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特別講演

特別講演 - JCS / 日本コンベンションサービス株式 … › jbcs16-kanto › program › ...carcinoma、乳頭側・側方・皮膚側断端陽性と診断された。全身治療として本人が化学療法を希

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特別講演

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SL AIから見た、がん細胞

理化学研究所 革新知能統合研究センター 病理情報学チーム

山本陽一朗

 現在の人工知能(Artificial intelligence, AI)のキーワードは実用化である。囲碁AIのアルファ碁がプロの囲碁棋士を破り、棋士はAI相手に練習や研究を行うことが可能になった。またインターネット検索システムは、多くの人に日々利用されている。実用化された技術は社会に溶け込み、定着し、名前を変えながら残っていく。  医療分野におけるAI開発競争は激化しており、レッド・オーシャンの真ん中にいると言っても過言ではない。さらに、医療分野への応用には他分野には見られない特徴的な問題も存在している。その一つとして、AIにおけるブラックボックス問題(AIの判断根拠を人間が理解できるかどうか)が挙げられる。2019年大阪で行われたG20の文書においてもAIのブラックボックスに対する説明の重要性が取り上げられた。ディープラーニングは特徴量を自動作成するため、詳細な特徴を人間が教え込む必要がないという点は優れたメリットがある一方で、特徴量や、ニューラルネットワークの重みが人間側で直接的には理解できないというデメリットも存在している。このブラックボックスをひも解くことによって、医師がAIのミスを修正できるようになるだけでなく、ディープラーニングを通して新しい医学知識を得る可能性もある。 一方で、解析対象となる医用画像に含まれる情報量の重要性は変わらない。高いAI技術も、情報量そのものを増やすことはできないからである。その点、細胞集団を細胞レベルと組織構築レベルの双方向から同時に評価可能な病理画像は、今後の研究開発の鍵となる可能性を秘めているといえるだろう。さらに今後は、AI技術を用いた画像解析に遺伝子解析を組み合わせることで、より高精度な診断補助が可能になっていくと考えられる。各医用画像の医学的特徴および解析対象疾患を知りつくした医師と、機械学習の数理的特徴を深く理解するAI研究者との連携が、今後の医療AI研究には必須である。本講演では、これらの点を踏まえながら、医療AIの現状、AI技術の基礎、そして、最新の医療AI技術について紹介させていただきたい。

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グランド・キャンサー・ボード

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GCB-2 中枢神経原発悪性リンパ腫を合併したHER2陽性進行乳癌の1例

順天堂大学乳腺腫瘍学

仙波 遼子、飯島耕太郎、石塚由美子、明神 真由、魚森 俊喬、氷室 貴規、村上  郁、崔  賢美、堀本 義哉、中井 克也、齊藤 光江

46歳女性。2015年 6 月に右乳房発赤を主訴に初診し、検査の結果右乳癌(浸潤性乳管癌, ER 5 %, PgR 0 %, HER 2 3 +)、また肝臓・胸膜・縦隔リンパ節転移を認め、cT 4 dN 3 M 1 Stage 4 の診断で薬物療法を開始した。FEC 4 コース、その後HPD 4 コースを行い、治療効果が良好なため以後はHPのみを継続した。2017年 6 月(治療開始23ヶ月)に頭痛精査の頭部CTで右側頭葉部腫瘤を認めた。他部位の転移再発はなく、緊急で開頭腫瘍摘出術を施行したところ中神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)の診断であった。そのためHPは中止し、血液内科にてhigh dose-MTX 6コースを施行した。2019年 8 月(HP中止後26ヶ月)にPCNSLの再発を認め、PETCTで胸椎・尾骨・両大腿・左臼蓋に集積を認め、尾骨切除生検を施行したところ乳癌転移を疑う所見であった。転移巣はごく小さく無症状であるため、PCNSLの治療を優先し、落ち着いた時点で乳癌に対する薬物療法を開始予定である。乳癌については良好な長期コントロールを得ているが、今後も血液内科と連携して治療戦略を考えていく必要がある。転移性乳癌と他の悪性腫瘍の合併例に関してはそれぞれの病状やレジメン内容や治療歴などから、治療の優先度を検討して進めることが大切と考えられた。

GCB-1 左大腿骨骨幹部転移+病的骨折に対し人工骨置換術を含めた集学的治療が奏功した 右乳癌(HER2 subtype)の1例

1新潟県厚生連 糸魚川総合病院 外科、2新潟県厚生連 糸魚川総合病院 整形外科、 3富山大学大学院 医学薬学研究部 消化器・腫瘍・総合外科

田澤 賢一1、明石 尭久1、河合 俊輔1、山上  亨2、星野 由維3、荒井 美栄3、松井 恒志3、山岸 文範1、長田 拓哉3、藤井  努3

症例は60代女性。右乳癌(CNB: 浸潤性乳管癌、HER 2 subtype)、BE領域、cT 2 cN 2 (LN ABC: Class V)cM、cstageIIIAの診断で、FEC75x 4 →TXT+Tmabx 4 コースのNAC治療後に全身麻酔下にBp+Ax施行した。病理組織学的にB, pT 1 b, 0.9x0.7cm、sci.、g、ly 0 、v 0 、pN 0 (Level-I: 0 /15、II: 0 / 6 )、MIB-LI: 7 %。pT 1 pN 0 cM 0 ystage Iとdown stageが可能であった。術後追加治療として、Tmab単剤投与を12コース追加。術後 1 Y 9 Mo.(Tmab中断から10Mo.)より、腰痛、左大腿部痛あり、精査の結果、胸骨(Th 3 )転移、左大腿骨骨幹部転移(+)と診断した。放射線治療開始直前に左大腿骨骨幹部の病的骨折を来し、当院整形外科で腫瘍部切除と大腿骨頭置換術施行した(術後 1 Y11Mo.)。肉眼的に腫瘍の遺残(病理組織学的に腫瘍細胞の遺残(+)、腫瘍細胞の免疫組織化学的性状はHER 2 subtype)。術後TXT+Tmab+Pmab療法x 4 コース施行後、左大腿骨骨幹部、および胸椎(Th 3 - 4 )にそれぞれ56Gy、44Gyを照射した。その後、画像上、新病変(-)。Th 3 増悪なし。TXT+Tmab+Pmab療法は 9 コース追加、計13コースを施行可能も、右上腕、両側下腿のリンパ浮腫が出現、ADL低下のため、治療変更、TDM- 1 x10コース施行も明らかな再発徴候がなかったため、Tmab+Pmab療法に切り替え、20コース施行も再発の徴候なく存命中である(術後 4 Y11Mo.、再発後 3 Y 2 Mo.)。

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GCB-4 DLSTにてAIの関与が示唆された放射線後器質化肺炎の一例

1昭和大学 江東豊洲病院 乳腺外科、2昭和大学病院 乳腺外科

佐藤 大樹1、高丸 智子1、吉田 美和1、吉沢あゆは1、広田 由子1、明石 定子2、中村 清吾2

乳癌術後の放射線照射に伴う器質化肺炎の報告は多数あるが、内分泌療法との関連は少数の報告を認めるのみである。今回アナストロゾールの関与が示唆された器質化肺炎を経験したので報告する。症例:60代女性主訴:咳嗽、発熱現病歴:X-12か月、左乳癌で左Bp+SNBを施行した。病理結果はIDC、pN 0 、ER陽性、PgR陽性、HER 2 陰性であった。放射線照射(全乳房照射50Gy、ブースト照射10G)を施行後、X- 8 か月、アナストロゾール 1 mg/日を開始した。X- 1 か月、咳嗽と発熱のため近医で鎮咳薬の投与を受けるが改善せず。当科定期診察時の胸部X線で浸潤影を認めた。器質化肺炎の疑いで呼吸器内科紹介受診。体温36.1度、動脈血酸素飽和度92%、呼吸苦は認めなかった。胸部聴診上異常なし。胸部CTでは両肺野上葉から下葉に斑状に不規則な浸潤影が多発していた。WBC 7510/μl、CRP 7.92mg/dl、KL- 6 482U/ml。以上より器質化肺炎と考え、入院での精査加療を行う方針となった。気管支鏡では観察範囲内に特記すべき異常は認めなった。肺生検にて器質化肺炎の像を認めた。気管支肺胞洗浄法ではリンパ球優位であった。翌日よりプレドニゾロン35mg開始、11日後には肺炎像は縮小していた。CRPも陰性化し、咳嗽は軽快した。その後のリンパ球刺激試験(DLST)でアナストロゾールがstimulation index (SI)3.3と陽性であり、アナストロゾールによる薬剤性肺炎と考えられた。エキセメスタンへ変更し現在経過観察中である。

GCB-3 術後放射線療法により5年間無再発の後、急激な転帰をきたした非浸潤癌断端陽性の一例

茨城県立中央病院 乳腺外科

竹内 直人、穂積 康夫、北原美由紀、斉藤 仁昭

【はじめに】乳房温存手術後に断端陽性と診断されたとき、追加の外科的切除が必要か、または放射線療法のみで十分かの明確なエビデンスは存在しない。今回、放射線療法後に急激な転帰をきたした非浸潤癌断端陽性の一例を経験したので報告する。【症例】初診時67歳女性【経過】200X年 左非浸潤性乳管癌(cTisN 0 )に対し、左乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検を施行。術後病理は、Noninvasive ductal carcinoma、乳頭側断端陽性、側方断端近接、センチネルリンパ節陰性であった。術後に放射線治療 50Gy/25Fr + 14Gy/ 7 Fr boostを施行し、5 年間のフォローで局所再発なく経過。200X+ 6 年 4 月 咳嗽、労作時の息切れが出現。胸水細胞診で乳癌肺転移、癌性胸膜炎、癌性リンパ管症と診断。手術検体の再検鏡の結果、Encapsulated papillary carcinoma、乳頭側・側方・皮膚側断端陽性と診断された。全身治療として本人が化学療法を希望されず、ホルモン療法を開始。200X+ 6 年 6 月 自宅で複数回転倒し、精査で多発脳転移と診断。200X年+ 6 年 8 月 呼吸困難感と体動困難が出現。意識レベルの低下により内服困難となったためホルモン療法は中止、Best Supportive Careの方針となった。入院11日目に循環動態の悪化により死亡。術後放射線療法により 5 年間無再発の後、急激な転帰をきたした非浸潤癌断端陽性の一例を経験した。若干の文献的考察を加え報告する。

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GCB-5 脈絡膜転移による両側視野障害に対してPTX+BEVが著効した乳癌の一例

千葉県がんセンター

山本 寛人、中村 力也、味八木寿子、山本 尚人

症 例 は29歳 女 性  左 乳 房 切 除 術 + 腋 窩 リ ン パ 節 郭 清 術 を 施 行 . 病 理 組 織 学 的 診断:pT 3 N 1 ( 3 /19)M0, pStageIIIA,ER(+)PgR(+)HER 2 (-),Ki67:25%.術後補助療法:FEC100×4 -DOC75× 4 後にTAM+LHRHを施行.術後 1 年 9 ヵ月で肺転移,仙骨転移が出現.再発治療はLetrozole ( 2 ヵ月)→Fulvestrant (12ヵ月)→Exemestane ( 4 ヵ月)→Letrozole+Palbociclib ( 4 ヵ月)を病状進行により変更. 再発後 1 年10か月で視野障害出現.眼底所見は両側眼球脈絡膜の腫瘤および網膜剥離を認めた.MRI所見は脈絡膜の肥厚を認めるが脳転移なし.BRCA 1 / 2 mutation,MSIは陰性.以上より脈絡膜転移の診断で眼科にてBEV局注療法を施行も効果なし.当科にてPTX+BEVを 6 コース施行しcCR..現在,Anastorozole+Abemaciclibに切り替え治療継続中.脈絡膜転移は腫瘍の増殖,浸出液により網膜剥離をきたすことで失明する可能性が高い病態である.放射線照射も治療の選択肢となるが急性期の角膜障害,放射線網膜症などの有害事象が危惧される.VEGFは糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性症などの眼科疾患において網膜新生血管発生の主要な促進因子として注目されている.脈絡膜転移に対してPTX+BEVは選択肢となり得る.

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シンポジウム

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SY1 基礎の知、臨床の知

東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻  情報生命科学講座 生命システム観測分野

永澤  慧

東京大学大学院新領域創成科学研究科

鈴木  穣

遺伝子パネルが保険償還されゲノム情報が日常診療に急速に実装され始めている。本講演では、ある臨床外科医が基礎の研究室を訪れた事によって始まった基礎医学と臨床医学の融合について紹介したい。先端ゲノム研究における知識・技術が臨床の視点より湧きおこる課題に対して有効に機能した例として多くの同様な枠組みの参考になればと祈念する。研究対象にDCISを選定した。実臨床で用いるDCISの疾患概念には不均一性があり、過少・過剰治療を受けている群が存在する。特に低リスクDCISについてこれを選別する試みが世界で進行中であるが、選別の為の因子に未だコンセンサスがない。DCISに焦点をあてた基礎研究も存在するが、リスク選別を志向した研究は少ない。病変が乳管内に限局し、またDCIS時点から存在する腫瘍不均一性のため、基礎的検討に用いる核酸抽出には多切片を用いた注意深い採取を要する。これもDCISの基礎的研究の歩を遅らせている一因と思われる。そこで我々は、これまでに蓄積した臨床情報に基礎的に詳細な解析を掛け合わせる事ができれば、真のDCIS亜分類に貢献できるのではないかと考え、臨床リスク別、再発の有無別、さらには初発・再発時の経時的な症例のNGSによる網羅的解析、およびシングルセル解析による不均一性の評価を行った。結果よりDCISを 5 群(Ⅰ~V)に分け、各群の特徴量を抽出し客観的なリスク分類を検討した。Ⅰ群はGATA 3 変異をもち、極めて再発リスクが高い群であった。PgR染色がそのサロゲートマーカーとなる可能性を見出した。Ⅱ群はPIK 3 CA変異をもち、再発リスクが低く、真のDCISもしくは低リスクDCISの可能性がある群であった。同群のシングルセル解析では 1 q+,16p-をもつ単一な細胞集団で、低Gradeを示唆する過去の病理学的知見と一致した。Ⅲ群とⅣ群は臨床的には同一リスクであるが、その予後を変異Signatureにより予測できる可能性があった。Ⅴ群は多数の構造変異があるHER 2 陽性クローンをもつ群で、DCISのHER 2 リスク評価に新たな知見を与えるかもしれない。一連の解析を通して、多くの基礎的解析手法の潜在的能力に触れた。同時にそれらを実臨床にいかに還元するかの難しさ・危うさにも直面した。先端ゲノム技術に根差した基礎最前線と臨床医療最前線を結び、学融合促進の一助となる事を目指している。

SY2-1 臨床応用を志向した医用画像診断支援AI技術

国立がん研究センター研究所 がん分子修飾制御学分野/ 理化学研究所 革新知能統合研究センター がん探索医療研究チーム

小松 正明

 近年、コンピュータの計算処理能力の大幅な向上、および深層学習に代表されるアルゴリズム開発により、画像認識の一部タスクに対してはAIが人間の識別能力を上回る性能を示している。よって、AIを活用したCT・MRI、内視鏡、病理画像をはじめとする医用画像の診断支援技術については、世界で鎬を削って研究開発が進められている。AI搭載医療機器については、すでに20機種ほど米国FDAより認可を受けており、また昨年本邦においても厚生労働省より認可されている。このように社会実装されている点でこれまでのAIブームとは大きく異なっており、実際の医療現場のベネフィットに繋げるべく、質の高い臨床データを用いて、データ構造化やアルゴリズム開発を含めたロバスト性の高いAI技術の積み重ねが必要となる。また、臨床応用に際しては、深層学習・機械学習技術はデータに対して過学習を起こしやすいという点を考慮して、前向き臨床研究が重要となる。 現在、当分野では、国立がん研究センター中央病院や各医学領域の学会等と連携し、内視鏡やMRIなど様々な医用画像AI解析研究に携わっている。我々の取り組みのうち研究開発が比較的難しいとされる研究対象の 1 つに、AIを用いた超音波画像における診断支援技術の開発が挙げられる。超音波検査は低侵襲・低コストで実施することが可能であり、日常臨床においても幅広い医学領域で用いられている。しかし、手動走査により画像を取得するため、検査者間での技術差が大きいこと、また影の影響を受けやすいことなど超音波画像に特有の課題が存在するため、その研究開発は他のモダリティに比べて進んでいない。そこで我々は、粗い超音波画像に対しても画像中に映る複数の物体の位置・分類を高い性能で判別できる物体検知技術を活用し、解剖学的構造をリアルタイムに検知することで、疾患による構造変化を検出する診断支援技術の研究開発を進めている。 また、深層学習によるラベルなしデータを用いた学習により、影を自動検出する技術開発も行っている。超音波画像に映り込んだ影が異常検知に与える影響を自動的に評価できるようになることで、検査者への再走査指示や、異常検知性能の向上を目指している。なお、本技術は検査対象を選ばず、すべての超音波検査に適用できるため、乳がん検診や成人循環器など領域横断的に活用されることが期待される。

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SY3-1 DWIBSとAI

聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニック  放射線科

印牧 義英

DWIBS 乳癌における遠隔転移の好発部位は骨、肺、胸膜、肝、脳が知られており、初期治療後に様々な検査を組み入れてフォローアップが行われている。 骨転移は乳癌で高率に認められ、骨転移の画像診断にはX線、CT、MRI、骨シンチグラフィ、FDG-PET-CT等が用いられる。中でもMRIは骨転移の検出感度が高く病変の進展程度も把握しやすいという特徴がある。拡散強調画像が骨転移の描出に優れているという特徴を踏まえ、2004年に拡散強調画像を用いて全身の癌の分布を示すDWIBS法が発表された。同検査は非造影、被曝を伴わず、非侵襲的な検査法の為、初回の病勢把握だけでなく、治療効果判定を行うフォローアップにも適した検査と言える。今回は当施設で行われた乳癌患者における遠隔転移に対するDWIBSの臨床的有用性についていくつかの症例を交えて報告する。AI 近年、人工知能(Artificial Intelligence : AI)に関する研究が発達し、画像診断の領域でも数多くの研究発表が報告されるようになった。乳腺領域においてはマンモグラフィおよび超音波での報告はもとより、乳房MRIについても数々の報告がなされている。本講演では乳腺領域の中で特に乳房MRIにおけるAIの海外の現状と自施設での若干の経験について報告し、今話題のAIが読影の負担軽減としてどこまで期待できるかについて考察する。

SY2-2 乳がんのゲノム医療

国立がん研究センター東病院 先端医療科/乳腺・腫瘍内科

内藤 陽一

乳がんは古くから、ホルモン受容体やHER 2 タンパク発現/遺伝子増幅などのバイオマーカーに基づく診療が行われてきた。次世代シークエンサーなどの技術の発達に伴い、遺伝子変化を同時に、かつ高速に検討することが可能となり、様々ながん種において、遺伝子変化に基づく診療が行われるようになり、本邦においても2019年 6 月よりがんゲノムプロファイリングによるprecision medicineの実践が、保険診療上も認められるようになった。乳がんにおいてもがんゲノムプロファイルに基づく治療の検討が実臨床にも導入されるようになってきている。保険で認められるがんゲノムプロファイリングのための遺伝子パネル検査には、OncoGuide NCC オンコパネルシステムと、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルの二つがあり、またこれら以外にもいくつかのパネルが先進医療でも検討されている。しかしながら、乳がんにおいてこのようながんゲノムプロファイリングを行うことで、どのようなメリットがあり、どのようなピットフォールがあるのか、今後実臨床において活用していくうえで重要な課題である。本講演では、がんゲノムプロファイリング検査について、特に乳がん領域における期待と問題点を議論する。

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SY4-1 今、本邦における乳房再建を考える −患者に寄り添い整容性に配慮した乳癌手術とは−

聖マリアンナ医科大学 外科学 乳腺・内分泌外科

津川浩一郎

 オンコプラスティック・サージャリー(Oncoplastic Surgery)とは、OncologyとPlastic surgeryを組み合わせた造語であり、患者にとってより良い乳癌手術を実現するためには、癌手術としての根治性と形成外科手術としての整容性を両立させることが重要であることを表している。さらに、外科手術としての安全性も要求される。本年 7 月にアラガン社がテクスチャードタイプのインプラントおよびエキスパンダーを自主回収し、本邦における乳房再建診療に混乱を引き起こしたことは記憶に新しい。その要因となったBIA-ALCL(ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)に関しては、最新情報に基づく現時点での正しい理解と患者対応とともに、今後も引き続いての情報収集と対応が必要と考えられる。 乳房再建診療の実施には、乳腺外科および形成外科を中心としたチーム医療が不可欠であることは言うまでもない。「乳房再建をするのかしないのか?、そのタイミングとして一次あるいは二次?、人工物あるいは自家組織?、などなど」、さまざまな因子を検討し、患者とともに治療方針の決定を行わねばならない。まさに、Shared Decision Making(SDM)の実践が重要である。SDMとは「医療者と患者・家族がエビデンスに加えて、治療オプション、利益と害、患者の価値観や希望・状況を共有し、医療従事者と患者・家族が一緒に健康に関わる意思決定に参加するプロセス」と定義されるが、その実践には患者と医療者のコミュニケーションが欠かせない。医療の根本に関わることで、あたりまえのことと言えなくはないが、「患者に寄り添い整容性に配慮した乳癌手術」を実現するために、今こそ再認識すべき事柄であると考える次第である。

SY3-2 乳癌画像診断におけるAI(人工知能)

1獨協医科大学病院放射線部、2東京医科歯科大学医学部放射線科、3東京医科歯科大学医学部乳腺外科

久保田一徳1,2、藤岡 友之2、森  美央2、菊池 夕絵2、勝田玲於奈2、足立 未央3、小田 剛史3、中川 剛士3

 医療分野におけるAI(人工知能)開発が進みつつある。臨床医の立場から乳癌画像診断におけるAI研究開発の動向について考えてみたい。  最近の技術革新が進んでいるのがディープラーニング(deep learning)という、複雑化させたニューラルネットワークを用いた機械学習である。結果が得られている画像を用意しておけば、それをもとにコンピュータが画像から勝手に結果を推測してくれるアルゴリズムを作り出す。例えば犬と猫の写真を1000枚ずつ用意すると、コンピュータが特徴量を勝手に見出し、どちらかを判別できるようになる。Aが見出した特徴量はブラックボックス化されてわからない(わかる方法もあるようだが)ため、判断根拠がないものを医師が診断に採用するのは如何なものか?という意見が以前からあるが、人にはわからない特徴量まで含めて判断しており、人よりも正しい答えが得られるのならそれで良いのではないか?という意見もある。 AIを用いた画像診断への関わりの方法としては、( 1 ) 解剖構造のセグメンテーションを行う、 ( 2 ) 病変の検出を行う、 ( 3 ) 検出された病変の質的診断をおこなう、 ( 4 ) 画像を作成させる、といったものが主に今のところ考えられる。乳房の解剖構造はシンプルであるが、乳腺組織量の算出にAIを用いられると考えられている。マンモグラフィ、超音波、MRI、PETなど様々なモダリティでの病変の検出は、業務効率化の上でも、感度・得意度の向上の上でも非常に重要である。超音波検査を行いながらリアルタイムに病変検出するような機器も開発が進んでいる。質的診断については、良性・悪性だけでなく、組織像やサブタイプの推定も可能となり、検出と診断の線引きがなくなりつつもある。AIを用いたノイズ除去、不要な構造の除去での画質向上や、実際にはない症例画像を作り出して教育やさらなるAI教育に用いることも可能である。 AI研究を行うのに、解析専用の高性能マシンやプログラミグ知識などといったものはなくてもできる。カテゴリー分けした画像ファイルだけ集めておけば、市販の製品や無料のソフトウェアなどを利用して簡単にAIを構築することが可能となっている。もちろん、よいデータを集めることや、専門家の手助けが必要となることもある。我々のグループではこれらを用いて、超音波やMRIなどの臨床画像でのAI研究を行っており、研究手法や結果も含めてご紹介したい。

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SY4-3 乳がん手術、乳房再建術に必要な解剖学的知識

ナグモクリニック 総院長

南雲 吉則

 ヒトの乳房は胸部・腹側に 1 対存在する。発生学的に胸腹境界は第 5 肋骨、背腹境界は肋間神経外側皮枝、ミルクラインは肋間神経前皮枝外側枝と外側皮枝前枝との境界である。乳房の支配血管はそもそもは肋間動脈前枝と外側皮枝であったが、後付けで内胸動脈と外側胸動脈乳腺ができ、さらに後付けで前肋間動脈が発生したのである。乳汁は皮脂に相当する。乳腺が深皮下脂肪内に存在するのは成長に伴って深部に進展したのである。ということは乳腺もクーパー靱帯も皮下筋膜浅葉に包まれているはずである。ゆえに皮下筋膜浅葉と深葉の間で剥離を行えば皮下乳腺全摘が可能である。解剖学的知識を通して皮下乳腺全摘同時再建法を解説する。

SY4-2 乳癌の個別化治療と自家組織によるこれからの乳房再建

1横浜市立大学附属市民総合医療センター 形成外科、2横浜市立大学附属市民総合医療センター 乳腺甲状腺外科、3東京医科大学 乳腺科、

4横浜市立大学医学部 形成外科学

佐武 利彦1、武藤 真由1、成井 一隆2、石川  孝3、前川 二郎4

私たちは2003年より穿通枝皮弁による乳房再建を開始し、これまでに1000例を超える全摘後の再建術を施行してきた。「筋体、運動神経を温存して採取部の犠牲を回避」しつつ、「温かくやわらかく形のよい乳房」再建ができることが最大の利点である。さらに術前MDCT、術中ICG蛍光造影による皮弁血行と血管吻合部の評価、術後モニタリングを行うことで、合併症を軽減した安全かつ安定した術後成績が期待できる再建法となってきた。さらに患者の体型、乳癌術式、乳房形態、大きさ、患者背景などに配慮したオーダーメイドの乳房再建も可能である。その一方で乳癌治療はまず薬物療法の進歩により、全身のみならず局所コントロールも改善されてきた。腫瘤が小さな病変では温存術単独もしくはoncoplastic breast surgery (volume displacement、volume replacement )の併用で、根治性と整容性の両立が図れる。ホルモン陽性乳癌は化学療法の効果があまり期待できないため、乳頭温存乳房切除術(NSM)、皮膚温存乳房切除術(SSM)を含めた全摘術と乳房再建の適応となる。乳癌のサブタイプ別に薬物療法、乳癌手術、再建法も変わってくる。縮小化の流れを汲んだ新たな乳癌の低侵襲治療としては 2 cm以下の限局した乳癌のうち、センチネルリンパ節転移陰性例では、ラジオ波焼灼、凍結療法が一部の施設では行われている。他方、BRCA mutation例ではrisk-reducing mastectomyが行われ、将来的には両側一次再建例の増加も見込まれる。乳房インプラント再建は2013年より保険適応となったが、今後の長期的な成績や、BIA-ALCLの発症例を注意深く見守る姿勢が重要である。2018年 4月より乳輪温存乳房切除術が保険適応となり、今後は、乳房皮膚を温存する乳癌手術が増え、臀部や大腿部からの皮弁再建も利用しやすくなる。またSSM、NSMや、傷痕を目立たなく小さくするための内視鏡(ロボット支援)の導入など、整容性に配慮した乳癌手術の普及により、今後は遊離皮弁以外に、広背筋皮弁+脂肪注入、または脂肪注入単独など低侵襲な再建が増えてくると思われる。講演では穿通枝皮弁や脂肪注入による乳房再建について、実際の症例を提示して紹介し「現状を知っていただく」と同時に、「自家組織再建の未来」についても考えてみたい。

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看護・医療スタッフセミナー

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NS-1 1%の科学と 99%の想いやり ~寄り添い、ささえる在宅医療~

1埼玉医科大学国際医療センター総合診療・地域医療科、 2社会福祉法人埼玉医療福祉会 丸木記念福祉メディカルセンター、

3社会福祉法人埼玉医療福祉会 在宅療養支援診療所 HAPPINESS館クリニック

齋木  実1,2,3

当院は、埼玉医科大学グループが運営する在宅療養支援診療所(在支診)である。厚生労働省「人口動態統計」によると、我が国の死亡場所の構成割合の推移は、1951年の時点では自宅が82.5%を占めていたが、2010年には病院が77.9%を占め、自宅は12.6%にまで低下している。しかし、2040年には年間約168万人が死亡し、病院・施設の病床数を考慮すると年間40万人以上の「死に場所」がなくなると試算されている。そのため、国は“在宅医療”ひいては“在宅看取り”を推進しているのである。我々は、今まで経験したことのない超高齢・多死社会を迎えるにあたり、医療のあり方を考えねばならない。人には死が必ず訪れ、死は医療の敗北ではない。ましてや急性期医療は人の死への一連のプロセスの一部にすぎず、必ずしも病院だけで医療が完結するわけではない。そして医療者にとって正しい医療が、患者にとって正しい医療とは限らないのである。われわれは“できる医療”と“すべき医療”をしっかりと吟味する必要がある。在宅医療において大切なことは、医学の力をいかに発揮するのかではなく、その人の生活や人生にいかに想いを馳せ、寄り添えるかである。医療ファーストではなく“生活ファースト”であり、医療とは人として生活を全うするための手段の一つに過ぎないのである。病院から在宅への切れ目ない移行を実施するためには、病院・在宅の医療者同士が顔の見える関係を築くよう歩み寄る必要がある。そして、在宅医療の現場において医師は決してリーダーではなく、むしろ訪問看護師や介護職など「ケア」を担う多職種であることの方が多い。こうした多職種と同じ目線で連携して患者の在宅生活を支え、さらには多職種も不安なく働ける環境を逃げずに守ることが医師には求められる。世界に 1 つだけの特別病室で、その人の生活と人生に寄り添う幸せ。臨終の際にも、時に笑顔さえある医の原点を感じる現場が在宅にはある。在宅看取りは“幸せのお手伝い”なのである。その現場を会場で共有しつつ、アドバンスケアプランニング(ACP)について考える。

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NS-2 急速に広がるがんゲノム医療への対応

埼玉県立がんセンター がんゲノム医療センター

赤木  究

2003年 4 月にヒトゲノム配列の完成版が発表され、医療が大きくかわることが予測されたが、日本国内の反応は冷ややかであった。しかし、その予測を今まさに、多くの医療者が目の当たりにしている、というより戸惑っているといったほうが正確な表現かもしれない。2013年に、アンジェリーナ・ジョリーが遺伝性乳がん・卵巣がん症候群であることから、乳房を予防的に切除した。37歳の時である。その衝撃的なニュースは、世界中を驚かせたと同時に、遺伝性の乳がんがあること、乳がんを予防するために健康な乳腺を切除するという方法があることを知らしめた。そしてその 2 年後、卵巣がんのリスクを回避するために卵巣も切除した。アンジェリーナ・ジョリーは、遺伝情報をもとに自分の健康管理を行うことを示してくれた。このことをきっかけに国内でも、遺伝性乳がんが知られるようになり、その検診や遺伝子診断、リスク低減手術なども、一部の医療機関で実施されるようになった。そして、オラパリブの登場により2018年には、予防や診断のためだけでなく、乳がんの治療のためにも遺伝情報を用いるようになった。2019年には、数百のがん関連遺伝子をセットにして調べるFoundationOneやOncoGuide検査が保険診療となり、その中には、遺伝性乳がんの原因となる遺伝子が数多く含まれている。このような状況下で、一体何をやればよいのか、どのように対応すればよいのか、現場で混乱が起こっている。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群など遺伝性腫瘍の診療やがんゲノム医療を行う上で知っておくべきこと、注意すべきこと、解決すべき課題などについて話題提供をする予定である。

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地域推薦演題

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RRS-1 Phase II study of combination therapy of nivolumab, bevacizumab and paclitaxel in HER2-negative MBC

虎の門病院 臨床腫瘍科

尾崎由記範、高野 利実

Background: In recent years, an immune checkpoint inhibitor, anti-PD- 1 antibody, has been developed for various cancer types including breast cancer. The synergic effect of combination of nivolumab, paclitaxel and bevacizumab has been anticipated based on various preclinical data. Therefore, we initiated this investigator-initiated trial to evaluate the efficacy and safety of nivolumab + paclitaxel + bevacizumab therapy as a first-line treatment in patients with metastatic or recurrent HER 2 -negative breast cancer. Methods: This is a Phase II, multi-center, single-arm study to evaluate the efficacy and safety of nivolumab + paclitaxel + bevacizumab combination therapy as a first-line treatment for HER 2 -negative advanced metastatic or inoperable recurrent breast cancer. Patients will receive nivolumab 240 mg/body on day 1, 15, paclitaxel 90 mg/m 2 on day1, 8, 15, and bevacizumab 10 mg/kg on day1, 15 every 4 weeks until the protocol treatment is determined to be ineffective or may not be continued. The primary endpoint is the objective response rate (ORR) and key secondary endpoints include progression free survival, overall survival, and the toxicity of the protocol treatment. The threshold and expected ORR are 55% and 70%, respectively, and 47 patients are needed to ensure a statistical power of 80% (α=0.10). A total of 51 patients will be enrolled and duration of enrollment would be one year. Tumor tissue will be evaluated for the amount and phenotypes of TILs, PD-L 1 expression, and gene expression analysis. Peripheral blood will be evaluated for immune status and cytokine profiling. This trial had opened to accrual in February 2018. UMIN000030242.

RRS-2 人工知能により早期発見の可能性が考えられた異時両側乳癌の2例

1湘南記念病院 乳がんセンター、2東京大学大学院医学系研究科次世代病理情報連携学講座

井上 謙一1、川崎あいか1、小清水佳和子1、有泉 千草1、海野 敬子1、水野 香世1、三角みその1、佐々木 毅1,2、土井 卓子1

人工知能の技術を用いることで、マンモグラフィ画像内の乳腺組織の濃度変化を鋭敏に検出することができ、そうすることで乳癌が増大する様を可視化することができる。我々はこの技術を用いることで、retrospectiveではあるが数年前からの乳癌の存在を検出し得た 2 症例を提示する。症例 1 は40代女性。X年に左乳癌で乳頭温存乳房全切除術+センチネルリンパ節生検+ティッシュー・エキスパンダー留置を施行された。X+ 6 年後のマンモグラフィでは明らかな異常所見を認めなかったが、X+ 8 年後のマンモグラフィで乳腺の濃度が上昇していた。またエコーで右乳房頭側に1.4x1.0x0.4cmの低エコー腫瘤を認めたため、同部位に針生検を施行、DCISの診断となった。治療目的の転院先で皮膚温存乳房全切除+センチネルリンパ節生検+ティッシュー・エキスパンダー留置を施行された。この症例のマンモグラフィ画像をAIにかけてみると、X+ 5 年前から乳癌の存在を示す濃度の上昇を検出することができ、更にそれが経時的に増大している所見を得た。症例 2 は60代歳女性。Y年に前医にて右乳癌の診断で乳房部分切除+センチネルリンパ節生検を施行された。転居に伴いY+ 6 年より当科転院、定期フォローとなった。Y+11年のマンモグラフィでは明らかな異常所見を認めなかったが、Y+12年のマンモグラフィで、左頭側に淡く不明瞭な石灰化が区域性に広がっている所見を認めた。同部位に低エコー領域が地図上に広がっていたためエコー下マンモトーム生検を施行したところ、DCISの診断となった。切除範囲が広範囲だったため、左乳癌に対し乳房全切除+センチネルリンパ節生検を施行された。マンモグラフィ画像をAIにかけてみると、Y+ 7 年のマンモグラフィ画像の時点で乳腺の濃度が一部上昇していることが認められ、更に経時的に増大している所見を得た。この技術を乳癌検診等に用いることで、比較読影を行う際に病変の存在をより容易に検出することができ、早期発見に繋がる可能性があると考えられた。

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RRS-4 Anatomical Intelligence for Breastによる乳癌術前化学療法症例の新規病巣部位同定法

千葉大学医学部附属病院 臓器制御外科

寺中亮太郎、榊原 淳太、高田  護、藤本 浩司、三階 貴史、長嶋  健、大塚 将之

術前化学療法後は、腫瘍の壊死・線維化に伴い病巣部位が不明瞭化し同定に難渋するケースがある。このため、NCCNのガイドラインでは腫瘍床へのマーカー留置が推奨されている。他にはReal-time Virtual Sonography法や投影法などが報告されている。今回、既存の方法とは一線を画する手法を報告する。病巣の追尾にはフィリップス社製のAnatomical Intelligence(AI) for Breastを用いた。AI Breastは、ベッド内の磁気マットより構築される磁場を探触子に内蔵されたトランスデューサが感知し、その位置情報を取得する。モニター上の乳房のBody Mark内のカーソルがUS走査に連動するため、位置情報の把握が視覚的に容易となる。更にはAuto Annotate機能により、ワンタッチで乳頭から腫瘍の距離と場所(時計軸表示)がモニターに自動表示される。この特性を術前化学療法症例に応用した。方法として、はじめに化学療法前の病巣の位置情報をAuto Annotate機能で取得する。同時にBody Mark上の探触子の位置や僅かな傾きも含めた情報も取得できる。化学療法後は病巣近傍に探触子を固定し、Auto Annotate機能で化学療法前に取得した位置情報を得るまで補正すれば自ずと瘢痕部が描出される。不明瞭化した瘢痕部の同定のみならず、腫瘍縮小方向の追尾や乳頭から距離がある腋窩リンパ節転移巣の追尾も可能であった。AI Breastは標的病巣の位置情報が数値やBody Markで表現され、客観性を担保するマーカーに匹敵する可能性を秘めている。なおかつマーカーを挿入留置する手間も省略でき、患者への侵襲がない。検者の力量に関係無く病巣同定をアシストしてくれるため、今回報告した使用例のみならずUS検診などにも活用できると考えられ、今後の普及が期待される。

RRS-3 BRACAnalysisで評価困難と判断された症例の報告

1筑波大学附属病院 乳腺甲状腺内分泌外科、2筑波大学医学医療系 乳腺内分泌外科、3筑波大学医学医療系 遺伝医学

橋本 幸枝1、坂東 裕子2、市岡恵美香2、都島由希子2、井口 研子2、野口恵美子3、原  尚人2

当院は遺伝カウンセリング実施可能施設として茨城県の多くの医療機関と連携しており、自施設のみならず県内からBRACAnalysisおよびOlaparibを必要とする症例が集まる。2018年 6 月から2019年 9月までに計44症例のBRACAnalysisを行い、病的変異あり 8 例(BRCA1: 2 例、BRCA2: 6 例)、VUS 3 例(BRCA1: 2 例、BRCA2: 1 例)、評価困難 2 例(いずれもBRCA 1 )という結果であった。本発表ではBRACAnalysisの検査報告書で評価困難( 5 段階評価外)と報告され、Olaparibの適応判断に苦慮した 2 例について報告する。1 例目はBRCA 1 の機能上重要なドメインに位置するアミノ酸置換で、この変異によりBRCA 1 タンパクの正常機能が阻害されるという報告がある一方で浸透率は低いという報告もあり、病的変異が疑われるものの現時点では評価困難であるという内容であった。2 例目はBARTtestおよびconfirmatory PCR AnalysisでBRCA 1 の特定のエクソン領域に構造多型が疑われたが、Sanger sequencing・MLPA法・NGS・microarrayでは変異は認めず、Inconclusiveであるという報告であった。いずれの症例も乳癌・卵巣癌の家族歴はなかった。Olaparibの適応の可否について、また血縁者への対応については遺伝診療部と十分に協議した上で診療にあたった。BRACAnalysisが運用開始されたことで 5 段階評価以外にも「評価困難」と報告されるケースが少なからず存在するということが明らかとなった。したがって、BRACAnalysisの結果を適切に解釈するには遺伝学的検査の基礎的知識が必要であり、また遺伝子変異がタンパクに及ぼす影響についてもケース毎に考慮する必要があると考える。本発表では、実際に評価困難と報告された症例について文献的考察も踏まえて症例を報告する。

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RRS-6 当院における術前化学療法後の効果判定の精度についての検討

栃木県立がんセンター 医局

竹前  大、北村 東介、安藤 二郎、星  暢夫

近年、化学療法高感受性の乳癌の多くは術前化学療法を経て手術を施行される。これにより、腫瘍縮小による乳房温存率の向上という形で治療の縮小が期待されている。さらに、完全奏効(Complete Response=CR)が期待される症例に対しては手術自体を省略することも検討されている。当院では、2009年から2019年までに291症例295乳房に対し、Anthracycline,Taxaneを含む術前化学療法を行った。295乳房中、腫瘍遺残がない症例(ypT 0 =狭義のpCR)は45例であり、およそ16%の症例に浸潤部の消失を認め、乳管内病変の遺残のみの症例(ypTis=広義のpCR)も38例とおよそ13%に認められた。しかし、マンモグラフィ、乳房超音波、MRI、CTによる総合判定による術前の効果判定にて、CRと診断した34例のうち、ypT0:58%%(20/34)、ypTis:20.5%( 7 /34)、T 1 mic:5.8%( 2 /34)、T 1 a-c:11.7%( 4 /34)と約17%の症例に浸潤部の遺残があった。HER 2 陽性の症例についても、術前化学療法CRの判定の18例のうちypT 0 は55%(10/18)、ypTis:22.2%( 4 /18)、ypT 1 mic:5.5%( 1 /18)、ypT 1 a-c:11.1%( 2 /18)、ypT25.5%( 1 /18)と約22%に侵潤部の遺残が認められた。PR と診断した181例については、ypT0:5.5%(10/181)、ypTis:9.3%(17/181)、ypT 1 mic:4.9%( 9 /181)、ypT 1 a-c:38%(69/181)、ypT 2 -4:41/ 9 %(76/181)と85%に浸潤部遺残を認めたが、15%程度の症例は浸潤部遺残を認めなかった。現在、術前化学療法後にCRとなった症例に対する手術省略に関する研究開始が検討されているが、上記のごとく画像データの目視による正確な効果予測は困難である。術前化学療法後の局所の針生検による腫瘍遺残の確認にて対応することが考えられるが、広範な乳管内進展を有し多発浸潤巣が予想される症例や、腫瘍が求心性に縮小せずまだらに消失する症例には課題が残ることが予想される。現在、医療用AIは画像診断や病理診断など多くの分野で導入が試みられており、高い診断能を発揮している。癌腫は異なるが、直腸癌の術前化学放射線治療後のMRI画像の機械学習による腫瘍遺残の予測についても報告されている。当院の症例より、術前化学療法前後の画像評価と病理結果で大きく乖離のあった症例を数例提示させていただき、こうした症例におけるAIの参画の可能性について検討させていただきたい。

RRS-5 当科における乳癌ゲノム医療の取り組み

1新潟大学医歯学総合研究科 消化器・一般外科、2新潟大学医学部 保健学科、3新潟県立がんセンター新潟病院 乳腺外科

永橋 昌幸1、利川 千絵1、土田 純子1、諸  和樹1、五十嵐麻由子1、小山  諭2、佐藤 信昭3、若井 俊文1

 近年、次世代シークエンサー(NGS)の登場により、実臨床において癌関連遺伝子の網羅的解析を行うクリニカルシークエンスが実現可能となった。本邦においては、がんゲノム中核拠点病院と連携病院に加えて、拠点病院が制定され、遺伝子パネル検査を用いたがんゲノム医療を提供する体制の構築が進んでいる。クリニカルシークエンスにおいては、手術切除検体や生検検体などのホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)ブロックより抽出される断片化されたDNAの配列をNGSにより解析し、臨床的に治療標的となる遺伝子変異を明らかにする。従って、我々臨床医にとって遺伝子検査に必要なFFPE検体の保存方法や条件について熟知しておくことは重要である。また、乳癌患者においては術前化学療法の施行例など、生検検体しか使用できない場合もあり、限られた検体からのDNA抽出量を把握することも重要である。NGS解析を目的に外科切除検体並びに生検検体から抽出されたDNAの質と量とについて、当科で検討した成績を提示する。 我々は、400以上の癌関連遺伝子をNGSによって包括的に調べる遺伝子パネル検査を用いて、乳癌を含む固形癌650症例以上のドライバー遺伝子変異について解析を行ってきた。がんゲノム医療の実践には実際にがん治療を行う臨床医に加え、上述のように検体の適正な処理・保存を行う病理医や検査技師、臓器横断的に判断できる腫瘍学の専門家、膨大な遺伝子情報を解析するバイオインフォマティクスや、患者情報や検体の匿名化を行い、安全に情報を管理する情報管理の専門家、そして、遺伝カウンセリングやサポートを行う遺伝専門医や専門カウンセラー等が重要となる。今後、クリニカルシークエンスが広く普及していくと、胚細胞変異に関する二次的所見が急増し、遺伝カウンセリングに関連する多くの課題に直面することが想定される。BRCA遺伝子検査におけるカウンセリング体制の整備は、今後のがん遺伝子パネル検査の導入に伴い必要となる体制整備とも重なってくる。遺伝カウンセリングの人材育成や体制整備と共に、情報管理体制や、未発症者に対するサーベイランスの整備等、がんゲノム医療のモデルケースとして取り組んでいく必要があると考えられる。当科における乳癌ゲノム医療の推進へ向けた取り組みを紹介する。

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RRS-8 Palbociclib耐性ER陽性HER2陰性再発乳癌に対するAbemaciclibの有効性

1地域医療機能推進機構埼玉メディカルセンター 乳腺外科、 2地域医療機能推進機構埼玉メディカルセンター 病理診断科

関  大仁1、櫻井 孝志1、前田 祐佳1、沖  尚彦1、青山 美奈1、山口  諒1、清水  健2

CDK 4 / 6 阻害剤が保険適応となったことでER陽性HER 2 陰性再発乳癌(ER+HER 2 -MBC)に対する治療戦略が大きな変遷を遂げている。Palbociclib耐性ER+HER 2 -MBCに対するAbemaciclibの有効性に関しては未だ明らかとなっていない。2018年11月から2019年 5 月までに当院でPalbociclib耐性ER+HER 2 -MBCに対してAbemaciclibを使用した 9 例を対象に後方視的検討を行った。年齢中央値は70 (46-84)歳、観察期間中央値は8.1 (4.6-9.5)ヶ月であった。前治療歴 2 レジメが 2 例、 3 レジメ以上が 7 例であった。Overall response rateは22.2% ( 2 / 9 )、Clinical benefit rateは44.4% ( 4 / 9 )、Time to treatment failureの中央値は4.4(2.1-9.1)ヶ月であった。Abemaciclibでlong SD以上であった 4 例中 3 例(75%)はPalbociclibでPR以上であった。Abemaciclib の後治療の内訳はホルモン療法が 1 例、化学療法が 5 例であった。Abemaciclib を減量した症例は 4 例であった。Palbociclib 耐性 ER+HER 2 -MBC に対してAbemaciclibが有効な症例が認められたので報告した。今後さらなる症例の集積と検討が望まれる。

RRS-7 BRCA2病的バリアントを有する乳癌既発症者のMRIサーベイランスで、 対側乳房非浸潤性乳管癌が発見された1例

1群馬県立がんセンター 乳腺科、2群馬県立がんセンター 遺伝診療科

宮本 健志1,2、藤澤 知巳1、矢内 恵子1、柳田 康弘1,2

【はじめに】BRCA 1 または 2 の病的バリアントを有する遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の乳癌既発症者の対側乳房サーベイランスにはマンモグラフィ(MG)に加え造影MRIの併用が推奨される。この方針に従い対側乳房の非浸潤性乳管癌(DCIS)を発見した症例を経験したので報告する。

【症例】47歳、女性【臨床経過】右乳癌(DCIS)の診断で42歳時に乳房切除施行。HBOC関連腫瘍の家族歴を有する(実母;異時性両側性乳癌、母方祖母;乳癌、母方おば;卵巣癌)ため遺伝カウンセリング施行し、遺伝学的検査(GT)を実施した。BRCA 2 に病的バリアントを認めた。なお、術式はGT結果でなく病変の占拠部位で決定された。術後検査は年に 1 回の視触診、MG、MRIで行った。術後3 年のMRIで造影効果のある小腫瘤が指摘され、超音波検査(US)で部位同定し、吸引式乳房組織生検(VAB)実施したが乳腺組織のみであった。以降半年ごとのUSを追加した。術後 5 年の画像でも変化は無かったが、診療の区切りとして対側乳房へのリスク低減手術(RRM)も考慮しつつ当該病変の精査を行い、VABでDCISの診断となり、乳房切除施行した。最終病理もDCISであった。

【考察】本邦ガイドラインで、HBOCの対側乳房マネジメントは、NCCNガイドラインを引用し、MGとMRI併用検査実施と、RRMへの検討について触れている。また、乳癌既発症者の対側RRMを強く推奨すると述べており、実施が好ましいと考えている。当院ではRRM実施体制は整っているが、心理面、身体面、費用等の点から希望されないケースも多い。良悪性にかかわらず乳腺腫瘤が存在する場合は、腫瘤摘出を拡大解釈して乳房切除を保険で行うことは可能であり、その適応も検討したが、DCISが発見され、癌ではあったが最小限の状況で対応が可能であった。ただし、BRCA 2 による乳癌は、孤発性乳癌と組織型の頻度が同等であるとされるため、本例では幸いDCIS止まりであった可能性が高い。BRCA 1 の場合は、トリプルネガティブ乳癌の頻度が高くなることから、DCISの段階で発見されるケースは少なくなるだろう。原因遺伝子別に好ましい対応が異なるかどうか、ランダム化研究にはふさわしくないと考えられるので、海外からの報告や、本邦でのHBOC登録事業等での経過観察の結果から何らかの方針が導かれると期待している。一方、対側RRMの生命予後への寄与が明らかで、HBOC乳癌手術のオプションとしてRRMが保険対応可能となれば、こうした症例報告自体が稀有となりうるだろう。

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ランチョンセミナー

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LS-2 乳がんの薬物療法―分子標的薬―

国立がん研究センター東病院 乳腺・腫瘍内科

内藤 陽一

転移・再発乳癌は多くの場合治癒が困難であり、治療の目的は「生存期間の延長」と「生活の質(QOL)の維持・改善」である。近年の治療法の進歩、特に1990年代以降の多数の新薬の登場により再発後の生存期間は徐々に延長してきている。乳癌診療において使用される分子標的薬のうち、ホルモン受容体陽性乳癌に対しては、mTOR阻害薬のエベロリムスが、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬耐性後にエキセメスタンとの併用で有効性を示し実臨床で使用されている。近年はサイクリン依存性キナーゼ (CDK) 4 / 6 阻害薬であるパルボシクリブ、アベマシクリブの有効性が示され、閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法としてアロマターゼ阻害薬とCDK 4 / 6 阻害薬の併用を行うことが強く推奨されている。また、閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する二次内分泌療法としてフルベストラントとCDK 4 / 6 阻害薬の併用療法を行うことが強く、エキセメスタンとエベロリムスの併用療法を行うことが弱く推奨されている。CDK 4 / 6 阻害薬による全生存期間、QOLへの影響なども報告がなされるようになり、「いつ」「だれに」使用すべきかについて、エビデンスを適切に解釈し、状況に合わせて使用を相談していくことが求められる。本講演では、ホルモン受容体陽性乳癌での分子標的薬使用の対象やその効果を概説する。

LS-1 Triple Negative乳癌における新たな治療戦略

昭和大学医学部 乳腺外科 講師

増田 紘子

 転移・再発のトリプルネガティブ乳癌は進行が早く、他のサブタイプに比べ、予後不良である。 HER 2 陽性乳癌やホルモン受容体陽性乳癌は、転移・再発乳癌であっても、抗HER 2 療法やホルモン療法における様々な薬剤の登場によって、薬物療法の治療成績は改善されつつあったが、その一方で、転移・再発のトリプルネガティブ乳癌はこれまでに明確に臨床的有用性を示した分子標的治療薬がなく、また、治療薬も他のサブタイプに比べて限られていることから、未だアンメットニーズの高い領域であった。 そのようななかで、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-L 1 抗体のアテゾリズマブが、転移・再発のトリプルネガティブ乳癌患者を対象とした第III相試験において、標準的治療法である化学療法との併用においてその有用性を示した。 アテゾリズマブの有効性および安全性について、第III相臨床試験であるIMpassion130試験の結果をもとに解説するとともに、今後のトリプルネガティブ乳癌における治療戦略の展望を述べる。また、過度の免疫反応により起こるとされる免疫関連有害事象の発現が認められることから、それらを適切にマネジメントし、その治療効果を適切に患者に提供していくことの重要性についても述べる。

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LS-4 OS効果予測因子は実臨床でも再現されるか -Biomarkerを考慮した治療戦略-

静岡県立静岡がんセンター 女性内科 部長

渡邉純一郎

PD-L 1 /PD- 1 抗体に代表されるように、近年の新規薬剤はBiomarkerによってベネフィットを享受できる集団が特定されるようになった。一方で、殺細胞性抗がん剤は特定のBiomarkerはなく、投与前にベネフィットを享受できる患者を特定することは難しい。2011年に殺細胞性抗がん剤として承認されたエリブリンは、 8 年間の実臨床での経験の中からcytotoxicな作用以外に、「血管リモデリング作用」「EMT抑制作用」そして「腫瘍免疫への介入」が見いだされ注目されつつある。そして、EMBRACE試験の追加解析から、リンパ球数がOSのPredictive Biomarkerになることが見出された。今回は、新しい時代におけるER+HER 2 -ABCに対する化学療法の果たす役割、特にエリブリンへの期待に関し、腫瘍免疫への介入などの知見を交え、解説していきたい。

LS-3 プレシジョンメディスンから考えるリムパーザの臨床的位置づけ

国立がん研究センター東病院 乳腺・腫瘍内科

古川 孝広

国立がん研究センター東病院では、広く遺伝子変異を評価し治療標的となる遺伝子変異を有する患者に対する治験を行うSCRUM-JAPANを推進してきた。最近MONSTER-SCREENが開始され、乳がんを含む様々ながんにプレシジョンメディスンとしての治験が拡大されつつある。現時点では乳がんでは包括的な遺伝子変異検索に基づく治療は実施されていないものの、BRACAnalysisを用いたBRCA変異陽性乳がんに対するolaparib投与が標準治療なった他、PIK 3 CA、FGFRなどの変異をリキッドバイオプシーで評価し、変異例にはその阻害薬の治験の適応とするなど、臨床現場で遺伝子変異を評価する機会が増えてきている。またBRACAnalysisでは、遺伝子検査の障壁の一つと言える生殖細胞での変異の同定が要求されるなど、乳がんにおけるゲノム医療を取り巻く環境は激変している。また、遺伝子パネル検査の保険承認に伴い、個別化医療の推進が期待されるが、膨大な遺伝子情報と臨床情報を融合させ、有効利用できる環境の構築が必須と考えられる。ゲノム医療に対する期待は大きい一方で、乳がん診療においてBRACAnalysisや遺伝子パネル検査を、誰がいつどのように実施するかなど、まだまだ課題は多い。

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LS-6 ER陽性進行再発乳がんの治療戦略

筑波大学 医学医療系 乳腺内分泌外科准教授

坂東 裕子

あらたなホルモン治療薬および分子標的治療薬の登場により、エストロゲン受容体(ER)陽性、HER 2 陰性進行再発乳がん治療の予後は近年改善している。 1 stライン治療として、アロマターゼ阻害剤単剤、フルベストラント単剤、もしくはアロマターゼ阻害剤とCD 4 / 6 阻害剤の併用が標準治療となっている。しかしながら当初は治療に反応しても、徐々に病勢は進行し、セカンドライン治療、サードライン治療が必要となる。進行再発乳がんの治療の原則として、QOLを維持しつつ生存期間の延長を目指すこと、あるいは病態の安定した期間を長期化することが求められ、いかに 1 stライン以降の治療戦略を構築するかが課題である。医療者の視点からは推奨治療はこれまでの臨床試験等のエビデンスに基づき検討されるが、同時に患者さんが治療に何を期待し、何を好ましく思わないかを対話の中で明らかにし、Shared Decision MakingをめざすプロセスはBest Clinical Outcomeにむけ、非常に重要となる。

LS-5 HER2陽性乳癌治療の温故知新 ~さらなる予後向上を目指して~

千葉県がんセンター 乳腺外科 部長

山本 尚人

 2001年 6 月に分子標的治療薬の先陣を切ってTrastuzumab(H)がHER 2 陽性進行・再発乳癌に対して適応となり、2008年 3 月には術後補助化学療法に適応拡大された。さらに医師主導治験の結果を踏まえ、公知申請により2011年11月に術前化学療法に関する効能・効果追加、および 2 回目以降の投与時間短縮が追加承認された。その後、CLEOPATRA やEMILIA試験結果によりPertuzumab(P)やT-DM 1 が上市され、HER 2 陽性乳癌の予後は飛躍的に改善されたが、現在でも新たな治療法や新規薬剤の開発が進められている。 最近では、進行・再発乳癌に対しては、MARIANNE試験などの抗HER 2 併用療法やSOPHIA試験などの新たな抗HER 2 抗体薬物複合体(ADC: Antibody Drug Conjugates)の試験結果も報告され、さらにT-DM 1 既治療例に対する新規ADCも期待されている。 一方、手術可能原発性乳癌に対しては、APHITY試験の結果からHPDocetaxel療法が周術期にも昨年使用可能となり、KRISTINE試験やPREDIX HER 2 試験などの結果も報告されている。 本セミナーでは、今までのHER 2 陽性乳癌治療に関して振り返り、さらなる予後向上を目指した今後の治療戦略に関して考察する。

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スポンサードセミナー

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SS-2 どうする?ER (+)、HER2 (-) 進行乳がん!

松山赤十字病院 乳腺外科 部長

川口 英俊

多くの治療薬が認可され、ER (+)、HER 2 (-) 進行乳癌に対する治療方針について悩んでいませんか。本日は、私の治療方針を講演します。内分泌療法歴の無い一次治療は、FIRST試験とFALCON試験の結果から、フルベストラント(FUL)を第一選択として使用しています。また、内分泌療法歴のある一次治療でも、FULを積極的に使用していますが、FALCON試験の結果の外挿については意見が分かれるでしょう。CDK 4 / 6 阻害剤を一次治療に使用すべきではないかという考えもありますが、一次治療でCDK 4 / 6 阻害剤を用いると、内分泌治療法単独で長期間治療可能な症例の治療機会を失います。一次治療でCDK 4 / 6 阻害剤を用いるのは、内分泌療法単独で治療する時間が無い症例だと考えています。二次治療は、一次治療でFULを使用していない症例はFULの使用を勧めていましたが、PALOMA- 3 試験のOSデータにおいて、統計学的有意差はなかったものの、HR:0.8とパルボシクリブ併用群が優れたことから、積極的にCDK 4 / 6 阻害剤を併用するようにしています。三次治療以降の内分泌療法を用いたデータはほとんどありません。欧米では多くの症例の二次治療で化学療法が行われるためです。日本の症例を集めたコホート試験であるSafari試験では、三次以降でもFULはある程度効果を示す事が示されています。まだ内分泌感受性があると判断した症例では、FULは三次治療以降でも効果があるのだと考えます。

SS-1 HR陽性乳がんに対するチーム医療の重要性

国立がん研究センター東病院 乳腺・腫瘍内科

古川 孝広

近年、乳がんにおける薬剤開発が進み、ホルモン受容体陽性乳がんにおいては、殺細胞性抗癌剤の投与前に、CDK 4 / 6 阻害剤などの分子標的治療を併用とするホルモン療法の選択肢が多く登場し、更なる生存期間の延長が期待されている。多くの新薬登場を背景として、治療早期のレジメンでの全生存期間の延長を示すことが困難になり、無増悪生存期間を代替エンドポイントとして、標準治療として実施されている。更に新薬開発が進むことで、これまで標準治療と考えられてきたレジメンが、もはやそれらの薬剤が承認となった条件で使用することが困難となり、適切な治療シークエンスがの判断が複雑になってきている。そのため、診療科内でのコンセンサスをアップデートし、患者一人一人の治療方針を吟味した最善な治療を提供できるよう、チーム医療を実施している。一方、最近のエビデンスとしてMONARCH 2 試験でのアベマシクリブ+フルベストランの全生存期間 での有意な延長(中央値46.7月 vs 37.3月; HR 0.757, 95% CI 0.606-0.945 [p=0.0137])が報告され、今後のホルモン受容体陽性乳がんの治療戦略に影響を与えるものと考えられる。当院では医師のみならず、レディースセンターを介した他職種による、乳がんのチーム医療が推進されている。当院でのチーム医療の取り組みや、実際の症例を供覧したい。

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SS-3 乳がん診療におけるOncotypeDXの最新知見 −私に化学療法は必要ですか?患者の問いに最新の知見で応える−

横浜市立大学附属 市民総合医療センター

成井 一隆

 周術期の薬物療法により乳癌の予後は改善してきた。その中で、手術可能なエストロゲン受容体(ER)陽性/HER 2 陰性浸潤性乳がんに対して周術期に化学療法を行うかどうかは、予後を改善する一方で毒性もあるため、その判断に迷うことがある。これは、現時点で判定できる乳がんのバイオマーカーは予後予測として有効である一方、化学療法の効果を予測することは困難であるためである。 バイオマーカーの一つであるオンコタイプDX乳がん検査は、世界の乳がんガイドラインで推奨されており、唯一化学療法の効果予測が可能な多遺伝子検査と言われている。オンコタイプDX乳がん検査のエビデンスは、NSABP B14, B20試験から始まり昨年は、TAILORX試験の結果が発表され、そのエビデンスレベルは高いと言える。また、今年のASCOでは、このTAILORX試験の結果に臨床リスクを加えたサブ解析も行われ、興味深い結果が発表された。一方、リンパ節転移陽性例に対する臨床試験も多く行われており、前向き試験であるRxPONDER試験の結果が待たれる。 本セミナーでは、周術期化学療法の効果予測におけるオンコタイプDX乳がん検査の有効性について、データを紹介しながら考察する。

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一般演題口演

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A-2 画像所見から乳癌との鑑別が困難であった乳腺線維腺腫の一例

1群馬大学 医学部附属病院 乳腺・内分泌外科、2群馬大学 医学部附属病院 病理診断部、3狩野外科医院

喜多  碧1、中澤 祐子1、徳田 尚子1、黒住  献1、尾林紗弥香1、矢島 玲奈1、菊地 麻美1、小山 徹也2、狩野 貴之3

【症例】39歳女性.甲状腺乳頭癌に対して甲状腺全摘、D 2 郭清を行い、術後TSH抑制療法中である.甲状腺癌の経過観察目的で撮影したFDG-PETで、左乳房腫瘤の新規出現と同腫瘤に対するFDGの異常集積(SUVmax=3.1)を認めた.触診では左乳房ACE領域に 7 mm大のやや弾性硬の結節を触知し、超音波検査では左ACE領域に10mmの比較的境界明瞭な充実性腫瘤を認めた.マンモグラフィは高濃度乳腺で、腫瘤は指摘できなかった.乳腺MRIでは左乳房ACE領域に10mm大の早期濃染される腫瘤を認め、一部clustered ring enhancement状の所見を伴い、乳癌を疑う所見であった.針生検を施行したが乳腺症の診断であったため、マンモトーム生検も施行したが乳管過形成との診断であった.経過観察も提案したが、画像上は乳癌が否定できない所見であったため、本人希望もあり摘出生検の方針とした.病理組織検査では乳腺症型線維腺腫の診断で、悪性所見は認めなかった.【考察】乳腺症型線維腺腫は上皮成分の増生が高度であり、時に画像や組織像で乳癌に類似した所見を示す場合があり、悪性腫瘍との鑑別が困難なことがある.【まとめ】今回、画像所見から乳癌との鑑別が困難であった線維腺腫の一例を経験したため、文献的考察をふまえて報告する.

A-1 腋窩部副乳に発生した線維腺腫の一例

1筑波大学附属病院 乳腺甲状腺内分泌外科、2筑波大学医学医療系 乳腺内分泌外科、3独立行政法人 国立病院機構 霞ヶ浦医療センター

林  優花1、朝田 理央1、一戸 怜子1、高野絵美梨1、佐々木憲人1、佐藤 璃子1、藤原 彩織1、河村千登星1、岡崎  舞1、市岡恵美香2、都島由希子2、井口 研子2、坂東 裕子2、近藤  譲3、

原  尚人2

症例は25歳女性。右腋窩の腫瘤を自覚し近医を受診。約 2 年間で腫瘤の緩徐な増大傾向を認め、悪性が否定できず紹介となった。触診では右腋窩に 3 cmの弾性硬の腫瘤を認め、皮膚所見は認めなかった。超音波検査では右腋窩に最大径27mmの境界明瞭平滑で内部が低エコーな分葉状腫瘤を認めた。血流は豊富であり、後方エコーは増強を呈した。その他乳房内に悪性を疑う所見は認めなかった。同腫瘤から施行した穿刺吸引細胞診ではclass III、異形細胞の出現および筋上皮細胞様の細胞を認め、リンパ球は認めなかった。転移性リンパ節や副乳腺などを考え針生検を施行した。針生検では二相性の保たれた乳腺構造および間質の増生を認め、線維腺腫様の変化が疑われた。またリンパ節を示唆する所見や悪性所見は認めなかった。そのため副乳発生の線維腺腫と診断し、本人の希望を踏まえ腫瘤摘出術を施行した。腫瘤は肉眼的に表面平滑な乳白色を呈し、最終病理断でも副乳由来の線維腺腫と診断された。腋窩腫瘤の鑑別には腋窩の副乳より発生した乳腺疾患、転移リンパ節、悪性リンパ腫などが挙がる。過去の報告では腋窩腫瘤で発症した症例のうち19%が副乳に由来する良性病変との報告もあるが、穿刺吸引細胞診で副乳の診断を得るのは難しいことも言われている。今回我々は術前画像診断および針生検で副乳由来の線維腺腫と診断し得た症例を経験したため若干の文献的考察を加え報告する。

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A-4 乳房サルコイドーシスの一例

1(公財)結核予防会 複十字病院 乳腺センター乳腺科、2(公財)結核予防会 複十字病院 放射線診療部放射線診断科

小柳 尚子1、武田 泰隆1、生魚 史子1、井上 博矢2

はじめにサルコイドーシスは病理組織学的に類上皮細胞肉芽腫を認める全身性肉芽腫性疾患である。主に肺、眼、皮膚に病変を作る頻度が高い。しかし、乳房内の病変はきわめて稀である。今回我々はサルコイドーシスの乳房内病変を経験したので報告する。症例73歳女性。既往歴に特記事項なく、人間ドックのPETで左乳房に異常集積を指摘され精査目的にて当院受診となった。自覚症状はなく、視触診では明らかな腫瘤は触知せず、分泌物も見られなかった。左乳頭の陥凹があり、15年ほど前より出現したとのことであった。マンモグラフィでは左乳頭下にカテゴリー3 の等濃度FAD、超音波では左E区域に限局性の乳管拡張、dynamic MRIでは同部はenhanced massとして描出されていた。造影超音波では限局性乳管拡張に一致して早期濃染がみられ、画像所見からは非浸潤性乳管癌や乳管形成型の浸潤性乳管癌を疑った。そこで、同部をターゲットに吸引式針生検を施行したところ、多数の類上皮肉芽腫が認められたことよりサルコイドーシスが疑われ、胸部や皮膚の精査を勧めた。患者に病理結果を伝えたところ、29年前に胸部単純写真で異常を指摘され精密検査となり、気管支鏡でサルコイドーシスと診断されていたことがわかった。呼吸器内科で経過観察となっていたが、数年で受診しなくなってしまったとのことであった。まとめ乳房サルコイドーシスという稀な疾患を経験したため文献的考察も加えて報告する。

A-3 非常に稀な男性乳乳腺筋繊維芽細胞腫の一例

1東京医療センター 外科、2東京医療センター 臨床検査科

柵木 晴妃1、松井  哲1、市村 佳子1、岩田 侑子1、原田 華子1、笹原真奈美1、村田 有也2、浦上秀次郎1、石  志紘1、木下 貴之1、大石  崇1、磯部  陽1

乳腺筋線維芽細胞腫は、間葉系細胞由来の稀な良性腫瘍である。今回は男性の乳房内に発生し診断・治療に至った症例を経験した。75歳男性、低Na血症の原因精査目的に胸部CT施行し、右乳頭近傍に境界明瞭な腫瘤を指摘されて当科紹介となった。触診では右乳頭近傍 3 時方向に2.2x2.0cm大の腫瘤を触れた。マンモグラフィーでは右乳頭下に境界明瞭な高濃度腫瘤を認めカテゴリー 4 であった。乳房エコーでは乳頭下やや内側寄りに2.7cm大の分葉状腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診で、間質細胞と乳管上皮細胞の集塊が採取され良性の診断であった。同年 5 月に診断確定のため局所麻酔下で右乳房腫瘤摘出術施行した。病理検査所見は、好酸性胞体を有する紡錘形細胞が束状をなして増生しており、太い膠原線維束が介在していた。乳腺組織内に存在する境界明瞭な病変で、免疫染色にてCD34 、desiminと平滑筋アクチンが陽性、S-100とcytokeratinが陰性を示すことから、筋線維芽細胞腫と診断した。乳腺筋線維芽細胞腫は非常に稀な疾患であり、臨床的には葉状腫瘍や線維腺腫との鑑別が必要になるが、上皮系細胞の性格を欠いているのが特徴である。

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A-6 G-CFS産生紡錘細胞癌の1例

1さいたま赤十字病院 乳腺外科、2さいたま赤十字病院 看護部、3さいたま赤十字病院 健診センター、4さいたま赤十字病院 病理診断科、

5亀田メディカルセンター 乳腺科

朝野紗稀子1、樋口  徹1、林  祐二1、有澤 文夫1、真鍋 育子2、末國久美子1、鵜飼 晴美3、李  治平4、黒住 昌史5、安達 章子4、齊藤  毅1

症例は65才,急速増大する左乳房腫瘤を主訴に当科紹介となった.初診時左C領域に約 4 cm大の弾性軟の腫瘤を触知した.マンモグラフィでは散在性乳腺を背景に左M/O領域に3.5cm大の辺縁微細鋸歯状の高濃度腫瘤影を認めた.超音波検査では左C領域に2.8cm大の円形で内部比較的均一,後方エコーの増強を伴う結節を認めた.腋窩・鎖骨上に腫大リンパ節は認めなかった.組織診ではTNBCの浸潤性乳管癌,追加免疫染色ではAE 1 /AE 3 ・vimentin・D 2 -40陽性,CD31・CD34・Factor-VIII・SMA・desmin陰性であり化成癌・癌肉腫・肉腫が鑑別に上がった.術前検査において白血球が31000,好中球が28000と著明上昇していたので,血液疾患の合併を疑い当院血液内科にコンサルトし,精査の結果G-CFS産生腫瘍が疑われた.全身検索では他臓器に腫瘍性病変はなく乳房が原発と考えられた.手術は肉腫が鑑別にあり,画像上転移を疑う腫大リンパ節を認めなかったためセンチネルリンパ節生検を省略し乳房温存術のみ実施した.術後検査では白血球・好中球・G-CFSいずれも低下していた.術後病理結果ではHE染色で紡錘形の異型細胞が充実性に増殖する像を呈しており,多数の細胞分裂像,壊死巣も認められた.免疫染色ではVimentin・AE 1 /AE 3 ・p63・ D 2 -40陽性,CD31・CD34・SMA・S-100・desmin陰性で紡錘細胞癌の診断となった.術後は化学療法および全乳房照射を実施し術後から現在まで無再発生存中である.今回文献的考察を加えてこれを報告する.

A-5 G-CSF産生転移性乳癌の一例

1埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科、2埼玉医科大学国際医療センター 支持医療科、3埼玉医科大学病院 乳腺腫瘍科

杉山佳奈子1、大崎 昭彦1、北條  隆1,3、松浦 一生1、淺野  彩1,3、島田 浩子1、佐野  弘1、近藤 奈美1、貫井 麻未1、藤本 章博1、柳川 裕希1、長谷部孝裕1、佐伯 俊昭1、

島田 祐樹2、高橋 孝郎2

症例は61歳女性。 1 ヶ月前から上下肢に皮疹が出現、発熱、関節腫脹、疼痛も出現したため受診。炎症反応高値、自己抗体陰性、腫瘍マーカー正常範囲内。CT検査で右乳房に内部壊死を伴う腫瘤、右腋窩リンパ節腫脹、両肺に多発結節を認めた。PET-CTでは両肺の多発小結節に集積あり。また上位頚椎から腰椎、右仙腸関節から腸骨の広範囲に異常集積を認め、骨シンチでは両側手・肘・膝・足関節集積を認めた。左乳房腫瘤に対して針生検施行し、粘液癌、ER Allred score8, PgR Allred score8, HER 2 0 、Ki67 40%であった。発熱、感染源のない炎症反応高値およびFDG-PETで骨髄のびまん性集積を認めたことよりG-CSF産生腫瘍を疑い、免疫組織染色を追加したところ G-CSF 陽性、血清 G-CSF も高値であった。以上から G-CSF 産生右乳癌 T 4 bN 2 M 1 (PUL) cStage IVの診断となった。関節痛に対してはNSAIDSおよび第11病日からプレドニゾロン10mg投与開始した。その後関節症状は改善。乳癌に関してはホルモン受容体陽性のため、第17病日からレトロゾール2.5mg内服開始し、第18病日に自宅退院となった。治療開始より 2 年後現在、 4 mgまで減量したプレドニゾロンとレトロゾール2.5mg内服で症状コントロールできており、炎症反応値も正常範囲内。乳房超音波検査では右乳癌はわずかに縮小傾向、SD評価で治療継続中である。今回、我々はG-CSF産生の転移性乳癌の一例を経験したので報告する。

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B-1 乳癌術後補助化学療法中に1型糖尿病を急性発症した1例

1三和病院 乳腺外科、2三和病院 内科

高松 友里1、松岡  綾1、長谷川 圭1、渡辺  修1、斉藤 丈夫2

緒言: 1 型糖尿病は膵臓β細胞の破壊によりインスリンが欠乏して発症する糖尿病である。免疫チェックポイント阻害剤による 1 型糖尿病発症はよく知られているが、従来の化学療法中に発症することはまれである。乳癌術後補助化学療法中に急性発症 1 型糖尿病を来した症例を経験したため報告する。症例:67歳女性。既往歴は喘息。左乳癌の診断でBp+SNBを行った。病理結果は浸潤性乳管癌、pT 2 N 0 M 0 stage 2 A、Luminal HER 2 typeであり術後補助化学療法としてAC(アドリアシン、エンドキサン)療法を 4 回行った後、DH(ドセタキセル、ハーセプチン)療法を開始した。 2 回目投与後に帯状疱疹が出現し、その後口腔内カンジダによる疼痛で経口摂取不可となり入院となった。入院後意識障害が出現し、血液検査で血糖値701と高値で、代謝性アシドーシスも認めた。糖尿病性ケトアシドーシスと診断し、補液とインスリン投与を行い意識状態は回復した。考察:DH投与を開始した頃から口渇があった点、入院中に高血糖を認めた時点から継続してインスリン治療が必要となった点、膵島関連自己抗体陽性(抗GAD抗体1084U/ml)であった点より急性発症 1 型糖尿病と診断した。化学療法が直接的な原因であるという根拠はなかったが、免疫抑制状態の時期にHHV 6 が再活性化したことが誘因となった可能性は否定できなかった。そのため、残りの化学療法は中止し、ハーセプチンとホルモン療法、放射線照射のみ行う方針となった。

A-7 Olapalibが著効したG-CSF産生乳癌の一例

1神奈川県立がんセンター 乳腺内分泌外科、2横浜市立大学外科治療学教室

古波蔵かおり1、山下 年成1、岡本  咲1、戸田 宗治1、松原 由佳1、菅原 裕子1、山中 隆司1、菅沼 伸康1、利野  靖2、益田 宗孝2

OlapalibはBRCA 1 /BRCA 2 遺伝子変異陽性かつHER 2 陰性の手術不能または再発乳癌に対して,標準化学療法と比較してPFSの有意な延長が示されており,奏効率も高いため治療選択肢として期待されている.一方,G-CSF産生腫瘍は進行が急速かつ治療抵抗性であることが多く非常に予後不良である.今回我々はBRCA遺伝子陽性G-CSF産生乳癌に対してOlapalibを使用した症例を経験したので報告する.症例は51歳女性.他院で右乳癌cT 4 bN 2 M 1 (肝・骨)と診断され治療目的で当科紹介となった.右乳房CDE領域に 7 cm大の皮膚発赤・浮腫を伴う腫瘤を認め,針生検の病理はInvasuve carcinoma with metaplasia, NG 3 ,HG 3 ,ER 0 %,PgR 0 %,HER 2 0 ,Ki-67>20%(hot spot 70%)であった.WBCが高値でありG-CSF値を測定したところ,610pg/mLと高値であり,G-CSF産生腫瘍と診断した.パクリタキセル80mg/m 2 で治療開始するも 5 ヶ月で肝転移・局所増大のためPDの判断となった. BRCA 1 遺伝子変異陽性であり,通常の抗癌剤治療の効果が期待できないため次治療はOlapalibを選択した.Olapalib開始後,局所は著明に縮小した.しかし投与開始 3 ヶ月経過したところで局所が再増大し,Olapalibの効果は長期間持続しなかった.

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B-3 EC療法後、ペグフィルグラスチム投与にも関わらず Grade 4の発熱性好中球減少症を呈した乳癌症例

獨協医科大学 埼玉医療センター 乳腺科

山口 七夏、辻  英一、林原 紀明、小川 利久

ペグフィルグラスチムは、フィルグラスチムにポリエチレングリコールを付加させたもので、G-CSF適正使用ガドラインにおいても、発熱性好中球減少症(以下FN)予防に有用であるとされている。今回、乳癌術前化学療法において、ペグフィルグラスチム投与にも関わらずGrade4 のFNを呈した乳癌症例を経験したので報告する。症例:65歳女性、2019.2 右乳房腫瘤自覚し近医受診、針生検で乳がんと診断され、 5 月 当院受診した。右乳房に直径2.6cmの腫瘤触知し、針生検の結果はトリプルネガティブ乳癌、T 2 N 1 M 0 stageIIBと診断され、術前化学療法

(EC,taxan)の方針となり、EC療法施行し 2 日後にペグフィルグラスチムを投与した。Day 10より咳嗽、悪寒を伴い38.5度の発熱を生じ来院した。血液検査では白血球数800/μL、好中球16 /μL, 血小板10000/μL,CRP 8.62 mg/dLであり、Grade 4 のFNと診断し入院治療となった。入院後、輸液、抗生剤とともにG-CSF100U,3日連続投与したところ、14日目に白血球数1900/μL、好中球494/μL、15日目には平熱化し、白血球数4600/μL、好中球2024/μL、と正常化した。考察:化学療法後のペグフィルグラスチム投与後も、臨床的に顕在化はしないものの、一時的に好中球は減少することが知られている。文献上は化学療法後のペグフィルグラスチム投与後、 5 %程度の頻度でFNを来す、との報告がある。そして、レジメンによりFN発症の頻度は変わる。

B-2 術後dose dense AC療法中に器質化肺炎をきたした1例

神奈川県立がんセンター 乳腺内分泌外科

岡本  咲、戸田 宗治、古波蔵かおり、松原 由佳、菅原 裕子、山中 隆司、菅沼 伸康、山下 年成

症例は63歳女性。左乳癌(cT 2 N 0 M 0 )に対し左Bt + SNB ( 0 / 2 ) 施行し、ILC (pT 2 N0, HG 2 ,NG 2 , f , ly 1 , v 0 , ER 0 , PgR 0 , HER 2 1 + , Ki-67 hot spot 20-30% )の結果であった。術後補助療法としてdose dense AC療法を開始し、 4 コース目day10に38度の発熱、咳嗽、下痢症状あり救急受診した。WBC (800 ul)の低下とCRP (13.3 mg/dL)の上昇あり、CTで両肺に気管周囲の浸潤影と気管支壁肥厚・周囲の小斑状影を認め、発熱性好中球減少症と肺炎・腸炎合併疑いで入院した。抗菌薬投与を開始後、発熱は持続したが、全身状態の悪化は認めず、各種培養は陰性であった。薬剤性も考え抗菌薬一旦中止したところ、発熱は続くがCRPは軽度改善を認めた。入院 8 日目にCTで浸潤影の増悪と、胸水、浸潤影内部に多房性結節病変を新たに認めた。器質化肺炎が疑われ、10日目にPSL20mgの点滴投与を開始した。PSL開始後すぐに解熱し、炎症反応・陰影も徐々に改善を認めた。現在外来にてPSL漸減中だが、再燃を認めていない。器質化肺炎は特発性間質性肺炎の一つに分類され、市中肺炎様症状を呈し、抗菌薬不応でステロイドへの反応性良好な間質性肺炎とされるが、その診断は除外診断によるところが多い。今回診断に難渋した抗癌化学療法中の器質化肺炎の 1 例を経験したため、文献的考察をふまえて報告する。

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B-5 Dose-dense AC療法施行時のPegfilgrastimにより大動脈炎を発症した1例

1東京大学 医学部附属病院 乳腺内分泌外科、2東京大学 医学部 医学系研究科 消化管外科学

鈴木 雄介1、小西 孝明1、宮治 美穂1、林 香菜子1、原田真悠水1、尾辻 和尊1、佐藤 綾花1、丹羽 隆善1、西岡 琴江1、田辺 真彦1、瀬戸 泰之2

抗がん剤治療中の発熱において発熱性好中球減少症は最も考慮されるべき原因の一つである。その予防として使用されるPegfilgrastimの稀な副作用として大血管炎が知られているがその報告は少ない。今回我々は、Pegfilgrastim併用下の抗がん剤治療中に胸背部痛を伴う発熱を認め、Pegfilgrastim関連の大血管炎の診断に至った症例を経験したため報告する。症例は63歳女性。右乳癌に対して右乳房全切除術+腋窩郭清(Level II)を施行した。術後経過に特記すべき問題はなく、術後50日目に化学療法として初回 Dose-dense AC 療法導入(Day 1 )し Day 3 にPegfilgrastim 3.6 mgを皮下注射した。Day 6 より38℃台の発熱と胸背部痛を認めたため内服抗生剤を開始するも改善しなかった。Day 9 に当院受診し、WBC 8300/μl, CRP 22.68 mg/dlと上昇、また肝胆道系酵素の上昇も認めたが、造影CTでは明らかな熱源は指摘できなかった。発熱性好中球減少症の可能性を考慮し入院とし、Piperacillin / Tazobactamの投与を開始した。肝胆道系酵素は速やかに低下したが、CRPは高値で推移した。Day 13に造影CTを再検し胸部大動脈の壁肥厚と周囲脂肪識濃度上昇を認め大動脈炎が疑われた。Day 15にFDG-PETにて同部位の集積上昇を確認し大動脈炎の診断に至った。Day 16に血液培養陰性が確定しステロイド投与を検討したが、既に解熱傾向であったため投与しなかった。Day 18以降CRPは速やかに正常値まで低下した。

B-4 Pegfilgrastimにより惹起された大動脈炎の2例

1地方独立行政法人 栃木県立がんセンター 乳腺外科、2地方独立行政法人 栃木県立がんセンター 病理部

竹前  大1、安藤 二郎1、北村 東介1、星  暢夫2

症例 1 は54歳女性。左乳癌T 1 cN 0 M 0  StageIにて術後補助療法としてTC療法を開始した。1 コース目のDay 3 にPegfilgrastimの 1 次予防投与を行った。Day12に38℃の発熱あり、Day14に当院受診した。WBC18240/μl、CRP18.92mg/dlの高度炎症反応あり、熱源検索のため胸腹部像影CT検査を施行したところ、右総頸動脈・鎖骨下動脈近位部~腕頭動脈、大動脈弓部~下行大動脈~腹部大動脈の広範囲に、動脈壁の肥厚を認めた。Pegfilgrastimによる大動脈炎を疑い、Day15よりプレドニン30mg/Dayの内服を開始した。プレドニンは33日間かけて漸減し、大動脈炎の所見は改善した。TC初回から39日後にPegfilgrastimを併用せずにTC療法 2 コース目を再開し、計 4 コースを施行したが、大動脈炎の再発はなかった。症例 2 は44歳女性。両側乳癌

(右:pT 1 cN 1 M 0 、左:pT 1 bN 0 (sn)M 0 )にて術後補助化学療法TC療法を施行した。 3コース目に鎖骨下静脈血栓症を起こしたため、4 コース目は発熱性好中球減少症の 1 次予防としてPegfilgrastimをDay 3 に使用した。Day14で38度台の発熱とWBC10880/μl、CRP18.96mg/dlの炎症あり、CTで大動脈弓部や下行大動脈、腹部大動脈の動脈壁肥厚を認めた。時系列よりPegfilgrastimにより惹起された薬剤性大動脈炎の診断でプレドニン30mgの内服を開始、27日間かけて漸減し、上記所見は改善した。我々は、Pegfilgrastimによる薬剤性大動脈炎の 2 例を経験したので、文献的考察を加え報告する。

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C-1 早期再発し急速に増大した巨大悪性葉状腫瘍の一例

1公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター 乳腺甲状腺外科、2公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器・腫瘍外科学、

3公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター 病理診断科、4東京医科大学病院 乳腺科学分野

小田那名江1、上中奈津希1、高畑 太輔1、山本 晋也1、足立 祥子1、鈴木 千穂2、山田 顕光2、田辺美樹子3、成井 一隆1、石川  孝4、遠藤  格2

症例は75歳女性. 5 年前に左乳房腫瘤を自覚し放置していたが、腫瘤の表面からの出血で前医を受診した.前医受診時、腫瘤は35×35cmで、出血は圧迫により止血されたが、全身状態が不良で腫瘤が大きく自宅療養が困難であったため緊急入院となり、手術目的に当院に紹介され転院した.転院時、高度の炎症所見(白血球 17500、CRP 14.1)と低栄養(Alb 1.7)、貧血(Hb 9.6)を認め、抗菌薬を投与したが炎症所見は改善しなかった.また、巨大腫瘤のため、移動が困難で、排泄以外に離床することはなかった.転院 5 日目に左乳房全切除術を施行した(手術時間 3 時間41分、出血量2070ml). 摘出標本は8940gで、病理組織学的検査で悪性葉状腫瘍と診断され、切除断端は陰性であった.術後の経過は良好で、炎症所見は改善し、リハビリテーションによりADLも改善し、術後 9 日で軽快退院した.術後 2 ヶ月で左前胸部の複数の皮膚結節を主訴に来院した.針生検で悪性葉状腫瘍の再発と診断され、FDG-PET-CTでは胸部皮膚結節に加えて傍胸骨リンパ節への集積を認めたものの遠隔転移は認めなかった.皮膚結節および傍胸骨リンパ節を切除する方針としたが、皮膚結節の急速な播種・増大を認め、切除は断念した.化学療法(AI療法:ドキソルビシン+イフォスファミド)を行い、現在も継続中である.巨大悪性葉状腫瘍の術後、早期再発を来たした一例を経験した. AI療法の経過とともに若干の文献的考察を加えて報告する.

B-6 当科におけるエリブリンの使用経験と好中球リンパ球比との関連

1亀田メディカルセンター 乳腺科、2木更津乳腺クリニック・さか本、3湘南台ブレストクリニック

春山優理恵1、越田 佳朋1、中川麻貴子1、梨本 実花1、玄  安理1、中川 梨恵1、角田ゆう子1、坂本 尚美1、黒住 昌史1、福間 英祐1、坂本 正明2、寺岡  晃3

【序論】好中球リンパ球比(NLR)は複数の悪性腫瘍の予後因子とされ、早期乳癌でも独立した予後不良因子として示されている。また化学療法の治療効果を予測し得る可能性も検討されており、本研究では当科でエリブリンを投与された患者を対象に、本薬剤とNLRの関係性について後方視的に検討する。【方法】2011年 9 月から2018年12月までにエリブリンを使用したHER 2 陰性進行再発乳癌70例のうち、エリブリンの初回投与時と最終投与時の末梢血NLRが追跡可能だった65例を対象とし、その背景とサブタイプ、治療成功期間(TTF)、全生存率(OS)をNLRの低値群、高値群で比較した。【結果】患者背景では内臓転移が高値群で有意に多く認めたが、その他の因子やTTFでは両群間に有意差を認めなかった。OSは低値群で中央値541日、高値群で中央値211日と、有意差をもって低値群でOSの延長を認めた。また初回投与時と終了時のNLRの分布を比較した時、最終投与時でNLRの分布の有意な低下、改善を認めた。エリブリンの投与前レジメンで同様の検討を行ったが、NLRの分布に有意差を認めなかった。【考察】好中球はサイトカインを放出し、血管新生を促す事で腫瘍増殖・遠隔転移を促進するが、エリブリンは血管リモデリング作用を有し、癌微小環境を改善する薬剤であることが知られている。本検討からエリブリン投与によりNLRの改善を認め、それがOSの改善に寄与する可能性が考えられた。

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C-3 広範囲に乳管内進展等のhealingを認めたHER2陽性乳癌の1例

1防衛医科大学校 外科学講座、2防衛医科大学校 病態病理学講座、3防衛医科大学校病院 検査部病理

古賀麻希子1、山岸 陽二1,2、永生 高広1、山崎 民大1、河野 貴子2、杉山 迪子3、津田  均2、上野 秀樹1、岸  庸二1

【始めに】Healingは乳癌の乳管内成分等が自然消失し線維組織で置き換わる現象である.乳癌全体の 7 %に認められるとされるが報告は少ない.今回我々は手術検体で比較的広範囲に乳管内進展成分のhealingを認めたHER 2 陽性乳癌の一例を経験したので報告する.【症例】60代女性.X年にマンモグラフィー(MMG)併用検診でC 4 の石灰化を指摘され当科紹介受診された.MMGでは左O・U領域に多形性で不均一な石灰化を区域性に認めC 5 と考えられた.乳房超音波では左D区域に低エコー域を認め,同部位に対して針生検を施行したが悪性所見は認められなかった.その後定期的に経過観察し,X+ 2 年にMRIにて造影効果を伴う病変が増大傾向を認め,吸引式組織生検を施行したところ非浸潤癌の診断となった.左D区域乳癌cTisN 0 M 0 cStage 0 の術前診断に対して左Bp+SNを施行した.術中迅速診断にてセンチネルリンパ節および乳頭側断端に悪性所見がないことを,標本撮影にて手術検体内に石灰化病変が含まれていることを確認した.術後病理診断 は Invasive ductal carcinoma,scirrhous type,EIC(+), 浸 潤 径 7 × 6 mm, 腫 瘍 径63×34×15mm(healed DCIS成分含む),ER陰性,PgR陰性,HER 2 3 +,Ki 67標識率 40.3%,核グレード 3 であった.Healingが広範囲に近接して認められ,断端への腫瘍細胞の遺残の可能性も否定できないことから左乳房切除術を追加した.【考察】Healingを伴うHER 2 陽性乳癌の一例を経験した.Healingについて文献的考察を踏まえて報告する.

C-2 若年女性の線維腺腫内に認められた非浸潤性乳管癌の1例

1北里大学北里研究所病院 乳腺・甲状腺外科、2北里大学北里研究所病院 病理診断科

前田日菜子1、前田 一郎2、柳澤 貴子1、五月女恵一1、浅沼 史樹1、池田  正1

線維腺腫内に癌腫や異型過形成を認めることがごく稀にある。癌腫のほとんどは非浸潤癌であり、その中でも非浸潤性小葉癌の頻度が高いといわれている。好発年齢は40歳代と、線維腺腫の好発年齢に比べ、高齢であると報告されているが、今回若年女性の線維腺腫内に認められた非浸潤性乳管癌を経験したので報告する。症例は21歳女性。健診乳腺エコーにて右D領域に境界やや不明瞭な1.6cm大の不整形腫瘍を認めた。MRI精査にて内部不均一、rapid-washoutな造影パターンを呈するDWI高信号の腫瘤を認め、悪性を否定できない所見であった。エコーガイド下CNBを施行し、病理atypical ductal hyperplasia(ADH)またはductal carcinoma in situ(DCIS)を否定できない所見であった。追加でエコーガイド下VACNBを施行し、同様の診断結果であったため、marginを確保しての腫瘤摘出術を施行した。手術検体にて間質の著明な線維増生を背景とした異型上皮の増生を認め、cribriform patternを示しており、線維腺腫内のDCIS (low gradeからADHまで)と診断された。断端陰性を確認し、術後補助療法は行わず経過観察の方針とした。

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C-5 乳癌副腎転移に対して手術施行後に内分泌療法で長期無再発経過中の1例

日本医科大学付属病院 乳腺科

柳原 恵子、范姜 明志、佐藤 あい、金丸 里奈、中井 麻木、栗田 智子、淺川 英輝、二宮  淳、武井 寛幸

副腎は血流豊富な臓器で、癌末期においては比較的転移をきたしやすい臓器であり、悪性腫瘍の剖検例の約14%に転移性副腎腫瘍が認められたとの報告もある。原発臓器としては肺・気管支が最も多く(32.2%)、胃(22.5%)、膵(8.6%)、肝(6.8%)、乳房(4.4%)と続くが、副腎の孤立性転移は少なく、予後も良好とはいえない。今回我々は乳癌の副腎転移に対して手術を施行し、その後内分泌療法のみで 6 年間無再発再燃で経過している症例を経験したので報告する。症例は64歳女性。45歳時に左乳癌に対して他院で部分切除術施行。術後はタモキシフェンを内服したが体重増加のため 3 年で終了。術後13年経過した時に持続する背部の違和感が出現、CTで左副腎腫瘍と傍大動脈リンパ節の腫大があり当院泌尿器科受診となった。PET-CTでは膵浸潤は疑われるものの遠隔臓器に集積は認めず、血液学的検査でも有意な所見なく、診断目的に摘出手術を施行した。病理診断で膵浸潤を伴う乳癌の左副腎転移と診断され、傍大動脈リンパ節にも転移を認めた。ER(80%)、PgR(70%)で、借用した左乳房の手術標本、浸潤性乳管癌、核グレード 3 、ER(80%)、PgR(90%)、HER 2 スコア 0 、Ki67( 1 - 3 %)と同様の所見であった。内分泌療法としてアナストロゾールを開始。再発術後 6 年経過した現在も再発所見なく経過中である。

C-4 術前診断cT1c,pN1に対する腋窩郭清術後病理でリンパ節転移巣を検出できなかった ルミナルタイプ乳癌の1例

1新潟市民病院 乳腺外科、2新潟市民病院 病理診断科

坂田 英子1、諸  和樹1、橋立 英樹2、渋谷 宏行2

症例は49歳女性。検診マンモグラフィーで右MU領域にFAD+構築の乱れ、カテゴリー 4 を指摘され 2 次精検目的に当科初診。右A領域に 1 cm大の腫瘤を触知し、USで同部に11x13mm大の不整形LEMを認めた。CNBで浸潤乳管癌、NG 2 、ER/PgR陽性、HER 2 陰性、Ki-67 index 15%と診断。またUSで腋窩に6.5mm大の一部皮質が肥厚したリンパ節(LN)を認め、細胞診でClassVと診断された。cT 1 c,pN1,M 0 StageIIA, ルミナルタイプの術前診断に対し乳房部分切除術+腋窩郭清術(ALND)を施行。術後病理検査では浸潤径は20mm、硬性型>充実型、NG 2 、ly 0 、v 0 、ER/PgR陰性、HER 2 陰性、Ki-67 index 26%、LN転移陰性( 0 / 5 )と診断された。切片追加作製・ケラチン染色追加にても転移所見は認められなかった。術前細胞診と手術時触診の所見からLN 1 個転移陽性は誤診ではなく、LN病理が 2 mm間隔切片でなく最大一割面での評価であり、転移巣が小さかったため標本作成に伴い消失したものと判断した。微小転移かマクロ転移であったかの判断は推測の域を超えない結果となった。温存療法でセンチネルLN(SN)にマクロ転移を認めた場合のALND省略の選択は、まだ施設により異なると考える。本症例はSNにマクロ転移を認めてもALND省略を考慮する条件を十分備えており、結果的に、術前細胞診とALND施行は意義が乏しくむしろ検査手術侵襲や医療費その他の点においても不利益を増したと考えられた。方針転換を検討する機会となったため報告する。

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C-7 乳腺背側に生じた巨大線維腺腫の一例

水戸医療センター 乳腺外科

島 正太郎、森  千子、植木 浜一

症例は妊娠出産歴のない29歳女性.5 年以上前より乳房の大きさの左右差を自覚していた.乳がん検診で左乳房背側に巨大腫瘤を認めたため要精査となり当院を受診.左乳房は前方に突出し,乳房造影MRIで乳腺背側に10cm大の辺縁に不整な造影効果を伴う協会明瞭な腫瘤を認め,針生検で線維腺腫と診断された.腫瘤径が大きいことから手術の方針とし,整容性を考慮し乳房下溝尾側縁に沿った皮膚切開での腫瘤摘出術を施行した.腫瘤と乳腺の境界は明瞭であり,強固に癒着していたが鈍的剥離可能であった.病理組織診の結果も線維腺腫で悪性所見は認められなかった.乳腺背側で出現した線維腺腫が乳腺後隙に向けて増大したものと考えられた.術後左乳房の相対的な縮小が懸念されたが,乳房形態は概ね保たれていた.切開痕も目立たず,患者の満足度も比較的高いものであった.

C-6 手術時に腫瘍が自然消失していた浸潤性乳管癌の稀な一例

1東京慈恵会医科大学附属第三病院 臨床研修医、2東京慈恵会医科大学附属第三病院 外科、3東京慈恵会医科大学附属病院 外科学講座 乳腺・内分泌外科

李  鹿路1、田部井 功2,3、浮池  梓2,3、岡本 友好2、武山  浩3

【はじめに】自然消失する癌の存在は非常に稀ではあるがいくつかの報告が認められる.今回我々は, 画像検査および針組織生検による病理組織診断にて浸潤性乳管癌と診断し,乳房部分切除術を予定したものの,手術時に腫瘤が消失しており,乳房部分切除術を中止した症例を経験したため報告する.

【症例】70歳女性.左乳房のしこりを自覚し,当院を受診した.触診にて左乳房C領域に10mm大の硬結腫瘤を触知した.マンモグラフィー,超音波検査にて境界明瞭な分葉状腫瘤を認めた.針生検を施行し,Invasive ductal carcinoma(solid-tubular carcinoma~scirrhous carcinoma),triple negative typeと診断した.左乳癌cT 1 N 0 M 0 cStage 1 として,乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検術を予定した.

【経過】手術室入室後,腫瘤は触診にて同定できず,また超音波検査でも描出されず乳房部分切除術を中止とした.翌日に再度超音波検査,造影CT,造影MRIを施行したが,術前に確認されていた腫瘤はいずれの検査においても消失していた.

【考察】無治療で自然消失した腫瘍はメラノーマ,腎細胞癌,神経芽腫,リンパ腫などで知られており,乳癌では1934年に最初の報告がある.腫瘍消失の機序は不明であるが,癌細胞に対する免疫応答,癌細胞の遺伝子変異などいくつかの仮説が提唱されている.

【結語】術前検査にて浸潤性乳管癌と診断するも,手術時に自然消失していた稀な症例を経験したため,若干の文献的考察を踏まえて報告する.キーワード:腫瘍自然消失、spontaneous cancer remission

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D-2 高カルシウム血症を伴う進行乳癌へのデノスマブ投与後に 低カルシウム血症が遷延した一例

横浜市立みなと赤十字病院 乳腺外科

須藤 友奈、清水 大輔、鈴木 千穂、木村万里子、盛田 知幸

49歳女性。両下肢痛を主訴に当院受診。精査にてLuminal B乳癌、多発肝転移と診断した。来院時にCa 20.4(mg/dL)の高Ca血症を認め入院、ゾレドロン酸とエルカトニンを投与した。iPTH 4 pg/mlと低値、PTHrP 182.6 pmol/Lと高値であり、腫瘍随伴体液性高Ca血症と診断した。Ca 10.7まで改善し14日後に退院した。退院15日後に再度Ca15.0となったため入院、ゾレドロン酸を再投与、エルカトニンを 5 日間投与、さらに原疾患の治療としてwPTXを開始、16日後に退院した。PTHrP放出によるRANCLEの発現促進を抑制するため、退院14日後にwPTXとデノスマブ120mgの投与を行った。投与 7 日目の採血でCa 5.9となり、グルコン酸Ca を投与、さらにその後も遷延する低カルシウム血症に対し、リン酸水素カルシウム 3 g/dayとアルファカルシドール 2 μg/dayの投与を開始した。デノスマブ投与より63日目にCaが正常値(Ca8.7)となり内服を終了したが、再度低Ca血症を認めたため、デノスマブ投与後182日目まで、内服の継続を要した。腫瘍随伴体液性高Ca血症に対しデノスマブ使用し、低Ca血症の遷延を認めた症例を経験したので、文献的考察を加え報告する。

D-1 多剤耐性、照射後の乳癌局所再発に対して、TS-1が著効した1例

1那須赤十字病院 外科、2那須赤十字病院 放射線科

田村  光1、神山 真人1、川口 英之1、五十嵐高広1、河島 俊文1、青木 真彦1、城戸  啓1、小島 正夫1、水沼 仁孝2

症例は、68歳女性。2006.7右乳癌に対して、乳房部分切除+腋窩リンパ節郭清施行。病理は、硬癌,ER+, PgR+, HER 2 -。術後EC 3 サイクル施行後残存乳房に照射し、アロマシンを内服していた。2011.2CEAが7.1と軽度増加し、右傍胸骨領域に再発を認めたため、ノルバデックスに変更したところ、腫瘍マーカーは正常値に回復、画像上も縮小した。2011.10増悪したため、フェマーラに変更したが、さらに増悪したた(CEA39.8)ため、2012.3からweekly PTXを開始した。効果がみられず(2012.6 CEA54.4)、2012.6からハラヴェンを開始。2012.8再発巣縮小。腫瘍マーカーも正常値に回復した。2012.12CEA8.2と再度増加したため、2013.1からナベルビン開始したが、2013.3 CEA56.3と増加し、CT上再発病変は増大傾向にあったため、2013.3からBev+PTX開始。2013.6CTで再発病変は縮小傾向。2013.7CEA46.6とやや低下したが、2013.10CTで緩徐増大。2013.12 CEA 93.7と増加した。2013.12からハラヴェン再チャレンジしたが、2014.4 CEA164.0と増加し、再発巣も増大した。2014.4からGEM開始するも2014.6 CEA363.4と増悪した。2014.6から照射開始したところCEA23.9と低下。2014.10アブラキサン開始するも2015.2 CEA90.5と再度増悪みられ、。2015.2からTS- 1 開始したところ 3 か月で著明な縮小がみられた。CEAも2015.6正常値に回復し、効果は、2016.4まで持続した。現在も薬物治療継続中である。

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D-4 乳癌術後腹腔内再発に高カルシウム血症を伴った1例

1東京医科大学八王子医療センター 乳腺科、2東京医科大学病院 乳腺科、3東京医科大学茨城医療センター 乳腺科、4東京医科大学八王子医療センター 病理診断部

呉  蓉榕1、山田 公人1、安達 佳世1、小山 陽一3、八木 美緒2、織本 恭子2、川井 沙織2、岡崎 美季2、寺岡 冴子2、上田 亜衣2、宮原 か奈2、河手 敬彦2、金  慶一1、海瀬 博史3、

平野 博嗣4、石川  孝2

【症例】64歳女性【現病歴】前医で右乳癌に対しBt+Ax施行しpT 3 N 2 M 0 、リンパ節 6 /15、ER(+)PgR(-)HER 2 ( 1 +)Ki67 57%の診断であった。術後補助化学療法としてFEC 4 コース、DTX 4 コース施行され、PMRTも施行しホルモン療法としてアナストロゾール内服中であった。術後 6 年半での定期フォロ-PETで肝門部に 5 cm大腫瘤と、傍大動脈リンパ節腫大を指摘されたため精査目的に当科紹介受診した。【経過】初診から 1 ヶ月後、外来で採血したところCa15.4と高カルシウム血症を認め、入院加療開始した。点滴補正にて改善しなかったが、ゾレドロン酸投与行ったところ速やかにCa値は低下し、入院中に肝門部の腹腔内腫瘤からCTガイド下生検を行った。免疫染色にてER(+)PgR(-)HER 2 ( 0 )Ki67 50%と初回手術時とサブタイプが一致したため、乳癌腹膜播種再発と診断しパルボシクリブ+レトロゾールにて治療開始した。その後外来通院中も高Ca血症が再発しゾレドロン酸定期投与にて経過観察中である。【考察】乳癌において高カルシウム血症は頻繁にみられる病態であるが、腫瘍からのPTHrP分泌による腫瘍随伴体液性ではなく、高Ca血症骨転移症例での破骨細胞活性化に伴う局所性骨溶解性であることが多い。今回、骨転移の存在しない乳管癌の腹膜播種再発巣からの腫瘍随伴体液性高Ca血症を伴った 1 例を経験したため、文献学的考察を加えて検討する。

D-3 乳癌骨転移に対してゾレンドロン酸長期投与中に発症した非定型大腿骨骨折の二例

立川相互病院 外科

新堰佳世子、高橋 雅哉、久島 昭浩、伊藤可奈子

 非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture : AFF)の発症にはビスフォスフォネート(BP)などの骨吸収抑制薬の関与が指摘されている.乳癌骨転移に対して長期ゾレンドロン酸投与をしている中で発症したAFFを経験したので報告する. 症例 1 は68歳,女性.右乳癌,肺肝転移,多発骨(頭骨,脊椎,両側肋骨,両側上腕骨,胸骨,両側大腿骨)転移,癌性リンパ管症の診断で化学療法・内分泌療法に併用してゾレンドロン酸を開始した.開始後 5 年 5 か月に転倒して右大腿骨転子下骨折を来し,他院にて髄内釘による骨接合術,癒合せず腫瘍型人工骨頭置換術を施行した.さらに 1 年後左股関節痛を認め骨シンチでの集積を認め,骨転移による疼痛を考慮し照射を行うが疼痛は改善しなかった.整形外科での精査にてAFFの診断となり,ゾレンドロン酸を中止し,髄内釘による骨接合術を施行した. 症例 2 は58歳,女性.右乳癌T 2 N 0 M 0 stageIIAに対して右乳房切除+腋窩リンパ節郭清施行し,化学療法後内分泌療法を投与した.術後 1 年 2 か月に右第 4 , 7 肋骨と左第 7 肋骨に乳癌骨転移を来し,ゾレンドロン酸を開始した.開始後 9 年 6 か月に右大腿部痛増悪の精査をしたところ両側AFFが判明した.ゾレンドロン酸を中止し,両側とも髄内釘で固定をした. 乳癌骨転移治療にBPを長期使用している場合は,鼠径・大腿部痛があった際にAFFの可能性があることを念頭に置く必要がある.

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D-6 膀胱転移をきたした粘液癌の1例

1国家公務員共済組合連合会 東京共済病院 乳腺科、2国家公務員共済組合連合会 東京共済病院 臨床検査科、

3国家公務員共済組合連合会 東京共済病院 病理診断科

朴  圭一1、中村明日香1、淺川 英輝1、重川  崇1、副島 和彦2、川原  穣3

57歳女性.2005年右乳癌に対して右乳房部分切除,右腋窩センチネルリンパ節生検を行い,粘液癌,断端陰性,リンパ節転移も認めなかった(pT 1 cN 0 M0, stage IA).術後温存乳房に対する放射線治療と 5 年間のアナストロゾール内服を行なった.2015年12月に左頚部リンパ節腫大をみとめ,針生検の結果乳癌のリンパ節転移と診断し,同月からトレミフェン内服を開始した.2016年11月血尿が出現し近医受診,尿細胞診でclass IIIb,膀胱鏡で後壁に発赤浮腫状粘膜を認めた.膀胱腫瘍の診断のもと,2017年 1 月経尿道的腫瘍切除術を施行した.病理結果では粘液産生を伴って浮遊するように異型細胞の増殖を著しく認め,腺癌の像であった.免疫染色の結果,腫瘍細胞はCK 7 ,ER陽性,CK20陰性で乳癌の膀胱転移と診断した.UFTを追加し,2017年 6 月からフェソロデックスを開始した.癌性胸膜炎や膀胱腫瘍によると思われる出血傾向が増悪したため2017年10月からエリブリンに変更した.2018年 8 月からCEA上昇傾向認め,2018年パルボシクリブを追加して現在治療継続中である.粘液癌が膀胱に転移した稀な症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

D-5 再発乳癌治療中にTrousseau症候群を発症した1例

東京大学医学部附属病院 乳腺内分泌外科

宮治 美穂、原田真悠水、鈴木 雄介、林 香菜子、尾辻 和尊、佐藤 綾花、丹羽 隆善、西岡 琴江、田辺 真彦、瀬戸 泰之

症例は30歳代女性。 9 年前に右乳房部分切除術と腋窩リンパ節郭清を施行した。病理診断の結果、invasive ductal carcinoma (硬性型), pT2, n(10/21), ly(+), v(+), ER(+), PgR(+), HER 2 (-), Ki-67 50%であった。術後補助療法としてFEC 4 コース、weekly Paclitaxel 12コース、放射線療法 を 施 行 後、Tamoxifen を 内 服 し て い た。 術 後 3 年 で 腸 骨 転 移 が 出 現 し た た め、anastrozole+LHRHa、fluvestrant及びdenosumab治療を行った。術後 6 年で椎体骨、仙骨などへの多発骨転移を認め、肝転移が新たに出現した。Capecitabine/Cyclophosphamide, S1, Palbociclib/Letrozole, Eribulin, Paclitaxel/Bevacizumab, Gemcitabine治療後の肝転移進行(術後 9 年目)に対し、AC(anthracycline再投与)治療を開始した。Day 6 に食欲不振、腹水による腹部緊満感が著明となり入院となった。Day14、構音障害と上半身の脱力感が出現した。頭部MRI検査で多発脳梗塞を認め、Trousseau症候群と診断された。ヘパリンによる抗凝固療法を開始後一過性に症状の改善を認めたが、構音障害をくり返し、多発脳梗塞の症状は増悪した。腹水の増加、肝転移増大による黄疸出現等、原疾患の悪化によりに入院後42日目に転院し、転院先の緩和ケア病棟にて永眠された。Trousseau症候群は悪性腫瘍に伴う血液凝固亢進により脳梗塞を起こす病態であり予後を左右する。悪性腫瘍治療中に発症したTrousseau症候群について、文献的考察を加えて発表する

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E-2 抗Her2療法による薬剤性肺障害が疑われた1例

1新潟県立中央病院 外科、2新潟県立中央病院 内科

佐藤 友威1、武藤 一朗1、石川 大輔2

Her 2 陽性乳癌に対して、化学療法との併用でのトラスツズマブ(H)、ペルツズマブ(P)は、予後の改善が明らかで、標準治療である。HやPには時にInfusion reaction(IR)が認められるが、薬剤性肺障害は極めて稀である。症例は69歳、女性。既往歴に 1 型糖尿病、高脂血症があり、今回精査で狭心症が認められ、カテーテル治療を並行して行う方針となっていた。Her 2 タイプの左乳癌、T 2 N 1 M 0 Stage IIBの診断でパクリタキセル(Pac)+HP療法の方針となった。P840mg点滴投与後、H 8 mg/m 2 のうち半分点滴投与したところで悪寒、戦慄、呼吸困難が出現。SpO 2 70%台まで低下し、H中止しO 2 投与を行った。BT39度まで上昇し、アセトアミノフェンを投与した。胸部X線上両肺門陰影の増強、浸潤影が出現していた。抗Her 2 療法によるIRを疑いPacの投与は中止した。翌日もO 2 投与でSpO 2 90%、BT38度、胸部X線上浸潤影が残存していたためCTを撮影したところ、両肺上葉を中心に間質の肥厚とすりガラス陰影が認められた。呼吸器内科を受診し、KL 6 は正常で、ステロイドなしで対症療法を行い、 2 日後には症状軽快した。肺胞の損傷は認めないような薬剤性肺障害と思われたが、SpO 2 が高度に低下したことから、抗Her 2 療法の再開は許可されず、化学療法のみを施行した。

E-1 ペルツズマブ併用術前化学療法が奏功したHER2陽性乳癌の1例

日本赤十字社医療センター

清水 淑子、米田 央后、村尾 有香、増田  亮

【背景】Aphinity試験やNeoSphere試験などの結果を受け、ペルツズマブはHER 2 陽性乳癌の術前・術後薬物療法へ適応が拡大された。ペルツズマブ併用術前化学療法が奏功した症例を経験したので報告する。【症例】53歳、女性。左乳房違和感を主訴に当科受診。左乳房A領域に約3 cm大の腫瘤を触知したが腋窩リンパ節は触知しなかった。画像では同部位に約 3 cm大の病変と乳頭方向への乳管内進展および左腋窩リンパ節腫大を認めた。組織診では浸潤性乳管癌、ER 90%、PR 70%、HER 2 3 +、Ki-67 50%だった。術前診断はcT 2 N 1 M 0 で術前化学療法を施行した。ドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP療法) 4 クールの後、EC療法を4 クール施行した。造影CTでは腫瘍と腋窩リンパ節の経時的な縮小を認めPR、ycT 1 N 0 M 0と診断した。Grade 3 以上の有害事象は認めなかった。化学療法終了後、左胸筋温存乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術(level ll)を施行した。病理組織診断ではpCR、Grade 3 の判定だった。術後はトラスツズマブを単剤投与している。【考察】術前THP療法は忍容性や有効性が期待できると考えられた。本症例では術後ペルツズマブの投与は行わなかったが、現状では術後ペルツズマブ併用継続の判断基準や、non pCR例での薬剤選択については明らかではない。術前THP療法の治療効果に応じた最適な術後薬物療法については今後さらなる検討が必要であり、St. Gallen 2019のvotingの結果もふまえ考察した。

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E-4 当院におけるpalbociclibの使用経験

1社会福祉法人 仁生社 江戸川病院 乳腺センター、2社会福祉法人 仁生社 江戸川病院 病理

田澤  篤1、福田 未緒1、遠藤 久子2、黒田 陽子2

【背景】palbociclibはER陽性、HER 2 陰性においてホルモン療法との併用で有効性が示されている。当科におけるpalbociclibを施行した症例について効果や安全性を検討した。【対象と方法】当院で2018年 1 月~2019年 8 月の期間でpalbociclibを投与した転移・再発乳癌女性患者27症例の内、評価可能な19例を対象とし、患者背景、治療効果、安全性について調査した。【結果】投与時年齢は41~84歳(中央値:52歳)であり、転移再発症例:14例・進行乳癌症例 5 例、投与期間は84~504日(中央値:196日)であった。転移再発臓器数は 1 臓器:13例(68%)・ 2 臓器: 6例(32%)、転移再発部位別では骨:14例(74%)・肺: 4 例(21%)・リンパ節: 3 例(16%)・肝: 3 例(16%)・局所: 1 例( 5 %)であった。導入タイミングは 1 st line: 4 例(21%)・ 2nd: 2 例(11%)・ 3 rd line:11例(58%)・ 4 th line以降: 2 例(11%)であった。化学療法導入後にpalbociclibを開始した症例が12例(63%)あった。治療効果はPRが 6 例(32%)・NCが11例(58%)・PDが 2 例(10%)であった。好中球減少症による減量は17例(89%)で行われたが、投与中止となったのはPDでの 4 例(21%)と経済的理由の 1 例であった。【まとめ】・Late line( 3 rd line以降)が 7 割近くであったが、奏効率32% CBR 89% と高い治療効果を得た。投与中止となるような有害事象は無く、QOLを損なわずにlong SCを狙える治療である。

E-3 閉経前ER陽性HER2陰性Stage4乳癌に対してパルボシクリブ,フルベストラント, リュープロリレンが奏功した1例

JCHO 埼玉メディカルセンター

前田 祐佳、関  大仁、櫻井 孝志、沖  尚彦、青山 美奈、山口  諒

症例は40歳代女性。腰痛を主訴に近医整形外科を受診し、胸椎レントゲン撮影で両肋骨に打ち抜き像およびTh 7 の椎弓根陰影不明瞭の所見を認め、精査目的で当院整形外科紹介となった。CTにて乳癌による転移性骨腫瘍が疑われ、当科紹介となった。エコーで右乳房A区域に1.7×1.2cmの不整形腫瘤および右腋窩リンパ節腫大、左乳房C区域に2.2cmの不整形腫瘤を認めた。吸引針生検を実施し、両側乳癌と診断した(右A: IDC ER(+), PgR(+)HER 2 (-), MIB- 1 20-40%、左C:Mammary carcinoma with neuroendocrine feature, ER(+), PgR(+), HER 2 (-), MIB- 1 40-50%)。右腋窩リンパ節細胞診はClass 5 であった。骨シンチにて脊椎・肋骨・肩甲骨・骨盤を中心に多発骨転移を認めたが、その他明らかな遠隔転移は認められなかった。治療としてパルボシクリブ・フルベストラント・リュープロリレン・ランマークを開始した。Grade 3 以上の好中球減少を認めたため、 2 クール目よりパルボシクリブを100mgへ減量、 3 クール目より75mgへ減量した。治療開始後 4 ヶ月目のPETおよびMRI検査にて両側乳房原発巣および右腋窩リンパ節腫大の消失を認め、局所cCRの判定であった。骨転移はPRであった。現在、治療開始より 1 年 4 ヶ月経過したが病状増悪を認めない。閉経前ER陽性HER 2 陰性 stage 4 乳癌に対しパルボシクリブ・フルベストラント・リュープロリレンが奏功した症例を経験したので文献的考察を含めて報告する。

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E-6 CDK4/6阻害剤の変更により抗腫瘍効果を認めたStage IV乳癌の1例

1埼玉県立がんセンター 乳腺腫瘍内科、2埼玉県立がんセンター 病理診断科

高井  健1、山田 遥子1、永井 成勲1、堀井 理絵2、井上 賢一1

今回我々は、CDK 4 / 6 阻害剤をpalbociclib (PAL)からabemaciclib (ABE)に変更したところ腫瘍が縮小したStage IV乳癌の症例を経験したので報告する。症例は68歳女性。皮膚・胸壁浸潤、多発リンパ節・脊椎転移を認めるStage IV (cT 4 bN 3 M 1 )のLuminal type乳癌と診断された。一次内分泌療法として、letrozole (LET) 2.5mg+PAL 125mgを開始した。 2 か月後に好中球減少のためPAL 100mgに減量したが、それから 1 年後のCTでの治療評価はPRであった。その 2 年後に好中球減少のためPAL 75mgに減量し、さらに 9 か月後に休薬期間を 2 週間に延長した。その 2 か月後のCTで左腋窩リンパ節の増大と皮膚浸潤を認め、PDと判定した。そこでLETを継続したままABEに変更(100mgで開始し、その後200mgに増量)したところ、腫瘍マーカーの低下と共に左腋窩リンパ節の皮膚浸潤が軽減した。 6 か月後のCTで左腋窩リンパ節の縮小を確認した。今回の症例は、減量投与と休薬期間の延長によりPALの抗腫瘍効果が不十分となった可能性があり、PALよりもCDK 4 選択性が高く好中球減少が少ないABEへ変更し連日投与可能になったことが抗腫瘍効果を高めたと考えられた。

E-5 パクリタキセルが無効でアベマシクリブ・アナストロゾール併用が著効した 乳癌多発骨転移・骨髄転移の1例

1松戸市立総合医療センター 化学療法内科、2東邦大学医療センター佐倉病院 外科

五月女 隆1、荒井  学2

症例は40歳代女性。X年 2 月右肩から背部にかけての疼痛が出現し徐々に増強。X年10月 1 日全身の高度の疼痛が出現、近医に救急搬送。骨X線で全身骨に骨打ち抜き像を認めた。多発性骨髄腫が疑われ、X年10月 4 日当院に転送。ヘモグロビン6.1g/dLと高度貧血。骨髄検査で非造血系悪性細胞の集塊を認めた。右乳房に 1 cm大の腫瘤あり。生検では浸潤性乳管癌で骨髄と同様の組織像。乳癌骨転移・骨髄転移の診断で、高度骨髄抑制を来すリスクの少ないパクリタキセル毎週投与を開始。貧血は若干改善したものの疼痛は改善せず。 3 ヶ月後のCTで骨転移巣の改善を認めず。腫瘍マーカー(CEA)も上昇。X+ 1 年 1 月アベマシクリブ300mg/日とアナストロゾール 1 mg/日の連日投与に変更。徐々に疼痛は軽減、ヘモグロビンも正常化した。CEAも低下し、X+ 1 年 6 月のCTで多発骨溶解像は改善。症状なく、アベマシクリブ・アナストロゾールの併用療法を 8 ヶ月継続。乳癌骨髄転移は予後不良の病態であり、生存期間 2 ~ 3 ヶ月との報告が多い。腫瘍量が多くその制御には強力な化学療法を要する反面、癌の骨髄転移があり正常造血が抑制され骨髄機能が脆弱な状況での化学療法により高度の骨髄抑制発現のリスクが少なからず生ずるというジレンマがある。造血抑制の頻度の低いCDK 4 / 6 阻害薬と内分泌療法の併用はそのジレンマを解決する手段となることが期待され、同様の病態に対する第一選択の候補として予後の改善に貢献し得ると思われた。

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F-2 切除不能なホルモン受容体陽性局所進行乳癌に対し長期術前内分泌療法が奏効し 切除可能となった1例

千葉労災病院 外科

苅田  涼、石井奈津美、笠川 隆玄、藤森 俊彦

局所進行乳癌の治療において, 術前化学療法後に局所療法を行う集学的治療が標準的である. ただしホルモン受容体陽性乳癌において, 全身状態不良な患者や化学療法の有害事象を望まない患者に限り, 術前内分泌療法も容認されている. 今回我々は切除不能なホルモン受容体陽性局所進行乳癌に対して, 長期内分泌療法が奏効し切除可能となった 1 例を経験したので文献的考察を加え報告する. 症例は67歳の女性. 4 年前より左乳房腫瘤を自覚するも放置. 視触診にて皮膚浸潤を伴う左乳房全体にわたる硬結を認めた. 針生検ではInvasive ductal carcinoma, scirrhous type, ER(+)[90%], PgR(+)[60%], HER 2 ( 0 ), Ki-67 30%の診断であった. CTでは左乳房に広範な腫瘤を認め, 左腋窩リンパ節転移に至っては腋窩動静脈へ浸潤し切除不能な状態であった. 遠隔転移は認めなかった. 術前化学療法を勧めたが脱毛の拒否があり, 内分泌療法を選択しレトロゾールの内服を開始した. レトロゾールを内服し 2 年, 切除可能となり左乳房全切除術ならびに腋窩リンパ節郭清術を施行した. 病理ではpT 1 a( 3 mm), pN 1 ( 1 / 7 ), 組織学的治療効果判定はgrade 2 bの診断であった. 現在術後 1 年, 放射線治療と内分泌療法のみで再発の徴候なく経過している. 本症例は脱毛拒否があったため切除不能なホルモン受容体陽性局所進行乳癌に対し内分泌療法を選択し, 患者のQOLを損なうことなく切除可能となりかつ完全奏効に近い治療効果が得られた.

F-1 アベマシクリブ投与により間質性肺炎を発症した再発乳癌の3例

東京女子医科大学病院乳腺・内分泌外科

安川ちひろ

【目的】アベマシクリブに関連する間質性肺炎を発症した再発乳癌を 3 例経験したため報告する。【対象】(症例 1 )87歳、女性。両側乳癌術後に皮膚・肝・骨転移、胸水を認め、四次治療としてFLV+アベマシクリブを開始。投与77日目に労作時息切れが出現、KL- 6 、胸部Xp、胸部CTにて間質性肺炎と診断。(症例 2 ) 59歳、女性。左乳癌術後に残存乳房内再発、骨・肝転移を認め、三次治療としてFLV+アベマシクリブを開始。投与84日目に咳嗽が出現、KL- 6 、胸部CTにて間質性肺炎と診断。(症例 3 ) 65歳、女性。左乳癌術後に胸壁再発、肝転移を認め、七次治療としてLET+アベマシクリブを開始。投与202日目に咳嗽・呼吸苦が出現、KL- 6 、胸部Xp、胸部CTにて間質性肺炎と診断。【臨床経過】(症例 1 )休薬にて労作時息切れは消失、KL- 6 の著明な低下、胸部Xpにて炎症所見の改善を認めた。(症例 2 )休薬にて咳嗽は消失、KL- 6 の正常化、胸部CTにて炎症所見の改善を認めた。(症例 3 )休薬及びプレドニン25㎎/日の内服にて咳嗽・呼吸苦は消失、通院にてプレドニン漸減する。【考察・結語】当院にてアベマシクリブを投与した21例中、3 例で間質性肺炎を認めた。アベマシクリブを投与する際、特に注意を要する副作用として間質性肺炎を念頭に置き、息切れ、呼吸困難、咳、発熱などの初期症状を見逃さないことが重要と考えた。

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F-4 巨大自壊創を伴うT4乳がん患者のACP実践の一事例

1茨城県立中央病院地域がんセンター 看護局、2茨城県立中央病院地域がんセンター 乳腺外科、3茨城県立中央病院地域がんセンター 放射線治療科、4茨城県立中央病院地域がんセンター 医療相談支援室

園原 一恵1、海老根聖子1、上野 澄恵1、高橋 知子1、菊地万里恵1、穂積 康夫2、北原美由紀2、竹内 直人2、斎藤  高3、松木  薫4

はじめに著名人の乳がん報道で受診率が増加する一方で、依然として自壊創を伴う患者が減少しない。自壊創を伴う乳がん患者の場合、自壊部処置が困難要因となり自宅介護が破綻した終末を迎える患者も多い。巨大自壊創を伴った患者に、アドバンスケアプランニングを実施した。ACPの受け入れが容易であった成功要因を検討する。事例紹介A氏50代の腋窩腫瘤より、ホルモン受容体陽性乳癌が判明。内分泌療法を開始するが自壊増大。遠隔転移が無く放射線療法開始。局所の効果はあったが照射辺縁部より皮膚浸潤増大し抗がん剤治療開始。体力低下で入院し自宅療養へ繋げる。在宅で自壊創ケアが継続されたが増大する自壊創に難渋し、レスパイトなど地域包括へ連携した。ACP介入診断初期から乳がん看護認定看護師が介入し、放射線治療開始時にがん放射線療法看護認定看護師に連携。在宅自壊創処置を医療相談支援看護師に連携。当初は家族に見せたくないと自壊セルフケアを支援。自壊創が巨大になり、家族への思いを仲介。自宅訪問や転院先訪問など顔の見える連携を実施。A氏は自壊創の悪化を自覚する為、予後に対して想起しやすく「大切なことは何か」「誰に相談するか」「誰を頼るか」「どこで最期を迎えたいか」ケアの中で相談し意向が実践された。結語他職種の継続的な関わりがACPに重要であると再認識した。自壊創を抱えた患者は、常に治療効果を認識できるためACPの受け入れが容易であった。

F-3 当院のBRACAnalysis診断システムによる検査の現状

水戸医療センター 外科

森  千子、島 正太郎、植木 浜一

(背景)当院では、2018年 9 月よりBRCAnalysis診断システムによる検査が開始された。臨床遺伝の専門家がいない当院では、乳腺専門医による検査説明が行われ、患者の理解と同意を得て検査が行われている。(患者と方法)検査導入前に、院内や近隣の調剤薬局における複数回の勉強会により、各部署が検査の意義や方法、オラパリブについての理解を深められるよう図った。患者の個人情報には特に配慮するようにした。検査の説明やHBOCの説明は、患者一人あたり約30分前後、必要に応じて複数回行った。(結果)2018年 9 月から2019年 9 月までに、21名に対してBRCAnalysis診断システムによる検査を行い、16名が陰性、 1 人がVUS、 4 人が陽性であった。結果を伝えたときの患者の反応は様々であったが、治療に対して前向きにとらえる人が多かった。結果が陰性であった患者の中には、家族歴を有し他の家族性腫瘍の可能性が示唆される人もいた。一方で、家族歴はないが変異陽性であった患者もみられた。変異陽性の患者に対してオラパリブの投与を開始し、最長で10ヶ月継続中である。(課題および考察)変異陽性の患者について、主治医は患者の治療のみに目を向けがちであるが、自分の治療と同時に家族の心配をする患者もいる。当院では家族に対する今後のfollowやカウンセリングの体制が十分に整っていないため、今後、多職種が関わり体制を整えていく必要がある。

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F-6 腫瘍内科外来における医師事務作業補助者の役割の検討

1国立国際医療研究センター病院 財務経理部医事管理課医事室 医師事務作業幇助者、2国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科

安永 麻未1、清水千佳子2、下村 昭彦2、瀬尾 卓司2

【背景】 医師の長時間労働や膨大な仕事量による負担や過酷な労働実態が問題視され、厚生労働省が医師の働き方改革を促進し実行するにあたり、医師の指示のもと医師代行として作業補助を行う新しい業種である医師事務作業補助者(以下、医師事務)が誕生した。医師事務は医師の指示のもと種々の医師の事務作業サポートを行うことができるが、具体的にどのような業務が補助可能かについて医療従事者の共通認識がないため、普及につながっていないのではないかと考える。そこで腫瘍内科における医師事務による医師の業務補助の内容について症例を通じて検討し、医師事務による業務補助の課題を検討する。【業務】1. がん薬物療法における診療サポート2. 副作用マネジメントのサポート3. 診察予約外の電話サポート【考察】 医師事務により医師の業務負担は軽減したが、医師事務個人の能力や経験により医師へのサポートに偏りが生じる。また他業種との関わりの中で「医師以外の職種の指示の下に業務を行うことは出来ない」という共通認識が必要であり、医師事務の業務効率を最大化するには医師による周知および医師事務への教育が重要であると考えられる。

F-5 腋窩郭清患者のリンパ浮腫リスク要因に関する調査 第2報

埼玉県立がんセンター 看護部

清水美津江、横枕 令子、山本 幸恵、蓮見かほる、園部 美紀、丹羽 恭子、坪井 美樹、久保 和之、平方 智子、戸塚 勝則、松本 広志

【はじめに】 A病院では、乳がん手術で腋窩郭清を行った患者に対し、リンパ浮腫予防対策について看護師が入院中と退院後に説明を行っている。しかしこの指導を行ってもリンパ浮腫が発症した事例はあり、昨年の同調査で 1 ・ 2 期合わせて29%におよび、すべての事例でタキサン系抗がん剤を使用していた。また術後抗がん剤治療を行った患者は、術前治療患者と比較し、リンパ浮腫の発生が多く有意差が確認された。リンパ浮腫発症患者に対しては、看護師やセラピストが運動や圧迫療法・リンパドレナージなどのセルフケアを追加指導している。 今回はこれらの患者のリンパ浮腫が時間経過とともに改善されたか、また新たなリンパ浮腫の発症がなかったか調査し、第 2 報とした。【対象・方法】 対象は2017年 1 月~12月の期間に、乳がんに対する腋窩郭清術を受け、リンパ浮腫予防対策指導を行った患者60名であり、観察期間中の転移・再発患者は除外した。術後観察期間の中央値は26カ月(20~32カ月)であった。 診療録から患側上肢のリンパ浮腫の改善の有無、新たな発症の有無と、リンパ浮腫発症要因について検討した。【結果】リンパ浮腫が確認されていた18名中11名は改善し消失していた。リンパ浮腫が遷延した 7 名中 4 名は蜂窩織炎の既往があった。新たにリンパ浮腫の発症が確認された患者は 3 名で、術後タキサン系薬剤の化学療法と放射線治療鎖上照射を受けていた。また 2 名は就労を開始していた。

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G-1 乳頭出血を主訴に来院した若年性乳癌の一例

1湘南記念病院 乳がんセンター、2東京大学 医学部附属病院 病理部 病理診断科

水野 香世1、三角みその1、井上 謙一1、土井 卓子1、佐々木 毅2

【背景】若年女性で腫瘤のない乳頭出血を認め、乳管内乳頭腫を疑ったが乳癌と診断し、化学療法PMRTも必要であった症例を経験したので報告する。

【症例】29歳女性。左乳頭出血を主訴に受診された。触診は異常所見がなかった。マンモグラフィーで左L領域に結節性の濃度上昇があり、超音波で左BD領域に25mmの低エコー域と連続する乳管拡張を認めた。年齢から乳管内乳頭腫を考えたが、エコーガイド下吸引式組織生検を施行し、papillotubular carcinomaホルモン陽性、HER 2 陰性MIB- 1  10%と診断した。CTではリンパ節転移、遠隔転移を疑う所見はなかったがMRIで左BDに乳頭方向へ伸展する区域性の非腫瘤性病変を認め、左乳房切除、センチネルリンパ節生検施行した。センチネルリンパ節に微小転移がみられ、リンパ管侵襲もあり、29歳であることも考慮して術後化学療法とPMRTを施行した。現在術後 1 年、再発なく順調に経過している。

【考察】若年女性の乳頭出血単独では悪性を考えない場合も多いが、化学療法、PMRTも必要な若年性乳癌の可能性もあり、文献的考察を加えて報告する。

F-7 アベマシクリブ使用中に間質性肺疾患をきたした一例

亀田総合病院 乳腺科

玄  安理、福間 英祐、中川麻貴子、梨本 実花、春山優理恵、中川 梨恵、角田ゆう子、坂本 尚美、越田 佳朋

症例は56歳女性。 2 年前に当院で左乳癌(pT 2 N 0 M 0 pStage 2 A、NG 3 、luminal B)に対して温存術後にTC 4 サイクルと全乳房照射を施行し、ホルモン療法中の術後 1 年 4 か月で多発骨転移(頭蓋骨・両鎖骨・右第 1 肋骨・第 5 胸椎棘突起)を認めた。局所コントロール目的で頭蓋骨と第 5 胸椎棘突起に放射線療法を施行した。照射後に放射線照射部位近傍の肺野に網状・索状影を認め、放射線照射後の変化と考えられた。全身療法として、エリブリン、その後にフルベストラントとパルボシクリブによる治療を行ったが、いずれも好中球減少が強く、パルボシクリブはアベマシクリブへ変更した。アベマシクリブ治療開始後は大きな有害事象もなく、患者のQOLも維持されていた。しかし、使用開始 5 か月で倦怠感と37.5度前後の微熱と軽度の空咳を認めた。胸部レントゲンで右肺野に浸潤影を認めたため、胸部CT撮影し、両肺野全体のすりガラス陰影を認めた。気管支鏡検査では明らかな悪性所見は認めず、確定診断はつかなかったが、経過からは薬剤性肺炎よりは放射線肺臓炎が疑われた。アベマシクリブ使用中におけるグレード 2の間質性肺疾患でありアベマシクリブは中止した。現在、間質性肺疾患に対しては無治療経過観察で軽快している。本邦ではアベマシクリブ発売後 1 年が経過した。間質性肺疾患に対しては安全性速報も発出されており、使用する場合は適切な患者の選出とサーベランスが重要である。

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G-3 術前内分泌療法により病理学的完全奏功を得られた潜在性乳癌の1例

がん・感染症センター 都立駒込病院

藤原 有沙、奈良美也子、矢部早希子、才田 千晶、大西  舞、後藤 理紗、岩本奈織子、石場 俊之、本田 弥生、宮本 博美、有賀 智之、堀口慎一郎

【背景】腋窩リンパ節に乳癌の転移を認めるが,乳房内には原発巣が発見されないものを潜在性乳癌と呼び,頻度は全乳癌の 0 . 3 - 1 %とされる.今回我々は,術前内分泌療法(NAH)により病理学的完全奏功(pCR)を得られた潜在性乳癌の 1 例を経験したので報告する.【症例】77歳女性,X- 1 年 7 月より右腋窩腫瘤を自覚し,X年 3 月に当院骨軟部腫瘍科を受診した.右腋窩腫瘤の針生検を試みるも検体を採取できず経過観察としていた.右腋窩腫瘤は増大傾向を認めなかったが,同年10月に当科紹介となった.右腋窩腫瘤の針生検では,ER(100%),PgR

(90%),HER 2 ( 1 +),Ki-67:30%の診断であり,乳癌からの転移が疑われた.しかし,乳房MRIでは乳房内に明らかな病変は認めず,CTでも明らかな原発巣を認めず,潜在性乳癌と診断した.手術を予定したが,年齢と家庭の事情、内分泌療法感受性を考慮し,11月よりアナストロゾール(ANA)によるNAHを開始した.X+ 1 年 3 月のCTで治療効果判定はStable Diseaseであり,6月にBt+Axを施行した.病理診断はn( 0 /29)であり, pCRを得られた.乳房内にも腫瘍性病変や線維化・瘢痕などは認めなかった.術後よりANAの内服を再開し,放射線照射も予定している.【考察】潜在性乳癌の治療は確立したものがなく,手術や放射線,薬物療法が推奨されている.本症例のように,内分泌療法感受性や年齢などを考慮し,NAHが有効な治療の 1 つとなる可能性が考えられた.

G-2 妊娠初期に診断され、術後長期間無再発で経過中の乳癌の一例

千葉大学 臓器制御外科学

坂本 陽介、高田  護、寺中亮太郎、榊原 淳太、藤本 浩司、三階 貴史、長嶋  健、大塚 将之

症例は30歳女性。妊娠 8 週ごろ、以前から自覚していた右腋窩の腫瘤を主訴に前医を受診した。精査の結果、乳癌の診断で当院を妊娠12週で紹介受診となった。針生検の結果は右浸潤性乳管癌(ER7, PgR8, HER 2 -)であり、画像検査結果と併せ、右乳癌cT 1 cN 3 M 0 cStageIIIcの診断となった。ご本人ご家族と治療方針を相談し、手術後に補助化学療法を行う方針とし、妊娠18週で右乳房切除、腋窩リンパ節郭清術を施行した。病理結果はpT 3 N 2 M 0 でリンパ節は55/60個に転移を認めた。術後は妊娠28週から33週までAC療法を 4 コース施行し、妊娠36週 6 日に選択的帝王切開にて分娩となった。出生児には先天性および発達上明らかな異常所見は認めなかった。術後、PTXやDTXを使用するもアレルギー等の副作用のため継続困難となり、TAM10年間・LH-RHa 5 年間と放射線照射60Gyでの加療を行った。術後10年間目の定期検査でも明らかな再発所見なく、現在外来にて経過観察中である。妊娠合併乳癌(PABC; pregnancy associated breast cancer)は比較的予後不良とされ、出産年齢の高齢化により増加傾向にあると言われている。妊娠初期に診断された進行期乳癌で、術後長期無再発にて経過している一例を経験したので、当院での他の 6 例の経験と若干の文献的考察を加えて報告する。

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G-5 当院で経験したBRCA変異陽性でオラパリブが著効した1例

東京衛生病院 外科

松村真由子、齋藤 之彦、佐々木啓成、西野 俊宏

【はじめに】2018年 6 月にBRCA変異陽性HER 2 陰性進行再発乳癌に対してオラパリブとそのコンパニオン診断であるBRCA遺伝子検査が保険適応となった。当院において2019年 9 月までに計 5 症例BRCA検査を施行し 1 例で遺伝子変異を認めた。今回、BRCA変異陽性でオラパリブが著効した 1 例を経験したので報告する。【症例】60代女性。家族歴、姉乳癌。父方の叔母乳癌。父方の従妹、乳癌。父、胃癌、肺癌。母方の叔母、乳癌。【経過】60代で左乳癌、T 2 N 0 M0, Stage ll Aの診断を受け、前医で手術(Bt+SLNB)を施行した。ER陽性、Her 2 陰性、ki67 40%で術後補助療法としてアナストロゾールを開始。術後 2 年 3 か月で左胸壁再発、左胸膜播種、左肺転移、骨転移と診断された。タキソール、ベバシズマブ、デノスマブ開始。PRだったが神経症状など副作用のため約 1 年で中止し、フルベストラントに変更。フルベストラント開始から 3か月で左胸水の増悪を認めPDと判断。当院に転院となった。フルベストラント、パルボシクリブ開始。治療変更から 3 か月で左副腎転移と腫瘍マーカーの上昇でPDと判断。AC開始。AC治療中にBRCA遺伝子検査を施行し、BRCA 2 の病的変異を認めた。AC 6 クール終了後からオラパリブ開始。現在、オラパリブ開始から半年経過し腫瘍マーカーの著明な減少と転移部位の縮小を認め、経過良好である。

G-4 アロマターゼ阻害薬内服中に原発性副甲状腺機能亢進症を発症した3例

1高崎総合医療センター 乳腺内分泌外科、2高崎総合医療センター 病理診断科、3細野医院、4高井クリニック

荻野 美里1、鯉淵 幸生1、高他 大輔1、小川  晃2、田中 優子2、宮永 朋実2、小田原宏樹3、高井 良樹4

【はじめに】アロマターゼ阻害薬(AI)内服中の原発性副甲状腺機能亢進症(I-HPT)の 3 例を経験したため報告する.【症例 1 】64歳女性.右乳癌に対し手術(Bt+Ax)を施行した.Luminal typeであり,術後化学療法を行った後にAIを開始した.AI開始時の血清カルシウム(Ca)値10.4mg/dlと軽度上昇を認めていた.術後 1 年半が経過したところでCa 11.4mg/dlと上昇を認めた.精査の結果,I-HPTの診断となり,手術を施行した.【症例 2 】80歳女性.右乳癌に対し手術(Bp+SN)を施行した.Luminal typeであり,術後 3 週目よりAIを開始した.AI開始時のCa 10.0mg/dlと基準値上限であった.術後 7 か月が経過したところで,Ca 10.5mg/dlと上昇を認めた.精査の結果,原I-HPTの診断となり,手術を施行した.【症例 3 】64歳女性.左乳癌に対し手術(Bp+SN→Ax)を施行した.Luminal typeであり,術後 6 週目よりAIを開始した.AI開始時のCa 10.4mg/dlと軽度高値であった.術後 9 か月が経過したところで,Ca 11.1mg/dlと上昇を認めた.精査の結果,I-HPTの診断となり,手術を施行した.【まとめ】 3 症例ともAI開始後よりCa値の上昇がみられた.薬物治療に伴い,エストロゲン値が低下することで,骨吸収の増加が促され,副甲状腺機能亢進症が顕在化する可能性が考えられた.

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H-1 乳房温存療法後に乳房内再発と対側腋窩リンパ節転移をきたした1例

1筑波メディカルセンター病院 乳腺科、2筑波メディカルセンター病院 病理科

白谷 理恵1、森島  勇1、安藤有佳里1、小沢 昌慶2、内田  温2、菊地 和徳2

症例は50歳女性。36歳時に他院で右乳癌に対しRt.Bp+SNを施行。pT 1 pN0, ER+であったが、術後治療は放射線照射のみであった。14年後、乳癌検診要精査で当院初診となった。超音波では、右乳房 4 時の手術痕直下に16 mm大の低エコー腫瘤を認め、右腋窩リンパ節腫大は認めないものの、対側の左腋窩Level Iに最大18 mm大の皮質の厚いリンパ節及びいくつかの腫大リンパ節を認めた。左乳房にはMG、MRIでも悪性所見を認めなかった。PET-CTでは他の領域リンパ節や他臓器への転移は認めなかった。右乳房腫瘤と左腋窩リンパ節の針生検を施行し、いずれも異型細胞が微小乳頭状となって浸潤増殖する類似した像を認め、右乳癌及びそのリンパ節転移として矛盾しない所見であった。病変は右温存乳房内と左腋窩リンパ節にのみ認められ、14年前の右腋窩センチネルリンパ節生検によりリンパ流路が変化したと考え、遠隔転移(LYM)よりは同側所属リンパ節転移と同等とみなして、Rt.Bt + Lt.Ax(II) を施行した。病理は invasive carcinoma of NST with micropapillary carcinoma rpT 2 (30mm), ly+, v-, level I= 6 /13 (最大15mm), II= 0 /4, 右乳房:ER+, PgR+, HER 2 FISH-, Ki67 42%, 左腋窩リンパ節:ER+, PgR+, HER 2 FISH-, Ki67 24%で、pN 2 a StageIIIA相当と判断した。方針としては、根治を目指しての抗がん剤治療、内分泌療法、左腋窩リンパ節に対する放射線照射とした。若干の文献的考察を加えて報告する。

G-6 対側乳癌を同時性に発症した右副乳癌の1例

1立川相互病院 外科、2立川相互病院 病理診断科

新堰佳世子1、高橋 雅哉1、久島 昭浩1、伊藤可奈子1、布村 眞季2

 症例は50歳女性.40代から左内上領域硬結を自覚し,2017年 4 月に右腋窩腫瘤を自覚する.2018年12月乳癌検診超音波で左乳房腫瘤指摘され精査目的に受診した.左乳房 2 cm大硬結と右腋窩に桃色 1 cm大皮膚腫瘤あり,画像所見でも左乳房と右副乳内に造影される腫瘍を認めた.針生検ではいずれも浸潤性乳管癌,Luminal typeであった. 左乳癌,右副乳癌か右腋窩皮膚転移を考慮し,精査加療・局所コントロール目的に左乳房切除術+センチネルリンパ節生検,右腋窩局所広範囲切除+腋窩リンパ節郭清(レベルΙ)を施行した.右腋窩腫瘍と左乳癌では組織像が明らかに異なっており,また,右腋窩腫瘍周囲に正常な副乳腺組織が残っているので副乳腺由来の浸潤性乳管癌と診断した.両側とも領域リンパ節転移を認めず術後補助療法として内分泌療法を施行する. 副乳癌は乳癌全体の 1 %未満と比較的稀な疾患である.今回われわれは,対側乳癌を同時性に発症した副乳癌という,さらに稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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H-3 転移再発乳癌の治療のやめ時を考えさせられた一例

(公財)結核予防会 複十字病院 乳腺センター

武田 泰隆、生魚 史子、小柳 尚子

【はじめに】転移再発乳癌は基本的には治癒しないと考えられている。しかし、稀にOligometastasisで局所性の場合完治する症例も経験することがある。転移再発乳癌は全身病であるという考えから、基本的には局所療法に加え全身療法を行う。しかし、局所がlong CRあるいはlong PRとなった場合、全身療法をいつまで継続するか、は難しい選択となる。今回、そのような症例を経験したので報告する。【症例】59歳女性。41歳の時、左乳癌でBt+Axを施行した。病理所見は、scirrhous ca.、20 x 15mm、g・f、ly 3 、v 1 、n(10/12)、ER(+)、PgR(+)、HER 2 ( 1 +)であった。術後はCEF x 6 → 3 wTXL x 4 を施行後、LH-RH agonist( 2 年間)+TAM継続中の術後 3 年に右側頭骨転移が出現した。TAMを中止し、 3 wTXT x 6 施行後、XC+BP+EXEを行った。この間、骨転移は骨シンチでPR後は全く変化なく、他臓器への新たな転移の出現もみられなかった。エンドキサンによる出血性膀胱炎の出現もあったため、XCは 5 年 1 か月間継続して終了した。その後BP+EXEを継続し、BPは 5 年 1 か月後、EXEはさらに 1 年 1 か月後

(合計:約11年半)継続して、全く再々発兆候がないことから、本人の希望もあり段階的に中止した。治癒と思われたが、治療中止 2 年半後多発肝転移で再々発を認めた。

H-2 初期治療から10年後に温存乳房内乳頭に限局した浸潤性乳管癌が発生した1例

1茨城県立中央病院茨城県地域がんセンター 乳腺外科、2筑波大学 茨城県地域臨床教育センター、3筑波大学 乳腺甲状腺内分泌外科、4茨城県立中央病院茨城県地域がんセンター 病理診断科、

5茨城県立中央病院茨城県地域がんセンター 看護局

北原美由紀1、穂積 康夫1,2,3、竹内 直人1,3、町永 幹月1、渡邊 侑奈4、斉藤 仁昭4、飯嶋 達生4、高橋 知子5、園原 一恵5

症例は69歳、女性。10年前に右乳房下外側部乳癌に対し右乳房部分切除術及びセンチネルリンパ節生検を施行した。病理組織診断は乳頭腺管癌、pT 1 micN 0 M 0 pStage 1 、側方断端に近接、ER陰性、PgR陰性、HER 2 陽性。術後は化学療法(TC)、抗HER 2 療法(Trastuzumab)及び放射線治療を施行した。 1 ヶ月前より右乳頭の発赤、腫脹、血性異常乳頭分泌がみられ当科受診。右乳頭は約 2 cm大に腫大し単孔性の血性分泌をみとめた。右乳頭への針生検で浸潤性乳管癌と診断、温存乳房内再発と判断し、右乳房切除術及びセカンドセンチネルリンパ節生検を施行した。病理組織診断は浸潤性乳管癌、充実型、pT 1 cN 0 M 0 pStage 1 、ER陽性、PgR陰性、HER 2 陽性。腫瘍は乳頭を充満するように増殖し、周囲の乳管内への進展は明らかでなかった。また前回手術の瘢痕部には腫瘍性病変を認めなかった。前回手術とは病変の場所が離れている、組織学像が異なるなどの臨床病理学的所見より真の再発ではなく二次癌(異時性同側乳癌)と判断した。乳癌の大部分は終末乳管小葉単位から発生し、小葉から最も離れた乳頭内に発生することは稀である。また乳房内再発を真の再発と二次癌に明確に分類する基準は確立されていないが、両者で予後に差があり、それぞれ異なる治療方針が必要である。本症例は、術後の温存乳房を乳頭部の変化にも注意して観察したことにより比較的早期に診断し、適切な治療戦略を決定することが可能であった。

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H-5 乳癌 lung oligometastases において長期生存を得られた2例

日本赤十字社医療センター 乳腺外科

村尾 有香、米田 央后、清水 淑子、増田  亮

乳癌の遠隔転移は、全身治療が基本となる。しかし、近年「数個以内の転移や再発の際、局所治療で生存期間が延長する病態」として、oligometastasesの概念が広まっている。今回、乳癌の少数肺転移症例について、局所治療により長期生存している 2 症例を経験した。症例 1 : 54歳女性。右乳癌手術を施行し、乳頭腺管癌と診断。術後、LH-RHアゴニストが開始され、4 年経過後のCTで右肺上葉に結節影を認め、胸腔鏡下右S 1 部分切除で乳癌肺転移と診断。その後、LH-RHアゴニストとTAMを併用し治療継続した。現在はAIに切替え、初発診断時点から167ヶ月が経過している。症例 2 : 62歳女性。右乳癌手術を施行し、粘液癌と診断。LH-RHアゴニストを 5 年間で終了した後、術後 7 年のCTで左肺結節影を認め、胸腔鏡下切除で乳癌肺転移と診断。術後12年のCTで副腎腫瘍を指摘され腹腔鏡下切除し、乳癌副腎転移を認めた。今後転移巣のサブタイプに合わせホルモン療法継続予定である。初発診断時点から144ヶ月経過している。原発巣と転移巣は、異なるサブタイプの可能性があり、転移巣発見後の治療方針決定のため、oligometastasesの切除は有用であるといえる。また、転移巣の切除自体が長期生存に寄与する可能性があり、今後も少数転移に対する治療法の一つとして考慮される。

H-4 無治療で完全奏効を8年維持しているHER2陽性StageIV乳癌

1がん研究会有明病院 乳腺外科、2がん研究会有明病院 病理部、3がん研究会有明病院 乳腺内科、4がん研究会有明病院 乳腺センター

井上 有香1、荻谷 朗子1、大迫  智2、細永 真理3、深田 一平3、小林  心3、伊藤 良則3、上野 貴之1、大野 真司4

症例は69歳女性。58歳時、左乳房の腫瘤、熱感を主訴に当院受診。精査の結果、左二次性炎症性乳癌、多発リンパ節転移、多発肺転移、cT 4 bN 3 cM 1 StageIV、ER陰性、PR陰性、HER 2 3 +と診断された。CAFを開始し、開始直後より乳房の発赤腫脹は縮小傾向で治療効果を認めた。 6 サイクル終了後、wPAC+HERを開始、 2 か月目で末梢神経障害のためPAC+HER(隔週)へ変更した。治療開始から 9 か月、PET-CTにて多発リンパ節転移、多発肺転移は縮小~不明瞭となった。さらに 3 か月治療継続した後、局所コントロール目的に、左乳房切除+腋窩郭清(レベルIII、Rotter)を行った。組織学的治療効果はGrade 3 で、乳管内成分、浸潤巣いずれも検索した範囲に癌細胞は認めず、リンパ節転移もすべて消失していた。腫瘍があった部分には間質浸潤巣消失部と思われるFibrosis、乳管内成分消失部と思われるHealingを認めた。遠隔転移も再増大見られず、臨床的治療効果は完全奏効と判断した。術後は心機能が低下していたためPAC(隔週)のみ投与、術後 1 年 3 か月よりHERを再開したが、術後 2 年に経済的理由でどちらも治療中止となった。以後無治療となり、術後 5 年に対側乳房にDCISが出現し手術を行ったが、術後10年、治療中止から 8 年転移再発所見なく経過している。今回我々は無治療で完全奏効を 8年維持しているHER 2 陽性StageIV乳癌を経験したので報告する。

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I-1 胸壁合併切除、広背筋皮弁を伴う乳房部分切除術を施行した局所進行乳癌の一例

1国立がん研究センター中央病院 乳腺外科、2国立がん研究センター中央病院 形成外科、3国立がん研究センター中央病院 呼吸器外科

阿彦 友佳1、高山  伸1、黒川 耀貴1、中平  詩1、渡瀬智佳史1、椎野  翔1、村田  健1、神保健二郎1、有川 真生2、吉田 幸弘3、首藤 昭彦1

局所進行乳癌に対しては、薬物療法と局所療法(手術・放射線療法)による集学的治療が標準とされている。しかし胸壁浸潤や広範囲な皮膚浸潤を伴う症例では、手術の適応や意義については議論を要する。今回、胸壁浸潤を伴う局所進行乳癌に対し、薬物療法後に胸壁合併切除、広背筋皮弁再建を伴う乳房部分切除術を施行した一例を経験したので文献的考察を加え報告する。症例は68歳女性。前医で他疾患治療中に右乳房腫瘤を指摘され、触診で右乳房に胸壁固定を伴う30mm大の腫瘤、右腋窩に硬いリンパ節を認めた。針生検で浸潤性乳管癌(IDC)、細胞診で腋窩リンパ節転移と診断された(cT 4 cN 1 M 0 StageIIIB)。同時に甲状腺腫瘍も指摘され、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された。血液内科と相談の上、乳癌治療を優先する方針でTC療法を 4 コース施行し、乳腺腫瘍と腋窩リンパ節は縮小傾向を認めた。またDLBCLも部分奏功を示した。この段階で遠隔転移を認めず、乳癌根治切除の目的で当院紹介となった。前医では手術侵襲、DLBCL併存の点で手術適応には慎重な意見もあったが、最終的に呼吸器外科、形成外科と連携のもと、右乳房部分切除術、腋窩郭清、胸壁合併切除、広背筋皮弁再建を施行した。最終病理診断は、IDC、G 1 、NG 1 、ER 3 +、PgR 3 +、HER 2 0 、Ki67 27.2%、n= 2 /18、pT 4 cN 1 aM 0 StageIIIBだった。術後補助療法は温存乳房照射とホルモン療法を施行し、術後1 年 7 か月無再発で経過している。

H-6 再発・転移病変と乳癌原発巣との比較ターゲット次世代シークエンサー解析

1聖路加国際病院 病理診断科、2川崎医科大学 病理学、3鹿児島大学医歯学総合研究科 腫瘍学講座 病理学分野、4川崎医科大学 乳腺甲状腺外科学

鹿股 直樹1,2、赤羽 俊章3、紅林 淳一4、森谷 卓也2

【背景】癌の再発・転移巣では,原発巣とは異なる遺伝子変異が検出されることがあることがわかってきた。再発・転移病変で付加される遺伝子異常が,治療抵抗性の原因になっている症例が少なからず存在することが想定されるが,臨床応用を視野に施行された研究は乏しい。【目的】乳癌の原発巣組織と再発・転移巣組織をともに,NGSにて解析し遺伝子変異およびコピー数(CNV)の変化を調べ比較検討する。【方法】転移あるいは局所再発を示した乳癌 2 症例で,腫瘍部および非腫瘍乳腺組織,転移癌巣のホルマリン固定パラフィン包埋検体からDNAを抽出,QIAseq Human Breast Cancer Panel (93 genes, DHS-001Z, QIAGEN) 及 び GeneRead Human Comprehensive Cancer Panel (160 genes, NGHS-501X, Qiagen)にてライブラリィを作成,NGSはMiSeq (Illumina)を使用した。【結果】症例 1 では,原発巣でTP53( 2 ケ所)での変異があり,胸膜播種巣(胸水セルブロック)からは,これらに加えて,JAK2, ARID 1 A, GATA3, XPCの変異が検出された。症例 2 では,非腫瘍乳腺組織,原発巣,転移巣ともにTP53とKMT 2 Cの変異が検出されたが,再発巣での新たな遺伝子変異は検出されなかった。

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I-3 初回乳癌治療に際し,胸腔鏡下手術(VATS)にて内胸リンパ節転移を切除した2症例

1虎の門病院 乳腺・内分泌外科、2虎の門病院 臨床腫瘍科、3虎の門病院 呼吸器外科、4虎の門病院 病理診断科、5恵比寿門脇ブレストクリニック、6赤坂三浦クリニック、

7中澤プレスセンタークリニック

川口  駿1、栗川美智子1、田中 希世1、小林 蓉子1、佐藤順一朗4、尾崎由記範2、木脇 圭一4、田辺 裕子2、田村 宜子1、門脇 正美1,5、三浦 大周1,6、中澤 英樹1,7、藤森  賢3、

高野 利実2、藤井 丈士4、川端 英孝1

【はじめに】乳癌の術前評価にPET-CTを用いるようになり,内胸リンパ節転移が診断される機会が増えた.【症例 1 】40代女性.マンモグラフィにてスピキュラを伴う分葉状腫瘤 3 個(C- 5 ),超音波にて最大径34mmの不整形低エコー腫瘤を認めた.針生検にて,浸潤性乳管癌(solid type ER+ PR+ HER 2 (-) NG= 2 NG= 2 Ki67 20%)と診断した.PET-CTにて右傍胸骨にFDG異常集積を認めリンパ節転移と診断した(T 2 N 2 bM 0  StageIIIA).リンパ節転移巣を胸腔鏡下に切除した後,Bt(SSM)+SN,ddAC-PTX+HER+PER,TAM,補助照射を順に施行した.【症例2 】30代女性.マンモグラフィにてスピキュラを伴う不整形腫瘤(C- 5 ),超音波にて28mmの境界不明瞭な不整形低エコー腫瘤と右腋窩に34mmの腫大リンパ節を認めた.針生検にて,浸潤性乳管癌(solid type ER- PR- HER 2 (-) HG= 3 NG= 3 Ki67 90%)と診断した.PET-CTでは,右傍胸骨とその近傍の右胸壁に FDG 異常集積を認め,内胸リンパ節転移と診断した(T 2 N 3 bM 0 StageIIIC).まず内胸リンパ節の 2 病変を胸腔鏡下に切除した後,ddAC-PTX,Bt(NSM)+Ax,術後のカペシタビン,補助照射を順に施行した.【まとめ】当院では,術前に診断された内胸リンパ節転移に対して,胸腔鏡下に外科的切除を加えており,肋間から直視下に切除した 2 症例,術後の内胸リンパ節再発を胸腔鏡下に切除した 2 症例も併せ報告する.

I-2 広背筋皮弁による乳房再建術後に生じたドナー部chronic expanding hematomaの1例

1埼玉県立がんセンター 乳腺外科、2埼玉県立がんセンター 形成外科、3埼玉県立がんセンター 病理診断科

久保 和之1,2、松本 広志1、戸塚 勝理1、坪井 美樹1、齋藤  喬2、濱畑 淳盛2、桐田 美帆2、神田 浩明3、堀井 理絵3

【はじめに】手術や外傷を契機に発症した血腫が、まれに数か月から数年の経過で増大することがあり、Chronic Expanding Hematoma: CEH と呼ばれている。今回、広背筋皮弁採取部にCEHを発症した症例を経験したため報告する。【症例】40代女性。右乳癌に対し、右乳房切除・腋窩郭清・右有茎広背筋皮弁による乳房再建術を施行した。手術当日に背部の術後出血により止血術を行った。術後19か月経過時に右背部の腫瘤に気づき来院された。腫瘤を穿刺すると黒色の古い血液が吸引され、腫瘤は平坦化した。外来で穿刺吸引を継続していたが、徐々に内容液の粘性が増して吸引しづらくなった。腫瘤は緩徐に増大し、ほとんど内容液が引けなくなったため、相談の上術後71ヶ月で腫瘤の摘出手術を予定した。術前所見:右背部に約20cm大の腫瘤を 2 つ認めた。MRIではT 1 高信号・T 2 低信号の境界明瞭な腫瘤を認めた。周囲を帯状の低信号帯で囲まれ、内部にモザイク状信号を認めた。手術所見:腫瘤は周囲と強固に癒着していたが、被膜を損傷することなく摘出することができた。内部は器質化した血腫と古い黒い血液が充満していた。病理所見:線維性組織、肉芽組織の増生・マクロファージの集簇を認め、悪性所見は認めなかった。画像・臨床経過・病理結果よりCEHと診断した。術後 1 年が経過し、再発は認めていない。

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I-5 診断および治療のため科を越えた連携が必要であった乳癌後腹膜転移の1例

1虎の門病院 乳腺・内分泌外科、2虎の門病院 病理診断科、3恵比寿門脇ブレストクリニック、4赤坂三浦クリニック、5中澤プレスセンタークリニック

栗川美智子1、田中 希世1、佐藤順一朗2、小林 蓉子1、木脇 圭一2、田村 宜子1、門脇 正美1,3、三浦 大周1,4、藤井 丈士1,2、中澤 英樹1,5、川端 英孝1

症例は49歳女性。悪心、嘔吐を主訴に当院緊急受診。精査にて左乳腺腫瘤、腫大腋窩リンパ節、及び膵頭部周囲に腫瘤性病変を認め、この腫瘤により十二指腸狭窄、右尿管狭窄を呈している状態であった。乳腺腫瘤に対し針生検を施行し、左乳癌(浸潤癌、Luminal B type)の診断に至り、また乳癌の家族歴が複数あり、遺伝性要因も示唆された。初期治療の後、消化器内科、消化器外科、泌尿器科、婦人科と連携し精査を進めた。結果、左乳癌StageIV(後腹膜転移)、進行乳癌と腹腔内原発腫瘍(膵癌や尿管癌等)の重複癌、進行乳癌と後腹膜線維症の合併等が鑑別として考えられたが、確定診断は困難だった。このため、診断的治療を目的に、消化器外科にて開腹手術を施行。術中所見では後腹膜・結腸間膜に播種病変を認め、さらに十二指腸と右尿管を圧迫する硬く一塊となった後腹膜腫瘤を認めた。根治的切除は困難と判断しバイパス術を施行。播種病変の病理は乳癌の転移として矛盾しない所見であり、左乳癌StageIV(腹膜播種、後腹膜)の診断に至った。術後、Paclitaxel+Bevacizumab療法を開始。現在10コース施行後、PRを維持している。臨床的に乳癌後腹膜転移が指摘される事は稀であり、組織型は浸潤性小葉癌が多いと報告されている。今回我々は乳癌の後腹膜転移でイレウスをきたし、診断のため各科の連携が必須であった 1 例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

I-4 審査腹腔鏡により乳癌腹膜播種を確定診断した1例

1東京医科歯科大学 乳腺外科、2東京医科歯科大学 大腸肛門外科、3東京医科歯科大学大学院 総合外科学分野

熊木 裕一1、中川 剛士1、小川あゆみ1、細矢 徳子1、小田 剛史1、齋藤 稔史2、菊池 章史2、植竹 宏之3

【背景】乳癌の再発形式として腹膜播種再発単独は稀である。今回、我々は審査腹腔鏡にて乳癌腹膜播種再発を確定診断し、バイオマーカーに基づいて治療を行った症例を経験したので報告する。【症例】68歳女性。乳癌に対して乳房部分切除及びセンチネルリンパ節生検を施行した。病理結果はT 1 cN 0 M 0 、ER(+)PgR(-)HER2: 0 であった。術後はEC 4 コース施行後、アロマターゼ阻害薬を内服していた。術後 8 年目にCA15- 3 の著名な上昇を認めPET/CTを施行したが、骨盤内腹膜に軽度のFDG集積を認めるのみで、明らかな転移再発巣の同定は困難であった。上部消化管内視鏡検査、婦人科癌、泌尿器科癌のスクリーニングを施行したが、すべて異常はなかった。そこで審査腹腔鏡を施行したところ、大網、腸間膜、小骨盤腔に多発の腹膜播種を認めたため、腸間膜の播種に対して切除生検を行った。病理診断は、乳癌腹膜播種ER(-)PgR

(-)HER2: 3 であり、 8 年前の原発巣のバイオマーカーとは異なっていた。現在抗HER 2 療法を行い、CA15- 3 の減少を認めている。【考察】乳癌の腹膜播種再発は0.7%とされ、稀である。腫瘍マーカー高値にも関わらず、画像上転移巣がはっきりしない場合は審査腹腔鏡が有効である。補助療法としての内分泌療法中の再発であった場合は、バイオマーカーの変化も考慮して可能な限り生検を行うことが望ましいと考えられる。

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J-2 広範な乳房発赤と高度リンパ節腫大を認め炎症性乳癌の診断にて 治療を開始した一例の検討

1埼玉メディカルセンター 外科、2こう外科クリニック、3埼玉メディカルセンター 病理

沖  尚彦1、櫻井 孝志1、清水  健3、洪  淳一2、関  大仁1、清水 章子1、前田 祐佳1、青山 美奈1、山口  諒1、中島顕一郎1

症例は74歳女性。右乳房の発赤と疼痛を主訴に前医を受診。右乳房に 6 cm大の皮膚発赤を伴う硬結を認め、 1 か月後には12×20cmに拡大した。精査の結果、右乳癌(ABCDE, T 4 dN 3 M0, stage 3 C) と診断した。針生検の病理は Squamous cell carcinoma, ER( 4 + 1 ), PgR( 0 + 0 ), HER 2 ( 2 +, FISH1.5), MIB- 1 90%であった。根治性はないと判断し、エクセメスタンを開始したところ、所見は一時軽快したが、その後発赤と疼痛が増悪したため当科紹介となった。術前化学療法も考慮したが疼痛コントロール目的に乳房切除術および腋窩リンパ節郭清(Level 3 )を施行した。切除標本の病理は、Invasive ductal carcinoma with Squamous cell carcinoma, gf, INFb, ly0, v0, EIC-, NG3, 治療効果≦Grade 1 a, ER( 4 + 1 ), PgR( 0 + 0 ), HER 2 ( 2 +, FISH-), MIB- 1 90%, n= 0 /49であった。真皮には胚中心を伴う 2 次リンパ濾胞形成が散見され、癌細胞の浸潤や皮下リンパ管への塞栓などは認めず、炎症性乳癌の所見は認めなかった。また腫瘍周囲へのリンパ球浸潤は中等度であった。発赤の原因、リンパ濾胞の形成の原因は明らかでなかった。高度リンパ節転移を伴う炎症性乳癌が疑われ治療を開始したが、切除標本ではその所見は認めなかった。術前所見にて広範な発赤の割に皮膚の浮腫所見が軽度であったため、皮膚生検により炎症性乳癌か否かの鑑別ができた可能性があった。広範な乳房発赤を認め炎症性乳癌でなかった症例を経験したので報告する。

J-1 集学的治療により根治を得られた両側炎症性乳癌の1例

国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院

黒川 耀貴、神保健二郎、中平  詩、渡瀬智佳史、村田  健、椎野  翔、高山  伸、首藤 昭彦

患者は48歳女性。2016年から左乳房腫瘤を自覚。2018年 6 月頃から腫瘤の急速増大を認めたため前医を受診。左局所進行乳癌と診断され当院へ加療目的に紹介受診。当院初診時の理学所見では、両側乳房は全体に発赤しており、皮膚は硬く肥厚し炎症性乳癌の状態を呈していた。乳房針生検では両側とも浸潤性乳管癌であり、術前画像検査より左乳癌T 4 dN 3 cM 0 : cStageIIIC、右乳癌T 4 dN 3 aM 0 : cStageIIICと診断した。根治を目指して術前薬物療法の方針となりAC療法 4 コース、wPTX+Tmab療法12コースを実施し、その後、手術療法(両側乳房全切除術、両側腋窩リンパ節郭清術、左大胸筋切除、植皮術)を施行した。病理診断は左乳癌:治療効果Grade 2 a、リンパ節転移 1 / 7 で治療効果Grade 2 b。右乳癌:治療効果判定Grade 2 a、リンパ節転移 0 /14で治療効果Grade 3 。術後に両側胸壁および領域リンパ節に対し放射線療法およびTmab+Pmab療法を追加実施。同時に内分泌療法を開始した。初期治療から 1 年 1 か月現在、無再発生存中である。炎症性乳癌は局所に広範囲に進展していることや遠隔転移を伴うことが多いため、根治術を行うことが時に困難である。今回われわれは、集学的治療が奏効し根治を得られた両側炎症性乳癌の症例を経験したので報告する。

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J-4 炎症様変化を伴う乳癌を疑った乳腺原発悪性リンパ腫の1例

1山近記念総合病院 外科、2山近記念総合病院 病理、3山近記念総合病院 内科、4聖マリアンナ医科大学 血液・腫瘍内科

久保田光博1、佐藤  誠1、山近 大輔1、金谷 剛志1、佐藤 哲也1、杉田 輝地1、島村 和男2、佐野 文明3,4

[はじめに]乳腺原発の悪性リンパ腫は、乳腺悪性腫瘍のうち乳癌に比し比較的稀だが、乳腺臨床においては常に念頭の置くべき疾患である。昨年から今年にかけて比較的短期間に 4 例の乳腺原発の悪性リンパ腫症例を経験し、うち 1 例は炎症様皮膚変化を伴い当初乳癌を強く疑ったので、この症例を中心に報告する。[症例]65才女性。 1 ヶ月前より右乳房および腋窩の腫瘤を自覚し来院。右乳房の中心に皮膚の発赤を伴う腫瘤、右腋窩にリンパ節腫大を認めた。超音波検査およびMRIで炎症性乳癌疑いで、針生検の病理診断の途中結果では悪性リンパ腫の確定にはいたらず、乳癌として治療を開始し、腫瘤縮小を認めた。針生検病理の最終結果で悪性リンパ腫、diffuse large B cell lymphoma の診断が確定。以後血液内科での評価と治療開始となった。

[検討・結語]乳腺原発悪性リンパ腫は、急速に増大する限局性腫瘤が特徴であるが、かならずしもこれに該当しない臨床像を呈するものもある。本例は炎症様所見を呈し、画像診断からも乳癌をより強く疑ったため、悪性リンパ腫としての治療の開始が若干遅れる結果となった。本例を含めここ 1 年以内に経験した例と、過去 2 例を含めた検討結果もふくめ報告したい。

J-3 陥没乳頭に起因する難治性乳輪下膿瘍に対し一期的根治術を施行した1例

1横浜市立大学附属病院 乳腺外科、2横浜市立大学附属病院 形成外科、3横浜市立大学附属市民総合医療センター 乳腺甲状腺外科、4横浜市立大学附属病院 病理診断科、

5東京医科大学 乳腺科学、6横浜市立大学医学部 消化器・腫瘍外科学

鈴木 千穂1、山田 顕光1、矢吹雄一郎2、上中奈津希3、高畑 太輔3、足立 祥子3、山本 晋也3、成井 一隆3、立石 陽子4、石川  孝5、遠藤  格6

【症例】15歳女性.主訴:左乳頭および皮膚からの排膿,左乳房部痛.既往歴:傍側脳室白質軟化症,精神発達遅滞.現病歴:半年前から左乳頭分泌が続き近医皮膚科を受診した.皮下膿瘍の診断で排膿ドレナージ施行し症状は軽快したが,その後も再燃寛解を繰り返すため加療目的に当科を受診した.身体所見:左乳頭から内側 2 cmに自壊創の瘢痕と両側陥没乳頭を認めた.乳頭および創部からの排膿は認めなかった.乳房超音波所見:自壊創から連続して乳腺方向に線状の低エコー域を認め瘢痕が疑われたが,低エコー域と連続する乳頭側乳管の同定は困難であった.経過:初診時より12週後,瘢痕部が再度自壊して排膿を認め,ドレナージおよび内服抗生剤で軽快したが,20週後,28週後に症状の再燃を認め,陥没乳頭による左乳輪下膿瘍と診断した.乳腺外科と形成外科で合同カンファレンスを行い,全身麻酔下で左乳腺腺葉・瘻孔切除・左乳頭形成術を施行した.病理所見:瘻孔瘢痕部の皮下組織にリンパ球と組織球の集簇,周囲に変性した乳管上皮を認め,乳管由来の炎症が考えられた.【考察】本症例は反復する乳房部皮下膿瘍で受診し,原因は陥没乳頭による乳管閉塞と考えられた.乳輪下膿瘍は再燃を繰り返し,乳腺炎との鑑別にしばしば難渋するが,根治には瘻孔切除とともに陥没乳頭の修正など乳管閉塞の解除が重要である.

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J-6 血性異常乳頭分泌を呈し乳頭全切除を施行したNipple adenomaの1例

1茨城県立中央病院茨城県地域がんセンター 乳腺外科、2筑波大学 茨城地域臨床教育センター、3筑波大学 乳腺甲状腺内分泌外科、

4茨城県立中央病院茨城県地域がんセンター 病理診断科

町永 幹月1、北原美由紀1、竹内 直人1,3、斉藤 仁昭4、穂積 康夫1,2,3

Nipple adenoma(乳頭部腺腫)は乳頭部または乳輪部に発生するまれな上皮性良性腫瘍である。臨床的にPaget病が鑑別疾患となり、組織学的には偽浸潤を伴う高度の腺管増生を示すため、浸潤癌と鑑別を要することがある。治療は腫瘍の完全切除だが、良性腫瘍でありながら切除範囲によっては大きく整容性を損なうことがある。今回我々は、血性異常乳頭分泌によりQOLの低下をきたし乳頭全切除術を施行したnipple adenomaの 1 例を経験したので報告する。症例は40歳、女性。 5 年前に右乳頭部の発赤、硬結及び疼痛を自覚した。 2 年前から右乳頭部びらん及び血性異常乳頭分泌が出現、改善しないため近医を受診した。Paget病を疑い右乳頭部の生検を行ったが、乳頭内に上皮と筋上皮の二層性を保持した異型のない腺管が密に増生してみられ、腫瘍の局在からnipple adenomaと診断された。血性乳頭分泌が増えたことから手術を希望し、当科を受診した。乳房超音波及び乳房MRI検査では、血流豊富な腫瘤が乳頭部を置換し、限局性に認められた。右乳頭全切除術を施行し、病理組織学的に切除断端は陰性と判断された。症状の消失によりQOLの改善が得られ、更に整容性を大きく損なうことなく根治性を得ることが可能であった。

J-5 膠原病免疫抑制剤使用中に発症した乳腺原発扁平上皮癌の1例

1総合病院土浦協同病院 消化器外科、2総合病院土浦協同病院 乳腺外科、3総合病院土浦協同病院 看護部、4東京保健医療公社 大久保病院 外科、

5東京医科歯科大学 乳腺外科

植野 広大1、長内 孝之2,4、中川 剛士2,5、熊木 裕一2,5、関  知子3、滝口 典聡1

乳腺扁平上皮癌は乳癌取扱い規約では特殊型に分類されており、その頻度は本邦では0.17~0.4%とまれな疾患である。また、乳癌発生と膠原病に対する免疫抑制剤使用の関連性についての報告も散見される。今回我々は膠原病免疫抑制剤使用中に発症した扁平上皮乳癌の 1 症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。症例は47歳女性で左乳房の腫瘤を主訴に当科を受診した。既往に17歳時発症の全身性エリテマドーシス(Systemic Lupus Erythematosus以下SLE)があり、免疫抑制剤(プレドニゾロン、ヒドロキシクロロキン硫酸塩製剤)を長期内服中であった。また、35歳時には左非浸潤性乳管癌に対して乳房部分切除術と術後放射線療法が、右乳腺線維腫に対して右腺腫瘍摘出術が行われた。精査の結果浸潤性乳管癌の診断となり、全身精査ののち左乳房切除術およびセンチネルリンパ節生検を実施した。病理結果から扁平上皮癌の診断となり、エストロゲンレセプターは陰性、プロゲステロンレセプターも陰性であった。組織型が扁平上皮癌であったため通常のHER 2 タンパク発現検索は実施しなかった。Ki67陽性率は50-60%であった。センチネルリンパ節生検は転移陰性であった。術後補助化学療法としてEC followed by Docを実施した。抗癌剤治療中、SLEに対する免疫抑制剤はプレドニゾロン内服のみとし増悪を認めかった。化学療法終了後は定期フォロー中であり、現在までに再発を認めていない。

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K-2 演題取下げ

K-1 非特異的画像所見を呈した乳房原発悪性リンパ腫の1例

1春日部市立医療センター 乳腺外科、2春日部市立医療センター 外科

小野 容子1、君塚  圭1、杉山 順子1、深津 祐美1、小倉 道一2、三宅  洋2

【症例】40歳女性。【主訴】左乳房腫瘤。【視触診】左C区域に 4 cmの硬結を触知。【検査所見】(MG) 左UMO領域にFADを認めカテゴリー 1 / 3 。(US) 左硬結部に豊富な血流像を認めるが腫瘤はなし。以上より乳腺症もしくはDCIS等も考慮し造影MRIを行った。(乳房造影MRI) 左C区域に区域性の造影効果あり。明らかな悪性所見かは不明だった。同部位にUSガイド下VABを施行。病理診断はB-cell lymphoma, 特にdiffuse large B-cell lymphomaを考える所見であった。当院血液内科にコンサルトし全身検索を行なった。(PET-CT) 左乳房ほぼ全体にhot spotと左腋窩リンパ節にもわずかに集積を認めた。その他のリンパ節には集積なく、乳腺原発悪性リンパ腫に矛盾しない所見であった。R-CHOP 6 kur施行後CRとなり現在経過観察中である。【まとめ】乳房原発悪性リンパ腫は非常に稀な疾患で、乳房悪性腫瘍の0.04~1.1%、節外性悪性リンパ腫の1.7~2.2%と言われている。触診では表面平滑、境界明瞭な腫瘤を触知し、良性疾患との鑑別が困難であることが多い。MGでは類円形・分葉状腫瘤影、FADを呈する。USでは細胞密度が高いため、エコーレベルの低い限局性腫瘤像と後方エコー増強を認める。今回の症例では、MG・USでは生検に至るまでの所見は認めなかったものの、造影MRIを追加して要生検と判断し、確定診断に至った。非特異的画像所見を呈した乳房原発悪性リンパ腫の 1 例を経験したので文献的考察を交えて報告する。

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K-4 乳腺原発悪性リンパ腫の1例

1順天堂大学 医学部 乳腺腫瘍学講座、2順天堂大学 医学部 腫瘍・病理学、3順天堂大学 医学部 人体病理病態学

石塚由美子1、堀本 義哉1,2、荒川  敦3、村上  郁1、齊藤  光江1

【緒言】乳腺原発の悪性リンパ腫は乳腺悪性腫瘍の0.04~0.53%と非常に稀な腫瘍であり、普段遭遇する機会が少ない。今回我々は乳腺原発悪性リンパ腫の 1 例を経験したので報告する。【症例】14歳女児。入浴中に右乳房のしこりを自覚し、近医を受診。そこで右乳房腫瘤を指摘され、精査目的で当科紹介となった。エコーでは右AB領域に40mmにわたり低エコーと高エコーが混在する境界が一部不明瞭な腫瘤性病変を認め、針生検を施行した。病理診断ではB細胞性リンパ腫が疑われたため、確定診断目的に外科的生検を行う方針となった。外科的生検の結果はBリンパ芽球性リンパ腫の診断であった。PET-CTでは乳腺以外の他臓器に集積を認めず、乳腺原発の悪性リンパ腫と診断し、小児科に転科した上で現在多剤併用化学療法による治療を行っている。【考察】乳腺原発悪性リンパ腫には特徴的な画像所見がなく組織診断が必須であるが、十分な組織量を得るために再生検や摘出生検を行うことが多い。組織型によってはdown stageを目的に手術を行うこともあり、診断や治療の進め方について乳腺外科医も熟知しておく必要がある。【結語】今回我々は乳腺原発悪性リンパ腫の 1 例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。

K-3 乳房腫瘤自覚で発見された悪性リンパ腫の一例

1河北総合病院 外科、2河北総合病院 乳腺外科、3いとう新検見川クリニック、4河北総合病院 血液内科、5河北総合病院 病理診断科

内山雄一朗1、安藤美知子2、安田 秀光2、松本 華英3、浅妻 直樹4、町並 陸生5

症例は72歳女性。201X年 3 月、左乳房腫瘤を自覚され翌月当科紹介受診となった。既往歴に70歳時に診断された慢性リンパ性白血病があり、そちらに対しては経過観察をしていた。視触診では左乳房上外側に腫瘤を触知し、MMGでは左上方に円形腫瘤を複数認め(category 3 )、乳房USでは両側乳腺に 5 mm程度の低エコー腫瘤が多発していた。腫瘤はドプラー信号を認め、一部は内部に高エコー部を伴うものであった。左乳房腫瘤は、細胞診でmalignant lymphoma,針生 検 で は malignant small B cell lymphoma(Chronic Lymphocytic Leukemia/Small lymphocytic lymphoma) の診断となった。免疫染色では AE 1 /AE 3 (-), EMA(-), CD 3 ( ± ), CD20(+), CD79a(+), CD10(-), bcl- 2 (+), CD 5 (-), Cyclin-D 1 (-), MIB- 1 (ほとんどの細胞が陽性)となった。慢性リンパ性白血病診断時の骨髄生検では、CD20(-) bcl- 2 (+)であったため、形質転換が考えられた。全身検索目的にPET-CTを行ったところ、両側乳腺・横隔膜上下リンパ節・肺野に強い集積があり、脾腫も認められたためstage 4 期と診断された。肺野病変が多発していたため、早急にリツキシマブ+ベンダムスチン療法を開始した。治療は著効し、肺病変・乳房腫瘤は速やかに縮小した。今回我々は乳房腫瘤が悪性リンパ腫であった非常にまれな症例を経験したため、若干の文献的考察を加えて報告する。

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K-6 乳癌腋窩リンパ節転移と鑑別を要したメトトレキサート関連リンパ増殖症の1例

1昭和大学 医学部 乳腺外科、2昭和大学 医学部 血液内科、3昭和大学 医学部 臨床病理診断科

鶴我 朝子1、桑山 隆志1、酒井 春奈1、柳沢 孝次2、三浦 咲子3、瀧本 雅文3、塩沢 英輔3、中村 清吾1

メトトレキサート(MTX)は関節リウマチのアンカードラッグとしてその治療に大きく貢献しているが、様々な有害事象が存在する。MTX投与中に発生する悪性リンパ腫は1991年に初めて報告されて以来、MTX関連リンパ増殖症(MTX-LPD)として、近年本邦でも数多く報告されている。MTX中止により腫瘍が自然縮小するという特異な臨床像から、免疫抑制状態がリンパ腫の発生に関係すると推察されているが、その病態は明らかにされていない。免疫抑制剤や免疫抑制を起こしうる生物学的製剤の普及により、今後遭遇する機会が増加すると予測される。今回、腋窩リンパ節腫脹を呈し、乳癌腋窩リンパ節転移と鑑別を要したMTX-LPDの 1 例を経験したため、文献的考察を加えて報告する。症例は53歳女性、関節リウマチに対して15年前からMTXを内服していた。 1 週間前より右腋窩腫瘤を自覚、前医で乳癌を疑われ、当科紹介受診となった。マンモグラフィーは両側カテゴリー 1 、エコーで右腋窩に最大径57mmの悪性を疑うリンパ節を複数認めた。針生検の結果、病理所見はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり、MTXを内服していた背景から、MTX-LPDの診断となった。血液内科にコンサルトの上、MTX内服を中止し、 2 週間後に再度エコーを施行した。右腋窩リンパ節は36mmと縮小傾向を認めたため、現在は化学療法を導入せずに経過観察の方針としている。

K-5 慢性リンパ性白血病の乳房内浸潤を認めた一例

長岡赤十字病院 外科

遠藤麻巳子、島影 尚弘

【始めに】慢性リンパ性白血病(以下CLL)の乳房内浸潤を認めた 1 例を経験した.【症例】76歳女性.X- 7 年の検診で白血球数増加が指摘され,当院血液内科を受診し,精査の結果CLLと診断された.無症状で臓器障害も認めないことから,経過観察の方針となった.しかし,徐々に白血球数が増加し,CT検査でリンパ節腫大を認めたため,化学療法の導入が検討されていた.既往歴や,家族歴に特記事項は認めなかった.X年,市のマンモグラフィ検診で右乳房にC- 3 のFADを指摘され,二次精検目的に当科を受診した.視触診では右AC領域に硬結を触知した.マンモグラフィ検査では両側C- 1 .乳房超音波検査では硬結部位に一致して,右C領域に約22mm大の地図上の低エコー領域を認め,DCISを疑った.両側腋窩にはリンパ門の保たれている扁平で約40mm大のリンパ節を認めた.針生検の結果,癌は認めず,検体中に強いリンパ球浸潤を認め,CLLの浸潤と診断された.臓器浸潤を認めたことから,当院血液内科にて,化学療法開始の方針となり,現在治療中である.【結語】CLLの臓器浸潤は稀と言われている.本邦において,CLLの消化器浸潤例の報告はわずかに認めたが,乳房浸潤例の報告はなかった.画像上判別がつきづらく,特異的なものはない.病理組織診断をつける上で針生検は有用であったと考える.CLLの乳房内浸潤を認めた稀な症例を経験したので,文献的な考察を加えて報告する.

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L-1 乳腺腺様嚢胞癌の1例

1群馬大学 医学部 外科診療センター、2狩野外科医院、3群馬大学 病理診断科

西木瑛理子1、徳田 尚子1、中澤 祐子1、黒住  献1、尾林紗弥香1、矢島 玲奈1、狩野 貴之2、白倉 貴洋3、横尾 英明3、小山 徹也3、藤井 孝明1

【症例】38歳女性【現病歴】乳房超音波検査を用いた乳癌検診で左乳房腫瘤を指摘され、精査加療目的に当科紹介となった。【所見】視触診、マンモグラフィーでは異常所見は指摘できず、超音波検査で左D区域に8.5mm×5.4mm大の不整形低エコー腫瘤を認めた。MRIでは左D区域に9 mm×14mm大の不整形の早期濃染結節を認めた。針生検では腺上皮細胞と筋上皮細胞からなる二相性の分化を示す腫瘍であり、腺様嚢胞癌が疑われた。【治療経過】左乳房部分切除術、センチネルリンパ節生検を施行した。病理所見では、腫瘍細胞が篩状、腺管状、充実性胞巣状構造を形成しており、CK 7 、c-kit陽性の腺上皮細胞と偽腺腔周囲に存在するp63、SMA陽性の基底・筋上皮細胞を認め、腺様嚢胞癌と診断した。ER弱陽性、PgR弱陽性、HER 2 陰性であった。術後照射を施行し、ホルモン療法を継続し、術後 5 ヶ月現在無再発生存中である。【考察】乳腺の腺様嚢胞癌は、トリプルネガティブ乳癌であることが多いにも関わらず、一般的な浸潤性乳管癌に比べ予後良好とされている。今回、極めて稀なホルモン感受性陽性の乳腺腺様嚢胞癌の 1 例を経験したので、若干の文献学的考察を含めて報告する。

K-7 乳腺内に発生したメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患の一例

1東京医科歯科大学 乳腺外科、2東京医科歯科大学 放射線診断科、3東京医科歯科大学 病理診断科

小川あゆみ1、小田 剛史1、熊木 裕一1、細矢 徳子1、中川 剛士1、森  美央2、藤岡 友之2、大西威一郎3、植竹 宏之1

症例は63歳女性、慢性関節リウマチに対してメトトレキサート投与中、発熱、炎症反応上昇を認め精査となった。造影CTにて左乳腺腫瘤と複数の腹壁腫瘤を認め当科紹介となった。超音波で左A区域に楕円形・境界不明瞭な高エコー腫瘤を認め、乳房造影MRIでは同部位にslow persistent patternの増強効果のある、ring enhancementを呈する腫瘤を認めた。左乳腺腫瘤に対し針生検を、腹壁腫瘤に対し切除生検を施行し、組織学的検査ではいずれもメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(組織型はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)の診断となった。メトトレキサート中止後より左乳腺腫瘤、腹壁腫瘤のいずれも縮小傾向となり、6 か月後の超音波では左乳腺の病変は描出困難となった。メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患におけるリンパ腫の発生部位はリンパ節が半数、節外病変が半数とされている。節外病変の発生部位は様々で、消化管、皮膚、肺等が多いが、乳腺内に発生した報告は稀である。今回我々は、乳腺内に発生し、メトトレキサートの中止によって病変の縮小を確認できたメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患を経験したため、若干の文献的考察を加えて報告する。

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L-3 乳癌術後CA15-3上昇を認め, 乳癌再発との鑑別を要した強皮症の一例

1がん・感染症センター 都立駒込病院 外科(乳腺)、2がん・感染症センター 都立駒込病院 内科(膠原病)、3がん・感染症センター 都立駒込病院 内科(呼吸器)

大島 悠理1、大西  舞1、陳  鵬羽2、矢部早希子1、奈良美也子1、才田 千晶1、後藤 理紗1、岩本奈織子1、石場 俊之1、本田 卯月1

CA15- 3 は乳癌再発・転移のマーカーとされているが, 今回CA15- 3 上昇を契機として強皮症を背景とした間質性肺炎の診断に至った, 乳癌術後の一例を経験したので報告する. 症例は, 60歳代 女性. 17年前左乳癌に対し左乳房全摘、腋窩リンパ節郭清、組織拡張器挿入による再建を施行。化学療法を行った後、内分泌療法を計10年間行い、再発徴候なく, 終診となっていた。今回検診で胸部異常陰影を指摘され近医を受診。乳癌の再発が否定できないため、当院を再診したところ, 採血でCA15- 3 が40.3 U/ml上昇を認めた. 造影CTを施行したが肺野に間質陰影を認めるのみで, PET-CTでも明らかな集積はなく炎症性変化のみであった. 間質性肺炎が疑われたため当院呼吸器内科で精査を行ったところ, 採血で抗核抗体2560倍, CK上昇を認めた. 膠原病が背景にある可能性考えられ膠原病内科コンサルト. 抗Ku抗体上昇, CK上昇, 手指の皮膚硬化認めたことから強皮症, 筋炎重複の診断となり, 現在プレドニンおよびタクロリムスでの治療を継続している.本症例のように術後CA15- 3 上昇を認めた場合は乳癌の再発が最も疑われる. しかしながら, 画像所見で明らかな再発所見なく, 最終的に強皮症と筋炎の重複症候群を背景とした間質性肺炎の診断に至った一例を経験したので報告する.

L-2 Peutz-Jeghers症候群に若年乳癌が合併した一例

聖マリアンナ医科大学病院

酒巻 香織、本吉  愛、喜多島美奈、瀧下茉莉子、坂本 菜央、田雜 瑞穂、中野 万理、黒田 貴子、敦賀 智子、志茂  新、小島 康幸、川本 久紀、津川浩一郎

Peutz-Jeghers症候群(以下PJS)は,消化管の過誤腫性ポリポーシス,粘膜皮膚色素沈着と悪性腫瘍のリスク増加を特徴とし女性では乳癌を45~54%に発生すると言われている.今回PJSに若年乳癌が合併した症例を経験したのでここに報告する.症例:31歳女性,前医にてPJSと診断され2018年 4 月乳癌検診超音波検査で右E領域に 5 mm大の辺縁不整な腫瘤を指摘され,当院紹介となった.精査の結果,非浸潤性乳管癌cTisN 0 M 0 cStage 0 の診断となった.しかし若年での診断,PJSであることから他臓器癌を将来発症するかもしれないという不安で,治療の受容ができない状態であった.本人より治療前に遺伝カウンセリングの希望があり遺伝カウンセリングが行われた.その結果本人も治療を受容でき,同年 9 月,皮膚温存乳房切除術,センチネルリンパ節生検,T/E挿入術を行った.病理診断は浸潤性乳管癌、硬癌で浸潤径 5 mm,pT 1 aN 0 M 0 pStage 1 ,ER 0 %,PgR 0 %,HER 2 2 +(FISH0.50),MIB- 1 index10%であった.本人希望もあり化学療法は行わず現在無再発経過観察中である.考察:PJSはSTK11遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患である.女性患者の45~54%に乳癌が発症すると言われており, 乳癌発症リスクは40歳で 8 %,60歳で32%という報告もある.今回の症例も31歳と若年であるが乳癌を発症した.結語:PJSの31歳女性患者の乳癌治療を行ったため,文献的考察をふまえて報告する.

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L-5 乳癌温存療法後に発症したデスモイド型線維腫症の1例

1聖路加国際病院 乳腺外科、2聖路加国際病院 放射線科、3聖路加国際病院 病理診断科

笠原 里紗1、吉田  敦1、沼田亜希子1、松田 直子1、尹  玲花1、竹井 淳子1、林  直輝1、角田 博子2、伊豆 麻未3、鹿股 直樹3、鈴木 高祐3、山内 英子1

【はじめに】乳房デスモイド腫瘍は腹壁外デスモイドに分類され、乳腺腫瘍の0.2%と報告される稀な疾患である。今回、我々は乳癌温存療法術後にデスモイド型線維腫症を発症した 1 例を経験したので報告する。【症例】56歳女性。既往歴、家族歴なし。51歳時に左乳房下外側部乳癌に対し、左乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を施行した。病理結果は純型粘液癌、pT 1 cN 0 M 0 、StageI、断端陰性、ER陽性HER 2 陰性。術後は温存乳房照射を施行しタモキシフェンを内服中であった。術後 5 年目に施行した超音波検査で左乳房下内側部に34×28mmの圧排性に発育する内部不均質低エコー腫瘤が検出された。血管肉腫、紡錘細胞癌、デスモイド、葉状腫瘍などを考慮し、針生検を施行。結果、異型に乏しい紡錘形細胞の増生からなる病変で線維腫症が疑われたが、確定診断は困難で左乳腺腫瘍摘出術を施行した。膠原線維束を伴う紡錘形細胞からなる病変で、免疫組織化学的にはβ-catenin少数核陽性、AE 1 / 3 (-)、αSMA(+,一部)、desmin(-)、Ki67 3.2%でデスモイド型線維腫症と診断された。断端は陰性。術後タモキシフェンを再開し、再発なく経過している。【考察】デスモイド型線維腫症は、局所で増大し摘出術後に局所再発を来しやすいことが知られている。乳房デスモイド型線維腫症について文献的考察を踏まえて報告する。

L-4 乳癌との鑑別を要した結節性筋膜炎の1例

1前橋赤十字病院 乳腺内分泌外科、2マンモプラス竹尾クリニック、3前橋赤十字病院 病理診断科

池田 文広1、長岡 りん1、竹尾  健2、井出 宗則3

今回、乳癌との鑑別を要した乳房発生の結節性筋膜炎の 1 例を経験したので報告する。症例は52歳の女性。2014年 8 月に右乳房腫瘤に気づき近医を受診。穿刺吸引細胞診で悪性所見なく経過観察となっていた。2017年 6 月、腫瘤の増大傾向があり当科に紹介となった。腫瘤は右乳房AC領域にあり、大きさは2.0×2.0cm、弾性硬の限局性硬結。腋窩に触知するリンパ節はなかったが、硬結の直上にえくぼ徴候を認めた。マンモグラフィで右乳房に高濃度、多角形、境界不明瞭なカテゴリー 4 の腫瘤。超音波検査で乳腺境界線の断裂を伴わない内部エコーが低、均一な不整形腫瘤を認めた。乳房MRIでは明らかな胸壁や皮膚への浸潤を伴わない 2 cm大の辺縁不整な結節が見られた。針生検は小型紡錘形の核を有する腫瘍細胞が束状、錯綜状に増生するSpindle cell tumorの診断で、明らかな悪性所見はなかった。増大傾向があり臨床所見からも乳癌が否定できないため、全身麻酔下に乳腺部分切除術を施行した。組織学的には、免疫染色でS-100、CD68陽性の紡錘形細胞が少量介在し、一部の領域でSMAが陽性の結節性筋膜炎(Nodular fasciitis)の病理診断であった。結節性筋膜炎は主に皮下浅在筋膜より生ずる線維芽細胞性腫瘍様病変で、急速に発育して孤立性結節を形成するが自然消退する症例もある。手術適応については、経過と臨床所見を十分に検討すべき疾患と思われる。

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L-7 乳腺 Tubulolobular carcinoma の1例

1杏林会今井病院 外科、2栗山会飯田病院 病理診断科

星野 和男1、土屋 眞一2

浸潤性小葉癌の珍しい亜型とされているTubulolobular carcinomaの 1 例を経験したので報告する.症例は56歳女性, 検診の乳房US検査で右乳ABに 1 cm大の不整型な低エコー腫瘤を発見され, Category 4 の判定でcore needle biopsyを施行した. 組織診断は悪性, ER 90%+, PgR 5 %+, HER 2 1 +, NG 1 と診断された. CT, MRI検査では右乳AB内側辺縁に 1 cm大の限局性病変が描出された. 治療は右Bp+Axの乳癌根治手術を施行した. 摘出標本での病理診断は硬癌に酷似していたが, 癌巣を形成する癌細胞の中で, E-cadherinが小腺管を形成する管状癌には陽性で, 線状~孤立散在性に浸潤する癌細胞には陰性であることからtubulolobular carcinoma, n 0 /9, f, ly0, v0, NG 2 ,t:12x10mm, 十分なmargineを保って完全切除と最終診断した. 術後は良好に経過し, A.I.剤投与で 2 年 5 か月健存でfollow up中である. tubulolobular carcinomaは1977年Fisherによって浸潤性小葉癌の珍しい亜型として記載された乳癌で, 組織学的には小さな腺管とともにIndian file状を示す浸潤性小葉癌が, 乳管周囲にtargetoid patternを形成する点が特徴といわれている. 発生頻度が少ないことで稀な症例と考えられ若干の文献的考察を加え報告する.

L-6 エコーガイド下VABで診断した乳腺顆粒細胞腫の1例

1横浜新緑総合病院 外科・乳腺外科、2長津田レディースクリニック

大地 哲也1、太田 郁子1、井原 規公2

顆粒細胞腫(Granular cell tumor)は、Schwann細胞由来の稀な良性腫瘍で舌、皮膚、乳腺に好発する。乳腺顆粒細胞腫はSpiculaを伴う画像を呈する事が多く、乳癌との鑑別を要する。近年、充実性腫瘤に対する針組織生検(CNB)の一般化に伴い、CNBで正診に至ったとの報告が多くなってきた。今回、画像上乳癌を疑い、エコーガイド下の吸引式組織生検(VAB)で診断した乳腺顆粒細胞腫の一例を経験したので若干の文献的考察とともに報告する。【症例】47歳女性【経過】右乳房に腫瘤を触知し紹介医を受診。右上内に腫瘤を触知。MMGでカテゴリー 3 、乳腺エコーは腫瘍12mmでカテゴリー 4 、MRIはBI-RADS 4 B。悪性を疑い12G針でエコーガイド下VABを行ったところ顆粒細胞腫との診断で治療目的に紹介となった。【治療】悪性の可能性は低く、局所麻酔下に腫瘍摘出術を行った。【病理】好酸性細顆粒状胞体を持つ細胞の造成を認め、免疫染色でS-100 protein陽性で乳腺顆粒細胞腫と診断した。【結語】画像上悪性を疑ったがVABによる診断が有用で、過大な切除を回避することが可能だった乳腺顆粒細胞腫の 1 例を経験したので報告した。

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M-2 治療拒否で対応に苦慮し、後に発達障害と判明した乳癌の一例

1平和病院、2井上記念病院、3ちば県民保健予防財団、4川上診療所

藤咲  薫1,2,3,4、増田 益功1、高橋  修1、椎名 伸充2、橋本 秀行3、横溝 十誠4、宮尾 陽一4、川上 義弘4

【背景】一般的には乳癌と診断された患者は、治療に対して積極的であることが多いと思われる。しかし中には治療に対して非協力的な患者もいて、時に難渋することを経験する。今回発達障害が原因であった症例を経験したので報告する。【症例】44歳女性。左乳房にしこりを自覚し来院。左CD領域に1.5cm大の腫瘤を認め、針生検で浸潤性乳管癌の診断であった。他の専門病院での手術を勧め紹介したが、二年間放置し皮膚浸潤するまで進行した状態で当院再受診。引き続き他院での治療を勧めるも受診せず、鎮痛薬の処方のため受診していた。次第に腫瘍から出血するようになり、Hbが4.5になって輸血を行い、出血コントロール目的に手術を受けることを了承された。手術はBt+Axを行ったが、腋窩リンパ節は高度に腫大・浸潤していたため取りきることはできなかった。術後は放射線治療や内分泌療法、化学療法を提示したが同意されず、気分の落ち込みが強く不眠を認め、うつ状態と判断し精神科にコンサルトしたところ自閉症スペクトラムと診断された。【まとめ】最近は発達障害が一般的にも認知されてきていると思われるが、本症例のように診断が下されぬまま大人になり、社会の中でうまくいかず発達障害と診断される機会も増えていると聞く。本症例では疾患に対する理解力が乏しい点があり、発達障害を鑑別診断に挙げるべきであった。さらに若干の文献的考察を加えて報告する。

M-1 局所出血により重症貧血、重症心不全に至り出血コントロール目的に 乳房切除に至った局所進行乳癌の1例

1NCGM 国立国際医療研究センター病院 外科、2NCGM 国立国際医療研究センター病院 乳腺外科、3NCGM 国立国際医療研究センター病院 乳腺腫瘍内科、

4NCGM 国立国際医療研究センター病院 病理検査部門

住谷 隆輔1、多田敬一郎2、瀬尾 卓司3、石橋 祐子2、中山可南子2、清水千佳子3、猪狩  亨4、秋山  太4

(はじめに)局所進行乳癌からの出血コントロールに難渋することはしばしば経験するが、oncologic emergencyに至り緊急手術となることは極めて稀である。局所出血により重症貧血、重症心不全に至り、輸血による貧血改善に至らず緊急手術となった 1 例を経験したので報告する。 (症例)45歳女性。 7 年前に右乳房腫瘤を自覚し、近医で浸潤性乳管癌の診断となった。手術の方針となるも、本人の意向で放置していた。 5 ヶ月前頃より倦怠感出現し、某日に自宅で転倒、体動困難で救急要請し、当院に搬送された。来院時潰瘍を伴った右乳房腫瘤の他、Hb2.1の重症貧血、 EF 20%の重症心不全を認め入院となった。入院後、連日輸血を行うも止血に難渋し、 1 日200ml程度の出血が持続した。全身精査の結果、明らかなリンパ節転移、遠隔転移はなく、胸壁固定も疑われなかった。出血コントロール目的に右乳房切除術を実施した。術後経過は良好で17PODで自宅退院となった。切除断端陽性であったため、今後追加切除を検討している。 (考察)局所進行癌における局所治療は一定の見解はなく、化学療法もしくは放射線療法が実施されることが多い。しかし症例により局所コントロール目的に外科的切除も検討される。本症例のように局所出血によりoncologic emergencyとなった場合、積極的に手術による原発巣切除を検討するべきである。

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M-4 潰瘍や滲出を伴う乳癌に対する乳癌消臭パッドの有効性・ 安全性評価(APOLLO試験:中間解析)

1がん・感染症センター都立駒込病院 外科(乳腺)、2花王株式会社感覚科学研究所、3がん・感染症センター都立駒込病院 看護部、4順天堂大学医学部附属練馬病院 看護部、

5順天堂大学医学部附属練馬病院 がん治療センター、6社会医療法人石川記念会 HITO病院 乳腺外科、7順天堂大学医学部附属練馬病院 乳腺外科

石場 俊之1、石田 浩彦2、井上 道晶2、田添 由起2、酒井 真美2、矢部早希子1、奈良美也子1、才田 千晶1、大西  舞1、後藤 理紗1、岩本奈織子1、本田 弥生1、宮本 博美1、影山 実子3、

砂田由梨香3、貴田 寛子4、名取 由貴5、小坂泰二郎6、清水 秀穂6、有賀 智之1

【背景】日常診療において皮膚に浸潤した乳癌をしばしば経験する.私たちは新規の消臭機能を持つ局所進行癌処置用パッド(試験パッド)の装着試験(APOLLO試験: the efficiency and safety of the deodorAnt Pad against Odor and uLceration for LOcal advanced breast cancer)を実施している.(UMIN000036906)【方法】A試験では従来使用していた創部の被覆材(従来パッド)と試験パッドを比較使用し,短期使用における有用性の確認や改善点の発掘を,B試験では試験パッドを 1 ヶ月使用し長期使用における安全性の確認を目的とした.対象は2019年 3 月より当院治療中の皮膚浸潤のある進行乳癌または皮膚転移乳癌患者20例.試験パッドは、順天堂大学医学部附属練馬病院と花王株式会社とで開発され,消臭成分は,主要な 5 成分を同定し,化学的消臭剤と物理的消臭剤を組み合わせた.【結果】現在症例登録中でA試験は12例,B試験は 8 例終了した.A試験では、パッド滲出量の多いグループでは,試験パッドで満足度が高い傾向であった.滲出量の少ないグループでは,パッドが大きいとの意見があった.B試験では有害事象はなかった.全例で試験参加前の臨床経過中に患部の処置について医療者からの指導がなく,日常診療を反省するとともに処置のニーズの高さが示唆された.【結論】潰瘍や滲出を伴う乳癌に対して実用化を目標とした臨床試験を官民協力で実施中である.さらに多施設共同研究も計画中である.

M-3 抗癌剤治療を拒否した転移乳癌患者に対して、継続的な看護支援を実施できた1例

1東京医療センター 看護部、2東京医療センター乳腺科

笹岡 綾子1、松井  哲2、木下 貴之2、笹原真奈美2、市村 佳子2、岩田 侑子2

【目的】転移・再発した乳癌患者への支援を振り返ることで、積極的な治療を回避した時点から在宅療養に至るまでに、患者・家族の抱える問題点を明確にする。【事例】A氏、50歳代女性、既婚。両親は近隣在住。乳癌を発症し、NACと根治術を施行。術後 3 年で骨転移、その後に肝転移を来した状態。転移が診断されて以降、内分泌療法を継続していた。全ての内分泌療法が無効となり、化学療法による治療継続か治療中止が提示され、治療中止を選択した。【看護の実際】治療中止の決断後に、患者・夫の意向の確認をするため複数回面談を実施した。出来る限り自宅で過ごし、最後はホスピスという希望があり、介護保険やホスピスの情報提供を行った。徐々に体調が悪化し黄疸出現時に、患者と父親が肝転移の局所療法や化学療法の可否に関して面談を希望した。父親は、癌治療の可能性を求める姿勢がみられ、患者は「先に死ぬのが申し訳ない」と発言した。父親も同席し、癌治療を行わない患者の希望を再確認し、患者と家族皆での話し合いを促し、父親も納得した。その後、呼吸苦が出現し一時的に入院となったが、最終的に家族の協力のもと在宅療養へ移り自宅での看取りとなった。【結論】終末期患者の希望は、家族の意向や療養環境で揺らぐことがある。看護師は、患者自身の希望や家族のそれぞれの思いを考慮しながら、患者・家族にとって最善の選択・意思決定ができるように支援することが大切である。

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M-6 地域連携から見えてきたもの

長岡赤十字病院 外科

島影 尚弘、遠藤麻巳子

長岡赤十字病院では、2012年より‘がん拠点連携病院’の役割の 1 つとして地域連携を開始している。そこで当科が推し進めてきた乳がん地域連携の、2012年から2018年までの推移を検討してみた。当初は全症例を連携の対象にすべく開始した。現在では手術症例の 9 割近くが連携に組み込まれ、連携が出来ない患者、または逸脱症例は減少してきている。連携当初は、DCISでの全摘例や高齢者・施設の入居者や精神疾患を患っている患者をどのようにするかが問題となった。また、手続き上の問題で連携が出来ない症例も認められた。連携逸脱例では、転居による通院困難症例や、再発により当院で治療継続が必要な患者、他疾患の併発例も含まれてはいるが、是正を必要とする症例も多く認めている。治験移行例は致し方ないにしても、連携先の変更で連携に入れないケースも多くなってきている。また、再発ハイリスク患者で、周術期治療終了後の検査にて早々に再発しているような患者も散見される。今後の問題点は、再発ハイリスク症例に対し、どの時点で連携を開始すべきなのか。または経過観察時の再発患者に対し、連携が不利益になっていないか。そして連携医への依頼内容の検討と、患者自身への教育の検討が必要と思われる。

M-5 在宅の認知症を患う超高齢乳癌患者に対しICTを活用した術前評価により 手術を行なった1例

1JCHO 東京山手メディカルセンター 外科、2JCHO 東京山手メディカルセンター 病理診断科、3医療法人財団新生会 百人町診療所

橋本 政典1、日下生玄一3、増田 晃一1、伊地知正賢1、日下 浩二1、久保田啓介1、柴崎 正幸1、阿部 佳子2

【はじめに】高齢化社会が進み、在宅医療においても悪性疾患が増えている。乳癌は在宅でも治療可能な状態で発見されることが多いが、しばしば高齢、認知症、低いADL、本人の拒否などから診断のための複数回の通院が難しい。新宿区医師会ではICTによる医療連携システム「新宿きんと雲」(以下、VL)を導入し、医療機関や介護施設、薬局間で主に在宅医療患者に関する情報共有を行なっている。今回在宅医が乳癌を疑いVLによる情報共有を行い切除し得た超高齢乳癌患者の 1 例を経験した。【症例】99歳女性。アルツハイマー型認知症を患う。訪問看護師が右乳房に腫瘤があるのに気づきVLで報告を受けた在宅医が診察をし写真を含む視触診所見をVLにuplaodして当院にコンサルトした。写真では右乳房上外側部に仰臥位で皮膚が隆起し、しこりをつまむとslight dimpleを伴う様子がわかり乳癌を疑う所見であった。外来受診時局所麻酔による乳房部分切除で根治可能な乳癌と判断した。入院して手術を行い退院後は在宅で訪問看護師による観察と在宅医の診察により問題なく経過した。在宅医によると相談したい乳房トラブルは時々あるが病院受診を希望しないため困っているという意見もあり現在ではVLに乳腺疾患相談窓口を設けて対応している。VLはセキュアで簡便な情報交換を実現する。VLでの医療情報交換の実際を紹介する。

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N-2 扁平上皮化生を伴う乳腺悪性腺筋上皮腫の1例

1済生会横浜市南部病院 外科、2済生会横浜市南部病院 病理診断科

和田 朋子1、稲荷  均1、角田  翔1、高橋有佳里1、森  佳織1、木下 颯花1、菅江 貞亨1、村上あゆみ2、中山  崇2、福島 忠男1

症例は50歳女性。左乳房腫瘤を主訴に当院を受診した。マンモグラフィで左U/Oに微細鋸歯状な高濃度腫瘤を認めた。超音波検査で一部に嚢胞を有する42mm×40mm大の充実性混合性腫瘤を、MRIで辺縁が早期濃染する腫瘤が指摘された。穿刺吸引針生検の病理組織学的診断では、乳管上皮と筋上皮の二相性の保たれた乳管が小型腺管を形成して増殖しており、乳腺症もしくは腺筋上皮腫を含めた腫瘍性病変が考えられた。腫瘍の画像所見から、悪性腫瘍である可能性が否定できず、腫瘍摘出術を行った。摘出検体の病理組織学的診断で、生検時に認めた組織像に加えて、拡張した乳管内へ二相性を欠いて増殖する乳管上皮細胞と、扁平上皮化生をした筋上皮細胞が周囲脂肪組織へ浸潤性に増殖する組織像を認め、悪性腺筋上皮腫と診断した。切除後、術後補助化学療法を行い、 8 か月現在、無再発生存中である。

N-1 乳腺Metaplastic carcinomaと診断された男性乳癌の1例

1筑波大学附属病院 乳腺甲状腺内分泌外科、2筑波大学医学医療系 乳腺内分泌外科学、3筑波大学附属病院 病理部

坪井 宥璃1、岡崎  舞1、高野絵美梨1、一戸 怜子1、佐々木憲人1、佐藤 璃子1、藤原 彩織1、河村千登星1、朝田 理央1、市岡恵美香2、都島由希子2、井口 研子2、坂東 裕子2、原  尚人2、

近藤  譲3

【はじめに】男性乳癌は全乳癌の 1 %以下であり、比較的稀な疾患である。また、乳癌の特殊型である化生癌(Metaplastic carcinoma)も全乳癌の 1 %未満と報告され、男性の化生癌の報告は極めて少なく、本邦での報告はない。今回我々は化生癌と診断された男性乳癌の一例を経験したため報告する。【症例】73歳男性。30代の頃より右乳房腫瘤を自覚していた。 3 ヶ月前より腫瘤が増大したため当科受診した。右乳頭直下に約 3 cmの腫瘤を触知し、超音波検査で右乳頭直下に 長 径28.6mm の 楕 円 形 で 境 界 明 瞭 平 滑 な 充 実 性 腫 瘤 を 認 め た。 針 生 検 を 施 行 し、Myoepitheliomaの悪性転化を疑われたため右乳房切除術を施行した。画像上リンパ節腫大は認めず、Myoepithelial carcinomaの腋窩リンパ節転移の頻度は低いという報告もあり、センチネル リ ン パ 節 生 検 は 省 略 し た。 手 術 の 病 理 組 織 診 断 で は、 軟 骨 化 生 を 伴 う Metaplastic carcinoma(ER-,PgR-,HER 2 score0,pT 2 NXStageII)、女性化乳房症と診断された。術後補助療法として化学療法および放射線療法を推奨したが本人が希望せず、術後 6 ヶ月となる現在も再発兆候を認めず経過観察中である。【結語】化生癌と診断された男性乳癌の一例を経験した。男性乳癌および化生癌はいずれも稀な疾患であり、今後もさらなる症例の集積が必要である。

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N-4 術前化学療法が奏功した基質産生癌の一例

1横浜労災病院 乳腺外科、2横浜労災病院 病理診断科、3南山田クリニック

木村 安希1、門倉 俊明1、竹内 英樹1、原田  郁1、奥村  輝1,3、長谷川直樹2、角田 幸雄2、千島 隆司1

【症例】48歳, 女性.【主訴】右乳房腫瘤.【現病歴】受診 1 年前から右乳房腫瘤を自覚していた.エコーにて右C領域に 3 cmの腫瘤を認め,針生検で浸潤性乳管癌(IDC), ER: 0 %, PgR: 0 %, HER 2陰 性 , Ki67:50%, TNBC の 診 断 で 当 院 紹 介 受 診 と な っ た .【 臨 床 経 過 】 右 C 領 域11時 方向,NT= 4 cm,3cm大の腫瘤を触知し,MRIでは3.7cmのリング状造影効果を認めた.前医の検体を再鏡検したところ,軟骨性基質を背景に紡錘細胞を介さずに腫瘍細胞が癒合腺管を形成する所見を認め,基質産生癌(MPC: Matrix-producing carcinoma)と診断した.また,MRIで右B領域にも0.8cmの均一な造影効果を呈する腫瘤を認め,針生検でIDC, ER:88.37%,PgR:65.22%, HER 2 陰性, Ki67:6.88%, Luminal Aの診断であった.遠隔転移は認めなかった.右多発乳癌cT 2 N 0 M 0 = Stage IIAの診断で,術前化学療法としてEC 4 コース+wPTX12コースを施行した.化学療法終了後の画像診断はcPRであった.手術は右皮膚温存乳房切除+SNB( 0 / 1 )+DIEP再建術を施行した.術後病理結果では,MPCは浸潤部が0.1cm残るのみで治療効果判定はGrade 2 b,IDCは浸潤部が0.7cm残存しており治療効果判定はGrade 1 aであった.術後は内分泌療法としてタモキシフェンを内服している.【考察】MPCは癌腫上皮成分と骨・軟膏基質からなる比較的稀な乳癌である.そのほとんどはTNBCであるが術前化学療法に関した報告は少ない.MPCに対する術前化学療法が奏功した 1 例を経験したため文献的考察を加えて報告する.

N-3 乳腺原発純粋型扁平上皮癌の2例

1聖ヶ丘病院、2複十字病院乳腺疾患センター、3大口東総合病院 外科

米戸 敏彦1、武田 泰隆2、高橋 睦長3

乳腺原発扁平上皮癌は比較的稀な疾患である。その分類については一部に腺癌成分を認める混合型と認めない純粋型に分けられるが本症例は 2 例とも純粋型であった。症例 1 は44歳女性、主訴は左C領域の腫瘤である。超音波検査にて同部位に10x11x 9 mm大の低エコー域を認め、内部に血流を認め悪性疾患が示唆された。病理組織所見では組織的には角化が目立つ高分化の扁平上皮癌であり、周囲の炎症細胞浸潤と壊死および線維化が目立った。また症例 2 は58歳女性、主訴は左乳腺C/D領域の腫瘤であった。超音波検査にて同部位に18x31x24mm大の一部石灰化を含む辺縁部に高エコー帯を伴った低エコー域を認め、内部に血流を認め悪性疾患が強く示唆された。病理組織所見では角化の目立つ扁平上皮癌が浸潤性増生していた。表皮との連続性はなく病巣辺縁部で異型乳管上皮と移行する部分(異型化生)があり乳腺原発として矛盾しなかった。ともにStage 2 Aの乳癌原発扁平上皮癌の症例であり、症例 2 は術後 4 年の現在再発の兆候は認めていないが、症例 1 は転居のため術後 2 年よりは再発の有無は不明である。

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N-6 乳腺基質産生癌の2例

1結核予防会 複十字病院 乳腺科、2北里大学北里研究所病院

生魚 史子1、武田 泰隆1、小柳 尚子1、前田 一郎2

【はじめに】基質産生乳癌(Matrix-producing carcinoma,MPC)は、特殊型の乳癌であり発生頻度は乳癌全体の約0.05%と極めて稀である。その多くがTriple negative(TN)乳癌であり、通常の乳癌と比較し悪性度が高いといわれている。今回我々はMPCを 2 例経験したので報告する。【症例 1 】78歳 右AC領域腫瘤を主訴に来院。MRIにて腫瘤辺縁部が不均一リング状に高信号を示し、針生検の結果、IDCとMPCが混在との診断で Bt+SNBを施行した。最終病理結果はMPC,10× 6 mm ly 0 v 0 NG 1 TN Ki67 5 -10% だった。【症例 2 】57歳 左C領域腫瘤を主訴に来院。MRIにて腫瘤辺縁がリング状に高信号を示し、針生検の結果、IDCの診断でBp+SNBを施行した。最終病理結果はMPC,10×10mm ly 0 v 0 NG 2 TN Ki67 60-70% であった。いずれも腋窩リンパ節転移は認めずpT 1 N 0 M 0 Stage 1 であった。術後、症例 1 は高齢なため経過観察のみとし、症例 2 は局所へ50Gy放射線照射後、UFTの内服を開始しており、術後 9 ヵ月経過した現在再発は認めていない。【考察】MPCは稀であり予後や術後補助療法について議論を残すところもあり、本邦報告例の文献的考察を含め報告する。

N-5 基質産生癌の1例

公立福生病院 外科

瀬沼 幸司

【症例】60歳代, 女性.【主訴】左乳腺腫瘤.【既往歴】HT 内服. HL 内服. 虚血性心疾患の疑い. 頸椎症・腰椎症 手術.【家族歴】乳癌(-), 卵巣癌(-).【現病歴】2018年 9 月頃より左乳腺腫瘤を自覚し, 当院受診. 触診で15mm大腫瘤を左A領域に触知. MMGで左C-4, USで左A領域に12.1×14.6mm大の低エコー腫瘤認め, MRIで左A領域に15mm大の早期濃染腫瘤を認めた. 針生検で基質産生癌, ER(-), PgR(-), HER 2 0, Ki-67 60%, Alcian-blue(+), vimentin(+/-), S-100(+). 術前検索でT 1 N 0 M 0 stage 1 の診断.【手術】2018年11月左Bp+SNB施行. 【病理組織学検査】基質産生癌, NG3, ly0, v0, 18×13×13mm, margin:negative, n 0 ( 0 / 1 ), ER0, PgR0, HER 2 0, Ki-67 80%, stage 1 の診断. 【術後治療】DOC(75)× 4 施行. 残存乳房にRT50Gy施行. 現在再発兆候なく, 経過観察中. 基質産生癌は, 乳癌取り扱い規約では, 特殊型に分類され, 頻度は全乳癌の0.03から0.2%とまれな腫瘍である. 今回基質産生癌の 1 例を経験したので文献的考察を加え報告する.

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O-1 両側とも広範囲に乳管内病変を認める同時性両側乳癌の1例

1横浜市南部病院 外科、2横浜市南部病院 呼吸器外科、3横浜市南部病院 病理診断科

稲荷  均1、和田 朋子1、角田  翔1、森  佳織1、木下 颯花1、高橋有佳里2、村上あゆみ3、中山  崇3、福島 忠男1

両側乳腺とも広範囲に乳管内病変を認め、マンモグラフィでは病変の同定が困難であった同時両側乳癌の 1 例を経験したので報告する。症例は60歳代女性。マンモグラフィ検診で、一次読影では、右乳腺にFADの指摘あるも、二次読影では両側乳腺とも正常の判定であった。しかしながら一次読影の結果から、精査依頼で検診施設から当科へ紹介受診となった。触診では、両側乳腺に所見はなかった。乳腺超音波検査では、右乳腺は乳頭直下から外側にかけて、不整型な低エコー腫瘤を複数認め、左乳腺は、乳頭直下から内上方向にかけて、不整型低エコー腫瘤を複数認めた。造影MRI検査では、両側乳腺とも、早期濃染する造影結節を乳腺全体に複数認めた。そのうち、右乳腺乳頭直下の低エコー域、左乳腺乳頭直下の低エコー域に対し針生検を施行し、右非浸潤性乳管癌、左浸潤性乳管癌と診断した。両側乳房切除センチネルリンパ節生検を施行、両側ともMRIでの拡がり評価同様に、乳腺全体に広がりをもつ非浸潤性乳管癌(乳管内病変の形態:篩状、充実、乳頭)であった。文献的考察を加え報告する。

N-7 腫瘍栓による急性下肢動脈閉塞症を来した骨・軟骨化生を伴う乳癌肺転移の一例

1帝京大学医学部 外科、2帝京大学医学部 病理診断科

佐藤 綾奈1、松本  暁子1、山田 美紀1、梅本 靖子1、塚原 大裕1、笹島ゆう子2、神野 浩光1

症例は72歳女性。骨・軟骨化生を伴う右乳癌(cT 1 N 0 M 0  stage 1 、トリプルネガティブタイプ)に対して、術前化学療法としてNab-PTX 1 コース、FEC 1 コース施行したがPDの判定のため右胸筋温存乳房全切除術、センチネルリンパ節生検を施行した。病理診断では、浸潤径2.1cm、核グレード 3 、脈管侵襲およびセンチネルリンパ節転移は認めなかった。術後補助療法として胸壁照射とカペシタビン 8 コースを施行した。術後22か月で両側肺結節が出現し、肺部分切除術を施行したところ、骨・軟骨化生を伴う乳癌の転移の診断となった。S- 1 による治療を開始するも肺転移巣は増大し、二次治療としてエリブリンを開始した。エリブリン 2 コース施行後に突然の左下肢の痺れ、疼痛が出現し、下肢超音波にて左膝窩動脈に塞栓を認めた。造影CTでは左膝窩動脈以遠の造影不良と左肺転移巣の左上肺静脈への浸潤、左房内進展を認め、腫瘍栓による急性下肢動脈閉塞症が考えられた。第 2 病日に腫瘍栓除去術を施行し、病理診断でも乳癌の腫瘍塞栓として矛盾しない結果であった。現在、術後リハビリ継続中で自覚症状の改善を認めている。今回我々は、骨・軟骨化生を伴う乳癌肺転移巣からの急性下肢動脈閉塞症という稀な症例を経験したため報告する。

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O-3 より匿名化されたDICOMデータによるマンモグラフィ指導用教材制作の試み

1国家公務員共済組合連合会 立川病院 乳腺外科、2服部外科胃腸科医院

服部 裕昭1、服部 昭夫2、服部 俊昭2

【背景】当施設ではマンモグラフィ読影の教育・指導を行うにあたり、診療用のマンモグラフィ読影ワークステーションを使用し、実臨床と同じ環境でトレーニングおよび模擬試験が出来るようにしてきた。しかし深く匿名化された画像データは年齢不詳となることがしばしばあった。【目的】今回我々はより実臨床に則したマンモグラフィ読影研修が出来るようにDICOMデータを使った教材を開発し、匿名化され年齢不詳となった画像データも架空の日付を入力し直すことで実臨床での読影と同様の表示することが出来るようにすることを目的とした。【方法】匿名化されたマンモグラフィの画像データのメタデータをさらに深く匿名化し、患者IDと氏名を特定の番号に入れ替えるだけでなく、架空の撮影日、架空の生年月日を入力することで、匿名化された後も年齢が正しく表示されるようにした。架空の日付に関しては、日付順でのソートが仕様目的に合うようにセッティングした。現在 1 セット100問の模擬試験を 7 セット700問まで制作し、当院のマンモグラフィ読影ワークステーションで使用、閲覧できるようになっている。【結果】診療用のマンモグラフィ読影専用ワークステーションとこのワークステーションで閲覧できる教材を組み合わせることによって、実臨床と同じ環境、同じ画質での指導や自己学習が出来るようになった。

O-2 男性嚢胞内乳癌の1例

帝京大学ちば総合医療センター 外科

粕谷 雅晴、高橋 理彦、宮澤 幸正

今回、男性嚢胞内乳癌の 1 例を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。【症例】63歳男性 【既往歴】B型肝炎【家族歴】姉:乳癌【内服薬】なしEPA/DHAサプリメント【臨床経過】疼痛を伴う左乳房腫瘤(E区域)を自覚し近医受診。精査目的に当院紹介。エコーにて左E区域に22.9×15.5×27.3mm大のcyst内に13.4×12.5mm大の充実性病変を認めた。このIntracystic tumorに対して細胞診施行し、Class IIIの診断。組織学的検索目的に局所麻酔下左乳房腫瘤摘出術を施行。病理診断結果は invasive ductal carcinoma with intracystic carcinoma の診断。pT 1 b, pN0, Ly0, V0, g. Histological grade I. ER(+), PgR(+), HER 2 (-), Ki67 約10%その後追加の左乳房全切除とセンチネルリンパ節生検を施行し、センチネルリンパ節転移は陰性であった。術後経過は良好であり、術後内分泌治療としてタモキシフェンを開始した。

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O-5 乳癌骨転移スクリーニングの全身MRI(DWIBS法)で骨転移以外の病変が発見された2例

1千葉中央メディカルセンター 外科、2千葉中央メディカルセンター 放射線科

松田 充宏1、松葉 芳郎1、林  敏彦2、齋藤 広美2

【はじめに】我々は、乳癌の骨転移のスクリーニングに全身MRI、Diffusion weighted Whole body Imaging with Background body signal Suppression法(以下、DWIBS法)を用いているが、骨転移以外の病変が発見された 2 例を経験したので報告する。【症例 1 】70代女性。右乳癌に対し、右乳房全切除・センチネルリンパ節生検を施行。術後診断は、浸潤性乳管癌 T 2 N 0 M 0 StageIIA、ER 3 b、PgR 3 b、HER 2 score 0 、Ki-67 10%で、術後内分泌療法を施行。術後1 年の超音波検査で異常を認めなかったが、全身MRI(DWIBS法)で、右前胸壁に拡散制御を認めた。超音波再検査で皮下に局所再発を認め切除した。腫瘍径は 6 mmであった。【症例 2 】30代女性。右乳癌に対し、右乳房部分切除術・センチネルリンパ節生検を施行。術後診断は、粘液癌 T 1 cN 0 M 0 StageI、ER 3 b、PgR 3 b、HER 2 score 1 、Ki-67<10% で、術後内分泌療法・放射線照射を施行。術前の全身MRI(DWIBS法)で、後頭蓋窩に拡散制御を認めた。頭部MRIで脳質外から小脳と脳幹部を圧迫する境界明瞭な腫瘤を認め、髄膜腫と診断された。【考察】全身MRI(DWIBS法)は、被曝がなく非造影検査で、比較的短時間の撮影が繰り返し施行できる。骨以外の異常の描出も可能であるが、自験例も目的外の病変が発見された。示唆に富む症例であったので、若干の文献的考察を加えて報告する。

O-4 術前診断でカラードプラ超音波検査が有用であった乳房Pagetoidの1例

1TMG 新座志木中央総合病院 臨床検査科、2TMG 新座志木中央総合病院 乳腺内分泌外科、3甲賀病院 乳腺外科

串田なつき1、緒方 久江1、首藤のぞみ1、清水 則明1、長嶋  隆2、金澤 真作3、神森  眞2

【はじめに】乳房Paget病は乳癌細胞が乳頭もしくは乳輪の表皮内に進展したもので、浸潤性腫瘤を認めないPaget型と浸潤性腫瘤を形成するPagetoid型に大別される。乳頭や乳輪にびらんを生じることによって発見されるが、乳頭皮膚に発症する湿疹性皮膚炎と見間違えることがある。超音波検査では、カラードプラ超音波検査による血流測定が鑑別に有用であるとの報告があり、今回カラードプラ血流測定にて診断し得た乳房Pagetoidの 1 例を経験したので報告する。【症例】78歳の女性。約 2 年前より左乳頭に湿疹を認めた。2019年春に左乳頭のびらんと左CD領域の乳腺腫瘤を主訴に受診。マンモグラフィで左CD領域にCategory 3 の腫瘤性病変を認めた。超音波検査では左CD領域に1.4×1.2×1.3cm大のhypoechoic massと左乳頭と連続する乳管拡張病変が存在し、左乳頭部のカラードプラでは正常な右乳頭と比較して明らかな血流増加を認めた。左乳房Pagetoidと診断され、左乳房切除, 左センチネルリンパ節生検を施行。病理組織結果は、Paget病とinvasive ductal carcinomaでありER score 0, PgR score 0, HER 2 score 0, Ki67 70%であった。術後、経過は順調で現状では再発転移を認めていない。Paget病の診断には、擦過細胞診や皮膚生検、造影Mammo MRIが有用とされている。カラードプラ超音波検査は、Paget病診断の補助診断法として有用であると考えられる。

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P-1 乳腺原発myxomaの1例

1東京女子医科大学東医療センター 乳腺診療部、2東京女子医科大学東医療センター 病理診断科

横山 智穂1、湯川 寛子1、小倉  薫1、小寺 麻加1、松岡  綾1、田中菜津子1、服部 晃典1、上村 万里1、河村 俊治2、増永 敦子2、平野  明1、黒住 昌史1

【はじめに】myxomaは心臓や軟部組織に好発する間葉系腫瘍であり、乳腺原発例は極めて稀である。今回、われわれは乳腺に発生したmyxomaの 1 例を経験したので報告する。【症例】60歳代、女性、右乳房腫瘤を自覚し、当院初診となった。超音波検査では右CD領域に28mm大の境界明瞭、低エコーの腫瘤を認めた。針生検ではfibroadenomaの診断であり、 6 か月ごとの経過観察をしていた。 1 年後のマンモグラフィと超音波検査では腫瘤は明らかに増大しており、大きさは38mmになり、内部に点状高エコーを伴っていた。MRIでは同部位に45mm大のT 2 強調画像で著明な高信号~軽度高信号を示す腫瘤を認めた。増大傾向があり、phyllodes tumorの可能性も考えられたため、全身麻酔下に腫瘍摘出術を施行した。摘出標本の組織学的検索では、腫瘍は乳腺組織内に局在し、腫瘍に接してfibroadenoma様の部分が認められた。腫瘍の境界は比較的明瞭であり、内部に好酸性の粘液様基質が充満しており、長卵形の核を有し、細長い線状の細胞質を有する無数の紡錘形細胞が散在性に認められた。紡錘形細胞はvimentin陽性、SMA陽性、cytokeratin陰性であり、間葉系の腫瘍であるmyxomaと診断した。fibroadenoma様の領域にもmyxoidな部分があり、腫瘍組織に移行していた。断端は陰性であり、再発はなく、経過観察中である。【まとめ】非常に稀な乳腺に発生したmyxomaの 1 例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

O-6 oncotype DX Breast DCIS Scoreの使用経験

千葉大学 臓器制御外科学

内藤  慶、榊原 淳太、寺中亮太郎、高田  護、藤本 浩司、三階 貴史、長嶋  健、大塚 将之

【はじめに】各臨床試験より乳房温存手術後の放射線照射によって局所再発が減少することが報告されている。このため2018年版乳癌診療ガイドラインでは「非浸潤性乳管癌に対して乳房温存手術後の放射線照射を行うことは標準治療である」と記載されている。その一方で臨床病理学的因子を用いて術後照射が省略可能な予後良好群を同定する試みもなされている。しかしながら、現状ではDCISに対して放射線療法を省略し得る群を適確に抽出するのは困難であるため実臨床では温存術後に放射線照射を施行することが多い。そこで客観的データーが算出される多遺伝子アッセイoncotype DXに着目した。一般的には同検査はER陽性HER 2 陰性乳癌に対する化学療法の見極めに用いられることが多く世界的に有用な検査であると認知されている。同検査には放射線療法の適応を判断するツールも存在する。実際の症例を提示する。【症例】60代女性、8 mm大のDCIS病巣に対し右Bp施行。病理結果はDCIS(Low grade)、 5 × 4 mm、ER陽性、切除断端陰性であった。放射線照射の適応を判断するために同検査を提出した。【結果】再発スコアは0 (低リスク群)、放射線照射をしない場合の10年後の局所再発率は 5 %、浸潤癌形式の局所再発率は 4 %であった。この結果を踏まえ放射線照射を回避した。【結語】検査結果は数値かつ視覚的に表現されるため患者の理解も深まり、医療者側にとっても放射線療法を判断する一助になると考えられた。

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P-3 急速な増大を認めた乳房間質肉腫に対して集学的治療を施行している一例

1筑波大学附属病院 乳腺甲状腺内分泌外科、2筑波大学医学医療系 乳腺甲状腺外科、3筑波大学附属病院 腫瘍内科、4国立病院機構霞ヶ浦センター 病理診断科

服部 友香1、坂東 裕子2、一戸 怜子1、佐々木憲人1、高野絵美梨1、佐藤 璃子1、河村千登星1、藤原 彩織1、朝田 理央1、岡崎  舞1、市岡恵美香2、都島由希子2、井口 研子2、関根 郁夫3、

近藤  譲4、原  尚人2

【症例】48歳女性【現病歴】 5 年前より右乳房腫瘤を自覚。 5 ヶ月前より腫瘤の急速な増大を自覚。 1 ヶ月前より右乳房の変形を認め、近医を受診した。右乳房上内側に15cm大の分葉形腫瘤を認め、直接浸潤はないが皮膚は軽度発赤、凸状の固定を認めた。針生検は腫瘤が硬く組織採取が困難であった。精査加療目的に当院を受診し、切開生検施行したところ肉腫などを考慮するものの確定診断は得られなかった。画像上明らかな遠隔転移は認めなかった。大胸筋への浸潤が疑われたため、大胸筋の一部合併切除を伴う右乳房全切除術を施行した。手術時間: 1 時間23分。出血量30ml。検体840g。術後病理組織診断では、Malignant spindle tumor, most likely stromal sarcoma(pT 3 N 0 M 0 G3, pStage IIIB)、切除断端陰性の診断となった。再発ハイリスク群であることから、腫瘍内科と協議の上、術後化学療法としてAI療法(アドリアマイシン+イホスファミド)を開始している。【考察】乳房肉腫は乳腺悪性腫瘍の 1 %未満で、全軟部肉腫の 5 %未満と非常に稀である。成人の軟部肉腫、特に乳房肉腫に対する術後化学療法の有用性に関しては一定の見解は得られていないが、Stage III以上、再発症例では予後が非常に悪いため、AI療法が推奨されている。本症例はハイリスク群で、術後AI療法を施行の方針となり、現在化学療法開始している。若干の文献的考察を加え報告する。

P-2 男性乳房に認めた粘液線維肉腫の一例

1国立がん研究センター 中央病院 乳腺外科、2国立がん研究センター 中央病院 病理診断科

中平  詩1、村田  健1、渡瀬智佳史1、神保健二郎1、岩本恵理子1、高山  伸1、吉田 正行2、首藤 昭彦1

粘液線維肉腫(myxofibrosarcoma)は1977年に提唱された概念であり、かつては粘液型悪性線維性組織球腫と呼ばれていた。中高年の四肢、特に下腿に好発し、体幹・頭頚部発生は稀である。 2 / 3 は真皮や皮下などの浅部軟部組織に発生し、骨格筋などの深部軟部組織発生例は比較的少ない。局所再発率は50-60%と高く、治療は広範囲切除が基本となる。乳房での発生頻度は不明で、医中誌においては2008年から2018年までに症例報告 1 例、会議録 5 例のみであった。今回われわれは、男性乳房に認めた粘液線維肉腫を経験したため報告する。症例は58歳男性。左乳房に 1 cm大の腫瘤を自覚し、その後 1 か月間で腫瘤の急速増大を認めたため前医を受診した。左AC領域に 1 cm大の腫瘤を認め、乳腺超音波では境界明瞭・平滑な低エコー腫瘤を描出した。造影MRIでは 8 cm強の腫瘤を認め、皮膚及び大胸筋への浸潤が疑われた。前医針生検では悪性葉状腫瘍の診断で、腫瘍切除術が施行されたのち当院へ紹介となった。切除検体の病理診断では葉状腫瘍を積極的に示唆する所見はなく、多形を示す紡錘形細胞が一部粘液性変化を伴い密に増殖しており、粘液線維肉腫と診断された。粘液線維肉腫は腫瘍辺縁から 5 cm以上離して切除することが推奨されていること、前医切除検体で腫瘍の断端露出を認めていたことから、当院にて乳房全切除、大胸筋切除、一部小胸筋合併切除、有形広背筋皮弁再建を施行した。現在は無治療経過観察中である。

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P-5 巨大悪性葉状腫瘍に対し、乳房全摘術を施行した1例

水戸赤十字病院 外科

石川結美子、栗原 敏明、佐藤 宏喜

症例は70代、女性。約 1 年前から左乳房腫瘤を自覚し、3 ヶ月前より腫瘤から浸出液を認めるようになり、当院受診された。初診時、左乳房全体に約20cm大、皮膚露出のある易出血性の巨大腫瘤を認めた。また39℃台までの発熱を断続的に認めており、WBC・CRP高値、上下肢の著明な浮腫も認め、全身状態も不良であった。画像上明らかな遠隔転移の所見は認めなかった。針生検にて葉状腫瘍と診断し、左乳房切除術を施行した。胸筋への直接浸潤を認めたが、明らかな胸壁への浸潤は認めず、胸筋浸潤部分を合併切除することで肉眼的に完全切除が可能であった。リンパ節郭清は施行しなかった。摘出標本の病理組織学的検査も悪性葉状腫瘍の診断であり、大きさは150×120×280mm大、重量は2600gであった。切除断端は陰性であった。術後は解熱し、経過良好で術後 9 日目に退院した。その後栄養状態も改善傾向を認め、全身状態も徐々に良好となり、現時点まで明らかな再発を認めずに経過している。葉状腫瘍の平均的な大きさは 4 - 7 cmとされているが、全体の 1 / 5 が10cmを超える巨大葉状腫瘍であると報告する文献もある。今回、急速に進行する巨大悪性葉状腫瘍に対し、乳房切除術および胸筋合併切除で完全切除ができた1 例を経験したので、報告する。

P-4 術前に乳腺間質肉腫と診断されるも術後病理にて巨大悪性葉状腫瘍と診断された1例

1茅ヶ崎市立病院 乳腺外科、2茅ヶ崎市立病院 形成外科

柴田侑華子1、嶋田 和博1、三上 太郎2

【背景】悪性葉状腫瘍と間質肉腫は線維肉腫様の組織学的類似点を有するが,悪性葉状腫瘍は「結合織性および上皮性混合腫瘍」に分類され,間質肉腫は「悪性葉状腫瘍の上皮成分のないもの」であり「非上皮性腫瘍」に分類される.今回我々は術前に間質肉腫と診断し,術後病理で巨大悪性葉状腫瘍の診断となった 1 例を経験したので報告する.【症例】51歳女性.右乳房腫瘤の急速増大で当科受診.30cm超の右乳房弾性硬腫瘤,菲薄化し潰瘍を伴う乳房皮膚認めた.CTで内部不均一な分葉状巨大腫瘤を認め,胸壁浸潤や遠隔転移は認めなかった.針生検で間質肉腫と診断.以上より急性増悪する巨大間質肉腫の診断で右Bt+SNBを施行.明らかな周囲浸潤はなくSNBも陰性.皮切を広くおいたが植皮は施行せず通常皮弁での創閉鎖が可能であった.摘出腫瘤は長径31cm,5.5kg.充実成分,浮腫状成分,出血壊死成分が混在する多彩な肉眼所見であり,組織像の大半は間質組織の増殖で構成されていたが少量ながら上皮成分を有し悪性葉状腫瘍の診断となった.【考察】本症例は腫瘍の大半が肉腫成分で,針生検で間質肉腫の診断であったが術後病理でわずかに上皮成分を認め悪性葉状腫瘍の診断となった.乳腺の肉腫様腫瘤の診断に際しては,上皮成分の有無を念頭においた組織学的検索が重要であると考えられた.また巨大乳房腫瘤は急速な悪化をたどることも多く,手術を基本とした迅速な治療が重要であると考えられた.

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P-7 腋窩リンパ節転移をきたした乳房血管肉腫の一例

1東京医科大学 乳腺科、2東京医科大学 病理診断科

小山 陽一1、寺岡 冴子1、田中 美緒1、呉  蓉榕1、織本 恭子1、川井 沙織1、上中奈津希1、岡崎 美季1、上田 亜衣1、宮原 か奈1、河手 敬彦1、木村 芙英1、緒方 昭彦1、海瀬 博史1、

山田 公人1、佐藤 永一2、石川  孝1

症例は86歳女性.施設職員が右乳腺腫瘤を発見して当院を受診した.右乳房C領域に50mm大の可動性有する硬な腫瘤を触知し,有痛性で直上の皮膚は暗紫色であった.乳房超音波上,右CD領域に最大径53mm境界明瞭平滑・分葉形低エコー腫瘤を認め、内部不均一で嚢胞成分を内包していた.腋窩リンパ節腫脹は認めなかった.同腫瘤に対し針生検を施行し,悪性間葉系腫瘍の診断であった.腫瘤は急速な増大傾向を示すため、初診時から 1 か月後に準緊急手術として右乳房全摘術を施行した.肉眼的に腫瘤は明らかに増大しており、腋窩には新たに皮下腫瘤を 2 つ触知したため合併切除の方針となった.術後病理では、紡錘形の異形間葉系細胞が索状構造,一部赤血球を容れる裂隙状の血管様構造を形成しCD31陽性を示し,乳房血管肉腫の診断であった.腫瘍径は85mmでKi67標識率は80%であったが、切除断端は陰性であった.同時に切除した腋窩腫瘤 2 つはリンパ節で同様の腫瘍の浸潤が認められた.無治療にて経過観察の方針となったが,術後 1 か月後に呼吸困難にて救急搬送,多発肺転移が認められ入院 2 日目に死亡した.乳房血管肉腫は乳腺悪性腫瘍の0.03~0.5%と稀であり,急速増大し治療は外科的切除が中心で,化学放射線治療に抵抗性であり,5 年生存率61%と予後も悪い.一般的に血行性転移が多いが,腋窩リンパ節転移をきたした貴重な乳房血管肉腫の 1 例について文献的考察を加えて報告する.

P-6 低血糖による意識消失発作を合併した乳房葉状腫瘍の一例

1埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科、2JR東京総合病院 乳腺外科、3埼玉医科大学国際医療センター 病理診断科、4埼玉医科大学国際医療センター 支持医療科、

5埼玉医科大学病院 乳腺腫瘍科

一瀬 友希1、上田 重人2、川崎 朋範3、高橋 孝郎4、淺野  彩5、島田 浩子1、佐野  弘1、松浦 一生1、北條  隆1、大崎 昭彦1、長谷部孝裕1、佐伯 俊昭1

低血糖発作を合併した稀な乳腺葉状腫瘍の一例を経験したので報告する。症例は42歳女性,自宅で早朝にベッド上で意識がないことを家族が発見し,当院に救急搬送された。来院時,意識レベルJCS I-3,血圧145/67mmHg,脈拍88/min,体温36.3℃ ,SpO 2 96%(room air),左乳房に腫瘍径 約15cmの巨大腫瘤を認めたが腋窩リンパ節の腫大は認めなかった。血液検査では,血糖値 33mg/dl,その他血算・生化学検査に特記所見を認めず,内分泌検査では血中インスリン濃度12.5μU/mLと正常範囲内であった。低血糖発作による意識消失と判断し補液とブドウ糖の持続投与を行った。意識レベルの改善が見られたが,随時血糖値は50-80mg/dlの低値を示し,その都度50%ブドウ糖を静注して血糖値を維持した。乳房腫瘤は針生検にて境界悪性型葉状腫瘍との診断であった。低血糖の原因が葉状腫瘍によるインスリン様成長因子(insulin-like growth factor:IGF)産生の可能性も考慮し,入院後 2 日目に左胸筋温存乳房切除術を行った。術後速やかに血糖値は140-170mg/dl前後で安定し,術後 6 日目に退院となった。術後 4 年経過するが再発は認めていない。低血糖を合併する間葉系腫瘍は,非膵島細胞腫瘍性低血糖症(non-islet cell tumor hypoglycemia: NICTH)の存在が報告されているが,乳腺原発は稀である。今回,低血糖発作を契機に発見されたIGF産生腫瘍と考えられる乳腺葉状腫瘍に対し,外科的切除により治療し得た一例を経験した。

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Q-2 嚢胞内癌の画像所見を呈した乳頭部乳管癌の1例

1昭和大学 乳腺外科、2昭和大学臨床病理診断科

津久井理加1、桑山 隆志1、吉沢あゆは1、鶴我 朝子1、小松 奈々1、松柳 美咲1、酒井 春奈1、中山紗由香1、三浦 咲子2、中村 清吾1

症例は68歳女性。5 年前より左乳頭腫大を自覚するも検診は未受診であった。左乳頭腫大傾向あり乳癌検診を受診したところUSにて異常指摘され、精査加療目的に当科紹介受診となった。初診時、視触診で左乳頭は約 2 cmの腫大を認めた。USでは左乳頭部に32×26×23mmの内部に充実成分を伴う嚢胞性病変を認めた。充実成分に対して施行した生検の結果はDuctal carcinomaであり左乳頭部乳管癌の診断となった。MRIでは左乳頭部に最大 1 cmまでの嚢胞性病変の集簇と内部に早期濃染する充実成分を認めた。さらに左C領域に管内癌が疑われる線状造影効果を認めMRIガイド下生検施行した。病理学的検査でDCISと診断され、乳管内進展と考えた。画像上、明らかなリンパ節腫大は認めなかった。以上より左乳頭部を中心に乳管内進展を伴う乳癌と診断し、左乳房切除術+センチネルリンパ節生検を施行した。病理組織所見は乳頭内を中心に約20mmの範囲で乳管内癌を認めた。約 2 mmの範囲で表皮内進展あり、約0.5mmの範囲で間質浸潤を認めMicroinvasive ductal carcinoma with pagetoid spreadの診断となった。術後補助化学療法は施行せず、術後 7 ヶ月経過している。 乳管癌が乳頭部に発生することは稀であり、今回、嚢胞内癌の画像所見を呈した乳頭部乳管癌の 1 例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

Q-1 乳頭部に発生した浸潤性乳管癌の1例

1国際医療福祉大学病院 外科、2国際医療福祉大学病院 乳腺外科、3国際医療福祉大学病院 病理部

竹内 秀之1、堀口  淳2、木下 智樹2、大橋 仁志2、鈴木  裕1、岡田 真也3

乳癌は終末乳管または小葉に発生することがほとんどであり、乳頭部に発生することは稀である。今回、乳頭部を中心に発生した乳癌で、浸潤性乳管癌充実型と髄様癌の鑑別に苦慮した 1 例を経験したので報告する。患者は65歳女性、左乳頭分泌(白色粘稠)が時々あり、近医を受診後、当院紹介された。初診時、左乳頭内に軟らかい腫瘤を触知した(本人の自覚はなし)。左乳頭のびらんなく、乳頭分泌もなかった。MMGではやや左乳頭が腫大しており、USでは左乳頭内に腫瘤を認めた。MRIでは左乳頭内に11mmの腫瘤を認めた。局所麻酔下に左乳頭腫瘤の摘出生検を行い、浸潤性乳癌(浸潤性乳管癌充実型と髄様癌の鑑別を要する)の診断であった。MRIで左乳房 5 時方向に乳管内進展の疑いがあったため、後日、左乳頭合併乳房部分切除およびセンチネルリンパ節生検(SN)を施行した。SNは陰性で腋窩リンパ節郭清は省略した。病理学的には浸潤性乳管癌充実型(WHO分類ではCarcinoma with medullary features)の診断で、切除断端は陰性であった。サブタイプはER陰性PR陰性、HER 2 ( 3 +)のHER 2 タイプであった。今後は左温存乳房に対する放射線治療を行い、抗HER 2 療法を含めた化学療法を行う予定である。乳頭部に発生した乳癌は乳頭びらんや乳頭分泌などの臨床症状がないとMMGでは診断できない可能性があり、注意を要する。

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Q-4 男性嚢胞内癌の2例

1東京大学医学部附属病院 乳腺内分泌外科、2東京大学医学部附属病院 病理部、3東京大学 医学系研究科 人体病理

林 香菜子1、佐藤 綾花1、鈴木 雄介1、宮治 美穂1、原田真悠水1、尾辻 和尊1、丹羽 隆善1、西岡 琴江1、田中麻理子2、西東 瑠璃3、田辺 真彦1、瀬戸 泰之1

 男性乳癌は全乳癌の 1 %程度とされ、うち非浸潤性乳管癌の占める割合は 5 - 7 %とごく稀な疾患である。男性乳腺に発生した非浸潤性嚢胞内癌を 2 例経験したので、報告する。【症例 1 】64歳、男性。左乳腺腫瘤を自覚し、当科紹介受診となった。視触診で左乳房EAC領域に 4 cm大の境界明瞭な硬い腫瘤を認めた。同腫瘤はマンモグラフィーで境界明瞭な高濃度腫瘤として描出され、内部に微小円形石灰化を伴っていた。乳房超音波検査では、内部に血流豊富な充実部を伴う嚢胞性腫瘤として描出された。穿刺吸引細胞診で悪性、針生検で乳管癌と診断された。左乳房全切除術とセンチネルリンパ節生検を施行し、最終病理診断は非浸潤性嚢胞内癌であった。【症例 2 】69歳、男性。他科通院中に撮影された胸部CTで右乳腺腫瘤を指摘され、当科紹介受診となった。視触診で右乳房EBD領域に1.5cm大の境界明瞭で弾性軟な腫瘤を触知した。マンモグラフィーでは右乳頭直下に境界明瞭な等濃度腫瘤と腫瘤内に淡い集簇性石灰化を認め、乳房超音波検査では、内部に血流豊富な充実部を伴う嚢胞性腫瘤として描出された。穿刺吸引細胞診で悪性が疑われたため、本人と相談のうえ診断と治療を兼ねて右乳房全切除術を施行した。最終病理診断は非浸潤性嚢胞内癌であった。いずれの症例も術前に良悪性の鑑別や浸潤の有無を判断することは困難であったが、外科的切除生検を含む総合的アプローチにより確定診断を得た。

Q-3 急速増大を呈した被包型乳頭癌の一例

1埼玉医科大学 国際医療センター 乳腺腫瘍科、2埼玉医科大学病院 乳腺腫瘍科、3埼玉医科大学 国際医療センター 病理診断科

柳川 裕希1、佐伯 俊昭1、大崎 昭彦1,2、北條  隆1,2、松浦 一生1、近藤 奈美1、島田 浩子1、淺野  彩1,2、貫井 麻未1、藤本 章博1、杉山佳奈子1、高橋 孝郎1、長谷部孝裕3、

川崎 朋範3

被包型乳頭癌は2012年新WHO分類において新しく提唱された概念疾患で、乳癌全体の数%未満と稀有な疾患であり、多くの症例は悪性度が低く予後良好で術後に化学療法を必要とすることは少ないとされている。今回我々は、腫瘤が急速増大を呈したため準緊急で腫瘤摘出術を施行し、術後病理検査で被包型乳頭癌と診断されるも、悪性度は比較的高いと判断し術後に補助化学療法を行った非常に珍しい症例を経験したので今までの報告例を合わせて報告する。症例は54歳女性。 1 か月前より右乳房腫瘤を自覚し、精査加療目的で当院受診。右AC領域に径 6 cmと大きな腫瘤を触知し、乳頭は下方に偏移していた。乳腺超音波検査では同部位に約53×59×51mm大の境界明瞭平滑な嚢胞性腫瘤を認め、内部は等・不均一であり血流豊富な充実性部分を含んでいたことから嚢胞内癌が疑われた。針生検では悪性所見を認めなかったが、腫瘤は急速に増大しているため、腫瘤摘出術を施行した。最終病理所見では腫瘤は嚢胞様構造を呈し、内部に剥離状に存在する乳頭癌組織を認めたことから被包型乳頭癌の診断となった。また、一部に間質浸潤を伴っていた。最終診断は被包型乳頭癌、pT 1 bcN 0 M 0 Stage1, ER:J-score 3 b, PgR:J-score 3 b, HER 2 : 1 +, Ki-67:40%であった。患者との協議の結果で術後化学療法後に放射線治療をおこなうこととなった。現在再発なくホルモン療法内服中である。

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Q-6 術後3年で肺・骨転移を認めた乳腺原発腺様嚢胞癌の1例

1東京医科大学病院 乳腺科、2東京医科大学病院 病理診断科

安達 佳世1、上田 亜衣1、八木 美緒1、呉  蓉榕1、小山 陽一1、織本 恭子1、川井 沙織1、岡崎 美季1、寺岡 冴子1、宮原 か奈1、河手 敬彦1、木村 芙英1、緒方 昭彦1、海瀬 博史1、

山田 公人1、佐藤 永一2、石川  孝1

【背景】乳腺原発腺様嚢胞癌(ACC)の発生頻度は全乳癌の約0.1%と稀な組織型である。トリプルネガティブに分類される症例が多いにも関わらず、極めて予後良好である事が知られているため、腋窩リンパ節転移陰性であれば化学療法の省略も許容されている。今回我々は術後 3 年で肺・骨転移を認め、死亡に至ったACCの 1 例を経験したため報告する。【症例】症例は70代女性。左乳房痛を主訴に前医受診し、同部位に一致した左乳房腫瘤を認め、当院紹介となった。左乳房腫瘤に対し針生検施行され、ACCの診断で左乳房切除術+センチネルリンパ節生検を行った。術後病理はER・PgR陰性、HER 2 陰性、Ki67 50%、リンパ節転移陰性であった。術後化学療法は施行せず経過観察していたが、術後 3 年経過時に意識消失で救急搬送され、胸部レントゲンで多発肺結節を指摘された。当院で精査の結果、胸部CTで両肺に小結節影、骨シンチグラフィーで左鎖骨・左肩甲骨・頸胸椎に異常集積を認め転移が疑われた。転移性脊髄腫瘍によりADLが著しく低下したため脊椎除圧固定術を施行し、一部切除した椎弓からACCの病理像を認めた。その後、術後頸部の固定により嚥下機能が低下し誤嚥性肺炎を発症。徐々に呼吸状態悪化し、死亡に至った。【結語】術後 3 年で転移を認め、予後不良な転機を辿った 1 例を経験した。一般的に予後良好なACCだが、本例の様に転移をきたす予後不良例が稀ながら存在するため文献的考察を交えて報告する。

Q-5 筋上皮細胞を欠き核の逆極性を示す乳腺乳頭状病変の二例

1聖マリアンナ医科大学 医学部 病理学、2北里大学 北里研究所病院、3聖マリアンナ医科大学 医学部 乳腺内分泌外科学、

4聖マリアンナ医科大学 医学部 放射線医学

田島 信哉1、前田 一郎2、風間 暁男1、相田 芳夫1、成木佐瑛子1、遠藤  陽1、長宗我部基弘1、津川浩一郎3、岸本 佳子4、小池 淳樹1

Two cases of 68- (Case 1 ) and 44-year-old (Case 2 ) female are presented. They had palpable mass in the breast. Radiologically, malignancy could not excluded. Breast excision was performed. Histologically, both cases revealed papillary neoplastic lesions lined by layer of columnar cell without atypia. Loss of myoepithelial cells was observed by negative for p63 and calponin. MUC 3 was negative. Based on this analysis, our 2 cases had benign lesions. However, Cyclin-D 1 was negative (case 1 ), and 70% weak positive (case 2 ). Additionally, the Ki-67 index was 1 % in both cases, and no evidence of disease was observed maximum 62 months of follow-up for both cases, despite lack of additional treatment. Thus, lack of myoepithelial cells in papillary lesions do not necessarily indicate malignancy and are thought to be at the most uncertain malignant potential.

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R-1 原発性乳癌との鑑別を要した卵巣癌乳腺転移の1例

1がん研究会有明病院 乳腺センター、2がん研究会がん研究所 病理部、3がん研究会有明病院 婦人科、4がん研究会有明病院 画像診断部

前島佑里奈1、大迫  智2、森園 英智1、温泉川真由3、菊池 真理1、上野 貴之1,2、大野 真司1,2

症例は60代女性。卵巣癌 Stage IIIcに対し両側付属器切除+大網部分切除を施行、TCb療法 5コースの後、準広汎子宮全摘+リンパ節郭清を行い、さらにTCb療法 3 コース追加した。手術材料の病理診断は漿液性癌と粘液性癌の混合型であった。術後 5 年目に両側腋窩リンパ節転移を摘出した。術後10年目のCTで右乳房腫瘤を指摘され、当科紹介受診となった。触診ではC区域に3 cm大の硬結を触知した。マンモグラフィでは、AC区域に淡く不明瞭な石灰化を区域性に認め、カテゴリー 4 と判定した。砂粒状石灰化もみられ、粘液湖内に析出した石灰化の可能性も考えられた。超音波検査では境界不明瞭な低エコー域が広がり、一部点状高エコーの集簇を認めた。針生検の病理標本では、腺癌細胞が微小乳頭状構築を呈して乳腺間質に浸潤し、浸潤巣内に石灰化も認めた。また、乳管内癌に類似した管状構築も見られ、乳腺原発の浸潤性微小乳頭癌と卵巣漿液性癌の乳腺転移が鑑別に挙がった。免疫染色が追加され、CA125およびWT 1 陽性、GATA 3およびmammaglobin陰性であったため、卵巣癌乳腺転移と診断された。本症例では臨床的にも組織形態学的にも原発性乳癌か乳腺転移かの鑑別を要したが、乳癌および卵巣癌の特異的マーカーを免疫染色で検索することで確定診断に至った。乳腺悪性腫瘍の中で乳腺転移は0.3%と稀であるが、他がんの既往がある場合は乳腺転移も念頭におき、診断を進めることが重要である。

Q-7 乳腺Acinic Cell Carcinomaの1例

1総合病院土浦協同病院 外科、2東京都保健医療公社大久保病院 外科、3東京医科歯科大学 乳腺外科、4総合病院土浦協同病院 看護部

谷田部悠介1、長内 孝之1,2、植野 広大1、熊木 裕一2,3、中川 剛士1,3、有田カイダ1、滝口 典聡1、関  知子4

症例は68歳の女性で,前医で右乳癌術後の経過観察中に左乳房腫瘤を指摘され,患者の転居に伴い当科紹介受診した.左外側上領域に径 1 cm大,弾性硬可動性良好で表面粗造な腫瘤を触知した.乳房レントゲン検査では同部位に径10mmの鋸歯状変化のない等濃度腫瘤を,乳房超音波検査では限局した不整形等濃度腫瘤を認めた.乳房核磁気共鳴検査では腫瘤は早期に造影され,Wash outは比較的早かった.針生検で浸潤性乳管癌(硬性型乳癌疑い)と診断され,全身検索を行ったが唾液腺を含め他に悪性を疑う所見は認めなかった.センチネルリンパ節は陰性で,左乳房温存術を施行した.病理組織学的検査では,核が類円形から卵円形で胞体はやや好酸性から明調な異形細胞が,小型腺管状や小胞巣状で浸潤性増殖パターンを呈していた.免疫組織学的検査ではp63およびCD10陽性筋上皮との二相性は見られず浸潤が認められた.S-100,α- 1 -AT,唾液腺アミラーゼ,p53,CEA,EMA,GCDFP-15が陽性,mammaglobin,ER,PgR,HER 2が陰性,Ki67は最大21%陽性であり,acinic cell carcinoma(以下ACC)と診断した.患者の希望で術後化学療法は行わずに経過観察中であるが,術後 3 年 6 カ月の時点で無再発生存中である.乳腺ACCは1996年に初めて報告された,唾液腺に発生する腺房細胞癌と類似した組織像を呈する極めてまれな浸潤性乳管癌である.今回acinic cell carcinomaの 1 例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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R-3 P120抗体が浸潤性小葉癌と浸潤性乳管癌硬性型との鑑別に有用性を示した一例

1聖マリアンナ医科大学病院 病理診断科、2北里大学北里研究所病院 病理診断科、3聖マリアンナ医科大学病院 乳腺内分泌外科

小穴 良保1、前田 一郎2、津川浩一郎3

乳腺穿刺吸引細胞診は, 腫瘤性病変に対し直接針を刺し細胞採取を施行するため, スクリーニングを目的としたものではなく, 良・悪性の鑑別診断を行い, 病変がどのような組織像を呈するのかを推定することにある. しかし, 組織診でも良・悪性の鑑別が難しい乳腺病変では, FNACによるPap染色のみでは細胞診での推定組織型の鑑別が困難になる症例は少なくない.このことによりFNACの信頼は揺らぎ,FNACより精度が高く,ER,HER 2 のISH法やHER 2 FISH法が簡便に行えるcore needle biopsy(CNB)へと移行する施設が増加している.しかし, 言い換えれば鑑別が困難になる要因を改善することで, 簡便かつ低侵襲なFNACは, すでに他の検査で存在が確認されている病変についての, 形態学的診断となり得る. 複数枚の標本作成ができるLBCのメリットは大きく,推定組織型の鑑別が困難な症例に対してPap染色に加えISH法を施行することである.今回、報告する症例はPap染色標本で線状のパターンを主体とし, 一部索状, 散在性およびICLをみとめPap染色のみでは浸潤性小葉癌と浸潤性乳管癌硬性型との鑑別が困難であった症例に対しLBC法で標本を追加作成しP120による免疫組織を施行したことにより, 両者の鑑別に有用性を示した症例を提示する.

R-2 センチネルリンパ節生検で診断された子宮体癌腋窩転移の症例

1杏林大学医学部付属病院 乳腺外科、2杏林大学医学部付属病院 病理学教室、3杏林大学医学部付属病院 産婦人科

土屋 あい1、麻賀 創太1、石坂 欣大1、伊坂 泰嗣1、井本  滋1、吉池 信哉2、千葉 知宏2、菅間  博2、松本 浩範3、小林 陽一3

症例は82歳、女性。20××年 5 月CT検査にて左乳房結節を指摘され精査目的に当科受診。既往に右乳癌と子宮体癌あり、右乳癌に対しては19年前に他院で右乳房全切除術が施行された。子宮体癌に対しては 4 年前に当院で腹式単純子宮全摘術および両側付属器切除術が施行され、病理診断は漿液性腺癌StageIAで高度のリンパ管侵襲を認めたため、DC療法 4 コース施行された。 2年前からCA125の緩徐な上昇を認め(最高値94.2U/ml)たが、CT検査で異常は指摘できず経過観察となっていた。左乳房結節の精査の結果、マンモグラフィでは淡く不明瞭な石灰化が区域性に広がり、乳房超音波検査ではDC領域に 9 mm大の不整形な低エコー腫瘤を認め、針生検では浸潤性乳管癌Luminal A-likeと診断された。左腋窩には 6 mmおよび 4 mm大の類円形のリンパ節を認めたが明らかに転移とする所見ではなかったことから、左乳房全切除術およびセンチネルリンパ節生検を実施した。術中迅速診断に提出したリンパ節 5 個のうち 2 個に転移を認め、1 個は乳癌のマクロ転移、1 個は子宮体癌の転移と判断され、level IIまでの腋窩リンパ節郭清を行った。最終的な病理診断では13個中 7 個のリンパ節に転移を認めたが、乳癌の転移は 1 個のみ、ほか 6 個は子宮体癌の転移であった。本症例のように腋窩リンパ節転移という形式で子宮体癌の再発が発見されることは稀であり、また乳癌との同時腋窩リンパ節転移という非常に稀な症例を経験したので今回報告する。

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R-4 腋窩部に発生した副乳癌の1例

1埼玉県立がんセンター 乳腺外科、2埼玉県立がんセンター 乳腺腫瘍内科、3埼玉県立がんセンター 病理診断科

戸塚 勝理1、堀井 理絵3、坪井 美樹1、平方 智子1、久保 和之1、高井  健2、永井 成勲2、井上 賢一2、神田 浩明3、松本 広志1

腋窩に発生した副乳癌は皮膚や皮膚付属器由来の悪性腫瘍等との鑑別が困難なことがある。今回、右腋窩部に発生した副乳癌の 1 例を経験したので報告する。症例は80歳代、女性。 1 年半前より右腋窩部の腫瘤を自覚しており、近医で切除することを勧められていた。その後腫瘤が増大したため、当施設の皮膚科を受診した。同科で切開生検を施行し、乳癌の皮膚転移が疑われ、当科へ紹介受診となった。右腋窩から右上腕内側にかけて 3 cm大の腫瘤をみとめ、皮膚の軽度な発赤を伴っていた。また、右腋窩に多数のリンパ節腫大を認めた。マンモグラフィ、乳腺超音波検査および乳腺造影MRIを施行したが、両側乳房内に明らかな腫瘤は認められなかった。確定診断と局所治療目的で、手術(腫瘤切除術、右腋窩リンパ節郭清)を施行した。病理学的には、腺癌が皮下脂肪織を主座に存在し、一部が真皮に浸潤していた。皮下脂肪織内に非癌の乳管と考えられる管腔構造を認め、その近傍に浸潤巣を認めた。また、15個のリンパ節転移を認めた。免疫組織学的検査では、ER陽性、PgR陽性、HER 2 score: 1 +、GCDFP-15陽性、GATA 3 陽性であった。右腋窩部の乳腺末端から発生した乳癌も鑑別として考えられたが、発生部位を考慮し、副乳癌と診断した。術後はExemestaneの内服による補助内分泌療法を行っており、明らかな再発は認められていない。

R-5 間質浸潤を同定し得なかったが脈管侵襲とリンパ節転移を認め 微小浸潤癌であると推定された乳管癌の1例

1帝京大学ちば総合医療センター 外科、2帝京大学ちば総合医療センター 病理部

高橋 理彦1、宮澤 幸正1、富居 一範2、粕谷 雅晴1、清水 宏明1、山崎 将人1,2、首藤 潔彦1、小杉 千弘1、野島 広之1、細川  勇1、村上  崇1、幸田 圭史1

症例は60代女性。以前より右乳房に線維腺腫を認め当科にて定期的に検査を行なっていたところ、超音波にて右乳房に 7 mm大腫瘤を新たに認め、細胞診にて浸潤性乳管癌の診断となり手術の方針となった。術前超音波では右乳房乳頭近傍の 9 時方向に 7 x 7 x 5 mm大の腫瘤を認め、造影MRIにおいて乳頭方向へ乳管内進展を疑う高信号領域を認め最大径17mm大と評価した。胸筋温存乳房切除およびセンチネルリンパ節生検の方針としたところ、術中迅速診断にてセンチネルリンパ節 1 個に 2 mm大の転移を認め、腋窩郭清を施行した。術後病理所見では、さらに 1個の腋窩リンパ節に転移を認めた。腫瘍は最大径10mmで異型乳管上皮細胞の乳管内進展からなるDCIS相当の所見であった。deeper cutによる標本作成においても間質浸潤像は認められなかったが、管腔内を浮遊する異型細胞集塊を認めリンパ管侵襲と考えられ、リンパ節転移を有することとあわせて微小浸潤癌であると結論した。組織学的GradeはGradeIであり、DCISとした場合もlow grade相当の病変であった。免疫染色結果はER陽性、PgR陽性、HER 2 陰性、Ki67標識率 3 %程度であり、現在は術後 7 ヶ月で目立った再発所見はなく、補助化学療法施行中である。当症例について若干の文献的考察を加えて報告する。

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Page 85: 特別講演 - JCS / 日本コンベンションサービス株式 … › jbcs16-kanto › program › ...carcinoma、乳頭側・側方・皮膚側断端陽性と診断された。全身治療として本人が化学療法を希

R-6 皮膚転移で診断された男性潜在性乳癌の一例

神奈川県立がんセンター 乳腺内分泌外科

松原 由佳、岡本  咲、古波蔵かおり、戸田 宗治、菅原 裕子、山中 隆司、菅沼 伸康、山下 年成

症例は68歳男性。下腹部に11mm大の紅色結節を認め近医皮膚科を受診。生検を施行し原発不明のNeuroendocrine carcinomaの診断であった。CTで縦郭肺門部リンパ節の腫脹を認め、VATS生検を施行し同様の組織所見であった。原発不明癌の精査加療目的に当院紹介となった。組織標本の免疫染色でCD56(+)、ChromograninA(+)、Synaptophysin(+)、ER(+)、PgR(+)、HER 2 (-)、MIB- 1 10-20%の結果であり乳癌原発が考えられたため当科紹介となった。視触診、マンモグラフィ、超音波で乳腺内、腋窩リンパ節には明らかな所見を認めず、CTで肺動脈付近のリンパ節腫大を認めるのみであった。潜在性乳癌の皮膚転移、肺動脈周囲リンパ節転移の診断でタモキシフェン内服を開始した。現在タモキシフェン内服し 3 年 6 ヶ月となるが、新規の病変は認めていない。男性乳癌の罹患率は女性患者の0.5%程度であり、さらに男性の潜在性乳癌は症例報告が数例あるのみで極めて稀な病態である。今回我々は遠隔転移のみ認めた男性潜在性乳癌を経験したため文献的考察を加え報告する。

R-7 神経線維腫症1型に合併した乳癌肺癌同時性重複癌の1例

菅間記念病院

屋代 祥子、菅間  博

今回われわれは神経線維腫症 1 型(neurofibromatosis type 1 : NF 1 )に合併した乳癌と肺癌の同時性重複癌の 1 例を経験した。症例は72歳女性。右肺癌術前精査で施行したPET-CTで右乳癌が疑われた。超音波検査で右乳腺 9 時に1.5cm大腫瘤が認められ、FNAでclass V、ductal carcinomaと診断された。右肺癌( cT 1 a N 0 M 0 Stage Ia)と右乳癌( cT 1 N 0 M 0 Stage I )重複癌の診断で右上葉部分切除術にひきつづきBt+SNを施行した。病理検査では右肺乳頭状腺癌pT 2 aN 1 M 0 stage IIa、右乳腺浸潤性小葉癌 pT 1 cN 0 M 0 stage Iだった。術後補助化学療法(CBDCA+PTX) 4 コースを行った。現在ANAを内服中であるが、転移再発は認めていない。NF 1 ではRASが活性化することにより多種の腫瘍が発生する。女性は乳癌発症リスクも高い。同時性肺癌と乳癌の重複癌で、肺と乳腺の一期的根治術の報告は検索しえた限り報告がなく、稀な症例と考えられた。

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