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2006年度 公共選択学会 「学生の集い」 義務教育は必要か。 成城大学 油井ゼミ 2年 大川達也・田島芙有子・伊藤友希 旭岳央・鈴木慶太・佐藤瞳・矢吹達也 - 1 -

義務教育は必要か。序章 義務教育とは 義務教育の意義と役割 義務教育とは、日本国憲法の定めにより小学校6年+中学校3年間の最低9年

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Page 1: 義務教育は必要か。序章 義務教育とは 義務教育の意義と役割 義務教育とは、日本国憲法の定めにより小学校6年+中学校3年間の最低9年

2006年度 公共選択学会

「学生の集い」

義務教育は必要か。

成城大学 油井ゼミ 2年

大川達也・田島芙有子・伊藤友希

旭岳央・鈴木慶太・佐藤瞳・矢吹達也

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目次

序章 義務教育とは ・・・・・・・・・・・・・・・1

第1章 現状分析

第1節 三位一体 ・・・・・・・・・・・・・・・・4

第2節 ゆとり教育 ・・・・・・・・・・・・・・10

第3節 学校選択制 ・・・・・・・・・・・・13

第4節 各国比較 ・・・・・・・・・・・・・・16

第2章 政策提言 ~教育制度改革~

第1節 小中学校で統一的な卒業試験を導入 ・・・22

第2節 学齢前教育の義務教育化 ・・・・・・・・・・・・22

第3節 考える力をつける教育へ ・・・・・・・・・・・・・・24

第4節 教育塾の創設 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

第3章 終章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

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序章 義務教育とは

義務教育の意義と役割

義務教育とは、日本国憲法の定めにより小学校 6 年+中学校 3 年間の最低 9 年

間は、保護者が子女に教育 を受けさせる義務を負っているということである。憲

法第 26 条は、すべての国民に教育を受ける権利を保障し、また、その権利を実現

するために、義務教育の制度が設けられている。義務教育の目的は、一人ひとり

の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点である。そして義務教育

は、全国どこでも必要な教育内容・水準が保証され、無償で行われるものでなけ

ればならない。

日本の義務教育の現状 日本では、小学校の 6 年間と中学校の 3 年間が義務教育期間とされ、全ての国

民は 9 年間の義務教育を受ける。日本の義務教育は 9 年間だが、海外へ目を向け

ると、その国々で期間や制度の違いがある。そういった各国の義務教育について

は、後ほど述べたい。

義務教育の目的 国民が共通して身に付けるべき公教育の基礎的部分を、誰もが等しく受けられ

るように制度的に保障する。なぜなら、社会を統合し、国民国家として存在しえ

るためである。 義務教育がなかったら 全国民に共通した基礎的な教育を受けさせることが困難になる。生まれた家庭

環境からの影響が大きくなり、階層の固定化や格差の再生産が起こりやすくなる。

そして、現在は義務教育の 9 年間は義務とされているので、義務教育終了後の将

来選択時は横一線であるが、それも崩れる。さらに、インターネットの普及など

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によって、情報が溢れている現代で、教育を受けていないと判断能力が欠落し適

切な判断の仕方すら出来ない人が増えてしまうのではないだろうか。けれども、

エリート教育や職人などの専門的な能力を取得したい人は、現在の義務教育制度

では生かせていない力を発揮することも十分ありえると思うので、一概に義務教

育制度の全てを肯定しているわけでもない。

以上で述べた義務教育の意義や目的、必要性を踏まえて色々な視点から日本の

義務教育についての分析をし、義務教育の必要性の有無や今後の義務教育制度の

あり方についての提案をしていく。

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第1章 現状分析

第1節 三位一体改革 1.義務教育 義務教育は人が人として生きていくために不可欠の教育であり、全ての人に必

要であって、平等に受けられなければいけない。また、義務教育は将来の日本を

支える人材育成の第一歩であり、日本の将来にとっても重要な意味を持っている

ので、政府は、子供たちの成長を支え、人材育成を推進するために必要な資源を

確実に提供しなければないと思う。つまり、教育にかける予算は日本の将来への

投資であり、最も重要であると思う。 現在、日本は他の先進国と比べて義務教育への投資が少ない。国内総生産

(GDP)に対する全教育段階の公財政教育支出の割合は 3.5 パーセントであり,OECD 各国平均 5.1 パーセントを下回っている。また,初等中等教育の公財政教育支出の割合は 2.7 パーセント,高等教育の割合は 0.4 パーセントで,OECD 各国平均(各 3.6 パーセント, 1.1 パーセント)をいずれも下回っている。

出展:OECD「図表で見る教育」

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だが、わが国日本の政府は、これよりもっと教育に関する投資を減らそうとし

ている。これまで義務教育を支えてきた「義務教育費国庫負担金制度」の廃止の

ことだ。 「義務教育費国庫負担金制度」とは教育の機会均等と教育水準の維持向上を図

るため義務教育費国庫負担法及び公立養護学校整備特別法に基づき、都道府県が

負担する公立義務諸学校(小・中学校・中等教育学校の前期課程及び盲・聾・養

護学校の小・中等部)の教職員の給費等について、その2分の1を国が負担し、

残りは都道府県が負担している制度のこと。この制度により日本全国どの地域で

も、自治体の財政力格差に関わらず、一定数の教職員の安定的な確保が可能とな

っている。生まれた地域や家庭の経済力に関わりなく、日本全国の全ての子供が

一定水準以上の教育を受け、その才能を伸ばし、個性が育つ機会が確保されてい

ること。 小泉内閣による三位一体改革のなかの一環である。三位一体改革は、地方が自

らの創意工夫と責任で政策を決め、自由に使える財源を増やし、自立できるよう

にするための改革である。今まで地方財政のなかで義務教育費は国が全ての自治

体に使途を指定して配分する国庫支出金の中でまかなってきた。だが、「義務教育

費国庫負担金制度」が廃止され、一般財源化されることにより、義務教育を負担す

るのは国ではなく、地方になってしまう。そうなれば、財政力の弱い自治体は、

国庫支出金の減額分を個人住民税などで賄わなければならなくなる。 一般財源化とは各自治体の判断で、何にでも使える一般的な財源にすること。

その財源とは、住民税や消費税などの税収が充当されることになると予想されて

いる。 義務教育費国庫負担金を個人住民税に切り替えると、 東京圏、大阪圏、名古屋圏も9つの都府県では増収になるが、後の38都府県

では減収になってしまう。 増収額が最も大きい都道府県は東京都でプラス2490億円 減収額が最も大きい都道府県は北海道の515億円 その差は約3000億円になってしまう。

出典;日本の教育を考える10人委員会からの提言 このように地域によって格差が出ていいのでしょうか?

地域格差が生まれてしまうと、地域によって教育が異なってしまうため平等に受

けられなくなってしまうと思う。

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2.「義務教育費国庫負担制度」が廃止され、一般財源化され、地方は権

限を持つと ・ 自治体によって税収が異なるため、十分に教育費を獲得する事ができる自治体

と獲得することができない自治体の二分化に分けられる。獲得できない自治体

では義務教育費を削減せざるを得なくなる。 ・ 義務教育費を削減したことにより、教育の質が低下し、それを補うために塾通

いや私学志向が増えることになれば、地域間格差だけではなく、家庭の経済力

による格差も拡大することになってしまう。 ・ 義務教育費が個人住民税や地方消費税に切り替えられた場合、都道府県の8割

は財源が不足し、義務教育が成り立たない。 ・教育費の約80%は教職員の給与であるため義務教育費が削減されることにな

ると「教職員の給与を削減せざるを得なくなる」または、教職員の数を削減せ

ざるを得なくなる。 ・ 義務教育費国庫負担制度では、義務教育のための予算として確保されたが、一

般財源化されると首長の判断で、他事業へ割り当てられる恐れがある。また、

首長の裁量によるため選挙により首長がかわるため、教育のほうしんや政策も

代わる可能性がある。また、教育の予算の配分も審議の対象となるため、政治

的な圧力や統制が教育行政に及ぶことにもなって、安定的な教育の実現が妨げ

られることにもなりかねなくなる。 ・現在、全国各地で義務教育費負担金・総額裁量制や自主財源により少人数教育

を実施する自治体が増えていたが、一般財源化され大半の自治体は減収になる

ため、40人学級を維持するためにも大変なのに、少人数学級を実施する事は

不可能になってしまう。教育に余裕がなくなる。

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3.義務教育の崩壊を防ぐために このままでは「義務教育費国庫負担制度」が廃止され、一般財源化されたこと

で義務教育に「地域間格差」が生じ、義務教育の崩壊が加速してしまうであろう。 裕福な家庭の子供が教育環境の恵まれた地域に住むといった経済原理が義務教育

に持ち込まれ、一部のエリートだけが優遇された教育がすすめられることになる。

そうなると、生まれた地域によって大きなハンディを持つということは、将来的

な可能性を奪われるといったことにつながるかもしれない。 過去に一度だけ義務教育費国庫負担金制度が廃止され一般財源化されたこと

があった。 米国のシャウプ調査団から地方税、地方債、国の補助金等、日本の税制改正等

についての勧告を受け、3年間、義務教育費国庫負担金制度が廃止され一般財源

化された。一般財源化されたことにより、義務教育における平等の確保が困難に

なり、「教育条件」の全国的な低下、「地域間格差」の拡大という事態が生じた。

「教育条件」の低下については、例えば小学校1学級あたりの教員数が、194

9年度の1.22人から1951年度の1.20人に減少したといわれる。「地域

間格差」については、例えば1952年度の児童一人当たりの小学校費における

東京と茨城の格差が100:53であったといわれている。 また、義務教育の教職員給与費が地方財政に与える圧迫も大きくなり、都道府

県の一般財源に対する義務教育教職員給与費の割合は1950年度の38%から

1952年度の44%へと上昇してしまった。 このことなどから、地方間の一般的な財源調整制度によっては義務教育費を確

保することが困難であり、義務教育の水準確保と地域間の機会均等を保障するた

めには義務教育費に目的を特定した国による財源保障制度が必要であったという

事実を示し、昭和28年に再び義務教育費国庫負担制度が導入された。

出典: http:/ /www.f.waseda.jp/katagi/eguchi.ht

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4.義務教育がなくなったと仮定し、現在、義務教育に関して使われて

いる予算がなくなった場合、どうなるか?

○現在の政府支出に占める地方財政の歳出決算額の目的別構成比は

12 年度 11 年度 区分

決算額 構成比 決算額 構成比

総務費 91,565 9.4 91,780 9.0

民生費 133,920 13.7 150,640 14.8

衛生費 65,197 6.7 65,845 6.5

労働費 4,758 0.5 6,553 0.6

農林水産業費 58,700 6.0 62,091 6.1

商工費 54,277 5.6 60,020 5.9

土木費 195,603 20.0 209,781 20.6

消防費 18,758 1.9 18,736 1.8

警察費 34,288 3.5 34,179 3.4

教育費 180,787 18.5 181,927 17.9

公債費 123,786 12.7 117,980 11.6

その他 14,525 1.5 16,759 1.8

歳出合計 976,164 100.0 1,016,291 100.0

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○ 教育分野別教育費の構成比

この図より、歳出額のなかで教育費の構成比はどの分野の決算額よりも一番多

くなっている。教育費のなかでも義務教育費の割合が多くなっている。もし、義

務教育がなくなれば、この教育費のお金は公債費に全てを費やしても、余りがで

き、他の分野についやすことができる。また、経済を発展させる政策に膨大な予

算をかけることも可能になる。

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5.まとめ

義務教育は将来の日本を支える人材育成の第一歩であり、日本の将来にとって

も、非常に重要な意味を持っている。したがって、政府は子供たちの成長を支え、

人材育成を推進するために、必要な資源を確実に提供しなければいけないと思う。 だから、いくら政府歳出で義務教育費が大きな割合を占めていても義務教育費

は必要だと思う。義務教育は、現在、義務教育費国庫負担制度で成り立っている

が、この制度は三位一体改革によって廃止されようとしている。この制度が廃止

されると財源不足の地域では十分な教育ができなくなり、教育水準に大きな格差

が生じる恐れが出てしまう。 義務教育は憲法26条

第一項「全て国民は、法律で定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく

教育を受ける権利を有する」 第二項「全て国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育

を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。」 と定義されている。 第一項のように国民には義務教育を平等に受ける権利があると思う。

なので、子供たちの未来のために義務教育費国庫負担制度を堅持すべきだと思う。

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第 2 節 義務教育とゆとり教育

今回「義務教育は必要か」という現在の日本において非常にタイムリーな問題

に受けて、ここではまず義務教育の意義と役割を見つめなおし、今日の義務教育

において組み込まれてはいるものの矛盾に満ちているゆとり教育について考えて

みた。

義務教育は本当に必要なのか。その確信に迫っていきたい。

1. 義務教育の意義と役割

義務教育とは、日本国憲法の定めにより小学校6年+中学校 3 年間の最低 9 年

間は、保護者が子女に教育 を受けさせる義務を負っているということである。憲

法第 26 条は、すべての国民に教育を受ける権利を保障し、また、その権利を実現

するために、義務教育の制度が設けられている。義務教育の目的は、一人ひとり

の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点であり、このことはいか

に時代が変わろうとも普遍的なものである。

また、義務教育は、子供たち一人ひとりが人格の完成を目指し、個人として自

立し、それぞれの個性を伸ばし、その可能性を開花させること、そして、どのよ

うな道に進んでも自らの人生を幸せに送ることができる基礎を培うという点で非

常に重要な役割をもっている。自分の頭で考え、行動していくことのできる自立

した個人として、変化の激しい社会を心豊かにたくましく生き抜いていく基盤と

なる力を国民一人ひとりに育成することが必要不可欠であると同時に、義務教育

は民主的、平和的な国家・社会の形成者として必要な国民としての資質を育成す

ることをその責務としており、文化・政治・経済・科学・技術などあらゆる面に

おいてこれからの社会の在り方は、それを担う人材によって決定される。このよ

うに、義務教育が将来に与える影響は非常に大きいのである。

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2. ゆとり教育の現状

また、現在改革が進められている義務教育において矛盾に満ちているのが「ゆ

とり教育」の導入である。2002 年 4 月から、学校、家庭、地域社会の役割を明確

にし、それぞれが協力して豊かな社会体験や自然体験などの様々な活動機会を子

供たちに提供し、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性など「生きる力」を育む

ことを狙いとした完全学校 5 日制が始まり、同時に完全学校週 5 日制の下,各学

校が「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し,子どもたちに学習指導要領に

示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることはもとより,自ら学び自

ら考える力などの「生きる力」を育むことを狙いとした新しい学習指導要領も実

施された。この完全学校 5 日制と新指導要領は、1980 年から始まった「ゆとり教

育」の総仕上げ・集大成ともいえるものであった。

ゆとり教育とは学習者に焦燥感を感じさせずに、学習者自身の多様な能力を伸

ばすことを目指す教育のことであり、教育の内容と時間が精選・削減され、主に

小・中・高等学校などの中等教育において、いわゆる「知識詰め込み型」の教育

に対する改善策として提唱された教育の在り方である。また、これからの情報化

社会・知識社会・生涯学習社会では、生涯を通じて学習することがますます重要

になっていくため、「自ら学び自ら考える力」「社会の変化に対応できる力」「課題

探求能力」「問題解決能力」「創造力」を核にした「生きる力」の育成もゆとり教

育において重要視されている。それなりに合理的で妥当なものであったため、多

くの人々に期待され導入されたゆとり教育だったが、皮肉なことにそのゆとり教

育の導入が、子供たちの学習や生活などに良からぬ影響を及ぼしている。

まず今日の世論では、ゆとり教育の実施の結果学習内容の削減が基礎学力の低

下を招いているという批判・否定的な意見が非常に多い。その一方で、基礎学力

の低下の原因がゆとり教育と決め付けてしまうのは難しく他にも原因があるので

はないか、等の意見も少数ながらあるが、完全学校 5 日制が時間割編成を窮屈に

し、7 時限目を設定する学校も増え始め、部活動などが圧縮され、学校での学習・

生活をますますゆとりのないものとさせている。さらに、ゆとり教育による「学

力低下論」の強まりによって首都圏を中心として児童・生徒が学習塾にも通うよ

うになったため、むしろ時間的なゆとりは減ったとの指摘もある。ゆとり教育に

よって公立学校に失望し学習塾などに実効ある教育を求める風潮は、公立学校の

意義を失わせかねない。また、ゆとり教育の導入によって子供の「学力低下」が

言われているが、実際に起こっているのは「学力の二極化」である。つまり、で

きる子はそれなりにでき、できない子はよりできなくなった。残酷な言い方をす

れば、落ちこぼれるのは「仕方ない」これがゆとり教育の考え方なのである。

しかし、ゆとり教育の本当の弊害は児童・生徒の学力低下や公立学校の意義の

喪失といった単なる教育問題に限定されない。これは日本全体の問題でもあるの

だ。つまりどういうことかというと、できる子の保護者や経済力のある保護者は、

公立校にますます見切りをつけ、塾や私立校に通わせるようになる。そうなると、

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公立と私立の格差はさらに広がる。特に私立校の多い大都市部では、公立校は、

「底辺校」化する可能性がある。すでに実態はそうなりつつあって、特に公立の

高校には勉強意欲のない生徒が大量に押し寄せている。この現象が加速されると

いわゆる階級社会の出現と固定化が起こる。現に起こっている現象だが、「ゆとり

教育」の方針を根本的に転換しないかぎり、これからおそらく、職業スキルを身

につけるために必要な基礎学力のない、いわゆる「フリーター志望者」たち、つ

まりは「若年失業者」たちが大量に発生する危険性がある。それは、企業との間

に大きなミスマッチを引き起こし、また、若者たち自身も、自分の居所がいつま

でもはっきりしない「精神的ホームレス」のような人生を送る可能性が高い。そ

して、これは国家全体の治安問題にもつながる。ゆえに、このような愚策は手遅

れにならないうちに一刻も早く廃止すべきだと考える。

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第3節 学校選択制

先日の自民党総裁選挙に出馬した三氏に重点政策には義務教育改革について、

述べられていたので、簡単にまとめてみた。

安倍氏の教育に関する政権構想

・ 高い学力と規模意識を身につける機会の保障

・ 学校や教師への評価制度導入、社会体験制度、学校選択制、教育バウ

チャー制

谷垣氏の教育に関する政権構想

・ 読み書きそろばん世界一プロジェクト

・ 徹底した反復学習を義務教育全体で実施

麻生氏の教育に関する政権構想

・ 就学年齢を一、二年前倒しして、基礎教育を徹底

・ 義務教育終了後、職人や芸術などの道を用意

このように義務教育制度の見直しは現在の日本国家の最重要課題のひとつだ

といえる。

少し前から「ゆとり教育」の見直しがなされてきている。小学校での英語必修

化導入や総授業時間数の増加も検討中である。また、横浜市と京都市で行われて

いる、公立校の教師が働きたい学校で働ける、FA 制など、小学校での学力水準向

上により公教育への信頼回復を目指している。

ではなぜ、「ゆとり教育」が見直されるようになったのであろうか。それは近

年、公立の小中学校に対する保護者や地域からの評価が落ちたからであろう。東

京都心の区立小学校では児童の約 4 割が私立の中高一貫校などに進学し、都内の

小学校全体平均で見ると、児童の約 17%が私立中学校へ進学している。このこと

から、公立の中学校への信頼度は薄れてきているということがわかる。そこで進

められてきているのが免許を持たなくても実社会で知見を積んだ人材を登用する

制度や、六・三・三にとらわれない学校や、地域社会に合った「コミュニティス

クール」の設置や学校や教職員の外部評価を反映する学校選択制である。この制

度は教育の受けてである保護者からの期待は高い。内閣府の保護者に対するアン

ケートによれば、学校選択制に「賛成」と回答した保護者は 64%にのぼり、「反

対」と回答した 10%を大きく上回っている。

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(2006/4/14 読売新聞)

学校選択制は近年採用する自治体が増加している。しかし、小中学校ともに約

一割の自治体が導入しているに過ぎない。しかし、学校選択制を導入した品川区

などでは、学校や教職員の意識や姿勢に変化が見られ、不人気校が人気校へ転じ

たという実例も出始めている。また、特色ある学校づくりなどの取り組みについ

て、地域社会に対する説明責任を積極的に果たすようになり、結果として地域社

会から学校に対する期待の声が寄せられるようになるなど、地域との関係が強化

される傾向も示されている。しかしその一方、江東区では、入学者が 7 人、品川

区や荒川区、墨田区では入学者 0 名という小中学校が出てきたにも事実である。

現在、学校教育法の政省令においては、就学先の学校は教育委員会の指定する

居住区の学校に市町村が指定することになっており、保護者の意見は「聞くこと

ができる」程度にとどまっている。この通学区域制、指定校制の基本は現在も変

わっていないが、1997 年の「通学区域制度の弾力的運用について」 (文部省通知)

を受けて、翌 98 年から三重県紀宝町が、規制緩和の流れを受けて「保護者と児童

生徒に選択の幅をもたせる」ようになった学校選択性を導入し、次いで 2000 年か

ら東京都品川区で導入されたのを皮切りに、豊島区、足立区、荒川区、江東区、

杉並区、墨田区などや日野市、多摩市、岐阜県穂積町、滋賀県大津市などで次々

と導入されてきた。また岡山市では入学先を本来の通学区の隣接校まで認める「隣

接方式」、横須賀市は市内の数校の」通学区を一つまとまりにする「ブロック方式」

を採用した。

そもそも、学校選択性のメリットとデメリットとしてどのような点が挙げられ

るのであろうか。学校選択性のメリットとデメリットを挙げてみた。

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学校選択性のメリット

・ 保護者が選んだ学校に子供を通わせることができる。

・ 学校側が児童、生徒に就学してもらうように環境を整える。

学校選択性のデメリット

・ 就学する学校が遠くなってしまう場合がある。

・ 不人気校の環境が悪化する可能性がある。

・ 希望の公立学校に行けない場合私立に流れる可能性がある。

・ 限られた情報の中で保護者が決定することになる。

・ 定員オーバーの場合は抽選となる。

学校や教職員の教育の質の向上に向けた努力を促すためには、就学先は教育の

受け手が主体的に選べることとすればよい。しかし、学校に通う児童、生徒が決

めるのではなく保護者が限られた情報の中で決めることになるのである。就学す

る学校が遠いと、顔見知りが少なくなり危険も増えるとともに、近所の友達とも

疎遠になる可能性もある。その上、同じ学校の友達とも交友関係を深めにくくな

る可能性もある。学区によって遠い学校に就学することになる児童、生徒が存在

しているので、学区の見直しも必要である。また、地元以外の学校に通う子供と

その保護者の生活、友好関係は地域社会から切断されることとなり、その結果、

地域社生活圏の分断化が進み、地域社会の活力やケア機能も低下していく危険性

がある。

また、学校選択制と共に安倍新政権が進めようとしているのがバウチャー制で

ある。バウチャー制とは、予算を生徒数に応じて配分する制度である。この制度

は私立校にも生徒一人あたり公立校と同じ予算を配分する。さらに、この制度で

は、学校選択制で不人気校や過疎地の学校においては生徒数が減った分だけ予算

が減ることになり、学校選択による児童生徒数の増減によって、予算配分格差が

拡大することになり、安倍新政権の「高い学力と規模意識を身につける機会の保

障」とは矛盾することになる。

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第 4 節 各国比較

各国の教育制度はどのようなものであろうか。この節では、イギリス、アメリ

カ、ドイツ、フランスの 4 カ国の教育制度について述べる。

1.イギリス

GABITTAS http: / /www.gabbitas.co. jp/index.html より イギリスの義務教育は、イングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイル

ランドの 4 つの国に分かれていて、4 つとも 5 歳から 16 歳までの 11 年間である。

以下、基本的なことを箇条書きにする。

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・小学校

一般的に「プライマリー・スクール」と呼ばれ、初等教育を行う。

・中学校

一般的に「コンプリヘンシブ・スクール」と呼ばれ、中等教育を行う。

・シックス・フォーム

中学校を卒業後、主に大学進学を目指す生徒が学ぶ二年制の教育課程。

・大学

もちろん、高等教育の場だが、日本とは違い三年で卒業するのが原則。

「ヨーロッパの教育現場から-イギリス・フランス・ドイツの義務教育事情」2005

年 春風社 より

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2.アメリカ

アメリカの義務教育期間は、州によって異なってはいるが、おおむね 5 歳から

18 歳までの 13 年間である。

・幼稚園(kindergarten:小学校入学の準備期間としてとらえられており、通常

小学校に併設されている)

・小学校、

・中学校および高校(日本と同じ六・三・三制以外に四・四・四制、五・三・四

制、六・二・四制、六・六制、八・四制などあり、それぞれの学校の呼び方も様々

である)で 12 年間の義務教育が行われている。

また、公立学校の運営は、州政府および市町村にゆだねられており、その運営

のための財源は、主に州からの補助金と地域住民の税金により賄われているが、

実際に各学校の教育行政に大きくかかわってくるのは、州教育委員会の下に置か

れている学校区であり、この学校区(school district:特別の目的の達成のため

に州法の定めるところにより設置される特別区の一つであり、特に公教育の実施

を目的とするもの。全米で約 1 万 5000)によってそれぞれ独自の教育がなされて

いるところがアメリカの教育の特徴である。

教育に関する権限は、憲法上各州に属することになっており、基本的な教育制

度や教育政策は、各州によって決定される。州政府は、一般的教育基準、卒業要

件、教師資格等を定め、それに従って、各学校区は、カリキュラムの決定、教師

の雇用等を行っている。学校区へは州からの補助金が交付されていることもあり、

州の統制力が働いてはいるが、各州によってその程度は異なっており、むしろ、

その財源の多くが区域内の住民に賦課されている税金(主に固定資産税)である

ことから、地域住民の意志が大きく反映されている。また、連邦政府の財政的関

与は、各州によって大きく異なってはいるが、全米平均で学校区の収入の中の

10%にも満たない状況である。

財団法人 自治体国際化協会

http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/jimusyo/113NY/INDEX.HTM より

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3.ドイツ

「ドイツの学校制度」 http: / /steiner.blume4.net/d_schule.html より

ドイツでは、教員給与はすべて州が負担する。ドイツの教育制度の根拠法は

連邦憲法・各州の憲法、教育関係法などである。ドイツの義務教育期間は、16 州のうち 11 州が 6~ 15 歳の 9 年間、5 州が 6~ 16 歳の 10 年間である。評価方法は絶対評価である。 ドイツの日本と根本的に違う所は、シュタイナー学校と総合学校を除き、小学

校が 4 年制という点である。就学開始年齢は 6 歳と日本と同じであるから、日本で言えば、小学 4 年生の時点で進路を決めなければならない。 大学へ行くための国家資格であるアビトゥーアを取得するためには、小学校卒

業後に 9 年生のギムナジウムへ行かなければならない。大学へ行く必要を感じなければ、 5 年制の中学校へ行って義務教育を受ける。小学校卒業後、さらに勉強したいが大学へ行くほどではない場合は、専門技術も学ぶ 6 年生の中等実科、商科学校へ進学することになる。これらの進路は小学校の成績で決まり、一定の学

力がなければ、ギムナジウムへ行くことは出来ない。

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シュタイナー学校は一貫教育で、小学校と同じく 6 歳で入学する。途中で進路を分けられることもなく、落第もないので 18 歳で卒業する。大学へ行くためには、シュタイナー学校を卒業した後、 1 年から 2 年のギムナジウムを受験する為の授業を受けて、アビトゥーアを受ける。 シュタイナー学校を真似て出来たのが 13 年間一貫教育の総合学校である。ま

だ比較的新しい教育制度であり、アビトゥーアを受ける資格がある。しかし、一

貫教育を真似ただけで、中身がついてきていないという現状がある。 大学へ行くための国家資格であるアビトゥーアは、取得後すぐに大学へ行かな

ければならないというわけではなく、一生使える資格である。ドイツでは、好き

な大学の好きな学部へ入学する事ができる。しかし、人気のある大学では定員制

になっており、アビトゥーアの点数で入学できるかどうかが決まる。また、アビ

トゥーアは受け直すことはできず、受験資格も 2 回までとなっているため、 2 回とも落ちたら、大学へ行くことは出来ない。日本に比べて、だいぶ厳しい制度と

いえる。また、10 歳で進路を決定するため、親の意向で進路が決まることが多い事も問題である。

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4.フランス

フランスでは、教員給与はすべて国が負担している。フランスの教育制度の根

拠法は、教育法典である。

フランスの義務教育期間は 6 歳~16 歳までの 10 年間となっている。そのうち

初等教育は、就学前教育との接続性をもたせるために、幼稚園最終学年と小学校

の5年間をひとまとまりのものとし、この計 6 年間を前半「基礎学習期」と「進

化学習期に二分している。日本の中学校にあたるコレージュは 4 年間となってい

るが,中学 2 年の修了時に技能を身につけるか,リセと呼ばれる高校に進学する

かを選択しなければならない。

高校は 3 年間であるが,日本と違う点は修了時にバカロレアと呼ばれる国家試

験があり,これに受からないと卒業も大学進学もできないということである。大

学は学部レベルが 3~4 年間となっており,この他に技術系の短大や教員養成のた

めのマスタークラスの特別コースも設置されている。

フランス の小学校教育

「 www.nichibun-g.co.jp/library/sha-kyoshitsu/025/k251921.htm 」より

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第2章 政策提言

第1節 小学校・中学校で統一的な卒業試験を導入

近年、進級すればするほど授業がわからなくなった、ついていけない、と回答

する生徒が増えている。

ドイツ、フランスなどの先進国で卒業試験の実施、留年制度を実施している。

日本で留年制度を採用するか否かについては、義務教育年限に差が出てしまうの

で一概に良いとは言えない。しかし、全生徒の学力を一定に保つためには、全国

で統一的な卒業試験(国家試験)を導入すべきである。そのことによって、生徒

全員が試験に合格するために、各学校は創意工夫をせざるを得ない。つまり、よ

りわかりやすい授業を追求したり、場合によっては、補修を行ったりすることも

あるだろう。これで塾に行かなければ勉強についていけないという状況をなくす。

そして、各家庭の教育費負担額を全体的に減らし、家庭の経済力による教育の質

の差を招かないようにするのである。

第2節 幼稚園からの義務教育化

義務教育を語るうえで小中学校ばかりに目を向けていてはいけない。より良い

子供の成長と発展を願って、我々は新たな義務教育改革案として「幼稚園からの

義務教育」の導入を推進したい。つまり、小中学校の9年間と定められている義

務教育に幼稚園などの幼児教育を加え、義務教育の期間を 10~ 11 年間程度に延長

するのである。その狙いと目的は、幼稚園―小学校の区分による環境の変化が学

力のばらつきを招いているため、幼稚園を義務教育に含め、一貫した学習体系を

構築することである。また、幼児教育を無償にすることで、以前から懸念されて

いた少子化対策を強化する面もある。義務教育をめぐっては、近年、小学校低学

年で、集団生活になじめない児童が騒いで授業が混乱する「小1問題」が起きて

いる。幼稚園―小学校―中学校と進学するにつれ、指導の内容、難易度などが大

きく変わり、成績格差が拡大する問題も指摘されている。諸外国では、例えば、

英国は 5 歳から 11 年間を義務教育とし、2000 年から5歳未満を対象に無償の保

育学校を拡充している。フランスも 1989 年から公立幼稚園を無償にしている。「幼

稚園からの義務教育」導入は決して非現実的な案ではない。また、義務教育の枠

内で、「幼小一貫校」を創設し、普通の幼稚園か一貫校かを選べるようにすれば子

供の将来の可能性もこれまで以上に広がるだろう。

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しかし、この改革案に対するデメリットや反対の意見も数多く考えられる。例

えば、両親が仕事を持つ家庭では、今までは満6歳になるまでは慣れ親しんだ保

育園に子供を預けることができていた。ところがもし、1~2 年早く小学校に入学

する義務が出てくると 4、5 歳になると保育園にいられることができなくなる。保

育園の場合、19 時から 19 時半まで預かってくれるところが多いが、小学校は長

くても 18 時までである。そうなれば働く親たちは子供が小学校に通うようになる

と仕事を辞めざるをえなくなる。それがもっと早い段階に起こるということであ

る。また、今はただでさえ通学が危険な時代である。今の小学生よりもっと小さ

い子供が毎日自分の足で登下校すると考えると子供たちの安全面が非常に心配で

ある。このように、改善すべき問題も多いため、この改革案が本当に実現できる

かは定かではない。しかし、少なくとも検討してみる価値はあるのではないか。

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第3節 「知識ではなく、考え方を身につける」教育に

現在の日本の教育は詰め込み式の教育と言われている。その教育では、ただや

らされているという感覚がある。そして、ただ、知識を教えるという受け身のス

タイルの授業は学校の授業としてやることなのか。それよりも自ら進んで学び、

そして筋道をたて、論理的に考える。このような学ぶ者自身が積極的な立場で学

ばなければならない。調べていく上で、そのような教育方針を掲げ、実行してい

る国があった。それは、イギリスである。

イギリスの教育課程の中に、「シックス・フォーム」というものがある。イギ

リスには日本の高等学校にあたるものはない。この「シックス・フォーム」では、

大学への進学をめざす者は、2 年間この「シックス・フォーム」で勉強する。日

本の予備校と形が似ている。

そして、この「シックス・フォーム」の中での、基本的方針が、「知識ではなく、

考え方を身につけること」である。

例えば、日本の歴史教育では、日本史と世界史に分かれ、古代から現代の流れ

を追っていく。人名や、事件の羅列、年号など、ほぼ暗記ものが中心である。し

かし、イギリスででは、時代や地域を絞って学習するのが一般的である。そして、

授業では、教師が一方的に教えるのではなく、いろんなテーマを与えられ、その

テーマを生徒自身が、書物などを通じて考えながら検討していく。そして、生徒

がそれらのレポートをこなしていくことで、論理的に筋が通った自分なりの結論

を引き出せるようになっていく。

要するに「シックス・フォーム」で行われていることは、テーマについて自ら

が研究し、さまざまな角度から考え、論理的に考え、結論を導くということであ

る。知識を生徒に押し付けるのではなく、生徒が様々な視点から物事を見ること

ができるようにする授業を行うことが教師に求められる能力である。

そして、授業の中に「クリティカル・シンキング」というものがある。シック

ス・フォームでは、これは必修授業とされている。「クリティカル・シンキング」

は日本語に訳すと、「批判的思考」という意味だが、一体どういうものなのか。

まず、この科目の定義として、次の 3 点が上げられる。

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①信じていいことと、信じてはいけないことを、論理的に判断すること。

②自分の思考力をより良く、すなわち明快で正確、反論の余地のないものとす

るための思考訓練。

③これらの思考に責任がもてる能力を育てるため、自分の考えを分析し、評価

するためのきちんとした基準をつくりあげ、その基準を利用して、さらに思

考力を高めること。

以上のことを踏まえ、論理的な考え方を身につけるのがこの授業の目的である。

「教育とは-イギリスの学校から学ぶ」2005 年、小林章夫 より

このような教育制度を日本の義務教育に取り入れることで、生徒が勉学に積極

性を見いだし、生徒が授業についていけないという状況をなくす。これで、塾代

などの教育費を減らすことができる、そして、経済をさまざまな視点からみるこ

とができる。現在、突然大学に入り、経済を学ぶという状況であるが、そのよう

な考え方が身についていれば、経済を様々な角度で見ることができ、経済発展に

つながっていく。

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第4節 教員塾の創設

現在、公学校の信頼度が失われている。それを阻止し、信頼回復のために学校

選択制の導入が求められ、一部では学校選択制が取り入れられている。 しかし、義務教育期間の学校選択制は学校間の格差につながり、児童生徒に平

等の教育を受けさせることが出来なくなってしまう。平等の教育を提供し、信頼

を回復させるため教員塾の義務化を図りたい。教育塾の義務化とは、政府が教師

を指導する機関を創設し、その機関で教師が児童生徒の指導の仕方を学び、教育

の質の向上の努めるものである。 このような機関の設置により、学校選択制を導入することなしに公学校への信

頼の向上が期待でき、平等な教育を受けさせることも可能となる。

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第3章 結論

このように我々は様々な視点から義務教育についての分析・提案をしてきたが、

それらを踏まえたうえで、義務教育は必要であるという結論に至った。というの

もこれまでの分析・提案からもわかると思うが、日本は今日、先進国の 1 つとし

て世界をリードする立場にいる。経済大国日本として成長して出来たのは日本の

教育、強いては義務教育制度が優れていたからである。全てが教育のおかげとま

では言わないが、このことについては、納得できるだろう。ただし、時代という

ものは常に変化し続ける。いつまでも昔と同じことをしていれば必ずいつか変化

に対応できなくなる。つまり、先の章で我々が述べた新たな義務教育のあり方を

行い、現代に合った義務教育制度を確立すべきである。義務教育がない場合の想

定は困難な作業であるが、マイナスの影響が大きいことを想像でき、義務教育の

必要性を認識できるのではないか。現在では、義務教育費の負担先や財源確保・

国と地方の裁量権・そして通う側の選択の幅などといった多くの問題を抱えてい

る。先日の総裁選でも教育問題は注目され、安倍首相も教育が最重要課題だとい

っているところからも、義務教育問題の解決が急務であることがわかる。要する

に、ゆっくりと議論している余地はないが、簡単には決められない義務教育の制

度を国民がもっと注目し考える必要がある。その上で我々は、義務教育の必要性

を訴え、将来の日本にとって最善の制度整備をされることを望む。

最後に、今日の我々の能力の根底には義務教育があったことを忘れてはならな

い。

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<参考文献>

・小浜逸郎( 2002)『歴史上最愚策「ゆとり教育」の元凶を糺す』 週間新潮 ・小林章夫(2005)『教育とは-イギリスの学校から学ぶ』NTT出版

・下条美智彦(2003)春風社

『ヨーロッパの教育現場から -イギリス・フランス・ドイツの義務教育事情』

・二宮皓(1995)『世界の学校』学事出版

・藤田英典( 2005)『義務教育を問い直す』ちくま新書 ・日本経済新聞

・読売新聞( 2006/4/14)

・文部科学省HP「 http: / /www.mext.go.jp/b_menu/soshiki/daij in/04081001.htm 」 ・ OECD( 2004)図表で見る教育

「 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/04091401/002.htm 」

・ 総務省(平成 17 年度)地方財政の状況

「 http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020322_3.html 」

・ドイツの学校制度(2006/10/01)「 http://steiner.blume4.net/d_schule.html 」

・教育制度(2006/10/01)

「 http://www.d1.dion.ne.jp/~kalinka/china/colum/colum1/kyouiku.htm 」

・日本の教育を考える 10 人委員会からの提言(2006/10/3)

「 http://10nin-iinkai.net/data/shiryo.pdf 」

・諸外国の義務教育制度の概要(2006/10/04)

「 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/gijiroku/001/040

52101/009/006.htm 」

・ GABITTAS( 2006・ 9/15)「 http://www.gabbitas.co.jp/index.html 」

・ 財団法人 自治体国際化協会(2006/10/1)

「 http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/jimusyo/113NY/INDEX.HTM

・ YOMIURI ONLINE

「 http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060101ur02.htm 」

(2006/1/1)

・フランスの小学校教育

「 www.nichibun-g.co.jp/library/sha-kyoshitsu/025/k251921.htm 」

・ ドイツの学校制度「 http: / /steiner.blume4.net/d_schule.html 」

・「 http://www.f.waseda.jp/katagi/eguchi.ht 」

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