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井形健太郎 1 / 16
炭素繊維複合材料がもたらす
地球環境の改善と科学技術の発展
上智大学大学院 博士前期課程
理工学研究科 理工学専攻 機械工学領域
B1278807 井形健太郎
【要旨】 炭素繊維複合材料 CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)は鉄よりも軽くて強いとい
う特性から,近年さまざまな構造物に用いられ始めている.地球温暖化が叫ばれる昨今で
二酸化炭素の排出量は大きな問題であり,複合材料はモノを軽くするという観点からこの
問題に解決策を見出す.Boeing787 は機体重量の 50%をこの CFRP が占め,従来の機体よ
り 20%も重量を削減出来ている.航空機だけでなく,車のフレーム部や住宅の耐震補強材
としても用いられている事例もある.また,世界中でクリーンエネルギーを用いた発電に
スポットが集まり,中でも洋上風力発電は風車のプロペラ部分に複合材料が用いられ,鉄
を用いた場合よりもはるかに重量を削減することができる.加えて,洋上風力発電は維持
管理費が他の発電施設に比べ安価であるので経済的な発電方式でもある.このように CFRPは従来の材料に比べ軽く強いことから,モノを動かすのに必要なエネルギーを小さくさせ
ることができ,これからの環境問題のキーテーマになると考えられる.そして世界中の,
特にアジアの人口が今後急激に増えていくことが予想され,新興国と呼ばれる国では更に
エネルギー供給量が必要とされることが想定される.日本でもオイルショック当初に比べ,
09 年では産業部門の全体(産業・家庭・業務・運輸部門)を占める割合が減少している一
方で,家庭・業務部門はライフスタイルの向上に伴い必要とするエネルギー量は増えてい
る.しかし,これから我々が行わなければならないのは個人の意識を変え,環境を守る・
地球を守るためには何をしなければならないのかを考えることである.今後重要となる課
題は世界中の人の共存と上智大学の教育精神でもある『Men and Women for Others, with Others』である.互いが互いを思いやる心とそのために自分は何ができるかを本気で考え
なければいけない段階に来ている.
1. 序論
本論文は私が研究の対象とする炭素繊維複合材料 CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)が世の中でどのように用いられ,また今騒がれている環境問題に対してどのよう
な影響を与え解決策を見出すのかについて述べたものである.また私が行っている研究の
意義とそれが世の中に与える影響について述べ,人類の平和と地球環境の解決に向けて何
をすべきなのかについて述べたものである.
2. 炭素繊維複合材料CFRP
まず複合材料とはどのような材料であるのかを簡単に述べようと思う.定義は『2 つ以上
の互いに異なる材料要素を組み合わせて,個々の要素になかった特性を生み出した人工の
材料*1』である.私が研究の対象とするFRP(Fiber Reinforced Plastics)は先ほどの定義
に加え『元の要素はできあがった材料中で,もとの形を残している』という条件も加わる.
たとえば髪の毛のような細い繊維は引っ張る力には強くても,簡単にグニャグニャになっ
てしまうため,曲がる・撓るという力を受け持つことができない.そこでこの繊維をプラ
スチック(樹脂)で固めて,プラスチックが形作りを受け持ち繊維は力を受け持つという,
相互が利点を活かし合って作られた材料がFRPである.特に繊維に炭素を用いた炭素繊維
複合材料のことをCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)という. CFRPは 21 世紀に入り航空機をはじめとする様々な乗り物や道具に用いられてきた.比
強度(強度÷体積)・比剛性(剛性÷体積)が高く,鉄などの材料と比べるとCFRPは 10 倍
ほど丈夫な材料として知られている.2012 年に初飛行を終えた航空機Boeing787 は機体重
量の 50%*2ほどをこのCFRPを用いて製造されている.しかしこの材料の破壊のメカニズム
についてはまだ完璧にわかっていないというのが現状である.航空機ではより軽量化が図
られる為にこの材料が多く使われているが,一方で破壊のメカニズムが分かっていないた
めに,CFRPは安全率を高めて設計されている.その為,必要以上にCFRPが使われている.
これでは本来の軽くて強いという特性を活かしきれていない.しかし,安全率を高めて設
計されているにもかかわらず,従来の機体重量よりも 20%軽くなっている.航空機だけで
なくエコカーが叫ばれている昨今では車のボディーに使われ,その 17%をCFRPにするだ
けで 30%の軽量化が図れる*2.また水素を燃料として走る車の水素タンクの外側にこの材
料を巻くだけで飛躍的に強度は上がる.このように様々な乗り物や道具の 1 次構造もしく
は 2 次構造にこの材料が用いられ始めている.私はこの材料が現在では地球規模で騒がれ
ている温暖化の問題や,エネルギーの枯渇問題を解決する一つのテーマであると考えてい
る.
3. 世界を取り巻く環境・エネルギー問題
18 世紀・19 世紀に新天地を求め各大陸に放散した我々人類が国の発展のため引いては己
の発展のため大量のエネルギーを使い,生命の源である地球に鞭を打つことで 20 世紀 21世紀において飛躍的に技術が進歩した.しかし地球がしっぺ返しをするがごとく我々が直
面している地球温暖化問題やエネルギーの枯渇問題は簡単には解決できようはずがない.
長きにわたり汚染を繰り返し,新天地を求めるという名のもとに戦争・侵略を繰り返し人々
の命を奪った我々が次にすべきことは,生命の共存と全人類が一つになり本気で地球を守
ることである. この問題を考える上で重要になるのがエネルギー問題及び環境問題である.18 世紀頃ま
で非常に緩やかなカーブを描きながら増加していた世界人口は、産業革命を契機に加速度
的にその割合が増えていった.中でも 20 世紀に入ってからの増加は著しく,1830 年と比
べると約 7 倍増えていることが分かる(Fig. 1).また今後もその量は増えていくことが予
想され,Fig. 2に示すように,中でもアジアで急激な人口増加が予測される.新興国の人口
増加と経済成長に伴い 1 人当たりのエネルギー消費量は今後ますます増加していくと考え
られる.
3 510
25
69
93
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
0 1650 1800 1950 2010 2050
(億人)
年
オセアニア
北アメリカ
南アメリカ
ヨーロッパ
アフリカ
アジア
世界計
Fig. 1 世界人口の地域別推移とその見通し*3
Fig. 2 世界の 1 人当たりエネルギー消費量*4 次に日本にフォーカスを当てエネルギーの消費を見てみる.Fig. 3は産業部・民生部門(家
庭,業務部門),運輸部門のそれぞれにおけるエネルギー消費の割合を示したものである.
1973 年付近の第 1,2 次オイルショック時の各部門のエネルギー消費量と 2009 年のエネル
ギー消費量を比べると,産業部門が占める割合はGDPが伸びているにもかかわらず,減少
しているのに対し,その他部門では増加していることが分かる.運輸部門は各企業の省エ
ネルギー対策によりエネルギーが削減出来ているとの報告もなされているが,一方で家庭
部門・業務部門においては快適さや利便さを求めるライフスタイルの普及などを背景に増
加の一途をたどる.
伸び1973→2009年1.87倍2.73倍2.06倍0.85倍2.33倍
産業部門
家庭部門
業務部門
運輸部門
実質GDP
0
100
200
300
400
500
600
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
65 69 73 77 81 85 89 93 97 01 05 09
兆円,2000年価格(×1018J)
(年度) Fig. 3 エネルギー消費と実質 GDP の推移
産業部門
家庭部門
業務部門
運輸部門
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
65 69 73 77 81 85 89 93 97 01 05 09
全部門合計を
100%とする
(年度)
Fig. 4 各部門の割合 東日本大震災以降,各オフィスでは冷暖房の使用に制限がかかり,照明器具をLEDにする
などして省エネルギー化に取り組む動きがみられ,各家庭レベルでも省エネルギーへの意
識は高まりつつあるが,脱原発を達成させるにはまだまだ削減しなくてはいけないことは
沢山ある.しかし,もう一度視点を世界に戻してみると,日本のGDP当たりのエネルギー
供給量は極めて低いことが確認できる.これは先進国の中でもかなり低く,日本のエネル
ギーの利用効率が高いと言える.(Fig. 5).
1.0 1.2 1.7 1.8 1.8 2.0 2.6 3.1 3.2 3.24.9
6.3 6.77.8 7.8 8.4
16.7
024681012141618
指数 日本=1
Fig. 5 GDP当たりのエネルギー供給量の主要国比較(2008 年)*6 これは日本やその他先進国が,人件費や土地が広い新興国にモノづくりを任せているため
発注側の国はエネルギーを必要とせず,発注された側の国はモノを作るために大量のエネ
ルギーを必要とするためこのような結果になったと考えられる.先ほども述べたように,
今後新興国が発展するに伴いモノを作るために必要なエネルギーに加え,国が発展するこ
とで生活水準が上がりエネルギーが必要となるので,今後一層のエネルギー供給量が増え
ると考えられる.それでも日本のエネルギーの高効率化は他国が模倣すべきものであり,
積極的に世界をリードしていかなければならない.
4. エネルギー問題,環境問題を解決するには
2011 年 3 月 11 日に起きた東日本大震災の 2 次災害として福島第一原発が大きく取り上
げられた.世間ではそれまで原発の安全神話が蔓延り,地元住民も国からの補助金をもら
い原発の恩恵に授かっていたという事実がありながら,事故後にはあたかもそれに騙され
たと叫び,非難を繰り返す様子が頻りに報道されている.事故が起きたことはぬぐえない
事実であるが,一方で私はこれからの世の中をどのように作っていくのか,または変えて
いくのかを気付かせる良いきっかけになったと考える.原発を反対するデモやニュースで
も原発ゼロを目指す報道がなされているが,これら一連の出来事は原発の代替案である(洋
上)風力発電,地熱発電,太陽光発電などのクリーンエネルギーの技術発展に拍車をかけ
るファクターだと考える.戦争時に技術の発展がめざましかったように,何かに追われそ
の責務を果たすためにこそ技術が発達することは歴史を見れば明らかである.そのような
意味で,今回の事故は技術を発達させるという観点で良い起爆剤になったのではないか. エネルギー資源に乏しい日本ではそのほとんどを海外からの輸入に頼っており,石油・
LPガスは中東地域を中心に,天然ガスは東南アジア,オーストラリア,中東等から,石炭
はオーストラリア等からほぼ全量を輸入しており,国産エネルギー(水力,地熱,風力,
若干の天然ガス等)は日本が必要とするエネルギー量の約 4%しか賄えていないという統計
が出ている*3.原子力発電を脱却し従来発電の比重が大きかった火力発電に重きを置くと京
都議定書で定めた温室効果ガスの基準値のクリアが難しくなってしまうだけでなく, 近
の中東情勢の悪化で原油先物価格が上昇し火力発電のコストが上がることで, 終的に消
費者の負担量は増えてしまう.つまり原発を脱却した上でこの国のエネルギーを安定して
賄うためにはクリーンエネルギー頼るしか他ない. その中でも私の研究の題材となる複合材料と関連のある風力発電について考えてみる.
近では世界中の様々な企業が挙って洋上風力発電の開発に投資をしている.周りに障害
物がないので洋上では大きな風力を得ることができ,また風車を作ることで立地場所の景
観を損なうことや,住民に対する騒音問題といった心配は皆無である.この風車の羽には
軽くて丈夫な GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)や CFRP が用いられており,金属
でつくると重くなり慣性モーメントが大きくなるため羽を回すために大きなエネルギーが
必要となるが,複合材料で作るとその重量はかなり削減できる.これは風車にとって大き
な性能差が出るところである.風は風向や風速が絶えず変わるため,安定した風力発電に
は常にブレードの回転面を風の方向に向けなくてはならない.そのため風車にはヨー駆動
装置や出力を制御するブレーキ装置の機能などが備わっており,ブレード自体の重量が減
ることで風が吹く方向にブレードを向けるのに必要なエネルギーやブレードの回転数を調
節するために用いるブレーキが必要とするエネルギーも減少する. 軽い以外にも洋上ではどうしても海水に浸ってしまう・海風により錆びてしまう,などが
金属で起きてしまう.一方で複合材料は耐食性・耐錆性に優れるため,修理修繕などのコ
ストを削減できるなどのメリットもある.また風力発電は風さえあれば昼夜を問わず発電
できるので,初期投資さえ高いものの他の発電施設に比べ補修保全費用や維持費が安く,
長期的に見れば経済的な発電システムである. 洋上風力は,海底に直接基礎を設置する着床式と,浮体を基礎として係留等で固定する
浮体式に分類される(Fig. 6).どちらにせよ,発電部本体の重さが軽ければ軽い程基礎工
事の規模が小さくなり,開発コストが削減できる.
Fig. 6 洋上風力発電の形態と水深の関係及び,浮体式の指示構造例*9
この洋上風力発電の導入事例はFig. 7に示すようにイギリスが 大であり,日本をはじめと
する先進国でもかなり遅れをとっている.また,日本が一年間に必要とするエネルギー量
は 12,000 億kWhと算出されており,ヨーロッパが試算している今後の洋上風力発電の導入
可能量は,経済的競争力を考慮したシナリオでも優に日本が必要とするエネルギー量を賄
うことができる(Fig. 8).この点からも,原子力や火力発電に頼ることなく国の,強いて
は世界中のエネルギーをこの風力発電で供給することは夢ではないということが分かる.
後に述べるように,私は複合材料の破壊のメカニズムの研究をしているが,この知見を今
後ますます需要が増えるこの材料の設計に携わり,エネルギー問題の解決に尽力したいと
考えている.
1041
663
247184
104 7230 30 25 10 2 1
336315
126
76
35 15 10 6 7 5 1 2 0
50
100
150
200
250
300
350
0
200
400
600
800
1000
1200
風車
基数
設備
容量
[MW
] 設備容量 風車基数
Fig. 7 国別洋上風力発電導入基数・設備容量(2010/6/20 現在)*9
Fig. 8 欧州における風力発電導入可能性*9
5. 研究の意義
複合材料とは序論でも述べたように鉄よりも軽くて強い材料である.これは繊維が力を
受け持つためであるが,実際に炭素繊維複合材料を製品として用いる場合にはFig. 9に示す
ようなシートを目的のサイズに切り分け,それを複数枚重ねる.このシートに含まれる繊
維はすべて同じ方向を向いており(Fig. 10),繊維の方向を変えてシートを重ねることで
様々な特性を有する板を作り出すことができる(Fig. 11).
Fig. 9 炭素繊維複合材料プリプレグ*10
繊維 樹脂
Fig. 10 プリプレグの模式図
Fig. 11 角度を変えてプリプレグを重ねる Fig. 11からわかるように繊維が重なっているところは複雑な構造をしており,破壊のメカ
ニズムを難しくしていることが感覚的にわかると思う. 特にこの材料の破壊は繊維が切れ
て破壊につながるか,繊維と樹脂の界面で割れが生じ破壊につながることがほとんどであ
る.私が研究の対象とするのはFig. 11の板の中央に穴が空いており,それを圧縮させるこ
とで穴付近に応力が集中し,繊維が座屈することで破壊が生じるというものである(Fig. 12).黒く縦の線が走っているのが繊維でその間に白く写っているのが樹脂,そして横に繊
維と樹脂を切るように走っている黒いラインは繊維が座屈している様子を表す.応力集中
部では繊維が円孔部側に座屈を起こし,荷重を支え切れなくなり,円孔部から奥に進むよ
うに不安定に破壊が引き起こされる. ここで問題なのは繊維が座屈を起こし破壊が起きるときの荷重が予想される荷重よりも
かなり低いということである.一般的に知られている近似解として(1)式があるが,この式
も実際に破壊が起きる応力の 1.5~2 倍ほど高い上解を与えている.
Fig. 12 研究対象とするモデルとその破壊の様子
f
mcr V
G−
=1
σ
Gm:樹脂のせん断弾性率 Vf:繊維含有率 (1)
破壊が起きる 初のファクターが何であるのか,それは数年前から様々な研究者が行って
いる研究であるが,未だ解明されていない問題である.圧縮をする過程で樹脂が塑性変形
を起こしどんどん変形が大きくなって座屈してしまうのか,樹脂と繊維の間に微小な空孔
がありそれが原因でき裂が進展し座屈に至るのか,様々な仮説を立てそれを検証し荷重が
小さくなる理由を説明できないか日々研究しているところである. このようになぜこのような壊れ方をするのか,そしてどうやったらそれを説明すること
ができるのか,これを 1 つ 1 つ解明することが我々に課された使命だと考えている.そし
てこれらの発見こそが複合材料本来の魅力である『軽くて強い』という特性を発揮させ得
るものである.これまで破壊の仕方が分からなかったため航空機などを設計する際に安全
率を必要以上に高めていた.結果,重量が増え金属を用いていた時よりは燃費が良くなっ
たとは言えまだまだ改善の余地はある.限りあるエネルギー資源を有効活用するためには,
モノを動かすための J(ジュール)をどれだけ削減できるか,これが 大のテーマでありこ
れを も簡単に達成できるのが複合材料ではないか,と私は考える. 先の風力発電の事例
でも述べたように,複合材料はこれからの環境問題を考える上で欠かせないキーワードに
なることは間違いない.
6. これからの世界に必要なもの・複合材料の発展
国内では歴史的な大震災『東日本大震災』から約 2 年半が経ち未だに震災地ではがれき
が残され,復興のめどが立たない場所も数多くある.また,復興予算という名目で今回の
震災とは全く関係ない建物の補修保全に予算が使われることが問題となった. 国際問題では尖閣諸島や竹島問題で日中・日韓間関係が経済に与える打撃は数知れず,
中国にある日系企業が暴徒の対象となり 近店舗の改修工事が終わりやっと再オープン出
来たとのことである.国民性という言葉で片付けて良い程単純な話ではない. アメリカがオバマ大統領の指導のもとで 2011 年にイラクから軍隊を撤退させたものの,
依然宗教間の紛争や部族間紛争が続き,日本にいる我々には遠い世界のように思われがち
であるが,このような紛争地域で生まれてしまい,何の罪もない子供たちに血を流させて
しまうこの世の中をこのまま見過ごしてしまっていいはずがない.もちろん,宗教問題や
部族間抗争には長い歴史があり簡単に解決できるものではなく,難しい問題が山積みにな
っていることはほとんどの人が知っていることである. 以上に近年起きた 3 つの出来ごとを簡単に述べてみたが,人類の考えなければいけない
ことは何であるのか.3章でも述べたように,生命の共存と地球を守ることである.3~5章とエネルギー問題を中心に述べたが,地球を守ることの一つの方法がエネルギー問題環境
問題である.ではその方法を使うのは誰か,言うまでもなく人類である.地球を守るとい
うことは各々が意識をしなくては成し遂げられないものである.ただ経済の発展・私利私
欲な生活だけを考えるのであれば好き放題にエネルギーを使い,二酸化炭素を排出すれば
よい.しかしその結果先進国と発展途上国という格差社会が生まれ,更には先進国・発展
途上国の中にも格差が出来てしまった.今の世の中は(国際的にみると)自分の生活以外
のことに意識を向けさせるには難しい環境でなないかと思う. 特に紛争地域や情勢の悪い
ところではなおさらである.地球を守ることは特定の人・地域・国だけがやっても意味が
ない.問題意識を共有し,自らが考え何をすべきなのかを見出すことこそが 大のテーマ
である.地球を守るためにはまず世界で何が起きているのか,そしてそれを解決するには
何が必要であるのか.これにはしっかりとした教育が必要である.しかし残念ながら格差
という問題から平等な教育は受けられないのが現実である.格差だけでなく,教育を受け
られる環境にいながら,戦争や紛争といった問題のため教育を受ける権利がはく奪される
環境すらある.次の世代を担う子供たちからチャンスを奪ってはならない.重要なことは
人々が視線を未来に向け,互いが尊重し合い認め合う心の豊かさではないか.まさに『Men and Women for Others, with Others』である.
エネルギー問題環境問題への解決のアプローチとして私は工学の立場から切り口を見つ
け研究を行っているが,私の研究だけでは世界は何一つ変わらない.しかし私の研究がな
くては,世界は変わらないという認識で科学の発達を願っている. 世界には様々な研究者
が様々なアプローチで研究の題意を達成させようとしている.その活動の一つ一つの集合
体で科学は発達していくはずである.私は恵まれた環境で教育を受けているが,一方で果
たさなくてはいけない社会的責任は重い.複合材料がこれからの構造物の要となることを
祈りながら,グローバルなフィールドで世界が抱える問題を解決できるような人物になり
たいと思っている.
参考文献
*1. 入門複合材料の力学 培風館 末益博志著 *2. 東レホームページ プレリリース
『東レグループの成長戦略』 *3. 経済産業省資源エネルギー庁
『エネルギー白書』 *4. 日本エネルギー経済研究所
『エネルギー・経済統計要覧』 *5. 資源エネルギー庁
『総合エネルギー統計』 内閣府 『国民経済計算年報』 日本エネルギー経済研究所 『エネルギー・経済統計要覧』
*6. IEA 『Energy Balances of CECD Countries 2010 Edition』 『Energy Balances of NON-CECD Countries 2010 Edition 』
*7. 全国地球温暖化防止活動推進センター 世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出の割合と各国の一人当たりの排出量の
比較(http://www.jccca.org/chart/chart03_02.html) *8. 四国電力 世界のエネルギー事情 (http://www.yonden.co.jp/life/kids/museum/energy/world/006.html) *9. NEDO
再生可能エネルギー技術白書 *10. 宇部興産株式会社ホームページ(http://www.upilex.jp/index.html)