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7 特集2 クロック伝送システム ~小型化、省電力化により設備装置の環境負荷低減~ 電話や専用線等の既存サービスの多くは、時分割多重方 式を用いたネットワークで提供されています。また、近年 はこの既存サービスと IP ベースの NGN サービスの両方を 収容するネットワークも開発・提供されていますが、これ らのネットワークにおいては、各装置の動作クロックを高 精度に一致させ、ネットワーク全体で同期をとる(網同期) 必要があります。 網同期を実現するためには、マスタクロック(大手町) から供給されるクロックに、従属するビル内の各装置のク ロックを合わせる必要があります。 マスタクロックから供給されるクロックは、各ビルに分 配され、各ビルのクロック供給装置(CSM:Clock Supply Module)は、分配されたクロックを基にクロックを生成 しビル内の各装置に分配します。これによって、網内の各 装置の動作クロックが同期することになります。 もし、網同期せず送信側の装置と受信側の装置で、信号 の読み出しと書き込みタイミングが合わなくなると、デー タの重複読みや、欠落が発生することになり、正常な通信 が出来なくなります。 このクロックを伝送するクロックパス網は、通信サービ ス提供に不可欠です。現状のクロックパス網は、信頼性を 高めるために N(Normal)系と E(Emergency)系の 2 系統としており、N 系に異常が発生したときでも E 系に切 り替えることで安定したクロック供給を担保してます。さ らに、クロックパス網の設計では、ビル分散、ルート分散、 装置分散を行い、高い信頼性を確保しています。 クロックパス網は、クロックを生成・供給する CSM と、 下位の CSM にクロックを伝送する SDH(Synchronous Digital Hierarchy)リンク系システムで構成されています。 上位の CSM から受信したクロック信号を、電話の音声信 号や、専用線のデータ信号を重畳して SDH リンク系システ ムで下位の CSM まで伝送しています。 ネットワークサービス研究所  ネットワーク伝送基盤プロジェクト 金光 秀明  須田 祥生  桜井 一也  坂入 健  通信サービスに不可欠なクロック クロックパス網の現状と今後の構成例 (a) 現状のクロックパス 網構成 (b) ADM 装置移行後の 適用形態例 大容量システム導入によるクロックパス網 の課題

特集2 クロック伝送システム...8 特集2 クロック伝送システム ~小型化、省電力化により設備装置の環境負荷低減~ 1998年以降、トラフィックの増加に柔軟に対応可能な

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Page 1: 特集2 クロック伝送システム...8 特集2 クロック伝送システム ~小型化、省電力化により設備装置の環境負荷低減~ 1998年以降、トラフィックの増加に柔軟に対応可能な

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特集2 クロック伝送システム~小型化、省電力化により設備装置の環境負荷低減~

 電話や専用線等の既存サービスの多くは、時分割多重方式を用いたネットワークで提供されています。また、近年はこの既存サービスと IP ベースの NGN サービスの両方を収容するネットワークも開発・提供されていますが、これらのネットワークにおいては、各装置の動作クロックを高精度に一致させ、ネットワーク全体で同期をとる(網同期)必要があります。 網同期を実現するためには、マスタクロック(大手町)から供給されるクロックに、従属するビル内の各装置のクロックを合わせる必要があります。 マスタクロックから供給されるクロックは、各ビルに分配され、各ビルのクロック供給装置(CSM:Clock Supply Module)は、分配されたクロックを基にクロックを生成しビル内の各装置に分配します。これによって、網内の各装置の動作クロックが同期することになります。 もし、網同期せず送信側の装置と受信側の装置で、信号の読み出しと書き込みタイミングが合わなくなると、データの重複読みや、欠落が発生することになり、正常な通信が出来なくなります。 このクロックを伝送するクロックパス網は、通信サービス提供に不可欠です。現状のクロックパス網は、信頼性を高めるために N(Normal)系と E(Emergency)系の 2 系統としており、N 系に異常が発生したときでも E 系に切り替えることで安定したクロック供給を担保してます。さ

らに、クロックパス網の設計では、ビル分散、ルート分散、装置分散を行い、高い信頼性を確保しています。

 クロックパス網は、クロックを生成・供給する CSM と、下位の CSM にクロックを伝送する SDH(Synchronous Digital Hierarchy)リンク系システムで構成されています。上位の CSM から受信したクロック信号を、電話の音声信号や、専用線のデータ信号を重畳して SDH リンク系システムで下位の CSM まで伝送しています。

ネットワークサービス研究所 ネットワーク伝送基盤プロジェクト

金光 秀明  須田 祥生  桜井 一也  坂入 健 

通信サービスに不可欠なクロック

クロックパス網の現状と今後の構成例

(a)現状のクロックパス網構成

(b)ADM 装置移行後の適用形態例

大容量システム導入によるクロックパス網の課題

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特集2 クロック伝送システム~小型化、省電力化により設備装置の環境負荷低減~

 1998 年以降、トラフィックの増加に柔軟に対応可能な大容量の ADM システム (Add Drop Multiplexer) の導入が進んでおり、従来、複数の SDH リンク系システムで伝送していた電話や専用線などのデータを、1つの ADM システムで伝送できるようになりました。また、この ADMシステム上でクロックパス網を構築することもできますが、このクロックパス網では、信頼性向上のためのルート分散は可能な反面、ビル分散や装置分散ができません。そこで、クロックパス網の信頼性を確保するために ADM システムを 2 系統導入することになりますが、これでは電力使用量も大きく、コストも高くなり、効率的ではありません。そうなると、1989 年より導入している SDH リンク系システムを利用することが必要となり、クロックパス網のために回線収容率の低い装置を使い続けなければなりません。 そこで、これらの課題を解決するために、クロック伝送に特化した CPM(Clock Path Module)システムを開発しました。

 CPM システムは、クロック伝送に特化した装置構成にすることで、小型化及び省電力化を実現しました。機能を限

定することで部品数も少なくなり、またパッケージをコンパクト化したことで、小型で省電力な装置を実現しました。 従来の SDH リンク系システムと比べても、大きさは 3 分の1以下(19 インチラック搭載可能、高さ 10cm 以下)となり、さらに消費電力は 9 分の1と省電力化を図っています。 2012 年の 10 月から CPM システムの導入が始まり、2013 年度には本格的に導入開始となります。この CPMシステムの導入が進むことにより、通信設備の CO2 排出量の削減 ( 従来の SDH リンク系システムと比較して 22%削減 ) にも貢献しています。 今後もこのような環境に優しい通信技術の開発に取り組んでいきます。

小型で省電力なクロック伝送システム-CPMシステム

 開発されたクロック伝送に特化した CPM システムを使用して構築した場合(CPM モデル)と従来の SDH リンク系システムによってクロックパス網を構築した場合 ( 従来モデル)の CO2 排出量を定量化し、環境貢献度評価を行いました。

◆評価条件・クロック信号の伝送: マスタクロックから冗長化 ( ビル分散・ルート分散・装置分散など)されたクロックパス網で 1 年間(365 日 24h)1200 箇所のビルに伝送・クロックパス網の構成〈従来〉送受信側合わせて 2400 台の SDH 装置を使用〈CPM〉送受信合わせて 2400 台 CPM 装置を使用

◆評価結果 CPM モデルの CO2 排出量削減効果は 2,610t-CO2

(削減率 22%)となりました。 主な削減要因は、クロック伝送に特化することで、CPM 装置が小型化、省電力化されたことによる CO2 排出量の削減効果です。

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廃棄

使用

製造

CPMモデル従来モデル

CO2排出量(t-CO2/年)

製造

使用

廃棄削減量:2,610 t-CO2/ 年削減率:22.2 %

環境貢献度評価

特集2 クロック伝送システム~小型化、省電力化により設備装置の環境負荷低減~

CPM システム例