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IIC–12–165
直進と回転を分離した運動記述法に基づく電動アシスト車椅子の片手漕ぎ制御
ペイン 孝二∗,金 佳英,呉 世訓,堀 洋一(東京大学)
One-handed propulsion control of a power-assist wheelchairbased on the separation of straight and rotational motion
Koji Payne∗, Kayoung Kim, Sehoon Oh, Yoichi Hori (The University of Tokyo)
Abstract
One-handed wheelchairs are useful not only for people who can not use one arm due to injury or hemiple-
gia, but also for people who want to perform everyday tasks while using a wheelchair. We propose a one-handed
propulsion control system for power-assist wheelchairs that realises straight or rotational motion depending on the
user’s handrim input. This control system realises one-handed operation given the addition of wheel encoders and
controller, without requiring mechanical modifications or special wheelchair structures. The realised one-handed
wheelchair is evaluated experimentally to assess straightness and rotational performance as well as handling.
キーワード:電動アシスト車椅子, 片手漕ぎ, 直進と回転, 人間に優しい制御, 外乱抑制, 片麻痺(power-assist wheelchair, one-handed propulsion, straight and rotational motion, human-friendly control, disturbance
rejection, hemiplegia )
1. はじめに〈1・1〉 研究背景 車椅子は身体に不自由のある人にとって移動手段を提供する重要な福祉機器である。利用者は高齢者や先天的な障害を抱える人だけでなく、事故や病気により足が不自由になった人も含む。少子高齢化につれて車椅子の需要がますます高まっている。その中で、片手漕ぎ車椅子が注目されている。片手漕
ぎ車椅子は片麻痺や事故などにより片手しか使えなくなった人の移動手段となるが、日常生活において片手で作業しながらもう一つの手で車椅子が操作できるため役に立つ。手動車椅子は軽量かつ安価である一方、電動車椅子は
手動車椅子に比べ労力が小さい (1)。その間に入る電動アシスト車椅子は両方の利点を持ち、両腕が健常であり個人用車椅子を求める人にとって適している場合が多い。ハンドリム操作には幾つかの利点がある。人間の力を
測るハンドリムのトルクセンサから得られる情報が多く、路面からハンドリムを握る手へ伝わる情報も多い。また、ハンドリム操作は運動を促し、健康を増進する。従来の片手漕ぎ車椅子は機械構造の原因により重量と
値段が上がるが、制御工学の方法を用いれば重量と値段を抑えることができると考えられる。また、ソフトウェアの高機能と適応性を持たせることができる。
〈1・2〉 本研究の目的 本研究の目的は、電動車椅子とハンドリムの利点を共に活かし、制御工学の方法を用い、片手で車椅子を操作したい人を対象とした人間に優しい片手漕ぎ車椅子を実現することである。その実現には、まず、直進と旋回の操作方法を提供する必要がある。次
に、実用性のために、安全性、操作性、快適性、性能、予算などの評価基準を満たす必要があると考えられる (2) (3)。本論文では、片手漕ぎ車椅子を実現する制御系を提案
する。提案法の主な特徴は、3 節で紹介するように、ハンドリム操作と車椅子の速度に依存するトルク配分方法、そして直進または回転の保持機能である。また、直進と回転の性能を向上させる直進方向と回転方向のトルク外乱オブザーバによる外乱抑制を搭載する。外乱抑制なしと外乱抑制ありの場合の提案法を用いて
基本動作、直進性、回転性を評価する実験を行なった。また、比較対象として、足で旋回を操作する片手漕ぎ車椅子を挙げ、提案法の有効性を評価する実験を行なった。
〈1・3〉 片手漕ぎに関連する車椅子 機械と制御を統合する電動車椅子の例を 2つ紹介する。Watada他 (3)は、片側に二つのハンドリムを搭載する片手漕ぎ電動車椅子を開発した。Yasuda他 (4) は、片側に三つのハンドリムを搭載する片手漕ぎ電動車椅子を開発した。この 2つの例では、操作するハンドリムによって動作(左、直進、右など)が異なる。片手で操作できる手動車椅子の例を 2つ紹介する。株式
会社 TESS (5)は、東北大学と共同で、足漕ぎ車椅子 Prof-handを開発した。足漕ぎで進み、片手側にあるハンドルで旋回を操作する。Track Engineering Pty Ltd (6)は、両側にハンドリムを二つずつ搭載する手動車椅子 TrackChairを開発した。片側の二つのハンドリムを同時に握れば両車輪が結合し、直進が操作できる。同社は、片手で車椅子が操作できれば片麻痺患者だけでなく一般の車椅子利
1/6
表 1 記号集Table 1. Nomenclature.
A アシスト演算 τ トルクB 減衰係数 τh 片手漕ぎトルクd 外乱 ω 車輪角速度J 慣性モーメント �C 共通(直進)成分K 片手漕ぎの直進性係数 �D 差分(回転)成分R 車輪半径 �L 左車輪v 直進速度 �R 右車輪W 車輪間の幅 �̂ 推定γ ヨー角速度 �̃ 推定誤差 � − �̂θ 車輪角度
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�����
図 1 車椅子の寸法と座標を表す鳥瞰図と側面図Fig. 1. Top and side views of wheelchair showing di-
mensions and coordinates.
用者にとって日常生活が便利になることを強調する。ヤマハ JW-II Cタイプ電動アシスト車椅子 (7)は、モー
タが左右の車輪に同じトルクを与えることにより直進し、利用者が健常な足を路面に付けて旋回操作を行なう。しかし、足で旋回を操作することは不便であり、前進中に足が車椅子の下へ引き込まれる危険性があると考えられる。ジョイスティックを操作方法とする電動車椅子は広く使
用され、症状の重い人に適した物である。しかし、幾つかの短所がある。片手で漕ぐ能力が充分ある場合、ジョイスティックを使うと体の機能を更に失うおそれがある。利用者の症状が重くなくても、ジョイスティックを使うと周りの人に症状が重く見られることがある。また、ハンドリムみたいに路面情報や車椅子の運動状態が把握できず、ハンドリム操作の直感性を持たない。
2. 車椅子の実験機と運動モデル〈2・1〉 車椅子実験機 実験機は、ヤマハ JW-II Aタイプ電動アシスト車椅子に複数のセンサと信号処理器を加えた車椅子である。ヤマハ JW-II に既に搭載した各車輪のモータとハンドリムのトルクを測るトルクセンサに加え、車体に対する各車輪の角度を測るエンコーダなどのセンサも搭載する。速度推定のために左右車輪のエンコーダを使用する。〈2・2〉 車椅子の運動モデル 図 1に、車椅子の寸法と座標を表す図を示す。車輪半径は R = 30 cm であり、
車輪間の幅はW = 47 cmである。プラス記号と矢印は、車椅子の車輪または車体がその方向に進む時に値が正になることを意味する。Lと Rは左右成分、Cは共通成分(xL + xR)/2、Dは差分成分 xL − xR を意味する。
3節で紹介する提案法は直進と回転を分離するため、ここで車椅子の運動を直進と回転に分離して解析する。それぞれの成分で車椅子の運動が表現できるように、左右成分のトルクや車輪速度を直進成分と回転成分に変換する必要がある。次の変換式は、トルク τ と車輪速度 ωに適用できる。
"
xC
xD
#
=
"
1/2 1/2
1 −1
# "
xL
xR
#
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · (1)
車輪と路面の間に滑りが生じないことと左右対称を前提に、直進と回転に対する次の運動モデルが得られる。
JCω̇C + BCωC = τC + dC · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (2)
JDω̇D + BDω̇D = τD + dD · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (3)
車輪角速度から直進速度とヨー角速度を得るには、次の変換を用いる。ただし、滑りが無いことを前提にする。
v = RωC · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (4)
γ =R
WωD · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (5)
3. 片側ハンドリムで片手漕ぎを実現する制御系以前、Ohと Hori (8) が直進性係数を用いた片手漕ぎ制
御系を検討し、それに基づいて提案法を新たなに開発した。以前の提案に比べ、次の改善点がある。
•直進性係数 K の範囲(〈3・2〉節を参照):−1までの負の値を持たせることにより、純回転を可能にした。
•回転保持(〈3・4〉節を参照):あるヨー速度に達したら回転を保持させることにより、回転を操作しやすく、素早く回転できるようにした。
•低速直進(〈3・4〉節を参照):直進保持に最短時間を設けることにより、直進操作に急な入力トルクの必要が無くなり、安全な直進を可能にした。
〈3・1〉 片手漕ぎ制御系の構造 図 2に、片手漕ぎ制御系の構造を示す。モータ入力とセンサ情報を用いて外乱トルクの直進成分 dC と回転成分 dD を推定し、外乱を抑制するようにモータ入力へ負のフィードバックを掛ける。また、ハンドリムのトルクセンサで測った利用者の片手漕ぎトルクを増幅し、適切に左右のモータへトルク信号を与える入力系がある。片手漕ぎの実現方法として、係数 K を用いることを提案する (8)。〈3・2〉 入力系と外乱抑制 左車輪に利用者の実際のトルクが与えられている。左右の車輪に同じ大きさのトルクを与えるために、アシストトルクに加えて利用者のトルクを右車輪に与える必要がある。アシスト演算Aは、可変時定数の1次遅れを用いた。車椅子に左右の非対称が存在すれば、左右の車輪に同
2/6
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humantorque
(sensor)
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humantorque(real)
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input system
disturbance observers
wheelchair
K = -1: rotational K = +1: straight
L: left wheel R: right wheel C: common (straight) D: differential (rotational)
図 2 片手漕ぎ車椅子制御系の図Fig. 2. One-handed wheelchair control system diagram.
じ大きさのトルクを与えても車椅子が上手く直進・回転せず、直進性と回転性が劣化する。直進性向上と回転性向上のために、それぞれ差分外乱トルク dDと共通外乱トルク dC を推定・抑制する。左側のトルクセンサ、左右のトルクとエンコーダにより外乱推定を行なった。図 2に示すように入力系と外乱抑制を組み合わせれば、
左右の車輪に対するトルクは次の式のようになる。左右車輪に与えられたトルクは、次の運動を実現する。
• K = −1の場合:トルクが車椅子を純回転させる。• K = +1の場合:トルクが車椅子を直進させる。
"
τL
τR
#
=
"
A + 1
K(A + 1)
#
τh +
"
1 1/2
1 −1/2
# "
d̃C
d̃D
#
· · · (6)
〈3・3〉 直進と回転の操作方法の実現 図 3に関数 K̄の (τ, τ̇)平面上の領域と関数の形状を示す。ハンドリムを緩く漕げば車椅子が回転し、強く漕げば車椅子が直進するように設計した。トルク τ とトルク微分 τ̇ に依存する関数 K̄ を定義す
る。τ と τ̇ が同じ符号であり(象限条件:τ τ̇ > 0)、両方とも充分大きければ(|τ | > τth、|τ̇ | > τ̇0)、K̄ を次のように−1から+1まで連続的に変化させる。それ以外の領域においては、K̄ = −1と置く。表 3に関数 K̄ のパラメータを示す。
|τ̇ | ≤ τ̇0 ⇒ K̄ = −1τ̇0 < |τ̇ | ≤ τ̇1 ⇒ K̄ = 2 |τ̇ |−τ̇0τ̇1−τ̇0 − 1
|τ̇ | > τ̇1 ⇒ K̄ = +1· · · · · · · (7)
〈3・4〉 直進モードと回転モードの保持条件 関数 K̄のみでは直進と回転が上手く実現できない。ハンドリムの漕ぎ方により直進または回転の運動を決定する関数 K̄に加えて、同じ運動で走行し続けられるようにその運動モードを保持する機能が必要である。ここで、表 2に示す保持機能を提案し、表 3に保持条件のパラメータを示す。
� �
���������������������������������������
�
forward
reverse
straight
rotational
-1
+1
図 3 直進か回転を決定する関数 K̄左:K̄ の (τ, τ̇) 平面上の領域、右:K̄ の形状
Fig. 3. Straight or rotational motion decided by function K̄.
Left: (τ, τ̇) plane showing regions of K̄. Right: shape of K̄.
表 2 保持モードとそれぞれの起動・解除条件Table 2. Hold mode activation/deactivation conditions.
保持モード K 保持の起動条件 保持の解除条件
回転 (holdC) +1 K̄(τ, τ̇) = 1 |v| < v0and ∆t > tholdC
回転 (holdD) −1 |γ| > γ1 |γ| < γ0
表 3 関数 K̄ とモード保持に関するパラメータTable 3. Parameters for function K̄ and hold modes.
パラメータ 記号 値 単位トルク微分の閾値 τ̇0 7 Nms−1
holdC 起動のトルク微分 τ̇1 18 Nms−1holdC 解除の直進速度 v0 π/30R ms−1
holdC の最短時間 tholdC 1 sholdD 起動の回転速度 γ1 20 deg s−1holdD 解除の回転速度 γ0 6 deg s−1
K̄(τ, τ̇) = 1になるようにハンドリムを強く漕いだ時に直進モードを保持し、車椅子の直進速度が v0 を下回った時に保持を解除する。一方、ヨー角速度が γ1 を超えた時に回転モードを保持し、γ0 を下回った時に保持を解除する。直進モードまたは回転モードが保持されていれば、利用者が漕ぐ力の加減を気にせずに直進または回転の操作を持続することができるようになる。車椅子を直進させるためには、利用者がハンドリムを
強く漕ぐ必要がある。しかし、ハンドリムを強く漕ぐと、車椅子が前輪浮上したり過剰な速度で直進してしまい、安全性と快適性の問題となる。そこで、直進モードに入れば最短時間 tholdC保持させるように設計した。この工夫は、τ̇ が充分大きくなるようにハンドリムを揺らすことにより低速直進を可能にし、特に狭い場所や周りに人が多い場所において有効である。直進速度の下限は v0 = 3.14 cm s−1
で決まる。4. 実験方法〈4・1〉 実験の種類 提案法の基本動作を確認し、性能、操作性と快適性の評価するために、下記の実験を行なった。
3/6
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top bottom
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図 4 車椅子用のスロープFig. 4. Wheelchair ramp.
•基本動作:前進、90度の時計回りの回転、前進、後進、270 度の反時計回りの回転、前進の純で走行した。ハンドリム操作、モード保持、直進と回転との切り替えなどを確認する。結果に (τ, τ̇) 平面上の軌跡や時系列の結果を示す。
•低速直進:直進モード保持の最短時間機能の導入により低速直進が可能になるかを確かめるために、低速前進と低速後進の動作を行なった。
•直進性:K を 1に固定し、廊下においてまっすぐに走行した。外乱抑制ありと外乱抑制なしの場合に、どのぐらい直線からずれて行くかをヨー角度・距離の比で評価する。(8)でヨー角度・距離の比を計算する。
∆α
∆s=
R/W∆θDR∆θC
=1
W
∆θD∆θC
· · · · · · · · · · · · · · · · · (8)
•回転性:K を −1に固定し、回転し続けられる場所において一方向に回転した。外乱抑制ありと外乱抑制なしの場合に、純回転の良さを回転半径で評価する。(9)でヨー角度・距離の比を計算する。
Rturn =RωC
R/WωD= W
ωCωD
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9)
•車椅子用のスロープ:図 4に示す実際の車椅子用のスロープにおいて実験を行なった。直進と回転のみで車椅子用のスロープが使用できるか、そして傾斜上における操作を確かめる。
〈4・2〉 比較対象 次の制御系で実験を行なった。•提案法(外乱抑制あり):3節で説明した提案法。•提案法(外乱抑制なし):3節で説明した提案法であるが、外乱抑制を無効にした制御系。外乱抑制の直進性と回転性への影響を比較するために用いた。
•片足旋回系(従来法):片手漕ぎにより直進できるように K = 1 に固定し、利用者が足で路面を蹴ることにより旋回できるように外乱抑制を無効にした制御系。
5. 実験結果〈5・1〉 提案法の基本動作 図 5に外乱抑制ありの場合の提案法による直進と回転操作の実験結果を示す。1.8秒、8.7秒、12.9秒、21.5秒のように停止した状態からハ
0 5 10 15 20 25 30200
100
0
100
200
time (s)
spee
d (d
eg/s
)
0 5 10 15 20 25 30
50
0
50
time (s)
hum
an to
rque
(N m
)de
rivat
ive
(N m
/s)
0 5 10 15 20 25 301.5
10.5
00.5
11.5
time (s)
K
commonyaw rate
torquederivative
図 5 提案法の基本動作の確認Fig. 5. Basic movements for proposed method.
20 15 10 5 0 5 10 15 20
60
40
20
0
20
40
60
torque (N m)
torq
ue d
eriv
ativ
e (N
m/s
)
20 15 10 5 0 5 10 15 20
60
40
20
0
20
40
60
torque (N m)
torq
ue d
eriv
ativ
e (N
m/s
)
図 6 閾値を示すトルク (τ, τ̇) 平面上の軌跡左:直進操作、右:回転操作
Fig. 6. Torque (τ, τ̇) plane trajectories with thresholds.
Left: straight operation. Right: rotational operation.
ンドリムを強く漕げば、直進性係数 K が +1になり、車椅子が直進する。トルクの波形を示す中心のグラフを見れば、トルク微分値(緑)が±τ̇1 = ±18Nms−1(赤)に達すると K̄ が 1になり、直進保持が起動する。
5.5~7.0秒と 16.8~19.2秒のように停止状態からトルクをゆっくり入れれば、車椅子が回転する。ヨー角速度が γ1 = 20 deg s−1 に達すると、回転保持が起動する。図 6 に (τ, τ̇) 平面上の軌跡を示す。赤色の線は、トル
ク不感帯と直進性関数 K̄ の閾値を示す。一般的には、直進操作ではトルクが大きく、回転操作ではトルクが小さい。しかし、直進または回転のモードが保持されていれば、どのトルクで操作しても車椅子が同じ動作を行なうため、(τ, τ̇)平面上の軌跡が閾値どおりになるとは限らない。〈5・2〉 低速直進 低速直進の操作による結果をに示す。0.5秒に直進保持が起動し、その後の tholdC = 1秒以内に直進速度が直進保持の解除速度 v0 = 3.14 cm s−1 を超えるように車椅子が前進する。同じように、7.6秒に直進保持が起動し、その後の tholdC = 1秒以内に車椅子が後進する。〈5・3〉 直 進 性 図 8に外乱抑制なしと外乱抑制ありの場合の直進操作の実験結果を示す。ヨー角度・距離の比は走行開始後の 4秒ほどで定常になり、人間のトル
4/6
0 2 4 6 8 10 12100
50
0
50
100
time (s)
spee
d (d
eg/s
)
0 2 4 6 8 10 12
50
0
50
time (s)
hum
an to
rque
(N m
)de
rivat
ive
(N m
/s)
0 2 4 6 8 10 121.5
10.5
00.5
11.5
time (s)
K
commonyaw rate
torquederivative
図 7 提案法(外乱抑制あり)の低速直進の確認Fig. 7. Check of slow straight motion for proposed
method (with disturbance rejection).
0 2 4 6 8 10 12
20
15
10
5
0
time (s)
yaw
ang
le (d
eg)
0 2 4 6 8 10 125432101
time (s)
yaw
dist
ance
ratio
(deg
/m)
0 2 4 6 8 10 12
0
20
40
60
time (s)
torq
ue (N
m)
humancommondifferential
0 2 4 6 8 10 12 14
20
15
10
5
0
time (s)
yaw
ang
le (d
eg)
0 2 4 6 8 10 12 145432101
time (s)
yaw
dist
ance
ratio
(deg
/m)
0 2 4 6 8 10 12 14
0
20
40
60
time (s)
torq
ue (N
m)
humancommondifferential
図 8 直進性の実験結果左:外乱抑制なし、右:外乱抑制あり
Fig. 8. Experiment results of straight operation.
Left: without disturbance rejection.
Right: with disturbance rejection.
表 4 直進性の実験から得たヨー角度・距離の比Table 4. Yaw-distance ratios obtained from experiments.
外乱抑制 ヨー角度・距離の比(degm−1)
なし −2 ± 0.5(走行時)、−3.1(停止時)あり −0.1 ± 0.2(走行時)、−0.2(停止時)
クが無くなり車椅子が減速に入ったら一定値に収束する。表 4に直進性性能の結果を示す。外乱抑制ありの方で
はヨー角度・距離の比が時間に連れて減少するように見え、1mにつきヨー角度が−2度ずつ増える外乱抑制なしの方より直進に走行する。〈5・4〉 回 転 性 図 9に外乱抑制なしと外乱抑制ありの場合の回転操作の実験結果を示す。まず時計回りに車椅子が回転し、約 15秒後に半時周りへ方向を変える。時計回りと反時計周りの時にそれぞれ約 75 deg s−1 と約
0 5 10 15 20 25 30200
100
0
100
200
time (s)
whe
el s
peed
(deg
/s)
0 5 10 15 20 25 3010
5
0
5
10
time (s)
turn
ing
radi
us (c
m)
0 5 10 15 20 25 306040200
204060
time (s)
torq
ue (N
m)
commondifferential
humancommondifferential
0 5 10 15 20 25 30
100
0
100
time (s)
whe
el s
peed
(deg
/s)
0 5 10 15 20 25 3010
5
0
5
10
time (s)
turn
ing
radi
us (c
m)
0 5 10 15 20 25 306040200
204060
time (s)
torq
ue (N
m)
commondifferential
humancommondifferential
図 9 回転性の実験結果左:外乱抑制なし、右:外乱抑制あり
Fig. 9. Experiment results of rotational operation.
Left: without disturbance rejection.
Right: with disturbance rejection.
表 5 回転性の実験から得た回転半径Table 5. Turning radii obtained from experiments.
外乱抑制 方向 回転半径(cm)
なし 反時計回り −5 ± 4時計回り −1 ± 4
あり 反時計回り +0.3 ± 2時計回り −1 ± 3
85 deg s−1 の平均ヨー角速度を得た。表 5に回転性性能の結果を示す。外乱抑制なしで反時計
回りの場合には最も大きな回転半径が見られたが、基本的には外乱抑制の導入による回転性の向上が著しくない。〈5・5〉 車椅子用のスロープ 図 4に示す車椅子用のスロープにおける、片足旋回系と提案法(外乱抑制あり)による実験結果について説明する。片足旋回系と提案法ではそれぞれ約 20秒と約 30秒でスロープを上った。片足旋回系では、直進しながら旋回できるため、提案
法よりスロープの上まで早めに到達できた。旋回の時に30 deg s−1の平均ヨー角速度を得た。しかし、足への負担が大きく、旋回する時に減速する必要があり、スロープの旋回が困難だった。提案法では、直進→停止→回転→停止→直進の操作が
必要であるため、片足旋回系より時間が掛かった。しかし、重力の影響を受けず、傾斜上での停止も可能である。傾斜上においても直進と回転に変化が感じられなかった。
6. 考 察〈6・1〉 外乱抑制の効果と問題 提案法に関して、外乱抑制は次の重要性と利点を持つ。
•傾斜上における使用:本論文で提案する制御系では、傾斜の方向に車椅子を向けた状態で一定のハンドリムトルクで車椅子を停止させようとすると車椅子が回転してしまう。重力の影響を抑えてくれる力、ま
5/6
たは停止状態でも直進を保持する方法が必要である。•直進性向上:より遠距離まで直線を沿って走行することが可能になる。
しかし、外乱抑制の影響により、次の問題がある。•指数関数的な動特性:外乱オブザーバに用いたモデルは 1/(Js + B)といった伝達関数の線形時不変 1次モデルである。従って、制御系は指数関数的な動特性を持たせるため、自然停止の所要時間が長く、車椅子の動特性が不自然になる。図 5に示す共通車輪速度の約 23秒からの応答でその現象が見られた。
•衝突に関する危険性:制御系は衝突物(壁など)を外乱として扱い、その影響を抑制しようと正のフィードバックに陥ってしまう。
外乱抑制は傾斜上における使用、そして例えば長い廊下における走行を可能にするため重要である。快適性と安全性の向上は、外乱オブザーバに用いるモデルの向上、そして衝突を検出して上手く対応する方法が有効であろう。〈6・2〉 直進と回転の分離について 直進と回転を分離した操作に関して、次の利点が挙げられる。
•頻繁に使われる動作であること。•様々な場所への到達可能であること。•直進と回転の双対性。
直進と回転は頻繁に使われる動作であるため、片側ハンドリム操作により 2つの動作を実現するならば直進と回転が最も有意義である。直進しながらの旋回(直進時旋回)ができなくても、直進と回転の組み合わせにより実際に行ける場所が多い。直進と回転はそれぞれ無限と零の回転半径といった双対関係を持ち、車椅子運動モデルの数学的解析を簡単にする。〈6・3〉 片足旋回系との比較 片足旋回系では直進時旋回の操作ができるため、直進時旋回が要求される場所では有効であると考えられる。しかし、旋回を操作する時に減速する必要があり、2つ
の理由が考えられる。足で旋回を操作する時のヨー角速度に限界があり、希望の回転半径を得るために直進速度を落とす必要が多い。また、前進しながら足で旋回を操作しようとすると足が車椅子の下に引き込まれる危険性がある。直進時旋回の操作が困難であるため、ある軌跡に沿ったり障害物を回避することができるとは限らない。足で旋回を操作する足への負担が大きい。それに加え、
得られる平均ヨー角速度が個人や場所により 30 deg s−1程度であり、回転の速さも限られている。それに比べ、提案法では 85 rad s−1 程度が得られ、素早く回転できる。
7. ま と め電動アシスト車椅子のための片側ハンドリムで直進と回
転が操作できる片手漕ぎ制御系を実現した。OhとHori (8)
が開発した直進性係数Kを用いた片手漕ぎ制御系から、複数の所で改善した。提案法は特殊な機械構造を用いず、制御工学の方法で片手漕ぎ車椅子を実現する制御系である。実験により提案法の基本動作を確認し、性能と有効性
を評価した。ヨー角度・距離の比と回転半径による評価方法を提案し、それにより直進性と回転性を評価した。直進と回転の動作だけでは限界がある。直進と回転と
の切り替え時間が掛かれば、障害物の回避や軌跡の微調整が困難である。緩やかなカーブや障害物の多い場所では操作が不便である。その限界は、片側ハンドリムを用いた直進時旋回の操作方法を実現すれば解決することができる。その検討は今度の課題とする。今後の課題として、外乱抑制に関する問題の解決、直
進時旋回を操作する方法の検討、被験者による評価実験、ハンドリム以外の入力装置の検討が挙げられる。
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IEEE Control Systems Magazine, Vol.25, No.2,
pp.22–34 (2005-04)
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