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●研究動向・成果
総合的な土砂管理に資する山地
河川における流砂水文観測
危機管理技術研究センター
砂防研究室 主任研究官(博士(農学)) 内田太郎 研究官(博士(農学)) 鈴木拓郎
(キーワード) 流砂観測、浮遊砂、掃流砂、ハイドロフォン
1.はじめに
ダム堆砂、河床低下・上昇、海岸侵食など、土
砂移動に関わる様々な問題の解消のためには、流
砂系一貫とした総合的な土砂管理が必要であり、
そのためには、土砂移動の出発点である山地から
の水や土砂の流出量と流出特性を把握することが
重要である。
国土交通省では、山地河川の流量・流砂量を定
量的に把握する事を目的とした全国的な流砂水文
観測に平成21年度に着手し、観測体制の整備が進
んでいる。砂防研究室では、観測手法に関する技
術支援、観測データから流砂量への換算手法の開
発、データベースシステム開発などを実施した。
2.流砂水文観測の概要
流砂水文観測の観測項目は、流量、浮遊砂量、
掃流砂量である。流量は、水位計により水位を計
測し、水位-流量関係式より得られる。浮遊砂量
は、濁度計により計測される浮遊砂濃度に流量を
乗じることにより得られる。掃流砂計については
次節で詳述する。
3.掃流砂計(ハイドロフォン)の解析手法
掃流砂計に用いているのはハイドロフォンと呼
ばれる、金属管にマイクを内蔵した音響式センサ
ーである(写真1)。掃流砂の衝突音波から音圧
値を算出して流砂量に換算している1)。音圧値と
は衝突音波の振幅値の平均値のことで、音量とほ
ぼ同義で差し支えない。砂礫が1個ずつ衝突する場
合、音圧値は砂礫の体積に比例する。しかし、砂
礫が集団で衝突する場合、音圧値は個数が多いほ
ど大きくなるものの、砂礫の全体積に比例はしな
い。これは音波の相殺的干渉により音圧値が減少
するためで、音圧値の減少率は単位時間当たりの
砂礫の衝突個数が多いほど大きくなる。例えば、
同じ体積の砂礫が衝突したとしても、砂礫1個当
たりの大きさが小さいほど砂礫個数は多くなるた
め、音圧値は小さくなる(図1)。このような関
係を利用して、数値計算より掃流砂量を算出する。
金属管マイク内蔵
写真1 ハイドロフォン
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0 10 20 30 40
音圧値
流砂量(cm3/sec)
砂礫径毎の実験結果2mm3mm5mm7mm砂礫径毎の数値計算結果2mm-cal3mm-cal5mm-cal7mm-cal
砂礫径大
砂礫径小
図1 流砂量と音圧値の関係(実験及び計算結果)
4.今後の予定
観測データは総合土砂管理や危機管理に活用し
ていくとともに、砂防研究室が開発したデータベ
ースシステムに蓄積していく。さらに、掃流砂計
データから掃流砂量への換算手法については、現
地観測における換算精度の検証を進めた上で、手
法の改良に努める予定である。
【参考文献】
1) 鈴木拓郎・水野秀明・小山内信智・平澤良輔・
長谷川祐治(2010):音圧データを用いたハイドロ
フォンによる掃流砂量計測手法に関する基礎的研
究, 砂防学会誌, Vol.62, No.5, p.18-26, 2010
●成果の活用事例
衛星画像を活用した広域
土砂災害早期把握の事例
危機管理技術研究センター 砂防研究室
主任研究官水野 正樹 研究官林 真一郎 部外研究員佐藤 匠
(キーワード) 衛星画像、判読、河道閉塞、天然ダム
1.はじめに 地震や豪雨等による土砂崩壊で大規模天然ダム等が形成すると決壊氾濫等の二次災害が発生するおそれがあることから、東日本大震災と2011年台風12号の災害では、衛星画像を用いた広域な崩壊地判読を行い、発生した崩壊地を早期に把握した。 2.東日本大震災の広域の崩壊地判読 東日本大震災では、強い震度を広い地域で観測したことから、大規模な崩壊地の発生状況について広域に見落とし無く確認把握するため、衛星光学画像を用いて崩壊地目視判読を実施した。崩壊地判読対象地域は、気象庁発表の推計震度分布で「震度6弱以上の地域を網羅し、かつ震度5強以上を概ね網羅する地域」(図1参照)とした。判読に利用した画像の地域割り当ては、より正確に崩壊地を判別するため、入手できた画像のうち分解能が高い画像から、Google Earth画像、ALOSステレオペア画像、ALOSパンシャープン画像、ALOS AVNIR-2画像の優先順位で割り当てて判読に使用した。 図1 震度5強以上の地域と判読対象地域
衛星画像を用いた崩壊地判読の結果、崩壊箇所数は約200箇所、崩壊面積は合計約30万m2であった。また、天然ダムを形成するような大規模な崩壊は存在しないことが確認できた。 3.2011年台風12号の河道閉塞(天然ダム)探索 2011年台風12号は、9月4日までの長時間強い降雨が続き、紀伊半島で甚大な被害をもたらした。このため、9月5日にヘリによる天然ダム形成確認調査を行った。その結果、2箇所(長殿、熊野)の大規模天然ダムが確認できたが、雲に覆われた大部分のエリアはヘリ調査できなかった。そこで、広域撮影(30km×50km)した衛星SAR画像を用いて、長殿に形成した天然ダムと同様の画像パターンを探して崩壊地判読し、赤谷・栗平を含む8か所の未確認河道閉塞を抽出した(赤谷の事例:図2参照)。そして天候が回復した翌9月6日に衛星SAR画像で抽出した河道閉塞位置をヘリで目視確認し、長殿・赤谷・栗平・熊野の大規模な河道閉塞に対して土砂災害防止法に基づく緊急調査を開始した。 図2 衛星SARで発見された赤谷の河道閉塞
従来、夜間や悪天候時には天然ダム形成確認調査が出来なかったが、今回、衛星SAR画像の広域撮影と崩壊地判読により、悪天候下においても山間部の未確認の天然ダムを探索することによる迅速化に成功し、土砂災害防止法に定める大規模な土砂災害が急迫した時の緊急調査開始や下流の住民避難をより早くすることにつながった。
2011/04/10 [AVNIR2]
2011/04/10 [PRISM]
2011/03/12 [AVNIR2/PRISM]
2011/03/12–04/06 (Google Earth )
ALOS PRISM AVNIR-2 ステレオペア画像 developed by PRISM and AVNIR-2 ALOS パンシャープン画像 image only ALOS AVNIR-2 画像
推計震度 5強以上
TerraSAR-X@PASCO 2011.9.5 観測
崩壊地
湛水池
航空写真2011.9.10撮影
総合的な土砂管理に資する山地河川における流砂水文観測
危機管理技術研究センター
砂防研究室 主任研究官(博士 (農学 )) 内田 太郎 研究官
(博士 (農学 )) 鈴木 拓郎
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安全・安心な社会の実現
1.
研究動向・成果