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美しい模様を織りなす振り子の作成
理工学部 数理情報学科
学籍番号 T110003
氏名 伊沢 悠馬
指導教員 池田 勉
概要
卒業研究の題材探しのために先輩方の論文を読んでいる中で 2013 年に卒業された川嶋純企さ
んの「振り子が織りなす紋様たち」に興味を持った.川嶋さんの論文で紹介されていた動画を
YouTube で視聴した.「違う長さの振り子を同時に動かすと」という動画である.長さの異なる
15個の振り子を,鉛直下向きとなす角度を同じにして同時にそっと離す.最初のうちは振り子は
綺麗な S字を織りなしていたが,だんだんとバラバラな動きになった.しかし時折,再び S字を描
いたりらせんを描いたりした.ほかにも左端と右端の 2つのグループに分かれたり,すべての振り
子がいっせいに右端に揃うなど興味深い動きが観察できた.私は振り子が織りなすこの美しい模様
に感動し,実際に自分でもこの模型を作成したいと思った.
川嶋さんの研究により,振り子の角速度が等差数列になっていれば,YouTubeの動画のような
運動が再現されることが示されている.著者の模型では,正の定数 T と自然数mを適切に固定し,
i番目の振り子の長さ ai を ai =gT 2
(m+ i)2(g は重力加速度)とすることによって角速度が等差数
列になるようにした.
最初に振り子が 6個の模型を作成した.この模型は直方体のおもりを使用したので直方体型と名
付けた.おもりに釘を打ち込みブランコのように二本のひもで吊るした.しかしながら,おもり同
士が衝突してしまい,失敗に終わった.
この失敗を踏まえて,3種類の改良模型を作成した.いずれの改良模型においても,球体のおも
りを採用し,おもりには釘ではなくヒートンをねじ込んでひもを結んだ.振り子の織りなす模様を
観察しやすいように,ひもの長さは当初の直方体型の倍以上(最も長いもので約 53 cm,最も短い
もので約 33 cm)にし,14個のおもりを設置した (YouTubeの動画では 15個).さらにカーテン
レールに固定したランナーを振り子の支点として採用した.
おもりとカーテンランナーの結び方によって,ヒートン型,両サイド型,連結型と名付けた.
ヒートン型ではおもりを 2本のひもで 1個のランナーに結んだ.両サイド型ではおもりを 2個の
ランナーに結んだ.連結型は隣り合うおもりを結ぶランナーを共通化したものである.つまり,お
もりは 2個のランナーに結ばれ,両端以外のランナーにはおもりが 2個ずつぶら下げられている.
ヒートン型ではおもり同士が衝突してしまったために失敗に終わった.両サイド型ではおもり同士
が衝突することはなくなったが,振り子が若干たて揺れし,動画の動きは再現されなかった.連結
型では振り子の軌道をまっすぐに修正することができ,YouTubeの動画の様子が再現された.
1
2014年度卒業論文
美しい模様を織りなす振り子の作成
龍谷大学 理工学部 数理情報学科
T110003 伊沢 悠馬
指導教員 池田 勉
目次
1 はじめに 1
1.1 研究の動機 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
1.2 動画について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
1.3 研究内容 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
2 コンピュータシミュレーション 3
2.1 単振り子の運動方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
2.2 振り子の糸の長さ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
2.3 コンピュータシミュレーションによる動画の再現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
3 模型の作成 6
3.1 直方体型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
3.2 ヒートン型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
3.3 両サイド型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
3.4 連結型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
謝辞 18
1 はじめに
1.1 研究の動機
卒業論文の題材を探すため池田研究室の先輩の論文を読んでいたところ,2013年に卒業された
川嶋純企さんの「振り子が織りなす紋様たち」をみて興味を持った.複数の長さが異なる振り子を
静かに同時に離すと S 字や螺旋状の美しい模様を織りなすのである.動きの中で長さの異なる振
り子が寸分の狂いもなくはっきりといくつかのグループに分かれ,しばらくすると右端で全ての振
り子がはっきりと揃ったのである.著者はこの現象をとても不思議に感じたのでこのテーマを選ん
だ.そして自らの手でこの美しい模様を織りなす振り子を作成しようと思った.
1.2 動画について
川嶋さんがきっかけとされた動画は YouTubeに掲載されている「長さが異なる振り子を同時に
動かすと」という動画である.長さが異なる 15 個の振り子が興味深い模様を織りなすのである.
振り子のひもの長さは手前にあるものが最も長く,奥になるにつれて振り子の糸の長さはどんどん
短くなっていく.15個の振り子を鉛直下向きになす角を統一し,そっと同時に離す.振り子は最
初の数秒は綺麗な S字を描き,しばらくするとバラバラに動いているように見える.だがバラバラ
な動きの中でもいくつかのグループに分かれるシーンが確認できた.その後振り子はらせん状の模
様を描き,すぐに左端と右端で綺麗に二つに分かれて揃った.再びらせん状の模様を描いた後はバ
ラバラに動き,しばらくすると最初に見られた S字の模様を織りなし,右端で全ての振り子が一直
線上で揃ったその後 S字を再び織りなし始めたところで動画は終了した.[?]
1.3 研究内容
最初に単振り子の運動方程式を立てる.本研究では sinxを xで近似した.川嶋さんは角速度を
ωi =m+ i
T, (ωi =
√g
ai),振り子の糸の長さを ai =
g
ωi2=
gT 2
(m+ i)2(i = 0, 1, · · · , N − 1, N は
振り子の個数)とされたが,どのようにしてこの値を見つけられたか考察した.その後動画の動き
をコンピュータシミュレーションで再現した.コンピュータシミュレーションから特徴的な振り子
の動きがどのタイミングで現れるか考察する.
その後実際に模型を作成した.模型は四種類作成した.全てのケースで角速度 ωi =m+ i
T,(ωi
=
√g
ai),
振り子の糸の長さは ai =g
ωi2=
gT 2
(m+ i)2(i = 0, 1, · · · , N − 1, N は振り子の個数)とした.(m
は正の整数,T は正の定数)一番目の模型では振り子の数を 6個とし模型を作成した.しかしおも
り同士が衝突してしまったので大幅に実験条件を改善する必要が生じた.この失敗を踏まえて,三
種類の改良模型を作成した.三種類とも振り子の数は 14個とした.二種類目の模型ではおもりに
1
直方体のものではなく球体のものを使用し,おもりにヒートンを打ち込み,ヒートンに糸を結び付
けることで振り子を上から垂らした.しかしこの条件でもまたしてもおもりが衝突してしまった
ため更なる修正点を加えた.今までヒートンには糸を通していただけだったが,三番目の模型では
ヒートンに振り子の糸を二重に結び付けた.それ以外にもカーテンランナー 1個に対して振り子は
1つしか使用してなかったが今回から 2つ使用することにした.この二つの改善点により振り子同
士がぶつかることはなくなり,動画の動きも少しずつ再現されるようになったが,振り子をよく見
てみると横揺れしており完全な再現には至らなかったため更なる修正を施した.
四番目の模型ではカーテンランナーに 3個に対して振り子を二個結び付け,カーテンランナーの
揺れを防止しようとした.さらに振り子同士の間隔を縮めることによって YouTubeの動画の動き
が観察しやすくなるようにした.最初の模型からあらゆる修正を加えることでついに動画の動きは
再現された.最初に作った模型ではおもりに直方体の木材を使用したので直方体型,三種類の改良
型をおもりとカーテンランナーの結び方によって,ヒートン型,両サイド型,連結型と区別した.
それぞれの模型で成功,失敗の原因を考察した.動画の動きが再現された連結模型ではビデオカメ
ラを使用して動画の再現の様子を撮影した.
2
2 コンピュータシミュレーション
2.1 単振り子の運動方程式
dx
dt= y
dy
dt= −g
asinx
x(0) = A
y(0) = 0
(1)
それぞれが表すのは x(t)は角度
y(t)は角速度
aは振り子の糸の長さ
g は重力加速度 = 9.8 (m/s2)
Aは始めの振り子の角度のことである.本研究では sinx を xに近似を行う.(1)は
dx
dt= y
dy
dt= −g
ax
x(0) = A
y(0) = 0
(2)
となる. (2)を ωi =
√g
aiとして解くと
x(t) = A cosωt
y(t) = −Aω sinωt
という解が得られる. 今後コンピュータシミュレーションの際にはこの運動方程式を用いる.[2]
2.2 振り子の糸の長さ
YouTube の動画のような模様が現れる振り子の糸の長さを考える必要がある. 川嶋純企さんの
「振り子が織りなす紋様」では糸の長さ ai を ai =gT 2
(m+ i)2(m は正の整数,T は正の定数)
(i = 0, 1, · · · , N − 1, N は振り子の個数)と導出されていた.では何故 ai をこのように定義すれば
YouTubeの動画の動きが再現されるのか考察した.
全ての振り子が右端で一直線に揃う時刻は, 全ての振り子の周期の整数倍となっている. 全ての
3
振り子が右端で揃う時刻を t,i 番目の振り子の周期を Pi(i = 0, 1, · · · , N − 1(N は振り子の個
数))とすると
t = Pi(m+ i)(mは正の整数),(i = 0, 1, · · · , N − 1(N は振り子の個数))
i番目の振り子の振動数を fi(i = 0, 1, · · · , N − 1,N は振り子の個数) とすると
fi =1
2π
√g
ai
振動数は 1秒間に往復する回数を表しているので,振動数 fi は周期 Pi の逆数となる.すなわち
Pi =1
fi= 2π
√g
ai
となる.ωi =
√g
aiより
Pi =2π
ωi
t = Pi(m+ i)より
t =2π(m+ i)
ωi(3)
t = 2πT (T は正の定数)とすると (3)は
ωi =(m+ i)
T
ωi =
√g
aiより
ai =gT 2
(m+ i)2
川嶋さんが導出された ai の値を求めることができた. このようにして川島さんは糸の長さ ai を決
められたのだと推測した.[3]
2.3 コンピュータシミュレーションによる動画の再現
Cygwin を使用してコンピュータシミュレーションを行った.振り子の糸の長さは ai =gT 2
(m+ i)2(m は正の整数,T は正の定数)(i = 0, 1, · · · , N − 1, N は振り子の個数) とした.
コンピュータシミュレーションを行う上で N = 20, T =9, m =20の値をそれぞれ採用した.振
り子が鉛直下向きになす角度は 30°を採用し,振り子を動かす初速度は 0とした. 図 1は (a)が S
字の模様で (b)がらせん状の模様の,図 2は (a)が左右で二つに振り子が分かれた様子で (b)がす
べての振り子が右端で揃った様子のスクリーンショットである.
4
(a) S字の模様 (b) らせん状の模様
図 1 S字の模様:S字の模様は全ての振り子が右端で一直線上で揃う前後に現れる.
らせん状の模様:らせん状の模様は左右で振り子が分かれる前後に現れる.
(a) 振り子が左右で二つに分かれた様子 (b) 全ての振り子が右端で一直線上に揃った様子
図 2
5
3 模型の作成
3.1 直方体型
3.1.1 実験条件
この模型においてのみ振り子に直方体の木材を使用したので直方体型と名付けた. 角速度 は
ωi =
√g
ai,下記に出てくるmは正の整数,T は正の定数を表し
iは (i = 0, 1, · · · , N − 1, N は振り子の個数)を表す.
美しい模様が織りなされる時 ωi は ωi =m+ i
Tである.つまり糸の長さは
ai =g
ωi2=
gT 2
(m+ i)2
直方体型では N = 6 , m = 9 ,T= 20√0.4で定めた. 本来であれば T=20で実験を行うはずだっ
たが,振り子の糸の長さを決める前に模型を作ってしまい,模型の高さを 32.5cmとしたため T の
値を T=20√0.4と定めた.ωi =
m+ i
Tより
ωi =9 + i
20
となる.同様に
ai =g
ωi2=
160g
(9 + i)2
g = 9.8(m/s2)より
ai =1568
(9 + i)2
a0 ≃ 19.35 cm,a1 ≃ 15.68 cm,a2 ≃ 12.96 cm,a3 ≃ 10.89 cm,a4 ≃ 9.28 cm,a5 ≃ 8.0 cm,
a6 ≃ 6.97 cm とし,これを直方体型のひもの長さとする.振り子を動かす際の振り子のひもが
鉛直下向きになす角は 30°とする.図 3は直方体型の様子である.直方体型のみ,カーテンラン
ナーではなく木の棒に釘を打ち付けて振り子をつるした.
6
t
図 3 直方体型.
3.1.2 実験結果,考察
最初のうちだけだが,YouTube の動画の動きは再現され,綺麗な S 字の模様が織りなされた.
しかし振り子を動かし始めてからだんだんと振り子の軌道はずれていき,5秒ほどでおもり同士が
ぶつかってしまったため,動画の様子は再現されなかった.原因はいくつも考えられるがまず最初
に考えられるのが,振り子と糸を結ぶ部分が釘だった点であろう.釘にひもを結んでも釘がつるつ
るしているためにしっかりと振り子が固定されずに振り子を地面としっかりと平行にすることは出
来なかった.振り子と糸を結ぶ部分だけでなく,糸と模型の上を結ぶ部分も釘であったため,しっ
かりと結ぶことができなかった.このことが二つの要素が原因で二本のひもの長さが均等にならな
かったため,振り子は地面と水平にならず,そのことが原因で振り子の軌道は斜めにずれてしまっ
たと考えられる.この実験を行う上で釘は不向きだと結論付けた.図 4は釘と糸の結び目の写真で
ある.
その他にも原因はたくさん存在すると思われる.まずは振り子の個数が動画に比べて圧倒的に少
なかった点だ.YouTube の動画では振り子が 15 個あったのに対して直方体型では 6 個しか使用
しなかった.釘やひもの問題点がなかったものと仮定しても,わずか 6個の振り子では動画のよう
な美しい模様は再現されなかったのではないだろうか.最低でも振り子が 10個はないと滑らかに
動画の動きは再現できないと考察した.
直方体型では模型全体のサイズを小さく設計してしまい,糸の長さも短くする事になってし
まった.
直方体型での振り子の糸の長さは a0 ≃ 19.35cm, a1 ≃ 15.68cm, a2 ≃ 12.96cm, a3 ≃ 10.89cm,
7
図 4 釘と糸の結び目.
a4 ≃ 9.28cm, a5 ≃ 8.0cm, a6 ≃ 6.97cm
であった.
この糸の長さも実験がうまくいかなかった原因の一因であろう.振り子の糸の長さが短くなると,
それに伴って必然的に周期も短くなる.周期が短くなるという事は,振り子の動く速度も速くなる
ということでもある.仮に直方体型が YouTubeの動画ような美しい模様が再現される条件であっ
たとしても,これでは周期が短すぎて観察しにくかったと推測される.
さらに振り子の糸の長さが短くなることで,糸の長さが長い時と比べて,模型を作る際により緻
密さが求められる.たとえば糸の長さが 50cmの時と 20cmの時で互いに同じ 0.1cmの長さの誤
差が出たとする.当然 20cmのほうが 50cmの時と比べて誤差の影響が出やすくなる.より正確な
測定が必要になり,そうであっても糸の結び目の影響で誤差が生じてしまうこともある.そのため
振り子の糸の長さをもっと長くすれば,糸の長さにおいて必要な正確性が上がると考察した.次の
模型ではそれぞれの振り子の長さを長くして模型を作成した.
3.2 ヒートン型
3.2.1 実験条件,改善点
この模型では初めてヒートンを使用したため,ヒートン型と名付けた. 角速度 は ωi =
√g
ai,下
記に出てくるmは正の整数,T は正の定数を表し
iは (i = 0, 1, · · · , N − 1, N は振り子の個数)を表す.
美しい模様が織りなされる時 ωi は ωi =m+ i
Tである.つまり糸の長さは
ai =g
ωi2=
gT 2
(m+ i)2
8
ここまでは直方体型の実験条件と全く同じである. ヒートン型では N = 14, m = 9,T= 21と定
めた. N を 14に増やしたのは直方体型のところで記したように,振り子の数が少なすぎては振り
子の織りなす模様が観察しにくいので,振り子の数を 6個から 14個に増やした.T の値をを 20か
ら 21 に増やしたのは 2 つの理由がある.1 つは振り子同士の長さの差を小さくするためである.
つまり ai - ai−1 の値を小さくするためである.ai - ai−1 の値を小さくすることで,少しでも振り
子同士の距離が縮まり,振り子の織りなす模様が観察しやすくなるのではないかと考えたからであ
る.
もう 1つの理由は,振り子の長くするためである.直方体型では振り子の糸の長さが短すぎたため,
周期が短くなりすぎてしまい振り子の模様の観測がやりにくくなった.ヒートン型では振り子の糸
の長さを直方体型の 2倍以上の長さに変更した.振り子のひもが鉛直下向きになす角は直方体型と
同じく 30°とする.
直方体型では振り子の糸を結ぶ際に釘を使用していたが,直方体型のところで記したように糸を
しっかりと結ぶことができずに糸の長さに誤差が生じてしまった.本研究の模型の作成において釘
の使用は不適切と考察した.そのためヒートン型以降のケースでは釘の代わりにヒートンを使用し
た.ヒートンとはねじのような頭の部分に輪のような丸められた金属棒がついた形状をしており,
ねじ側を壁や天井に固定し,輪に紐を通すことでものを吊り下げる際に使われる.ヒートンを使用
することにより振り子の糸をしっかりと結ぶことができるようになり,このことにより振り子の糸
の長さの誤差は小さくなると考えた.図 5はヒートンの写真である.
図 5 ヒートン.
直方体型では木材を直方体に切ったものをおもりとして使用していたが,おもりを地面と水平に
することができなかったため,振り子の軌道が斜めになってしまった.そのためヒートン型以降の
ケースでは市販の球体の木材をおもりとして使用した.これによっておもりを地面としっかり平行
にすることができるようになった.図 6は球体の振り子の写真である.球体の振り子の半径は 2.5
cmである.
9
図 6 球体の振り子.
ヒートン型ではカーテンレールのカーテンランナーを使って振り子を吊り下げた.カーテンラン
ナーとはカーテンレールの上部に存在する丸いフックのような部分である.直方体型では棒状の木
材に釘を打ってそれに糸を結んでいたが,しっかりと結ぶことができず長さに誤差が生じてしまっ
た.ここでも釘ではなくヒートンを使用しようとしたが,四ツ谷研究室の森竜樹さんにいただいた
アドバイスにより,カーテンランナーを使用して振り子を上から吊るすことにした.カーテンラン
ナーを使用することでしっかりと糸を結ぶことができるようになった.図 7がカーテンランナーの
写真である.
図 7 カーテンランナー
直方体型では側面にも板があり振り子の様子を観察しにくかった.ヒートン型では模型の側面を
空洞にしたため振り子の様子が観察しやすくなった.図 8はヒートン型のイメージである.
10
図 8 ヒートン型のイメージ.
直方体型と比較して振り子の糸の長さを倍以上に長くした.直方体型で動画の動きを再現できな
かった原因の一因として振り子の糸の長さが考えられる.振り子の糸の長さが短すぎることから周
期も必然的に短くなっているので,もっと振り子の糸を長くしたほうが模様の様子が観察しやすい
と考察した.振り子の糸の長さを決める際,YouTubeの動画を参考に決める事にした.
振り子の周期を ti (i = 0, 1, · · · , 13)とする.ti =2π
ωi, ωi =
√g
aiより
ti = 2π
√aig
となる.YouTubeの動画の 1番目の振り子 (最も長い振り子)の周期を t0 とする.動画にて t0 を
測定した結果,t0 は約 1.20 秒だった.この結果から
1.20 = 2π
√a0g
1.20 ≃ 2・3.14
√a09.8
√a0 ≃ 1.2
6.28・√9.8
√a0 ≃ 0.5947
a0 ≃ 0.3536
となり,YouTubeの最も長い振り子の糸の長さは約 35.4 cmであると推測される.
同様に YouTubeの動画の 14番目の振り子(二番目に短い振り子)の周期を t13 とする.動画にて
t13 を測定した結果,t13 は約 0.85 秒だった.この結果から
0.85 = 2π
√a13g
11
0.85 ≃ 2・3.14
√a139.8
√a14 ≃ 0.85
6.28・√9.8
√a14 ≃ 0.4225
a0 ≃ 0.1785
となり,YouTubeの二番目に短い振り子の糸の長さは約 17.9 cmであると推測される.振り子の
糸の長さを大きくすることで糸の長さに誤差が出た場合でも影響は少なくなるので,糸の長さを可
能な限り大きくした.振り子の模型の高さが 62.4 cmであったため,1番長い振り子の糸の長さを
55cm程度に想定して,T,mの値を決めた.直方体型と同様に角速度 ωi = m+ i
T(mは正の
整数,T は正の定数)とする.m = 9,T = 21をあたえると
ωi =9 + i
21
となる.同様に
ai =g
ωi2=
441g
(9 + i)2
g = 9.8(m/(s2))より
ai =4321.8
(9 + i)2
a0 ≃ 53.4 cm,a1 ≃ 50.0 cm,a2 ≃ 46.9 cm,a3 ≃ 44.1 cm,a4 ≃ 41.5 cm,a5 ≃ 39.2 cm,
a6 ≃ 37.1 cm,a7 ≃ 35.1 cm,a8 ≃ 33.3 cm,a9 ≃ 31.6 cm,a10 ≃ 30.0 cm,a11 ≃ 28.6 cm,
a12 ≃ 27.2 cm,a13 ≃ 26.0 cmとなる.
YouTubeの動画の最も長い振り子の糸の長さを b0,二番目に短い振り子の糸の長さを b13 とす
ると
b0b13
≃ 1.98
a0
a13≃ 2.05
ヒートン型においての最も長い振り子の糸の長さを最も短い振り子で割った値が,ほぼ YouTube
の動画の比率と同じになっており模型を作るうえで振り子の糸の長さの問題は解決したと思われ
る.これをヒートン型のひもの長さとする. 振り子の糸が鉛直下向きになす角は直方体型と同じく
30°とする.
3.2.2 実験結果,考察
直方体型と比べてあらゆる条件を改良したおかげで動画の動きにかなり近づいたように感じた.
振り子の数を 6個から 14個に増やしたこと,ai − ai+1 の値を小さくすること,振り子の糸の長さ
12
を YouTubeの動画を参考にして決めたこと,以上の改善点により振り子の織りなす模様が直方体
型と比べてかなり滑らかに観察できるようになった.
動画の再現についてだが,最初は YouTubeの動画のような綺麗な S字が織りなされた.しかし直
方体型と同じように,徐々に振り子の軌道が斜めにずれていき,しばらくするとおもり同士がぶつ
かってしまった.振り子の糸の長さについては YouTubeの動画を参考にしたため問題はないと考
えられる.振り子の軌道が斜めになってしまった要因として考えられるのは振り子の吊るし方にあ
る.
まずは振り子の結び目についてである.カーテンランナーには振り子の糸をしっかりと結んだが,
おもりに関してはヒートンに糸をを通しただけであった.複数の振り子を動かすためそれに伴って
模型全体も振動する.その際にカーテンランナーにも揺れが伝わってしまい,振り子の糸も振動し
てしまった.おもりはヒートンに糸が通してあるだけなので,カーテンランナーの揺れによりおも
りの軌道がずれてしまった.カーテンランナーをもっと強く固定し,ヒートンを糸でしっかりと結
び付ける必要がある.図 9はヒートン型でのおもりのヒートンの写真である.結び目を作っておら
ず,ヒートンに糸を通しただけの状態である.
図 9 ヒートン型でのおもりの結び目.
カーテンランナーに関しても同様である.ヒートン型では 1 個の振り子に対して 1 個のカーテ
ンランナーを使用した.前述したように模型の振動が糸を通じて振り子にも伝わる.振り子の糸が
カーテンランナー 1個に結ばれているために振り子の振動を抑える事は困難であった.ヒートン型
では複数の振り子を動かすことで生じる模型の揺れについての対策が不十分であった.
13
3.3 両サイド型
3.3.1 実験条件,改善点
振り子の糸の長さはヒートン型と同じく a0 ≃ 53.4 cm,a1 ≃ 50.0 cm,a2 ≃ 46.9 cm,a3 ≃44.1 cm,a4 ≃ 41.5 cm,a5 ≃ 39.2 cm,a6 ≃ 37.1 cm,a7 ≃ 35.1 cm,a8 ≃ 33.3 cm,a9 ≃ 31.6
cm,a10 ≃ 30.0 cm,a11 ≃ 28.6 cm,a12 ≃ 27.2 cm,a13 ≃ 26.0 cmとする.
この模型では振り子の両サイドにカーテンランナーを使って糸を結んだので,両サイド模型と名付
けた.両サイド型ではヒートン型と比較して 2つの要素を修正した.1点目がおもりと糸の結び目
である.ヒートン型ではヒートンに糸を通していただけだったので,振り子の軌道が斜めにずれて
しまった.両サイド型では糸を通すだけでなくヒートンに糸を二重に結んだ.この事で模型全体の
揺れが振り子に伝わりにくくなり,振り子の軌道がまっすぐになると考えた.図 10は両サイド型
での振り子のヒートンの写真である.
図 10 両サイド型での振り子の結び目.
14
もう 1 点はカーテンランナーに関してである.ヒートン型では振り子 1 個に対してカーテンラ
ンナーを 1個しか使用していなかったが,両サイド型では振り子 1個に対して 2個のカーテンラン
ナーを使用した.ヒートン型ではカーテンランナーを振り子 1 個に対して 1 個しか使用しなかっ
たため,振り子の軌道が斜めにずれていってしまったが,両サイド型ではカーテンランナーが振り
子 1個あたりのカーテンランナーの数が 2個に増えることによって,糸の結び目が 2点に増える
ことにより振り子の安定性が強化され,振り子の軌道がまっすぐになると考えた.図 11は両サイ
ド型の模型のイメージである.
図 11 両サイド型.
3.3.2 実験結果,考察
これまでの模型は振り子の軌道が斜めにずれてしまいおもり同士がぶつかってしまい,動画の動
きが再現されなかったが,両サイド型ではヒートン型での修正点が活かされ,おもり同士がぶつか
ることはなかった.振り子を動かし始めてから S 字を描いてかららせんの模様を描き,その後は
YouTubeの動画ほど完璧ではないものの動画のように左端と右端の二つに分かれる動きまでが観
察できた.しかしおもり同士がぶつかる事は最後までなかったものの,徐々に YouTubeの動画の
様子から遠ざかっていき,右端で全ての振り子が一直線で揃う様子は見られなかった.振り子の軌
道をよく観察すると,おもり同士がぶつかってしまった今までのケースほどではないが,振り子の
軌道がたて揺れしていることが分かった.カーテンランナーを 2 個使用しているので軌道は一見
まっすぐになっているように見えたが,実際にはまっすぐではなく小さくたて揺れしていたのであ
る.カーテンランナー 1 個 1 個をテープでしっかりと固定したが,実験を行った際に揺れている
カーテンランナーもあり,この事が原因で振り子の糸が動いてしまって振り子がたて揺れしたと考
えられる.
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3.4 連結型
3.4.1 実験条件,改善点
振り子の糸の長さは引き続き a0 ≃ 53.4 cm,a1 ≃ 50.0 cm,a2 ≃ 46.9 cm,a3 ≃ 44.1 cm,
a4 ≃ 41.5 cm,a5 ≃ 39.2 cm,a6 ≃ 37.1 cm,a6 ≃ 35.1 cm,a8 ≃ 33.3 cm,a9 ≃ 31.6 cm,
a10 ≃ 30.0 cm,a11 ≃ 28.6 cm,a12 ≃ 27.2 cm,a13 ≃ 26.0 cmとする.
連結型では両サイド型から 2つの要素を修正した.修正点は 2点ともカーテンランナーに関する
要素である.
1 点目はカーテンランナーと糸の結び方である.両サイド型では振り子 1 個に対してカーテン
レールを 2個使用した.これにより振り子の軌道は多少修正されたが,まっすぐのように見えて振
り子が横揺れしていたまだまだ不十分であった.そのために図 13のようにカーテンランナーに糸
を結んだ.両サイド型では振り子 1個に対してカーテンレールを 2個使用したが,カーテンレール
をしっかりと固定できなかったため,YouTubeの動画の動きは再現できなかった.連結模型では
振り子 1個に対して振り子を 2個使う点は同じだが,図 12のように隣り合うおもりを結ぶカーテ
ンランナーを共通化した.つまり,おもりは二個のカーテンランナーに結ばれ,両端以外のカーテ
ンランナーにはおもりが二個ずつぶら下げられている.振り子の重みがカーテンランナーの左右両
方から均等にかかることにより,カーテンランナーはしっかりと固定され,振り子の軌道は綺麗な
まっすぐになると予想した.
図 12 連結模型においての振り子の結び目.
もう 1 点の修正点はおもり同士の間隔である.両サイド型までは振り子の軌道に不安があった
ため 3.5 cmの間隔をあけていたが,連結模型ではその不安が解消されたため振り子同士の間隔を
2.0 cmに縮めた.この事で振り子の模様がより滑らかに観察できるようになった.
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3.4.2 実験結果,考察
上で述べた修正点により振り子が横揺れすることなく,軌道は綺麗なまっすぐになった.特に連
結型においては修正点は見当たらなかったので YouTubeの動画の再現を行った.YouTube の動
画で見られた S字の模様,らせん状の模様,左右で振り子が 2つのグループに分かれる様子,右端
で全ての振り子が一直線に揃う様子の全ての美しい動きが観察できた.図 13が完成した連結型の
写真である.
図 13 連結型.
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謝辞
森田研究室の大学院生の鈴木秀典さんにはコンピュータシミュレーションのプログラミング言語
から TeXの使い方まで,たくさんのアドバイスをいただきました.
また,四ツ谷研究室の森竜樹さんには模型作成の際に実験条件について助言をいただきました.
お二人には大変お世話になりました.ありがとうございました.
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参考文献
[1] https://www.youtube.com/watch?v=gViLqrT6UUU, 長さの違う振り子を同時に動かす
と..., 動画投稿サイトYouTube
[2] http://www.math.ryukoku.ac.jp/~tsutomu/undergraduate/2012/12_kawashima_pa.pdf,
川嶋純企, 振り子が織りなす紋様たち, pp. 7-8
[3] http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/SimplePendulum.pdf,
小西克享, 単振り子の振動の近似解と厳密解, p. 3
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