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2004 年度 卒業論文 特殊相対性論の検証 運動量と運動の関係 【速度増加に伴う質量増加】 信州大学学部物科学科 高物学研究室 01S2035B 毛利 聖子 2005 年 3 19 日

特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

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2004 年度 卒業論文

特殊相対性理論の検証

運動量と運動エネルギーの関係

【速度増加に伴う質量増加】

信州大学理学部物理科学科

高エネルギー物理学研究室

01S2035B

毛利 聖子

2005 年 3 月 19 日

Page 2: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

i

もくじもくじもくじもくじ

第第第第1111章章章章 はじめにはじめにはじめにはじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1111

第第第第2222章章章章 特殊相対性理論特殊相対性理論特殊相対性理論特殊相対性理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・2222

2.1 ローレンツ変換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・2

2.2 速度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

2.3 運動方程式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

2.4 運動量・運動エネルギー ・・・・・・・・・・・・・8

2.5 質量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

第第第第3333章章章章 電磁気学電磁気学電磁気学電磁気学 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14141414

3.1 ローレンツ力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・14

3.2 磁場中の電子の運動 ・・・・・・・・・・・・・・17

3.3 磁気回路 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

3.4 電磁石 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

第第第第4444章章章章 実実実実験方法験方法験方法験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21212121

第第第第5555章章章章 装置装置装置装置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22222222

5.1 線源 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

5.2 電磁石 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

5.2.1 形状の決定 ・・・・・・・・・・・・・・・23

5.2.2 磁束密度の決定 ・・・・・・・・・・・・・24

5.2.3 設計・作製 ・・・・・・・・・・・・・・・25

5.3 CsI 検出器・高電圧電源 ・・・・・・・・・・・・28

5.4 マルチチャンネルアナライザー ・・・・・・・・・29

Page 3: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

ii

第第第第6666章章章章 測定測定測定測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30303030

6.1 エネルギーキャリブレーション ・・・・・・・・30

6.1.1 バックグラウンドの測定・・・・・・・・30

6.1.2 22Na のスペクトル測定 ・・・・・・・・31

6.1.3 137Cs のスペクトル測定 ・・・・・・・・32

6.1.4 チャンネルとエネルギーの対応 ・・・・32

6.2 電子の運動量・運動エネルギー測定 ・・・・・・33

第第第第7777章章章章 結果結果結果結果・・・・考察考察考察考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

7.1 運動量と運動エネルギーの関係 ・・・・・・・39

7.2 電子の速度増加に伴う質量増加 ・・・・・・・40

7.3 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・41

謝辞謝辞謝辞謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42424242

参考文献参考文献参考文献参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44443333

Page 4: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第1章 はじめに

第第第第1111章章章章 はじめにはじめにはじめにはじめに

特殊相対性理論は、現在から100年前の1905年、 Albert Einstein が発表した理

論である。この理論によると、光速に近い速度で運動する物体は質量が増大す

る。

β 線源から放射される電子を用いて、実験により特殊相対性理論を検証する。

電磁石の作る磁場により電子を屈曲させることで運動量を測定し、その先に設

置した装置により運動エネルギーを測定する。こうして独立に測定された電子

の運動量と運動エネルギーの関係を、相対論的運動量と運動エネルギーの関係

と比較することで、特殊相対性理論を検証する。

また、「質量と速度の関係」は「運動量と運動エネルギーの関係」と本質的に

同じ意味を持つことから、同時に、速度増加に伴う質量増加についても検証す

る。

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第2章 特殊相対性理論

第第第第2222章章章章 特殊相対性理論特殊相対性理論特殊相対性理論特殊相対性理論

特殊相対性理論とは、特殊相対性原理と光速不変の原理に基づいて、

Albert Einstein によりに定式化された理論である。特殊相対性原理とは、物理

法則は、全ての慣性系に対して同じ形で表されるという原理で、光速不変の

原理とは、真空中の光の速さは、互いに等速度運動をするすべての観測者に

対して一定の値をとる、つまり、光源の運動状態に無関係であるという原理

である。

2222....1111 ローレンツローレンツローレンツローレンツ変換変換変換変換

特殊相対性理論において、互いに等速度で運動する慣性系を結びつける時

空座標の変換として、ローレンツ変換が導入される。この変換は空間座標と

時間座標が混じり合って変換されるが、光速度は不変に保ち、変換によって

基本法則の形が変わらないように構成されている。

2つの慣性系の相対速度 vrを

vvx = 、 0== zy vv

として空間的に1次元の運動を考える。すなわち、図2-1のように、2つの

慣性系 S と S ′の座標軸は平行で、 0=′= tt のとき両方の座標の原点は一致して

おり、S ′は S の x軸の正の方向へ、大きさ vの相対速度で移動しているとする。

慣性系は力の作用を受けていない物体が等速直線運動をすることで特徴づ

けられている。等速直線運動は座標と時間の間の1次関係式で与えられる。

v

O

x

y

z

S

O′ x′

y′

z ′

S ′

図2-1 大きさvの相対速度をもつ2つの慣性系

Page 6: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第2章 特殊相対性理論

すなわち、

),,,( tzyx ′′′′ は ),,,( tzyx の1次関数 (2-1)

であるとする。光速不変の原理のもとでは、時間も慣性系ごとに定める必要

がある。そこで、事象を記述するには、慣性系ごとに直交座標 ),,( zyx と時間 t

の4つの値を定める必要がある。この4変数 ),,,( tzyx を時空座標と呼ぶこと

にする。また、時空座標で表される4次元空間の点を世界点または時空点と

呼ぶ。

まず、 y 座標について考える。慣性系 S で y が一定の点は xy平面に平行な

面上にある。この面を S ′で見ても、 yx ′′ 平面に平行であると考えてよい。した

がって、y 軸に平行に置かれた物差しの長さが変化したとしても、その比は v

のみの関数で、比例定数を )(va とすると、

yvay )(=′ (2-2)

と書ける。ところで、図2-2のように S ′から S を見ると、S ′の座標系の x′軸の負の方向へ速度 vで S が移動している。

そこで2つの座標系で、それぞれ y 軸と y′軸を回転軸として、 °180 の回転を

行う。座標変換はそれぞれ

xx −= 、 yy = 、 zz −= (2-3)

xx ′−=′ 、 yy ′=′ 、 zz ′−=′ (2-4)

となる。この新しい座標系によると、 S は S ′の座標系の x′の正の方向へ、大

きさ vの相対速度で移動していることになる。この事情は、もとの座標系を用

いて、S から S ′を見た場合と同じになる。したがって、(2-2)と同じ形の関

係式

yvay ′= )( (2-5)

x ′

z′

z′

y′

y′

x′ O ′

S ′

x x

y y

z

z

O

S v

図2-2 慣性系 S ′から見た S

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第2章 特殊相対性理論

を得る。変換(2-2)に(2-3)、(2-5)、(2-4)の順に代入すると

yvayvayvayvay ′=′===′ 22 ))(())(()()(

となる。この式の最左辺と最右辺を比較すると、

1))(( 2 =va 1)( ±=∴ va

を得る。ここで、 0=v の時は恒等変換になるから、(2-2)は yyay ==′ )0(

となる。よって、 1)( =va

を得る。したがって、 S の座標 y の点は、 S ′の座標 y′の点になり、

yy =′ (2-6)

を得る。同様にして

zz =′ (2-7)

を得る。

次に、 x座標と x′座標の間の関係を考察する。仮定では、 0=′= tt の時、S

の座標と S ′の座標の原点は一致している。そして S の x軸の正の方向へ早さ v

で S ′が等速直線運動をしている。したがって、 S ′の座標の原点、すなわち

0=′=′=′ zyx の点の、 S から見た x座標は、

vtx = (2-8)

で与えられる。このことと(2-1)から、 S ′の x′座標は、変換

))(( vtxvbx −=′ (2-9)

で与えられることがわかる。実際、(2-9)で 0=′x とおくと(2-8)が得られ

る。ここで )(vb は相対的な速さ vのみの関数である。慣性系 S ′と S の立場を取

替え、変換(2-3)と(2-4)を行ってみると、(2-9)をを導いた場合と同じ

事情になるから ))(( tvxvbx ′−′=

という変換式を得る。この式に(2-3)と(2-4) を代入して変形すると、

))(( tvxvbx ′+′= (2-10)

を得る。(2-10)に(2-9)を代入して、 t ′について解くと、

xvvb

vbtvbt

)(

1))(()(

2 −−=′ (2-11)

となる。

ここで光速不変の原理を用いて )(vb の関数形を求める。慣性系 S と S ′は真

空中にあるものとし、時刻 0=′= tt に原点 OO ′= にあった発光体が光を発した

とする。光速不変の原理により、真空中の光の速さは光源の運動状態には無

関係であるから、発光体は S 上にあるとしても、 S ′上にあるとしても、どち

らでもよい。光の先端は、 S で見ると時間 tの後には、原点Oを中心とする半

径 ct の球面上にある。この球面上の1点の座標を ),,( zyx とすると、それは球

面の方程式

022222 =−++ tczyx (2-12)

を満たす。したがって、 x軸の正の方向へ進んだ光の先端の x座標は、

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第2章 特殊相対性理論

ctx = (2-13)

となる。

一方、この光を S ′で観察すると、時間 t ′の後に、光の先端は原点O′を中心

とする半径 tc ′の球面上に達するから、この球面上の1点の座標を ),,( zyx ′′′ とす

ると、球面の方程式

022222 =′−′+′+′ tczyx (2-14)

を得る。したがって、 x′軸の正の方向へ進んだ光の先端の x′座標は、

tcx ′=′ (2-15)

となる。

簡単のため、x軸上で考え、光の先端が S と S ′の共通の x軸 x′= 軸上の空間

の1点に到達したとする。その点の原点からの距離が、S では x、S ′では x′である。また、その時の時刻を、S では t、S ′では t′であるとする。その時、 tx,

と tx ′′, との間には(2-9)と(2-11)で与えられる関係式が成り立つ。式(2-

15)に(2-9)と(2-11)を代入し、さらに xを(2-13)により消去すると、

22 /1

1)(

cvvb

±=

を得る。ここで、 0=v の時(2-9)が恒等式となることから、

22 /1

1)(

cvvb

−= (2-16)

を得る。今は簡単のため x軸上で考えたが、y 座標、z 座標については(2-6)、

(2-7)により yy ′= 、 zz ′= である。これを用いれば(2-12)、(2-14)

と(2-11)を用いて、やはり(2-16)が導かれる。

(2-16)を(2-9)と(2-11)に代入して

22 /1/)( cvvtxx −−=′

222 /1/)/( cvcvxtt −−=′

を得る。これらの式と(2-6)、(2-7)をまとめて、ある事象の S と S ′にお

ける時空座標の変換公式として、

2

2

22

2

222

1

/

/1

/

1/1

β

β

−=

−=′

=′

=′

−=

−=′

cvxt

cv

cvxtt

zz

yy

vtx

cv

vtxx

(2-17)

を得る。ここで、

c

v=β

と置いた。また、これらの式を tzyx ,,, について解くと、逆変換の式

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第2章 特殊相対性理論

2

2

22

2

222

1

/

/1

/

1/1

β

β

′+′=

′+′=

′=

′=

′+′=

′+′=

cxvt

cv

cxvtt

zz

yy

tvx

cv

tvxx

(2-17’)

を得る。これらの変換公式をローレンツ変換と呼ぶ。

逆変換(2-17’)は(2-17)においてプライムを付け替え、 vを v− に置

き換えて得られる。このことは、 S 系と S ′系の関係は相対的運動の方向が反

対向きであることを除けば、互いに同等であることを意味している。

2222....2222 速度速度速度速度

物体の速度に対して、ローレンツ変換を行う。

図2-1のような場合で考える。物体の運動を慣性系 S で観測する時の、あ

る時刻 tにおける物体の速度を

dt

rdv

rr= (2-18)

とする。(2-17)から、微分の変換を成分ごとに求めると、

2

2

2

1

)/(

1

β

β

−=′

=′

=′

−=′

dxcvdttd

dzzd

dyyd

vdtdxxd

(2-19)

となる。 x成分では、(2-19)より

2

2

2

2

2

2

/1

)/)(/(1

)/(

)/(

1

)/(

1

cvv

vv

xtdxcv

vdtdx

dxcvdt

vdtdx

dxcvdtvdtdx

td

xd

x

x

−=

−=

−=

−=

′′

ββ

(2-20)

従って、成分ごとの変換公式は

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第2章 特殊相対性理論

2

2

2

2

2

/1

1

/1

1

/1

cvv

vv

cvv

vv

cvv

vvv

x

z

z

x

y

y

x

x

x

−=′

−=′

−=′

β

β (2-21)

となる。

2222....3333 運動方程式運動方程式運動方程式運動方程式

質点の4次元空間内での位置を

))(),(),(),(( 3210 ττττ xxxx (2-22)

と書く。τ が位置を指定するパラメーターである。τ が変化すると、(2-22)

は4次元空間の中の曲線を描く。τ に与えられるべき条件は、ローレンツ不変

な量であること、質点の運動が光速に比べて十分遅いものならばτ は近似的に

座標系の時間 cxt /0= に等しい、という2つである。そのようなτ として、質

点の4次元空間中での軌跡の長さを光速 cで割ったものを採用する。そのよう

なτ の微小な変化分は、質点の4次元空間中での微小な位置変化 µdx を用いて、

2

2

23222120

1

1

)()()()(1

1

β

ητ νµµν

−=

−=

−−−=

−=

dt

c

vdt

dxdxdxdxc

dxdxc

d

(2-23)

と書ける。τ は座標系の時間 tと比べてその進み方が 2)/(1 cv− だけ遅いので

あるから、質点とその瞬間、一緒に運動する慣性座標系の時間という意味を

持つ。

(2-22)をτ で微分したもの

ττ

ττ

ττ

ττ

τµ

d

dx

d

dx

d

dx

d

dxu

)(,)(

,)(

,)(

)(3210

(2-24)

は、3次元空間における速度ベクトルを4次元空間の場合に拡張したもので、

4元速度ベクトルという。τ はローレンツ不変量であるから、 )(τµu は反変ベ

クトルである。(反変ベクトルとは、 )()( xAaxA νν

µµ =′′ という変換をするよう

な )(xAµ を言う。)この4元速度ベクトルは、τ の定義(2-23)から明らかな

Page 11: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第2章 特殊相対性理論

ように、

2)()( cuu −=ττη νµµν (2-25)

という条件を常に満足している。速度ベクトルの成分を1つ増やしたといっ

ても、その増やした成分は(2-25)によって拘束されているのである。

4次元の力、4次元の運動量をそれぞれ )3,2,1,0(, =µµµ pf と書くと、特殊

相対性理論における運動方程式は、

ττµ

µ

d

dpf

)(= 、 )()( ττ µµ mup ≡ (2-26)

と書ける。ここでmは質量であり、 )(τµp は4元運動量ベクトルと呼ばれる。

力のベクトルは4つの成分に増えたが、(2-25)と同じように、増えた成

分には条件が課される。実際(2-25)を用いれば、

0

))()((2

)()()(

=

=

=

ττητ

ττ

τητη

νµµν

νµ

µννµ

µν

uud

dm

d

duumfu

(2-27)

という条件が導かれるので、4つの成分は独立ではない。4元運動量ベクト

ルも(2-25)により、やはり4つの成分の間に、

22

23222120 )()()()(

cm

pppppp

−=

+++−=νµµνη

(2-28)

という条件が付く。

2222....4444 運動量運動量運動量運動量・・・・運動運動運動運動エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー

(2-26)、(2-24)より、4元運動量は

τ

µµµ

d

dxmmup == (2-29)

と書ける。ここで、(2-24)、(2-23)より、

21

1

βττ

µµµµ

−===

dt

dx

d

dt

dt

dx

d

dxu

∴2

0

1 β−=

cu 、

21 β−=

vu

rr

(2-30)

を用いると、

21 β−

==vm

ump

rrr

(2-31)

となる。この式で 12 <<β のとき、1に対して 2β を無視すると、近似的に

Page 12: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第2章 特殊相対性理論

vmprr

= となるから、 µp はニュートン力学の運動量の自然な4次元的拡張にな

っているといえる。

運動量の空間成分の座標時間 tによる変化の割合を考えると、(2-23)、

(2-26)より

21 βτ

τ−== f

dt

d

d

pd

dt

pd rrr

(2-32)

を得る。ここで frは3次元空間ベクトル

),,(),,( 321

zyx fffffff ==r

(2-33)

である。ニュートンの運動の第2法則によると、運動量が時間によって変化

する割合が力であるから、

21 β−= fFrr

(2-34)

を相対論的力学におけるニュートン力と定義する。

次に、運動量の時間成分の意味を考えてみる。それの座標時間 tによる変化

の割合を考える。(2-23)、(2-26)から

2000

1 βτ

τ−== f

dt

d

d

dp

dt

dp (2-35)

を得る。

ここで µνη は

====

=

≠=

===−=

)(0

)(1

)(0

11 33221100

νµνµ

δδηηηη

ηη

νµη

ηηηη

νµ

νµλµ

νλλνµλ

µνµν

µν

、、

(2-36)

のように定義される。 νµδ はクロネッカーの記号と呼ばれる。

4元力の満たす関係式(2-27)を、(2-36)を使って書き換えると

0000

=

+−=

+−τττττ d

dtf

d

rdf

d

cdtf

d

rdf

d

dx rr

rr

・・

となる。この式から 0f を求めると

= fdt

rd

cf

rr

・10

を得る。

ここで、 )( barr

・ は3次元空間におけるベクトル arとb

rのスカラー積(内積)

zzyyxx bababa

babababa

++=

++= 332211)(rr

を表す。

ここで得た 0f を(2-35)に代入すると

Page 13: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第2章 特殊相対性理論

10

20

11

β−

= fdt

rd

cdt

dp rr

となる。この式の両辺に cをかけ、ニュートン力の定義(2-34)を使うと

= Fdt

rd

dt

cpd rr

・)( 0

(2-37)

を得る。この式の右辺はニュートン力学における意味で速度と力の内積にな

っている。この内積は外力 F が物体に及ぼす仕事の増加率、すなわち物体の

エネルギーの増加率を表している。このことから左辺の 0cp は物体のエネルギ

ーであると考えられる。このエネルギーをE と書くと、(2-29)の時間成分、

すなわち第0成分から

ττ d

dtmc

d

dxmccpE 2

00 ===

(2-23)を用いて

2

20

1 β−==

mccpE (2-38)

を得る。

ここで4元運動量の成分の間の関係式(2-25)を、 (2-36)を使って書

き直すと

22220 )()( cmpp −=+−r

となる。ここで 22)( pp =r

と書き、両辺に 2c を掛けてエネルギーの式(2-38)、

すなわち 0cpE = を用いると、mを 0m と書いて

42

0

222 cmpcE += (2-39)

を得る。(2-39)をエネルギー・運動量関係式という。

(2-38)で 0=v とおいたエネルギーの値を 0E と書くと

2

00 cmE = (2-40)

を得る。このことは、特殊相対性理論では、速度が0である静止している物

体もエネルギーを持っていることを示している。このエネルギーを静止エネ

ルギーという。(2-40)は質量とエネルギーが同等であることを示している

関係式で、アインシュタインによって発見されたものである。

慣性質量に光速 cの2乗を掛けたものがエネルギーと同等であるとすると、

逆に、運動している物体の慣性質量はエネルギーを光速 cの2乗で割ったもの

であると考えることもできる。このような見方をすると、運動する物体の慣

性質量 2/ cE は速さが大きくなればなるほど増大するといえる。このように質

量を考えるときには、 0m を静止質量という。

特殊相対性理論におけるエネルギーと、ニュートン力学におけるエネルギ

ーとの関係を調べる。エネルギーと速さの関係式(2-38)において、 12 <<βとし、 2β について2項展開する。展開の第2項までとると、2項定理

L++=+ nxx n 1)1( により、

Page 14: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第2章 特殊相対性理論

11

2

0

2

0

2

2

0

2/122

02

1

2

11)1( vmcm

c

vcmcmE +=

+≅−= −β

となる。この式の最右辺第2項はニュートン力学の運動エネルギー

22

2

1

2

1p

mmvK == である。すなわち、ニュートン力学における運動エネルギ

ーは、相対論的エネルギーから静止エネルギーを差し引いたものに相当し、

速度が小さいときの近似である。特殊相対性理論においても

42

0

22 cmpcE += (2-41)

を全エネルギー、また、

2

0

42

0

222

0 cmcmpccmEK −+=−= (2-42)

を運動エネルギーと呼ぶ。また、(2-42)を書き直すと、運動量と運動エネ

ルギーの関係は 2

0

222 2 cKmKpc += (2-43)

のように書ける。

2222....5555 質量質量質量質量

直線に沿って衝突する2個の同じ粒子を考える。ある座標系 S で、衝突前に

一方の粒子は静止し、一方は速度 vを持っているとする。それらは合体し、合

成物体は速度u で運動する。最初の2つの粒子の質量を、それぞれ )(vm 、 0m と

書き、合体した物体の質量をM と書く。また、この衝突を、反対向きの同じ

速さを持った2つの粒子が衝突し、質量 0M の合成物体が静止するような座標

系 S′で考えることもできる。2つの座標系から見た衝突を図2-3に示す。

v

)(vm0m

Mu

S

衝突前

衝突後

0M

u u−

)(um )(um衝突前

衝突後

S′

図2-3 S と S′から見た粒子の衝突

Page 15: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第2章 特殊相対性理論

12

運動量と質量が共に保存されると仮定する。S 系で見て、2つの粒子の運動

量は、衝突前で vvm )( および0、衝突後でMuである。対応する質量は )(vm 、 0m

およびM である。したがって運動量と質量の保存則は、

Muvvm =)( (2-44)

Mmvm =+ 0)( (2-45)

と書ける。式(2-44)の両辺を(2-45)の両辺で割ってM を消去すれば、

umuvvm

umuvm

mvmuvvm

M

Mu

mvm

vvm

0

0

0

0

))((

)(

))(()(

)(

)(

=−

+=

+=

=+

∴uv

u

m

vm

−=

0

)( (2-46)

を得る。

座標系 S′は S に対して速度u で左へ動いていると見ることができ、vはu と

u の合成速度である。ここで、速度の変換則(2-21)において、速度 vr′が x軸

に平行な場合、 0== zy vv 、 0=′=′zy vv となるから、

2/1 cvv

vvv

x

x

x −

−=′

vvvc

vv

vvvc

vvv

xxx

xx

x

x

+′=

′+

−=′

−′

2

2

1

∴2/1 cvv

vvv

x

x

x ′+

+′= (2-47)

これを用いると、

22 /1

2

cu

uv

+=

と書ける。すなわち

02

12

22

2

2

2

=+−

+=

cv

ucu

c

u

v

u

−±=−

±=

2

222

222

11c

v

v

cc

v

c

v

cu

cu < であるから

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第2章 特殊相対性理論

13

−−=

2

22

11c

v

v

cu

2

2

2

2

2

22

2

2

2

22

2

22

1

111

11

11

c

vu

c

v

c

v

v

c

c

v

c

v

v

c

c

v

v

cvuv

−=

+−−−=

−+−=

−−−=−

よって

2220 1

1

1

)(

β−=

−=

cvu

u

m

vm

∴2

0

1)(

β−=

mvm (2-48)

となる。

Page 17: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第3章 電磁気学

14

第第第第3333章章章章 電磁気学電磁気学電磁気学電磁気学

3333....1111 ローレンツローレンツローレンツローレンツ力力力力

電荷 qを持った質量の粒子mが、電場Er、磁束密度B

rの電磁場内を速度 v

rで

動く時に受ける力は

)( BvEqFrrrr

×+= (3-1)

で与えられる。これをローレンツ力という。

運動方程式は(2-26)、(3-1)より

)( BvEqFdt

pd rrrrr

×+== (3-2)

で与えられる。この方程式を、相対論的に共変な4次元形式に書き換える。

独立な運動方程式の数は4次元の方程式でも3個であるが、(3-2)に加わ

る第4の方程式が(2-37)より

)(110

Fvc

Fdt

rd

cdt

dp rrrr

・・ =

= (3-3)

で与えられている。すなわち(3-3)に(3-2)を代入して

)())](()[(0

Evc

qBvvEv

c

q

dt

dp rrrrrrr・・・ =×+= (3-4)

を得る。

まず座標時間による微分を、ローレンツ変換に対して不変な固有時間によ

る微分に変える。そのため(2-23)から得られる式

21

1

β−=

dt

dt

を、(3-2)と(3-4)の両方に掛ける。

×+

−=

22 11

1

ββτBv

Eqd

pdrr

rr

2

0

1

)(

βτ −=

Ev

c

q

d

dprr

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第3章 電磁気学

15

ここで4元速度と速度 vとの関係式(2-30)を使うと、これらの式はそれぞ

×+= BuE

c

uq

d

pd rrrr 0

τ

)(0

Euc

q

d

dp rr・=

τ

となる。

ベクトル積 Burr

× の成分は

xyyxZ

zxxzy

yzzyx

BuBuBu

BuBuBu

BuBuBu

−=×

−=×

−=×

)(

)(

)(

rr

rr

rr

で与えられる。この関係と µνf の定義の行列

−−−

=

0/

0/

0/

///0

33323130

23222120

13121110

03020100

xyx

xzy

yzx

zyx

BBcE

BBcE

BBcE

cEcEcE

ffff

ffff

ffff

ffff

によって、 τdpd /r

を4次元的成分で書くと、(2-36)の µνη を用いて

νλλν

λνλν

νλλν

νλλν

νλλν

ηητ

ητ

ητ

ητ

fuqfuqfufufuqddp

fuqfufufuqddp

fuqfufufuqddp

fuqfufufuqddp

00

30

3

20

2

10

10

3

32

2

31

1

30

03

2

21

1

23

3

20

02

1

13

3

12

2

10

01

)(/

)(/

)(/

)(/

=−=++=

=++=

=++=

=++=

となる。これらをまとめて4次元の式に書けば

λνλ

µνµ

ητ

ufqd

dp= (3-5)

となる。この式の左辺は(2-26)で定義された4元力であり、

λνλ

µνµ η ufqf = (3-6)

を、ミンコフスキーの4元力と呼ぶ。方程式(3-5)を4次元位置ベクトルの

固有時間による微分で書けば

τ

ητ

λ

νλµν

µ

d

dxfq

d

xdm =

2

2

(3-7)

Page 19: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第3章 電磁気学

16

と書ける。ミンコフスキーの4元力(3-7)が4元力の条件(2-27)を満た

すことは、 νλf の添字についての反対称性 λννλ ff −= により示すことができる。

(2-36)を用いると、

0≡−=−=

==

==

νλνλ

λνλν

νλλν

νλλρν

ρ

λνλ

µνρρµ

µρρµ

µρ

ρµ

δ

ηηητ

η

fuqufuqu

fuqufuuq

ufuqfufd

dx

となる。式の途中第3辺と第4辺の等式では関係 νρ

µνρµ δηη = を、その次の等

式では )(0)(1 νµνµδ νµ ≠== 、 の関係を、最後の等式では添字ν とλ を交換して

得られる。

(3-2)のローレンツ力と(3-6)のミンコフスキーの4元力の、空間部分

との関係は

2

2

0

1

1

)(

β

β

τ

−=

×+=

×+=

=

F

BvEq

Buc

Euq

d

pdf

r

rrr

rrr

rr

(3-8)

∴ 21 β−= fFrr

となっている。この関係は、ローレンツ力 Frが(2-34)で定義された相対

論的力学におけるニュートン力であることを示している。すなわちローレン

ツ力は、相対性理論においても、修正することなく通用するニュートン力で

ある。

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第3章 電磁気学

17

3333....2222 磁場中磁場中磁場中磁場中のののの電子電子電子電子のののの運動運動運動運動

図3-1のように、磁束密度Brの一様な磁場に、これと垂直に速さ vの電子

が飛び込んだとする。

電子は、(3-1)より、ローレンツ力

BvqFrrr

×= (3-9)

を受けて運動する。力は vrに垂直であるから、運動の方向は変えるが速さは

変えない。速さが一定なら磁場から受ける力の大きさ || evB も一定なので、方

向の変化も一定である。そのような運動は等速円運動であり、半径がR の円

周に沿って質量がmの質点が速さ vで回っている時に働いている力は、大き

さが Rmv /2 の向心力である。よって、

 vBeR

mv||

2

=

が成り立つ。運動量を p とすると、 mvp = より、

eBRp = (3-10)

という関係が得られる。

Br

m

m

e−

e−

vr

vr

R

Fr

Fr

図3-1 磁場中の電子の運動

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第3章 電磁気学

18

3333....3333 磁気回路磁気回路磁気回路磁気回路

磁束線は閉曲線となるため、磁束の通路を磁気回路と呼ぶ。

図3-2のように、透磁率 µ の円環状磁性体にコイルを一様に N 回巻いて

環状ソレノイド(トロイド)を作り、電流 I を流す。

トロイドの内部に点Oを中心とする半径 r の円周C を考え、これを積分路

として、拡張されたアンペールの法則

∫∫ ⋅=⋅SC

SdisdHrrrr

(3-11)

を適用すると

NIlB

HlsdHC

===⋅∫ µrr

)2( rl ⋅= π (3-12)

となる。ここで lは磁束の通路(磁路)の長さである。

トロイドを通過する全磁束は、どの断面で考えても一定で

BS=Φ ∴S

= (3-13)

式(3-12)に(3-13)を代入すると

Φ=Φ

=S

ll

SNI

µµ1

(3-14)

ここで、

r•I

µS

O

図3-2 円環状ソレノイド

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第3章 電磁気学

19

S

lR

NIV

m

m

µ=

=

(3-15)

とおくと(3-14)は

Φ= mm RV (3-16)

となる。これを、磁気回路に対するオームの法則という。また、 mV を起磁力、

mR を磁気抵抗と呼ぶ。

3333....4444 電磁石電磁石電磁石電磁石

微小な空隙を持つ円環状の強磁性体にコイルを巻き、磁気回路を構成すれ

ば、空隙内に強い磁界を発生させることができる。電磁石は、このような原

理で磁界を発生させる装置である。主に使用される強磁性体は鉄である。

図3-3(a)のように透磁率 µ の強磁性体を用いた断面積 S の環状トロイ

ドの一部が切れ、長さδ の狭い空隙が開いているとして、空隙部分から外部

への磁束の漏れは無視できるとする。

2mV

2mR

1mR

Φ

2mV

1mV 1mV

I

I

I

I

δ 1N1N

2N2N

1l

2l

µ

S

図3-3 (a) 電磁石 (b) 等価回路

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第3章 電磁気学

20

鉄心部分と空隙部分の磁気抵抗は(3-15)よりそれぞれ

S

llRm µ

211

2+= 、

SS

lRm

0

12 µ

δµ

δ+

−= (3-17)

となる。この磁気回路に対する等価回路は図3-3(b)のようになるから、

(3-15)、(3-16)より

Φ+=

Φ+Φ=+=+

)(

)22()(2

21

212121

mm

mmmm

RRNI

RRINNVV

∴21 mm RR

NI

+=Φ )22( 21 NNN += (3-18)

ここで、

)22()(

22

21

0

0

0

21

21

llLS

L

SS

llRR mm

+=+−

=

+−+

=+

µµδµµδ

µδ

µδ

(3-19)

したがって、空隙内の磁束密度は、(3-13)に(3-18)、(3-19)を代入

して

δµµδµµ

δµµδµµ

+−=

+−=

Φ=

0

0

0

0

)(

)(

1

L

NI

NIL

S

SSB

(3-20)

となる。

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第4章 実験方法

21

第第第第4444章章章章 実験方法実験方法実験方法実験方法

実験には、90Sr からβ線として放出される電子を用いる。この電子の速度は

様々で、光速に近いものもあり、相対論的なふるまいが予想される。

線源から出た電子はコリメータでしぼられ、電磁石で作られた磁場に入る。

電子は磁場によって曲げられた後、磁場領域から出て、検出器に入射する。こ

の信号が、マルチチャンネルアナライザーを通して、パソコンに出力され、グ

ラフのピークの位置のエネルギーを、運動エネルギーとする。

一方、電磁石の部分では電子の運動量が測定される。

このようにして、運動量と運動エネルギーを独立に測定する。

図4-1 実験方法

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第5章 装置

22

第第第第5555章章章章 装置装置装置装置

5555....1111 線源線源線源線源

β 線源として、 Sr90 を使用する。電子が放出される位置を知る必要があると

いうことと、線源をそのままの状態で使用するのでは放射線が多すぎるとい

うことで、写真5-1のようにコリメータを装着し、放射線を絞って量を減ら

す。

5555....2222 電磁石電磁石電磁石電磁石

電子の運動量を測定するために、電磁石を用いる。

電子は、磁束密度Brの一様な磁場中で、半径R の円運動をする。その時、

電子の運動量は(3-10)より

eBRp = (5-1)

であるから、電子の運動量は、磁束密度と円運動の半径を測定することで求

めることができる。

実験に使用する電磁石を設計、作製する。

写真5-1 コリメータを装着したβ 線源 Sr90

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第5章 装置

23

5555....2222....1111 形状形状形状形状のののの決定決定決定決定

磁場中での電子の円運動の半径を測定するため、図5-1のように、電磁石

の空隙部の断面に座標をとって考える。

)0,(Ra から電子が入射し、 ),0( Rb で検出することにする。そうすると、

eBRp = の運動量を持つ電子が検出されることになる。線源と検出器の位置を

同時に変化させ、座標を常に Ryx == とすることで、運動量を決定できる。

このことから、電磁石の形状として、断面が正方形のものが最適であると判

断した。

図5-1 電磁石の空隙部分での電子の運動

Page 27: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第5章 装置

24

5555....2222....2222 磁束密度磁束密度磁束密度磁束密度のののの決定決定決定決定

相対論的運動エネルギーは(2-42)より

2

0cmEK −= (5-2)

で与えられる。ここで、 2

0cm は電子の静止エネルギーで、

][511.02

0 MeVcm = (5-3)

である。

Sr90 から放出されるβ線の最大運動エネルギーは ][29.2 MeV であるから、運

動エネルギーの範囲は

][29.20: MeVK ~ (5-4)

であり、すなわち全エネルギーの範囲は(5-2)、(5-3)、(5-4)より

][80.2511.0: MeVE ~ (5-5)

全エネルギーと運動量は(2-39)より

42

0

222 cmpcE +=

によって結び付けられるから、

][)( 22

0

2 MeVcmEcp −=

∴ ]/[)( 22

0

2 cMeVcmEp −= (5-6)

これより、運動量の範囲は、

]/[75.20: cMeVp ~ (5-7)

となる。計算上、MKS 単位系に変換する。

]/[1034.5]/[1 28 skgmceV ⋅×= −

であるから、

]/[)1034.5(]/[]/[ 1122 −−− ⋅⋅⋅××=⋅ cMeVskgmcMeVpskgmp

となる。 (5-1)より

eBpR /= (5-8)

であるから、(5-7)で与えられる範囲での電子の円運動半径を求めることが

できる。 eは電気素量で

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第5章 装置

25

][1060.1 19 Ce −×= (5-9)

である。

Sr90 から放出される電子の運動量の範囲(5-7)に対する、円運動の半径ま

たは座標R の値(5-8)が、実験に適当と思われる大きさになるように、磁束

密度B を決定した。

電磁石の断面は、 ][6][6 cmcm × の正方形にすることで、

][5.5~0.1: cmR (5-10)

の測定が可能になり、磁束密度は

][18.0~10.0: TB (5-11)

とした。これらより

]/[04.2~75.0: cMeVp (5-12)

の範囲の運動量を持つ電子を測定することが可能となる。

5555....2222....3333 設計設計設計設計

(3-20)より、透磁率µ 、磁路 L、空隙δ の強磁性体にコイルを N 回巻き、

電流 I を流した時、空隙部分に発生する磁束密度は

δµµδ

µµ+−

=0

0

)(L

NIB (5-13)

0µ は真空の透磁率で

]/[104 7

0 mH−×= πµ (5-14)

である。今回、強磁性体には鉄を、導線には被覆銅線を使用する。鉄の透磁

率は

]/[101.10~1054.7 33 mH−− ××=µ (5-15)

である。

Page 29: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第5章 装置

26

(5-11)より ][18.0~10.0: TB としたので、(5-13)より

[ ]回600=N 、 ][8~4 AI = 、 ][82 mL =

とした。電磁石の形状は図5-2のように決定した。

34

6

7

6

6 9 1 2

19

6

6

][cm

銅線

鉄心

図5-2 電磁石の形状と大きさ

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第5章 装置

27

写真5-2は、実際に作製した電磁石である。銅線に電流を流すことで、空

隙部分に磁場が生じる。空隙部分の上から電子を入射し、手前側に曲げ、側

面で検出する。使用した電源を写真5-3に示す。

写真5-2 作製した電磁石

写真5-3 電源

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第5章 装置

28

5555....3333 CsICsICsICsI 検出器検出器検出器検出器・・・・高電圧電源高電圧電源高電圧電源高電圧電源

CsI シンチレータと光電子増倍管を組み合わせた検出器である。使用した検

出器を写真5-4に示す。

荷電粒子が通過すると蛍光を発する物質をシンチレータと呼ぶ。シンチ

レータの光量は極めて微量であるため、光電子増倍管によって増幅すること

で、電気パルスとして出力する。

光電子増倍管内部に塗布された光電物質に光が当たると、光電効果によっ

て光電子が生成される。電圧をかけてこの電子を加速させ、電極に衝突させ

ると、複数個の電子をたたき出す。このように、次々と加速、衝突させ、電

子を増やし電気信号として取り出す。

光電子増倍管に電圧をかけるために、写真5-5の高電圧電源を使用した。

写真5-4 CsI 検出器

写真5-5 高電圧電源

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第5章 装置

29

5555....4444 マルチチャンネルアナライザーマルチチャンネルアナライザーマルチチャンネルアナライザーマルチチャンネルアナライザー

放射線のエネルギースペクトルを測定する装置である。多重波高分析器と

も呼び、放射線検出器から送り出されてくる放射線のエネルギーに対応した

出力信号を、高さ別にいくつもの領域(多重のチャンネル、マルチチャンネ

ル)に分け、各チャンネルごとの計数を求めることができる。この信号は接

続されたパソコンに出力される。

写真5-6 パソコン(上)・マルチチャンネルアナライザー(下)

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第6章 測定

30

第第第第6666章章章章 測定測定測定測定

6666....1111 エネルギーキャリブレーションエネルギーキャリブレーションエネルギーキャリブレーションエネルギーキャリブレーション

電子は検出器、マルチチャンネルアナライザーを通して、エネルギーがス

ペクトルとしてパソコンに出力される。そのスペクトルの位置を運動エネル

ギーとするのだが、横軸がチャンネル数で出力されるので、チャンネルに対

応するエネルギーを求める必要がある。これを、エネルギーキャリブレーシ

ョンと呼ぶ。

スペクトルの現れるエネルギー値が既知の線源を用いて測定を行う。使用

するのは、 γ 線源の Na22 と Cs137 である。 Na22 の光電ピークは MeV511.0 、

MeV275.1 に現れ、 Cs137 の光電ピークは MeV662.0 に現れることがわかってお

り、エネルギースペクトルの現れたチャンネルが、光電ピークのエネルギー

に対応しているということであるから、チャンネル数とエネルギーの対応関

係を求めることができる。

以下の測定は、 VVH 1550.. = (高電圧電源)、 4=GAIN (マルチチャンネル

アナライザー)で5分間行うことに統一する。

6666....1111....1111 バックグラウンドバックグラウンドバックグラウンドバックグラウンドのののの測定測定測定測定 線源を用いた測定で補正を行うために、検出器を線源の影響のない場所に

設置し、放射線の数を測定する。チャンネルごとに、バックグラウンドのカ

ウント数を差し引くことで、実際に線源から放出された放射線によるカウン

ト数を得ることができる。

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第6章 測定

31

6666....1111....2222 22222222NaNaNaNa ののののスペクトルスペクトルスペクトルスペクトル測定測定測定測定 検出器から 20cm 程度離した所にγ 線源の Na22 を設置し、放出されるγ 線の

数を測定する。検出器に入射する放射線量が多すぎると、検出器に電流が流

れてしまい、正しく測定することができなくなるので、線源と検出器の距離

を十分離したり、間に鉛板を置くなどして、入射する放射線量を減らす。

測定した値に対してバックグラウンド補正を行い、グラフに描いたものを、

図6-1に示す。横軸はチャンネル数、縦軸はカウント数の対数をとったもの

である。

チャンネル100付近に見られるのはペデスタルである。ペデスタルは以下の

全ての測定で同じように現れる。

Na22 の光電ピークは MeV511.0 、 MeV275.1 に現れることがわかっているの

で、ピークの現れたチャンネルが、そのエネルギーに対応していることにな

る。出力するプログラムのフィッティング機能を利用して値を測定した結果、

ピークの位置のチャンネル数は、 225、524であった。

1

10

100

1000

10000

0 200 400 600 800 1000

チャンネル

カウ

ント

Na 0.511MeV 1.275MeV

図6-1 Na22 のエネルギースペクトル

225

524218

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第6章 測定

32

1

10

100

1000

10000

0 200 400 600 800 1000

チャンネル

カウ

ント

Cs 0.662MeV

図6-2 Cs137 のエネルギースペクトル

6666....1111....3333 137137137137CsCsCsCs ののののスペクトルスペクトルスペクトルスペクトル測定測定測定測定 Na22 の場合と同様に測定を行い、グラフに描いたものを図6-2に示す。

Cs137 の光電ピークは MeV662.0 に現れる。ピークの位置のチャンネル数は 289

であった。

6666....1111....4444 チャンネルチャンネルチャンネルチャンネルととととエネルギーエネルギーエネルギーエネルギーのののの対応対応対応対応 各チャンネルに対応するエネルギーを求める。チャンネルとの対応は図6-

3のようになった。

最小二乗法により、チャンネルとエネルギーの対応関係の式を求めると、

図6-4のようになった。誤差は小さすぎて見えない。

チャンネル エネルギー [MeV] ピーク

225 0.511 22Na

289 0.662 137Cs

524 1.275 22Na

図6-3 光電ピークのチャンネルとエネルギー

289

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第6章 測定

33

こうして、チャンネルとエネルギーの対応関係が求められた。

6666....2222 電子電子電子電子のののの運動量運動量運動量運動量・・・・運動運動運動運動エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー測定測定測定測定

β 線源の Sr90 から放射された電子の運動量と運動エネルギーを測定する。

運動量は(5⊶1) eBRp = より、 R と B を測定することで得られる。座標は、

電子が入射、放出する部分に目盛りをつけ、線源と検出器の座標を Ryx == 、

とし、目盛りを読むことで測定する。磁束密度は、写真6⊶1のガウスメータ

を用いて測定する。

電磁石で屈曲された電子は検出器に入射し、マルチチャンネルアナライ

ザーを通してパソコンに出力される。6.1でエネルギーキャリブレーショ

ンを行ったので、横軸はエネルギーとなる。

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

0 200 400 600 800 1000

チャンネル

エネ

ルギ

y = 0.0024x - 0.0079 測定値

図6-4 チャンネルとエネルギーの対応関係

写真6-1 ガウスメータ

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第6章 測定

34

図6-5は、 ][5.5~0.2:],[18.0~10.0: cmRTB の範囲で、色々な場合で測

定したエネルギースペクトルである。図の点線の位置をピークと判断し、

運動エネルギーの値を得る。

1

10

100

0.0 1.0 2.0 3.0

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(c) ][0.5:],[10.0: cmRTB

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(d) ][5.5:],[10.0: cmRTB

図6-5 Sr90 のエネルギースペクトル

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(b) ][5.4:],[10.0: cmRTB

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(a) ][5.2:],[10.0: cmRTB

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第6章 測定

35

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(e) ][0.2:],[51.0: cmRTB

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(f) ][5.3:],[51.0: cmRTB

1

10

100

0.0 1.0 2.0 3.0

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(g) ][0.4:],[51.0: cmRTB

1

10

100

0.0 1.0 2.0 3.0

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(h) ][0.2:],[61.0: cmRTB

Page 39: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第6章 測定

36

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(ⅰ) ][5.2:],[61.0: cmRTB

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(j) ][0.3:],[61.0: cmRTB

1

10

100

0.0 1.0 2.0 3.0

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(k) ][5.3:],[61.0: cmRTB

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(ℓ) ][0.4:],[61.0: cmRTB

Page 40: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第6章 測定

37

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(m) ][0.4:],[71.0: cmRTB

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(n) ][0.3:],[81.0: cmRTB

1

10

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

エネルギー[MeV]

カウ

ント

(o) ][5.3:],[81.0: cmRTB

Page 41: 特殊相対性理論の検証hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/04/mouri.pdf第2章 特殊相対性理論 3 すなわち、 (x′,y′,z′,t′)は(x,y,z,t)の1次関数 (2-1) であるとする。光速不変の原理のもとでは、昷間も慣性系ごとに定める必要

第6章 測定

38

これらの測定値を図6⊶6にまとめた。

磁束密度 座標 運動量 運動エネルギー

B [T] R [cm] p [MeV/c] K [MeV]

0.10 2.5 0.75 0.40

0.10 4.5 1.35 0.93

0.10 5.0 1.50 1.07

0.10 5.5 1.65 1.22

0.15 2.0 0.90 0.52

0.15 3.5 1.57 1.14

0.15 4.0 1.80 1.36

0.16 2.0 0.96 0.58

0.16 2.5 1.20 0.79

0.16 3.0 1.44 1.02

0.16 3.5 1.68 1.24

0.16 4.0 1.92 1.47

0.17 4.0 2.04 1.59

0.18 3.0 1.62 1.19

0.18 3.5 1.89 1.45

図6-6 測定値のまとめ

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第7章 結果・考察

39

第第第第7777章章章章 結果結果結果結果・・・・考察考察考察考察

7777....1111 運動量運動量運動量運動量とととと運動運動運動運動エネルギーエネルギーエネルギーエネルギーのののの関係関係関係関係

図6-6にまとめた測定値を用いて、運動エネルギーと運動量の関係を求め、

相対論、古典論と比較する。

相対論的運動量と運動エネルギーの関係は(2⊶43)より

ccKmKp /2 2

0

2 +=

である。また、古典論では0

22

22

1

m

pmvK == より

Kmp 02=

である。

横軸を運動エネルギー、縦軸を運動量にとって描いたグラフを、図7-1に

示す。

点が測定値、実線が相対論、点線が古典論の運動量と運動エネルギーの関

係を表している。図7-1より、測定は相対論に一致したと言える。

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

運動エネルギー[MeV]

運動

量[M

eV

/c]

測定値 古典論 相対論

図7-1 運動量と運動エネルギーの関係

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第7章 結果・考察

40

7777....2222 電子電子電子電子のののの速度増加速度増加速度増加速度増加にににに伴伴伴伴うううう質量増加質量増加質量増加質量増加

図7-1のグラフの縦軸と横軸を変えて書き直す。横軸を pK / 、縦軸を

Kp 2/2 にとる。

])/([

]/[

2smkgK

smkgp

⋅ ∴

][2/

]/[/

2 kgKp

smpK

のように単位を見ると、それぞれ速度、質量に対応していることがわかる。

これより、速度と質量の関係を見ることができる。

グラフを図7-2に示す。図7-1を書き直したものなので、運動量・運動

エネルギーの関係(図7-1)と速度・質量の関係(図7-2)は、本質的に意

味は変わらない。

点が測定値、実践が相対論、点線が古典論を示している。相対論では、速

度が小さい時は電子の静止質量 ][511.00 MeVm = をとるが、(2-48)

2

0

2

0

11

)(

=−

=

c

v

mmvm

β

より、速度が増加すると共に質量が増大する。古典論では、速度が増しても

質量が変わらないので、 ][511.00 MeVm = の静止質量のまま、グラフは直線にな

る。

縦軸に 2p をとっているので、図7-1より誤差が大きくなっているが、誤差

を考慮しても、測定値は相対論に一致していると言える。

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

K/p[速度]

p2/2K[質

量]

測定値 古典論 相対論

図7-2 速度と質量の関係

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第7章 結果・考察

41

7777....3333 まとめまとめまとめまとめ

電子の運動量と運動エネルギーをそれぞれ独立に測定し、その関係を求めた

結果、古典論

0

2 2Kmp =

ではなく、相対論

0

222 2KmcKp +=

と一致した。さらに、これと同等の意味として、速度増加に伴う質量増加を確

認することができた。

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謝辞

42

謝辞謝辞謝辞謝辞

本研究を行うにあたり、適切な御指導をしていただいた竹下徹教授に、深く

感謝いたします。研究をやりとげられたことを、心よりうれしく思っています。

また、多くの助言をいただいた高エネルギー物理学研究室の皆様、同部屋で

共に研究に励んだテラヘルツ分光研究室の皆様に、深く感謝いたします。加え

て、激励をいただいた全ての方に、この場を借りて御礼申し上げます。どうも

ありがとうございました。

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参考文献

43

参考文献参考文献参考文献参考文献

[1]前田順平 氏

信州大学 平成15年度卒業論文

「MultiChannelAnalyzer のソフト作成とガンマ線のエネルギー測定」

[2]中野董夫 氏 著 岩波書店

「物理入門コース9 相対性理論」

[3]窪田高弘 氏 佐々木隆 氏 共著 裳華房

「裳華房テキストシリーズ-物理学 相対性理論」

[4]森健寿 氏 石原武 氏 訳 丸善株式会社

「オックスフォード物理学シリーズ10 特殊相対論」

[5]太田昭男 氏 著 培風館

「新しい電磁気学」

[6]小出昭一郎 氏 著 裳華房

「電磁気学 物理学[分冊版]」