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平成17年度 河川整備基金助成事業 微生物を利用した窒素・リン同時除去に関する 高度排水処理プロセス技術調査 報告書 平成18年5月 財団法人 造水促進センター

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平成17年度 河川整備基金助成事業

微生物を利用した窒素・リン同時除去に関する

高度排水処理プロセス技術調査

報告書

平成18年5月

財団法人 造水促進センター

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目次

微生物を利用した窒素・リン同時除去に関する高度排水処理プロセス技術調査

第 1 章 水循環の現状と窒素・リン対策

1.1 水環境の現状 1

1.2 富栄養化現 3

1.3 窒素・リン同時除去高度処理技術 5

Reference 7

第 2 章 既往の窒素・リン除去技術

2.1 生物学的窒素除去 8

2.1.1 嫌気・好気循環式硝化脱窒法

2.1.2 嫌気・好気循環式生物膜法

2.1.3 嫌気・好気オキシデーションディッチ法

2.1.4 包括固定化法

2.1.5 膜分離活性汚泥法

2.2 物理化学的窒素除去 12

2.2.1 固液分離法

2.2.2 不連続点塩素処理法

2.2.3 アンモニアストリッピング法

2.2.4 触媒湿式酸化法

2.2.5 イオン交換法

2.2.6 電気分解法

2.3 生物学的リン除去 14

2.3.1 嫌気/無酸素/好気法

2.3.2 嫌気/好気/無酸素法

2.4 物理化学的リン除去 16

2.4.1 凝集沈殿法

2.4.2 加圧浮上法

2.4.3 凝集剤添加活性汚泥法

2.4.4 晶析(接触)脱リン法

2.4.5 吸着法

2.4.6 鉄接触剤リン除去法

2.4.7 ストラバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム)回収法

2.4.8 アルミニウム電解法

References 19

第 3 章 リン資源回収技術

3.1 排水からのリン資源回収の意義 20

3.2 リン資源回収技術 21

3.2.1 リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)法

3.2.2 吸着脱リン法

3.2.3 ジルコニウムフェライト系吸着脱リン剤

References 30

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第 4章 リン蓄積細菌

4.1 生物学的リン除去の仕組み 32

4.2 リン蓄積細菌の代謝機構 34

4.3 リン蓄積細菌の種類 36

4.4 生物学的リン除去プロセスにおける微生物群集構造解析 36

4.4.1 古典微生物学的手法によるリン蓄積細菌の特定

4.4.2 培養を伴わない生物学的リン除去プロセスの群種構造解析

4.4.3 リン蓄積細菌の競合微生物(グリコーゲン蓄積細菌)

References 39

第 5 章 脱窒性リン蓄積細菌

5.1 脱窒性リン蓄積細菌の特徴 41

5.1.1 脱窒性リン蓄積細菌の優占率

5.1.2 脱窒性リン蓄積細菌の脱窒機能

5.2 脱窒性リン蓄積細菌の代謝機構 46

5.3 脱窒性リン蓄積細菌の種類 46

5.3.1 馴養条件

5.3.2 馴養経過

5.3.3 実験結果

5.4 脱窒性リン蓄積細菌の微生物群集構造解析 50

5.4.1 PCR-DGGE 法による解析

5.4.2 FISH (Fluorescence in situ hybridization)法による解析 5.4.3 キノンプロファイル法による解析

References 57

第 6 章 脱窒性リン蓄積細菌による窒素・リン同時除去技術

6.1 Single-sludge system 59

6.2 Two-sludge system 61

6.3 Single-sludge system の応用例(AOA プロセス) 62

6.3.1 AOA プロセスの原理

6.3.2 好気条件初期供給炭素源量の検討

6.3.3 プロセスの特性評価

References 73

第 7 章 グラニュールを利用した窒素・リン同時除去技術

7.1 グラニュールの形成について 75

7.2 グラニュール形成による脱窒性リン蓄積細菌の集積 77

7.3 グラニュール形成時の窒素・リン除去能 78

References 80

第 8 章 メンブレンエアレーション法を利用した窒素・リン同時除去技術

8.1 メンブレンエアレーション法 82

8.2 メンブレンエアレーション法による窒素・リン同時除去のコンセプト 84

8.3 窒素・リン除去能と微生物群集構造解析 85

8.3.1 実験装置と運転条件

8.3.2 1サイクルにおける挙動評価

8.3.3 連続運転結果

8.3.4 FISH 法による微生物生態解析

8.4 今後の展望 89

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References 90

第 9 章 特許情報のデータベース 92

本調査に関連する文献リスト 96

廃水処理分野におけるマイクロバブルの応用技術基礎調査 1. はじめに 97

2. マイクロバブルを含む溶液の性質 97

2.1 マイクロバブルのサイズと水中における挙動

2.2 マイクロバブル処理による水の物理化学的性状変化

3. 各種マイクロバブル発生装置の特性比較 100

4. マイクロバブルの実施応用例 109 4.1 製紙・紙パ廃水の浄化

4.2 バラスト水の浄化

4.3 洗浄効果を高めるためのマイクロバブル発生ノズルの開発

4.4 アルカリイオン水の発生装置

4.5 水生植物活性化と水質浄化

4.6 口腔内清掃装置

4.7 水底汚染底質の処理方法

4.8 超音波撮影装置および超音波撮影方法

4.9 半導体装置基板上の異物を効率よく除去する洗浄方法

4.10 底質等浄化方法および装置

4.11 有機性汚水のろ過方法及び装置

4.12 超音波撮像装置

4.13 船体航行中の表面摩擦逓減法

4.14 小型の水質浄化システム

4.15 超音波造影剤撮像の改善方法及び装置

4.16 炭酸ガスの隔離装置

4.17 両親媒性物質の抽出法および装置

4.18 廃水処理システム

4.19 船体の粘性抵抗の低減と炭酸ガスの大気中への放出量の低減システム

4.20 船体抵抗低減船

4.21 廃水処理システム 5. 基礎実験:廃水浄化のためのマイクロバブル処理効果 120 5.1 実験方法

5.2 実験結果と考察

6. まとめ 122

参考文献 123

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第 1章

1

第 1章 水環境の現状と窒素・リン対策

1.1 水環境の現状 1), 2)

水環境については、水質汚濁の防止、水辺空間の利用の観点からの対策のみならず、水質、

水量、水生生物、水辺地などを総合的に捉えた保全対策を推進する必要がある。水は雨とな

って地上に降り注ぎ、森林や土壌・地下水に保水され、川を下り、海に注ぎ、蒸発して再び

雨になるという自然の循環過程の中にあり、その過程で多くの汚濁物質が浄化される。我々

の水利用に伴う環境への負荷が自然循環の浄化能力を超えることがないよう、また大気環境

や土壌環境を通じた水環境への負荷や水環境の悪化に伴う大気環境や生態系への影響にも

配慮した、健全な水循環の確保が重要である。 また、我々は、急峻な地形や狭小な国土と

いう地理的特徴のために生じる、流量の変動の大きな河川等厳しい条件下において水利用を

行っている。その水利用は、大気から河川、海域等に向かうまでの間、水資源として開発・

供給されること等を通じてさまざまな形で何度も行われ、その後自然の循環に戻される。こ

の過程で水環境に大きな影響を与え、かつ、土壌、生態系等にも影響を与えていることから、

これらにも配慮した水環境の保全が必須である。

また、我々は、急峻な地形や狭小な国土という地理的特徴のために生じる、流量の変動の

大きな河川等厳しい条件下において水利用を行っている。その水利用は、大気から河川、海

域等に向かうまでの間、水資源として開発・供給されること等を通じてさまざまな形で何度

も行われ、その後自然の循環に戻される。この過程で水環境に大きな影響を与え、かつ、土

壌、生態系等にも影響を与えていることから、これらにも配慮した水環境の保全が必須であ

る。

平成 13 年度全国公共用水域水質測定結果によると、カドミウム等の人の健康の保護に関

する環境基準(26 項目)の達成率は、99.4%(前年度 99.2%)と、前年度と同様、ほとんど

の地点で環境基準を達成していた。その一方で,環境基準の生活環境項目である BOD,COD

に関する達成率はいまだに満足できる状況になく,平成 12 年度末までに環境基準類型が当

てはめられた 3,291 水域(河川 2,544、湖沼 153、海域 594)について、有機汚濁の代表的な

水質指標であるBOD(又はCOD)の環境基準の達成率をみると、全体では平成5年度には76.5%

であったが、平成 6年度には渇水の影響により 68.9%まで低下した。しかしながらその後は、

毎年わずかながら向上し、平成 13 年度は 79.5%であった。水域別にみると、河川 81.5%(12

年度は 82.4%)、湖沼 45.8%(同 42.3%)、海域 79.3%(同 75.3%)であり、特に、湖沼、内湾、

内海などの閉鎖性水域で依然として達成率が低くなっている状況にある(Figure 1.1)。

さらに富栄養化の重要な要因となる全窒素・全リンについての平成 13 年度の達成率につ

いては湖沼で 36.7%(平成 12 年度 40.9%),海域で 82.1%(同 71.8%)となっている。湖沼に

おける全窒素および全リンの環境基準は昭和 57 年に定められ,昭和 59 年度から測定させて

いるが,達成率は,これまで 40%前後と低いレベルで推移している。海域では,全窒素およ

び全リンの環境基準は平成 5 年に定められて以来,あてはめ水域数が年々増加しつつあり,

水質の傾向を評価するには難しい面もあるが,水域数が 100 を超えた平成 10 年度以降は,

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第 1章

2

70%を超える達成率で推移している(Figure 1.2)。

年度

Figure 1.1 環境基準(BOD,COD)の達成率の推移

達成率

[%]

0

20

40

60

80

100

全体河川湖沼海域

昭和 53 昭和 58 昭和 63 平成 5 平成 10

0

20

40

60

80

100

湖沼

海域

年度

Figure 1.2 環境基準(T-N,T-P)の達成率の推移

達成率

[%]

昭和 60 平成元 平成 4 平成 8 平成 12

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第 1章

3

1.2 富栄養化現象 3)-6)

1971 年に直罰制度を導入した水質汚濁防止法が制定されて以来,直接生命を脅かす公害は

徐々に解消され,現状の水環境は一時期から見れば全般に改善されている。しかしながら,

湖沼に見られる水の華(アオコ)および内湾の赤潮発生のような富栄養化は依然としてその

進行を食い止めることはできていない。富栄養化は,もともと湖沼の生物生産力,すなわち

湖沼の老齢化を表す用語として用いられていた。したがって,自然現象の 1つとして当たり

前のこととして理解されていたが,今問題となっている富栄養化は 10 代,20 代の時に生活

習慣病にかかるようなものである。富栄養化が進めば,1 次生産が増大するだけでなく,生

態系の種構成が著しく変化し,アオコや赤潮が発生するようになる。今まで問題にされてい

なかった極微細なプランクトン(ピコプランクトン)の異常増殖もいくつかの水域で起こっ

ている。これは,窒素とリンとの比が著しく高くなった時に異常増殖する可能性が高い。1

次生産増大の最も大きな原因は窒素,リンの増加であり,アオコや赤潮はその極度の進行と

捉えることができるが,その発生機構を明快に説明することはできない。温度や降水量など

の気象条件とも密接な関係があるようである。窒素およびリンの増大は必須の条件であるが,

この他に多くの要素が複雑に関係する。赤潮生物によってはビタミン B12,ビオチン,チア

ミン,鉄,マンガン,特殊な有機物などを要求するものがある。このような物質は増殖の引

き金になり,増殖促進物質と呼ばれている。水温と塩分は重要な条件である。水温は 21-26ºC

が適温である。大部分の赤潮生物は広塩性であるが,海水よりもやや低い濃度を最適として

いる。しかし,いずれにしても窒素,リン濃度の増加がない限り,植物プランクトンの大増

殖は起こらない。

Figure 1.3 には赤潮,青潮の発生につながるメカニズムが模式的に示してある。青潮と

は赤潮の死骸によって引き起こされる貧酸素水塊の形成である。海域に限らず最近の傾向と

して,水域の窒素濃度の増大が認められる。東京湾の湾奥部では,リン濃度はやや減少して

いるのに対し,窒素濃度は 10 年間で 2 倍に増加している。また,湖沼でも窒素濃度が増加

し,その結果として N/P 比が増大しているところが多い。

N/P 比が増大する原因を Table 1.1 に示す。N/P 比が増大するとピコプランクトンの増殖

が促進されると言われている。これは極めて微小(0.2-2.0 μm)なため,動物プランクト

ンに捕食されにくい。ピコプランクトンの発生は湖沼や海域の健全な物質循環にとって好ま

しくない。富栄養化が進んだとしても N/P 比は通常の範囲(6-15)にあることが望ましい。

植物プランクトンの COD/P および COD/N は,それぞれ 30-80,5-10 であることが多い。こ

れはリンおよび窒素はそれぞれの COD の 30-80 倍(平均 55 倍),5-10 倍(平均 7.5 倍)の削

減効果があることになる。すなわち窒素,リン 1kg の削減はそれぞれ COD55kg,7.5kg に相

当することになり,COD 削減に対して窒素,リンによる内部生産の削減がいかに効果的であ

るかがわかる。

閉鎖性水域の富栄養化の進行を抑制し,内部生産を低下させるためには,陸域からの窒素

とリンの負荷を削減させるより他に方法はない。負荷には点源(特定汚染発生源)と面源(比

特定汚染発生源)とがある。窒素,リンの環境基準の類型当てはめは既に湖沼 66 水域,海

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第 1章

4

域 131 水域でなされており,これが目標水質になっている。この目標水質達成のために排水

基準が定められており,水域によっては上乗せ基準が設定されている。

Table 1.1 窒素濃度および N/P 比上昇の原因

● リンだけを除去すれば放流先の富栄養化を防ぐことができるといった考え方に基

づく,生活系ならびに産業系排水処理過程における窒素の未処理による放流先への

窒素負荷の増大

● 下水道や合併処理浄化槽が普及していない居住などからの生活系雑排水の水域へ

の未処理法流による放流先への窒素の負荷量の増大

● 合成洗剤が有リン洗剤から無リン洗剤になったことによる,生活系雑排水中のリン

負荷量の低下

● 農耕地からの面源負荷としての農耕地での施肥においては,窒素含量が大きく,リ

ンは浸透の際に土壌に吸着されるなどの理由からの窒素の割合の増大

● 近年,自動車や工場からの排出ガスにより大気中の NOXが濃度が上昇しているが,

その上昇に伴う水中への NOXの溶け込み量の増加

魚介類の種の変化

魚場の変化

魚介類のへい死

悪臭の発生

【富栄養化】

【プロセス】

窒素・リンの流入

窒素・リン濃度増大

藻類の大量増殖

(赤潮の発生など)

藻場・干潟の消失

透明度の低下

藻場・干潟の消失

有機物の増大

CODの低下

(貧酸素水塊,

青潮の発生など)

底質の悪化

魚介類の種の変化

魚場の変化

魚介類のへい死

悪臭の発生

【有機汚濁】

【プロセス】

魚介類の種の変化

Figure 1.3 閉鎖性水域(内湾)の有機汚濁と富栄養化の関係

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第 1章

5

1.3 窒素・リン同時除去高度処理技術 7)-9)

水界生態系を正常に維持する上で窒素・リン同時除去が必須なわけであるが,排水処理技

術などの観点からも同時除去は必須である。それは,現在の排水処理技術において窒素ある

いはリンのいずれかを低コストで完全に除去することは極めて困難であり,窒素,リンの経

済的な除去法としての生物処理技術を活用した活性汚泥法の場合,窒素,リンを同時除去す

る嫌気・好気法の方が省エネ的でかつ効率的であるからである。現在では,湖沼流域を対象

として窒素およびリンの環境基準,排水基準が定められ,海域においても検討が進められて

いるので,対象水域によって栄養塩類の制限要因が異なったとしても,高度処理では窒素お

よびリンの両者を低減させる対策を施すべきである。バイオテクノロジーを活用した代表的

な窒素・リン同時除去高度処理技術は Table 1.2 に示すとおりである。

現在,多くの下水処理施設で採用されている標準活性汚泥法は BOD や SS などの有機

汚濁成分は効率よく除去できるが,栄養塩類,特に窒素の除去率が低いと言われている。

これを改善するためには施設を嫌気・好気法にし,かつ高負荷運転でも窒素除去が可能

となる包括固定化法やスポンジ様担体充填法とすることが効果的と言える。すなわち包

括固定化法では硝化細菌を高濃度に固定化でき,スポンジ様担体充填法では微生物濃度

を高められ硝化細菌を担体表面に集積させやすい,と言われているからである 7), 8)。

長時間曝気活性汚泥法も数多く普及しているが,嫌気・好気の間欠曝気運転に変更す

ることによって効果的に窒素除去が行えることが確認されている 9)。また,最近では,

いずれも嫌気・好気法が組み込まれているが,固液分離を膜で行う膜分離一体型活性汚

泥法や,DO 制御,ORP 制御,汚泥滞留時間制御などを組み込んだ方法が良好な処理水質

が得られるとして注目されている。特に,膜分離一体型活性汚泥法は,有機物,窒素,

Table 1.2 窒素・リン同時除去高度処理技術

嫌気・好気プロセス

AO(嫌気・好気活性汚泥)法

A2O(嫌気・好気活性汚泥)法

嫌気・好気回分式活性汚泥法

オキシデーションディッチ法

AT(曝気時間)コントローラー式活性汚泥法

(回遊式)間欠曝気活性汚泥法

嫌気・好気 UF 膜高濃度活性汚泥法

嫌気・好気包括固定化法

嫌気・好気スポンジ様担体充填法

直接浄化プロセス

水生植物植栽浄化法

AS(嫌気ろ床・土壌トレンチ)循環法

高速酸化池法

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第 1章

6

リンの除去のみならず,色度,濁度,細菌・ウィルス,無機塩類などの除去が可能であ

るため,処理水の再生利用の面から非常に有効な方法である。

これら以外にも,窒素およびリンを同時に除去する方法として,自然の浄化機能を利

用する直接浄化技術や生物学的硝化脱窒プロセスとリンを同時に除去する方法を組み

合わせた方法も有効である。直接浄化技術としては,資源循環まで考慮に入れた水生生

物としてアシやホテイアオイを利用する方法が,特に小規模排水において有効である。

リン除去プロセスとしては,リン吸着剤の活用が効果的であり,生物学的硝化脱窒プロ

セスの後に付加することによって窒素,リンの除去が可能となる。

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第 1章

7

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第 2章

8

第 2章 既存の窒素・リン除去技術

2.1 生物学的窒素除去 1)-5)

窒素化合物の形態は有機態窒素と無機態窒素に分けられ,さらに存在形態としては水中に

溶解しているものと懸濁物質(Suspended Solid;SS)に分けられる。有機態窒素としてはア

ンモニアや硝酸,亜硝酸などがあり,これらは生活系排水,産業系排水等に含有されており,

内海,内湾等の閉鎖性水域の富栄養化を累進的に加速することから,その除去対策は極めて

重要とされている。特に,第 5次水質総量規制では窒素・リンが COD に加えて追加されたこ

とから,効率的除去技術の普及が必要不可欠とされている。このように窒素の形態は多様で

あるため,その形態や濃度に応じた処理方法を適切に選定することが必要である。この窒素

の除去技術としては物理化学的処理法と生物処理法がある。多くの物理化学的処理法では適

用できる窒素の形態に制限がある。一方,生物処理法では生物毒のあるものや,生物学的に

難分解の化合物を除くとほとんどのものに適用が可能である。Table 2.1 に窒素除去に関す

る各種方法の長所・短所を示す。

2.1.1 嫌気・好気循環式硝化脱窒法

本法は生物反応槽を嫌気(脱窒)槽と好気(硝化)槽に分けてこの順に設置し,好気槽で

硝化された混合液および返送汚泥を脱窒槽へ循環させながら原水の有機物を利用すること

により脱窒を行う処理法である。循環硝化脱窒法には次の利点がある。

① 処理原水の有機物を脱窒反応の水素供与体として利用できる。

② 硝化工程では,アンモニアの酸化に伴うアルカリ度が消費されpHが低下するが,脱

窒反応で生成するアルカリを硝化槽で利用できるため,アルカリ剤の添加を節約できる。

本法の基本的な処理フローを Figure 2.1 に示す。

Org-N NH4+-N NOx

--N 長所 短所

微生物処理法 ○ ○ ○ 窒素ガスに無害化

適応範囲が広い

場所・時間が必要

生物活動の環境必要

不連続点塩素注入法 △ ○ × イニシャルコストが

安い

処理コストが高い

副生成物の問題

アンモニアストリッ

ピング法 × ○ ×

高濃度のアンモニア

排水に適応可能 発生ガスの処理必要

イオン交換法 × ○ ○ 低濃度の窒素に有利 再生排水の処分必要

ゼオライト吸着法 × ○ × 低濃度の窒素に有利 再生排水の処分必要

Table 2.1 窒素形態と各種処理方法の適合性

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第 2章

9

本法は前段に嫌気槽,後段に好気槽で構成され,原水と返送汚泥を嫌気槽に流入させる一方,

硝化混合液を循環ポンプなどにより嫌気槽へと循環するようになっている。脱窒には有機物

として BOD/N 比が 3-4 倍必要であるが,標準的な都市下水であれば,この範囲にあるので,

脱窒のためのメタノール添加は不必要である。また,脱窒でのアルカリ度の回復も十分期待

できるので,水酸化ナトリウムも添加する必要はない。しかし,原水の BOD 濃度が低く,脱

窒速度が著しく小さくなる場合には,嫌気槽へのメタノールの添加が必要である。同様に原

水のアルカリ度が低く,pHの低下により硝化速度が小さくなるような場合には,硝化槽へ

の水酸化ナトリウムの添加が有効である。また,硝化槽と脱窒槽の中間部に兼用槽を設置し,

どちらの目的にも切り替えしようできるようにすると,硝化と脱窒のバランスをより適正に

保つことができると言われている。標準的な都市下水の場合,硝化を確実に行えば少なくと

も 60%以上の窒素除去率が期待できる。しかし,より高い窒素除去率を期待する場合は,多

段式循環法を採用したり,脱窒反応をほぼ完全に進行させたりするため硝化槽の後段にメタ

ノール添加の第 2 脱窒槽と再曝気槽(沈殿槽での脱膣による汚泥浮上と処理水の DO 保持の

ため)を設けるなどの方法が必要である。

本法の窒素除去能は,原水の窒素および有機物濃度に依存し,原水の BOD/N 比が窒素除去

率を率速している場合が多い。その他の因子としては,循環比,MLSS 濃度,各処理槽の滞留

時間,水温,pH などが挙げられる。したがって,設定目標水質を定める場合にはこれらの因

子に十分に配慮する必要がある。窒素以外の項目の除去性能については,BOD,COD,SS は標

準活性汚泥法と同様と考えてよいが,本法が長い SRT での運転を余儀なくされているので,

リンの除去率が低下することがある。余剰汚泥発生量については,本法が標準活性汚泥法よ

り低い BOD-SS 負荷で運転されるので,余剰汚泥発生量は標準法に比べて多くならないのが

一般的であるが,濃縮法,脱水性は嫌気条件を組み込むことにより通常改善される。一方,

本法は低負荷で滞留時間が長いこと,循環液により流入水が希釈されることにより,流入負

荷に対する処理の安定性は大きくなる。

2.1.2 嫌気・好気循環式生物膜法

本法は,生物学的脱窒法を活性汚泥処理で活用した原理を生物膜処理施設に応用したもの

脱窒槽 硝化槽 沈殿槽 処理水 原水

CH4OH NaOH

返送汚泥 余剰汚泥

Figure 2.1 循環式硝化脱窒法の処理フロー

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第 2章

10

である。この場合,生物膜法が一般的に微生物濃度が低く,生物処理槽の曝気を停止しても,

嫌気状態に達するまでに長い時間を要することから,間欠曝気式脱窒法の適用は困難で,通

常,循環式脱窒法が用いられる。ここでは,流量調整式嫌気濾床・生物濾過法について述べ

ることとする。本法は,好気槽処理水の嫌気槽への循環を行い,定量ポンプを用いた流量調

整機能と微生物担体による生物膜濾過機能を有している。流量調整式嫌気濾床・生物濾過法

の基本的な処理フローを Figure 2.2 に示す。本法は,定量ポンプを有する嫌気濾床槽と微

生物担体を充填した生物濾過槽および処理水槽からなる。

嫌気濾床槽においては,脱窒を進行させるとともに,十分な槽容量と定量ポンプの働きによ

り流量調整機能を持たせている。生物濾過槽では,微生物担体に付着した微生物膜により硝

化が進行するとともに浮遊物質を効率よく捕捉・濾過させ,その濾過された処理水槽の水は,

その一部が嫌気濾床槽への循環と生物濾過槽の自動逆洗に使われ,窒素の除去および生物濾

過槽の目詰まり防止と微生物量の適正な意地が行われるようになっている。

流量調整式嫌気濾床・生物濾過法においては,逆洗水中の窒素も脱窒されるため,循環比 0

においても比較的高い窒素除去性能を有するが,窒素除去率は循環比が3-4で最も高くなる。

この時,窒素除去率は 80%以上になり,窒素濃度 10 mg/l 以下の良好で安定した処理水質を

得ることも可能である。一方,生物濾過槽の微生物担体が高い微生物保持性を有するため,

BOD 除去性能にも優れ,最適循環比においては 95%以上の BOD 除去率を示す。また,微生物

担体槽の物理的除去効果により高い SS 除去性能も有しており,高い透視度も期待できる。

2.1.3 嫌気・好気オキシデーションディッチ法

本法は,活性汚泥法の一種であり,曝気装置として機械式エアレータを採用し,攪拌効果

を高めるために長円形の無終端水路(ディッチ)の構造を持つことを特徴としている。本来,

長時間曝気法であるので,硝化が進行しやすく,また,処理水路が長いので,エアレータか

ら離れた地点では嫌気状態になるので脱窒が起こりやすく,高い窒素除去率を得ることが可

能でなる。処理方式としては,回分式処理によるもの,ならびに連続式処理で連続曝気式と

Figure 2.2 流量調整式嫌気濾床・生物濾過法の処理フロー

第 1室

生物

濾過槽

処理水槽

処理水 原水

逆洗

P

第 2室 嫌気濾床槽

循環

定量移送

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第 2章

11

間欠曝気式がある。連続曝気式で安定した窒素除去を得るには,硝化が完全に行われ,かつ,

脱窒も十分に進行するように,ディッチ内の好気ゾーンと嫌気ゾーンをバランスよく形成さ

せることが不可欠である。また,流入水の有機物を脱窒の炭素源として効率よく消費させる

ため,流入水は嫌気ゾーンの入り口付近に入れるのが一般的である。

間欠曝気式は,好気と嫌気すなわち硝化と脱窒を時間的に区分けできるので,窒素除去率が

安定する。しかし,汚水が連続的に流入するため,曝気停止時における汚水と活性汚泥の十

分な混合への工夫と,処理水への短絡防止に注意する必要がある。

2.1.4 包括固定法

包括固定化法は高分子ゲル内に微生物を固定化し反応槽内にその濃度を高く維持するこ

とで処理の効率化を図る処理法である。反応槽内に任意の菌を任意の菌体量で保持すること

が可能であり,排水中の有機物,窒素およびリンなどは含水ゲルを透過して微生物に摂取さ

れる。菌体の剥離による菌体の減少はなく,菌体保持量はおおむね安定している。それ故,

冬季の低水温期においても短い滞留時間で窒素除去が可能とされている。汚泥発生量は,増

殖した菌の滞留時間が長く内部で自己分解が生じやすくなること,ゲル内部は通常の増殖環

境と異なるためATP収率が低下し菌体生成量が低下することなどから従来の生物処理より少

なくなる。

2.1.5 膜分離活性汚泥法

活性汚泥の固液分離には重力沈殿法が用いられてきたが,この固液分離を膜分離に置き換

えたものを膜分離活性汚泥法と称している。本法は,活性汚泥の性状に左右されず固液分離

が可能なことから,屎尿処理に代表される有機性排水処理に適用されていたが,膜濾過装置

を反応槽の後段に付設し内圧型膜のクロスフロー濾過方式を採用しているため,生活系排水

への適用は維持管理的,コスト的に困難であった。しかし,膜を汚泥中に浸漬させ吸引する

ことで処理水を得る外圧型膜の登場により浄化槽にも膜分離法の適用が可能となり,十分な

有機物除去,硝化脱窒による窒素除去を容易に達成できる高度処理となり得ることがわかっ

てきている。膜分離活性汚泥法は汚泥滞留時間(SRT)を十分長くとることができるため,

特に硝化菌のような増殖速度が遅い微生物の増殖・高濃度維持が容易であり,さらに微生物

を高濃度に維持できることから全体の活性度を高めることができ,反応槽のコンパクト化が

図れる。このように,活性汚泥と膜分離を組み合わせると活性汚泥の高濃度化が達成でき,

また,条件設定を適正に行うことで単一槽での硝化・脱窒を容易に制御できる。膜分離法で

最も重要なことは膜の目詰まりによるフラックスの低下である。フラックスをいかに高く維

持するかの研究は現在も続いており,効果的な洗浄法,膜材質,膜モジュール形状,運転方

法などの検討がなされている。運転操作面から低圧濾過,攪拌流速による膜洗浄,間欠吸引

などが有効とされている。

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第 2章

12

2.2 物理化学的窒素除去

2.2.1 固液分離法

窒素源が固形物の場合に適用でき,スクリーン,沈殿,凝集沈殿,浮上分離,砂濾過などの

処理法が適用できる。また窒素源が溶解性タンパク質やコロイド性タンパク質の場合には,

pH や水温を調整することによりタンパク質を析出・凝集させて除去することも可能である。

2.2.2 不連続点塩素処理法

アンモニアを含む水に塩素を徐々に添加していくと,式 2.1 を経て式 2.2,2.3 のようにモ

ノクロラミン(NH2Cl)やジクロラミン(NHCl2)などが生成し,最後には式 2.4 のように窒

素ガスに分解される。この時の残留塩素は,アンモニアの分解が終了した時点で,極小とな

りそれ以後再び増加していく(Figure 2.3)。この極小点を不連続点と呼び,アンモニアの

除去にはこれ以上の塩素が必要となる。

H2O + Cl2 → HOCl + HCl (2.1)

NH3 + HOCl → NH2Cl + H2O (2.2)

NH2Cl + HOCl → NHCl2 + H2O (2.3)

NH2Cl + NHCl2 → N2↑+ 3HCl (2.4)

総括反応は式 2.2.5 のようになり,アンモニア態窒素の 7.6 倍の塩素が必要となる。

2NH3 + 3Cl2 → N2↑+ 6HCl (2.5)

本方法では,90%以上のアンモニア除去率が得られ,汚泥の副生成などがない。しかし,有

機物,COD,還元性物質が共存する場合には,塩素消費量が増大したり,トリハロメタンな

どが副生成したりすることがある。

塩素の代わりに,次亜塩素酸ソーダを使用した場合にも同様に式 2.2.6 のような反応となる。

2NH3 + 3NaClO → N2↑+ 6NaCl + 3H2O (2.6)

反応は,一般的に pH6-7 で行うが,塩素を使用した場合には HCl により pH が低下するため

pH 調製が必要である。

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第 2章

13

2.2.3 アンモニアストリッピング法

アンモニアイオン(NH4+)は水中で式 2.7 のようにアンモニア(NH3)と平衡関係を保ってい

る。

NH4+ + OH- → NH3 + H2O (2.7)

このため,空気と接触させることにより,アンモニアを空気中に放散(ストリッピング)さ

せて除去することができる。ここで pH と水温が高いほど右辺のアンモニア濃度が高まり,

効率良く除去することができる。

実際のプロセスでは,排水を消石灰や苛性ソーダにより,pH10-12 に調製した後,放散塔で

空気と向流接触させてアンモニアを除去する方法や,水蒸気を吹き込み水温を上げることに

より,同様に除去する方法が適用されている。

しかし,このまま大気へと放出すると二次公害を引き起こす可能性があるため,除去された

アンモニアを硫酸アンモニウムとして回収したり,式 2.8 の反応のように触媒酸化により窒

素ガスへ酸化分解したりするなどの対策をとる必要がある。

触媒 300-400ºC

4NH3+ + 3O2 → 2N2 + 6H2O (2.8)

2.2.4 触媒湿式酸化法

アンモニアを含む排水を 8kg・cm-2,160ºC に昇温し,触媒充填塔で亜硝酸,過酸化水素と 2

段階に反応させる窒素ガスまで酸化分解できる。反応式は式 2.9,2.10 に示すとおりである。

NH3+ + NO2

- → N2 + 2H2O (2.9)

2NH4+ + 3H2O2 → N2 + 6H2O + 2H

+ (2.10)

排水に亜硝酸を添加し,第 1塔で式 2.9 の反応によりアンモニアを酸化分解する。ここで亜

硝酸が残留すると窒素除去率が低下するため少なめに添加し,残留してくるアンモニアはさ

らに第 2塔で過酸化水素により酸化分解する。

式 2.8 の反応によるアンモニアの酸化分解は液相でも可能である。またこの方法は有機物の

分解も行えるため,COD の同時除去に適している。

0

2

4

6

8

10

12

14

0 5 10 15

Cl/NH3-N (重量比)

残留塩素濃度

(mg/

l)

不連続点

Cl/NH3-N (重量比)

この部分で主としてアンモニア

は窒素へ分解される

遊離残留塩素の増加 結合残留塩素の増加

NH2Cl + NHCl2

Figure 2.3 不連続点,塩素処理法による窒素除去

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第 2章

14

これらの触媒法の適用にあたっては,排水の種類によっては触媒の汚染を防ぐための前処理

が必要となる。

2.2.5 イオン交換法

アンモニアイオン,硝酸イオン,亜硝酸イオンはイオン交換樹脂によって除去できるが,

イオン濃度の高い排水では再生頻度が多くなり効率が悪い。しかし,天然ゼオライトは NH4+

については選択性が高いため,排水処理に適用することができる。再生は NaOH で pH を

11.5-12 程度に調節した食塩水を使用する。再生廃液にはアンモニアを高濃度に含むため,

さらに廃液の処理・処分が必要となる。

排水のアンモニア濃度に比例して設備が大型化するため,高濃度排水の処理には適さない。

2.2.6 電気分解法

窒素除去を行う上では,既存システムのほとんどが好気菌による硝化槽であり,排水成分

の硝酸態窒素が主であることから,硝酸イオン還元の触媒活性にすぐれた新規な電極材料と

電極構造の開発により,硝酸態窒素の高速脱窒処理が可能となる。この技術は,電極方式で

は困難であった低濃度の硝酸態窒素のみならず,アンモニア態窒素等の処理が可能であり,

窒素はほぼ 100%窒素ガスとして大気に放出されるため,環境に与える影響は少なく,有機

炭素源が無添加の脱窒が可能であり,現在開発中の技術である。この手法は,(a) 電気分解

を応用しているため,小型化が可能,(b) 有機源の管理・補給が不要となり,(c) 負荷変動

や温度変化による処理能力変動にも対応できるため,システムの維持管理が簡単という利点

を有している。さらに,BOD/N 比が 1 以下の原水に対して特に有効である。このため,生物

反応槽の後段に設け高い窒素除去率を確保するシステムや有機物がほとんどない産業形排

水に対しては特に有効である。

2.3 生物学的リン除去 6), 7)

2.3.1 嫌気/無酸素/好気法(Anaerobic/Anoxic/Oxic process:A2O 法)

本法は,リン・窒素それぞれの生物学的除去法を組み合わせた処理法で,活性汚泥微生物

によるリンの過剰摂取現象と,硝化・脱窒反応を利用するものである。嫌気的条件下で進行

するリンの放出と脱窒を別々の槽で行わせるところに特長がある。

嫌気槽(分子状酸素も結合型酸素もない状態)では,原水と返送汚泥が流入し,原水中の有

機物が汚泥微生物に摂取されるとともに,細胞内に蓄積されたポリリン酸がオルトリン酸と

して放出される。次の無酸素槽では硝化槽から硝化液が循環され,その中に硝酸,亜硝酸の

結合型酸素が呼吸に使われ脱窒が起こる。好気槽では,有機物の酸化,リンの摂取および窒

素の硝化が行われ,混合液の一部は無酸素槽へと循環される。流入水の BOD,特に溶解性 BOD

と窒素・リンの比(C/N 比)が大きい方が本法には有利である。本法の基本的な処理フロー

を Figure 2.4 に示す。生物反応槽は,嫌気槽,無酸素槽および好気槽から構成される。生

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第 2章

15

活排水を主とする標準的な都市下水であれば,脱窒のためのメチルアルコールや硝化のため

の水酸化ナトリウムの添加は必要ない。また,硝化液の循環は,ポンプを用いる他に,好気

槽の曝気に伴うエアリフトによる循環を利用することもできる。

2.3.2 嫌気/好気/無酸素法(Anaerobic/Oxic/Anoxic process:AOA 法)

本法は,リン・窒素それぞれの生物学的除去法を組み合わせた処理法で,活性汚泥微生物

によるリンの過剰摂取現象と,硝化・脱窒反応を利用するものである。嫌気的条件下で進行

するリンの放出と脱窒を別々の槽で行わせるところに特長がある。嫌気槽(分子状酸素も結

合型酸素もない状態)では,原水と返送汚泥が流入し,原水中の有機物が汚泥微生物に摂取

されるとともに,細胞内に蓄積されたポリリン酸がオルトリン酸として放出される。次の無

酸素槽では硝化槽から硝化液が循環され,その中に硝酸,亜硝酸の結合型酸素が呼吸に使わ

れ脱窒が起こる。好気槽では,有機物の酸化,リンの摂取および窒素の硝化が行われ,混合

液の一部は無酸素槽へと循環される。流入水の BOD,特に溶解性 BOD と窒素・リンの比(C/N

比)が大きい方が本法には有利である。

本法の基本的な処理フローを Figure 2.5 に示す。生物反応槽は,嫌気槽,無酸素槽およ

び好気槽から構成される。生活排水を主とする標準的な都市下水であれば,脱窒のためのメ

チルアルコールや硝化のための水酸化ナトリウムの添加は必要ない。また,硝化液の循環は,

ポンプを用いる他に,好気槽の曝気に伴うエアリフトによる循環を利用することもできる。

本法においては,同一の活性汚泥中に脱リン細菌,硝化細菌,脱窒細菌と生育条件の異なっ

た微生物が生存し,また,下記①-③に示すように,窒素とリンの除去条件には相反する面

もあるため,両者の処理機能をバランス良く発揮させ,常に高率の除去を維持させる運転管

理は非常に難しい。

① 嫌気槽でのリンの放出には返送汚泥からの結合型酸素の持ち込みは好ましくない。

② 嫌気槽で有機物を摂取しすぎると,無酸素槽での水素供与体が不足し,脱窒速度の

嫌気槽 好気槽 最終沈殿槽 処理水 原水

硝化液循環

返送汚泥 余剰汚泥

Figure2.4 A2O法(嫌気/無酸素/好気法)の処理フロー

無酸素槽

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第 2章

16

低下につながる。

③ 好気槽での窒素の硝化には,汚泥滞留時間(SRT)を長くとる必要があるが,リンの

除去にとっては,この条件はリン含有汚泥の引抜き量の減少をもたらし,さらに自

己酸化でのリンの放出も考えられ,リン除去率の低下の原因となる。

したがって,リン・窒素を効率良く除去するためには,季節変動に対応した,各処理槽の運

転条件の適正な維持管理が必要であり,そのためには,反応槽を細分化して各槽の利用法に

融通を持たせ,硝化液の循環先を複数にするなどの設計上の配慮が必要である。

標準的な生活排水の場合,リン除去率で 60-90%,窒素除去率で 50-70%,処理水の全窒素濃

度として 10 mg/l 以下,全リン濃度として 1 mg/l 以下が期待できる。しかし,前述のよう

に,生物学的にリンと窒素を除去する場合,除去効果を高める操作因子に相反する面がある

ので,リンの除去率が高い時は窒素の除去率が低く,逆に,リンの除去率が低い場合は窒素

の除去率が高く安定している傾向がある。また,リン除去を行うためには,特に汚泥の管理

が重要である。なお,処理水のリン濃度を安定して低く維持するためには,凝集剤の添加な

どの補完的な処理法との併用が有効である。

2.4 物理化学的リン除去

富栄養化防止対策として排水中のリンの除去が重要であることは周知の事実であり湖

沼・海域における窒素・リンすなわち栄養塩類に起因する富栄養化防止対策として平成 4年

4月からの湖沼水質保全特別措置法の第 2次計画に基づく規制強化、平成 5年 10 月 1 日から

の海域の環境基準、排水基準施工による規制強化が打ち出された。更に平成 5 年 12 月 6 日

の水源保全に係わる中央環境審議会の答申でも窒素・リン対策の強化の必要性が打ち出され

ている。このように、今後の規制の強化からもその必要性が増大すると考えられるが、この

ような規制強化を図る場合に各種排水に対する高度処理技術が開発されているかどうかは

きわめて重要である。これまで開発されたリン除去法は生物学的手法と物理化学的手法に大

別され、生物学的処理法はコストの面、BOD、窒素、リンの同時除去が可能であることなど

有望な処理法であるが、処理の安定性に欠ける面を持ち合わせており、今後の技術開発に期

嫌気槽 無酸素槽 最終沈殿槽 処理水 原水

返送汚泥 余剰汚泥

Figure 2.5 AOA法(嫌気/好気/無酸素法)の処理フロー

好気槽

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第 2章

17

待がもたれている。そこで、排水中からのリン除去には性能が安定している物理化学的手法、

特に凝集沈殿法に依存しているのが現状であり、リンの除去性能を保証しているほとんどの

排水処理装置も物理化学的処理法を採用している。しかし、コストの面、維持管理の面等か

ら物理化学的リン除去法にも欠点があり、その技術改善も必要と考えられている。

2.4.1 凝集沈殿法

現在最も一般的に用いられている手法であり、リン除去能が高く、信頼性も高いが、発生

汚泥量が多い、汚泥の濃縮性、脱水性が悪い、かつランニングコストが高い等の欠点もある。

凝集沈殿法によるリン除去は水に不溶性のリン酸化合物を生成することと同時に、これらが

凝集する際、他の成分も取り込みながら沈殿しやすいフロックを形成することを主要な過程

として成立する。本法は凝集剤の種類により「石灰添加法」と「金属塩添加法」、添加ポイ

ント別により 2次処理水等に凝集剤を添加する「凝集沈殿法」と生物反応槽に凝集剤を添加

する「凝集剤添加活性汚泥法」に分類できる。本法は汚泥発生量が多く、脱水機等が必要な

ため一般的に大・中規模な施設に適用されることが多い。

2.4.2 加圧浮上法

加圧浮上を用いてリンを除去するには、活性汚泥 2次処理水等に凝集剤を添加し、リンを

不溶性のフロックにした後、加圧浮上槽で浮上分離を行う。排水または処理水の一部を十分

な空気の存在下で空気がほとんど飽和状態になるまで加圧(約 2-5kg·cm-2)し、この加圧水

を大気圧に開放すると微細な気泡が多量に放出されるが、浮上分離槽で加圧水と処理水が混

合されることにより、この微細気泡によってフロックなどの懸濁粒子が浮上し、処理水との

分離が可能となる。

2.4.3 凝集剤添加活性汚泥法

凝集剤添加活性汚泥法は活性汚泥処理を行っている処理工程において,曝気槽またはその

前後に凝集剤として各種金属塩の注入を行い,リンと凝集剤の反応物を活性汚泥とともに沈

殿池で沈殿除去しようとするものである。凝集剤として石灰を使用するとpHの上昇を招き,

生物相に悪影響を及ぼすため金属塩が一般的に用いられる。

凝集剤とリンとの反応は凝集沈殿法と同様に次式(式 2.11, 2.12)で表される。

FeCl3 + PO43- → FePO4 + 3Cl

- (2.11)

Al2(SO4)3- + 2PO4

3- →2AlPO4 + 3SO42- (2.12)

2.4.4 晶析(接触)脱リン法

晶析脱リン法の原理は石灰凝集沈殿法と同じく正リン酸イオンがカルシウムイオンと難

溶性の塩(ヒドロキシアパタイト)を生成する反応に基づいているが,凝集沈殿法ではフロ

ックを形成させて沈降分離するのに対して,本法はヒドロキシアパタイトを種結晶表面に析

出させて除去を行うことを特徴としている。晶析法は接触脱リン法とも呼ばれ我が国では両

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第 2章

18

者の名称が用いられている。

5Ca2+ +4OH- + 3HPO42- → Ca5(OH)(PO4)

3 + 3H2O (2.13)

2.4.5 吸着法

活性アルミナはリン酸イオンに対して選択的なイオン交換能力を持っており,固定床に充

填して通水すると高い吸着力を示す。また,3 価の金属イオンを吸着させたキレート樹脂を

用いても同様にリン酸を選択的に吸着除去することができる。

2.4.6 鉄接触材リン除去法

鉄接触材を用いたリン除去技術は,曝気槽等の生物反応槽に鉄接触材を浸漬して曝気・撹

拌することによって、水中に鉄イオンが溶出するという鉄の腐蝕現象を利用し、排水中のリ

ン酸と鉄イオンを反応させ不溶性のリン酸鉄として汚泥と共に沈殿除去する方法である。鉄

の溶出は電気化学的腐蝕と生物学的腐蝕の 2つがあるといわれている。電気化学的腐蝕現象

では、溶存酸素を含んだ汚水が電解質溶液となり鉄材を電極とする酸素濃炎電池、または通

気差電池を形成し鉄は水中で電気化学的な腐蝕を起し鉄イオンを溶出する。溶出した鉄イオ

ンは酸化鉄、水酸化鉄、リン酸鉄等の化合物になるが、酸化鉄、水酸化鉄は鉄材表面に沈積・

付着して酸素の拡散を抑制し、腐蝕を防止する防蝕性の付着皮膜の役割を担うことから、リ

ン除去を行う場合には付着皮膜を形成させないようにする必要がある。

2.4.7 ストラバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム)回収法

ストラバイト回収法は排水中の窒素およびリンを有用な化学肥料であるリン酸マグネシウ

ムアンモニウム六水和物(ストラバイト)として回収する方法である。ストラバイトはオル

トリン酸イオン,アンモニウムイオンおよびマグネシウムイオンと反応する。その反応式を

式 2.14 に示す。

Mg2+ + NH4+ + HPO4

2- + OH-+6H2O → MgNH4PO4·6H2O + H2O (2.14)

ストラバイトの溶解度は pH が 5-7 以上に上昇するにつれて急激に減少し,ストラバイト結

晶が生成する。また、温度の影響も受け 25ºC までは増加し,それを境に低下する傾向であ

る。

2.4.8 アルミニウム電解法

本法は金属アルミニウムを強制的に電解することによって溶出するアルミニウムイオンと

排水中のリン酸イオンと反応、凝集分離させ、系外に取り出すことでリンを除去する方法で

ある。

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第 2章

19

References

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3) 千種薫,図説 微生物による水質管理(1996)産業用水調査会

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第 3章

20

第 3章 リン資源回収技術

3.1 排水からのリン資源回収の意義

下水道は高級処理,高度処理を実施するに当たり,リンの除去を行ってきた。その結果,

汚泥中に高濃度のリンが蓄積し,リン鉱石に匹敵する濃度にまでなってきた。一方,リン鉱

石の資源は有限で,安定的に良質なリン鉱石の供給ができるのは後数十年と言われている。

欧米諸国では,既に枯渇を予測して,国際会議などを開催し,戦略物質としてその確保に動

き出した 1)。日本も全量輸入に頼っており,今後の安定供給には不安がある。下水汚泥から

リンを供給するとなると,輸入リン鉱石の 10-20%にもなることから有望なマーケットとして

位置付けられている。また,持続可能な発展を目的とし,平成 12 年に制定された「循環型

社会形成推進基本法」,「改正廃棄物処理法」,「グリーン購入法」,平成 11 年に制定された「PFI

法」などと下水道においても循環型社会の構築のため,取り組みが強く要請されているとこ

ろである。

近年,水域や廃棄物として下水道から環境に排出されるリンは無視できない多さになって

きていることは確実である。特にリンは限られた地域にしか資源としては存在せず,日本は

全量輸入に頼っていることからしても,下水からのリンの回収は重要な意味を持っていると

考えられる。リン肥料の原料としてはリン鉱石が主に用いたれているが,我が国ではリン鉱

資源が乏しいため,全量(約 100 万トン/年,P2O5(五酸化リン)換算で約 35 万トン/年程度)

が輸入されている。地球規模では,リン鉱石は既知可採埋蔵量が約 340 億トンと推定され,

数字上世界の需要の 200 年以上は枯渇しない,または 90 年以上は問題ないと言われている

が(Table 3.1),この埋蔵量の品質は採掘の進歩により,不純物などが徐々に多くなり,良

質な資源は枯渇しつつあるのが現状である 2)。また,先進国の USA,ロシア,中国では需要

も多く,将来ともに安定した生産が確保される保証がないため,USA は,1998 年に石油と同

様の戦略物質として輸出を制限した。そこで,下水汚泥に含まれるリンを利用して肥料とす

れば,廃棄物として棄てられている下水汚泥のリサイクルができる上,資源枯渇問題に悩む

リン鉱石に代替資源とすることも可能になると考えられる。

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第 3章

21

3.2 リン資源回収技術 3)

下水汚泥は,下水中に含まれる汚濁物質と下水の生物処理で発生した余剰微生物で構成さ

れ,その量おおよそ 1人 1日 50g 程度である。この量が脱水汚泥として排出されると,含水

率にもよるが 80%の含水率で考えると 250ml 程度となる。

Figure 3.1 はその 50g の内訳である。C(炭素成分),O(酸素成分),H(水素成分),N(窒

素成分)で表される有機物成分が約 80%(70-90%)を占め,焼却した時に残る灰分(無機分)

が約 20%(10-30%)となる。汚泥コンポストは,この豊富な有機分を利用したものである。

有機分の比率は,合流式下水道の場合は低い傾向があり,家庭下水の比率が高い場合は高い

傾向があり, 90%を超えることもある。

Figure 3.2 は下水を焼却した時に残る灰分の組成である。その量は約 10g で主な成分と

してはケイ素(Si),リン(P),カルシウム(Ca),アルミニウム(Al),鉄(Fe)の酸化物

で約 90%以上を占めている場合が多い。この割合も合流式の場合はケイ素分が多くなり,汚

泥処理の添加物として石灰や塩化鉄が使用されるとその成分が増加する。下水汚泥灰分の場

合,タイルやレンガ,セメント資源化といった有効利用は,主にケイ素,カルシウム,アル

ミニウムを有効利用した製品であると言える。しかし,ここで注目したいのはリン成分であ

る。リン成分は通常の活性固形分で約 2%,灰分中に約 24%程度含まれている。タイル,レン

ガ,セメント資源化には有害な成分で少ないほど良いとされている。しかし,高度処理が進

むと汚泥中のリン濃度は上昇する傾向にある。高度処理汚泥では,灰分中のリン成分の濃度

は 30%を超えるところも出てきている。

Table 3.1 世界のリン鉱石の埋蔵量と寿命

国名 埋蔵量 A 経済埋蔵量生産量

(1985) 寿命 A 寿命 B

備考需要

伸率

モロッコ 20,000 6,900 20.7 80 60 5.1

USA 5,400 1,400 49.4 60 30 7.5

南ア共和国 2,600 2,600 2.4 110 110 3.5

ロシア 1,300 1,300 33 30 30 3.5

西サハラ 850 850 280 280 2.7

ヨルダン 510 120 6.1 20 10 18.2

オーストラリア 500 0.1

ブラジル 350 40 4.2

中国 210 210 12 10 10 11.5

その他 2,280 770 23.1

合計 34,000 14,000 151 220 90

(百万 t,Aは 100$/t,Bは 35$/t以下)

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第 3章

22

3.2.1 リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)法 4)-6)

MAP 法は,マグネシウムイオン,アンモニウムイオンおよびリン酸イオンが等モル(式 3.1)

で反応し,水に難溶性の MAP を形成する晶析リン法である。しかし,返流水中には MAP 昌析

反応に必要なアンモニウムイオンは多量に存在しているが,マグネシウムイオンが不足して

いるため,マグネシウムイオン源を供給する必要がある。マグネシウム源としては塩化マグ

ネシウム,水酸化マグネシウムなどが利用できるが,これら薬剤の高価なことが MAP 法の障

害となっている。

Mg2+ +NH4+ + HPO4

2- +OH- +6H2O → Mg(NH4)PO4·6H2O + H2O (3.1)

MAP の生成に関するpHとリン酸態リン濃度との相関関係を,Figure 3.3 に示す。

不安定領域においては,瞬時反応が起こり,MAP は微細結晶となるが,準安定領域におい

ては,昌析反応が起こり微細結晶は成長し,粒径の大きい MAP 粒子が生成する。なお,MAP

粒子は pH の他にアンモニアおよびマグネシウムの濃度によりその溶解度が変化する。

Figure 3.1 下水汚泥固形成分の組成 Figure 3.2 灰分の組成

SiO2 30%

P2O5 24% CaO 20%

Al2O3 15%

Fe2O3 2% S 2%

その他の重金属 7%

C 43%

O 26%

H 6%

N 5%

灰分 20%

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第 3章

23

本技術の特徴を以下に示す。

① リン回収率が高い。

② 生成物は化成肥料として登録可能。

く溶性リン酸(P2O5)28.0%,アンモニア態窒素(N)5.0%,酸化マグネシウム(MgO)

16.0%を含む緩効性肥料としての効果があり,砒素,水銀などの有害物質を含んでいな

いので,肥料障害の少ない化成肥料として高く評価され,「複合肥料の化成肥料」とし

て肥料登録可能である。

③ 生成物は粒状結晶で脱水設備が不要。

生成する MAP 粒子は,水切りするだけで含水率 30%以下にすることが可能で,MAP は吸

湿性がないので取り扱いが非常に容易である。

④ 低ランニングコスト

凝集脱リン法に比べて凝集剤の過剰添加が不要で,発生する汚泥量も少なく汚泥処理

費の低減が図れる。添加薬剤は安価なマグネシウムのみ。

3.2.2 吸着脱リン法 8)-28)

吸着法では,低濃度のリンを除去でき,汚泥の生成もほとんどない。また,除去したリン

は回収・再資源化可能であるため,高度処理・再資源化を目指した回収法として最も適して

いると考えられる。さらに,設置面積が他の方法より狭くてすみ,複雑な前処理が不要な上

A : 安定域

B : 準安定域

C : 不安定域

過飽和曲線

飽和曲線

リン酸態リン濃度

pH

高 低

Figure 3.3 リン酸態リン濃度と pHの関係

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第 3章

24

に維持・管理が比較的容易なため,合併処理浄化槽の後段処理への適用や発展途上国向けの

技術としても適している。本法は,また,小規模事業所の排水処理,小規模・高負荷の河川

水や農耕水などの処理にも道を拓く可能性がある。しかし,従来の吸着剤は吸着能力の割に

はコストが高いことや,脱離・再生方法が確立されていない場合が多いため,実用化の例は

少ない。

リン吸着能を有する吸着剤は,これまでに数多く報告されている。代表的な吸着剤を Table

3.2 に示す。ここで,特記なき場合,Qは平衡吸着量(mg-P/l),Ceは平衡濃度(mg-P/l)で

ある。また,括弧内の吸着等温式は,各文献のデータから算出したものである。下水の一時

処理水や小規模で高負荷の河川水などにおける平均的なリン濃度と考えられる 1 mg-P/l に

おける平衡吸着量 Qelは,吸着等温式より算出した値である。

吸着剤には,吸着容量に影響する因子がいくつか存在する。

3.2.2.1 pH の影響

一般に pH は吸着容量に大きな影響を及ぼすため,いずれの吸着剤についても pH の影響を

検討している。吸着法が有効と考えられる下水の高度処理や河川水の処理を考えた場合,そ

れらの pH は中性から弱アルカリ性であるため,吸着剤の最適 pH も中性から弱アルカリ性で

あることが望ましい。特に,大量の下水や河川水を pH3 以下に調整して処理することは現実

的ではなく,また,比較的小規模の合併処理浄化槽の処理水や事業所排水を処理する場合で

も望ましいことではない。硫酸アンモニウム添着活性アルミナ,パイロライト系吸着剤の最

適 pH は 6 および 7.5 であり,ほとんど pH 調整せずに効率的な処理が可能であると考えられ

る。しかし,その他の吸着剤は中性域で吸着量が大幅に減少するので,ほとんどpH調整が

不要な硫酸アルミニウムを添着活性アルミナ,パイロライト系吸着剤が適していると考えら

れる。なお,pH の影響は平衡リン濃度などにより異なる可能性があるため,詳細な検討が望

まれる。活性アルミナやジルコニウムのような金属酸化物のリン吸着反応は,主に表面水酸

基とのイオン交換によるものであり,反応式は一般的に式 2.3.2 のように表される。

-M-OH + H2PO4- ↔-M-H2PO4 + OH

- (3.2)

リン吸着に伴って OH-が放出されることから,アルカリ性領域において吸着容量が低下す

る実験結果を説明できる。また,アルカリ性側ではリン酸イオンの存在形態が変化して電荷

数が多くなることも吸着容量低下の原因の一つと考えられる。pH の影響を考察する際には,

吸着剤の溶解性との関係についても考慮する必要がある。例えば,塩基性炭酸イットリウム

では pH6 以下になると,イットリウムが溶出するため 7),通水時の pH に注意する必要があ

る。活性アルミナなどの金属酸化物も強酸,強アルカリには溶解するが,一般的な通水時の

pH では安定である。ジルコニウムフェライトは酸性水溶液でもアルカリ性水溶液でも溶解し

ないとされている。

3.2.2.2 共存物質の影響

リン吸着用に開発されている吸着剤の多くは,イオン交換反応によりリン酸態リンを吸着

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第 3章

25

すると考えられているため,下水や河川水中などに共存する様々なアニオンがリン吸着を妨

害すると考えられる。このため,下水や河川水中などに比較的高濃度で存在する Cl-, HCO3-,

NO3-, SO4

2-などの影響についての検討が吸着剤ごとに行われている(Table 3.2)。NO3-は脱窒

処理によりあらかじめ除去可能であり,SO42-は低濃度では影響が小さいのに対し,HCO3

-は除

去が困難であり,問題になる可能性がある。特に,HCO3-については,リン吸着処理の前に行

われる好気分解処理によりその濃度が上昇し,妨害の程度を大きくすると考えられる。この

ため,HCO3-の影響について詳細な検討が望まれる。ジルコニウムフェライトは合併処理浄化

槽処理水中に含まれる共存物質による栄起用がないと報告されており,リン酸イオンの選択

性が非常に高いと考えられる。

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第 3章

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Table 3.2 代表的な吸着脱リン剤

吸着剤 吸着等温式 濃度範囲

(mg-P/l) Qel

(mg-P/l) 最適 pH(-)

妨害物質 備考

水和酸化ジルコニウム 8) Qe = 64Ce1/4 0.2-100 64 3 なし pH3

ジルコニウムフェライト 9) Qe = 30Ce1/8.9 2-70 30 3

実排水に存在。ア

ニオン妨害なし。 pH3

水和酸化ジルコニウム-

活性炭複合体 10) Qe = 12Ce

1/14 0.03-15 12 4 不明 有機態リン

も吸着

塩基性炭酸イットリウム 7) Qe = 67Ce / (1

+ 0.51Ce) 40-90 44 2-5

pH7-11で SO42-,

NO3-, Br-, I-はな

し。pH6以下でSO4

2-が若干妨害。

硫酸アルミニウム添着活

性アルミナ 11), 12) Qe = 37Ce

1/25 2-60 37 5-6

硫酸アルミニウム未添着

活性アルミナ 11), 12) Qe = 20Ce

1/10 2-60 20 不明 不明

硫酸アルミニウム添着活

性アルミナ 13) Qe = 15Ce

1/5.8 0.1-10 15 不明 不明

活性アルミナ 14) Qe = 19Ce1/5.9 0.1-10 19 3 不明

活性アルミナ 15) Qe = 4.9Ce1/2.9 0.3-8 4.9 4.5 不明

活性アルミナ 16) Qe = 0.91Ce1/7.7 0.01-1 0.9 不明 不明

キレート樹脂系 17) 不明 1-10 24 不明 選択係数(HPO4

2- / Cl- = 30.7, HPO4

2- / SO4

2- = 21.5)

パイロライト系 18) Qe = 14Ce1/3.6 1-30 14 7.5 不明

ハイドロタルサイト系 19) Qe = 16Ce

1/4 / (1 + 0.28 Ce)

20-400 12 不明 NO3

-はなし。SO42-

は約 13%吸着量減少。

マグネシア系 20) Qe = 8.8Ce1/4.5 0.01-10 8.8 不明

HCO3-は大きく妨

タマリンドナット活性炭 21) Qe = 2.5e0.423Ce 5-8 3.2 不明 NaCl, NH4Cl,

Na2SO40.1mmol/l以下ならなし

ジルコニウム添着ゼオライ

ト 22) 不明 1-50 2 不明

実排水では吸着量

減少 NH4

+同時

除去可能 カチオン導入天然ゼオライ

ト 23) 不明 不明 不明 11-12 不明

鹿沼土 24) Qe = 1.5Ce1/4.3 1-70 1.5 不明 不明

NH4+同時

除去可能

ランタン含浸シリカゲル 25) Qe = 0.63Ce / (1 + 0.19 Ce)

2-130 0.53 5.5-7 不明

アルミニウムピラード 26) Qe =

0.067Ce1/1.5

300-600 0.067 2 不明

モンモリロナイト 26) Qe =

0.067Ce1/1.5

300-600 0.067 2 不明

軽石 27) Qe =

0.002Ce1/1.9

0.3-30 0.002 3 不明

スラグ 28) Qe =

0.002Ce1/1.1

不明 0.002 8 10%NaClでは 36%吸着量減少

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第 3章

27

3.2.3 ジルコニウムフェライト系吸着脱リン剤 29)-30)

吸着剤を用いたリン除去技術は,余剰汚泥の発生もほとんどなく,吸着させたリンは回

収・資源化が可能であることから,リン回収手法として非常に有効であると考えられる。本

研究では,リン酸態リンに対する吸着選択性が非常に高いジルコニウムフェライトを合成し,

球状に成型した吸着脱リン剤(日本エンバイロケミカルズ㈱製)を用いた。リン吸着能を有

する吸着脱リン剤には代表的なものとして,アルミナ系,ハイドロタルサイト系などがある

が,極低濃度までリン除去が可能で,吸着容量が大きく,さらに再生によって繰り返し使用

が可能であるという特徴を有していることから,ジルコニウムフェライト系吸着脱リン剤を

採用した。Table 3.3 に本吸着剤の主要物性を示す。

ジルコニウムフェライトは,ZrFe2(OH)8の組成式を持つ立方晶系の無機化合物である。ジ

ルコニウムフェライトのイオン交換作用は,組成式中にあるように表面に多数存在する水酸

基に由来し,その表面水酸基は,酸性溶液中ではアニオン交換体,アルカリ性溶液中ではカ

チオン交換体として作用する(Figure 3.4)。リン酸イオンの吸着の場合は,酸性溶液中で

リン酸イオンの捕捉(吸着)と,アルカリ性溶液中でのリン酸イオンの放出(脱離)が進行

する。Table 3.4 に示すように,各 pH におけるリン酸イオン吸着量は大きく異なり,この

pH による吸着量の差が吸着,脱離を可能としている。水酸化ナトリウム溶液中でリン酸を脱

離した後は,吸着脱リン剤を希硫酸などの酸性溶液中に浸漬させることで,リン酸を吸着可

能な状態に再生することが可能である。

Table 3.3 ジルコニウムフェライト系吸着脱リン剤の基本物性

項目 物性および規格値 試験法

主成分 ジルコニウムフェライト

外観 黒褐色・球状 目視

有効径 0.7 [mm] JIS K 1474

均等係数 1.6以下 [-] JIS K 1474

充填密度 1.27 [g/ml] JIS K 1474

粒度 90以上 [-] JIS K 1474

硬度 90以上 [-] JIS K 1474

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第 3章

28

このように本吸着剤は,リン酸の『吸着』→『脱離』→『再生』→『吸着』を繰り返し行う

ことが可能であり,その上,脱離させたリン酸イオンをリン酸塩として回収し,資源として

再利用することが可能である。俣木らによる研究では,フロイントリッヒの吸着等温式を導

き出した。

pH3 の時 Qe=67.9Ce(1/4.50) (3.3)

pH7 の時 Qe=36.6Ce(1/4.50) (3.4)

(Qe:吸着量 [mg],C:定数)

また,合成排水(リン濃度 4mg-P/l)を用いたカラム通水による吸着実験より,本吸着剤

Table 3.4 ジルコニウムフェライトのリン酸イオン吸着量と pH との関係

水溶液 pH [-] リン吸着量 [mg-P/g-resin]

1 22

2 33

3 34

4 33

5 27

6 21

8 16

13 3

備考) 実験条件は下記のとおり

・ 供試リン酸溶液濃度:163mg-P/l

・ 吸着時間:24hr

・ 温度:25ºC

・ 平行濃度:3mg-P/l

Regeneration

Acidum

OH

OH

H2PO4-

OH2+

OH2+

H2PO4-

H2O

H3PO4

OH-

H2OOH-

H3PO4

O-

O-

Alkalies

Adsorption

P recovery

Desorption

Acidum

Regeneration

Acidum

OH

OH

OH

OH

H2PO4-

OH2+

OH2+

H2PO4-

H2O

H3PO4

OH-

H2OOH-

H3PO4

O-

O-

Alkalies

Adsorption

P recovery

Desorption

Acidum

Figure 3.4 リン酸イオン吸着・脱離機構

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第 3章

29

は,処理水リン濃度 4mg-P/l に達するまでに,通水速度 SV (Space Velocity:空塔速度)2/hr

の時で 10.3g-P/l-resin,SV4/hr の時で 9.87g-P/l-resin の吸着が確認された。また,俣木

らは,吸着脱リン装置の前段の浄化槽からの,硝化不十分,脱窒不十分による,アンモニア

態窒素,硝酸態窒素の流入を想定し,これらのイオン共存下でのリン吸着について検討を行

っている。その結果,ジルコニウムフェライト系吸着脱リン剤は,硝酸イオン,アンモニア

イオンの影響を受けずに高いリン吸着能を維持できることが確認された。これらのことから,

生活排水中の有機物および窒素成分を浄化槽により除去した処理水に対して,本吸着剤を適

用することが可能であることがわかった。

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第 3章

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第 3章

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第 4章

32

第 4章 リン蓄積細菌

4.1 生物学的リン除去の仕組み

一般に活性汚泥の乾燥重量当たりのリン含有率は約 1-2%程度であり,このような活性汚泥

では都市排水中に含まれるリンの約 30%程度しか除去できないといわれている。活性汚泥法

による脱リンは細菌のポリリン酸蓄積能力を利用している。大変面白いことに活性汚泥法に

よる脱リン効率は,活性汚泥を嫌気条件及び好気条件に交互に繰り返すことによって,向上

することが知られている。しかも,嫌気条件下において活性汚泥は排水中にリン酸(PO43-)

を放出し,好気条件下で排水中からリン酸を取り込む。好気条件下で活性汚泥が取り込むリ

ン酸量が,嫌気条件で放出するリン酸量を上回ることにより,結果的にリンが排水中から除

去される。このときの物質変化を Figure 4.1 に示す。一見すると,嫌気条件下でのリン酸

放出は無駄のようであるが,この工程を省略すると活性汚泥のリン除去効率は顕著に低下し

てしまう。

この性質を利用した多くの生物学的リン除去プロセスが実用化されており,その代表的な

ものが嫌気好気活性汚泥法である。しかし,複雑な微生物群集からなる活性汚泥の脱リン機

構はまだよく分かっておらず,安定して高い脱リン効率を維持することは難しく,また一度

脱リン効率が低下すると回復させるのに時間を要するなど多くの問題が残されている。嫌気

好気活性汚泥法による脱リン機構については,次のような経験的に現象を上手く説明する面

白い仮説が作られている。まず,活性汚泥を嫌気条件にすると,排水中の有機物を通性嫌気

性菌が有機酸に変換する。次に,ポリリン酸を蓄積する細菌がポリリン酸をエネルギー源と

して,有機酸を体内に取り込み,PHA(ポリヒドロキシアルカノエイト)などのエネルギー

貯蔵物質を合成する。PHA などを合成するためのエネルギー源として使われたポリリン酸は

好気工程 嫌気工程

TOC PO4

3-

微生物内 PHA

Figure 4.1 嫌気-好気法の物質濃度変化

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第 4章

33

リン酸に分解され,菌体内で過剰となったリン酸が菌体外に放出される。好気性条件下にな

ると,ポリリン酸を蓄積する細菌は菌体内に蓄えた PHA などのエネルギー貯蔵物質を酸化し

て,菌体外からリン酸を取り込んでポリリン酸を合成する(Figure 4.2)。活性汚泥を交互

に嫌気条件と好気条件下におき続けると,排水中の有機物を有効に利用できるポリリン酸蓄

積菌が優先種となり,結果的に活性汚泥の脱リン能力が向上するという仮説である。一般の

好気性従属栄養細菌や脱窒菌は,電子受容体(酸素や硝酸)のない条件下では有機物の利用

に必要なエネルギーを得られないためにポリリン酸蓄積菌との競合に負けてしまう。このよ

うな嫌気好気といった生物学的選択圧により系内にポリリン酸蓄積菌が優占化すれば,その

リン含有率が高いのでこれを余剰汚泥として引き抜くことにより高率のリン除去が達成さ

れる。しかし,残念ながら,活性汚泥が複雑な微生物群集から成り立っているために,この

仮説を証明することは容易でない。

以上のような条件を満たす嫌気好気法の変法は数多く存在し,その代表的なものを Figure

4.3-4.5 に示す。

グリコーゲン

有機物

リン酸

ポリリン酸

PHA

グリコーゲン グリコーゲン

PHA

グリコーゲン

PHA

ポリリン酸

CO2

リン酸

好気条件

Figure 4.2 リン蓄積細菌の代謝機構

還元力

エネルギー エネルギー

嫌気条件

Figure 4.3 嫌気好気法

原水 好気槽嫌気槽

処理水 沈殿工程

返送汚泥

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第 4章

34

4.2 リン蓄積細菌の代謝機構 1)-5)

4.1 でも述べたように,嫌気好気法でリン蓄積細菌(PAOs)が優占する理由は,嫌気条件下

において増殖制限基質である有機物をほかの微生物にさきがけて摂取できるからである。そ

のため,嫌気的有機物摂取の機構解明はリン蓄積細菌が優占化するメカニズムの本質を明ら

かにすることにつながる。そういった観点から,リン蓄積細菌に摂取された有機物の代謝に

ついてさまざまな研究者により研究がなされてきた。有機物の摂取には第一にエネルギーが

必要である。このエネルギーは高エネルギー化合物であるポリリン酸を加水分解により得て

いる。また,嫌気工程で摂取された有機物がポリヒドロキシ酪酸(PHB)として汚泥内に蓄

えられることは染色試験によりわかった。またさらに,有機物の蓄積形態は PHB に限らず,

その類似ポリマーを含むポリヒドロキシアルカノエイト(PHA)と呼ばれる一群の化合物で

あること 6),また,嫌気条件下で PHA が合成されるときには汚泥内にあらかじめ蓄積されて

いたグリコーゲンというポリマーが消費されることが明らかとなった 1), 2)。

Figure 4.2 に示したように,嫌気工程では,汚泥からのリン放出・汚泥内への有機物(TOC)

の摂取・PHA の蓄積に加えて汚泥内のグリコーゲンの消費が観察され,好気工程では,PHA の

消費・リンの摂取とともにグリコーゲンの蓄積がみられる。PHA は非常に還元的な化合物で

あり,その生成には,基質となる有機物の種類にもよるが一般に還元力が必要である。この

還元力(NADH2)はあらかじめ好気工程において細胞内に蓄積しておいたグリコーゲンを嫌

Figure 4.5 UCT(University of Cape Town)プロセス

原水 好気槽 嫌気槽

処理水 無酸素槽

硝化液循環

沈殿工程

返送汚泥

Figure 4.4 嫌気無酸素好気(A2O)法

原水 好気槽嫌気槽

処理水 無酸素槽

硝化液循環

沈殿工程

返送汚泥

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第 4章

35

気的に分解し,その一部を炭酸ガスに酸化することにより得ていると説明できる。以上のよ

うに,嫌気工程において,炭素源を取込んで,PHA を合成,貯蔵する時,合成に必要なエネ

ルギーはポリリン酸の溶解,還元力はグリコーゲンの糖代謝によって供給される。しかし,

この還元力の供給においては,化学量論的に電子バランスが合わないことから,還元力の供

給において TCA サイクルの役割が考えられており,そのサイクルに働くいくつかの酵素の分

析に基づいてPHA合成に必要な還元力の一部がTCAサイクルから供給できていると言われて

いる。この還元力の供給はグリコーゲンから約 70%,TCA サイクルから約 30%であるとの

報告もある。実際の排水処理プロセスは質的にも量的にもダイナミックなプロセスであり,

流入水中の有機物は質も量も刻々と変化する。リン蓄積細菌がこのような変化に対応して嫌

気工程において他の微生物より先に有機物を摂取できるように準備しておかなくてはいけ

ない。つまり,有機基質を PHA に変換して蓄積するのに要する還元力の量が種類によって異

なるので,状況に応じてその還元力を供給するための機能をもっていなくてはならない。グ

リコーゲンを嫌気的に炭酸ガスに分解するような代謝はそのような機能を果たしている。

“リン蓄積細菌はグリコーゲンによる細胞内酸化還元バランス調節機構を利用して各種の

有機基質を嫌気的に摂取し PHA を蓄積する”と考えることで,嫌気工程での実際の起こる現

象のかなりの部分を説明できる。しかし,これ以外の機構も存在するようで,ある種のアミ

ノ酸や一部の有機酸の嫌気的摂取はこの考え方では説明できない。よって,さらなる検討が

必要である。

一方,好気工程での代謝は次のように説明される。嫌気工程においてリン蓄積細菌により

有機物がほぼ完全に摂取されてしまうので,好気工程においては上澄みには有機物はほとん

ど残っていない。したがって,好気工程では,リン蓄積細菌は細胞内に蓄積した PHA を唯一

の炭素源・エネルギー源として利用しながら増殖する。このとき,次に嫌気工程に返送され

た時にすぐに有機物の摂取が可能なためにはポリリン酸およびグリコーゲンのレベルを好

気工程のうちに高めておかなくてはならない。すなわち,好気工程での代謝反応では,PHA

の一部を呼吸反応により炭酸ガスに分解しエネルギーを得るとともに,そのエネルギーを①

ポリリン酸合成,②グリコーゲン合成,③増殖に振り分けなくてはならない。また,PHA の

残りの部分は炭素源として,①菌体細胞そのもの,②グリコーゲンの合成のために使われる。

PHA として蓄えられた炭素源の好気工程での各用途への振り分けの制限機構は,安定なリン

除去という工学的な面から見ても必要な情報であり,今後明らかにしていくべき課題の一つ

である。

以上の代謝の全体像において,特に注目すべき点は,ポリリン酸・グリコーゲン・PHA と

いう 3種類の蓄積物質が嫌気,好気の繰り返しの中でそれらがすべて合成と分解を繰り返し

ていることである。これらの蓄積物質の合成には大量のエネルギーが必要なので,合成と分

解の繰り返しはエネルギーの大きな浪費につながる。つまり,単にエネルギー効率的な視点

からは,リン蓄積細菌は非常に無駄の多い代謝を行っていると言える。しかし,このような

代謝は,嫌気工程で他の微生物に先んじて有機物を摂取することで有機基質をめぐっての他

の微生物との競合に打ち勝つという目的のためには必須である。

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第 4章

36

4.3 リン蓄積細菌の種類 7)-9)

水系の富栄養化が問題となっている現在,標準活性汚泥の前段に嫌気プロセスを設けた嫌

気-好気法による生物学的リン除去プロセスは運転法に関する経験的なノウハウも蓄積し,

実用段階に入っている。しかし,多くの研究者の長年にわたる研究にもかかわらず,実際の

系でポリリン酸を蓄積し,リン除去を担っている微生物はいまだ単離されておらず,いわゆ

るリン蓄積細菌は不明のままである。生物学的リン除去プロセスの全体像は,個々の微生物

の代謝を解明していくのではなく,汚泥全体の代謝として取り扱うことで,一応説明されて

いる,というのが現状である。このため,しばしば報告されている,リン除去能の突然の消

失などといった現象は,今までの経験的知見だけでは説明しきれない問題として残っている。

より安定した運転法を確立するためには,実際の系で働いているリン蓄積細菌を明らかにす

ることは大きな課題である。

4.4 生物学的リン除去プロセスにおける微生物群集構造解析

1990 年代以降の分子生物学的解析技術の発展により,微生物の遺伝情報に基づく生態学的

解析が行われるようになり,PAOs に対しても,その遺伝情報に基づいた解析が行われるよう

になった。ここでは,1990 年代以前の培養に依存したポリリン酸蓄積細菌の特定と,微生物

内の遺伝子解析ツールである Polymerase chain reaction(PCR)法,および特定微生物を検

出する Fluorescence in situ hybridization(FISH)法を中心にこれまでになされてきた

EBPR の微生物群集構造解析の流れをまとめた。

4.4.1 古典微生物学的手法によるリン蓄積細菌の特定

これまで,リン蓄積細菌を明らかにするために,培養法が多く用いられてきた。1975 年

Fuhs ら 10)により Acinetobacter 属の細菌が単離され,以後この属について盛んに研究され

た。Nakamura ら 11)は,リン取り込み放出活性を持つリン蓄積細菌,Microlunatus

phosphovorus を単離した。そのほか,多くの細菌が単離されたが,いずれの単離株も,生

物学的リン除去を担うリン蓄積細菌が持つ特徴をすべて満たしたものはなかった。その特徴

とは,嫌気状態における酢酸の取り込みとリンの放出,好気状態におけるポリリン酸の蓄積

である。Nakamura ら 11)の M. phosphovorus は,唯一実際の汚泥と同じようなリン放出・取

り込み活性を示したが,生物学的リン除去プロセスでよく用いられる酢酸の利用性がほとん

どなかった。また,沈降性が低く,沈殿地での固液分離が困難であった。

4.4.2 培養を伴わない生物学的リン除去プロセスの群集構造解析

近年になって,分子生物学や化学分類法の発展により,新しい群集解析手法が使用可能と

なった。これらの手法を用いて,新たな研究がおこなわれてきている。Wagner ら 12)は,

Acinetobacter 属に特異的なプローブを設計して,活性汚泥に適用し,Acinetobacter の寄

与は大きくないことを示した。また,グラム陽性菌高 GC 群が多量に存在し,ポリリン酸顆

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第 4章

37

粒を持っていたことから,グラム陽性菌高 GC 群がリン除去を担っている可能性を示唆した。

Kampfer ら 13)も,Wagner 同様,グラム陽性菌高 GC 群がリン除去を担っている可能性を示唆

している。Christensson ら 14)は,酢酸を主要な炭素源とする人工基質を与えたラボスケー

ルのリアクターを対象として,PCR クローニング法を行い,51 クローンのうち 31%のクロ

ーンがグラム陽性菌高 GC 群であるという結果を得た。

また,Kawaharasaki ら 15)は,M. Phosphovorus に特異的なプローブを作成して,DAPI

(4’,6-diamidino-2-phenylindol)によるポリリン酸染色との 2 重染色を行い,M.

Phosphovorus は,DAPI で染まったポリリン酸を含有する細菌のうち,9%くらいしかないこ

とを示した。さらに,Kawaharasaki らは,グループ特異プローブと DAPI で 2 重染色行い,

DAPI で染まるもののなかには,グラム陽性菌高 GC 群とα-Proteobacteria 群が多かったと

いう報告もしている。15)

一方,Bond らは,生下水を基質として馴養した嫌気好気汚泥を対象に PCR クローニング

法をおこない,リン除去能の高い汚泥からは,リン除去能が低い汚泥からに比べて,

Rhodocyclus が多く検出されるという結果を得た。16) さらに,Hesselmann ら 17),Crocetti

ら 8)は,酢酸を主要な炭素源としたリアクターから,非常に高い割合で Rhodocyclus 属に近

縁なグループを検出した。これらのグループは,Rhodocyclus 属に近縁だが,光合成能がな

いので,Hesselmann らは新属を提案している。17)(Rhodocyclus 属とは,光合成細菌として

単離,命名された属である。)

また,Mudaly ら 9)は,EBPR の嫌気・無酸素・好気槽において,FISH(Fluorescence in situ

Hybridization)法を適用し,β-Proteobacteria 群 22%,α-Proteobacteria 群 19%,

γ-Proteobacteria 群 17%,グラム陽性菌高 GC 群 11%,Cytophaga-Flavobacterium 8%,

Acinetobacter spp. 9%以下という結果を得た。β-Proteobacteria 群は汚泥全体の 64%と

優占化したが,DAPI によるポリリン酸染色により大量のポリリン酸を蓄積していないよう

であった。それに対して,α-Proteobacteria 群の 85%までが大量のポリリン酸を蓄積して

いると推測された。9)

以上のように,さまざまな結果がでてきているが,これらの結果を統一的に説明する解釈

はいまだにない。リン蓄積細菌という,ユニークな微生物群が存在するのではなく,複数の

系統的に多様な微生物群がポリリン酸蓄積能を有している可能性も考えられる。よって,今

後,様々な系において群集を解析していく必要がある。

4.4.3 リン蓄積細菌の競合微生物(グリコーゲン蓄積細菌)

EBPR においては,ラボスケールにおいても実排水処理プロセスにおいても偶発的にリン除

去能が悪化することが報告されている。18), 19) この原因として着目されたのが流入する有機

炭素源の基質である。基質にグルコースが存在する場合においては,処理が悪化することが

確認されている。また,処理悪化時には,”G-bacteria”と称される微生物が存在すること

が報告されている(なお,”G-bacteria”はとは 4分子上を形成していたり,クラスターを

形成していたりするという形態学的特徴から命名されている)。20), 21) また,4分子上のクラ

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第 4章

38

スターを形成する”G-bacteria”は TFO(Tetra-forming organisms)と称されている。21)

Cech and Hartman はグルコースを炭素源として用い,リン除去能が悪化した際

に”G-bacteria”が優占化することを報告した。22), 23) 彼らは,ある運転条件においては嫌

気工程において”G-bacteria”が PAOs よりも生態学的に有利になるという仮説を立てた。

つまり,”G-bacteria”は PAOs よりもグルコースの利用性に優れ,グルコースから PHA を

生成し,続く好気工程においてグリコーゲンを生成すると考えている。さら

に,”G-bacteria”はポリリン酸を蓄積しないことから,EBPR は段階的に崩壊することにな

る。同様の検討が Liu ら 24)によっても行われており,同様の結果に至っている。グリコーゲ

ンおよび他の糖質をリンの放出を行わずして獲得でき,さらに,基質資化のエネルギー源と

してポリリン酸を利用しないことが報告されている。さらに,好気工程においてグリコーゲ

ンを蓄積することは生態学的観点からグリコーゲン蓄積細菌(Glycogen-accumulating

organisms, GAOs)と称されている。GAOs が PAOs と異なる生態をしていることから,系統学

的分類において PAOs と異なることが考えられる。さらに,PAOs および GAOs との基質の競合

などを詳細に解明し,急激な処理悪化メカニズムを詳細に解明する上では,分子生物学的手

法を用いた解析が非常に有効である。

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第 4章

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17) Hesselmann, RPX, Werlen, C, Hahn, D, van der Meer, JR and Zehnder, AJB. Enrichment

phylogenetic analysis and detection of a bacterium that performs enhanced biological phosphate

removal in activated sludge. Syst Appl Microbiol 1999;22:454-465.

18) Jeon, CO, Lee, DS and Park, JM. Enhanced biological phosphorus removal in an

anaerobic-aerobic sequencing batch reactor: characteristics of carbon metabolism. Water Environ

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19) Jeon, CO, Lee, DS, Lee, MW and Park, JM. Enhanced biological phosphorus removal in an

anaerobic-aerobic sequencing batch reactor. Water Environ Res 2001;73:301-306.

20) Jeon, CO and Park, JM. Enhanced biological phosphorus removal in a sequencing batch reactor

fed with glucose as a sole carbon source. Water Res 2000;34:2160-2170.

21) Tsai, CS and Liu, WT. Phylogenetic and physiological diversity of tetrad-forming organisms in

deteriorated biological phosphorus removal system. Water Sci Technol 2002;46:179-184.

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23) Cech, JS and Hartman, P. Competition between polyphosphate and polysaccharide accumulating

bacteria in enhanced biological phosphate removal systems. Water Res 1993;27:1219-1225.

24) Liu, WT, Nakamura, K, Matsuo, T and Mino, T. Internal energy-based competition between

polyphosphate- and glycogen-accumulating bacteria in biological phosphorus removal

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第 5章

41

第 5章 脱窒性リン蓄積細菌

嫌気好気法ではリン蓄積細菌が優占してくるため,リン蓄積細菌の呼吸における電子受容

体は酸素であることは知られていた。しかしながら,ここ数年の研究で硝酸態結合酸素を利

用してリンを蓄積する,つまり脱窒能のあるリン蓄積細菌(脱窒性リン蓄積細菌)が存在す

るということが分かってきた。また,嫌気/無酸素(分子状の酸素が存在しない)条件にお

ける物質収支から,リン取り込み時の電子受容体として硝酸態結合酸素を用いた場合,酸素

を用いた場合に比べて,汚泥生成量が 7割程度であるという報告もある。このことから,脱

窒性リン蓄積細菌を用いた窒素・リンの処理は,リン蓄積細菌と脱窒細菌を用いた処理に比

べて,必要な有機炭素源が少なくなるだけでなく,余剰汚泥発生量も少なくなると考えられ

ている。このように,脱窒性リン蓄積細菌は上記に述べたメリットから有用であると考えら

れている一方,一般的なリン蓄積細菌と同様,硝化細菌や脱窒細菌に比べて安定性が低く,

一度活性を失うと回復させるのが難しいと言われている。また単離・培養が困難な細菌と言

われており,詳しい性質・種類は明らかになっていない部分が多い。そこで,このような脱

窒性リン蓄積菌に関する研究を次にいくつか挙げる。

5.1 脱窒性リン蓄積細菌の特徴

5.1.1 脱窒性リン蓄積細菌の優占率 1)

リン蓄積細菌および脱窒性リン蓄積細菌がどの位のリン除去能を持ち,どの程度優占化す

るのかについて研究が行われた。1)この研究は嫌気/無酸素工程/好気工程でリンの除去を

行っている下水処理場の活性汚泥について,次のような回分実験が行われた。まず,汚泥を

3つのリアクターに分け,等量の酢酸と 5 mg/l の PO4-P (KH2PO4として)を加え,嫌気状態と

した。その後,3つのリアクターをそれぞれ嫌気/好気: (R1),嫌気/無酸素工程/好気: (R2),

嫌気/無酸素工程: (R3)条件にして,そのリン濃度の変化とリン蓄積細菌がリンを取り込む

ためのエネルギー源となる物質である PHA の量を測定した (Figures 5.1, 5.2)。その結果

では,R1 の嫌気/好気の条件がリンの取り込みが一番大きくなり,R3 の嫌気/無酸素の条

件で一番小さくなった。PHA も同様に R1 の消費量が一番多く,R3 が一番小さくなった。こ

の結果をもとに一般のリン蓄積細菌と脱窒性リン蓄積細菌の存在比をリン取り込み速度か

ら計算すると,R1 と R3 の結果を比較したものではリン蓄積菌が 45%,脱窒性リン蓄積菌が

55%であると報告している。また R2 をもとに計算したものではリン蓄積細菌が 42%,脱窒性

リン蓄積細菌が 58%であると報告している。1)

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第 5章

42

5.1.2 脱窒性リン蓄積細菌の脱窒機能 2)

脱窒性リン蓄積菌の脱窒機能について,硝酸濃度の違いによる脱窒速度の変化,亜硝酸濃

度の違いによる脱窒速度の変化,硝酸と亜硝酸が混在するときの脱窒速度の変化,汚泥中の

リン蓄積菌と脱窒性リン蓄積菌の構成比について検討が行われている。

5.1.2.1 脱窒性リン蓄積細菌の硝酸脱窒能

まず,リン蓄積菌のリン蓄積能において電子受容体として硝酸性窒素の濃度の違いがリン蓄

積および脱窒に及ぼす影響を調べるために次のような実験がおこなわれた。

汚泥に模擬排水を加え,嫌気工程を 2時間おく。嫌気工程終了後,汚泥を 3つに分け電子

受容体として硝酸性窒素をそれぞれ 5,15,25 mg-N/l になるように加える。リン濃度変化,

硝酸濃度変化を経時的に測定する。

Table 5.1 に示したように硝酸性窒素の濃度が高いほどリンの取り込みが増えるが,硝酸

性窒素の濃度が低い場合,リンの取り込みがほとんど起こらないことが分かった。これはリ

ン蓄積菌が無酸素条件での反応初期にリンの取り込みより呼吸に硝酸性窒素を使ったため

と思われる。また,硝酸性窒素の初期濃度が低い場合,リンの取り込みがほとんど行われず,

硝酸性窒素の脱窒が終わった後に再びリンの放出が起こってしまうことが分かった。本実験

のように無酸素あるいは嫌気性条件下で有機炭素源の摂取を伴わないリンの放出の原因に

ついては,詳しく知られていないが,pH の影響だと言われている。培養過程で観察された

pH 変化によると嫌気性条件から反応が進むに連れて pH が上がり続き最終的に pH が約 8.2

になった。このリンの放出は高い pH 条件下で,細胞質(Cytoplasm)の pH を維持するために

細胞内のポリリン酸を加水分解して H2PO4-を生産し,pH の調整していることに起因する。

Figure 5.1 リン濃度の経時変化 1) Figure 5.2 PHAの経時変化 1)

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第 5章

43

5.1.2.2 脱窒性リン蓄積細菌の亜硝酸脱窒能 2)

リン蓄積菌のリン蓄積能において電子受容体として亜硝酸性窒素を用いることができるの

か,またその濃度の違いがリン蓄積および脱窒に及ぼす影響を調べるために上と同様の実験

が行われている。

硝酸性窒素のように亜硝酸性窒素も電子受容体として用いられることが分かった。また,

Table 5.2 に示したように硝酸性窒素と比べてリンの取り込みが 0.02 P-mol/(N-mol・

g-MLSS)ほど低いことが分かった。しかしながら,今までは無酸素条件下で亜硝酸性窒素が

6-7 mg-N/l 以上存在する場合,リン蓄積細菌の PHA の代謝作用に阻害が起こり,リンの取り

込みが止まってしまうという報告がある 3)にもかかわらず,本実験で亜硝酸性窒素による阻

害は見られなかった。電子受容体としての亜硝酸性窒素は,無酸素条件下でリンの取り込み

において阻害を与えないと思われる。ただ,亜硝酸性窒素による阻害は,生物学的栄養塩除

去プロセスにおいて汚泥のリン蓄積率,汚泥滞留時間(SRT),水理学的滞留時間(HRT),有

機物・リン比(C/P)などの運転条件により現れるのではないかと思われる。また,一般的な

生物学的栄養塩除去プロセスにおいては,無酸素条件で亜硝酸性窒素にされされることがほ

とんどないので,亜硝酸性窒素に対する順応にも影響があると思われる。したがって,硝酸

性窒素と亜硝酸性窒素によるリンの取り込みにおいて汚泥条件がリンの取り込みと脱窒に

及ぼす影響に関しても考慮しなければならないと思われる。

Table 5.1 添加 NO3--N の違いによるリン取り込み速度の比較 2)

NO3-N

[mg/l]

P-uptake

[P-mol/(N-mol・g-MLSS)]

5 0.060

15 0.137

25 0.157

Table 5.2 硝酸・亜硝酸濃度によるリン取り込み速度の比較

窒素濃度

[mg-N/l]

P-uptake

[P-mol/(N-mol・g-MLSS)]

10 (NO2-N) 0.11

50 (NO2-N) 0.08

50 (NO3-N) 0.10

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第 5章

44

5.1.2.3 脱窒性リン蓄積細菌の硝酸・亜硝酸選択性 2)

電子受容体として硝酸・亜硝酸の両方が存在する際にどちらの電子受容体を用いてリン取

り込みが起こるのかについての検討が以下のように行われている。

まず,汚泥に模擬排水を加え,嫌気工程を 2時間おく。嫌気工程終了後,汚泥に電子受容体

として亜硝酸性窒素を 25 mg-N/l,硝酸性窒素を 25 mg-N/l になるように加える。そして,

リン濃度変化,硝酸濃度変化,亜硝酸濃度変化を経時的に測定する。その結果,無酸素条件

が始まった時から硝酸性窒素の脱窒と共にリンの取り込みが起こり,亜硝酸性窒素が蓄積し

た。また,脱窒により硝酸性酸素が無くなった後,亜硝酸性窒素が用いられた。したがって,

硝酸性窒素および亜硝酸性窒素の両方の電子受容体が存在する際に硝酸性窒素が優先的に

用いられ,硝酸が存在しない場合のみ亜硝酸性窒素も用いられることが分かった。

以上のことををまとめると,それぞれの電子受容体(亜硝酸態結合酸素と硝酸態結合酸素)

の存在下で脱窒性リン蓄積細菌の基礎的な生理学的性質についての一連の結果により,これ

までの研究では,電子受容体として亜硝酸態結合酸素を利用してリンを取込むことができな

いと知られていたが,電子受容体の種類に関係なく脱窒とリンの取り込みができることが新

たに明らかにされている。硝酸態結合酸素の場合,初期の電子受容体負荷が高いほど,また

菌体濃度が低いほど,窒素あたりのリンの取り込み量が増加することが明らかになっている。

4) これに対して,亜硝酸態結合酸素の場合,硝酸態結合酸素と比べて,リンの取り込みの効

率が低く,さらに,初期の電子受容体負荷が高いほどリンの取り込みに阻害を与えることも

同時に明らかになっている。4) この結果は,嫌気条件下で菌体内に蓄積する不溶性高分子物

質の量と関係があることがわかった。すなわち,硝酸態結合酸素の場合,リンの取り込み量

あたり,利用された PHB は,負荷が高いほど少なかったことから,硝酸態結合酸素の負荷が

高いほど,効率よくリンの取り込みができることを示唆している。

5.1.2.4 電子受容体と電子供与体が同時に存在する条件での生理学的性質 5), 6)

電子受容体(硝酸態結合酸素と分子状酸素)と電子供与体(酢酸)が同時に存在する条件

下での脱窒性リン蓄積細菌の生理学的性質に関する検討がAhnらによってまとめられている。

5), 6) 硝酸態結合酸素と酢酸が同時に存在する際,脱窒量が増加するほど酢酸の取り込み量が

増加し,リンの放出と細胞内の PHB も増加することがわかった。さらに,PHB を合成するの

に必要な還元力の供給源であるグリコーゲンの分解量も減少することが報告された。これま

で,硝酸態結合酸素が存在する際に,脱窒性リン蓄積細菌はクエン酸回路(TCA 回路)にお

ける酢酸の酸化によって還元力を供給していると言われていたが,この結果から,解糖回路

におけるグリコーゲンの分解によって一部分の還元力が供給されることが明らかになって

いる。さらに,脱窒量がもっとも多い時に PHV の蓄積がおこったことから,グリコーゲンの

分解が還元力とエネルギーの供給だけでなく,細胞内の酸化・還元バランスの役割も果たす

ことが明らかになっている。一方,分子状酸素と酢酸が同時に存在する際にも,リンの放出

と PHB の蓄積が起こっているが,無酸素条件下でのリンの放出量と PHB の蓄積量が大きいほ

ど,続く好気条件でのリンの放出量と PHB の蓄積量が減少している。この結果から,電子受

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第 5章

45

容体の種類に関係なく,炭素源が存在する限り,PHB の合成が起こることを示唆している。

これに加え,その際にクエン酸回路における酢酸の酸化によってエネルギーの供給ができる

にもかかわらず,リンの放出が見られたことから,ポリリン酸の溶解が酢酸の取り込みおよ

び活性化と直接的につながっていることが示唆されている。また,PHB の蓄積量が減少する

代わりにグリコーゲンの蓄積量が増加することから,細胞内に取込んだ酢酸を利用して PHB

を合成した後,残りの酢酸がグリコーゲンに代謝されることが明らかにしている。

5.1.2.5 脱窒性リン蓄積細菌の選択的培養と優占化 7)

まず,リン取り込み能がない汚泥を用いて,嫌気/好気条件下で回分式反応槽の運転を行

い,電子受容体として,酸素のみを用いるリン蓄積細菌の選択的培養をおこなった。その後,

硝酸態結合酸素と酢酸が同時に存在する際に,脱窒・リンの放出および PHB の蓄積が同時に

行えるという脱窒性リン蓄積細菌の特有の生理学的特徴に基づいて嫌気条件初期に炭素源

とともに少量の硝酸を供給して,嫌気/好気条件で運転を行い,脱窒性リン蓄積細菌の選択

的培養をおこなった。その結果,脱窒性リンの取り込み能が徐々に増加して酸素を用いたリ

ン取り込み能の 50%まで到達し,さらに,嫌気/無酸素条件に切り替えて運転をおこなった

結果,電子受容体として酸素のみを用いるリンの取り込み能は減少したが,硝酸態結合酸素

を用いたリンの取り込み能は増加した。以上の検討から,脱窒性リン蓄積細菌の選択的培養

と優占化の手法が確立された。

5.1.2.6 脱窒性リン蓄積細菌の窒素・リン同時除去システムへの応用 8), 9)

脱窒性リン蓄積細菌を利用して,一槽で窒素およびリンを同時に除去できる新しい概念を

導入したプロセス開発のための基礎的試験として,嫌気/好気/無酸素条件下で回分式反応槽

の運転が行われている。8), 9) このプロセスにおける窒素・リン除去の仕組みを Figure 5.3

に示す。好気条件下でアンモニアの亜硝酸・硝酸への硝化反応が起こり,その後の無酸素条

件下で硝酸態結合酸素を用いてリン除去をするというものである。しかし,好気条件下での

アンモニアの硝化速度が遅いため,リンの取り込みが起こるので,結果的に,無酸素条件下

での脱窒を伴ったリンの取り込みができなくなる。そこで,好気条件初期に少量の炭素源を

供給することによって好気条件下でのリンの取り込みを阻害し,次の無酸素条件下で硝酸態

結合酸素を用いてリンの取り込みを行わせることを提案している。その結果,無酸素条件下

でリンの取り込みの向上が確認され,一槽で窒素およびリンを同時に除去できることが示さ

れた。この技術の詳細は第 6章で述べることにする。

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第 5章

46

5.2 脱窒性リン蓄積細菌の代謝機構

Kuba ら 10)は脱窒性リン蓄積菌のリン除去の代謝モデルについて研究を行っている。

Smolder らが提唱した嫌気/好気条件での代謝モデル 11)を嫌気‐無酸素条件に当てはめ,リ

ン酸化に関する動力学定数を変形し,脱窒性リン蓄積菌のリン除去の代謝モデルを提案した。

嫌気/無酸素条件による回分実験を行った結果,このモデルに近い各物質の変動がみられ,

信頼性が確認されている。また,実験から無酸素条件下でのリンの取り込みに関するエネル

ギー効率は好気条件下に比べて約 40%低いことを明らかにしている。このため,無酸素条件

下では,好気条件下に比べて増殖速度も遅くなると考えられている。

また,電子受容体として,酸素を用いた場合の NADH21 モルあたりの ATP 生産は約 1.8ATP/

NADH2 である。それに対して,電子受容体として硝酸態結合酸素を用いた場合は,0.9ATP/

NADH2であった。このことから無酸素条件下では,好気条件下に比べて増殖速度も遅くなる,

すなわち,無酸素条件の方が余剰汚泥の発生量が低くなることが考えられる。

5.3 脱窒性リン蓄積細菌の種類 2), 12), 13)

脱窒性リン蓄積菌の詳しい種類についてはいまだ分かっていない部分が多い。Daido,

Ohnoはリン蓄積細菌の中にはどのような種類がいるのかについて検討を行っている。まず,

汚泥を異なる電子受容体の供給条件下で馴養し,それらのリン取り込み能,脱窒能を測定し,

さらに微生物の種類を調べている。

時間 [hr]

嫌気 好気 無酸素

炭素源供給

PO43-

TOC

NO3-

NH4+

Figure 5.3 嫌気/好気/無酸素プロセスにおける窒素・リン除去の概略図

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第 5章

47

5.3.1 馴養条件

嫌気-無酸素-好気で運転している下水処理場から汚泥を採取し,3つのリアクターに分け

馴養を行っている。馴養の条件はタイマーを用いて,8時間を 1サイクルとして条件を周期

的に変え,単一槽の SBR 方式で行った。各リアクターの馴養条件を Table 5.3,Figure 5.4

に示す。また,馴養に用いた模擬排水の組成を Table 5.4 に示す。Run1 は嫌気-好気(硝酸

が存在)条件になるように設定した。基質にアンモニアが存在するため,好気条件下で硝化

菌によって硝酸イオンが生成される。Run2 では嫌気-好気(硝酸無し)条件になるように設

定している。この系では基質の他に硝化阻害剤(ATU)を加え,好気条件で電子受容体として

酸素だけが存在するような条件に設定している。Run3 では嫌気-無酸素条件になるように設

定した。嫌気工程終了後,曝気の代わりに硝酸イオンを加え,無酸素条件としている。

Table 5.3 馴養条件 (HRT:16hr,SRT:20day)

条件

Run1 嫌気 / 好気(硝酸無)

Run2 嫌気 / 好気(硝酸有)

Run3 嫌気 / 無酸素(NO3-N:50g/m3)

Table 5.4 模擬排水組成 試薬 g/m3

CH3COOH・3H2O 680

KH2PO4 88

(NH4)2SO4 142

MgSO4・7H2O 90

Trace Material 微量

Figure 5.4 馴養条件

沈殿 排出 流入 嫌気工程 好気工程(NO3有り)

60min 25min 20min 90min 285min

沈殿 排出 流入 嫌気工程 好気工程(NO3無し)

60min 25min 20min 90min 285min

沈殿 排出 流入 嫌気工程 無酸素工程

60min 25min 20min 90min 285min

Run 1

Run 2

Run 3

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第 5章

48

5.3.2 馴養経過

リン取り込み量の変化では,Run1 では増加する傾向が見られた。これはリン蓄積に関与

する菌が優占化していったためと思われる。Run2 では,あまりリン取り込み量の変化が見ら

れなかった。多種の微生物が存在するような環境の方がリンの蓄積を行いやすいのかもしれ

ない。Run3 では,Run1,Run2 に比べてリンの蓄積量が小さかった。硝酸性窒素を電子受容

体として用いる場合は酸素を用いる場合に比べてエネルギー的に不利であり,リン蓄積量が

小さくなったのではないかと考えられる。

5.3.3 実験結果

リン蓄積細菌の中には,用いることのできる電子受容体が違う,いくつかの種類が存在す

るものと考えられる。この種類を調べるために,Ahn ら 13) は初期の汚泥とそれぞれの条件で

約 1ヶ月間馴養した汚泥について,回分実験を行っている。電子受容体を変えて,そのリン

の取り込み量の違いなどから,リン蓄積細菌の種類について検討が行われている。実験方法

としては,初期の汚泥とそれぞれのリアクターで約 1ヶ月間馴養した汚泥について,汚泥を

3つに分け嫌気条件で 90 分リンを放出させる。そして,3つの汚泥について,

1.電子受容体として,酸素及び硝酸が同時に存在する

2.電子受容体として,酸素のみが存在する

3.電子受容体として,硝酸のみが存在する

の条件にしたときのリンの取り込み量,脱窒量,PHB を測定している。その結果を Figure

5.5 に示す。

Run1 の汚泥については,好気条件でも無酸素条件でもかなりのリン蓄積量を示した。数

種類のリン蓄積細菌が優占しており,その細菌は電子受容体として酸素と硝酸をどちらも用

いることのできるものであることが推察される。一方,Run2 と Run3 の汚泥については変化

が見られた。Run2 の汚泥では無酸素条件下においては好気条件に比べて非常に小さくなっ

た。これはリン蓄積細菌の中に電子受容体として酸素しか用いることのできない菌が存在す

るためと考えられる。また,Run3 の汚泥では好気条件下でのリン蓄積量が無酸素条件に比

べて小さくなった。同様に,これはリン蓄積細菌の中に電子受容体として硝酸しか用いるこ

とのできない菌が存在するためと考えられる。

また,どの汚泥についても酸素と硝酸が同時に存在する場合には酸素が電子受容体とし

て優先的に用いられ,硝酸は用いられなかった。

この実験から,リン蓄積細菌の中には以下に示す 3つのタイプの細菌群が存在する可能性が

示唆された。

(1) 電子受容体として酸素のみを用いる細菌 →脱窒能を持たないリン蓄積細菌

(2) 電子受容体として酸素も硝酸の両方を用いる細菌 →脱窒性リン蓄積細菌

(3) 電子受容体として硝酸のみを用いる細菌 →脱窒性リン蓄積細菌

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第 5章

49

また,脱窒性リン蓄積細菌のリン蓄積能を調べるために,Figure 5.4 の結果から各リアク

ターの無酸素条件における脱窒量当たりのリン取り込み量求めた。この結果を Table 5.5 に

示す。その結果,(3)の細菌が多く存在すると思われる Run3 の汚泥が一番低くなった。これ

は,電子受容体として硝酸のみを用いることができる脱窒性リン蓄積細菌は酸素と硝酸を両

方用いられる細菌に比べて,リン蓄積能が低い可能性がある。

Table 5.5 無酸素条件のリン取り込み量

汚泥

P-uptake

[P-mol/(N-mol·g-MLSS)]

初期汚泥 0.183

Run1 0.182

Run2 0.148

Run3 0.063

Figure 5.5 それぞれの条件における汚泥量あたりのリン取り込み量

0

5

10

15

P up

take

/ML

SS [m

g/g]

RUNⅠ

O2+NO3

RUNⅡ RUNⅢ

O2NO3

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第 5章

50

5.4 脱窒性リン蓄積細菌の微生物群集構造解析

5.4.1 PCR-DGGE 法による解析 13)

リン蓄積細菌について,リンの取り込み量など水質に基づいた解析が行われてきた。一方

で,リアクター内の微生物構造を解明のために,分子生物学的手法である PCR-DGGE 法およ

び DNA シーケンサーを用いた解析を行っている。13) 実験方法として,Figure 5.4 に示す

Run1-3 の汚泥と運転開始前野初期汚泥について,

1. DNA 抽出

2. PCR で DNA 増幅

3. DGGE でバンド検出

4. DNA シーケンサーにかけ,塩基配列を測定

5. データベースより微生物種の同定

DGGE の結果の一例を Figure 5.6 に,各リアクターに存在すると推測される細菌種を Table

5.6 にそれぞれ示す。DGGE の画像から Run1-Run3 のすべてにあるバンド(濃度 40%付近と濃

度 43%付近のバンド)が電子受容体として酸素と硝酸を両方用いられる脱窒性リン蓄積細菌

のものではないかと推測される。また,Run3 のみにみられるバンド(濃度 38%付近のバンド)

が,電子受容体として硝酸のみを用いられる脱窒性リン蓄積細菌のものではないかと推測さ

れる。しかし,これらは推測に過ぎないので,その細菌が実際にリン蓄積機能を示すかを調

べる必要があると思われる。再度行った DGGE の結果,脱窒性リン蓄積細菌と予想されるバ

ンドを切り出し,DNA シーケンスが行われた。切り出したバンドは Figure 5.7 に,シーケ

ンス結果は Table 5.7 に示す。

バンド Aは Run1-Run3 のすべての汚泥で確認できるバンドで,バンド Bは Run1 と Run3 の

汚泥に確認できるバンドである。このうち,バンド A のシーケンス結果で検出された

Rhodocyclus 属の細菌は,最近になってリン蓄積細菌の一種である可能性が高いと報告され

ている。このバンド A は Run3 の嫌気/無酸素槽の汚泥にも確認できるので,この細菌は酸

素に加えて硝酸も電子受容体として利用できる脱窒性リン蓄積細菌ではないかと推察され

る。また,バンド Bの Dechlorimonas 属の細菌は Run1 と Run3 の硝酸が存在する槽の汚泥に

確認できる。Dechlorimonas 属の細菌は脱窒機能をもっていると報告されており,このバン

ドBの菌は脱窒細菌か硝酸のみを電子受容体として用いることできる脱窒性リン蓄積細菌で

あるのではないかと考えられる。

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第 5章

51

初期汚泥 Run1 Run2 Run3

①リン蓄積細菌

(O2のみを使える細菌) ○ ○ ○ ×

②脱窒性リン蓄積細菌(2)

(O2と NO3を両方使える細菌) ○ ○ ○ ○

③脱窒性リン蓄積細菌(1)

(NO3のみを使える細菌) △ △ × ○

硝化細菌 ○ ○ × ×

脱窒細菌 ○ ○ × ○

Table 5.7 シーケンス結果

バンド名 細菌名 (% identity) A Rhodocyclus sp.(96)

B Dechlorimonas sp.(97)

30%

40%

35%

45%

50%

初期汚泥 RUN2 RUN1 RUN3

Figure 5.7 切り出したバンド

変性剤濃度勾配

50%

30%

A

B

Figure 5.6 DGGEの結果

Table 5.6 各リアクターに存在していると予測される細菌群

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第 5章

52

5.4.2 FISH (Fluorescence in situ hybridization)法による解析 13)

PCR-DGGE 法は,種のレベルでどんな細菌が棲息するかを識別する有力な方法であるが,微

生物群集構造において,どんな細菌が優占化していて,どこにどのくらい存在するのか,と

いった情報は得られない。そこで,それらの情報を得るために,これも 16SrRNA レベルの FISH

法が微生物生態解析に広く用いられている。ターゲットとしては,シーケンス結果より得ら

れた,Rhodocyclus sp., Dechlorimonas sp.の 2 種類とした。プローブは,β-Proteobacteria

に属する Rhodocyclus sp.に関しては,Cy3 標識した EUB338 (5’-GCTGCCTCCCGTAGGAGT-3’)

と FITC 標識した PAO846 (5’-GTTAGCTACGGCACTAAAAGG-3’)を用い,Dechlorimonas sp.に関

しては,16SrRNA データベース,RDP(Ribosomal Database Project)でチェックしたシーケ

ンスに基づいてデザインされた DCM433(5’-GTATTAACCCATGCGATTTC-3’)が用いられた。そ

の結果,すべてのリアクターにおいて,Rhodocyclus sp.の存在が明らかになった。一方,

Dechlorimonas sp.は検出されなかった。以上から,Rhodocyclus sp.は電子受容体の違いに

よらず,すべてのリアクターにおいてかなりの部分を占めていることが確認された(Figure

5.8)。

Figure 5.8 FISH法による Rhodocyclus sp.の検出結果

(A) FITC 標識(緑)した PAO846 の陽性細菌画像

(B) FITC 標識(緑)した PAO846 と Cy3 標識した EUB338 の二重染色画像

*黄色:Rhodocyclus sp.,赤:他の Proteobacteria

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第 5章

53

5.4.3 キノンプロファイル法による解析 12), 14)

5.4.3.1 窒性リン蓄積細菌の選択的培養

リン蓄積細菌と脱窒性リン蓄積細菌の選択的培養技術を用いて培養を行い,定期的に汚泥

のリン取り込み能を測定した。Figure 5.9 は電子受容体として分子状酸素と硝酸態結合酸

素を与えた時の MLSS あたりのリン取り込み量の経日変化である。実験開始直後は,電子受

容体として酸素を用いたリンの取り込みも硝酸態酸素を用いたリンの取り込みも起こらな

かった。嫌気/好気条件(条件Ⅰ)を開始して 3 日目あたりから酸素を用いたリンの取り込

みが起こるようになり,20 日目以降は電子受容体として酸素を用いたリンの取り込み量は

15mg-P/g-MLSS を超えるところまで達した。一方,この嫌気/好気条件の間,電子受容体とし

て硝酸態酸素を用いたリンの取り込みはほとんど起こらなかった。これは嫌気/好気条件の

間,アリルチオ尿素を供給し,硝化がおこらないようにしたため,汚泥が硝酸態結合酸素に

曝されることがなかったことが考えられる。よって,この嫌気/好気条件においては電子受

容体として酸素のみを用いることができるリン蓄積細菌のみが存在していることを示して

いる。30 日目に,嫌気条件の前に脱窒を行う無酸素(NO3:15mg-N/l)条件を設け,無酸素

/嫌気/好気条件(条件Ⅱ)にした。すると,電子受容体として硝酸態酸素を用いたリンの

取り込みが起こるようになった。酸素を用いたリンの取り込みも起こっていたが,一時,酸

素を用いたリンの取り込み量が減少した。これは,初めのうちは無酸素条件における炭素源

の競合に勝てず,リン蓄積細菌の増殖が抑えられたことも考えられる。その後,電子受容体

として硝酸態結合酸素を用いたリンの取り込みが徐々に増加した。また,56 日目には電子受

容体として硝酸態結合酸素を用いたリンの取り込み量は全体のリン取り込み量の 43%まで

達した。それ以降,リンの取り込み量は安定した。時間の経過とともに硝酸態結合酸素を用

いたリン取り込み能が高くなったのは,脱窒性リン蓄積細菌がリンの放出および取り込みの

機能を行わなくても硝酸態結合酸素を用いた高効率なPHA合成と成長ができるためだと考え

られる。つまり,炭素源と硝酸態結合酸素の共存が脱窒能の発現,脱窒性リン蓄積細菌の出

現を引き起こす要因となっていることが考えられる。よって,この無酸素/嫌気/好気条件

においては,電子受容体として酸素を用いることができるリン蓄積細菌と硝酸態酸素を用い

ることができるリン蓄積細菌(脱窒性リン蓄積細菌)が存在していることを示している。

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第 5章

54

5.4.3.2 キノンプロファイルの変化

各運転条件下でのキノンプロファイルの変化を Figure 5.10 に示す。リン取り込み能がな

かった 0日目-7 日目にかけてキノンプロファイルに大きな変化が見られた。0日目(種汚泥)

においては,menaquinone-9 (MK-9)が優占キノンであった。リン取り込み能が出てきた 7日

目にかけては,MK-9 の減少,ubiquinone-8 (Q-8)の増加などが見られた。その後,Q-8 が徐々

に増加し,優占キノンとなった。よって,各条件において,Q-8 を優占キノンとして持つ微

生物群(β-subclass proteobacteria)がメジャーな種であることが分かった。また,条件

Ⅱにした 30 日目以降は MK-7 が 2 番目に多いキノン種であった。

0

5

10

15

20

25

30

0 10 20 30 40 50 60 70Time [day]

P up

take 

[mg-

P/g-

MLS

S]

Figure 5.9 各運転条件における好気 (○) と無酸素条件 (●) のリン取り込み

量の経日変化

PhaseⅠ PhaseⅡ

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 7 14 21 30 36 42 55 66 75Time [day]

Mol

e fra

ctio

n [-]

MK-9(H4)

MK-8(H4)

MK-11(H2)

MK-10(H2)

MK-9(H2)

MK-8(H2)

MK-6(H2)

MK-11

MK-10

MK-9

MK-8

MK-7

MK-6

Q-10

Q-9

Q-8

Q-7

PhaseⅠ PhaseⅡ

Figure 5.10 キノンプロファイルの経日変化

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第 5章

55

5.4.3.3 数値解析

次の式で表されるキノンプロファイルに基づいた多様性指標 14), 15)(Microbial

divergence: MDq)とメナキノンに対するユビキノンの比,Q/MK の経日変化を Figure 5.11

に示す。

2

1⎟⎟

⎜⎜

⎛= ∑

=

n

kkq xMD

xk≧0.001 であり,xkは全体のキノン量に対するキノン種kの存在比を示している。図 2.15

から分かるように,MDqは日数とともに減少し,total Q/total MK は増加した。選択的培養

として条件を変え,馴養していく過程において多様性が少なくなり,ユビキノンの割合が増

加した。このことは,この培養条件で生き残っていけなくなった微生物群は主に MK をキノ

ン種としてもつものであったことが考えられる。また,図 2.13 からも分かるように日数の

経過とともにリン取り込み能が増加していることから,酸素を用いたリン取り込み,硝酸態

結合酸素を用いたリン取り込みに関与しているメジャーな微生物群はユビキノン,特に Q-8

をもつ微生物群であることが考えられる。

5.4.3.4 無酸素条件におけるリン取り込み能とキノンの種類

Figure 5.9 にもあるように条件Ⅱにしてから電子受容体として硝酸態結合酸素を用いた

リン取り込み能が徐々に増加した。この時,キノンプロファイルとの関係を調べてみた。先

程も述べたが,キノンプロファイルにおいてはユビキノンの割合,特に Q-8 の増加が見られ

た。Figure 5.12 に Q-8 の存在比と 30 日目以降の MLSS あたりの硝酸態結合酸素を用いたリ

0

2

4

6

8

10

12

14

0 10 20 30 40 50 60 70Time [day]

MD

q , Q

/MK

[-]

MDq

UQ/MK

Figure 5.11 MDq と Q/MK の経日変化

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第 5章

56

ン取り込み量の関係を示す。

Q-8 の存在比と MLSS あたりの硝酸態結合酸素を用いたリン取り込み能との間にはかなり

高い相関があった(R2=09306)。Q-8 は条件Ⅰにおいてもメジャーなキノン種であったが,

硝酸態結合酸素を用いたリン取り込み能を表すバイオマーカーの一つとしてもQ-8が考えら

れる。リン除去を行っている汚泥に対してキノンプロファイル法を用いた既往の研究におい

ても,Q-8 が優占キノン種であると言われており 25), 26),ほぼ一致する結果となった。この

ことと合わせて考えても,電子受容体として酸素を用いるリン蓄積細菌と硝酸態結合酸素を

用いるリン蓄積細菌はどちらもQ-8を優占キノンとして持つ微生物群に含まれていることが

考えられる。また,硝酸態結合酸素を用いたリン取り込み能が増加すると Q-8 の存在比も増

加していること(Figure 5.12)から,phaseⅠでは硝酸態結合酸素に曝されることがなくそ

れほど増殖できなかったリン蓄積細菌が phaseⅡにおいて,硝酸態結合酸素に曝されるよう

になり,より効率よく増殖することができたと推測される。

以上のように,リン蓄積細菌と脱窒性リン蓄積細菌の選択的培養においてキノンプロファ

イル法を適用した結果,日数の経過とともに多様性が減少し,ユビキノンの割合が多くなる

ことが分かった。また,硝酸態結合酸素を用いたリン取り込み能のバイオマーカーの一つと

して Q-8 が考えられた。

y = 79.721x - 46.052

R2 = 0.93060

2

4

6

8

10

12

0.55 0.6 0.65 0.7 0.75Ubiquinone-8 (Q-8) [-]

Ano

xic

P up

take

abi

lity

[mg-

P/g-

MLS

S]

Figure 5.12 PhaseⅡにおける無酸素的取り込み量と Q-8の関係

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第 5章

57

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第 5章

58

Biosci Bioeng 1999;88:449-460.

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第 6章

59

第 6章 脱窒性リン蓄積細菌による窒素・リン同時除去技術

脱窒性リン蓄積細菌の機能を積極的に利用することで排水中からの窒素・リンを除去する

プロセスが開発・研究されている。それらは利用する汚泥の種類の違い,すなわち脱窒性リ

ン蓄積細菌と硝化細菌が共存しているか,していないかによって,①Single-sludge systemと

②Two-sludge systemに分けられる。以下に,それぞれのプロセスについて,原理および特徴

を説明する。

6.1 Single-sludge system

Single-sludge system において,汚泥は嫌気,好気,無酸素条件をすべて通過する。活性

汚泥の中で特に硝化細菌はその増殖や活性に長い好気時間を必要とするが,その一方で長い

好気時間は脱窒性リン蓄積細菌のリン取り込み活性や増殖を阻害するという問題を引き起

こす 27)。このため,Single-sludge system における窒素・リン同時除去のためには,硝化

細菌と脱窒性リン蓄積細菌の両者に適切な条件を作り出すことが重要となる。

これまでに,Single-sludge system として,anaerobic-aerobic-anoxic-aerobic sequencing

batch reactor ((AO)2 SBR) system 1) および anaerobic-aerobic-anoxic process (AOA

process) 2), 3),anaerobic-aerobic SBR (aerobic における溶存酸素(Dissolved oxygen :

DO)制御) 4)などが提案されている(Table 6.1)。

*1 C/N/P:COD/NH4+-N/PO4

3--P *2 リン蓄積細菌に対する脱窒性リン蓄積細菌の割合

(好気条件でと無酸素条件でのリン取り込み速度の比率から算出)5),6),

(AO)2 SBR 1)では,すべてのリン蓄積細菌 (Phosphate-accumulating organisms: PAOs)に対

する脱窒性リン蓄積細菌の割合(好気条件でのリン取り込み速度と無酸素条件でのリン取り

込み速度から算出)5), 6)は,通常の嫌気/好気条件での 11%から 64%に上昇し,TOC (Total

organic carbon),窒素,リンの平均除去率は,それぞれ 92, 88, 100%であったと報告され

ている。また,リアルタイムコントロールパラメーターとして,pH と ORP のプロファイルを

プロセス名称 (AO)2 1) AOA 2), 3) anaerobic-aerobic4)

C/N/P比*1 300/30/10 300/30/15 400/40/15

容積(L) 4 2 4

SRT (days) 18 20 15

DNPAOsの割合*2 64% 40% -

備考 好気条件で少量炭

素源供給

好気条件で DO を

0.45-0.55 mg/L に制

Table 6.1 Single-sludge systemについて

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第 6章

60

用いることで,各条件の適切な時間をコントロールでき,栄養塩除去の信頼性や安定性を高

めていくことができるとしている。このことは SBR により栄養塩除去を行う際に大きな利点

となると考えられる。

Tsuneda ら 2), 3) は,嫌気/好気/無酸素 (AOA)プロセスを提案し,模擬下水による連続処

理実験を行い,単一槽で有機物・窒素・リンが除去できることを示している。AOA プロセス

では,嫌気条件で有機物の取り込みとリンの放出,好気条件で硝化(一部リン取り込み),

無酸素条件でリン取り込みと脱窒を行うというものである。このプロセスにおいては,好気

条件ですべてのリン取り込みが終わってしまうという現象も見られた。その場合,電子受容

体(酸素や硝酸)と電子供与体(酢酸)が同時に存在する際の脱窒性リン蓄積細菌の性質 7)

に基づき,好気条件初期に炭素源(酢酸)を少量供給することで好気でのリンの取り込みを

一時的に抑えることができた。単一槽において理想的な条件下で AOA プロセスが進行した場

合,有機物,窒素,リンの各成分の 1 サイクルにおける挙動は Figure 6.1 のようになる。

しかしながら,好気条件での硝化とリン取り込み一時的阻害をともに行うために,適切な量

の炭素源を供給しなくてはならないという課題がある。AOA プロセスにおける炭素源供給後

の窒素,リンの平均除去率は,それぞれ,88,93%であった。また,すべてのリン蓄積細菌

に対する脱窒性リン蓄積細菌の割合は,種汚泥(A2O プロセスから採取したもの)が 21%で

あったのに対し,AOA プロセス内の汚泥では 44%程度にまで増加した。

Zeng ら 4)は嫌気/好気条件における好気条件において DO を 0.45-0.55 mg/L 程度に制御する

ことで,好気条件でリン取り込み・硝化・脱窒をすべて行うことができると報告している。

しかしながら,このプロセスにおける窒素除去はアンモニアから亜硝酸を経由して脱窒され

ることで達成されており,主要な脱窒の最終ガス生成物は N2よりもむしろ N2O であったと述

べている。N2O は CO2の 310 倍の温室効果ポテンシャルをもつことから,このことは地球環

境保全の面からも今後検討すべきである。また,微好気条件において,脱窒を担っている細

菌は理想的には脱窒性リン蓄積細菌であるが,近年存在が示唆されてきた脱窒性グリコーゲ

TOC PO4

3- NOX

- NH4

+

嫌気 好気 無酸素

Figure 6.1 AOAプロセスにおける各成分の挙動の概略図

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第 6章

61

ン蓄積細菌 (Denitrifying glycogen-accumulating organisms: DNGAOs)の存在 8)も重要で

あると述べている。

6.2 Two-sludge system

脱窒性リン蓄積細菌は,嫌気条件と無酸素条件のサイクルで優占化する。脱窒性リン蓄積

細菌の高度集積化のためには,嫌気/無酸素条件のみが理想的である。しかし,実際の排水

処理においては,無酸素条件を作り出す前に,まず好気条件での硝化細菌による硝化が必要

となる。脱窒性リン蓄積細菌と硝化細菌を高度に集積するために,それぞれを分けることが

有効であるとの考えから,硝化を行う好気条件だけを切り離す外部硝化嫌気無酸素法

(DEPHANOX プロセス 9)-11), A2N system12), 13))が開発されている(Figure 6.2)。

これらのシステムでは,流入排水は嫌気槽に入り,そこで脱窒性リン蓄積細菌が有機物を取

り込み蓄積する。次に,沈殿池において上澄みと汚泥との分離を行う。その後,上澄みは好

気槽へ,汚泥は無酸素槽へ送られる。好気槽では硝化細菌によって硝化のみが起こる。そし

て,硝化液が無酸素槽へと流れ込み,汚泥と再混合し,嫌気槽で有機物を蓄積した脱窒性リ

ン蓄積細菌により脱窒とリン取り込みが行われる。

この処理方式に関しては,これまでに模擬排水 12),豚舎排水 9)および都市排水 13)に適用さ

れた例があり,いずれにおいても高効率な栄養塩除去が達成されている。

また,このシステムにおいて,すべてのリン蓄積細菌に対する脱窒性リン蓄積細菌の割合 5),

6)は,47-66%に達するという報告もあり 13),A2O プロセスの場合(17-36%程度14))と比べ

てかなり高いことから脱窒性リン蓄積細菌の高度集積化が実現できていると言える。

模擬排水 12)においては,COD,リン,窒素の平均除去率はそれぞれ,100,99,88%を達成

している。さらに,流入排水における COD/N 比が 3.4 の時に最適な窒素・リン除去ができる

と報告している。

豚舎排水 9)においても,生物処理が非常に難しい低 C/N 比にもかかわらず,窒素 98%,リ

Figure 6.2 外部硝化嫌気無酸素法

嫌気 タンク

好気 タンク

無酸素 タンク

内部 沈殿池

最終 沈殿池

流入下水

上澄み 硝化液

返送汚泥

汚泥

処理水

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第 6章

62

ン 90%以上という高い栄養塩除去率が得られている。このシステムの利点として,

Single-sludge system と比較して,「硝化」と「脱窒・リン取り込み」の工程をそれぞれ最

適な条件で独立に運転できることが挙げられる。Single-sludge system では,硝化のために

十分な長さの好気条件,長い SRT が必要になるが,Two-sludge system では,硝化における

SRT は別に設定できる。さらに,硝化生物膜リアクターを用いることで硝化における滞留時

間の短縮や装置容積の縮小が期待できる。

また,UCT プロセスのような前脱窒のプロセスの運転においては,処理水中の硝酸濃度を

下げるためには,好気槽から無酸素槽への循環が必要であるが,外部硝化嫌気無酸素法にお

いては,硝化の後に脱窒を行うため,完全な窒素除去が期待できる。

外部硝化嫌気無酸素法においては,炭素源の節約効果として,消費された COD の最大 55%

(Activated Sludge Model No.2d (ASM2d)15)ベース)が脱窒とリン取り込みに重複して用いら

れたという報告もある 13)。さらに,UCT プロセスと比べ,曝気量の削減が可能であるという

報告もある 16)。このように Two-sludge system は多くの利点をもつ反面,Single-sludge

system のプロセスと比べ,余分に内部沈殿池が必要となるといった欠点もある。設置スペー

スやコストの面で不利であるが,上述したように,硝化生物膜リアクターの利用により補完

することも可能であろう。

これまでに,脱窒性リン蓄積細菌を用いた排水処理プロセスについて,これまでに開発さ

れている例を示した。脱窒性リン蓄積細菌自体まだまだ不明な部分も多く,今後もその性質

などを解明していく必要があると思われる。この脱窒性リン蓄積細菌をうまく活用すること

で,栄養塩除去における炭素源不足などの問題の解決が期待されている。今回紹介した脱窒

性リン蓄積細菌を用いたプロセスは,どのプロセスにおいても,利点と欠点を持ち合わせて

いるため,さまざまな制約の中でより適切なシステムを選び,適用していくことが望まれる。

そのためにも,どのような排水に適したプロセスであるか,適用可能な濃度・負荷範囲など

を明らかにしていくことが今後の課題である。

6.3 Single-sludge system の応用例(AOA プロセス)

6.3.1 AOA プロセスの原理

この脱窒性リン蓄積細菌を利用した窒素・リン同時除去プロセスとして,嫌気/好気/無

酸素(anaerobic/aerobic/anoxic: AOA)プロセスを Tsuneda らが提案している 7)。本プロ

セスでの脱窒性リン蓄積細菌は,嫌気条件で有機物を優先的に取得し,好気条件でリン取込

みの他に,蓄積した有機物を無酸素条件での脱窒とリン取り込みに重複して使う役割を有し

ている。つまり,本細菌を利用することで,無酸素条件下で脱窒およびリン取込みを同時に

行わせることができる。また,本プロセスは硝化液の循環が必要ないため,既存の窒素・リ

ン同時除去プロセス(A2O 法や UCT(University of Cape Town)法など)では不可能だった,

単一処理槽での排水中の有機物,窒素,リン除去を行うことができるプロセスとなる。さら

に,リン蓄積機能と脱窒機能を両方有する本細菌を系内に高密度に保持することができれば,

添加炭素源の低減ならび,より効率のよい窒素・リン除去が期待できる。しかしながら,脱

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第 6章

63

窒性リン蓄積細菌を高度排水処理プロセスに応用した例はなく,またリン蓄積細菌と同様に

本細菌は単離ができていないことから,その生理学的性質や種類については明らかになって

いない。

6.3.2 好気条件初期供給炭素源量の検討

6.3.2.1 運転条件

AOA プロセスの確認を行うとともに好気条件初期に供給する炭素量について検討を行った。

模擬排水組成を Table 6.2 に示す。嫌気/好気/無酸素条件下で有効容積 2l の SBR を1日 3

サイクル(1サイクル 8 時間,原水注入 20 分,嫌気条件 90 分,好気条件 90 分,無酸素条

件 195 分,汚泥沈降工程 60 分,処理水引き抜き工程 25 分)で運転した(Figure 6.3)。好

気条件でのリンの取り込みを一時的に阻害するために好気条件の初期に少量の有機物(酢酸

ナトリウム)を加えた。その添加量を 20-45 mg-C/l の範囲で変化させた。HRT は 16 時間,

SRT は 15~ 25 日に制御した。

Table 6.2 模擬排水組成

Substrate Concentration mg/l

CH3COONa 384.4 (COD:300)

KH2PO4 49.4 (P:15)

(NH4)2SO4 141.6 (N:30)

MgSO4・7H2O 90

CaCl2・2H2O 14

EDTA Small amount

Yeast Extract Small amount

Trace material Small amount

排 水 流 入排 水 流 入(1 5 (1 5 m in )m in )

排 水排 水

嫌 気 条 件嫌 気 条 件(( 9 0 9 0 m inm in ))

無 酸 素 条 件無 酸 素 条 件(( 1 9 5 1 9 5 m inm in ))

炭 素 源 供 給炭 素 源 供 給

汚 泥 沈 降汚 泥 沈 降 (( 6 5 6 5 m inm in ))処 理 水 排 出処 理 水 排 出 (( 2 5 2 5 m inm in ))

繰り返し

繰り返し

好 気 条 件好 気 条 件(( 9 0 9 0 m inm in ))

排 水 流 入排 水 流 入(1 5 (1 5 m in )m in )

排 水排 水

嫌 気 条 件嫌 気 条 件(( 9 0 9 0 m inm in ))

無 酸 素 条 件無 酸 素 条 件(( 1 9 5 1 9 5 m inm in ))

炭 素 源 供 給炭 素 源 供 給

汚 泥 沈 降汚 泥 沈 降 (( 6 5 6 5 m inm in ))処 理 水 排 出処 理 水 排 出 (( 2 5 2 5 m inm in ))

繰り返し

繰り返し

好 気 条 件好 気 条 件(( 9 0 9 0 m inm in ))好 気 条 件好 気 条 件(( 9 0 9 0 m inm in ))

Figure 6.3 AOAプロセスの 1サイクルの概略図

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第 6章

64

6.3.2.2 AOA プロセスの窒素・リン除去性能

AOA プロセスの運転を長期間行った。また,好気条件初期に供給する炭素源量についても

供給量を変化させ,窒素・リン除去率との関係を検討した。リン,窒素と MLSS(Mixed liquor

suspended solid)の経日変化を Figure 6.4 に示す。

炭素源供給量が 20-30 mg-C/l の時には好気条件でのリン取り込みの阻害ができなかった。

そこで 32 日目に 45 mg-C/l に変えたところ,好気条件でのリン取り込みの阻害はできたが,

硝化がほとんど起こらなかった。すなわち,無酸素条件でのリン取り込みのための電子受容

体がない状態になってしまった。そのため,リンの 2 次放出が起こり Figure 6.4 (b)のよ

うに無酸素条件終了時のリン濃度が好気条件終了時のリン濃度よりも高くなってしまい,結

果としてリン除去率が低下してしまったと考えられる。その後,34 日目に 40 mg-C/l に変更

した。すると,好気条件でのリン取り込みの阻害もでき,悪化した硝化に関しても少し回復

が見られ,除去率も安定し始めた。また,硝化が不完全なのは硝化細菌が少ないためと考え,

60 日目あたりから汚泥引き抜き量を減らした(SRT:25days)ところ好気条件終了時の NOx--N

が増加した。

好気条件でのリン取り込み阻害は炭素源量の増加のほかに微生物相の変化にもよると考

えられたので 89 日目に炭素源量を運転開始の時と同じ 20 mg-C/l に変更したところ,好気

条件終了時の NOx--N の増加がみられたが,好気条件でのリン取り込み阻害は少なくなってし

まった。長期間の運転によるリン蓄積細菌の増加は考えられるが,SRT 15-25 days におい

ては,好気条件では炭素源を加えないとリン取り込みの阻害はできないことがわかった。

104 日目に汚泥の流出が起こってしまい MLSS が 5000 mg/l から 3000 mg/l に減少した

(Figure 6.4 (c))が,大きな処理の悪化は見られなかった。

MLSS が 5000 mg/l あたりまで回復するのを待って,130 日目付近から SRT を 15 days に変え

た。SRT を短くすることで,好気条件の MLSS あたりの炭素源量が上がると考えた。その結果,

146 日目には好気条件のリン濃度は 20 mg-P/l を超えた。

53 日目あたりから好気条件終了時の NOx--N は硝酸-よりも亜硝酸の量が多くなり 69 日目

からは亜硝酸のみになった。無酸素条件のリン取り込みにおける亜硝酸の影響についてはま

だ明らかになっていない。Kerrn-Jespersen et al 17)は亜硝酸の存在は,無酸素的なリン取

り込みを悪化させると報告している。Meinhold et al 18)は亜硝酸濃度 8 mg-N/l 以上の高濃

度に曝されると無酸素的リン取り込みは阻害されるが,低濃度では阻害はされないと報告し

ている。一方で高濃度ではない範囲(20-40 mg-N/l)では無酸素条件におけるリン取り込み

活性は維持されるという報告 46)もある。本研究においても好気条件終了時の亜硝酸濃度は

20 mg-N/l 程度であり,続く無酸素条件において,脱窒・リン取り込みともに十分に起こっ

ていた(Figure 6.4)。このことから,AOA プロセスにおいては電子受容体として酸素,亜

硝酸を用いることができるリン蓄積細菌が存在でき,69 日目以降,無酸素条件においては電

子受容体として亜硝酸を用いるリン蓄積細菌によりリン取り込みが行われていたことがわ

かる。また,この結果から無酸素条件におけるリン取り込みにおいて亜硝酸が用いられるこ

と,BNR プロセスにおいて亜硝酸を用いたリン取り込みは窒素・リン除去に寄与しているこ

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第 6章

65

とが示唆された。

AOA プロセスにおいて,好気条件で供給する炭素源量が少ない場合には硝化は起こるが,

好気条件でのリン取り込み阻害が十分にできずリンの再放出が起こることが考えられる。よ

ってリンと窒素の除去率が低下する。一方,炭素源量が多い場合には好気条件におけるリン

取り込み阻害は十分にできるが硝化が不完全となり,無酸素条件におけるリン取り込みのた

めの電子受容体が不足すると考えられる結果,リンと窒素の除去率が低下する。

本実験で用いた排水組成の場合,AOA プロセスの好気条件初期に 40 mg-C/l 程度の炭素源を

添加すれば,1 年以上安定した処理性能が維持できることが確認された。また,運転期間に

おける窒素・リンの平均除去率はそれぞれ,約 83,92%であった。

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第 6章

66

Figure 6.4 AOAプロセスにおける各水質の経日変化:(a) リン;(b) 窒素;(c) MLSS

0

20

40

60

80

100

0 50 100 150 200 250 300 350

Time [day]

PO43-

-P, T

OC

[mg・

l-1]

0

20

40

60

80

100

P re

mov

al e

ffic

ienc

y [%

]

0

10

20

30

40

50

60

0 50 100 150 200 250 300 350

Time [day]

NH

4+ -N, N

Ox- -N

[mg・

l-1]

0

20

40

60

80

100

N r

emov

al e

ffic

ienc

y [%

]

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

0 50 100 150 200 250 300 350

Time  [day]

ML

SS [m

g・l-1

]

(a) 20 days 25 days 15 days SRT

Trouble

N

removal

efficiency

Influent NH4-N

NOx-N after aerobic phase

NH N ft i h

P

removal

efficiency

P after anaerobic phase

P after aerobic phase

P after anoxic phase

S l t d TOC

(b)

(c)

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第 6章

67

6.3.2.3 AOA プロセスの 1サイクルにおける水質の変化

SBR において,1サイクルの濃度プロファイルを観察することは,生物反応を理解し,SBR

運転のより適切な条件を得るためにとても役に立つと考えられる。

Figure 6.5 に 76 日目における窒素,リン,TOC,pH の 1 サイクルの挙動を示す。

1 サイクルで pH は劇的に変化した。嫌気条件での pH の低下はリンの放出のためだと考え

られる。好気条件になった直後の pH の上昇は,酢酸ナトリウム(炭素源)供給,リンの取

り込みのためだと考えられる。120 分あたりからは pH が低下した。つまり好気条件開始 30

分後からは硝化が主要な現象になったためだと推測できる。このまま pH が低下し,一定に

なった時がアンモニアの完全除去(NH4+→NOx

-)達成になると考えられる。無酸素条件になって

からは,リン取り込みと脱窒のために pH が上昇したが 230 分あたりで pH はわずかに低下し

始めた。水質と合わせてみると,この pH が低下し始める直前がリン取り込みと脱窒の終了

と考えることができる。その後,リンがわずかに放出されたために pH が少し低下したと考

えられる。これは,電子受容体(NOx--N)が少なかったためである。このようなプロファイ

ルは Lee et al 1)の報告とも一致する。このように,AOA プロセスでは 1 サイクルで pH が

大きく変化するので,pH をモニタリングすることでリン取り込み,硝化,脱窒の終了時の推

測ができることが分かった。このことを用いれば滞留時間の調節ができると考えられる。

6.5

7

7.5

8

0 100 200 300

pH

01020

30405060

708090

0 100 200 300Time [min]

Con

cent

ratio

n [m

g ・l-1

]

TOC

PO4-P

NO2-N

NH4-N

TOC

PO43--P

NO2--N

NH4+-N

Anaerobic Aerobic Anoxic

End of nitrification

End of P uptake and denitrification

End of P release

Figure 6.5 76日目における AOAプロセスの 1サイクルの挙動

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第 6章

68

AA 22 OO法などの既存のプロセス法などの既存のプロセス

リン蓄積リン蓄積細菌細菌

脱窒脱窒細菌細菌

硝化硝化細菌細菌

   リン蓄積細菌の割合が少ない    リン蓄積細菌の割合が少ない 

→ 汚泥中の→ 汚泥中の リン含有率リン含有率    22~~ 33%%

A O AA O Aプロセスプロセス

脱窒性リン脱窒性リン蓄積細菌蓄積細菌

硝化硝化細菌細菌

脱窒性リン蓄積細菌の割合が大きくなる脱窒性リン蓄積細菌の割合が大きくなる

→ 汚泥中の→ 汚泥中の リン含有率リン含有率の増加!の増加!

余剰汚泥からのリン資源余剰汚泥からのリン資源回収は経済的に困難回収は経済的に困難

リン資源回収の可能性リン資源回収の可能性

AA 22 OO法などの既存のプロセス法などの既存のプロセス

リン蓄積リン蓄積細菌細菌

脱窒脱窒細菌細菌

硝化硝化細菌細菌

AA 22 OO法などの既存のプロセス法などの既存のプロセス

リン蓄積リン蓄積細菌細菌リン蓄積リン蓄積細菌細菌

脱窒脱窒細菌細菌脱窒脱窒細菌細菌

硝化硝化細菌細菌硝化硝化細菌細菌

   リン蓄積細菌の割合が少ない    リン蓄積細菌の割合が少ない 

→ 汚泥中の→ 汚泥中の リン含有率リン含有率    22~~ 33%%

A O AA O Aプロセスプロセス

脱窒性リン脱窒性リン蓄積細菌蓄積細菌

硝化硝化細菌細菌

A O AA O Aプロセスプロセス

脱窒性リン脱窒性リン蓄積細菌蓄積細菌

硝化硝化細菌細菌硝化硝化細菌細菌

脱窒性リン蓄積細菌の割合が大きくなる脱窒性リン蓄積細菌の割合が大きくなる

→ 汚泥中の→ 汚泥中の リン含有率リン含有率の増加!の増加!

余剰汚泥からのリン資源余剰汚泥からのリン資源回収は経済的に困難回収は経済的に困難

リン資源回収の可能性リン資源回収の可能性

6.3.3 プロセスの特性評価

AOA プロセスにおいては好気条件初期に炭素源を供給しなくてはならないという欠点を持

っている。今後このプロセスが生き残っていくためには,AOA プロセスのメリットを明らか

にしていくことが重要だと考えられる。そこで,本研究では汚泥中のポリリン酸含有率,脱

窒性リン蓄積細菌の活性,の面から特性評価を行った。

6.3.3.1 汚泥中ポリリン酸含有率

AOA プロセスにおいて,脱窒性リン蓄積細菌を優占化できれば,脱窒細菌や他の従属栄養

細菌の割合が減少し,汚泥中のポリリン酸含有率の増加が見込まれる。

Figure 6.6 のように,汚泥中のポリリン酸含有率を増加させることができれば,枯渇が

懸念されているリンの回収への可能性もでてくると思われる。そこで,水質に加え,1 サイ

クル終了後にリアクターから汚泥を採取し,Standard Methods for the Examination of Water

and Wastewater に従い,ポリリン酸の測定を行った。

AOA プロセスにおける汚泥中のポリリン酸含有率の経日変化を Figure 6.7 に示す。

種汚泥(A2O 法)のポリリン酸含有率は 4%程度であったが,徐々に増加が見られた。Figure

6.7 の中で減少が見られた 30 日目付近は好気条件初期の炭素源供給量を 45 mg-C/l にした

時である。この時,Figure 6.5 (a) にあるようにリン除去率の低下が見られている。無酸

素条件終了時のポリリン酸の含有率が減少していることからもこの除去率低下が分かる。そ

れ以降は回復し,10%程度にまで増加した。また,60 日目あたりからは減少が見られた。こ

れは,硝化細菌のために SRT を長くし,MLSS が増加したためだと考えられる。汚泥が流出し

て MLSS が減少した 104 日目付近では,ポリリン酸含有率が 16%を越えるところまで増加し

た。これは MLSS あたりで取り込むことが可能な有機物,リンが増加したため,つまり,一

Figure 6.6 AOAプロセスにおけるポリリン酸回収の意義

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第 6章

69

菌体あたりに取り込むことができるリンが増加した結果だと考えられる。その後 MLSS を流

出前程度まで回復させたところポリリン酸含有率は 10%付近となった。良質な輸入リン鉱石

のリン含有率は約 14%19)と言われていることを考えると AOA プロセスにおいては,非常に良

好なリン含有率が得られていることがわかる。また,既存のプロセスなどに比べ,AOA プロ

セスの汚泥中にはリン蓄積細菌が優占的に存在できていることも確認できた。これらの結果

から,MLSS を減少させるとポリリン酸含有率があがることがわかった。AOA プロセスにおい

て,処理が悪化しない程度のできるだけ短い SRT にすれば高い汚泥のポリリン酸含有率が得

られることが明らかになった。

6.3.3.2 脱窒性リン蓄積細菌の活性

脱窒性リン蓄積細菌の優占度を表す指標として『リン取り込み活性比』5), 6)を用いた。リ

ン取り込み活性比は,好気条件におけるリン取り込み速度に対する無酸素条件におけるリン

取り込み速度である。リン蓄積細菌には好気条件のみでリンを取り込むことができるものと

好気条件と無酸素条件の両方においてリンを取り込むことができるものが存在すると考え

られることから,「リン蓄積細菌のリン取り込み速度は電子受容体の種類によらず一定であ

る」と仮定すると,

好気条件のリン取り込み活性

= 酸素しか使えないリン蓄積細菌の活性+ 脱窒性リン蓄積細菌の活性

= すべてのリン蓄積細菌の活性

Figure 6.7 AOAプロセスにおけるポリリン酸含有率の経日変化

02468

1012141618

0 50 100 150 200 250 300 350Time [day]

Poly

-P/M

LSS

[%]

20 days 25 days 15 days

Trouble

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第 6章

70

無酸素条件のリン取り込み活性

= 脱窒性リン蓄積細菌の活性

という関係が成り立ち,(無酸素条件のリン取り込み活性)/(好気条件のリン取り込み活

性)により,脱窒性リン蓄積細菌のすべてのリン蓄積細菌に占める割合を推定できる。

0 日目と 176 日目の活性回分実験結果を代表的として Figure 6.8 に示す。0日目の好気条

件,無酸素条件でのリン取り込み速度は,それぞれ 7.84,1.68 [mg-P/(g-MLVSS·h)]であり,

活性比は 21.4%であった。105 日目ではそれぞれ 23.2,9.36 [mg-P/(g-MLVSS·h)]であり,

活性比は 40%であった。また,Figure 6.9 にリン取り込み速度および活性比をまとめたグ

ラフを示す。

今回の実験において,嫌気/好気条件(AO)の汚泥や好気条件でのリン取り込み阻害がで

きなかった 27 日目よりも十分にリン取り込み阻害ができていた 105 日目の方が無酸素条件

でのリン取り込み速度は高く,活性比も 40%を超えるまで上昇した。また,400 日目には,

好気条件,無酸素条件の PUR (Phosphate Uptake Rate)はそれぞれ,21.3, 9.35

[mg-P/(g-MLVSS·h)]であり,活性比は 44%まで上昇した。この値は,A2N システムのような

外部硝化嫌気無酸素法における値(47-66%)12)に比べ低いものの,A2O プロセスや嫌気/好

気(Anaerobic/Aerobic: AO)法の値よりも 2 倍以上高い値となった。このことから,AOA

プロセスにおいて脱窒性リン蓄積細菌を集積するためには好気条件でリン取り込み阻害さ

せることが必要であり,無酸素条件にリンを残すことができれば A2O 法などのプロセスより

も高度に脱窒性リン蓄積細菌を集積できるプロセスであると思われる。

010203040

50607080

0 30 60 90 120 150 180Time [min]

PO43-

-P, T

OC

, NO

3- -N [m

g・l-1

]

P (Anaerobic / Oxic) P

(Anaerobic / Anoxic)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

0 30 60 90 120 150 180Time [min]

PO43-

-P, T

OC,

NO

3- -N [m

g・l-1

]

(a) Day 0 MLSS=3.875 [g/l] (b) Day 105 MLSS=4.425 [g/l]

Figure 6.8 AOAプロセスにおける(a)0日目,(b)105日目のリン取り込み速度テスト結果

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第 6章

71

6.3.3.3 活性比と好気条件初期に供給する炭素源量・SRT との関係

Figure 6.10 に活性比と好気条件初期に供給する炭素源量との関係を示す。これらには比

較的相関がみられた。好気条件でのリン取り込み阻害と硝化が十分起きる範囲内で好気条件

初期に炭素源を供給すれば,脱窒性リン蓄積細菌の活性を維持することができ,活性比も上

昇することがわかった。

また,好気条件初期に供給する炭素源 40 mg-P/l の時の活性比と SRT との関係を Figure

6.11 に示す。これらには高い相関がみられた。脱窒性リン蓄積細菌の収率は一般的なリン蓄

積細菌と比べ低い 7)と言われており,SRT は脱窒性リン蓄積細菌の活性に影響を与えると考

えられる。本研究においても,活性比に対する SRT の影響は重要であることが示唆された。

以上のように,AOA プロセスにおいて好気条件初期における炭素源供給と長い SRT は脱窒

性リン蓄積細菌を高度に集積するために効果的であることが示唆された。また,AOA プロセ

スにおいて SBR を用いて窒素・リンの同時除去が可能であり,AOA プロセスは脱窒性リン蓄

積細菌を高度に集積できることがわかった。

0

5

10

15

20

25

30

A2O(day 0)

day27

day48

day70

day105

day176

day400

AO

Phos

phat

e up

take

rat

e [m

g-P・

g-M

LVSS

-1・

h-1]

0

10

20

30

40

50

60

Rat

io o

f pho

spha

te u

ptak

e ra

te [%

]

AerobicAnoxicRatio of phosphate uptake rate

Figure 6.9 リン取り込み速度と活性比

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第 6章

72

R2 = 0.9630

10

20

30

40

50

10 15 20 25 30

SRT [days]

Rat

io o

f pho

spha

te u

ptak

e ra

te [%

]

R2 = 0.8770

10

20

30

40

50

0 5 10 15

Supplemented TOC [mg・ l -1・MLSS-1]

Rat

io o

f pho

spha

te u

ptak

e ra

te [%

]

Figure 6.10 活性比と好気条件初期に供給する炭素源量との関係

Figure 6.11 活性比と SRTとの関係

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第 6章

73

References

1) Lee, DS, Jeon, CO and Park, JM. Biological nitrogen removal with enhanced phosphate uptake

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2) 常田聡,安祚煥,大道智孝,大野高史,平田彰,脱窒性リン蓄積細菌を利用した新しい

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第 6章

74

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第 7章

75

第 7章 グラニュールを利用した窒素・リン同時除去技術

7.1 グラニュールの形成について

排水処理プロセスを高効率化する技術として,近年グラニュールと呼ばれる微生物自己造

粒体を用いた水処理技術が注目を集めている。Figure 7.1 に示すように,本技術では,微

生物自身の凝集作用によってグラニュールを形成するため,他の微生物固定化法と異なり,

付着担体やヒドロゲル等を用いることなく大量の有用微生物を処理槽内に維持することが

可能である。このため,本技術は非常に低コストな微生物固定化手段であるといえる。

従来,グラニュールの形成は,嫌気性処理プロセス特有の現象であると考えられていたが,

1990 年代後半になって,半回分式反応槽(Sequencing Batch Reactor:SBR)を用いて好気

性グラニュールの形成が可能であると報告され 1),それ以降盛んに研究が行われるようにな

った。これ以前(1990 年代前半)にも前曝気式の反応槽を用いた好気性グラニュールの形成

は報告されていたが 2),現在研究の主流となっている SBR を用いた好気性グラニュールの形

成は,前述のように 1990 年代後半になってからスタートしている。好気性グラニュールは

嫌気性グラニュールと異なり,窒素・リン除去にも応用可能である。

好気性グラニュールに関する研究は,比較的歴史が浅いため,未だに正確な形成メカニズ

ムは明らかとなっていないのが現状である 3)。しかしながら研究が進むにつれ,好気性グラ

ニュールの形成条件(形成促進因子)は徐々に明らかとなってきた。ここでは,これまでに

報告された主要な形成条件について記述する。

SBR を用いたグラニュールの形成において最も重要な運転条件は,汚泥沈降工程時間の短

縮である。一般に生物処理では,処理水質の悪化を防ぐために,汚泥沈降時間を長めに設定

して,処理槽内の微生物をなるべく処理水中に排出しないように運転を行う。しかしながら,

Figure 7.2 に示すように汚泥沈降時間が長い場合には,沈降性の低い汚泥も処理槽内に留

まってしまう。これに対して汚泥沈降工程時間が極端に短い場合,沈降性の低い汚泥は排出

され,グラニュールのように沈降性の高い汚泥のみがセレクションされることとなる。

McSwain らは,汚泥沈降工程時間のみを変化させて(2分と 10 分)実験を行った結果,沈降

工程時間が短い(2 分)場合にのみ,完全にグラニュール化が進行したと報告している 4)。

(a) (b)

グラニュール(微生物,細胞外代謝物等)

(c)

ヒドロゲル(PVA,PEG等)

微生物

支持担体

生物膜

(プラスチック等)

Figure 7.1 各種微生物固定化法

(a)結合固定化法(生物膜法),(b)包括固定化法,(c)自己固定化法(グラニュール法)

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第 7章

76

Qin らが行った実験においても同様の結果が得られており 5), 6),汚泥沈降工程時間の設定は

グラニュールの形成を促進する重要な操作因子として理解されている。そして,他の好気性

グラニュールに関する研究の多くも,汚泥沈降工程時間を短縮することによってグラニュー

ルの形成に成功している 7)-10)。

担体を用いた生物膜の形成において,せん断応力が生物膜の構造を決める重要因子である

ことがよく知られている。せん断応力が強い場合には密度の高い強固な生物膜が形成され,

逆にせん断応力が弱い場合には,隙間の多い,壊れやすい生物膜が形成されることが報告さ

れている 11)-13)。一方,グラニュールの形成においても,生物膜の形成と同様に,せん断応

力が重要な役割を果たすことが近年明らかとなってきた。Tay らは異なる曝気量で運転を行

うことで,汚泥に与えるせん断応力を変化させて実験を行った結果,曝気によるガス線流速

が 1.2cm/s 以上の場合のみグラニュール化が進行し,ガス線流速が 0.3cm/s の場合はグラニ

ュールが形成されなかったと報告している 14)。この研究の曝気量の範囲(ガス線流速:

0.3-3.6cm/s)では,曝気量が大きければ大きいほど,強固で沈降性の高い汚泥が得られる

という結果が得られている。

また,処理槽内の基質(有機物)が豊富な期間(Feast period)と欠乏している期間(Famine

period)を交互に設けること(Feast-Famine 期間の創出)によって,汚泥の沈降性が増すこ

とが古くから知られている。Chiesa らは,排水の流入を間欠的に行い,Feast-Famine 期間

を創出することで,沈降性の低下を招く糸状性微生物の発生を抑制し,沈降性の高い汚泥を

作ることができると報告している 15)。これはフロックを形成する微生物と糸状性微生物の基

質利用パターンの違いによるものである。そしてグラニュールの形成においても,

Feast-Famine 期間の創出は重要な形成条件の一つとして認識されている。McSwain らは流入

方式を変化させて実験を行い,処理槽内の有機物濃度が豊富な状態(Feast 条件)が創出さ

れた場合には良好なグラニュールが形成され,逆に創出されない場合には糸状性微生物が増

殖し,沈降性の高いグラニュールは得られなかったと報告している 16)。

反応工程中

沈降時間が長い場合

(通常の運転)

糸状細菌,微小フロック,グラニュール等排水

沈降時間が短い場合

汚泥沈降後 排水後

排水

主な粒子:沈降性のいい汚泥

(グラニュール等)

糸状細菌,微小フロック,グラニュール等

空気

Figure 7.2 汚泥沈降工程時間の短縮によるグラニュールのセレクション

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第 7章

77

7.2 グラニュール形成による脱窒性リン蓄積細菌の集積

生物学的窒素・リン同時除去を行うためには,脱窒性リン蓄積細菌の集積のみでなく,硝

化細菌の集積も不可欠である。脱窒性リン蓄積細菌の集積には嫌気/無酸素条件が適してい

ると知られている 17)。一方,通常の硝化細菌は好気性細菌であることから,反応槽内を曝気

によって好気的に保つことが不可欠である。このため,この 2種の微生物を単一槽内に共存

させることは極めて困難である。しかしながら,反応槽内にグラニュールを形成させること

で,硝化細菌と脱窒性リン蓄積細菌を共存させることが可能である。グラニュールの内部で

は微生物の酸素消費に伴い酸素の拡散が生じるため,曝気条件下においても内部に無酸素部

位が生じる。このため,Figure 7.3 に示すようにグラニュール外部の好気部位に硝化細菌

が,グラニュール内部の無酸素部位に脱窒性リン蓄積細菌が増殖可能であると考えられる。

実際に嫌気/好気/無酸素条件化でグラニュールの形成を行い,微小酸素電極を用いてグラ

ニュール内部の酸素濃度の測定を行った結果,Figure 7.4 に示すように酸素は最大でも表

層から約 100μm までしか到達していないことがわかり,グラニュール内部に無酸素部位が

存在することが確認された。

また FISH 法を用いてグラニュール内部の微生物分布の観察を行った結果,Figure 7.5 に

0

1

2

3

4

5

6

-300 -200 -100 0 100 200

Distance (µm)

DO

(mg/

L)

Surface of the granule

Bulk water Granule

Figure 7.4 グラニュール内部の酸素分布

好気部位

硝化細菌

嫌気部位

脱窒性リン蓄積細菌NH4-N

NO3-N

PO4-P Poly-P

N2

好気部位

硝化細菌

嫌気部位

脱窒性リン蓄積細菌NH4-N

NO3-N

PO4-P Poly-P

N2

Figure 7.3 曝気条件下におけるグラニュール内部の微生物反応(概念図)

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第 7章

78

示すように酸素が到達しないグラニュール内部(無酸素部位)にもリン蓄積細菌が存在する

ことがわかった。また,リン蓄積細菌の一部が脱窒能を持っていると報告されていることか

ら 18),無酸素部位に存在しているリン蓄積細菌は脱窒性リン蓄積細菌であることが示唆され

た。また,リン蓄積細菌の競合微生物として知られるグリコーゲン蓄積細菌は,主にグラニ

ュールの表面付近に生息していたことから,脱窒への寄与は困難であると考えられる。

このように,グラニュールの形成は単一槽内で脱窒性リン蓄積細菌を集積するのに効果的

であるといえるだろう。

7.3 グラニュール形成時の窒素・リン除去能

本節では具体的な実験データ 19)を基にグラニュール形成時の窒素・リン除去能について記

述を行う。

嫌気/好気/無酸素条件化で酢酸を主成分とする人工排水(CODCr: 600mg/L, NH4-N: 60mg/L,

PO4-P: 10mg/L)を用いてグラニュールの形成を行い,窒素・リン除去能を調査した。実験

には有効容積 9L の SBR を用い,1サイクル 6時間(流入工程:20 分,嫌気工程:90 分,好

気工程:120 分,無酸素工程:120 分,汚泥沈降工程:0.5 分,排水工程:9.5 分)で運転を

行った。HRT は 18 時間,SRT は 15 日に設定した。

グラニュール形成時(グラニュール平均粒径:約 1 mm)の窒素・リン除去プロファイルを

Figure 7.6 に示す。無酸素工程では通常の栄養塩除去プロセスと同様に DOC の消費および

リン酸の放出が見られた。一方好気工程では,リン酸の取り込み,硝化反応が観察されたが,

NH4-N の減少量に対して NOx-N の増加量が極端に小さかったことから,同時に脱窒反応も進

Figure 7.5 グラニュール内部の微生物分布(緑:PAOs;赤:GAOs),Bar = 100µm

点線はグラニュール表面から 100µm(= 酸素の浸透深さ)の位置を示す。

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第 7章

79

行していることが示唆された。Figure7.6を見ると,好気工程の反応槽内のDOは常に2.5mg/L

以上であり,活性汚泥のように分散した状態でバイオマスが存在する場合は脱窒反応が進行

するのは不可能であるが,グラニュールを形成することで無酸素部位を創出することができ

るので(Figure7.4 参照),脱窒反応が同時に進行したと考えられる。また,反応槽内の DOC

がほとんど変化していなかったことから,好気工程における脱窒は,通常の従属栄養細菌に

よるものではないと考えられる。そして前節で記述したように,グラニュールの内部の無酸

素部位には脱窒性リン蓄積細菌が存在していると考えられるので,好気工程の脱窒を担って

いるのは主に脱窒性リン蓄積細菌であると示唆された。このような特異的な現象が生じるこ

とで,窒素・リンの同時除去を達成することが可能であった。

実験期間中(約 70 日)の処理水中の平均 NH4-N,NOx-N,PO4-P 濃度はそれぞれ<0.1mg/L,

<0.1mg/L,0.3mg/L であり,安定かつ良好な窒素・リン除去能が得られた。このように,グ

ラニュールを利用することで効果的な窒素・リン同時除去手法を確立することが可能である。

7.4

7.6

7.8

8

8.2

0 50 100 150 200 250 300

Time (min)

pH

0

1

2

3

4

5

6

DO

(mg/

L)

0

20

40

60

80

NH

4-N

, NO

x-N

, PO

4-P

and

DO

C (m

g/L

)

Figure 7.6 グラニュール形成時の 1サイクルにおける窒素・リン除去プロファイル

(□:NH4-N,▲:NOx-N,○:PO4-P,△:DOC,実線:pH,点線:DO)

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第 7章

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第 7章

81

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第 8章

82

第 8章 メンブレンエアレーション法を利用した窒素・リン同時除去技術

8.1 メンブレンエアレーション法

シリコーンやポリプロピレンなどをはじめとするガス透過膜は高い酸素透過能を有する

ため,排水処理の酸素富化膜として用いられている。また,ガス透過膜を用いることで通常

の曝気方式とは異なり泡の出ないエアレーションが可能となるため,細胞培養のための酸素

富化にも用いられている。近年では,酸素透過膜の外側表面に生物膜を形成させることによ

り,付着微生物群に特異的に酸素を供給することが可能なメンブレンエアレーション型バイ

オフィルムリアクタ(MABR)の開発が盛んに行われるようになってきている 1), 2)。これらの

技術は現在研究段階であり,特定汚染物質を特異的に除去することが可能であるため,汚染

物質が多様化・複合化する 21 世紀の水環境汚染の打開策になることが期待されている。MABR

において,ガス透過膜は酸素供給素材および微生物固定化担体として機能する。ガス透過膜

には大別すると高密度メンブレン,多孔質メンブレン,この 2つをあわせた複合メンブレン

の 3つが存在し,用途に合わせて利用することが可能である(Table 8.1)。

透過膜に付着した微生物に直接酸素を供給することが可能であること,さらに汚濁物質

(有機物,アンモニアなど)は液相中から,換言すれば酸素供給方向とは逆方向から供給さ

れる。この対向拡散方式は,通常の拡散方式と比較して生物膜内で非常にユニークな反応を

スムーズに起こすことが可能になる。例えば,有機物・アンモニアを含む排水を挙げると,

通常の拡散方式では TOC と酸素が同じ方向から供給されるため,生物膜の外側表面では増殖

速度の高い従属栄養細菌が活性を最大に示し,アンモニアを亜硝酸・硝酸に酸化する硝化細

菌群(これらは化学独立栄養性細菌であり,増殖速度が遅い)が十分な酸素を利用すること

ができない(Figure 8.1 (a))。一方で対向拡散方式では,有機物濃度が最も高い生物膜表

層付近では溶存酸素濃度が最も低く,従属栄養細菌が酸素を利用できる余地はあまり無い。

それに加え,生物膜内側(ガス透過膜表層付近)では酸素濃度が最も高いにたいし,有機物

濃度が最も低い(Figure 8.1 (b))。このような対向拡散方式で形成される生物膜内に形成

される酸素・有機物のユニークな濃度勾配は,増殖速度が遅い硝化細菌群が棲息できる十分

な環境を有することになる。この特異な現象を利用して,これまで硝化・脱窒という二つの

反応を別々に行っていたのに対し,対向拡散方式(MABR で形成される)生物膜内では同時に

行うことが可能となる。MABR による単一槽内硝化・脱窒は既に多くの研究が行われている。

3)-7)

これに加え,ガス透過膜からの酸素供給はガス圧もしくはガス流量の制御により調整可能

である。硝化反応においては MABR を用いることで供給された酸素を硝化細菌群により効率

的に利用されることが明らかにされている。8)~10) このときの酸素利用効率は 100%に近く,

ガス透過膜上に形成される生物膜内で酸素がほぼ完全に利用されており,言い換えれば,

MABR の生物膜内ではバルク液と全く異なる環境を創製することが可能であることを示唆し

ている。

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第 8章

83

Figure 8.1 有機物・窒素除去を志向した各方式で形成される生物膜構造の模式図:

(a) 既存の生物膜;(b) 対向拡散方式の生物膜(MABR に形成される生物膜)

Table 8.1 メンブレンの種類とその特徴

高密度メンブレン 多孔質メンブレン 複合メンブレン

性質 親水性 疎水性 素材に依存

O2の形態 メンブレン内に溶存 気体 気体→溶存

推進力 拡散 対流 対流・拡散

限界ガス圧 高 低 高

コスト 高 低 高

生物膜形成 難 易 易

比表面積 小 大 大

膜厚 大 小 小

主な形式 クロスフロー デッドエンド デッドエンド

適した利用法

・処理悪化のリアクタ

への酸素供給

・EMB*

・MABR

・どのシステムにも適

用可能

(コストが問題)

* 抽出型メンブレンリアクタ

(a) (b)

+

NOx-

有機炭素

O2

NH4+ NH4

+

NOx-

O2

硝化細菌

担体

メンブレン

好気性従属栄養細菌 硝化細菌 脱窒細菌

有機炭素

・溶存酸素の枯渇により硝化細菌が十分

な酸素を得ることができない

・脱窒のための処理槽が必要

・硝化脱菌は常に十分な酸素を得ること

ができる

・外側では脱窒が起こる

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第 8章

84

8.2 メンブレンエアレーション法による窒素・リン同時除去のコンセプト 11)

脱窒と脱リンを同時に行う脱窒性リン蓄積細菌(DNPAOs)の存在が明らかになってきてお

り,この生理学的特徴をうまく利用できれば低 C/N 比排水から窒素・リンを同時に除去する

ことが可能である。12)-16) 既存の研究より,DNPAOs を用いたプロセスで単一槽内にて窒素・

リン同時除去を達成するためには,既に幾つかのプロセスが開発されており,高い窒素・リ

ン除去率を達成している一方で,制御パラメータを増やさなければならず操作因子を煩雑に

せざるを得ないのが現状である(詳細は P.59 Table 6.1 参照)。一方で,ガス透過膜を酸素

供給素材および微生物固定化担体として用いるメンブレンエアレーション法を適用するこ

とで,メンブレンに形成される生物膜に優先的に酸素を供給することが可能である。そこで,

この手法を DNPAOs に適用することで,単一槽内にて安定した窒素・リン除去が可能なプロセ

ス(Sequencing Batch Membrane-Biofilm Reactor; SBMBfR)のコンセプトを紹介する。

SBMBfR は中空糸状ガス透過膜の外側に形成された生物膜部位とバルク部位により構成さ

れる(Figure 8.2)。運転は排水流入後,嫌気工程が開始される。この時点ではガス透過膜

からは酸素は供給されていない。嫌気工程終了後,ガス透過膜内側から酸素を供給する。ガ

ス透過膜外側に形成している生物膜に直接酸素が供給されるため,生物膜内で硝化が起こり,

亜硝酸・硝酸がバルク液中にリークする。バルク液中に DO が存在しない場合,亜硝酸・硝酸

を電子受容体として脱リンが起こる。SBMBfR では酸素供給はガス透過膜のみから行うため,

バルク中は DO が存在しないため,DNPAOs が存在できる環境が創製されていると推測される。

本プロセスはメンブレンエアレーション法の特性を利用することにより,リアクタ内で局所

的に好気部位を創生できるため,単一槽内で効率的かつ容易に栄養塩を除去できることが期

待される。以下より SBMBfR の実用性テストについて概説する。

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

PO43- Poly-P

NO2-

NO3-

N2

NH4+ NO2

-

NO3-

酸素を消費

酸素を用いたリンの取り込みが無くなる (バルク中のDNPAOの優占化)

シリコーンチューブ

酸素

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用される

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

PO43- Poly-P

NO2-

NO3-

N 2

PO43- Poly-P

NO2-

NO3-

N2

NH4+ NO2

-

NO3-

酸素を消費

NH4+ NO2

-

NO3-

酸素を消費

酸素を用いたリンの取り込みが無くなる (バルク中のDNPAOの優占化)

シリコーンチューブ

酸素

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

PO43- Poly-P

NO2-

NO3-

N2

NH4+ NO2

-

NO3-

酸素を消費

酸素を用いたリンの取り込みが無くなる (バルク中のDNPAOの優占化)

シリコーンチューブ

酸素

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用される

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

攪拌翼

流量計

酸素

圧力計

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

中空糸膜

硝化細菌の生物膜

内孔

酸素

バルク:脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)生物膜:硝化細菌

酸素は優先的に硝化細菌に利用されるバルク:脱窒性リン蓄積細菌(脱窒・脱リン)

生物膜内:硝化細菌(硝化)

PO43- Poly-P

NO2-

NO3-

N 2

PO43- Poly-P

NO2-

NO3-

N2

NH4+ NO2

-

NO3-

酸素を消費

NH4+ NO2

-

NO3-

酸素を消費

酸素を用いたリンの取り込みが無くなる (バルク中のDNPAOの優占化)

シリコーンチューブ

酸素 攪拌翼

圧力計流量計

酸素

Figure 8.2 SBMBfR (Sequencing batch membrane biofilm reactor)法の概略図

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第 8章

85

8.3 窒素・リン除去能と微生物群集構造解析 11)

8.3.1 実験装置と運転条件

有効容積 2l の回分式反応槽を 1日 2 サイクル(1サイクル 12 時間,原水(人工排水)注

入 20 分,嫌気 90 分,メンブレンエアレーション 510 分,洗浄工程 10 分,沈殿 65 分,流出

25 分)で運転した。ガス透過膜としてシリコーン製チューブを用い,チューブを繊維体(Fe-Ni

製スラグウール)にて被覆した(これをガス透過膜-繊維複合体と呼ぶ)。この部位にはあら

かじめ無機アンモニア含有排水を処理している硝化細菌を採取し固定化した。バルク液中に

は嫌気/無酸素条件下で馴養していた汚泥を入れた。HRT は 1 日,SRT は 20 日に制御した。

通水試験は 120 日間行い,1サイクルの挙動を評価した。

8.3.2 サイクルにおける挙動評価

1 サイクルの挙動を行ったところ(Figure 8.3),有機炭素(TOC)は,バルク中へのリン

酸の溶出と同時に起こった。アンモニアとリン酸がほぼ完全に除去された 555 分まで,バル

ク中の DO は 0 mg/l に保たれていた。この傾向はガス透過膜-繊維複合体に形成された硝化

細菌群による酸素利用により,酸素利用が起こったものと考える。また,この 1サイクルを

通じて亜硝酸・硝酸はともにほとんど検出されなかったことから,硝化・脱窒・脱リンが同

時に起こっていることが示唆された。酸化還元電位(ORP)プロファイルは本サイクルの傾

向を裏付ける結果となった。つまり,リン酸の取り込みが完了した 500 分以降,ORP の傾き

が増大することになり,ORP が SBMBfR のリアルタイム制御 17), 18)を可能にする指標になりう

ることを示唆している。なお,このサイクルにおける TOC,窒素,リンの除去率はそれぞれ

99,89,99%であった。

0 100 200 300 400 500 6000

10

20

30

40

50

Time [min]

Con

cent

ratio

n [m

g/L

]

Anaerobic Membrane aeration

TOCNH4

+-NNOx

--NPO4

3--P

(a)

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第 8章

86

8.3.3 連続運転結果

連続運転の結果を Figure 8.4 に示す。運転開始直後は窒素・リン除去率に変動が観察さ

れたが,140 日間の運転において窒素・リンともに安定した除去が行われていることが示唆さ

れた。有機物・窒素・リンの平均除去率はそれぞれ 97, 96, 86%であった。この結果より,SBMBfR

を用いることで有機物・窒素・リンを単一槽にて同時除去できることが示された。

Figure 8.3 SBMBfR法による 1サイクルの挙動:

(a) 有機物・窒素・リンの挙動;(b) モニタリング項目の挙動

0 100 200 300 400 500 6006

7

8

9

-400

-200

0

200

Time [min]

pH [-

]pHORPDO

OR

P [m

V]

0

6

9

DO

[mg/

L]

3

Anaerobic Membrane aeration(b)

(a)

0 20 40 60 80 100 120 1400

10

20

30

Time [day]

N-c

once

ntra

tion

[mg/

L]

NH4+-N influent

NH4+-N end of one cycle

NO2--N end of one cycle

NO3--N end of one cycle

Introduction of recirculation pump

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第 8章

87

8.3.4 FISH 法による微生物生態解析

アンモニアを亜硝酸に酸化するアンモニア酸化細菌(AOB)のFISHによる検出結果により,

Nitorosomonas 属に属する AOB が 92%以上を占め,これらの細菌がアンモニア酸化に寄与し

ていることが明らかになった(用いたプローブは NSO19019)と NEU23a20))。Figure 8.5 (a)

にリン蓄積細菌(PAOs),グリコーゲン蓄積細菌(GAOs)をそれぞれ検出するプローブ PAOmix21),

GAOmix22)による結果を示す。PAOs および GAOs の両方がバルク中の汚泥内に存在しているこ

とが明らかになった。一方,AOB はおもにガス透過膜上にクラスターの形で形成されている

ことが確認された(Figure 8.5 (b))。それぞれの微生物群の遷移を評価するために,FISH

法にてそれぞれのプローブから検出された微生物群を計数した結果を Figure 8.6 に示す。

バルク液の汚泥中のサンプルでは,PAOmix に陽性の細菌が徐々に上昇(28-37%)しているこ

とが確認された。この結果はリン蓄積細菌と推測される Accumulibacter が汚泥中に優占し

ていることを示唆している。一方で,PAOs の競合微生物でリン除去悪化に寄与する GAOs で

あるCompetibacterの割合は運転開始直後の10%から134日目には7%に減少した(Figure 8.6

(a))。以上の結果は GAOs にとって不利な環境がバルク液中に形成されていることを示唆し

ており,SBMBfR 法を用いることで高いリン除去率が達成できることを示している。一方,AOB

の検出結果,AOB はバルク液の汚泥中にはほとんど存在しない一方,ガス透過膜-繊維複合体

内に保持されていることが明らかになった(Figure 8.6 (b))。まとめると,ガス透過膜-

繊維複合体を利用することで,局所濃度で好気部位を創製可能であり,それぞれの部位に応

じた処理を担う微生物群が生息して窒素・リンの処理に寄与していることが明らかになった。

つまり,SBMBfR 法のコンセプトを体現することが可能であった。

(b)

0 20 40 60 80 100 120 1400

20

40

60

Time [day]

P-co

ncen

trat

ion

[mg/

L]

PO43--P influent

PO43--P end of anaerobic

PO43--P end of one cycle

Introduction ofrecirculation pump

Figure 8.4 SBMBfR法による連続運転の水質結果:

(a) 窒素の挙動;(b) リン酸の挙動

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第 8章

88

Figure 8.5 FISH法による SBMBfR内の特定微生物の検出(運転開始後 55日目):

(a) 汚泥サンプル(緑:Accumulibacter,オレンジ:Competibacter,青:全真正細菌)

(b) 生物膜サンプル(マジェンタ:Nitrosomonas属の AOB,青:全真正細菌)

*バーは 10 µmを表わす。

(a)

0

20

40

60

80

100

Perc

enta

ge to

DA

PI-c

ount

cel

ls [%

]

PAOmix GAOmix NEU23a

on day 0 on day 55 on day 128 on day 134

Suspended sludge

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第 8章

89

8.4 今後の展望

ガス透過膜-繊維複合体の難点として汚泥が堆積することで,排水成分が閉塞し,硝化細

菌群へのアンモニアの供給が律速になることが懸念される。これまでに行われた実験はラボ

レベルのものであり,実用性を見据えると最適なガス透過膜-繊維複合体およびそれのモジ

ュール化,ならびに過剰に形成された生物膜を剥離させる洗浄工程の詳細の検討が非常に重

要になってくる。Semmens ら 23)はガス透過膜を用いた MABR の実用化に向けて課題・問題点

を列挙しており,SBMBfR 法の今後の課題を明示しているといえる。

(b)

0

20

40

60

80

100Pe

rcen

tage

to D

API

-cou

nt c

ells

[%]

PAOmix GAOmix NEU23a

on day 0 on day 55 on day 128 on day 134

Biofilm

Figure 8.6 SBMBfR中のアンモニア酸化細菌(NEU23a),リン蓄積細菌(PAOmix),

グリコーゲン蓄積細菌(GAOmix)の遷移:

(a) バルク液中の汚泥サンプル

(b) ガス透過膜-繊維複合体中の生物膜サンプル

* エラーバーは標準偏差をあらわす(n=10)

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第 8章

90

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第 8章

91

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Identification of polyphosphate-accumulating organisms and design of 16S rRNA-directed

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Proc Biofilms 2004: Structure and Activity on Biofilms 2004:3-8.

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第 9章

92

第 9章 特許情報のデータベース

9.1 特許情報のデータベース

9.1.1 我が国で公開されている特許

本章では我が国で窒素,リン除去に関して公開された特許項目を掲載する。

① 特許番号

特許公開番号 特許3271326号

特許権者

出願人

栗田工業

株式会社 発明者

深瀬 哲朗

(外 1名)

発明の名称 生物脱リン方法および装置

発明に属する

技術分野

本発明は,難生物分解性有機物およびリンを含む排水の生物脱リンおよび

装置に関するものである。

② 特許番号

特許公開番号

特開平

04- 151000

特許権者

出願人

株式会社

明電舎 発明者 松永 旭

発明の名称 窒素およびリンの同時除去方法およびその装置

発明に属する

技術分野

本発明は,流入水とともに炭素源を嫌気槽に導入後,その導入水を嫌気槽

内に補填されたチオ硫酸鉄と反応させ,チオ硫酸鉄から溶出される硫黄分

および鉄分を含んだ水を,脱窒槽に導入しこの槽で硫黄脱窒反応を生起さ

せた後,脱窒槽から流出した水を好気槽に流入させて硝化菌により硝化さ

せると共に一部を脱窒槽に返送させ,好気槽からの流入水は沈殿槽を介し

て上澄み水を処理水として排出することを特徴とする,窒素およびリンの

同時除去方法。

③ 特許番号

特許公開番号

特開平

11- 57780

特許権者

出願人

株式会社

東芝 発明者

堤 正彦

(外 3名)

発明の名称 下水処理場,その計測装置およびその支援装置

発明に属する

技術分野

本発明は,嫌気性無酸素好気法(A2O 法),循環式硝化脱窒法,嫌気好気活性

汚泥法(AO 法),凝集剤添加活性汚泥法等の生物学的処理もしくは生物学的

処理と化学的処理の組み合わせで下水中の窒素・リンを除去する窒素・リ

ン除去型下水処理場,窒素・リンの除去を高効率でかつ安定して

運転管理するための計測装置および支援装置に関する。

④ 特許番号

特許公開番号

特開 2000

- 93992

特許権者

出願人

株式会社

西原環境

衛生研究所

発明者 伊東 崇

(外 1名)

発明の名称 排水処理システム

発明に属する

技術分野

本発明は,下水等の被処理水中に含まれる有機物のみならず,窒素やリン

をも同時に効率よく除去するための排水処理システムに関するものであ

る。

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第 9章

93

⑤ 特許番号

特許公開番号

特開 2000

- 93998

特許権者

出願人

財団法人

韓国科学

技術研究院

発明者

朴わん

ちょる

(外 2名)

発明の名称 高濃度廃水を処理する方法および装置

発明に属する

技術分野

本発明は,土壌微生物を利用して,高濃度の有機物や,特に窒素および

リンを含有する畜産廃水または有機性産業廃水を,効率的に浄化処理する

ための廃水処理方法および装置に関する。

⑥ 特許番号

特許公開番号

特開 2000

- 325986

特許権者

出願人

株式会社

西原環境

衛生研究所

発明者 伊東 崇

(外 1名)

発明の名称 リン除去工程を有する廃水処理装置

発明に属する

技術分野

本発明は,下水等の廃水中のリンを除去すると同時に効率よく回収して

リン資源として有効活用するためのリン除去工程を有する廃水処理装置に

関するものである。

⑦ 特許番号

特許公開番号

特開 2000

- 325988

特許権者

出願人

株式会社

西原環境

衛生研究所

発明者 矢口 淳一

発明の名称 汚泥濃縮手段を有する廃水処理システム

発明に属する

技術分野

本発明は,下水等の廃水を生物学的に処理するシステム,特に廃水中に

含まれる有機物,窒素およびリンを同時に除去する汚泥濃縮手段を有する

廃水処理システムに関するものである。

⑧ 特許番号

特許公開番号

特開 2000

- 325992

特許権者

出願人

株式会社

西原環境

衛生研究所

発明者 矢口 淳一

発明の名称 汚泥濃縮手段を備えた廃水処理装置

発明に属する

技術分野

本発明は,下水等の廃水中に含まれる有機物,窒素およびリンを同時に

生物学的に処理する汚泥濃縮手段を備えた廃水処理装置に関するもの

である。

⑨ 特許番号

特許公開番号

特開 2001

- 205298

特許権者

出願人

富士電機

株式会社 発明者 古屋 勇次

発明の名称 下水汚泥の処理方法

発明に属する

技術分野

本発明は,下水汚泥を濃縮・脱水処理する過程で,汚泥中に硝酸性窒素,

溶存酸素がなくなると,微生物は細胞内にポリリン酸として蓄積・固定化

していたリンをオルトリン酸として水中に放出し,排水中のリン濃度が

高まるという問題があり,本発明はこの問題を解決した下水汚泥の処理法

を提供した。

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第 9章

94

⑪ 特許番号

特許公開番号

特開 2002

- 159992

特許権者

出願人

財団法人

韓国科学

技術研究院

発明者

朴わん

ちょる

(外 3名)

発明の名称 バイオメーカーを用いる高濃度有機性廃水の処理方法および装置

発明に属する

技術分野

本発明は,窒素成分とリン成分が多い,高濃度の糞尿または畜産廃水を

処理するための廃水処理方法に関する。

⑫ 特許番号

特許公開番号

特開 2003

- 53384

特許権者

出願人

新日本製鐵

株式会社 発明者

三木 理

(外 4名)

発明の名称 廃水からの窒素・リンの除去方法及びその装置

発明に属する

技術分野

本発明は,廃水中に含まれる窒素・リンを安定的かつ効率的に除去する

ことを目的とする。

⑬ 特許番号

特許公開番号

特開 2003

- 200190

特許権者

出願人

株式会社

東芝 発明者

小原 卓巳

(外 5名)

発明の名称 下水処理場水質制御装置

発明に属する

技術分野

本発明は,曝気槽を備えた下水処理場から放流される処理水の水質を制御

する下水処理場水質制御装置に係り,特に下水処理場に流入する流入水の

窒素成分と有機成分との比(C/N 比),リン成分と有機物成分との比(C/P 比)

等の水質バランスが悪化したような場合においても,下水処理場から放流

される処理水の窒素,リンの水質を常に良好に維持できるようにした下水

処理場水質制御装置に関するものである。

⑭ 特許番号

特許公開番号

特開 2003

- 251381

特許権者

出願人

旭化成

株式会社 発明者

久保田 昇

(外 4名)

発明の名称 メンブレンバイオリアクタによる窒素除去方法

発明に属する

技術分野

本発明は,排水等の有機性汚染水あるいはアンモニア態窒素汚染水等の

浄化に有効な,単一槽型硝化脱窒メンブレンバイオリアクタによる水中の

アンモニア態窒素の除去方法を提供する。

外表面上に硝化菌および脱窒菌を含む生物膜が固定された多孔性中空糸

膜を用い,該当中空糸膜内表面側に酸素を含む気体を供給し,外表面側に

原水を供給することで,原水中のアンモニア成分を多孔性中空糸膜外表面

上の生物膜中で硝化・脱窒を完了できる。

⑩ 特許番号

特許公開番号

特開 2002

- 11495

特許権者

出願人

新日本製鐵

株式会社 発明者

三木 理

(外 2名)

発明の名称 排水からの窒素・リンの除去方法

発明に属する

技術分野

本発明は,排水中に含まれる窒素・リンを安定的かつ効率的に除去する

方法に関するものである。

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第 9章

95

⑮ 特許番号

特許公開番号

特開 2003

- 285096

特許権者

出願人

学校法人

早稲田大学発明者

常田 聡

平田 彰

発明の名称 窒素・リン同時除去型排水処理方法

発明に属する

技術分野

本発明は,脱窒性リン蓄積細菌(DNPAO)を利用した排水処理方法を提供

することを目的とし,これにより排水の効率的な脱窒および脱リンを可能

とする。

⑯ 特許番号

特許公開番号

特開 2004

- 202387

特許権者

出願人

株式会社

荏原製作所

栗田工業

株式会社

発明者 加太 孝幸

(外 11 名)

発明の名称 汚水処理方法

発明に属する

技術分野

本発明は,窒素およびリンを含有した有機性汚水を生物学的に処理する

汚水処理方法に関するものである。

⑰ 特許番号

特許公開番号

特開 2004

- 237170

特許権者

出願人

新日鐵化学

株式会社 発明者

市口 哲男

(外 3名)

発明の名称 硝酸性窒素及びリン含有水の処理方法及び処理装置

発明に属する

技術分野

本発明は,農業系排水,地下水,河川,湖沼等の自然水や,畜産排水,水

産養殖等の水槽水や工業用排水等の硝酸性窒素及びリンを含有する水を脱

窒・脱リンする処理方法,及び処理装置に関するものである。

⑱ 特許番号

特許公開番号

特開 2005

- 74407

特許権者

出願人

株式会社

奥村組 発明者 亀田 茂

発明の名称 水質浄化施設

発明に属する

技術分野

本発明は,水質浄化施設に関し,特に,水域を富栄養化する原因となる窒

素やリンを産業廃棄物を活用して効率良く除去する水質浄化施設に関す

る。

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Appendix

本調査に関連する文献リスト

1) Ahn, J, Daido, T, Tsuneda, S and Hirata A. Metabolic behavior of denitrifying phosphorus

accumulating organisms under nitrate and nitrite electron acceptor conditions. J Biosci Bioeng

2001;92:442-446.

2) Ahn, J, Daidou, T, Tsuneda, S and Hirata, A. Selection and dominance mechanisms of denitrifying

phosphate-accumulating organisms in biological phosphate removal process. Biotechnol Lett

2001;23:2005-2008.

3) Ahn, J, Daido, T, Tsuneda and Hirata, A. Characterization of denitrifying phosphate-accumulating

organisms cultivated under different electron acceptor conditions using polymerase chain

reaction-denaturing gradient gel electrophoresis assay. Water Res 2002;36:403-412.

4) Ahn, J, Daido, T, Tsuneda and S, Hirata, A. Transformation of phosphorus and relevant

intracellular compounds by a phosphorus accumulating enrichment culture in the presence of both the

electron acceptor and electron donor. Biotechnol Bioeng 2002;79:83-93.

5) Tsuneda, S, Miyauchi, R, Ohno, T, Hirata, A. Characterization of denitrifying

polyphosphate-accumulating organisms in activated sludge based on nitrite reductase gene. J Biosci

Bioeng 2005;99:403-407.

6) Tsuneda, S, Ohno, T, Soejima, K and Hirata, A. Simultaneous nitrogen and phosphorus removal

using denitrifying phosphate-accumulating organisms in a sequencing batch reactor, Biochem Eng J

2006;27:191-196.

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97

廃水処理分野におけるマイクロバブルの応用技術基礎調査

1.はじめに

河川浄化技術としては一般的には生物的、物理的な処理が受け入れられ易く広く普及し

ている。マイクロバブルは物理的処理の範疇に入る技術であり、薬品を使わないで水質改

善の効果が期待され、化学工学学会、日本混相流学会等で注目されている新技術の一つで

あり、水処理分野で広く活用する機運が高まっている。

マイクロバブルに期待される効果としては汚濁水の浄化、湖沼浄化、汚染面の洗浄など

かあげられる。また最近では、マイクロバルブによる微生物活性化効果利用した、廃水中

の窒素、リン除去や余剰汚泥減容化等の研究、開発が行われている。

将来的な河川浄化技術としての実用化の可能性を検討するため、マイクロバブルの特性

調査と研究成果報文の調査ならびに予備的な基礎試験を実施した。

2.マイクロバブルを含む溶液の性質

マイクロバブルの処理特性を調査するに当たり、最初にマイクロバブルの性状に関する

報文を整理した。

2.1 マイクロバブルのサイズと水中における挙動

氷室は水中におけるマイクロバブルの挙動を顕微鏡で写真撮影することに成功した[1].

水槽中で動き回っているマイクロバブルの挙動を捕らえるのは至難の業である.そこで,

顕微鏡でマイクロバブルを捕らえるために,小さいセルの中にいくつかのマイクロバブル

を封じ込めた.

図 1 にマイクロバブルの撮影結果を示すが,撮影開始から 185 秒まで撮影したものであ

る.よく観察すると小さいマイクロバブルは収縮し,大きいマイクロバブルはそのままの

大きさで存在していることがわかる.図中 0 秒で 29μm のマイクロバブルは 185 秒後には

顕微鏡で捕らえることはできなかった.一方,0 秒で 105μm のマイクロバブルは 185 秒た

っても大きさは変化しなかった.このように顕微鏡でマイクロバブルを観察することで,

水中で収縮するマイクロバブルと収縮しないマイクロバブルが存在することがわかった.

そこで,直径37μmのマイクロバブルを30秒ごとに顕微鏡で観察し,撮影した.マイクロ

バブルの直径が37μmのときを0秒としたが,時間とともに小さくなっていき,350秒で目視

できなくなるくらい小さくなった.これまで水中に発生したマイクロバブルは水面まで上

昇して消失すると思われたが,このようにこの程度の大きさのマイクロバブルは,水中で

だんだん小さくなり消失することが判明した.

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98

そこで,直径の異なるいくつかのマイクロバブルについて観察した.その結果を図 2 に

時間に対する大きさの変化として示す.だいたい 40μmのバブルは 6 分程度で消失するよ

うである.

直径 100μm 以下のマイ

クロバブルは大きさに応じ

て寿命をもっていることが

わかるが,空気の水への溶

解度に関係なく,マイクロ

バブルの大きさで寿命が決

まっていることが判明した.

一方,直径 100μm 以上の

マイクロバブルは,本実験

では小さくならなかった.

むしろ大きくなる傾向が見

られた.もちろん,実験条

件によっては直径 40μm

のマイクロバブルでも大き

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99

くなっていく場合はある.また,本研究室では直径 2μmのマイクロバブルを撮影すること

に成功したが,それより小さいマイクロバブルを観察することはできなかった.したがっ

て,ナノバブルなるものの存在は,ここでは確認できていない.

2.2 マイクロバブル処理による水の物理化学的性状変化

温度を 25℃に調節した恒温水槽に 27dm3の水道水および蒸留水を満たし,マイクロバブ

ルで一定時間処理した.処理した水道水および蒸留水について密度,残留塩素濃度,pH,

粘度,表面張力を測定した.密度測定は 10cm3の比重瓶を用いて,25℃に調節した恒温水槽

中で測定した.水中の気泡はロータリーエバポレータで除去し,目視でなくなったのを確

認した.残留塩素濃度はパックテストを用いて行った.pH測定は(株)ベックマンのφ50 pH

Meter を用いて行った.蒸留水は(株)大科電気の蒸留装置を用いて蒸留し,得られた蒸留水

をさらに常圧蒸留法で再び蒸留して初留を十分に除いた後の留分を使用した.粘度はウッ

ベローデ型毛細管粘度計を用いて 25±0.01℃に調節した恒温水槽中で測定した.表面張力

は液滴法の一種である滴重法を用いた.

①pH

蒸留水の pHはバブリングにより減少するが,水道水の pHは図 3に示すようにバブリン

グすることにより徐々に上昇した.こ

れは水道水中に含まれていた CO2が大

気中へ逃散して pH が上昇したものと

思われる.今回,バブリング時間を 8

時間まで行ったところ,27dm3 の水道

水では 5 時間程度まではバブリングす

ることで pH が上昇したが,その後は

一定の値を示した.また,4℃と 42℃

でバブリングした水道水の pH を測定

したところ,バブリング時間とともに

大きな変化は見られなかった.

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100

②表面張力

水の表面張力は,水銀などの液体金属を除けば,多くの液体に比べて異常に大きい.こ

の現象は,分子間引力に基づいている.水の場合,分子量は小さいが,水分子同士の水素

結合により,表面分子の内部への力が大きくなり表面張力が大きくなっている.図 4 にバ

ブリングした時間に対する水道水の表面張力をプロットした.水道水をバブリングするこ

とで表面張力は低下現象を示し,温度を数度上げた状態に似た水の性質を示した.この表

面張力の減少から考えられるのは,水分子のクラスターが小さくなったことである.小さ

いクラスターは大き

いクラスターに比べ

相互作用している水

分子の数が少ないの

で,より少ないエネ

ルギーで表面積を広

げることができる.

しかし,実際そうな

っているかどうかを

知ることは容易では

ない.

③粘度

このことを明らかにするためバブリングした水道水の粘度を測定したところバブリング

時間が長ければ長いほど水の相対粘度が減少した.これは明らかにバブリングで水の水素

結合が切断され,水のクラスターが小さくなったことを示すものである.

3.各種マイクロバブル発生装置の特性比較

小さい気泡を発生させる方法に関心がもたれるようになったのは未だ日が浅く、2000 年

以降のことである.これまでは,一般に曝気槽などで気体を発生させるために散気板,散

気管あるいはディフューザーなどが使用されている.これらは,小さい孔を多数あけた板

を通して液中へ圧縮空気を送り込むといった原理からなっているため,細孔から気体が発

生するときに合体してしまう.したがって,この方法から発する気泡の直径は 1mm以下の

ものは極めて少ない[2].

マイクロバブルの発生装置については多くの報文があるが、ここには主として出願特許

等の内容について比較検討し実用性を評価した。

3.1 松永(特許公開平11-333491,株式会社テラボンド)

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101

直径 1mm 以下のマイクロバブルを発生するマイクロバブル発生装置の先駆的な発明は,

松永(特許公開平11-333491,株式会社テラボンド)によってなされている.汚

れた湖沼や河川の用水にマイクロバブル(微細気泡)を噴流混合することで,水生動物や

水性植物環境に好ましい溶存酸素量の多いバブル水を供給できる浄水装置である.

装置は図 5 に示すように,漏斗状を成す円錐容体(1)の頂部側に噴流口(2)を設け,

他方,対向側の底部の縁部(3)には,円錐容体(1)内部側に一定長入り込ませて成る,

先端部を細くした空気吸入口(4)を有する漏斗壁(5)を,前記,円錐容体(1)に一

体に形成し,さらにその円錐容体(1)の縁部(3)周囲2ケ所には,円錐容体(1)の

内壁に添わせるような角度で,かつ一定間隔を成して取り付けられる流入管(6)を設け

ている.

その後,発明されたマイクロバブル発生装置のいくつかを紹介するが,マイクロバブル

の発生方法に関する学術的な報告は極めて少なく,紹介する発生装置がきちんとマイクロ

バブルを発生するかどうかは定かではない.特許として公開されている例のいくつかを挙

げる.

3.2 長谷川ら(特許公開2005-

334869,独立行政法人科学技術

振興機構)

パイプ内にプレートを設置し,流れ

る水の流速変化を起こしてパイプ内

を負圧にすることで気体の自給を行

い,さらにパイプ内に設置したプレー

トとパイプに形成した開口(例えばス

リット等)のみを使用して,発生する

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102

泡のマイクロ化を行うことができるマクロバブル発生方法を提供している.

図 6 に示されるように,液体中に配置した本体パイプ9内に気体供給管を配置し,本体

パイプ内を流れる液体の流速によって本体パイプ内で発生する負圧を利用し,気体供給管

2から気体を本体パイプ9内に導入し,本体パイプ内で気体と液体を混合し,その後本体

パイプ内で下流側に配置したプレート11に衝突させてマイクロバブルを発生させること

を特徴とするバブル発生方法である.またパイプに傾斜を有するスリットを形成すること

でもマイクロバブルを発生できる.

3.3 清水(特許公開2005-305219,

協和工業株式会社)

一般家庭でも簡単にマイクロバブル水を製

造できるマイクロバブル発生装置を提供して

いる.

装置は,図 7 に示すように,液体を通過さ

せる流路と,吸引される気体を導入する気体導

入路とを備えるアスピレータと,該アスピレー

タの液体排出口から下流に設けられ該アスピ

レータから排出された液体を導通させる管状

体を含んでなり,該管状体の内周壁に該管状体

の長手方向を軸とする螺旋状に凸条が形成さ

れたマイクロバブル発生装置であり,前記凸条

の条方向と直角の外断面形状が,中央部で該管

状体の中心軸に向けて突出し,一の端部から該

中央部に向けて勾配が漸増する曲線の一対が

組合わされた山形形状である前記マイクロバ

ブル発生装置である.

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103

3.4 八尋ら(特許公開2005-882,株式会社オ-ラテック)

コンプレッサーを使用することなく

1台のポンプで効率よくマイクロバブ

ルを発生することができるマイクロバ

ブル発生装置を提供している.

図 8に装置を示すが,ポンプ4の水吸

い込み側に接続された吸込管1と,ポ

ンプ4の水吐き出し側に接続されると

ともに加圧タンク7内に接線方向に吐

水して旋回流を形成するタンク内吐水

ノズル5の接続管とにそれぞれにマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生ノズル

2を設け,加圧タンク内の中央に前記旋回流により気柱が形成されるのを防止する気柱形

成防止部材9を立設し,加圧タンク7の吐出口に気泡混入防止部材11を設けたマイクロ

バブル発生装置である.

3.5 土屋ら(特許公開2004-32195

9,日立エンジニアリング株式会社)

一般家庭,食品製造業等から排出される廃

液中に含まれる有機物を効率よく酸化分解す

る装置として提供している.

図 9に示すようにマイクロバブル発生装置1

にオゾン発生装置4より生成されたオゾンガ

スと処理槽3の下部から抜き出された廃液を

加圧ポンプ5を介して供給するもので,生成

されたオゾンマイクロバブルをガス吹き出し

パイプ2の開口部より処理槽3内の廃液中に

通気するものである.

3.6 矢部ら(特許公開2004-121962,独立行政法人産業技術総合研究所)

従来その存在すら確認できなかったナノバブルの実存を解明し,かつそのナノバブルの

製法を先に確立している.そこで更に,発生しているナノバブルの特性について理論的に

予想される特性を確定し,また実験により得られたデータを解析して新たな特性を発見し,

それらの特性の相互関係を解明することによりナノバブルを有効に利用する分野を提示し

ている.

図 10に矢部らのマイクロバブル発生装置を示すが,ナノバブルには浮力の減少,表面積の

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104

増加,表面活性の増大,局所高圧場の生成,静電分極の実現による界面活性作用と殺菌作

用等の特性が存在することが明らかになり,それらが相互に関連することによって,汚れ

成分の吸着機能,物体表面の高速洗浄機能,殺菌機能によって各種物体を高機能,低環境

負荷で洗浄することができ,汚濁水の浄化を行うことができる.また生体へ適用して疲労

回復等に利用し,化学反応にも有効に利用できるとしている.

3.7 佐田富(特許公開2003-305494,財団法人くまもとテクノ産業財団)

バブルの発生に要するエネルギーが低減され,製作のための加工が容易で安価に製造で

き,バブルの粒径の調整が容易なマイク

ロバブル製造装置を提供している.

装置は,図 11に示すが,加圧した水を

供給し,自吸空気と共に排出させるため

のパイプと,パイプの中間部に位置し,

パイプの中に挿入された球状体と,球状

体の挿入中心から下流にパイプの周上

に穿設された小孔と,小孔の外側に設け

られた大気と連通している空気室とか

らなるものである.

3.8 八尋ら(特許公開2003-126665,株式会社オ-ラテック)

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105

構造が簡単で,適用性が高く,しかも

微細な気泡を効率的に得るという要求特

性を満たすマイクロバブル発生装置を提

供している.

装置は,図 12 に示すが,有蓋有底円筒

状の旋回流発生筒6の底部近傍に加圧液

体を中心軸線に対して偏倚して導入する

加圧液体導入孔2と底部を貫通して中心

軸線と同軸に設けられた乱流防止筒8を

備えた気柱生成空間11と旋回流発生筒

6の頂部中心軸を貫通して設けられた気

体導入量を調整する調整弁12を設けた

気体導入管3とその下端に接続され,吐

出される加圧気液を導入する加圧気液導

入孔25と,吐出側において導入孔面積

よりも断面積を大きくしたキャビテーシ

ョンノズル20を備えている.

3.9 住田(特許公開2003-117365,株式会社丸八ポンプ製作所)

気体混入比が高い気液混合流体をポンプで短時間に加圧・撹拌し,気体を細かく粉砕し

て液体中に効率よく溶け込ませ,微細で均一なマイクロバブルを経済的に発生する装置を

開発している.

装置を図 13に示すが,吸液配管6及び吸気配管7を吸入配管5を介して気液混合ポンプ1

の吸込口4に接続する.気液混合ポンプ1の吐出口15に吐出配管16を接続し,吐出配

管16上に抵抗器2を設ける.

抵抗器2の内部に障壁板を設け,

その下部に半月形状のオリフィ

スを形成する.気液混合ポンプ

1において,ケーシングの内周

に径方向に狭い環状の流体通路

を形成し,羽根車の外周に流体

通路に突出する多数の撹拌羽根

を設ける.気液混合ポンプ1の

回転速度をインバータ3で制御

するものである.

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106

3.10 千田ら(特許公開2002-2

14225,科学技術振興事業団)

測定者間の個人差が生じることを防

止することができるマイクロバブル作

製方法およびその装置を提供している.

マイクロバブル作製装置は,図 14 に

示すが,羊水や胃液などの液状の検体

(1)を吸引・排出して泡立てる.こ

のマイクロバブル作製装置は,注射針

(17b)で検体を吸引・排出すべく

注射器(17)のシリンダ(17a)

を支持するシリンダ支持具(19)と,

前記注射器のピストン(17c)を往

復動する駆動装置(23)とを備えて

いる.

3.11 大成(国際公開番号WO00/69550)

旋回式で微細気泡発生させる装置を発明しているが(図 15),有底円筒形のスペース(1)

又は入口部が閉塞されたメガホン形状のスペースを有する容器本体と,同スペースの内壁

円周面の一部にその接線方向に開設された加圧

液体導入口(2)と,前記円筒形スペースの底部

(3)又は前記メガホン形状のスペース入口部に

開設された気体導入孔(4)と,前記円筒形スペ

ースの先部又は前記メガホン形状のスペースの

先部に開設された旋回気液混合体導出口(5)と

から構成され,該装置によれば,微細気泡を工業

的規模で容易に生成することができ,かつ比較的

小型で簡単な装置のため製作が容易であり,該装

置は池,湖沼,ダム,河川等の水質浄化,微生物

による汚水処理,魚類,水棲動物等の養殖等,水

耕栽培液中の酸素及び溶存量の向上・収穫率の向

上等に有効に使用されている.

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3.12 高橋ら(特許公開平9-169293,石川島播磨重工業株式会社)

船体に作用する摩擦抵抗を低減させるために用いるマイクロバブルを,効率よく発生さ

せる装置を発明している.

装置を図 16 に示すが,ブロワ3に,上下方向に

配した空気パイプ4の上端を接続し,空気パイプ4

の下端部に,ノズルヘッダー5を連通接続している.

ノズルヘッダー5は,左右対称の湾曲形状とし,左

右両端部の外側面部に,多数のスリットノズル6を

有する.船体の玄側部に,船外へ向けてスリットノ

ズル6を露出位置させ,船体にブロワ3を設置して

いる.ブロワ3から供給した加圧空気9を,空気パ

イプ4を通しノズルヘッダー5に導いてスリットノ

ズル6より水中に吹き出させ,不安定界面を利用し

てマイクロバブルを発生させるというものである.

3.13 加藤ら(特許公開平9-207874)

船体表面に作用する摩擦抵抗の低減に寄与す

るマイクロバブルを効率よく発生させる装置を

発明している.

装置を図 17に示すが,船体1の船首部2にお

ける船体外板1aの所要位置に,多数の細孔6

を穿設している.船体外板1aの側の細孔穿設

部を取り囲む位置に,空気送給管10を介して

ブロワ5に接続した空気チャンバ形成ボックス

8を固設している.細孔6の配列ピッチ間隔D

を,細孔6の直径dの2.5~5倍程度として

る.航行時に船体外板1aに接する水11の流

速VL から,細孔6を通して吹き出される加圧

空気12の速度VA を差し引いた値が1.5m

/sec 又はそれ以上となるように設定している.

以上,最近の特許から調べたマイクロバブル

の発生装置であるが,このほかに,藤原はベン

チュリ管に気液混合物を流動させてマイクロバ

ブルを発声させる方法を開発している[3].また,

最近注目を集めているのが,加圧溶解式のマイ

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クロバブル発生装置である.ヘンリーの法則を利用した方法で,加圧した水槽内に一旦気

体を溶かし込み,それを急激に減圧することでマイクロバブルを発生させる方法である[4].

さらに,流路形状の急変によって生じる強い剪断場を用いたり[5],あるいは管内に固体球

を挿入し,それによって生じる強い剪断場を利用した機械的方法[6]が報告されている.そ

の他に,Gordilloは液排出時に生じる細い気柱を用いた装置を開発している[7]し,超音波を

使って,微細キャビテーション気泡を発生させる方法[8]もある.

3.14 氷室(特開2005-270935)

超微細気泡を含む液体の混合流体を簡潔な構造で効率よく生成することのできる超微細

気泡発生装置を開発した.

装置を図 18-1に示すが,超微細気泡(b)を含む

液体(a)の混合流体を発生させるための装置で

あって,吸入部の前方が円錐状に内径が小さくな

る構造で,この円錐状のテーパー管の傾斜側周面

部分に液体(a)を取り込む液体導入口(7)を

備え,テーパー管の先端部分から気体(c)を取

り込む細管の気体導入口(8)を備えている.

本マイクロバブル発生装置は空気を自給するタイプで,コンプレッサを用いずにポンプの

みでマイクロバブルを発生させることができる.発生するマイクロバブルの直径は,94%が

28μm 以下である.おそらく世界で一番小さなマイクロバブルを発生する装置であろう.

このマイクロバブルの大きさについては,Dyna Flow社によって開発された音響式気泡分布

径分布計測装置(Acoustic Bubble Spectrometer, ABS)を用いて測定した.5分間マイクロバブ

ルを発生させた直後,停止して測定した結果を図 18-2に示す.

この音響的方法による ABSは 28μm以下のマイクロバブルの大きさを測定できない.し

たがって,本マイクロバブル発生装置は,極めて小さな気泡を発生する装置といえる.

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4.マイクロバブルの実施応用例

最近マイクロバブルの実施応用例は急速に増え始めている.しかし,報告されているす

べての例のようにマイクロバブルが必ず効果を示すとは限らない。すなわちマイクロバブ

ルは発生装置の種別により性状が異なり、処理対象物の状態により効能の発揮の仕方が変

わることが考えられる。したがって,以下に特許の応用例を示すが,申請された内容をそ

のまま示すものである.

4.1 製紙・紙パ廃水の浄化

北川ら(特許公開2006-102743,株式会社 ケイ・アイシステム)は,黒液の

処理にマイクロバブルを応用しているが,製紙・紙パルプ製造業から排出されるアルカリ

性の黒液からリグニンやアルカリ成分を効率的に分取するとともに,分離後の水を浄化水

となす方法を提供している.黒液に酸を加えてpHを2.5~3.5になるまで調整し,

凝集剤を加え,黒液中に含まれるリグニンを沈降させて,リグニンと上水に分離するとと

もに,分離後の上水にオゾンガスを,好ましくはマイクロバブルとして接触反応させるこ

とにより,上水を浄化するというものである(図 19).

4.2 バラスト水の浄化

山本(特許公開2006-88115,栗田工業株式会社)は,船舶の既存の設備を大

きく変えることなく,簡単な設備と操作により,安価に有害微生物を殺傷もしくは増殖機

能を損傷することができ,環境への悪影響の少ないバラスト水の処理方法および装置を提

供している.

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図 20に装置を示すが,バラスト水の一部を昇圧ポンプ3によりマイクロバブル発生装置

4に送り,前処理装置5で前処理し

た排ガスをプラズマ化処理装置6に

送り,放電によりプラズマ化処理し,

プラズマ化処理ガスをマイクロバブ

ル発生装置4に供給して微細化し,

マイクロバブルを発生させ,マイク

ロバブル生成水をマイクロバブル混

合装置2に供給して残部のバラスト

水と混合し,超音波処理装置7に送

って超音波処理することにより,プ

ラズマ化処理ガスのマイクロバブル

をさらに細分化して消滅させ,微生

物の殺傷もしくは増殖機能を損傷す

るとともに,排出するバラス卜水を

無害化する.

4.3 洗浄効果を高めるためのマイクロバブル発生ノズルの開発

高橋ら(特許公開2006-68631,資源開発株式会社)は,洗浄装置及び同装置

に使用するバブル発生ノズルを発明している.洗剤を用いることなく被洗浄体の洗浄を行

うことができる洗浄装置及び同装置に使用するバブル発生ノズルを提供している.

図 21に示すように,水を貯留するための容器3と,水内に空気を溶解した溶解水を製造す

るための溶解水製造手段27と,溶解水の供給を受けて前記容器3内にマイクロバブルを

発生するためのバブル発生ノズル5とを備えた構成である.バブル発生ノズルは,容器3

への取付部を備えたノズル本体33内に

溶解水製造手段27に接続するための接

続部57を備えた中空パイプ47を設け,

この中空パイプ47内に備えたオリフィ

ス63と圧力解放室53を設け,この圧

力解放室53内に発生した気泡を微細化

するための微細目の網部材65を設け,

前記中空パイプ47の周壁に設けた小径

の連通孔55に連通した撹拌室39を,

ノズル本体33の内周面と中空パイプ4

7の外周面との間に備え,この撹拌室3

9と容器3内とを連通した小孔43を,

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ノズル本体33の取付部付近に備えた構成となっている.

4.4 アルカリイオン水の発生装置

高橋ら(特許公開2006-43642,

資源開発株式会社)は,イオン水生成装置

及び同装置に使用するバブル発生ノズル

を発明している.電気分解を必要とするこ

となくアルカリイオン水を生成する方法

及び装置(図 22)である.

水内に気泡径が50µm以下のマイクロバ

ブルを発生させてイオン水を生成するイ

オン水生成方法である.そして,水源3へ

接続され,水内の不純物を除去するための不純物除去手段5と,上記不純物除去手段5か

ら供給された水内に空気を溶解した溶解水を製造する溶解水製造手段7と,注水ノズル9

を備えた容器11と,前記溶解水製造手段7から供給された溶解水から前記容器11内に

マイクロバブルを発生させるためのバブル発生ノズル13とを備えており,容器11の上

部に空間部17を備えている.前記バルブ発生ノズル13は,オリフィス45と,微細目

の網部材47を備えた圧力解放室49と,水の流れ方向を屈曲するための流れ方向屈曲部

と,前記流れ方向屈曲部を通過した水を対流すると共に圧力解放を行う対流室29とを備

えている.

4.5 水生植物活性化と水質浄化

大成(特許公開2006-42785,株式会社ナノプラネット研究所)は,植物活性

装置,植物活性化方法

及びこれを利用した

水質浄化装置を開発

している.マイクロバ

ブルの生理活性の効

果に着目し,これを利

用して水生植物の一

つであるホテイアオ

イの成長促進を実現

させる実験結果によ

る知見に基づいて,植

物活性装置,植物活性

方法及び水質浄化装

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置を提供している.

水中にその根系が浸された植物と,これら植物を定植する定植手段と,前記植物の根系に

マイクロバブルを供給するマイクロバブル発生装置(図 23)を備えている.

4.6 口腔内清掃装置

渋谷(特許公開2005-342030,株式会社長田中央研究所)は,図 24に示すよ

うな口腔内清掃装置を発明している.一般の人が家庭において自由に使用することができ,

しかも,従来技術のように微粒子等の特別の歯牙研磨材料を用いることなく,家庭で簡便

に使用することのできる口腔内清掃装置である.

水タンク1内の水を可逆ポンプ5によって矢印A方向に循環させることにより,バブル

発生器2によりマイク

ロバブルを発生させる.

水タンク1内に発生さ

れたバブルは,ポンプ5

を矢印R方向に逆回転

させることにより,矢印

B方向に送り出され,マ

イクロバブル送給チュ

ーブ30を通して歯ブ

ラシ20に送給され,植

毛ブラシ面に設けられ

た細孔により噴射され

る.

4.7 水底汚染底質の処理方法

新保ら(特許公開2005-4

6756,鹿島建設株式会社)は,

水底汚染底質の処理方法にマイク

ロバブルを適用しているが,広範

囲に分布した汚染底質を経済的・

効率的に処理できる水底汚染底質

の処理方法を提供している.

図 25 に水底汚染底質の処理方法

を示すが,汚染された水底1に沿

って底層水より高密度の水流 10

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を水底1の窪地6へ向けて形成しつつ水底1を撹乱して底質3を水流 10中に浮遊させ,底

質3の浮遊により密度を高めた濁り水流 12により水底1の汚染底質3を窪地6に集めて処

理するものである.好ましくは,高密度水流 10 を,下端が水底1に開口する放流管 14 経

由で高比重水 21 を水底に放流することにより形成する.更に好ましくは,放流管 14 の下

端に設けた撹乱部材 17 により底質3を撹乱する.高密度水流 10 にマイクロバブルを混入

してマイクロバブルにより浮遊させた底質3の沈降を抑えることができ,マイクロバブル

が混入した濁り水流 12により水底1の汚染底質に酸素を供給して浄化できるというもので

ある.

4.8 超音波撮影装置および超音波撮影方法

橋本(特許公開2005-46179,ジーイー・メディカル・システムズ・グローバ

ル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー)は,マイクロバブルを超音波撮影装置お

よび超音波撮影方法に適用している.マイクロバブル造影剤を用いる超音波撮影において,

造影剤による強調データを均一に入手することができ,また,強調データの入手効率を向

上させることが可能な超音波撮影装置および超音波撮影方法を提供するものである.

超音波プローブから超音波が所定のフォーカス位置に送信されることにより,マイクロバ

ブルを注入した被検体の走査面に複数の音線が形成されて走査面が走査される.各音線は,

超音波の送信音圧とフォーカス位置と破壊閾値とに基づいて決まる,マイクロバブルの破

壊閾値以上の各音圧分布が,連続して形成される2つの音線の間で可能な限り重ならない

ように,配列の順序を飛び越しながら形成される.画像データ生成部は,超音波プローブ

が出力した被検体からのエコーに基づくエコーデータを使用して走査面の画像データを生

成するというものである.

4.9 半導体装置基板上の異物を効率よく

除去する洗浄方法

川端(特許公開2005-45159,

松下電器産業株式会社)は,マイクロバ

ブルを洗浄方法および洗浄水の製造方法

に適用しているが,半導体装置基板上に

形成された微細なULSIパターンに対

し,超音波を用いてもダメージを与える

ことなく異物を効率よく除去する洗浄方

法,及び洗浄水の製造方法を提供するというものである.(図 26)

超音波振動を伝播させる洗浄水として,過飽和濃度かつ多量の気泡を含んだ溶存ガス水を

用いて洗浄を行うことにより,多量の気泡が超音波出力を緩和しパターンダメージを防止

し,洗浄能力においてはマイクロバブル効果ならびにリフトオフ効果が促進され高い異物

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除去効果を有する超音波洗浄を行うことができるというものである.

4.10 底質等浄化方法および装置

明石ら(特許公開2004-330064,大田

区創業支援法人環境保全海上警備協同組合)は,マ

イクロバブルを底質等浄化方法および装置に適用し

ているが,底泥の硫酸塩還元菌等の嫌気性バクテリ

アの増殖を抑えることと,無酸素状態の場所に酸素

を供給し,好気性バクテリアを増やし,有機性汚濁

物質の分解を促進し,底質の分解浄化機能を高める

ことにより底質や水質を積極的に無害化することの

できる底質等浄化方法および装置を提供している.

図 27に底質等浄化装置の概略を示すが,マイクロバ

ブル槽6内のマグネシウム系底質改善剤を主成分と

するスラリー液内に汚濁水7と微小気泡とを供給し

て汚濁水の無害化を行うことを特徴とする.

4.11 有機性汚水のろ過方法及び装置

片岡ら(特許公開2004-305838,株式会社荏原製作所)は,マイクロバブル

を有機性汚水のろ過方法及び装置に適用してい

る.極めて簡単な設備によって,下水など有機性

排水のろ過装置から,有害悪臭ガスが発生しない

ようにできる新技術を提供している.

図 28 に有機性汚水のろ過装置を示すが,ろ材の

充填層内に,下方から有機性汚水酸素含有マイク

ロバブルを流入させてろ過することを特徴とす

る有機性汚水のろ過方法である.ろ材の充填層の

上方又は下方の有機性汚水が流入する側に,酸素

含有マイクロバブルを発生する酸素含有マイク

ロバブル発生装置を設けたことを特徴とする有

機性汚水のろ過装置である.酸素含有マイクロバ

ブルは気泡の50%以上が気泡径1000µm以

下であることが好ましい.

4.12 超音波撮像装置

梅村ら(特許公開2004-275491,株式会社日立メディコ)は,マイクロバブ

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ルを超音波撮像装置に適用している.マイクロバブル系

造影剤により散乱されて生ずるエコー成分を,送信パル

スが非線形伝播することにより生ずるTissue H

armonic成分と明確に峻別して映像化すること

により,造影エコー像を基に確定診断を行うに足るS/

N比の高い造影エコー像を実現する超音波撮像技術を

提供するものである.

超音波撮像装置のエコー信号を図 29 に示すが,生体に

対して超音波パルスの送受波を行ない,生体内部の造影

用マイクロバブルによる造影画像を形成する超音波撮

像装置であって,Nを3以上の整数とする時,同一の送

受波フォーカス条件の下で,包絡線信号を共通とする送

信パルス波を用いその搬送波の位相を360°/Nずつ

回転させて,N回の送受波を行ない,前記N回の送受波により得られるN個の時系列受信

エコー信号(a),(b),(c)を加算し加算信号(d)を求めることにより,前記造影画

像を形成するよう構成している.

4.13 船体航行中の表面摩擦逓減法

寺尾(特許公開2004-188993,学校法人東海大学)は,マイクロバブルを船

体の表面摩擦逓減法に適用している.船体が運動していても目的とするところにマイクロ

エアーバブルを到達させて,マイクロバブル放出により船体の表面摩擦を逓減するという

ものである.

図 30にマイクロバブルを取り付けた船体を示すが,船体には,そのエアーインジェクショ

ン制御ユニット(2)を介してノズル(3)より空気を噴出するエアーインジェクション

ユニット(1)を設け,また船体の底部にはその放出したエアーバブルやエアーシートを

検出するセンサー(4)を設け,このセンサー(4)の信号は船体運動計測ユニット(5)

に入力し,この船体運動計測ユ

ニット(5)には波情報・相対

波情報,変位・運動速度・加速

度,方位,泡の状態検出と風速・

風向を入力し,船底圧力情報,

泡分布情報,摩擦力情報,船体

抵抗情報より泡の状態検出を行

い,放出空気膜,泡の状態を最

適に制御するというものである.

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4.14 小型の水質浄化システム

妻夫木ら(特許公開2004-181324,株式会社テトラ)は,マイクロバブルを

水質浄化システムおよび水質浄化方法に適用している.閉鎖水域の水質浄化に適した,自

立型独立電源で,水面に浮かべて使用することがで

き,しかも十分な量の酸素を水中に取り込むことが

でき,水質浄化効率の高い小型の水質浄化システム

および水質浄化方法を提供することを目的として

いる.

図 31 に水質浄化システムを示すが,少なくとも,

水面に浮かぶフロート22と,フロート22に直立

した鉛直軸風車を有する風力発電機24と,風力発

電機24から得られる電力により駆動して,水面W

L下にマイクロバブル28を吐出するマイクロバ

ブル発生装置26からなることを特徴とする水質

浄化システムおよびこれを用いた水質浄化方法で

ある.

4.15 超音波造影剤撮像の改善方法及び装置

シャオホイ・ハオら(特許公開2004-154572,ジーイー・メディカル・シス

テムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー)は,マイクロバブルを

低調波撮像により超音波造影剤撮像の造影剤対組織比を改善する方法及び装置に適用して

いる.造影剤を注入した組織を撮像するときの造影剤対組織比を改善するというものであ

る.

図 32 に低調波

撮像により超音

波造影剤撮像の

造影剤対組織比

を改善する装置

を示すが,被検

体に基本周波数

のマイクロバブ

ルを有する造影

剤を注入する.

第一136及び第二の送波パルス144を被検体の体内に送波する.第一及び第二の送波

パルスは各々,第一の(基本)130,138信号と,第二(シード)132,140信

号を含んでいる.基本信号は基本周波数に基づく周波数を有しており,シード信号は基本

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信号の周波数に基づく低調波周波数を有している.第一及び第二の送波パルスは互いに対

して位相反転している.第一及び第二の送波パルスから受波されたエコー184,186

は,低調波又は超高調波周波数でフィルタ処理されて,組織応答を除去すると共にマイク

ロバブル応答を通過させるものである.

4.16 炭酸ガスの隔離装置

鈴木(特許公開2004-50167)は,マ

イクロバブルを炭酸ガスの隔離装置に適用してい

る.火力発電所等の固定発生源から多量に排出さ

れる炭酸ガスを地球環境保全のために海洋等に隔

離するための簡単で効率的な方法及び装置を提供

するというものである.

炭酸ガスの隔離装置を図 33 に示すが,具体的な

構成は,上記炭酸ガスをマイクロバブル化して水

中に分散させ海洋又は地底に投棄するか,上記炭

酸ガスをマイクロバブル化して水中に分散させ従

来に比べ効率良く液体炭酸ガス化し,液体炭酸ガ

ス又は炭酸ガス・ハイドレートのマイクロ粒にし

た後,海洋又は地底に投棄・隔離するための比較

的低コストな手段を得ることにあるようである.

4.17 両親媒性物質の抽出法および装置

竹村ら(特許公開2003-299904)は,マ

イクロバブルを両親媒性物質の抽出法および装置に

適用している.マイクロバブル生成部において生成

された多数のマイクロバブルが合体することを抑制

する.

図 34 に両親媒性物質の抽出法および装置を示す

が,両親媒性物質が溶解している水溶液にマイクロ

バブルを放出し,該物質を該マイクロバブルの表面

に吸着させて該マイクロバブルと共に移動させ,次

いで該マイクロバブルから該物質を分離する.好ま

しい分離手段としては,水溶液表面に水に不溶性の

有機溶媒を儲け,物質を吸着させたマイクロバブル

を該有機溶媒に供給することで,該有機溶媒によっ

て該マイクロバブルから該物質を分離する.

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4.18 廃水処理システム

木村(特許公開2003-245662,有限会社エフエムエコロジー研究所)は,マ

イクロバブルを廃水処理システムに適用している.効果的に余剰汚泥を低減させるととも

に,廃水の効率的な処理方法を提供しているが,マイクロバブル発生手段と,キャビテー

ション技術,放電方式により解決するというものである.

4.19 船体の粘性抵抗の低減と炭酸ガスの大気中への放出量の低減システム

加納ら(特許公開2003-175885,独立行政法人海上技術安全研究所)は,マ

イクロバブルをガスタービン船に適用している.ガスタービンを船首部に設置し,その排

気ガスを船首部における水面下の船体外板面に沿い後方へマイクロバブルとして流すこと

により,船体抵抗の大幅な低減を効率よく図れるようにするとともに,炭酸ガスの大気中

への放出量の低減も図れるよ

うにしたガスタービン船を提

供するというものである.

図 35 に示されるように,船

首部のガスタービン1で駆動

される発電機2からの電力が,

配電盤 22 およびバッテリー3

を介してプロペラ駆動用の主

電動機5へ給電される.ガスタービン1の排気ガスは排気流路切換手段8を介し煙突9ま

たはマイクロバブル発生装置7へ送られ,同装置7へ送られる排気ガスは,ポンプ 13で圧

送されるので水面下の船体外板面に沿いマイクロバブルとして後方へ流れ,船体の粘性抵

抗の低減をもたらすとともに,排気ガス中の炭酸ガスの大気中への放出量が削減されると

いうものである.

4.20 船体抵抗低減船

児玉(特許公開2003-175884,独立行政法人海上技術安全研究所)は,マイ

クロバブルを船体抵抗低減船に適用している.プロペラの推進性能を低下することなく,

マイクロバブルによる摩擦抵抗低減効果を実際の船舶推進エネルギ低減に結び付けること

のできる船体抵抗低減船

を提供している.

図 36 にマイクロバブル

を取り付けた船体抵抗低

減船を示すが.貨物船10

0の船体浸水部105の

傾斜面107には,ポッド

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プロペラ110が取り付けられている.一方,船体103内部には,マイクロバブル形成

装置120が設けられている.同装置120で形成されたマイクロバブルは,吹出口12

3から吹き出て,船体浸水部105の外板表面に沿って後方へと流れる.ポッドプロペラ

110を用いることで,マイクロバブルがプロペラ113に流入するのを低減できる.そ

のため,プロペラ113の推進効率をほとんど低下することなく,マイクロバブルによる

水の摩擦抵抗の低減を実現できるというものである.

4.21 廃水処理システム

木村ら(特許公開2003-164890,有限会社エフエムエコロジー研究所)は,

マイクロバブルを廃水処理システムとミキシング装置に適用している.処理効率が高くか

つ経済的な新規な廃水処理システムを提供している.

廃水を処理する廃水処理システムを図 37に示すが,この廃水処理システムにおいて,マイ

クロバブルを発生させる微細気泡発生手段と,菌体を固定させた菌体固定手段と,前記微

細気泡発生手段で発生させたマイクロバブルを前記菌体固定手段から得られた菌体を含む

廃水に加圧する加圧手段と,この加圧された流体を急激に減圧する減圧手段とを備え,前

記減圧する時に起こる乱流により前記マイクロバブルを長時間廃水中に残留させ,その間

過飽和な溶存酸素状

態を保ち生物酸化を

進行させることで,好

気性菌を流入するよ

うにしているので,微

生物を確実に破壊で

き,かつ余剰汚泥の効

率的な減量化等が可

能となるということである.

以上が最近の主な特許に見られるマイクロバブルの応用例である.このようにマイクロ

バブルの応用展開は幅広い.摩擦抵抗軽減[9-12],生理活性作用[13,14],洗浄[15],水質浄

化[16,17],さらには医療分野への展開[18-20]が図られている.しかしながら,このようなマ

イクロバブルの展開の中で,殺菌や物質分解なども報告されているが,再現性の確認が必

要である。マイクロバブルに殺菌や物質を分解できるようなエネルギーを効率よく発揮す

るためには、さまざまなものと複合的に利用することが必要と考える。

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5.基礎実験:廃水浄化のためのマイクロバブル処理効果

マイクロバブルの処理でもっとも期待される効果の一つに有機物の分解、あるいは殺菌

効果が挙げられる。今回、基礎試験として染色廃水の脱色効果の確認を行った。

5.1 実験方法

1) 供試廃液:染色工場の着色廃水

2) 実験装置:

①マイクロバブル発生装置

実験室内に設置した小型のラボポンプを主体とする循環型マイクロバブル発生装置を

使用した。

②オゾン発生装置

市販の小型オゾン発生器(EO-ミニ型)を使用

オゾン発生量: 1時間あたり 10mg

3) 実験方法

①着色した染色廃水の試料水をマイクロバブル処理し一定時間後の色度の低減を測定

した。

②着色した染色廃水の試料水をオゾン添加したマイクロバブル水で処理し、一定時間後

の色度の低減を測定し、マイクロバブル単独処理と比較した。

③着色した染色廃水の試料水をオゾン添加のみで処理し、一定時間後の色度の低減を測

定し、オゾン添加したマイクロバブル水で処理した場合と比較した。

5.2 実験結果と考察

実験結果を図 38に示す。

原液(廃水そのもの)をマイクロバブルで 60分間バブリングを行ったが,色の変化はあ

まり見られなかった.そこで,マイクロバブル内にオゾンを入れ,バブリングしたところ,

バブリング時間とともに色の変化が見られた.

オゾンを含んだマイクロバブルでバブリングすることにより溶液の色が薄くなった.し

かも,その変化がバブリング時間に依存したことから廃液中の化合物が分解したことが考

えられる.30分おきに廃液を採取したものを図 38に示しているが,150分ではかなり色が

落ちているのがわかる.

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そこで,原液の廃液の吸

収スペクトルを測定したと

ころ,402nmと 482nmに比

較的高い吸収を観測するこ

とができた.もし廃液中の

化合物の分解がオゾンマイ

クロバブルで起こっていれ

ば,これらの吸収が大きく

変化するはずである.廃液

の吸収スペクトルを測定し

た結果を図 39と図 40に示

す.オゾンだけ(図中青色)

でもどちらの波長でも吸光

度が減少しているが,オゾ

ンをマイクロバブル中に含ま

せると(図中黄色)オゾンのみ

よりいずれの波長においても

大きく吸光度が減少した.マイ

クロバブルとオゾンの併用で

波長 402nm の化合物は半分以

下に分解し,波長 482nm の化

合物は 25%程度まで分解でき

ている.しかも,バブリング時

間依存性がみられたことから

マイクロバブルとオゾンとの

相乗効果を確認できた.

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6.まとめ

マイクロバブルは物理的処理の範疇に入る技術であり、薬品を使わないで水質改善の効

果が期待され、最近各分野で注目されている新技術の一つである。

マイクロバブルに期待される効果としては汚濁水の浄化、湖沼浄化、汚染面の洗浄など

が考えられるので、将来的な河川浄化技術としての実用化の可能性を確認するため、マイ

クロバブルの特性調査と研究成果報文の調査ならびに予備的な基礎試験を実施した。

1)水中におけるマイクロバブルを顕微鏡写真で撮影した文献報告によると直径 2μmのマイ

クロバブルを観察できたが、それ以下のものは観察できずナノバブルの存在は確認できな

かった。

2)マイクロバブル処理水の性状変化を測定した報告によると pH,表面張力、粘度の変化が認

められ、クラスターが小さくなったことが示唆された。

3)マイクロバブル発生装置の特性比較調査の結果、多種多様の発生装置が開発されており、

発生機構によりマイクロバブルの性状が異なり、処理効果も一律ではないので処理目的

に合致したマイクロバブル発生機構を選ぶ必要がある。

4)マイクロバブルの水処理への応用実施例を調査した結果、極めて広範囲の適用が確認さ

れた。特に廃水の水質浄化、洗浄、水生植物活性化、船体航行中の摩擦低下などの効果

が顕著であった。

5)基礎試験として染色工場の着色廃水の脱色を目的としてマイクロバブル処理試験を行っ

たが、マイクロバブル単独処理では廃水の着色成分を分解することはできなかった。

しかしながら,今回試験した染色工場の着色廃水をオゾンとマイクロバブルとの併用で

処理した結果では着色成分をかなり分解し脱色できることが判明した。

6)今後,マイクロバブルの処理条件を適正に調節することにより着色廃水を完全に透明に

するが期待できる。

また、他の廃水でも同様な効果が期待できる見通しを得たので今後も調査研究を継続し

て実用化に結びつけたい。

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参考文献

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30,講演論文集(2005年 3月 29日)

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相流学会年会講演会 2004, 327(2004)

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[4稲葉他,“減圧状態の水中からの微細気泡の生成挙動”,日本混相流学会年会講演会 2004,

325(2004)

[5]南川他,“流路急拡大法による微細気泡発生機構の検討”,日本混相流学会年会講演会

2001,127(2001)

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Spherical Body in a Flowing Water Tube”, Proc. 5th Int. Conf. on Multiphase Flow,

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[7]Gordillo, J.M., et al., “A New Device for the Generation of Microbubbles”,

Physics of Fluid, 2828(2004)

[8]池田他,“クラウドキャビテーションの崩壊現象を利用した結石破壊法”,日本機会学会

論文集,904(2004)

[9]Kodama, Y., et al., “Conditions for Microbubles as a Practical Drag Reduction

Device for Ships”, Proc. 5th Int. Conf. on Multiphase Flow, ICMF 2004, Paper No.535

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Boundary Layer”, Phys. Fluids, 31, 744(1988)

[11]Xu, J., et al., “Numerical Simulation of Terbulent Drag Reduction using

Micro-bubbles”, J. Fluid Mech., 468, 271(2002)

[12]Serizawa, A., et al., “Pseudo-Laminarization of Milky Bubbly Flow with

Micro-Bubbles in a Pipe”, Proc. 5th Int. Conf. on Multiphase Flow, ICMF 2004, Paper

No.517 (2004)

[13]大成他,“マイクロ・ナノバブルの生理活性”,日本混相流学会年会講演会 2004,

335(2004)

[14]高橋,“小さな気泡の工学的な利用”,混相流,18-4, 324(2004)

[15]矢部他,“ナノバブルによる固体粒子汚れの洗浄”,伝熱,43, 16(2004)

[16]Yamada, S., et al., “A Study for Effects of Microbubbles on Oxygen Supplying”,

Proc. 5th Int. Conf. on Multiphase Flow, ICMF 2004, Paper No.376 (2004)

[17]松尾他,“マイクロ・ナノバブル技術によるダム貯水池下層の水質浄化”,日本混相流

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学会年会講演会 2004,341(2004)

[18]吉沢他,“超音波造影剤の非線形振動”,別冊・医学のあゆみ(2004)

[19]Skyba, D.M. et al., “Advances in Microbubble Technology”, Coronary Artery

Disease, 11, 211(2000)

[20]岩川他,“微細気泡浴の心理的・生理的効果”,松下電工技報,5号,19(2004)

引用特許に関しては本文中に公開特許番号を示した.

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助成事業者紹介

小池こ い け

壯そう

一郎いちろう

現 職:財団法人 造水促進センター 水処理技術部 首席研究員

研究発表:

2004 年 3 月 日本工業用水協会第39回研究発表会(離島の地下水汚染)

2004 年 3 月 第38回日本水環境学会年会(水処理の LCA)

2004 年 6 月 第22回日本オゾン協会講習会(オゾン利用の安全規準)

2004 年 11 月 用水と廃水 Vol.46 No11(2004) 技術解説(水処理の LCA)

研究協力者紹介

常田つ ね だ

聡さとし

現 職:早稲田大学理工学部応用化学科 助教授(工学博士)

研究内容:

・脱窒性リン蓄積細菌による窒素リン同時除去技術

・独立栄養性細菌を利用した単一槽型窒素除去技術

・貴金属回収工程廃液からの窒素除去システム開発

・メンブレンバイオリアクターによる窒素除去技術

・上向流好気性流動床によるグラニュール形成技術

・難培養性微生物の分離・培養・解析手法の開発

・新しい遺伝子スクリーニング・解析手法の開発

・分子生態学的手法による生物膜内微生物群集解析

・拡散・反応モデルによる生物膜内現象の数理解析

氷室ひ む ろ

昭三しょうぞう

現 職:有明工業高等専門学校物質工学科 教授・副校長・教務主事(工学博士)

研究内容

マイクロバブルの物理化学的性質に関する研究

マイクロバブルの生理活性作用メカニズムに関する研究

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本調査研究は、河川整備基金の助成事業として

財団法人 河川環境管理財団からの助成を得て

実施したものです。