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- 1 - 全国信用金庫の利鞘の決定要因分析 An Analysis of the Determinants of Shinkin Banks’ Loan-Deposit Margins 石橋 尚平 * 中岡 孝剛 Abstract During the longest economic boom ( from January 2002 to November 2007) of Japanese postwar period which is known as “Izanami Boom”, regional differences in Japan becomes more obvious. On the other hand, during this economic expansion, two action programs concerning the enhancement of relationship banking function were released by Financial Services Agency. Taking this background into consideration, in this paper, we examine the determinants of Loan-Deposit Margins of Shinkin Banks from FY2002 to FY 2007, which serve the regional and SME lending in Japan. Theoretically, we use the Dealership model and empirically we conduct a panel data analysis. We supposed that there could be four determinants of Shinkin Banks’ Loan-Deposit Margins, i.e. risk aversion of Shinkin Banks, structure and competition in the local markets, the local economic conditions, and the advantages of enhancing relationship banking function. Our analysis shows that Loan-Deposit Margins of Shinkin Banks can be well explained by all these four determinants and their proxy variables. But as for whether the estimated coefficients of the variables are positive or negative, some of them show the results opposite to our expectations. キーワード(key words) :リレーションシップ・バンキング(Relationship Banking) 、ディーラーシップ・モデル (Dealership Model) 、預貸利鞘 (Loan-Deposit Margin) * Ishibashi, Shohei、大阪産業大学経営学部流通学科講師 Lecturer, Department of Distribution Management, Osaka Sangyo University, (3-1-1 Nakagaito, Daito-City, Osaka Prefecture, Japan), Tel 81-(0)72-875-3001, Fax 81-(0)72-870-0664 Nakaoka, Takayoshi、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程 Graduate School of Business Administration, Kobe University, (2-1 Rokkodai, Nada-ku, Kobe-city, Japan), Tel 81-(0)78-881-1212, Fax 81-(0)78-803-6977 Wang, Ling、甲南大学特別研究員 Research Fellow, Konan University, (8-9-1 Okamoto, Higashinada-ku, Kobe-city, Japan), Tel 81-(0)78-431-4341, Fax 81-(0)78-435-2306 本稿の作成にあたり、安孫子勇一氏(近畿大学)、岩坪加紋氏(摂南大学)、内田浩史氏(神戸大学)、高橋大 樹氏(全国信用金庫協会)、筒井義郎氏(大阪大学)、家森信善氏(名古屋大学)他多くの方々に有益な助言を いただいた。また、データの取得にあたり、多くの信用金庫の職員の方々にお世話になった。記して感謝 したい。本稿における誤りはすべて筆者の責任である。当論文は社団法人大阪銀行協会より助成金の交付 (「平成 20 年度大銀協フォーラム」研究支援)を受けている。

全国信用金庫の利鞘の決定要因分析...れるが(4)、当研究では信用金庫が融資において、リスク回避者(Risk Averter) として振る舞 うことを前提としている。

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全国信用金庫の利鞘の決定要因分析

An Analysis of the Determinants of Shinkin Banks’ Loan-Deposit Margins

石橋 尚平*

中岡 孝剛

王 凌

Abstract

During the longest economic boom ( from January 2002 to November 2007) of Japanese postwar period which is known as “Izanami Boom”, regional differences in Japan becomes more obvious. On the other hand, during this economic expansion, two action programs concerning the enhancement of relationship banking function were released by Financial Services Agency. Taking this background into consideration, in this paper, we examine the determinants of Loan-Deposit Margins of Shinkin Banks from FY2002 to FY 2007, which serve the regional and SME lending in Japan. Theoretically, we use the Dealership model and empirically we conduct a panel data analysis. We supposed that there could be four determinants of Shinkin Banks’ Loan-Deposit Margins, i.e. risk aversion of Shinkin Banks, structure and competition in the local markets, the local economic conditions, and the advantages of enhancing relationship banking function. Our analysis shows that Loan-Deposit Margins of Shinkin Banks can be well explained by all these four determinants and their proxy variables. But as for whether the estimated coefficients of the variables are positive or negative, some of them show the results opposite to our expectations.

キーワード(key words):リレーションシップ・バンキング(Relationship Banking)、ディーラーシップ・モデル (Dealership Model)、預貸利鞘

(Loan-Deposit Margin)

* Ishibashi, Shohei、大阪産業大学経営学部流通学科講師 Lecturer, Department of Distribution Management, Osaka Sangyo University, (3-1-1 Nakagaito, Daito-City, Osaka Prefecture, Japan), Tel 81-(0)72-875-3001, Fax 81-(0)72-870-0664 Nakaoka, Takayoshi、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程 Graduate School of Business Administration, Kobe University, (2-1 Rokkodai, Nada-ku, Kobe-city, Japan), Tel 81-(0)78-881-1212, Fax 81-(0)78-803-6977 Wang, Ling、甲南大学特別研究員 Research Fellow, Konan University, (8-9-1 Okamoto, Higashinada-ku, Kobe-city, Japan), Tel 81-(0)78-431-4341, Fax 81-(0)78-435-2306 本稿の作成にあたり、安孫子勇一氏(近畿大学)、岩坪加紋氏(摂南大学)、内田浩史氏(神戸大学)、高橋大

樹氏(全国信用金庫協会)、筒井義郎氏(大阪大学)、家森信善氏(名古屋大学)他多くの方々に有益な助言を

いただいた。また、データの取得にあたり、多くの信用金庫の職員の方々にお世話になった。記して感謝

したい。本稿における誤りはすべて筆者の責任である。当論文は社団法人大阪銀行協会より助成金の交付

(「平成 20 年度大銀協フォーラム」研究支援)を受けている。

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1. はじめに

わが国の 2002 年1月を景気の底とする景気回復局面は、2007 年 11 月まで続いたとされ

ており、戦後の日本経済における最長の景気回復となった(「いざなみ景気」と呼ばれてい

る)。(1) しかし、今回の景気回復はまだら模様となり、様々な地域間格差の拡大が鮮明にな

った。図表-1 で示すように、地域間所得格差(一人当県民所得額の上位 5 県と下位 5 県の

平均値格差)は、90 年代の不況下において縮小していたが、2002 年度以降再び拡大してい

る。図表-2 は 2003~2006 年度における県内総生産増加率(年率換算、横軸)と県内の信用

金庫貸出残高の増加率(年率換算、縦軸)の対応を示した都道府県別の散布図であるが、いず

れの数値をみても都道府県ごとのばらつきがはっきりとしている。

一方、今回の景気回復局面に移行する直前の 2002 年 10 月、金融庁は「金融再生プログ

ラム」を公表した。この「金融再生プログラム」には政策の二重性があったとよく指摘さ

れる。金融庁は大手行に対しては不良債権処理の数値目標を課す一方で、地域金融機関に

対しては、リレーションシップ・バンキングの機能強化を求めたからである。ここでの「リ

レーションシップ・バンキング」(以下、「リレバン」)は、欧米の学術論文で数多く分析さ

れた Relationship Lending と必ずしも一致するものではない。Relationship Lending の枠

に収まらない要素も併せ持つ。それはリレバンが、地方の中小企業に対する資金供給能力

の機能強化を第一義の目的としているからである。(2) Relationship Lending が、情報の

経済学でも裏付けられている地域金融機関にとって理論上有効な手法であるとするならば、

リレバンはそれを包括する、地域金融の拡大を促すための行政上の方針ならびに実践的な

手法であると考えられる。

図表-3 はこれらの外部環境の変化が信用金庫にどのような影響を及ぼしたのかを示し

ている。信用金庫全体の融資残高は、2002~2004 年度においては前年度比でマイナスであ

り、2005~2006 年度も小幅な伸びにとどまっている。また、この時期の信用金庫の預貸利

鞘は、貸出金利回りの低下によって、全体の平均でみるとやや縮小傾向にあった。景気の

拡大とともに信用金庫の融資残高がおしなべて増加し、利ざやも拡大していたわけではな

い。

当論文では、わが国の地域金融機関の業態の一つである信用金庫の、上記の期間におけ

る預貸利鞘を分析の対象とし、何が信用金庫の利鞘に影響を及ぼしているのかを推計する。

(1) 内閣府は 2009 年1月7日に、景気拡大の「山」は 2007 年 10 月で、同 11 月から景気後退が始まった

と判定する方針を固め、1 月 29 日に学識者による景気動向指数研究会を開いた。その結果、景気拡大の時

期は 2002 年 2 月から 2007 年 10 月までの 5 年 9 ヶ月(69 ヶ月)と認定された。2008 年 12 月 11 日には、

全米経済研究所(NBER)が米国経済は 2007 年 12 月から景気後退入りしたことを宣言しており、日米経

済はほぼ同時期に景気後退局面に入ったことになる。 (2) 図表-1 で示すように、2003~2004 年度には「リレーションシップバンキングの機能強化に関するア

クション・プログラム」、2005~2006 年度には「地域密着型金融の機能強化の推進アクション・プログラ

ム」が実施された。これら一連のプログラムでは、企業再生型の融資や支援スキームに加えて、スコアリ

ング・システムの導入なども地域金融機関の課題としており、Relationship Lending とは正反対の

Transaction Banking の融資手法も推奨されている。

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信用金庫はリレバン(ならびに Relationship Lending)を体現する金融機関であることを踏

まえ、(3)われわれは以下の 4 つの要因を挙げて分析を行う。即ち、(1)信用金庫のリスク回

避度、(2)地元の市場構造と競争、(3)地域の経済状況、(4)リレバン推進の上での優位性、

である。

(1)信用金庫のリスク回避度は、後述する Dealership Model の基本部分(pure spread)を

構成する変数と銀行の個々の経営指標を代理変数として用いている。信用金庫は地域社会

の繁栄を目的としており、収益の最大化とは異なる別の行動原理が働いているとも考えら

れるが(4)、当研究では信用金庫が融資において、リスク回避者(Risk Averter)として振る舞

うことを前提としている。

(2)地元の市場構造と競争については、貸出金残高や預金残高のシェアに加えて、定款で

定める「地区」の市場構造の観点から分析する。(3)地域の経済状況については市町村単位

のようになるべく細かく区分された経済指標を示す説明変数を外挿して推計する。

尚、われわれが最も重視しているのは、(4)リレバン推進の上での優位性である。ここで

の優位性とは、推進する上での個々の信用金庫の地理的優位性などである。政策上推進さ

れたリレバンの機能強化は、一般的に貸出金利の低下圧力として働くと考えられる。2002

年の金融再生プログラムでは、地域金融機関は企業再生をも包摂した地域密着型の金融が

標榜され、現在に至っているからである。しかしすべての信用金庫が同じ条件でリレバン

の機能を強化するわけではない。リレバンの機能強化においては、顧客とリレーションシ

ップを築いていく地域密着度が重要になるが、これには営業職員と会員との数の比率、顧

客と支店との物理的距離、「地区」の面積といった、地理的優位性が影響を及ぼすと考えら

れる。これらの地理的優位性も利ざやに影響を及ぼす要因としてモデルに反映させる。

以降、第 2 節では当論文に関連する先行研究を紹介する。第 3 節では当論文で採用して

いる Dealership Model について解説する。第 4 節ではモデル式の推計にあたって用いた代

理変数を解説する。第 5 節は推計結果を解説し、第 6 節で結論を導く。

2. 先行研究

Dealeaship Model を用いた、金融機関の利鞘の決定要因に関する研究は、Ho and

Saunders(1981)を嚆矢とする。Ho and Saunders(1981)は銀行間の競争と金利リスクが金

(3) 信用金庫法によると、信用金庫は会員の出資による協同組織の地域金融機関として、中小企業の健全

な発展や地域社会の繁栄に貢献することを目的としている。事業区域は一定の地域に限定されており、融

資先も会員である中小企業ならびに個人に限られる。信用金庫の貸出対象は従業員数 300 人以下あるいは

資本金 9億円以下の中小企業である。また信用金庫は協同組織金融機関であるため、企業が信用金庫から

融資を得るには、その信用金庫の会員になる必要がある。また定款で「地区」を定める必要があり、会員

はその「地区」に居住する者、事業所を有する者、従事する者に限られる。信用金庫は会員以外に対して

貸付ならび手形割引をすることもできるが、それは貸付額ならびに手形割引額全体の 20%を上限とする。

(4)日本経済新聞(2008 年 11 月 11 日付)のインタビュー記事によると、大阪信用金庫理事長の目良紀夫氏

は、同金庫は実体経済に即したサポーターとしての金融に徹すると述べている。具体的には、「営業店の半

径五百メートル以内、または二十年以上取引のある先の融資の要請は断らない」というものである。つま

り、信用リスクの低減よりも、地域社会へのサポートが優先されている面が強い。

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利の決定要因として働くと考えた。Allen(1988)は与信や預金を多様化させたモデルに拡

張させた。Angbazo(1997)は金利リスクに加え、信用リスクをモデルに加えている。

Angbazo(1997)は様々な規模の銀行をサンプルに用いて利鞘の決定要因を分析し、大規模な

銀行では信用リスクが有意に働いて利鞘を拡大させているのに対し、地域金融機関規模の

銀行では信用リスクの影響は有意ではないことを示している。さらに Maudos and de

Guevara(2004)は、市場構造という要因を加えて同モデルを拡張させ、EU発足以降の

欧州の主要金融機関の利鞘を分析している。その結果、信用リスクや金利リスクに加え、

ハーフィンダール指数が示す市場の競争度合も、利鞘に影響を及ぼしていることを実証し

ている。

わが国でも金融機関貸出におけるマイクロ・データを用いた研究がすでにいくつか出て

いる。加納(2004)は全国信用金庫の貸出金利の低い三府県(愛知県、京都府、岐阜県)と高

い三県(宮崎県、高知県、青森県)における、貸出市場の特性との関係を分析している。その

結果、貸出金利の高い府県では、メインバンクの固定率が高くなっており、ホールドアッ

プ問題が生じている可能性があることを指摘している。Kano et al(2006)も、マイクロ・デ

ータを用いて、競争状態がゆるやかであれば、信用金庫の貸出はリレーションシップが長

くなるほど貸出金利が低下することを実証している。安孫子(2006)は沖縄県内の貸出金利を

分析しているが、沖縄県は貸出市場が他県と分断されており、県内の金融機関が高めの金

利を設定していることを明らかにしている。

日本の地方貸出市場に地域別に分断されているかどうかについては、様々な議論がある。

Kano and Tsutsui (2003) は、地銀の貸出市場は県ごとに分断されているとは言えないが、

信金の貸出市場は県毎に分断されているとしている。石川(2009)は県別パネルデータに共和

分検定を用いて、都道府県の違いを示すデータ変数が、全国の銀行の貸出金利に有意な影

響を与えており、都道府県レベルでの市場の分断性があることを示している。

これらの研究は、いずれも地域金融機関の貸出金利に何らかの理由で多様性があることを

示している。とりわけ信用金庫のように地域稠密的な金融機関は、事業基盤となる地域の

要因が強く働くと考えられる。ここで言う地域の要因には、①地域の市場構造、②競争状

態、③リレバン(Relationship Lending も含む)の徹底の度合いが含まれると考えられる。

①の観点では、石橋(2007)が上述の Dealership Model を用いて、金融不安がまだ払拭し

きれない時期の地銀の預貸利鞘を分析し、地元シェアの高い地銀ほど信用リスクにみあっ

た預貸利鞘を設定していることを明らかにしている。また、中田・安達(2006)は地元の金融

機関が寡占的な地位を占める貸出市場に、大手銀行が進出すると、貸出金利に低下圧力が

働くことを示している。また、メッシュ分析を導入した堀江・川向(2001)のように、信用金

庫の営業基盤という観点からの分析も重要な示唆に富む。坂井・鶴・細野(2009)は、信

用金庫の合併は規制当局主導のシステム安定化政策に沿ったものになる傾向にあり、合併

後、経費率が低下するが、自己資本比率は悪化する傾向にあることを示している。

②の観点では、スイッチング・コストに関する諸研究がある。地域金融におけるスイッチ

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ング・コストは、長期の取引関係において、取引先を変更する際に生じると考えられる借

り手側のコストを指す。これは、地域金融機関が競争の結果、築き上げた顧客との取引関

係の上でのレントを意味するが、社会厚生という意味では非効率性である。島袋(2006)は全

国信用金庫のスイッチング・コストを計測した上で、スイッチング・コストの多様性は、

市場の競争状態を必ずしも反映しているわけではないと結論している。中岡(2009)は関西地

域の信用金庫のスイッチング・コストを計測しているが、個々の信用金庫が競争によって、

このレントを獲得するという観点に立っている。

➂の「リレバン」については、Wang(2008)が Relationship Lending における顧客との長

期の取引関係のメカニズムをモデル化している。また、前述の金融庁によるリレバンの機

能強化推進策においては、債務者区分の改善が地域金融機関に義務づけられていたが、青

木・池田・六浦(2006)は、信用金庫による経営改善支援の取組実績を主成分分析し、不良債

権処理の進捗状況との相関関係を求めている。その結果から、地域密着型金融を名目とし

た「追い貸し」の存在が指摘されている。

3. 理論モデル

Dealership Model には三つの参加者がいる。資金の供給者、資金の需要者および銀行で

ある。銀行は資金の供給者と需要者の仲介であり、預金業務と貸出業務を合わせて行う。

モデルの期間は1期である。銀行は期首に、即ち、今期実際の預金と貸出業務を行う前

に預金金利( DR )と貸出金利( LR )を予め設定する。期首の時点で、銀行は今期の預貸取

引の発生時間が一切分からない。期中に預貸取引の発生時間に非対称性(即ち、預金取引

が行われる時間が貸出取引のそれと同じではない)が生じる確率が高い。

貨幣市場の市場金利は r である。銀行は貨幣市場に参加することによって、預貸取引の発

生時間の非対称性に対処する。もし預金取引が貸出取引より先に行われるならば、銀行は

貨幣市場に預金の余裕分を投資する。一方、もし貸出取引が預金取引より先に行われるな

らば、銀行は貨幣市場から貸出金の不足分を調達する。

銀行は貨幣市場の市場金利( r )を基準として、 DR と LR を設定する。しかも、期首に設

定された DR と貸出金利 LR は期間中に変わらない。

arRD (1)

brRL (2)

ここで、a は預金スプレッドであり、b は貸出スプレッドである。したがって、預貸利鞘

( S )は次の式で表現できる。

baRRS DL (3)

預貸取引が発生する確率はポワソン確率過程に従う。具体的に言うと、預金取引と貸出

取引の発生確率はそれぞれ預金スプレッド a と貸出スプレッドb の減少関数である。即ち、

預金取引が発生する確率: aDDD Pr (4)

預金取引が発生する確率: bLLL Pr (5)

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ここで、 D と L はそれぞれ預金供給の価格(スプレッド)弾力性と貸出需要の価格(ス

プレッド)弾力性である。

期首における銀行の純資産( 0W )は次のように表すことができる。

000000 )( MDLMIW (6)

ここで、 0L は期首の貸出残高で、 0D は期首の預金残高で、 0M は貨幣市場でのネット資

金運用額の期首値で、 0I は期首の時点でのネット貸出額( 00 DL )である。

0I と 0W の利潤率はそれぞれ Ir と wr で、次のように表すことができる。

0

00

I

DrLrr DL

I

(7)

0

0

0

0

I

Dr

I

Lrr DIw (8)

銀行は業務を行うことに伴って、リスクも負わなければならない。銀行はリスク回避的

であると仮定する。Dealership Model は、預金リスク( DZ )がないとするが、ほかの三つ

のタイプのリスクを考慮している。一つは、貨幣市場の金利リスク( MZ )である。これは

貨幣市場に投資する場合の市場金利下落リスクと貨幣市場から資金を調達する場合の市場

金利上昇リスクである。借り手がデフォルトする確率はゼロではないので、二番目のリス

クは信用(貸出)リスク( LZ )である。MZ と

LZ とも確率変数で、しかも 2M0,N ~MZ 、

2L0,N ~LZ 。

MZ とLZ との間に相互作用がある。両者の同時分布は二変数正規分布に従い、

共分散 ),( ML ZZCov はLM である。さらに、ネット貸出額

0I に関わるリスクはIZ である。確率

変数IZ は 2

I0,N ~IZ という正規分布に従う。しかも、

0

0

0

0

0

0

I

LZI

DZI

LZZLDLI

(9)

銀行の営業費用関数は C とする。したがって、預金業務に伴う営業費用は DC で、貸出

業務に伴う営業費用は LC である。ネット貸出額に関わる営業費用 IC は DCLC と

表す。

期末における銀行の純資産( TW )は三つのケースに分けて考えることができる。

ケース1:期中に新規の預貸取引が行わない。

0000000 )1()1()1( ICZMZLrWICMZrIZrW MLwMIIT (10)

もし純資産の期待値を

W とすると、この場合、ML ZMZLWW 00

(11)

ケース2:期中に新規の預金取引だけが行われた。

)()()1(

)()1()1()1()1(

0000

000

DCICZDMaDZLrW

DCICDZrMZrDrIZrW

MLw

MMDIIT

(12)

ここで、 DrD )1( は預金者に支払う預金元利金で、 DZr M )1( は預金を貨幣市場で運用

する場合得た元利金で、 )(DC は当預金取引に関わる営業費用である。この場合、下記の(13)

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式のようになる。

ML ZDMZLDCaDWW )()( 00

(13)

ケース3:期中に新規の貸出取引だけが行われた。

)()()()1(

)()1()1()1()1(

0000

000

LCICZLMbLZLLrW

LCICLZrMZrLrIZrW

MLw

MMLIIT

(14)

ここで、 LrL )1( は借り手からもらう貸出元利金で、 LZr M )1( は貨幣市場から貸出金

を調達する場合に支払う元利金で、 )(LC は当貸出取引に関わる営業費用である。この場合、

下記の(15)式のようになる。

ML ZLMZLLLCbLWW )()()( 00

(15)

銀行は保有する純資産から効用を得られる。銀行の効用関数は )(WUU と仮定する。U

は凹関数で、二次連続微分可能でさらに、 0",0' UU を仮定する。期待効用(EU)は期

待純資産

W の近辺でテーラー展開して求めることができる。即ち、下記(16)式である。

)2)((2

1)(

)()(2

1)()()()(

0022

022

0"

2"'

LMML MLMLWUWU

WWEWUWWEWUWUWEU

(16)

期中に新規の預金取引だけが行われた場合の期待効用は次のようである。

LMMLD DMLDMLDCaDWUDCaDWUWUWEU )(2)()()(2

1)()()()( 00

220

220

2"'

(17)

当預金取引によってもたらされた期待効用の増加分が次の式によって表すことができる。

LMMDD DLDMDDCaDWUDCaDWUWEUWEUWEU 02

02"' 2)2()()(

2

1)()()()()(

(18)

期中に新規の貸出取引だけが行われた場合の期待効用は次のようである。

LMMLL LMLLLMLLLCbLWULCbLWUWUWEU ))((2)()()()(2

1)()()()( 00

220

220

2"'

(19)

当貸出取引によってもたらされた期待効用の増加分が次式のように表すことができる。

LMMLLL LLLMLMLLLLLCbLWULCbLWUWEUWEUWEU )(2)2()2()()(2

1)()()()()( 00

20

20

2"' (20)

期中に預金取引と貸出取引とも行われた場合、期待効用の増加分は次のようである。

)()()()()(Pr)(Pr)( LLLDDDLLDD WEUbWEUaWEUWEUWEU (21)

銀行にとっての最適化問題は(21)式の期待効用を最大化させるような預金スプレッド a

と貸出スプレッドb を決めることである。

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効用関数の部分を、 0)()(

2

1 2"

DCaDWU、

0)()(2

1 2"

LCbLWUと仮定す

ると、下記の(22)式のようになる。

)()()()()(, LLLDDDba WEUbWEUaWEUMax (22)

LMMLLL

LMMDD

LLLMLMLLLLWULCbLWUb

DLDMDWUDCaDWUa

)(2)2()2()(2

1)()()(

2)2()(2

1)()()(

002

02

0"'

02

0"'

(22)式から預金スプレッド a と貸出スプレッドb の最適値*a と

*b を導出できる。

LMMD

D LMDWU

WU

D

DCa

02

0'

"* 2)2(

)(

)(

4

1)(

2

1

2

1

(23)

LMLMLL

L LLMMLLLWU

WU

L

LCb

)(2)2()2()(

)(

4

1)(

2

1

2

1000

20

'

"*

(24)

したがって、預貸利鞘 S の最適値*S は 次のように表すことができる。

LMMLL

L

D

D LMDLLLWU

WU

D

DC

L

LCbaS

)(2)()2()(

)(

4

1)()(

2

1

2

10

220

'

"***

(25)

(25)式から、銀行の最適預貸利鞘が以下の各要因によって決定されることがわかる。即ち、

市場の競争度合(預金供給の価格弾力性 D と貸出需要の価格弾力性 L )、銀行の事業費用

(預金業務に伴う営業費用 DC と貸出業務に伴う営業費用 LC )、銀行のリスク回避度

)(

)('

"

WU

WU)、金利リスク( 2

M )および信用リスク( 2L )である。

4. データ

実証分析において、我々は景気拡大期にあたる 2002 年度から 2007 年度までの全国信用

金庫のデータを用いた。前述のようにこの期間は緩やかであるが、景気拡大していた時期

であり、また 2003 年以降、リレーションシップバンキングの機能強化を図るアクションプ

ログラムが実施されていることからも、同時期における信用金庫の預貸利鞘を分析するこ

とは、意義があると考えられる。同期間においては多くの信用金庫が合併や破綻を経験し

ており、信用金庫の数は年々減少している(図表-1)。よってデータセットはアンバランス

なパネルデータとなっている(5) 。

(5) 合併が会計年度内で行なわれた場合、期始(毎年度 4月 1日)から合併日までの損益計算書項目が存

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Dealership Model で導出される Pure spread を説明する変数の数値は、日経メディアマ

ーケティングが提供しているデータベース「NEEDS Financial Quest」と金融コンサルタ

ント社による『全国信用金庫財務諸表』から収集した。また、合併や破綻によって収集で

きなかった信用金庫に関しては、われわれがヒアリングによって収集した。

Maudos and Guevara(2004)が指摘しているように、Pure Spread の部分だけでは説明し

きれない要因が地域金融市場には存在していると考えられる。上記の 4 つの要因のうち、

pure spread は、(1)信用金庫のリスク回避度ならびに(2)地元の市場構造と競争にあてはま

るが、われわれはそれ以外の 2 つの要因も利鞘に影響を及ぼしていると考えている。その

ため定式化にあたっては、さまざまな代理変数を外挿している。とりわけ、(4)のリレバン

推進の優位性の代理変数は重要な意味をもつだろう。

図表-1 を見てみると、信用金庫の合併や破綻による減少数は、店舗数の減少に比べて小

さい。坂井・鶴・細野(2009)によると、合併信金は経費率を削減し、収益性を改善させてい

る。Boffondi and Gobbi(2006)は店舗網の重要性をイタリアのデータを用いて実証的に分析

しており、他の事業区域への貸出において、店舗進出を行なった上での貸出のほうが、貸

出のみの進出よりもデフォルトリスクが低いという結果を示している。

Relationship Lending の一般的な解釈に従うならば、顧客とより近接しているほうが貸

出担当者による情報収集活動が容易になり、情報が蓄積され、情報の非対称性が解消によ

って信用リスクの低下が達成される。信金などリレバンを推進する地域金融機関にとって、

このような顧客との近接性が重要であり、特に貸出先が会員に限定されている信金は、い

わゆる「地区」といった地理的要因が経営上の数値に大きく影響を及ぼしている。当論文

では、リレバンの機能強化を推進する上での優位性が預貸利鞘に及ぼす影響についても検

証する。

また、この他にも預貸利鞘を説明する追加的な変数として、Angbazo(1997)に従い、各信

金の財務状況などの信金特有の要因を示す変数を推定のモデル式に加えることにする。以

下では推定に用いる変数を詳しくみていきたい。

(1) 説明変数-Pure Spread の変数

本稿で用いる Maudos and de Guevara(2004)の拡張モデルでの Pure Spread は市場

の競争度、事業費用、リスク回避度、金利リスク、そして信用リスクを含んでいる。本稿

ではそれぞれの代理変数として、市場の競争度は貸出額で都道府県ベースに計算されたハ

ーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)、平均事業費用(AOC)は(人件費+物件費)/

総資産、リスク回避度(DRA)は預貸率の逆数、金利リスクとして野村 BPI の分散、そし

続信金に計上されない為に、合併直後における存続信金の数値(例えば、貸出金利や預金金利など)が

過小評価されるという問題が生じる。これに対処するため、期始から合併期日までの営業日で按分した

被合併信金の損益計算書項目を存続信金に加算し、修正している。また、破綻による事業譲渡に関して

も同様の修正を行なっている。

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て信用リスク(CR)は不良債権比率を代理変数として用いる。(6)

貸出市場が競争的になると、相対的な交渉力の低下により、貸出金利の切り下げに迫ら

れ、預貸利鞘は縮小する。競争による価格の低下という観点からみれば、予想される係数

は正である。平均事業費用についても同様に正の係数が期待される。

しかし、一方で競争の緩和が Relationship Lending の機能を高めることを示す研究もあ

る。Kano et al.(2006)は日本における Relationship Lending の実態を詳細に分析しており、

信用金庫からの貸出において、信用市場の競争が緩く、企業が監査を受けていない場合に

のみ、取引期間の長さが貸出金利を低下させることを実証している。この解釈に従えば、

競争圧力の低下は信用金庫による Relationship Lending の強化を促進し、貸出条件の緩和

につながることになる。Relationship Lending が機能する場合には、 HHI の期待される

係数の符号はマイナスになる。

Maudos and de Guevara(2004)によれば、事業費用(AOC)の高い銀行は、より高い利

潤を獲得することを必要とする。その結果、預貸利鞘が拡大する傾向が高くなる。わが国

の信用金庫にもその傾向がみられると考えられる。一般的に信用リスクの度合いに応じて

貸出金利が設定されると考えられるので、AOC の係数は正となることが予想される。一方、

リスク回避度(DRA)は、リスクを嫌う信金ほどデフォルトを避けて安全な借り手のみに貸出

を行おうとするので、リスクプレミアムの分だけ預貸利鞘は縮小することになる。よって

DRA の 期待される係数は負である。

(2) 説明変数-銀行特有の変数

銀行特有の変数として自己資本比率(CAR)と業種別貸出比率、そして担保別貸出比率をモ

デルに加える。自己資本比率は経営の質をとらえる変数としても考えられるが、自己資本

の積み増しはリスク許容能力の向上を意味し、(1)信金のリスク回避度に直接関わっている。

しかし、それとは逆に自己資本比率の上昇は、情報生産を通じた優良な企業の選別によ

る結果である可能性も存在している。この解釈に従うならば、自己資本比率は(4)リレバン

推進の優位性を意味しており、自己資本比率が上昇すると、預貸利鞘は縮小する。CAR の

予想される符号は負である。

業種別貸出比率は①製造業(MANU)、②農林水産業(AGRI)、③建設業(CONST)、

④卸売小売業(WRS)、⑤不動産業(RE)、⑥サービス業(SERV)、そして⑦個人向け(PRIV)

に分類される。景気拡大期においてどのような貸出先に特化し、預貸利鞘を拡大させたか

をこれらの変数から模索する。

また、担保別貸出比率は①不動産担保(CO_RE)、②信用保証協会(CO_GA)、そして③

信用(CO_C)を用いる。

(6) Maudos et al.(2004)では、ハーフィンダール・ハーシュマン指数に加え、トランスログ型の費用関数

の推定から、ラーナー指数を推定し競争度指標として用いている。

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(3) 説明変数-地域特有の変数

地域特有の要因を表す変数として、本稿では商業地の地価上昇率(RCLP)、有効求人倍

率(AOR)、そして、人口増減率(PGR)、地方税収(TAX)を用いる。このうち有効求人倍

率は都道府県レベルの数値だが、地価上昇率(RCLP)、人口増減率(PGR)、地方税収(TAX)

については、市町村レベルの経済状況を示す変数であり、預貸利鞘には正の影響を及ぼす

と考えられる。上述の区分では、これらはいずれも(3)地域の経済状況を表す変数である。

(4) 説明変数-リレバン変数

まず顧客と関係を示すリレバン変数としては、役職員一人当り会員数(AGENCY)を用

いる。Cerasi and Daltung(2000)は、銀行が負債、つまり預金で資金調達をする時、貸出ポ

ートフォリオの拡大は、モニタリングのインセンティブを強めるということを理論的に示

した。またモニタリングの費用構造から最適な銀行規模を示しており、銀行の最適規模は

モニタリングの超過負担コストによって有界になることを示している。同(2000)によると、

役職員一人当り会員数の高さは、モニタリングの超過コストの増加を意味する。モニタリ

ングが分散すると、顧客とのリレーションシップの密着度は低下してしまう。その結果、

預貸利鞘は拡大すると考えられる。

次に顧客との距離に関わるリレバン変数として、信金の支店と本店間の距離の総和を店

舗数で除した店舗当たり支店-本店間距離(DISTANCES)を用いる(7)。Hauswald and

Marquez(2006)はソフト情報の獲得が顧客との距離の減少関数になることを理論的に示し

た。また、Petersen and Rajan(2002)は、近年の貸出技術(クレジット・スコアリング)、

あるいは通信技術(FAX、インターネットなど)の発展によって企業と銀行の距離は延伸

傾向にあることを指摘しているが、情報の乏しい企業は、より近接の銀行を取引銀行とし

て選択するとしている。

これらは顧客と銀行間の距離を用いた実証研究であり、本稿で用いる距離情報とは異な

るが、信金のように定款に定められた「地区」にほぼ限られた形で事業を展開する場合に

は、支店-本店間の距離が顧客と銀行間の距離に代理できる。

また、当論文で用いる距離情報は信金における組織の散らばり具合とも解釈できる。つ

まり、どの程度地域に密着することができ、稠密的な事業区域を有しているのかという指

標になる。店舗当たり支店-本店間距離が長いということは地域に対する密着度が低いと

いうことであり、リレバンによる貸出金利低下効果は弱まると考えられる(8)。

(7) 距離の測定は「MapFanWeb」で測定した。したがって、ここで示す支店と本店間の距離とはドライ

ビング距離である。また、信用金庫の支店情報は日本金融通信社の『日本金融名鑑』から収集した。ドラ

イビング距離を用いている先行研究として、Agarwal and Hauswald(2006)が挙げられる。ただし、同(2006)は顧客と本店間の距離である。 (8) 支店―本店間の情報伝達を考えるならば、店舗が広範囲に散らばっているほど、効率的な伝達が実行

できなくなり、その結果、地域に対する密着度が低下する。これは支店と本店を一つの階層とするならば、

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さらに当論文では、「地区」の範囲を示すリレバン変数として、会員一人当たり事業区域

面積(AREAS)を用いる。会員一人当たり事業区域面積が大きいということは、事業区域

内に会員が散らばっており、稠密的な事業区域を有していないということである。期待さ

れる係数は正である。

これらの三変数はいずれも、(4)リレバン推進の優位性を表している。

以上のことから、本稿で推定を行う信金の預貸利鞘関数は、

),-,-,(, rilebanfactorspecificregionalfactorspecificbankspreadpurefLDM ti であ

る。信金の預貸利鞘は、dealership model から説明される pure spread の部分、銀行特有

の要因、信金が所在する地域特有の要因、そして信金のリレバンに対する取り組みによっ

て説明できると考えられる。このような信金の預貸利鞘関数に対して、本稿では線形関数

を仮定し、以下の推定モデルによって推定を行う。

titititiiti εLDM ,,,,, λZγYβX (1)

ti ,X は pure spread の説明変数ベクトルで、ti ,Y は信金特有の要因と地域特有の要因を含

む説明変数ベクトル、そして、ti ,Z はリレバンに関係する説明変数ベクトルである。これ以

外にもコントロール変数として、信金が合併、あるいは事業譲渡を受け入れているときに

1を取るような合併・破綻ダミーもモデルに加えた上で推定する。

推定はハウスマンテストを実施した結果、固定効果モデルが支持されたので、ベースモ

デルとして固定効果モデルを採用する。それに加えて、都道府県ごとの特徴をコントロー

ルする為に、地方ダミーを入れた変量効果モデルも任せて推定する(9)。本稿で用いるデータ

のサンプルサイズは 1784 であり、高知信用金庫は突出して高い金利が示された為にサンプ

ルから除外した。各変数の記述統計量と定義、そして予想される係数の符号はテーブル 1

にまとめている。

5.推定結果

推定結果はテーブル 2 に示している。業種別貸出比率と担保別貸出比率考慮したモデル

を、それぞれ固定効果モデルと地方圏別の地方ダミーを説明変数に追加した変量効果モデ

ルで推定している。係数の有意性に若干の違いがあるが、両モデルともに概ね予想した符

号と整合的な結果である。

Pure spread の変数を見ると、AOC は有意な正の係数を示している。これは信用金庫が

Stein(2002)の含意として解釈できる。 (9) これは都道府県ダミーを入れた固定効果モデルでは多重共線性のために地方ダミーが正確に推定でき

ないためである。この他にも地方ダミーを固定効果とする制限付き固定効果モデルも考えられるが、本

稿では信金個別の異質性(heteroscedasticity)を考慮し、前者を採用することにする。地方ダミーは北

海道、東北、関東、東京、甲信越、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄である。

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事業費用を回収する為に、借り手に対して高い利鞘を要求していることを示している。一

方、リスクに関する変数であるが、CR に関しては、変量効果モデルにおいてのみではある

が、有意に正の係数を示している。MRA の有意性は低く、マイナスの係数を示している。

したがって、信用金庫は信用リスクを貸出金利に反映させる一方で金利リスクに関しては

感応的に金利に反映させていないことが示される。信用金庫は元来、利潤最大化を目指す

主体ではなく、地域金融を通じて地域に貢献することが目的の主体であると考えられるが、

この結果から、信用リスクを貸出金利に織り込むことで、利潤の獲得を目指していると考

えられる。

DRA についてはすべてのモデルで有意で正の係数を得ており、リスク回避的であるほど、

融資において高いリスクプレミアムを要求することを示している。HHI については変量効

果モデルで有意に負の係数が得られており、リレバンによる貸出金利の低下が示されてい

る。この結果は Kano et al.(2006)の結果と整合的である。本稿で対象としている景気拡大

期間においては、金利上昇圧力が存在していると考えられるが、競争が緩い信用市場では、

その上昇圧力よりも、リレバンの機能強化による貸出金利の低下効果が強く働いているこ

とが示されている。

信用金庫特有の変数については、まず CAR がいずれのモデルにおいても優位な負の係数

が推計されている。自己資本比率は情報生産を通じた優良な企業の選別による結果である

と考えられる。したがって、信用金庫の自己資本比率が高いほど預貸利鞘は縮小する。

業種別貸出残高比率の変数を見てみると、全ての変数において有意に正の係数を示して

いるが、AGRI の係数が他の業種の変数に比べて顕著に大きい。これは農林水産業への貸出

において、残高比率に対する弾力性が高いことを示している。AGRI以外の変数ではCONST

や RE といったバブル崩壊後の 90 年代の不況期に不良債権化する貸出が多かった業種や、

個人向け貸出比率を示す PRIV でも係数が大きくなっている。これらの業種においては、

リスク回避度が強く働いていることが分かる。

また、担保別の貸出残高比率の変数を見てみると、業種別貸出金残高を用いない変量効

果モデルの CO_CG を除いて、有意な結果を得られていない。しかしどのモデルにおいて

も、CO_RE と CO_CG は正の係数が得られており、不動産担保あるいは信用保証協会の保

証を通じたリスクの高い借り手に対しては、リスクプレミアムを要求していることがわか

る。

次に地域経済変数だが、TAX と AOR でいずれのモデルにおいても有意に負の係数が得

られた。この結果は景気拡大期に金利上昇圧力が働くという予想とは異なる。地方におけ

る税収や雇用改善にみる景気拡大が、地方の中小企業の資金需要を拡大につながり、地域

金融機関の貸出金利を引き上げさせるほど力強いものではなかったことが伺える。また、

RCLP ならびに PGR も、すべてのモデルにおいて、有意ではないものの、負の係数が得ら

れている。地価の上昇や人口流入にみる景気拡大も同様に力強さを欠いていたと考えられ

る。

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リレバン変数の AGENCY については、すべてのモデルにおいて、有意に正の係数が得ら

れており、予想と整合的な結果である。役員一人当たりの会員数の増加は、モニタリング

の分散をもたらし、それによってリレーションシップが希薄化する。その結果、貸出金利

が上昇することが示されている。逆の解釈をするならば、信用金庫はリレバンによって、

地域経済の厚生を高める役割を果たしており、地域経済に貢献していると考えられる。信

用金庫にとって、リレバンを徹底するための「マン・パワー」こそが、地域に貢献するた

めの重要な原動力になっていると考えられる。

AREAS の係数はすべてのモデルにおいて有意に負の係数が得られており、予想された符

号と整合的でない。しかし、HHI や AGENCY の結果は、会員が「地区」に密集している

ほど、マン・パワーの限界から密着したリレーションシップを築くことが困難になること

を示唆している。つまり、都市部のように競争が激しく、会員が密集している市場環境で

はなく、農村部のように競争度が低く、会員が疎らに分布している市場環境下の方がリレ

バンの実施が促進されると考えられる。

一方、リレバン変数の DISTANCES については、変量効果モデルのみで有意に正の係数

を得ている。したがって、店舗網が営業地域において広範囲に分散しているような稠密度

の低い「地区」では、地域に密着した取引、あるいは支店-本店間の会員に関する定性的

情報の伝達活動が困難になり、貸出金利が上昇する。逆に言えば、店舗網で張り巡らされ

た「地区」における地域密着型の金融取引、つまりリレバンを推進すると、貸出金利が低

下する傾向にあることを示唆している。

前述のように、近年の再編によって信用金庫数が大きく減少している一方、信用金庫の

店舗数は相対的に減少していないという事実を踏まえると、信用金庫は店舗を張り巡らせ

た「地区」において、「マン・パワー」を活かしたリレバンを推進していると考えられる。

ただし信用市場の競争圧力が強い地域においては、そのようなリレバンの推進が困難にな

るため、貸出金利の低下効果は減じられる。

6. まとめ

信用金庫は、わが国の地域金融機関の業態の一つで、まさにリレバンを体現している。

地域間格差が広がる中、リレバン機能の強化は、地方の地域経済の活性化において、ます

ます重要になっている。われわれは、2002 年度から 2007 年度までの景気拡大期における全

国信用金庫の預貸利鞘を理論的・実証的に分析し、信用金庫の預貸利鞘の決定要因を明ら

かにした。

当論文では、理論モデルとして Dealership Model を用いた。この理論モデルより、信金

の最適預貸利鞘が、いわゆる Pure Spread 要因によって決定される分析結果が導かれた。

実証分析においては、信用金庫の地域密着の特性を踏まえ、Pure spread 要因以外に、地

域経済要因、個々の信金に特有な要因およびリレバン要因も考慮に入れた。固定効果モデ

ルと地方ダミーを説明変数に追加した変量効果モデルを用いて、詳細な検証を行った。こ

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れは当論文の大きな特徴である。検証の結果をまとめると、次の通りである。

まず、Pure Spread 要因であるが、信用金庫の事業費用、信用金庫のリスク回避度、信用

リスクはいずれも値が低くなると、信用金庫の預貸利鞘が縮小する。一方、地域金融市場

の競争度合いについては、競争がゆるやかであるほど、預貸利鞘が縮小する。

次に、地域経済要因については、おおむね負の係数が得られた。また、個々の信金に特

有な要因については、貸出先の業種ならびに担保の種類によって、貸出金利が異なること

がはっきりとした。さらに、三つのリレバン変数の推定結果から、会員との緊密なリレー

ションシップの構築および地域に密着したリレバンの実施によって、信用金庫の利鞘は縮

小することが明らかになった。

これを上記の 4 つの要因にあてはめて述べると、以下のようになる。まず、(1)信用金庫の

リスク回避度については、モデル式の pure spread 部分の推計結果からも分かるように、

信用金庫は貸出において信用リスクをとる際にプレミアムを求めている。それは農業、建

設、不動産などの業種別貸出金残高の係数や、担保別貸出金残高の係数にも表れていた。

次に(2)地元の市場構造と競争をみてみると、ハーフィンダール指数は負の係数が得られた。

これは予想と異なり、競争がゆるやかであるほど、預貸利鞘が縮小することを示している。

(3)地域の経済状況についても予想に反してすべて負の係数が得られた。これは当時の景気

回復が地方の中小企業の資金需要を高めて貸出金利を押し上げるほど力強いものではない

ことを示している。われわれが重視した(4)リレバン推進の上での優位性については、お

おむね予想通り、リレバンの推進における優位性は利鞘の縮小に働くことが分かった。ま

た自己資本比率は、情報生産を通じた優良な企業の選別能力を示す指標であり、リレバン

推進の優位性を表す指標であると言える。同比率が高くなると、利鞘が低下することが確

認された。

当論文の分析結果から以下の二つのインプリケーションを導くことができる。一つは、

信用金庫の本質にかかわるものである。信用金庫は中小企業・地域経済の活性化に貢献す

ることを目的としているが、採算性を無視するのではなく、リスクや費用に見合った収益

を獲得できるように行動をしている。もう一つは、リレバンによる信用金庫の預貸利鞘へ

の効果は、地域金融市場の競争度合によって影響されるということである。したがって、

競争が激しい地域と競争が緩い地域では、リレバンの実施・強化が信用金庫にもたらす影

響が異なる。この点は、今後の信用金庫に対する施策に有益な示唆を与えると思われる。

最後に、今後の課題を挙げて、当論文を締めくくりたい。まず理論分析においては、信

用金庫の取引におけるリレバンの特殊な関係を変数として明示的に理論モデルに加えるこ

とを試みたい。一方、実証分析においては、事業区域の視点から信用金庫の競争度合を計

測する新しい指標の構築を試みることとしたい。

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Table1:記述統計量

Variables 定義 符号 平均 標準偏差 最小値 中央値 最大値

LDM % 預貸利鞘((貸出金利-預金金利)×100) 2.583 0.400 1.604 2.536 4.510

HHI ハーフィンダール指数(貸出金ベース) + 0.029 0.024 0.001 0.020 0.130AOC % 平均事業費用((人件費+物件費)/総費用) + 0.013 0.002 0.005 0.013 0.024DRA 預貸率の逆数(預金残高/貸出残高) - 1.841 0.388 1.214 1.763 5.571CR 不良債権比率(金融再生法基準) + 9.638 4.240 2.098 8.965 30.239MRA 野村BPIの分散 + 0.043 0.035 0.013 0.030 0.116

Bank-Specific FactorCAR 自己資本比率 +,- 12.12 4.97 4.58 11.25 58.02MANU 製造業(業種別貸出比率) ? 0.107 0.062 0.010 0.093 0.364AGRI 農林水産業(業種別貸出比率) ? 0.007 0.012 0.000 0.004 0.127CONST 建設業(業種別貸出比率) ? 0.103 0.031 0.027 0.100 0.242WRS 卸売小売業(業種別貸出比率) ? 0.106 0.037 0.028 0.101 0.421RE 不動産業(業種別貸出比率) ? 0.128 0.074 0.000 0.113 0.504SERV サービス業(業種別貸出比率) ? 0.137 0.045 0.027 0.130 0.351PRIV 個人その他(業種別貸出比率) ? 0.321 0.081 0.047 0.320 0.651

CO_RE 不動産(担保別貸出金残高) ? 0.403 0.156 0.047 0.387 0.856

CO_CG 信用保証協会(担保別貸出金残高) ? 0.183 0.079 0.000 0.177 0.493

CO_C 信用(担保別貸出金残高) ? 0.194 0.126 0.000 0.189 0.638

Regional-Specific FatorRCLP 地価上昇率(市町村) + -0.049 0.201 -0.365 -0.064 7.840TAX 地方税収成長率(都道府県) + 0.011 0.050 -0.162 0.002 0.389AOR 有効求人倍率(都道府県) + 0.892 0.338 0.300 0.830 1.910PGR 人口増減率(市町村) + -0.002 0.013 -0.066 -0.002 0.199

Relationship Banking FactorAGENCY 役員一人当たり会員数/1000 + 0.080 0.034 0.029 0.074 0.999DISTANCES 店舗当たり支店ー本店間距離 + 15.99 14.91 0.22 11.17 112.31AREAS 会員一人当たり事業区域面積 + 3222.13 2729.48 357.18 2575.84 20798.2

Dependent variables

InDependent variables

Pure Spread

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Table2 推定結果

Coefficient Coefficient Coefficient Coefficient ( p-value) ( p-value) ( p-value) ( p-value)

pure spread variableHHI -8.170 -8.110 -6.199*** -5.601***

(0.220) (0.228) (0.004) (0.008)AOC 0.063 0.135 0.170*** 0.240***

(0.227) (0.013) (0.001) (0.000)DRA 0.172*** 0.169*** 0.091*** 0.089***

(0.000) (0.000) (0.004) (0.008)

CR 0.254 0.307 0.393** 0.447**

(0.185) (0.119) (0.040) (0.021)

MRA -0.122 -0.209 -0.031 -0.123

(0.394) (0.148) (0.824) (0.394)

CR*MRA -2.060 -2.489 -3.152** -3.578**(0.167) (0.104) (0.035) (0.018)

Bank specific variable

CAR -0.528*** -0.873*** -0.668*** -0.882***(0.021) (0.000) (0.001) (0.000)

MANU 1.448*** 1.023***(0.000) (0.000)

AGRI 3.328*** 3.775***

(0.001) (0.000)

CONST 2.148*** 1.946***

(0.000) (0.000)

WRS 2.165*** 1.601***(0.000) (0.000)

RE 1.417*** 1.110***(0.000) (0.000)

SERV 1.256*** 1.272***(0.000) (0.000)

PRIV 1.526*** 1.384***(0.000) (0.000)

CO_RE 0.042 0.036(0.581) (0.387)

CO_CG 0.098 0.159*

(0.384) (0.095)

CO_C -0.116 -0.065(0.177) (0.319)

Regional Specific Factor

RCLP -0.010 -0.009 -0.006 -0.008(0.340) (0.341) (0.637) (0.571)

TAX -0.240*** -0.368*** -0.221*** -0.337***(0.000) (0.000) (0.000) (0.000)

AOR -0.223*** -0.269*** -0.196*** -0.241***(0.000) (0.000) (0.000) (0.000)

PGR -0.282 -0.119 -0.257 -0.159(0.382) (0.726) (0.377) (0.596)

Relationship Factor

AGENCY 0.210*** 0.200** 0.288*** 0.283***

(0.004) (0.016) (0.000) (0.000)

DISTANCES 0.001 0.0004 0.001** 0.001**(0.297) (0.733) (0.029) (0.044)

AREAS -0.164** -0.209*** -0.093* -0.098*(0.016) (0.007) (0.070) (0.092)

Constant 0.992*** 2.474*** 1.138*** 2.398***(0.000) (0.000) (0.000) (0.000)

No. observations 1784 1784 1784 1784 R2 0.445 0.384 0.553 0.560

*、**、***はそれぞれ10%有意、5%有意、そして1%有意を示す。

また、不均一分散を考慮するために、ホワイトの修正標準誤差を用いた。

固定効果モデル 変量効果モデル

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図表-1 地域間所得格差の推移

図表-3 分析対象期間における経済指標、信金の経営指標

実質GDP伸び率

信用金庫の貸出金平均残高伸び率(前年比)

信用金庫数信用金庫店舗数

信用金庫会員数(千

人)

信用金庫の預け金利回り A

信用金庫の貸出金利回り B

信用金庫の預貸す利鞘B-A

1997年度 0.0% 0.4% 401 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.

1998年度 -1.5% 0.5% 396 8,673 8,833 0.50% 3.02% 2.52%

1999年度 0.7% 0.1% 386 8,638 8,876 0.37% 2.89% 2.52%

2000年度 2.6% -5.7% 371 8,480 8,941 0.31% 2.87% 2.56%

2002年2月 2001年度 -0.8% -3.0% 349 8,400 8,981 0.21% 2.75% 2.54%

2002年度 1.1% -2.2% 326 8,263 9,001 0.12% 2.69% 2.57%

2003年度 2.1% -0.6% 306 8,059 9,095 0.09% 2.63% 2.54%

景気回復局面 2004年度 2.0% -0.2% 298 7,878 9,133 0.08% 2.60% 2.52%

2005年度 2.4% 0.7% 292 7,777 9,190 0.08% 2.53% 2.45%

2006年度 2.5% 1.3% 287 7,734 9,255 0.15% 2.55% 2.40%

2007年10月 2007年度 1.6% 0.0% 281 7,686 9,280 0.31% 2.65% 2.34%

リレバンの機能強化に関するアクションプ

ログラム

地域密着型金融の機能強化の推進アクションプロ

グラム

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図表-2 2003~2006 年度の名目県内総生産増加率(年率)と県別信金貸出金残高増加率(年率)

栃木

県東

京都

宮城

秋田

県佐

賀県

岐阜

千葉

県和歌

山県

大阪

府福

岡県沖

縄県

兵庫

県岡山

神奈

川県

広島

長野

県鹿

児島

山口

石川

新潟

福井

県富山

県大

分県

長崎

宮崎

京都

滋賀

神奈

川県

香川

埼玉

熊本

沖縄

群馬

青森

県茨

城県

富山

県福

島県

岩手

山形

徳島

高知

愛知

奈良

北海

道愛

媛県

三重

山梨

-7.00%

-5.00%

-3.00%

-1.00%

1.00%

3.00%

5.00%-2.00%-1.00%

0.00%1.00%

2.00%3.00%

4.00%

島根県の県内総生産は-0.29%(年率)と減少しているが、信用金庫の貸出金残高は 10.77%の増加(年率)

しており、上記の散布図からはみ出している。

出典‥SNA(県民経済計算)、金融ジャーナル増刊「金融マップ」