第5章 中分解能人工衛星画像による調査対象州に

おける農業概況の解析

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第 5 章 中分解能人工衛星画像による調査対象州における農業概況の解析

5.1 中分解能人工衛星画像の選定

従来、Landsat は高分解能の人工衛星画像が撮影できる数少ない人工衛星の一つという位置

づけにあった。また、人工衛星は民生であり、観測した衛星画像は有料で販売されていた。

しかし、近年では、地上分解能 10m 未満の高分解能人工衛星の登場や、2003 年の機器トラ

ブルにより撮影画像の一部にデータ欠損が生じるといった問題が発生したこともあり、

USGS（U.S. Geological Survey）により無償で提供されるようになっている。

Landsat は常に同一のパスを撮影するように運用されており、同パスの時系列データは、基

本的にズレもなく重ね合わせることができる。したがって、土地被覆状況の変化などを定量

的に把握することが可能である。

なお、2003 年以降の Landsat 画像には、縞状のデータ欠損が含まれるものの、植被状態を

把握するには大きな支障にならないこと、また、複数の時系列画像で欠損領域を補うことも

できると判断し、本調査では、中分解能人工衛星画像としてLandsatを利用することにする。

5.2 植被状況の解析

5.2.1 使用データ

(1) データ仕様

• 衛星とセンサー名： Landsat 7 ETM+ (Enhanced Thematic Mapper Plus)

• 波長帯と分解能： Band 1 ：0.45～0.52 μm, 30m Band 2 ：0.52～0.60 μm, 30m Band 3 ：0.63～0.69 μm, 30m Band 4 ：0.76～0.90 μm, 30m Band 5 ：1.55～1.75 μm, 30m Band 61：10.4～12.5 μm, 60m Band 7 ：2.09～2.35 μm, 30m

(2) パラメータ

• 2000 年から 2008 年までの 9 年間 • 解析時期 ①冬作確認（4 月下旬から 5 月上旬まで）、②稲作確認（6 月下旬から 7 月

上旬まで）、③夏作確認（8 月下旬から 9 月上旬まで） • 詳細調査対象 3 州（バルフ州、クンドゥズ州、タハール州）及び比較対照州（ナンガハー

ル州）をカバーするためのシーン

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5.2.2 解析結果

(1) 植生域と非植生域の区分

NDVI は、定義より-1 から+1 の間の値をとり、相対的な植生の活性度を示すもので、マイナ

スになるのは、水などの植生がまったく無い時であるとされている。そこで、植生域と非植

生域を区分する閾値を 0 として、詳細調査対象 4 州のそれぞれの植生域の面積を求めた。

表 5.2.1 Landsat データによる NDVI の州別植生域面積（閾値 0） No. 州名 面積('000 Ha) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 最小値 最大値 平均値

2 タハール州 4月下旬のみ植生域の面積 647 542 761 672 808 767 758 757 593 542 808 7019月上旬のみ植生域の面積 114 115 130 737 348 398 330 266 305 114 737 305

3 クンドゥズ州 4月下旬のみ植生域の面積 371 196 280 418 360 494 482 397 278 196 494 3649月上旬のみ植生域の面積 141 148 160 420 245 245 268 261 212 141 420 233

5 バルフ州 4月下旬のみ植生域の面積 565 270 601 796 622 826 698 601 393 270 826 5979月上旬のみ植生域の面積 79 63 114 356 296 337 336 351 365 63 365 255

10 ナンガハール州 4月下旬のみ植生域の面積 173 214 232 328 298 380 326 277 281 173 380 2799月上旬のみ植生域の面積 153 563 175 243 239 260 300 281 196 153 563 268

表 5.2.2 MODIS データによる NDVI の州別植生域面積

No. 州名 面積('000 Ha) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 最小値 最大値 平均値

2 タハール州 4月下旬のみ植生域の面積 379 321 400 358 308 348 444 401 109 109 444 3419月上旬のみ植生域の面積 10 11 16 20 25 18 11 7 15 7 25 15

3 クンドゥズ州 4月下旬のみ植生域の面積 252 112 132 365 210 222 154 255 66 66 365 1969月上旬のみ植生域の面積 17 11 14 12 35 16 18 12 22 11 35 17

5 バルフ州 4月下旬のみ植生域の面積 198 93 326 707 210 336 446 453 68 68 707 3159月上旬のみ植生域の面積 24 21 24 26 33 33 17 21 21 17 33 24

10 ナンガハール州 4月下旬のみ植生域の面積 41 33 43 54 17 40 36 54 48 17 54 419月上旬のみ植生域の面積 10 22 16 9 23 29 17 16 12 9 29 17

Landsat データから抽出した各州の植生域の面積と、MODIS データから抽出した結果を比

較すると、2 倍以上の差があり、Landsat データの方が、過大に植生域を判別している傾向

が確認された。そのため、MODIS データから抽出した植生域の面積を補正対象として、

Landsat データから同程度の植生域が抽出できるように、植生域と非植生域を区分する閾値

を計算した。その結果、冬作（4 月下旬）では NDVI=0.075、夏作（9 月上旬）では NDVI=0.3が閾値として求められた。これにより、表 5-2-3 に示すように州別の植生面積が算出された。

なお、現地のグランドトルースなどによる植生被状況の詳細が未知であるため、植生域面積

を耕作が可能な土地の最大面積であると仮定して耕地面積としている。また、2003 年以降の

Landsat データの欠損に対しては、マスクデータから州内の欠損部分の面積を割り出して、

その割合を抽出した耕作面積に掛け合わせることで補正している。

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表 5.2.3 Landsat データによる州別耕地面積

No. 州名 面積(Ha) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 最小値 最大値 平均値

2 タハール州 冬季耕作地域 351,759 269,013 485,168 410,102 455,827 436,633 408,600 411,111 226,083 226,083 485,168 383,811夏季耕作地域 28,444 32,591 21,622 - 34,262 36,392 14,958 21,565 11,022 11,022 36,392 25,107（稲作） 1,418 9,314 9,459 - 11,546 19,628 4,902 5,886 5,988 1,418 19,628 8,518（稲作以外） 27,026 23,277 12,162 - 22,717 16,764 10,056 15,679 5,034 5,034 27,026 16,589

3 クンドゥズ州 冬季耕作地域 216,594 113,624 210,994 316,073 197,120 317,864 293,575 217,384 109,895 109,895 317,864 221,458夏季耕作地域 29,847 40,732 41,190 - 55,079 58,372 31,446 37,614 5,592 5,592 58,372 37,484（稲作） 1,457 6,841 11,041 - 13,204 29,570 8,121 9,074 2,223 1,457 29,570 10,191（稲作以外） 28,390 33,892 30,149 - 41,875 28,802 23,325 28,541 3,369 3,369 41,875 27,293

5 バルフ州 冬季耕作地域 292,337 119,544 400,328 - 234,513 337,569 238,404 197,758 92,046 92,046 400,328 239,062夏季耕作地域 2,632 2,242 12,458 10,458 11,041 14,555 10,226 13,810 2,505 2,242 14,555 8,881（稲作） 21 77 304 - 389 2,009 603 706 420 21 2,009 566（稲作以外） 2,612 2,164 12,154 - 10,652 12,546 9,623 13,105 2,085 2,085 13,105 8,118

10 ナンガハール州 冬季耕作地域 82,558 136,328 136,245 169,385 79,142 148,172 135,013 102,720 133,849 79,142 169,385 124,824夏季耕作地域 14,998 4,109 21,510 20,628 11,766 20,075 12,345 29,374 5,620 4,109 29,374 15,603（稲作） 982 - 2,342 - 1,114 1,495 1,588 3,196 523 523 3,196 1,606（稲作以外） 14,016 - 19,168 - 10,652 18,579 10,757 26,178 5,097 5,097 26,178 14,921

(2) 稲作面積の算出

稲作地域は、6 月下旬から 7 月上旬までの Landsat データのバンド 4 から水田に水が張られ

た地域を抽出し、8 月下旬から 9 月上旬まで NDVI 計算とオーバーレイすることにより求

めた。

図 5.2.1 稲作面積の算出フロー（2002 年クンドゥズ州） 左側：6 月下旬の水域、中央：9 月上旬の耕作地域、右側：オーバーレイ結果（稲作地域）

5.2.3 分析結果の整理

(1) 耕地分布図

2000 年から 2008 年までの植生域の画像データを基に、耕地として利用された冬季耕作地と

夏季耕作地の頻度を州別に示した。なお、耕地分布図を図 5.2.3～図 5.2.10 に示す。

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図 5.2.2 耕地分布図の作成フロー

(2) 農地利用図

2000 年から 2008 年までの植生域の画像データを基に、冬季耕作地域の面積、夏季耕作地域

の面積、稲作地域の面積から農地利用図（最大・最小面積）を州別に示した。

具体的な、作成フローを図 5.2.11 に示す。

a) 冬季最小農地利用図：2000 年から 2008 年の中で、冬季耕作地域の面積が最小とな

る年の耕作地分布を冬季最小農地利用図とする。 b) 冬季最大農地利用図：2000 年から 2008 年の冬季耕作地域をオーバーレイしたもの

を冬季最大農地利用図とする。冬季耕地分布図において 1 回以上耕地として利用さ

れた地域の分布と同様になる。 c) 夏季最小農地利用図：2000 年から 2008 年の中で、夏季耕作地域の面積が最小とな

る年の耕作地分布と稲作地域の面積が最小となる年の稲作地分布とを重ね合わせた

ものを夏季最小農地利用図とする。 d) 夏季最大農地利用図：2000年から2008年の夏季耕作地域と稲作地域をそれどれオー

バーレイした後、重ね合わせたものを夏季最大農地利用図とする。夏季耕地分布図に

おいて 1 回以上耕地として利用された地域の分布と同様になる。

a)及び d)の図面作成に利用した、冬季耕作地域、夏季耕作地域及び稲作地域が最小となる年

を州別に整理すると表 5.2.4 となる。

表 5.2.4 冬季耕作地域、夏季耕作地域及び稲作地域が最小となる年

州 名 冬季耕作地域が最小の年 夏季耕作地域が最小の年 稲作地域が最小の年 タハール州 2008-04 2008-09 2000-06 クンドゥズ州 2008-04 2008-09 2000-06 バルフ州 2008-04 2001-09 2000-06 ナンガハール州 2004-04 2001-09 2008-06

なお、農地利用図を図 5.2.12～5.2.27 に示す。

2000/04

冬季耕作地域

2001/04

冬季耕作地域

2002/04

冬季耕作地域

2008/04

冬季耕作地域

・・・・

オーバーレイ

頻度計測

2000-2008

冬季耕地

分布図

2000/09

夏季耕作地域

2001/09

夏季耕作地域

2002/09

夏季耕作地域

2008/09

夏季耕作地域

・・・・

オーバーレイ

頻度計測

2000-2008

夏季耕地

分布図

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図 5.2.11 農地利用図の作成フロー

2000/04

冬季耕作地域

2001/04

冬季耕作地域

2002/04

冬季耕作地域

2008/04

冬季耕作地域

最小耕作年の選択

2000-2008

冬季最小

耕作地域

・・・・

2000/04

冬季耕作地域

2001/04

冬季耕作地域

2002/04

冬季耕作地域

2008/04

冬季耕作地域

・・・・

オーバーレイ

2000-2008

冬季最大

農地利用図

2000/09

夏季耕作地域

2001/09

夏季耕作地域

2002/09

夏季耕作地域

2008/09

夏季耕作地域

最小耕作年の選択

2000-2008

夏季最小

耕作地域

・・・・

2000/06

稲作地域

2001/06

稲作地域

2002/06

稲作地域

2008/06

稲作地域

最小稲耕作年の選択

2000-2008

最小稲作

耕作地域

・・・・

2000/06

稲作地域

2001/06

稲作地域

2002/06

稲作地域

2008/06

稲作地域

・・・・

オーバーレイ

2000-2008

最大稲作

地域

2000/09

夏季耕作地域

2001/09

夏季耕作地域

2002/09

夏季耕作地域

2008/09

夏季耕作地域

・・・・

オーバーレイ

2000-2008

夏季最大

耕作地域

2000-2008

夏季最大

農地利用図

オーバーレイ

2000-2008

夏季最小

農地利用図

オーバーレイ

2000-2008

冬季最小

農地利用図

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(3) 休耕周期の判別

州毎に山地部、平地部、潅漑地域の三種類の地域（ただし、ナンガハール州は潅漑地域のみ）

について、面積 7,500 ha 程度のサンプル地区を設定して、冬作と夏作のそれぞれの耕作地の

経年変化から休耕周期を判別した。

各州のサンプル地区の場所を図 5.2.28 に示す。また、サンプル地区における休耕地の検討結

果を図 5.2.29～図 5.2.48 及び表 5.2.5 に示す。

表 5.2.5 州別休耕周期の判別

州名 種類 冬作（4 月下旬） 夏作（9 月上旬） 山地部 休耕周期なし 休耕周期なし 平地部 隔年 耕作されていない タハール州 潅漑地域 休耕周期なし 休耕周期なし 山地部 休耕周期なし 休耕周期なし 平地部 休耕周期なし 休耕周期なし クンドゥズ州 潅漑地域 休耕周期なし 休耕周期なし 山地部 二年目と三年目に休耕 耕作されていない 平地部 隔年 耕作されていない

バルフ州 潅漑地域 川沿い：休耕周期なし

川沿い以外：二年おき 休耕周期なし

ナンガハール州 潅漑地域 隔年 隔年

なお、サンプル地区の中で、休耕が行われていると思われる地域の代表例を以下に示す。

タハール州（平地部、冬作）

原則として隔年で休耕が行われている。

図 5.2.49 タハール州（平地部、冬作）サンプル地区

バルフ州（山地部、冬作）

二年目と三年目に休耕が行われている。つまり、耕作が三年毎に行われている。

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図 5.2.50 バルフ州（山地部、冬作）サンプル地区

バルフ州（平地部、冬作）

隔年で休耕が行われている。

図 5.2.51 バルフ州（平地部、冬作）サンプル地区

バルフ州（潅漑地域、冬作）

川沿い以外の地域において二年おきに休耕が行われている。

図 5.2.52 バルフ州（潅漑地域、冬作）サンプル地区

ナンガハール州（潅漑地域、冬作）

原則として隔年で休耕が行われている。

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図 5.2.53 ナンガハール州（潅漑地域、冬作）サンプル地区

ナンガハール州（潅漑地域、夏作）

原則として隔年で休耕が行われている。

図 5.2.54 ナンガハール州（潅漑地域、夏作）サンプル地区

(4) 牧草の判別

2 時期以上或いは毎年の画像で、植生域として変化がない領域、つまり、長期にわたり耕転

されない領域を、牧草地と仮定して牧草地の判別を試みた。判別処理の結果、長期にわたり

耕転されない領域は、稲作地及び夏作地と判別された領域とほぼ同一であり、牧草地のみを

抽出することは困難であることが確認された。

本分析では、冬季耕作、夏季耕作及び稲作の農地利用分析を目的としたため、4 月、6 月、9月の 3 時期の Landsat データのみを利用したが、牧草地等の他の植生域も含めて分析を行う

場合は、さらに多時期の時系列データを用いて分析することが必要であると考える。また、

Landsat データは空間分解能が 30 m であり、耕作物の種類を詳細に判別するには限界があ

る。さらに空間分解能の高い衛星画像を用いる等の必要があると考える。