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研究レポート No.259 April 2006 中国経済の対外依存構造の現状と課題 主席研究員 朱 炎 富士通総研(FRI)経済研究所

研究レポート - Fujitsu · (出所)中国貿易統計により作成。 (注)輸出と輸入の単位は10 億ドル、貿易収支は億ドル、いずれも左目盛。

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研究レポート

No.259 April 2006

中国経済の対外依存構造の現状と課題

主席研究員 朱 炎

富士通総研(FRI)経済研究所

中国経済の対外依存構造の現状と課題 主席研究員 朱 炎

要 旨 1. 中国経済の対外依存が拡大していることによって、貿易摩擦と資源の輸入依存などの

問題を引き起こし、経済成長を制約する要因になっている。激化する貿易摩擦は、さ

まざまな分野に及び、中国の生産、輸出に不安定をもたらしている。資源の輸入依存

は、調達の困難、価格上昇、コスト増加などの問題を惹き起している。 2. 外需依存、大量生産・大量輸出の成長パターン、輸出の低付加価値化、資源の大量消

費と大量輸入などの問題は、貿易摩擦と資源の輸入依存を深刻化させている。 3. 持続的経済成長を維持し、外需依存、資源の輸入依存などの問題を克服するため、国

内経済構造、産業構造を調整する必要がある。まず、経済成長パターンを転換し、内

需の拡大が必要となる。また、産業構造の調整として、輸出製品の高度化、エネルギ

ー・資源消費の節約が重要である。さらに、金融政策、産業政策、価格調整など各分

野の政策協調が不可欠となる。このほか、貿易摩擦の回避と資源獲得のための対外的

なアプローチも積極的に進めなければならない。 4. 貿易摩擦と資源の輸入依存により、中国政府はすでに構造転換の重要性を認識し、政

策面では内需重視などの成長パターンの転換、産業構造の調整などを第 11 次 5 ヵ年

計画に反映させている。 5. 中国経済の対外依存、経済摩擦、構造調整などにより、中国に進出する日系企業は、

現地生産と輸出、対中投資の業種選択などの影響を受けると同時に、現地市場での販

売拡大、省エネと資源節約型の技術移転などのチャンスにも恵まれる。日系企業は中

国の経済・産業構造の調整、政策変更に、早急に対応する必要がある。

目 次

1.はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1

2.貿易摩擦の実態とその影響 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1

2.1 巨額の貿易黒字は貿易摩擦を招く ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1 2.2 中国商品へのアンチダンピング ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3 2.3 EU、米国との繊維摩擦 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5 2.4 貿易摩擦が経済に与える影響 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8

3.資源の輸入依存と経済への影響 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9

3.1 資源の輸入依存とコスト増 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9 3.2 資源関連の対外投資が急増 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 11 3.3 資源の対外依存の経済への影響 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13

4.国際環境の悪化を招いた経済・産業構造の問題点 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13

4.1 中国経済の成長パターンと対外依存 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13 4.2 対外依存の構造的問題点:大量輸出と低付加価値化 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 14 4.3 対外依存の構造的問題点:資源の大量消費と大量輸入 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 15

5.経済・産業構造調整のあり方 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 17

5.1 考えられる対策:構造調整 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 17 5.2 考えられる対策:各分野の政策の協調 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 17 5.3 考えられる対策:対外的なアプローチ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 18 5.4 5ヵ年計画における中国の政策調整 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 20 5.5 日本企業への影響 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 21

参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 22

1.はじめに 中国経済の対外依存が深まってきている。市場、資金、資源など、経済成長に必要な要

素を海外に求めるようになってきている。経済の対外依存の深まりは、貿易・資源・金融

などの分野で諸外国との摩擦を引き起こしている。中国経済を取り巻く国際経済環境の悪

化は、中国の経済成長を制約する要因にもなっている。 しかし、このような国際経済環境変化の一部は、中国経済自身の変化によってもたらさ

れている。中国経済の持続成長に有益な国際経済環境を作り出し、それを維持するために

は、国内の経済構造、産業構造の調整が必要となる。 本論文は、まず、中国経済の対外依存によって生じた貿易摩擦の実態と中国経済に及ぼ

す悪影響を検討する。次に、資源供給の輸入依存の実態と経済への影響を検討する。さら

に、国際経済環境の悪化を招いた経済・産業構造の問題点を指摘する。 後に、経済成長

に有利な国際経済環境を作り出し、維持するために、国内の経済構造調整、産業構造調整

が必要であることを示し、合わせて日本企業への影響も検討する。 2.貿易摩擦の実態とその影響 2.1 巨額の貿易黒字は貿易摩擦を招く

中国の対外貿易は、近年、急速に発展し、経済成長を支える重要なファクターとなって

いる。2004 年から中国は世界 3 位の貿易大国になっている。輸出の伸びがとくに著しく、

近では 3 割以上の伸び率を維持している。輸出の急成長により、貿易黒字の規模も拡大

している。2004 年の貿易黒字は 319.5 億ドルであったが、2005 年には 1018.8 億ドルに

達している(図表 1)。

図表 1 輸出の急増で貿易黒字が拡大

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100

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1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05

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35

40%

輸出(10億ドル) 輸入(10億ドル)

輸出伸び率(右目盛) 貿易収支(億ドル)

1018.8

10億ドル/億ドル

年 (出所)中国貿易統計により作成。 (注)輸出と輸入の単位は 10 億ドル、貿易収支は億ドル、いずれも左目盛。

貿易黒字が拡大することによって、諸外国との貿易摩擦、すなわち中国商品に対する輸

入規制や、アンチダンピング制裁の急増を招いた。一方、貿易相手の国・地域によって貿

易収支の状況は大きく異なる。現状では、中国の貿易黒字のほとんどは米国、欧州から得

ているが、日本を含む周辺のアジア諸国に対しては赤字となっている(図表 2)。ちなみに、

中国の対香港貿易は大幅の黒字を保っているが、これは、香港経由の対米、対欧輸出によ

ってもたらされたものであり、対香港貿易黒字は、実質上の対米、対欧黒字である。

図表 2 対主要国・地域の貿易収支

1123

702

1142

-2000

-1500

-1000

-500

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1000

1500

2000

2500

3000

2000 2001 2002 2003 2004 2005

億ドル

米国

EU

香港

ASEAN

日本

韓国

台湾

その他

貿易収支全体

年 (出所)中国貿易統計により作成。 (注)ASEAN は 10 カ国。EU の 2000~2004 年は 15 カ国、2005 年は 25 カ国。

中国の貿易は、大きくいえば、日本を含むアジアの周辺諸国から素材、部品を、他の国

から資源を輸入して、中国の安い労働力と「世界の工場」といわれる生産能力を活用し、

安い製品を欧米の先進諸国に大量輸出するという構造である。そのため、対米、対欧には

巨額の貿易黒字が存在するという状況が続いている。米国サイドからみれば、対中貿易赤

字が 大の赤字となっている。2004 年の米国の対中貿易赤字は 1620 億ドルに達したが、

2005 年には 2000 億ドルの大台に乗り記録を更新した。米国の貿易赤字に占める中国の割

合が大幅上昇し、27.8%に達した(図表 3)。一方、EU サイドからみても同じ状況が確認

できる。2004 年、EU25 カ国合計の対中赤字は、過去 高の 820 億ユーロに達した。

図表 3 米国・EUの対中国貿易赤字の急増

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1000

1500

2000

2000 01 02 03 04 05

億ドル

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30%

赤字全体に占める中国のシェア(右目盛)

米国の対中貿易赤字

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700

800

900

2000 01 02 03 04

億ユーロ

EU(25カ国)の対中貿易赤字

年 (出所)米国商務省、EuroStat により作成。 (注)EU の対中貿易赤字は 25 カ国合計の対中輸出と輸入で計算。

中国の貿易黒字はおもに米国と EU に集中しているため、また米国と EU の貿易赤字も

おもに中国に集中しているため、中国と米国、中国と EU の間には貿易摩擦が頻発するよ

うになる。この結果、中国からの輸入商品を対象とする輸入制限、セーフガード、アンチ

ダンピング措置が頻繁に発動されている。 2.2 中国商品へのアンチダンピング

中国の安い商品の大量輸出は、世界各国からアンチダンピング措置の発動を招き、中国

は世界でアンチダンピング措置を受けることが一番多い国となっている。世界貿易機構

(WTO)の統計によると、1994 年以降、中国商品を対象とするアンチダンピング調査件

数と発動件数はいずれも 多であり、世界全体の 1~3 割を占めている(図表 4)。1995~

2004 年の累計では、調査件数で 411 件、発動件数で 297 件となっており、それぞれ世界

全体の 15.5%、17.9%を占めている。

図表 4 中国商品へのアンチダンピング措置

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50

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1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04

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15

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30

%調査件数:中国 発動件数:中国

調査件数のシェア 発動件数のシェア

年 (出所)WTO, 2005 年 5 月 19 日発表により作成。 (注)シェアは世界各国合計に占める中国の割合。

中国からの輸出商品を対象とするアンチダンピング措置は、どの国で、その分野に多い

のであろうか。1995~2004 年合計 411 の調査件数と 297 の発動件数の中味をみると、米

国と欧州からの件数が多く、それぞれ 1 割以上を占めている(図表 5)。アンチダンピング

措置の適用は、中国の輸出に大きな影響を及ぼしている。ちなみに、インド、アルゼンチ

ン、トルコなどの国による対中アンチダンピングの件数も多いが、中国の輸出産業に及ぼ

す影響は小さい。業種別では、化学製品、金属製品が も多いが、機械・電機も一定のウ

ェートを占めている。 近では、繊維製品や、雑製品が増えている。

図表 5 対中アンチダンピングの国別・業種別構成 調査件数 シェア(%) 発動件数 シェア(%)

合計件数 411 100.0 297 100.0 (全体の 15.5%) (全体の 17.9%) 提訴国別 米国 57 13.9 44 14.8 欧州 52 12.7 32 10.8 提訴業種別 化学 98 23.8 80 26.9 プラスチック製品 26 6.3 18 6.1 繊維 23 5.6 15 5.1 靴・鞄 12 2.9 12 4.0 鉱物製品 22 5.4 11 3.7 金属製品 96 23.4 71 23.9 機械・電機 43 10.5 25 8.4 雑製品 29 7.1 29 9.8 (出所)WTO, 2005 年 5 月 19 日発表により作成。 (注)合計件数における全体のシェアは、世界のアンチダンピング件数全体に占める対中

国製品提訴の割合。 2.3 EU、米国との繊維摩擦

2005 年に入ってから、中国と EU、中国とアメリカとの間に、繊維製品の輸出入を巡っ

て、新たに貿易摩擦が発生した。 WTO の取り決めに沿って、先進諸国は 2005 年から途上国に対して、輸入割り当て制度

(クォータ)を撤廃した。そのため、2005 年に入ってから、中国の繊維製品の輸出が急増

し始めた。なかでも、対米および対 EU の繊維製品輸出の伸び率が高く、全体の伸び率を

大きく上回った(図表 6)。2005 年、中国の繊維製品輸出は全体で前年同期比 21.3%しか

伸びなかったが、対米輸出は 83.9%、対 EU 輸出は 71.6%も伸びた。しかも、割り当て制

度が撤廃された直後、摩擦がまだ表面化していなかった上半期に伸びた。

図表 6 急増する対米・対 EU の繊維製品輸出

0

5

10

15

20

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1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

億ドル

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140

160

180%

対EU輸出対米輸出全体伸び率対EU伸び率対米伸び率

(出所)中国貿易統計により作成。 (注)繊維製品としてはHS分類のⅩⅠ類を取り上げた。2005 年 1~12 月。

繊維製品輸出が急増した結果、中国と米国、中国と EU との間で、繊維製品に関する貿

易摩擦が発生した。中国繊維製品に対して、5 月、EU は 2 品目、米国は 2 回に分けて 7品目のセーフガードを発動し、輸入規制を実施した。これが、今回の繊維摩擦の幕開けと

いえる。 中国が WTO に加盟する際、米国および EU との調印文書には、繊維製品貿易に関して、

2008 年末まで、中国からの繊維製品輸入が年 7.5%の伸びを超え、市場の混乱と産業に打

撃があった場合、中国からの輸入を制限することができるという規定が盛り込まれた。こ

れは、今回のセーフガードの法的根拠である。 また、中国国内の原因として、多くの繊維・アパレルメーカーが、先進諸国の繊維製品

輸入のクォータ撤廃を見込んで、2004 年に生産規模を拡張する投資を行い、2005 年に入

ると同時に輸出を急拡大させた。一方、欧米の小売業者もクォータ撤廃にあわせて、中国

への発注を拡大させた。 中国政府は、貿易摩擦を防ぐため、いままで徴収していなかった輸出関税を繊維製品に

限って導入した。2005 年 1 月から、繊維製品 148 品目に対して輸出関税を徴収し、5 月

には 74 品目の輸出関税税率を引き上げた。同時に、従来輸出を奨励する措置として実施

してきた繊維製品への輸出税還付も、その還付比率も一部引き下げるか、もしくは撤廃し

た。すなわち、中国政府は、繊維製品輸出を自主規制する方法で、貿易摩擦を未然に防ぐ

ことを図ろうとした。 しかし、繊維製品輸出の急増は止まらず、5 月以降、EU と米国政府は相次いで中国か

らの繊維製品輸入に対して、規制を拡大することになった。

5 月に入って、中国は繊維製品の貿易摩擦に関し、EU との交渉を始めた。同時に、数

量制限の制裁を受けることによる輸出業者の負担増を軽減するため、輸出関税の徴収を中

止する措置もとった。6 月 11 日、10 時間にわたる交渉の末、中国と EU は繊維製品貿易

について合意した。この合意によると、05 年 6 月から 07 年末まで、10 品目の対欧輸出を

対象に、合理的な数量ベースに基づき、伸び率を年 8~12.5%とし、2008 年以降はこれら

の規制を撤廃することとなった。 また、8 月になりと、中国の輸出業者による駆け込み輸出が急増し、EU と中国が合意

した EU の輸入数量枠を大幅に上回ったため、EU 各国の港の税関に中国からの輸出繊維

製品が大量に滞留するという問題が生じた。9 月、税関に滞留する中国繊維製品の問題に

ついて交渉し、輸入枠を超えた税関に滞留する8000万件にのぼる中国製繊維製品のうち、

半分を輸入割当枠外で輸入、残る半分は06年の輸入割当枠から控除することで合意した。

これで、今回の中国と EU の繊維摩擦は解決した。 一方、中国とアメリカの繊維貿易に関する交渉は 7 月から始まって計 7 回行われ、11月に合意に達した。米中合意によると、中国が 21 種類の製品輸出を自主規制し、米国の

2006 年の輸入枠は 05 年実績より 10~15%増、07 年は前年実績より 12.5~16%増、08年は前年実績より 15~16%増とした。 これで、中国と EU、米国との繊維貿易の摩擦はほぼ解決した(図表 7)。中国にとって、

欧米と合意した繊維製品輸入(すなわち中国の輸出)の伸び率は、WTO 加盟時の規定で

認められた年間伸び率である 7.5%を上回り、中国の利益は確保できた。EU と米国から見

れば、中国から輸入の急増を食い止め、自国産業の保護も図ることができた。

図表 7 EU、米国との繊維摩擦の経緯

1月 繊維製品148品目に輸

出関税を徴収

5月  74品目の輸出関税税

率を引き上げ

6月 81品目の関税徴収を中

止。EUと交渉、合意

7月 米国との交渉開始

8月 17品目の関税徴収を中

止。EUと再交渉

9月 EUと合意

10月対欧輸出割り当て枠の

入札

11月米国と合意

5月 中国の繊維製品2品目を輸入規制

6月 中国と交渉、合意

8月 中国からの繊維製品輸入が合意の限度を超え、税関に滞留

9月 税関で滞留する繊維製品について交渉、合意

5月 中国の繊維製品7品目を2回で輸入規制

6月 6品目の輸入規制の調

査開始7月 中国との交渉開始8月 5品目の輸入規制の要

請を受理   2品目の輸入規制決定

を延期9月 2品目の輸入規制を決

定10月 13種類の中国繊維製

品への規制を考慮11月第7回交渉で合意

中国 EU 米国

(出所)各種報道によりまとめ。

その後、2006 年 2 月、EU は中国から輸入する革靴に対して、アンチダンピング関税を

徴収すると決定した。中国と EU の貿易摩擦は新しいラウンドに入った。 2.4 貿易摩擦が経済に与える影響

貿易摩擦は、中国経済にさまざまなマイナスの影響をもたらした。 割り当て廃止と貿易摩擦で大きく揺れた繊維産業は、その影響がとくに大きかった。 繊維産業は中国にとって、雇用と輸出の両面において極めて重要かつ強い競争力を持つ

労働集約的な産業である。2004 年、繊維産業の売上げは 1.58 兆元(約 22 兆円)、1021万人を雇用し、製造業全体の 8.4%および 16.7%を占め、繊維製品の輸出は 1072 億ドル

で、輸出全体の 18.1%を占めている。そのため、貿易摩擦による影響も深刻である。 割り当て制度廃止に備えて、多くの繊維企業は 2004 年から投資を増やし、生産規模を

拡大した。割り当て制度廃止後の 2005 年に入って、対欧米輸出が急増し、結果としてセ

ーフガードを招いた。欧米が中国からの繊維製品輸入を規制し始めた後も、多くの輸出業

者は欧米市場への駆け込み輸出を行い、06 年の輸入枠まで繰り上げ使用した。年央以降、

繊維製品の対欧米輸出はセーフガードの影響を受け、伸び率も低下した。10 月の広州交易

会で繊維製品輸出の成約額は前年より 1 割減、対米は 4 割減となった。貿易摩擦と欧米の

輸入枠設定により、一部の繊維企業は輸出減少から生産停止、収益悪化などの影響を受け

た。実際、繊維産業の経営指標を見ると、設備投資は 04 年に急増していたが 05 年に伸び

率が低下し、輸出、売上げ、利益は、05 年下期にはいずれも伸び率が低下する傾向が見ら

れた。 貿易摩擦による経済全体への影響はさらに大きい。中国商務省の推計によると、アンチ

ダンピングの被害は輸出の約 1%に相当し、2005 年の輸出額で計算すれば、70 億ドル以

上の損害となる。こうした直接的影響に比べて、間接影響はさらに大きい。貿易摩擦は、

企業の輸出・生産に不安定性をもたらし、中国の経済成長に悪影響をもたらすことになる。 今後、輸出の拡大につれ、中国と諸外国との貿易摩擦はさらに激化する可能性が大きい。

地域的には広がり、現在の EU、米国に加え、アフリカ、中南米まで拡大するであろう。

産業的にも拡大し、鉄鋼、自動車、IT 製品などにも及ぶであろう。 したがって、貿易摩擦を避ける対策を考えなければならない。

3.資源の輸入依存と経済への影響 高成長によって、エネルギー、鉱物資源、素材などに対する需要が急増している。国内

生産が充分に供給できないため、国際市場から調達しなければならない。輸入急増により、

国際市場での価格上昇、コスト増加などの問題をもたらされている。同時に、海外の資源

獲得を図るため、資源関連の対外投資、企業買収が急増し、「中国脅威論」を招いている。 3.1 資源の輸入依存とコスト増

中国で需要が急増し、輸入に依存しなければならない資源は、原油、鉄鉱石、非鉄金属

の鉱石と製品などである。 原油に関しては、1993 年に中国は純輸入国になり、輸入量が拡大してきた。一方、国内

の原油生産は大幅に拡大する能力はなく、原油需要の輸入への依存がますます高くなって

いる。2004 年に原油輸入量は 1.23 億トンに達し、前年比 34.8%も増えた。中国は世界 3位の原油輸入国となり、その輸入量は世界貿易量の 6~7%を占めるようになった。2005年には、04 年の大量輸入と在庫調整などの原因で、輸入量は前年比 3.5%増の 1.27 億トン

に止まったが、輸入依存度は 42.4%の高水準を維持している(図表 8)。

図表 8 拡大する原油輸入と上昇する輸入依存度

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05

億トン

-40

-20

0

20

40

60

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100%

原油輸入量

輸入伸び率

輸入依存度

年 (出所)『中国統計年鑑』、速報により作成。 (注)輸入依存度=輸入量/(生産量+輸入量-輸出量)。

鉄鉱石は中国が大量に輸入するもう 1 種類の資源製品である。経済成長に伴って、鋼材

への需要が急増するため、鉄鋼生産も急拡大してきた。2004 年に粗鋼生産量は前年比

22.8%増の 2.7 億トンに達し、05 年はさらに 29.2%増の 3.5 億トンに増えた。鉄鉱石の国

内生産も拡大しているが、輸入はそれ以上のスピードで急増している。2004 年に、中国は

2.08 億トンの鉄鉱石を輸入し、前年比 40.4%も増えた。中国の鉄鉱石輸入は世界一で、世

界全体の 36%を占めている。輸入鉄鉱石の輸送量は世界海運量の 40%も占めた。2005 年

には、鉄鉱石輸入量は、さらに前年比 32.3%増の 2.75 億トンに達している(図表 9)。

図表 9 鉄鋼生産の拡大で鉄鉱石輸入が拡大

0.0

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1.0

1.5

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2000 2001 2002 2003 2004 2005

億トン

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35

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45%

鉄鋼生産

鉄鉱石生産

鉄鉱石輸入

鉄鉱石輸入依存度

鉄鉱石輸入の伸び率

鉄鋼生産の伸び率

鉄鉱石生産の伸び率

年 (出所)『中国統計年鑑』、速報により作成。 (注)輸入依存度=輸入量/(生産量+輸入量)。

原油と鉄鉱石以外についても、非鉄金属とその原料となる鉱石の輸入が急増し、世界市

場で大きなシェアを占めるようになっている。例えば、銅の輸入量は世界貿易量の 20%も

占めている。 中国の輸入急増で、資源関連の世界市場における価格の急騰が引き起こされた。例えば、

原油価格は 2003 年の 1 バレル 30 ドル台から 2005 年下半期の 60 ドル以上に上昇し、銅

の価格は同じ時期に 1 トン 1500 ドルから 4500 ドル以上に上昇した(図表 10)。価格上昇

は中国以外のさまざまな要因によってもたらされたが、中国の需要拡大と輸入急増も大き

な影響を与えた。ほかにも鉄鉱石、石炭、その他金属の価格、海運運賃などもいずれも急

騰した。例えば、2005 年 4 月に、鉄鉱石の長期契約の輸入価格は前年より 71.5%も上昇

した。

10

図表 10 原油と銅の国際価格の急騰

20

30

40

50

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70

03/1 03/4 03/7 03/10 04/1 04/4 04/7 04/10 05/1 05/4 05/7 05/10 06/1

ドル/バレル

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

5000

5500ドル/トン

原油(WTI)、左目盛

銅(LME)、右目盛

(出所)CEIC データにより作成。

国際市場での価格急騰によって、中国の企業は大きなコスト増加を負担しなければなら

なくなった。輸入単価が近年大きく上昇したため、原油輸入額は 2004 年に 141 億ドル増、

2005 年に 138 億ドルも増加し、鉄鉱石輸入額も同 78 億ドル、57 億ドル増加した。これ

は、中国の生産企業、そして 終的には消費者のコスト増となった。しかも、輸入量の増

加によるコスト増に比べて、価格上昇によるコスト増のほうが大きい(図表 11)。

図表 11 価格高騰で輸入コストの大幅増 原油 鉄鉱石 2002 年2003 年2004 年2005 年2002 年2003 年 2004 年 2005 年

輸入量(万トン) 6,942 9,113 12,283 12,682 11,149 14,820 20,808 27,526輸入額(億ドル) 127.6 198.2 339.1 477.2 27.7 48.6 127.0 183.7輸入単価(ドル/トン) 183.8 217.5 276.1 376.3 24.8 32.8 61.1 66.7前年比輸入額増加(億ドル) 10.9 70.6 140.9 138.1 2.6 20.9 78.5 56.7単価上昇による増加 -6.9 30.7 71.9 127.1 -2.5 11.8 58.8 15.6輸入拡大による増加 17.8 39.9 69.0 11.0 5.2 9.1 19.6 41.0

(出所)中国貿易統計により作成。 (注)輸入単価は輸入額と輸入量による単純計算。

3.2 資源関連の対外投資が急増

資源需要拡大に対応して、中国企業は輸入を急増させる一方で、海外で資源を取得、確

保し、直接掌握するため、直接投資と企業買収を拡大させてきている。

11

資源関連の中国企業による対外投資は、さまざまな方法で進められている。例えば、油

田・ガス田への出資、採掘権の取得、石油会社の買収、鉄鉱石、銅など非鉄金属の鉱山の

買収などが挙げられる。 中国の対外投資統計によると、近年の対外投資、とくに資源開発にかかわる投資が急増

している。2004 年までの鉱業における対外投資のストックは 59.5 億ドル、全体に占める

シェアは 13.3%であるが、2004 年のフローでは、前年比 30.5%増の 18 億ドル、対外投資

全体の 32.7%を占めた。 石油分野の対外投資はとくに活発である。中国の国家石油会社 3 社は、世界各地で事業

を展開し、油田・ガス田への出資、開発権益の獲得、石油会社の買収など、対外投資を積

極的に進めている(図表 12)。

図表 12 中国のメジャー3社の対外投資と海外事業 事業内容

中国石油天然気

(CNPC)

・1995、タイ、油田開発の作業権利を獲得、中国企業の初めての海外石油開発 ・1999、スダン、 初の油田が操業開始 ・2002、インドネシア、米Devon Energy 社が所有する油田とガス田を買収 ・2003、アルジェリア、石油開発、探査で 3 つの契約を獲得 ・2004、スダン、共同建設のパイプラインが操業 ・2005、ベネズエラ、油田とガス田の開発を決定 ・2005、カナダ、パイプラインの建設への参加を決定 ・2005、カナダ、PK 石油を 41.8 億ドルで買収、カザフスタンでの油田を獲得

中国石油化工

(Sinopec)

・2001、スダン、独資での油田開発を開始 ・2002、アルジェリア、油田改造プロジェクトを落札 ・2003、ナイジェリア、油田開発権を落札、1.5 億ドル ・2003、カザフスタン、米国の第一国際石油を買収、カザフスタンにある油田を獲得 ・2005、カナダ、香港和記黄埔が所有する Husky 社の買収で交渉中、約 90 億ドル ・2005、カナダ、オイルサンドの共同開発に参入

中国海油石油

(CNOOC)

・2002、インドネシア、スペイン Repsol-YPF 社所有の油田とガス田を買収、5.85 億ドル

・2002、インドネシア、米 BP からガス田の権益購入、2.75 億ドル ・2003、オーストラリア、海上ガス田に資本参加、25%、3.48 億ドル ・2005、ミャンマー、3 つの油田・ガス田の探査、共同開発 ・2005、カナダ、MEG 社の 16.7%の株式を 1.5 億カナダドルで取得、オイルサンドの

開発に参入 ・2005、米国、Unocal 社を 185 億ドルで買収すると提案、断念 ・2006、ナイジェリア、1 つの海上油田の 45%の権益を 22.7 億ドルで買収

(出所)各種新聞報道により筆者まとめ。

一方、中国政府も資源獲得のための対外投資、企業の買収活動をバックアップし、資金

支援などを含めて全力で支援している。同時に、外交政策においても資源獲得を重視する

ようになっている。 中国企業の海外で行っている資源獲得の投資活動は、関係国の警戒を招いている。一部

の国では、国家戦略にかかわる資源分野において、中国企業による買収が政治問題化して

12

いる。政治的介入により、買収が断念せざるを得なくなった事例も多い。例えば、2004年に、中国の五鉱集団がカナダの鉱山会社である Noranda を 60 億ドルで買収しようとし

たが、議会などの反対で実現できなかった。また、2005 年に、中国海洋石油は、米国の第

9 位の石油会社で、中央アジアに多くの油田を保有する Unocal を 185 億ドルで買収しよ

うとしたが、政治的理由で実現しなかった。 3.3 資源の対外依存の経済への影響

資源の対外依存は、中国経済にさまざまな影響を及ぼしている。例えば、中国の資源需

要急増により、輸入が急拡大したため、世界市場で供給が逼迫し、中国が国内の需要に必

要な量を充分に調達することが難しくなってきている。需給のバランスが崩れたため、国

際価格の急騰を招き、中国企業にとって、大幅なコスト増を余儀なくされている。 また、価格上昇は国内での投資を誘発し、生産過剰、産業構造の歪みなど、国内の産業

にもさまざまな問題をもたらした。 同時に、中国の資源の対外依存は、世界経済にも影響を及ぼしている。中国からの大量

輸入で、国際市場での価格上昇が刺激され、市場の混乱をもたらした。 資源分野における中国の対外投資の大幅増加、とくに企業買収は、関係諸国からの中国

への警戒を招き、「中国脅威論」を招くこととなった。すなわち、対外投資と企業買収を通

じて資源の確保を図っても、経済的理由で警戒され実現できないのみならず、関係国との

利益衝突という政治問題を引き起こす。 こうしたことから、資源の対外依存の問題は、すでに経済成長を妨げる制約要因になり

つつある。中国にとって、この問題に真剣に対応しなければならない。 4.国際環境の悪化を招いた経済・産業構造の問題点 貿易摩擦、資源の制約など、経済の対外依存から生じた問題は、国内の経済構造、産業

構造とも密接な関係がある。言い換えれば、こうした問題は、国内の経済構造、産業構造

の問題によってもたらされたといえる。 4.1 中国経済の成長パターンと対外依存

この 20 数年間、中国の経済成長の基本的なパターンは、世界経済との結び付けを強化

しながら、輸出促進、外資導入を重視する経済成長、すなわち輸出と外資主導の経済成長

であった。輸出、外資による経済成長への貢献は極めて大きい。その結果、市場、投資、

資源のすべてが対外依存となってしまった。しかし、対外依存によって、中国経済を取り

巻く国際環境が悪化し、貿易摩擦、資源制約が経済成長の制約要因になっている。 経済成長パターン、外需依存の実態の一側面を輸出依存度でみることができる。中国の

13

輸出依存度は、90 年代におおむね 20%で推移していたが、2000 年以降大幅に上昇し、2004年には 35.9%まで上昇した。比較すると、米国は 6.9%、対外依存が高いといわれている

日本でさえ 12.1%に止まっている(図表 13)。

図表 13 経済成長の外需依存、輸出依存度の高まり

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04

中国

日本

米国

年 (出所)CEIC データにより作成。 (注)輸出依存度=輸出/GDP。

経済成長に有利な国際環境を作り出し、維持するためには、対外依存の成長パターンか

らの転換を考える必要がある。 4.2 対外依存の構造的問題点:大量輸出と低付加価値化

現在の中国の経済成長は、ある程度大量生産、大量輸出で維持されているといえる。 大量輸出のために、中国は大量生産を行う「世界の工場」になった。「世界の工場」の機

能を維持するため、さらに大量に輸出しなければならない。同時に、輸出の拡大は、貿易

摩擦の激化、人民元高圧力を招き、輸出の抑制を引き起こす。すなわち、大量生産、大量

輸出という構造のもとで、中国経済はこのような 2 つのジレンマに直面している。 輸出の構造においても、低付加価値という問題を抱えている。現状では、中国の輸出産

業の優位性と競争力は、低賃金などによる低価格にある。機械電機製品の輸出が拡大して

いるが、輸出の大部分は依然として低価格の労働集約型製品である。すなわち、中国にと

って、交易条件が有利とはいえない。 また、輸出の方式別構成からみれば、中国の輸出のうち、委託加工型貿易のシェアが極

めて高い。2005年の輸出のうち、一般貿易は41.3%しか占めていないが、委託加工は54.7%を占めている(図表 14)。委託加工型貿易は、輸入した原材料・部品を用いて加工して輸

14

出する貿易形態であり、輸出製品の価格に占める輸入した原材料のウェートが大きく、労

賃収入などの付加価値のウェートが小さい。委託加工型の輸出が多ければ、付加価値が少

なく、輸出額が膨らに、貿易摩擦を招きやすいが、その割に得られる利益は小さい。

図表 14 輸出の方式別構成の推移

0

10

20

30

40

50

60

1993 95 97 99 01 03 05

%委託加工輸出

一般貿易輸出

その他

年 (出所)中国貿易統計により作成。

中国の輸出製品の付加価値が低いことは、以下の 3 つの事例で分かる。 第 1 の事例は、飛行機とワイシャツ・靴である。中国の薄熙来商務相が 2005 年 5 月に

欧州を訪問する際に明らかにしたが、欧州から大型旅客機 Airbus 380 を一機購入するた

めには、中国は 8 億枚のワイシャツ、もしくは 1 億足の革靴を輸出しなければならない。 第 2 の事例は、マウスの利益配分である。Wall Street Journal の報道によると、スイス

のLogitech社が中国蘇州で生産し、米国で販売するWandaブランドの無線マウスの場合、

米国での販売価格は 40 ドル、そのうち、Logitech は 8 ドル、流通企業は 15 ドル、部品

メーカーは 14 ドルを得るのに対して、中国の生産工場は僅か 3 ドルしか得られない。 第 3 の事例は、おもちゃのバービー人形輸出の利益分配である。蘇州にある中国企業が

委託加工と OEM 方式で生産したバービー人形は、米国市場での販売価格が 10 ドルであ

るが、輸出価格(fob)は 2 ドルしかない。この 2 ドルのうち、1 ドルは管理費と輸送費、

0.65 ドルは輸入原材料であり、中国企業の収益は残りの 0.35 ドルである。 4.3 対外依存の構造的問題点:資源の大量消費と大量輸入

中国の経済・産業構造の特性および対外依存から、資源の大量消費、大量輸入の体質が

生まれた。 まず、輸出拡大により、素材への需要が高まった。輸出製品の生産への素材供給は、資

15

源関連の需要拡大と輸入増加の一因となる。 また、国際分業の進展も素材への需要を拡大させている。中国は外資導入を通じて、先

進国からの産業移転を受け入れてきた。そのうち、先進諸国からスピンアウトされたエネ

ルギー多消費型、資源依存型産業の移転も受け入れてきた。こうした産業は中国に移転し

てきても、世界に供給しなければならず、その生産と輸出を拡大すると、当然、資源と素

材への需要が拡大し、輸入依存につながる。 資源の輸入依存は、中国の国内産業にも大きな影響を与えている。 第 1 の影響は、コスト増加である。資源・素材の需要増により、輸入が急増し、国際市

場での価格急騰を招き、結果として、国内企業は大幅なコスト増を負担しなければならな

くなった。 第 2 の影響は、資源と素材の価格上昇がさまざまな問題を誘発したことである。資源と

素材の価格上昇は、投資を誘発し、産業構造の歪みをもたらすのみならず、その後の生産

過剰を生じ、価格下落で企業の収益が悪化した。国内の生産過剰により、輸出が急増し、

新たな貿易摩擦を誘発した。 2003~05 年、中国の鉄鋼産業はまさにこのような姿であった。中国の高成長により、

鋼材への需要が急増し、2003 年から鋼材価格が上昇し始めた。国内鉄鋼メーカーは相次い

で生産拡大に投資した。しかし、04 年以降、鉄鉱石の輸入価格が上昇し始めた。05 年に

入ると、引き締め政策の実施で鉄鋼需要の増加は抑えられたが、生産量は前年比 29.2%増

の 3.48 億トンに達し、生産過剰になり、鋼材価格も下半期から下落し始めた。国内の鉄鋼

産業は鉄鉱石の価格上昇と鋼材の価格下落という二重の打撃を受けて、多くの鉄鋼メーカ

ーが赤字を計上した。国内市場の供給過剰と価格下落により、多くの企業は輸出に活路を

求め始めた。鋼材輸出は 04 年に前年比 104.6%増の 1422 万トン、05 年は 44.4%増の 2053万トンに達した。 このように、経済の対外依存により、国際経済環境が悪化し、貿易摩擦と資源供給など

の問題が、すでに経済成長を制約する要因になっている。経済成長に有利な国際環境を作

り出し、維持するためには、成長パターンの転換、経済・産業構造の調整が不可欠である。

16

5.経済・産業構造調整のあり方 構造調整はさまざまな側面から行う必要があり、以下のような対策が必要となる。 5.1 考えられる対策:構造調整

経済構造の調整における 大の課題は、成長パターンの転換である。すなわち、外需依

存を減らし、内需を拡大させることが重要である。いままで、内需が投資に牽引されてき

たが、消費をいかに拡大するのかが課題である。また、第三次産業を発展させることも不

可欠である。 一方、産業構造の調整に関しては、2 つの側面で努力する必要がある。 第 1 に、輸出製品の高度化である。中国の輸出産業は、低コスト、低価格に頼ることが

限界に来ており、安い労働力の優位性を失いつつある。今後、輸出製品の高付加価値化、

自社ブランドを含む輸出製品の高度化を図らなければならない。 第 2 に、資源消費の節約である。中国の産業構造はエネルギー多消費型、資源依存型の

産業構造である。そのため、石油、鉱物資源、素材の大量消費と大量輸入を続かざるを得

なくなっている。中国国家統計局の発表によると、2004 年、中国の GDP は世界の 4.4%しか占めていないが、資源消費の世界に占める割合は、原油は 7.4%、石炭は 31%、鉄鉱

石は 30%、鋼材は 27%、酸化アルミ(電解アルミの原料)は 25%、セメントは 40%と極

めて高い。そのため、省エネと資源節約の推進が不可欠であり、資源依存型から脱却しな

ければならない。 5.2 考えられる対策:各分野の政策の協調

第 1 に、通商政策と金融政策の協調である。人民元の為替レートが実勢より安くなって

いることは、貿易摩擦を発生させた一因である。2005 年 7 月に、人民元は 2%の切り上げ

を実施した。その後、小幅ながら、人民元為替レートは元高の方向に調整し続けてきた。

貿易摩擦を激化させないため、今後、人民元高への為替調整を継続すべきである。 第 2 に、通商政策と産業政策の協調である。例えば、低価格、低付加価値、大量輸出で

貿易摩擦を引き起こしやすい産業の発展を規制する必要がある。また、輸入資源依存型、

エネルギー消費型製品の輸出を規制する必要もある。電解アルミ、鉄合金などの輸出はそ

れに当て嵌まる。中国での電解アルミ、鉄合金の生産・輸出の拡大は、実際、先進国が生

産と輸出を放棄したことによって現われたチャンスであり、すなわち先進国から産業移転

を受けた結果である。輸出の拡大は、外貨獲得と加工費收入というメリットがあるが、多

くの資源を輸入し、多くのエネルギーを消費するのみならず、環境問題を中国に残した。

2003 年、アルミの輸出は前年比 50 万トン増加したが、その 50 万トンの増産のため、75億 kw の電力を消費し、中国全体の電力不足分の 15~20%に相当した。また、アルミの生

17

産・輸出は、原料である酸化アルミを輸入し、電解してアルミブロックを輸出する形で行

われており、原料の輸入と製品輸出を相殺してあと、稼いだ外貨は僅か 9000 万ドルであ

った。このような割に合わない輸出は、規制しなければならないであろう。 いままで実施してきたさまざまな輸出奨励政策も見直す必要がある。とくに輸出税還付

制度の見直しは不可欠である。輸出税還付制度は 1985 年から実施し、輸出の拡大に大き

く貢献したが、現在、財政の大きな負担になっている。2004 年、輸出税還付額は 4200 億

元(例年の未還付額も含む)に達し、同年の財政収入の 15.9%、税収の 17.4%にも相当す

る。中央政府の財政難により、税関から企業への還付支払いは数年間滞ることが多発して

いる。貿易摩擦の解消と財政問題の解決のため、今後、産業別に輸出税還付の撤廃もしく

は還付率の引き下げを実施しなければならない。自力で輸出でき、採算が取れる低価格、

低付加価値、大量輸出製品、輸入資源依存型、エネルギー多消費型産業と製品が対象にな

ろう。 第 3 に、資源関連の価格調整も必要である。中国では、資源・エネルギー関連製品の価

格が低く抑えられている。低価格は歪みをもたらし、省エネ、資源の節約にマイナスであ

るのみならず、輸出製品のコストを低く抑えたことで貿易摩擦の遠因にもなっている。し

たがって、資源・エネルギー価格の引き上げは不可欠である。価格調整は産業構造調整の

一環として、資源節約、省エネを促進するのみならず、輸出製品の適正コストの形成にも

プラスであり、貿易摩擦の解決策にもなる。石油価格を例にすれば、2004 年以降の原油の

国際価格上昇に対応して、石油関連製品の国内価格の調整幅が小さく、時期も遅れた。ガ

ソリン価格は、この 2 年間倍も上昇したが、現在の価格は米国の 7 割、日本の約半分に止

まっている。 5.3 考えられる対策:対外的なアプローチ

国内での経済・産業構造の調整、各分野の政策協調のほかに、対外的なアプローチを積

極的に進めることも重要である。 中国の経済発展を取り巻く国際環境を改善するため、とくに貿易摩擦の回避に対して、

以下の対策が不可欠である。 第 1 は、輸入を拡大し、貿易不均衡を改善することである。中国の輸入規模は 2005 年

にすでに 6601 億ドルに拡大し、世界 3 位になっているが、 も重要な輸出市場である米

国と EU との間では、貿易収支は依然として巨額な黒字であり、大規模な買い付けによる

輸入を増やさなければならない。しかし、欧米によるハイテク製品の対中輸出規制が依然

として存在している現状では、航空機の大量購入が唯一の選択である。実際、中国は欧米

と貿易摩擦が発生するたびにジェット旅客機を大量に購入してきた。例えば、中国は 2005年 5 月、EU との繊維貿易摩擦に関する交渉の 中に、エアバス旅客機を 30 機購入すると

発表した。8 月には、米国との繊維摩擦に関する貿易交渉の期間中に、ボーイング機 42機を 50.4 億ドルで購入する契約に調印した。

18

第 2 に、通商交渉で貿易摩擦の解消を図ることである。2005 年に行われた EU と米国

との繊維製品の貿易摩擦に関する交渉は、いずれもよい結果をもたらした。 第 3 に、「市場経済国地位」を獲得することである。中国が WTO に加盟する際、2015年まで市場経済国としての地位が認められないこととなった。市場経済国ではないため、

中国商品がアンチダンピング訴訟に遭遇する際、コスト計算は中国ではなく、他の市場経

済国のデータに基づくこととなる。そのため、中国商品がダンピングと認定される確率が

高くなる。中国政府は 2004 年から諸外国に市場経済国地位の認定を求め始め、これまで

数十カ国が承認したが、主要輸出先である米国と EU がいまだに認めていない。今後も引

き続き努力が必要となる。しかし、市場経済国地位が認定されても、補助金などの問題が

依存として存在しており、今後、貿易摩擦の新しい火種になろう。 第 4 に、自由貿易協定(FTA)の推進である。貿易摩擦を回避できる も有効な手段は

やはり FTA である。中国は諸外国との FTA を積極的に推進している。これまで、ASEANとの FTA にすでに調印し、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、チリ、パ

キスタンなどさまざまな国と交渉している。今後、主要輸出先との FTA 交渉を積極的に

推進すべきであろう。 一方、資源輸入に関しては、中国は世界 大の輸入者、大口需要者として、価格交渉の

主導権を握り、バイヤーズパワーを発揮することによって、輸入量を確保し、輸入コスト

を抑えることができるであろう。 資源・エネルギー製品の輸入量が急増しているが、国際市場の新規参入者として交渉力

が弱く、「チャイナ・プレミア」といわれる高い価格での購入を強いられている。しかも、

長期契約が少なく、スポット価格で購入することが多い。こうした問題を 2 つの方法で解

決する必要がある。 1 つの方法は、他の輸入国と協力することである。エネルギーと資源製品に関しては、

生産国・輸出国の組織、例えば OPEC があり、生産・輸出企業の連合もある。それに対し

て、輸入国、あるいは大手ユーザーの企業が協力して、輸入国連合を組織することが必要

である。国際的需要者連合を結成し、生産国連合との交渉に臨み、輸入価格の決定のバー

ゲニング・パワーを持つ必要がある。中国は、日本、韓国と協力して輸入国連合を結成す

るか、あるいは 3 カ国の企業が協力して、生産・輸出国、輸出企業と共同で交渉すること

を通じて、輸入価格の上昇を食い止め、もしくは引き下げることが必要である。 もう 1 つの方法は、中国国内の需要者、生産企業が協力し、共同で買い付け、価格の対

外交渉をより有利な形で行える。その際、政府には国内の関連企業を束ねる役割が期待さ

れる。 2005 年における中国企業の鉄鉱石輸入に関する長期契約の価格交渉の推移は、その可能

性と効果を示している。05 年 2 月、中国鉄鋼メーカーの代表である宝山鋼鉄は、ブラジル

の CVRD 社などと長期契約の価格交渉を行い、71.5%の値上げを受け入れた。この価格上

昇率は、日本の新日鉄が CVRD 社との交渉で決めたが、中国企業は輸入量が多いが交渉力

19

が弱く、しかも鉄鉱石が供給不足で売り手市場の状況にあり、この価格上昇を受け入れる

しかなかった。 4月、オーストラリアのBHP社との価格交渉には、中国企業 16社が集団で交渉に臨み、

ブラジルと同程度の価格上昇を受け入れたが、ブラジルとの運賃の差額分(20%相当)の

価格上昇は拒否した。 12 月に、06 年の鉄鉱石輸入の価格交渉が始まった。従来、世界の鉄鉱石貿易の体制は、

世界の鉄鉱石貿易量の 70%を支配する鉱山企業 3社(ブラジルのCVRD、英国のRio Tintoとオーストラリアの BHP)と、鉄鋼メーカーの代表として日本企業 1 社(新日鉄)、フラ

ンス企業 1 社(Arcelor SA)との間で価格交渉が行われてきた。06 年の価格交渉には日仏

企業に加え、中国の代表企業として宝山鋼鉄も参加した。中国企業の参加で、世界の鉄鉱

石貿易の新しい体制が発足し、中国企業は価格交渉でより有利な地位を獲得した。 ちなみに、11 月には、国内 45 社の鉄鋼メーカーが集団で対外交渉し、インドからの鉄

鉱石輸入スポット価格の引き下げに成功した。 2005 年の鉄鉱石の輸入価格交渉から、売り手市場の状況でも、国内企業が協力して集団

で対外交渉すれば、 大の輸入国として価格交渉のバーゲニング・パワーを獲得できるこ

とを示した。 5.4 5ヵ年計画における中国の政策調整

貿易摩擦、資源供給のボトルネックなどを招く経済の対外依存度の増大は経済成長の制

約要因となっている現状を、中国政府は重く受け止めている。経済・産業構造の調整を早

めなければならないと認識し、すでに政策に反映するようになっている。 2006 年 3 月の全人代(国会に相当)で認可され、公表された第 11 次 5 ヵ年計画(2006~10 年)の方針には、こうした政策の変更が盛り込まれている。第 11 次 5 ヵ年計画にお

ける関連する部分は以下のとおり。 第 1 に、成長パターンの転換を加速する必要がある。今後の経済成長は内需拡大に立脚

すると明記した。すなわち、外需依存から内需主導を目指す。また、循環型、資源節約型

経済の構築も目標として掲げている。 第 2 に、産業構造の調整に関しては、さまざまな政策が盛り込まれている。産業構造の

高度化を促進するため、イノベーションにより産業技術の発展を目指す。掲げている「自

主創新、自主知識産権、自主品牌」は、イノベーションによって、自らの知的所有権、自

らのブランドを確立することを意味している。 また、省エネ促進に関しては、5 年間で GDP の単位当たりエネルギー消費を 20%削減

する目標が設定された。 第 3 に、対外開放のグレードアップを図ることである。貿易のパターンの転換を加速し、

輸出入商品構造の合理化を促進する政策を設けた。なかでも、輸出の商品構造の高度化、

高付加価値化がとくに重視される。また、委託加工については、加工程度の深まり、中国

20

に残す付加価値の拡大など、委託加工の高度化を図る。さらに、外資誘致については、質

を重視すると記している。すなわち、外資導入の業種選別を徹底し、優遇措置をさらにハ

イテク産業に傾斜する。 このように、貿易摩擦、資源供給のボトルネックなどに直面し、中国の経済政策は転換

が図られつつある。 5.5 日本企業への影響

日本経済は中国と密接な経済関係があり、多くの日系企業は中国で事業を展開している。

貿易摩擦、資源供給のボトルネックなど、中国の経済成長を制約する問題や、こうした問

題を解決する対策などは、いずれも日系企業の経営に大きな影響を及ぼす。 第 1 に、日系企業の輸出への影響がある。 中国に進出している日系製造業企業の多くは製品を輸出している。経済産業省が行った

「海外現地法人の動向」の調査によると、2004 年度、中国における日系製造業の現地法人

による売上げは 645 億ドル、そのうち輸出は 56.3%を占める 363 億ドルに達し、同時期

の中国輸出全体の 5.7%に相当する。この調査は一定規模以上、出資比率が 50%を超える

現地法人に限定していることから考えると、日系企業の中国からの輸出ははるかに多く、

中国の輸出全体の約 1 割になるではないかいと考えられる。 中国と諸外国の貿易摩擦は、当然、輸出の 1 割程度を占める日系企業にとっても影響を

受ける。中国との貿易摩擦が発生している国・地域への労働集約型製品などの輸出につい

ては、同様に貿易摩擦からダメージを受ける。ただし、日系企業の輸出は高付加価値製品

であるため、中国企業に比べて受ける影響が比較的少ないであろう。 また、人民元の為替調整も日系企業の生産・輸出に影響を及ぼす。2005 年 7 月の人民

元切り上げは 2%に止まり、日系企業への影響はさほど大きくなかった。これは、切り上

げ後実施された日本企業を対象とするさまざまなアンケート調査の結果で分かる。しかし、

人民元為替レートは長期的にも上昇するトレンドにあり、今後も元高の影響を長期的に受

けるであろう。 第 2 に、中国の外資誘致の方針変更による影響である。 例えば、エネルギー多消費型、輸入資源依存型などの産業は歓迎されなくなり、素材分

野における日本企業の対中投資も影響される。また、中国は委託加工型の生産・輸出に対

してレベルアップを求めている。広東省などの沿海地域において、アパレル、電子製品の

組み立てなどを委託加工の形態で展開する日系企業が多い。今後、こうした委託加工の日

系企業に対して、より多くの生産・加工工程を現地でこなすよう圧力が強まるであろう。 第 3 に、日系企業のビジネスチャンスである。 例えば、中国の内需主導への政策転換は、日系企業にとって、現地販売をさらに拡大す

るチャンスになる。貿易摩擦による影響を回避するため、日系企業は中国での現地生産と

輸出の高度化、現地販売への転換などを含む、現地生産の構造調整を加速しなければなら

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ない。さらに、中国の省エネ推進、循環型・資源節約型経済への転換は、日本企業のこう

した分野への投資と技術移転が奨励され、新たなビジネスチャンスも生まれるであろう。 貿易摩擦、資源供給のボトルネックとそれに関連する政策変更は、すべての在中国日系

企業の事業展開に直ちに影響を及ぼすとは限らない。しかし、中国の経済環境と経営環境

の変化、政府の経済戦略と政策の変化のトレンドを把握し、マイナス影響を避け、チャン

スを掴むため、対策を早急に考えなければならない。 参考文献 中国商務部(各年版)『中国商務年鑑』、中国商務年鑑編集委員会 中国商務部、国家統計局(2005)『2004 年度中国対外直接投資統計公報』、中国商務部・

国家統計局 陳泰鋒(2005)『中美貿易摩擦』、社会科学文献出版社 黄輝(2005)『中欧貿易摩擦』、社会科学文献出版社 朱炎(2005)「中国企業の対外投資とグローバル戦略」、富士通総研経済研究所『Economic

Review』Vol.9 No.4、pp.56~81

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