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- 65 - 生活者支援のための知的コンテンツ基盤 者:橋田 浩一((独)産業技術総合研究所 情報技術研究部門) 関:(独)産業技術総合研究所 I. 研究の全体計画 1. 研究の趣旨 ブロードバンドインターネットやデジタル放送の普及に 伴い,大量で良質の情報コンテンツへの需要が増大してい る。しかし,そうした大量のコンテンツを制作し,生活者 の興味や生活シーンに応じて選択し高度利用するための仕 組みがまだ整備されていない。さらに,そのような高度利 用の手段として期待される情報家電等の機器を生活者が使 いこなすための技術も未成熟である。 本プロジェクトでは,デジタル映像コンテンツ等の意味 内容を人間にも人工物にも理解できるように明示すること によって,コンテンツ作成のコストを低減するとともにコ ンテンツの品質(直接的には映像の美しさ等ではなく論理 構成やストーリの品質)を高めるようなコンテンツ作成支 援技術,および,そのように意味内容を明示した映像コン テンツ(知的映像コンテンツ)を情報家電機器等を介して 高度利用する技術を確立する。情報コンテンツの制作と利 用の効率と品質を高める技術を提供することにより,プロ のコンテンツクリエータを支援するとともに,一般の生活 者が参画することもできるコンテンツの創造と流通の基盤 を構築し,コンテンツ産業や情報家電産業を中心とする経 済や文化の活性化に貢献することを目指す。 そのため,映像コンテンツや生活者の行動や家電機器の 機能に関するオントロジー(概念体系の形式化)と,その オントロジー(生活オントロジー)に基づいて構造化さ れた良質のコンテンツをプロのクリエータや一般の生活 者が制作し高度利用することを可能にする基盤ソフトウェ ア(生活オントロジーに基づく意味記述を解釈するミドル ウェア)を構築する。また,そのような意味記述を含める ことによって良質の映像コンテンツを効率的に作成する オーサリング支援技術などの,知的コンテンツの高度利用 技術や,知的コンテンツに適した著作権管理技術を開発す る。さらに,コンテンツの制作および高度利用を一般の利 用者が体験できる仕方でこれらの技術を運用することによ り,その有効性を検証し,成果の普及を図る。 2. 研究の概要 a. 知的コンテンツの基盤技術の研究 映像コンテンツ自体の意味や人間の生活の意味に基づ き,プロのクリエータや一般の生活者が良質の映像コンテ ンツを制作し高度利用することを可能にする,基盤的なソ フトウェアの体系およびオントロジーを構築する。また, 他の研究項目と協力して,セマンティックトランスコー ディング,情報家電,および著作権管理の技術を,この基 盤ソフトウェアおよびオントロジーに基づいて連携させ, 放送用映像コンテンツ等を用いてこれらの技術の有効性を 実証する。 (1) 生活オントロジーの研究 映像コンテンツの制作およびその高度利用を支援するた めに,映像コンテンツ,生活者の行動,および家電機器の 機能に関するオントロジー(生活オントロジー)を作成す る。このオントロジーは,映像コンテンツの内容だけでな く,その制作におけるワークフロー等も含む。あらゆる 文化やあらゆる種類の映像コンテンツに対応するオントロ ジーの作成は現状の技術では困難なので,特定の典型的な 家庭の生活および特定の種類の映像コンテンツを想定した オントロジーの作成を通じて,さまざまな生活行動パター ンや多種のコンテンツに対応した多様なオントロジーを作 成するための枠組を確立する。 (2) 知的映像コンテンツのソフトウェアアーキテクチャの研究 生活オントロジーを解釈・実行し,検索,要約,トラン スコーディング等の機能をサポートする生活世界ミドル ウェア,ならびに映像コンテンツやオントロジーを収集し 流通させるための家庭生活ポータルウェブサーバを開発す る。生活世界ミドルウェアが実行する一種のプログラム (生活オントロジーを含む)によって一般の利用者がサー ビス連携を設定できるためには,IT の専門家でない利用 者にも何らかのプログラミングができる必要がある。これ を実現するため,生活オントロジーを用いてわかりやすい 意味記述を可能にするだけでなく,情報機器同士,情報機 器と人間,および人間同士のインタラクション・コラボ レーションを制約(constraint)の考え方に基づいて簡単 にデザインできるようにする。また,その成果に基づき, 情報コンテンツに関する諸サービス間の連携方式について の国際標準案を策定する。 (3) 知的映像コンテンツの高度利用の研究 意味の明示的な記述を導入することによって映像コンテ ンツを制作する効率とコンテンツの品質を向上させるセマ ンティックビデオオーサリング(SVA)システム,生活世

生活者支援のための知的コンテンツ基盤 · のコンテンツ制作の最適なワークフローを設計し,それを プロの現場に導入する。いずれの場合も,上記の生活世界

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- 65 -

生活者支援のための知的コンテンツ基盤

代 表 者:橋田 浩一((独)産業技術総合研究所

情報技術研究部門)

責 任 機 関:(独)産業技術総合研究所

I. 研究の全体計画

1. 研究の趣旨

ブロードバンドインターネットやデジタル放送の普及に

伴い,大量で良質の情報コンテンツへの需要が増大してい

る。しかし,そうした大量のコンテンツを制作し,生活者

の興味や生活シーンに応じて選択し高度利用するための仕

組みがまだ整備されていない。さらに,そのような高度利

用の手段として期待される情報家電等の機器を生活者が使

いこなすための技術も未成熟である。

本プロジェクトでは,デジタル映像コンテンツ等の意味

内容を人間にも人工物にも理解できるように明示すること

によって,コンテンツ作成のコストを低減するとともにコ

ンテンツの品質(直接的には映像の美しさ等ではなく論理

構成やストーリの品質)を高めるようなコンテンツ作成支

援技術,および,そのように意味内容を明示した映像コン

テンツ(知的映像コンテンツ)を情報家電機器等を介して

高度利用する技術を確立する。情報コンテンツの制作と利

用の効率と品質を高める技術を提供することにより,プロ

のコンテンツクリエータを支援するとともに,一般の生活

者が参画することもできるコンテンツの創造と流通の基盤

を構築し,コンテンツ産業や情報家電産業を中心とする経

済や文化の活性化に貢献することを目指す。

そのため,映像コンテンツや生活者の行動や家電機器の

機能に関するオントロジー(概念体系の形式化)と,その

オントロジー(生活オントロジー)に基づいて構造化さ

れた良質のコンテンツをプロのクリエータや一般の生活

者が制作し高度利用することを可能にする基盤ソフトウェ

ア(生活オントロジーに基づく意味記述を解釈するミドル

ウェア)を構築する。また,そのような意味記述を含める

ことによって良質の映像コンテンツを効率的に作成する

オーサリング支援技術などの,知的コンテンツの高度利用

技術や,知的コンテンツに適した著作権管理技術を開発す

る。さらに,コンテンツの制作および高度利用を一般の利

用者が体験できる仕方でこれらの技術を運用することによ

り,その有効性を検証し,成果の普及を図る。

2. 研究の概要

a. 知的コンテンツの基盤技術の研究

映像コンテンツ自体の意味や人間の生活の意味に基づ

き,プロのクリエータや一般の生活者が良質の映像コンテ

ンツを制作し高度利用することを可能にする,基盤的なソ

フトウェアの体系およびオントロジーを構築する。また,

他の研究項目と協力して,セマンティックトランスコー

ディング,情報家電,および著作権管理の技術を,この基

盤ソフトウェアおよびオントロジーに基づいて連携させ,

放送用映像コンテンツ等を用いてこれらの技術の有効性を

実証する。

(1) 生活オントロジーの研究

映像コンテンツの制作およびその高度利用を支援するた

めに,映像コンテンツ,生活者の行動,および家電機器の

機能に関するオントロジー(生活オントロジー)を作成す

る。このオントロジーは,映像コンテンツの内容だけでな

く,その制作におけるワークフロー等も含む。あらゆる

文化やあらゆる種類の映像コンテンツに対応するオントロ

ジーの作成は現状の技術では困難なので,特定の典型的な

家庭の生活および特定の種類の映像コンテンツを想定した

オントロジーの作成を通じて,さまざまな生活行動パター

ンや多種のコンテンツに対応した多様なオントロジーを作

成するための枠組を確立する。

(2) 知的映像コンテンツのソフトウェアアーキテクチャの研究

生活オントロジーを解釈・実行し,検索,要約,トラン

スコーディング等の機能をサポートする生活世界ミドル

ウェア,ならびに映像コンテンツやオントロジーを収集し

流通させるための家庭生活ポータルウェブサーバを開発す

る。生活世界ミドルウェアが実行する一種のプログラム

(生活オントロジーを含む)によって一般の利用者がサー

ビス連携を設定できるためには,IT の専門家でない利用

者にも何らかのプログラミングができる必要がある。これ

を実現するため,生活オントロジーを用いてわかりやすい

意味記述を可能にするだけでなく,情報機器同士,情報機

器と人間,および人間同士のインタラクション・コラボ

レーションを制約(constraint)の考え方に基づいて簡単

にデザインできるようにする。また,その成果に基づき,

情報コンテンツに関する諸サービス間の連携方式について

の国際標準案を策定する。

(3) 知的映像コンテンツの高度利用の研究

意味の明示的な記述を導入することによって映像コンテ

ンツを制作する効率とコンテンツの品質を向上させるセマ

ンティックビデオオーサリング(SVA)システム,生活世

Page 2: 生活者支援のための知的コンテンツ基盤 · のコンテンツ制作の最適なワークフローを設計し,それを プロの現場に導入する。いずれの場合も,上記の生活世界

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界ミドルウェアと連携する音声対話インタフェースや,情

報家電を含む種々の小型情報端末から知的映像コンテンツ

の高度利用を可能にするソフトウェアを開発する。

従来の映像編集用ソフトウェアが許容する映像ショット

の組合せ方が,映像を提示する時間的順序に従う連接のみ

であったのに対して,SVA は,時間的順序に限らないさま

ざまな意味的関係による映像ショットの組合せを可能にす

るという意味で,より自由度の高いオーサリング支援を提

供する。素人が映像コンテンツを作成する際に SVA のこ

の機能が有用である(制作の効率とコンテンツの品質を向

上させる)ためには,SVA システムのユーザインタフェー

スを使いやすくすれば良い。

一方,プロの映像クリエータは固有のワークフローを持

つ場合が多いので,彼らにとって SVA が有用であるには,

そのワークフローと SVA との相性が良い必要がある。そ

こで,SVA システムのインタフェースを映像クリエータの

既存のワークフローに適応させる方法を明らかにするとと

もに,SVA に適合したさらに良いワークフローの創造を目

指す。後者については,いきなりプロのコンテンツ制作の

現場に手を付けるのではなく,素人が SVA を用いた場合

のコンテンツ制作の最適なワークフローを設計し,それを

プロの現場に導入する。いずれの場合も,上記の生活世界

ミドルウェアが解釈実行し,IT の専門家でない利用者に

も作れるプログラムによって,ワークフローの支援がデザ

インできるようにする。

b. セマンティックトランスコーディングの研究

多様で膨大なコンテンツを視聴者に適切に配信するため

には,コンテンツの意味を考慮し,視聴者の状況や意図に

応じて,検索・要約・その他の変換を行なう必要がある。

しかし,テキストコンテンツの検索や要約は現在でもある

程度可能であるが,映像コンテンツにおいてはさまざまな

問題が山積している。たとえば,シーンや映像内オブジェ

クトの認識は依然として精度が低く,また視聴者の印象や

解釈も多様である。一方,メタデータあるいはアノテー

ション(注釈)をコンテンツに付与することによって,自

動処理の不備を補い,視聴者の印象やコメントを関連付け

る手法が一般的になりつつある。ただし,大量の既存のコ

ンテンツに誰がどのようにアノテーションを行なうのかに

ついては一般的な解決策がない。また,付与されたアノ

テーションをどのように活用して視聴者を支援するのかに

ついてもさまざまな試行錯誤が行なわれているが,一般的

な仕組みは実現されていない。

本研究は,これらの問題を理論的・実践的に解決するも

のである。セマンティックトランスコーディングとは,意

味的なアノテーションをコンテンツに付与することによ

り,高度な要約や翻訳などの変換や加工を行なう技術であ

る。本研究では,オントロジーに基づいてアノテーション

を規格化し,蓄積・管理する仕組みを実現する。さらに,

知的映像コンテンツの高度利用のため,プロのクリエータ

や一般の生活者がそれぞれのスキルや環境に応じてコンテ

ンツにアノテーションを施し,トランスコーディングに

よってそれぞれの状況に即したコンテンツの形式に自動的

に変換する技術を研究する。特に,生活オントロジーに基

づく意味的情報を意味的なアノテーションから獲得・共有

し,再利用可能にする仕組みを開発することにより,良質

の映像コンテンツが容易に制作され流通することを目指

す。特に,以下の 2 つの点において詳細に検討する。

意味的アノテーション技術によって,コンテンツの意味

的内容を規定するオントロジーと視聴者の印象や感想など

を統合する仕組みを開発し,その有効性を検証する。具体

的には,制作者側の意図が視聴者に正しく伝わっているか

どうかを確認する仕組みや,視聴者の要望が制作者の次の

作品に適切に反映されるような仕組みである。

セマンティックトランスコーディング技術を用いて,配

信されたコンテンツを視聴者の嗜好や状況に応じて動的に

変換する仕組みを開発し,実証実験を行なう。具体的に

は,映像コンテンツの要約と編集である。要約は,視聴者

の期待する内容を期待する時間内に含めるように簡略化す

る技術であり,編集は,複数のコンテンツの関連する部分

をまとめて,一つの包括的なコンテンツを生成する技術で

ある。

c. 知的情報基盤におけるコンテンツの制作と流通の研究

デジタルインフラにおける通信と放送の統合や家電のデ

ジタル化に対応したデジタルメディアの知的情報基盤の確

立に対し,知的コンテンツ技術を用いて放送局の立場から

貢献することを目指して,次のようなテーマに関する実践

的研究を行なう。

(1) 知的映像コンテンツの作成と蓄積に関する研究

映像コンテンツを番組アーカイブ素材テープからライブ

ラリーキャッシュサーバ(放送規格)にデジタルメディア

ファイルとして取り込み,アーカイブバンクに登録した上

で,SVA を施して知的映像コンテンツを作成する。さら

に,SVA を放送の現場に導入するための試験運用を行な

う。

前述のように,SVA がプロの映像制作者にとって有用

であるには,そのワークフローと SVA のインタフェース

との適合が必要である。そこで,前記 a の (3) との共同作

業として,生活世界ミドルウェアの技術に基づいて放送局

の現場でのワークフローと SVA との擦り合わせを行ない,

既存のワークフローの改善および新たなワークフローの創

造を目指す。

(2) 知的映像コンテンツの配信に関する研究

知的映像コンテンツにおける意味的構造に応じて,トラ

ンスコーディングプロキシによる映像コンテンツの自動変

換,デジタル著作権管理,情報家電機器による家庭での映

像コンテンツの高度利用と有機的に連携する仕方で放送コ

Page 3: 生活者支援のための知的コンテンツ基盤 · のコンテンツ制作の最適なワークフローを設計し,それを プロの現場に導入する。いずれの場合も,上記の生活世界

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ンテンツを配信するための技術開発とビジネスモデルの検

討・検証を行なう。

意味に基づくいかなるコンテンツサービスが放送局にど

のような収益をもたらすかというビジネスモデルの設計は

未だ本格的に着手されていない困難な課題であり,コンテ

ンツの制作,配信,デジタルアセット管理など多くの業務

にわたる放送事業全体の最適化と密接に関係すると考えら

れる。そこで,さまざまなサービスの間の連携の設計や改

良が放送の現場で容易に行なえるようにする生活世界ミド

ルウェア技術により,上記のような業務の連携に基づくビ

ジネスモデルの創造が現場での実践を通じて行なえるよう

にする。

d. 情報家電における知的コンテンツ処理の研究

文字や静止画のみならず音声や動画を含んだ情報を,放

送やインターネット,ホームネットワークの区別なく伝送

し,簡単な操作でデジタルテレビに提示する方法の研究お

よびネットワーク上の各種情報家電機器を簡単かつ統合的

に接続・連携し,使用者の生活環境を支援する知的制御機

構,およびデジタルテレビを用いたユーザインタフェース

機構の研究を行なう。また,この研究成果を各種情報家電

機器に実装し,その有効性と実現性を検証する。

(1) 動画コンテンツの効率的伝送方式の研究

インターネット及びホームネットワークにおいて動画コ

ンテンツを伝送するにあたり,現状では動画提示の標準的

存在であるデジタルテレビでの実装を考慮し,低コストか

つ高性能の方式を実現する。動画ストリーミング機能の不

備により,IP ネットワーク経由でのコンテンツの視聴に

際してデジタル TV は機能を活かしきれていない。そこで,

デジタルテレビにおいて動画のストリーミングに対応する

技術を研究開発し,デジタルテレビを通じて知的映像コン

テンツの高度利用を可能にする。デジタルテレビに標準的

に装備されているハードウェアを利用しつつ映像の標準的

なフォーマットに対応するストリーミング機能を Web ブ

ラウザへのプラグインとして開発することにより,低コス

トで利用可能な技術にする。

(2) ホームネットワークにおけるコンテンツ連携制御の研究

ホームネットワークにおいて生活世界ミドルウェアに

よりさまざまなコンテンツサービス同士を連携させるに

は,各種情報家電機器を統合的に接続し制御するため,さ

らに基盤的なソフトウェアが必要であり,それは生活世界

ミドルウェアと連携するため生活者のレベルに近い意味を

サポートするインタフェースを必要とする。そのようなソ

フトウェアを実現するため,利用者の生活環境を支援する

情報家電機器の具体的なユースケースについて検討した上

で,情報家電機器の利便性の高い知的制御方式を究明し,

これを情報家電機器を制御するための既存のミドルウェア

の上に実装する。特に,デジタルテレビを利用者との対話

インタフェース機器として,その有効性を実証する。

e. 知的コンテンツの著作権管理技術の研究

従来のデジタル著作権管理は,映画や楽曲など単一のコ

ンテンツを管理,保護するための技術であった。この方法

では,複数のコンテンツから構成される可能性がある知的

映像コンテンツの高度利用において適正に著作権を保護し

課金することが困難である。また,情報家電やネットワー

クの発展によりインターネットなどに流通しているコンテ

ンツを自分のコンテンツに組み入れて新たなコンテンツを

作成するといったコンテンツの利用形態が生まれると予想

されるが,現状の著作権管理技術ではこのようなコンテン

ツの二次利用に対応できない。

そこで,これまでの単一コンテンツに対する著作権管理

方式を複数のコンテンツにわたって合成することにより,

知的映像コンテンツに関する著作権管理を可能にするとと

もに,コンテンツの二次利用に必要となるメタデータを整

理し,二次利用に対応した著作権管理の方式を確立する。

また,この技術に基づいて,各コンテンツがいつどこで視

聴・二次利用されているかをトラッキング(追跡)するこ

とができるようにする。実証実験を通じてこれらの技術の

有効性を検証する。

f. 研究運営委員会

プロジェクト全体を統括し,重要課題解決の観点から研

究開発の方針に関する立案と調整を行なう。また,アウト

リーチ活動を通じて,本課題に関連する技術に関する一般

市民の認知度を高める。本課題ではプロのコンテンツクリ

エータにも一般の生活者にも有用なコンテンツ作成支援技

術および高度利用技術を確立するため,多くの一般市民が

本プロジェクトの研究成果に直接触れられるようにする。

特に,インターネットにおいて一般市民が SVA で知的映

像コンテンツを制作・共有・再利用するための「知的映像

ブログ」を運営する。

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3. 年次計画

II. 平成 17 年度における実施体制

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III. 研究運営委員会

IV. ミッションステートメント

映像コンテンツ自体の意味や人間の生活の意味に即し

て,プロのクリエータや一般の生活者が良質の映像コンテ

ンツを簡単に制作できるようにし,かつ情報家電等の機器

によってその映像コンテンツが高度利用できるようにす

る,基盤的なソフトウェアおよびオントロジー(意味の体

系的な記述)を構築する。放送用その他の映像コンテンツ

を題材としてその有効性を示す。

1. 具体的な達成目標

研究項目ごとの達成目標は以下の通りである。

a. 知的コンテンツの基盤技術の研究

(1) 生活オントロジーの研究

映像コンテンツの内容とその制作および利用のワークフ

ロー,生活者の行動,および家電機器の機能に関するオン

トロジー(生活オントロジー)を作成する。具体的な家庭

の生活および特定の種類の映像コンテンツを想定したオン

トロジーの作成を通じて,さまざまな生活行動パターンや

多種のコンテンツに対応した多様なオントロジーを作成す

るための枠組を確立する。

(2) 知的映像コンテンツのソフトウェアアーキテクチャの研究

生活オントロジーを解釈・実行し,検索,要約,トラン

スコーディング等の機能をサポートする生活世界ミドル

ウェア,ならびに映像コンテンツやオントロジーを収集し

流通させるための家庭生活ポータルウェブサーバを開発

し,情報機器同士,情報機器と人間,および人間同士のイ

ンタラクション・コラボレーションを簡単にデザインでき

るようにする。その成果に基づき,情報コンテンツに関す

る諸サービス間の連携方式についての国際標準案を策定す

る。

(3) 知的映像コンテンツの高度利用の研究

意味の明示的な記述を導入することによって映像コンテ

ンツを制作する効率とコンテンツの品質を向上させるセマ

ンティックビデオオーサリング(SVA)システム,生活世

界ミドルウェアと連携する音声対話インタフェースや,情

報家電を含む種々の小型情報端末から知的映像コンテンツ

の高度利用を可能にするソフトウェアを開発する。上記の

生活世界ミドルウェアとこれらのソフトウェアの連携によ

り,映像コンテンツの制作のためのより良いワークフロー

を創造する。

b. セマンティックトランスコーディングの研究

オントロジーに基づいてアノテーションを規格化し,蓄

積・管理する仕組みを実現する。さらに,知的映像コンテ

ンツの高度利用のため,プロのクリエータや一般の生活者

がそれぞれのスキルや環境に応じてコンテンツにアノテー

ションを施し,トランスコーディングによってそれぞれの

状況に即したコンテンツの形式に自動的に変換する技術を

研究する。特に,生活オントロジーに基づく意味的情報を

意味的なアノテーションから獲得・共有し,再利用可能に

する仕組みを開発することにより,良質の映像コンテンツ

が容易に制作され流通することを目指す。特に,以下の 2

つの点において詳細に検討する。

意味的アノテーション技術によって,コンテンツの意味

的内容を規定するオントロジーと視聴者の印象や感想など

を統合する仕組みを開発し,その有効性を検証する。また,

セマンティックトランスコーディング技術を用いて,配信

されたコンテンツを視聴者の嗜好や状況に応じて動的に要

約・編集する仕組みを開発し,実証実験を行なう。

c. 知的情報基盤におけるコンテンツの制作と流通の研究

(1) 知的映像コンテンツの作成と蓄積に関する研究

映像コンテンツを番組アーカイブ素材テープからライブ

ラリーキャッシュサーバ(放送規格)にデジタルメディア

ファイルとして取り込み,アーカイブバンクに登録した上

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で,SVA を施して知的映像コンテンツを作成する。さら

に,SVA を放送の現場に導入するためのワークフローの設

計と試験運用を行なう。

(2) 知的映像コンテンツの配信に関する研究

知的映像コンテンツにおける意味的構造に応じて,トラ

ンスコーディングプロキシによる映像コンテンツの自動変

換,デジタル著作権管理,情報家電機器による家庭での映

像コンテンツの高度利用と有機的に連携する仕方で放送コ

ンテンツを配信するための技術開発とビジネスモデルの検

討・検証を行なう。生活世界ミドルウェアを用いて,放送

局での業務の連携に基づくビジネスモデルの創造が現場で

の実践を通じて行なえるようにする。

d. 情報家電における知的コンテンツ処理の研究

(1) 動画コンテンツの効率的伝送方式の研究

インターネット及びホームネットワークにおいて動画コ

ンテンツを伝送するにあたり,現状では動画提示の標準的

存在であるデジタルテレビでの実装を考慮し,低コストか

つ高性能の方式を実現する。すなわち,デジタルテレビに

おいて動画のストリーミングに対応する技術を研究開発

し,デジタルテレビを通じて知的映像コンテンツの高度利

用を可能にする。

(2) ホームネットワークにおけるコンテンツ連携制御の研究

ホームネットワークにおいて各種情報家電機器を統合的

に接続し制御し,さらに生活世界ミドルウェアと連携す

るため生活者のレベルに近い意味をサポートするインタ

フェースを持つミドルウェアシステムを開発する。特に,

デジタルテレビを利用者との対話インタフェース機器とし

て,その有効性を実証する。

e. 知的コンテンツの著作権管理技術の研究

これまでの単一コンテンツに対する著作権管理方式を複

数のコンテンツにわたって合成することにより,知的映像

コンテンツに関する著作権管理を可能にするとともに,コ

ンテンツの二次利用に必要となるメタデータを整理し,二

次利用に対応した著作権管理の方式を確立する。また,こ

の技術に基づいて,各コンテンツがいつどこで視聴・二次

利用されているかをトラッキング(追跡)することができ

るようにする。

f. 研究運営委員会

インターネットにおいて一般市民が SVA で知的映像コ

ンテンツを制作・共有・再利用することを可能にする「知

的映像ブログ」を運営し,多くの一般市民が本プロジェク

トの研究成果に直接触れられるようにする。

2. 波及効果

上記のミッションを達成することによって期待される主

な波及効果を,生活世界ミドルウェアと SVA を中心とし

て下図に示す。

たとえば,生活世界ミドルウェアと SVA により,映像

コンテンツ制作のための効率的な共同作業の体制を簡単に

作ることができ,アドホックなプロジェクトによる共同制

作が可能になるので,個人の映像クリエータの活躍が容易

になるとともに各コンテンツの品質と制作効率が向上し,

こうして社会全体にわたってコンテンツの質が向上する。

これらは国際競争力の強化およびコンテンツクリエータへ

の支援につながる。また,SVA がプロのクリエータにも

素人にも有効なオーサリング支援を提供することは,クリ

エータの人材育成とコンテンツ産業の裾野の拡大に貢献す

る。その他,映像コンテンツに関する多様なビジネスモデ

ルの創造や情報家電の市場の拡大なども波及効果に含まれ

ると考えられる。

なお,SVA によって直接的に向上するのは,色彩や形

状の美しさ等の映像そのものの品質ではなく,論理的な構

成やストーリ等の意味的な構造の品質である。しかし,生

活世界ミドルウェアに基づくワークフローの最適化によ

り,映像そのものの品質向上が間接的にもたらされる可能

性がある。また,本プロジェクトの成果に基づいて,カメ

ラワークや映像文法をオントロジーとして定式化して SVA

で利用できれば,映像そのものの品質向上により直接的に

貢献できると期待できる。