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発熱で来院し、救急外来でCPAに陥った54歳女性
名瀬徳洲会病院 2年次研修医 阿部 翼
症例
【症例】
統合失調症で精神科病院に入院歴はあるが、元々元気に商店を営むADL自立の54歳女性
【主訴】 発熱、ショックバイタルで紹介
現病歴
来院2日前から倦怠感と発熱があり、かかりつけの精神科病院を受診。その時本人が入院を勧められたが拒否して帰宅。
来院日前日に寝床から出て来ない事を心配した父が様子を見に行くと体全体が震えていたために再度同院を受診。受診時、39℃の発熱があり、悪性症候群が疑われて輸液・ダントロレンを投与されていたが、血圧も下がってきたとの事で当院へ紹介受診となる。
既往歴・生活歴
【既往歴】
統合失調症(S57年から10回の入院歴あり)
最終入院はH27年3月。それ以降通院で安定していた。
【内服】
炭酸リチウム200mg 2210,デパケンR200mg 2220,フルニトラゼパム2mg 0001,センノシド 0002,インヴェガ6mg 1010,タスモリン1mg 1110,抑肝散 1110
【薬物変更歴】
来院一週間ほど前にリスペリドン→インヴェガ
ここは?
フィジカルの国!
来院時所見
【Vital】 意識レベル JCS-200(胸骨の痛み刺激でわずかに開眼) 収縮期血圧60〜70mmHg,HR 100回/min,体温 40℃
呼吸回数 40回/minで下顎呼吸,SpO2(10L、マスク) 100%
【身体所見】 咽頭発赤なし、白苔なし、扁桃腫大なし
JVP:臥位で外頸静脈はみえない
頸部リンパ節触知せず
心音:no murmur,純、S1S2→S3S4-
呼吸:明らかなCrackleは聴取しない
腹部:ぽっちゃり、軟
末梢冷感はわずかで暖かくはない。
褥瘡や皮膚所見はなし。
検査結果1
【血液ガス(酸素マスク10L,呼吸回数40回/min)】
pH 7.121/pCO2 47.8/pO2 117/HCO3 14.9/B.E. -13.6/Lac 0.9
AG=12
【血液検査】
WBC 4990,Hb 9.7,PLT 1.3
TP 4.7,Alb 2.4
T.Bil 0.5,GOT 350,GPT 116,LDH 766,γ-GTP 35
CPK 8527,BUN 41.7,Cr 2.53
Na 157,K 4.0,Cl 130,Ca 5.8,IP 5.9,BS 83
【尿検査】
尿タンパク定性2➕、潜血尿3➕、尿中レジオネラ・肺炎球菌陰性
検査結果2
ECG:V1-5で陰性T波
心エコー:明らかな壁運動の低下なし。EF 70%
胸部レントゲン:明らかな異常なし
胸部単純CT(CPA蘇生後):右S6に浸潤影あり
頭部・腹部単純CT:明らかな異常なし
髄液検査:異常なし
救急外来経過
19:25 血圧70台であり、NSポンピング開始
19:38 全身性の痙攣あり、ホリゾン1A IV
19:45 ソルコーテフ200mg IV
19:47 呼吸停止。HR 30台。CPR開始
アドレナリン1mg IV
19:49 PEA
19:50 アドレナリン1A IV
19:53 ROSC、気管内挿管
19:55 プレドパ開始
20:10 HCUへ入院
原因は?
原因不明の発熱CPAで入院。
なんらかの感染症によるsepsisが考えられた。
しかし・・・フィジカル王子(Dr.平島)をもってしても感染症として指摘できる部位は 同定困難であった・・・。
鑑別は?
【昨日元気で今日ショック症候群】 ・TSS(toxic shock syndrome)
・髄膜炎菌敗血症
・感染性心内膜炎
・リケッチア感染症
・肝硬変患者のvibrio vulnificus
・脾機能低下、無脾症
Vital signが重症なのにCRPがそれほど高くなく、正常範囲の場合もある。
入院後経過
• 前医〜当院入院後、2日未満で輸液が10L以上に及んだが、 尿量は100ml/day未満であった。全身浮腫著明。CHDFにて管理。
• 各種培養を救急外来で提出しており、血液培養の結果を待った。その間は前記鑑別の元、MEPM、VCM、MINOにて管理。
• 入院第5病日:血液検査培養で3セット中3セットでα-Streptococcu
が陽性だと判明する。同日よりCTRX,CLDMに抗生剤を変更。
• 入院第5病日に施工した血液培養では陰性化を確認。
診断
劇症型溶連菌感染症
劇症型溶連菌感染症
【A群β溶血連鎖球菌の毒素性ショック症候群の定義】
1.培養でA群β溶血連鎖球菌が検出される。
2.臨床状態
・収縮期血圧90mmHg以下
かつ以下の症状2つ以上が当てはまる
・腎不全(血清Cr 2mg/dl以上)
・凝固異常:PLT10万以下あるいはDIC
・肝障害
・ARDS:全身浮腫や胸水・腹水の存在
・全身の紅斑様皮疹
・軟部組織の壊死
劇症型溶連菌感染症
・5類感染症。
・病原性が強いので皮膚のわずかな障害(静脈やリンパの鬱滞による下腿浮腫など)も侵入門戸になりえる。 青木眞先生も「多くは原因不明な場合が多かった」と記している。
とにかく進行が早い!!
疫学
・1987年に米国で最初に報告。
・毎年100-200人の患者が確認されており、このうち30%が死亡。
・A群溶連菌感染症の一般的な疾患は咽頭炎であり、多くは小児が罹患するが、劇症型溶連菌感染症は30歳以上の大人に多いのが特徴
・特に1月〜6月にかけて発症が多い。最近は増加傾向。
劇症感染が集団発生することは稀。
リスク(40歳以上)
• 熱傷
• 手術手技
• 非穿孔性外傷
• 院内感染
• 糖尿病
• 末梢血管病変
• 悪性腫瘍
• ステロイドuser
• NSAIDs(COXを阻害して壊死を助長するらしい・・・) • 免疫抑制状態
• 心疾患
脂肪吸引術などでも起きていたらしい・・・
治療
柱は3つ!
1.Sepsis control(全身管理)
2.Debridement
3.Antibiotic management
抗生剤(腎機能正常だったら)
⭐➕ PCG 400万単位 q4hr(2400万単位)
→CLDMに耐性のものをカバー(1%以下)
⭐➕ CLDM 900mg q8hr
PCGの代わりにABPC(2g q4hr)も可。
(ペニシリンアレルギーがある場合はCefotaxime2g q6hr)
期間は最低14日間投与!(血培陰性化から・・・)
内服もOK.
入院後経過
• 第12病日:経管栄養開始
• 第14病日:抗生剤投与終了(←早かった)
• 第15病日:気管切開
• 第18病日:頭部MRIで低酸素脳症疑い(大脳基底核ぴかぴか)
• 第19病日:CV抜去
• 第27病日:口だけだが笑った!!
• 第28病日:透析離脱
• 第30病日:酸素吹き流し
• 第34病日:胃瘻造設
• 第41病日:follow MRIでは低酸素脳症やや改善
• 第45病日:一般病床へ転棟
採血結果推移(抜粋)
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
40000
45000
50000
第2病日 第3病日 第5病日 第6病日 第9病日 第10病日 第12病日 第17病日 第20病日 第23病日 第26病日 第31病日 第35病日 第42病日
CPK
検査結果(抜粋)
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第2病日 第3病日 第5病日 第6病日 第9病日 第10病日 第12病日 第17病日 第20病日 第23病日 第26病日 第31病日 第35病日 第42病日
Cr
9月19日現在
• 胃瘻栄養、気管切開にて管理。
• 38℃以上の発熱がたまに出る事はあるが、中枢性の発熱として対応している。
• 四肢麻痺は残存してMMTは両上下肢0であるが、口の動きは徐々に良くなってきており、追視も認められる状態。従命は入っているものと思われる。
• どこまで回復するかは不明だが、リハビリを継続して身体機能の回復を待っている。
Take Home Message
•どんな時も問診と身体所見
•常に感染症の可能性を考える
•昨日元気で今日ショック症候群を覚える
参考文献
• Up to date
Group A streptococcal bacteremia in adults
• 感染症診療マニュアル 医学書院
• 東京都感染症情報センター
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/s-group-a/
• おわり