研 究NO.1506

建築物における空間放射線量率の分布性状 と低減対策に関する研究

主査 野﨑 淳 夫*1

委員 一 條 佑 介*2,小 林 光*3,成 田 泰 章*4,吉 野 博*5,

本研究では,東 京電力福島第一原子力発電所の事故(以 下,原 発事故)で 生 じた放射性物質による環境汚染について,

住宅内外の空間放射線量率を求め,除 染作業の有効性や建築物における放射線の遮蔽性を検証 した。結果 として,1)除 染

作業に伴 う室内外の空間放射線量率の変化が明らかにな り,建 築部を取 り巻く環境放射線量率 と室内における空間放射線

量率との関係が明らかになった。また,2)住 宅の建築材料や構造が,放 射線の遮蔽性に及ぼす影響が明らかにな り,実 環

境における遮蔽建材の適用法を明 らかにした。

キ ー ワ ー ド:1)空 間 放 射 線 量 率,2)放 射 性 物 質,3)除 染,4)遮 蔽,5)建 材

DISTRIBUTION OF THE SPATIAL RADIATION DOSE RATE IN BUILDINGS

AND ITS MITIGATION MEASURES

Ch. Atsuo Nozaki

Yusuke Ichijo, Hikaru Kobayashi, Yasunori Narita, Hiroshi Yoshino

This study aimed to reveal the detailed in-building radiation dose rate before and after the decontamination, and to examine the

mitigation measures of the spatial radiation dose rate. It turned out that 1) as we measured the change of the spatial radiation dose

rates inside and outside of general houses in Fukushima prefecture upon the decontamination operation, and clarified the association

between the contamination of the external environment and in-building spatial radiation dose rate. Moreover, 2) we examined the

radiation shielding factors of building components for houses, and it was revealed that the shielding factor ratio increases

logarithmically as the wall becomes thicker, and we clarified how to apply shielding building materials to actual buildings.

1.は じめに

　東京電力福島第一原子力発電所(以 下,原 発)の 事故

に伴い,原 発周辺地域は過酷な放射性物質汚染事故に遭

遇 したが,原 発か ら50km以 遠の地域においても,ホ ッ ト

スポッ トと呼ばれ る局所的に高い放射線量率を示す地域

が点在 した(図1-1参 照)。

　このような事情から,福 島県では住民避難が起こり,

2015年2月27日 の時点で約4万7千 人が全国47都 道府

県,1,103の 市区町村全国の都道府県にもれなく避難す

ることになり,県 内外への避難者総数は,約11万8千 人

に達 した文1)。この原発事故の特徴 は,そ の被害範囲が広

範であ り,ま た被害そのものが継続的かつ長期に及ぶこ

と,さ らに被害の内容が地域及び住民の生活 を根本的に

脅かす ことにある。

　以上の背景か ら,環 境放射線による外部被曝量を軽減

する具体策が求められている。外部被曝量の低減は,原

因の除去(除 染)と 遮蔽 ・行動(対 応)の 組み合わせで考え

る必要がある。そ もそ も,国 の除染基準は,0.23μSv/h

以上の空間放射線量率を示す地域が対象 となっているが,

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この値 は建物か60%の 放射線 を軽減する前提で成立 し

ている文2)。ところが,こ の軽減性はチェルノブイ リ事

改で得 られた知見が基 となってお り文3,そ の全てを我が

国の建築物に適応することには無理がある。一方で,今

没の原発事故を契機に開発 された遮蔽建材 を適応するこ

とで,空 間放射線量率の低減が得 られる可能性 もある。

また,室 内の空間放射線量率の分布性状は,在 室者の

固人被ばく量に直結す るが.こ れについても不明な点が

*1東北文化学園大学大学院 教授,*2東 北文化学園大学 講師,*3東 北大学 准教授,*4暮 らしの科学研究所 部長,*5東 北大学 総長特命教授

多い。そのため,建 築物性能 と屋外の空間放射線量率か

ら,室内における空間放射線量率を正 しく予測できない。

そこで,建 築物内における空間放射線量率を低減 させ

うる1)住 宅部材や工法の情報集作業を行い,2)具 体的

な低減対策 を明らかにす ることが喫緊の課題である。

1.1研 究背景

室内における空間放射線量率の遮蔽率は,チ ェルノブ

イリの事故の土壌表面汚染濃度か ら算 出されてい る。こ

の事故事例を基に,国 際原子力機関(IAEA)で は,建 築

物の種別 ごとの放射線遮蔽率く注1>を求め,木造で約60%,

コンク リー ト造では約80%と の調査結果を報告 してい

る。原発事故の収束段階における国際放射線防護委員会

(ICRP)の 年間放射線被ばく量勧告値は1mSvで あるが,福

島県の高線量地域(原 発近傍の除染特別地域な ど)で こ

の基準をク リアす るためには,環 境中の空間放射線量率

を除染で低下させ ると共 に室内における空間放射線量率

の低減対策が必要となっている。

また,福 島県の人 口の7割 が居住す る福島県中通 り地

方(福 島市,伊 達市,二 本松市,本 宮市,郡 山市など)

の環境中の空間放射線量は除染特別地域 と比較 して低い

ものの,2015年12.月 の時点でも0.4μSv/hを 超える地

域があ り文4),土 壌,道 路,植 物,建 物等に付着 した放

射性物質か らの放射線によ り,年 間の被 ばく量が1mSv

を超過す るケースがある。

さらに,低 レベル放射線の長期曝露 に伴 う健康影響に

は不明な点が多 く,地域住民は大いに不安 を抱いてお り,

外部環境のみならず住宅等における空間放射線量率の低

減対策が求 められてい る。

放射性物質汚染対処特措法や緊急除染基本方針等 が

示 され,国 が直轄で除染 を行 う除染特別地域 と市町村が

行 う汚染状況重点調査地域に分けられ,除 染作業が進め

られた。2017年3.月 をもって,汚 染状況重点調査地域に

おける主な除染作業は終了する計画 となっている。

ただ し,建 築物 を取 り巻 く空間放射線量率の実態や除

染作業の有効性については,科 学的な情報が周知 されて

いない問題がある。

1.2研 究目的

本研究では,原 発事故 によ り空間放射線量率が著 しく

上昇 した地域における除染前後の室内放射線量率の実態

を明らかに し,住 宅等における空間放射線量率の低減対

策を明 らかにすることを 目的としている。

具体的には,1)福 島県内の一般住宅を対象に除染作業

に伴 う室内外の空間放射線量率の変化 を求め,外 部環境

汚染 と室内空間線量率 との関係 を明らかにする。また,

2)住 宅の建築部材や建材の放射線遮蔽性能を検討 し,実

際の建築物での遮蔽建材の適用法を明らかにするもので

ある。

特に,以 下の事項について明らかにする。

① 高線量 ・低線量地域の住宅内 ・外空間線量率計測

原発か ら約10km離 れ た除染特別地域の浪江町,約

60km離 れた郡山市における除染作業に伴 う木造住宅の

空間放射線量率の変化,お よび外部環境汚染 と室内空間

線量率 との関係

② 放射線の防護対策

セシウム(134Cs,137Cs)は,主 として地表に沈積 し

てお り,地 表か ら貫通力の強い γ線が発せられてお り,

環境放射線を構成 している。

原発事故以前に建設 されている建物の床下から,室 内

に放射する放射線は殆 ど無 く,建 築内部の空間放射線量

率を低減するためには,壁 体の γ線 の遮蔽性能を向上 さ

せる必要がある。壁体における放射線遮蔽率を向上 させ

るに,例 えば,壁 体に放射線遮蔽材(プ レキャス トコン

ク リー ト板やバ リウムなどの放射線遮蔽材 を混入 した建

築部材)で 被覆することにある。

2.実 験 概 要

2.1高 線 量 地 域(浪 江 町)の 住 宅 内 空 間 放 射 線 量 率

(1)測 定 方 法 文5)

空 間放 射 線 量 率 の 測 定 に は,Nalシ ン チ レー シ ョン 式

サ ー ベ イ メ ー タ(日 立 ア ロ カ メ デ ィ カ ル 社 製,型 番:

TCS-172B),表 面 汚 染 密 度 の 測 定 はGM管 式 サ ー ベ イ メ

ー タ(日 立 ア ロ カ メ デ ィ カ ル 社 製,型 番:TGS-146B)を 用

い た(写 真2-1,2参 照)。

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(2)測 定 対 象

図2-1に 示 す 住 宅 内お よび 住 宅 周 辺 の126地 点 で 空 間

放 射 線 量 率 の 測 定 を 行 う と と も に,19点 で 表 面 汚 染 密 度

の 測 定 を行 っ た 。 対 象 住 宅 は 農 地 に 囲 ま れ た住 宅 地 に 立

地 し,周 辺 の 地 形 に は大 き な 起 伏 は な い 。 構 造 は木 道 軸

組 に よ る平 屋 で セ メ ン ト瓦 葺 で あ っ た。 同 地 域 で は 典 型

的 な住 宅 と位 置 付 け られ る 。

空 間 放 射 線 量 率 は,1)住 宅 内:床 面 か ら1cm,50cm,

1m,1.5m,2m及 び 天 井 下1cmの 高 さ,2)住 宅 周 辺:地

盤 面 か ら1m及 び2mの 高 さ,表 面 汚 染 密 度 は,測 定 対 象

面+1cm(高 さ)で そ れ ぞ れ の 測 定 を 行 っ た 。

2.2低 線 量 地 域(郡 山 市)の 住 宅 内 空 間 放 射 線 量 率

(1)測 定 方 法

空 間 放 射 線 量 率 の 測 定 に は,Nalシ ン チ レー シ ョン 式

サ ー ベ イ メ ー タ(日 立 ア ロ カ メ デ ィ カ ル 社 製,型 番:

TCS-172B)を 用 い た 。

(2)測 定 対 象

図2-2～4に 示 す よ う に住 宅 内 の99地 点 お よび 住 宅 周

辺 の110地 点 で 空 間 放 射 線 量 率 の 測 定 を 行 っ た 。 対 象 住

宅 は郊 外 の住 宅 地 に 立 地 し,周 辺 に著 しい 起 伏 は な い 。

構 造 は 木 道 軸 組 に よ る2階 立 て で,屋 根 に はFRP防 水 が

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写 真2-3浪 江町実 測住宅

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ドや断熱材など張 り合わせて,実 在住宅の壁体の検体を

作製 した(図2-5参 照)。

(2)開 口部における放射線対策

γ線は壁体や開 口部を経て,室 内に侵入す る。例えば,

ガラス窓の遮蔽効果はなく,ほ とん どのγ線を通過 させ,,

アル ミ製のシャッター ・雨戸でもその効果 は望めない。

そこで,窓 などの開口部か ら侵入する放射線対策を検〃

討する。すなわち,市 販遮蔽材を用いて,開 口部の放射

線遮蔽を意図した 「放射線遮蔽建具」を試作 し,こ れを

実在建築物の窓面(700mm×900mm)に 取 り付け,そ の遮

蔽性能を求めた。図2-6に は測定対象建築物の平面図と

測定箇所 を示す。

図2-4郡 山市実 測住 宅2階 平面 図

2.3放 射線の防護対策

(1)建 材における放射線遮蔽性能

筆者 らは,放 射線遮蔽検証器具(以 下,遮 蔽検証器具)

文6)を用いた実測調査を行 ってい る。以下,そ の研究成

果を交え,建 材による放射線の遮蔽について述べ る(写

真2-4参 照)。

防 水 シ ー ト

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写 真2-4放 射線 遮蔽検 証器 具に よる検証 作業

本 検 証 装 置 に 建 材 を設 置 し,遮 蔽 検 証 器 具 を一 定 の 環

境 放 射 線 量 率 を示 す 地 点 に設 置 して,各 種 材 料 の放 射 線

遮 蔽 率 を求 め た。 遮 蔽 検 証 器 具 の 上 下 に は,放 射 線 遮 蔽

率 が 約90%と され る150mm厚 の コ ン ク リー ト板 が設 置 さ

れ,コ ン ク リー ト板 間 に 各 建 材 で 構 成 され た4面 の 壁 体

を設 置 す る こ とで,364mm×364mm×364mmの 空 間(8畳 の

1/100)が 構 成 され る。 この 空 間 にNaIシ ン チ レー シ ョン

式 サ ー ベ イ メー タ の プ ロー ブ を 挿 入 して,縮 尺 空 間 内 の

空 間 放 射 線 量 率 を 測 定 した 。 壁 体 の遮 蔽 性 能 を求 め る た

め,厚 さ30mm,50mm,120mmの コ ン ク リー ト板 を作 製 し,

ま た これ ら に実 際 の 壁 体 仕 上 げ を再 現 す べ く,石 膏 ボ ー

図2-5木 造 壁 の 一 例(平 面 詳 細 図)

図2-6放 射線遮蔽建具の設置

50 住 総研 研 究 論 文集No.43,2016年 版

3.測 定結果

3.1高 線量地域(浪 江町)の 住宅内空間放射線量率

(1)除 染前

除染作業前の住宅内と住宅周辺の床面(又 は地面)か

ら1m高 さの空間放射線量率を図3-1に 示す。なお,実 測

風景を写真3-1に 示す。

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写 真3-1空 間放射 線量 率の測 定

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図3-1除 染前 に おける住 宅内外 の空間放 射線量 率

(床面か ら1mの 測定 点)

測 定 値 は1.10か ら4.30μSv/hに 分 布 し,室 内 で の 最

大 値 は3.15μSv/hで あ っ た。室 内 で の 最 大 値 を 示 した 箇

所 に,居 住 者 が1日 当 た り24時 間,365日 間滞 在 す る と

仮 定 す る と年 間 の放 射 線 被 ば く線 量 は27.5mSvと な り,

許 容 され る 追 加 被 ば く放 射 線 量 の1mSv<沖2㌧ に 比 較 して,

非 常 に 大 き な 値 とな る。 上 下 方 向 で は,図3-2の 左 側 に

示 す よ うに 天 井 下1cmの 測 定 点 が 最 も値 が 大 き く,床 面

に近 づ く に 従 っ て,空 間放 射 線 量 率 は 小 さ くな る傾 向 に

あ っ た 。屋 外 の 測 定 点 で の最 大 値 は 雨 どい の 直 下 で4.30

μSvで あ っ た 。

また,住 宅 内 の 空 間 放 射 線 量 率 は,建 築 物 の 床 下 が 汚

染 され て い な い こ とや,遮 蔽 効 果 に よ り,住 宅 周 辺 の 空

間 放 射 線 量 率 よ り小 さ くな っ て い る。

(2)除 染 後

除 染 作 業 は行 政 か ら委 託 を受 け た業 者 が 実 施 した。除 染

方 法 と して,屋 根,外 壁,軒 樋,竪 樋,塀 に つ い て は,高

圧 水 洗 浄,ブ ラ シ洗 浄,拭 い 取 りな どで 行 わ れ,住 宅 周 辺

(庭)に つ い て は,表 土 の削 り取 り,植 栽 の枝 払 い な どの

後 に,砂 利 に よ る表 土被 覆 が 行 われ た。

床 面 か らlmの 室 内 の 空 間 放 射 線 量 率 を 図3-3に 示 す 。

測 定値 は0.61か ら1.65μSv/hに 分 布 し,室 内 で の最 大 値

は1.30μSv/hで あ っ た。 除 染 前 後 で比 較 した 結 果,全 て

の測 定 点 で 大 き く低 下 して い た 。最 大 値 に 対 応 す る年 間 の

放 射 線 被 ば く線 量 は11.3mSvと な る。

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図3-2除 染 作業前 後に おけ る空 間放射 線量率 の斜視 図(左:除 染 前,右:除 染 後)

ま た,図3-4に 示 す よ うに 除 染 作 業 後 に お け る空 間放

射 線 量 率 の 低 下 率 は約30%前 後 で あ り,上 下 方 向 の分 布

を 図3-2の 右 側 に示 した が,全 般 に低 下 した こ と が分 か る。

屋 内 外 の 表 面 汚 染 密 度 は,図3-5に 示 す よ うに191か

ら764cpmに 分 布 し,除 染 前 後 の 表 面 汚 染 密 度 を比 較 した

結 果,表 面 汚 染 密 度 は ほ ぼ 全 て の 点 で大 き く低 下 して い た。

国 際原 子 力 機 関(IAEA)に よ る と1階,2階 建 て の木 造 住

宅 で の放 射 線 遮 蔽 率 は0.4(代 表 的 な 範 囲:0.2～0.5)で あ

り,吉 田 ら文6)も 同様 の結 果 を報 告 して い る。 本 調 査 で の

放 射 線 遮 蔽 率 は,除 染 前 で は約0.4,除 染 作 業 後 で は約0.2

で あ っ た 。除 染 作 業 後 に 放 射 線 遮 蔽 率 が低 くな っ た理 由 と

して,屋 根 面 の 汚 染 等 が原 因 と考 え られ る。

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図3-5除 染作 業後にお ける表 面汚 染密度

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図3-3除 染作 業後 にお ける住宅 内外の空 間放射 線量率

(床面 か ら1mの 測定 点)

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3.2低 線 量 地 域 の 住 宅 内 空 間 線 量 率

1)除 染 前

除 染 作 業 前 の住 宅 内 と住 宅 周 辺 の床 面(又 は 地 面)

か ら1m高 さ の 空 間 放 射 線 量 率 を 図3-6,7に 示 す 。

な お,実 測 風 景 を写 真3-1に 示 す 。

測 定 値 は,0.07か ら0.33μSv/hに 分 布 し,室 内 で

の 最 大 値 は0.19μSv/h,平 均 値 は0.09μSv/hで あ っ

た 。 室 内 で の 最 大 値(0.19μSv/h)を 示 した 箇 所 に]

日24時 間,365日 間 の滞 在 を仮 定 す る と年 間 の 放 射 線

被 ば く線 量 は1.66mSvと な り,国 際 放 射 線 防護i委員 会

に よ る年 間 の 追 加 被 ば く放 射 線 量 の 管 理 目標 値 で あ る

1mSv<注2>の,約1.7倍 の 値 とな る。 室 内 に お い て,

上 下 方 向 で は1,2階 共 床 上2m値 が 高 く,床 面 に近C

く に従 っ て,低 下 す る傾 向 を示 した(図3-8参 照)。

ま た,住 宅 内 の 空 間 放 射 線 量 率 は,建 築 物 の 床 下 が

汚 染 され て い な い こ とや,遮 蔽 効 果 に よ り,住 宅 周 辺

の 空 間 放 射 線 量 率 よ り低 くな っ て い る。

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図3-4除 染作 業後にお ける空 間放射線量率の低 下率

図3-6除 染前における住宅外の空間放射線量率

(地盤面か ら1mの 測定点)

写真3-2空 間放射 線量 率の測 定

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床上2.Om

緑 樹)の 勇 定,吸 引式 高 圧 洗 浄 機 に よ る コ ン ク リー ト面

の 洗 浄,庭 が あ る場 合 に は落 ち葉,表 土,砂 利 の 除 去,

芝 の 深 刈 り等 が 行 われ る。

除 染 作 業 後 の 住 宅 内 と住 宅 周 辺 の 床 面(又 は地 面)か

ら1m高 さ の空 間 放 射 線 量 率 を 図3-9～10に 示 す 。

測 定 値 は0.06か ら0.26μSv/hに 分 布 し,室 内 で の最

大 値 は0.12μSv/h,平 均 値 は0.08μSv/hで あ っ た。

除 染 前 後 で 比 較 し た結 果,全 て の測 定 点 で 大 き く低 下 し

て い た 。室 内 で の最 大 値(0.12μSv/h)を 示 した 場 所 に

1日24時 間,365日 滞 在 す る と仮 定 す る と年 間 の 追 加 被

ば く放 射 線 量 は1.05mSvと な る 。

ま た,除 染 作 業 後 に お け る 空 間放 射 線 量 率 の低 下 率 は

約20%前 後 で あ り,上 下 方 向 の 分 布 に お い て も全 般 に 同

様 の 傾 向 で あ る(図3-11参 照)。

11700

床上10m

床上1cm

一 一〇.050.33

図3-8除 染前に おけ る住 宅内外 の空 間放射線 量率

(床面(地 盤 面)か ら1mの 測定 点)

II

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●II

II

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/(2)除 染後

除染作業は行政から委託 を受けた業者が実施 した。除

染方法として,雨 樋の堆積物の除去 ・拭 き取 り,(庭 木常

図3-9除 染後 における住宅外の空間放射線量率

(地盤面か ら1mの 測定点)

1

2

3

4

5

6

7

8

9

ABCDEFG H

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図3-7除 染前における住宅内の空間放射線量率(床 面か ら1mの 測定点,左:1階 室内,右:2階 室内)

国 際 原 子 力 機 関(IAEA)に よ る と1階,2階 建 て の 木 造

住 宅 で の 放 射 線 遮 蔽 率 は0.4(代 表 的 な範 囲:0.2～0.5)

で あ り,吉 田 ら文η も 同様 の 結 果 を報 告 して い る。 本 調

査 で の 放 射 線 遮 蔽 率 は,除 染 前 後 共 に 約0.4で あ っ た 。

高 線 量 地 域(福 島 県 浪 江 町)の 住 宅 で の 実 測 調 査 で は,

除染 作 業 前 の 空 間 放 射 線 量 率 は,天 井 付 近(天 井 下1cm)

が最 も値 が 高 く,床 面 に 近 づ く に従 っ て,低 下 す る傾 向

を 示 した が,低 線 量 地 域(福 島 県 郡 山市)の 住 宅 で は,上

下 方 向 の分 布 で は 大 き な 差 が な か っ た が,西 側 よ り東 側

の値 が 高 い傾 向 を 示 した 。 こ の 理 由 と して,郡 山 市 住 宅

の東 側 隣 地 と の 間 に法 面 が あ り,そ の 法 面 の 汚 染 等 が 原

因 と考 え られ る。

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ク リー ト厚が増大す るに伴い,放 射線遮蔽率も増大 し,

最大で約28%の 放射線遮蔽率を示 した。この遮蔽検証器

具の上下のスラブ面は150mm厚 のコンクリー ト板であ

り,そ の周囲4面 に壁体検体を設置 して放射線遮蔽率が

求めた。この場合,壁 体が120～150mm厚 のコンクリー

ト板であれば,侵 入す る放射線は殆 ど無 くなるもの と思

われたが,実 際には30%未 満の放射線遮蔽率 となった。

本遮蔽検証器具の下部スラブには直径20mmの 放射線

測定器用プローブ用の挿入 口があり,地 盤面からの放射

線がこのプローブ と挿入 口を通 して,侵 入 したためにこ

のような測定値になった ものと考えられ る。

040

0.35

20.30

ω025

ニ

癬020

咄

駆0・15

鵠

縫010

0.05

000

放射線量率 → 一遮蔽率

40

35

30

25

20癬

燈15鯛

10

5

0壁面 な し30mm50mm80mm120mm150mm

一〇、05n.闇

図3-11除 染後 にお ける住宅 内外の空 間放射 線量率

(床面(地 盤面)か ら1mの 測 定点)

3.3放 射線の防護対策

(1)建 材における放射線遮蔽性能の検証

遮蔽検証器具の壁面部 にコンクリー ト板を設置 して,

遮蔽性能を求めた。結果を図3-12に 示す。必然的にコン

図3-12コ ンク リー ト厚 と放射線遮蔽率との関係

(2)遮 蔽材の放射線遮蔽率

遮蔽検証器具に遮蔽材(表 一1のA～C)を 設置 して,遮

蔽材の遮蔽性能を求めた。結果を図3-13に 示すが,遮 蔽

材A～Cに よる放射線遮蔽率は10%～12%を 示 した。

1

2

3

4

5

6

7

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9

ABCDEFGHIJ

〃

1

2

3

4

5

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7

8

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ABCDEFGH[J

〃

図3-10除 染後 における住宅内の空間放射線量率(床 面か ら1mの 測定点,左:1階 室内,右:2階 室内)

0.37

0.36

0.35

0.34

0.33

0.32

0.31

0.3

0.29

◆

放射線量率

◆◆

◆遮蔽率

◆

◆ ◆

〆〆 〆ノ〆〆〆

14

12

10

8

図3-13遮 蔽 材(A～C)の 放射線遮 蔽率

6

4

2

0

(3)開 ロの放射線対策

実在建築物の窓面に表3-1に 示す遮蔽建材を挿入 した

「放射線遮蔽建具」を設置 して,そ の遮蔽性能を求めた。

結果を図3-14に 示すが,窓 面での放射線遮蔽率は30%

程度であった。部屋中央では15%の 放射線遮蔽率を示し

たが,こ の値は他の開 口部か ら侵入する放射線の影響 を

含んだ値である。

0.3

EO・25

mO.2

己

癬015

皿1酬

駆0.1超

ffo.05

0

▲

窓面

▲

部屋中央

▲ ▲ ▲

▲遮蔽率

▲

▲ ▲

〆 ♂〆 〆ノ〆〆〆〆

40

35

30

25§

201掛

15製

10

5

0

図3-14遮 蔽材(A～C)利 用 の遮蔽建 具 による遮蔽 効果

4.ま と め

4.1高 線 量 地 域 の 住 宅 内 空 間 線 量 率 計 測

1)除 染 作 業 前 の 空 間 放 射 線 量 率 は,天 井 付 近(天 井 下

1cm)が 最 も値 が 高 く,床 面 に 近 づ くに 従 っ て,低 下 す る

傾 向 を示 した 。

2)除 染 作 業 後 の 空 間 放 射 線 量 率 を 測 定 した 結 果,住 宅 内

の床 面1mの 地 点 に お い て は,1μSv/h程 度 を 示 した 。 こ

の値 は年 間 被 ば く線 量 に す る と8～9mSvに 達 す る。

3)除 染 作 業 前 後 の比 較 に よ り,住 宅 や 周 辺 環 境 空 間 放 射

線 量 率 及 び 表 面 汚 染 密 度 は,ほ ぼ全 て の 点 で 大 き く低 下

して お り,除 染 作 業 後 に お け る空 間放 射 線 量 率 の低 下 率

は約30%前 後 で あ っ た 。

4)IAEAに よ る と1階,2階 建 て の 木 造 住 宅 で の 放 射 線 遮

蔽 率 は0.4(代 表 的 な範 囲0.2～0.5)に 対 し,本 実 測 で

の放 射 線 遮 蔽 率 は,除 染 作 業 前 で は約0.4,除 染 作 業 後

で は 約0.2で あ っ た 。 屋 根 面 に 付 着 した 放 射 性 物 質 量 の

違 い が,放 射 線 遮 蔽 率 に 影 響 して い る。

4.2低 線 量 地 域 の 住 宅 内 空 間 線 量 率

1)除 染 作 業 前 の 空 間 放 射 線 量 率 は,1,2階 共 床 上2m

が最 も値 が 高 く,床 面 に 近 づ く に従 っ て,低 下 す る傾 向

を示 した。

2)除 染 作 業 後 の 空 間 放 射 線 量 率 を 測 定 した 結 果,住 宅 内

の床 面1mの 地 点 に お い て,最 大 値 は0.12μSv/h,最 小

値 はo.06μsv/h,平 均 値 はo.08μsv/h程 度 を 示 した 。

こ の 平 均 値 は 年 間 被 ば く線 量 に す る と0.70mSvに 達 す る。

3)除 染 作 業 前 後 の比 較 に よ り,住 宅 や 周 辺 環 境 空 間 放 射

線 量 率 は,ほ ぼ全 て の 点 で 低 下 して お り,除 染 作 業 後 に

お け る 空 間 放 射 線 量 率 の 低 下 率 は約20%前 後 で あ っ た 。

4)IAEAに よ る と1階,2階 建 て の 木 造 住 宅 で の 放 射 線 遮

蔽 率0.4(代 表 的 な 範 囲0.2～0.5)に 対 し,本 実 測 で の

放 射 線 遮 蔽 率 も,除 染 作 業 前 後 共 に約0.4を 示 した 。

4.3放 射 線 の 防 護 対 策

1)住 宅 にお け る遮 蔽 性 能 を 向 上 させ る た め に は,壁 面 の

γ線 遮 蔽 率 を 向 上 させ る対 策 が 効 果 的 で あ る 。

2)開 口部 に つ い て は,内 部 建 具 に放 射 線 遮 蔽 材 を適 応 す

る こ と で,遮 蔽 率 は 向 上 す る。

表3-1放 射性 遮蔽材 の仕様

名称 素材 重量 厚 さ〔mm) 密 度 〔9/cm3) 鉛 当量 〔mmPb) X線 遮蔽率 γ線遮蔽率

遮蔽材A

特殊ポリエステル基布+遮 蔽機能材練りこみPVC樹 脂ラミネート素材

3700(琶/m2) 2.1 1.76

1枚=0.11

2枚=0.25

10枚=1.35

1枚=60.偶

2枚=ε0.磯

10枚=99.5%

線 源(100KeV)

1枚=1.3%

2枚=3.脳

10枚=16.0%

〔線 源662KeV)

遮蔽材Bポ リエ ステ ル100覧

裏 面=ア クリル樹 脂コーテ ィング素 材

1.24k琶/m(138。m巾) 約0.9

1枚=2偶

2枚=33覧

3枚:50%

線 源(100KeV)

遮蔽材C 硫酸バリウムをゴムで固めた素材

4kg〆 枚 〔910x455) 3.3 2.93 0.45

1枚=9腸

3枚=99%

〔線 源100KeV)

1枚=28%

3枚=57%

〔線 源400KeV)

遮蔽材D硫酸バリウムを石膏と混合し,ガラス繊維で補強した素材

約30k琶/枚(910x1820) 12.5 1.45 0.75

〈 引 用 文 献>

1)一 般 社 団 法 人 ふ く し ま 連 携 復 興 セ ン タ ー:福 島 県 県

内 ・県 外 避 難 者 数 等,http://f-renpuku.org/fukushima/

evacueeinformatiOn

2)原 子 力 安 全 委 員 会:原 子 力 施 設 等 の 防 災 対 策 に つ い て,

p.94,1980年(2010年 一 部 改 訂)

3)IAEA:``Genericproceduresforassessmentand

responseduringaradiologicalemergency",IAEA-

TECDOC-1162,2000年

4)平 成27年 度 福 島 県 環 境 放 射 線 モ ニ タ リ ン グ ・メ ッ シ

ュ 調 査(詳 細 調 査),https://www.pref.

fukushima.lg.jp/sec/16025d/mesh-syousai-27.html

5)野 崎 淳 夫 他:放 射 性 物 質 に よ る 環 境 汚 染 と そ の 対 策 技

術 に 関 す る 研 究(そ の1～6),室 内 環 境 学 会 大 会 講 演 要

旨 集,2011年

6)野 暗 淳 夫 他:震 災 関 連 住 宅 に お け る 温 熱 ・空 気 環 境 に

関 す る 調 査 第26報 放 射 線 の 防 護 対 策,日 本 建 築 学 会 大

会 学 術 講演 梗 概 集,pp.837-838,2013年

7)吉 田 浩 子 他:福 島 第 一 原 発 事 故 後 の 住 家 の 空 間 線 量 率

低 減 を 目 的 と し た 遮 蔽 材 の 効 果,Radioisotopes,

Vol.62(4),PP.203-210,2013年

〈謝辞〉

一般社団法人浪江青年会議所 元理事長 広坂光広氏 ,

暮 らしの科学研究所,特 定非営利活動法人 室内環境技術

研究会,国 際航業株式会社には多大なるご協力を頂 きま

した。ここに記 して深甚なる謝意を表 します。

また,本 研究を行 うに当た り,放 射線医学総合研究所

の岩岡和輝氏,米 原英典氏には多 くの助言をいただきま

した。

〈注〉

〈注1>放 射線遮蔽率 とは,放射線 と物質の相互作用を

利用 して,放 射線のエネルギーを構造材の構成物質に吸

収 させ,物 質を透過す る割合である。

<注2>「 放 射 線 量 が1時 間 当 た り0.23マ イ クnシ ー ベ

ル ト」 の 考 え 方(出 典:環 境 省 ホ ー ム ペ ー ジ,

https://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14879)

放 射 線 量 が1時 間 当 た り0.23マ イ ク ロ シー ベ ル トの

場 にお け る,年 間 の 追 加 被 ば く放 射 線 量 は1ミ リ シー ベ

ル トに あ た る。

00.23マ イ ク ロ シー ベ ル トの 内 訳

・ 自然 界(大 地)か らの 放 射 線 量 ※1:0 .04マ イ ク

ロ シー ベ ル ト※2

・ 事 故 に よ る追 加 被 ば く放 射 線 量:0 .19マ イ ク ロ シ

ー ベ ル ト

01日 の うち屋 外 に8時 間,屋 内(遮 へ い 効 果(0.4倍)

の あ る木 造 家 屋)に16時 間滞 在 す る と い う生 活 パ ター ン

を 仮 定

1時 間 当 た り0.19マ イ ク ロ シ ー ベ ル ト ×(8時 間+

0.4×16時 間)×365日 一年 間1ミ リシ ー ベ ル ト

※1:通 常 の シ ンチ レー シ ョ ン式 サ ー ベ イ メー タ で は宇

宙 か らの 放 射 線 は ほ とん ど測 定 され な い

※2:文 部 科 学 省 「学 校 に お い て 受 け る線 量 の 計 算 方 法

に つ い て 」(平 成23年8月26日)よ り計 算

〈注3>放 射線遮蔽率の算出は,室 内の空間放射線量率

/室 外の空間放射線量率で求めた。