性を加へつつある債椒闘係.近代人の最も重要

な財産櫂である所の債枷の保護を、物梱は野批櫂であり憤椒を尉人椒であるといふ,

ローマ法以来の獨断的概念

構成によつて畜拒否することの.如何に時代に逆らふものであるかを知るとき、この大審院の態度と學説の趨勢

判例に峡ろ民法

(九九)

九九

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(100) 100

とを。誡に妥鴬なるものとして,賛意ををしまぬ所である3

なるほど、物械は物に野する直接の支配力であり.

従つて特定の相手方をもつてゐない。これに反して、債織は特定の偵務者に討する請求椒である。しかしたがら

かく言ふのは、各櫂利の内容についてであつて、この内容が如何に保護せらるべきかは、問題が別である。物構

が物の直接支配力である結果.物椒のこの内容を保設するがためには、物櫂が第三者の手によつて侵害せられた

場合に賠償請求椒や回復請求椒やが奥へらるることは.理の常然である°理の常然であるが故に"所謂物椒的請

求檬(di

品licherAnspruch)

の珂論が先づ物標について疲達し、物櫂に固有な請求椒であるかの如くに考へられ

来ったこと,亦敢て怪しむに足りない°所が、債械の内容は、債務者に野する請求であり•第三者に野してその

内容の履行を請求すること髯出来ない。依務者が履行すれば債椒の効用を疲輝せられ.債務者不履行の場合には≫

これに勁する相嘗の制裁を課すれば、それで一應債橡の保調が逹せられる。従つてこの依務者の履行に封する債

椒者の請求櫂が、第三者によつて侵害されることがあり得るか"侵害され得ても,それに野して法律の保譲を

典ふべきやか、近代に至るまで比較的等閑に附せられ、否問題が否定せられてゐたこと、亦怪しむに足りない。

しかしながら、債梱者が第三者に討して.債椒の内容を請求することが出来ない、といふことの結果.第三者が

債椒夫自髄を侵害することはあり得ない.といふの結論を生じない。第三者が努拗者を誘拐した場合.引渡の目

的たる特定物を毀損して引渡を不能ならしめた場合.無記名債椒の證書を横領して辮清を受けた場合。に果して

潰織夫自開の侵害ではないといふことが出来やうか。かく第三者の債椛侵害なるものあり得る以上。これに到し

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て債櫂を保渡すべきや否やは畜理論・上の問題でなく、政策上の問題である。然るに近代法は債構の優越性を腐ら

した。すべての財産は債櫂化せられ、物に野する直接の櫂利夫自開が財産の主要性を形作る時代は,時と供に過

去のものとならうとしてゐる。かくの如ぎ時代にあって、債櫂の不可侵性が物椒に於けるが如く論珂上の要求で

はないの故を以て,これを否認

去らうとするの従来の態度を破つて.大審院が、債椒の効力を大ならしむるの

政策をとり畜その不可侵性を認めて

..

これが侵害を不法行為として、その損害賠償請求櫂を.債椒者に輿へたこ

とは、誠に時代を知るものの態度であるといはなければならない。(註6)

二」物櫂は野批櫂であって一般人に封抗し得る椒利であり、債櫂は野人椒であつて、特定の偵務者のみに封抗

し得る櫂利である盲

とする一見論理整然たる野立は畜かくしてその基礎の勁揺を生じた。と同時に椒利の不可侵

性なるものが物櫂の専有から,債横にまで及ぼさるるやうになつては.今迄物横固有の請求櫂であると見られて

来た所謂物櫂的請求椒なる忍のも.亦債椒に及ぽされ得るものではないか、といふ議論が次第に頭ともたげてき

た。けだし、債樅の侵害が不法行鶴として,損害賠償義務を寝生する以上.更に進んで.第三者によつて債務履

行の妨害せらるる場合に於て.かくの如き妨害を排除して債務履行の可詣の朕態を請求することが出来る.とい

ふの意義に於ける、妨害排除請求横が債椒者に輿へらるべきではないだらうか、といふ考へは賞然起ら一ゲには居

れないからである,そもそも物檬が所謂物椒的請求椒なるも0によって、その同満なる朕態の回復を計り得ると

されるのは.物繍が何人によつて心侵害するを許ささる効力即ち所謂第三者に四する不可侵請求櫂を有するがた

判例に映る民法

(101) 10

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第四十九脊

第一績

2 01!) 10

めであって.違法に物標を侵害するものあらば、その何人たるやを問はす,これに野して妨害の排除乃至停止を請

求し更に進んで妨害豫防の請求をなすことが出来るのである。果して然らば、今や債椒も亦所謂不可侵性を有す

とし、第三者によるこれが侵害は不法行為を形成するとさるる以上、債柚の違法の侵害に鉗して。獨b損害賠償

のみに廿んすることなく.進んでその妨害の排除を請求し.更に進んで.妨害の生する虞れある場合に妨害豫防

を請求し得るとするのは.珂の嘗然ではあるまいか°況んや。債椒の効力を強固ならしむるは近代法の傾向であ

つて.物椒に臭へらるる上述の保護を債椒にも典ふべき殴質上の理由あるに於て•この問題を積様に決すべき史

に強い根捩を見出すのである,かくて一且債椒の不可侵性の原則を確立した大審院が、更に進んで、この問題を

如何に解決するであらうかは、大正四年以来.學界の興味の中心であった

J

この學界の期待に答へて、先づ大審

院がその態度を表明したのは、第三者による賃借椒の妨害についてであった。(註7)その事質はこうである°甲

が丙より帳専用漁業椒を賃借し≫同漁場に於て漁業をなす椒利を有してゐた所,乙が何等の椒利なく。同漁場に

於て漁業をなしたので

b

甲は右賃借椒確認並に漁業差止の本訴を提起し.且漁業禁止の恨虞分を申請して。その

決定を得た。そこで乙は、甲の賃借椒は依椒に属し排他性なき結果.甲の請求は法律上許すべからす、従つて之

に基つく仮虞分も之を許すべきものでない、と主張したのであるが畜第一審。控訴審共にこれを納れなかったの

で、上告したのである。そこで大審院の言ふ所を見るに、「櫂利者ヵ自己ノタメニ橡利テ行使スルニ際、ン之ラ妨クノ

たモ

J

アルトキ^、共妨害ラ排餘スJV

コトラ得JV^

。梱利ノ牲賀上素ョlJ嘗然=ーシテ.其梱利力物椒ナ.Jv

ト‘債

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橿ナルトニョッテ、其適用テ異ニスヘキ理ナシ」とし.乙岱何等の椒利なきに拘はらす甲の賃借椒を妨害した以

上、北(妨害を排除するため恨虞分の申立をなすのは正賞であつて.これを原審が許してゐるのは決して違法では

たい.としてゐる。かくて大審院は•「櫂利ノ性質上索ヨ

lJ

営然ニシテlといふ文句を以て.棒めてあっさりと軍

従来の難問を片付け'以て、時代と論瑶との要求に應するの態度を示したのである。先づ賃借椒に手を染めて好

評を博した大審院は、それから矢磯早に,この原則を他の櫂利に攘張して行った。賃借櫂に次いで、大窓院の槍

玉にあげられたのは,第三者による占用櫂侵害の場合である。(註8)甲は某川堤防敷地及河川敷池に付き、同地

地方長官の許可により「占用椒」を取得した。然るに乙は.何等の椒限たくして,共地●を自己の石置場とした

り畜或はその地上に家屋を所有して、甲の占用椒を侵害した。そこで甲から,土地の使用禁止及び家屋の取彿を

求めて、勝訴に締したといふのが、との事件である。この事件に於ても大審院は゜勇敢にその態度を明かにし.

「何人卜雖,他人ノ椒利テ侵害スルコトラ得サルモノニシテ‘荀モ櫂利タル以上、反到ノ規定ナキ限リ≫北(種類

ノ如何ラ問ハ天鑢テ鉗泄的性質ラ有スルモノニシテ、野世的性質ラ有スルモノハ唯物櫂ニノミ限JV

モノ――非ス°

本件ノ占用櫂モ畜亦一種ノ財産櫂トシテ畜野批的性質テ有スルモノナルラ以テ、之テ侵害シタル第三者二封シ≫

侵害プ排除スルニ適嘗ナル行為ラ,求ムルコトテ得ヘキモノトス」と,宣言してゐる

間もなく大審院は.この

態度を土地の管理櫂に及ぼした。(註9)この事件といふのは、甲が自己の寺院の境内地の一部である所の、官有

地の上に使用椒をもつてゐたが、乙は何等の糠原なくその上に建物を所有したので、甲はその建物の取毀牧去を

判側に映ろ民法

(10 ==-)

10:

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第四十九怨

第一戟

20四)

10四

請求して.勝訴となった、といふのである°乙の上告に野する大審院の態度は次の判旨に現はれてゐる。「此ノ使

用椒ハ物椒タルト債械タルトラ問ハぞ不可侵性テ有スルモノナレハ、之テ妨害スル者三詞シ≫其ノ妨害ノ排除

チ請求スルコトラ.得ルモノト謂〈サルプ得ス°」かくて妨害排除議求細といふものが.物櫂の専有物でなく1

従つて所謂物椒的語求横なる名稲を餌親してーーふ瓜椒その他の櫂利にも.奥へらるべきものであるといふ•原則

が確立吐られた°尤も債櫂には物椒の如き排他性がない°従つて.同一内容の敷個の債櫂が同一の債務者につい

て、衰生することを妨げない。従つて、前に債椒を取得した者の櫂利が.後に同一内容の債櫂を取得した者によ

つて.妨害迂られても.妨害排除請求椛を焚生しない筈である。大審院が上逃三個の事件に於て.「何等ノ樺利ナ

キニ拘^ラスL•「何等穂原アク」他人の債櫂を妨害した場合にのみ.妨害誹除請求櫂が褻生する.としてゐるのは。

この貼に闘する深き用意をうかがふことが出来る。ーーただこの際注意を要するは、第三者が債櫂者たる買主を

害する目的で`賣主を誘ふて賣貿の目的物を自己に費却吐しめた場合`或は.演劇會祉が他の演劇會註との競中・

上、あくらつな方法で.後者の抱へてゐる名優を、自己の會社に入祉亡しめた場合.の如きに於ては•更に椒利

濫用の問題が起り得ることであるーー(許10)。

ただかくの如き三個の判決にも係はらす、尚吾人に歿された問題

が存する。その一は.第三者の妨害に故意過失を要するや否やの問題である。そもそも妨害排除請求櫂は.第三

者の債梱侵害に某づく不法行謡上の損害賠償をはなく、妨害を排除して"俵務履行を可能ならしむべき朕態を齋

らすべきことに野する

F

請求梱である。勿論物櫂に於けるが如く、第三者をして債務の内容を買現亡しむる請求

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櫂ではないけれどもーー従つて例へば.物の不法占有によつて,特定物引渡債務を妨害する者に封しては.その

古有を解かしむるを得るに止まり、その物の引渡を請求することは、許されないとはいヘーーその椒利の不可侵

性に基ついて,第三者の妨害排除を請求する櫂利なるの貼に於いては.物椒のそれと何筈異なる所がない。さす

れば、物柚にをける妨害排除請求椒が、妨害者の故意過失を必要とせすとする以上、債横に於けるこの櫂利も亦、

妨害者の過失を要件とするものではないと.論{どることを得ないだらうか。この貼.今後の判例に待つの他ない。

9

吾人に競された問題の二は~債櫂の妨害があったとき.これに到して妨害排除請求横が我生する以上.物櫂にを

けると同じく、妨害の虞れある時にも、妨害の豫防を請求する樺刹

i

が、債椒者に奥へらるべきでは、ないだらう

かといふ,問題である。もしこれを肯定するならば、同盟罷業の防止等に査本家の借るべき武器が壻加される繹

であるが、これを如何に大審院が肯定し‘而もその結果の弊害を制限するために如何なるテクニックを川ひるで

あらうかは、今後に茂された所の、興味深ぎ問題であると、いはなければならない。

(註1)

Enneccerus, Recht der Schuldverhaltnisse 27 A u!i. S. 666 ff. u. S. 667 Anm. 13 u.

14; Titze, Recht der

Schuldverhaltn'sse, 3 Aufl. S. 130. 瑞債務法に付ては

C3er, Das Obligationenrecht S. 2, v•

Tuhr, Allgemeiner Tei! des

(註2)

Schweizerbchen Obligationenrechts I S. 326 f.

Cosack u. Mitteis, Lehrbuch des Illi;gerlichen Rechts I. 8 Aufl. S. 76¥

(詫3)

Enneccerus, a. a. 0. S. 667. u. Anm, Vl. Y. Tuhr, a. a. 0. S. 327.

(註4)

RG. 57 S.

,rn; 59 S. 3~7

; ?:

5 S. 281; 102 S. 40; 111 S. 302.

判例に映る民法

(

1

0¥f1) 1

0*1

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第匹十九魯

第一戟

(10も

10六

G註5)

大正四・三・ニ

0・民二鋒ニ―輯三九玉頁

我妻氏物福法盆現代法學全集20)第二二頁以下、末弘博士恨憐線論(現代法學全集5)第一―頁以下、鳩山博士

H木憤横

(註6)

法総論第五頁以下

(註7)

大正一〇

・10・―五・民絲二七輯一七八頁。その評繹判例民法大正十年度第一四入(末弘博士)

(註8)

大正一―・五・四・民二輯一巻五撃二三五頁、その評繹判例民法大正十一年度―四二頁(末弘博士)

(註lo)

大正―ニ・四・一四・民三輯二怨五戟ニ―

1

一七頁、その評繹判例民事法了八三頁(平野氏)

v. Tuhr, a. a. 0. S. 327.

(註9)

III

混同による他物櫓の消滅

一.我民法は、

ローマ法にならつて。同一物に付き所有櫂及び他物権が同一人に師した時は,其他物櫂は消滅

するといふ、主義をとったが(第一七九條第一項本文)。次いで右の原則を受けて、「但共物又ハ共物椒ヵ第三者ノ

椒利ノ目的タルトキ^此瞑デ在ラス」と規定して≫その消滅せざる例外の場合を規定してゐる。しかしながら,

我民法が.混同があれば畜

一方の櫂利は甜滅に蹄するといふことを,原則とし.然らざる場合を.例外として規

定して居ることは`直ちにこれを妥嘗なる規定であると`することは出来ない。現にドイツ民法の如きは、動産

上の用盆櫂は所有櫂との混同によつて消滅すとし(第一

0六三條)≫叉質椒も所有椒との混同によつて消滅すると

規定(第―二五六條第一項)ーー!勿論この場合にも.所有者が質椒の存績につき正賞の利盆を有するときは.質椒

は消滅せざるものとす、との但害を樅いてわる貼(同條第二項

y立法者の用意を伺ふことが出来るー|してはゐ

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るけれども•最も重要な他物横である所の•他人の土地に存する椒利については•「土地所有者ヵソノ檬利テ.或

^横利者カソノ土地所有梱ラ、取得スル

l

一ョッテ‘消滅スルコトナシ」、と規定して、土地の上に存する他物檬は、

その所有樺との混同によつて、消滅することなき旨を、明かにしてゐるのである(八八九條),獨逸民法が,かく

の如ぎ規定を有することの宵盆は、近代盛んになりつつある抵嘗椒取引に於いて•特に強く現はれる°卯ち一方.

所有者が一番抵嘗構を取得した場合に、その二番抵常横者の順位昇進を妨ぐる勘に、大きた恩恵を受けると共に。

他方≫尚茂存する抵常椒を第三者に謀渡したり.或は抵嘗横付の所有椒を譲渡して`その抵嘗椒は依然自己に保

留して置く.といふやうな事が出来て、所有者の、ために受くる利盆ぱ僅少ではないのである。(註l)然るに我

民法が、事政に出です、消滅する場合と消滅亡ざる場合とを、原則例外の闘係に於いたため、第一七九條の規定

を文字通りに解するときは、次の二つの軍大な難閻に遭遇するのである。その一は、所有者が抵嘗椒を取得した

が、これをそのま4存績迂しめて.或はこの抵賞椒付の債椒を第三者に濃渡したり‘或は抵富梱付の所有樅を第

三者に譲渡してその抵霜椒は自己がとれを保留してをとう.といふ場合である。か4

る場合.抵富椒を一且消滅

するものとし,後再びこれを設定するを要するといふが如きは、迂遠も甚だしい。かくの如き場合には"原則は

これを撰張的に解繹し.例外はこれを縮少的に解すべし、

といふが如き主張を排して、所有槻及び他物梱は混同

によつて消滅するといふ規定は、混同があれば二つの資格が併存すべぎ必要がないといふ≫通常の場合を見て殴

けられたものであつて。その必要のある場合には、この規定の適用を受くべきものではなく、二櫂が同一人に鯰

判例に映る民法

20さ10~

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第四ヤ九巻第一.臨

(10八)

10<

することによつて、雨者とも消滅しないのであると畜解しなければならい。(註2)第一七九條を文字通りに解繹

すろことの遭遇する難貼は.「共物又ハ共物椒力第三者ノ椒利ノ目的タルトキハ」必ず共他物梱は消滅せざるか`

の問題である。この間に答へたのが印ち.次に掲げようと111心ふ所の判決なのである。(註3o)

二,事賓はこうである。

mば丙農工銀行に野する債窃のため,共所有不動術の上に一番抵常椒を股定し、次い

で乙に釘する偵務のため`同一不動南上に二番抵嘗靡を設定した。其後乙は"甲よりその不動産を抵嘗椒付きの

まぷ旦取り、その位登記を純たので.自己の抵嘗樹賓行のため`抵営不動産の競賣を巾請し.裁判所も之を許し

キ」"鼓賓開始の決定をなした)所が甲はこれに到し畜乙の抵常椒は賣買と同時に混同によつて硝滅したものであ

ると主張し"それが第一審.抗告審を紆て、将抗告となったのが•本件なのである。この貼に闘して大審院は次

の如く言つてゐる。「現行法ハ所有轍卜他ノ物櫂トカ同一人二緯シタルトキハ後者ハ混同ニョリ消滅スルノ主義ラ

採リ≫唯此ノ開則プ貫クトキハ不賞ナル結果ラ生スルノ虞レアルトキニ於テノ:、例外トシテ右ノ他物椒テ以テ

消滅セサルモノトナスま一過キス」

J

だからして,二番抵嘗様の他に更に一―一番抵嘗櫂を有するときは.絃に始めて右

の二番拡嘗糠は前記法條の適用上その消滅を免るるものであるけれども•この事件の如き場合に於ては、右例外

の適用を認むべぎ珂由がない.としてゐる。民法第一七九條第一項但書をその文字のま4に解するときは.本件

の場合にもその適用があり、相手方の二番拭営椒は消滅しないかのやうであり,従来も亦かく解されてゐたので

あるが.本件の如<.二番抵賞梱が消滅すとしても消滅せすとしても.

一番抵賞椒者並に二番抵嘗椒者に≫何等

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の痛痒なき場合にあつてはn

二つの資格が並存する必翌がない場合にはその―つの資格は消減する.といふ原則

に立戻つて.本例外の適用を受けない.とした大審院の態度は確かに正しい。たゞかく例外を閥眼的に解すべし

とする常道を無咽に振りかざして.原則を常に緊張的に解しやうとするのは、本條の場合にあっては特に、危歳

であることさきに述べた通りであつて.他物械の消滅すると否とを原則と例外との闊係に撻いた民法の鋏陥を補

ふためには。原則規定例外規定の解繹上の常道を墨守することなく。雨者を柑並び存する規定として盲これが適

用の標準を.常に「二資格並存の必要ありや否や」に求むべきことを、絃に繰返して注意してをきたいと思ふの

であるo(未完)

(註1)]•

Gierke. Sacherrecht, 2 Aull. S. 44f.

我妻氏物横法、現代法翠全渠20}入二頁

昭和四・一・――

-O民集入巻一戟四―頁、その評繹法學協會薙誌第四十入倦第一競

1

六一頁(末弘博士)

(註2)

(註"竺)

判例に映る民法

(

1

O·~)

10九