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Results of Research Activities 研究成果 5 技術開発ニュース No.150 2014-3 2FR-GW開発の背景 ATM技術はマルチメディア通信を実現するコア技術 として標準化され、その後の発展が期待されていたが、 IP技術の急速な発展に伴い終息の方向へ進んだため、現 時点において、経済的にネットワークを構築するには、 IP技術を積極的に活用する必要がある。このため、時を 同じくしてIP技術を活用した電力給電用IPネットワーク の構築を進めてきたため、本ネットワークへの移行が最 も経済的であると判断した。 各種端末装置については、従来のアナログ伝送 FS[Frequency Shift])とIP方式の両方に対応したハイ ブリッド型CDT装置を既に開発しており、ハイブリッド CDT装置へ更新することで順次IP化を行っている。た だし全てのCDTを一斉にIP化することは、投資および工 事量が集中することから、現実的に不可能である。この ため、 CDT等の各種端末装置をIP化する過渡期において は、第2図に示すとおり、FR-GWを開発・導入し上位ネ ットワークのみをATMネットワークから電力給電用IP ネットワークへ移行することとした。これにより既存 CDT等の端末装置は上位ネットワークの移行を意識す ることなく更新が可能となり、投資や工事量の抑制およ び平準化が可能となる。最終的に全てのCDTIP化され ると、現地のCDTから送信されたIPパケットは、HMX に代わる新たな多重変換装置を介して各所の自動給電 システムへ提供する形態が考えられる。 系統運用情報伝送ネットワークにおけるプロトコル変換装置の開発 柔軟かつ経済的なネットワークの移行を実現 Development of a Protocol Conversion Device in a System Operation Information Transmission Network A flexible and economical network transition and replacement achieved (電子通信部 技術G系統運用情報伝送ネットワークの基幹部分を構成す ATM Asynchronous Transfer Mode)ネット ワークは更新時期を迎えており、汎用のIP技術を用い た電力給電用IPネットワークへの移行を予定してい る。そこでネットワークの移行を柔軟かつ経済的に実 施できるプロトコル変換装置(フレームリレーゲート ウェイ「以下、 FR-GW」)を開発した。 1系統運用情報伝送ネットワークの概要 電力の流れは複雑で時々刻々と変化しており、これら を人間系で判断・調整することは困難である。そこで電 力会社は発電量や電圧の制御および事故時のバランス 調整を自動化する各種自動給電システムを導入してお り、これら様々なシステムにより電力の安定供給を実現 している。自動給電システムは電力系統を把握・制御す るため、電力系統の状態を示す各種情報が必要であり、 系統運用情報伝送ネットワークは自動給電システムが 必要とするこれら各種情報を伝送するネットワークで ある。 既存の系統運用情報伝送ネットワークの構成を第1に示す。電気所に設置されるCDT Cyclic Digital data Transmission)は、遮断器や開閉器の入切情報といった スーパービジョン信号や、電圧や電流といったテレメー タ信号などを定周期でHMX HDT Packet Multiplexerへ送信する。HMXは複数のCDTから受信した信号を多 重化し、宛先毎に「パケット」と呼ぶデータの固まりに組 み立てCLADATM経由で対向のHMXへデータを送受 信する。なおHMXCLAD間はFRプロトコルによりデ ータ通信を行っている。また、HMXは予め登録した内 容に応じパケットデータの編集を行い自動給電システ ムへ必要な情報を送信する。 開発の背景 1 ATM Network ATM Network CDT CDT CPU CPU CDT CDT HMX HMX CLAD CLAD ATM ATM CDT CDT HMX HMX CPU CPU (略語定義) ATM (Asynchronous Transfer Mode switch)ATM交換機 CLAD (Cell Assembly and Disassembly):セル組立分解装置 HMX (HDT Packet Multiplexer)HDT用パケット多重化装置 CDT (Cyclic Digital data Transmission):サイクリックディジタル情報伝送装置 ATM Network ATM Network CLAD CLAD ATM ATM HMX HMX 1図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(現状) CDT CDT CPU CPU CDT CDT HMX HMX HMX HMX CDT CDT HMX HMX IP IP Network Network FR FR-GW GW FR FR-GW GW SW SW SW SW CPU CPU 2図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(移行期) (Engineering Group, Telecommunications Engineering Department) An Asynchronous Transfer Mode (ATM) network making up the key part of a system operation information transmission network needed to be replaced, and the transition to an IP network for a power system employing all-purpose IP technology was scheduled. Against this background, a Frame Relay Gateway (hereinafter referred to as “FR-GW”), a protocol conversion device that enables flexible and economical replacement of the network, was developed.

系統運用情報伝送ネットワークにおけるプロトコル変換装置 …...IP Network FR-GW FR-GW SW SW 移行範囲 給給制制CPU 第2図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(移行期)

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Page 1: 系統運用情報伝送ネットワークにおけるプロトコル変換装置 …...IP Network FR-GW FR-GW SW SW 移行範囲 給給制制CPU 第2図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(移行期)

Results of Research Activities研究成果

5技術開発ニュース No.150/ 2014-3

(2) FR-GW開発の背景 ATM技術はマルチメディア通信を実現するコア技術として標準化され、その後の発展が期待されていたが、IP技術の急速な発展に伴い終息の方向へ進んだため、現時点において、経済的にネットワークを構築するには、IP技術を積極的に活用する必要がある。このため、時を同じくしてIP技術を活用した電力給電用IPネットワークの構築を進めてきたため、本ネットワークへの移行が最も経済的であると判断した。 各種端末装置については、従来のアナログ伝送(FS[Frequency Shift])とIP方式の両方に対応したハイブリッド型CDT装置を既に開発しており、ハイブリッド型CDT装置へ更新することで順次IP化を行っている。ただし全てのCDTを一斉にIP化することは、投資および工事量が集中することから、現実的に不可能である。このため、CDT等の各種端末装置をIP化する過渡期においては、第2図に示すとおり、FR-GWを開発・導入し上位ネットワークのみをATMネットワークから電力給電用IPネットワークへ移行することとした。これにより既存CDT等の端末装置は上位ネットワークの移行を意識することなく更新が可能となり、投資や工事量の抑制および平準化が可能となる。最終的に全てのCDTがIP化されると、現地のCDTから送信されたIPパケットは、HMXに代わる新たな多重変換装置を介して各所の自動給電システムへ提供する形態が考えられる。

系統運用情報伝送ネットワークにおけるプロトコル変換装置の開発柔軟かつ経済的なネットワークの移行を実現Development of a Protocol Conversion Device in a System Operation Information Transmission Network A flexible and economical network transition and replacement achieved

(電子通信部 技術G) 系統運用情報伝送ネットワークの基幹部分を構成するATM(Asynchronous Transfer Mode)ネットワークは更新時期を迎えており、汎用のIP技術を用いた電力給電用IPネットワークへの移行を予定している。そこでネットワークの移行を柔軟かつ経済的に実施できるプロトコル変換装置(フレームリレーゲートウェイ「以下、FR-GW」)を開発した。

(1) 系統運用情報伝送ネットワークの概要 電力の流れは複雑で時々刻々と変化しており、これらを人間系で判断・調整することは困難である。そこで電力会社は発電量や電圧の制御および事故時のバランス調整を自動化する各種自動給電システムを導入しており、これら様々なシステムにより電力の安定供給を実現している。自動給電システムは電力系統を把握・制御するため、電力系統の状態を示す各種情報が必要であり、系統運用情報伝送ネットワークは自動給電システムが必要とするこれら各種情報を伝送するネットワークである。 既存の系統運用情報伝送ネットワークの構成を第1図に示す。電気所に設置されるCDT(Cyclic Digital data Transmission)は、遮断器や開閉器の入切情報といったスーパービジョン信号や、電圧や電流といったテレメータ信号などを定周期でHMX(HDT Packet Multiplexer)へ送信する。HMXは複数のCDTから受信した信号を多重化し、宛先毎に「パケット」と呼ぶデータの固まりに組み立てCLAD、ATM経由で対向のHMXへデータを送受信する。なおHMXとCLAD間はFRプロトコルによりデータ通信を行っている。また、HMXは予め登録した内容に応じパケットデータの編集を行い自動給電システムへ必要な情報を送信する。

開発の背景1

ATM NetworkATM Network

CDTCDT

給制給制CPUCPU

CDTCDT

HMXHMX

CLADCLAD

ATMATM

CDTCDT

HMXHMX

給制給制CPUCPU

中給・基幹給中給・基幹給支店給支店給

主要事業場主要事業場

電気所電気所 (略語定義)ATM (Asynchronous Transfer Mode switch):ATM交換機CLAD (Cell Assembly and Disassembly):セル組立分解装置HMX (HDT Packet Multiplexer):HDT用パケット多重化装置CDT (Cyclic Digital data Transmission):サイクリックディジタル情報伝送装置

ATM NetworkATM NetworkCLADCLADATMATM HMXHMX

第1図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(現状)

CDTCDT

給制給制CPUCPU

CDTCDT

HMXHMX

HMXHMX

CDTCDT

HMXHMX

中給・基幹給中給・基幹給支店給支店給

主要事業場主要事業場

電気所電気所

電力給電用電力給電用IPIP NetworkNetwork

FRFR--GWGWFRFR--GWGW

SWSW

SWSW

移行範囲移行範囲

給制給制CPUCPU

第2図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(移行期)

(Engineering Group, Telecommunications Engineering Department)

An Asynchronous Transfer Mode (ATM) network making up the key part of a system operation information transmission network needed to be replaced, and the transition to an IP network for a power system employing all-purpose IP technology was scheduled. Against this background, a Frame Relay Gateway (hereinafter referred to as “FR-GW”), a protocol conversion device that enables flexible and economical replacement of the network, was developed.

Page 2: 系統運用情報伝送ネットワークにおけるプロトコル変換装置 …...IP Network FR-GW FR-GW SW SW 移行範囲 給給制制CPU 第2図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(移行期)

Results of Research Activities 研究成果

6技術開発ニュース No.150/ 2014-3

 FR-GWの主要機能を以下に示す。(1) プロトコル変換機能 FR-GWは、HMXと送受信するFRプロトコルデータを電力給電用IPネットワークで伝送するIPパケットへ伝送フォーマットを変換する。具体的にはFRプロトコルヘッダとIPパケットヘッダの付け替え、およびHMXデータ部の乗せ替えを行っている。

(2) データ送受信機能(ア) 両網送信・選択受信機能 第3図に示すとおり、FR-GWは複数のHMXを収容し、自装置に収容されるHMXから受信した情報をATMネットワーク経由で対向HMXに送信するとともに、電力給電用IPネットワーク経由で対向HMXに送信することも可能とする(両網送信機能)。また、ATMネットワークまたは電力給電用IPネットワーク経由で受信したHMXからの情報のいずれかを選択し、自装置に収容されるHMXに送信する(選択受信機能)。これにより、新旧ネットワークの並行運用が可能となり、系統運用情報伝送ネットワークを途絶させることなく移行を実現できる。

 FR-GWは平成25年12月の現地納入に始まり、平成26年12月のネットワーク移行完了を目指している。具体的な移行ステップを以下に示す。

(1) FR-GWの割入 第5図に示すとおり、HMXのCLAD向け回線(FRプロトコル伝送部分)にFR-GWを割り入れる。なお、割入作業はHMXの回線単位にて実施する。この時、送信側のFR-GWは新旧ネットワークの並行運用を保証するため、ATMネットワークと電力給電用IPネットワークの両網へHMXパケットデータを送信する。受信側のFR-GWは受信するパケットのネットワークを選択する。

(2) 送信固定およびATMネットワークの廃止 第6図に示すとおり、FR-GWの全局割入および全受信パケットの選択切替が完了した後、送信側のFR-GWにてHMXパケットの送信を全て電力給電用IPネットワークへ固定し、ATMネットワークを廃止する。

 系統運用情報のIP化に向けて、今回FR-GWを開発し、系統運用情報伝送ネットワークの上位ネットワークのみをATMネットワークから電力給電用IPネットワークへ移行することとした。これにより既存CDT等の端末装置は上位ネットワークの移行を意識することなく更新が可能となり、投資や工事量の抑制および平準化を実現する見通しを得た。

(イ) IP網伝送における伝送方式 FR-GWは電力給電用IPネットワークのメリットを活かしつつ、ネットワーク障害に対する信頼性を高めるため、第4図に示すとおり、1つのHMXパケットを4ルート(4パケット)送信する。具体的には、物理的に分離された2つの電力給電用IPネットワーク(A面、B面)に対し、各A、B面ネットワークに2ルート(2パケット)を送信することにより、ネットワーク上で系統運用情報が消失・欠落することを防いでいる。 なお、電力給電用IPネットワークを介してパケットを受信したFR-GWは、先着の1パケットを除いて他のパケットを破棄(遅達破棄)する。この遅達破棄処理により過去のデータを採用せず、常に新しいデータ(真値)を採用することとしている。

FR-GW 開発の概要2 今後の展開3

まとめ4

執筆者/浅野将弘

HMXHMX FRFR--GWGW ATM NetworkATM Network FRFR--GWGW HMXHMX

電力給電用電力給電用IP NetworkIP Network

両網へパケット送信 選択した網のパケットを受信

第3図 両網送信・選択受信機能

ATM NetworkATM NetworkCLADCLADATMATM

給制給制CPUCPU

CDTCDT

HMXHMX

HMXHMX

CLADCLAD

ATMATM

給制給制CPUCPU

中給・基幹給中給・基幹給支店給支店給

電力給電用電力給電用IPIP NetworkNetworkFRFR--GWGW

SWSW SWSW

FRFR--GWGW

HMXHMX~~CLADCLAD間に間にFRFR--GWGW割入割入(HMX(HMX回線単位回線単位))

((送信送信)ATM)ATM網・網・IPIP網へ網へ

両網送信両網送信

((受信受信)ATM)ATM網を選択受信網を選択受信

HMXHMX~~CLADCLAD間に間にFRFR--GWGW割入割入(HMX(HMX回線単位回線単位))

第5図 FR-GWの割入イメージ

ATM NetworkATM NetworkCLADCLADATMATM

給制給制CPUCPU

CDTCDT

HMXHMX

HMXHMX

CLADCLAD

ATMATM

給制給制CPUCPU

中給・基幹給中給・基幹給支店給支店給

電力給電用電力給電用IPIP NetworkNetworkFRFR--GWGW

SWSW SWSW

FRFR--GWGW((送信送信) IP) IP網へ送信固定網へ送信固定 ((受信受信)IP)IP網を選択受信網を選択受信

ATMATM網廃止網廃止

第6図 送信固定およびATMネットワークの廃止イメージ

HMXHMX

電力給電用電力給電用IPIP NetworkNetwork

(A(A面面))FRFR--GWGW

SWSW

電力給電用電力給電用IPIP NetworkNetwork

(B(B面面))

SWSW

FR データ部

IP データ部専用ヘッダUDP

データ部専用ヘッダ

データ部専用ヘッダ

データ部専用ヘッダ

ヘッダ部

ヘッダ部① ヘッダの付け替え(プロトコル変換)

②IP網へ4パケット送信

ATMATM網へ網へ

IP UDP

IP UDP

IP UDP

第4図 IP網伝送における伝送方式