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米国の企業統治 調査報告書 2003 年7月 日本貿易振興会 海外調査部

米国の企業統治 調査報告書 · 第1 章 米国企業統治の変遷について この章では、米国での、①企業統治の概念、②取締役会をめぐる問題、③監査委員会を

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米国の企業統治

調査報告書

2003 年7月

日本貿易振興会 海外調査部

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はじめに 2001 年 12 月のエンロン破綻以降、米国では、企業不祥事が次々に発覚した。その後、

2002 年 7 月にサーベンス・オクスレー法(企業会計改革法)が成立、これに前後して SECや各証券取引所で規則の制定・改定が相次ぐなど具体的な取り組みもあるものの、一方で

は会計不祥事が依然散発しており、不正防止に有効な企業統治のあり方をめぐって、模索

が続いている。 ジェトロでは、こうした状況を鑑み、平成 14 年度に「米国の企業統治」調査を実施した。

企業統治に関し日本の現状をみれば、企業文化の違いを背景に米国型企業統治への懐疑的

な見方が根強いが、従来の企業統治が有効とは言いがたく、米国型企業統治の有効性と限

界、問題点などを調査することは、日本の企業統治改善にあたって参考になるものと思わ

れる。また、米国における企業統治をめぐる動きは、米国で上場する日本企業のみならず、

米国系機関投資家などを通じて日本の多くの企業にも影響を与えると考えられる。 調査は、日本国内での研究会と、米国でのインタビュー調査からなる。調査報告書の構成

としては、これまでの米国における企業統治の変遷(第1章)や、背景となった資本市場

の動き(第2章)などを踏まえ、ニューヨーク・センターと共同で最近の米企業の不祥事

やその対応につき米国の関係者を対象に行った広範なインタビュー調査の結果をみる(第

3章)。そして、最後に、こうした米国の動きを参考とし、わが国の企業統治についての現

状と課題を検討する(第4章)。巻末には資料として、インタビューの一問一答形式での要

旨と、サーベンス・オクスレー法の仮訳を付した。第1章は研究会の牧野委員(東京富士

大学)、第2章は三和委員(明治大学)、第3章はジェトロ米州課、第4章は横尾主査(日

本経団連)が担当した。 本報告書が、何ら、業務上の参考となれば幸いである。 なお、インタビュー部分に関しては、別途、「米国の企業統治 インタビュー調査報告書」

としてまとめてあるので、ご参照願いたい。

2003 年 7 月 海外調査部 米州課

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目 次 本報告書の要旨.....................................................................................................................1 第 1 章 米国企業統治の変遷について.................................................................................5 第 1 節 企業統治概念の源流 ...........................................................................................5 第 2 節 取締役会をめぐる問題........................................................................................7 第 3 節 監査委員会の改善をめぐる問題........................................................................ 11 第 4 節 経営者の報酬 ....................................................................................................13 第 5 節 アメリカ企業における所有構造........................................................................14

第 2 章 資本市場からみたコーポレート・ガバナンス......................................................15 第1節 機関投資家のコーポレート・ガバナンスにおける役割 ....................................15 第 2 節 アメリカにおける「機関化」の進展と年金基金の大規模化.............................18 第 3 節 年金基金の資産構成と 1990 年代の株高要因 ...................................................19 第 4 節 1990 年代の資産運用の特徴 .............................................................................19 第 5 節 投資銀行の資産運用ビジネス ...........................................................................22

第3章 インタビューにみる米国企業統治........................................................................25 第 1 節 米国の企業統治の過去......................................................................................25 第2節 米国企業統治の現在(1) 不祥事.................................................................27 第3節 米国の企業統治の現在(2) 法制度改革 ......................................................28 第4節 米国の企業統治の現在(3) 積み残された問題 ...........................................31 第5節 米国の企業統治の現在(4) 年金基金の今 ..................................................34 第6節 米国企業統治の未来..........................................................................................34 第7節 日本の企業統治をどうみるか ...........................................................................35 第8節 企業統治のコアとは..........................................................................................36

第 4 章 コーポレート・ガバナンス議論の展開と課題......................................................38 第 1 節 企業の社会的責任論 .........................................................................................38 第 2 節 商法改正と会社の機関のあり方........................................................................39 第 3 節 期待される内部統制の役割...............................................................................40 第 4 節 投資家によるチェック体制と内部統制.............................................................42

巻末資料1:インタビュー要旨..........................................................................................45 米国総務部長協会(ASCS) ...............................................................................................45 スタンフォード大学法学部教授 ロナルド・ギルソン氏...............................................49 ジョージタウン大学法学部教授 マーガレット・ブレア氏 ...........................................51 マイケル・オクスレー下院議員事務所 ...........................................................................53 スーパーバリュ社 ...........................................................................................................56

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チャールズ・シュワブ社.................................................................................................59 スタンダード・アンド・プアーズ ..................................................................................61 米国公認会計士協会(AICPA) .....................................................................................64 ナスダック ......................................................................................................................66 ペンション・アンド・インベストメント紙 マイケル・クラウス編集長 ....................69 IRRC (Investor Responsibility Research Center).........................................................72 コンピュータ・アソシエイツ社 ......................................................................................76 デラウェア大学企業統治センター チャールズ・エルソン教授 ....................................79 ブルッキングス研究所 副所長兼経済研究部長 ロバート・ライタン氏......................81 TIAA-CREF(全米教職員退職年金基金) .....................................................................83 ガバナンス・メトリックス社..........................................................................................85 コンファレンス・ボード...................................................................................................87 ニューヨーク証券取引所(NYSE) ....................................................................................89 ジョージタウン大学教授 ドナルド・ランジブルト氏 ..................................................90

巻末資料2 サーベンス・オクスレー法仮訳 ....................................................................92

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本報告書の要旨 第 1 章 米国企業統治の変遷について この章では、米国での、①企業統治の概念、②取締役会をめぐる問題、③監査委員会を

めぐる問題、④経営者の報酬、の 4 点について、その変遷を概観している。 まず第 1 節では、企業統治という概念の源流を辿った。統治という概念で企業を捉える

との考えが最初に登場するのは 1945 年のラムルの著書、「コーポレート・ガバナンス」と

いう単語が最初に登場するのは 1962 年のイールズの著書であるという。イールズは、企業

機関相互管理との概念の下、取締役会の経営者に対する管理の有効性に疑問を呈し、また、

株主の経営者や取締役会に対する管理についても大企業においてはひどく限定的である、

と指摘している。 次に第 2 節では、取締役会をめぐる 1960 年代からの論争と、現状を概観している。60年代の取締役会にかかる議論としてクーンツの研究が取り上げられ、取締役会に望まれる

要件と機能についてのクーンツの分析が紹介されている。しかし、70 年代に入ってから、

メイスは、現実の取締役会がいかに機能していないかを述べており、80 年代でもローシュ

が、CEOが取締役会を牛耳っているとしている。ただし、その後、90 年代に入ってから

は、CEOが解任されるケースが出てきたことを紹介している。次に、取締役会の現状を、

Korn/Ferry International の調査を引用しながら、概観している。ここでは、取締役会のガ

イドライン、人数、構成、委員会制度などについて取り上げている。 第 3 節では、監査委員会をめぐる議論として、99 年のブルーリボン委員会報告と内部統

制について論じている。ブルーリボン委員会報告およびそれを受けての SEC の 2000 年の

規則改定については、「監査委員会の機能を充実させ、ディスクロージャーを充実させるこ

とで透明性を向上させ、アメリカの資本市場の強みを支えようとしていることが理解でき

る」としている。 第 4 節では、経営者の報酬について簡潔に論点をまとめ、第 5 節では、米国企業の所有

構造の変化について、機関化の進展と従業員持株制度(ESOP)の発展について説明してい

る。ESOP については、ストック・オプション、401(k)プランなども含めると、企業の

株式の約9%が従業員によって所有されている、との推計を紹介している。 第 2 章 資本市場からみたコーポレート・ガバナンス この章では、米国企業統治システムに内在する構造的な問題について、資本市場、特に

機関投資家の資産運用の側面から検討している。 まず第 1 節では、機関投資家が巨大化し、企業統治に関与するようになることについて

の当局の支援と懸念に関し、過去の経緯を概観したうえで、株価に経済主体の多くが依存

する米国型システムでの機関投資家に求められる調整機能について述べている。次に、機

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関投資家が国際分散投資をすすめる中で、OECD、世界銀行などとともに開発途上国など

の企業統治改革を進めようとする状況を説明し、その背景には、米国で著しく進展する「機

関化現象」があるとする。 第 2 節では、米国金融・資本市場での銀行の仲介比率の低下と、機関投資家による金融

仲介の増加という機関化現象の進展を、機関投資家の資産額と GDP 比の国際比較、企業年

金、公務員年金の資産額などをみることで検証している。 第 3 節では、確定給付型、確定拠出型などタイプごとに、株式運用比率や、資産増加に

しめる株高要因などについて、言及している。 第 4 節では、1990 年代の機関投資家の資産運用の特徴として、インデックス運用、国際

株式およびオールタナティブ運用の増加を挙げている。特にオールタナティブ投資につい

て、不動産投資、ベンチャー・キャピタル投資、プライベート・エクイティ投資などへと

投資対象が拡大し、併せてこうした投機的な投資に振り向けられる残高もまた増加してい

く状況を概説している。 第 5 節では、投資銀行などが資産運用市場に参入したこともあり、資産運用業界の競争

が激化、そうした中でファンドマネージャーは投資先企業の短期の利益を重視するように

なり、また、運用会社の合従連衡も進んでいった経緯を説明している。そして、投資銀行

は一旦押さえてしまえば長期間維持できる株式引受主幹事の座を押さえるため、アナリス

ト部門と連携したことでアナリストの中立性の問題を生み、IT 関連企業の株式公開を積極

推進したことが IT 株ブームを煽り、投資銀行とインハウス運用でバッティングする機関投

資家はオールタナティブ運用でハイリスク商品に投資対象を拡大していく、といったよう

に、エンロン事件のような不祥事が発生する環境が醸成されていったとしている。 最後に、わが国でも機関投資家の企業統治への関与について議論となっているが、今回

の米国での不祥事の教訓として、機関投資家の「リスクの調整」との役割が認識されるべ

き、として結んでいる。 第3章 インタビューにみる米国企業統治 この章では、インタビューで得られた米国の企業統治に関するコメントを再構成してま

とめ、1970~90年代という米国の企業統治の過去と、エンロン破綻に始まる一連の不祥事、

そして企業改革法による企業統治改善という現在、今後の見通しとしての未来を、繋ごう

とするものである。 質問は多岐にわたりまた相互に関連しているが、ここでは便宜的に「過去」、「現在」、「未

来」、「日本の企業統治への見方」、そしてまとめを兼ねて「企業統治のコア」に分けた。 「過去」については、株価至上主義に至る経緯、取締役会の実効性への疑問と取り組み、

企業と従業員の信頼関係の喪失などについて、不祥事の源流を探るとの視点から、発言が

あった。 「現在」については、まず不祥事との関連で、米国型企業統治モデルには問題はなく、

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それを実施するシステムに穴があった、あるいは詐欺事件であったとする見方が多かった。

その結果、不祥事はごく例外的なケースとの認識が示された。サーベンス・オクスレー法

と関連諸規則については、従来からの自主的規制の流れを強制的規制に変える構造的変化

であったこと、取締役会や監査委員会の独立性強化が重視されたこと、取締役の独立の要

件や監査委員の定義などでボックスティッキング的な傾向がみられたこと、などの面で、

その功罪について言及された。企業側は、新たな法規則により負担増となるものの、前向

きな対応が目立った。次に、今回の改革で積み残された課題として、①ストックオプショ

ンの取扱い、②監査委員の成り手不足への懸念、③CEO と取締役会議長との分離、が挙げ

られた。また、米国の企業統治モデルを特徴付けるものとして、年金基金の影響力の実態

についてもインタビューしている。この件については、傾向としての増大を認めながらも、

イメージ先行で過大評価されている面があるとの指摘が目立った。 そして「未来」だが、新たな法規制に一定の抑止力は認めつつも、詐欺行為を完全に防

ぐことは不可能との意見が多かった。ただし今回の法規制の方向性は今後も強化され拡大

されていくとの見方が示され、それについて肯定的なコメントと否定的なコメントがあっ

た。 「日本の企業統治への見方」については、米国型モデルを押しつけるようなことはない

と全員が否定しながらも、日本の企業統治が憂慮すべき状態であり、米国型を取り入れる

という好ましい動きを評価したい、とのトーンもまた、共通してみられた。 最後の「企業統治のコア」については、具体的な要件設定はボックスティッキングな規

則として批判的な見方もあり、結局、インタビューでのコンセンサス的なものとしては、

取締役の誠実さ、正直であること、など抽象的でかつ法規制ではいかんともしがたいもの

がコアとして浮かび上がってきた。それだけに、批判的な声も多い今回の法規則改正を、

米国の当局および企業が協力しつつ持続的に改善していくことが必要であり、また、両者

でそうした認識を共有しているものとみられる。 第 4 章 コーポレート・ガバナンス議論の展開と課題 この章では、いくつかのトピックにわたり、日米の企業統治を対照しながら論じている。

まず第 1 節で、企業の社会的責任論として、米国で慈善目的の寄付など企業の社会的責

任が法的に認知される過程を、ダッヂ VS フォード、スミス VS バローの2つの裁判の判決

を用い解説、日本については八幡政治献金事件判決について触れ、社会貢献活動のありよ

うについて必ずしも一致した国民的合意形成があるとは言えないとしつつも、昨今では企

業側の認識としてはこうした活動に積極的な考え方が主流になりつつある、としている。 第 2 節では、コーポレート・ガバナンスの定義として、①商法上の会社機関のあり方、②

企業と企業の利害関係者の関係のあり方、の2つに分類し、さらに①について、企業経営

の効率化に関する問題と、企業経営のモニタリングに関する問題とに分けている。この分

類上、独立取締役は①、②双方において閉塞した経営状態を打開しうるとの意見により出

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された考え方であるとし、2003 年の改正商法での委員会等設置会社の導入と、2002 年の監

査役制度強化について取り上げている。 第 3 節では、委員会等設置型と監査役型の優劣というよりは選択肢が出来たことが実務

上重要であるとし、わが国コーポレート・ガバナンスの広がりを論じている。また、米国の

一連の不祥事とサーベンス・オクスレー法についてその主旨と実効性について論じ、同法

の核心は結果責任を経営者に求める点であるとする。選択した会社機関の実効性確保でポ

イントとなるのは、①経営トップの意識、②監査役会や監査委員会を支えるスタッフや効

果的な内部統制システムの構築、③資本市場での投資家との緊張関係の構築といった実質

的課題をあげる。②については、内部統制システムが整備され実効性が確保されるのであ

れば、監査役会か監査委員会かとの議論も不要となるとし、内部統制システムの重要性を

指摘している。③については、日本の企業統治に2つ課題があるとする。1つめは、証券

市場監視体制であり、今回の米国の一連の不祥事への対応をみても、SEC が有効に機能し

ているのに対し、日本では業者行政と市場行政が米国のように分化していないため、投資

家からの信頼を損なっているとみる。2つめは、持合解消が進む中での株主構成の変化へ

の対応であり、投資信託や確定拠出型年金基金制度などが整備されるにつれ、長期安定経

営を意識した圧力がこうした株主から企業にかけられることも期待できる、としている。

と同時に、こうした機関投資家自身のコーポレート・ガバナンスのあり方についても言及し

ている。 最後に結びとして、企業が目的とするのは雇用確保か株主利益か、との議論について、

前者を優先する動きにある米国商法や、経済政策の目標、現下のわが国の情勢などを鑑み、

雇用確保が国民の期待するところではないか、としている。

(ジェトロ米州課)

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第 1 章 米国企業統治の変遷について

東京富士大学 経営学部 助教授 牧野 勝都

第 1 節 企業統治概念の源流

あえて「コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance)」という語を用い,議論を

展開したという意味では,1962 年のイールズ(Richard Eells)による『企業の統治』(The Government of Corporations)を重要なコーポレート・ガバナンス論の端緒のひとつとして

位置づけることができる。

イールズは,1962 年当時,「コーポレート・ガバナンスの研究は,政治学の特殊な分野と

して,新しい学問分野の輪郭を獲得し始めたばかりである。経営管理 (business administration)についての体系的な論文は存在するが,コーポレート・ガバナンスに関す

る比較しうる文献はまだない。」と述べていた。そして,「(コーポレート・ガバナンスとい

う)新しい言葉で,企業を理解するという努力は学会と企業の連携した努力を必要とする

だろう」と述べ,「両者は現在進行中のコーポレート・ガバナンスの理論的分析と実践的観

察についての責任を共有しなければならない」と主張していた。

イールズによれば,統治という概念で企業をとらえていくという考えはすでにラムル

(Beardsley Ruml)の『明日のビジネス』(Tomorrow’s Business,1945)にみることができ

る。ラムルは「企業は統治体である,なぜならば法律の下で企業は企業の業務の運営のた

めのルールをつくるために権限が与えられ,組織化されるからである。企業は私的統治体

である,なぜならば法律の下で企業がつくるルールは決定的であり,任意の公共体によっ

て検討されるものではないからである。若干の人は企業が私的統治体である理由は企業が

私的諸個人によって所有されているためであると言うかもしれない,しかしながら,私に

は私的権限(private authority)が所有の問題よりもより重大であると思われる。」と述べ

ている。

ガバナンス(governance)とガバメント(government)は区別して使用されている。Eells and Walton(1974)では,「ガバナンスは監督する(direct)および先導する(lead)権利のみな

らず支配する(control)権利を含む権限の行使である」とされている。「ガバメントは権力を

意味し,権力は人類の野望と恐怖を奮い立たせるものである」としている。

イールズは「コーポレート・ガバナンスという問題はビジネススクールのカリキュラム

の一部分にならなければならないのは今や明らかである」と述べ,「マネジメントの科学お

よびORの重要性を軽視することなく,企業のエグゼクティブの訓練に対する新しい次元,

すなわちコーポレート・ガバナンスのアートと科学,を加えるための機は熟している。」と

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考えていた。

イールズは「企業統治体は法人形態をとって遂行される高度の専門化された企業活動を

管理するために作られる。」と位置づけるとともに,「個人所有から法人所有への移行に際

して,法人企業の内部統治の原理に十分注意が払われることはなかった。」と述べている。

そして,コーポレート・ガバナンスの本質については,「企業の現実の検討は企業統治の本

質を決定する上で役立つであろうが,この規範的な側面における中心的課題は,企業に関

する理想的目標を設定することである。それはだれの機関なのか? それとも社会の機関

なのか? それともその目的は,理想的には社会のごく限定された利益,すなわち,株主

の利益がその主要なものであるというような利益への奉仕なのか?」と問いかけている。

また,コーポレート・ガバナンスのあり方については,「企業という統治体をそれぞれの企

業の自発的にさまざまな仕方で純粋に内側から改革していくことによっても,それは達成

できるであろうし,むしろその方が望ましいであろう。」と考えていた。

イールズは『ビジネスの未来像』において,「会社の内外を問わず,産業企業という統治

体についての関心が高まりつつあることは予測できることである。しかし,このことの理由

は,企業経営者による権力の濫用という問題であるよりは,さまざまな個人および自由な結

社によって特徴づけられる社会全体における,人間の諸問題を管理する権限と責任との配

分というより大きな問題が出てきたためである。(下線は引用者)」と述べているが,この

視点は『企業の統治』にも引き継がれている。

イールズは取締役会に関連して,「企業機関相互管理」(corporate interorgan control)という概念の下,「コーポレート・ガバナンスにはこれらの点で欠陥があるのは明らかである」

と述べている。そして,次の 4 点を指摘している。①執行経営者に対する取締役会の管理

は多くの場合,その有効性は信用できない。②取締役会に対する執行経営者の管理は度を

越えているといわれている。③取締役会と執行経営者に対する企業裁判所による管理は存

在しない。④取締役会や経営者に対する企業有権者(株主)による管理は大企業において

はひどく限定的である。

(取締役会と経営者との相互管理)

イールズは取締役会と経営者の間の相互関係は企業ごとに異なるものであるとしている。

経営者の権限からの取締役会の独立性は社内取締役のみから構成されている場合には,原

則的に排除されていると主張している。取締役会における社内取締役と社外取締役の関係

については,取締役会の職能と経営者グループの職能との区分を明確にすることがまずな

によりも重要であるとしている。

(取締役会・経営者と株主との相互管理)

取締役会および経営者に対する株主の管理が最も重要であり,実際に効力があるという

考えには意見の不一致が大きいとしている。むしろ企業有権者(株主)による経営者グル

ープに対する直接管理の可能性はないとされている。

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第 2 節 取締役会をめぐる問題

(1)取締役会をめぐる論争 取締役会の役割を考える際に,アメリカにおける取締役会をめぐる論争を概観しておく

ことは有益である。アメリカにおける取締役会の古典的研究としては,1960 年代後半のク

ーンツ(Koontz, H。)による研究がある。クーンツの取締役会の研究は,現在においても示

唆に富む重要な研究である。クーンツは取締役会が持っている存在意義を,実際に企業経

営を担当する執行役員等が地位を濫用して自己の利益を実現する危険性を抑制する効果な

らびに企業の維持・発展を図るために重要な意思決定過程において広い視野から検討する

ことによる有益性の二つに求めていた。クーンツは取締役会の基本的な機能として,次の 7項目をあげている。①受託者責任(クーンツは株主に対する責任のみならず,社会一般・

従業員・顧客に対する責任までを含めて考えている)の遂行,②企業目的および目的達成

のための基本方針の決定,③(執行)役員の選任,④計画と実績の照合,⑤重要な業務執

行の意思決定,⑥利益および資産の処分,⑦合併と買収,である。とくに注目すべき点は

クーンツは業務執行の監督機能のみならず,経営上の重要な意思決定機能を取締役会に求

めていた点である。クーンツは意思決定を所与の目標を最も有効かつ効率的に達成するた

めの行動として定義し,取締役会が合理的な意思決定を行うためには,明確な企業目的を

定めることが絶対条件であり,その目的を達成するために(執行)役員に具体的な計画案

を求め,その計画案が適切な調査分析を通じて提案されているのかどうかを確認するため

に,取締役会において適切な質疑が行われる必要があるとしている。そして,取締役会の

長所は,意思決定を集団で行うことによる権力集中の排除および複数の取締役が持ってい

る専門知識・意見・経験の利用と徹底した議論による問題の本質の把握にあると主張した。

このような集団行動を効果的に行うために,意思決定の権限および責任の範囲の明確化が

強調され,取締役会が行うべき意思決定の分野が具体的に考察されていた。要約すれば,

クーンツは取締役会が業務執行を行うか,あるいは取締役会の指揮の下で業務執行が行わ

れるように規定され,取締役会の監督権が確保されるとともに,実際に業務執行を担当す

る(執行)役員が存在することを前提として,取締役会が適切な目標を設定し,意思決定

を行い,(執行)役員をサポートすることに,取締役会の意義を求めていた。また,クーン

ツは取締役会の機能が有効に発揮されるか否かは,取締役会の構成に問題があるとして,

社内取締役と社外取締役の割合を問題としていた。クーンツはすでに述べたように,取締

役会における意思決定においては広い視野の重要性を指摘しており,そのような認識のも

と,取締役会に視野の広さを持ち込むことが社外取締役に期待される役割であるとしてい

た。さらに,社外取締役に対して,取締役会への準備ができるように,事前に必要な書類

を送ることの必要性を説いていた。 こうしたクーンツの分析は,1970 年代に入って,それがいかに実態とかけ離れているか

が指摘されるようになる。例えば,メイス(Mace, M。)は,取締役会は通常,CEOに対す

る助言をする程度の機能しか持たず,積極的な監督機能を果たすのは例外的な場合である

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ことを明らかにした。メイスは取締役会は結局のところ,意思決定機能も監督機能も持た

ず,形骸化した存在にすぎないと結論した。メイスはまた社外取締役に実態について,他

の企業のトップが社外取締役となっており,社外取締役に就任する動機は異なる分野につ

いて学ぶ機会を得ること,ならびに威信上の価値に過ぎず,取締役としての職務を遂行す

ることに精力を傾けるインセンティブに欠けていると指摘した。1980 年代に入っても,ロ

ーシュ(Lorsch, J。)がメイスと同様に,取締役会が想定されている機能を果たしていないと

主張し,CEOに牛耳られている状況を明らかにした。また,社外取締役についてもメイ

スと同様に,情報の欠如,時間的制約ならびに取締役間の意志の疎通の困難を理由に,十

分に機能しえないとしている。ローシュがこのような議論とする背景には,コーポレート・

ガバナンスの失敗が世界的な競争にさらされているアメリカ企業の問題に結びついている

という認識がある。 ローシュの分析が行われた後,このような認識を再検討する事件が起こっていった。1990

年代に,株価の上昇を期待されたCEOが,その期待に応えることができず,解任される

ケースが頻発するようになった。とくに,GMでは,機関投資家がイニシアティブをとり,

取締役会へ働きかけて行われたケースとして有名である。メイスやローシュが分析したよ

うな独裁的なCEO像は大きく変化していったのである。アメリカにおいて,資本市場が

経営者のリーダーシップ責任を強く求めるようになっており,業績をあげられないCEO

は解任させる可能性が強くなってきている。資本のグローバリゼーションの進展とともに,

日本企業にとっても経営者のリーダーシップは重要な課題となってきている。 (2)取締役会の現状

Korn/Ferry International の調査(1995 年実施;879 社を対象)を中心として,アメリ

カ企業における取締役会の現状をみていこう。 ① 取締役会に関するガイドライン

1994 年に General Motors が CEO,社外取締役などの役割を明確に規定した 28 ヶ条か

らなるガイドライン (General Motors’ Board Guidelines on Significant Corporate Governance Issues)を発表している。このガイドラインは注目を集め,特に機関投資家か

らは好意的に受け入れられた。このガイドラインに関連して,CalPERS がそのポートフォ

リオの 300 社を対象として調査を行ない,回答状況に応じたランク付けを公表している。

なお,CalPERS は近年ヨーロッパにおいて活動を活発化させており,1997 年 3 月にはイ

ギリスおよびフランスにおけるコーポレート・ガバナンスのガイドラインを作成しており,

ドイツについても作成する予定になっている。また,TIAA-CREF(Teachers Insurance and Annuity Association-College Retirement Equity Fund)も1993年にガイドラインを発表し,

株主の長期的利益と取締役が社会的責任や地域社会への貢献を配慮することは両立できる

との考えを明確に打ち出している。なお,すでに 59%の企業がコーポレート・ガバナンス

のガイドラインをもっており,とりわけ,50 億ドル以上の企業では 71%となっている。1997年 9 月に Business Roundtable は厳格なコーポレート・ガバナンスのルールに対して反対

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の立場を表明した。 ② 取締役の人数 近年のアメリカ企業の取締役会において,顕著な傾向のひとつは取締役の人数の減少で

ある。取締役の人数は,平均で 11 名となっており,10 年前の 14 名と比較して大きく減少

しており,調査開始(1973 年)以来最低の数となっている。 ③ CEO と会長の兼任

一人の人物が CEO と会長を兼任することによって,権限が集中することによる弊害が指

摘されている。しかしながら,現状では CEO が会長を兼任している企業はなお多く,

Conference Board の調査(1996 年)によれば,69%にものぼる。 ④ 社外取締役 アメリカ企業の取締役会では社外取締役(outside director)が社内取締役(inside director)よりも多いというのは周知の通りである。NYSE,NASDAQ 等では社外取締役が2名以上

いることを要求している。 典型的な取締役会の構成は,社外取締役 9 名に対して社内取締

役 2 名である。近年では,むしろ独立取締役(independent director)の概念が重視されてい

る。 ⑤ 取締役の多様化 取締役会を構成する取締役の多様化が進んでいる。女性が取締役になっている企業は 10年前の 45%から 69%へと増加している。少数民族が取締役となっている企業は 10 年前の

25.4%から 47%へと増加している。 ⑥ 委員会制度 取締役会の改革の試みとして,GE社が1970年代の初頭から採用している委員会制度が,

その後のアメリカ企業における取締役会の方向を示した。同社において,取締役会の内部

に公認会計士と直接的な関係をもつ監査・財務委員会(Audit and Finance Committee)の

ほか,経営活動委員会(Operations Committee),技術・科学委員会(Technology and Science Committee)および公共問題委員会(Public Issues Committee)などを組織し,これらの委員

会のいずれもが社外取締役が議長となり,また,社外取締役は2つ以上の委員会に関係す

ることになっている。 アメリカ企業の取締役会では,委員会が大きな役割を持っている。州会社法では委員会

について言及されていることは少ない。委員会制度を導入する傾向は,1970 年代からみら

れたものであるが,次第に多くの委員会が編成されるとともに,各種委員会の目的が明確

になり,取締役会が委員会活動を通じて有効に機能させるようにとなってきている。その

中でも,監査委員会(Audit Committee),報酬委員会(Compensation Committee),指名委

員会(Nominating Committee)は設置率が高く,それぞれ 100%,99%,73%となっている。

そして,この3つの委員会の典型的な構成は全員が社外取締役であり,人数は 4 名である。

開催回数は年に 3 回~5 回となっている。 (a)監査委員会 アメリカ企業と日本企業とを制度的に比較した場合のもっとも顕著な

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相違点は,アメリカ企業には「監査役」という制度がないことである。監査委員会がその

機能を果たすことになる。監査委員会は,企業が財務資料を作成する過程や内部管理など

を定期的にチェックすることである。NYSE,NASDAQ などでは監査委員会を設置するこ

とを上場の要件としている。とりわけ,NYSE は社外取締役のみから構成されていること

を要求している。アメリカ企業において,監査委員会が重要な役割を与えられるきっかけ

となったのは,1970 年代にアメリカ企業の外国政府要人に対する贈賄行為が明らかになっ

たことであり,その代表的例として,日本のロッキード事件をあげることができる。この

ような支出が不正な経理のもとで行われているということが大きくクローズアップされ,

社内の監視体制として,監査委員会が設置されるようになっていった。また,アメリカ連

邦議会は,1977 年にはこのような不正支出の防止のために,海外不正支出防止法(Foreign Corrupt Practices Act)を成立させた(1990 年代に入って部分的な改正が行われている)。 (b)報酬委員会 報酬委員会は,経営者の報酬を取締役会に勧告するあるいはその決定

を行うものである。ストック・オプションの利用に関連して設置されることが多い。 (c)指名委員会 指名委員会は取締役および上級管理者の候補者を提案する。 (d)その他の委員会 すでにとりあげた 3 つの委員会以外でも,業務執行委員会

(Executive Committee)は設置率がこれらの委員会に次いで高く,65%となっている。しか

しながら,業務執行委員会の位置づけは現在ではかなり低下していることが指摘されてい

る。とくに,近年の注目すべき傾向として,コーポレート・ガバナンス委員会(Corporate Governance Committee)が設けられるようになってきていることである。 ⑦ ESOP との関連

ESOP(Employees’ Stock Ownership Plan:従業員持株制度)に結びつく形で取締役会

への従業員代表の参加がしばしば見られるようになってきている。現在では,まだ,輸送

業,航空会社などの限られた企業において行われているにすぎないが,注目される動きで

ある。 ⑧ リーダーシップの開発

GMの有名なコーポレート・ガバナンス・ガイドライン(Guidelines on Significant Corporate Governance Issues)は,28 項目から構成されているが,最後の 3 項目は「リー

ダーシップの開発」というカテゴリーである。その3項目はそれぞれ「CEOの公式評価」,

「後継者の計画」,「経営者の開発(育成)」である。アメリカ企業における評価の実状をみ

てみよう。1996 年の Fortune 1000 を対象としたコーン・フェリー・インターナショナル

(Korn/Ferry International)の調査では,CEOの評価を行っている企業は 69%と高い

ものの,取締役会全体については 25%,個々の取締役については 16%となっている。さら

に,CEOおよび取締役全体について評価している企業は 23%,CEOおよび個々の取締

役については 14%であり,CEO・取締役会全体ならびに個々の取締役について評価して

いる企業はたったの 10%に過ぎない。GMのガイドラインでは,CEOは後継者の計画を

年次報告書によって取締役会に提出すべきであり,不慮の事態に備えて,CEOによる後

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継者の推薦が継続的に利用できるようになっているべきであるとしている。後継者の問題

はアメリカ企業における重要なコーポレート・ガバナンス上の問題となっているが,日本

における議論ではほとんど注意を向けられていないのが現状である。 ⑨ 取締役へのオリエンテーション・プログラム

ハイドリック・パートナーズ(Heidrick Partners)のフォーチュン 1000 社に対する 1995年の調査では,新しい取締役に対する構造化されたオリエンテーション・プログラムを持

つ企業は 1989 年の 36%から半分へと増加している。ハイドリック(Heidrick, R。)によれ

ば,このようなオリエンテーション・プログラムを持っている企業は圧倒的に,オリエン

テーション・プログラムが取締役会をより見識の広い,聡明なものにするのに貢献してい

ると報告している。 第 3 節 監査委員会の改善をめぐる問題

(1)ブルーリボン委員会 アメリカにおけるコーポレート・ガバナンスの要諦は取締役会にあるが,取締役会の改

善に関わる提言が行なわれている。取締役会の中に設置される委員会の中でも,とりわけ,

監査委員会は,経営者の業務執行状況を全体として監督するという重要な役割を担ってい

る。したがって監査委員会が有効に機能するかどうかはコーポレート・ガバナンスそのも

のの有効性を大きく左右する重要な問題であると考えられる。このような観点から,ニュ

ーヨーク証券取引所と NASD(National Association of Securities Dealers)との共同プロジ

ェクトとして,1998 年にブルーリボン委員会が組織され,1999 年に報告書を公表した。こ

の報告書は,SEC,ニューヨーク証券取引所,NASD が現行規制を見直していくべきこと

を提言した改善勧告の部分と監査委員会と経営者,内部監査人,外部監査人との役割分担

に関わる最善慣行に関する部分とから構成されている。この報告書は,影響力の強い団体

が主催したプロジェクトであることもあるが,コーポレート・ガバナンスを考える上で非

常に示唆に富む指摘が数多くなされており,日本企業のコーポレート・ガバナンスの今後

を考える上でも重要であると考えられる。ブルーリボン委員会の制度面に関する改善勧告

は,監査委員会の独立性,監査委員会の有効性の向上,監査委員会・外部監査人・経営者

間の報告責任のメカニズム,の3つのカテゴリーに分けられ,10 項目からなる(*のある項

目は市場価値が 2 億ドル以上の企業にのみ適用が推奨されている)。 1) 監査委員会の独立性 ①監査委員会メンバーの経営者および当該企業からの独立性の要件* ②監査委員会は社外取締役のみによって構成されることを上場規則に規定すること* 2)監査委員会の有効性の向上 ③監査委員会は 3 人以上の取締役によって構成されることを上場規則に規定すること(全

員が財務リテラシーを持ち,少なくとも一人は経理あるいは財務の専門家であること)* ④上場規則に正式な成文化された監査委員会憲章を作成することを規定すること

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⑤SEC は,正式な監査委員会憲章を採択しているか,また当該年度に憲章は遵守されたか

について委任状説明書にて開示する,監査委員会憲章が少なくとも 3 年に 1 回は,年次報

告書か委任状説明書において開示されている,ことを規則とする。 3)監査委員会・外部監査人・経営者の間の報告責任のメカニズム ⑥外部監査人は最終的には取締役会および監査委員会に対して報告責任を負うこと,およ

び外部監査人の選任・解任・評価は監査委員会の専管事項であることを監査委員会憲章が

規定するように,上場規則を規定する ⑦毎年外部監査人から ISBS(Independence Standards Board Standard)1 号により要求さ

れる正式な独立性に関する文書を受け取る責任を負うこと,積極的な対話を通して外部監

査人の独立性を確認すること,を監査委員会憲章が規定するように,上場規則を規定する ⑧GAAS(Generally Accepted Auditing Standards) は,外部監査人が財務報告の品質につ

いて監査委員会と討議することを要求しているが,これを実行すること ⑨SECが年次報告書ならびに様式 10Kに監査委員会から株主に宛てたレターを含めること

を制度化すること ⑩ SEC が様式 10Q を提出する前に外部監査人が SAS(Statement on Auditing Standards)71 号を完了することを制度化すること,そして SAS71 号も外部監査人が様式

10Q 提出前に監査委員会と討議するよう修正すること さらに,報告書は監査委員会の有効性を向上させるための5つの原則を提示している。

①監査プロセスの他の構成部分の監視における監査委員会の主要な役割 ②監査委員会と内部監査人との独立したコミュニケーション・情報の流れ ③監査委員会と外部監査人との独立したコミュニケーション・情報の流れ ④判断に影響を与え,(財務報告の)品質に影響を及ぼす問題についての経営者,内部監査

人,外部監査人との遠慮のない討論 ⑤仕事熱心で見識のある監査委員会のメンバー このような提言を受けて,SEC は 2000 年に監査委員会ディスクロージャーのルールを

改訂した。その中で重要と思われるものは次のとおりである。①四半期の報告書について

の外部(独立)監査人の検査が義務づけられた,②委任状説明書に監査委員会からの報告

を記載すること(監査の終了した財務諸表について経営者と議論したこと,SAS61 号に基

づいて独立監査人と議論すべきことで議論したこと,外部監査人の独立性について ISBS1号により要求される開示資料を受け取りその独立性について議論したこと),③委任状説明

書に取締役会が成文化された監査委員会憲章の採択について記載し,もし採択されている

のであればそのコピーを 3 年毎に掲載すること,④小会社を含むすべての NASDAQ・アメ

リカン証券取引所・ニューヨーク証券取引所の公開企業は,委任状説明書に,監査委員会

メンバーがそれぞれの取引所の基準にもとづいて「独立」であるかを記載し,「独立」でな

いメンバーについては所定の情報を開示すること,である。 アメリカにおいても監査委員会の機能を充実させ,ディスクロージャーを充実させるこ

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とで透明性を向上させ,アメリカの資本市場の強みを支えようとしていることが理解でき

る。また,「独立性」が重要な要件となっていることがわかる。 (2)内部統制

COSO によるフレームワークによれば,内部統制の目的は①業務の有効性と効率性,②

財務報告の信頼性,③関連法規の遵守であり,内部統制とはこの三つの目的に関して合理

的な保証を提供することを意図した企業の取締役会,経営者及びその他の構成員によって

遂行される一つのプロセスと把握されている。 内部統制の構成要素として,①統制環境 ②リスク評価 ③統制活動 ④情報と伝達

⑤監視活動,が考察されている。そして,内部統制とは経営者によって使用される手段で

あり,取締役会を経営者に対する上部構造と COSO ではとらえる。 COSO のフレームワークで認識されている内部統制の限界として,①内部統制の故障

(Breakdowns) ②共謀 ③費用と効果 ④経営者による内部統制の無視があげられており,

内部統制における監査委員会の役割は,内部統制システム,その手続きの妥当性の審査が

重要な職務,および監査機能が内部的・外部的に適切に遂行されていることを取締役会に

対して保障することにある。内部監査部門が重要であり,エクソン 85 人,フォード・モー

ター188 人となっている。 第 4 節 経営者の報酬

アメリカ企業における経営者の報酬も企業統治における重要な論点となっている。 (1)CEOの高額の報酬

アメリカにおいて,CEO の報酬は大きな論争の的となっている。クリスタル(Crystal)によれば,1970 年から 1990 までの間に CEO の報酬は 400%増加している。1990 年にお

いて,労働者の平均の 150 倍になっている。日本では 16 倍,ドイツでは 21 倍となってい

るのと比較して,かなり高額であることがわかる。 (2)ストック・オプション 株主からの圧力が増大する中で,1990 年代では CEO の報酬を多くの部分をストック・

オプションで支払うパフォーマンスに応じた支払方法がとられるようになってきている。 (3)株式の保有義務 取締役に株式の取得を義務づけている企業もある。NACD(National Association of Corporate Directors)は基本給(retainer)の 10 倍の株式を保有することを推奨している。 (4)報酬のディスクロージャー SEC は経営者の報酬に関するディスクロージャー規則を定めている。 アメリカにおいては経営者にインセンティブを与えるための制度についての実証研究が

盛んに行なわれている。

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第 5 節 アメリカ企業における所有構造

アメリカにおける所有構造の変化として,二つの点をとりあげたい。まず,第一は,機

関化の一層の進展である。とりわけ,かつて Drucker が指摘していた年金基金(Pension Fund)の台頭が著しい。第二は,従業員による所有参加形態である ESOP(Employee Stock Ownership Plan)の急速な発展である。 (1)機関化 1960 年代においては,個人投資家が機関投資家に対して圧倒的な持株比率を誇っていた

が,30 年間の間に機関投資家の比率が大きく高まってきている。とりわけ,年金基金が台

頭して,年金基金はその持ち株があまりにも大規模になるために株式の売却による意思表

示(Wall Street Rule)が困難になった。そのために,一部の年金基金は,取締役の任免,経

営者の報酬について発言力を強めるようになってきている。このような動きは,

Shareholder Activism と呼ばれ,とりわけ,CalPERS(California Public Employees’ Retirement System)をはじめとする公的年金基金の活動が目をひく。 (2)ESOP

アメリカにおいて,1980 年代に入って従業員による所有参加形態である ESOP が急速に

発展している。ESOP が発展した契機となったのは,1974 年の ERISA 法(Employee Retirement and Income Security Act)である。Allen らによれば,1975 年から 1988 年の

間に ESOP の数は,1,601 から 9,627 に増加している。最近の NCEO(National Center for Employee Ownership)の推計では,ESOP および類似のプランが 10,000 以上あり,1 千万

人の従業員が参加している。さらに,700 万人から 800 万人が別の種類のプランに参加し

ていると推定されている(この数字には,500 万人が参加している従業員にストック・オプ

ションを与えるプランや 200 万人ないし 300 万人が参加している 401(k)プランが含まれて

いる)。金額ベースでは,それぞれ,ESOP が 3,000 億ドル,ストック・オプション・プラ

ンが 2,000 億ドル,401(k)プランが 2,500 億ドルであると推定されている。そして,全体と

して,企業の株式の約 9%が従業員によって所有されていると推定されている。ESOP によ

って従業員に所有されている企業は約 3,000 社にものぼる。従業員が所有している企業の

代表的な例としては,Publix Supermarkets,United Airlines,Science Applications,Amsted Industries,W。L。 Gore Associates,Quad/Graphics,Journal Communications,Hallmark Cards などをあげることができる。

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第 2 章 資本市場からみたコーポレート・ガバナンス

明治大学 商学部 助教授 三和裕美子

はじめに 1990 年代のアメリカは、「Investor Capitalism1」の段階に進んだといわれた。すなわち、

機関投資家が「物を言う株主」として台頭し、アメリカ株式会社を支配する力をもつよう

になったことを意味する。実際には一部の公務員年金を中心に株主アクティビスト運動が

拡大していったが、その運用資産規模は大きく影響力は無視できないものであった。アメ

リカの企業統治においては、資本市場(株価と機関投資家)からのチェックが機能してい

ると考えられてきた。しかし、2001 年のエンロン破綻に端を発した一連の企業不祥事は、

このようなアメリカの企業統治システムの脆弱性を露呈した。小稿ではアメリカ企業統治

システムに内在する構造的な問題について、機関投資家の資産運用の側面から検討する。 第1節 機関投資家のコーポレート・ガバナンスにおける役割

(1)機関投資家の国内的役割 1980 年代後半以降、アメリカの機関投資家は巨大公務員年金を中心として、企業統治に

積極的に関与してきた。株主提案権の行使や、委任状合戦、企業経営者との対話、議決権

行使ガイドラインに基づいた積極的な株主議決権行使など、さまざまな株主行動をとり、

企業に企業統治の改善を求めてきた。 アメリカでは、政府が機関投資家による株主行動主義を支援してきた(表1参照)。1988

年の労働省の解釈通達(エイボンレター)をはじめとして、労働省は一貫して機関投資家

の株主議決権は「資産」であり、これを行使することは受託者責任に合致するとの見解を

示している。また、SECによる株主提案の適切議題の再解釈や投資信託の株主議決権行

使状況の開示規制なども同様に株主からのチェック機能を重視するものである。 そもそもアメリカにおいては、企業ガバナンスは私企業の問題であり、政府が介入する

ことは好ましくないと考えられてきた。しかし、ウォーターゲート事件をきっかけとして

企業の不正支出が社会的問題となった 1970 年代に、企業経営者のアカウンタビリティが問

われ始め、今後このような事件が起きないように、社会全体の問題として「企業アカウン

タビリティ・システム」を構築する必要性が議論され始めた。これらの調査・議論がまと

められ、1980 年に「コーポレート・ガバナンス報告書」としてSECに提出されている。

1 Useem,Micael, Investor Capitalism,1996

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この報告書の中でも機関投資家によるチェック・システムの構築、例えば機関投資家の株

主議決権行使内容の開示が検討されていたが、金融機関の反対により実現しなかった。 表1 コーポレート・ガバナンスに対する規制当局の見解

1980 年:SEC「コーポレート・ガバナンス報告書」

1988 年:労働省「エイボンレター」(議決権は資産である)

1991 年:The Corporate Pay Responsibility Act(経営者報酬の開示規制)

1992 年:SEC、委任状規則改正(機関投資家に経営者をチェックさせる)

2003 年:SEC、投資会社の議決権行使状況の開示

Disclosure of Proxy Voting Policies and Proxy Voting Records by Registered Management Investment

Companies, April 14,2003

<提案の背景>

2001 年 11 月現在で、ミューチュアル・ファンドは3.4兆ドルの株式を保有している。アメリカの発行済

株式総額の19%である。10年前は6.4%であったことと比較するとその伸び率は高い。何百万というア

メリカの投資家がミューチュアル・ファンドの株式を保有し、ポートフォリオ中の株式会社の株式を信頼し、

年金や子供の教育費その他の金融的なニーズを満たすために保有している。資本市場におけるミューチュア

ル・ファンドの多大なる影響とアメリカの投資家の金融資産に対する多大なる影響にもかかわらず、ファンド

は保有証券の議決権行使状況を明らかにしてこなかった。今こそ、ミューチュアル・ファンドの議決権行使状

況の透明性を高めることを考える時期である。透明性の向上により、ファンドの株主は、ファンドが保有証券

のガバナンス活動にいかに参加しているかをチェックできるようになる。これは株主価値に劇的な影響を及ぼ

すであろう。

しかし、1980 年代後半および 1990 年代においてアメリカ政府は、機関投資家の役割を

明確に示してきた。これは裏返せば、それだけ機関投資家の影響力を懸念したということ

である。機関投資家は運用資産規模が巨大化し、さらに運用理論の進展(リスクの計量化)

により、資本市場において巨大な資金提供者であるとともに積極的にリスクをとる主体で

ある。巨大な運用資産のコア部分がインデックス運用されることにより、大量の年金資金

が株式市場に流入する。さらにインデックス運用の周辺部分においては、積極的に高リタ

ーンを追求していくアクティブ運用がおこなわれ、その代表的なものが、LBO ファンドで

あり、ヘッジ・ファンドであり、プライベート・エクイティ(主としてIT関連産業)へ

の投資であった。 エンロンは、ヘッジ・ファンドの手法を用いて投機的な取引を繰り返していたが、この

ような企業に共同パートナーシップの設立という形で出資していたのは、皮肉にも株主行

動主義者で知られる CalPERS であった。機関投資家はインデックス運用においてエンロン

株を保有する一方で、プライベート・エクイティ投資において共同パートナーシップへ投

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資をおこなっていた。そして投機的な取引によって生じた損失が隠蔽されたまま株価が形

成されていった。このように形成されていった株価に、企業の資金調達や買収のための資

金調達、従業員の年金基金や、経営者報酬、個人の貯蓄などが依存するシステムになって

いた。機関投資家のコーポレート・ガバナンス介入は、このようなシステムに内在するリ

スクを「調整」する意味があった。

(2)機関投資家の対外的役割 1997 年のアジアの金融危機から、アメリカ機関投資家は企業ガバナンスがもはや一国だ

けの問題ではなく、グローバルな問題であることを強く認識した。とくに開発途上国の企

業ガバナンスの不透明性は機関投資家の投資にとって最大の障害であった。 このような障害を克服するために、公的機関である OECD と世界銀行が重要な役割を果

たしている。OECD と世界銀行は国際的なガバナンス改革を目的として、1999 年に Global Corporate Governance Forum(以下 GCGF)を共同で立ち上げた。GCGF は企業ガバナン

スにおける公共部門の役割について次のように述べている。 「公共政策という観点の企業ガバナンスの目的は、企業の権限行使のアカウンタビリ

ティを高め、企業精神を養成することである。すなわち公共部門の役割は、企業に対

して私的収益と社会的収益の差を最小化させる動機と規律を提供することであり、ま

たステイク・ホルダーの利益を保護することである2」 上記のような理念を掲げ、GCGF は公共部門として開発途上国の企業ガバナンス改革を

支援している。このように OECD と世界銀行は共同で公共部門として各国企業ガバナンス

のインフラ作りを支援するという立場をとっているが、この主導権を握っているのはアメ

リカの機関投資家である。機関投資家側の論理では、分散投資の促進のために今後さらに

国際的な株式投資は増やさざるを得ない。そのためには透明性の高い企業ガバナンス・シ

ステムが確立されていることが、投資の安全性を高め、また取引に関わるコストの削減に

もつながる。また受託者責任という観点からみても、企業内容の開示が不十分であったり、

企業ガバナンス・システムが整っていない国の企業への投資は、資産運用の委託者への説

明責任が果たせない。したがって機関投資家は、開発途上国の企業ガバナンスを向上させ

るために規制当局や政府に働きかける、という手法をとった。アメリカ機関投資家はこの

ような行動をとることによって、結果的に世界に「株主民主主義」を普及する役割を担っ

てきた。 以上のように、機関投資家のコーポレート・ガバナンスにおける役割は国内外において

非常に重要になっている。こうした背景には、アメリカにおいては「機関化現象」が他国

と比較して進展しているという事情がある。

2 Corporate Governance:An Issue of International Concern, http://www.gcgf.org/about.htm

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第 2 節 アメリカにおける「機関化」の進展と年金基金の大規模化

1970 年代以降、金融システムにおいて銀行の仲介比率が低下し、代わって機関投資家

の仲介比率が高まってきた。これは金融・資本市場における「機関化」現象が進んでい

ることを意味するが、特にアメリカにおいては、銀行の仲介比率の低下が著しく、代わ

って機関投資家が台頭してきている。アメリカの金融・資本市場は世界で最も「機関化」

現象が進んでいるといえる。現代の資本主義においては、機関投資家は主要な金融仲介

機関となり、さらには資本市場における投資主体として現れ、市場や発行体に影響を及

ぼしている。 表2は、主要各国の機関投資家の資産額と対GDP比率を示したものである。アメリ

カの機関投資家の合計額は約 15 兆ドル(対GDP比は 176%)と突出している。G-7

諸国の機関投資家の合計資産額の約 63%を占めている。投資信託は約5兆ドルの資産残

高であり(対 GDP 比 60%)、G-7諸国の約 70%を占めている。年金基金は約7兆ド

ル(対 GDP 比は 84%)で、G-7合計の約 75%を占めている。このようにアメリカの

機関投資家の資産額は圧倒的に多く、その影響力は国際的にも非常に大きい。 次にアメリカの年金基金、企業年金と公務員年金の資産額を確認しよう。表3は企業

年金と公務員年金の資産額を示したものである。2002 年現在の企業年金の状況は、確定

給付型年金が約 1 兆 2 千億ドル、確定拠出型年金は9千億ドルである。確定給付型年金

については、50 億ドルを超える大型年金基金が資産総額の約 60%を占めており、大規模

年金基金に資産が比較的集中する傾向がみられる。公務員年金については、確定給付型

年金は約2兆ドル、確定拠出型年金が約4千億ドルであり、確定給付型年金は企業年金

の資産額を上回っている。また、50 億ドル以上の大規模な公務員年金の保有資産額は全

体の約 90%を占めており、大規模な年金基金に資産が集中していることを示している。

表2 各国機関投資家の資産額(1998年、単位10億ドル) 生命保険 対GDP比率 年金基金 対GDP比率 投資信託 対GDP比率 合計 対GDP比率

イギリス 1,294 93 1,163 83 284 20 2,742 197アメリカ 2,770 33 7,110 84 5,087 60 14,967 176ドイツ 531 24 72 3 195 9 798 35日本 1,666 39 688 16 372 9 2,727 63G-7 7,212 - 9,479 - 7,195 - 23,886 -

出所:Davis,E.Philips and Steil,Institutional Investor ,2001MIT Press,p.10.

表3 企業年金と公務員年金の資産規模(2002年) 単位10億ドル

確定給付型 確定拠出型 確定給付型 確定拠出型DC・DB別基金合計 1,240 900 2,074 41850億ドル~ 766 447 1,841 37410億ドル~50億ドル未満 342 306 164 325億ドル~10億ドル未満 70 78 43 65億ドル以下 61 68 25 5Greenwich Associate 社資料(2003年)により筆者作成。

企業年金 公務員年金

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19

1990 年代において、アメリカの確定拠出型年金の資産残高は 401(k)プランの普及に伴

い着実に伸びてきた。さらに近年においては、公務員年金も 403(b)プランなどの確定拠

出型を導入するようになっている。2002 年現在で資産規模 50 億ドル以上の公務員年金

の確定給付型と確定拠出型併用基金は約 40%にのぼる。 第 3 節 年金基金の資産構成と 1990 年代の株高要因

アメリカの年金資産残高は1980年代から急速に伸びており、1980年から1984年で8,010億ドルから1兆 7,000 億ドルと2倍に伸長した。このような変化は、企業や従業員の拠出

額の増加ではなく、年金資産運用の好結果がもたらしたものである。連邦準備銀行のエコ

ノミストによると、過去5年間の年金資産残高の上昇要因の内 74%は運用結果によるもの

であり、1980 年のそれは 22%に過ぎなかったと報告されている3。 近年、確定給付型の年金基金数が減少し、401(k)プランなどの確定拠出型の年金基金数

が急増しているが、資産額では 1999 年末において確定給付型年金資産残高は2兆5千億ド

ル、前年同期比 19%増であった。一方確定拠出型年金基金資産残高も同じく2兆5千億ド

ルであったが、前年同期比 13.6%であった。現在、確定給付型年金は拠出額よりも給付額

の方が多く、確定拠出型は給付額よりも拠出額の方が多いにも関わらず上記のような資産

残高の伸びを示しているのは、株価の上昇によるところが大きい。過去五年間の株価の上

昇局面において、確定給付型年金基金の資産運用パフォーマンスは確定拠出型年金基金よ

りも良い結果がでている。また 1980 年代半ば以降、確定給付型年金は一貫して株式の売り

主体となっているが、それでも尚株式資産残高は確定拠出型年金よりも多いことも要因で

ある。1999 年に確定給付型年金は 821 億ドルの株式を売却しているが、全資産の 56%に

相当する1兆4千億ドルを株式に投資している。一方確定拠出型年金は 1999 年度に 18 億

ドルの株式を購入しており、全資産の 44%に相当する1兆1千億ドルが株式に投資されて

いる。また、確定給付制度を採用している公務員年金は全資産の3分の2を株式で運用し、

1999 年に保有株式残高は前年度比 11.1%増の2兆ドルに達している4 このように公務員年金、確定拠出型の企業年金は株式運用に積極的であり、確定給付型

企業年金はオーバーファンドで、あらたな拠出金を必要としないいわゆるコントリビュー

ション・ホリデイの状態の年金も多く、株式運用比率が低下している。 第 4 節 1990 年代の資産運用の特徴

1999 年において確定給付型年金は全資産の約 48%を国内株式に投資しているが、約 35%は普通株式アクティブ運用、約 12%が普通株式パッシブ運用、約 1.4%が自社株投資であ

った。一方 401(k)プランなどの確定拠出型年金は全資産の約 69%を国内株式に投資してい

3 Anand,Vineeta “U.S. pension assets cross $10 trillion, doubling in 5 years”, Pensions&

Investments,Mar.20,2000. 4 Ibid.

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るが、自社株投資に約 30%、普通株式アクティブ運用に約 27%、普通株式パッシブ運用に

12%と自社株投資比率が高い5。このようにアメリカの年金基金は株式運用を積極的に行っ

ていたが6、1990 年代の運用の特徴はインデックス運用、国際的投資、オールタナティブ投

資の拡大である。 ①インデックス運用 図1が示すように年金資産のうち株式インデックス運用の資産残高は 1998 年において、

約1兆4千億ドルとなっている。これは運用総資産中約 34%を占める。インデックス運用

はERISA法が制定された 1974 年以降、徐々に利用されるようになったが、1980 年代

半ば以降に公務員年金の株式投資増大に伴い資産残高が拡大してきた。大規模な資産を保

有する公務員年金の多くがコアインデックス・アプローチを採用している。すなわち、コ

アポートフォリオの大部分をインデックス運用する手法である。例えば、アメリカで最っ

とも資産規模が大きい年金の一つである公務員年金の CalPERS などは運用資産の 80% をインデックス運用し、アクティブ型のファンド・マネージャーを周辺に置いている。資

産規模で上位 200 の年金基金のうち 130 以上がこの方式を採用している。このような運用

手法の拡大により、インデックスの運用比率が伸びている7。 ②国際株式およびオールタナティブ運用8 オールタナティブ投資とは代替投資とも訳されるが、通常株式や債券のような伝統的

5 Greenwich Associate 社提供資料。 6 三和裕美子「金融制度改革と年金基金の資産運用」高木仁他編『金融市場の構造変化と金融機関行動』

所収、2001 年、p.151. 7 マイケル・J・クローズ「『伝統的運用手法変化(Ⅰ)』特集 特別来日公演-IPERI 年金セミナー2000より」『IPERI』、国際年金経済研究所,Vol.24、pp.18,19. 8 Clows J.,Micael The Money Flood-How pension funds revolutionized investing-,2000、pp-7,8,201,203、

251.

図1 アメリカ年金資産における株式インデックス運用

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1975 1980 1985 1990 1995 1998

10億ドル

0

5

10

15

20

25

30

35

40

株式インデックス運用資産残高

インデックス運用資産比率

出所:Clowes[2000],p.278より作成。

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な投資対象以外に投資を行うことをいう。しかし当初は、1980 年代にアメリカ以外の国へ

の株式投資が盛んになると、このような投資がオールタナティブ投資と呼ばれた。今日で

は諸外国への株式投資はオールタナティブではなくメイン投資になり、外国株式投資はも

はやこの範疇には入っていない。アメリカの年金基金は近年国際投資比率を上昇させてい

る。1993 年には同比率は 6.4%であったのが、1997 には 10.7%にまで上昇している9。この

ような投資の増大に伴って、アメリカの公務員年金が各国の投資企業のコーポレート・ガ

バナンスに介入するケースが増加している。 現在オールタナティブ投資の範疇には、80 年代以降盛んになった不動産投資、最近投資

額が増えているプライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、石油・ガス、破綻

債券などがある。このような投資対象が拡大してきた背景には、株式や債券とは異なった

リターン・リスクのプロファイルをもつ投資対象をポートフォリオに組み入れることによ

り、分散投資によるリスク削減効果を拡大しようとする機関投資家間の競争があった。 年金基金の外国株式投資は、実際には 1975 年にJPモルガン社がアメリカ国外への外国

株への投資を行ったことが最初である。その後、1980 年代までJPモルガン社に追随する

ものが少なかったが、1980 年以降拡大した。今日では各国の証券市場が連動して動く傾向

が強く、外国株式のオールタナティブ投資としての魅力は薄れ、もはやオールタナティブ

投資とは考えられていない。 不動産投資は株式との相関関係が非常に低く、株式と債券の間くらいのリターンを得ら

れるということで、1970 年代半ばに始められた。1995 年における年金基金の不動産投資額

は 510 億ドル、1999 年には 834 億ドルであった。大規模な資産をもつ公務員年金やGE、

IBMといった資産規模の大きい年金基金が不動産投資を積極的に行った。 1983 年にはベンチャー・キャピタルへの投資に参入した。ベンチャー・ファンドへの投

資は通常の株式投資よりもリターンが高く、また株式投資との相関性が低いということ、

年金基金が目指す長期的投資収益の実現という目的にあった投資対象であるということで

拡大していった。ベンチャー・キャピタルへの投資額は 1999 年にはおよそ 300 億ドルであ

るとみられる。CalPERS などの公務員年金に加え、エクソン社、ヒューレット・パッカー

ド社、デーア社、ファイザー社、シアーズ・ローバック社などの大企業がベンチャー・キ

ャピタル投資を積極的に行っている。とくにエクソン社は運用資産の 15.5%をベンチャ

ー・キャピタルへの投資に向けている。また、1980 年代前半には LBO ファンドへの投資

も活発におこなわれた。これは LBO によって買収された企業が閉鎖会社になり、その後公

開会社になると非常に高いリターンが得られたことで年金基金などの機関投資家が投資を

拡大した。 1990 年代に入ると、エマージングマーケットに対する投資も始まった。1992 年にアジア

の開発発展途上国あるいはラテンアメリカに対する投資が開始されたが、アジアの通貨危

機などで引き上げるという動きもあったが、リスク分散効果が高いということで近年また

9 Greenwich Associate 社提供資料。

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拡大している。1994 年になると、ヘッジファンドに対する投資が開始された。1994 年にモ

ーゲージなどをベースに複雑な証券投資をするアスキン・キャピタル・マネジメントとい

うヘッジファンドが破綻したが、このファンドに年金基金はおよそ1億ドルの投資をおこ

なっていた。いくつかのヘッジファンドが破綻しているにも関わらず、RJRナビスコ社

の年金基金は 1994 年9月には6つのヘッジファンドと契約をし、それぞれのヘッジファン

ドに3千万ドルの投資をおこなっていた。1999 年現在では、およそ 50 億ドルの年金資産

がヘッジファンドに投資されている。その他、1990 年代には石油とガスの掘削、探索プロ

ジェクトへの投資、プライベート・エクイティへの投資など投資の分散化が進んでいる10。 以上、アメリカの年金基金の資産運用動向をみてきたが、アメリカの年金資産残高は近

年急増してきた。これは 1999 年までの株価の上昇によるところが大きい。アメリカでは確

定給付制を採用している公務員年金や確定拠出型企業年金が株式などのリスク資産投資に

積極的であり、特に資産残高の大きい公務員年金はインデックス運用の比率が高い。リス

ク分散効果をねらって海外への投資残高も伸長している。また株式市場が世界的に連動し

て動く近年では、リスク分散効果を高めるためにオールタナティブ投資の残高が増加して

いる。 第 5 節 投資銀行の資産運用ビジネス

(1)資産運用業界への進出 機関投資家のオールタナティブ運用は 1990 年代に活発化したが、こうしたハイリスク商

品の開発の主導権を握っていたのが投資銀行であった。さらに、投資銀行は 1990 年に資産

運業業務に力を入れ始めた。1990 年代前半までは、投資銀行が資産運用業務に直接乗り出

すことは、顧客である機関投資家と競合することになると考えられていた。しかし、自己

勘定でのトレーディング業務への収益依存体質に対する反省があったこと、株式公開に伴

い、PER 水準を高める必要性があったこと、フィナンシャル・グループ全体の ROE を高

める効果などから投資銀行は資産運用業務に進出し始めた11。 1970 年代から 1990 年代までに、資産運用業界の中心は銀行や保険会社から投資顧問会

社への移った。同期間に資産残高はキャピタルゲインを含めて 400%増加し、運用報酬総額

は 10 倍以上に増加した。さらにポートフォリオの売買回転率は 4.5 倍に拡大した。このよ

うに投資銀行の資産運用業界への進出などを軸に競争が激化していった12。 1999 年において、1500 の年金基金の内 38%、50 億ドル以上の企業年金では 60%、寄

付基金では 40%、公務員年金では 35%が1年間に少なくとも1人のファンド・マネージャ

ーとの契約を解除したという。50 億ドル以上の企業年金では 60%、寄付基金では 40%、

公務員年金では 35%がファンド・マネージャーを替えた。ファンド・マネージャーは競争

10 Clows,前掲書,p.253. 11渡部亮『アングロサクソン・モデルの本質』ダイヤモンド社、2003 年、p.422. 12 チャールズ・エリス『TOP3の銀行・証券戦略』、2002 年 p.214.

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激化の中で、短期的利益を追求せざるを得ない。 また、競争が激化する中で生き残りをかけた合従連衡がすすみ、受託資産が大規模な運

用会社に集中する傾向にあった。1994 年では、上位 500 社の受託資産残高合計に占める上

位 20 社の受託資産割合は 38.7%であったが、1999 年には 48.5%と約 10%も上昇した。ま

た 1995 年には上位 100 社中 42 社が独立系であったが、1999 年には 21 社と半減した13。 このように大規模な資産運用会社に資金が集中する傾向があるが、インハウス運用の多

い大規模な年金基金は、資産運用業務に注力し始めた投資銀行と競合することになったの

である。このような背景のもとで、年金基金のヘッジ・ファンドやプライベート・エクイ

ティ投資が拡大していった。 (2)引受業務、ブローカー業務との関連

1990 年代以降主幹事争いが激化した。インベストメント・バンキング業務の手数料とし

て支払われる総額の内、約 60~65%は主幹事に支払われ、副幹事が受け取るのはわずか

20%、それ以下の投資銀行のシェアはさらに低下する。下位の投資銀行は利益が出ない状

況となる。引受手数料自体が年々上昇し、「フォーチュン 500」に入る大手企業は、1990 年

には一社平均 500 万ドルを支払っていたが、1999 年には 1500 万ドルに増大した。またこ

れらの大手企業の支払った M&A 手数料総額は、1990 年の4億ドルから 1999 年には20

億ドルへと4倍近くに増大した。さらに、一旦主幹事となったインベストメント・バンク

は長い間その地位を維持する。「フォーチュン 500」に入る大手企業について、一社が主幹

事を続けるのは平均 11.3 年であった14。 このような競争の中で、大手投資銀行は大量の資金を必要とし、モルガン・スタンレー・

ディーン・ウィッター、ゴールドマン・サックスなど主要な投資銀行は資金調達のために

株式を公開するようになった。企業側からみた株式引受主幹事の決定要因によれば、もっ

とも重要なのは「機関投資家向け販売力」であり、このためには優秀なアナリストの支持

が不可欠である。各投資銀行はインベストメント・バンキング案件受注のために優秀なア

ナリストの獲得競争を繰り広げ、アナリストの報酬は高額になっていった。アナリストを

抱えるリサーチ部門の費用の大半はインベストメント・バンキング部門が稼ぎ出しており、

コスト・ベネフィットの両面から、リサーチ部門とインベストメント・バンキング部門と

は絶えず連絡を取り合うことが戦略上重要となっていった15。 投資銀行は主幹事争いが激化する中で、より安定的な収益をもたらし、ROE を高める効

果を期待し資産運用業務に進出していった。その結果顧客である機関投資家と資産運用に

おいて競合することになり、機関投資家はよりハイリスク・ハイリターンの運用を目指す

13井潟正彦「アライアンスによるバーンスタインの買収」『資本市場クォータリー』Vol.4,2000 年秋号,

p.174,196-198. 14 チャールズ・エリス、前掲書、161,162. 15 Ibid.,p.198.

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ようになっていった。また、投資銀行は 1990 年代初頭より、IT関連企業の株式公開を促

進し、いわゆる「ITバブル」を引き起こした要因をつくり、さらにコスト・ベネフィッ

トから投資銀行部門とブローカー部門の連携が必要になり、アナリストの中立性の問題を

引き起こした。 現代のアメリカでは、投資銀行主導の金融仲介構造が形成されており、機関投資家はそ のなかで、リスク資産の供給者として非常に重要な存在になっている。特に 1990 年代にお

いては、資産運用業界において投資銀行の資産運用業務とインハウスの機関投資家の競合

関係が生まれ、機関投資家はよりハイリスク・ハイリターンの商品に投資対象を拡大させ

ていった。このような構造がエンロン事件の背景にあった。 おわりに 年金基金はリスクを積極的にとる主体として資本市場においては重要な役割を果たして

きた。1980 年代以降 LBO ファンドや、ヘッジ・ファンド、プライベート・エクイティ投

資などのハイリスク商品が開発され、機関投資家はこのようなハイリスク商品への投資に

積極的になっていった。エンロンやその他一連の事件は、このような積極的にリスクをと

る機関投資家の存在がなければ起こらなかったといっても過言ではない。こうした投資が

活発になった背景には、投資銀行の資産運用業界への参入、年金基金などの機関投資家と

の競合関係があった。 機関投資家はインデックス運用の増加により、「売却」することが困難になり、企業統治

に関与し、「責任ある投資家」として企業の監視役としての役割が求められてきたが、パフ

ォーマンスを追求するためのアクティブ運用は資本市場をより投機的なものにした。投機

的な株式市場に、企業の資金調達や買収のための資金調達、従業員の年金基金や、経営者

報酬、個人の貯蓄などが依存するシステムにおいて、機関投資家のコーポレート・ガバナ

ンス介入は、このようなシステムに内在するリスクを顕在化させないという意味があった。

しかし、今回のアメリカ企業の不祥事はそれが失敗に終わったことを表している。 わが国においても、昨今機関投資家の議決権行使の議論が盛んになり、機関投資家がコ

ーポレート・ガバナンスへに対して関心をもちつつあるが、今回のアメリカの教訓から「リ

スクの調整」という役割が認識されるべきであろう。

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第3章 インタビューにみる米国企業統治

ジェトロ米州課 鈴木 裕明

はじめに 米国の企業統治調査の一環として、ジェトロでは、ニューヨーク・センターおよび海外

調査部米州課が共同して、インタビュー調査を実施した。具体的には、ニューヨーク・セ

ンターおよび米州課にて、インタビュー先およびインタビュー項目を選定し、実際のイン

タビューは、巻末に掲載している全 19 先のうち、TIAA-CREF など5先については牧野委

員が、コンピュータ・アソシエイツ社など 13 先については在米の調査会社ワシントンコア

社が、オクスレー下院議員オフィスにはワシントンコア社とジェトロ・ニューヨーク・セ

ンターが共同で、各々実施した。 本章では、インタビューで得られた米国の企業統治に関するコメントを再構成してまと

め、1970~90 年代という米国の企業統治の過去と、エンロン破綻に始まる一連の不祥事、

そして企業改革法による企業統治改善という現在、今後の見通しとしての未来を、繋ごう

とするものである。 インタビューでの質問は多岐にわたりまた相互に関連しているが、ここでは便宜的に「過

去」、「現在」、「未来」、「日本の企業統治への見方」、そして「企業統治のコア」に分け、項

目ごとに取りまとめた。 なお個々のインタビューについては、一問一答形式で本報告の巻末に資料として全文掲

載してあるので、そちらをご参照願いたい。 第 1 節 米国の企業統治の過去

行き過ぎた株主第一主義と株価至上主義 インタビューは、エンロンに始まる一連の不祥事を念頭において実施されたため、米国

型企業統治のデメリットを強調するような話が多くなった。 ジョージタウン大学のマーガレット・ブレア教授は、「そもそもの米国の企業統治の特徴

は株主第一主義である」としながらも、「株主は数が集まることで、経営陣などの交代を実

現することが可能ではあるが、これは極端なケースで通常は取締役会に任されていた」と

指摘する。しかし、「ここ 10~15 年ほど前からは、年金基金や投資信託が発達」し、企業

は、「彼らの動きに多くの注意を払うようになった」。「その結果、企業の役員たちは、こう

した勢力をある意味おそれ」、それが 90 年代後半の株ブームと結びつくことで、「株主価値

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最大化(株価極大化、株主利益極大化)が企業の目的であると主張され、株価に多くの注

意が払われて、そのもととなる業績については注目が下がった。ストックオプションのよ

うな企業統治にシステム的な欠陥を及ぼすような報酬体系も、そうした流れの中で編み出

された」。 株ブームの影響については、米国公認会計士協会(AICPA)のチャールズ・ランデス氏

も、「90 年代後半から 2000 年にかけて、株ブーム、特にドットコムブームと、そこから生

じた貪欲さの中で、CPA はリアルな視点を失っていた」と、述懐している。その結果、「財

務諸表を使うビジネスパーソンは、どうせ会計士は経営陣とグル」と思うようになり、会

計士の信頼が失われたと分析する。業界紙ペンション・アンド・インベストメントの編集

長マイケル・クラウス氏は、このような株価至上主義やストックオプションにより、「経営

陣とアナリストが相互に短期収益重視の傾向を強め合っていったことは、ハイテクなどの

株バブルの一因ともなった」とし、株ブームが企業統治の低下を招いたのみならず、企業

統治の低下が株ブームの一因ともなったとの見方を示している。 取締役会の実効性に疑問 こうした株ブームや株価至上主義の台頭といったいわば企業を取り巻く外的環境につい

てではなく、そうした外的環境に対してなぜ米国の企業統治は脆かったのか、との視点か

らも、いくつかの指摘がなされた。 デラウェア大学のチャールズ・エルソン教授は、「取締役が独立性を保っていないことと、

取締役がオーナーシップ精神に欠けていることは、従来より米国型企業統治の不十分な点

として指摘されてきた」と話す。だから、「7~8 年前から関係機関が改善に取り組んできた」

という。同様の指摘は、企業統治に関するコンサルティング会社 IRRC のアナリスト(ジ

ョン・タイラー氏、石田猛行氏、ジョン・ウェンデルケン氏)からも為された。IRRC は、

「90 年代の米国における企業統治は日本企業に比べればアカウンタビリティがあり、確か

に『ある程度』は機能していた」と、その有効性を認めながらも、「しかしそれはあくまで

も『ある程度』であり、機関投資家の目から見ると、1990 年代の米国企業統治の安全性に

は疑問があった」とする。具体例として、IRRC は、取締役会における委員会制度を挙げる。

「報酬委員会および指名委員会設置が義務づけられていなかったため、機関投資家の間で

は、取締役会の『独立性』に疑問が持たれていた」。IRRC によれば、「実際、米国企業の多

くが『社外からの』取締役を置いていたが、任命される社外からの取締役の多くが CEO の

友人であったり、取締役として存在するだけの人であったりと、『独立性』が疑われるケー

スが多かった」という。 また、取締役の役割と実効性に関しても、ストックオプションが悪影響を与えたとの指

摘もされた。エルソン教授は、「報酬としてストックオプションを受け取った取締役が、で

きるだけはやくこれを行使して株式を売却しようとすれば、長期的な視野での健全な企業

経営を考えなくなっていく」と指摘する。

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制度的要因の背景にある社会的・文化的要因 さらに、より社会的・文化的な側面にまで突っ込んでの意見もあった。米国総務部長協

会(ASCS)のデビッド・スミス会長は、「米国では、企業に対する忠誠心がなくなった。

一つところでずっと働こうというカルチャーもなくなったし、雇用者と被雇用者間の信頼

関係もない。米国人は、『できるだけ短期に金儲けし、できるだけ早く、40 歳代くらいでリ

タイヤする』といったメンタリティを持つようになった。このようなビジネス文化の変化

が、問題の背景にある」という。 また、スタンフォード大学のロナルド・ギルソン教授は、「そもそも、幹部が本当に誠実

にビジネスを行っているのかどうかについて、自分は過去 20 年間疑いをもって見てきた。

いまでもこの点については疑いを持っている」との厳しいコメントを発している。 第2節 米国企業統治の現在(1) 不祥事

米国型企業統治の思想に問題なし 米国企業統治の過去については比較的厳しい意見が多かった半面、不祥事と米国型企業

統治の関係については、そのモデル自体に問題があったわけではないとする見方が多い。 ギルソン教授は、不祥事(特にエンロンなど逮捕者を出すような事件)について、「株バ

ブルとの良からぬ関係」があったとしつつ、これを「詐欺行為」と断じる。そして、「詐欺

に関しては、これは米国企業統治モデルの失敗ではない。どのような企業統治モデルであ

っても、完全に詐欺を防ぐことはできない」との考え方を示す。 米国企業統治の特徴である株主第一主義について行き過ぎがあるとして否定的な見方

を示したブレア教授にしても、「米国の企業法は良く出来ていて問題はない」という。ブル

ッキングス研究所のロバート・ライタン副所長は、「米国の会計規則にも問題はない」とす

る。では、何がいけなかったのか。ライタン副所長は、「原因は、会計原則を守らせるシス

テムに瑕疵があったせいだ」とする。ライタン副所長によれば、「このシステムというのは、

たとえば会計士が悪かったというのではなく、SEC も会計士も規制当局も、つまりシステ

ムが全体として問題をかかえていた。というのは、エンロンは例外だが、不祥事の多くは、

収入の過大計上と費用の過小計上という極めて単純な方法によって、為されているからだ」

と述べている。つまり、米国型企業統治の考え方ではなく、それを強制させるシステムの

瑕疵、との見方だ。IRRC も、「今回の一連の不祥事について、独立取締役、株主による監

視、ディスクロージャーといった米国型企業モデル自身に基本的な問題があるとの見方は

ない」と断言、問題は、「透明性の欠如」だったのであり、「したがって米国型モデルは、

引き続き追及されていくものといえる」とする。 このように、米国型企業統治モデル自身に欠陥はなく、だから事件は企業統治の問題と

いうよりは詐欺事件で例外的なものである、との考えとなり、これは今回のインタビュー

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で、ほとんどコンセンサス的にみられた意見でもあった。不祥事を件数で示したのがクラ

ウス氏で、「間違いを犯した企業は、全体のうちのほんの一握り。私の推定では、上場企業

は 7000 社、犯罪といえるのは 1 ダースくらい、犯罪とは言わないがというのが 100 社ぐら

い、それに近いのが数百社」という。 実施システムの瑕疵は取締役会の機能不全が要因 この企業統治の実施の部分では、取締役会の機能不全を問題とする意見がみられた。

ASCS のスミス会長は、「エンロンで監査委員会がワークしなかったのは、第一に、それが

本当の意味で独立取締役でなかったから。エンロンに限らず、独立でない取締役会は、過

去も誤った経営判断の原因となってきたのだ。---エンロンの取締役は『会社が何をしてい

るのかわからないから、ちゃんと説明してくれ』とまったく問わなかった。つまり、取締

役が独立性を保っていなかっただけでなく、会社の活動に対するコミットメントも欠如し

ていた」と、しばしば言及される独立性のみならず、コミットメントの部分も含め、取締

役会の実効性の欠如を問題視している。 大手ソフトウェア会社のコンピュータ・アソシエイツ社で企業統治を所管するロバー

ト・ラム氏も、取締役のコミットメントの欠如について、「エンロンの監査委員会のメンバ

ーは財務のベテランばかりだったが、エンロンの問題に対し、他の取締役とともに目をつ

ぶっていたことが問題を引き起こした」と言及している。これは、取締役に監視・監督さ

れるはずの CEO が強大になりすぎてしまったためと見ることもできるかもしれない。ラム

氏は、「CEO が独裁的で、『取締役にはあとで報告することで対処できる、誰に対しても説

明責任はない』と自分勝手に考えたこと、つまり『インペリアル CEO(皇帝 CEO)』とも

いうべき感覚が、スキャンダルを生み出した要因となった」と述べている。 このほか、ブレア教授は、会計士への支払いを CEO が行っていること、会計事務所の「産

業化」、さまざまな金融商品の出現や無形資産の増加で会計処理に恣意性が入りやすくなっ

ていること、などを指摘している。 第3節 米国の企業統治の現在(2) 法制度改革

自主的規制から強制的規制へ 今回の法制度改革の内容をみれば、瑕疵とみなされた実施・強制の部分をいかに強化す

るかが中心となる。そして、改革の全体像を俯瞰してみれば、「同法は、従来からの、米国

の会社法の原則を変えた」(ギルソン教授)といった構造的な変化を指摘する声が複数みら

れた。ギルソン教授はしかしこの変化に対し、「同法により取締役会の委員会構成が定めら

れたので、企業自らが委員会構成を決定することはできなくなった。同法成立以前におけ

る米国会社法の本質的特長は、企業に対する法的規制が非常に少なく、企業は個々の事情

に合わせてさまざまな企業統治を追求してきたことにあるが、同法成立により、以前にあ

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った柔軟性が失われたと考えることができる」と批判的な見方をする。 同法のこうした従来からの変化は、論者により、切り口が変わる。サーベンス・オクス

レー法の共同提出者オクスレー議員の法律顧問であるモンゴメリー氏は、「同法により、以

前の自主的な規則から、より強制的なものへ変わった」としており、また、同法を受けて

自らの市場の上場規則を策定したナスダックの上場審査担当上席副社長、マイケル・イー

メン氏は、「米国では、企業規則は、歴史的に自主規制が中心で、各市場の基準が主要なも

のだった。何か問題が起きれば、マーケット自体に解決させるとの考え方である。しかし、

昨年の夏、MCI、ワールドコムの破綻頃から、こうした傾向がなくなり、議会がすばやく

介入してきた。こうしたことは、きわめて異例であった」と述べる。 米国の企業統治の考え方は変えずに、実施・強制の部分を強化する以上、規則がより強

制的、より事前規制型になり、かつ柔軟性が減ずるのは、やむをえないものと言える。他

の論者がこうした変化を受け入れるしかないとするのに対し、ギルソン教授の論旨は、そ

のメリット/デメリットを比較したときに、デメリットが大きいのではないか、と危惧する

ものとみられる。 「独立」、「専門家」、定義強化の功罪 次に、諸規制の具体的な内容についてだが、第一に言及されたのが、取締役会の実効性

強化である。ASCS のスミス会長は、「委員会について決められたのは、評価できる」と述

べる。ギルソン教授も、「取締役の独立性を高めることに焦点を当て、また、監査委員会の

ステータスを上げた。今まで、監査委員会とは何かについての誤解があったが、それがよ

りクリアになった」ことは評価する。ブレア教授はこれを、「単に莫大なインセンティブを

経営陣に与えるのが取締役の仕事なのではなく、会社で実際に何が起きているかを監督す

るのが取締役の仕事であるというメッセージを送っていることが、この法のもっとも重要

な点である」と表現する。法規則の当事者の一人である、NYSE(ジェームス・シャピロ副

社長、アンネマリー・ターニー上席法律顧問)自身も、「上場基準作りにおいて特に重視し

たのは取締役の独立性だ。独立取締役は、株主代表として株主の利益を守る上で非常に重

要だ」とインタビューで述べている。AICPA は、「同法成立前は、会計士は経営陣と仕事を

し、経営陣に報告していた。同法により、我々が仕事をし報告するのは、監査委員会にな

った」とし、評価している。 しかし新法・新規則による詳細な条件設定には批判的な声も多い。ASCS のスミス氏は、

「監査委員会の財務専門家との定義が問題。厳格にみれば、本来専門家として能力ある人

材にも関わらず、条件に合致しないとして排除されてしまう人がでてくる」、ギルソン教授

も「財務専門家の定義などに問題あり」とし、コンピュータ・アソシエイツ社のラム氏は、

「SEC は、監査委員会に最低1人は財務のエキスパートが含まれていなければならないと

しているが、その必要はない。必要なことに対して、『それはどういうことか、わかるよう

にきちんと説明してくれ』と言えればよい」と述べている。こうした批判の声が強かった

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ため、SEC は 2003 年 1 月、この定義を緩和している。 また、「独立取締役」の定義についても、同様の批判がある。コンピュータ・アソシエイ

ツ社のラム氏は、「サーベンス・オクスレー法の文面で使われる用語に惑わされたり、定義

に固執したりで、真の改革精神を見失う危険性がある。たとえば独立取締役について、ど

のような条件の人が独立か否かを機械的に分類して文面で定義するのではなく、真の意味

で独立した考え方と精神を持っている人材かどうかを追求することが必要」としている。 その他、今回の法制度規制の重要なポイントとしては、「FASB の資金を産業界からの資

金に頼るのではなく強化しており、評価できる」(ブレア教授)、「この法律の最も大きな効

果は、SEC の予算と権限が拡大したことだと思っている」(ジョージタウン大学教授ドナル

ド・ランジブルト氏)、「連邦議会は SEC に対し 2 億ドルの予算増額を昨年行ったが、今年

も同様に予算増額措置を取って欲しい」(ライタン副所長)といったように、規制当局(あ

るいは FASB)の予算強化を挙げる声がみられた。 迅速な対応が可能となった理由はポピュリズム 米国が今回、すばやく改革法を成立させることが出来た背景として、立法の当事者であ

ったモンゴメリー氏は、「政治的に、すぐに何かしなくては、との圧力があった。不祥事を

起こしたのが大企業で、さまざまな地域で多くの雇用に影響があったためだ。テキサス州

ヒューストンにはエンロンやワールドコムの多くの従業員がいたが、破綻の結果、大勢の

人の 401(k)が消滅してしまった。これにより、テキサス州議員に対し大きな政治的プレ

ッシャーがかかった。サーベンス・オクスレー法のような大きな法案がこれほどまでに迅

速に成立することは通常ではありえない。政治的プレッシャーがなければ、これほどまで

に短期間で成立することはなかった」と述べている。 ほぼ同内容のことを、ASCS のスミス会長は、やや皮肉を込めて、以下のように説明する。

「迅速な対応の理由は、①エンロン破綻による従業員の 401(k)崩壊などがワイドショーで

さかんに取り上げられるなどし、また、ピット前・SEC 委員長が更迭されるなど、ポピュ

リズム的に重要になったこと、②(エンロンの CEO だった)ケネス・レイは、ブッシュが

テキサス州知事時代からの支援者で大統領選挙キャンペーンでも支援しており、政治的に

厳しく対処する必要があったこと、が挙げられる」。 負担の増加はあれど、企業は積極対応 今回の諸改革が、企業にとって何らかの負担増となることについては、インタビューで

も、やむなしとのコンセンサスが見られる。今回の不祥事を例外的なものとする捉え方が

中心であるため、「一握りのために米企業全体に罰が下った」(クラウス氏)との認識にな

るが、これを厄災とみるのではなく、「そのおかげで米企業全体の企業統治が改善されるの

ならば、そう悪いことでもない」と前向きの評価である。米大手証券会社チャールズ・シ

ュワブで企業統治を管轄するエレイン・リンデンマイヤー氏も、同様の主旨の発言をして

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いる。ただし、その負担増の規模の大小、そしてその負担増は必要なものであるのか否か

で、やや意見が分かれている。 今回インタビューした企業はいずれも大企業であり、諸改革に伴う事務作業やコストに

耐え得るだけの収益基盤を持つ。また、いずれの企業も、近年既に企業統治に注力してい

るところばかりであり、だからこそこうしたインタビューを受けてもらえたとも言える。

したがって、たとえばスーパーバリュ社で企業統治を管轄するジョン・ブリードラブ氏は、

「諸改革で決まったものは、ほとんどが当社にとっては対応済。当社同様、多くの企業に

とっては、劇的な変化を及ぼすようなものではない」という。企業全般についても、スタ

ンダード・アンド・プアーズのジョージ・ダラス氏は、「財務諸表への宣誓など新しいもの

もあるものの、多くの企業がサーベンス・オクスレー法に前から対処できていた、という

のは、その通りだろう」とみる。 ただし、全ての企業がこういう状況にあるわけではない。ダラス氏は、「企業統治で手一

杯になっている企業もあると思う。いくつかの企業では企業統治が明らかに弱く、企業統

治自体がその企業の課題として強く意識されるような時期がしばらく続くだろう」と言う。

チャールズ・シュワブ社のリンデンマイヤー氏に言わせれば、「同法は、いくつかの企業に

は困難なものとなろうが、そういった企業は、いずれにしろ企業統治を変えなくてはなら

ないのだ」と言うことになる。そして、こうした企業にしても、「対応を終えれば、落ち着

いていくだろう」(ダラス氏)。 以上のような見方に対し、ASCS のスミス会長は、異論を唱える。そもそも、「同法は、

ごく少数の例外のために過剰反応したもの」との認識がある。「これら一連の規則は、時間

のかかる手続きを企業に課した。たとえば、CEO と CFO が財務諸表の内容は確かに正し

いと署名することが求められているが、そのために特別のチームをつくって対応しなけれ

ばならなくなった企業もある。このような事態は、本来、本業に専念すべきところを、法

律に従うために多大な時間と労力を要さなければならないことを意味し、本末転倒となる

可能性がある」と、スミス会長は警告する。 総じて企業サイドの反応をみれば、「これを熱心に進めようとしているし、良い考えとと

らえ、コミットしている。市場自体がこのところ低迷を深めており、投資家の企業や経営

陣に対する信頼は消え、市場へのコンフィデンスは低下している。市場には、こうした状

況からなんとか回復しなくては、とのコンセンサスがある」(ナスダックのイーメン氏)と

いう。 第4節 米国の企業統治の現在(3) 積み残された問題

最大の積み残しとなったストックオプション ストック・オプションについては議論百出であり、ただし、①このスキームが企業統治に

悪影響を与えた、②何らかの対策は必要、とのコンセンサスは形成されているようにみえ

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る。こうした中、今回の法制度改革では、問題の核心ともいえる費用化をめぐる議論につ

いては手付かずのままとなったが、2003 年6月に SEC が、ストックオプションなど株式

報奨制度の採用・改変に際し株主の承認を義務付ける規則を決定(NYSE、ナスダックから

の改正案の修正を伴う承認)するなど、改善への動きは出てきている。 今回のインタビューで、この問題についてきわめて強い懸念を示しているのが、ペンシ

ョン・アンド・インベストメント紙のクラウス氏だ。クラウス氏は、米国で問題とされる

CEO の高すぎる報酬は、そのほとんどがストックオプションに起因する、と指摘する。そ

して、サーベンス・オクスレー法が、ストックオプションについては何も言及していない

ことについて、同法の最大の問題とクラウス氏はみる。これについては、ライタン副所長

も、「米国の会計原則について、一点だけ、ストックオプションの取扱いには問題がある。

ストックオプションは会計原則上は費用計上しないものとなっているが、これは財務指標

を実態以上に良く見せることになる。過去、問題ありとされた企業は、ほとんどがこれを

行っている」と、懸念を表明する。 現状、費用計上しない場合には、損益計算書の欄外への脚注扱いとなる。そして、多く

の企業はストックオプションの費用計上を行っていない。結果として、当該企業のストッ

クオプションにかかる実態が「株主にわかりにくい形になっている」(クラウス氏)。 クラウス氏は、「すでに何社かはストックオプションの費用計上を行っているが、これは

前向きで評価できる。ストックオプションの費用をどのように算出して、どこに計上する

かなど現在議論が交わされている。会計上どのように処理すべきかは、まだはっきりして

いないが、いずれにせよ、ストックオプションは株主がきちんと把握すべき報酬の一形態

である、と企業は認識すべきである」とする。 では、ストックオプションは廃止すべきなのか。実際にこれを利用している企業サイド

の意見としては、スーパーバリュ社のブリードラブ氏は、「たいへん多くの企業が豊富なプ

ログラムを導入している。スキルの高い従業員を押さえるためには必要」とこのシステム

を擁護しつつも、適当な規模であるかどうかが重要とする。ストックオプションにより経

営陣が近視眼的になるとの懸念について、ブリードラブ氏は「経営として短期(各四半期)

の収益を重視しているからといって、それで長期の成長のための正しい判断が出来ないか

というと、必ずしもそうではない」と反論する。そして、「短期と長期は、相互に競合する

目標であるが、両方考えるのが重要」と、現場の声を伝えている。 クラウス氏は、経営陣の視点を長期に持っていくための方策として、制限付き株式の付

与を提案する。「財務諸表に正確に価値が出る上、一定期間は売却できない決まりとなって

いるため、その方が、より株主に近いことになり、視野も長くなる」という。 現在、規制当局、企業、投資家いずれもが、ストックオプションの取扱いを、企業統治

にかかる最大の論点として、議論を進めている。GE、シティグループなどが費用化を決定

するなど、趨勢は費用計上の方向に動きつつあるようだ。

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監査委員の成り手不足を懸念 この問題を懸念する声も多くみられた。まずは、法的な責任。ASCS のスミス会長は、「監

査委員会の委員長は法的責任など重荷を背負うことになる」と言う。これは、「監査委員の

報酬をどうするか」(ギルソン教授)ともかかわるが、「報酬もこの仕事からしかもらえな

いのに、新法の下で不正が出た場合、過大な負担が生じるかもしれない。こうしたことを

考えると、はたして適切な人をリクルートできるのだろうか」(AICPA)との懸念が生じる。 物理的な問題もある。「新法下では、監査委員はより多くの時間が取られる」(ギルソン

教授)。その結果、「6 割の委員(独立取締役)が、他社の CEO ないしは上層部といわれる

が、これからは、(成り手不足から)委員の数を減らすであるとか、あるいは、自社の CEOが他社の独立取締役をあまりやらないように上限を設けるなどの動きが出てこよう」(ギル

ソン教授)。同様の指摘は、スーパーバリュ社からも出されている。 これに対し、ナスダックからは、「会計事務所から引退した人たちなど、適任者の充分な

人材プールがあると思う」との見方が示された。 CEO と取締役会長の分離は先送り この問題に関しては 2 名が言及したが、いずれもやや腰のひけた回答との印象である。

ASCS のスミス会長は、「これは企業固有の話でいいと思う」と個別企業の判断に任せると

のスタンスであり、また、NYSE では、「議論はしたが、まだ国民的な合意を得ていないと

判断し、今回は見送った」としている。サーベンス・オクスレー法は、企業統治先進企業

のベストプラクティスを集めたもの、との指摘があったが(スーパーバリュ社ブリードラ

ブ氏)、とすれば、CEO と議長の分離は、いまだ米国でのベストプラクティスとしては確立

しておらず、したがって今回は見送り、との結論になったものとみられる。ただし、「将来

的にはルール化されると思っている」と、NYSE では含みを持たせている。 企業統治に消極的な中小企業は上場廃止へ?

今回の一連の改革により、企業間で格差はあるにせよ、上場企業の企業統治に要する負

担が増加することは間違いない。特に、経営資源を潤沢にもたない新規公開企業や中堅以

下の規模の企業は、相対的に負担が重くなることが考えられる。ASCS のスミス会長も、断

定的に言うのは時期尚早ではあるがと留保しつつも、こうした懸念を指摘する。さらに一

歩進んで、「上場するばかりが、選択肢ではない。小さい上場企業では上場を止めるところ

もあるようで、その方がうまくいくのであれば、そういう選択肢もある」(オクスレー議員

法務スタッフのモンゴメリー氏)、「上場するといろいろ企業統治が大変だからというので、

非上場にしてしまっても問題ない。上場すれば、それは自社への投資をオープンにすると

いう面で責任が出てくる」(スタンダード・アンド・プアーズのダラス氏)との意見もある。

これは、外国企業にも当てはまる。ダラス氏は、「たしかにグローバリゼーションは進んで

いるが、国内からの資本調達で満足できるケースも充分あるし、それで満足するのであれ

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ば、国際的な企業統治基準に合わせろとの圧力は小さい」と述べる。 こうした論調からすると、今後、米国での IPO は減少していくことが考えられるが、そ

うはならないとの見方もある。ナスダックのイーメン氏は、「我々は独立性の基準を猶予す

るなど企業に柔軟性を許しており、市場の環境が回復してくれば、また前進を始めると考

えている」としている。ペンション・アンド・インベストメント紙のクラウス氏も、「新規

上場が減ることはないと思う。なぜなら、結局起業家が富を得るためのソースは、上場な

のだ」との立場である。 第5節 米国の企業統治の現在(4) 年金基金の今

ブレア教授が、行き過ぎた株主第一主義が形成される要因の1つともなったと述べる、

行動的な機関投資家、特にカルパースなどの大規模年金基金であるが、その議決権行使の

実効性については、否定的コメントが目立った。 ブレア教授自身も、「実際に株主が提案を行ったりするのは稀」と述べている。ペンショ

ン・アンド・インベストメントのクラウス氏は、「機関投資家の企業統治に対する影響力は、

それほど大きいわけではない。機関投資家の持ち株シェアは、せいぜい 25%くらいで、し

かも、投票になれば経営陣は優位性をもつ。だから、公務員年金基金、企業年金基金、投

資信託など全部が同じ考えで拒否権を行使する必要があり、したがって経営陣の提案を止

めることは容易ではない」と否定的である。 では、企業側はどう考えているのか。株主の 7 割が巨大機関投資家というスーパーバリ

ュ社は、「どの企業も資本市場で資本を求めており、そのためには、機関投資家の求める企

業統治レベルを満たすことを考える」と言う。しかし、「常に影響は受けるが、カルパース

や TIAA-CREF のような大規模年金基金が当社の企業統治を改革するよう圧力をかけてき

たことはないし、それがサーベンス・オクスレー法などにより変化したということもない」

としている。 第6節 米国企業統治の未来

それでも不祥事は再発する 以上のように、それなりの評価を得た法制度改革が迅速になされ、企業サイドでもこれ

に積極的に対応としているにもかかわらず、不祥事がなくなるとの見方はない。代表的な

意見をあげれば、新しい法制度による抑止力は認めつつも、「どんな規則があったとしても、

少数の悪人はいつも存在し、彼らは悪事をはたらく」(ナスダックのイーメン氏)、「世の常

として、新法成立後も、悪いことをしようとする者が現れ、不正を働くだろう」(ASCS ス

ミス会長)などである。その理由としては、「誠実さや正直であることは、法律で確保でき

ない」(スミス会長)ということになる。

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企業改革法はどうなるのか 企業統治に関する法規則強化の流れに後戻りはない、との認識が共通にみられたが、こ

れを前向きに捉える意見と、後ろ向きに捉える意見の双方があった。 前向きの見方としては、「新法は、そのほとんどが大企業で既に為されているベスト・プ

ラクティスをもとにしたもの。今後、より多くの企業にこうした流れが受け入れられれば、

規制当局は、こうした先進的な企業の後を追いかけるように、全ての企業に求めても不思

議ではない」(スーパーバリュ社ブリードラブ氏)、後ろ向きの見方としては、「これからの

問題として、修正は政治的に困難であり、これが結果として、経済環境にすばやく対応で

きる米企業の柔軟性を損なうことが懸念される」(ギルソン教授)という見方がある。 第7節 日本の企業統治をどうみるか

インタビューでは、米国型を日本企業など海外企業にも押し付けようとの意識はみられ

ない。ただし、現状の日本型をどうみるかというと懸念する声がほとんどであり、最近の

米国型を選択する動きについては良い動きとしてこれを評価している。結果としては、米

国型礼賛、日本型否定となっている。 まずは、米国型との関係。「日本企業など外国企業がサーベンス・オクスレー法に沿った

企業統治を採用しない場合は、なぜこのような企業統治を選んでいるのか理由を説明し、

説得できればよい」(コンピュータ・アソシエイツ社のラム氏)。「米国の制度に従う必要は

ないが、監視が働く仕組みになっていなければならない」(TIAA-CREF のクリアフィー

ルド常務理事)。「企業統治においてリスクの監視は普遍的な原則だ。監視の仕組みや、CEOと取締役会会長の分離、取締役の人数の制限などは、それぞれの国で議論すれば良い。(米

国固有の企業統治制度の後追いをするのではなく)ベスト・プラクティスを真似て、独自

のものを構築することが必要であろう」(コンファレンス・ボードのプラス氏)。 日本の企業統治については、極めて問題が多いとの見方一色といえる。「メインバンク制

から市場によるモニタリングへと変わりつつあるが、企業の銀行借入離れでバンクモニタ

リングが消え、現状、(市場モニタリングが)オルタナティブとなっておらず、懸念される」

(ギルソン教授)。「系列や株式持合いの慣行は海外から見るとわかりにくく不透明であり、

かつ、監査役制度は真のアカウンタビリティが確立されているとはいえない制度である。

問題なのは、従業員や経営陣でほとんどを占められた大人数の役員会や、日本式の監査役

についても、米国にみられるような権利や権力がないことだ。機関投資家や独立取締役に

よる企業統治が確立されるまでにはまだ道は遠い」(スタンダード・アンド・プアーズのダ

ラス氏)。「90 年代前半に日本で、外部監査役を就任させることが義務付けられたが、形式

的なもので全く意味がないというのが、米国での機関投資家の一般的な見方だ」(IRRC)。

「情報開示が乏しい、監査役の独立性が低く監視能力が低いなどの問題があると、認識し

ている。特に、取締役の独立性が低いことが最も重要な問題だと考えている」(ガバナンス

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メトリックス)。「監査役会の独立性強化については、経営陣からの圧力を跳ね返すだけの

監視能力の向上は期待できないとの見方が主流だ」(TIAA-CREF)。 そして、最近の監査委員会型の設定など、米国型企業統治を導入する日本の動きを見て。

「多くの日本企業は、独立取締役採用など、思い切った改革の過渡期にあると思う」(スタ

ンダード・アンド・プアーズ)。「今後、委員会等設置会社に移行する企業が増えてくれば、

それが評価され、株価が変化していく可能性はある。しかし、委員会等設置会社に移行し

たからといってアメリカ企業と同じ基準に立てるというわけではない」(IRRC)。「2003 年

4 月から施行される商法改正により、委員会設置型を選択した企業が 30 社前後あったこと

は大きな進展とみている」(TIAA-CREF)。 スタンダード・アンド・プアーズのダラス氏は、「世界中が 1 つのタイプの企業統治にな

る必然性はない。また、もしなるとしても、それには長い時間がかかるだろう。株式保有

構造にしても、世界でさまざまだ」とするものの、続けて、「ただし、国際金融市場で資本

調達を望む企業、あるいは、東京市場での外資比率がどれくらいか、20%くらいはあった

だろうか、とすれば、こうして外資が入っているということは、日本の企業でも、国内の

企業統治のみならず国際的な企業統治下での規律が必要になる」と述べる。ある程度の統

一は進むとの見方だ。 IRRC は、日米の企業統治の状況について、「日本では、株主をあまりにも蔑ろにしてき

たので、今は、もっと株主に報いるようにすべきとの状況であろう。結果として、ディス

クロージャーの徹底や、外国投資家の呼び込みという話になる。米国では、経営陣の視野

があまりに短期的になったことが問題視されているわけだが、それは機関投資家の方がた

とえば四半期といった短いタームで結果を要求してきたからではないか、ということで、

今回、機関投資家の行動もまた、ポイントとなっている。つまり、一連の不祥事にしても、

企業側の責任と機関投資家側の責任が拮抗しているとの状況だ。企業側に問題あり、とさ

れる日本の状況とは、このようにかなり違っている」と対照してみせる。 米国型こそグローバルスタンダード、といった意識は前面には出ないものの、日本型企

業統治への不信感はかなり強いと言える。 第8節 企業統治のコアとは

以上、エンロンに始まる不祥事とそれへの対応を中心にインタビュー結果をまとめてき

たが、最後に、こうした個々の事実・事例を踏まえ、企業統治のコアとは何かについての

コメントをまとめる。 取締役、および取締役会の重要性を強調したのが、ASCS のスミス会長、IRRC、それに

エルソン教授などだ。スミス会長は、「企業統治の鍵は、独立取締役で、高潔な人がこれに

就任しているといい。取締役の資質として理想は、モラルが高く、物事の良し悪しをきち

んと認識し、自分の利害にとらわれずに正しい判断を行える人」とする。IRRC も主旨は同

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様で、「取締役を見ることで、『この企業の取締役会は独立性が確保されている』とわかる

ことが重要である」と述べている。では、こうした抽象的なポイントをいかに実現するの

か。今回の新法規制は、そのための具体的な条件設定を行っているわけだが、これについ

ては、たとえば IRRC やスタンダード・アンド・プアーズは、「ボックスティッキング的な

規則逃れに繋がる」と否定的だ。しかし、ただ精神論を唱えていても、「誠実さや正直であ

ることは、法律で確保できない」(スミス会長)以上、実効性がない。エルソン教授は、実

効性向上のために取締役にオーナーシップ精神を持たせるようにすべき、との考えを示す。

具体的には、「取締役が長期にわたって株式を保有することで、その企業を長期にわたって

客観的に監視するインセンティブとなる。取締役は独立であるべきだが、あまりにも独立

でその企業との関係がほとんどなければ、その個人が取締役として企業活動を積極的に監

督する動機がなくなる。個人が相当額の株式を保有することで、その企業に対するオーナ

ーシップの意識が芽生える」というもの。 一方、市場からのモニタリングも企業統治上、極めて重要な役割を占める。そしてこの

モニタリングを有効に機能させるために、「絶対的に重要なのは情報の透明性だ。財務情報

や経営戦略上の意思決定などが投資家に開示されていれば、どのような会計基準、どのよ

うな企業統治形態であっても問題ないと思う」(ランジブルト教授)ということになる。だ

が、全てが正しく開示されていることの担保は、(もちろん会計士の役割にも大きいものが

あるが)取締役会の務めということになる。 こうしてみてくると、取締役の独立の要件などを定めるボックスティッキング方式への

批判はあっても、他に米国型企業統治モデルを実施・強制していく具体的な装置がなけれ

ば、メリット/デメリットを勘案しつつこれを導入せざるをえない。今回の法制度改革につ

いては、企業不信がシステミックに拡大しマクロ経済運営にも悪影響を及ぼしかねない状

況であったため、迅速な対応が必須であった。火急の状況下でのスピーディな対応だった

ことを斟酌すれば、それで企業不信が緩和され、また実際にも取締役が取締役業務で費や

す時間が増えるなど効果も出つつあることを鑑みれば、今回の法制度改革は十分に及第点

に達するものと評価できるのではないか。 もちろん、企業統治改革は、これで完結するものではない。企業サイドには、「常に継続

的に改善していくべきもの」(スーパーバリュ社)との意識がある。コンピュータ・アソシ

エイツ社のラム氏は、「たとえば、製造業における製品開発や在庫管理プロセスにおいて、

継続的向上が基本概念としてある。企業統治にも同じ努力が必要である」と述べている。

ストックオプションの問題など、積み残された問題点が解消され、さらに有効なものにな

るように、そしてボックスティッキング方式の弊害を減ずるべく、米国当局・企業には企

業統治改革の継続が求められている。米国では、当局も企業も、長きにわたりこの問題と

取り組んできていることを考えれば、そうした努力は今後とも続けられるものと考えられ

る。

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第 4 章 コーポレート・ガバナンス議論の展開と課題

日本経済団体連合会 経済法制グループ長16

横尾賢一郎

はじめに

最近の企業統治議論は日本経済の低迷を背景に、短期的には企業業績の悪化、中長期的

には産業競争力や制度間競争の視点から、盛んに取上げられてきているようである。4 月 1

日に施行された改正商法が会社の機関に新たな形態を選択制を導入したことをきっかけと

して、議論はさらに展開をみせている。本稿では、コーポレート・ガバナンスの課題の一

つである企業の社会的責任論と会社の機関のあり方について、歴史的背景や米国の取組み

を参考にわが国の現状と課題を考えてみたい。

第 1 節 企業の社会的責任論

企業は、今日資本主義を支える機能の大部分を担っており、その活動は広範である。あ

らゆる種類の製品とサービスを社会に供給し、雇用を創造し、利潤を作り出して株主や社

債権者等に配当と利子を分配し、納税を行っている。また、企業の種類や形態は様々であ

る。個人企業を除けば、企業の多くが株式会社(約 110 万社)と有限会社(約 140 万社)で

ある。株式会社の起源は 1602 年のオランダ東インド会社に遡ると言われるが、わが国では

19 世紀末に株式会社が確立され、今日では、当時考えられなかったほどの大規模なものへ

と発展してきている。いわゆる大規模公開会社の登場である。公開会社の数は約 3500 社に

過ぎないが、全体からみれば少数であるこの企業群の国民経済への影響は大きい。

株式会社は経営と資本を分離することで、効率的な資源利用を実現する装置である。従

って、株式会社は経営資源を提供する株主のためのものである。だが、株式会社システム

の発展に伴いその社会に対する影響が拡大し、企業の社会的責任論が巻き起こってきた。

すなわち、大規模公開会社の取締役は、株主に対して信認義務を負うのか、それとも、従

業員、消費者、地域社会といった企業の利害関係者に対してもこれを負うのかという議論

である。米国では、例えば、20 世紀初頭にダッヂ VS フォード社裁判で、従業員や社会の利

益に合致したとしても株主利益に反する行為は明確に否定された。その後、1953 年の A.P.

スミス社 VS バロー裁判で、水道・ガス装置の製造を行うスミス社のプリンストン大学に対

する 1,500 ドルの寄附の是非が争われた。結果として、企業の社会的責任に基づく合理的

な慈善寄附は会社の権限の範囲内であると正式に認められた。時代を画するこの判決の後、

16 2003 年 7 月 31 日現在。

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米国企業の社会貢献活動が活発化したと言われている。(参考:森田章『現代企業の社会的

責任』商事法務研究会)

(判旨)「国家の富が、主として個人の手もとにあった時に、個々人は、自発的に慈善目的

に寄附することによって、自分達の市民として責任を果たしてきた。ところが、富の大部

分は、会社の手に移った。また、個人は、重税の負担を課されてきており、博愛的需要の

増大についていけなくなってきている。そこで、会社は、個々人がなしてきたのと同様に、

良き企業市民であるという近代における義務を負うものと考えられるようになった。(中

略)現在の状況は、会社に私的責任と同様に社会的責任をも負わせている。すなわち、会

社は、活動している地域社会のメンバーとしての責任を自覚して、これを果たさなくては

ならなくなっている。(略)本件の寄附は、会社の利益になるということでもって正当化さ

れる。ただし、この利益というものは、自由企業体制の下で会社が現実に生き残るという

ことを意味するものである。現代の状況において、合理的な慈善寄附をなすことは、会社

の権限内に含まれている。会社が寄附することの権限についての 1950 年の立法規定の改正

は、このことを確認するものであり、本件原告会社にも遡及して適用できる。」(前掲森田

63 ページ)

わが国においては、この種の判決では、企業の政治献金を容認する 1970 年の八幡政治献

金事件判決がある。この判旨は、政治献金に限らず寄附一般に適用される法理と解されて

いるが、一方で、会社の直接的な事業遂行に有益な場合に限り認められるべきであるとの

見解も依然としてある。このように、寄附を含める社会貢献活動のありようについては、

今日、必ずしも一致した国民的合意形成があるとは言えないと考える。しかし、企業のこ

の種の活動に対する社会の期待は大きい。日本経団連の長年の社会貢献活動への取組みの

中で、企業からは「事業経営上の効果があることは認めつつも、それだけが社会貢献をす

る理由ではない。」との意見や、「社会貢献とは企業の社会形態の一形態である。企業も社

会の一員として社会の課題に取り組み、できるだけ解決に参加すべきである。」との意見が

寄せられており、今や主流となりつつある。こうした企業と社会的責任論は、企業と企業

の利害関係者の関係のあり方を取り扱うコーポレート・ガバナンス議論の文脈の中でなお

議論が継続している。そこでの大きな課題は、株主と勤労者や地域社会との利害の収斂で

ある。(参考:江頭憲治郎『株式会社・有限会社法』有斐閣 18 ページ、経済団体連合会編・

『社会貢献白書 1996 年』17 ページ日本工業新聞社)

第 2 節 商法改正と会社の機関のあり方

90 年代を通じての経済低迷と企業経営の不振、そして、並行して生じた 90 年代中期の株

主の議決権に関する利益供与事件―いわゆる総会屋事件や最近の食品の偽装表示事件等の

企業不祥事がいわゆるコーポレート・ガバナンスの議論を活性化してきた。コーポレート・

ガバナンスの定義は、いまだ一致したものはないが、一般的には、①商法上の会社機関の

あり方と②企業と企業の利害関係者の関係のあり方という2つの問題と考えられている。

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①は、さらに、企業経営の効率化に関する問題―例えば、取締役会のあり方や意思決定手

続の改善、と企業経営のモニタリングに関する問題―例えば、監査役会のあり方、社外取

締役の導入、会計監査人のあり方、内部統制、という問題へと派生する。企業の社会的責

任論は、②に包摂される。

近年、注目されてきた社外取締役(米国では、独立取締役)の役割については、取締役

会に外部の視点を取り入れ経営戦略の構築に資するとの意見と外部者によるモニタリング

の強化が図れるという評価の双方があり、課題の①と②のいずれにも関連する。こうした

考え方は、取締役会とそれを監視する監査役会の 2 層構造の従来型会社機関では、閉塞し

た経営状態を打開できないとする意見に押されて出てきたものであり、本年 4 月 1 日施行

の改正商法に反映されている。新商法では、執行役と社外を含む取締役の役割を分化する

ことで、業務執行と監督の分離を狙うものである。具体的には、「委員会等設置会社」を選

択した会社は、執行役と取締役会に報酬、指名、監査の 3 委員会を置くことが求められる。

3 委員会は 3人以上の取締役を置き、社外取締役を過半数とする。これにより、社外取締役

が取締役会の意思決定過程に参加するとともに、報酬、指名、監査の3委員会の過半数を

占めるメンバーとして、取締役会や執行役の業務執行を監視するという構想である。新商

法は委員会等設置会社を従来型の監査役設置会社に代えて選択できるとしている。なお、

委員会等設置会社が米国の会社機関と異なるのは、委員会の決定を取締役が覆せないとい

うことである。それだけ、委員会の権限が大きい。

一方で、監査役(会)の権限を強化をする流れがある。監査役制度は、終戦直後に米国

商法に倣って取締役会を監視機関としての導入したことに伴い、会計監査の権限に限定さ

れてしまった。しかし、その後、1960 年代の粉飾決算事件の多発に対応して再び強化の歴

史を辿っている(1974 年、1981 年、1993 年、2001 年。以上、改正商法の成立の年)。監査

役制度を支持する意見はこうした歴史的経過と商法体系を背景にしている。2002 年 5 月 1

日に施行された改正商法では、監査役の任期の長期化(3 年→4 年)、権限の強化(選解任

の同意権、辞任にあたり意見の陳述権等)、社外監査役の定義の厳格化と員数の強化が図ら

れている。したがって、ここ 1 年間で、わが国は社外取締役を中心とする会社機関と強化

された監査役を中心とする会社機関の2つの制度を手に入れることとなった。

第 3 節 期待される内部統制の役割

商法改正による選択制の導入は、いずれの制度が優れているかとの議論を巻き起こして

いるが、実務からすれば、そのことよりも経営手法に選択肢の幅を持たせたことの方が重

要であり、わが国の国際競争力の強化に貢献するものと期待されている。近年の企業組織

再編の活発化により、純粋持株会社が数多く設立されていることから、こうした企業では

委員会等設置会社を選好することが考えられる。既に、本年の 6 月株主総会で委員会等設

置会社に移行する企業が出始めている一方で、監査役設置会社の枠組みの中で独自の経営

機構を追求するリーディング・カンパニーがあるなど、わが国のコーポレート・ガバナン

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スは広がりを見せている。

ところで、2001 年末に発覚したエンロンの粉飾決算事件に端を発する一連の米国企業ス

キャンダルが、日本のみならず米国においても社外取締役制度の実効性に疑問を投げかけ

た。米国の社外取締役は、インターロッキング(企業間での社外取締役の持合)や高報酬

やストック・オプションを付与されていることから、その独立性と実効性に疑問があると

いう指摘である。米国の投資銀行関係者も、社外取締役の独立性に疑問を呈している

(Nicholas Benes『How to Promote FDI in Japan』AWSJ 2002 年 6 月 3 日)。そうしたこと

から、2002 年 7 月 30 日に施行された企業改革法(サーベインズ・オクスリー法)は、監査

委員会の独立性の厳格化を図ることとなった。しかし、企業改革法の核心は会社機関にお

ける社外取締役の強化よりも、むしろ、厳罰をもって結果責任を最高経営責任者等にとら

せる財務諸表等に関する宣誓制度の導入である。これは制度が理念の上に構築されるもの

である以上、その実効性はむしろ運用にかかっているということの意図の表明と読める。

いうなれば結果主義ということであろう。こうした実態を重視した考え方を日本の制度に

引きなおして考えると、商法の改正だけでコーポレート・ガバナンスの実効性の確保を図

ることは困難ということになる。また、社外取締役機能の企業業績への貢献自体について

は、実証的に疑問を呈する意見が根強くある(『who appoints them, what do they do?

Evidence on outside directors from Japan』ラムザイヤー、三輪)。それにも拘わらず、

社外取締役の採用やその人数を重視する意見がいまだにあることは憂えざるを得ない。む

しろ、選択した会社機関の実効性を確保していく上で、①経営トップの意識、②監査役会

や監査委員会を支えるスタッフや効果的な内部統制システムの構築、③投資家との緊張関

係の構築といった実質的課題が重要ということになろう。

経営トップの意識については、日本経団連としても企業行動憲章の数次にわたる改訂の

都度、強調してきていることである。トップの健全経営の推進に対する意気込みがあって

も、大規模公開会社になればなるほど、それが従業員の隅々までいきわたることはなかな

か困難なことであり(しかし、実現すべきことである)、内部の通常のコミュニケーション

強化やヘルプラインの設置による告発的情報の流通確保といったことが重要になる。また、

そうした制度を設置するだけでなく、PDCA(PLAN、DO、CHECK、ACTION)によって絶えず

見直しを行い、企業不祥事を防止し企業経営の向上を図るたゆまない運動を展開していく

ことが必要である。

また、②の監査役会や監査委員会を支えるスタッフや効果的な内部統制システムの

構築については、米国の企業改革法でもその強化を求めている(404 条)。また、わが国で

も商法施行規則が、委員会等設置会社にその整備を求めている(193 条)こともあって、各

所でその検討が始まっている。例えば、日本経団連の本年の総会決議でも課題の一つとし

て取り上げられている。また、経済産業省では今春に内部統制に関する研究会リポートを

纏めて公表している。(「リスク新時代の内部統制―リスクマネジメントと一体となって機

能する内部統制の指針―」)内部統制議論は日本経団連の企業行動憲章で設置を推奨してい

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るヘルプラインのような制度を一部包摂するものであり、また、会計監査とも密接に関連

するものである。近年の会計監査はリスクアプローチを重視しており、リスクの統計的把

握により、効率的な監査の実行体制の自主的な整備が各社に求められており、今後、さら

に整備を進める必要がある。内部統制システムが整備され実効性を確保するのであれば、

もはや監査役会か監査委員会かという会社機関の区別を議論する必要もなくなるものと思

われる。既に、経団連のビジョンと総会決議で内部統制の重要性をコーポレート・ガバナ

ンスの中に位置づけている。

第 4 節 投資家によるチェック体制と内部統制

内部統制は経営機構のガバナンスの強化を内部で支える仕組みである。これに対して、

外部からの経営機構をモニタリングする役割として資本市場がある。資本市場の重要なプ

レイヤーである投資家と公開会社の緊張関係の構築には、2つの課題がある。

ひとつは投資家保護に特化した市場監視体制の整備である。米国企業の一連の不祥事の

教訓は、米国制度が不完全であったことを暴露されたことにあるのではなく、米国証券取

引委員会(SEC)の迅速な対応が効果的であったことにあると考えられる。米国の会社制度

の真髄は社外取締役の導入ではなく、むしろ、1933 年証券法と 1934 年証券取引所法による

市場の厳格なチェック体制である。社外取締役が一般投資家や株主の代表であり、その導

入が投資家の利益を実現する要件であるという意見がある。しかし、米国の長い歴史の中

で、そうであった時期は、限られているのではないか。近年では 1993 年前後に有力企業の

CEOが相次いで社外取締役に解任されたことがある。その背景にはカルパース(カリフ

ォルニア州退職者年金基金システム)などの有力機関投資家が社外取締役を支えたことに

あると言われている。これは稀なケースであり、社外取締役の役割は限定的であった。む

しろ、外部からのモニタリングは行政によるものの方に実効性があった。

米国の商法は州レベルで制定されており、企業誘致のためにその強行法規性はなきに等

しく、「定款自治」を重んじている。従って、企業家は思ったままに経営手法を選択するこ

とができる。しかし、事前規制を受けない替わりに、企業業績はマーケットで冷徹に審判

が下され、結果責任が問われる。その際のディスクロージャー規制は厳密であり、これに

違反する企業は厳罰に処される。その市場の番人が SEC である。

90 年代初頭に米国企業の経営者が、企業業績と拘わりなく法外な報酬を得ていたことが

社会的な批判を招いたことがある。これを取上げたのは社外取締役ではなく、議会である。

上院の政府問題委員会は、本件に関するビジネス・ウィーク誌等の報道を重視し、これを

規制するためのSECの権限が不十分であることから、①役員報酬に関する株主提案に制

限をなくす、②総会招集通知に役員報酬の情報を開示する、③ストック・オプションの情

報を開示することを内容とする法案を準備した。これに対して、こうした問題は政府等の

介入すべき問題ではないとの批判があり、立法化は見送られた。しかし、これをきっかけ

としてSECが何十年ぶりかの規制の変更を自発的に行ったのである。その内容は、役員

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報酬を過去 3 年間遡って開示すること、開示にあたっては報酬委員会のサインが必要なこ

と、同業種他社との比較が必要なことである。現在では報酬額の上位 4 名の役員とCEO

の報酬を開示することというものである。また、ストック・オプションの会計基準につい

ての議論もこの頃に開始されている。

こうした積極的な SEC の活動に比べて、わが国の証券市場監視体制は陣容、予算、権限

のいずれにおいても見劣りのするものである。しかも、業者行政と市場行政が米国のよう

に分化していないために、例えば、金融行政のために会計・開示制度が歪められて運用さ

れるのではないかという疑念を市場に与え、その結果として、レジェンド・クローズ問題

が生じているといわれている。(日本基準によって作成した英文財務諸表に、あたかも「こ

れは信頼がおけない」との趣旨で、「日本基準で作成されています」との注意書きが行われ

ていること)こうした問題を克服するために、日本も米国同様に業者行政から独立した証

券市場監視体制を構築することが必要である。個人投資家が投資を避けている背景には、

証券市場に対する信頼が低下していることがあり、これを回復する上でも早急の対応が必

要である。

第 2 は、持合解消後の株主構成の変化への対応である。金融商品の時価会計の導入と持

合株式への適用、金融機関や企業再編による子会社株式の発生や独禁法の要請による持合

株式の放出が進み、その受け皿として外国人投資家や個人投資家が増加している。外国人

投資家の株式保有金額は約 18 パーセントに達している。一方、個人投資家も約 21 パーセ

ント程度で推移している(全国証券取引所「平成 14 年度株式分布状況調査について」2003

年 6 月 16 日)。ただし、個人投資家は議決権行使に対する関心が低いために、企業の機動

的な意思決定の障害ともなっている。こうした「合理的無関心」の状況を打ち破るものと

期待されているのが、投資信託制度の整備や確定拠出型年金制度の出現である。間接型市

場金融制度の整備が個人投資家の投資への参加を容易にし、株価次第でもあるが将来の再

機関化の予感をもたらせている。既に、機関投資家である生命保険を中心に企業経営に発

言するべく議決権行使ガイドラインを策定するところも出始めている。新しい機関投資家

は一般のサラリーマンから年金等の老後のための運用資金を募るものと考えられることか

ら、議決権行使ガイドラインは、雇用確保や長期安定経営を重視したものとなるだろうこ

とが予感される。

なお、この 2 月に厚生年金基金連合会が議決権行使基準を公表し、株主を優先するべき

であるという姿勢を鮮明にしている。その一環として投資先企業に対して、取締役の 3 分

の1を社外取締役とすることが議論を招いている。同基準は、「株主利益の最大化は、その

他のステークホルダースの利益と矛盾しない」としているが、そうでない場合も考えられ

るからである。また、当該企業と利害関係の一切ない社外取締役が、株主の利益を代表で

きるのか疑問であるとの意見もある。こうした懐疑的な見方は、機関投資家自身のガバナ

ンスのあり方や加入者への説明責任の問題から発している様に見受けられる。米国でも本

年 1 月にカルパース等の機関投資家が開示強化を SEC より求められている。このような事

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態はわが国でも今後考えられることである。コーポレート・ガバナンスの議論とともに、

機関投資家のガバナンス問題が並行して議論される時に差し掛かってきているといえよう。

こうした雇用確保か株主利益かは、近年においては、冒頭に指摘した会社と会社の利害

関係者の関係のあり方の中でさらに検討されることとなろう。しかし、国際的にもまた国

内でも比較的高失業を経験している中、やはり、社会の要請は株主利益よりも雇用の確保

を支持しているように見えてならない。米国においてさえ、商法は地域社会の活性化や雇

用確保を株主利益より優先することを容認する動きにある。経済政策の目標がインフレー

ション収束と失業克服の2つの座標軸の中に置かれる限り、コーポレート・ガバナンスの

目標を「雇用確保」に置くことが、現在の暗黙の国民の期待、もしくは合意ということが

できる。

こうした課題について、国民ひとりひとりがその考えを会社経営に反映させていくため

には、資本市場、労働市場、製品・サービス市場並びにコミュニティ・市民社会のいずれ

かのチャンネルでそれぞれの投票行動(株式の売買、議決権行使、財の選択、等)を通じ

て企業にメッセージを伝える努力が必要である。おりしも、企業への社会的責任投資(SRI)

が注目されてきているところである。その際に、個人の「公」意識の醸成がコーポレート・

ガバナンスを決定する上で重要な要素となってきているといえる。

(以上は個人の見解であり、所属団体を代表するものではありません。)

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巻末資料1:インタビュー要旨 米国総務部長協会(ASCS)

米国総務部長協会(President, American Society of Corporate Secretaries (ASCS))

1946 年、非営利法人としてニューヨークに設立。現在、約 3,000 社から 4,000 人のメン

バーが参加。大多数が米企業だが、カナダ、南アフリカ、イスラエルを含む 18 か国からも

参加している。メンバーとなっているのは、証券法の弁護士やチーフ・ガバナンス・オフ

ィサー、企業の総務や法務担当者などで、企業においてコーポレート・ガバナンスやレコー

ド・マネジメント、証券取引および規制、委任状依頼(proxy solicitation)などを含む株主

関連業務、コーポレート・セクレタリー室の運営管理などに携わっている人たちである。

ASCS メンバーは、ASCS の委員会や出版物、リサーチ、セミナーやコンファレンスを通じ

て、メンバー同士で情報交換および経験共有を図っている。 会長(President) デイビッド・スミス氏(Mr. David Smith) ――エンロンに始まった一連の不祥事について、どう見るか? エンロン事件以前、米国の企業統治は概して良好で健全であり、エンロンやワールドコ

ムはごく例外に過ぎない。したがって、一昨年からの一連の企業不祥事をもって、米企業

全体の危機と捉えるのは誤り。 とはいえ、CEO が自分の金儲けに走り、従業員が 401(k)を換金できないうちに売り抜

けるなど、エンロン事件のショックはいまだに(社会的に)尾をひいている。年金をすべ

て失った従業員は非常に痛ましく、まったく考えられないような出来事であり、今でも、

60 歳、70 歳のシニアが年金を失ってファーストフードで働かざるを得ない状況に追い込ま

れた映像が放送され、世論の怒りがおさまらない。 ――エンロンは独立取締役を中心とした監査委員会など、一見、企業統治面もしっかりし

ているように見えたが? エンロンで監査委員会がワークしなかったのは、第一に、それが本当の意味で独立取締

役でなかったから。いくら著名な教授を連れてきても、独立が確保されていなければダメ

であって、これがエンロン事件の主な原因となった。エンロンに限らず、独立でない取締

役会は、過去も誤った経営判断の原因となってきたのだ。 議会で一連のスキャンダルに関する証言が行われたとき、エンロンの取締役が“どの取

引きで何が行われているのか理解できなかった”というのを聞いて驚いた。エンロンの取

締役は“会社が何をしているのかわからないから、ちゃんと説明してくれ”とまったく問

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わなかったのであり、これは、明らかに企業統治の機能不全。つまり、取締役が独立性を

保っていなかっただけでなく、会社の活動に対するコミットメントも欠如していた。取締

役がいつ、どのような情報を、どのような形で受け取るか、受け取った情報に関して、取

締役がどのように対応するかが企業統治にとって重要である。もし会社が取締役に十分な

情報を渡さなかった場合、それについて取締役が“もっと良質で十分な情報が必要だ”と

言わないとしたら、その会社の企業統治はうまく機能しているとはいえない。 ――こうした不祥事が生じる背景、土壌のようなものがあったのか? 米企業では、企業に対する忠誠心がなくなった。一つところでずっと働こうというカル

チャーもなくなったし、雇用者と被雇用者間の信頼関係もない。米国人は、「できるだけ短

期に金儲けし、できるだけ早く、40 歳代くらいでリタイヤする(make quick bucks and retire)」といったメンタリティを持つようになった。このようなビジネス文化の変化が、

背景にある。しかしだからといって、日本型が良いかどうかは、わからないが。 ――サーベンス・オクスレー法や、それに連なる諸規則を、どう評価するか? 報酬委員会などは独立取締役でなくてはならない。また、指名委員会、統治委員会もあ

るといい。委員会設置について定められたのは、評価できる。 しかし、同法は、ごく少数の例外のために、オーバーリアクション、あるいはオーバー

キルとまでは言えないかもしれないが、行き過ぎといえる。 同法とそれに伴うニューヨーク証券取引所(NYSE)、証券取引委員会(SEC)細則など

で、総務部長(corporate secretary)はやらないといけないことがたくさんある。またこれ

ら一連の規則は、時間のかかる手続きを企業に課した。たとえば、CEO と CFO が財務諸

表の内容は確かに正しいと署名することが求められているが、そのために特別のチームを

つくって対応しなければならなくなった企業もある。このような事態は、本来、本業に専

念すべきところを、法律に従うために多大な時間と労力を要さなければならないことを意

味し、本末転倒となる可能性がある。 これから公開を目指す新興企業にとっては、負担が増える。大企業は法律規則遵守の責

任を自覚しており、また同法を遵守するリソースがある。しかし中小企業が対応するのは

むずかしい。同法を遵守できる大企業と、そうではない中小企業という二極分化が進むか

もしれない。 しかし同時に、こうしたさまざまな手続きは行き過ぎかもしれないが、断定するには早

すぎる。そのうち、同法に従うためのさまざまな手続きがルーティン化してしまえば、そ

れほどの負担にならなくなる可能性もある。同時に、ルーティン化してしまうと今度は実

際の効果が薄れる可能性もある。 いずれにせよ、今後、同法による企業統治改革の流れそのものが後戻りすることはない。

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――同法・諸規則の問題点について、具体例をお願いしたい。 (「上場するためには、取締役会は、経営陣抜きの定期的なエグゼクティブ・セッション

を設置しなければならない」としているが、)ASCS は、エグゼクティブ・セッションで特

定の一人の独立取締役が議長を務める必要はなく、話題ごとに持ち回りにすればよいとい

うコメントを出し、SEC などの関係者と意見交換を行っている。エグゼクティブ・セッシ

ョンについては、誰がそれを仕切るかより、むしろレギュラーで開催することこそが重要

なのだ。 また、監査委員会の財務専門家との定義が曖昧であることも挙げられよう。財務専門家

を厳格に定義すると、本来財務専門家としての能力がある人材であるにも関わらず、定義

されている条件に合致しないとして排除されてしまう人がでてくる。たとえばウォーレ

ン・バフェットは、財務専門家とみなされるための新制度の厳密な資格要件からは外れて

しまう17。バフェットは、“自分の理解できないビジネスには金を出さない”というフィロ

ソフィを持つ、投資の天才である。彼が財務専門家でなかったら、いったい誰を財務専門

家と呼ぶことができるのだろうか。そうした一方で、監査委員会の委員長は法的責任など

重荷を背負うことになる。したがって、成り手を見つけてくるのが難しいだろう。 ――法規制が行き過ぎとの話だが、同法の限界は? 誠実さ(integrity)と正直であること(honesty)は、法律で確保できないということだ。

サーベンス・オクスレー法が成立し罰則規定も盛り込まれたことで、この法律が不正を阻

止する抑止力を果たすことになるだろうが、世の常(nature)として必ず既存の制度をか

いくぐって悪いことをしようとする者が現れ、不正を働くだろう(Crooks always find ways to do wrong doing)。 ――今回、米国で、このように迅速な対応が可能となった理由は何か? 米国が今回、ビジネス界よりの共和党政権下であるにもかかわらず、すばやく改善策を

通した背景としては、①エンロン破綻による従業員の 401(k)崩壊などがワイドショーでさ

かんに取り上げられるなどし、また、ピット前・SEC 委員長が更迭されるなど、ポピュリ

ズム的に重要になったこと、②(エンロンの CEO だった)ケネス・レイは、ブッシュ大統

領がテキサス州知事時代からの支援者で大統領選挙キャンペーンでも支援しており、政治

的に厳しく対処する必要があったこと、が挙げられる。結果、オーバーキルになった。今

後、調整されることはあっても、後戻りすることはないだろう。そして、企業にとっては、

重すぎる手続きが残った。 ――企業統治の鍵となるのは、何か?

17本インタビューのような批判が多く SEC に寄せられた結果、SEC はこの規則の緩和を決定、財務諸表の

分析・評価経験でも可とされている。(http://www.sec.gov/rules/final/33-8177.htm)

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企業統治の鍵は、独立取締役で、高潔な人がこれに就任しているといい。取締役の資質

として理想は、モラルが高く、物事の良し悪しをきちんと認識し、自分の利害にとらわれ

ずに正しい判断を行える人。 独立取締役に加え、企業トップの高額報酬を監視していくことも大事だろう。米国では

多くのエグゼクティブが年間 100 万ドルの報酬を受け取る。この額でも十分多すぎるほど

であるが、年間 8,000 万ドルもの報酬を受け取る者もおり、このような金額はまったく行

き過ぎた反道徳的な額である。 また、企業が企業統治を公開することも重要だ。機関投資家にとって、公開されないこ

とが、フラストレーションとなっていた。 CEO と取締役会議長を分ける分けないという議論があるが、これは企業固有の話でいい

と思う。 ――日本の企業統治の状況をどう見るか? 日本企業のいくつかが、米国式の企業統治(に近いもの)を選択するのは、海外の投資

家を意識しているからだろう。米国の機関投資家は、投資先の企業統治をみており、その

基準としては、サーベンス・オクスレー法的なものを考えている。

(インタビュー:2003 年 2 月 11 日)

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スタンフォード大学法学部教授 ロナルド・ギルソン氏

スタンフォード大学法学部教授(Charles J. Meyers Professor in Law and Business, Stanford University) ロナルド・ギルソン氏(Dr. Ronald J Gilson) 専門は、企業提携・買収、証券規制論など。法学博士(エール大学、71 年)。コロンビア

大学教授も兼任。主な著書に、Cases and Materials vs. Corporations, 4th ed., New York: Aspen Law Co Business, 1995 (共著) 、The Law of Corporate Acquisitions, 2nd ed., Westbury, N.Y.: Foundation Press, 1995 (共著) 。 ――エンロンに始まった一連の不祥事について、どう見るか? 今回の不祥事は、特定の企業のあからさまな不正行為によって生じた、信じ難いケース

だった。その根源には、幹部の不誠実さがあった。とくにエンロンのケースでは、幹部が

会計システムをコントロールしており、企業の会計システムが信頼できるものとなってい

なかった。そもそも、幹部が本当に誠実にビジネスを行っているのかどうかについて、自

分は過去 20 年間疑いをもって見てきた。いまでもこの点については疑いを持っている。 ただ、こんな短期間にCEOレベルによる不祥事が続発したことは興味深いが、それでも、

その数は決して多くはなく、システムの崩壊というには程遠い。 米国の一連の不祥事から何を学ぶかというと、1 つには、企業(トップ)の詐欺行為とい

うことと、もう 1 つは、株バブルとの良からぬ関係であろう。そして、詐欺に関しては、

これは米国企業統治のシステムの失敗ではない。どのような企業統治システムであっても、

完全に詐欺を防ぐことはできない。 ――サーベンス・オクスレー法や、それに連なる諸規則を、どう評価するか? 同法は、取締役の行動を根本的に変えるもの。今回の法律は取締役の独立性を高めるこ

とに焦点を当て、一連のスキャンダルに端を発した企業統治に関するさまざまな問題に対

する、慎重で思慮深い対応となっている。そして、それぞれの問題を解決するために取締

役がどのような行動をとらなければならないか、取締役を律する内容となっており、この

方向性は正しい。たとえば、独立取締役の就任について定めたのは良いこと。 同法はまた、監査委員会のステータスを上げた。同法は監視委員にプロを任用するよう

にし、プロセスを重視し、原則を再確認させた。今まで、監査委員会とは何かについての

誤解があったが、それがよりクリアになった。ただし、問題もある。 ――問題点について、具体例をお願いしたい。 財務専門家の定義などに問題があり、また、これからの問題として、修正は政治的に困

難であり、これが結果として、経済環境にすばやく対応できる米企業の柔軟性を損なうこ

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とが懸念される。ここで問題なのは、内容的に今すぐ問題となるということではなく、経

済環境が変わったときに、その手続きが障害となるということだ。 同法はまた、従来からの、米国の会社法の原則を変えた。同法により、規制される内容

が定められたが、それ自体は問題ではない。問題なのは、企業統治のシステムをどのよう

に適用するかのやり方が定められたことにある。たとえば、同法により取締役会の委員会

構成が定められたので、企業自らが委員会構成を決定することはできなくなった。同法成

立以前における米国会社法の本質的特長は、企業に対する法的規制が非常に少なく、企業

は個々の事情に合わせてさまざまな企業統治を追求してきたことにあるが、同法成立によ

り、以前にあった柔軟性が失われたと考えることができる。 ほかにも、誰が監査委員会委員になるのか、との問題がある。サーベンス・オクスレー

法下では、より多くの時間が取られる。6 割の委員が、他社の CEO ないしは上層部といわ

れるが、これからは、(成り手不足から)委員の数を減らすであるとか、あるいは、自社の

CEO が他社の独立取締役をあまりやらないように上限を設けるなどの動きが出てこよう。

報酬をどうするかを含め、独立取締役として誰を連れてこられるのかが問題となろう。 この問題に関し、公開を目指す新興企業が大企業に比べ特に不利になることはないと思

うが、それよりむしろ、起業時に出資した大株主を独立取締役としてみなせないのが問題

だろう18。ハイテク企業については、特別な技術などを持つ人が独立取締役になったりする

ので、特殊かもしれない。 ――既に説明された以外で、企業統治の鍵となるものは何かあるか? 報酬委員会とその独立性がある。報酬委員会は定期的に外部からアドバイスを貰うなど、

外部と相談し独立して決定する必要があり、そうでなければ結局、委員会の「顧客」は取

締役会などになっていまい、正しい判断がつかなくなる。 ――投資信託などの総会での投票内容を公開するとの規則が出来るが? 公開しても、行動は変わらないと思う。秘密投票としていることは、機関投資家をロビ

イングから守る上では有効な手立てであるが、透明性に欠ける。透明性を選べば、機関投

資家はロビイングの対象とされることになる。これを両立させることは出来ない。 ――日本の企業統治の状況をどう見るか? 日本の企業統治については、メインバンク制から市場によるモニタリングへと変わりつ

つあるが、企業の銀行借入離れでバンクモニタリングが消えつつある一方、現状、市場モ

ニタリングもまだ代替となっておらず、懸念される。

(インタビュー:2003 年 2 月 12 日) 18大株主を独立取締役とみなせる方向で、ニューヨーク証券取引所、NASDAQ は提案を出している。

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ジョージタウン大学法学部教授 マーガレット・ブレア氏

ジョージタウン大学法学部教授(Georgetown University Law Professor) マーガレット・

ブレア氏(Dr. Margaret M. Blair) 専門は、ファイナンス、企業統治論。経済学博士(1989 年、エール大学)。ブルッキング

ス研究所研究員を兼任。主な著書に、Employees and corporate governance, The Brookings Institution, 1999(共著)、Ownership and Control: Rethinking Corporate Governance for the Twenty-First Century, The Brookings Institution,1995 など。 ――エンロンに始まる一連の不祥事が起きた原因は何か? 米国の企業統治は株主第一主義と特徴づけられる。株主は数が集まることで、経営陣な

どの交代を実現することが可能ではあるが、これは極端なケースで通常は取締役会に任さ

れている。20 年前は株主が誰であるかが留意事項であった。しかしここ 10~15 年ほど前

からは、年金基金や投資信託が発達し、彼らの動きに多くの注意を払うようになった。 その結果、企業の役員たちは、こうした勢力をある意味おそれ、株主の利益を拡大する

ことを目指すようになった。株主価値最大化(株価極大化、株主利益極大化)が企業の目

的であると主張され、株価に多くの注意が払われて、そのもととなる業績については注目

度が下がった。ストックオプションのような企業統治にシステム的な欠陥を及ぼすような

報酬体系も、そうした流れの中で編み出された。 90 年代、株主価値最大化との使命に沿い、巨額のストックオプションによる報酬も出来、

CEO たちはこれに沿って行動した。アカデミズムの世界(academic community)も、彼

らは正しいこと(right thing)を行っていると誉めそやす風潮にあったが、これは大きな

間違いであった。 これとほぼ機を同じくして、会計監査という仕事から独立性が失われてしまった。米国

の企業法は良く出来ていて問題はなく、必要なのは、取締役に彼らの仕事は何かを正しく

伝え、これに忠実であることを求めることだ。ディスクローズについては、説明責任を果

たすもの(accountable)にしなければならないし、透明性を高めることも必要だが、それ

は株価を(実力以上に)高めるような外交的(diplomatic)な説明ではない。(外交的なも

のを求めるというのは)株主第一主義による歪みである。 ――機関投資家は、それほど強い影響を持っているのか? 株主が企業統治に関与しだしたというのは、株主(機関投資家など)が内部に専門家を

抱えるようになったことのシグナルといえる。TIAA-CREF(教職員保険年金連合会・大学

退職株式基金)や CalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)のような積極派は、公

の興味をおおいにひいている。しかし、実際に株主が提案を行ったりするのは稀。

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――サーベンス・オクスレー法や、それに連なる諸規則を、どう評価するか? 同法は、これまでの流れから距離をおこうとするものだ。サーベンス・オクスレー法は、

取締役会に本来やるべきことをやれと言い、取締役に真剣にその仕事に取り組めとしてい

る。つまり、単に莫大なインセンティブを経営陣に与えるのが取締役の仕事なのではなく、

会社で実際に何が起きているかを監督するのが取締役の仕事であるというメッセージを送

っていることが、この法のもっとも重要な点である。 また、同法は、FASB(財務会計基準委員会)の資金を産業界からの資金に頼るのではな

く強化しており、これも大いに評価できる。 同法と証券取引所との間には規則に関し、相互関係(interaction)がある。同法は、取

引所が取締役の独立性や、各種委員会に関する規則を策定することを権威づけ、促すもの

である。SEC(証券取引委員会)、NYSE(ニューヨーク証券取引所)、NASDAQ 間には協

調関係(harmonization)がある。NYSE と NASDAQ については、ルールに若干の違いは

あるものの、総じて似ている。 ――サーベンス・オクスレー法の限界は?

1 つめには、会計士への支払いを企業がする、というところが不変なことだ。今まで会計

事務所に関しては、その専門性、独立性、保守性などから、このこと自体が大きな問題と

なるとは見られてこなかった。ところが、90 年代からこの業界が「産業」化し、生産物と

それに対する報酬、という世界に移行した。その結果、原則に則り真実を伝えるというプ

ロフェッショナルとしてのモラルではなく、数字作りゲームという色彩が強くなってしま

った。 2 つめとしては、こうした責任感の欠如やモラル低下の中で、企業業績を正確に測ること

が難しくなっているとの状況もある。従来のような固定資産(や有形の生産物)相手では

なくなっている(無形資産や無形の生産物が対象になってきている)ため、数字作りのゲ

ーム的要素が強くなる。 また、肝心の独立取締役であるが、国際化が進み、環境問題などもある中で、独立性の

規定を満たすように、有能な役員を選んでくることは難しいだろう。

(インタビュー:2003 年 2 月 13 日)

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マイケル・オクスレー下院議員事務所

マイケル・オクスレー(Michael G. Oxley)下院議員事務所

オハイオ州選出下院議員。共和党。下院金融サービス委員会(Committee on Financial Services)の委員長を務める。オクスレー議員は、エンロン事件に始まる一連の企業不祥事

を受けての企業会計・統治の改革法案を、サーベインス議員とともに共同提案、サーベン

ス・オクスレー法として、2002 年 7 月 30 日に成立した。 上席法律顧問(Senior Counsel) C・モンゴメリー氏(Mr. C.Montgomery) ――エンロンに始まる一連の不祥事が起きた原因は何か? 一連の不祥事がシステミックなものかどうかについては、急速に続発したことを考える

と、そうなる恐れはあったといえる。 今回の不祥事の原因を言葉で表すなら“強欲”であり、それは、一部のトップ経営陣に

よる“自分は何をしてもいいのだ。何をしてもかまわないという当然の権利があるのだ”

という自分勝手な責任感のない感覚が根源にあった。そういう自分勝手な感覚から、ルー

ルに厳密に従わず、自己解釈して抜け道を見つけて不正を行った。そして、不正をしたこ

とによりとくにネガティブな結果が生じなければ次々と不正を繰り返す、という人間の弱

い心理が働き、今回のようなスキャンダルが引き起こされた。 こういったふるまいはアカウンタビリティの問題であり、サーベンス・オクスレー法と

その関連規制では、401(k)での自社株の売却不能期間(ブラックアウト期間)における

経営トップの株式売却禁止や、自社からのローン禁止などを盛り込んでおり、これまでに

問題となった点について対応している。同法によって、米国企業のふるまいにどのような

影響が及ぼされていくかは、今後徐々に見えてくるだろう。法律による行き過ぎた規制は

よくないので、後は基本的には市場原理に任せたい。 ――サーベンス・オクスレー法により、企業統治の何が改善されるのか? 同法により、以前の自主的(voluntary)な規則から、より強制的(mandatory)なもの

へ変わった。これは、米国型企業統治の基本、つまり取締役が経営陣を監視するという、

取締役が本来果たすべき責務を明確化したもので、政治的なニーズに基づくものだ。 不祥事と同法により、取締役会が、その責任において、経営の監視と(経営と所有の)

分離の維持するのだ、という圧力が生まれた。 ――今回、米国で、このように迅速な法案成立が可能となった理由は何か?

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政治的(一般市民、選挙区民)かつ法的に、すぐに何かしなくては、との圧力があった。

政治的というのは、不祥事を起こしたのが大企業で、さまざまな地域で多くの雇用に影響

があったためだ。これらは、システム見直しへの草の根での圧力ともなった。 テキサス州ヒューストンには多くのエンロンやワールドコムの従業員がいたが、破綻の

結果、これら大勢の人の 401(k)がなくなってしまった。これにより、テキサス州議員に

対し市民から大きな政治的プレッシャーがかかった。 上院と下院の法案内容にはかなりの違いがあったが、他の法案成立プロセスにも見られ

るように、法案を行きつ戻りつさせながら内容のすり合わせを行った。今回は企業統治の

改革という共通のゴールがあったために、内容を素早く調整することができた。サーベン

ス・オクスレー法のような大きな法案がこれほどまでに迅速に成立することは通常ではあ

りえない。我々自身も、これほど素早く成立させられるとは思っていなかった。先に述べ

たような政治的プレッシャーがなければ、これほどまでに短期間で成立することはなかっ

た。 ――企業には、手続き面などで負担増となるが、企業側の反応は? 一連のスキャンダル以降ビジネスを取り巻く環境が変化しており、産業界も、企業統治

改革に関し、明らかに何か手を打たなければならないこと、秩序を変えなければならない

ことを自覚している。しかし、産業界が議会に対して、現在のルール以上にもっとルール

が必要であると望むことはない。また、議会としてもこれ以上の規制を設けてさらに企業

を締め付ける考えは現時点ではない。 ――SEC などの規則が、順次、決まりつつあるが、どう評価するか?

SEC が施行規則の決定にあたり、我々と協議することはあるが、決定するのは彼らの仕

事。これまでの決定についてのコメントは控えたい。まだ最終規則が決まっていない項目

もあり、評価するのは時期尚早。個別企業の企業統治改善への動きについて、サーベンス・

オクスレー法の効果を見極めるには、ある程度の時間が必要だ。もし問題が見つかれば、

企業や株主などが、しかるべき議員などにそれを告げて、変えていくのだろうが、いまし

ばらくは時間がある。 ――外国企業への適用については、どう考えているか?

オクスレー議員は当初から、外国企業に対し例外を認めるよう主張していた。企業統治

の形態は、それぞれの国で背景があり、外国企業に一律に米国の規準を押し付けるべきで

はない。日本の監査役会のようなスタイルを含め、企業統治の形態には、様々なタイプが

あり得る。SEC も、それは認識していると思う。 ――サーベンス・オクスレー法による事務負担などの増加が新規上場を阻害するとの指摘

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もあるが。 同法が、これから公開を目指す新興企業へ及ぼす影響については、SEC も我々も注視し

ていくところである。実際にどのように対応していくかはわからないが、この問題に取り

組まなければならないと認識している。 ただ、上場するばかりが、選択肢ではない。小さい上場企業では上場を止めるところも

あるようで、その方がうまくいくのであれば、そういう選択肢もある。 ――会計それ自体に構造的な変化があるとの声もあるが? 金融工学の進展などに伴い、企業の会計取引が複雑になっていることへの批判も聞かれ

るがこうした動きは受け入れなければならない。ただし、会計方法や表記方法などを工夫

して、投資家に分かりやすくする必要はある。 ――会計監査事務所はコンサルタント業務ができず、厳しくなる? 同法により、会計事務所は監査業務を手掛ける顧客に対して、原則コンサルティング業

務を行えないことになった。会計事務所では、これまでのコンサルティング業務重視のス

タイルを転換し、新たなビジネスモデルを構築する必要があるだろう。 ――州法レベルの動きはあるのか? (米国では、SEC によって全米における上場企業が監視されているが、非上場企業は監

視されていない。一方州は、州内の上場・非上場企業の双方を監視している。)米国には各

州ごとに内容が多少異なる会社法があるが、これら各州の会社法とサーベンス・オクスレ

ー法の内容がどのように互いに関係していくのか、今後見守る必要がある。しかし、今の

ところ州レベルでの変更はなされていないようだ。

(インタビュー:2003 年 2 月 10 日)

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スーパーバリュ社

スーパーバリュ社(Supervalu)

1871 年設立。合併・買収を経て、現在、米国第 11 位の食料品小売業者となっている。

米国内 4,000 箇所以上の店舗に、自社ブランドおよび顧客ブランドの商品を提供するほか、

1,250 以上の小売店を持ち、ウォールマートやコスコと厳しい競争を繰り広げている。なお、

処方箋薬販売部門による会計操作が判明したことにより、スーパーバリュは 2002 年 6 月、

約 200 万ドルの特別損失を計上すると発表した。 同社では、サーベンス・オクスレー法成立以前の何年もの間、自発的にコーポレート・

ガバナンス改革に取り組んできた。サーベンス・オクスレー法で盛り込まれた内容で、す

でに導入済みのものとしては、行動規範の制定、取締役会の独立性確保、監査委員会の独

立性確保などが挙げられる。 法務顧問代理兼総務部長(Assistant General Counsel and Corporate Secretary) ジョン・ブリードラブ氏(Mr. John Breedlove) ――サーベンス・オクスレー法の御社への影響は? 行動規範は、既に多くの企業が有するものであり、同法の求めるのは、倫理規範と捉え

ている。 同法および関連規則で決まったものは、ほとんどが当社にとっては対応済のもの。当社

同様、多くの企業にとっては、劇的な変化を及ぼすようなものではない。四半期や年次報

告での宣誓(certification)についても、手続き的に変わるだけであって、根本的に何かが

変わるといった認識ではない。 同法に対応して取締役会の構成をいじるとかといった変更を求めることはない。ただ、

変化の先を捉えて実施していくためには、もっと時間を取られることだろう。 監査委員会については、何年か前に NYSE から規則が出されていていることもあり、既

に独立した監査委員会を持っている。今後、これまで以上に多くのことをレビューする必

要が出てくるので、もっと頻繁に、もっと長時間、開催する必要が出てくる。以前は、企

業収益予測(earning release)を発表するとき、レポートの内容全部を監査委員会に諮る

ことはしていなかったが、四半期ごとの企業収益予測を発表する前に、監査委員会が全部

内容を確認するようになった。会計のエキスパートを入れることは検討しようかと思って

いるし、財務のプロは既にいるけれど、同法で定義が厳密になった。ただ、メンバーを云々

する前に、いろいろやることはあるだろう。 そもそも取締役会や監査委員会などについては、常に継続的にこれを改善していくべき

ものであり、同法が成立したからといってメジャーな変化が生じるものではない。

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――では、サーベンス・オクスレー法の米企業への影響は、ほとんどない?

大きな変化を求められるところも、当然あるだろう。エンロンもそうだし、また、今ま

であまり企業統治に注意を払ってこなかった企業や、アデルフィアのような同族企業もそ

うだ。古いタイプの企業も、多くの変化を要することになろう。ハイテクなど社歴の新し

いところでは、最初の成功の後、生き残っていくためにもより良い企業統治を求めていく

ことが必要だ。 ――その他、間接的な影響などはあるか? 他社の CEO を独立取締役に起用しようと思っても、他社の方で CEO の独立取締役就任

数を制限してくるし、また、独立取締役という仕事自体、(今までより)時間が取られたり

負担が増えることになるので、難しいものとなってくるだろう。 ――御社の企業統治の状況をお聞きしたい。 当社の場合、10 人の取締役のうち CEO を除く 9 人が社外(独立)取締役。3 年前までは

内部が 2 人いた。取締役は他社でも独立取締役に就任していることも多く、他社で良い企

業統治をみれば、それを自社で導入するようにしている。 独立取締役に望む資質としては、当社と関係のあるリテール、ホールセールビジネス、

マーケティング、カスタマー、サプライヤーなどに通じた人物が良い。当社には、学識者

も一人いる。このように、さまざまな視点から見てもらうことが大事。ただし、当社は、

独立取締役に何を求めるかの指針については、公開していない。 また、当社や、その他大会社は、企業統治にフォーカスした委員会を持っている。

――ストックオプションについては、どうか? ストック・オプションは、たいへん多くの企業が豊富なプログラムを導入している。スキ

ルの高い従業員を押さえるためには必要。違うのはそのマグニチュードであり、当社はじ

め、古くからの企業は、総株式残高に占めるオプション付与残高が、15%なのに対し、ハ

イテクは 25%を超え、通常のサラリーよりオプションが中心となっている。 ――ストックオプションなどにより、米企業は、短期の収益を重視しすぎるようになった

との批判があるが。 経営として短期(各四半期)の収益を重視しているからといって、それで長期の成長の

ための正しい判断が出来ないかというと、必ずしもそうではない。短期と長期は、相互に

競合する目標であるが、両方考えるのが重要。短期しかみない企業は、この経済環境の悪

化で、失敗しているだろう。

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――年金基金などの大手機関投資家から、企業統治についての圧力を感じることはある

か? どの企業も、資本市場で資本を求めている。そのためには、機関投資家の求める企業統

治レベルを満たすことを考える。 当社の株主の 7 割が巨大機関投資家であり、常にここからの影響は受けるが、カルパー

スや TIAA-CREF のような大規模年金基金が当社の企業統治を改革するよう圧力をかけて

きたことはほとんどないし、それがサーベンス・オクスレー法などにより変化したという

こともない。 ただし、これら機関投資家は、その本質として、チャレンジングで要求の厳しい株主で

ある。 ――米国の企業統治は、今後、どう変わるか? サーベンス・オクスレー法関連による企業統治改善は、そのほとんどが、大企業で既に

為されているベスト・プラクティスをもとにしたもの。こうしたベスト・プラクティスは

引き続き(多くの企業で)追求されるだろうし、その方法も、多岐にわたるだろう。また、

その他のステークホルダーに応じたものもあろう。そして、やがてより多くの企業にこう

した流れが受け入れられれば、規制当局は、こうした先進的な企業の後を、全ての企業に

追いかけるように求めても不思議ではない。

(インタビュー:2003 年 2 月 25 日)

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チャールズ・シュワブ社

チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)社

1971 年、チャールズ・R.シュワブ(Charles R. Schwab)氏により設立された、全米で

最大級の証券仲介会社。顧客は、国内外の個人投資家、機関投資家などで、現在、約 800万の口座を持つ。 チャールズ・シュワブでは、サーベンス・オクスレー法成立前から企業統治改善に取り

組んでおり、同社ホームページで、企業統治ガイドラインや、取締役、各委員会の委員に

ついての情報などを開示している。 上級副社長兼副法律顧問(SVP & Deputy General Counsel) エレイン・リンデンマイヤー氏(Ms. Elaine Lindenmayer) ――エンロンに始まる一連の不祥事が起きた原因は何か? 監視体制に穴があった。 トップのやることに口出ししにくい雰囲気がつくり出され、「トップ・エグゼクティブた

ちは、自分たちが何をやっているのかわかっているはずだから、彼らがやっていることは

OK だろう」と仮定してそのまま放置してしまう風潮や、組織内のそれぞれの部署は、自分

のやるべきこと、必要なことをきちんとやっているだろうと仮定して、相手のやっている

ことにいちいち関心を持つ必要はないと考えるといった、組織として無責任な状態となっ

ていたのではないか。そして、暗黙のうちに多くの仮定がなされ、経営陣が実際に何をや

っているかについて精査するために必要な適切な質問がなされなかったのだろう。 弁護士などは、何が起きているのかを知らなかったのだろう。 もし誰かが不正行為をしようとしており、その人間が非常にずる賢く、会社のシステム

を巧みに操るための内部のメカニズムを知っていたとしたら、その不正行為を見抜くのは

極めて困難だ。 ――これら不祥事により、「コーポレート・アメリカ」全体が腐っているかのように言われ

たが。 腐敗していたのは、ほんのいくつかの企業なのだが、それらの企業は多くの人を惹きつ

けていたし、したがって、株式市場でコーポレート・アメリカに対する不信が生じてしま

った。しかし、圧倒的多数は、うまく経営されている。少数企業の企業統治や経営が、あ

まりにひどかったために、それが全体のように見えてしまったのだ。飛行機事故があると、

すべての飛行機が不安になるのと同じだ。 20 年くらい前に、銀行業界で、自社の幹部へのローン供与で問題があった。たしか、問

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題となったのは 5~6 行だったが、全体の問題のように騒がれた。しかし、その結果、銀行

業界全体に対してルールが整備され、その後には同様のことは起こらなくなった。今回も、

これと同じであると思う。 ――サーベンス・オクスレー法の御社への影響は? 当社では、企業統治体制を若干変更したが、たいしたことではない。当社は同法に先ん

じて企業統治改善を進めており、CEO と取締役会会長も分けている。これは、役員会の独

立性をさらに高めるためであり、これにより取締役会会長もアクティブになる。 効果的な企業統治体制を既に有している企業はどこも、負担とは感じていない。同法は、

いくつかの企業には困難なものとなろうが、そういった企業は、いずれにしろ企業統治を

変えなくてはならないのだ。 弁護士に関するものなど、いくつかの規制は新しいものだし、同法の精神を超えている

のではないかと思われるものもある。しかし全体としてみれば、これを重荷というのは、

違う。 各社がサーベンス・オクスレー法で企業統治に取り組むことにより、最終的に恩恵を受

けるのは一般投資家で、結局、我々みな、その恩恵を受けることになる。 企業統治は経営陣が経営戦略を正しく判断し、企業が収益を上げていくために必須のも

のであり、したがって、企業統治ばかりに気を取られ、収益がおろそかになるとの懸念は

ないと思う。

(インタビュー:2003 年 2 月 26 日)

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スタンダード・アンド・プアーズ

スタンダード・アンド・プアーズ(Standard & Poor’s) 米国の代表的な格付け機関の 1 つ。企業統治の査定とアドバイスも行っており、日本で

も 2002 年 10 月にサービスを開始している。 ガバナンス部門担当グローバルプラクティスリーダー(Global Practice Leader for Governance Services, Standard & Poor’s) ジョージ・ダラス氏(Mr. Geroge Dallas) ――エンロンに始まった一連の不祥事は、米企業全体の危機だったのか?

それは違う。いくつかの不祥事を以って、米企業の企業統治全体が病んでいるとするの

は正しくない。 ――サーベンス・オクスレー法やそれに伴う規則で、ポイントとなっているのは何か。

1 つめは、監査委員会が、権力と誠実さを以って、独立した立場で、監視しないといけな

い。そしてこのプロセスは、しっかりとしたものであり、かつ経営陣と取締役がそのリス

クで財務諸表が適正であることを保証しなくてはならない。 2 つめは、取締役会が、独立性と関与(engagement)の姿勢を支えられるような強固な

基礎を有していなくてはならない。しかし、(エンロンのケースなどでは)独立とは名ばか

りで、実際の行動はその名とは異なるものとなっていた。取締役について鍵は、先を見越

しての関与(proactivity of engagement)である。 3 つめは、経営陣に対する報酬であり、米国はその透明性でグローバルなリーダーシップ

を取っていたはずだったが、報酬決定プロセスについては、巨額のオプション付与など、

経営陣に対するインセンティブの中心が長期でなく短期に偏ったため、問題となってしま

った。 ――御社の企業統治分析について、教えて欲しい。

企業の信用格付けと企業統治分析は、別々に行っている。企業統治がそのまま信用格付

けにつながるわけではないが、株主の影響力、透明性、会計処理の質、内部統制といった

ことについて、信用格付けを行う中で 1 つの要因としてみているし、これからもみていく。 現状、信用格付けには、企業統治以外の要因(企業戦略、産業内の競争関係など)の方

が大きなウェイト付けがされているが、多くの人が、今後、企業統治はもっと注目される

とみている。 企業統治を別個に分析することは、同様の非伝統的あるいは非金融的な要因分析ととも

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に、信用分析(credit analysis)の補完との位置付け。 企業統治の分析は、債権者に対するというより、株主の利益を考えたもので、①企業統

治についてアナリストなどに分析ツールを提供する、②企業に企業統治を改善する前向き

のインセンティブあるいは規律を与える、ことを目的としている。 依頼は、経営陣からと取締役会からの両方があるが、経営陣からのものの方が多い。 企業統治分析は当初(たとえば 98 年のマーケティング時)はアジアなどエマージングマ

ーケットを対象にすることを考えていたが、その後、対象が大きく変わった。 ――サーベンス・オクスレー法後の米企業の企業統治の現状をどうみるか? 財務諸表への宣誓など新しいものもあるものの、多くの企業がサーベンス・オクスレー

法に前から対処できていた、というのは、その通りだろう。 しかし、企業統治で手一杯になっている企業もあると思う。いくつかの企業では企業統

治が明らかに弱く、企業統治自体がその企業の課題として強く意識されるような時期がし

ばらく続くだろう。こうした企業は、同法にあわせて自らをどう変化させるかを考えない

といけない。こうした状況はしかし、企業が対応を終えれば、落ち着いていくだろう。 ――日本の企業統治をどう見るか? アングロサクソンタイプの企業統治に比べ、日本の企業統治はステークホルダーのプラ

イオリティが違い、株主より従業員が重視されていて、基本的なところで明らかな違いが

ある。また、日本企業における系列や株式持合いの慣行は海外から見るとわかりにくく不

透明であり、かつ、監査役制度はアングロサクソンの視点から見ると真のアカウンタビリ

ティが確立されているとはいえない制度である。日本の企業統治で問題なのは、従業員や

経営陣でほとんどを占められた大人数の役員会や、日本式の監査役についても、米国にみ

られるような権利や権力がないことだ。機関投資家や独立取締役による企業統治が確立さ

れるまでにはまだ道は遠い。しかし、多くの日本企業は、独立取締役採用など、思い切っ

た改革の過渡期にあると思う。 とはいえ、世界中が 1 つのタイプの企業統治になる必然性はない。また、もしなるとし

ても、それには長い時間がかかるだろう。株式保有構造にしても、世界でさまざまだ。た

だし、国際金融市場で資本調達を望む企業、あるいは、東京市場での外資比率がどれくら

いか、20%くらいはあっただろうか、とすれば、こうして外資が入っているということは、

日本の企業でも、国内の企業統治のみならず国際的な企業統治下での規律が必要になる。 ――今後、各企業は、どういった方向に進むのか? 国際的な資本調達を目指す企業から、企業統治の融合は始まるだろう。グローバル市場

でビジネスを行うのであれば、透明性と情報開示、取締役会の構造と独立性などが企業統

治に求められる。また、上場するのであれば、その証券取引所の基準に合わせる必要があ

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る。 逆に、国内資本のみで満足するのであれば、そうした企業統治の圧力は小さい。たしか

にグローバリゼーションは進んでいるが、国内からの資本調達で満足できるケースも充分

あるし、また、上場するといろいろ企業統治が大変だからというので、非上場にしてしま

っても問題ない。上場すれば、それは自社への投資をオープンにするという面で責任が出

てくる。 ――そうした多様性の中で共通するものは? ボックス・ティッキングな規制(たとえば、**は**の 51%以上でなくてはならない、

式の規制)は良くない。大事なのは、公正、透明性、説明性、責任といった原則が守られ

ること。これらの原則は、世界中で共通だし、これが企業統治を評価するベースとなる。

(インタビュー:2003 年 2 月 26 日)

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米国公認会計士協会(AICPA)

米国公認会計士協会(The American Institute of Certified Public Accountants , AICPA) 監査基準担当部長(Director of Auditing Standards) チャールズ・ランデス氏(Mr. Charles E. Landes) ――サーベンス・オクスレー法で、何が変わったのか。 同法の役割を一言でいえば、報告先を監査委員会にすることで会計士を経営陣から独立

させ、気分を変えさせる(different mind)ということ。同法成立前は、会計士は経営陣と

仕事をし、経営陣に報告していた。監査委員会と関係するのは、時々だった。同法により、

我々が仕事をし報告するのは、監査委員会になった。 こうした制度変更は、会計士サイドというより、企業サイドのプロセスを大きく変えた。

会計士側の変化は受動的だった。つまり、会計士の仕事(証拠(evidence)を集め分析しレ

ポートする)については、その計画(planning)、実行(performing)、契約(engagement)とも、大きく変わっていない。変わったのは、フォーカスする対象であり、経営陣がアグ

レッシブな会計処理をしていないか、であるとか、あるいは、監査委員会から、ここをも

っと調べろと指示が来たり、そういうふうになる。我々にとって、ここが最大の変化。 同法はまた、監査委員会をも変えた。監査委員会は前から存在したが、活動的ではなか

った。同法は、監査委員会に金融エキスパートを一人は入れろとしているが、その考え方

は正しい。いままでの監査委員は、監査に詳しい人がなるのではなく、たとえば、研修み

たいな感じで就任していた。同法により、経営陣に対しての立場も財務諸表やディスクロ

ーズをめぐり変わったし、また監査プロセスでも、その独立性や客観性、あるいは経営陣

の下した会計処理についての判断についてなど、変化した。総じて、監査委員会は、先を

見越した動き(proactive)を求められるようになった。 ――同法により上場企業監査委員会(PCAOB)が設立されたが。

PCAOB は、会計士の企業監査のやり方を明確に変える。ただ、どう変わるかは、いまだ

はっきりしない(トップも決まっておらず19、スタッフも固まっていないので)。いま、ど

のような変化が生じるのか、注視している。 ――同法から、さらに改善するとしたら、どんなことが考えられるか? 財務のプロ 1 人に加え、ほかにも GAAP や監査、あるいは財務諸表などの会計関連で、

業務経験を有するなどの詳しい人を加えるべきだ。別に CPA でなくてもよい。ウォーレン・

19 SEC は 2003 年 5 月 21 日、PCAOB の委員長にニューヨーク連銀のマクドナー総裁が就任することを

全会一致で承認したと発表した。6 月 11 日に就任する。

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バフェットが SEC の基準からすると財務のプロの基準に満たないとされている20ことは知

っているが、バフェットは素晴らしい監査委員と思う。 ――同法の限界や問題点は? 懸念されるのは、監査委員が被る可能性のある個人的リスクだ。報酬もこの仕事からし

かもらえないのに、新法の下で不正が出た場合、過大な負担が生じるかもしれない。こう

したことを考えると、はたして適切な人をリクルートできるのだろうか。 また、会計士が経営陣からの独立性、客観性を確立できるかどうかというのは、会計士

の心のもちようの話であり、これを法律で確保することはできない。同法自体は、会計士

の行動に焦点を当てた、一種の警鐘とみている(これ自体が解ではない)。あとは会計士の

行動次第。監査は車の運転に似ていて、コンサルティング業務などの余計なことに気を取

られていると、本業の運転がおろそかになる。監査は所詮は人間のやること(art)であり、

したがって、これからもミスはでる。新法が出来たからと、会計士に 100%の保証を求めら

れることが懸念される。 ――同法は、会計事務所の業容に大きな影響を及ぼすと見られるが? 今回の不祥事を受けて、AICPA ではメンバーに、本業外を禁止する啓蒙活動をした。た

だし、収益を上げなくては成らない会計事務所のシニアパートナーとしては、この規制は

タフだ。なぜなら、他の利益機会をクライアントから提示されたら、そのクライアントか

ら去らなければならない。同法について、ビジネスとしての会計士にもちろん影響は確か

にある。 だが、だからといってダメになってしまうとは思わない。会計監査していない企業にコ

ンサルティングすればいいからだ。ワンストップサービス的だったのが、企業は、いくつ

もの監査事務所から、各々にコンサルティングなどのサービスを受けるようになるのでは

ないか。とすれば、必ずしも仕事が減るとは限らない。 しかし、90 年代後半から 2000 年にかけて、株ブーム、特にドットコムブームと、そこ

から生じた貪欲さの中で、CPA はリアルな視点を失っていた。財務諸表を使うビジネスパ

ーソンには、どうせ会計士は経営陣とグルと思われていた。 たしかに、システマティックに問題もあったが、99%の CPA は正しく業務を行っていた

のだ。我々としてはまず、公共の信用を回復しなくてはならない。

(インタビュー:2003 年 2 月 27 日)

20 SEC の規則緩和については、脚注1の通り。

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ナスダック

ナスダック(NASDAQ) 上場審査担当上席副社長(Senior Vice President, Listing Qualifications, NASDAQ) マイケル・イーメン氏(Mr. Michael S. Emen) ――NASDAQ 自身として、企業統治改革について、何か指針のようなものがあるのか? エンロンにはじまる一連の不祥事を受け、2002 年 2 月に SEC のピット委員長から改善

依頼が来たが、我々もまさに改善策を用意し、SEC に報告しようとしていたところだった。 この改善の原則として、以下のものがある。 1 つめに、勧告ではなく強制力を持つ上場基準規則の採用を行うこと。企業統治には、強

制的なものと、勧告があり、必須な問題については、強制であるべき。たとえば、役員会

の過半数を独立取締役とすることなどが、それにあたる。 2 つめに、株主、独立取締役、監査委員会の力を強化し、企業開示を強化すること。 3 つめに、上場基準はクリアで理解しやすく、かつ、採用もしやすいものとし、したがっ

て、客観的で採用の時宜を選ばないものとすること。 最後に、その規則が害をなしたり、あるいは、意図しないような結果をもたらすことの

ないようにすること。 今回の一連の改革を通して NASDAQ では、監査委員会にもっと多くのことを経営陣に対

し質問させようとし、また、財務諸表のレビューについてもっと先を見越したもの

(pro-active)にしようとしている。 ――サーベンス・オクスレー法の性格をどう捉えるか? 米国では、企業規則は、歴史的に自主規制が中心で、各市場の基準が主要なものだった。

何か問題が起きれば、マーケット自体に解決させるとの考え方である。しかし、昨年の夏、

MCI、ワールドコムの破綻頃から、こうした傾向がなくなった。議会がすばやく介入して

きた。サーベンス・オクスレー法は議会の介入によるわけだが、こうしたことは、きわめ

て異例であった。 ――SEC や NYSE との役割分担、あるいは規則の相違点は?

SEC と各上場市場の規則策定上の棲み分けとしては、SEC の規則は、各市場の規則を補

完するものとの認識が SEC にもある。SEC の規則は、市場を問わず全社に適用されるべき

ものを担当し、勧告も一般的なもの。SEC のルールは、各市場の規則とも近いし、また、

協力しあい、かつ、ハーモナイズされている。 NYSE と NASDAQ は別々に規則案を策定するが、80~85%は似たようなものになる。

ただ、NASDAQ に比べ NYSE の規則は恣意的なところがあり、また、一つの規則を全上

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場企業に強制することになっている。 ――ということは、NASDAQ の規則は、企業によってケースバイケースなところがあるの

か? NASDAQ は、上場している企業がマイクロソフトのような世界最大級の企業から、小企

業までと幅が広く、したがって、一方的に 1 つの規則を全上場企業に押し付けることはで

きない。小企業には、別の選択肢を用意する。 たとえば、NADSAQ では役員数が平均 7 名。NASDAQ の規則では、監査委員会の独立

取締役は最低 3 名必要。ここで、監査委員会以外に、指名委員会と報酬委員会も同様の形

で別個に設置せよ、との議論があり、我々としても、独立取締役がこうしたプロセスを主

導することには賛成なのだが、もしこれを強制的規則とすれば、最低、9 名の独立取締役が

必要になり、社内取締役を入れればさらにこの数は増えてしまう。役員の数をこのために

増やさなければならないとすれば、小企業には負担となる。したがって、NASDAQ では、

完全に別個にする案と、別の選択肢として、独立取締役の複数委員会の兼務を認めること

を考えている。 結局、独立取締役のコントロールを確保し、企業の説明責任を確実にできれば、あとは

企業に柔軟性を認めて然るべき。規則は、会社自身でこれをうまく採用できるようにする

のが大事。 ――ほかに、NASDAQ で、規則策定に際し留意していることはあるか? 大株主は取締役の独立性に抵触するというところで、新興企業の場合、大株主のベンチ

ャーキャピタルがこれを懸念している。NASDAQ のルールでは、この懸念を解消できるよ

う、規則の緩和を提案している。 ――取締役の教育については、NASDAQ はどういった役割を担うのか? 取締役の教育は重要なテーマで、NASDAQ としても協力は惜しまないが、これを上場基

準とすることにはためらいがある。どんな教育プログラムが良くてどれだとダメかという

のを決めるのは、NASDAQ の仕事ではない。 ――企業サイドの、サーベンス・オクスレー法への反応はどうか? 企業サイドでは、これを熱心に進めようとしているし、良い考えととらえ、コミットし

ている。市場自体がこのところ低迷を深めており、投資家の企業や経営陣に対する信頼は

消え、市場へのコンフィデンスは低下している。市場には、こうした状況からなんとか回

復しなくては、とのコンセンサスがある。 ――企業統治にかかる負担の増大で、上場を望む企業が減るのでは、との声もあるが?

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現状では何ともいえない。現状の IPO の低迷は、まったく別な原因である。我々として

は、そうならないと信じているし、我々は独立性の基準を猶予するなど企業に柔軟性を許

しているし、市場の環境が回復してくれば、市場はまた前進を始めると考えている。 ――独立取締役の成り手を探すのが、中小企業には困難になるとの指摘もある。 まだ、時期尚早。半年から 1 年くらい、様子をみる必要があろう。ただ、感触としては、

会計事務所から引退した人たちなど、適任者の充分な人材プールがあると思う。 ――エンロンに始まる一連の不祥事をどうみるか? エンロンなどは犯罪であり、当局はこれをきっちりと罰しなくてはならない。一連の不

祥事とは要するに、不正直な人間が金儲けをたくらんだということで、悪人が悪事を働い

たということだ。米国の企業統治システムが壊れたわけではない。 結局、どんな規則があったとしても、少数の悪人はいつも存在し、彼らは悪事をはたら

く。最善の対処は、悪人の企みを挫くことだ。方法としては、(サーベンス・オクスレー法

関連でそうしているように)監査委員会にこれに対応できるようなツールを与え、また、

悪事の摘発に力を入れることだ。同法により、監査委員会は、より多くの、より鋭い質問

をするようになるだろう。サーベンス・オクスレー法とは、警鐘なのだ。

(インタビュー:2003 年 2 月 28 日)

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ペンション・アンド・インベストメント紙 マイケル・クラウス編集長

ペンション・アンド・インベストメント紙(Pensions and Investments) 1973 年創刊の、ファンドマネージャー、機関投資家を対象とした隔週紙。公称 18,000部と、資金運用関連業界紙としては米国で最大級。 編集長(チーフエディター)(Editor-In-Chief of Pension and Investments) マイケル・クラウス(Michael Clowes)氏 ――エンロンに始まる一連の不祥事をどう見るか?

間違いを犯した企業は、全体のうちのほんの一握り。私の推定では、上場企業は 7000 社、

犯罪といえるのは 1 ダースくらい、犯罪とは言わないがというのが 100 社ぐらい、それに

近いのが数百社。この一握りのために米企業全体に罰が下った感じだが、そのおかげで米

企業全体の企業統治が改善されるのならば、そう悪いことでもないといえる。 ――機関投資家は、企業統治に大きな影響力を有すると言われているが。 機関投資家の企業統治に対する影響力は、それほど大きいわけではない。機関投資家の

持ち株シェアは、せいぜい 25%くらいで、しかも、投票になれば経営陣は優位性をもつ。

だから、たとえば経営陣がストックオプションのリプライシングをするといっても、公務

員年金基金、企業年金基金、投資信託など全部が同じ考えで拒否権を行使する必要があり、

したがってそれを止めることは容易ではない。CEO の挿げ替えなど、さらに困難。 したがって、年金基金のできることといえば、何かできる、というよりは、経営陣がや

ろうとしていることを公表して世間に知らしめることで、経営陣があくまでもそれを続行

するのであれば非常にキマリの悪い思いを味わわされることになる、といったプレッシャ

ーをかけ、あるいは文句を言う(make a noise, embarrassment)のがせいぜい。 株主提案についても、一定以上の株主の支持がなければ経営側はそれを取り上げなくて

よいことになっている。アクティブな株主は稀で、ほとんどの株主は通常経営側の提案内

容にどちらかといえば無関心で、経営側がやろうとしていることでよいと考えているため、

一定以上の株主の支持を取り付けて株主提案をするのも実際のところむずかしい。 したがって、一般投資家が機関投資家にフリーライドしているとの議論があるようだが、

むしろそれは歓迎すべきことであり、フリーライドがなければ、経営陣はさらに好きなよ

うにできてしまうだろう。 ――そもそも機関投資家と企業統治の繋がりは、いつに始まるのか? 年金基金の企業統治に関する活動を振り返ってみたい。1985 年、当時カリフォルニア州

財務部長であったジェシー・M. アンルー氏(Jesse M. Unruh)のリーダーシップのもと、

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いくつかの大規模年金基金が集まって、「全米機関投資家評議会(CII:Council of Institutional Investors)」が設立され、株式を保有したまま株主権を行使することにより、

投資先の経営陣に業績向上を要求していくようになった。CII は、株式を所有する企業の総

会でどういった議決権行使をするかのコンセンサス・ビルディング、経営側提案への反対

表明や株主提案、CII のポジションを発表することによる他の株主や経営陣に対するアナウ

ンスメント効果などを狙った。 また、立法への影響力行使の例もある。1990 年代初頭、議会は CII の提案を考慮した税

制改革を実施している。CII の提案を受けて議会が盛り込んだ内容は、「一定額を超えた分

についての CEO などの執行役員の報酬は、その報酬が業績に直結した形で支払われない限

りは、企業の課税控除分として認めない」というもの。 しかし、この税制改革は、ストックオプションによる報酬の普及という、思わぬ結果を

招くことになった。ストックオプションの拡大は、オプション行使の際の株価といった短

期的な視野を経営陣が重視する傾向を作り出した。こうした意図せざる結果は、今回の一

連の不祥事の重要な一因とみている。経営陣とアナリストが相互に短期的収益重視の傾向

を強め合っていったことは、ハイテクなどの株バブルの一因ともなった。 ――ストックオプションの実態は? 多くのトップ・エグゼクティブは、報酬のうち 200 万ドルほどをキャッシュで、1,000

万ドル程度をストックオプションで受け取っている。このストックオプションは、行使す

ると 6,000~7,000 万ドルになる。また、「60 日間、株価を 38 ドル以上に維持できたら 10億ドルのストックオプションを二人に与えること」という内容の提案書を取締役会に提出

した例もある。これはまったくばかげた提案で、あまりに短期的な目標にすぎる。 ――サーベンス・オクスレー法では、ストックオプションについては何も言及がないが。21 同法の最大の問題は、まさにそのことだろう。 ストックオプション付与により、投資家が所有している株式割合が減少(希薄化)する

ため、投資家へのマイナスのインパクトがあるが、現在多くの企業はストックオプション

の費用計上を行っていないために希薄化することが株主にわかりにくい形になっている。 すでに何社かはストックオプションの費用計上を行っているが、これは前向きで評価で

きる。ストックオプションの費用をどのように算出して、どこに計上するかなど現在議論

が交わされている。会計上どのように処理すべきかは、まだはっきりしていないが、いず

れにせよ、ストックオプションは株主がきちんと把握すべき報酬の一形態である、と企業

は認識すべきである。

21 ただし、NYSE や NASDAQ は、ストックオプションを含む株式報償制度の導入・改変に対し株主の承

認を義務付ける新規則を提案、2003 年 6 月に SEC がこれを制定した。

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――ストックオプションは廃止すべきと? 経営陣には、ストックオプションではなく制限付き株式を付与した方がいい。財務諸表

に正確に価値が出る上、通常、一定期間は売却できない決まりとなっているため、その方

が、より株主に近いことになり、視野も長くなる。我々は、経営陣の報酬に関するこの問

題は、今後も、取り上げていく。また、トップ・エグゼクティブの報酬としていったいい

くら払うべきかも議論していかなければならない。 ――その他の点で、サーベンス・オクスレー法をどうみるか? 今回の改革はそれなりに評価はできる。同法は、企業経営者たちに、すばやく受け入れ

られた。財務諸表に対する投資家の信頼感も、いくらかは回復するだろう。短期の収益予

測も、止めるところが出てきた。四半期ごとの収益予測は、あまりにも短期的すぎる視点

であり、これを止めようというのはポジティブな動き。短期での収益達成の圧力は減って

きている。 ――同法による負担の増加で、新規上場が減るとの見方もあるが? それはないと思う。結局、起業家が富を得るためのソースは、上場なのだ。

――実効性は低いとはいえ、公務員年金基金が企業統治に関して目立つのに比べ、企業年

金はあまり発言がないようだが。 企業年金基金は他社の企業統治に口を出しにくい状況にある。 その理由としては、企業年金基金の場合、①他社がその企業の取引先であったり、ビジ

ネス上の関係を持つことも多く、他社の企業統治についてとやかく言うことを望まなかっ

た、②自社の CEO が他社の取締役を務めていたり、他者のトップ経営陣が自社の CEO の

友人であったりするなど、企業トップ間でのつながりも多く、他社の企業統治について攻

撃しにくい、といった状況があった。 一方、公務員年金はこのような企業年金基金が抱える懸念はなく、中立的に企業のパフ

ォーマンスを上げるための企業統治向上を強く要求できる立場にあり、企業統治アクティ

ビズムに積極的となった。 ――投資信託の投票行動のディスクローズについては、どうか? 投資信託のマネージャーたちはこれに反対している。彼らは、反対票を投じた場合、そ

の企業が自分のファンドを持っていれば、これを他社のファンドに入れかえてしまうので

は、と懸念している(私は、そんなことは起きないと思うが)。しかし、この措置は、投資

信託を、よりアクティブな株主としていくだろう。

(インタビュー:2003 年 2 月 21 日)

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IRRC (Investor Responsibility Research Center)

ハーバード大学を中心とする大学の基金及び有力財団によって 1972 年に設立された。当

初 4 人で活動を開始した IRRC は、その他の大学や財団の賛同を得て、今日約 80 名のスタ

ッフを擁し、2001 年から営利法人化している。コーポレート・ガバナンスと企業の社会問

題を中立な立場から分析し、その情報を中心に、ソフトウエア、及びコンサルティングサ

ービスを 500 以上の機関投資家、企業、法律事務所、監査法人、大学等に提供している。 グローバル・シェアホルダー・サービス部門(Global Shareholder Service) 主席調査員 ジョン・テイラー氏(Mr. John M. Taylor, Principal Researcher) 同部門 調査アナリスト タケユキ・イシダ氏(Mr. Takeyuki Ishida, Research Analyst) 企業統治部門(Corporate Governance Service) 調査アナリスト ジョン・ウェンデルケン氏(Mr. John Wendelken, Research Analyst))

――今回の一連の不祥事について、どう見るか? 今回の一連の不祥事については、機関投資家も学識者も、独立取締役、株主による監視、

ディスクロージャーといった米国型企業モデル自身に基本的な問題があるとの見方はない。

そうではなくて、透明性の欠如が問題だった。したがって、米国型モデルは、引き続き追

及されていくものといえる。 ――とはいえ、90 年代は、透明性の部分も含めて米国型企業統治は優れたシステムとする

意見が大勢をしめていたように感じるが? 90 年代の米国における企業統治は日本企業に比べればアカウンタビリティがあり、確か

に“ある程度”は機能していた。しかしそれはあくまでも“ある程度”であり、機関投資

家の目から見ると、1990 年代の米国企業統治の安全性には疑問があった。 たとえば、機関投資家は、エンロン事件が起きる以前から、監査委員会、報酬委員会、

指名委員会の 3 つの委員会を設置するように求め続けてきた。このうち、監査委員会につ

いては SEC の監査委員会に関する規則改正、および自主規制機関(NYSE など)の監査委

員会に関する規則改正によって、設置が義務づけられたが、報酬委員会および指名委員会

設置は義務づけられていなかったため、3 つの委員会を設置している企業はほとんどなかっ

た。このことにより、機関投資家の間では、取締役会の“独立性”に疑問が持たれていた。

実際、米国企業の多くが独立取締役の要件の一つとして「社外からの」取締役を置いてい

たが、指名委員会が設置されていなかったために、任命される社外からの取締役の多くが

CEO の友人であったり、取締役として存在するだけの人であったりと、機関投資家から見

るとその「独立性」が疑われるケースが多かった。

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――サーベンス・オクスレー法やその他の新規則については、どう見るか?

サーベンス・オクスレー法とは、経営陣のアカウンタビリティをどうするか、いかに回

復するかを意図しての法律と思っている。一方、NYSE、NASDAQ などの新規則は、取締

役会や委員会の問題にフォーカスしていて、これはサーベンス・オクスレー法を受けてと

いうよりも、一連の不祥事が直接原因になっての規制とみている。 その委員会だが、“指名委員会”は、取締役の独立性を確保するために重要な役割を果た

す。指名委員会が設置されていない、あるいは正しく機能しないと CEO のイエスマンばか

りが集められる可能性が高まるが、指名委員会が機能していれば、外部のコンサルタント

やヘッドハンティング会社を使うことも多く、こうした危険性が低くなる。もちろん指名

委員会さえあれば独立性が確保されるというわけではないが、ないよりはあったほうがよ

い。 また、委員会の過半数を独立取締役にする、というのも評価できるが、これについては、

委員会の兼任を認めると、要するに最低 2 人いればいいことになる。こうしたやり方は、

ボックスティッキング的な規則逃れに繋がる。 規則をつくりそれが守られているかどうか、ということよりも、取締役を見ることで、“こ

の企業の取締役会は独立性が確保されている”とわかることが重要である。 CEO と取締役会会長の兼任禁止は今回規則化されなかったが、機関投資家は嫌っている

ものの、米企業には多い。ただし、統計的には、兼任の割合は徐々に下がってきている。 ――機関投資家は、強力な力を持ち、企業統治に大きな役割を果たしているとのイメージ

があるが? 機関投資家がCEOなどトップ経営陣を交替させるほどの影響力を持ち合わせているとい

うことはまったくないとは言い切れないが、そのような例は極めて稀である。 カルパースのような 10~20 程度のリーダー的な存在を除けば、日米間で、機関投資家の

行動がそんなに違うわけではない。カルパースなどは、米国でも、(自身の企業統治基準を

公表し影響力を行使しようとするなど)特殊な存在。また、そのカルパースにしても、特

段何もなければ経営陣の議案に賛成する、つまり、原則は、企業経営陣の考えに賛成との

考え方で議決権行使するという意味では、日本と同じである。 ――カルパースのようなリーダーと、その他の機関投資家の関係は? カルパースはこれまで、米国内の企業の株主総会における投票に対してどのような考え

方で投票しようとしているかの分析結果をウェブで公開してきた。そして他の機関投資家

たちは、カルパースなどのオピニオンリーダー的大手機関投資家の議決権行使を見守って

きた。このような行動パターンについて、タダ乗り(free-riding)の傾向が強いものの、カ

ルパースは、株式持分が 1%未満の企業に対してなにがしか株主提案をしたとき、その行動

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を見て他の機関投資家が追随して議決権を行使すれば累積した影響力が出る、と考えてい

る印象がある。カルパースがリーダーシップを発揮することで、他の機関投資家が自ら分

析努力をしないでカルパースに追随したとしても、何も考えずに白紙投票されるよりもい

い、と考えているように受け取れる。 また、公務員年金基金と企業年金基金を比べてみると、従来、企業年金基金は経営陣に

対してほとんど何も意見を言わない傾向が強かった。 ――機関投資家が、議決権行使をする際の基準とは?

その企業がしっかりした委員会(監査委員会、報酬委員会、指名委員会)を設置してい

れば、議案には基本的には反対せずに賛成する、といった考え方をする場合がある。ある

いは、取締役会の選挙の際、「独立取締役がいれば反対しない」「独立取締役が何割以上い

れば反対しない」などといった「議決権行使の変数」を設定するところもある。 このような議決権行使ガイドラインは、1980 年代終わりごろから具体的な内容を定めた

ものが登場し始めた。それまでは、「株主の利益を最大化する」といった表現のものはあっ

たが、どのような基準で議決権を行使するかの具体性に欠けていた。1974 年に制定された

エリサ法で、年金運用委託機関に対する受託者責任が明示され、1980 年代に実質的に議決

権行使が義務づけられたことにより、議決権行使のガイドライン作成が定着することとな

った。 ただ、詳細なガイドラインを決めることへの問題点として、機械的に投票条件をチェッ

クする「ボックス・ティッキング」の弊害や、議決権行使変数が多くなることで議決権行

使条件が複雑になり、行使が困難となることなどが指摘されている。 ――機関投資家にとって、企業統治の位置付けは? 機関投資家の内部で、株の売り買いを決めるアナリスト(ファンドマネージャー)と、

企業統治をみている担当者との間のコミュニケーションがうまく取れているのか、問題が

ある。力関係でいえば、アナリストの方が強いだろう。アナリストにとって、企業統治は

保険のようなものではないかと思う。CEO が会社の利益と相反するような暴挙に出たとき、

企業統治がしっかりしていれば、その会社が崩壊する前に自律修正できるかもしれない。

それで、機関投資家のポートフォリオの 1%でも救われれば、との認識だ。 ――日本の企業統治の現状をどう見るか? 日本では、株主をあまりにも蔑ろにしてきたので、今は、もっと株主に報いるようにす

べきとの状況であろう。結果として、ディスクロージャーの徹底や、外国投資家の呼び込

みという話になる。米国では、経営陣の視野があまりに短期的になったことが問題視され

ているわけだが、それは機関投資家の方がたとえば四半期といった短いタームで結果を要

求してきたからではないか、ということで、今回、機関投資家の行動もまた、ポイントと

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なっている。 つまり、一連の不祥事にしても、企業側の責任と機関投資家側の責任が拮抗していると

の状況だ。企業側に問題あり、とされる日本の状況とは、このようにかなり違っている。 ――日本の企業統治は、まだまだとの評価か? 米国の大規模年金基金のポートフォリオ全体の中で、海外企業の株式を含める国際ポー

トフォリオは約 10%となっている。その国際ポートフォリオに占める日本企業の割合は、

1980 年代は企業競争力が高かったため 30~50%であったが、現在は、非常に低い。 情報開示の低さ、および企業統治やリスクがわからないことなどから、ジャパン・プレ

ミアムがついていることも、ウェイトの低さの一因となっている。 今後、委員会等設置会社に移行する企業が増えてくれば、それが評価され、株価が変化

していく可能性はある。しかし、委員会等設置会社に移行したからといってアメリカ企業

と同じ基準に立てるというわけではない。たとえば、90 年代前半に日本で、外部監査役を

就任させることが義務付けられたが、形式的なもので全く意味がないというのが、米国で

の機関投資家の一般的な見方だ。 また、日本企業では、株主、とくにアメリカの機関投資家とは積極的にコンタクトしな

い傾向があり、日本企業に資料を依頼などしても、(在米の代理機関に任せてあるとの回答

で)送ってくれない。いわゆるマニュアル対応をしているようで、非常に固い印象だ。カ

ルパースなどから質問がくるとどのように対応してよいかわからずに、(行動的な機関投資

家ということで)過剰反応しているようだ。 ――最近の株主提案の状況は? 米国は日本より株主提案の基準が緩い。そして、誰がそれを提案したかではなく、何が

提案されたか、その内容で、どれくらいの票が集まるかが決まる。内容が良ければ、機関

投資家がこれをサポートしたり、あるいはスポンサーとなる。ポイズンビルに反対する提

案であれば、平均して約 6 割の票を集めることができる。 今年、一番多く株主提案されたのは、ストックオプションの費用計上、次が、業績連動

型ストックオプションの導入、3 番目が、監査事務所によるコンサルタントの禁止であった。

(インタビュー:2003 年 2 月 19 日)

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コンピュータ・アソシエイツ社

コンピュータ・アソシエイツ社(Computer Associates International, Inc.)

コンピュータ・アソシエーツは、1976 年設立の世界最大級のソフトウェア会社。過去 20年間、積極的な企業買収で成長してきた。 同社は過去、売上水増しで SEC の調査を受けたり委任状争奪戦を演じたりと、その企業

統治に関し混乱が続く中で、コーポレート・ガバナンス改革に着手した。その結果、ビジネ

ス・ウィーク誌(2002 年 10 月 7 日号)で、「取締役会の改善が最も進んだ 5 社」に選ばれ

ている。

企業統治担当部長(Director of Corporate Governance) ロバート・ラム氏(Mr. Robert Lamm) ――エンロンに始まる一連の不祥事をどう見るか?

CEO が強欲かつ独裁的で、自分がやりたいと思ったことは何でも可能であり、“取締役に

はあとで報告することで対処できる、誰に対しても説明責任はない”と自分勝手に考えた

こと、つまり“インペリアル CEO(皇帝 CEO)”ともいうべき感覚が、スキャンダルを生

み出した要因となった。 同時に、エンロンの監査委員会のメンバーは財務のベテランばかりだったが、エンロン

の問題に対し、“どうなっているのか?”と問いかけず、他の取締役とともに目をつぶって

いたことが問題を引き起こした。 ――サーベンス・オクスレー法と関連諸規則をどうみるか? 同法は、執行役の本来の業務を、監督者である取締役が責任をもって保証するようにし

ようとしている傾向がある。これが進むと、ビジネスを執行する人(トップ経営層)と、

それを監督する人(取締役)の区別がなくなっていく可能性がある。取締役の役割にあま

りに期待して権限を強化してしまうと、所有と経営の分離という米国型企業統治の良さが

失われてしまう。 また、企業統治改革のために各企業が自社の状況に合わせて何を行うべきかを真剣に考

えるかわりに、サーベンス・オクスレー法の文面で使われる用語に惑わされたり、定義に

固執したりし、真の改革精神を見失う危険性がある。たとえば独立取締役について、どの

ような条件の人が独立か否かを機械的に分類して文面で定義するのではなく、真の意味で

独立した考え方と独立の精神を持っている人材であるかどうかを追求することが必要。 (CEO 抜きでの取締役会で議事運営を行う)リード・ディレクターについても同様で、

その役割は各社と同じであることはなく、それぞれの会社におけるプロセス・手続きを定

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めることが重要。ところが企業によっては、リード・ディレクターという言葉のかわりに、

どのような名前で呼ぶかということに注意が向いてしまっているところもある。 また、SEC は、監査委員会に最低1人は財務のエキスパートが含まれていなければなら

ないとしているが、その必要はない。必要なことに対して、“それはどういうことか、わか

るようにきちんと説明してくれ”と言えればよい。ポジションの名称をどうするかとか、

独立取締役や財務専門家を判断するための条件にとらわれてはいけない。この点、SEC は

「木を見て森を見ず」のところがあるように感じている。 ――同法が出来たことで、不祥事は防げるか? そうは思えない。サーベンス・オクスレー法では、“これをしなければならない”“これ

はしてはならない”とルールを定める内容となっているが、そうしたルールを課したとこ

ろで、必ず「ゴキブリ(=悪いことをする人間)」は次々と出てくる。また、不正をするつ

もりはまったくなくとも、独立取締役がつねに正しい判断を行えるとはかぎらない。独立

取締役が企業活動を監督しているからその企業は正しく行動している、という意味にはな

らない。したがって、“独立取締役がいるから大丈夫だ”ということではなく、取締役が果

たしている役割の内容そのものに注意を向けなければならない。 ――ストックオプションを費用として計上しようとする動きがあるが。 費用計上しなければならなくなることでストックオプションが魅力的でなくなるかどう

かは現時点ではわからないが、少なくとも、今のところは大幅にストックオプションの利

用が減少したというデータは出ていない。 ――取締役に求められる資質とは? 理想像としては、知性、高い倫理観、トップ経営陣に対する信頼・支持と良い意味での

懐疑心の 3 つのデリケートなバランスを持った人材。適切な質問ができる人。 ――日本の企業統治の現状をどうみるか? 日本企業など外国企業がサーベンス・オクスレー法に沿った企業統治を採用しない場合

は、なぜこのような企業統治を選んでいるのか理由を説明し、説得できればよい(comply or justify)。ある企業にとっては、たとえば CEO と取締役会長職を分離するというヨーロッ

パ型コンセプトがうまく機能するかもしれないし、他の会社にはそれはうまく機能しない

かもしれない。したがって、自分らしい企業統治を追求すればよい。 ――企業統治で求められることは? 企業統治は、ビジネスのさまざまな局面となんら相違があるものではなく、継続的な改

善・向上が必要である。たとえば、製造業における製品開発や在庫管理プロセスにおいて、

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継続的向上が基本概念としてある。これは、いったんよいものをつくったり、いったんよ

いプロセスを導入すればその時点で終わりということはなく、つねによりよいもの、より

よいプロセスをつくる努力が必要であることを意味している。企業統治にも同じ努力が必

要である。

(インタビュー:2003 年 2 月 3 日)

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デラウェア大学企業統治センター チャールズ・エルソン教授

デラウェア大学企業統治センター(University of Delaware Center for Corporate Governance) チャールズ・エルソン教授(Dr. Charles Elson, Woolard Chair) 専門は、会社法、証券規制、企業統治論。法学博士(バージニア大学)。 ――エンロンに始まる一連の不祥事をどう見るか? このスキャンダルは一部の企業による例外であり、米国型企業統治のシステムそのもの

の欠陥ではない。 米国型企業統治においては、取締役は、株主利益のために経営陣を監視する役割を負っ

ており、もっとも効果的に監視するための基本条件は、①取締役の独立性が保たれている

こと、②取締役が企業の成功を真剣にのぞんでいること(=オーナーシップ精神)の 2 つ

である。しかし、米国型企業統治においては、社外取締役が大多数を占めているものの、

これまで取締役がどうあるべきかについて明確に定義してこなかった。そのため、米国企

業の多くの取締役は本当の意味で独立性が確保されておらず、独立性が確保されていない

ために立場上企業活動をきちんと監視するのが困難、かつ、取締役を務めている企業に対

するオーナーシップ感覚にも欠けていた。エンロンやワールドコムなどの取締役は、一見、

独立性を確保していたように見えたが、実はまったくそうではなかった。 もっとも、取締役が独立性を保っていないことと、取締役がオーナーシップ精神に欠け

ていることは、従来より米国型企業統治の不十分な点として指摘されており、7~8 年前か

ら関係機関が取り組みを行ってきた。今回不祥事が起き、サーベンス・オクスレー法が成

立したことで、これまでの取り組みが加速されることになった。 また、1980 年代ごろから取締役に対して、報酬として現金のかわりにストックオプショ

ンを与える傾向が顕著となっていった。ストックオプションを受け取った取締役が、でき

るだけはやく行使して株式を売却するという株の短期売買をするようになれば、取締役は

短期の利益確保だけを目的とし、長期的な視野における健全な企業経営を考えなくなって

いく。取締役が果たすべき監督機能に対して見合ったインセンティブ(報酬)は与えるべ

きだが、現金のかわりにストックオプションを与えると、取締役は短期の利益確保だけを

目的として長期的な視点における健全な経営を考えなくなる傾向があるため、適切ではな

い。 ――サーベンス・オクスレー法が与える影響は?

長期的な影響についてはまだよくわからないが、真の改革、つまり取締役の行動様式を

真に変化させるインパクトは、証券取引所による改革への取り組みからもたらされると考

えている。

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――企業統治のさらなる改善のために必要なことは何か? オーナーシップ精神の確立のためには、取締役が長期にわたって株式を保有することで、

その企業を長期にわたって客観的に監視するインセンティブとなる。少なくとも 10 万ドル

相当額ほどを個人的にその会社の株式に投資し、10 年ほどの長期にわたり保有すべきであ

る。取締役は独立であるべきだが、あまりにも独立でその企業との関係がほとんどなけれ

ば、その個人が取締役として企業活動を積極的に監督する役割を果たす動機がなくなる。

個人が相当額の株式を保有することで、その企業に対するオーナーシップの意識が芽生え、

取締役を務めることが、その個人にとって意味のあるものとなる。

(インタビュー:2003 年 2 月 7 日)

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ブルッキングス研究所 副所長兼経済研究部長 ロバート・ライタン氏

ブルッキングス研究所 副所長兼経済研究部長(VP and Director of Economic Studies at The Brookings Institution) ロバート・ライタン氏(Dr. Robert Litan) 専門は、独占禁止法、金融機関など。経済学および法学博士(1987、1977 年、エール大

学)。著書に、American Finance for the 21st Century, The Brookings Institution, 1998(共

著)など。 ――エンロンに始まる一連の不祥事をどう見るか? 原因は、米国の会計原則ではなく、その原則を守らせるシステムに瑕疵があったせいだ。

このシステムというのは、たとえば会計士が悪かったというのではなく、SEC も会計士も

規制当局も、つまりシステムが全体として問題をかかえていた。というのは、エンロンは

例外だが、不祥事の多くは、収入の過大計上と費用の過小計上という極めて単純な方法に

よって、為されているからだ。 ただ米国の会計原則についても、一点だけ、ストックオプションの取扱いには問題があ

る。ストックオプションは、今でもまだ、会計原則上は費用計上しないものとなっている

が、これは財務指標を実態以上に良く見せることになる。過去、問題ありとされた企業は、

ほとんどがこれを行っている。 ――サーベンス・オクスレー法とそれに関連した諸規制で、問題は解決したのか? ほとんどの問題は、解決されたと思う。こうした法制度の改正もあり、米企業は多くの

改善を行い、米企業の企業統治はずいぶん良くなった。大企業も、財務諸表作成時に、正

直になったのではないか。 ただし、2 点、問題が残った。

1 つめは、SEC の資金が十分でないことだ。連邦議会は予算増額を昨年行ったが、今年

も同様に予算増額措置を取って欲しい。 2 つめは、上場企業監査委員会(PCAOB)の設置が決まったが、その内容がいまだには

っきりしないことだ。 ――会計操作の原因として、四半期ごとに決算や予測を出すことを批判する声があるが? 逆に、このような操作を避けるためには、毎月、あるいは極端にいえばリアルタイムで

情報を出せばよい。ひんぱんにデータが出れば、予測をめぐっての操作もなくなる。(情報

を減らすのではなく)より多くの情報を出すという方向が良いと考える。 ――日本の企業統治をどう見るか。米国型企業統治は、グローバル・スタンダードたりうる

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か? 一般的には、日本と西欧のディスクロージャーは米国に比べて良くないとされていたが、

今回の一連の不祥事を通し、米国も思っていたほどは良くなかったことが明らかになった。

日本、米国、西欧とも、その他の国に比べれば、ディスクロージャーは遥かに高い透明性

を有しているが、それでもまだまだ改善が必要だ。 今回の不祥事で、各国は、米国の会計原則について悪いイメージを持ってしまったので、

これがグローバル・スタンダードになることは、ないだろう。 ――企業統治改善における機関投資家の役割をどう見るか? 以前と比べアクティブになっているのは事実だが、力をもった番犬というわけではない。

それに、カルパースなどの一部の例外を除けば、州の年金基金などアクティブではあるが、

その対象は企業統治ではなく、(労働、環境問題など)純粋に政治的な問題が多い。 ――70 年代以降、米国では不祥事が断続的に続くが、果たして企業統治は改善しているの

か? 米国では、不祥事と改善が繰り返し行われているが、不祥事は、そのたび、異なった性

質のものだ。そして、米国の良いところは、こうした不祥事に対し、比較的迅速に対応が

取れることだろう。特に今回は、驚異的なスピードだった。

(インタビュー:2003 年 2 月 7 日)

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TIAA-CREF(全米教職員退職年金基金)

TIAA-CREF(Teachers Insurance and Annuity Association College Retirement Equities Fund:全米教職員退職年金基金) 米国最大級の年金基金で、基金運用で株式を購入した企業のマネージメントや企業統治

に関し、議決権行使や株主提案などを通じて、積極的に発言する機関投資家として知られ

る。同様の「物言う株主」としては、CalPERS(カリフォルニア州公務員退職年金基金)

が有名。 常務理事(Managing Director) アンドリュー・クリアフィールド氏(Dr. Andrew Clearfield) ――企業統治をみるうえで、重要なのは何か? 企業統治の基本は、企業が株主および市民に対し、より責任を果たすよう努めることだ。

企業は投資家とより緊密にならなければならない。そうした努力が、さまざまなリスクを

減らすことになる。 独立取締役は、不祥事防止の有効な手段になる。取締役の数は、取締役会での議論を充

実させるために 10 名程度とし、うち経営陣は 2~3 名に抑えることが望ましい。 取締役会は、経営戦略や従業員の問題など重要事項についてはすべて把握する必要があ

る。経営陣は取締役会に説明し、評価を受けて報酬を得るという仕組みだ22。意図的な不正

を完全に防ぐのは難しいが、情報の透明性が高ければ起こる確率は低くなる。 ――企業統治の欠陥が、エンロンの悲劇を招いた? 市場は時として必要以上に暴力的だ。エンロンについても、取締役が経営陣をしっかり

監視していれば倒産まで至らずに済んだだろうし、従業員が退職金を失うこともなかった。

企業統治上の厳しい監視が重要だ。 ――サーベンス・オクスレー法をどうみるか? サーベンス・オクスレー法は、監査法人への規制など一部は効果があるだろうが、改善

すべき点は残されていると思う。 同法の運用規則として証券取引委員会(SEC)が投資信託(ミューチュアルファンド)

などに株主権行使の結果を開示するよう求めたが、基本的には賛成しない。影響力が大き

過ぎ、むしろリスクを増幅する恐れがある。権利行使に至るまでの議論をうまく伝えられ

るとは思えない。 22 この考えは、TIAA-CREF のガバナンス原則に明示的に謳われている。

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――日本の企業統治についてはどうか? 日本企業に対しては、責任が分散されており、長年株主利益よりも成長が重視されてき

たというイメージがある。経営陣が取締役会を独占し、株主が主張しない、報酬は総じて

少ないなども特徴だ。 企業統治について米国の制度に従う必要はないが、監視が働く仕組みになっていなけれ

ばならない。今、業績が良く問題がないように見える日本企業でも、その状態が今後数十

年続く保証はない。 2003 年 4 月から施行される商法改正により、委員会設置型を選択した企業が 30 社前後

あったことは大きな進展とみている。一方で監査役会の独立性強化については、経営陣か

らの圧力を跳ね返すだけの監視能力の向上は期待できないとの見方が主流だ。

(インタビュー:2003 年 3 月 10 日)

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ガバナンス・メトリックス社

ガバナンス・メトリックス社(GovernanceMetrics International) 2000 年に設立された、企業統治格付け会社。現在、米国企業 500 社の格付けを実施、2003年末までには、米国内外で 2000 社の格付けを行うことを計画している。 最高経営責任者(President and CEO) ゲイビン・アンダーソン氏(Mr. Gavin Anderson) 調査部長(Research Director) デニス・ロス氏(Mr. Dennis Ross) ――御社では、米国企業のみならず、諸外国の企業の格付けも実施しているが、米国の企

業統治を他国の企業統治と比較して、どう評価しているか。 米国の企業統治形態が世界で最も優れているとは考えていない。情報開示については一

番だと思うが、他の観点からは別の結果になる。総体的にみた場合、米国よりも英国の方

が優れているかもしれない。組み合わさって米英(Anglo-American)モデルとなれば、最

高の基準(gold standard)になるだろう。 英国は、古くからロンドンが金融の中心だったことで、企業統治への関心が高く、議論

の歴史があることが背景にあると思う。具体的に、英国の企業統治が優れている点として

は、まず、企業統治の改善が継続的に行われていることが挙げられる。マックスウェル社

の年金流用事件など不祥事が発生した後に、キャドベリー委員会23が設置され、それがハン

ペル委員会に引き継がれる24など、議論の積み重ねがある。次に、英国では、企業統治に関

する開示が進んでいることも挙げられるだろう。 ――日本の企業統治については、どうか。 日本の企業統治は、情報開示が乏しい、監査役の独立性が低く監視能力が低いなどの問

題があると、認識している。また、取締役の独立性が低いことが最も重要な問題だと考え

ている。 ――企業統治への評価はいくつかの機関が実施しているが、同一企業への評価が異なるこ

とも少なくない。 それは、①評価時点が異なること、②評価基準が異なること、の 2 点が主な理由と考え

ている。①評価時点については、現在各企業が必死に企業統治改善に取り組んでおり、評

価のタイミングで取締役会の構成や情報開示の範囲が異なっていることがある。

23 1991 年。正式名称は、企業統治の財務的側面に関する委員会。 24 1995 年。正式名称は、企業統治に関する委員会。

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②の評価基準では、当社は 600 以上の質問項目への回答に基づき評価を行っているが、

財務情報のみならず倫理規範など幅広い企業情報が、どれだけ公に開示されているかを非

常に重視している。また取締役の独立性も重要な要素だ。

(インタビュー:2003 年 3 月 11 日)

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コンファレンス・ボード

コンファレンス・ボード(Conference Board) 景気先行指数や消費者信頼感指数の発表で知られる、米有力調査機関(非営利団体)。企

業のマネージメントに関する調査も手がけている。 シニアコンサルタント(Senior Consultant) クリス・プラス氏(Mr. Chris Plath) ――貴機関と企業統治との係わり合いは? 当機関では、不祥事の発覚が相次いだ 2001 年 6 月に、「市民の信頼と私企業に関する委

員会(Public Trust and Private Enterprise)」を設置し、各界の有力者による議論を進め

てきた。多くの企業が企業統治のあり方について迷っていたこと、投資家の信頼を回復す

る必要があったことが委員会設立の背景。委員会では、経営陣の高額報酬是正策や CEO と

取締役会会長の分離などについて提案をまとめた25。 ――エンロン破綻に前後しての、企業統治をめぐる一連の動きをどうみているか?

90 年代には、情報開示や取締役の独立性を重視する米国の企業統治を模範とし、各国で

採用する動きがあったが、エンロンの破綻以降流れは変わったと思う。米国内でも、以前

は利害関係者(stake holder)の中で株主重視の姿勢が強かったが、最近では変化が見られ

る。また、株主の側も多様化している。労働問題や環境問題を重視するなど、一部の機関

投資家は、企業の社会的責任を求めるようになっている。その一方で、持続的成長の観点

から企業に意見を述べるなど、企業統治に関与する機関投資家も存在する。 ――米国の経営者の高額な報酬が問題となっているが、なぜ、このように突出することに

なったのか? 90 年代に米国経済が拡大を続ける中で、経営者に「自分はこれだけの従業員を抱え、こ

れだけの利益を生み出したのだから、一流のスポーツ選手や俳優並みの報酬を得てもおか

しくない」との考えが広がった。いわゆるアメリカンドリームを尊ぶ国民性も、成功した

経営者への高額報酬を支えたと思う。もちろんストックオプション制度や 90 年代後半の株

高の影響も大きい。 ――日本の企業統治については、どう考えているか?

25 提案の内容は下記ホームページから閲覧できる。

http://www.conference-board.org/knowledge/governCommission.cfm

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企業統治においてリスクの監視は普遍的な原則だ。監視の仕組みや、CEO と取締役会会

長の分離、取締役の人数の制限などは、それぞれの国で議論すれば良いことで、米国内で

も盛んに行われている。 むしろ、ベスト・プラクティスを真似て、独自のものを構築することが必要であろう。

――企業統治の世界的な収束(convergence)を唱える向きもあるが? 文化の違いもあり、収束するとは思わない。 ――破綻した UAL は、従業員が株主という特殊な企業統治形態を敷いていた。 UAL については、経営破綻は企業統治ではなく、業界の要素の方が原因としては大きい。

(インタビュー:2003 年 3 月 11 日)

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ニューヨーク証券取引所(NYSE)

副社長(Vice President) ジェームス・シャピロ氏(Mr. James Shapiro) 上席法律顧問(Senior Counsel) アンネマリー・ターニー氏(Ms. Annemarie Tierney) ――サーベンス・オクスレー法施行に伴い、NYSE でも新規則を制定しているが、そのポ

イントは? 上場基準作りにおいて特に重視したのは取締役の独立性だ。独立取締役は、株主代表と

して株主の利益を守る上で非常に重要だ。議論を重ねた結果、独立取締役として認められ

る条件として、当該企業から離れている期間を従来の 3 年から 5 年に延長したり、一定以

上の取引関係を有しないことなどを定めた。また、経営陣を除いた独立取締役のみでの定

期的会合も求めた。 ――CEO と取締役会長の分離は見送りとなったが? この問題についても議論はしたが、まだ国民的な合意を得ていないと判断し、今回は見

送った。ただし、将来的にはルール化されると思っている。 ――取締役会と経営陣の関係については? 取締役会は、経営陣の監視のみならず重要な経営戦略を決定する役割もあるが、実際に

企業を運営しているのは経営陣だ。取締役会はあくまで株主の代表として、企業を監視す

るという位置付けだと思う。 ――新規則が、米国に上場する日本企業など、外国企業にとって懸念材料となっている面

もあるが? 外国企業は、サーベンス・オクスレー法によって大きな負担を感じていると思う。その

ことは、我々(NYSE)としても認識している。SEC の運用規則の中で、いくつかの項目

で例外規定が設けられたが、政治的圧力もあり原則適用除外とはなっていない。 SEC が独立取締役のみで構成する監査委員会の設置について、従来の監査役制度を適用

除外とする提案を 1 月に行ったが、日本企業にとっては、2003 年 4 月からの商法改正で委

員会設置型を選んだ企業への適用が問題となると認識している。欧州の上場企業でも同様

の問題が生じている。NYSE では、外国企業に対しては自国の制度の維持を認め、米国制

度との相違点を明示するという規則になっており、今後も変えるつもりはない。

(インタビュー:2003 年 3 月 11 日)

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ジョージタウン大学教授 ドナルド・ランジブルト氏

ジョージタウン大学教授(Professor of Law, Georgetown University Law Center) ドナル

ド・ランジブルト氏(Dr. Donald Langevoort) 専門は、企業法、証券規制など。法学博士(ハーバード大学)。SEC の法律特別顧問とし

ての経験もある。主な著書に、Securities Regulation: Cases and Materials (Aspen Law & Business 3d ed. 2001)(共著)、主な論文に、"The Human Nature of Corporate Boards: Law, Norms, and the Unintended Consequences of Independence and Accountability," 89 Geo. L.J. 797 (2001).など。 ――サーベンス・オクスレー法で評価できる点は?

サーベンス・オクスレー法は、劇的な変化を求めるものではないが、良く出来た法律だ

と思う。監査法人への規制は効果的だろうし、刑事罰の期限を大幅に延長したことも良い

ことだ。しかし、個人的には企業の不正は民事で争うのが基本だと思う。 この法律の最も大きな効果は、SEC の予算と権限が拡大したことだと思っている。取り

締まる機関に人材と権限が必要だということを我々は90年代に学んだ。NYSEやNASDAQの問題点は権限が弱いことだ。問題があっても有力企業を本当に上場廃止できるかは疑わ

しい。彼らに権限を与えることの実務上の影響は、サーベンス・オクスレー法よりも大き

い。 また、今回の対応に関して、SEC、NYSE、NASDAQ の関係は良いものだったと思う。

――同法に、改善すべき点はあるか? 修正するとしたら、①外国企業を例外とすること、②企業幹部への貸付禁止を撤廃する

こと、の 2 点だ。外国企業は自国の法制度の下で設立、運営、監督されており、米国の法

律で規制するべきではない。彼らは米国の法制度に馴染みが薄いし、ルールの押し付けは

脅しに感じるだろう。②については、情報開示を徹底すれば良いことだと思う。経営陣に

報酬として支出するのは良くて、貸付は禁止するという理由はない。 ――上場企業の監査法人を監視する機関(公開企業会計監視委員会;PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)が設置されたが? あれだけ不正が相次いだので、行政が乗り出すのはやむを得ないと思う。ただし、本来

自主規制が望ましい。SEC と別組織としたことは完全に政治的判断だ。当時は SEC への不

信感が強かったために独立の組織となったが、新たな行政機構を求めいたわけではない。

しかし、PCAOB を SEC が監視する仕組みになっているのは良いことだと思う。 ――企業統治のポイントとは何か。

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企業統治において、絶対的に重要なのは情報の透明性だ。財務情報や経営戦略上の意思

決定などが投資家に開示されていれば、どのような会計基準、どのような企業統治形態で

あっても問題ないと思う。 具体的には、企業における利益相反関係をすべて開示することが有効だ。不正を起こし

た企業幹部は、元々悪い人間だった訳ではないが「大した事ではないだろう」という判断

が大きな問題につながっていった。エンロンでも、経営陣と関連会社との関係を開示して

いれば防げた部分もあると思う。 企業内部での監視は、収益拡大や企業の成長を目指すプレッシャーがあるために効果は

期待できないと思う。不正があっても当事者は取り繕おうとするだろう。倫理規範は、不

祥事を起こした多くの企業でも定めており、大きな意味があるとは思わない。大事なのは

それが本当に浸透することだ。 ――CEO と取締役会会長の分離が見送られたが?

分離は必要とは思わないが好印象を与えるだろう。今後は独立取締役が、企業を監視す

るためのスタッフを求めるようになるのではないか。

(インタビュー:2003 年 3 月 12 日)

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巻末資料2 サーベンス・オクスレー法仮訳 [DOCID: f:publ204.107]

[[ページ 116 STAT. 745]]

公法 107-204

第 107 回議会

法律

証券取引法に従って、また他の目的で行われる企業の開示の正確性と信頼性を改善することによ

って投資家を保護するための法律。

<<注: 2002 年 7 月 30 日 - [H.R. 3763]>>

アメリカ合衆国の上院および下院により、2002 年に召集された議会において立法化される。

<<注: 2002 年サーベンス・オクスレー法、企業責任>>

第 1 条 <<注: 15 USC 7201 note.>> 略称; 目次

(a) 略称

本法は「2002 年サーベンス・オクスレー法」という。

(b) 目次

本法の目次は以下の通りである:

第 1 条 略称;目次

第 2 条 定義

第 3 条 SEC のルールと執行

タイトル I-公開企業会計監視委員会

第 101 条 設立:管理規定

第 102 条 監視委員会への登録

第 103 条 監査、品質管理、独立性の基準と規則

第 104 条 登録会計事務所の検査

第 105 条 調査および懲戒手続き

第 106 条 外国の会計事務所

第 107 条 SEC による監視委員会の監督

第 108 条 会計基準

第 109 条 資金供給

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タイトル II-監査人の独立

第 201 条 監査人の実務の範囲外のサービス

第 202 条 事前承認の要件

第 203 条 監査パートナーの交代

第 204 条 監査委員会への監査人の報告

第 205 条 整合改正

第 206 条 利益相反

第 207 条 登録会計事務所の義務的交代の調査

第 208 条 SEC の権限

第 209 条 適切な州監督当局による考慮

タイトル III-企業責任

第 301 条 公開企業の監査委員会

第 302 条 財務報告書に関する企業の責任

第 303 条 監査実施に対する不適切な影響

第 304 条 一定のボーナスおよび利益の没収

第 305 条 役員および取締役の制約と罰金

第 306 条 年金制度のブラックアウト期間中のインサイダー取引

第 307 条 弁護士の業務責任に関する規則

第 308 条 投資家のための公正基金

タイトル IV-財務内容開示の向上

第 401 条 定期報告書における開示

第 402 条 利益相反規定の強化

第 403 条 経営陣および主要株主に関わる取引の開示

[[ページ 116 STAT. 746]]

第 404 条 内部統制についての経営陣の評価

第 405 条 例外

第 406 条 上級財務責任者の倫理規範

第 407 条 監査委員会財務専門家の開示.

第 408 条 発行体による定期的開示の見直しの強化

第 409 条 リアルタイムでの発行体の開示

タイトル V-アナリストの利益相反

第 501 条 登録証券業協会および国内証券取引所による証券アナリストの扱い

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タイトル VI-SEC の資源と権限

第 601 条 予算の承認

第 602 条 SEC への出頭と実務の遂行

第 603 条 投機的低位株取引禁止を科す連邦裁判所の権限

第 604 条 ブローカーおよびディーラーの関係者の資格

タイトル VII-調査および報告

第 701 条 会計事務所の整理統合に関する会計検査院(GAO)の調査と報告

第 702 条 信用格付け機関に関する SEC の調査と報告

第 703 条 違反者および違反についての調査と報告

第 704 条 強制措置に関する調査

第 705 条 投資銀行の調査

タイトル VIII--企業における刑事上の詐欺行為責任

第 801 条 略称

第 802 条 資料変造に関する刑事罰

第 803 条 証券詐欺諸法の違反で発生した免責されない負債

第 804 条 証券詐欺に関する制限法規

第 805 条 司法妨害および大規模な詐欺犯罪に関する連邦量刑ガイドラインの見直し

第 806 条 詐欺的行為の証拠を提供する、公開企業の従業員の保護

第 807 条 公開企業の株主に対する詐取に関する刑事

タイトル IX-- ホワイカラー犯罪の罰則強化

第 901 条 略称

第 902 条 詐欺犯罪の未遂および共謀

第 903 条 郵便詐欺および有線通信不正行為に関する刑事

第 904 条 1974 年従業員退職所得保障法の違反に関する刑事

第 905 条 一定のホワイトカラー犯罪に関する量刑ガイドラインの改正

第 906 条 財務報告書に関する企業の責任

タイトル X-法人税申告書

第 1001 条 最高経営責任者による法人税申告書への署名に関する上院の見解

タイトル XI--企業の詐欺行為責任

第 1101 条 略称

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第 1102 条 記録の改ざんあるいはその他による公的手続きの妨害

第 1103 条 証券取引委員会の暫定凍結権限

第 1104 条 連邦量刑ガイドラインの改正

第 1105 条 人が役員あるいは取締役として働くことを禁ずる SEC の権限

第 1106 条 1934 年証券取引法の下での刑事罰の強化

第 1107 条 情報提供者に対する報復<<注: 15 USC 7201.>>

第 2 条 定義 <<15 USC 7201.>>

(a) 一般規定

本法においては、以下の定義が適用されるものとする:

(1) 適切な州の監督当局

「適切な州の監督当局」という用語は、州あるいは複数の州において、会計実務の許可、その他

の規制を担当し、問題の事項に関して、登録された(公的)会計事務所あるいはその関係者に管

轄権を有する州の機関あるいは当局を意味する。

[[ページ 116 STAT. 747]]

(2) 監査

「監査」という用語は、何らかの発行体の財務諸表についての、独立会計事務所による、意見表

明のために監視委員会あるいは SEC の規則に従って(あるいは、第 103 条の下での監視委員会の

該当規則の採用に先立つ期間については、その時点で適用可能な一般に受け入れられている監査

およびそうした目的の関連の基準に従って)行う検査を意味する。

(3) 監査委員会

「監査委員会」という用語は、以下を意味する:

(A) 発行体の取締役会により、発行体の会計と財務報告の過程、および発行体の財務諸表の監

査を監督する目的で役員たちの間に設立された委員会(あるいはそれに相当する機関)を意味す

る、また

(B) 発行体にそうした委員会が存在しない場合、その発行体の取締役会全体を意味する。

(4) 監査報告

「監査報告」という用語は、以下の文書あるいは他の記録を意味する:

(A)証券諸法の要件順守のために行われた監査に続いて発行体によって作成されるもので、

(B)その中で、会計事務所が、

(i) 財務諸表、報告書、その他の資料に関して、その事務所の意見を述べたもの、あるいは

(ii) そうした意見を表明することができないことを確証したもの。

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(5) 監視委員会

「監視委員会」という用語は、第 101 条の下に設立される公開企業会計監視委員会を意味する。

(6) SEC

「SEC」という用語は、証券取引委員会を意味する。

(7) 発行体

「発行体」という用語は、1934 年証券取引法の第 3条(15 U.S.C. 78c)で定義されている発行体

を意味し、その証券が証券取引法の第 12 条(15 U.S.C. 78l)の下に登録されているもの、あるい

は第 15 条(d) (15 U.S.C. 780(d))の下で報告書を提出することが要求されているもの、あるい

は 1933 年の証券法(15 U.S.C. 77a および以下)の下、まだ有効となっていない登録届出書を提

出する発行体、あるいはすでに提出しており、取り下げていない発行体を意味する。

(8) 非監査業務

「非監査業務」という用語は、登録会計事務所によって、発行体に提供される職業的サービスで、

発行体の監査あるいは財務諸表の検討に関連して発行体に提供されるサービス以外のものを意

味する。

(9) 会計事務所の関係者(associated person)

(A)一般規定

「会計事務所(あるいは登録会計事務所)に特殊関係のある人」、あるいは「会計事務所(ある

いは登録会計事務所)の関係者」という用語は、会計事務所の単独職所有者、パートナー、株主、

所長、会計士、その他の専門家職員、あるいは監査報告書の作成または発行に関連して、以下を

行う他の独立契約者または主体を意味する:

(i)何らかの形でその事務所と利益を共有する、またはその事務所から報酬を受け取る 、あるい

(ii)代理人その他の方法で、その事務所の活動に、事務所を代表して参加する。

[[ページ 116 STAT. 748]]

(B) 除外権限

監視委員会は、本法の目的、公共の利益、あるいは投資家の保護と整合すると判断される限りに

おいて、(A)項の定義から、事務的職務(ministerial tasks)にのみ従事する者を規定により、

除外することができる。

(10) 業務基準

「業務基準」という用語は、以下を意味する:

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(A)次の会計原則:

(i)本法によって改正される 1933 年の証券法第 19 条(b)に記述されている基準設定機関によっ

て、あるいは同法第 19 条(a)(15 U.S.C. 17a(s))、1934 年証券取引法第 13 条(b)(15 U.S.C.

78a(m))の下、SEC によって確立されるものであり、

(ii)特定の発行体に関する監査報告に関連するもの、あるいは特定の登録会計事務所の品質管理

システムにおいて扱われるもの、および

(B)監視委員会または SEC が定める監査基準、確証業務基準、品質管理政策・手順、倫理・順守

基準、独立性基準(タイトルⅡの実施規則を含む)で以下に該当するもの:

(i)発行体の監査報告書の作成あるいは発行に関連しており、

(ii)第 103 条(a)の下、監視委員会によって確立または採択されたもの、あるいは SEC の規則

として公布されたもの。

(11) 会計事務所

「会計事務所」という用語は、以下を意味する:

(A)公共会計実務あるいは監査報告書の作成または発行に従事している個人企業、パートナーシ

ップ、社団法人、有限会社、有限パートナーシップ、他の法的主体、および

(B)監視委員会の規則によって指定されている限りにおいて、(A)項に記されている主体の関係

者。

(12) 登録会計事務所

「登録会計事務所」という用語は、本法に従って、監視委員会に登録された会計事務所である。

(13) 監視委員会の規則

「監視委員会の規則」という用語は、監視委員会の細則や規則(第 107 条に従って、SEC に提出

され、SEC によって承認あるいは改正、変更されたもの)を意味する、また監視委員会の表明し

た政策、実施方式で、解釈委員会が規定に従い、公共の利益または投資家の保護のために必要あ

るいは適切なものとして、監視委員会の規則であると考えることができるものを意味する。

(14) 証券

「証券」という用語は、1934 年証券取引法第 3条(a)(15 U.S.C. 78c(a))におけると同様の意

味を有する。

[[ページ 116 STAT. 749]]

(15) 証券諸法

「証券諸法」という用語は、本法によって改正された 1934 年証券取引法の第 3 条(a) (47) で

言及されている法の条項を意味し、その下で SEC によって発せられるルール、規則、命令を含む。

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(16) 州

「州」という用語は、米国のすべての州、コロンビア特別区、プエルトリコ、ヴァージン諸島、

その他の米国の領土あるいは占有地を意味する。

(b) 整合改正(Conforming Amendment)

1934 年証券取引法第 3 条(a)(47)(15 U.S.C. 78c(a)(47))は、「公的(the Public)」の前に

「2002 年サーベンス・オクスレー法」を挿入して改正する。

第 3 条 SEC の規則と執行 <<15 USC 7202.>>

(a) 規制措置

SEC は、公共の利益あるいは投資家の保護のために、また本法の推進のために必要または適切と

思われるルールおよび規則を公布する。

(b) 強制(取締り)

(1) 一般規定

何人かによる本法の違反、あるいは本法の下で発せられた SEC のルールや規則、監視委員会の規

則の違反は、あらゆる点で、1934 年証券取引法(15 U.S.C. 78a および以下) 、その下で発せら

れた、本法の規定と整合するルールや規則と同様に扱われるものとする、またそうした違反者は、

その法やルール、規則の違反の場合と同じ程度の同じ罰則に服するものとする。

(2) 違反の調査、禁止および訴追

1934 年証券取引法第 21 条(15 U.S.C. 78u) は、

(A) (a)(1) 項において、「参加者である」の後に「その者が、そこに登録済みの会計事務所で

ある、あるいはそうした事務所の関係者となっている、公開企業会計監視委員会の規則」を挿入

することによって、

(B) (d)(1) 項において、「参加者である」の後に「その者が、そこに登録済みの会計事務所で

ある、あるいはそうした事務所の関係者となっている、公開企業会計監視委員会の規則」を挿入

することによって、

(C) (e)項において、「参加者である」の後に「その者が、そこに登録済みの会計事務所である、

あるいはそうした事務所の関係者となっている、公開企業会計監視委員会の規則」を挿入するこ

とによって、また

(D) (f)項において、「自主規制機関」という言葉が現れるたびに、その後に「あるいは公開企

業会計監視委員会」を挿入することによって改正される。

(3) 違法行為排除手続

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1934 年証券取引法第 21 条 C(c)(2)(15 U.S.C. 78u-3(c)(2))は、「国債ディーラー」の後に「登

録会計事務所(2002 年サーベンス・オクスレー法の第 2 条で定義されるもの)」 を挿入する

ことによって改正される。

(4) 連邦銀行監督機関(federal banking agencies)による強制

1934 年証券取引法第 12 条(i)(15 U.S.C. 78l(i))は以下によって改正される:

(A) 「第 12 条」が現れるたびにそれを削除し、「第 10 条 A(m)、第 12 条、」を挿入する、また

[[ページ 116 STAT. 750]]

(B) 「および第 16 条」が現れるたびにそれを削除し、「本法の第 16 条、および 2002 年サーベ

ンス・オクスレー法の 302、303、304、306、401(b)、404、406 および 407 の各条項」を挿入す

る。

(c) SEC の権限への効果

本法あるいは監視委員会の規則のいかなるものも、以下の権限、能力を損なう、あるいは制限す

るものと解釈されてはならない:

(1) 証券諸法の執行のために職業会計人、会計事務所、およびそれの関係者を規制する SEC の権

限、

(2) 監査報告書の作成および発行に関して、証券諸法の他の条項や同法の下でのルールや規則か

ら、その他の該当法の下で引き出される、会計、監査の実施あるいは監査の独立性についての基

準を設定する SEC の権限、あるいは

(3) 登録会計事務所あるいはその関係者に対して、SEC の自発性に基づき、法的、行政的、ある

いは懲戒的な措置を講じる SEC の能力。

タイトル 1 公開企業会計監視委員会(public company accounting oversight board)

第 101 条 設立:管理規定 <<15 USC 7211.>>

(a) 監視委員会の設立

証券諸法の対象となる公開企業の監査および関連事項を監視するために公開企業会計監視委員

会が設立される。これは投資家の利益を保護し、またその証券が一般の投資家に販売され、それ

らの投資家によって、またそのために保有される会社に関しての情報を伝え、正確で独立的な監

査の作成における公共の利益を推進することを目的とする。監視委員会は法人とし、非営利団体

として活動し、議会の法律によって解体されるまで存続するものとする。

(b) 身分

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監視委員会は、米国政府の一機関あるいは一組織ではなく、また本法で別に規定される場合を除

いて、コロンビア特別行政区非営利団体法の下に置かれ、それにより非営利団体に付与されるす

べての権限を有するものとする。監視委員会に雇用されるいかなるメンバーも人も、そのサービ

スを理由に連邦政府の役人、被雇用者あるいは代理人とは見なされない。

(c) 監視委員会の義務

監視委員会は、第 107 条の下、SEC の措置に従い、また本条(d)項の下、SEC によって決定が行

われた後、

(1) 第 102 条に従って、発行体に関する監査報告書を作成する会計事務所を登録する、

(2) 第 103 条に従って、監査、品質、管理、倫理、独立性、その他発行体に関する監査報告書の

作成に関連した基準を確立あるいは採択、あるいはその双方を行う、

(3) 第 104 条および監視委員会の規則に従って、登録会計事務所の監視を行う、

(4) 第 105 条に従って、登録会計事務所およびそうした事務所の関係者に対して、調査および懲

戒手続きを行い、正当化される場合には適切な制裁を課す。

[[ページ 116 STAT. 751]]

(5) 投資家の利益を保護し、公共の利益を促進するため、登録会計事務所およびその関係者の間

に高い業務基準を推進し、それらによって提供される監査業務の質を改善するのに、あるいはそ

の他本法を実施するのに監視委員会が(あるいは SEC が、規則あるいは命令により)必要または

適切と考える他の義務または機能を遂行する。

(6) 本法、監視委員会の規則、業務基準、監査報告書の作成、発行に関連した証券諸法、および

それらに関連する会計士の義務と責任に関して、登録会計事務所およびその関係者による順守を

強制的に行わせる。また

(7) 監視委員会の予算を定め、その活動と監視委員会のスタッフを管理する。

(d) SEC の決定

監視委員会のメンバーは、必要あるいは適切と思われる措置(スタッフの雇用、規則の提案、当

初および移行期の監査、その他の基準の採用)を講じ、SEC が本法の制定日後 270 日以内に、監

視委員会は本タイトルの要件を遂行するための、また登録会計事務所およびその関係者による本

タイトルの順守を強制的に行わせる体制を整えており、その能力を持っていると判定することが

できるようにしなければならない。SEC は、監視委員会のメンバーの指名に先立って、設立と監

視委員会の活動への管理上の移行の立案に関して責任を負うものとする。

(e) 監視委員会

(1) 構成

監視委員会は 5 名のメンバーから成り、そのメンバーは、投資家および公共の利益へのその献身

が実証済みであり、証券法の下で発行体に要求される財務開示の責任とその本質について、また

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101

そうした開示に関係して監査報告書の作成、発行に関する会計士の義務についての理解を有する

廉潔性と評判を備えた卓越した個人の中から指名される。

(2) 制限

監視委員会の 2 人のメンバーは、そして 2 人のメンバーのみが、一つあるいは複数の州の法律に

基づく公認会計士である、あるいは公認会計士であった者とする。ただし、その 2 名のうちの1

名が議長である場合、その者は、監視委員会への指名の前、少なくとも 5 年間は公認会計士とし

て活動を行っていないものとする。

(3) 専従独立業務

監視委員会の各メンバーは、専従ベースで業務を行い、監視委員会の業務と同時期に他の者に雇

用されてはならないし、他の職業や事業活動に従事してはならない。監視委員会のメンバーは、

会計事務所のメンバーの退職に関する標準的取り決めの下、SEC が課す条件による、固定した継

続的報酬以外、会計事務所の利益を共有してはならない、また会計事務所から支払いを受けては

ならない。

(4) 監視委員会のメンバーの指名

(A) 当初の監視委員会

<<最終期限>>本法の制定日から 90 日以内に、SEC は連邦準備制度理事会議長および財務長官と

の協議後、監視委員会の議長および他のメンバーを指名し、各メンバーの任期を指定する。

[[ページ 116 STAT. 752]]

(B) 欠員

監視委員会の欠員は監視委員会の権限に影響しないが、その欠員は、本条の下で指名に関して規

定されたのと同じ方法で埋められなければならない。

(5) 任期

(A) 一般規定

監視委員会の各メンバーの任期は 5年とし、また後任が指名されるまでとする。

ただし例外的に、

(i) 当初の監視委員会メンバー(議長以外)の任期は、当初指名日の最初の 4 回のそれぞれの周

年日に 1名ずつ、毎年順次、任期満了になっていくものとする、 また

(ii) 前任者の指名された任期の終了前に生じた欠員を埋めるために指名された監視委員会メン

バーについては、前任者の任期の残りに関してのみ指名されるものとする。

(B) 任期の制限

いかなる者も、2 回の任期を超えて、その任期が継続的か否かに関わりなく、監視委員会のメン

バーとして、あるいは議長として務めることはできない。

(6) 解任

SEC は、監視委員会のメンバーをそのメンバーの任期の終了前に、第 107 条(d)(3)に従い、正当

な理由を示して解任することができる。

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(f) 監視委員会の権限

本法において他で監視委員会に与えられている権限に加え、監視委員会は第 107 条を条件として、

以下の権限を有する:

(1) 連邦、州、その他の裁判所において、その法人名で、それ自身の弁護人を通じ、SEC の承認

を得て、訴えを起こす、訴えを受ける、訴えを述べる、防御すること、

(2) いかなる州(あるいはその政治的下位区分)においても、その州で実施されている資格、許

可、他の法律に関わりなく、その活動を遂行し、事務所を維持すること、また本法によって他の

すべての権利および権限を行使すること、

(3)貸借、購入、贈り物あるいは寄付の受領、その他の仕方での財産のすべてあるいは一部の物

権の取得、改良、使用、売却、交換、譲渡を行うこと、その財産の場所は問わない、

(4) 必要あるいは適切と思われる従業員、会計士、弁護士、その他の代理人を任命すること、ま

たそれらの資格を決定し、その任務を定め、その給与や他の報酬を定める(民間部門の自由業、

会計、事務、顧問、その他のスタッフや管理の職と類似したレベルで)こと。

(5) 監視委員会のために第 109 条に従って設定された会計支援手数料および本タイトルの下で

課される他の手数料や料金を割当、評価、徴収すること、また

(6) <<契約>> 契約を結び、法律文書を作成し、責任を負うこと、また監視委員会の業務の遂行、

および本タイトルによって課される、あるいは与えられるその義務、権利、権限の行使に必要ま

たは適切、あるいは付随する他の行為または事柄の一部または全部を行うこと。

[[ページ 116 STAT. 753]]

(g) 監視委員会の規則

監視委員会の規則は、SEC の承認を条件として:

(1) 監視委員会の活動と管理、その権限の行使、本法の下でのその責任の遂行に関して規定する

ものであり、

(2) 監視委員会が必要あるいは適切と判断する場合、その機能の一部を監視委員会のメンバー個

人または従業員へ、あるいは監視委員会の一部門へ監視委員会が委任するのを許す。その機能に

は、何らかの問題に関する聴聞、決定、命令、認証、報告、その他の行為が含まれる、ただし

(A) 監視委員会は、そうした委任による行為を、それ自身の発案に基づき、見直しを行う自由裁

量権を保持するものとする、また

(B) そうした委任事項に関して、監視委員会は見直しを行う権限を人に与えることができるが、

そうした見直しに関する監視委員会の決定は、あらゆる点(訴えあるいはその見直しを含む)で

監視委員会の行為と見なされるものとする、また

(C) (A)項に述べられた見直しを行う権利が辞退された場合、あるいは監視委員会の規則で規

定された期間内にそうした見直しが行われない場合、委任された権限の保持者によって行われた

行為は、あらゆる点で(訴えあるいはその見直しを含む)で監視委員会の行為と見なされるもの

とする。

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103

(3) 監視委員会のメンバーおよびスタッフの行動に関する倫理的規則および基準を確立する。そ

れには、監視委員会の旧メンバーに関しては 1 年間の、監視委員会の旧スタッフに関しては適切

な期間の(1年を超えない)、監視委員会(および監視委員会関連事項についての委員会)での

活動に関する阻却事由が含まれる。

(4) その他、本法によって要求されることを行う。

(h) <<最終期限>>SEC への年次報告書

監視委員会は SEC に年次報告書(監査済み財務諸表を含む)を提出する、また SEC は、その報告

書受け取りの日から 30 日以内に、報告書の写しを上院銀行住宅都市委員会および下院金融サー

ビス委員会に送付する。

第 102 条監視委員会への登録 <<15 USC 7212.>>

(a) 強制的登録

第 101 条(d)の下、SEC の決定から 180 日以降、登録会計事務所でない者が何らかの発行体に関

する監査報告書を作成または発行すること、あるいはその作成または発行に参加することは違法

となる。

(b) 登録の申請

(1) 申請書式

会計事務所は、本条の下での登録の申請には監視委員会が規定により指定する書式を使用するも

のとする。

(2) 申請の内容

各会計事務所は、その登録申請の一部として、監視委員会が指定する以下の詳細を提出するもの

とする:

(A) その事務所が前暦年中に監査報告書を作成または発行したすべての発行体、および当暦年中

に監査報告書を作成または発行する予定のすべての発行体の名前、

[[ページ 116 STAT. 754]]

(B) 監査サービス、他の会計サービス、および非監査サービスのそれぞれについて、各発行体か

ら事務所が受け取った年間手数料、

(C) 事務所の完了した直近の会計年度に関して、監視委員会が合理的に要求する他の当期財務情

報、

(D) 事務所の会計、監査の活動に関する品質管理方針の申告、

(E) 監査報告書の作成に参加あるいは寄与した事務所と関係しているすべての会計士のリスト、

それには各人のライセンス番号あるいは認証番号、および事務所自体の州のライセンス番号を記

す、

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104

(F) 監査報告書に関連して事務所あるいは事務所の関係者に対する未決の刑事、民事、行政処分、

あるいは懲戒手続きに関する情報、

(G) 直前の暦年中に発行体によって SEC に提出された定期あるいは年間の開示書の写しで、その

発行体のために事務所によって供給あるいは作成された監査報告書に関してその発行体と事務

所の間に会計上の意見の不一致があることを開示したもの、

(H) 監視委員会あるいは SEC の規則が公共の利益あるいは投資家の保護のために必要または適

切なものとして指定するその他の情報。

(3) 同意書

本条の下での登録申請は以下を含むものとする:

(A) 監視委員会が本タイトルの下でのその権限と任務の遂行のために要求する証言あるいは資

料の提出に協力し、その要求に従うことについての、会計事務所によって作成された同意書(お

よび、その会計事務所の関係者の各人から、その継続的雇用あるいは事務所との他の継続的関係

の条件として、同様な同意を確保し、強制させることについての同意書)、および

(B) その事務所が、(A)項によって要求されている同意書 に記述された協力と順守、および監視

委員会の規則に従って、その関係者からそうした同意を確保し、強制することが監視委員会への

事務所登録の継続的有効性の条件となることを理解し、それに同意していることの言明。

(c) 申請に対する措置

(1) 時期

<<最終期限>> 監視委員会は完成された登録申請書については申請受付から 45 日以内に、その日

以前に登録候補者に対して監視委員会が書面で不承認の通知またはさらなる情報の請求を行わ

ない限り、監視委員会の規則に従って承認しなければならない。

(2) 処理

登録に対する(1)項の下での完成された申請書の書面による不承認の通知は、第 105 条(d)およ

び第 107 条(c)の趣旨からの懲戒的制裁として処理される。

(d) 定期的報告

各登録会計事務所は、監視委員会に年次報告書を提出しなければならない、また本条の下での登

録申請書に含まれる情報の更新に必要な時は、より頻繁に報告を求められる場合もある、また監

視委員会または SEC が(b)(2)項に従って指定する追加情報を監視委員会に提出するよう求める

場合もある。

[[ページ 116 STAT. 755]]

(e) 公衆の利用可能性

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105

本条によって要求される登録申請書および年次報告書、あるいは監視委員会の規則の下で指定さ

れる申請書または報告書の部分は、監視委員会または SEC の規則、およびそれらの申請書や報告

書に含まれる財産、個人、その他の情報の守秘性に関連する該当法の適用を条件として、公衆が

閲覧できるようにしなければならない、ただし、いかなる場合にも監視委員会は、当の会計事務

所によって独占情報として合理的に指定されている情報は一般開示から保護しなければならな

い。

(f) 登録手数料および年間手数料

監視委員会は、登録手数料および年間手数料を査定し、各登録会計事務所から徴収する、その額

は、申請書および年次報告書を処理し、検討する費用を回収するのに十分な額とする。

第 103 条 監査、品質管理、独立性の基準と規則 <<15 USC 7213.>>

(a) 監査、品質管理、倫理基準

(1) 一般規定

監視委員会は規定により、それが適切と判断する限りにおいて、(3)(A) 項に従って指名された

一つまたは複数の専門家グループ、あるいは(4)項に従って招集された顧問グループ によって提

案された基準の採択を通じて、本法あるいは SEC の規則によって要求されている、あるいは公共

の利益または投資家の保護のために必要あるいは適切と思われるところに従って、監査報告書の

作成・発行において登録会計事務所が使用すべき監査および関連の確証の基準、品質管理基準、

倫理基準を確立、改正あるいは修正、変更を行うものとする。

(2) 規則の要件

監視委員会は(1)項の遂行において、

(A) 採用する監査基準に、次の要件を入れなければならない:

各登録会計事務所は、

(i) 監査報告において達した結論を支えるのに十分なだけ詳細に監査調書を作成し、その調書お

よび監査報告に関連した情報を少なくとも 7 年の期間、保存しなければならない、

(ii) 監査報告に関しては同時のあるいは第二パートナーによる再検討(レビュー)と承認を、

またその発行に際しては同時の承認を、監査を担当した者以外で、その登録会計事務所に関係し

た適格の者(監視委員会によって定められる)によって、あるいは独立の再検討者(監視委員会

によって定められる)によって行わなければならない。

(iii) 各監査報告書には、第 404 条(b)によって要求されている発行体の内部統制構造につい

ての監査人のテストの範囲を記述しなければならない。また以下を(その報告書あるいは別の報

告書で)明らかにしなければならない:

[[ページ 116 STAT. 756]]

(I) そうしたテストからの監査人の観察の結果 、

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106

(II) 次に関する評価:

その内部統制構造および手順が、

(aa) 発行体の取引および資産の処分を合理的な詳細さをもって正確にまた公正に反映する記録

の維持を含んでいるか、

(bb) 一般に受け入れられている会計原則に従って財務諸表の作成を可能にするのに必要なもの

として取引が記録されること、また発行体の受け取りや支出が管理者および発行体の役員の許諾

に従ってのみ行われていることを合理的に保証するものであるか、

(III) 最低限、その内部統制構造における実質的な欠点およびそうしたテストに基づいて発見さ

れた重要な非順守についての記述。

(B) 監査報告書の発行に関して採用する品質基準には、以下に関連する、すべての登録会計事務

所に関する要件を入れなければならない:

(i) 職業倫理および事務所がそのために監査報告書を発行する、発行体からの独立性のモニタリ

ング、

(ii) 会計および監査の質問についての事務所内部での協議、

(iii) 監査業務の指導監督、

(iv) 人員の雇用、専門的能力開発、進歩

(v) 契約の受け入れと継続

(vi) 内部監視、および

(vii) 監視委員会が(a)(1)項に従って定める他の要件。

(3) その他の基準を採用する権限

(A) 一般規定

本条項の遂行において、監視委員会は、

(i) 第 107 条に従い、(1)項の要件を満たすと監視委員会が判断する監査基準や業務基準、ま

た監視委員会によって規定により、本項に従って、その目的のために指名され、認証される一つ

または複数の専門家グループ、あるいは(4)項に従って招集された顧問グループ によって提案さ

れた基準に関するいかなる部分についてもそれを規則として採用することができる、また

(ii) 前項 (i)にもかかわらず、前項 (i)で説明されたいかなる部分についても、その全体また

は一部を変更、補完、改訂あるいは後で改正、修正、廃止する完全な権限を保持するものとする。

(B) 当初および移行期の基準

監視委員会は、監視委員会が必要と判断する限りにおいて、(A)(i)項で説明された基準を、第

101 条(d)の下での SEC の決定に先立つ、当初ないし移行期の基準として採用する、またそれら

の基準は SEC により、他の場合であれば監視委員会の規則の承認に適用される第 107 条の要求す

る手続きとは関わりなく、その決定の時点で独立して承認されるものとする。

[[ページ 116 STAT. 757]]

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107

(4) 顧問グループ

監視委員会は、本条の下で確立を要求されている監査、品質管理、倫理、独立性、その他の基準

の内容に関する勧告(草案の提案を含む)を行うのに適切な専門家の顧問グループを招集する、

あるいはそのスタッフに招集する権限を与える。そのグループは現役の会計士や他の専門家、並

びに他の利益グループの代表を含むが、利益の衝突を防ぐために監視委員会が定める規則の下に

置かれる。

(b) 独立性の基準および規則

監視委員会は、本法のタイトルⅡを実施するため、あるいはその下で権限を与えられて、公共の

利益あるいは投資家の保護にとって必要または適切な規則を確立する。

(c) 指名された会計士の専門家グループおよび顧問グループとの協力

(1) 一般規定

監視委員会は、(a)(3)(A)項の下で指名された会計士の専門家グループおよび(a)(4)項の下で招

集された顧問グループと、(a)項の下でのその権限を条件として、継続的に協力して、基準の変

更の必要について検討する、また指名された会計士の専門家グループと顧問グループの検討課題

に含めるべき問題を提言する、また基準設定の過程の有効性を高めるために適切と思われるその

他の措置を講じるものとする。

(2) 監視委員会の応答

監視委員会は、監視委員会が権限を有する基準の変更に関して、(1)項で述べた指名会計士の専

門家グループと顧問グループからの要求に対して、時宜を得た仕方で応答を行うものとする。

(d) 基準設定過程の評価

監視委員会は、第 101 条(h)の要求する年次報告書に、その報告書が対象とする期間中の基準

設定任務の結果を入れるものとする。それには、(a)の(3)(A)項および(4)項で説明された指名

会計士の専門家グループと顧問グループと監視委員会の作業に関する協議内容、および将来の基

準設定計画のために審議中の議題が含まれる。

第 104 条 登録会計事務所の検査 <<15 USC 7214.>>

(a) 一般規定

監視委員会は、各登録会計事務所およびその関係者が、その監査の実施、監査報告書の発行およ

び発行体と関わる関連事柄との関係で、どの程度、本法、監視委員会の規則、SEC の規則、ある

いは業務基準を順守しているかを査定するための継続的検査プログラムを実施する。

(b) 検査の頻度

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108

(1) 一般規定

本条によって要求される検査は、(2)項を条件として、以下の通り実施される:

(A) 100 を超える発行体に関する監査報告書を定期的に出している各登録会計事務所に関しては

毎年、そして

[[ページ 116 STAT. 758]]

(B) 100 あるいはそれ以下の発行体に関する監査報告書を定期的に出している各登録会計事務

所に関しては少なくとも 3年に 1 回の頻度で行われる。

(2) スケジュールの調整

監視委員会は規定により、本法の目的、公共の利益、投資家の保護に別のスケジュールが適合す

る場合、(1)項の下で設定した検査スケジュールを調整することができる。監視委員会は、SEC

の請求あるいは自らの発議に基づいて、特別検査を実施することができる。

(c) 手続き

監視委員会は、本条の下での各検査において、検査に関するその規則に従って、以下を行うもの

とする:

(1) 検査によって本法、監視委員会の規則、SEC の規則、事務所自身の品質管理方針、あるいは

業務基準に違反していることが明らかになった、登録会計事務所による、あるいはその関係者に

よる行為、実務あるいは行為の懈怠を明確に特定する、

(2) 適切な場合、そうした行為、実務あるいは行為の懈怠を SEC および適切な州の監督当局に報

告する、および

(3)そうした違反に関して、本法および監視委員会の規則に従って、公式の調査を開始する、あ

るいは適切な場合、懲戒措置を行う。

(d) 検査の実施

本条の下での登録会計事務所の検査の実施において、監視委員会は、

(1) 選択された監査の検査、見直しを行い、その事務所の多様なオフィスで、また多様な関係者

によって遂行されている事務所の契約(進行中の訴訟の主題となっている監査契約、あるいは事

務所と一つあるいは複数の第三者の間の争点となっている監査契約を含む)について監視委員会

の選択で見直しを行う、また

(2) 事務所の品質管理システムの十全性、および事務所による書類作成およびそのシステムの通

信方式の評価を行う、

(3) 事務所の監査、指導監督、品質管理の手順に関して、検査の目的および監視委員会の責任に

照らして必要または適切と考えられるその他のテストを実施する。

(e) 記録の保存

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109

監視委員会の規則は検査のために、第 103 条あるいはその下に発せられる規則によっては要求さ

れていない、登録会計事務所による記録の保存を要求することができる。

(f) 見直しの手順

監視委員会の規則は、検査下にある登録会計事務所による、検査報告草案の見直しおよびそれに

対する回答に関する手順を規定する。監視委員会は、そうした回答に関して、監視委員会が適切

と考える措置を講じる(最終報告を出す前の報告草案の修正、あるいは検査活動の継続または補

完を含む)が、その回答文書は、会計事務所によって秘密として合理的に特定された情報を保護

するために適切に編集されて、検査報告書に添付され、その一部とされる。

(g) 報告書

本条の下での各検査に関する監視委員会の観察結果の書面による報告は、(h)項に従い、

[[ページ 116 STAT. 759]]

(1) 適切な詳細さをもって、SEC および適切な州の各監督当局に、監視委員会または検査官の書

簡またはコメント、および登録会計事務所からの回答書簡を添えて伝えられる、また

(2) 適切な詳細さをもって、公衆にとって入手可能な状態に置かれる(第 105 条(b)(5)(A)およ

び監視委員会が適切と判断する、あるいは法律によって要求される、秘密および独占情報の保護

を条件とする)、ただし、検査対象の事務所の品質管理システムの批判あるいはその潜在的欠陥

を扱った検査報告の部分は、その批判あるいは欠陥がその事務所によって、検査報告の日から

12 ヵ月以内に監視委員会の満足のいく程度に対処された場合、公表されない。

(h) SEC の暫定見直し

(1) 見直し可能な事項

登録会計事務所は、SEC が公布する規則に従って、以下の場合、SEC による見直しを求めること

ができる:事務所が、

(A) 監視委員会によって(f)項の下で出された規則に従って、検査報告草案における特定項目

の実質的内容に回答しており、その回答後、監視委員会によって作成された最終報告に含まれる

査定に同意しない場合、あるいは

(B) (g)(2)項の趣旨から、検査報告書で指摘された批判あるいは欠陥が検査報告書の日から

12 ヵ月以内に監視委員会の満足のいく程度に対処されていないという監視委員会の決定に同意

しない場合。

(2) 見直しの処理

(1)項の下での見直しに関する SEC のいかなる決定も、1934 年証券取引法第 25 条(15 U.S.C.

78y)の下での見直し可能なものとはされない、また米国連邦法規類集タイトル 5の第 704 条の意

味での「最終的機関措置」であるとは見なされない。

(3) 時期

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(1)項の下での見直しは、(1)項の(A)または(B)の下での見直し要求事由の日から 30 日

の間に求めることができる。

第 105 条 <<注: 15 USC 7215.>> 調査と懲戒手続き

(a) 一般規定

<<制度>> 監視委員会は規定通り、本条の要件に従い、登録会計事務所およびその関係者の調査

と懲戒に関する公正な手続きを確立しなければならない。

(b) 調査

(1) 権限

監視委員会の規則に従って、監視委員会は、本法の規定、監視委員会の規則、監査報告の作成と

発行およびそれに関する会計士の義務と責任に関連する、本法の下で発せられる SEC の規則を含

む証券諸法の規定、あるいは業務基準に違反している可能性のある、登録会計事務所、その関係

者、あるいはその双方による行為、実務あるいは行為の懈怠を調査することができる、これはそ

れらの行為、実務あるいは行為の懈怠がいかにして監視委員会の関心の対象となったかを問わな

い。

[[ページ 116 STAT. 760]]

(2) 証言および資料の提出

監視委員会が必要あるいは適切と判断する他の措置に加え、監視委員会の規則により、

(A)事柄に関して、その事務所の証言あるいはいずれかの登録会計事務所の関係者の証言を求め

ることができる、

(B) 監視委員会が調査に関連する、あるいは重要であると考える監査調書、および登録会計事務

所またはその関係者の保有する他の資料あるいは情報の提出を、それらの本拠地がどこであれ、

請求することができる、また供給された資料あるいは情報の正確性を検証するためにそれらの事

務所あるいは関係者の帳簿および記録を検査することができる、

(C) 監視委員会が本条の下での調査に関連する、あるいは重要であると考える、登録会計事務所

の顧客を含む他の人の証言、およびその人の保有する資料について、適切な通知を行い、調査の

必要を条件として、監視委員会の規則の下で許される範囲で、その提出を請求することができる、

また

(D) 監視委員会が本条の下での調査に関連する、あるいは重要であると考える、登録会計事務所

の顧客を含む何人かの証言およびその保有する資料の提出を要求する召喚状の、SEC の確立した

方式での SEC による発行を求めるための手続きを定めることができる。

(3) 調査への非協力

(A) 一般規定

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111

登録会計事務所あるいはその関係者が、本条の下での調査に関して、証言、資料の提出、その他

監視委員会への協力を拒否する場合、監視委員会は 、

(i) その者が登録会計事務所と関係することを停止あるいは禁止する、あるいは登録会計事務所

にそうした関係を終了するよう要求することができる、

(ii) その会計事務所の登録を停止あるいは取り消すことができる、また

(iii) それらよりも軽い制裁で、監視委員会が適切と考え、また監視委員会の規則によって明記

されている制裁を課すことができる。

(B) 手続き

本項の下、監視委員会によって取られる措置は、第 107 条(c)の条件に従うものとする。

(4) 調査の調整と委託

(A) 調整

<<通知>> 監視委員会は、証券諸法の潜在的な違反に関わる考慮中の監視委員会調査について

SEC に通知し、その後、進行中の SEC の調査を保護する必要がある場合、その活動を SEC 監視部

(enforcement division)の活動と調整する。

(B) 委託

監視委員会は、本条の下での調査を以下に委託することができる:

(i) SEC、

[[ページ 116 STAT. 761]]

(ii) 他の連邦機能別監督当局(金融制度改革法(15 U.S.C. 6809)の第 509 条で定義):その当

局の管轄に服す機関の監査報告に関わる調査の場合、および

(iii) SEC の裁量に基づき、以下へ

(I) 司法長官、

(II) 一つあるいは複数の州の検事総長、および

(III) 適切な州の監督当局。

(5) 資料の使用

(A) 秘密性

(B)項で規定されている場合を除いて、監視委員会によって受理された、あるいは特別に監視

委員会のために作成されたすべての資料および情報、および第 104 条の下での検査あるいは本条

の下での調査に関係する監視委員会とその従業員および代理人の審議内容は、連邦あるいは州の

裁判所または行政機関におけるいかなる手続きにおいても、秘密とし、また証拠物としての特権

的扱いを受けるものとする(また民事情報開示あるいは他の法的プロセスの対象とならない)、

また別途、公的訴訟手続きとの関連で提出される、あるいは(c)項に従って開示されるのでない

限り、またそれまでは、連邦政府の機関あるいは組織の手元におかれ、情報公開法(5 U.S.C. 552a)

の下での開示を免除される。

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(B) 政府機関の利用可能性

監視委員会の手元で秘密とされるまた特権的扱いを受けるというその身分を失うことなく、(A)

項で言及されたすべての情報は、

(i) SEC が利用可能にする、また

(ii) 監視委員会の裁量において、監視委員会が本条の目的を達成する、あるいは投資家を保護

するのに必要であると判断する場合、以下が利用できるようにすることができる:

(I) 司法長官、

(II) SEC 以外の適切な連邦機能別監督当局(金融制度改革法(15 U.S.C. 6809)の第 509 条で定

義):その当局の管轄に服す機関の監査報告に関わる調査の場合、

(III) 州の検事総長、刑事調査と関連する場合、および

(IV) 適切な州の監督当局、それらのいずれも情報を秘密とし、特権的なものとしての扱いを維

持しなければならない。

(6) 免責

本条の下、調査の遂行に従事する監視委員会の従業員は、類似の状況における連邦政府の従業員

と同様に、また同じ程度に、そうした調査から生じる民事責任については免責されるものとする。

(c) 懲戒手続き

(1) 通知:記録

監視委員会の規則は、登録会計事務所あるいはその関係者を懲戒すべきかどうかを決定する監視

委員会による手続きにおいて、監視委員会が、

[[ページ 116 STAT. 762]]

(A) その事務所あるいは関係者に関して具体的な問責内容を取りまとめ、

(B) その事務所あるいは関係者にその問責内容について通知し、それに対して抗弁する機会を与

える、また

(C) その手続きの記録を保管するものと規定する。

(2) 公聴会

本条の下での聴聞は、監視委員会が別途正当な理由を示して命令し、当事者の同意を得ていない

限り、公開とはされない。

(3) 根拠陳述書

本条の下、制裁を科すという監視委員会の決定は、以下を記載した陳述書によって根拠づけられ

なければならない:

(A) 登録会計事務所あるいは関係者が従事した(または従事することを怠った)、あるいはその

制裁の全体または一部の根拠を形成する各行為あるいは実務、

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(B) 監視委員会がその違反にあたると判断した本法、証券諸法、職業基準の具体的条項、

(C) 科せられる制裁、その制裁の正当化理由を含む。

(4) 制裁

監視委員会がすべての事実および状況に基づいて、登録会計事務所あるいはその関係者は本法、

監視委員会規則、および本法の下で発せられる SEC 規則あるいは業務規準を含む監査報告書の作

成・発行に関連する証券諸法の規定、あるいはそれに関する会計士の義務と責任に違反する何ら

かの行為、実務または行為の懈怠に従事していると判断する場合、監視委員会は(5)項の該当

する制限を条件として、適切と考える懲戒的制裁または是正的制裁を科すことができる、それに

は以下が含まれる:

(A) 本タイトルの下での登録の一時的停止あるいは恒久的取り消し、

(B) ある人のいずれかの登録会計事務所とのさらなる関係の一時的または恒久的停止あるいは

禁止、

(C) そうした事務所あるいは人の活動、機能、業務(必要的追加職業教育・訓練に関連する場合

以外)の一時的または恒久的制限、

(D) 各違反についての次に相当する額の民事罰金、

(i) 自然人に関しては 10 万ドル 以下、その他の者に関しては 200 万ドル以下、また

(ii) (5)項が適用される場合、自然人に関しては 75 万ドル 以下、その他の者に関しては 1,500

万ドル以下、

(E) 譴責、

(F) 必要的追加職業教育・訓練、あるいは

(G) 監視委員会規則に規定された他の適切な制裁。

[[ページ 116 STAT. 763]]

(5) 意図的行為あるいは他の故意の行為

(4)項の(A)から(C)までと(D)(ii)は、次の場合にのみ適用される:

(A) 適用される制定法上、規制上、業務上の基準の違反につながる、無謀行為を含めた意図的行

為あるいは故意の行為、あるいは

(B) 反復的過失行為、それぞれが適用される制定法上、規制上、業務上の基準の違反につながる

場合。

(6) 指導監督の不履行

(A) 一般規定

監視委員会は本条の下、以下を確認した場合、登録会計事務所あるいはその事務所の指導監督ス

タッフに対して制裁を科すことができる:

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(i) その事務所が関係者に対して、登録会計事務所あるいはその関係者は本法、監視委員会規

則、および本法の下で発せられる SEC 規則あるいは業務規準を含む監査報告書の作成・発行に関

連する証券諸法の規定、あるいはそれに関する会計士の義務と責任の違反を防止する目的で、監

査または品質管理に関する監視委員会規則によって要求されている通りに、あるいはその他の仕

方で合理的に指導監督することを行わなかった、また

(ii) その関係者が本法またはそれらの規則、法律、あるいは基準の違反を犯している。

(B) 解釈の規則

登録会計事務所のいかなる関係者も、以下の場合、(A)項の趣旨において、他の者を合理的に

指導監督することを行わなかったとは見なされない:

(i) その事務所内に、またその事務所のために、適用される監視委員会規則を順守する手順お

よびその手順を適用するためのシステムが確立されており、その手順は関係者によるそうした違

反を防止し、それを探知するものと合理的に期待されるものである、また

(ii) その者は、そうした手順およびシステムによってその者に課せられている責任および義

務を合理的に果たしており、そうした手順やシステムが順守されないと信ずべき合理的な理由を

有しなかった。

(7) 停止の効果

(A) 会計事務所との関係

本条の下、登録会計事務所の関係者であることを停止あるいは禁止された者が故意にいずれかの

登録会計事務所の関係者になること、あるいは引き続き関係者であることは違法となる、また、

そうした停止あるいは禁止について知っていた、あるいは合理的な注意を働かせれば、分かるは

ずの登録会計事務所が、監視委員会または SEC の同意なく、そうした関係を許容することは違法

となる。

(B) 発行体との関係

本条の下、発行体の関係者であることを停止あるいは禁止された者が故意に、会計あるいは財務

管理能力において、いずれかの発行体の関係者になること、あるいは引き続き関係者であること

は違法となる、またそうした停止あるいは禁止について知っていた、あるいは合理的な注意を働

かせれば、分かるはずの発行体が、監視委員会または SEC の同意なく、そうした関係を許容する

ことは違法となる。

[[ページ 116 STAT. 764]]

(d) 制裁の報告

(1) 受取人

監視委員会が本条に従って制裁を行う場合、監視委員会は以下にその制裁の報告を行うものとす

る:

(A) SEC

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115

(B) そうした事務所あるいは人がライセンスあるいは認証を受けている適切な州の監督当局あ

るいは外国人会計ライセンス委員会、

(C) 公衆(制裁実施猶予が取り消された時点で)

(2) 内容

(1)項で報告される情報は以下を含むものとする:

(A) 制裁を受ける者の名前

(B) 制裁とそれを科す根拠の説明

(C)監視委員会が適切と考えるその他の情報

(e) 制裁猶予

(1) 一般規定

監視委員会の制裁措置の見直しを求めての SEC への申請、あるいは SEC による見直しの開始は、

その制裁措置の実施猶予として機能し、SEC がその猶予の機能は継続しないことを公布(略式で、

あるいは猶予の問題に関する聴聞の通知とその機会の後に行われ、その聴聞は宣誓供述書の提出

あるいは口頭弁論の提示のみで構成される場合もある)しない限り、またそれまでは続くものと

する。

(2) 迅速な手続き

SEC は、適切な場合、本条の下での監視委員会の懲戒措置の見直し中の猶予期間に関する問題の

審議と決定に関して迅速な手続きを確立する。

第 106 条 外国の会計事務所 <<15 USC 7216.>>

(a) 一定の外国の会計事務所への適用可能性

(1) 一般規定

何らかの発行体に関する監査報告書を作成または供給する外国の会計事務所は、米国あるいは州

の法律の下に設立され、活動する会計事務所と同様に、また同じ程度に、本法、および本法の下

で発せられる監視委員会規則、SEC 規則に従うものとする。ただし、第 102 条による登録は、そ

れ自体で、外国の会計事務所が、その事務所と監視委員会との争いに関するもの以外、連邦ある

いは州の裁判所の管轄の下に置かれることの根拠となるものではない。

(2) 監視委員会の権限

監視委員会は、規定により、監査報告書を発行しない外国の会計事務所(またはそうした事務所

の部類)がそれにも関わらず、特定の発行体に関するそうした報告書の作成、供給に重要な役割

を果たしていることを確認し、本法の趣旨および公共の利益、投資家の保護に照らして、そうし

た事務所(または事務所の部類)は、本タイトルの下での登録および本タイトルに従った監視委

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116

員会による監視の対象としての(公的)会計事務所として扱うべきであると決定することができ

る。

[[ページ 116 STAT. 765]]

(b) 監査調書(audit workpaper)の提出

(1) 外国の事務所による同意

外国の会計事務所が登録会計事務所のために意見を出し、あるいは他の仕方で重要なサービスを

行い、それに依拠して、登録会計事務所が監査報告の全部あるいは一部、あるいは監査報告書に

含まれる意見を発表する場合、その外国の会計事務所は以下に同意したものと見なされる:

(A) その監査報告書に関する監視委員会または SEC の調査の関連で、それらの機関のために監

査調書を提出すること、

(B) そうした調書の提出要求の執行に関して米国の裁判所の管轄に服すこと。

(2) 国内事務所による同意

(1)項で述べたように外国の会計事務所の意見に依拠する登録会計事務所は、以下と見なされる:

(A) 監視委員会あるいは SEC の提出要求に応えてその外国の会計事務所の監査調書を供給する

ことに同意している、また

(B) その外国の会計事務所の意見に依拠する際の条件として、そうした提出に対する外国の事務

所の同意を確保している。

(c) 免除権限

SEC、および SEC の同意を条件として監視委員会は、規定、規則あるいは命令により、また SEC

(あるいは監視委員会)が公共の利益あるいは投資家の保護のために必要または適切と決定する

場合、無条件に、あるいは特定の条項および条件に基づいて、外国の会計事務所あるいはそうし

た事務所の部類を、本法の条項、あるいは本法の下で発せられた監視委員会または SEC の規則か

ら除外することができる。

(d) 定義

本条において、「外国の会計事務所」とは、外国政府あるいはその政治的下位区分の法律の下に

設立され、活動している会計事務所を意味する。

第 107 条 SEC による監視委員会の監視 <<15 USC 7217.>>

(a) 一般的監視責任

SEC は、本法に規定されている通り、監視委員会に対して監視および取締りの権限を有する。1934

年証券取引法の第17条(a)(1) (15 U.S.C. 78q(a)(1))および1934年証券取引法の第17条(b)(1)

(15 U.S.C. 78q(b)(1))の規定は、あたかも監視委員会がそれらの条項、第 17 条(a)(1)および第

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117

17 条(b)(1) の趣旨から、「登録済み証券業協会」であるかのごとく、完全に監視委員会に適用

される

(b) 監視委員会の規則

(1) 定義

本条において、「規則案」という用語は、監視委員会の規則案およびその規則の変更案を意味す

る。

(2) 事前承認の必要

監視委員会のいかなる規則も、当初あるいは移行期の基準に関する第 103 条(a)(3)(B)で規定さ

れたもの以外、本条に従って SEC の事前承認なしでは有効とはならない。

[[ページ 116 STAT. 766]]

(3) 承認規準

SEC は、規則案が本法および証券諸法と整合している、あるいは公共の利益または投資家の保護

のために必要または適切であると判断した場合、その規則案を承認する。

(4) 規則案の処置

1934 年証券取引法の第 19 条(b) (15 U.S.C. 78s(b))の(1)から(3)までの各項の規定は、そ

の第 19 条(b)の趣旨から、監視委員会があたかも 「登録済み証券業協会」であるかのごとく、

完全に監視委員会の規則案を支配する、ただし、この項の趣旨から、

(A) その法の第 19 条(b)(2)における「 本タイトル、およびその下でそうした組織に適用され

るルールや規則の要件と整合している」という語句は、「2002 年サーベンス・オクスレー法の

タイトルⅠおよびその下で、あるいは公共の利益または投資家の保護のために必要または適切な

ものとして発せられ、そうした組織に適用されるルールや規則と整合している」ことを意味する

ものと見なされる、また

(B) その法の第 19 条(b)(3)(C)における「 その他、本タイトルの目的の推進のために」とい

う語句は、「その他、2002 年サーベンス・オクスレー法のタイトルⅠの目的の推進のため」を

意味するものと見なされる。

(5) 監視委員会の規則を修正する SEC の権限

1934 年証券取引法の第 19 条(c) (15 U.S.C. 78s(c))の規定は、その第 19 条(c)の趣旨から、

監視委員会があたかも 「登録済み証券業協会」であるかのごとく、完全に SEC による監視委員

会規則の部分の廃止、削除、また追加を支配する、ただし、その法の第 19 条(c)における「本タ

イトル、およびその下でそうした組織に適用されるルールや規則の要件にその規則を適合させる

ために、あるいはその他、本タイトルの目的の推進のために」という語句は、本項の趣旨から、

「公開企業会計監視委員会の公正な管理を確保し、その監視委員会によって公布される規則を

2002 年サーベンス・オクスレー法のタイトルⅠの要件に適合させるために、あるいはその他、

その法、証券諸法、およびその下で監視委員会に適用されるルールや規則の目的を推進するため」

を意味するものと見なされる。

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118

(c) 監視委員会によって取られた懲戒措置の SEC による見直し

(1) 制裁の通知

監視委員会は、登録会計事務所またはその関係者に対しての最終的制裁について、SEC が規定に

より、指定する形式および情報を備えた通知を迅速に SEC に提出しなければならない。

(2) 制裁の見直し

1934 年証券取引法の第 19 条(d)(2) および第 19 条(e)(1) (15 U.S.C. 78s (d)(2) および

(e)(1)) の規定は、第 19 条(d)(1) および第 19 条(e)(1)の趣旨から、あたかも監視委員会が自

主規制組織であるかのごとく、また SEC がそうした組織の適切な監督機関であるかのごとく、監

視委員会によって科せられた最終的懲戒制裁(監視委員会の調査への非協力の故に、本法第 105

条(b)(3)の下で科される制裁を含む)に関する SEC による見直しを完全に支配する、ただし、本

項の趣旨から、

[[ページ 116 STAT. 767]]

(A) 監視委員会の懲戒措置の見直しを求める申請、あるいは SEC の発意による見直しの開始がど

の程度、そうした措置の実施猶予として機能するかに関しては、本法の第 105 条(e) (証券取引

法第 19 条(d)(2)ではなく)が支配する、

(B) その第 19 条(e)(1) における、そうした組織の「メンバー」への言及は登録会計事務所への

言及と見なされる、

(C) その第 19 条(e)(1)における「本タイトルの目的に適合する」という語句は、「本タイトル

および 2002 年サーベンス・オクスレー法のタイトルⅠの目的に適合する」を意味するものと見

なされる、

(D) その第 19 条(e)(1)における地方債規則制定委員会の規則への言及は適用されない、また

(E) 1934 年証券取引法 19 条(e)(2)への言及はそれに代わり、本法の第 107 条(c)(3)への言及と

される。

(3) SEC の変更権限

SEC は、登録会計事務所あるいはその関係者に対して監視委員会が科した制裁について、SEC が

公共の利益および投資家の保護を十分考慮して、本条に従った手続きの後、制裁が以下であると

判断した場合、その制裁の強化、変更、取り消し、緩和を行う、あるいは免除を請求することが

できる:

(A) その制裁は、本法あるいは証券諸法の目的の推進に必要でも適切でもない、あるいは

(B) その制裁は、制裁の根拠となっている認定事実あるいは基礎事実に対して、過剰、苛酷ある

いは不十分、その他の意味で適切でない。

(d) 監視委員会の譴責:他の制裁

(1) 監視委員会の権限の取り消し

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SEC は規定により、公共の利益、投資家の保護、その他、本法および証券諸法の目的に鑑み、本

法、証券諸法、監視委員会規則あるいは業務規準の規定の順守を強制させる任務から監視委員会

を解任することができる。

(2) 監視委員会の譴責:制限

SEC は命令により、記録に基づき、通知と聴聞の機会の後、監視委員会が以下であると確認した

場合、公共の利益、投資家の保護、その他、本法および証券諸法の目的に必要あるいは適切と判

断される譴責と制限を、監視委員会の活動、機能、業務に加えることができる:

(A)本法、監視委員会規則あるいは証券諸法の規定に違反している、またはそれらを順守するこ

とができない、あるいは

(B) 監視委員会は、合理的な理由あるいは弁明事由もなく、登録会計事務所またはその関係者に、

それらの規定、規則、業務規準を順守させることを行わなかった。

(3) 監視委員会メンバーの譴責:解任

SEC は、記録に基づき、通知と聴聞の機会の後、監視委員会のメンバーが以下であると確認した

場合、公共の利益、投資家の保護、その他、本法および証券諸法の目的に必要あるいは適切なも

のとして、そのメンバーを解任する、あるいは譴責することができる:

[[ページ 116 STAT. 768]]

(A) 故意に本法、監視委員会規則、あるいは証券諸法の規定に違反した、

(B) メンバーとしての権限を故意に濫用した、あるいは

(C) 合理的な理由あるいは弁明事由もなく、登録会計事務所またはその関係者に、それらの規定、

規則、業務規準を順守させることを行わなかった。

第 108 条 会計 基準 <<15 USC 7218.>>

(a) 1933 年証券法の改正

1933 年証券法の第 19 条(15 U.S.C. 77s)は以下の通り改正される:

(1) (c)項および(d)項をそれぞれ、(b)項、(c)項とする、また

(2) (a)項の後に以下を挿入する:

「(b) 会計基準の承認

(1) 一般規定

SEC は、(a)項および 1934 年証券取引法の第 13 条(b)の下におけるその権限の行使において、

以下の基準設定機関によって確立された会計原則を証券法においては『一般に受け入れられた』

ものとして承認する:

(A):それは

(i) 民間の主体によって組織されており、

(ii) 管理および運営上の目的から、公的利益に使える理事会(R&D、それに相当する機関)を有

しており、その過半数がその任期と同じ時期に、またその任期に先立つ 2 年間の間にいかなる登

録会計事務所の関係者でもなく、

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(iii) 2002 年サーベンス・オクスレー法の第 109 条の規定通り、資金供給されており、

(iv) そのメンバーの過半数の票決により、新たに登場する会計の問題および変化するビジネス

の実務を反映するのに必要な会計原則の変更を迅速に考慮できるシステムを採用している、また

(v) 会計原則の採用において、ビジネス環境の変化に対応するために基準を最新のものにしてお

く必要を考慮し、国際的な上質の会計基準に合わせ、公共の利益および投資家の保護に必要また

は適切なものとすることを考慮している、そして、その機関について、

(B) その基準設定機関は、少なくとも財務報告の正確性と有効性を改善し、証券諸法の下での投

資家の保護を改善することができるので、SEC が(a)項および 1934 年証券取引法の第 13 条(b)

の要件を達成するのを支援する能力を有していると SEC が判断している。

[[ページ 116 STAT. 769]]

(2) 年次報告書

(1)項で説明された基準設定機関は、SEC および公衆に対して、その基準設定機関の監査済み財

務諸表を提出するものとする。」

(b) SEC の権限

<<規則>>

SEC は、本条によって追加された 1933 年証券法の第 19 条(b)を遂行するため、公共の利益ある

いは投資家の保護のために必要または適切と考えるルールおよび規則を公布する。

(c) SEC の権限の無効

本条および本条による改正を含め、本法のいかなる規定も、SEC が証券諸法の執行のために会計

原則あるいは会計基準を設定する権限を損なう、あるいは制限するものと解釈されてはならない。

(d) 原則に基づく会計に関する調査と報告

(1) 調査

(A) 一般規定

SEC は、原則に基づく会計制度の米国財務報告システムによる採用に関する調査を実施する。

(B) 調査項目

(A)項の要求する調査は、以下に関する調査を含む:

(i) どの程度、原則に基づく会計および財務報告が米国に存在するか、

(ii) 規則ベースから原則に基づく財務報告システムへの変更に必要な時間の長さ、

(iii) 原則に基づくシステムの実行可能性と提案されているその実施方法、および

(iv) 原則に基づくシステム実施に関する徹底した経済分析

(2) 報告

本法の成立日から 1 年以内に、SEC は(1)項の要求する調査の結果に関する報告を上院銀行住宅

都市委員会および下院金融サービス委員会に提出する。

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第 109 条 資金供給 <<15 USC 7219.>>

(a) 一般規定

監視委員会、および第 108 条によって改正された 1933 年証券法第 19 条(b)に従って指定された

基準設定機関は、本条の規定に従って資金供給される。

(b) 年間予算

監視委員会および(a)項で言及された基準設定機関はそれぞれ、各会計年度に関して、予算を確

立する。その予算は、それが関係する会計年度の開始の少なくとも 1 ヵ月前までにそれぞれの内

部手続きに従って見直され、承認される(あるいは監視委員会の最初の会計年度の開始時、これ

は短い会計年度になる可能性もある)。監視委員会の予算は、SEC による承認の対象となる。監

視委員会の最初の会計年度予算は、監視委員会が第 101 条(d)によって予想されている組織的任

務を実行できるようにするため、最初の監視委員会メンバー5 人の指名に続いて迅速に作成され、

承認される。

(c) 資金の源泉と用途

[[ページ 116 STAT. 770]]

(1) 回収可能予算支出

監視委員会の予算(予算計算の対象となる年の前年に関して、第 102 条(e)の下で受領される

登録料あるいは年間手数料の分だけ減額される)および(a)項で言及された基準設定機関の予算

はすべて、その 2 機関のそれぞれの各会計年度に関して、(d)項および(e)項に従って、年間会計

支援料(accounting support fee)から支払われるものとする。会計支援料および監視委員会や

基準設定機関の他の受取金は、米国の公金とは見なされない。

(2) 罰金徴収による資金

予め歳出予算法において利用可能になることを条件として、(i)項の規定にかかわらず、罰金

査定の結果として監視委員会によって徴収されたすべての資金は、認定された会計学位コースに

登録している大学生および大学院生のための優秀奨学金プログラムの資金にするために使われ

る。このプログラムは監視委員会あるいはそれによって指定された主体または代理人によって管

理される予定である。

(d) 監視委員会の年間会計支援料

(1) 料金の設定

監視委員会は、SEC の承認を得て、監視委員会を設立し、維持するのに必要あるいは適切なもの

として、合理的な年間会計支援料(あるいはその計算式)を設定する。その支援料によって、監

視委員会の最初の会計年度(短い会計年度になる可能性がある)に発生する費用もカバーされる、

あるいはその短い会計年度に関しては別に料金が課せられるかもしれない。

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(2) 査定

(1)項の下での監視委員会の規則は、(1)項の下で設定された支援料の監視委員会(あるいは監視

委員会によって指名された代理人)による発行体間での公正な割当、査定、徴収について、(g)

項に従って規定するが、発行体の部類間で適切な差別化を許すものとする。

(e) 基準設定機関の年間会計支援料

(a)項で言及されている基準設定機関の年間会計支援料は、

(1) SEC による見直しの対象となるが、基準設定機関の予算および費用を賄い、その機関の独立

した安定的な資金の源泉を確保するのに必要あるいは適切なものとして、(g)項に従って各発

行体に対して割り当てられ、1 人あるいは複数の指名された徴収代理人によって、基準設定機関

に代わって、査定され、徴収される、また

(2) 発行体のクラスの違いによって差別化することもできる。

(f) 料金の制限

本条の下、事情に応じ、監視委員会あるいは基準設定機関のために 1 会計年度に徴収される料金

の額は、(c)(1)項で言及された監視委員会あるいは機関のそれぞれの回収可能予算支出(経常項

目、資本的項目、見越し項目を含む)を超えないものとする。

(g) 発行体間での会計支援料の割当

監視委員会あるいは(a)項で言及されている基準設定機関の予算の資金とするために本条の下、

発行体(あるいは特定の発行体の部類)に課される手数料は、総額に以下の分数を掛けた額で、

各発行体(あるいは適用可能な場合、特定の部類の各発行体)に割り当てられ、それらによって

支払われるものとする:

[[ページ 116 STAT. 771]]

(1) その分子は、予算が関わる会計年度開始直前の 12 ヵ月間の、その発行体の平均月間株式市

場資本合計である、また

(2) その分母は、その 12 ヵ月間の、それらの発行体全体の平均月間株式市場資本合計である。

(h) 整合改正(conforming amendments)

1934 年証券取引法第 13 条(b)(2) (15 U.S.C. 78m(b)(2)) )は、以下の通り改正される:

(1) (A)項の最後の「および」を削除する、また

(2) (B)項の最後のピリオドを削除し、次を挿入する:

「、および

(C)法律の他の規定にかかわらず、2002 年サーベンス・オクスレー法第 109 条に従って決定さ

れた合理的な年間会計支援料のその発行体の割当分を支払う」

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(i) 解釈規則

本条のいかなる規定も監視委員会または(a)項で言及されている基準設定機関を、あるいはその

双方を、公的資金を承認、配分する議会の手続きの下におき、そうした機関が、発行物販売から

の収益など、その活動のために追加収入源を活用するのを妨げるものと解釈されてはならない、

ただし、各追加収入源は、SEC の判断において、そうした機関の現実および外見上の独立性を危

うくするものであってはならない。

(j) 監視委員会の立ち上げ費用

財務長官は、監視委員会の最初の会計年度(短い会計年度になる可能性がある)の支出をまかな

うのに必要な額を超えない額を、2003 会計年度の SEC 割当分の消費されていない残額から、監

視委員会に前渡しする権限を与えられる。

タイトル II—監査人の独立性

第 201 条 監査人の実務の範囲外のサービス

(a) 禁止される活動

1934 年証券取引法第 10 条 A(15 U.S.C. 78j-1)は、その最後に以下を追加して改正される。

「(g) 禁止される活動

(h)項に規定される場合を除いて、本タイトルまたは本タイトルの下での SEC の規則、あるい

は 2002 年サーベンス・オクスレー法第 101 条の下に設立される公開企業会計監視委員会(本条

では「監視委員会」と呼ばれる)の活動開始の日から 180 日以降、監視委員会規則によって要求

される監査を発行体のために行う登録会計事務所(および SEC が適切と判断する限りにおいて、

その事務所の関係者)が、その発行体に監査と同時に、以下を含む監査以外のサービスを供給す

ることは違法となる:

(1) その監査の顧客の会計記録あるいは財務諸表に関連した簿記あるいは他のサービス、

(2) 財務情報システムの設計および実行、

[[ページ 116 STAT. 772]]

(3) 査定あるいは評価のサービス、フェアネス・オピニオン、あるいは現物出資報告、

(4) 保険数理サービス

(5) 内部監査外注サービス

(6) 管理機能あるいは人材業務

(7) ブローカーあるいはディーラー、投資アドバイザー、あるいは投資バンキング・サービス

(8) 法務サービスおよび監査に関連しない専門サービス、および

(9) 監視委員会が規則により、許されないと決定する他のサービス。

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(h) 非監査サービスに必要な事前承認

登録会計事務所は、監査顧客のために税務サービスを含め、(g)項の(1)から(9)までに明記され

ていない非監査サービスに従事することができるが、それは、前もって発行体の監査委員会によ

って承認され、(i)項に従っている場合のみである」。

(b)除外権限 <<15 USC 7231.>>

監視委員会は、ケース・バイ・ケースで、1934 年証券取引法第 10 条 A(本条によって付加された

もの)の下でのサービス供給に関する禁止から何らかの人、会計事務所、あるいは取引を除外す

ることができる、ただし、それはそうした除外が公共の利益にとって必要または適切であり、投

資家の保護と一致している限りにおいてであり、また第 107 条の下での監視委員会規則の場合と

同様に SEC による見直しの対象とされる。

第 202 条 事前承認の要件

本法によって改正された 1934 年証券取引法第 10 条 A(15 U.S.C. 78j-1)は、最後に以下を付け

加えることによって改正される:

「(i) 事前承認の要件

(1) 一般規定

(A) 監査委員会の措置

(B)項に規定されるもの以外のすべての監査サービス(これは証券の引き受けや州法上、保険

会社に要求される法定監査に関連してのコンフォート・レターの供給を含む)および非監査サー

ビスは、発行体の監査委員会によって事前承認を得るものとする。

(B) 些事の除外

(A)項の下での事前承認の要件は、以下の場合、発行体のための非監査サービスの供給に関して、

適用されない:

(i) 発行体に供給されるそうした非監査サービスの総額が、その非監査サービスが供給される会

計年度中にその監査人に対して発行者によって支払われる総額の 5%以下であり、

(ii) そのサービスが発行体によって契約時、非監査サービスであると認識されていなかった、

そして

(iii) そのサービスが迅速に発行体の監査委員会の注意の下にもたらされ、監査委員会、あるい

は取締役会のメンバーでもあり、監査委員会によって承認権限を委任されている 1 人あるいは複

数の監査委員会メンバーによって、監査完了前に承認を得ている場合。

[[ページ 116 STAT. 773]]

(2) 投資家への開示

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発行体の監査人によってなされる非監査サービスについての、本条の下での発行体の監査委員会

による承認は、第 13 条(a)によって要求されている定期報告において投資家に開示されなけれ

ばならない。

(3) 委任の権限

発行体の監査委員会は、取締役会の独立取締役(independent directors)である監査委員会の

1 人ないし複数を指名して、本条の要求する事前承認を与える権限をそれに委任することができ

る。 本条の下での活動を事前承認する権限を本項の下で委任されているメンバーの意思決定は、

予定されている監査委員会の各会議において監査委員会全体に明らかにされなければならない。

(4) 他の目的での監査サービスの承認

(m)(2)項の下でのその任務の遂行において、発行体の監査委員会が監査人の契約の範囲内の監査

サービスを承認する場合、そうした監査サービスは本条の趣旨で承認されているものと見なされ

る」。

第 203 条 監査パートナーの交代

本法によって改正された 1934 年証券取引法第 10 条 A(15 U.S.C. 78j-1)は、最後に以下を付け

加えることによって改正される:

「(j) 監査パートナーの交代

その登録会計事務所が発行体に監査サービスを供給し、その主(あるいは調整役の)監査パート

ナー(監査に主たる責任を負う)、あるいは監査見直しを担当する監査パートナーがその発行体

のそれまでの 5 会計年度について毎回、その発行体のために監査サービスを行っている場合、そ

の監査サービスの供給は違法となる」。

第 204 条 監査委員会への監査人の報告

本法によって改正された 1934 年証券取引法第 10 条 A(15 U.S.C. 78j-1)は、最後に以下を付け

加えることによって改正される:

「(k) 監査委員会への監査人の報告

発行体のために本タイトルによって要求されている監査を行各登録会計事務所は、適切な時期に

発行体の監査委員会に以下を報告しなければならない:

(1) 使用されるすべての重要な会計方針および実施方式、

(2) 発行体の経営幹部と論議されていた、一般に受け入れられている会計原則内での財務情報の

すべての代替的処理方法、そうした代替的な開示と処理方法の使用の派生的結果および登録会計

事務所が優先する処理方法、および

(3) 登録会計事務所と発行体の経営陣の間の、未調整の差異についての経営書簡や別表などの重

要な通信書面」。

第 205 条 整合改正

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126

(a) 定義

1934 年証券取引法第 3 条(a)(15 U.S.C. 78c(a))は、最後に以下を付け加えることによって改正

される:

「(58) 監査委員会

『監査委員会』という用語は、

(A) 発行体の会計と財務報告のプロセスおよび発行体の財務諸表の監査を監視するために、発

行体の取締役会により、またその中に設立された委員会(あるいはそれに相当する機関)を意味

する、また

[[ページ 116 STAT. 774]]

(B) 発行体にそうした委員会が存在しない場合は、その発行体の取締役会全体を意味する。

(59) 登録会計事務所

『登録会計事務所』という用語は、2002 年サーベンス・オクスレー法第 2条におけるものと同

じ意味を有する」。

(b) 監査人の要件

1934 年証券取引法第 10 条 A(15 U.S.C. 78j-1)は以下によって改正される:

(1) 「ある独立会計士」という語句が現れる度にそれを削除し、「ある登録会計事務所」を挿入

する、

(2) 「その独立会計士」という語句が現れる度にそれを削除し、「その登録会計事務所」を挿入

する、

(3) (c)項において、「いかなる独立会計士も」を削除し、「いかなる登録会計事務所も」を挿

入する、また

(4) (b)項において、

(A) 「その会計士」という語句が現れる度にそれを削除し、「その事務所」を挿入する、

(B) 「そうした会計士」という語句が現れる度にそれを削除し、「そうした事務所」を挿入す

る、また

(C) (4)項において、「その会計士の報告」を削除し、「その事務所の報告」を挿入する。

(c) 他の関連対応

1934 年証券取引法(15 U.S.C. 78a および以下)は以下の通り改正される:

(1) 第 12 条(b)(1) (15 U.S.C. 78l(b)(1))において、「独立会計士(複数)」という語句が現

れる度にそれを削除し、「ある登録会計事務所」を挿入する、また

(2) 第 17 条(15 U.S.C.78q)の(e)項および(i)項において、「ある独立会計士」という語句が現

れる度にそれを削除し、「ある登録会計事務所」を挿入する。

(d) 整合改正

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127

1934 年証券取引法第 10 条 A(f)(15 U.S.C. 78k(f))は以下によって改正される <<15 USC

78j-1.>>:

(1) 「定義」を削除し、「定義(複数)」を挿入する、また

(2) 最後に次を付け加える:

「本条において、『発行体』という用語は、第 3条で定義されている発行体を意味し、その証券

が第 12 条の下に登録されているもの、あるいは第 15 条(d)の下で報告書を提出することが要求

されているもの、あるいは 1933 年の証券法(15 U.S.C. 77a および以下)の下、まだ有効となっ

ていない登録届出書を提出する発行体、あるいはすでに提出しており、取り下げていない発行体

を意味する」。

第 206 条 利益相反

本法によって改正された 1934 年証券取引法第 10 条 A(15 U.S.C. 78j-1)は、最後に以下を付け

加えることによって改正される:

(l) 利益相反

発行体の最高経営責任者、統括責任者、最高財務責任者、最高会計責任者、あるいはそれらに相

当する職にある者が独立会計事務所に雇用され、監査開始日に先立つ 1 年間、その発行体の監査

に参与できる立場にあった場合、その登録会計事務所が本タイトルによって要求されている監査

サービスをその発行体のために行うことは、違法となる」。

[[ページ 116 STAT. 775]]

第 207 条 登録会計事務所の義務的交代の調査 <<15 USC 7232.>>

(a) 調査と見直しの必要

米国会計検査院長は、登録会計事務所の義務的交代の要求の潜在的効果について、調査と見直し

を行うものとする。

(b) 報告の必要

<<最終期限>> 本法の成立日から 1年以内に、会計検査院長は、上院銀行住宅都市委員会および

下院金融サービス委員会に本条の要求する調査と見直しの結果に関する報告書を提出するもの

とする。

(c) 定義

本条において、「義務的交代」という用語は、特定の登録会計事務所が特定の発行体の記録の監

査人であり得る年限について制限を課すことを意味する。

第 208 条 SEC の権限 <<15 USC 7233.>>

(a) SEC 規則

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128

<<最終期限>>本法の成立日から 180 日以内に、SEC は本タイトルによって付加された 1934 年証

券取引法第 10 条 A の(g)から(l)までの各条項を実施するための最終的規則を発表するものとす

る。

(b) 監査人の独立性

登録会計事務所あるいはその関係者が本タイトルによって付加された 1934 年証券取引法第 10

条 A の(g)から(l)までの条項のいずれかによって、あるいはその下で発せられる SEC または監視

委員会のルールや規則によって禁止されている発行体に関する活動に従事している場合、その登

録会計事務所(あるいは該当する場合、その関係者)がその発行体についての監査報告書を作成

または発行することは違法となる。

第 209 条 適切な州監督当局による考慮 <<15 USC 7234.>>

非登録の会計事務所およびその関係者の監督において、適切な州監督当局は、監督する会計事務

所の事業の規模と性質、それらの事務所の顧客の事業の規模と性質を特に考慮に入れて、適正な

適用基準の独自の決定を行うべきである。本法の下で監視委員会によって適用される基準は、本

条の趣旨で、中小規模の非登録会計事務所に適用可能なものであると推断すべきではない。

タイトル III 会社の責任

第 301 条 公開企業の監査委員会

1934 年証券取引法第 10 条 A(15 U.S.C. 78f)は、最後に以下を付け加えることによって改正され

る <<15 USC 78j-1.>>:

「(m) 監査委員会に関連する基準

(1) SEC の規則

[[ページ 116 STAT. 776]]

(A) 一般規定

<<最終期限.>>本条の成立日から 270 日以内に、SEC は、規定により、国内の証券取引所および

国内の証券業協会に対して、(2)項から(6)項までの要件を順守していない発行体の証券の上場を

禁ずるよう指示を行うものとする。

(B) 欠陥を是正する機会

(A)項の下、SEC の規則は、そうした禁止措置を課す前に、(A)項の下での禁止の根拠となる欠陥

を是正するための機会を発行体が利用するための適切な手続きを規定するものでなければなら

ない。

(2) 登録会計事務所に関連する責任

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各発行体の監査委員会は、取締役会の委員会としてのその資格において、監査報告書の作成、発

行および関連の作業のためにその発行体によって雇われる登録会計事務所について、その指名、

報酬、その作業の監視に関して直接的に責任(財務報告に関しての経営陣と監査人の意見不一致

に関する決定を含む)を負う、また各登録会計事務所は監査委員会に対して直接に報告を行うも

のとする。

(3) 独立性

(A) 一般規定

発行体の監査委員会の各メンバーは、発行体の取締役会のメンバーとするが、その他の点では独

立しているものとする。

(B) 規準

本項の趣旨から、独立していると考えられるためには、発行体の監査委員会のメンバーは、監査

委員会、取締役会のメンバー、他の役員委員会のメンバーとしての資格におけるもの以外:

(i) その発行体からコンサルタント料、顧問料、あるいは他の報酬を受け取ってはならない、

あるいは

(ii) その発行体またはその子会社の特別利害関係者であってはならない。

(C) 除外権限

SEC は、状況に照らして SEC が適切と判断する場合、監査委員会のメンバーに関する特定の関係

を(B)項の要件から除外することができる。

(4) 苦情申し立て

各監査委員会は、以下に関する手続きを確立するものとする:

(A) 会計、内部会計管理、あるいは監査問題に関して発行体が受け取った苦情申し立ての受理、

保持および処理、および

(B) 発行体の従業員による、疑問の余地のある会計あるいは監査問題に関する懸念の秘密、かつ、

匿名での提出。

(5) 助言者を雇う権限

各監査委員会は、その任務を遂行するのに必要と判断する場合、独立した顧問や他の助言者を雇

う権限を有する。

(6) 資金

各発行体は、監査委員会によって、取締役会の委員会としての資格において適切と判断された資

金を以下に対する報酬の支払いのために供給する:

[[ページ 116 STAT. 777]]

(A) 監査報告書の作成あるいは発行のために発行体によって雇われた登録会計事務所、および

(B) (5)項の下、監査委員会によって雇われた助言者」。

第 302 条 財務報告書に関する企業の責任 <<15 USC 7241.>>

(a) 要求される規則

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130

SEC は規則により、1934 年証券取引法の第 13 条(a)および第 15 条(d)の下、定期的報告を提出す

る各会社に関して、主たる執行役員または執行役員たち、および主たる財務担当役員または担当

役員たち、あるいは類似の機能を果たす者が、その法のそれらの条項の下で提出される年次報告

書あるいは四半期ごとの報告書のそれぞれにおいて、以下を認証することを要求するものとす

る:

(1) 署名する役員は、その報告書の見直しを行ったこと、

(2) その役員の知識に基づく限り、その報告書は重要な事実に関して虚偽の報告を含まないこと、

あるいはその報告書が作成された状況に照らして、その報告書が誤解を生じさせるものとならな

いようにするのに必要な、重要な事実の報告を怠っていないこと、

(3) その役員の知識に基づく限り、報告書に含まれている財務諸表および他の財務情報は、報告

書に表示されている時点での、また表示されている期間に関しての発行体の財務状況および活動

の結果をあらゆる重要な点に関して、公正に表明するものであること、

(4) 署名する役員たちは、

(A) 内部統制の確立と維持に関して責任を有しており、

(B) 発行体およびそれの連結子会社に関する重要な情報が、それらの組織内の他の者たちから、

特に定期報告書が作成されている期間中、確実にそれらの役員たちに知らされるようにするため

の内部統制を設計していること、

(C) 報告に先立つ 90 日以内の日付で発行体の内部統制の有効性の評価を行っていること、そ

して

(D) その日付時点の評価に基づいて、内部統制の有効性に関する役員たちの結論を報告の中で

明らかにしていること、

(5) 署名する役員たちは、発行体の監査人および取締役会の監査委員会(あるいはそれに相当す

る機能を果たす者たち)に、

(A) 財務データを記録、処理、要約、報告する発行体の能力に否定的に影響する可能性のある

内部統制の設計または活動におけるすべての重要な欠点を開示し、発行体の監査人のために内部

統制における重要な弱点を明確にした、また

(B) 発行体の内部統制において重要な役割を担っている管理職あるいは他の従業員に関わる

欺瞞行為については、重要か否かに関わらず、すべて開示したこと、また

(6) 署名する役員たちは、内部統制に、あるいは内部統制に大きく影響する可能性のある他の要

因に、内部統制の評価日の後、重要な欠陥および大きな弱点の是正措置を含め、重要な変化があ

ったか否かを報告の中で明らかにしたこと。

[[ページ 116 STAT. 778]]

(b) 外国企業への再法人化は効果を持たないこと

この第 302 条のいかなる規定も、発行体が会社の本拠地あるいは発行体の事務所の米国内から米

国外への移転につながる再法人化または他の取引を行うことによって、この第 302 条の下で要求

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131

される言明の法的効力を減じることを発行体に可能にするものと解釈されてはならないし、いか

なる意味でもそのために適用されてはならない。

(c) 最終期限

(a)項により要求される規則は、本法成立後、30 日以内に実施されるものとする。

第 303 条 監査実施に対する不適切な影響 <<15 USC 7242.>>

(a) 禁止規則

SEC が公共の利益あるいは投資家の保護のために必要または適切なものとして定めるルールや

規則に反して、発行体の役員または取締役が、あるいはそれらの指示の下に活動する者が、その

発行体の財務諸表の監査に従事する独立公認会計士に対して、その財務諸表を実質的な誤解に導

くものにするために不正に影響力を行使すること、あるいは強要、操作、欺瞞的行為を行うこと

は違法となる。

(b) 強制

民事手続きにおいて、SEC は本条および本条の下で発せられるルールあるいは規則を強制する独

占的権限を有するものとする。

(c) 他の法律の非専占

(a)項の規定は、他の法律の規定あるいはその下で発せられるルールや規則に付加されるもので

あり、それらに取って代わる、あるいはそれらを封じるものではない。

(d) 規則作成の期限

SEC は、

(1) 本法の成立日から 90 日以内に本条の要求するルールあるいは規則を提案しなければならな

い、また

(2) 本法の成立日から 90 日以内に本条の要求するルールあるいは規則を最終的に公布するもの

とする。

第 304 条 一定のボーナスおよび利益の没収 <<15 USC 7243.>>

(a) SEC 財務報告要件の非順守判明前の追加報酬

発行体が、不正措置の結果として証券諸法の下での財務報告要件の実質的な非順守のために財務

諸表の作り直しを要求された場合、発行体の最高経営責任者および最高財務責任者は、発行体に

以下を返還しなければならない:

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132

(1) その財務報告要件を織り込んだ財務資料の最初の公表あるいは SEC への提出(いずれか早い

方)に続く 12 ヵ月間にその発行体からその者が受け取ったボーナスあるいは他のインセンティ

ブ・ベースまたは株式ベースの報酬、および

(2) その 12 ヵ月間に発行体の証券の売却によって実現した利益。

(b) SEC の免除権限

SEC は、それが必要かつ適切と考えられる場合、人に対して(a)項の適用を免除することがで

きる。

第 305 条 役員および取締役の制約と罰則

(a) 不適性の基準

[[ページ 116 STAT. 779]]

(1) 1934 年証券取引法第 21 条(d)(2)(15 U.S.C. 78u(d)(2))は、「実質的な不適性」を削除し、

「不適性」を挿入することによって改正される、

(2) 1933 年証券法第 20 条(e)(15 U.S.C. 77t(e)は、「実質的な不適性」を削除し、「不適性」

を挿入することによって改正される。

(b) 衡平法上の救済

1934 年証券取引法第 21 条(d)(15 U.S.C. 78u(d)は、最後に以下を付け加えることによって改正

される:

「(5) 衡平法上の救済

証券諸法の規定の下、SEC によって起こされた訴訟または手続きにおいて、SEC は投資家の利益

のために適切あるいは必要と思われる救済を求めることができる、また連邦裁判所はそれを認め

ることができる」。

第 306 条 年金制度のブラックアウト期間中のインサイダー取引 <<15 USC 7244.>>

(a) 年金制度のブラックアウト期間中のインサイダー取引禁止

(1) 一般規定

(3)項に基づく SEC 規則によって別に規定されている場合を除いて、持ち分証券(適用除外証券

以外の)発行体の取締役あるいは執行役員が、直接または間接に、持ち分証券に関するブラック

アウト期間中にその発行体の持ち分証券(適用除外証券以外の)の購入、売却、その他の仕方で

取得あるいは譲渡を行うことは、その取締役または執行役員が取締役または執行役員としてのそ

の職務または雇用に関連してその持ち分証券を取得している場合、違法となる。

(2) 救済措置

(A) 一般規定

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133

(1)項で言及された取締役または執行役員が本条に違反して購入、売却、その他の仕方での取得

あるいは譲渡によって実現した利益は、その取引に入る際のそれらの取締役または執行役員の意

図に関わりなく、発行体のために生じるものとし、発行体によって回収できるものとする。

(B) 利益を回収するための訴訟

本条に従って利益を回収するための訴訟は、管轄権を有する裁判所において法律あるいは衡平法

に従って、発行体が起こすことができる、また発行体が請求日から 60 日以内にそうした訴訟を

起こさない場合、あるいは起こすことを拒否する場合、あるいはその後も誠実に訴訟を遂行しな

い場合、その発行体の証券の所有者は、発行体の名前で、発行体に代わって訴訟を起こすことが

できる。ただし、利益が実現した日から 2 年を過ぎて、そうした訴訟を起こすことはできないも

のとする。

(3) 規則作成の授権

SEC は、労働長官と協議して、本条の適用の仕方を明確にするために、また適用逃れを防ぐため

に規則を公布する。その規則は、1986 年内国歳入法の第 414 条の(b)、(c)、(m)、あるいは(o)

の下、発行体について、単一の雇用者として扱われる主体に関して、(1)項の要件の適用を、そ

の要件の適用の仕方を明確にするために、また適用逃れを防ぐために必要な限りにおいて規定す

るものである。また、その規則では、自動配当再投資プログラムによる購入あるいは事前選択に

従って行われる購入や売却の除外など、本条の要件からの適切な除外についても規定する。

[ページ 116 STAT. 780]]

(4) ブラックアウト期間

本条において、「ブラックアウト期間」という用語は、発行体の持ち分証券に関して、

(A) 発行体によって維持されているすべての個人勘定(年金)プランの下、50%以上の参加者あ

るいは受益者について、その個人勘定プランに保持されている発行体の持ち分における利益を購

入、売却、その他の仕方で取得あるいは譲渡する能力が発行体あるいはそのプランの受託者によ

って暫定的に停止されている、連続して 3 営業日を越える期間を意味する、また

(B) SEC によって定められる規則の下、 以下は含まない:

(i) 参加者あるいは受益者が購入、売却、その他の仕方で取得あるいは譲渡することができない

ことが定期的に予定されている期間、ただしその期間が以下である場合に限る、

(I) その期間が個人勘定プランに組み込まれている、また

(II) 個人勘定プランの下での参加者となる前に、あるいはプランのその後の修正時に時期よ

く従業員に開示されている場合、あるいは

(ii) (A)項で説明されている停止期間で、プランまたはプランのスポンサーに関わる会社の合併、

取得、売却、あるいは類似の取引のために、個人勘定プランの参加者または受益者となる者、あ

るいは参加者または受益者であることを止める者に関してのみ課されるものは含まない。

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(5) 個人勘定プラン

本条において、「個人勘定プラン」という用語は、1974 年従業員退職所得保障法の第 3条(34)(29

U.S.C. 1002(34)で規定された意味を持っている、ただし、その用語は単独参加者退職プラン(そ

の法の第 101 条(i)(8)(B)(29 U.S.C.1021(i)(8)(B))の意味における)は含まない。

(6) 取締役、執行役員および SEC への通知

取締役あるいは執行役員がブラックアウト期間((4)項で定義)に関連して本条の対象となる場

合は常に、その持ち分証券の発行体は適切な時期に、ブラックアウト期間について、それらの取

締役、執行役員および証券取引委員会に通知しなければならない。

(b) 従業員退職所得保障法(ERISA)の下での参加者および受益者への通知の要件

(1) 一般規定

1974 年従業員退職所得保障法の第 101 条(29 U.S.C. 1021)は、(h)の第二項を(j)と名称を変え、

(h)の第一項の後に以下の新しい項を挿入することによって改正される:

[[ページ 116 STAT. 781]]

「(i) 個人勘定プランの下での参加者あるいは受益者へのブラックアウト期間の通知:

(1) プラン管理者の義務

個人勘定プランに関するブラックアウト期間の開始に先立って、プラン管理者は、そうした措置

によって影響を受けるプランの参加者および受益者に本条に従って通知しなければならない。

(2) 通知要件

(A) 一般規定

(1)項で説明された通知は、平均的な参加者が理解するのに適した仕方で書かれていなければな

らず、以下を含むものとする:

(i) ブラックアウト期間の理由、

(ii) 影響を受ける投資および他の権利の特定、

(iii) ブラックアウト期間の予想されている開始日と長さ、

(iv) 影響を受ける投資に関して、参加者あるいは受益者は、ブラックアウト期間中、その勘

定に帰属している資産を割り当てることや分散させることができないことを考慮して、その現在

の投資判断の適切性を評価すべきであるという文面、

(v) 長官が規則によって要求する他の事項。

(B) 参加者および受益者への通知

本条で別に規定されている場合を除いて、(1)項で説明された通知は、ブラックアウト期間が適

用される、プラン下のすべての参加者および受益者に対して、少なくともブラックアウト期間開

始の 30 日前に行われなければならない。

(C) 30 日の通知要件の例外

以下のいずれの場合も:

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135

(i) ブラックアウト期間を延期すれば第 404 条(a)(1)の(A)項あるいは(B)項の要件に違反す

ることになる、そしてプランの受託者が書面で合理的にそうすることを決定している場合、ある

いは

(ii) 予期できない出来事あるいはプラン管理者の合理的制御を超えた状況のために 30 日の

事前通知を行うことができない、そしてプランの受託者が書面で合理的にそうすることを決定し

ている場合、

(B)項は適用されない、しかしブラックアウト期間の終了前に通知することが実行不能でない限

り、そうした状況下で合理的に可能な限り早急に、プラン下のすべての参加者および受益者に対

して通知が行われなければならない。

(D) 書面による通知

本条で行うことを要求されている通知は書面で行われるものとするが、その形式が受取人にとっ

て合理的に利用可能である限りにおいて、通知は電子的形式あるいは他の形式で行うことができ

る。

(E) ブラックアウト期間の対象となる雇用主の証券の発行体への通知

個人勘定プランに関連するブラックアウト期間の場合、プラン管理者は、そのブラックアウト期

間について、時宜を得た通知を、そのブラックアウト期間の対象となる雇用主の証券の発行体に

対して行わなければならない。

[[ページ 116 STAT. 782]]

(3) 適用可能性の制限されたブラックアウト期間に関する例外

ブラックアウト期間が、プランまたはプランのスポンサーに関わる合併、取得、売却、あるいは

類似の取引に関連する 1 人あるいは複数の参加者または受益者にのみ適用され、またそうした合

併、取得、売却、あるいは類似の取引が原因で、プランの参加者または受益者となる、あるいは

そうであることを止めることに関連してのみ発生している場合、本条の下での、すべての参加者

および受益者に対して通知を与えなければならないという要件は、ブラックアウト期間が適用さ

れるそれらの参加者あるいは受益者に対して(1)項の要求する通知が合理的に実行可能な限り早

急に行われる場合には、満たされたものとして扱われる。

(4) ブラックアウト期間の長さの変更

本条に基づく通知の実行後、ブラックアウト期間の開始日あるいは長さ((2)(A)(iii)項に基づ

く通知に明記されたもの)に変更がある場合、管理者は合理的に実行可能な限り早急に、影響を

受ける参加者および受益者に対して、その変更についての通知を与えなければならない。ブラッ

クアウト期間の延長に関連する場合、その通知は(2)(D)項の要件を満たし、(2)(A)の(i)から(v)

までの項で言及された事項における重要な変更を明記しなければならない。

(5) 規則による例外

長官は、規則により、長官が参加者および受益者の利益になると決定する、本条の要件に対する

追加の例外を定めることができる。

(6) ガイダンスおよびモデルの通知

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136

長官は、本条の要件を満たすガイダンスおよびモデルとなる通知を発表する。

(7) ブラックアウト期間-本条の趣旨において

(A) 一般規定

『ブラックアウト期間』という用語は、個人勘定プランとの関係において、このプランの参加者

あるいは受益者が、通常であれば利用可能な、自分の勘定に帰属している資産を指示して割り当

てることや分散させること、プランから融資を受けること、プランから分配を受けることなどの

行為能力が一時的に、3連続営業日を越えて停止、制限ないし規制される期間を意味する。

(B) 除外

『ブラックアウト期間』という用語は、以下の停止、制限、規制を含まない:

(i) 証券諸法の適用(1934 年証券取引法第 3 条(a)(47)で定義)によって発生するもの、

(ii) プランの変更で、定期的に予定される停止、制限、規制を行うものであり、重要な変更事

項の要旨、そのプランの下での具体的な投資選択肢を明記した資料、あるいはその変更を通じて

参加者および受益者に対して開示されているもの、あるいは

(iii) 1 人あるいは複数の個人でいずれも参加者、代替受取人(適格な国内関連指令(第 206 条

(d)(3)(K)で定義)、その他の受益者(第 206 条(d)(3)(B)(i)で定義)のみに適用されるもの。

[[ページ 116 STAT. 783]]

(8) 個人勘定プラン

(A) 一般規定

本条において、『個人勘定プラン』とは第 3 条(34)で規定された意味を有する、ただし、その用

語には、単独参加者退職プランは含まれないものとする。

(B) 単独参加者退職プラン

本条において、『単独参加者退職プラン』という用語は、次の退職プランを意味する:

(i) プラン年度の最初の日に、

(I) 雇用主(および雇用主の配偶者)および雇用主の所有する事業全体(法人化されているか

否かに関わりなく)のみを対象としていた、あるいは

(II) S あるいは C の設立形態(1986 年内国歳入法第 1361 条(a)で定義)でのビジネス・パー

トナーシップにおける 1 人あるいは複数のパートナー(およびその配偶者)のみを対象としてい

た、

(ii) その企業の従業員を対象とするその企業の他のプランと結合しないで、1986 年内国歳入法

第 410 条(b)の最低対象要件(本項の成立日に実施されているもの)を満たしている、

(iii) 雇用主(および雇用主の配偶者)あるいはパートナー以外の誰にも利益を与えない、

(iv) 関係サービス・グループ、被支配会社グループ、共同支配下の企業グループのメンバーで

ある企業を対象としていない、

(v) 従業員をリースする企業を対象としていない」。

(2) <<最終期限>> 初期ガイダンスおよびモデル通知の発表

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137

労働長官は、1974 年従業員退職所得保障法第 101 条(i)(6)(本条に追加されたもの)に基づく初

期ガイダンスおよびモデル通知を 2003 年 1 月 1日までに発表する。

<<規則>> 本法の成立日から 75 日以内に長官は、本条によってなされた改正を実施するのに必

要な暫定最終規則を公布する。

(3) 通知不履行に関する民事罰

同法第 502 条(29 U.S.C. 1132)は、以下の通り改正される:

(A) (a)(6)項において、「(5)あるいは(6)」を削除し、「(5)、(6)、あるいは(7)」を挿入する、

(B) (c)項の(7)を(8)と名称を変える、そして

(C) (c)項の(6)の後に次の新しい条項を挿入する:

「(7) 長官はプラン管理者に対して、プラン管理者による第 101 条(i)に従っての参加者および

受益者への通知の不履行あるいは拒否の日から一日当たり最高 100 ドルの民事罰を課すことが

できる。本項の趣旨から、参加者あるいは受益者の各人に関しての各違反は独立した違反として

扱われるものとする」。

[[ページ 116 STAT. 784]]

(3) プランの修正

本条の下で行われる改正のためにプランの修正が必要になる場合、そのプラン修正は、以下の場

合には、本条の実施日またはそれ以降に始まる最初のプラン年度前に行うことを要求されない、

(A) 本条によって行われる改正が実施された後の、そして前記の最初のプラン年度の前の期間に、

プランが、本条によって行われる改正の要件を誠実に順守して運営され、また

(B) プラン修正が、本条によって行われる改正が実施された後の、そして前記の最初のプラン年

度の前の期間に遡及的に適用される場合。

(c) 発効日

本条の条項(それによる改正を含む)は、本法の成立日から 180 日後に発効する。その下での適

用規則の公布に先立ってそれらの条項の要件を誠実に順守することは、それらの条項の順守とし

て扱われるものとする。

第 307 条 弁護士の業務責任に関する規則 <<15 USC 7245.>>

<<注:最終期限>>本法の成立日から 180 日以内に、公共の利益および投資家保護のために SEC

は、SEC に出頭し、何らかの仕方で発行体を代表して行動する弁護士に関して、その職務行為に

ついての最低限の基準を規定する規則を公布するものとし、それには以下の規則が含まれる:

(1) 弁護士に対して、会社またはその代理人による証券諸法の実質的な違反または受託者義務の

違反、他の類似の違反の証拠を会社の主任法務顧問あるいは最高経営責任者(あるいはそれに相

当する者)に報告することを要求し、また

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138

(2) その法務顧問あるいは役員が適切にその証拠への対応(必要な場合、その違反の是正措置あ

るいは制裁の採用)を行わない場合、その弁護士に対して、その証拠をその発行体の取締役会の

監査委員会に、あるいはその発行体によって直接または間接に雇用されていない取締役のみで構

成されている他の取締役会の委員会に、あるいは取締役会に報告することを要求する規則。

第 308 条 投資家のための公正基金(フェア・ファンド) <<15 USC 7246.>>

(a) 被害者救済のために不正利益引渡し基金に加えられる民事罰

証券諸法の下、SEC によって起こされた裁判あるいは行政処分(その条件は 1934 年証券取引法

第 3 条(a)(47)(15 U.S.C. 78c(a)(47))に規定されている)において、SEC が、ある者に対して

それらの法あるいはその下にあるルールや規則の違反のカドで不正利益引渡しを要求する命令

を得る、あるいはその者がその訴訟の解決のためにそうした引渡しに同意するとともに、SEC が

それらの法に基づいて、その者に対する民事罰をも得る場合、その民事罰の額は、SEC の発議あ

るいはその裁量により、その違反の被害者のために不正利益引渡し基金の一部として、それに加

えることができる。

(b) 追加の寄贈の受入れ

SEC は、(a)項で記述された不正利益引渡し基金のために、動産および不動産の米国への贈与、

遺産および遺贈財産を受け入れ、保管、管理、活用する権限を与えられている。それらの金銭の

形での、および贈与、遺産および遺贈として受け取った他の財産の売却から生じた収益は、不正

利益引渡し基金に預けられ、(a)項に従っての配分に利用することができる。

[[ページ 116 STAT. 785]]

(c) 必要な調査

(1) 調査の対象

SEC は、

(A) 民事罰あるいは不正利益引渡しを得るための訴訟手続きを含む、本法成立日に先立つ 5 年間

の SEC による執行措置を見直し、それらの被害を受けた投資家のための損害回復を効率的、効果

的、公平に行うために手続きを活用できる分野を明らかにしなければならない、また

(B) 民事罰および不正利益引渡しの徴収率を向上させる方法を含め、被害を受けた投資家のため

の損害回復をさらに効率的、効果的、公平に行うための他の方法を調査し、分析しなければなら

ない。

(2) 報告の必要

<<最終期限>> SEC は、本法成立日から 180 日以内にその調査結果を下院金融サービス委員会お

よび上院銀行住宅都市委員会に報告しなければならない、またその調査結果を、必要な場合、そ

のルールおよび規則の見直しに活用するものとする。報告は、調査において明らかにされた問題

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139

に対処するのに勧められる、あるいは必要と思われる規制上あるいは立法上の措置に関する議論

を含むものとする。

(d) 整合改正

以下の各項は、「米国の国庫」の後に「2002 年サーベンス・オクスレー法第 38 条において別に

規定されている場合を除いて」を挿入することによって改正される:

(1) 1934 年証券取引法第 21 条(d)(3)(C)(i)(15 U.S.C. 78u(d)(3)(C)(i))、

(2) 同法の第 21 条 A(d)(1)(15 U.S.C. 78u-1(d)(1))、

(3) 1933 年証券法第 20 条(d)(3)(A)(15 U.S.C. 77t(d)(3)(A))、

(4) 1940 年投資会社法第 42 条(e)(3)(A)(15 U.S.C. 80a-41(e)(3)(A))、

(5) 1940 年投資会社法第 209 条(e)(3)(A)(15 U.S.C. 80b-9(e)(3)(A))。

(e) 定義

本条において使用される場合、「不正利益引渡し基金」とは(a)項で説明された行政手続あるい

は裁判において確立される基金を意味する。

タイトル IV—財務内容開示の向上

第 401 条 定期報告における開示 <<15 USC 7261.>>

(a) 開示の必要

1934 年証券取引法第 13 条(15 U.S.C. 78m)は、最後に以下を挿入することによって改正される:

「(i) 財務報告書の正確性

財務諸表を含み、本タイトルの下、一般に受け入れられている会計原則に従って(あるいはそれ

に合わせて)作成し、SEC に提出するよう要求されている各財務報告書は、一般に受け入れられ

ている会計原則および SEC のルール、規則に従って、登録会計事務所によって確認されたすべて

の重要な修正調整事項を反映するものでなければならない。

[[ページ 116 STAT. 786]]

(j) オフ・バランス・シート取引

<<最終期限、規則>> 2002 年サーベンス・オクスレー法の成立日から 180 日以内に SEC は、SEC

に提出することが要求されている年間および四半期ごとの各財務報告書が、発行体のすべての重

要なオフ・バランス・シートの取引、協定、債務関係(偶発債務を含む)、および連結されていな

い主体あるいは他の者との他の関係で、財務状況、財務状況の変化、活動結果、流動性、資本的

支出、資本的資源、あるいは収益または支出の重要な構成部分に現在または将来的に実質的な影

響を及ぼす可能性のあるものについてはすべて開示すべきであると規定する最終規則の発表を

行うものとする」。

(b) 見積りの数字に関する SEC の規則

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140

<<最終期限>> 2002 年サーベンス・オクスレー法の成立日から 180 日以内に SEC は、証券諸法に

従って SEC に提出される定期報告書あるいは他の報告書において、あるいは一般への開示、新聞

その他への発表において、見積りの財務情報が以下の要領で表示されるべきであると規定する最

終規則の発表を行うものとする:

(1) 重要な事実について虚偽の言明を含まない、あるいは発表される状況に照らして、見積り財

務情報が誤解を生じさせるものとならないようにするために必要な、重要な事実を述べることを

怠らない、また

(2) その情報を、一般に受け入れられている会計原則の下での発行体の財務状況および活動結果

と整合したものにする。

(c) 特別目的事業体に関する調査と報告

(1) 必要な調査

<<最終期限>> SEC は、本条によって付加された 1934 年証券取引法第 13 条(j)によって要求され

ているオフ・バランス・シート規則採用の発効日から 1 年以内に、以下を判断するため、発行体

による提出とその開示に関する調査を完了させるものとする:

(A) 資産、負債、リース、損失および特別目的事業体の利用を含むオフ・バランス・シート取引

の程度、

(B) 一般に受け入れられている会計規則が、そうしたオフ・バランス・シート取引の経済を投資

家にとって透明な仕方で反映する発行体の財務諸表につながっているかどうか。

(2) 報告および勧告

<<最終期限>> (1)項によって要求されている調査の完了日から 6 ヵ月以内に、SEC は、以下を記

載した報告書を大統領、上院銀行住宅都市委員会および下院金融サービス委員会に提出しなけれ

ばならない:

(A) 1934 年証券取引法の第 13 条あるいは第 15 条に従って定期報告を提出する発行体の資産、

負債、リース、損失およびそれらの発行体による特別目的事業体の利用を含むオフ・バランス・

シート取引の総額または総額の見積り、

(B) オフ・バランス・シート取引を容易にするために特別目的事業体が利用されている程度、

[[ページ 116 STAT. 787]]

(C) 一般に受け入れられている会計原則あるいは SEC の規則が、そうしたオフ・バランス・シー

ト取引の経済を投資家にとって透明な仕方で反映する発行体の財務諸表につながっているかど

うか、

(D) 発行体が特別目的事業体のリスクと利益の大半を有するケースで、一般に受け入れられてい

る会計原則が、発行体がスポンサーとなっている特別目的事業体の連結に具体的につながってい

るかどうか、また

(E) 発行体による SEC への提出が要求されている財務諸表と開示物におけるオフ・バランス・シ

ート取引報告の透明性と質を向上させるための SEC の勧告。

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141

第 402 条 利益相反規定の強化

(a) 執行役員に対する個人的融資の禁止

本法によって改正された 1934 年証券取引法第 13 条は、最後に以下を加えることによって改正さ

れる:

「(k) 執行役員に対する個人ローンの禁止

(1) 一般規定

発行体(2002 年サーベンス・オクスレー法の第 2 条で定義)が直接あるいは間接に、子会社を

通じてのものを含め、その発行体の取締役あるいは執行役員(あるいはそれに相当する者)に対

して、あるいはそのために個人ローンの形式で信用を供与する、または維持する、あるいは信用

供与の契約をする、あるいは信用供与の更新を行うことは違法となる。本条の成立日時点で発行

体によって維持されている信用供与は、本条の規定の対象とならないものとする、ただし、その

成立日以降、それらの信用供与の期間の実質的な変更も信用供与の更新も行われないものとする。

(2) 制限

(1)項は、家の増改築ローンおよび建築ローン(持家所有者ローン法の第 5条(12 U.S.C. 1464)

で定義)、消費者クレジット(貸付真実法の第 103 条(15 U.S.C. 1602)で定義)、あるいはオー

プンエンド信用プランの下での信用供与(貸付真実法の第 103 条(15 U.S.C. 1602)で定義)、チ

ャージカード(貸付真実法の第 127 条(c)(4)(e) (15 U.S.C. 1637(c)(4)(e)で定義)、あるいは

本タイトル第 15 条の下で登録されているブローカーまたはディーラーによる、そのブローカー

またはディーラーの従業員への、証券を購入、取引、保有するための信用供与で、本タイトル第

7 条に基づく連邦準備制度理事会理事のルールまたは規則の下で許されているもの(その発行体

の株式購入のために使われる信用供与以外)であり、以下であるものを妨げるものではない:

(A) その発行体の消費者クレジット事業の通常の経路で行われ、提供されるものであり、

(B) その発行体により、公衆にとって一般に利用可能な状態にされているタイプのものである、

また

(C) その発行体により市場条件で、あるいはその発行体により一般公衆に対して、その信用供与

に関して、オファーされているものと同じ条件で供与されていて、特に優遇されていない。

(3) 一定のローンの解釈に関する規則

(1)項は、ローンが連邦準備法第 22 条(h)(12 U.S.C. 375b)インサイダー貸付制限の下におかれ

ている場合、被保険預金機関(連邦預金保険法第 3 条(12 U.S.C. 1813)で定義)によって行われ、

維持されているローンには適用されない」。

[[ページ 116 STAT. 788]]

第 403 条 経営陣および主要株主に関わる取引の開示

(a) 改正

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142

1934 年証券取引法第 16 条(15 U.S.C. 78p)は、その条の見出しおよび(a)項を削除し、以下を

挿入することによって改正される:

「第 16 条 取締役、役員、および主要株主

(a) 開示の必要

(1) 提出の必要な取締役、役員、および主要株主

第 12 条に従って登録されているすべてのクラスの持ち分証券(適用除外証券を除いて)の 10%

以上の直接的あるいは間接的な受益所有者である者、あるいはその証券の発行体の取締役ないし

役員はすべて、本条の要求する申告書を SEC(その証券が国内の証券取引所に登録されている場

合は、その取引所にも)に提出しなければならない。

(2) 提出の時期

本条によって要求されている申告書は、次の時期に提出されなければならない:

(A) 国内の証券取引所への証券の登録時、あるいは第 12 条(g)に従って提出された登録届出書の

発効日までに、

(B) 彼または彼女が受益所有者、取締役あるいは役員になってから 10 日以内、

(C) 所有権に変更があった場合あるいはそれらの者がその証券に関わる証券ベースのスワップ

合意(金融制度改革法(グラム・リーチ・ブライリー法)第 206 条(b) (15 U.S.C. 78c note))

で定義)を購入または売却した場合には、その取引が実行された日に続く二番目の営業日の終わ

りまでに、あるいは SEC がその 2 日の期間では現実的に可能でないと判断した場合に SEC が規則

により確立する他の時点までに。

(3) 申告書の内容

(A) (2)項の(A)あるいは(B)の下で提出される申告書は、その提出者が受益所有者となっている

発行体の持ち分証券全体の額に関する言明を含むものとする、また

(B) (2)項の(C) の下で提出される申告書は、提出日における提出者による所有権の保有、およ

びその項の下での直近の提出以降に発生した所有権の変化、および証券ベースのスワップ合意の

購入、売却を明らかにするものでなければならない。

(4) 電子的届け出とその利用可能性

2002 年サーベンス・オクスレー法の成立日から 1 年以内に、それ以降、

(A) (2)項の(C) の下で提出される申告書は、電子的に提出されるものとする。

(B) <<最終期限>> SEC は、申告書提出の翌営業日の終わりまでに一般のアクセスできるインタ

ーネット・サイト上で各申告書を提示する、また

[[ページ 116 STAT. 789]]

(C) <<最終期限>> 発行体は(発行体が会社のウェブサイトを有する場合)、申告書提出の翌営

業日の終わりまでに、会社のウェブサイトにその申告書を提示しなければならない。」

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143

(b) 発効日

<<15 USC 78p note.>> 本条によって行われる改正は、本法の成立日から 30 日後に発効する。

第 404 条 内部統制についての経営陣の評価 <<15 USC 7262.>>

(a) 規則の必要

SEC は、1934 年証券取引法の第 13 条(a)あるいは第 15 条(d)(15 U.S.C. 78m あるいは 78o(d))

によって要求されている各年次報告書に内部統制報告を含めるよう要求する規則を定めるもの

とする、そしてこの報告は、

(1) 適切な内部統制構造および財務報告の手順の確立と維持に関する経営陣の責任を明言する

ものである、また

(2)内部統制構造および財務報告に関する発行体の手順の有効性についての、発行体の直近の会

計年度の終わりの時点での評価を含むものとする。

(b) 内部統制の評価と報告

(a)項の要求する内部統制評価に関して、発行体のために監査報告書を作成、発行する各登録会

計事務所は、発行体の経営陣によって行われた評価を認証し、報告しなければならない。本条の

下で行われる認証は、監視委員会によって採用され、発表されている証明契約基準に従って行わ

なければならない。そうした証明は、独立した契約の主題とはならないものとする。

第 405 条 適用除外 <<15 USC 7263.>>

第 401 条、第 402 条あるいは第 404 条のいかなる規定も、またそれらの条項による改正あるいは

それらの条項の下にある SEC の規則も、1940 年投資会社法の第 8 条(15 U.S.C. 80a-8)の下で登

録されている投資会社には適用されない。

第 406 条 上級財務責任者の倫理規範 <<15 USC 7264.>>

(a) 倫理規範の開示

<<規則>> SEC は、各発行体に対して、1934 年証券取引法の第 13 条(a)あるいは第 15 条(d)

によって要求されている年次報告書とともに、その発行体が、その主たる財務担当役員または統

括者、主たる会計担当役員、あるいはそれに類似する職務を遂行する人に適用される上級財務担

当役員倫理規範を採用しているかどうか、採用していない場合はその理由を開示するよう求める

規則を出すものとする。

(b) 倫理規範の変更

<<規則>> SEC は、8-K 書式(あるいはその後継版)での迅速な開示を要求する問題に関連して、そ

の書式の提出、インターネットあるいは他の電子的手段による広報を通じて、上級財務担当役員

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144

倫理規範の変更あるいはその放棄について発行体がただちに開示することを要求するために規

則の改定を行うものとする。

(c) 定義

本条において、「倫理規範」という用語は、以下を推進するために合理的に必要なものとされる

基準を意味する:

(1) 個人的利益と職務関係の現実あるいは外見上の利益相反問題の倫理的処理を含め、公正で倫

理的な行為、

[[ページ 116 STAT. 790]]

(2) 発行体による提出を要求されている定期報告書における完全、公正、正確で、時宜を得た、

理解可能な開示、

(3) 該当する政府のルールや規則の順守。

(d) 規則作成の最終期限

SEC は、

(1) 本法の成立日から 90 日以内に本条を実施するための規則を提案し、

(2) 本法の成立日から 180 日以内に本条を実施するための最終規則の発表を行うものとする。

第 407 条 監査委員会財務専門家の開示 <<15 USC 7265.>>

(a)「財務専門家」を定義する規則

SEC は公共の利益のために必要あるいは適切であり、投資家の保護とも整合するものとして、各

発行体に対して、1934 年証券取引法の第 13 条(a)あるいは第 15 条(d)によって要求されて

いる年次報告書とともに、その発行体の監査委員会が、SEC によって定義される財務専門家を少

なくとも一名、含んでいるかどうか、含んでいない場合はその理由を開示するよう求める規則を

発表する。

(b) 検討事項

(a)項の趣旨から、「財務専門家」という用語の定義に当たって、SEC は、会計士、監査人、あ

るいは発行体の主たる財務担当役員、統括者、または主たる会計担当役員としての教育および経

験を通じて、あるいは類似の機能遂行を必要とする職務から人が以下を有するかどうかを検討し

なければならない:

(1) 一般に受け入れられている会計原則および財務諸表についての理解、

(2) 次の経験:

(A) 一般的に比較可能な財務諸表の作成あるいは監査、および

(B) 見積り、発生物、引当金の計算に関連しての上記の会計原則の適用。

(3)内部の会計管理に関する経験、および

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145

(4) 監査委員会の機能についての理解 。

(c) 規則作成の最終期限

SEC は、

(1) 本法の成立日から 90 日以内に本条を実施するための規則を提案し、

(2) 本法の成立日から 180 日以内に本条を実施するための最終規則の発表を行うものとする。

第 408 条 発行体による定期的開示の見直しの強化 <<15 USC 7266.>>

(a) 定期的かつ体系的な見直し

SEC は、1934 年証券取引法の第 13 条(a)の下で報告(10-K 書式による報告を含む)を行って

いる発行体、および国内の証券取引所に証券を上場している、あるいはその証券が国内の証券業

協会の自動通報システムで取引されている発行体によって行われている開示を投資家の保護の

ために定期的、体系的に見直しを行うものとする。そうした見直しは発行体の財務諸表について

の見直しを含む。

(b) 見直しの規準

(a)項の要求する見直しの予定作成において、SEC は特に以下の要因を考慮すべきである:

(1) 財務結果の大きな修正を発表した発行体、

(2) 他の発行体と比較して、株価の大きな変動のあった発行体、

(3) 株式時価総額が最大の発行体、

(4) 株価収益率が不釣合いな新興企業、

(5) その活動が経済の重要な部門に大きく影響を与える発行体、および

(6) SEC が重要と考える他の要因。

[[ページ 116 STAT. 791]]

(c) 最低限の見直し期間

いかなる場合にも、1934 年証券取引法の第 13 条(a)あるいは第 15 条(d)によって報告書の

提出を要求されている発行体の本条の下での見直しは、少なくとも 3 年に 1 回は行われなければ

ならない。

第 409 条 リアルタイムでの発行体の開示

本法によって改正された 1934 年証券取引法第 13 条(15 U.S.C. 78m)は、最後に以下を加えるこ

とによって改正される:

「(l)リアルタイムでの発行体の開示

1934 年証券取引法の第 13 条(a)あるいは第 15 条(d)の下で報告を行う各発行体は、SEC が規

則により、投資家の保護および公共の利益にとって必要あるいは有益であると決定する、発行体

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146

の財務状況あるいは活動の重要な変化に関する追加情報を迅速かつ現在ベースで一般に開示し

なければならない」。

タイトル V—アナリストの利益相反

第 501 条 登録証券業協会および国内証券取引所による証券アナリストの扱い

(a) 証券アナリストに関する規則

1934 年証券取引法(15 U.S.C. 78a および以下)は第 15 条 C の後に次の新しい条項を挿入するこ

とによって改正される:

「第 15 条 D 証券アナリストおよび調査報告 <<15 USC 78o-6.>>

(a) アナリストの保護

<<最終期限>> SEC、あるいは SEC の権限と指示に基づいて登録証券業協会または国内証券取引所

は、本条の成立日から 1 年以内に、証券アナリストがその調査報告および公開の場での発言にお

いて持ち分証券を推奨する場合に、生じ得る利益相反の問題に対処し、調査報告の客観性を高め、

投資家に有益で信頼できる情報を提供できるようにするために合理的に設計された規則の採択

を完了しなければならない、それには以下を目的とした規則が含まれる:

(1) 証券調査に対する一般の信頼を高め、証券アナリストの客観性と独立性を保護すること、こ

れは以下による:

(A) 法務またはコンプライアンス・スタッフ以外で、ブローカーあるいはディーラーによって雇

用され、投資バンキング業務に従事している者、あるいは投資調査を直接担当していない者によ

る、調査報告の発行前の許可あるいは承認を制限する、

(B) 証券アナリストの指導監督および報酬評価を、ブローカーあるいはディーラーによって雇用

され、投資バンキング業務に従事していない役員に限定する、また

[[ページ 116 STAT. 792]]

(C) 投資バンキング業務に関わっているブローカーまたはディーラー、およびブローカーまたは

ディーラーに雇用されて投資バンキング業務に関わっている者が、そのブローカーまたはディー

ラーあるいはその関係会社に雇用されている証券アナリストに対して、そのアナリストの不都合、

否定的、その他非好意的な調査報告がその報告書の主題である発行体とブローカーまたはディー

ラーの現在あるいは将来の投資バンキング関係に悪い影響を与えるかもしれないということで

直接あるいは間接に報復あるいは報復の脅威を与えることをしてはならないと要求する、ただし、

その規則は、ブローカーまたはディーラーがその会社の政策および手続きに従って、そうした調

査報告以外の原因で証券アナリストを懲戒するブローカーまたはディーラーの権限をするもの

であってはならない。

(2)引受人あるいはディーラーとして株式公開に参加している、あるいは参加する予定のブロー

カーまたはディーラーがその証券あるいはその発行体関連する調査報告を発行、その他の仕方で

配布してはならない期間を定めること。

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147

(3) 証券アナリストが会社内部において適切な情報分有によって、証券アナリストの判断または

監視を潜在的に歪める可能性のある投資バンキング業務に関する者の見直し、圧力、監督から分

離されることを確保するため、登録済みブローカーまたはディーラーに内部に構造的で制度的な

セーフガードを確立すること、および

(4) SEC あるいは上記の協会や取引所が適切と判断する他の問題に対処すること。

(b) 開示

SEC、あるいは SEC の権限と指示に基づいて登録証券業協会または国内証券取引所は、本条の成

立日から 1 年以内に、該当する場合には、各証券アナリストが公開の場での発表において、また

各登録済みのブローカーまたはディーラーがそれぞれの調査報告において、その公開発言または

報告書配布の時点で、その証券アナリストあるいはブローカー、ディーラーにその存在が知られ

ている、また当然知られているはずの利益相反問題を開示するよう要求する合理的に設計された

規則の採択を完了しなければならない。そうした問題には以下が含まれる:

(1) その公開発言あるいは調査報告の主題となっている発行体に、どれだけその証券アナリスト

が債務を負っているか、あるいは株式投資を行っているか。

(2) その公開発言あるいは調査報告の主題となっている発行体から、その登録済みのブローカー

またはディーラーあるいはその関係者が報酬を受け取っているかどうか。ただし、その発行体の

特定の潜在的な将来の投資バンキング取引に関する重要な非公開情報について、公共の利益に適

い、投資家の保護とも整合するものとして、SEC が本項による開示を防ぐのが適切かつ必要と判

断する場合は除外される。

(3)公開発言または調査報告においてその証券が推奨されている発行体は、現在またはその公開

発言または調査報告配布の日に先立つ 1年の間にその登録済みのブローカーまたはディーラー

の顧客であるか、あるいは顧客であったのかどうか。またそうである場合には、その発行体に提

供しているサービスのタイプについて明らかにする。

[[ページ 116 STAT. 793]]

(4) その証券アナリストが、その登録済みのブローカーまたはディーラーの(特に)投資バンキ

ング収入(一般的か特定的かを問わず、分析されている発行体から得られたもの)、に基づいて、

調査報告に関する報酬を受け取ったかどうか、また

(5) 投資家、アナリスト、あるいはブローカーまたはディーラーにとって重要であり、SEC ある

いは上記の協会または取引所が適切と判断する他の利益相反の開示。

(c) 定義

本条において、

(1) 『証券アナリスト』という用語は、その者の職名が『証券アナリスト』であるか否かに関わ

りなく、登録済みのブローカーまたはディーラーの関係者で、調査報告の実質の作成に関して中

心的に責任を負う者、あるいはそれに関係して直接的または間接的に証券アナリストに報告を行

う者を意味する。

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148

(2) 『調査報告』という用語は、個々の企業あるいは産業の持ち分証券に関する分析を含み、投

資判断の基礎とするのに合理的に十分な情報を提供する書面あるいは電子的方法による通信を

意味する」。

(b) 取締り

1934 年証券取引法の第 21 条 B(a)(15 U.S.C. 78u-2(a)) は、「15B」の前に「15D」を挿入す

ることによって改正される。

(c) SEC の権限

<<15 USC 78o-6 note.>> SEC は、本条によって追加された 1934 年証券取引法の条項 15D を実

施するために、その規則を発表し、改正する、あるいは登録証券業協会あるいは国内の証券取引

所に対して、投資家の保護および公共の利益のために必要な限りで、そのルールを発表し、改正

するよう指示することができる。

タイトル VI—SEC の資源と権限

第 601 条 予算の承認

1934 年証券取引法第 35 条(15 U.S.C. 78kk)は、以下の通り改正される:

「第 35 条 予算の承認

SEC に割り当てることが承認されている他の資金に加えて、SEC の機能、権限、義務を遂行する

ために、2003 会計年度については 7億 7,600 万ドルの予算が承認されており、その内、

(1) 1 億 270 万ドルは、投資家・資本市場手数料軽減法(公法 107-123; 115 Stat. 2390 および

以下) で授権されている通り、給与および手当てを含む追加報酬に資金に当てるために使用可能

なものとする、

(2) 1 億 840 万ドルは、2001 年 9 月 11 日のテロ攻撃を考慮し、情報技術、安全保障の向上、復

旧・被害緩和活動のために使用可能なものとする、また

(3) 9,800 万ドルは、少なくとも 200 人の資格を有する専門家を追加して、連邦の証券諸法によ

って要求されている監査人および監査サービスの監視を強化し、またそれらの監査人およびその

サービスに関しての SEC の調査活動および懲戒活動を向上させるために、また 完全開示・不正

行為予防・抑止に関わる SEC のプログラム、リスク管理、産業技術の見直し、順守、監視、検査、

市場規則、投資管理を強化するのに必要な追加専門的支援スタッフのために使用可能なものとす

る」。

[[ページ 116 STAT. 794]]

第 602 条 SEC への出頭と実務の遂行

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149

1934 年証券取引法(15 U.S.C. 78a および以下) は、第 4条 Bの後に以下を挿入することによ

って改正される:

「第 4条 C SEC への出頭と実務の遂行 <<15 USC 78d-3.>>

(a) 譴責権限

SEC は、通知を与え、問題についての聴聞の機会を与えた後、ある者が以下であると判断した場

合、その者を譴責し、その者に対して SEC に出頭し、実務を遂行する特権を一時的あるいは恒久

的に否認することができる:

(1) 他者を代表するために必要な資格を有しない、

(2) 品性あるいは廉潔性に欠ける、あるいは非倫理的ないし不適切な職業上の行為に従事してい

た、あるいは

(3) 証券諸法あるいはその下に発せられたルールや規則の規定に故意に違反した、あるいはその

違反を故意に幇助、教唆した。

(b) 定義

登録会計事務所あるいはその関係者に関して、本条において、『不適切な職業上の行為』という

用語は、次を意味する:

(1) 適用職務基準の違反につながる、無謀行為を含む、意図的あるいは故意の行為、および

(2) 以下の形態の過失行為、

(A) 適用職務基準の違反につながる非常に非合理的な 1 回の行為で、高度な精査が当然に必要と

されることを登録会計事務所あるいはその関係者が知っている、あるいは知っているべき状況に

おけるもの、あるいは

(B) それぞれ適用職務基準の違反につながる非合理的な反復的行為で、SEC での実務遂行の能力

の欠如を示すもの」。

第 603 条 投機的低位株取引禁止を科す連邦裁判所の権限

(a) 1934 年証券取引法

本法によって改正された 1934 年証券取引法第 21 条(d)(15 U.S.C. 78u(d))は、最後に以下を挿

入することによって改正される:

「(6)投機的低位株(penny stock)オファーへのある人々の参加を禁じる裁判所の権限

(A) 一般規定

裁判所は、投機的低位株オファーに参加している者、あるいは申し立てられている違法行為の時

点でそれに参加していた者に対しての(1)項の下での手続きにおいて、条件付であるいは無条件

に、また恒久的にあるいは裁判所が決定する期間、その者が投機的低位株オファーに参加するこ

とを禁じることができる。

(B) 定義

本項において、『投機的低位株オファーに参加している者』とは、ブローカー、ディーラーある

いは発行体とともに投機的低位株の発行、取引、あるいはその購入または売却の勧誘、そうした

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150

勧誘の計画を目的とする活動に従事している者を含む。SEC は、ルールまたは規則により、その

用語を定義して他の活動を含めることができる、またルールまたは規則あるいは命令により、何

らかの人あるいは人の部類を、全体的にあるいは部分的に、その用語の対象から除外することが

できる」。

[[ページ 116 STAT. 795]]

(b) 1933 年証券法

1933 年証券法第 20 条(15 U.S.C. 77t)は、最後に以下を加えることによって改正される:

「(g) 投機的低位株オファーへのある人々の参加を禁じる裁判所の権限

(1) 一般規定

裁判所は、投機的低位株オファーに参加している者、あるいは申し立てられている違法行為の時

点でそれに参加していた者に対しての(a)項の下での手続きにおいて、条件付きであるいは無条

件に、また恒久的あるいは裁判所が決定する期間、その者が投機的低位株オファーに参加するこ

とを禁じることができる。

(2) 定義

本条において、『投機的低位株提供に参加している者』とは、ブローカー、ディーラーあるいは

発行体とともに投機的低位株の発行、取引、あるいはその購入または売却の勧誘、そうした勧誘

の計画を目的とする活動に従事している者を含む。SEC は、ルールまたは規則により、その用語

を定義して他の活動を含めることができる、またルールまたは規則あるいは命令により、何らか

の人あるいは人のクラスを、全体的にあるいは部分的に、条件付きであるいは無条件に、その用

語の対象から除外することができる」。

第 604 条 ブローカーおよびディーラーの関係者の資格

(a) ブローカーおよびディーラー

1934 年証券取引法第 15 条(b)(4)(15 U.S.C. 78o)は、以下の通り改正される:

(1) (F)項を削除し、以下を挿入することによって:

「(F) その者がブローカーあるいはディーラーの関係者となる権利を禁ずる、あるいはそれを停

止する SEC の命令の対象となる」、および

(2) (G)項において、最後のピリオドを削除し、以下を挿入することによって、

「、あるいは」

「(H) 州の証券委員会(あるいは同様な機能を果たす機関あるいは官職)、あるいは銀行、貯蓄

組合、信用組合を監督、検査する州の監督当局、州の保険委員会(あるいは同様な機能を果たす

機関あるいは官職)、適切な連邦銀行業監督機関(連邦預金保険法第 3 条(12 U.S.C. 1813(q))

で定義)、あるいは全米信用組合管理局の最終的命令の対象となる。その命令は、

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151

(i) その者が、それらの委員会、当局、機関あるいは官職によって登録されている主体の関係者

となることを禁ずる、あるいは証券、保険、銀行業、貯蓄組合の活動あるいは信用組合の活動に

従事することを禁ずる、あるいは

[[ページ 116 STAT. 796]]

(ii) 詐欺的行為、操作的行為、あるいは欺瞞的行為を禁止する法律あるいは規則の違反を根拠

とする最終的命令を構成するものである」。

(b) 投資顧問

1940 年投資顧問法の第 203 条(e)(15 U.S.C. 80b-3(e))は、以下の通り改正される。

(1) (7)項を削除し、以下を挿入することによって改正される:

「(7) その者が投資顧問の関係者となる権利を禁ずる、あるいはそれを停止する SEC の命令の対

象となる」、

(2) (8)項において、最後のピリオドを削除し、「、あるいは」を挿入する、また

(3) 最後に以下を加えることによって、

「(9) 州の証券委員会(あるいは同様な機能を果たす機関あるいは官職)、あるいは銀行、貯蓄

組合、信用組合を監督、検査する州の監督当局、州の保険委員会(あるいは同様な機能を果たす

機関あるいは官職)、適切な連邦銀行業監督機関(連邦預金保険法第 3 条(12 U.S.C. 1813(q))

で定義)、あるいは全米信用組合管理局の最終的命令の対象となる、その命令は 、

(A) その者が、それらの委員会、当局、機関あるいは官職によって登録されている主体の関係者

となることを禁ずる、あるいは証券、保険、銀行業、貯蓄組合の活動あるいは信用組合の活動に

従事することを禁ずる、あるいは

(B) 詐欺的行為、操作的行為、あるいは欺瞞的行為を禁止する法律あるいは規則の違反を根拠と

する最終的命令を構成するものである」。

(c) 整合改正

(1) 1934 年証券取引法

1934 年証券取引法(15 U.S.C. 78a et seq.)は以下によって改正される:

(A) 第 3 条(a)(39)(F) (15 U.S.C.78c(a)(39)(F))において、

(i) 「あるいは(G)」を削除し、「(H)、あるいは(G)」を挿入する、また

(ii) 「列挙された」の前に「、あるいは命令または答申の対象となる」を挿入する。

(B) 第 15 条(b)(6)(A)(i) (15 U.S.C.78o(b)(6)(A)(i))、第 15 条 B(c) (15 U.S.C. 78o-4(c))

の(2)項および(4)項、および第 15 条 C(c)(1) (15 U.S.C. 78o-5(c)(1))の(A)項および(C)項の

それぞれにおいて、

(i) 「あるいは(G)」が現れるたびにそれを削除し、「(H)、あるいは(G)」を挿入する、また

(ii)「あるいは不作為」が現れるたびにそれを削除し、「、あるいは命令または答申の対象とな

る」を挿入する。

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152

(C) 第 17 条 A(c) (15 U.S.C. 78q-1(c))の(3)(A)項および(4)(C)項において

(i) 「あるいは(G)」が現れるたびにそれを削除し、「(H)、あるいは(G)」を挿入する、また

(ii) 「列挙された」が現れるたびにその前に「、あるいは命令または答申の対象となる」を挿

入する。

(2) 1940 年投資顧問法

1940 年投資顧問法の第 203 条(f)(15 U.S.C. 80b-3(f))は以下によって改正される:

(A) 「あるいは(8)」を削除し、「(8)あるいは(9)」を挿入する、また

(B) 「あるいは(3)」を「条項(2)」の後に挿入する。

[[ページ 116 STAT. 797]]

タイトル VII—調査および報告

第 701 条 会計事務所の整理統合に関する会計検査院(GAO)の調査と報告 <<15 USC 7201

note.>>

(a) 必要な調査

米国会計検査院長は、以下の調査を行うものとする:

(1) 次の特定、確認:

(A) 1989 年以来、会計事務所の整理統合を促し、結果として、証券諸法の対象となる国内およ

び多国籍の大企業に監査サービスを提供する能力のある事務所の数の減少をもたらした要因、

(B) (A)項で記述された条件が国内的および国際的に資本形成および証券市場に対して及ぼす現

在および将来の影響、および

(C) (B)項で確認された問題に対する解決策、それには競争の拡大および証券諸法の対象となる

国内および多国籍の大企業に監査サービスを提供する能力のある事務所の数を増加させるため

の方法が含まれる。

(2) 企業が直面している、会計事務所間の競争が限られていることから生じている次に挙げるよ

うな問題:

(A) 割高なコスト

(B) サービスの質の低さ

(C) 監査人の独立性の阻害、あるいは

(D) 選択の欠如。

(3) 連邦または州の規制が会計事務所間の競争を阻害しているか、またそうだとすればどの程度

か。

(b) 協議

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153

本条の下での調査の計画立案および実施において、会計検査院長は以下と協議を行うものとす

る:

(1) SEC

(2) 先進 7 ヵ国の他の加盟国における SEC と類似の機能を果たしている規制機関

(3) 法務省、および

(4) その他、会計検査院長が適切と考える公的部門あるいは民間部門の組織。

(c) 報告の必要

<<最終期限>> 会計検査院長は、本法の成立日から 1年以内に、本条の要求する調査の結果につ

いての報告書を上院銀行住宅都市委員会および下院金融サービス委員会に提出しなければなら

ない。

第 702 条 信用格付け機関に関する SEC の調査と報告

(a) 必要な調査

(1) 一般規定

SEC は証券市場における信用格付け機関の役割と機能について調査を行うものとする。

(2) 検討の範囲

本条によって要求される調査は以下を調べるものとする:

(A) 証券の発行体の評価における信用格付け機関の役割

[[ページ 116 STAT. 798]]

(B) 投資家と証券市場の機能にとっての信用格付け機関の役割

(C) 証券発行体の財務資源とリスクに関する信用格付け機関による正確な査定にとっての障害

(D) 信用格付け機関として事業に参入する際の障壁およびそうした障壁を除去するのに必要な

措置

(E) 信用格付け機関が信用格付けを発表する場合、資源とリスクに関する情報をより広く伝える

のに必要な措置、および

(F) 信用格付け機関の活動における利益相反の問題およびそうした利益相反を防止する、あるい

は利益相反を改善するための措置。

(b) 報告の必要

<<最終期限>> SEC は、本法の成立から 180 日以内に、(a)項の要求する調査についての報告書を

大統領、下院金融サービス委員会および上院銀行住宅都市委員会に提出しなければならない。

第 703 条 違反者および違反についての調査と報告

(a) 調査

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154

SEC は、1998 年 1 月 1日から 2001 年 12 月 31 日の期間の情報に基づいて、以下を確定するため

の調査を行わなければならない:

(1)会計士、会計事務所、投資銀行、投資顧問、ブローカー、ディーラー、その他 SEC の面前で

実務を行っている証券専門家として定義され、以下であることが確認された証券専門家の数:

(A) 連邦証券諸法およびその下で公布されているルールや規則(本条では集合的に「連邦証券諸

法」と呼ぶ)の違反を幇助、教唆したことが確認されているが、行政処分あるいは民事手続きに

おいて、またそうした処分や手続きの和解において主たる違反者としての制裁や懲戒、その他の

罰を受けなかった者(本条では「幇助者および教唆者」と呼ぶ)、および

(B) 連邦証券諸法の主たる違反者であったことが確認された者。

(2) 幇助者および教唆者によって、また主たる違反者によって犯された連邦証券諸法違反の詳細、

以下を含む:

(A) 違反のあった連邦証券諸法の具体的な条項

(B) それらの幇助者、教唆者、および主たる違反者に科せられた具体的な制裁および罰則、それ

には査定された罰金額およびそれらの者から徴収された金額が含まれる。

(C) 幇助者、教唆者、あるいは主たる違反者として、同じ人物あるいは同じ人物たちによる複数

の違反の発生状況、および

(D) それらの違反者に関して、譴責、SEC の面前での実務の遂行の停止、一時的禁止、あるいは

恒久的禁止を含め、懲戒的制裁が科せられたか否か。

[[ページ 116 STAT. 799]]

(3) 不正利益引渡し、損害賠償、あるいはその他、SEC がそれらの幇助者、教唆者に対して、ま

た主たる違反者に対して科した罰金またはそれら者からの徴収した支払いの額。

(b) 報告

(a)項に従って行われた調査に基づく報告書が、本法の成立日から 6 ヵ月以内に上院銀行住宅都

市委員会および下院金融サービス委員会に提出しなければならない。

第 704 条 強制措置の調査

(a) 必要な調査

SEC は、本法の成立日に先立つ 5 年間について、証券諸法の下で課せられた報告要件の違反およ

び財務諸表の修正に関わる SEC の強制措置のすべての見直しと分析を行い、欺瞞行為、不適切な

操作、不適切な収益管理が最も行われやすい、オフ・バランス・シートの特別目的事業体の収益

認識や会計処理のような領域を確定しなければならない。

(b) <<最終期限>> 報告の必要

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155

SEC は、その調査結果を本法の成立日から 180 日以内に下院金融サービス委員会および上院銀行

住宅都市委員会に報告しなければならない、またそのルールおよび規則の改定が必要な場合には、

その改定に調査結果を利用する。報告には、調査の中で確認された問題に対処するために勧めら

れる、あるいは必要と思われる規制上の措置や立法上の措置に関する議論を含めるものとする。

第 705 条 投資銀行の調査

(a) GAO の調査

米国会計検査院長は、投資銀行および財務アドバイザーが公開企業によるその収益の操作、その

真の財務状況の曖昧化に手を貸したかどうかについての調査を行わなければならない。この調査

は以下における投資銀行および財務アドバイザーの規律に向けられるべきである:

(1) エンロン社の崩壊において:会社の報告する財務諸表を、会社の真の財務状況を覆い隠す方

向に変えてしまう効果を有したと思われるデリバティブ取引や特別目的事業体に関わる取引、そ

の他の財務調整の設計および実施に関するものを含む、

(2) グローバル・クロッシングの破綻において:光ファイバー容量のスワップに関わる取引に関

するものや会社の報告する財務諸表を、会社の真の財務状況を覆い隠す方向に変えてしまう効果

を有したと思われる取引の設計におけるものを含む、また

(3) 一般に、会社が収入の流れを操作して、融資を得ることができるようにする、あるいは会社

が直面している経済的、事業上のリスクには何ら変わりはないのに、負債をバランス・シートか

ら外すことができるようにすることのみを目的とした取引や会社の真の財務状況を覆い隠すた

めの他のメカニズムの創出やマーケティングにおけるもの。

(b) 報告

<<最終期限>> 会計検査院長は、本法の成立日から 180 日以内に、本状の要求する調査結果につ

いて議会に報告しなければならない。その報告は、調査において明らかにされた問題に対処する

のに勧められる、あるいは必要と思われる規制上あるいは立法上の措置に関する議論を含むもの

とする。

[[ページ 116 STAT. 800]]

タイトル VIII--企業における刑事上の詐欺行為責任 <<2002 年企業における刑事上の詐欺行

為責任法>>

第 801 条 略称 <<18 USC 1501 note.>>

本タイトルは、「2002 年企業における刑事上の詐欺行為責任法」として引用される場合がある。

第 802 条 資料変造に関する刑事罰

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156

(a) 一般規定

連邦法典タイトル 18 第 78 章は最後に以下を加えることによって改正される:

「第 1519 条 連邦調査および破産の記録の破壊、変造あるいは偽造

米国の省あるいは庁の管轄する問題あるいはタイトル 11 の下で提起された訴訟ケースについて

の、あるいはそうした問題やケースに関連して、あるいはそれらを考慮して行われる調査または

適切な行政を阻害または妨害する、あるいは影響を与える意図で、故意に記録、資料、または有

形物に対して破壊、毀損、隠蔽、もみ消し、偽造あるいは虚偽の記入を行う者は誰でも本タイト

ルの下、罰金または 20 年以下の収監、あるいはその双方を科せられるものとする」。

「第 1520 条 会社の監査記録の破壊

(a)(1) 1934 年証券取引法第 10 条 A(a)(15 U.S.C. 78j-1(a))が適用される証券の発行体の監査

を行う会計士は、監査あるいは見直しが完了した会計年度の終わりから 15 年間、すべての監査

あるいは見直しの作業文書を保存しなければならない。

(2) <<規則>> 証券取引委員会は180日以内に、適切な通知とコメントのための機会を設けた後、

1934 年証券取引法第 10 条 A(a)(15 U.S.C. 78j-1(a))が適用される証券の発行体の監査を行う会

計士によって行われる監査あるいは見直しに関連して作成、送付、受領され、その監査あるいは

見直しに関連した結論、意見、分析、または財務データを含む作業文書、監査あるいは見直しの

基礎をなす資料、覚書、連絡文、通信文、その他の資料および記録(電子的記録を含む)などの

関連記録の保存に関わる、合理的に必要と考えられるルールおよび規則を公布しなければならな

い。SEC は本条の下で公布することを要求されているルールおよび規則を適宜、適切な通知とコ

メントの機会を設けた後、改正あるいは補足して、それらのルールおよび規則を本条の目的に適

合したものにすることができる。

(b) (a)(1)項、および証券取引委員会によって(a)(2)項の下で公布されたルールまたは規則に故

意に違反するものは誰でも本タイトルの下、罰金または 10 年以下の収監、あるいはその双方を

科せられるものとする」。

(c) 本条のいかなる規定も、連邦または州の法または規則により課せられている、資料を保存す

る義務あるいはそれを破壊しないでおく義務を軽減ないし免除するものと見なされてはならな

い」。

[[ページ 116 STAT. 801]]

(b) 事務的改正

連邦法典タイトル 18 第 73 章の初めの部分における条項の目次は、最後に以下の新しい項目を加

えることによって改正される:

「1519. 連邦調査および破産の記録の破壊、変造あるいは偽造

1520. 会社の監査記録の破壊」。

第 803 条 証券詐欺諸法の違反で発生した免責されない負債

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157

連邦法典タイトル 11 の第 523 条(a)は、以下によって改正される:

(1) (17)項において、セミコロンの後の「あるいは」を削除する、

(2) (18)項において、最後のピリオドを削除し、「;あるいは」を挿入する、また

(3) 最後に以下を加える:

「(19) それは(that)--

(A) 以下に関する:

(i) 連邦の証券諸法(1934 年証券取引法第 3 条(a)(47) で定義)、州の証券諸法あるいは連邦

または州の証券諸法の下で発せられた規則あるいは命令の違反、あるいは

(ii) 証券の購入あるいは売却に関連しての判例法(Common Law)上の不正、詐欺、操作、およ

(B) 以下から生じる:

(i) 連邦あるいは州の司法または行政上の手続きで示された判決、命令、同意審決または決定、

(ii) 債務者が締結した和解合意、あるいは

(iii) 損害賠償、罰金、科料、是正命令、補償金支払い、不正利益引渡し支払い、弁護士手数料、

経費、その他、債務者が義務を負う支払いを求める裁判所あるいは行政上の命令」。

第 804 条 証券詐欺に関する制限法規

(a) 一般規定

連邦法典タイトル 28 第 1658 条は以下により改正される:

(1) 「除いて」の前に「(a)」を挿入する、また

(2) 最後に以下を加える:

「(b) (a)項に関わらず、1934 年証券取引法第 3 条(a)(47)(15 U.S.C. 78c(a)(47))で定義され

た証券諸法の規制要件に違反した欺瞞行為、詐欺、操作、計略の主張に関わる私的な訴訟の権利

は、以下のいずれか早い方の時点まで行使することができる:

(1) その違反を構成する事実の発見から 2 年後、あるいは

(2) その違反から 5 年後」。

(b) 発効日 <<28 USC 1658 note.>>

本条によって付加された連邦法典タイトル 28 第 1658 条(b)によって規定された制限期間は、本

法の成立日以降に開始され、本条の対象となっているすべての手続きに適用されるものとする。

(c) 訴訟の創出の否定 <<28 USC 1658 note.>>

本条のいかなる規定も新しい訴訟の私的権利を創出するものではない。

[[ページ 116 STAT. 802]]

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158

第 805 条 司法妨害および大規模な詐欺犯罪に関する連邦量刑ガイドラインの見直し<<28 USC

994 note.>>

(a) 詐欺および司法妨害に関する量刑強化

連邦法典タイトル 28 第 994 条により、また本条に従い、米国量刑委員会は、以下を確保するた

め、連邦量刑ガイドラインおよび関連政策表明の見直しを行い、適切な改正を行うものとする:

(1) 司法妨害に関する米国量刑ガイドライン 2J1.2 に含まれる基礎犯罪レベルおよび量刑加重

が、そうした活動を抑止し、罰するのに十分である。

(2)量刑強化と司法妨害に関連した具体的な犯罪の特徴づけが以下の場合に適切で十分である:

(A) 証拠の破壊、変造、あるいは偽造が、

(i) 大量の証拠、多数の参加者に関わっている、あるいは他の仕方で大規模である、

(ii) 調査にとって特に立証力があり、重要である証拠を選んで行われている、あるいは

(iii) 最低限以上の計画性を備えている、あるいは

(B) その犯罪が特別な専門的技術あるいは信頼される立場を濫用して行われている。

(3) 本タイトルによって付加された連邦法典タイトル 18 の第 1519 条あるいは第 1520 条の違反

に関するガイドラインの犯罪レベルおよび量刑強化がそうした活動を罰し、抑止するのに十分で

ある。

(4) 多数の犠牲者の支払能力あるいは財務上の安全性を危うくする詐欺的犯罪に関して、具体的

な犯罪特徴による強化量刑が米国量刑ガイドライン 2B1.1(本法の成立日に実施されている)の

下で規定されている。

(5) 米国量刑ガイドライン第 8 章における組織に適用されるガイドラインは、組織の犯罪行為を

罰し、抑止するのに十分である。

(b) 緊急措置権と委員会の措置の最終期限

<<最終期限>> 米国量刑委員会は、可能な限り早急に、またいかなる場合にも本法の成立日から

180 日以内に、本条の下で規定されたガイドラインあるいは改正点を、1987 年量刑改革法第 219

条(a)で規定された手順に従い、あたかもその法の下での権限が解除されていないかのごとく、

公布することを要求される。

第 806 条 詐欺的行為の証拠を提供する、公開企業の従業員の保護

(a) 一般規定

連邦法典タイトル 18 第 73 章は、第 1514 条の後に以下を挿入することによって改正される:

「第 1514 条 A 詐欺事件での報復に対する保護のための民事訴訟

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159

(a) 公開企業の従業員に関する内部告発者保護

1934 年証券取引法第 12 条(15 U.S.C. 78l)の下で証券が登録されている、あるいは 1934 年証券

取引法第 15 条(d)(15 U.S.C. 78o(d))の下で報告書の提出を要求されているいかなる企業も、ま

たそうした企業の役員、従業員、請負業者、下請け業者、あるいは代理人も、その企業の従業員

が行った以下の合法的な行為の故に、その従業員に対して解雇、降格、停職、脅し、嫌がらせ、

その他、雇用の条件の面での差別などの措置を行ってはならない。

[[ページ 116 STAT. 803]]

(1) 下記に対して情報または支援が提供される時、あるいは下記によって調査が実施される時、

第 1341 条、第 1343 条、第 1344 条、第 1348 条あるいは証券取引委員会のルールまたは規則、株

主に対する詐欺的行為に関連する連邦法の規定に対する違反を構成すると従業員が合理的に信

ずる行為についての調査に情報を提供する、あるいは情報が供給されるようにする、その他の仕

方で支援すること、

(A) 連邦の規制機関あるいは法執行機関、

(B) 議会あるいは議会委員会のメンバー、または

(C) 従業員に対して監視権限を有する人物(あるいは雇用主のために働き、不正行為を調査、発

見し、それを止めさせる権限を有する人物)、あるいは

(2) 第 1341 条、第 1343 条、第 1344 条、第 1348 条あるいは証券取引委員会のルールまたは規則、

株主に対する詐欺的行為に関連する連邦法の規定について申し立てられている違反を告訴する

こと、それが告訴されるようにすること、起こされている訴訟、あるいは起こされようとしてい

る訴訟に参加、証言、その他の支援を行うこと。

(b) 強制措置

(1) 一般規定

(a)項に違反している者による解雇やその他の差別を申し立てる人は、以下により(c)項の下での

救済を求めることができる:

(A) 労働長官に訴えを提出する、あるいは

(B) 長官が訴えの提出から 180 日に最終的判断を出さず、その遅れが申し立て者の背信によるも

のであることを示すことができない場合、連邦の適切な地方裁判所に改めての見直しを求めて、

法律あるいは衡平法による訴訟を提起する、この場合、裁判所は争いの額に関わりなくそうした

訴訟の管轄権を有する。

(2) 手続き

(A) 一般規定

上記(1)(A)項の下での訴訟は、連邦法典タイトル 49 第 42121 条(b)で規定された規則と手順に従

って行われる。

(B) 例外

連邦法典タイトル 49 第 42121 条(b)(1)の下で行われる通知は、訴えの中で名指しされた人およ

び雇用主に対して行われるものとする。

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160

(C) 立証責任

(1)(B)項の下で起こされた訴訟は、連邦法典タイトル 49 第 42121 条(b)で規定された法的立証責

任に従う。

(D) <<最終期限>> 法定の制限

(1)項の下での訴訟は、違反発生の日から 90 日以内に開始されなければならない。

(c) 救済

(1) 一般規定

条項(b)(1)の下での訴訟に勝訴する従業員は、その従業員をもとの完全な状態にするのに 必要

なすべての救済を受ける資格があるものとする。

[[ページ 116 STAT. 804]]

(2) 補償的損害賠償

(1)項の下での訴訟の場合の救済には以下が含まれる:

(A) 差別がなかった場合にその従業員が得たであろうものと同じ年功地位の復位

(B) 利息付きでの未払い賃金、および

(C) 訴訟費用、専門家証人手数料、および合理的な弁護士手数料を含め、差別の結果として受け

た特別損害の補償。

(d) 従業員の権利の維持

本条のいかなる規定も、連邦あるいは州の法の下での、あるいは労使協約の下での従業員の権利、

特権、救済を消滅させるものと解されてはならない」。

(b) 事務的改正

連邦法典タイトル 18 第 73 章の初めの部分における条項の目次は、第 1514 条に関連する項目の

後に以下の新しい項目を加えることによって改正される:

「1514A. 詐欺事件での報復に対する保護のための民事訴訟 」。

第 807 条 公開企業の株主に対する詐取に関する刑事罰

(a) 一般規定

連邦法典タイトル 18 第 63 章は、最後に以下を挿入することによって改正される:

「第 1348 条 証券詐欺

故意に以下の計画あるいは計略を実行する、あるいは実行することを企てる者は誰でも本タイト

ルの下で罰金または 25 年以下の収監、あるいはその双方を科せられるものとする:

(1) 1934 年証券取引法第 12 条(15 U.S.C. 78l)の下で証券が登録されている、あるいは 1934 年

証券取引法第 15 条(d)(15 U.S.C. 78o(d))の下で報告書の提出を要求されている発行体の証券に

関係して、人を詐欺にかける、あるいは

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161

(2) 偽りあるいは欺瞞的な申し立て、表明、あるいは約束によって、1934 年証券取引法第 12 条

(15 U.S.C. 78l)の下で証券が登録されている、あるいは1934年証券取引法第15条(d)(15 U.S.C.

78o(d))の下で報告書の提出を要求されている発行体の証券の購入または売却に関係して金銭あ

るいは財産を入手する」。

(b) 事務的改正

連邦法典タイトル 18 第 63 章の初めの部分における条項の目次は、最後に以下を挿入することに

よって改正される:

「1348 証券詐欺」

タイトル IX-- ホワイトカラー犯罪の罰則強化 <<2002 年ホワイトカラー犯罪罰則強化法>>

第 901 条 略称 <<18 USC 1341 note.>>

本タイトルは、「2002 年ホワイトカラー犯罪罰則強化法」として引用される場合がある。

[[ページ 116 STAT. 805]]

第 902 条 詐欺犯罪の未遂および共謀

(a) 一般規定

連邦法典タイトル 18 第 63 章は、本法によって付加された第 1348 条の後に以下を挿入すること

によって改正される:

「第 1349 条 未遂および共謀

本章の犯罪を行うことを試みる者、あるいはそれを共謀する者は、その試みあるいは共謀の目的

であった犯罪に関して定められたものと同じ刑罰に服すものとする」。

(b) 事務的改正

連邦法典タイトル 18 第 63 章の初めの部分における条項の目次は、最後に以下を挿入することに

よって改正される:

「1349. 未遂と共謀」。

第 903 条 郵便詐欺および有線通信不正行為に関する刑事罰

(a) 郵便詐欺:連邦法典タイトル 18 第 1341 条は、「5(five)」を削除して「20」を挿入する

ことによって改正される。

(b) 有線通信不正行為:連邦法典タイトル 18 第 1343 条は、「5(five)」を削除して「20」を挿

入することによって改正される。

第 904 条 1974 年従業員退職所得保障法の違反に関する刑事罰

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1974 年従業員退職所得保障法(29 U.S.C. 1131)の第 501 条は、以下によって改正される:

(1)「5,000 ドル」を削除し、「10 万ドル」を挿入する。

(2)「1 年」を削除し、「10 年」を挿入する。

(3)「10 万ドル」を削除し、「50 万ドル」を挿入する。

第 905 条 一定のホワイトカラー犯罪に関する量刑ガイドラインの改正 <<28 USC 994 note.>>

(a) 米国量刑委員会に対する指令

連邦法典タイトル 18 第 994 条(b)の下での権限により、また本条に従い、米国量刑委員会は、本

条を実施するため、連邦量刑ガイドラインおよび関連の政策表明の見直しを行い、適切な改正を

行うものとする。

(b) 要件

本条の遂行において、量刑委員会は、

(1) 確実にその量刑ガイドラインおよび政策表明が、本法で述べられた犯罪および刑罰の重大性、

および上で特定された深刻な詐欺犯罪の増加、そしてそれらの犯罪を抑止、予防し、罰するため

に量刑ガイドラインおよび政策表明を修正する必要があることを反映したものにする、

(2) 本法によって改正された条項の違反に関するガイドライン犯罪レベルおよび量刑強化がそ

うした犯罪を抑止し、罰するのに十分であるか、特に本法に含まれる法定上の刑罰強化から見て

適切かどうかの問題について、ガイドラインおよび政策表明がどの程度まで適切に扱っているか

を検討する、

(3) 関連する他の指令および量刑ガイドラインとの合理的な整合性を確保し、

(4) 一般に適用可能な量刑範囲の除外規定として、追加的に刑を重くする、あるいは軽減するこ

とを正当化する可能性のある状況を考慮に入れる、

[[ページ 116 STAT. 806]]

(5) 必要な整合的変更を量刑ガイドラインに対して行う、そして

(6) ガイドラインが連邦法典タイトル18の第3553条(a)(2)で規定された量刑の目的に十分適合

するものにしなければならない。

(c) 緊急措置権と委員会の措置の最終期限

<<最終期限>> 米国量刑委員会は、可能な限り早急に、またいかなる場合にも本法の成立日から

180 日以内に、本条の下で規定されたガイドラインあるいは改正点を、1987 年量刑改革法第 219

条(a)で規定された手順に従い、あたかもその法の下での権限が解除されていないかのごとく、

公布することを要求される。

第 906 条 財務報告書に関する企業の責任

(a) 一般規定

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163

連邦法典タイトル 18 第 63 章は、本法によって創設された第 1349 条の後に以下を挿入すること

によって改正される:

「第 1350 条 会社役員による財務報告書確証の不履行

(a) 定期財務報告書の確証

発行体により、1934 年証券取引法の第 13 条(a)あるいは第 15 条(d) (15 U.S.C. 78m(a) あるい

は 78o(d))に従って証券取引委員会に提出される財務諸表を含む定期的報告書はそれぞれ、その

発行体の最高経営責任者および最高財務責任者(あるいはそれに相当する者)による言明書を添

付しなければならない。

(b) 内容

(a)項の下で要求されている言明書は、財務諸表を含むその定期報告書が 1934 年証券取引法の第

13 条(a)あるいは第 15 条(d) (15 U.S.C. 78m(a) あるいは 78o(d))の要件を完全に順守するも

のであること、また定期報告書に含まれる情報は、あらゆる実質的な点に関して、発行体の財務

状況およびその活動結果を公正に表示するものであることを確証するものでなければならない。

(c) 刑事罰

誰であれ、

(1) 本条の(a)項および(b)項で述べられた言明について、それを伴う定期報告書が本条に規定さ

れたすべての要件に適合するものではないことを知りながら、その言明を確証する者は、100 万

ドル以下の罰金または 10 年以下の収監、あるいはその両方を科せられる。

また、

(2) 本条の(a)項および(b)項で述べられた言明について、それを伴う定期報告書が本条に規定さ

れたすべての要件に適合するものではないことを知りながら、故意にその言明を確証する者は、

500 万ドル以下の罰金または 20 年以下の収監、あるいはその両方を科せられる」。

(b) 事務的改正

連邦法典タイトル 18 第 63 章の初めの部分における条項の目次は、最後に以下を挿入することに

よって改正される:

「1350. 会社役員による財務報告書確証の不履行」。

[[ページ 116 STAT. 807]]

タイトル X—法人税申告書

第 1001 条 最高経営責任者による法人税申告書への署名に関する上院の見解

企業の連邦所得税申告書にはその企業の最高経営責任者が署名すべきであるというのが上院の

見解である。

タイトル XI-- 企業の詐欺行為責任 <<2002 年企業詐欺行為責任法>>

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164

第 1101 条 略称 <<15 USC 78a note.>>

本タイトルは「2002 年企業詐欺行為責任法」として引用される場合がある。

第 1102 条 記録の改竄あるいはその他による公的手続きの妨害

連邦法典タイトル 18 第 1512 条は、以下によって改正される:

(1) (c)項から(i)項までをそれぞれ、(d)項から(j)までと項目表示を変える。

(2) (b)項の後に次の新しい条項を挿入する:

「(c) 不正に以下を行う者は誰でも、本タイトルの下で罰金また 20 年以下の収監、あるいはそ

の両方を科せられるものとする:

(1) 記録、文書、その他の物の完全性を損なう、あるいは公的手続きにおけるその利用可能性を

損なう意図でもって、それらの変造、破壊、毀損、あるいは隠蔽を行う、またはそれらを行うこ

とを試みる、あるいは

(2) 他の仕方で公的手続きを妨害する、それに影響を与える、阻害する、またはそれらを行うこ

とを試みる。」

第 1103 条 証券取引委員会の暫定凍結権限

(a) 一般規定

1934 年証券取引法第 21 条 C(c)(15 U.S.C. 78u-3(c))は、最後に以下を加えることによって改正

される:

「(3) 暫定凍結

(A) 一般規定

(i) 暫定命令の発令

公開で取引されている証券の発行体による、あるいはその取締役、役員、パートナー、統括者、

代理人、あるいは従業員による連邦証券諸法の可能的違反に関わる合法的調査の過程で、その発

行体が前記の者たちに異常な支払い(報酬か他の方法かを問わず)を行うとしている可能性が高

いと SEC に思われる場合は常に、SEC は連邦地方裁判所に対して、その発行体がその支払いを 45

日間、裁判所の監視の下、利息付勘定に第三者預託するよう要求する暫定命令を請求することが

できる。

(ii) 標準

暫定命令は(i)項の下、通知および聴聞の機会を設けた後にのみ登録されるものとする、ただし、

裁判所が命令の登録に先立っての通知および聴聞は実行不可能である、あるいは公共の利益に反

すると判断する場合は別とする。

[[ページ 116 STAT. 808]]

(iii) 有効期間

(i)項の下で出される暫定命令は、

(I) 直ちに有効となり、

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165

(II) その対象となる当事者に送付される、また

(III) 管轄権を有する裁判所によって破棄、制限、あるいは停止が行われない限り、45 日間、

有効であり、強行可能である。

(iv) 延長の許可

裁判所は、本条項の下での命令の有効期間を、示された正当な理由に基づいて 45 日を超えない

範囲でさらに延長することができる、ただし、合計で命令の期間は 90 日間を超えないものとす

る。

(B) 違反決定の過程

(i) 違反で起訴された場合

発行体あるいは(A)で記述された他の者が、(A)項の下での暫定命令の有効期間(適用される延長

期間を含む)の終了前に、連邦証券諸法の違反で起訴された場合、命令は、裁判所の承認を条件

として、それに関連する法的手続きの結論が出るまで、有効である。それによって影響を受ける

発行体あるいは他の者は裁判所に対して命令の見直しを請求する権利を有するものとする。

(ii) 違反で起訴されなかった場合

発行体あるいは(A)で記述された他の者が、(A)項の下での暫定命令の有効期間(適用される延長

期間を含む)の終了前に、連邦証券諸法の違反で起訴されない場合、第三者預託は 45 日の有効

期間の満了(あるいは、該当する場合、延長期間の満了)時点で終了し、問題にされていた支払

い金(経過利息とともに)は発行体あるいは他の関係者に返還されるものとする」。

(b) 事務的改正

1934 年証券取引法第 21 条 C(c)(2)(15 U.S.C. 78u-3(c)(2))は、「これ」を削除し、「(1)項」

を挿入することによって改正される。

第 1104 条 <<注: 28 USC 994 note.>> 連邦量刑ガイドラインの改正

(a) 米国量刑委員会による早急な検討の必要

米国量刑委員会は、連邦法典タイトル 28 第 994 条(p)の下での権限により、また本条に従い、以

下を行うことが要求される:

(1) 証券詐欺、会計詐欺および関連の犯罪に適用される量刑ガイドラインを早急に見直すこと、

(2) 詐欺行為および関連の犯罪を行う公開企業の役員あるいは取締役に関して量刑強化するた

め、新量刑ガイドラインの公布あるいは既存の量刑ガイドラインの改正に関して迅速に検討する

こと、

(3) 量刑委員会が(2)項に基づいて講じた措置に関する説明、および(1)項で記述した犯罪との闘

いに関する量刑委員会の追加の政策的勧告を議会に提出すること。

[[ページ 116 STAT. 809]]

(b) 見直しにおける考慮事項

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166

本条の遂行において、量刑委員会には以下が要求される:

(1) 量刑ガイドラインおよび政策表明が、証券、年金、会計などの詐欺の重大性およびそうした

犯罪を防止するための積極的で適切な法執行措置の必要性を反映したものにすること、

(2) 関連する他の指令や他のガイドラインとの合理的な整合性を確保すること、

(3) 量刑ガイドラインが現在、量刑加重を規定している状況を含め、除外規定として刑の加重あ

るいは軽減を正当化する可能性のある状況を考慮に入れること、

(4) 司法妨害の犯罪に関するガイドライン犯罪レベルと量刑加重が、文書や他の物的証拠が現実

に破壊あるいは偽造された場合についても十分なものとなるようにすること、

(5) 米国量刑ガイドライン 2B1.1(本法の成立日時点に実施されているもの)の下でのガイドラ

イン犯罪レベルと量刑加重が、損害を蒙る形で関与した被害者の数が 50 人を大きく越える場合

の詐欺犯罪に関しても十分なものとなるようにすること、

(6) 量刑ガイドラインに必要な整合修正を加えること、および

(7) ガイドラインが連邦法典タイトル18の第3553条(a)(2)で規定された量刑の目的に十分適合

するものにすること。

(c) 緊急措置権と委員会の措置の最終期限

<<最終期限>> 米国量刑委員会は、可能な限り早急に、またいかなる場合にも本法の成立日から

180 日以内に、本条の下で規定されたガイドラインあるいは改正点を、1987 年量刑改革法第 219

条(a)で規定された手順に従い、あたかもその法の下での権限が解除されていないかのごとく、

公布することを要求される。

第 1105 条 人が役員あるいは取締役として働くことを禁ずる SEC の権限

(a) 1934 年証券取引法

1934 年証券取引法第 21 条 C(15 U.S.C. 78u-3)は最後に以下を加えることによって改正される:

「(f) 人が役員あるいは取締役として働くことを禁ずる SEC の権限

SEC は、(a)項の下での停止手続きにおいて、第 10 条(b)あるいはその下のルールまたは規則に

違反した者について、その者の行動が、第 12 条に基づいて証券が登録されている、あるいは第

15 条(d)の下で報告書の提出を要求されている発行体の役員あるいは取締役として働くのに適

切でないことを示す場合、条件付きあるいは無条件で、また恒久的にあるいは SEC が定める期間、

その発行体の役員あるいは取締役として働くことを禁止する命令を発することができる」。

(b) 1933 年証券法

1933 年証券法の第 8条 A(15 U.S.C. 77h-1)は、最後に以下を加えることによって改正される:

[[ページ 116 STAT. 810]]

「(f) 人が役員あるいは取締役として働くことを禁ずる SEC の権限

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167

SEC は、(a)項の下での停止手続きにおいて、第 17 条(a)(1)あるいはその下のルールまたは規則

に違反した者について、その者の行動が、1934 年証券取引法第 12 条に基づいて証券が登録され

ている、あるいはその法の第 15 条(d)の下で報告書の提出を要求されている発行体の役員あるい

は取締役として働くのに適切でないことを示す場合、条件付あるいは無条件で、また恒久的にあ

るいは SEC が定める期間、その発行体の役員あるいは取締役として働くことを禁止する命令を発

することができる」。

第 1106 条 1934 年証券取引法の下での刑事罰の強化

1934 年証券取引法第 32 条(a)Section 32(a)(15 U.S.C.78ff(a)) は以下によって改正される:

(1)「100 万ドルまたは 10 年以内の収監」を削除し、「500 万ドルまたは 20 年以内の収監」を挿

入する、また

(2) 「250 万ドル」を削除し、「2,500 万ドル」を挿入する。

第 1107 条 情報提供者に対する報復

(a) 一般規定

連邦法典タイトル 18 第 1513 条は、最後に以下を加えることによって改正される:

「(e) <<罰則>> 人が連邦犯罪事件あるいは可能性のある連邦犯罪事件に関連する真実性のある

情報を法執行官に提供したことで、報復を意図して、その人の合法的な雇用や生計への干渉を含

め、その人に対して故意に有害な措置を講じる者は、本タイトルの下での罰金または 10 年以内

の収監、あるいはその双方を科せられるものとする」。

2002 年 7 月 30 日承認

立法過程--H.R. 3763 (S. 2673):

---------------------------------------------------------------------------

下院報告書: Nos. 107-414 (金融サービス委員会)および 107-610 (協議会委員会)。

上院報告書: No. 107-205 添付 S. 2673 (上院銀行住宅都市委員会)。

連邦議会議事録 Vol. 148 (2002):

4 月 24 日、下院で審議され通過。

7 月 15 日、上院で審議され通過、S. 2673 の代わりに改正。

7 月 25 日、下院および上院が協議会報告書に同意。

大統領文書編纂集 Vol. 38 (2002):

7 月 30 日、大統領の発言とステートメント

<以上>