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炭素繊維複合材成形技術開発に関する 事業評価用資料 平成21年12月 7 三菱航空機株式会社 第1回航空機関連分野 技術に関する施策・事業評価検討会 資料6-14

炭素繊維複合材成形技術開発に関する - METI3 1. 研究開発目標 1-1. 研究開発目標 メタル材に比べ軽量である炭素繊維複合材を用いた部材・製品の普及を図る

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  • 炭素繊維複合材成形技術開発に関する

    事業評価用資料

    平成21年12月 7 日

    三菱航空機株式会社

    第1回航空機関連分野

    技術に関する施策・事業評価検討会

    資料6-14

  • 2

    目 次

    1. 研究開発目標 ...................................................................................................... 3

    1-1. 研究開発目標 .......................................................................................... 3

    1-2. 全体の目標設定 ...................................................................................... 4

    1-3. 個別要素技術の目標設定 ...................................................................... 6

    2. 成果、目標の達成度 .......................................................................................... 8

    2-1. 成果 .......................................................................................................... 8

    2-1-1. VaRTM 関連技術開発成果 .......................................................... 8

    2-1-2. プリプレグ関連技術開発成果 ............................................... 18

    2-1-3. 特許出願状況等 ....................................................................... 28

    2-2. 目標の達成度 ........................................................................................ 29

    3. 事業化、波及効果について ............................................................................ 31

    4. 研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等 ................................ 32

    4-1. 研究開発計画 ........................................................................................ 32

    4-2. 研究開発実施者の実施体制・運営 .................................................... 34

    4-3. 資金配分 ................................................................................................ 35

    4-4. 費用対効果 ............................................................................................ 36

    ◆(補足資料)用語集 ................................................................................................ 37

  • 3

    1. 研究開発目標

    1-1. 研究開発目標

    メタル材に比べ軽量である炭素繊維複合材を用いた部材・製品の普及を図る

    為、強度・品質安定性を保持しつつ複雑な設備を要しない炭素繊維複合材成形

    技術(VaRTM成形技術)開発や、従来プリプレグ材を用いた成形方法の高度化

    技術(曲率の大きい部位の成形において、しわ発生の抑制と強度維持を両立さ

    せる技術)開発等を実施し、小型航空機サイズの試作機(供試体)による実証

    を通じて当該技術を確立する。これにより、幅広い輸送機械等における炭素繊

    維複合材の適用拡大を図り、エネルギー使用合理化に資することを目的とする。

    本炭素繊維複合材成形技術を適用することにより、製品のレベルにおいて、

    アルミ材と比較して 15%以上の重量軽減、アルミ材と同等の生産性を実現する

    ことを目標とする。

  • 4

    1-2. 全体の目標設定

    表1-1.全体の目標

    目標・指標 設定理由・根拠等

    VaRTM 小型機尾翼に適用

    して、アルミ材と比

    較して 15%以上の重

    量軽減を実現する。

    一般的に、炭素繊維複合材(プリプレグ法)

    を用いた場合、従来アルミ構造より比強度が

    高く、20%を超える重量低減も理論的には可能

    である。

    実際に航空機の構造部材に適用する際には、

    適用部位の置かれる環境条件や衝撃損傷等の

    外的影響及び様々な製造上の制約等を考慮す

    る必要があり、重量低減効果は凡そ 15%程度

    になると言われている。

    さらに、汎用的に用いられる VaRTM 法はプリ

    プレグ法に比べて品質の安定性の確保が難し

    く、設計時の許容値をかなり低く設定する必

    要があり重量軽減効果が大きく低下してしま

    う。

    本研究開発では材料の改良や厳密なプロセ

    スコントロール及び適用構造での強度低下リ

    スク検証とその最小化検討等に加え、本技術

    の航空機への適用の妥当性を担保する指標と

    して航空局による規定適合性審査を受審する

    ことにより、プリプレグ法と同等の 15%程度

    の重量低減効果を目指す。

    プリプレグ法と同等の重量軽減を実現する

    ことは、成形法としてより高効率な VaRTM法

    の普及に必要な達成目標である。

  • 5

    目標・指標 設定理由・根拠等

    プリプレグ 小型機主翼の難成

    形部位に適用して、

    アルミ材と比較し

    て 15%以上の重量軽

    減を実現する。

    小型機でエンジンを主翼に搭載する高性能

    の主翼形状は翼根に近い部分で、大型機に比

    較し大幅に曲率が大きくなる。広く適用され

    ているプリプレグを用いる場合、この曲率は

    適用実績を大幅に越えた厳しい曲率であり、

    伸縮性の無い繊維で構成されるプリプレグを

    追従させるのは不可能である。追従性を無視

    すると繊維にしわが生じ、このしわの大きさ

    により強度、剛性は大きく低下し、複合材適

    用による重量低減効果はなくなり、しわの深

    さで強度、剛性がばらつくため航空機部品と

    して要求される品質の一貫性を保持できな

    い。

    この解決策を確立することは、小型機にとり

    大きな技術開発項目である。現在、プリプレ

    グを用いた場合の唯一の解決方向が繊維切断

    を行う方法であるが、これは繊維が荷重、剛

    性を分担するものであるため従来避けるべき

    とされていたものである。しかし、繊維を切

    断しても、微小な切断間は樹脂が隣接繊維に

    荷重を伝達できることが、事前の研究で把握

    できており、どう切断すればしわが解消する

    かを試験により検証し、技術確立を図ること

    とした。繊維を切断すると強度、剛性は若干

    低下するため、低下量の把握とプリプレグを

    追加積層することで補正可能な量を見極める

    こととした。

    本事業においては、求められる品質を確保す

    るため、繊維切断方法を最適化し、強度低下

    を最小限に抑えるとともに、要求強度、剛性

    を満たすための補強を必要最低限とする技術

    確立を図った。この技術により重量低減効果

    を維持し、炭素繊維複合材プリプレグを小型

    航空機の主翼に全面的に適用した場合、高い

    目標となるアルミ材主翼と比較した重量低減

    量 15%を目指すこととした。

  • 6

    1-3. 個別要素技術の目標設定

    表1-2.個別要素技術の目標(VaRTM)

    要素技術 目標・指標 設定理由・根拠等

    ( 1 ) VaRTM

    材料仕様の設

    材料特性試験を完了し材

    料仕様を確立する。

    航空機の一次構造へ適用するに

    は、物理・化学・機械特性を再現

    性よく満足する必要があり、それ

    を実現する材料仕様を設定する。

    ( 2 ) VaRTM

    プロセスの製

    造安定性確立

    プロセススペックを制定

    するとともに、製造時欠陥

    影響を確認する。

    航空機の一次構造への適用には、

    安定的に製品を製造可能なプロ

    セススペックの制定が必要であ

    る。

    (3)実大規

    模の供試体設

    計のための設

    計許容値確立

    試験により設定した許容

    値に対する低下リスクを

    排除する。

    設計許容値試験を実施して設計

    許容値を設定する必要がある。

    (4)実大規

    模での技術成

    立性実証

    小型航空機サイズの試作

    機(供試体)を製作し、開

    発した成形法の成立性・妥

    当性を最終検証する。

    開発した成形法の成立性・妥当性

    を最終検証するには、実大規模の

    航空機を供試体として用いた実

    証を行い、所定の安全性審査をク

    リアすることにより、それらの技

    術的成立を確認することが必要

    である。

  • 7

    表1-3.個別要素技術の目標(プリプレグ)

    要素技術 目標・指標 設定理由・根拠等

    (5)プリプ

    レグ複合材・

    成形法高度化

    小型機の主翼構造に対し

    て本事業で開発した成形

    方法を適用して、アルミ材

    を用いた場合と比較して

    15%の重量軽減を実現す

    る。

    その為には、曲率の厳し

    い複曲面を有するスキン

    のプリプレグ材料間の隙

    間を抑制し、強度低下を防

    ぐ自動積層方法の確立や、

    曲率の厳しいストリンガ

    に対し、しわ発生を抑制し

    つつ強度低下も抑えた成

    形方法を確立する。

    プリプレグ複合材は、強度は高

    いが高価であるため更なる普及

    の為には自動化によるコストダ

    ウンが必要である。しかし、自動

    化では厳しい曲率の複曲面を有

    する形状において、隙間及びしわ

    が発生し、強度低下を起こしやす

    い。

    そこで、厳しい曲率を有するス

    キンの隙間無し自動成形方法及

    びストリンガのしわ無し成形方

    法の開発が必要となる。

    (6)実大規

    模での技術成

    立性実証

    小型航空機サイズの試作

    機(供試体)を製作し、開

    発した成形法の成立性・妥

    当性を最終検証する。

    開発した成形法の成立性・妥当

    性を最終検証するには、実大規模

    の航空機を供試体として用いた

    実証を行い、所定の安全性審査を

    クリアすることにより、それらの

    技術的成立を確認することが必

    要である。

  • 8

    2. 成果、目標の達成度

    2-1. 成果

    2-1-1. VaRTM 関連技術開発成果

    (1)VaRTM 材料仕様の設定

    航空機構造のうち、主翼・尾翼桁間構造等、機体において空気力等の主荷重

    を支持する構造を一次構造(もしくは PSE(Principal Structural Element)

    構造)と称する。一次構造の強度・剛性不足は機体の安全性に大きな影響を与

    えるため、民間航空機一次構造体に適用される材料・成形法は、我が国では耐

    空性審査要領等の規定への適合性を示すことが必須である。そこで、確実に材

    料品質の安定性を確保するためには、材料仕様をスペックという文書の形で明

    確化する必要があり、特に複合材料の場合はスペックに準拠した材料が物理特

    性、化学特性、機械特性ともに、十分満足するものかを評価しなければならな

    い。

    VaRTM 材料の試作機における適用想定部位を尾翼桁間構造と設定し、(3)項

    で示す設計許容値取得試験結果を反映した尾翼桁間仕様に供するに足る、材料

    スペックを炭素繊維材料スペック・織物基材材料スペック・樹脂材料スペック

    の三種類の構成とした。VaRTM 技術は(2)項に示すプロセスで示されるとお

    り、最終製品形状の炭素繊維織物基材積層体に後から樹脂を流し込む成形手法

    をとるため、従来複合材技術であるプリプレグ材料と異なり、炭素繊維織物基

    材と樹脂の二つの材料スペックにて管理することが必要である。また織物基材

    は、炭素繊維方向が最終製品の強度・剛性を支配する NCW(Non Crimp Woven)

    織物という、従来一方向材プリプレグに似た特性を持つ材料構成としている

    (図2-1)。当然ながら、織物基材中の炭素繊維自体も材料の特性に大きな

    影響を与える材料要素であるため、今回炭素繊維そのものについても材料スペ

    ック化を実施した。尚、炭素繊維自体を材料スペック化する動きはプリプレグ

    材でも同様に航空機業界で一般的な流れとなりつつある。

    図2-1 VaRTM 織物基材の構成(NCW 織物)

    縦補助糸

    縦糸(炭素繊維)

    横糸

    熱可塑粒子

  • 9

    上記に従い三種類(炭素繊維・織物基材・樹脂)の材料スペックを作成し、

    更に現状の VaRTM 材料が、物理特性・化学特性・機械特性の各材料スペックの

    要求値を全てにおいて満たしているかを評価するための、材料特性試験

    (Material Characterization(マテキャラ)試験)の試験方案を作成した。

    本材料特性試験を実施するにあたり、どのように VaRTM 材料が民間航空機とし

    て遵守すべき規定に適合するか、を記載した Certification Plan(適合性証明

    計画書)を国土交通省航空局技術審査センターにて説明した上で、航空局にて

    材料スペックや材料特性試験方案を審査いただいた。

    炭素繊維・樹脂のスペック・試験方案については、図2-2に示すような適

    合性判定書を取得し、東レ株式会社とともに、試験方案に従って試験を実施済

    みもしくは試験を継続実施中である。織物のスペック・試験方案についても、

    審査をほぼ終了し、10月以降実際の試験を開始する予定である。織物は樹脂

    を合わせた複合材料パネルによる機械特性試験も実施予定であり、取得データ

    の一部は材料許容値(Material Allowable)試験で取得予定の統計解析データ

    にも利用することとしている。

    図2-2 VaRTM 炭素繊維材料の材料スペック/試験方案の適合性判定書

    ガラスク

    ロス適用

    ガラスク

    ロス非適

    用部

    個人名が

    個人名が

    含まれる

    ため処置

  • 10

    (2)VaRTM プロセスの製造安定性確立

    (1)項で示した材料仕様設定と同様に VaRTM 技術を安定的に航空機一次構

    造部品に適用するためには、工作法(プロセス)の安定性を確立することも必

    須である。部品として安定した品質を常に確保するため、VaRTM 成形プロセス

    スペックの制定と成形時の品質低下を確実に検知できる検査スペック、特に非

    破壊検査(NDI)プロセススペックの確立が必要である。また、(3)項に示す

    許容値試験においては、検知できない品質低下については許容欠陥として設計

    に反映する必要から製造時欠陥強度評価試験を実施する予定である。

    設定した VaRTM の成形プロセスの概要を図2-3に示す。VaRTM プロセスで

    は織物基材の表面に配置した熱可塑粒子を活用し、樹脂を含浸していない「ド

    ライ」な状態でも従来プリプレグと同等の成形性が確保できるよう工夫してい

    る。樹脂含浸前にホットコンパクションという工程を設けることにより、樹脂

    含浸および硬化後の板厚変動量をコントロールし、従来 VaRTM 工法で課題とな

    る大気圧との差圧のみでの繊維体積含有率(Vf=Volume of Fiber)のばらつき

    を最小化し、安定して生産するプロセススペックを制定した。尚、本プロセス

    スペックと同等の成形法を(平板製作用の)基本プロセスとして(1)項で示

    した織物のスペック内に記載し、マテキャラ試験や材料許容値試験の供試体成

    形を実施する予定である。

    図2-3 VaRTM 成形プロセスの概要

  • 11

    VaRTM 成形を用いた一次構造を適用仕様として想定するにあたり、金属部材

    と CFRP 部材の結合部に対する異種金属間電蝕防止対策や翼端部への雷撃を想

    定した耐雷保護対策の VaRTM 部材への盛り込み方針を検討する必要がある。そ

    こで図2-4に示すような、異種金属間電蝕防止対策としてガラスクロス材を

    VaRTM プロセスに加えることによる成形品質の低下有無の評価を実施した。ま

    た、耐雷保護対策としては、ガラスクロス材に加え、耐雷材(金属メッシュ・

    金属フォイル)を VaRTM プロセスに盛り込むことによる成形品質の低下有無を

    評価した。耐雷材の適用では、意図的に模擬したしわも成形時事前予測通りに

    発現するなど、結果としてガラスクロスの適用及び耐雷材の適用による成形後

    品質の大きな低下等の事象を引き起こさないことを確認した。今後、耐雷材の

    適用については、成形後の強度影響や雷撃後の VaRTM 構造に対する残留強度評

    価についても取得していく必要がある。また、実際の適用構造に応じた成形性

    評価、断面観察、試作機設計仕様へのフィードバックも今後引き続き実施して

    いく予定である。

    図2-4 ガラスクロス材及び金属耐雷材入り VaRTM 成形評価

    VaRTM 構造の製造安定性の確立のためには、上記成形プロセススペックの制

    定とあわせ、非破壊検査(NDI)プロセススペックの制定も必要である。

    本事業以前に実施した実大強度試験および試験後断面観察評価等の検討結果

    (図2-5に実大強度試験を示す)を基に、尾翼への適用に必要な許容欠陥サ

    イズ(層間の剥離を想定)および NDI プロセススペックを規定している。

    耐雷材を全面適用

    耐雷材による表面うねり状態を模擬

    ガラスクロス非適用部

    ガラスクロス適用部

  • 12

    図2-5 垂直尾翼桁間模擬実大強度試験 ※本事業以前の成果

    成形プロセススペック内には、積層時異物として混入しうる可能性があるも

    のが存在しているため、これらの異物についても NDI 検出できるか否かが品質

    安定性を確保する上で重要である。そこで、図2-6に示すような位置で異物

    を許容欠陥サイズで意図的に成形時混入し、NDI 検出可能かを評価した。図内

    の ID はそれぞれ異なる異物の種類を示している。評価結果として、図2-7

    で示すように一部の異物では検出性の低いものも存在しており、これらについ

    ては成形プロセスにて混入防止をコントロールする又は最適な NDIの手法を設

    定することにより、製造の安定性を保証していく予定である。

    (JAXA での試験)

  • 13

    図2-6 NDI 評価用異物混入配置図

    図2-7 異物混入 NDI 評価結果

    上記の結果を反映しながら、スペック内容を更新し、試作機の尾翼に適用す

    るプロセススペックとしての妥当性とそれらを含め(3)項で示す尾翼仕様に

    つきどのように遵守すべき規定に適合するか、を記載した Certification Plan

    (適合性証明計画書)を合わせ国土交通省航空局技術審査センターにて説明し

    審査いただいている途上である。

    (3)実大規模の供試体設計のための設計許容値確立

    本事業以前に設定した設計許容値及び尾翼桁間構造仕様を基に、試作機の尾

    翼仕様を図2-8のように設定した。設定に際しては、VaRTM 構造と胴体部・

    舵面部や前縁部等の金属部品とのインターフェイス・結合様式も含めた細部詳

    検出性が低い可能性

    のある異物

  • 14

    細設計を実施し、CATIA モデルを作成すると共に部品系列表(パーツツリー)

    も試作機尾翼構造を想定し作成した。軽量・高効率構造に資する構造様式とい

    う観点では、T 型断面でフリーエッジを持つスキン・ストリンガ構造(コボン

    ド方式による接合)が最適であることが判明したため、桁間構造様式として選

    定した。

    図2-8 VaRTM 技術を用いた尾翼桁間構造と周辺構造の詳細設計図

    図2-8で示す尾翼設計仕様のリスクとして、フリーエッジのある T 型断面

    を持つストリンガへの衝撃付与後強度(許容値)低下が懸念されるため、スト

    リンガ単体及びストリンガをコボンドしたパネルへのインパクト(BVID=

    Barely Visible Impact Damage)付与後の圧縮試験や二軸方向の荷重を想定し

    た継ぎ手試験(トランスバースベアリング試験)を実施した。図2-9にパネ

    ル圧縮試験状況を、図2-10に二軸荷重継ぎ手試験状況を示す。これらの結

    果から、現状定める設計許容値に影響を与えないことを確認した。また、実機

    構造様式での継ぎ手許容値を定めるための更なる静強度/疲労強度試験や翼根

    部を模擬した多点継ぎ手試験、設定した様式での VaRTM 製造時欠陥評価試験等

    VaRTM垂直尾翼桁間構造

    VaRTM水平尾翼桁間構造

  • 15

    を今年度9月以降に実施・計画中である。

    図2-9 BVID ストリンガ圧縮試験 / BVID パネル圧縮試験

    図2-10 トランスバースベアリング(2軸荷重継ぎ手)試験

    インパクト付与

    (JAXAでの試験)

  • 16

    図2-8に示す尾翼仕様の試作機での規定適合性を示す中で、尾翼へ3.6

    kg(8ポンド)の鳥が衝突しても安全に飛行できることを証明することが必

    須である。前縁部を貫通して VaRTM 桁間に至る可能性の有無につき確認すると

    ともに、万一前縁部を貫通した場合には VaRTM 桁でどの程度のエネルギー吸収

    が可能か検証しておく必要がある。その一環として、現尾翼仕様の前縁平面模

    擬構造部においてエネルギー吸収・変形量評価につき鳥衝突試験を基に検証し

    た。試験及び解析の結果から、変形全体の解析を含めた評価が可能であること

    がわかり、今後前縁構造体で全てのエネルギーを吸収し、VaRTM 桁への直接的

    な影響はないような設計方針で試作機にフィードバックをかけることが可能

    である目処を得た。

    上記は設計許容値にかかるリスクを評価するのが主目的であるが、試作機の

    尾翼桁間構造体についての規定適合性は、(1)項~(3)項で示した材料ス

    ペック・プロセススペックおよび尾翼設計仕様が固定され、取得した基礎デー

    タの上に、要素試験・構造体試験・試作機実大試験と許容値を積み重ねていく

    ビルディングブロックアプローチをとることで証明していく予定である。

  • 17

    (4)実大規模での技術成立性実証

    試作機の製作を実施する前に、最終の尾翼設計仕様に基づき実大構造の製

    作・組立を実施することにより、成形治具の製造品品質に与える影響や、組立

    精度にかかる VaRTM 部品の品質を確認する必要がある。(3)項で示したとお

    り尾翼設計仕様を設定した。本仕様を基に、今後は実際に精度を確保するため

    に付型治具や成形治具の配置や成形手順の設定を実施し、合わせて効率的な設

    備についても検討し、要すれば尾翼仕様へのフィードバックも実施する予定で

    ある。

  • 18

    2-1-2. プリプレグ関連技術開発成果

    (5)プリプレグ複合材・成形方法高度化開発

    a. 背景、目標

    a-1. 背景

    プリプレグ複合材はオートクレーブで圧力を掛けて焼き固める為に形状精度

    を確保でき、且つ、層間にボイド等が発生しにくい為に強度が高い上に安定し

    ているという特長があるが、反面、材料費・加工費とも高価であるため、自動

    化を進めてそのデメリットを薄める事が適用部位拡大に供する事となる。しか

    しながら、小型機は一般的に主翼形状のスパン方向及びコード方向に曲率の厳

    しい複曲面を有し、自動積層装置を使用するとスキンではプリプレグ材料間に

    隙間が発生し、ストリンガではしわが発生する。これはプリプレグ材料が伸縮

    性の無い繊維で構成されているからである。また、この事象は自動化を適用し

    た場合に発生し易い傾向がある。主翼構造の模式図を図2-11、2-12、

    2-13に示す。プリプレグ材料間の隙間やしわは強度低下の要因となり、個々

    の発生位置や大きさ、個数等にはバラつきが多く、強度低下を予め特定し難い

    ことから、隙間やしわが発生しない成形方法を確立する必要がある。

    a-2. 目標

    スキン成形において、プリプレグ材料間に隙間が発生しない自動積層装置を使

    用した成形方法の確立を目標とする。そこで曲率の厳しい複曲面への適用に伴

    う強度低下を最小化するため、狭いテープ幅のプリプレグ材料を使用した成形

    方法を試みる。またこの成形方法における強度データを取得し、主翼重量推算

    に供する。

    ストリンガでは、曲率が厳しい部位で上面と下面に周長差が生じ、プリプレグ

    繊維が伸縮できないためにしわが発生して強度低下を引き起こす。このため、

    ストリンガ成形時にしわが発生しない成形方法の確立を目標とする。そこで、

    曲率が厳しい部位にてプリプレグを切断することで、しわが発生しない成形方

    法を試みる。またこの成形方法における強度データを取得し、主翼重量推算に

    供する。

    最終的には、小型機の主翼構造に対してこれらの成形方法を適用して、アルミ

    材を用いた場合と比較して 15%の重量軽減を実現する。

  • 19

    スパン方向曲率

    コード方向曲率

    スパー

    スキン

    スキン

    ストリンガ

    スパーFWD

    OUTUPR

    スパン方向曲率

    コード方向曲率

    スパー

    スキン

    スキン

    ストリンガ

    スパーFWD

    OUTUPR

    図2-11 主翼構造における複合材部品

    スキンのテープ材料間の隙間

    下面スキン鳥瞰図

    テープ材料間の隙間

    図2-12 スキン形状

  • 20

    スパン方向曲率R ストリンガ断面図

    ストリンガ側面図

    ストリンガ・フランジのスパン方向しわ拡大

    図2-13 ストリンガ形状

    b. 成果、目標の達成度

    b-1. スキン成形方法

    b-1-1. プリプレグ材料間の隙間を抑制する成形方法の確立

    曲率の厳しい複曲面に積層するプリプレグテープの幅を狭くすることで、複曲

    面の影響を小さくして隙間を抑制する自動積層方法を確立した。確立した方法

    で成形したスキンの写真を図2-14に示す。

    b-1-2. 幅狭プリプレグテープ適用による強度影響の評価

    幅狭プリプレグテープ適用による強度影響の評価は、従来の幅広プリプレグテ

    ープで成形した供試体と引張強度及び圧縮強度を比較することで実施した。ス

    キンを模擬した供試体を図2-15に、強度比較を図2-16に示す。幅狭プ

    リプレグテープ適用による強度低下の傾向は有るが、顕著な低下は見られない。

    また、幅狭テープを適用したときの積層角度のずれの影響を評価した。積層角

    度ずれ無しの供試体と積層角度ずれ有りの供試体を図2-17に、強度影響を

    図2-18に示す。積層角度ずれによる強度低下の傾向は有るが、顕著な低下

    は見られない。

  • 21

    スキン積層治具

    スキン積層後の外観

    スキンのテープ材料間の隙間抑制積層結果

    図2-14 幅狭プリプレグテープを適用した方法で成形したスキン

    幅狭材料幅広材料

    図2-15 幅広プリプレグと幅狭プリプレグを用いて成形した供試体

    ファスナファスナ

  • 22

    図2-16 幅広プリプレグと幅狭プリプレグを用いて成形した供試体の強度比較

    積層角度ずれ有り積層角度ずれ無し

    図2-17 積層角度ずれ無し供試体及び積層角度ずれ有りの供試体

    図2-18 積層角度ずれの有無による強度比較

    100% 103%

    0%

    100%

    積層角度ずれ 無 積層角度ずれ 有

    100% 96%

    0%

    100%

    積層角度ずれ 無 積層角度ずれ 有

    100% 98%

    0%

    100%

    幅広材料 幅狭材料

    100% 96%

    0%

    100%

    幅広材料 幅狭材料

  • 23

    b-2. ストリンガ成形方法

    b-2-1. しわが発生しない成形方法の確立

    曲率が厳しい部位にてプリプレグを切断することで、しわが発生しない成形

    方法を確立した。図2-19に確立した方法で成形したストリンガを示す。こ

    れは、しわの発生原因となるプリプレグに発生する周長差を切断により緩和し

    ているからである。

    b-2-2. プリプレグ切断の強度影響の評価

    プリプレグ切断による強度影響の評価を引張試験及び圧縮試験により実施し

    た。供試体にはプリプレグ切断の無いクーポンと切断を有するクーポンを使用

    した。供試体、試験機の写真を図2-20に示す。試験結果を図2-21に示

    す。プリプレグ切断により引張強度は 15%程度低下し、圧縮強度は 9%程度低

    下するが、プリプレグ材料を 1 層追加することにより引張強度、圧縮強度とも

    に概ね強度回復可能であることを確認した。

    ストリンガ成形治具

    ストリンガ成形後の外観 ストリンガ・フランジのしわ無し成形結果

    図2-19 プリプレグ切断を適用した方法で成形したストリンガ

  • 24

    油圧グリップ

    供試体

    油圧グリップ

    供試体

    プリプレグ切断プリプレグ切断

    座屈防止治具

    供試体

    座屈防止治具

    供試体

    プリプレグ切断プリプレグ切断

    図2-20 試験概要

    100%85%

    97%

    0%

    100%

    切断無 切断有 切断有1層追加

    100%91% 97%

    0%

    100%

    切断無 切断有 切断有1層追加

    15%Down 9%Down引張強度(荷重) 圧縮強度(荷重)

    100%85%

    97%

    0%

    100%

    切断無 切断有 切断有1層追加

    100%91% 97%

    0%

    100%

    切断無 切断有 切断有1層追加

    15%Down 9%Down引張強度(荷重) 圧縮強度(荷重)

    図2-21 試験結果

  • 25

    b-3. 重量低減効果の見積もり

    上述の成形法を小型機適用した際の、複合材適用による重量低減効果を見積

    もった。見積もりに際し、以下に示すような重量低減効果を減ずる要因を考慮

    した(図2-22)。

    <スキン>

    b-1.に示したように、幅狭プリプレグテープ適用による強度低下は無視でき

    るものであり、改めて補強を行う必要は無いことが確認できた。よって、この

    点においては重量に対する影響は無い。

    一方、アクセスホール周辺部や集中荷重部においては、補強のために積層数

    を増やす必要があるが、プリプレグ炭素繊維複合材は板厚を急激に変化させら

    れないため、アルミに比べ荷重に対して板厚を最適化できず、その分重量ペナ

    ルティが生じる。

    <ストリンガ>

    b-2.の結果を踏まえ、曲率に応じて繊維切断を行うとともに、強度低下を補

    う補強を行うこととした。この補強により重量増を生じる。

    <スパー>

    スパーに関しては、場所によって求められる荷重が異なり、それに合わせて

    板厚を変化させる必要があるが、上記アクセスホール部と同様、急激に板厚を

    変えられない事から、アルミのように荷重に対する板厚の最適化ができず、板

    厚過剰、すなわち重量ペナルティが発生する。

    これらを考慮し、重量低減効果を見積もった結果として、アルミに比べて 15%

    の重量低減という目標に対し、約 10%に留まることが判明した。

    目標値

    15%低減実績

    約10%低減

    スキン+

    ストリンガ

    スパー●積層変化量を急に変えられない事による板厚過剰

    評定荷重に対し,細かく板厚を変化させる事ができな

    い事による板厚過剰部の重量増

    実現できなかった重量低減

    ●ストリンガにおける大曲率部の補強

    大曲率部位成形のための繊維切断による強度低下を

    補うための追加積層による重量増

    ●積層変化量を急に変えられない事による板厚過剰

    アクセスホール部や集中荷重部の補強において,板

    厚を急激に変えられないため,強度が不要な箇所まで,

    板厚の厚い部分が広がってしまう事による重量増

    目標値

    15%低減実績

    約10%低減

    スキン+

    ストリンガ

    スパー●積層変化量を急に変えられない事による板厚過剰

    評定荷重に対し,細かく板厚を変化させる事ができな

    い事による板厚過剰部の重量増

    実現できなかった重量低減

    ●ストリンガにおける大曲率部の補強

    大曲率部位成形のための繊維切断による強度低下を

    補うための追加積層による重量増

    ●積層変化量を急に変えられない事による板厚過剰

    アクセスホール部や集中荷重部の補強において,板

    厚を急激に変えられないため,強度が不要な箇所まで,

    板厚の厚い部分が広がってしまう事による重量増

    図2-22 重量低減効果を減ずる要因

  • 26

    b-4. まとめ(成果と今後の課題について)

    上述の通り、繊維切断を行うことで難成形部位(これまでに例の無い大曲率部

    位)において、しわの発生を抑え、かつ航空機の主翼に適用可能な強度を保っ

    た構造体を成形できる成形法の見通しを得た。

    他方、しわを生じさせないためには、長さに対する繊維切断の頻度が想定して

    いた以上に必要であり、結果として多くの追加積層が必要であることが判明し

    期待通りの重量低減効果が無いことが明確となった。本成形法を小型機主翼に

    適用した際の重量低減効果を見積もったところ、アルミ材に比べて約 10%の重量

    低減であり、目標の 15%の重量低減は未達であることが判明した。所望の重量低

    減を実現する複合材適用技術は今後の課題である。

    上記の重量低減効果は主翼のスキン、スパー、ストリンガに限った議論だが、

    更にリブやファスナ、金具等における熱応力対策等、複合材主翼採用に起因す

    る重量増加要因があり、これらを考慮すると機体全体では複合材主翼を採用す

    る事による重量メリットがほとんどない事が判明した(図2-23)。

    主翼桁間構造の更なる軽量化及び複合材主翼の採用に起因する機体重量増

    加の抑制を通じて、複合材主翼による機体全体の軽量化メリットを実現するた

    めには、材料面での改善等、さらなる努力が必要であるが、このためには数年

    以上の追加期間を要する見込みである。他方、技術実証にも使用する予定であ

    った小型航空機は、ほぼ予定通りのスケジュールである2012年初頭には飛

    行試験に供することが事業戦略上必要であり、成形技術の完成を待ってから飛

    行試験を行うのではこの要請に応えられないこととなる。

    こうした状況を踏まえ、当該小型航空機の主翼は複合材から金属に変更する

    こととした。これに伴い、本件成形技術については、試作機の飛行による技術

    実証が行えないこととなる。

    技術開発プロジェクトが当初予定していた技術実証が行えないこととなった

    ため、現時点で国の補助を受けて行うことを取りやめることとする。ただし、

    本件技術開発は、技術としては将来確実に必要になる重要なテーマであること

    から、自主事業として継続することとする。具体的には、成形技術自体は更な

    る成熟を目指しつつ、更に軽量・高強度なプリプレグを実現し、これとの相乗

    効果を目指すことなどが考えられる。

    現時点までに達成されたしわの発生しない積層技術等は、今後こうした改善

    を通じて小型航空機の主翼にも適用可能な複合材成形技術を開発する上での、

    基礎となるものである。国の補助事業としては今後本件技術開発を行わないこ

    ととするが、自主事業としての今後の技術開発や、他の輸送機械等を含む将来

    の複合材積層技術のアプリケーション実現のためには、有効な成果が得られて

    いると評価できる。

  • 27

    重量低減効果はほとんど無い

    スキン,スパー,ストリンガにおける重量増

    アルミに対する重量低減量(当初目標値)

    複合材採用に伴うスキン,スパー,ストリンガ以外の部位における重量増

    重量低減効果はほとんど無い

    スキン,スパー,ストリンガにおける重量増

    アルミに対する重量低減量(当初目標値)

    複合材採用に伴うスキン,スパー,ストリンガ以外の部位における重量増

    図2-23 機体全体での重量低減効果

  • 28

    2-1-3. 特許出願状況等

    表2-1 論文、投稿、発表、特許リスト

    題目・メディア等 時期

    論文 日米複合材料学会「COMPOSITE APPLICATION FOR JAPAN'S NEW

    REGIONAL JET AIRCRAFT - MRJ」

    H20.5

    ICCM2009「A-VARTM TECHNOLOGIES FOR FABRICATION OF

    AIRCRAFT PRIMARY STRUCTURES」

    H20.11

    投稿 NHK「クローズアップ現代」(インタビュー) H20.5

    高分子学会機関紙「航空機構造用複合材料の成形プロセス」 H20.5

    第 46 回飛行機シンポジウム「新しいリージョナル機 MRJ の

    開発を目指して」

    H20.8

    2009ICAF National Review「A-VaRTM Technology

    Application on Primary Aircraft Structures」

    H20.9

    三菱重工技報 45 巻 4 号「 MRJ 尾翼適用に向けた A-VaRTM 技

    術開発状況」

    H20.10

    High Performance Composites(March)「A-VaRTM Takes

    Flight in Japan」

    H21.2

    第 34 回複合材シンポジウム「航空機構造用・A-VaRTM 成形

    技術」

    H21.9

    発表 日米複合材料学会「 COMPOSITE APPLICATION FOR JAPAN'S

    NEW REGIONAL JET AIRCRAFT - MRJ 」

    H20.6

    SAMPE-Japan総会講演会「MRJにおける複合材適用について」 H20.7

    SJAC 素材専門委員会「環境適応型航空機 MRJ について」 H20.7

    (東レ)オートモーティブセンター開所式展示 H20.10

    第 46 回飛行機シンポジウム「新しいリージョナル機 MRJ の

    開発を目指して」

    H20.10

    日本航空宇宙学会西部支部「国産リージョナルジェット旅

    旅客機MRJの開発状況」

    H20.11

    機械学会東海支部 12月イブニングセミナー講演「MRJ にお

    ける複合材適用について」

    H20.12

    (東レ)総合科学技術会議「科学技術政策に対する意見交

    換(炭素繊維)」

    H21.4

    第 34 回複合材シンポジウム「航空機構造用・A-VaRTM 成形

    技術」

    H21.9

  • 29

    2-2. 目標の達成度

    表2-2.目標に対する成果・達成度の一覧表<VaRTM関連技術開発>

    要素技術 目標・指標

    成果 達成度

    ( 1 ) VaRTM

    材料仕様の設

    材料特性試験を完了し材

    料仕様を確立する。

    VaRTM の材料スペックにつ

    いて航空局に規定適合性

    証明計画と共に、三種の材

    料スペックについて審査

    いただき、内容について合

    意を得た。

    順調に

    進捗

    (2)VaRTM

    プロセスの製

    造安定性確立

    プロセススペックを制定

    するとともに、製造時欠

    陥影響を確認する。

    成形プロセスやNDIプ

    ロセスについて、各種成

    形・評価試験を実施し、ス

    ペックにフィードバック

    をかけ、大きなリスクはな

    いことを確認した。

    順調に

    進捗

    (3)実大規

    模の供試体設

    計のための設

    計許容値確立

    試験により設定した許容

    値に対する低下リスクを

    排除する。

    設定した VaRTM尾翼桁間仕

    様の中で大きな強度低下

    リスクのあった、インパク

    ト付与後のパネル強度や

    二軸荷重試験で許容値に

    大きく影響を与えないこ

    とを確認した。

    順調に

    進捗

    (4)実大規

    模での技術成

    立性実証

    小型航空機サイズの試作

    機(供試体)を製作し、

    開発した成形法の成立

    性・妥当性を最終検証す

    る。

    周辺構造との関連も含め

    実大実証の基になる尾翼

    設計仕様を設定できた。

    順調に

    進捗

  • 30

    表2-3.目標に対する成果・達成度の一覧表<プリプレグ関連技術開発>

    要素技術 目標・指標 成果 達成度

    (5)プリプ

    レグ複合材・

    成形法高度化

    小型機の主翼構造に対し

    て本事業で開発した成形

    方法を適用して、アルミ

    材を用いた場合と比較し

    て 15%の重量軽減を実現

    する。

    その為には、曲率の厳し

    い複曲面を有するスキン

    のプリプレグ材料間の隙

    間を抑制し、強度低下を

    防ぐ自動積層方法の確立

    や、曲率の厳しいストリ

    ンガに対し、しわ発生を

    抑制しつつ強度低下も抑

    えた成形方法の確立を行

    う。

    ・スキンは幅狭テープ材料

    を組み合わせることで

    テープ材料間の隙間を

    抑制する自動積層方法

    を確立した。また、幅狭

    テープ適用による強度

    低下は約 4%であること

    がわかった。

    ・ストリンガはプリプレグ

    切断を適用することに

    よりしわが発生しない

    成形方法を確立した。ま

    た、プリプレグ切断によ

    る強度低下は、プリプレ

    グ1層追加で概ね強度

    回復可能なことを確認

    した。

    ・ 本成形法を適用した際

    の重量低減効果を見積

    もったが、目標の 15%

    に対し、10%程度に留ま

    る見込みであることが

    判明した。

    未達成

    (6)実大規

    模での技術成

    立性実証

    小型航空機サイズの試作

    機(供試体)を製作し、

    開発した成形法の成立

    性・妥当性を最終検証す

    る。

    (中止) -

  • 31

    3. 事業化、波及効果について

    研究開発成果の実用化シナリオには下記の2つがある。

    ①航空機の一次構造材に適用して実用化

    ②各要素技術を構成する汎用技術要素を他分野/他製品に活用して実用化

    以下、それぞれについて概要を記す。

    ①航空機の一次構造材への適用

    VaRTM成形技術は尾翼桁間構造等の一次構造への適用を期待できる。メタル構

    造に比して軽量な構造体を実現できる為、本事業の上位目的であるエネルギー

    使用合理化政策に合致する。

    なお、VaRTM技術は、厚板含浸性など幾つかの技術課題が解決されれば、大型

    航空機で適用が拡大しつつあるプリプレグ複合材を代替する可能性がある。

    また、プリプレグ複合材については、重量目標を満足できる成形方法が未だ確

    立されていないことから直ちに航空機の主翼への適用は困難であるが、残され

    た技術課題を克服すれば、大荷重・厚板かつ曲率の大きな一次構造部位への適

    用を期待できる。

    ②他分野/他製品に活用

    研究開発対象となっている要素技術は、それぞれ、他製品/他分野に応用可能

    な汎用的技術を内包している。適用対象個々の拘束条件に合わせる為に開発要

    素を生じる可能性はあるものの、他分野/他製品に波及が可能である。

    複合材は炭素繊維引張強度がメタルに対して大きい点に最大の特徴がある。反

    面、面外曲げや圧縮には弱いので、各種タンクや風力発電ブレード等、引張強

    度の大きさを活かせる構造体に適用すれば軽量化メリットを享受できる。適用

    対象それぞれに存在する固有の技術課題が解決されれば、製造効率に優れた

    VaRTM等の複合材成形法が波及する可能性がある。

    以下、波及シナリオを記載する。

    ・自動車構造

    自動車が消費する燃料量は航空機よりも遥かに多く、燃費効率向上の必要性も

    また遥かに大きい。自動車にも一部車種・部材に複合材適用が始まったが、価

    格が見合わず、普及が進んでいないのが現状である。本研究開発の成果を踏ま

    え、航空機特有の強度・品質要求を緩和して価格を下げれば、フレームなど主

    要構造部材への適用が可能となり、普及が進む可能性がある。

    ・船舶構造

    喫水線上部の重量を減らして荒れた海上での船のロールを減尐させる為に隔

  • 32

    壁やデッキに軽量複合材料の使用が始まっているが、船体主構造への複合材適

    用の試みは未だ本格化していない。本研究開発の成果を踏まえ、自動車と同様

    に品質要求を緩和して価格を下げれば、船体主構造への普及が進む可能性があ

    る。軽量化によってエンジン出力を減じて燃料消費量を減じる方向と、日韓/

    日中間のニーズが高まる高速コンテナ船等に適用、速度向上を図るニーズが存

    在する。

    ・風力発電/潮流発電ブレード等

    既に風力発電ブレードへの複合材適用は始まっているが、ガラス繊維が主体で

    あり、重量削減効果は炭素繊維複合材よりも小さい。本研究開発の成果を受け、

    自動車・船舶の場合と同様、品質要求を適宜緩和して価格を減じれば、炭素繊

    維複合材ブレードの普及が進む可能性がある。ブレード重量の削減は、それを

    支える構造体の重量削減を導き、雪だるま式に必要材料が減尐する効果を持つ。

    単位発電電力に要する風力エネルギーも小さくなる為、発電効率が上昇する事

    となる。

    ・タンク類、建て材等

    引張強度特性に優れる複合材特性を活かして、高圧ガスタンク(タンクローリ

    ー等を含む)等の圧力容器への適用が進む可能性がある。また、高層ビル等、

    上部構造の軽量化が必要な建築物への適用も期待される。

    4. 研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等

    4-1. 研究開発計画

    本事業は、表4-1に示すように、平成 20 年度から H25 年度の 6 年計画で実

    施している。(当初計画ベース。)

    評価対象年度における実施内容/目的は下記の4点。

    ① 新成形技術に供する材料の規定適合性の実証を目的に、物理・化学・機

    械特性を取得するためのクーポン試験を実施し、適切な統計処理を行う

    に必要十分な数のデータを取得。

    ② 新成形技術工作法の規定適合性実証を目的に、航空機の各種構造様式に

    適切な成形プロセスを設定し、その妥当性を検証するために工作性確認

    試験を実施。

    ③ 妥当性検証について、設計許容欠陥の強度影響、非破壊検査による欠陥

    検出性、品質安定性の保証に要する設備・治工具等の仕様について総合

    判断するためのデータ取得・仕様検討を実施。

    ④ 部材レベルでアルミ材を凌駕する性能を十分に発揮すべく、従来から複

    合材料の弱点とされる、機械的継ぎ手特性、耐雷保護材の適用性、修理

    時特性等を評価検証するために各種試験を実施。

  • 33

    表4-1 研究開発スケジュール

    年度

    項目 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度

    プロセススペックの設定

    設計データの取得

    新材料の材料特性試験

    関連強度試験

    試作機用材料スペック設定

    構造体評価

    VaRTM/金属結合部リスク評

    構造要素強度評価

    VaRTMプロセス検証試験

    従来成形法改良開発

    自動積層装置検討等

    自動積層装置開発・検

    証等

    実機品検証

    #01,#02試験計画

    供試体製作

    試験

    実大規模の供試体設計・製

    機体設計

    製造/機能試験

    飛行試験

  • 34

    4-2. 研究開発実施者の実施体制・運営

    本研究開発は、公募による選定審査手続きを経て、三菱航空機株式会社が経

    済産業省からの助成を受けて実施した。

    三菱航空機株式会社において本研究開発の管理者として統括責任者、推進責任

    者としてプロジェクトリーダを置き、三菱重工業株式会社名古屋航空宇宙シス

    テム製作所等と連携しながら本事業を実施した。

    当社の親会社である三菱重工は、官需機の主翼に関してスキン・ストリンガを

    同時に成形する一体成形技術を採用しており、米国から高い評価を受けている。

    本事業の実施に当たっては、前述の機体開発に関わった経験豊富な人員を起用

    し、これまで培われてきた技術や経験を存分に活かせる体制を整えて開発に臨

    んだ。

    なお、三菱重工は官需機の他に、複合材主翼を採用した大型民間旅客機主翼の

    開発を担当しており、複合材主翼に関する技術で世界をリードしている。

    これらの背景から、当社は本事業を実施する事業者として唯一の国内企業であ

    る。

    経済産業省 航空機武器宇宙産業課

    研究開発実施機関:三菱航空機株式会社

    (プロジェクトリーダ:常務執行役員 藤本隆史)

    三菱重工株式会社

    (名航)

  • 35

    4-3. 資金配分

    評価対象年度における研究開発に係る経費及び補助金交付額は下記の通り。経

    費の内訳は表4-3の通り。

    補助事業に要する経費 7,020,000,000円

    補助対象経費 7,020,000,000円

    補助金交付申請額 3,510,000,000円

    表4-3 補助事業に要する経費、補助対象経費及び補助金の配分額

    (単位:円)

    補助事業

    経費の区分 補助事業に要する経費 補助対象経費 補助金の配分額

    Ⅰ 機械装置等費 6,928,941,000 6,928,941,000 3,464,470,500

    Ⅱ 労務費 40,250,000 40,250,000 20,125,000

    Ⅲ その他経費 50,809,000 50,809,000 25,404,500

    Ⅳ 委託費・共同

    実施費 0 0 0

    合計 7,020,000,000 7,020,000,000 3,510,000,000

  • 36

    4-4. 費用対効果

    本事業で得られた成果により、炭素繊維複合材構造の適用対象が拡大すると

    見込まれる。我が国で複合材を適用した小型航空機を開発・市場投入した場合

    に期待される効果を試算し、本事業の費用対効果を評価する。

    メタル製主翼/尾翼の航空機と複合材製主翼/尾翼の航空機の燃料消費量を

    比較する。一回の飛行距離が 400nm(およそ 740km;全世界のリージョナル機

    の平均運航距離)とした場合、メタル機体と比して複合材機体の燃料消費量は

    6USG(US Gallon)尐ない。1 年間に 2,500 回、20 年間運航した場合、メタル機

    体と複合材機体を比較すると 30万 USG複合材機体の方が燃料消費量が尐ない。

    この複合材機体が全世界で 1,000 機運航されると想定すると、20 年間で 3 億

    USG を節約できる。燃料消費量の削減は CO2 などの温室効果ガスの排出抑制に

    も大きく寄与する。また、1000 機を 20 年間飛ばして節約できる燃料を燃料費

    に換算するとその差は US$ 8.7 億(単価:US$ 2.9/gal.)であり、日本円に

    すると約 870 億円(※)になる。

    上記の節約効果はエアラインにとって決して小さな額ではないため,複合材

    航空機は需要・売上が拡大し、本邦航空機産業の発展につながる。また、航空

    機産業の拡大に伴い関連産業/新規産業の発展も予測され、これらの産業の売

    上拡大も期待することができる。航空機産業の技術波及効果は一般に自動車産

    業の数倍とも言われ、本邦航空機産業の発展はわが国の経済発展に大きく寄与

    すると考えられる。

    上述のとおり、本事業には十分な費用対効果が期待できると言える。

    ※為替レートを US$1.00=\100 とした場合

  • 37

    ◆(補足資料)用語集

    用語 説明

    BVID Barely Visible Impact

    Damage

    目視点検において、見つけることができないであろうと判断しうる衝撃欠陥を指す。

    CATIA Computer-Aided

    Three-Dimensional

    Interactive

    Application

    航空機設計・製造に用いてきた CAD ツールである。従来の CATIA V4 に引き続き開発された CATIA V5 は、蓄積された知識やノウハウを効果的に管理し、それに基づいた設計作業生産性を高めることより製品の改良を効果的に行うことができる。また Windows 標準の機能および革新的なユーザー・インターフェースにより、誰でも簡単に操作することができる。

    CFR Code of Federal

    Regulations

    米連邦規則集

    CFRP Carbon Fiber

    Reinforced Plastic

    炭素繊維強化複合材

    FAA Federal Aviation

    Association

    米国連邦航空局

    FAR Federal Aviation

    Regulations

    米国連邦航空法

    NCW Non Crimp Woven Crimp(縮れ、ひだ)が無く繊維の直進性に優れた織物。

    NDI Non Destructive

    Inspection

    非破壊検査。部品の健全性を破壊することなく検査する手法。代表的なものには、放射線検査、超音波検査等がある。

    RTM Resin Transfer

    Molding

    金型に封入された繊維に樹脂を注入し加熱硬化させる成形法。オートクレーブのような高価な設備を必要としない。

    SAE ARP5412 SAE: Society of

    Automotive

    Engineers

    ARP: Aerospace

    Recommended

    Practice

    模擬電撃波形を記述した SPEC。

    SAE ARP5414 被雷ゾーンを規定したドキュメント。

    VaRTM Vacuum assisted

    Resin Transfer

    Molding

    RTM の一種。オス型またはメス型に CF プリフォームを配置しフィルムシートで密閉、真空下で樹脂を含浸させ加熱硬化させる成形法。型が片面で良いため、治具費が安価となる。

    一次構造 飛行荷重、地上荷重、与圧荷重の伝達を主要に受け持つ構造部。 例:主翼や尾翼の桁

  • 38

    用語 説明

    インパクトダメージ Impact Damage 製造時もしくは運用時に想定される衝撃による部材損傷。

    オートクレーブ Autoclave 複合材の成形装置の 1 つ。積み重ねたプリプレグに熱と圧力を負荷して硬化(固める)することができる。圧力媒体にガスを用いることで、オートクレーブ内では均一なガス圧を負荷することができるため、複雑な形状の部品にも均一な圧力を負荷することができる。

    コボンド Co-bond 予め硬化した複合材と複合材の素材(プリプレグまたはドライクロス)を接着剤を介して硬化すると同時に接合する技術。

    コボンドパネル 2 種の材料をフィルム接着剤を介して同時硬化し接着したパネル

    サーティフィケーションプラン

    Certification Plan 規定適合性を得る最初のステップとして作成する計画書であり、どのように規定への適合性を証明するかの全体像を記載したものを指すとともに、TC 取得手続きに関する一種のカリキュラムの位置付けを持つ。

    シーラント 材料の合わせ面や角部への水分等の浸入を防止するために塗布するシール材のこと。ゴム等の高分子材料を用いるのが一般的。

    スキン Skin 外板

    ストリーマ放電 落雷の初期を詳しく観測すると、雷雲より”リーダ”といわれる小さい放電が航空機に向かって進展する。一方、それとは逆極性をもった、”ストリーマ”といわれる小さい放電が航空機より発生する。 雷雲からの”リーダ”と航空機からの”ストリーマ”がつながった後、大電流が流れ込む。(帰還電流といわれている) (同様なことが、航空機-大地間でも発生しており、雷撃電流は雷雲-航空機-大地 へと流れ込む)

    ストリンガ Stringer 機体外板を補強平板構造とする場合の補強材をストリンガと称することが一般的で、そのストリンガは T 型、I 型、Hat 型、J 型等さまざまな断面形状を持つ。

    スパー Spar 翼構造として翼幅方向に組み込まれた主要部材

  • 39

    用語 説明

    ビルディングブロックアプローチ

    Building Block

    Approach

    複合材構造を実証する上で、解析技術と試験を相乗的に用いる(例えば解析予測を試験で確認したり、試験計画を解析に基づき作成したりする)ことで信頼性を向上しながら全体コストを下げることが可能である。この考え方を延長し、複雑な構造をクーポン片、構造要素、サブコンポーネント、コンポーネント、実機製品等にレベル分けし、各レベルの解析や試験を実施する際、それよりも下位の解析・試験で得られた経験を基にする実証方法を、ブロックを積み重ねていくことになぞらえ、ビルディングブロックアプローチと称する。

    Ply Drop 積層厚を変化させること。

    プリプレグ Prepreg 複合材を製造するための素材。強化繊維を一方向に引き揃え、または織物にし、一定の割合で樹脂(母材)を含浸させた材料。

    プロセス・スペック Process Spec 製品を製造するための作業環境、材料、設備、道具および手順を規定した仕様書。

    リージョナル・ジェット

    Regional Jet 旅客がそれ程多くない路線や大空港と地方空港を結ぶ路線に運航されるジェット機。一般に、100 席未満の小型ジェット機を指す。

    リブ Rib 主翼や尾翼の中に桁とほぼ直角に取り付けられている部材。

    規定適合性 航空法等の規定に対する整合性。

    型式証明 Type Certification 航空機の型式ごとにその設計が基準に適合していることを証明する行為。

    熱可塑成分 Thermoplastics element

    熱を加えると軟化し、室温に戻すと硬化する樹脂成分。ポリエチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等(⇔Thermoset element:熱硬化成分。エポキシ樹脂、フェノール樹脂等)

    複合材 Composite Material 2 つ以上の互いに異なる材料要素を組み合わせて、元の要素は出来上がった材料中で元の形を残しつつ、個々の要素に無かった特性を生み出した人工の材料。(繊維強化プラスチックなど)