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1 13.線形・類線形・動吻・ 胴甲・鰓曳動物:マイナー な脱皮動物 奈良教集中講義 2017/08/16-20 新潟大学・自然環境科学・宮﨑 勝己 線形動物門線形動物門=NEMATODA ・語源=ギリシア語の nema (=thread) + eidos (=form) ・「線形動物」という名称は、 その線状の形状から。 ・BC1550年頃 ヒトカイチュウについて、エジプト で言及。後にアリストテレスも言及。 長い間、袋形動物類(偽体腔類)の 一員とされてきたが、最近では独立 した動物門とされている。 線形動物門線形動物門・小型のものが多いが、体長1 mmを超 すものも存在する。 ・体は細長い円筒形で、厚いクチクラに 覆われる。 ・陸、淡水、海いずれの環境にも自由生 活性ないし寄生生活性の種がおり、最も 繁栄した動物門の一つとされる。 多くの外部形態は単純で、分類形質が少な く、分類がほとんど進んでいない。 白山 (2000) Caenorhabditis elegans(C.エレガンス) = 体長1 mm程度の土壌性線虫。全細胞系譜や全 ゲノム配列が決定されている優れたモデル生物。 C. elegans の細胞系譜。成体は959個の細胞 から成り(生殖細胞は除く)、全細胞の発生運命 が分かっている。 Cedilnika et al. (2008) ・既知種は1万5千種ほどだが、ほとん どの動植物に宿主特異性の強い線虫が、 時には複数種寄生していると考えられて いる。海産種は膨大な種が手つかずで 残っていると考えられている。→線形動 物の種数は他の生物を圧倒している? 線形動物の分類 生物群毎の既知種数と推定種数の比較 線形動物の未知種数は、他の生物群を圧倒 している。 岩槻 (2002)

線形動物門mail2.nara-edu.ac.jp/~masaki/CBL-SITE/Other_files/13...3 「動吻動物門」 ・体が13節からなり、最初の第1節は、 反転可能な頭部を形成する。・筋肉や神経節は体節毎に繰り返し構造

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    13.線形・類線形・動吻・胴甲・鰓曳動物:マイナー

    な脱皮動物

    奈良教集中講義 2017/08/16-20

    新潟大学・自然環境科学・宮﨑勝己

    「線形動物門」

    線形動物門=NEMATODA

    ・語源=ギリシア語の nema(=thread) + eidos (=form)

    ・「線形動物」という名称は、その線状の形状から。

    ・BC1550年頃

    ヒトカイチュウについて、エジプト

    で言及。後にアリストテレスも言及。

    長い間、袋形動物類(偽体腔類)の

    一員とされてきたが、最近では独立

    した動物門とされている。

    「線形動物門」

    「線形動物門」・小型のものが多いが、体長1 mmを超

    すものも存在する。

    ・体は細長い円筒形で、厚いクチクラに

    覆われる。

    ・陸、淡水、海いずれの環境にも自由生

    活性ないし寄生生活性の種がおり、最も

    繁栄した動物門の一つとされる。 多くの外部形態は単純で、分類形質が少なく、分類がほとんど進んでいない。

    白山 (2000) Caenorhabditis elegans(C.エレガンス) =体長1 mm程度の土壌性線虫。全細胞系譜や全ゲノム配列が決定されている優れたモデル生物。

    C. elegans の細胞系譜。成体は959個の細胞から成り(生殖細胞は除く)、全細胞の発生運命が分かっている。

    Cedilnika et al. (2008)

    ・既知種は1万5千種ほどだが、ほとん

    どの動植物に宿主特異性の強い線虫が、

    時には複数種寄生していると考えられて

    いる。海産種は膨大な種が手つかずで

    残っていると考えられている。→線形動

    物の種数は他の生物を圧倒している?

    線形動物の分類 生物群毎の既知種数と推定種数の比較

    線形動物の未知種数は、他の生物群を圧倒している。

    岩槻 (2002)

  • 2

    「類線形動物門」

    類線形動物門=NEMATOMORPHA

    ・語源=ギリシア語の nema(=thread) + morph (=shape)

    ・「類線形動物」という名称は、線形動物に類似したその形状から。

    ・14世紀頃

    馬の尻尾の毛が、変身して生じた生

    物と考えられていた。

    長い間、袋形動物類(偽体腔類)の

    一員とされてきたが、最近では独立

    した動物門とされている。

    「類線形動物門」 「類線形動物門」

    ・非常に細長い、針金状の形状のものが

    多い。

    ・形態は基本的に線形動物と類似する。

    ・寄生性で、消化器官が全般的に退化的

    でほとんど機能しない。

    幼虫は、体前端に吻を持つ。

    口と退化的な腸を有するものもあるが、ほとんど機能していないと考えられている。

    ・原腎管(排出器官)を欠く点、精子に

    鞭毛を欠く点で線形動物と類似する。

    ・両者の近縁性(姉妹群関係)は分子系

    統解析でも支持されており、両者を併せ

    てネマトゾア類(Nematozoa)とされる

    こともある。

    線形動物と類線形動物の系統関係

    線形動物の研究は、C.エレガンスを使った発生生物学的研究は盛んだが、あとは寄生虫学分野以外の研究はあまり進んでいない。類線形動物の研究は、佐藤琢磨(神戸大)がハリガネムシが生態系に与える影響を研究しているが、それ以外はほとんど研究されていない。

    「動吻動物門」

    動吻動物門=KINORHYNCHA

    ・語源=ギリシア語の kineo(=movable) + rhynchos(=snout「突き出た鼻」)

    ・「動吻動物」という名称は、吻を出し入れする動きから。

    ・1841年

    Dujardinが発見・記載。当初は節

    足動物・環形動物あるいは線形動物

    の一員と考えられた。

    長い間、袋形動物類(偽体腔類)の

    一員とされてきたが、最近では独立

    した動物門とされている。

    「動吻動物門」

  • 3

    「動吻動物門」

    ・体が13節からなり、最初の第1節は、

    反転可能な頭部を形成する。

    ・筋肉や神経節は体節毎に繰り返し構造

    を作るが、体節の発生学的由来について

    は全くわかっていない。

    ・発生初期には脱皮を行う。

    体前端の吻と頭部(第1体節)は反転性で、出し入れすることが出来る。

    「胴甲動物門」

    胴甲動物門=LORICIFERA

    ・語源=ラテン語の lorica(=corset) + ferre (=to bear)

    ・「胴甲動物」という名称は、胴部にのみ甲羅を持つことから。

    ・1983年

    Kristensenにより最初に記載され

    た(標本自体は、1970年代に既に

    得られていた)。

    「胴甲動物門」 「胴甲動物門」・体が口錘部、頭部、頸部、胸部、胴部

    の5つに分かれる。

    ・口錘部と頭部は反転可能で、体内部に

    引き込むことが出来る。

    ・発生や生活史の情報は少ないが、生活

    史の一部で寄生生活をしている可能性が

    ある。 体が口錘部、頭部、頸部、胸部、胴部に分かれる。

    口錘部と頭部は反転可能。

    ・これまでに20種程度発見されているが、生息環境は様々で種数は今後もっと増える可能性が高い。

    ・日本での正式報告はこれまで1種のみであったが、最近2種が新たに発見された。

    胴甲動物の分類 「鰓曳動物門」

    鰓曳動物門=PRIAPULIDA

    ・語源=ギリシア語の Priapos「生殖の神」

    ・「鰓曳動物」という名称は、体後部の付属器を鰓と誤認したことから。

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    最初の発見については、はっきりし

    ない。

    ・1951年

    Hymanにより袋形動物類(偽体腔

    類)の一員とされたが、最近では独

    立した動物門とされている。

    「鰓曳動物門」 「鰓曳動物門」

    ・体が吻部と胴部に分かれる。

    ・ほとんどの種で、体後端に尾状付属器

    を持つ。

    ・吻は反転性があり、出し入れ可能。

    ・カンブリア紀の化石が、多く産する。

    尾状付属器は、かつて呼吸器官とされていたが、実際は感覚器官らしい。

    反転性の吻を持つ。

    ・反転可能な吻が、この3者と類線形の

    幼生、線形の一部の種と共通しており、

    これらの近縁性が示唆される→有棘動物

    ・この3者で花状器官という感覚器が共

    通する。

    ・鰓曳の幼生が胴甲の成体とよく似てお

    り、ネオテニー的進化が示唆される。

    鰓曳・胴甲・動吻動物の系統

    ・反転可能な吻が、この3者と類線形の

    幼生、線形の一部の種と共通しており、

    これらの近縁性が示唆される→有棘動物

    ・この3者で花状器官という感覚器が共

    通する。

    ・鰓曳の幼生が胴甲の成体とよく似てお

    り、ネオテニー的進化が示唆される。

    鰓曳・胴甲・動吻動物の系統

    分子系統

    解析では

    有棘動物

    (鰓曳+胴

    甲+動吻)

    の単系統

    性はほと

    んど支持

    されない。Yamasaki et al. (2015)

    この解析では有棘動物は多系統で、胴甲が汎節足と姉妹群を作った。

    動吻動物の分類学的研究は、山崎博史(ベルリン自然史博物館)が精力的に行っている。胴甲動物・鰓曳動物の分類については、山崎博史と藤本心太(東北大浅虫臨海)が共同で進めている。