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曝気式循環施設により生じる貯水池内流動の 現地観測 1 2 3 1 ダム センター (〒102-0083 2-14-2 NK ル) E-mail: [email protected] 2 員 パシフィックコンサルタンツ株 (〒163-0730 2-7-1 第一 ル) 3 ダム センター( によって じる 握するため した. 3 ある.①ADCPけた による ,② したADCPによる 1)に ,③多 けた による する .こ かったイントリュージョンにつ いて 握するこ きた.イントリュージョン ため, に大きく影 されるこ かった.また による わせられたため,イントリュー ジョンによる によって され する より 大きかった. Key Words: destratification system, intrusion, ADCP, reservoir, water quality, water bloom 1. 序論 ダム により, するこ がある.こ による栄 が滞 するこ によって,ア オコ いった する がある.アオコが する から じる に大き ぼすおそれがある.そ ため,これま 案・ されてきて いる 1),2),3) 一つ ある して, させる ある.こ により, から にかけて する ある.そ して, する に, より させるこ により, する している.そ して ,これま 多く されている 4),5),6),7) .また 因に して われてきている. Lorenzen and Mitchell 8) における栄 バランスにより, して している.こ して, 9) について している. 10) における し, して, 案している. により しよう する ある.そ ため, により じる ・運 する ある えられる. により して から あるこ から,一 における 多く されてきている 11),12) .また により した いくつか られる. 13) いて 10m )における している.こ デー タより, たり ってい る. 羽ら 14) から 40m 囲における から,2 を確 している.そ から, に大きく している.しかし, 15) 16) しているように, による 囲に たらす いう から ,イントリ ュージョン( により げられた

曝気式循環施設により生じる貯水池内流動の 現地観測...ADCP の設置位置は,曝気による流れ場を考慮して決 定した.曝気式循環施設の周辺には,図-3に示すような

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曝気式循環施設により生じる貯水池内流動の 現地観測

梅田 信1・宮崎貴紅子2・富岡誠司3

1正会員 博(工) 財団法人 ダム水源地環境整備センター (〒102-0083 東京都千代田区麹町2-14-2 麹町NKビル)

E-mail: [email protected] 2正会員 パシフィックコンサルタンツ株式会社

(〒163-0730 東京都新宿区西新宿2-7-1 新宿第一生命ビル) 3正会員 財団法人 ダム水源地環境整備センター(現:国土交通省青森河川国道事務所)

曝気式循環施設によって生じる水理的な環境変化を把握するための現地観測を実施した.主要な観測項目は,次の3点である.①ADCPを取り付けた観測船の曳航による流動空間分布の計測,②曝気の比較的近傍に設置したADCPによる長期間(約1ヶ月)に渡る流速分布の計測,③多水深に取り付けた自記式水温計による水温成層の形成・破壊に関する計測.この結果,従来観測事例の無かったイントリュージョンについて把握することができた.イントリュージョンの挙動は,水面での連行のため,貯水池表層水温の変動に大きく影響されることが分かった.また複数の曝気による流量が重ね合わせられたため,イントリュージョンによる湖水流動量は,曝気によって直接連行され上昇する流量より数倍大きかった.

Key Words: destratification system, intrusion, ADCP, reservoir, water quality, water bloom

1. 序論

ダム貯水池には,上流域の条件により,微細懸濁物質(濁質)や人為的な汚濁負荷が流入することがある.この様な負荷による栄養塩類が滞留することによって,アオコなどの藻類の異常増殖といった富栄養化現象が発生する場合がある.アオコが発生すると,湖岸からの景観障害や上水道の浄水ろ過障害や異臭味障害が生じるなど環境面・利水面に大きな影響を及ぼすおそれがある.そのため,これまでも様々な対策が提案・実施されてきている 1),2),3). 富栄養化現象対策の一つである曝気式循環施設は,気泡の浮力を利用して,貯水池内に循環流を発生させる装置である.この循環流により,表層から中層にかけて混合層を形成するものである.その結果として,表層水温の上昇を緩和すると共に,藻類を補償深度より下層まで拡散させることにより,藻類異常発生を抑制する事を目的としている.その効果に関しては,これまでにも多くの実績が報告されている 4),5),6),7).また藻類抑制の効果要因に関しても検討が行われてきている.

Lorenzen and Mitchell8)は,混合層における栄養塩制限条件と光制限条件のバランスにより,藻類の増殖抑制に関して検討している.この考え方を応用して,上田ら 9)は,

効果的な曝気設置水深の決め方について考察している.古里ら 10)は,混合層における成層強度と藍藻類の発生状況を整理し,藍藻類の増殖が顕著になる水理指標として,限界浮力周波数の考え方を提案している. 曝気式循環施設は,水理学的な手法により藻類生態系を制御しようとするものである.そのため,曝気により生じる湖水流動の把握は,施設の設置・運用方針を検討する上で,不可欠であると考えられる.曝気により生じる流動に関しては,流体力学的な観点からも興味深い現象であることから,一様水域中や密度成層中における実験的・理論的な研究も多くなされてきている 11),12).また現地観測により流動を計測した例もいくつか見られる.松梨・宮永 13)は,電磁流速計を用いて曝気筒付近(半径10m以内)における流速分布を計測している.このデータより,空気量当たりの連行流量の算定などを行っている.丹羽ら 14)は,曝気筒から 40mの範囲における流速分布の測定結果から,2 つの循環流を確認している.その結果から,外側の循環流は貯水池全体の流動に大きく寄与しないとしている.しかし,浅枝ら 15)や豊島ら 16)が考察しているように,曝気による循環の効果を広範囲にもたらすという貯水池の水質管理の観点からは,イントリュージョン(気泡噴流により持ち上げられた下層の低水

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温水が,密度流的に潜り込んだ後,外側へ広がっていく流れ)を把握することが重要だと考えられる. このように曝気式循環施設の効果と貯水池の水環境を考察する上で重要だと考えられるイントリュージョンの挙動であるが,直接的に流動を観測した例は,筆者らの知る限り皆無である.特に貯水池全域に渡るような,または長期に連続的な観測が実施されていない.したがって,実験室レベルでは比較的理解が進んでいる現象ではあるが,流入・放流あるいは気象条件などの要因が関わる現地での流動現象は,未だ十分に理解されたとは言えないのが実情である. そこで本研究では,ADCP (Acoustic Doppler Current

Profiler)を用いて,時空間的に広範な現地観測を実施し,貯水池内において曝気式循環施設が誘起する流動(特にイントリュージョン)と他の水理条件との相互作用を把握した.また,これらのデータを用いて曝気によって生じる流量や水温成層の混合効率について考察した.

2. 観測地の概要と観測方法

(1) 対象貯水池 本研究の対象は,広島県内に位置する土師ダム(竣工

1973年,総貯水容量 47.3×106 m3)である.この貯水池では,1988年頃から藻類の異常増殖がみられるようになり,夏期にはミクロキスティスを主とする藍藻類によるアオコが発生していた. このような状況に対して,種々の水質保全施設が導入されてきた 17).曝気式循環施設は,1999年に 4基が導入され,さらに 2001年には 4基が増設されたため,現在は合計 8基による運用が行われている.吐出空気量は各基とも 3.7Nm3/minである.また水質状況に応じた運転が出来るよう,散気口高さ及び運転基数が可変となっている.図-1に貯水池平面図を示す. 土師ダム貯水池の水理的な環境の特徴として,次のようなことが挙げられる.貯水池形状が湾曲しているため,この湾曲部に吹き寄せや停滞域が生じ,ここにアオコの塊が形成されやすい.また,ダム堤体からの放流量が0.50 m3/s~4.38 m3/sであるのに対し,ダムサイトより1km上流では,発電用水としてダム放流量の数倍(常時4.31m3/s,最大22m3/s)が取水されている.このような貯水池の水理的環境の中で,複数の曝気式循環施設が稼動しているため,貯水池内の流動状況は,各要因が相互に影響しあい,複雑なものになっていることが予想される. (2) 観測方法 現地観測は,大きく分けて二通りを実施した.①曝気式循環施設の設置されている貯水池の中流から下流部にかけて観測船を航行して行った空間的な流動分布観測,

②湖内数地点において計測器を設置して行った長期間の定点連続観測である.それぞれの実施要領は,以下の通りである. a) 曳航式空間分布観測 小型船に ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler : RD-Instruments社製 600kHz)を搭載して航行することにより,湖内の流動状況の観測を 2001年 7月 21日に実施した.図-1に示す測線上(T1~T5)を約 2ノットの低速航行をしながら,連続的にデータを取得した(約 5m間隔で 1プロファイル).また船を時々停止し,多項目水質計(アレック電子製 ACL-200PDK)を用いて,水温や濁度の鉛直分布を計測した. b) 設置式定点連続観測

図-1に示した観測点(A1~A3)に測定機を設置し,2001年 8月 17日から 10月 1日までに渡る比較的長期間の連続的な観測を行った.測定項目は,湖水流動・水温分布である.流動観測には曳航式観測と同型 ADCP を使用した.この ADCP を水中ブイで釣り上げることにより,湖底付近に上向きに設置した.水温は,鉛直方向に 1m間隔でロープに取り付けた自記式水温計(Onset社製 StowAway Tidbit)により測定を行った.ADCP及び水温計の設置状況を模式的に図-2に示す.また両項目とも10分間隔での測定とした.

ADCPの設置位置は,曝気による流れ場を考慮して決定した.曝気式循環施設の周辺には,図-3に示すような流動場が形成されている.このうち,下降流(外部プルーム)部分よりも内側は局所的な流動変化が大きい.そのため ADCP による観測は困難であると考えられる.すなわち,ADCP を図-2のように湖底付近に設置した場合,ADCPから発せられる音波は,図-2の点線のように上方に向かって広がっているためである.測定値として得られる流速は,この範囲の平均値である.一方,現地

El.242m

222m

232m

発電取水口

0 500m0 500m

曝気式循環施設

ADCP・水温計設置位置

ダムサイト

水質計設置位置

N

水温計設置位置

A3

A2

A1T3

T4 T5

T1T2

図-1 土師ダム貯水池平面図及び観測地点

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スケールで下降流(外部プルーム)が生じる範囲は,曝気から数十m程度であるとされ 14),これは本貯水池においても,曳航式観測時に目視等により概ね確認している. 本観測の目的は,曝気から貯水池内全体へと広がっていく流れであるイントリュージョンの挙動を把握することである.そのため,ADCPの設置位置は,音波の照射範囲を考慮すると,少なくとも 70m程度は,曝気から離す必要があると考えられる.これらのことを考慮に入れ,ADCPを図-1に示す 2地点に設置した.測点-A1は最も近傍の曝気装置から約 80m上流とし,測点-A2は最も上流に位置する曝気から約 150m上流に設置した. c) 水質モニタリング ダムサイト付近に水質自動観測装置(鶴見精機製,KW-I 型)が設置されており,水温,濁度,クロロフィル a,pH の鉛直分布を測定した.測定間隔は一時間であるが,出力として日平均値が記録されているのみである.そこで解析には,この日平均値を用いた.測定水深は,水深 0.5mから 20.5mまでの 2.5m間隔の 8層である.

3. 観測結果

(1) 曳航式観測結果(流動空間分布) a) 貯水池の概況 この観測前後の期間の曝気稼働状況は,もっとも上流側の 2基を除く 6基が,6月 29日から運転されていた.観測実施時のダム水理状況を図-4に示す.観測時の流入量は,およそ 10m3/sであったのに対し,発電放流が午前9時より開始されており,流入量の約二倍の 21m3/s程度が放流されていた.また当日の気象条件は,風速が3m/s前後であったことから,大きな吹送流は発達していなかったと考えられる.

図-6に貯水池内の水温鉛直分布を示す.水深 13m 以浅では,水面付近の日成層を除いて,ほぼ完全に混合している.さらに水深 20m(標高 223m)付近に比較的強い躍層が残っているが,これは曝気設置水深に概ね対応する.したがって,観測時点において曝気循環による混合層は,ほぼ完全に形成されていたと言える. b) 縦断観測結果

図-5(a)に縦断測線-T1 に沿った流速の観測結果を示す.この流速データは,貯水池流下方向(概ね南西-北東方向)の成分として整理している.また,発電取水の影響が貯水池内の流動に影響があると考えられること,及び貯水地形上もこの付近で屈曲していることから,発電取水付近で測線を分割した. 図の右端が測線上流端の発電取水口付近に対応し,左端はダム堤体付近となっている.流速の表示は,各地点における貯水池軸(澪筋)に沿った方向に対する流速成分を示すよう処理してある.また ADCP の計測データは,船の揺動などによるランダムな誤差が生じるため,

50m

75m

曝気装置-4

ADCP

水温計

El.223m

El.224m

夏期制限水位

El.242.9m ブイ

水中ブイ

計測範囲

図-2 測点A1における測定機設置状況の模式図

外部プルーム イントリュージョン

内部プルーム

散気管

流向連行

50m程度

約5m

図-3 曝気により生じる流動の模式図

242.0

242.5

243.0

水位

[EL.

m]

0

10

20

流入量

[m3 /s

]

7/20 7/21 7/22 7/230

10

20

放流量

[m3 /s

]

ダム放流量発電取水量 観測実施時間

図-4 曳航式調査実施時の貯水池状況

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若岡ら 18)によるデータ補正を加えている.図-5(a)から,流れの特性が以下のように読みとれる.(以下,下流端側の曝気から順に,曝気-1,2,…,8と番号付けする) まず最も特徴的な流れが,曝気-4から発電取水口にかけて見られる.水深 4~10m程度の範囲で,曝気位置から取水口へ向かう比較的強い流れが生じている.これが,曝気循環により生じているイントリュージョンであると考えられる.その下層では,イントリュージョンを補償するように下流へ向かう流れが存在している.この補償流は,曝気-4 の 30m程度手前から上方へ持ち上げられているように見える挙動を示している. 一方図-7には,曝気 3および 4の近傍の流動を整理した.左図は,3水深の水平方向流速を示している.右図は,カラム Aと Bとして示した 2地点の鉛直面内の流速分布である.カラム Aは,曝気から 100m弱離れた地点であり,カラム B は,縦断測線上で曝気のすぐ脇(ただし曝気からは 20~30m 程度離れている)の地点である.両者とも水平成分は,曝気に向かう流向としている.そのため,カラム A は東西流速(概ね貯水池流軸方向)であり,カラム B は南北流速(概ね貯水池横断方向)を示した. 曝気の近傍である,カラム B 付近の表層では,曝気に向かって吸い寄せられ,かつ潜り込む流れが生じていることが分かる.これは,外部プルームが潜り込む際に,水面付近の水を連行する事により生じている流動である.これは,丹羽ら 14)の観測した第 2循環流に対応するものだと考えられる.しかし,彼らの観測結果に比べ,本研究で得られた流速はかなり大きなものである.そのため丹羽らの考察とは異なり,また後述するように,この連行による流れは,湖内の流動に大きな影響を及ぼしてい

る可能性がある. 一方,カラム Bにおける標高 227~235mの中層部では,曝気から放射状の上昇流が生じている.これは,内部プルームの周囲で生じている上昇流が,中層で循環するような流れを形成しているものと推測される.またカラム A の同一水深では,逆に曝気へ向かう流動が生じている.こちらは,図-5(a)でイントリュージョンの補償流として示した下流向き(赤色部)の流れに対応するものである. 次に発電取水口より上流側の流動状況を図-5(b)に示す.この図では,左端が発電取水口付近に,右端が測線-T2上流端に対応する.観測当日は取水口より上流側では,曝気-5及び 6の 2基が稼働していた. 曝気-6 よりも上流側では,水深 10m付近より下層に,湖底を這うような下流向きの流れが生じている.貯水池上流端における流入水温が別途測定されており,観測当日の日平均値は 22.5℃であった.一方,貯水池内の水温分布は図-6に示したように混合層の上部(概ね 232mか

標高

[m]

曳航距離 [m]

発電取水地点 上流部曝気-5 曝気-6

0 200 400 600 800

220

230

240取水口水深

図-6(b) 測線T2における流速観測結果

標高

[m]

曳航距離 [m]

ダムサイト 発電取水地点曝気-1 曝気-2 曝気-3 曝気-4

0 200 400 600

220

230

240 取水口水深

図-5(a) 測線T1における流速観測結果

220

230

240

15 20 25 30

標高

[El.

m]

水温 [℃]

水面(242.7m)

曝気(223m)

測線T1下流端測線T5最深部測点A2

図-6 曳航式観測実施時の水温鉛直分布

-10

-5

0

5

10

流速[cm/s]

下流向

上流向

-10

-5

0

5

10

-10

-5

0

5

10

流速[cm/s]

下流向

上流向

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ら水面)は,23℃以上である.従って下層に生じている流動は,流入水が流下しているものだと考えられる.一方,曝気-6から上流へ向かうイントリュージョンは,あまり明瞭には現れていないが,水面から水深 7m程度までの層厚を持って上流へ流れている部分であると思われる.また,イントリュージョンの補償流が曝気付近で上昇している様子も,図-5(a)ほど明瞭ではないが,曝気-5前後で確認できる. (2) 設置式観測結果(定点連続測定) a) 水質状況 貯水池内の水質の状況として,ダムサイト付近の水質計測地点におけるデータを図-8に示す.上から順に日平均流量,曝気基数の時系列及び水温,Chl-a の鉛直分布時系列を示している.水温と Chl-aは,前述した 8水深の日平均測定値を内挿補間して作図したものである.また表層(水深 0.5m)の pH及び流入水温の時系列を下段に示している.流入水温は,ダムサイトから約 9㎞上流に位置する地点(図-1の範囲外)で観測されたものを示した. 曝気式循環施設の運用は,全 8基停止,4基稼働(曝気-2,4,5,8),全 8基稼働のいずれかのパターンで行われ,吐出高は各施設の最下位 EL.223.0m及び 225.5mで運用された.洪水流入のあった 9月 6日~7日(最大流入量 84 m3/s,洪水規模 19) β=0.39)及び,9月 15日~16日(最大流入量 478m3/s, 洪水規模β=1.16)には,流入した濁水を巻き上

げることによる濁りの拡散を防止するため,曝気装置を全て停止した. 洪水後に曝気が停止していることから,貯水池内の表層水温が上昇している.またクロロフィル a濃度も,出水前の 10µg/l程度から,出水後に表層付近で 20~30µg/lにまで上昇し,それに伴って pHも高くなる傾向がみられた.このように,洪水流入と曝気の停止がトリガーとなり,藻類が増殖したと考えられる現象が生じている. それに対して曝気の稼働後は,混合層が深くなるのにあわせるように,Chl-a 濃度も低下していることが分かる. b) 安定条件下における流動 図-9は,8月 23日から 31日までの測点-A1における流速プロファイルの時系列を示したものである.併せて,貯水位,流入量,放流量も示している.この期間は全般的に,比較的好天が続いており,流入量・ダム放流量ともに安定していた.そのため,湖内流動の変化に,曝気の流動特性が比較的明瞭に現れうるものと考えられる. 図-9の流速データは,図-5と同様に貯水池の流れ方向成分として示している.図-9b)の流速分布に青で示した上流向きの流動層がイントリュージョンであると考えられる.この流動層は,概ね日周期で上下動を繰り返していることが,大きな特徴である. 図-10は,この期間の中程である 8月 27日の水温鉛直分布である.曝気吐出口の 223mより上層では,概ね一様の水温分布となり,混合層が形成されていることが確認できる.また図-9b)でイントリュージョンに対応する

ダムサイトN

0.1m/s

A B約300m

カラムA カラムB

(標高)

240

235

230

225

0.2 0.2東西

0.2 0.20.2 0.2東西

流速[m/s] 0.2 0.2

北南0.2 0.20.2 0.2

北南

流速[m/s]

EL.239.7m

EL.235.7m

EL.230.7m

曝気4曝気3

図-7 曝気近傍の流動(左図:水平面流速,右図:鉛直面流速)

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流動層が上下動しているのは,形成された混合層内であることが分かる. このような中流域の流速挙動に対して,曝気施設よりも上流側での流動を確認しておく.図-9 c)に測点 A2における同期間の流速変動プロファイルを示す.なお,この地点では湖底地形および流速計設置の都合上,曝気の吐出水深までデータが得られていない. 測点 A2における流速・流向は,測点 A1ほどの変化は見られなかった.特徴として,ほぼ全期間で水深 5mまでが常に上流向きの流れを示していたことが挙げられる.曳航式観測の結果では,イントリュージョンがこの付近の水深に流入していると推測された.これらのことから,測点-A2すなわち最上流の曝気-8よりも上流側では,下層に流入水,上層に曝気のイントリュージョンという二層構造が典型的な流動状況だと考えられる.また,下流へ向かう流動(流入水)の影響が大きいため,測点-A1付近のようには,イントリュージョンが下層まで降下できないと考えられる. c) 曝気稼働の有無による流動の差と初期混合 アオコは,洪水により濁質などと共に運ばれてくる栄養塩類によって,洪水流入の数日後に生じやすい事が経験的に知られている.したがって,洪水時に停止していた曝気の運転を再開させた際の流動・水質挙動は,アオ

コの制御にも大きく関わると考えられる. 図-11は,9月 15日に発生した洪水後の状況を示したものである.上から流量,測点 A1の流速プロファイル及び水温プロファイルを時系列で示した.曝気は,洪水発生直後から停止されていたが,流速分布の図の上側に緑色の横線で示したように,9 月 21 日から再稼働している. このような貯水池の状況に対して,流速分布の変動を整理すると以下のようになる.曝気が停止して,流入量が概ね平常時のレベルまで落ち着いていた 9月 19日か

08/17 08/27 09/06 09/16 09/260

20406080

日流量

[m3 /

s]

Water Temperature

230

240

250

標高

[m] Water Temperature

230

240

250

標高

[m]

Chl-a

230

240

250

標高

[m] Chl-a

230

240

250

標高

[m]

8/17 8/27 9/6 9/16 9/26

048

048

曝気基数

6

8

10

pH

10

20

30

流入水温

[℃]

図-8 観測期間における貯水池内水質状況

05

10152025

流量

[m3 /s

]

ダム放流量 発電放流量 流入量

8/23 8/25 8/27 8/29 8/31

225

230

235

240

標高

[m]

8/23 8/25 8/27 8/29 8/31

225

230

235

240

標高

[m]

a) ダム諸量

b) 流速分布(測点-A1) 曝気稼働期間

8/23 8/25 8/27 8/29 8/31

225

230

235

240

標高

[m]

c) 流速分布(測点-A2)

-15 -10 -5 0 5 10 15流速 [cm/s] 下流上流

-15 -10 -5 0 5 10 15流速 [cm/s] 下流上流

図-9 8月下旬におけるダム諸量及び流速プロファイルの

観測結果(測点-A1,A2)

220

230

240

20 25 30

標高

[El.

m]

水温 [℃]

水面(241.6m)

曝気(223m)

図-10 測点-A1の 8月 27日における水温鉛直分布

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ら 21日の午後までは,多少流速の強弱に変化が見られるものの,全層に渡ってほとんど流動が生じていない状態であった.それに対して,曝気が再稼働後すると,その直後から流れ場に変化が見られるようになった.9月21 日以降,図-9にも見られたような日周期的な上下動を繰り返しながら,イントリュージョンが次第に深部へと移動していることが分かる. これは,曝気による混合が進み,水温躍層が徐々に低下しているためであると考えられ,図-11c)に示した水温分布からも読みとれる.曝気稼働前の 9月 21日までは,水面付近(水深 3m程度)の水温が上昇しており,比較的強い水温勾配の層が形成されていた.しかし曝気稼働後は,この層が破壊され,さらに曝気吐出水深付近まで水温がほぼ一様な混合層が形成されるようになった.その際,水面付近の成層が破壊されるのに要した時間は,半日程度であった.また曝気吐出水深付近までの混合層が形成されるのに要した時間は,2~3 日程度であった.このように,本貯水池において設置されている曝気の能力では,かなり短期間のうちに混合を進めることが出来ることが分かる. d) 洪水流入時の流動 測定期間中に生じた 2回の洪水中に洪水流入と曝気流動(イントリュージョン)の相互作用的流れが見られた.図-12に 9月 6日の洪水を含んだ期間における流速分布を示す.この洪水の際には,図中の緑線で示したように,

洪水翌日の 9月 7日までは曝気を稼働し,その後 4日間停止していた. 流入した洪水は,図-12で赤色(下流への流れ)として現れており,底層に流入している.このように貫入してきた洪水流に押し上げられるように,イントリュージョンが上昇している.そして,上層のイントリュージョンと下層の洪水流入という,はっきりとした二層流が形成されていたことが分かる. 洪水の収まった 9月 11日からは,曝気が再稼働している.このときにも前節の図-11 と同様,上層水の混合に伴い,イントリュージョンが徐々に低下している様子が分かる.

4. 解析と考察

(1) イントリュージョンの時空間変動特性 定点設置式の ADCP による流速の観測結果より,イントリュージョンが概ね日周期で上下に大きく変動することが分かった.この原因として,本貯水池においては次の二つが予想される.一つ目として,貯水池中流部に8基ある曝気の中間に位置する発電放流の影響である.この放流は毎日昼間に繰り返される上に,放流量が比較的大きいためイントリュージョンの挙動に与える影響も大きいことが予想される.二つ目に,日射・気温などの気象条件の日周変化による影響である.これは,直接的な流動に対する影響は少ないであろうが,流入水温の変動や日成層の形成といった,密度流的な要因からの作用を及ぼしている可能性がある.本節では,イントリュージョンの変動が比較的明瞭である 2001年 8月下旬(図-

a) ダム諸量

05

10152025

流量

[m3 /s

]ダム放流量 発電放流量 流入量

19

2021

20

9/17 9/19 9/21 9/23 9/25

225

230

235

240

標高

[m]

19

2021

20

19

2021

20

9/17 9/19 9/21 9/23 9/25

225

230

235

240

標高

[m]

9/17 9/19 9/21 9/23 9/25

225

230

235

240

標高

[m]

9/17 9/19 9/21 9/23 9/25

225

230

235

240

標高

[m]

曝気稼働期間b) 流速分布(測点-A1)

c) 水温分布(測点-A1)

図-11 測点-A1における出水後の流速及び水温プロファイル

の時系列変化

9/6 9/8 9/10 9/12 9/14

225

230

235

240

標高

[m]

曝気稼働期間b) 流速分布(測点-A1)

a) ダム諸量

-15 -10 -5 0 5 10 15流速 [cm/s] 下流上流

-15 -10 -5 0 5 10 15流速 [cm/s] 下流上流

020406080

100

流量

[m3 /s

] ダム放流量 発電放流量 流入量

図-12 測点-A1における出水時の流速プロファイル

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9)のデータを用いて,流速変動に対する要因について考察する. まず,イントリュージョンの上下移動をより明確に捉えるため,つぎのような処理をした.図-13は,観測された流速分布の一例(8月 27日 13時測定)であるが,矢印で示した範囲がイントリュージョンに対応する流速である.ADCPの設置地点が曝気の上流近傍であり,また流速データを貯水池の流軸方向成分に整理しているため,図-13のようにイントリュージョンは常に負値(上流向き)になると考えられる.そこで,各時刻の流速プロファイルに対して上流向きの流速となっている領域を取り出し,この流速分布について重心となる標高を求めた.その結果が図-14a)であり,これがイントリュージョンの上下変動を概ね示している.なお図-14a)のデータには,図の見易さのため移動平均を施し平滑化している. 一方,図-14b)は発電取水量の時系列,図-14c)は地点A-1における表層(水深 0.2m)水温の時系列(移動平均による平滑化済み)である.発電取水も表層水温も,昼間に上昇するという特性は同じである.そのため,一見するとどちらの影響をイントリュージョンが受けているか判別しにくく思われる.しかし,変動の位相が一致している点や 8月 30,31日の変動状況を比較すると,表層水温の変化に追従して,イントリュージョンの高さが変動していると捉える方が妥当であると考えられる. 表層水温の日変動がイントリュージョンの挙動に影響を及ぼす理由は,以下のメカニズムによると考えられる.気泡流とともに上昇した内部プルームが水面に衝突すると,気泡は水面から抜けていくため連行された水は浮力を失って下降を開始する.その際,表層水を多量に連行する事が,既往の研究で指摘されている 12).従って,外部プルーム及びイントリュージョンの密度は,表層水の密度(水温)及び表層水とプルームの連行係数により影響される.このうち,表層水温は,日射・気温の日周変化を受けて変化するため(日成層の形成),ここで着目しているイントリュージョンの変動の原因になると考えられる.日成層は,浅い湖沼における水平方向の混合に影響を及ぼす 20)など,自然湖沼においても水質現象との関連を論じられているが 21),曝気という水質保全施設の機能にも,影響をおよぼし得ることが推測される. (2) 曝気による湖水流動量 曝気により生じる湖水の流動量は,流動制御による水質保全施設としての評価をする上で,最も基本的な情報の一つである.本論文では,現地観測により得られたデータを用いて,以下に示すいくつかの方法により,流動量の推定を行った.

a) 上昇水量の推定 まず,曝気の稼働開始後に生じた水温の鉛直分布の変化(水温躍層の低下)から流量を推定した.これは,ある期間で躍層が低下した分の水量が,曝気によって下層から上層へと連行された水量に相当すると仮定することで得られる上昇水量である.先述したように観測期間中に 2回の洪水が生じており,この期間は曝気を停止していた.そのため,再稼働した際には,躍層の低下が比較的明瞭に現れている.この様子を,測点 A1における観測値から図-15に示す.なお,水温分布がデコボコしているのは,設置している個々の水温計の測定誤差に起因するものだと考えられる.

9月 11日及び 21日の両日とも 16時から曝気の再稼働をしており,このときの水温分布を実線で示した.また再稼働から 24時間後,48時間後の分布をそれぞれ破線と一点鎖線で示している.表層の水温が低下するとともに,躍層位置が順次低下している様子が明瞭である.これらの鉛直分布を用いて流量の算出を行ったところ,表-1のような結果が得られた.本論文では平均的な流量を得るために,再稼働時と 48 時間後のデータを用いた.また,躍層の位置を厳密に定めるのは難しいため,躍層の下端付近に対する代表水温をそれぞれの期間で定め,その水温が位置する標高の差を躍層の低下量とした.9月 11日稼働時については 22.0℃,21日稼働時は 19.5℃とした.また,各標高に対応する貯水容量は,ダムの管理データである水位-貯水量関係を元に求めた.このように曝気により生じる上昇水量を推定したところ,2回の再稼働後とも一基あたり約 3m3/sという同程度の値が得られた. なお上述の推定方法では,水温の鉛直分布が平面的に一様である事が前提となる.この点について,測点-A1,A2,A3の 3地点の水温分布から確認したのが図-16である.ここでは,9月 11日の再稼働時点(16時)及び稼働後 8時間(12日 0時)を抽出した.後者の時刻を選定

5 0 –5

225

230

235

流速 [cm/s]

標高 [m]

イントリュージョン

図-13 設置式 ADCP の観測結果による流速プロファイルと

イントリュージョンの判別

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したのは,稼働から余り時間が経っておらず,比較的混合が活発に進んでいることから,時空間的な水温変化が大きいと思われるためである.これに対して,図-16では若干の地点間の差が見られるものの,概ね平面的に一様な分布である事が分かる.無論,測定を実施していない貯水池の最上流端付近では,距離的に曝気から遠い事から,中下流部と同様な混合が生じていないという事もあり得る.そのため,得られた流量は過大評価であるという可能性は否定できない.しかしながら,上流部では貯水池幅が狭いことなどにより,容量としては大きくないため,ここで得られた約 3m3/sという値と大きくかけ離れることは無いと考えられる. 一方,曝気による上昇流量に関する推定式として,

Asaeda et al.22)による経験式

4 / 31/ 5

2( ) 0.302w BB

gQ z Q zQ

⎛ ⎞⎛ ⎞⎜ ⎟= ⎜ ⎟⎜ ⎟⎜ ⎟⎝ ⎠⎝ ⎠

(1)

が既往の知見として得られている.ここに QWは連行水量[m3/s],QBは曝気空気量[m3/s],z は曝気吐出口からの高さ[m],g は重力加速度[m/s2]である.この式を本論文の条件に当てはめ,QB =3.7[m3/min],z =7.5[m],g=9.8[m/s2]を代入すると,QW =2.2[m3/s]が得られる.ここで z の値は,曝気吐出口から躍層までの距離を想定し,表-1に示した 4 つの標高の平均値と曝気の吐出口標高(223m)の差とした. 水温分布から得られた流量と式(1)から求めた流量には,約 1.5倍の開きがある.この差については,次のよ

うに評価できる.水温分布を計測した測点 A1 から A3は,測点 A3が多少離れているものの,基本的に曝気施設の近くである.またいずれも貯水池の中央線に沿って配置されている.しかし,貯水池の端(上流部や側岸付近)では,イントリュージョンが急激に減速することから,到達が遅れたり届かなかったりすることが考えられる.そのため,湖内を均一と仮定して,水位-貯水量曲線より求めた流量は,過大評価となっている可能性が高い.また,式(1)は文献 22)において両対数のグラフに引いた回帰線である.このようなことを考慮に入れると,両者は良く一致している結論づけることは,妥当であると評価できる. b) イントリュージョン流量の推定 前節で検討した流量は,曝気により生じる混合(成層破壊)を評価する上で重要な水理量である.それに対して,イントリュージョンによる流量は,湖内の(特に平面的な)水質空間分布に影響を及ぼすと考えられる.アオコなどの富栄養化現象は,湖内の一部で局所的に発生することが多いが,曝気による流動の影響が及ぶ範囲では,アオコの抑制が可能になると考えられる.そのような観点から,イントリュージョンで生じている貯水池内の縦横断的な流量を把握することは,水質保全対策上,重要であると考えられる.本論文では,曳航式と定点式

225

230

235

240

0

10

20

26

27

28

29

標高

[El.m

]流量

[m3 /s

]水温

[℃]

a) イントリュージョン重心標高

b) 発電放流量

c) 表層水温(地点 A–1)

8/23 8/25 8/27 8/29 8/31

図-14 イントリュージョンの挙動と水理量に関する

時系列データ

20 21 22 23 24 25 26

220

225

230

235

240

245

水温 [℃]

標高 [

El. m

]

9/11 16:009/12 16:009/13 16:00

18 19 20 21 22 23 24

220

225

230

235

240

245

水温 [℃]

標高 [

El. m

]9/21 16:009/22 16:009/23 16:00

図-15 測点A1における曝気再稼働後の水温鉛直分布

上段:9月 11日再稼働時,下段:9月 22日再稼働時

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という両者の ADCP による測定結果それぞれを用いてイントリュージョンの流量を推定した. まず,貯水池の横断方向に曳航測定した結果を用いて,断面通過流量を推定する.図-17に,2001年 7月 21日の測線-T3,T4,T5 に対する測定結果を示す.この図では,青が貯水池上流へ向かう流れを示しており,測線の位置から表層付近から中層にかけての青い流速帯がイントリュージョンに対応すると考えられる.この流速分布のうち,中層における上流向きの流速から,流量フラックスを求めたところ,表-2のような結果が得られた.その際,側岸付近のように誤差が大きいと思われる範囲は除いて集計した. 一方,式(1)を用いて,水面における曝気一基あたりの流量を求めると 8.1m3/s が得られる.これと比べると,約 4倍もの大きさである.この理由として以下の 2点が挙げられる. 一点目として,式(1)の流量は気泡が上昇する際に連行する流量しか見積もっていない点である.つまり,前節で述べたように,上昇プルームが水面に衝突し下降を始める際に,水面付近で大きな連行が生じ 12),さらに外部プルームが下降する際にも外界水との連行が生じている.これらにより増加した流量を式(1)では見込んでいないために生じた差が含まれていると考えられる. 二点目には,こちらがより本質的であると思われるが,複数からの曝気の影響を受けている事が挙げられる.この貯水池では曝気が下流部に比較的集中して設置されており,本研究で設定した測線の上流側・下流側共に 4基ずつある.したがって,推定された流量は,必ずしも単

一基の曝気で生じた流動によるものではないということである.表-2の集計は,各測線における上流向きの流量を求めたものである.従って,これらの流量は,測線より下流側に位置する曝気 1~4により生じているものと考えられる.イントリュージョン流量は,測定している地点に最も近い曝気だけではなく,基本的にはこれら 4基すべての影響を受けるものである(ただし,遠いもの程影響が小さくなる).しかしながら,前節において内部プルームの流量を求めた際には,湖内の一様分布を仮定した推定値が,実験式(1)とも比較的よく一致していた.この事を考慮すると,表-2の値は,下流側 4基による流量が,ほとんど減衰せずに伝わって,合わさったものであると仮定できる. つぎに,貯水池内に定点設置した ADCP の観測結果を用いて,つぎのように流量を推定した.図-17に見たように,横断面内の流速分布は概ね鉛直一次元的である.また,ADCPが曝気の近傍に設置されているとは言え,上述のとおりイントリュージョンは,当該地点より下流の 4基の影響が重ね合わせられて生じている流動であると考えられる.そこで, I i i

i

Q U R z= ∆∑ (2)

のように各時刻のイントリュージョン流量 QIを求めた.ここに,i はイントリュージョンに含まれる測定セルの番号,Uiは測定セル iの流速, ∆zはADCPの測定セルサイズ(0.5m)である.ここで積算の対象とする Uiは,図-13で示した範囲としている.また Riは測定セル iの標高に対応する貯水池横断幅である.しかし,正確な測量結果が得られていないことから,図-17の測線 T3の測定結果からイントリュージョンの生じている標高の平均的な横断幅を求めた.その結果,概略値として 280mが得られたので,Riとして一定の 280mを仮定して流量を算出するものとした. 洪水等の曝気以外の影響が小さいと思われる 8 月 23日から 8月 31日を対象期間として,推定した流量の時系列を図-18に示す.平均流量は,32m3/s となった.この平均流量も,概ね式(1)から得られた値の 4倍となっており,さらに表-2の値とも近い.このことからも,当該地点におけるイントリュージョンは,下流側 4基の曝気の影響を受けたものとなっている可能性が高いことが伺われる.

220

230

240

20 22 24 2620 22 24 26

2001/9/11 16:00 2001/9/12 0:00

水温 [℃]

標高

[El.m

]

水温 [℃]

測点A1 測点A2 測点A3

図-16 曝気再稼働時における地点別の水温鉛直分布

表-1 水温鉛直分布の変化からの流量推定結果

曝気開始日 推定時間 間隔 [h]

基準水温 [℃]

標高 (曝気前)

[m]

標高 (曝気後)

[m]

容量差 [m3]

曝気 基数

一基あたり 流量 [m3/s]

2001/9/11 48 22.0 234.1 227.5 4.45×106 8 3.2 2001/9/22 48 19.5 234.0 226.3 4.80×106 8 3.5

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なお表-2や図-18の流量は,毎日昼間に生じている発電取水(およそ 15~20m3/s)による流速成分も含まれている可能性がある.しかし,この点に関しては次のような理由から,影響は小さいと考えられる.

図-18には,棒グラフにより発電取水量も示している.推定したイントリュージョン流量の変動と対比させてみると,両者の相関が高いとは言えない.また図-11及び図-12の流速分布で,曝気停止中には中層に明瞭な流動が見られない.これらの点から,図-18で推定した流量に発電取水の影響は小さいものと考えられる.そして,表-2中の測線 T3,T4は,取水口からある程度離れているため,同様に影響は小さいことが予想される.しかし測線 T5は,発電取水口の直近である事から,(度合いははっきりしないものの)流動に影響を受けている可能性はある. (3) 曝気の混合効率 曝気により成層を破壊する際のエネルギー効率は,水温分布変化に伴うポテンシャルエネルギーの増加とこれに要する曝気吐出エネルギーの比によって評価できる.このような評価は,曝気の効率的な設置・運用をする際に必要な情報だと考えられる.この効率は次の式(3)~(5)の関係から求めることができる 12), 23). 貯水池内のエネルギー増加 ∆E:

1 1

0 0( ) ( )

t z

t zE T gz A z dzdtρ∆ = ⋅∫ ∫ (3)

成層破壊に要したエネルギー e: ( )1 0 0( ) ( ) ln 1B A Ae t t T Q gH z Hρ= − + (4)

エネルギー効率 η: E eη = ∆ (5) ここに,ρ(t, T)は時刻 tにおける水温 Tでの水の密度[kg/m3], A(z)は水深 zにおける貯水池面積[m2], HTは曝気吐出口水深の水頭(大気圧+曝気吐出口水深,[m]),z0は曝気吐出口水深[m],HAは大気圧水頭[m]である.またエネルギー効率ηは,曝気諸元(空気量,吐出水深)と浮力周波数N[1/s]から定義されるプルーム数PN

43

TN

B

N HPQ g

= (6)

の関数として,図-19のような曲線が実験的に得られている 23). 本研究の観測期間中,曝気の停止・再稼働をした 2回の出水後期間について,時系列的に効率を求めた結果が,図-20である.ここで,縦軸に示した累積エネルギー効率は,それぞれの期間で稼働を開始した時点(9 月 11日 16時,22日 16時)からの水温分布変化及び空気量より求めたものである.また式(4)における空気量は,8基分の空気量として求めている.表示期間は図-11を参考に,概ね混合が完了するのに要する 3日間とした.さらに表層の混合度合いの参考となるよう,表層水温の時系列も併記している. 図-20より,どちらの期間についても,エネルギー効率が最大となるのは,曝気稼働開始から約 12時間後であることが分かる.この時点でのエネルギー効率は,両者で差が見られるが,0.1~0.15程度である.プルーム数を曝気開始時点と各時刻の平均値(相乗平均)として,実測から求めた範囲を図-19に示した.既往の実験結果と比較すると,同程度のプルーム数に対して大きな効率まで生じている.これは,効率がピークとなっている時刻が午前 4時頃であることから,大気との熱の授受によ

0 100 200 300

220

230

240

a) 測線T3標高

[El.m

]

0 100 200

220

230

240

b) 測線T4標高

[El.m

]

0 100 200

220

230

240

c) 測線T5標高

[El.m

]

曳航距離 [m]

-10-50510流速 [cm/s]下流向 上流向

-10-50510 -10-50510流速 [cm/s]下流向 上流向

図-17 横断測線の曳航式流速観測結果

表-2 ADCP曳航観測から推定した断面流量

測定日 測線 流量 2001/7/21 測線T3 37 m3/s 2001/7/21 測線T4 29 m3/s 2001/7/21 測線T5 33 m3/s

8/23 8/25 8/27 8/29 8/310

1020304050

流量 [

m3 /s

]

イントリュージョン発電取水

図-18 設置式ADCPの観測結果から推定したイントリュージ

ョン流量と発電取水量の時系列

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り表層付近が冷却される効果も加わり,見かけ上効率が高くなっていることが,理由の一つだと考えられる.それに対して,混合が概ね完了した 3日後までの累積値として評価すると,0.03前後である. (4) 曝気式循環施設の応用に関する提案と考察 近年曝気を用いて水温躍層の位置を制御することで,富栄養化現象のみならず冷水・濁水現象を含めた水質保全に用いることが検討されてきている.この方法は,洪水前の平常時からの比較的長期間に渡る流動制御により,季節成層を制御しようとするものである.それに対して本論文では,高濃度な濁水・栄養塩水の早期排出を行うための流動制御方策として,以下のような考え方を提案する.

図-5の曝気-4より上流では,中層から上層にかけての循環流的な流れ場が形成されている.すなわち,中層の躍層付近で流下している湖水が,曝気の上昇流により持ち上げられ,その後イントリュージョンとして貫入・循環している.この貫入水深が,観測時点では発電取水口の水深(233.8m~239m)に概ね対応している.従って,このような循環流を利用して,比較的下層に存在する水塊を強制的に排出することが出来る可能性がある. この考え方を出水後に応用すれば,濁水対策として用いることも出来るであろう.従来,洪水流入後の曝気稼働は,中層に貫入した濁水を巻き上げ,濁りの長期化を招くと考えられている.そのため,今回のデータにも見られるように,洪水流入後からしばらくの間,運転を停止することが多い.しかし定性的には,連行は静止流体側から運動流体側へと生じるため,ある程度の成層が維持されていれば,濁水は拡散しないと思われる.実際,他ダムで筆者らが実施した現地観測時における目視の状況では,下層から連行された濁水が拡散せずに,潜り込んでいく様子を確認している.特に中小規模洪水であれば,湖水よりも冷たい水が河川から流入することが多いので,中層(水温躍層)から下層にかけて成層化するこ

とが多い. このようなことから,曝気の設置・運用と放流水深(選択取水)をうまく調節することで,アオコ対策のみならず,濁水対策としても有効な利用が可能ではないかと考えられる.しかし,効果的な運用方法や適用限界などを,きちんと把握した上で実施していく必要がある.そのため現段階では検討課題として,今後取り上げていくべきものだと考えられる.

5. 結論

本研究では,富栄養化現象に対する湖内対策として有力視されている曝気式循環施設に関する現地観測を実施した.特に現地の貯水池において曝気の稼働によって生じる水理現象を中心に観測を行った.本論文の主要な結論は,以下の通りである. 1) ダム貯水池における曝気による貯水池内の流動は,従来考えられていたような鉛直一次元的な単純な流れではなく,時間的・空間的に大きく変動している.

2) イントリュージョンの貫入水深は,表層水温の日周期的な変化に伴い上下する.これは,水面近傍における連行の影響が大きいためだと考えられる.

3) 曝気によって生じる湖水流動量は,気泡により直

室内実験文献値23)

PNプルーム数

エネルギー効率

η

100 101 102 103 1040

0.05

0.1

0.15

0.2本研究の実測値から求められた領域

図-19 曝気の混合に関するエネルギー効率

0 1 2 30

0.1

20

25

30

曝気再稼働からの時間 [日]

累積エネルギー効率

9/1116:00

9/1216:00

9/1316:00

9/1416:00

水温

[℃]

曝気エネルギー効率表層水温(水深0.2m)

0 1 2 30

0.1

15

20

25

曝気再稼働からの時間 [日]

累積エネルギー効率

9/2116:00

9/2216:00

9/2316:00

9/2416:00

水温

[℃]

図-20 水温鉛直分布の実測値から推定した,洪水後の曝気

稼働時のエネルギー効率時系列

上段:9月 11日再稼働時,下段:9月 22日再稼働時

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接持ち上げられ,成層破壊に主に寄与する流量は,既往の研究成果とほぼ同程度の結果となった. それに対して,湖内全体に広がるイントリュージョンは,それぞれの気泡プルームで生じるイントリュージョンが重ね合わせられた流動となるため,流量もすべての曝気の影響を受けた値となっている.

謝辞:本研究を実施するにあたり,国土交通省土師ダム管理所にご協力をいただいた.現地観測においては総合科学株式会社にご助力頂いた.また,(株)建設技術研究所の陳飛勇博士,鶴田泰士博士との議論から,本論文の考察におけるヒントを頂いた.ここに記して感謝の意を表する. 参考文献 1) Asaeda, T., Priyantha, D. G. N., Saith, S. and Gotoh, K.:A new technique

for controlling algal blooms in the withdrawal zone of reservoirs using

vertical curtains, Ecological Engineering,Vol.7,pp.95 – 104, 1996.

2) 清水俊昭,矢沢賢一,丹羽 薫:三春ダムさくら湖の水質保

全対策,ダム技術,No. 143,pp.71 – 81,1998.

3) 吉田延雄,關 義雄:ダムに流入する栄養塩類の除去につい

て(実験報告),ダム技術,No. 181,pp. 89 – 100,2001.

4) 小島貞男:かび臭対策としての湖水人工循環法の経験,用水

と廃水,Vol. 26,pp. 837 – 844,1984.

5) 山崎博光:貯水池の人工循環による水道水の味改善,用水と

廃水,Vol. 27,pp. 773 – 779,1985.

6) 天野邦彦,藤原正好:成層破壊型曝気循環による貯水池水質

変化の現地観測とその評価,環境工学研究論文集,Vol. 39,

pp. 191 – 200,2002.

7) 関根秀明,吉田延雄,梅田 信,浅枝 隆:曝気式循環施設

の理論とその効果に関する考え方,ダム工学,Vol. 13, pp. 5 –

18,2003.

8) Lorenzen, M. and Mitchell, R.: Theoretical effects of artificial destratification

on algal production in impoundments, Environmental Science &

Technology, Vol. 7, pp. 939 – 944, 1973.

9) 上田倫子,横山繁樹,沢田寿:表層循環装置による植物プラ

ンクトンの異常増殖の抑制,第 9回世界湖沼会議,3F-P47,

pp.300-303,2001.

10) 古里栄一,浅枝 隆,須藤隆一:アンテナ色素の吸光特性

に基づく藍藻類の光学的および水理学的発生条件に関する現

地データを用いた考察-アンテナ色素・浮力周波数仮説-,

水環境学会誌,Vol. 26, pp. 285 – 293,2003.

11) McDougall, T. J.: Bubble plumes in stratified environments, Journal of

Fluid Mechanics, Vol. 85, pp. 655 –672, 1978. 12) Asaeda, T. and Imberger, J.: Structure of bubble plumes in linearly stratified

environments, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 249, pp. 35 – 57, 1993.

13) 松梨史郎,宮永洋一:曝気を考慮した水質予測モデルの実

貯水池への適用,水理講演会論文集,Vol. 32, pp. 251 – 256,

1988.

14) 丹羽 薫,久納 誠,大西 実,山下芳浩:貯水池流動制

御による水質保全対策,水工学論文集,Vol. 37,pp. 271 – 276,

1993.

15) 浅枝 隆,池田裕一,福田正晴,高見英明,ヴ・タン・

カ:貯水池内温度躍層制御における散気管の効率的運用方法,

水工学論文集,Vol. 38,pp. 319 – 324,1994.

16) 豊島 靖,天野邦彦,田中康泰:ダム貯水池における曝気

循環による成層破壊状況の現地観測と評価,水工学論文集,

Vol. 47,pp. 1243 – 1248,2003.

17) 中江兼二,奥井 誠,渡辺 誠:土師ダムの水質保全対策

-特に,散気管式曝気循環装置の効果-,ダム技術,No. 193,

pp. 88 – 94,2002.

18) 若岡圭子,横山勝英,石川忠晴:湖沼・貯水池における

ADCP観測の問題点と誤差補正に関する研究,水工学論文集,

Vol. 41,pp. 1041 – 1046,1997.

19) 安芸周一,白砂孝夫:貯水池の流動形態と水質,水理講演会論文集,第 18巻,pp.187-192,1974.

20) 銭 新,西部隆宏,石川忠晴:霞ヶ浦高浜入りにおける日

成層形成時の湾水交換量の推定,海岸工学論文集,Vol.43,

pp.1216-1220.

21) 石川忠晴,田中昌宏,小関昌信:浅い湖の日成層が水質に

おおよぼす影響,土木学会論文集,第 411号/II-12,pp.247-254,

1989.

22) Asaeda, T., Imberger, J., and Ikeda, H.:Bubble plume behavior in two-

layered environments,埼玉大学工学部建設系研究報告,Vol.20,

pp.19–32,1990.

23) 浅枝 隆,Imberger, J.:連続成層中の Bubble Plumeの挙動に

ついて,土木学会論文集,第 411号/Ⅱ-12,pp.105–112,1989.

(2004. 3. 22 受付)

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FIELD MEASUREMENTS OF FLOW FIELD CAUSED BY DESTRATIFICATION SYSTEM IN A DAM RESERVOIR

Makoto UMEDA, Kikuko MIYAZAKI and Seiji TOMIOKA

Field measurements were conducted to investigate hydraulic environmental changes caused by destratification systems. The measurements were designed to observe the following three points: 1) spatial distribution of flow field using a ADCP equipped to a boat. 2) time series of current profile at stations near bubblers. 3) water temperature monitoring to observe thermal stratification. These observations revealed interesting behaviors of intrusion. The depth of intrusion responses to diurnal changes of surface water temperature because of the entrainment around water surface. Flow volume of intrusion was influenced by all the bubble plumes and their accompanying current.