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発達障害のある学生の支援
Niigata-Univ. Nagasawa-Labo.
合理的配慮と新潟大学の取組
1.特別な支援を必要とする 学生
発達障害、 二次的な問題・二次障害
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
発達障害特性 <主な発達障害>
LD:学習障害 ADHD:注意欠如多動性障害
ASD:自閉症スペクトラム ID:知的(発達)障害
「発達障害」でなくても、困難さを抱える子どもが存在する
LD ASD
ADHD
ID
学習の困難さ 対人関係の問題 行動上の問題
二次障害
2E
大人の場合、二次障害になっているかもしれない
主な発達障害 • 学習障害(LD)
– 知的な遅れは見られないが、読み書き計算に困難さを示す
• 注意欠如多動性障害(ADHD) – 不注意、多動、衝動性を示す、行動抑制の障害
• 自閉症スペクトラム(ASD) – 対人関係など社会性の困難さと、こだわりなどの同一性保持を示す
• 知的障害(ID) – 知的発達の全体的な遅れ、適応行動の遅れ
2E:Twice Exceptional Children 高い能力と発達障害特性のある子ども
• 優れた能力と、(発達)障害特性の二つを備えている
• どちらかの能力が他方に隠れていることがある – 優れている子どもに見えるが、学習障害特性がある
– できない子どもに見えるが、優れた能力を発揮できていない
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
「できる」ように見えても、問題を抱えている子ども
2E(Twice Exceptional) • 高いIQ、しかし学力が高いとは限らない
• 自己管理の弱さ、劣等感
• 不適応、二次障害
• まずは自己理解から
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
隠れた学習障害(2E) → 学習支援の必要性
要領の悪さ。失敗経験、いじめ
不登校、引きこもり、生徒指導上の問題など
自分を知り、合理的配慮を受け入れる・主張する
通級指導教室の活用、検査の実施、UDLの適用
発達障害特性・二次的な問題・二次障害
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
虐待 生活習慣の乱れ
共依存
貧困
親のうつ 不安障害
パーソナリティー障害
発達障害特性
二次的な問題
学力不振・不登校・いじめ・問題行動など
二次障害 RAD、非行、精神疾患
学習困難・行動上の問題・対人関係の問題
学校対応
専門機関対応
二次障害 • 選択性緘黙(不安障害)
– 特定の場面でしか話さない • 気分障害(うつ)、双極性障害
– 気分の極端な落ち込み。「躁」にも気づきを • 窃盗症(クレプトマニア)
– 指導ではなく「治療」が必要 • 身体醜形障害
– SNSの普及で拡大(?) • インターネットゲーム依存症
Niigata Univ.-Nagasawa Labo. 複数の目で実態把握。専門機関の介入を
二次障害 • 適応障害
– ストレスに対応できなくなっている「風邪」状態 • パーソナリティー障害
– 境界性:見捨てられることの不安 – 演技性:注目されたいがために・・・ – 反社会性:共感性が乏しく罪の意識を感じない
• PTSD – 強い恐怖体験 → 恐れ、身体的反応
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
複数の目で実態把握。専門機関の介入を
ちょっとまとめ • 発達障害そのものが問題ではない
– 特性に対応し、適切な支援で健全な成長 • 特性+後天的要因により二次障害へ
– 虐待、親のうつ、いじめ、貧困、災害など – 自己肯定感の低下・未熟さ、依存性 – 不安・緊張・抑鬱・怒り・被害感など
• 二次障害は専門機関中心に対応 – 学校は予防的対応
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
斎藤(2014) 発達障害の診断と、特性の原因把握は容易ではない
2.特別な対応の前に
すべての学生に必要なこと
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
(1)自己肯定感を高めるかかわり
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
注目する
共感する
認める
ほめる
自己肯定感 ↓
自分を好きになる
子どもに関心を示し続ける
聴く、受けとめる、理解する
当たり前・ 悪くない状態
成功体験 できることから始める
(2)自己決定を支援するカリキュラム
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自己管理
自己解決
自己主張
自己理解 自分の特性や能力を知る
自分を客観視する 自分にあった進路をきめる
学習活動の自己管理 学習内容の自己評価
(事例:後述)
問題への気づきと解決の意志 解決方法を知り、実行する 結果をふり返り評価する
自分の気持ちや意思を、ことばで (社会的に受け入れられる表現で)
相手に伝える してほしいことを訴える
自己決定=自分の職業や将来の生活を自分できめること
自己肯定感
(参考)誰もがわかる授業作り • 授業構成の工夫
• 指示、説明、発問の工夫
• 板書と机間支援の工夫
• 視覚情報や作業・動作の活用
授業の流れを示す、導入の工夫、準備のタイミングの明示
簡潔化、具体的、肯定的表現、活動がイメージできる表現
きれいな黒板、分割法、机間支援と一斉支援・個別支援
視覚的手がかり、「見て→読んで→書く」、作業動作で集中
くわしくは長澤研究室HP →特別支援の資料→「資料」→UDL
小中高等学校
3.合理的配慮
障害者差別解消法施行にともなう 特別な支援
Niigata-Univ. Nagasawa-Labo.
障害者差別解消法
1. 基本的な考え方 – 法制定の背景:障害者の権利条約の批准、障
害者基本法 – 基本的な考え方:共生社会の実現、地方での条例制定(新潟市条例・主旨)
2. 行政機関、事業者の役割 – 法の対象:3種障害、社会的モデル – 不当な差別的扱い:排除する差別
資料 官報
合理的配慮不提供の差別 正当な理由なく
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① 不当な差別的対応の禁止 ② 合理的配慮の不提供の禁止
国・地方公共団体等
民間事業者 義務
国・地方公共団体等
民間事業者
義務
努力義務
障がいを理由とした差別の解消 新潟市条例参考資料より
する差別
しない差別
公立学校は法的義務
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○ 「障がいがある」という理由だけで、 【例】・スポーツクラブに入れないこと ・アパートを貸してもらえないこと
「障がいがある」という理由で、障がいのない人と違う対応をすることは、差別
不当な差別的対応の具体例
○「障がいに関連する事由」を理由として、 【例】・車いすだからといって、お店に入れないこと ・タクシーや飲食店などで、盲導犬の同伴を 断られること
新潟市条例参考資料より
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【例】 ・(耳が聞こえないのに)聴覚障がいのある人に 声だけで話す ・(文字が読めないのに)視覚障がいのある人に 書類を渡すだけで読み上げない ・(難しい説明がわからないのに)知的障がいの ある人にわかりやすく説明しない
「合理的配慮の不提供(=合理的配慮を行わないこと)」は、差別
合理的配慮の不提供の具体例 新潟市条例参考資料より
合理的配慮とは • 障害のある子どもが、他の子どもと平等に 「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの(文部科学省)
Niigata-Univ. Nagasawa-Labo.
障害のない学生と、同じスタートラインに立つための支援
公立学校は法的義務(新潟市は民間事業者も法的義務)
合理的配慮の例 • 視覚障害
– 代わりに読み上げる、点字、点字ブロックなど • 聴覚障害
– 手話通訳、ランプ点灯によるアナウンスなど • 肢体不自由
– 車いす、バリアフリー、低床バスなど • 精神障害
– 休憩できる部屋・ベッドなど • 知的障害
– わかりやすい説明、視覚支援 • 自閉症スペクトラム
– 構造化、ワークシステムなど Niigata-Univ. Nagasawa-Labo.
感覚の特異性が学校生活に影響(Howe,2016)
発達障害:ICTの積極的活用
• 読み上げソフト、漢字にカナを振る • 情報を制限する:環境構成の工夫、イヤーマフ
• キーボード入力、音声入力、アプリの活用 – 紙と鉛筆による書字からの開放
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
大事なことは「学習すること」「内容を理解すること」 印刷物障害への支援を:タブレット等ICTの活用
特別な支援であるが、結果を保障してはいない
テストの合理的配慮 (Test Accommodation)
• プレゼンテーションの仕方
• 反応の仕方
• セッティング
• 時間延長
読み上げ、手話、点字、仮名ふり(対応業者あり) 、拡大
パソコン、口頭、特別な筆記具、手話
別室(試験場所の配慮)、個別、付き添い
大学入学試験では、すでに実施済み センター試験:診断書+状況報告書(高校)
事例
新潟大学(例)
• 試験時間延長・別室受験(監督者付) • 用紙の拡大印刷 • 持ち込み可の場合:ipad(大学提供)許可 • 試験時の問題文、解答用紙のデータ(特製
USB) • 定期テスト → レポート
合理的配慮と自己決定 • 合理的配慮は障害のある人の権利
– 障害者差別解消法、新潟市条例 • 権利があることを知ること(教える)
– アドボカシー(権利擁護) • 合理的配慮を訴えられるようにすること
– 自己主張、代理 – 周囲の気づきと意志の確認
• 自己決定の力をつけること
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
自己理解 → (セルフ)アドボカシー → 権利の主張 きがねなく訴えられる信頼関係
判断など対応について
• 合理的配慮が妥当かどうかの判断 – 診断書、諸検査の結果、個別の教育支援計画 – 専門家の助言など
• 不服審査 – 新潟市:「調整委員会」で対応(予定) – 「話し合う」ことが重要:話し合いによる合意形成
• 地域連携 – 障害者差別解消⽀援地域協議会
学校では、相談窓口、専門家を入れ対応組織の構築
理解啓発活動を進める
障害者差別解消法
• 障害のある人に対して、差別をしない
• 障害のある人もない人も、お互いを理解し、共に生きる
4.特性に応じた指導・支援
ADHD ASD
Niigata-Univ. Nagasawa-Labo.
注意欠如多動性障害(ADHD) • 不注意
– 不注意、注意の持続の困難 – 聞いていない、物事をやり遂げられない – 順序立てられない、物をなくす、忘れる
• 多動 – もじもじする、座っていられない、高いところに上がる – 静かに活動できない、しゃべりすぎる
• 衝動 – すぐ答える、順番を待てない – 他人を妨害する、がまんできない、ゆっくり活動できない
ADHDとは自分の行動が抑制できない障害
ADHDのウリは?
• 創造性の高さ
• 人助けが好き、行動力がある
• 変化に敏感
• 意外にも・・・
芸術活動、ユニークな意見、発想力の豊かさを評価する
人の役に立つことで自己肯定感を育てる
緊急時に思わぬ力を発揮することも
おっとりしている、好きなことに抜群の集中、正義感が強い
ADHDに求められること
• 自己理解
• 自己管理
• 自己解決
• 自己主張
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
行動抑制の弱さとさまざまな困難、自分のウリ
行動抑制の仕方を学ぶ、実施する、振り返る
解決の仕方を教えてもらい、自分で考え解決する
気持ちを理解し、望ましい態度・かかわり方を学ぶ
自閉症スペクトラム(ASD)とは
1. 社会的コミュニケーション、相互作用の障害 – 社会的感情の相互関係の欠如 – 非言語コミュニケーションの問題 – 年齢相応の社会関係の困難さ
2. 行動の特異性(同一性保持、こだわり) – 儀式的行動 – 常同的な反復行動 – 感覚の特異性 – 興味関心の特異性、狭さ
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DSM-Ⅴによる
ASDのウリは?
• 正義感が強い、まじめ
• 論理的思考、理数系に強さを発揮
• 記憶力が抜群
• パソコンなど、機器関係に強さを発揮
主張の正当性を評価し、対応の仕方を教える
特性にあった進路、活動を勧める
学習や趣味に生かす。みんなの前で評価する
問題行動や困難さへの対応を考える前に、 発達障害のプラスの面を評価すること
ASDに求められること
• 自己理解
• 自己管理
• 自己解決
• 自己主張
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
他者理解の困難さ、自己管理の弱さ、自分のウリ
課題の優先順位など、スケジュール管理。支援ツール
解決の「形」を知り、形に従い問題を乗り越える
SSTやカウンセリングで、人とのつきあい方を学ぶ
ソーシャルスキルトレーニング • 会話の基本的なパターンを練習する
• 今までの経験を振り返り、適切な行動を教える
• 非言語行動を教える
• 「空気」の読み方を教える
会話の始め方終わり方、頷き、「ところで・・・」
自分を客観視できる場合。共感することを忘れずに
視線、姿勢、体の向き 対人距離、しぐさなど
表情の理解、今話題になっていること、対応方法
内面ではなく、行動様式を具体的に教えること Niigata-Univ. Nagasawa-Labo.
指導するときのポイント
• アドバイスは具体的に – ルール化、箇条書きに、数値化する
• できないことより長所をくどいほど伝える • 仲間意識は持たない、気持ちを押しつけない
– 共感性の困難さがあるため • 事実と対策を淡々と指摘する
鈴木(2011) Niigata-Univ. Nagasawa-Labo.
自分が注意したら逆ギレされて被害にあう 警察に通報すれば自分は安全で警察が対処
(参考)自己理解を促す カウンセリング 自分への気づき
Niigata Univ.-Nagasawa Labo. 37
カウンセリングによる対応(例)
想い
根拠
分析 対応
ふり返り
Niigata Univ.-Nagasawa Labo. 38
実行
手続き(1)
• 想いを聴く
• 根拠を尋ねる
• 根拠を分析する
Niigata Univ.-Nagasawa Labo. 39
「自分をどう思う?」「君って、どんな人?」
「どうしてそう思うの?」「そう考えるのはなぜ?」
事実の共有、前提・結果の明確化
根拠を分析する
Aを殴る Aがにらみつけた けんかになる 気分は晴れない
自分は短気ですぐかっとなる
なぜそう思うの?
対応を考える
Aを殴る Aがにらみつけた けんかになる 気分は晴れない
無視? にらみ返す? 言語化?
自分にとって利益にならない
Aの気持ちを聴く 教師がAに対応する
これは事実か? Aとの関係をどうする?
何ができる? どう言えばいい?
けんかには ならないのでは?
Aとの まあまあの関係
手続き(続き) • 実行する
• 結果を振り返る(うまくいった)
• 結果を振り返る(うまくいかなかった)
Niigata Univ.-Nagasawa Labo. 42
きめたとおりにできるように支援する
不快な場面でがまんできる、うまく人間関係が保てる やればできる。短気ではないのでは?
別の方法があるのでは? → 対応再検討
しかし、けんかを回避する努力をした やればできるのでは? 短気ではないかもしれない
5.相談支援体制
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
本人の訴え
• 申し出 • 書面など
代理者の訴え
• 保護者 • 養育者
周囲の気づき
• 教師 • 意志確認
支援会議
(1-1)合理的配慮の意思表示 新潟大学の場合
(1-2)話し合いによる合意形成
合理的配慮の要望 • 根拠(診断書など)
• 以前の個別の支援計画
話し合い • 代替案の提示
• 理由説明
合意形成 • 個別の教育支援計画(案)
• インフォームドコンセント
要望を理解し、できることを提案して合意形成を
新潟大学の場合
(1-3)定期的なふりかえり
支援会議
計画
実行
評価会議
修正・変更
PDCA : 話しあいで評価・確認・修正・変更
新潟大学の場合
6.新潟大学の取組
障がい学生支援部門 (H26~)
Niigata-Univ. Nagasawa-Labo
実践していること(新潟大学)
• 支援会議の開催 – 本人を含めた関係者の話し合い
• 個別支援計画の作成 – 本人のニーズの尊重 – 合理的配慮の保障のための契約書
• 合理的配慮の保障 – 授業中の支援の保障、授業科目の変更、定期的相談、ピアチューター
– 授業者に文書で通知 • 評価会議の開催
PDCAサイクルによる
特別修学サポートルーム
今後の取組など
• 第3期中期目標・中期計画に位置づけ • 大学としての差別の解消の推進に関する対応要領の作成 – 主旨、不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方、具体例、相談体制の整備、教職員への研修・啓発、その他
• 連携、情報収集 – 全国高等教育障害学生支援協議会
まとめ • 発達障害の判断は容易ではない
• 二次障害は専門機関中心に対応 • 合理的配慮は障害学生の権利
• 発達障害の対応はユニバーサルデザイン?
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
困難さへの支援を考え実行。結果から次を考える
大学としての対応組織構築と理解啓発を
多くの学生に使える。ICTの活用は可能性を広げる
障害と決めつけず、困っている学生には「特別な支援」を
長澤研究室
Niigata Univ.-Nagasawa Labo.
http://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/ メールマガジン、特別支援教育・発達障害の情報、資料