22
第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 助教 向後 佑香 1.はじめに 本稿では、平成 30 年度「探究の対話(p4c)キャンプ」(以下、「p4c キャンプ」という。)の教育 効果をより詳細に検討することをねらいとして、平成 29 年度に実施した同調査の結果と本年度の結 果の比較を行った。昨年度の夏のデータと比較することで、今年度の成果と課題をより詳細に検討す るとともに、今年度の事業において昨年度事業の改善がされているかどうかを検証した。主に、①探 究心・道徳心・コミュニケーション力の年度比較、②体験・対話・安全安心の年度比較、③体験・対 話・安全安心の高低群の年度比較、の三つの観点から分析を行なった。なお、平成 29 年度及び平成 30 年度の事業概要は以下に示すとおりである。参加者の年齢は異なるものの、 p4c キャンプのスケジ ュールやプログラム等はほぼ同様で実施されている。 (1)平成 29 年度 参加者及びプログラム 平成 29 年度 p4c キャンプの参加者は、白石市立第二小学校及び白石市立斎川小学校の小学校 46 年生 32 名であった。国立花山青少年自然の家において、平成 29 8 1 日~8 3 日の 2 3 日で 開催された。プログラムは以下に示すとおりであった(表 4-1-1)。1 日目の星座観察以外は全て当初 のプログラム通りに実施された。 表 4-1-1.平成 29 年度プログラム (2)平成 30 年度 参加者及びプログラム 平成 30 年度 p4c キャンプの参加者は、白石市立東中学校、白石市立南中学校、白石市立白石中学 校、白石市立白川中学校の中学校1~2年生 51 名であった。平成 29 年度と同様に、国立花山青少年 自然の家において、平成 30 8 6 日~8 8 日の 2 3 日で開催された。プログラムは以下に示 すとおりであった(表 4-1-2)。1 日目の星座観察が星座講話に変更されたことに加え、2 日目に実施 予定であったメインプログラムが 3 日目に順延されるなど、2 日目、3 日目のプログラムに変更があ った。 8 1 日(1 日目) 8 2 日(2 日目) 8 3 日(3 日目) 午前 移動 開講式 体験活動③(沢登り) 探究の対話(p4c)③ 体験活動④(花山クラフト・ 缶バッチ作り) 午後 探究の対話(p4c)① 体験活動①(野外炊事・カレ ー作り) 探究の対話(p4c)② 閉講式 移動 夜間 体験活動②(星座観察)中止 入浴・自由時間・就寝 入浴・自由時間・就寝 34

第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

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第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析

分析1.昨年度の夏のデータとの比較

筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 助教 向後 佑香

1.はじめに 本稿では、平成 30 年度「探究の対話(p4c)キャンプ」(以下、「p4c キャンプ」という。)の教育

効果をより詳細に検討することをねらいとして、平成 29 年度に実施した同調査の結果と本年度の結

果の比較を行った。昨年度の夏のデータと比較することで、今年度の成果と課題をより詳細に検討す

るとともに、今年度の事業において昨年度事業の改善がされているかどうかを検証した。主に、①探

究心・道徳心・コミュニケーション力の年度比較、②体験・対話・安全安心の年度比較、③体験・対

話・安全安心の高低群の年度比較、の三つの観点から分析を行なった。なお、平成 29 年度及び平成

30 年度の事業概要は以下に示すとおりである。参加者の年齢は異なるものの、p4c キャンプのスケジ

ュールやプログラム等はほぼ同様で実施されている。 (1)平成 29 年度 参加者及びプログラム

平成 29 年度 p4c キャンプの参加者は、白石市立第二小学校及び白石市立斎川小学校の小学校 4~6年生 32 名であった。国立花山青少年自然の家において、平成 29 年 8 月 1 日~8 月 3 日の 2 泊 3 日で

開催された。プログラムは以下に示すとおりであった(表 4-1-1)。1 日目の星座観察以外は全て当初

のプログラム通りに実施された。

表 4-1-1.平成 29 年度プログラム

(2)平成 30 年度 参加者及びプログラム

平成 30 年度 p4c キャンプの参加者は、白石市立東中学校、白石市立南中学校、白石市立白石中学

校、白石市立白川中学校の中学校1~2年生 51 名であった。平成 29 年度と同様に、国立花山青少年

自然の家において、平成 30 年 8 月 6 日~8 月 8 日の 2 泊 3 日で開催された。プログラムは以下に示

すとおりであった(表 4-1-2)。1 日目の星座観察が星座講話に変更されたことに加え、2 日目に実施

予定であったメインプログラムが 3 日目に順延されるなど、2 日目、3 日目のプログラムに変更があ

った。

8 月 1 日(1 日目) 8 月 2 日(2 日目) 8 月 3 日(3 日目)

午前 移動 開講式

体験活動③(沢登り) 探究の対話(p4c)③ 体験活動④(花山クラフト・

缶バッチ作り)

午後 探究の対話(p4c)① 体験活動①(野外炊事・カレ

ー作り) 探究の対話(p4c)②

閉講式 移動

夜間 体験活動②(星座観察)中止 入浴・自由時間・就寝

入浴・自由時間・就寝

34

Page 2: 第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

表 4-1-2.平成 30 年度プログラム

2.探究心・道徳心・コミュニケーション力の比較

平成 29 年度及び平成 30 年度に実施した p4c キャンプの調査データを合わせ、p4c キャンプの事前

と事後で、「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」の平均点※4-1-1をそれぞれの年度で比較した

(二要因分散分析)ところ、いずれの変数においても交互作用は見られなかった(表 4-1-3、図 4-1-1)。

表 4-1-3.探究心・道徳心・コミュニケーション力の比較(平成 29 年度・平成 30 年度)

図 4-1-1.探究心・道徳心・コミュニケーション力の比較(平成 29 年度・平成 30 年度)

多重比較

測定時期 交互作用 群間 主効果(測定時期)

29年度(N=32)

3.19 (0.54) 3.31 (0.72) 0.18 -

30年度(N=51)

3.01 (0.53) 3.29 (0.53) 0.53 -

29年度(N=32)

3.36 (0.53) 3.49 (0.49) 0.26 -

30年度(N=51)

3.31 (0.45) 3.49 (0.42) 0.41 -

29年度(N=32)

3.29 (0.42) 3.46 (0.56) 0.34 -

30年度(N=51)

3.25 (0.46) 3.45 (0.46) 0.44 -

コミュニケーション力 22.35 *** 0.16 0.03

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

探究心 20.56 *** 3.70 0.71

道徳心 20.60 *** 0.51 0.10

変数 時期得点M(SD)

効果量(d)分散分析(F)

事前 事後

8 月 6 日(1 日目) 8 月 7 日(2 日目) 8 月 8 日(3 日目)

午前 移動 開講式

体験活動③(花山クラフト・

缶バッチ作り) 探究の対話(p4c)②

体験活動⑤(沢登り)

午後 探究の対話(p4c)① 体験活動①(野外炊事・カレ

ー作り)

体験活動④(オリエンテーリ

ング) 探究の対話(p4c)③

閉講式 移動

夜間 体験活動②(星座講話) 入浴・自由時間・就寝

スポーツ(ドッチビー・長縄

跳び) 入浴・自由時間・就寝

35

Page 3: 第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

一方で、測定時期に有意な差が認められたため、平成 29 年度も平成 30 年度も p4c キャンプの前後

において、「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」の三つが高まったと考えられる。キャンプ

参加者が平成 29 年度は小学生、平成 30 年度は中学生と、年齢段階に差異はあったが、いずれの年齢

の児童・生徒に対しても、p4c キャンプによって「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」等の

能力要素が高まることが示唆された。 さらに、効果量※4-1-2の数値を見ると、平成 29 年度は「探究心」(d=.18)、「道徳心」(d=.26)、「コ

ミュニケーション力」(d=.34)と比較的小さい効果量であったのに対し、平成 30 年度は「探究心」

(d=.53)、「道徳心」(d=.41)、「コミュニケーション力」(d=.44)と、中程度の効果量であった。両

者の数値に統計的な差異は無いものの、平成 30 年度の方が大きな効果量が得られていることから、

平成 30 年度の p4c キャンプは参加者に対して十分な成果があったと考えられる。 3.体験・対話・安全安心の比較

p4c キャンプの相乗効果を検証するために、「体験活動に意欲的に取り組めたか」(以下、「体験」と

いう。)、「広がりや深まりのある対話できたか」(以下、「対話」という。)、「安全・安心が感じられた

か」(以下、「安全安心」という。)という三つの観点(以下、「体験・対話・安全安心」という。)に

着目し、それぞれの得点※4-1-3を平成 29 年度と平成 30 年度で比較(対応のない t 検定)を行った。 分析の結果(図 4-1-2)、「体験」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有意に低いという結

果であった(t(1,81)=-2.39、p<.05)。一方、「対話」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有

意に高いという結果であった(t(1,40)=2.09、p<.05)。また、「安全安心」では、平成 29 年度と平成

30 年度で有意な差異は認められなかった(t(1,81)=-1.81、p=.07)。 そこで、それぞれ有意に変化のあった「体験」・「対話」について、なぜ得点に差異が現れたのかを

考察し、今年度の成果及び今後の課題について検討する。

図 4-1-2.「体験・対話・安全安心」の比較(平成 29 年度・平成 30 年度)

(1)「体験」について

「体験」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有意に低いという結果であった。以下の図

4-1-3 は、p4c キャンプで一番興味をもって取組んだ活動について尋ねた結果である(p.26 参照)。過

一方で、測定時期に有意な差が認められたため、平成 29 年度も平成 30 年度も p4c キャンプの前後

において、「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」の三つが高まったと考えられる。キャンプ

参加者が平成 29 年度は小学生、平成 30 年度は中学生と、年齢段階に差異はあったが、いずれの年齢

の児童・生徒に対しても、p4c キャンプによって「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」等の

能力要素が高まることが示唆された。 さらに、効果量※4-1-2の数値を見ると、平成 29 年度は「探究心」(d=.18)、「道徳心」(d=.26)、「コ

ミュニケーション力」(d=.34)と比較的小さい効果量であったのに対し、平成 30 年度は「探究心」

(d=.53)、「道徳心」(d=.41)、「コミュニケーション力」(d=.44)と、中程度の効果量であった。両

者の数値に統計的な差異は無いものの、平成 30 年度の方が大きな効果量が得られていることから、

平成 30 年度の p4c キャンプは参加者に対して十分な成果があったと考えられる。 3.体験・対話・安全安心の比較

p4c キャンプの相乗効果を検証するために、「体験活動に意欲的に取り組めたか」(以下、「体験」と

いう。)、「広がりや深まりのある対話できたか」(以下、「対話」という。)、「安全・安心が感じられた

か」(以下、「安全安心」という。)という三つの観点(以下、「体験・対話・安全安心」という。)に

着目し、それぞれの得点※4-1-3を平成 29 年度と平成 30 年度で比較(対応のない t 検定)を行った。 分析の結果(図 4-1-2)、「体験」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有意に低いという結

果であった(t(1,81)=-2.39、p<.05)。一方、「対話」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有

意に高いという結果であった(t(1,40)=2.09、p<.05)。また、「安全安心」では、平成 29 年度と平成

30 年度で有意な差異は認められなかった(t(1,81)=-1.81、p=.07)。 そこで、それぞれ有意に変化のあった「体験」・「対話」について、なぜ得点に差異が現れたのかを

考察し、今年度の成果及び今後の課題について検討する。

図 4-1-2.「体験・対話・安全安心」の比較(平成 29 年度・平成 30 年度)

(1)「体験」について

「体験」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有意に低いという結果であった。以下の図

4-1-3 は、p4c キャンプで一番興味をもって取組んだ活動について尋ねた結果である(p.26 参照)。過

36

Page 4: 第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

半数の生徒が、一番興味をもって取組んだ体験活動として「沢登り」と回答している。また、図 4-1-4、4-1-5 は、それぞれのプログラムに対してどの程度興味をもって取り組んだかを示した結果(p.26 参

照)1)であるが、平成 29 年度は「沢登り」に対して「とても興味をもって取り組めた」と回答する

割合が 90.6%であったのに対し、平成 30 年度は 76.5%であった。同じように、「クラフト(缶バッチ

づくり)」に対して「とても興味をもって取り組めた」と回答する割合は、平成 29 年度が 78.1%であ

ったのに対し平成 30 年度は 45.1%、「野外炊事」に対して「とても興味をもって取り組めた」と回答

する割合は、平成 29 年度が 71.9%であったのに対し平成 30 年度は 62.7%であった。

図 4-1-3. 平成 30 年度 一番興味を持って取り組んだ体験活動(N=51)

図 4-1-4. 平成 29 年度 各体験活動に対する興味(N=32)

図 4-1-5. 平成 30 年度 各体験活動に対する興味(N=51)

37

Page 5: 第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

平成 29 年度と平成 30 年度を比較すると、各プログラムに対して「とても興味を持って取り組めた」と

回答する割合が低くなっている。いくつかその要因を考えると、まず平成 30 年度は天候等の都合によ

りメインプログラム(沢登り)に変更が生じた事があげられる。最も楽しみにしていたプログラムが実

施できるかどうかわからなくなってしまったこと、さらには最終日に変更になったことで、時間短縮・

活動場所の変更に伴い活動強度も低くなってしまったことなどによって、参加者の意欲が低下してしま

ったのではないかと考える。このように、代替プログラムを実施する際には、ただ単に代わりのプログ

ラムを実施するのではなく、参加者の年齢段階や興味関心に応じたプログラムが提供されているかどう

かなど、今後のプログラムの展開等についても検討が必要かもしれない。 (2)「対話」について

「対話」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有意に高いという結果であった。「対話」の

項目は、「広がりや深まりのある対話できたか」を評価する合計 5 項目※4-1-4であるが、平成 29 年度及

び平成 30年度の各項目の得点を比較した結果、①自分の考えや気持ちを伝えられたか(t(1,45)=-2.37、p<.05)、②友達の考えや気持ちがよくわかったか(t(1,32)=-2.34、p<.05)、③考えが広まったり深ま

ったりしたか(t(1,40)=-2.51、p<.05)、の 3 項目で平成 30 年度の方が有意に高い値を示していた(図

4-1-6)。 今年度の p4c キャンプの課題として、昨年度の事業の反省を踏まえて、「対話が上手くいかない生

徒へのフォロー等を行なう」ことがあげられていた。今年度のプログラムにおいて、探究の対話(p4c)を行う際には、指導者やスタッフが、意識的に対話が上手くいかない生徒へのフォロー等を行なって

おり、そのことがこれらの成果に繋がったのではないかと考える。

図 4-1-6.対話(各項目)の比較(平成 29 年度・平成 30 年度)

2.55 

2.78 

2.64  2.64  2.67 

2.80 

2.98 2.89 

2.78  2.78 

2.20

2.40

2.60

2.80

3.00

①自分の考えや気持

ちを伝えられたか

②友達の気持ちや考

えがよく分かったか

③考えが広まったり

深まったりしたか

④話しやすい雰囲気

だったか

⑤これからも色々な

事を考えたり話した

りしたいか

ふりかえり得点の比較

H29年度 H30年度

** *

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

平成 29 年度と平成 30 年度を比較すると、各プログラムに対して「とても興味を持って取り組めた」と

回答する割合が低くなっている。いくつかその要因を考えると、まず平成 30 年度は天候等の都合によ

りメインプログラム(沢登り)に変更が生じた事があげられる。最も楽しみにしていたプログラムが実

施できるかどうかわからなくなってしまったこと、さらには最終日に変更になったことで、時間短縮・

活動場所の変更に伴い活動強度も低くなってしまったことなどによって、参加者の意欲が低下してしま

ったのではないかと考える。このように、代替プログラムを実施する際には、ただ単に代わりのプログ

ラムを実施するのではなく、参加者の年齢段階や興味関心に応じたプログラムが提供されているかどう

かなど、今後のプログラムの展開等についても検討が必要かもしれない。 (2)「対話」について

「対話」では、平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が有意に高いという結果であった。「対話」の

項目は、「広がりや深まりのある対話できたか」を評価する合計 5 項目※4-1-4であるが、平成 29 年度及

び平成 30年度の各項目の得点を比較した結果、①自分の考えや気持ちを伝えられたか(t(1,45)=-2.37、p<.05)、②友達の考えや気持ちがよくわかったか(t(1,32)=-2.34、p<.05)、③考えが広まったり深ま

ったりしたか(t(1,40)=-2.51、p<.05)、の 3 項目で平成 30 年度の方が有意に高い値を示していた(図

4-1-6)。 今年度の p4c キャンプの課題として、昨年度の事業の反省を踏まえて、「対話が上手くいかない生

徒へのフォロー等を行なう」ことがあげられていた。今年度のプログラムにおいて、探究の対話(p4c)を行う際には、指導者やスタッフが、意識的に対話が上手くいかない生徒へのフォロー等を行なって

おり、そのことがこれらの成果に繋がったのではないかと考える。

図 4-1-6.対話(各項目)の比較(平成 29 年度・平成 30 年度)

2.55 

2.78 

2.64  2.64  2.67 

2.80 

2.98 2.89 

2.78  2.78 

2.20

2.40

2.60

2.80

3.00

①自分の考えや気持

ちを伝えられたか

②友達の気持ちや考

えがよく分かったか

③考えが広まったり

深まったりしたか

④話しやすい雰囲気

だったか

⑤これからも色々な

事を考えたり話した

りしたいか

ふりかえり得点の比較

H29年度 H30年度

** *

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

38

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4.体験・対話・安全安心の高低群の比較 平成 29 年度及び平成 30 年度のそれぞれの年度において、「体験・対話・安全安心」が「探究心」

「道徳心」「コミュニケーション力」の変容に及ぼす影響を検証した。検証に当たっては、平成 29 年

度及び平成 30 年度それぞれの年度において、「体験・対話・安全安心」を高群、中群、低群の 3 群に

分け※4-1-5、高群と低群の「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」の変容の違いについて分析(二

要因分散分析)を行った(表 4-1-4)。 平成 30 年度の結果はすでに第3章で報告されているとおり(図 4-1-8)であるが、「体験・対話・

安全安心」の高低群において交互作用は出ておらず、いずれの群も向上することが明らかとなった。

一方で、平成 29 年度は、「体験・対話・安全安心」によって交互作用がみられた。変容に違いがあっ

た項目は、「探究心」(F(1,12)=13.60、p<.01)、「コミュニケーション力」(F(1,12)=13.25、p<.01)であった。そこで、「探究心」「コミュニケーション力」で高群と低群がどのように変容しているのか

を明らかにするため、後の分析として多重比較(Bonferroni)を行った。その結果(図 4-1-7)、「探

究心」では低群(F(1,12)=10.09、p<.01)に有意な低下がみられ、「コミュニケーション力」では高

群(F(1,12)=5.02、p<.05)が有意に向上する一方で、低群(F(1,12)=8.26、p<.05)に有意な低下が

みられるという結果であった。 前述したとおり、今年度の p4c キャンプでは、探究の対話(p4c)を行なう際に、体験や振り返り

などにうまく参加できていない生徒に対して適切なフォローを行なったり、グループ編成を異学年と

するなどの指導法の改善を図っている。このように、探究の対話(p4c)の実施に力を入れた結果、

高群・低群、いずれの群においてもキャンプ前後で「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」が

向上したのではないかと推察する。

表 4-1-4.「体験・対話・安全安心」の高低群の比較(平成 29 年度・平成 30 年度)

H29年度(N=32) 多重比較

変数 測定時期 交互作用 群間 主効果(測定時期)

高群(N=8)

3.43 (0.52) 3.68 (0.28) 0.60 3.86

低群(N=6)

2.70 (0.62) 2.23 (0.92) -0.60 10.09 **

高群(N=8)

3.63 (0.33) 3.68 (0.30) 0.16 -

低群(N=6)

2.90 (0.85) 3.00 (0.85) 0.16 -

高群(N=8)

3.50 (0.32) 3.73 (0.26) 0.77 5.02 *

低群(N=6)

2.93 (0.53) 2.60 (0.67) -0.55 8.26 *

H30年度(N=51) 多重比較

変数 測定時期 交互作用 群間 主効果(測定時期)

高群(N=18)

3.30 (0.51) 3.54 (0.36) 0.54 -

低群(N=12)

2.63 (0.45) 2.82 (0.61) 0.34 -

高群(N=18)

3.57 (0.40) 3.74 (0.28) 0.49 -

低群(N=12)

3.08 (0.26) 3.20 (0.36) 0.38 -

高群(N=18)

3.54 (0.34) 3.74 (0.25) 0.67 -

低群(N=12)

2.97 (0.38) 3.07 (0.42) 0.25 -

20.69 ***

コミュニケーション力 0.50 13.25 ** 13.49 **

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

コミュニケーション力 7.44 * 0.83 29.41 ***

時期得点M(SD)

効果量(d)分散分析(F)

事前

17.46 ***

道徳心

事後

探究心 10.98 ** 0.22

8.29 ** 0.36

探究心 1.24 13.60 ** 12.34 **

道徳心 2.10 0.23 4.83 *

時期得点M(SD)

効果量(d)分散分析(F)

事前 事後

39

Page 7: 第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

図 4-1-7.「体験・対話・安全安心」の高低群の比較(平成 29 年度)

図 4-1-8.「体験・対話・安全安心」の高低群の比較(平成 30 年度)

5.おわりに

本稿では、平成 30 年度「探究の対話(p4c)キャンプ」と、平成 29 年度に実施した同事業の調査結

果を比較することで、今年度の成果と課題をより詳細に分析するとともに、今年度の事業において昨年

度事業の改善がされているかどうかを検証した。その結果より得られた知見は次のとおりである。 ① 平成 29 年度も平成 30 年度も p4c キャンプの前後において、「探究心」「道徳心」「コミュニケー

ション力」の三つの力が高まった。キャンプ参加者の年齢に関わらず、p4c キャンプによって「探

究心」「道徳心」「コミュニケーション力」等が高まることが示唆された。 ② 平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が「体験」得点が有意に低かった。特に、各プログラムに対

して「とても興味を持って取り組めた」と回答する割合が低くなっていた。荒天時の代替プログ

ラムの内容は適切だったかどうか、各年齢段階の興味関心に応じたプログラムが提供できていた

図 4-1-7.「体験・対話・安全安心」の高低群の比較(平成 29 年度)

図 4-1-8.「体験・対話・安全安心」の高低群の比較(平成 30 年度)

5.おわりに

本稿では、平成 30 年度「探究の対話(p4c)キャンプ」と、平成 29 年度に実施した同事業の調査結

果を比較することで、今年度の成果と課題をより詳細に分析するとともに、今年度の事業において昨年

度事業の改善がされているかどうかを検証した。その結果より得られた知見は次のとおりである。 ① 平成 29 年度も平成 30 年度も p4c キャンプの前後において、「探究心」「道徳心」「コミュニケー

ション力」の三つの力が高まった。キャンプ参加者の年齢に関わらず、p4c キャンプによって「探

究心」「道徳心」「コミュニケーション力」等が高まることが示唆された。 ② 平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が「体験」得点が有意に低かった。特に、各プログラムに対

して「とても興味を持って取り組めた」と回答する割合が低くなっていた。荒天時の代替プログ

ラムの内容は適切だったかどうか、各年齢段階の興味関心に応じたプログラムが提供できていた

40

Page 8: 第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

かどうかか等、今後、プログラム内容についても詳細に検討していく必要がある。 ③ 平成 29 年度よりも平成 30 年度の方が「対話」得点が有意に高く、参加者は広がりや深まりのあ

る対話が出来ていた。また、平成 30 年度は、「体験・対話・安全安心」の高群・低群、いずれの

群においてもキャンプ前後で「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」が向上していた。本

年度の探究の対話(p4c)では、対話が上手くいかない生徒へのフォロー等を行なったり、新たな

試みを取り入れるなど、指導法の改善を行なった。そのような事業改善によって、教育効果を向

上させることができたと推察する。 注

※4-1-1 各変数の得点化と平均点の算出は「第3章 探究の対話(p4c)キャンプの教育効果」(p. 23)

を参照。 ※4-1-2 効果量の算出方法及び効果量の目安は「第3章 探究の対話(p4c)キャンプの教育効果」(p. 32)

を参照。 ※4-1-3 「体験・対話・安全安心」の得点化は「第3章 探究の対話(p4c)キャンプの教育効果」(p.27)

を参照。 ※4-1-4 「対話」は、①自分の考えや気持ちを伝えられたか、②友達の考えや気持ちがよくわかったか、

③考えが広まったり深まったりしたか、④話しやすい雰囲気だったか、⑤これからもいろいろな

ことを考えたり話したりしたいか、の 5 項目について 3 段階で評価を得るものであった。 ※4-1-5 「体験・対話・安全安心」の多寡の分類は「第3章 探究の対話(p4c)キャンプの教育効果」

(p. 27)を参照。

<引用・参考文献>

1)国立青少年教育振興機構「『探究の対話と体験活動を取り入れた教育プログラムの開発』プロジ

ェクト(平成 28・29 年度事業報告)」、2017 2)Hattie,J.,H.W.Marsh, James T.Neil, Garry E.Richards. “Adventure Education and Outward

Bound: Out of Class Experiences That Make a Lasting Difference”Review of Educational Research、67(1)、1997、pp.43-87.

41

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分析2.他の事業(子ども環境探検隊・三陸ジオ編)との比較

信州大学教育学部 講師 瀧 直也

1.はじめに

「探究の対話(p4c)」と「体験活動」の相乗効果による教育効果をより明確にするため、平成 30年度に行われた「探究の対話(p4c)キャンプ」(以下、「p4c キャンプ」という。)と、探究の対話(p4c)を取り入れていない「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」(以下、「三陸ジオ」という。)との比較調査

を行った。 2.子ども環境探検隊・三陸ジオ編の概要

(1)事業名:平成 30 年度国立花山青少年自然の家 教育事業 環境教育学習プログラム開発事業 「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」

(2)趣 旨:三陸ジオパークとその周辺の豊かな自然のもと、自然体験活動を通じて、自然の雄大さ

を感じとり、自然の仕組みについて理解を深めるとともに、その保護や活用について考

え、地域に根ざした環境教育の推進を図る。 (3)主 催:独立行政法人国立青少年教育振興機構 国立花山青少年自然の家 (4)後 援:宮城県教育委員会 栗原市教育委員会 (5)協 力:宮城県 栗原市 栗駒山麓ジオパーク推進協議会 三陸ジオパーク推進協議会

宮城県志津川自然の家 (6)期 間:平成 30 年 7 月 14 日(土)~16 日(月・祝)【2 泊 3 日】 (7)対 象:①参加対象 宮城・岩手県内の小学校 4 年生から 6 年生

②参加者 48 名(応募者数 86 名) (名)

男 女 計

4年生 8 10 18

5年生 9 3 12

6年生 8 10 18

25 23 48

(8)会 場:宮城県志津川自然の家 及び 三陸ジオパーク(ジオサイト)

国立花山青少年自然の家 及び 栗駒山麓ジオパーク(ジオサイト) (9)講 師:三陸ジオパーク気仙沼推進協議会運営委員長 豊田 康裕 氏

栗原市役所 商工観光部 ジオパーク推進室 専門員 原田 拓也 氏 (10)企画・運営のポイント

三陸ジオパークと栗駒山麓ジオパークを巡る探検を通して、山や川、大地などの自然のつながり

や成り立ち、恵みや驚異について考えることを目的として企画・実施された(平成 29 年度からの

継続事業である。)1)。

42

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( )プログラム:

日程 活動内容 7月 14日 (土)

・シーカヤックで志津川湾内を巡り、海から美しい島や砂浜を見学しながら、

自然の恵みや自然の成り立ちについて考える。

7月 15日 (日)

・三陸ジオパーク(気仙沼市)の岩井崎周辺で解説を聞きながら、自然の雄大

さや震災の影響について考える。 ・塩づくり体験を行い、自然の恵みについて考える。 ・栗駒山麓ジオパークの伊豆沼、内沼で解説を聞きながら自然について学ぶ。 ・岩石の解説を聞きながら、岩石標本をつくる。

7月 16日 (月・祝)

・沢活動を通して、山と海のつながりを考えながら環境についてまとめる。 ・三陸ジオパークと栗駒山麓ジオパークの見学をもとに、自然のありがたさや

自然の驚異についてまとめる。

アイスブレイク シーカヤックで志津川湾内巡り

志津川自然の家周辺散策 塩づくり体験

三陸ジオパーク(気仙沼市)観察 沢活動で記念写真

43

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3.子ども環境探検隊・三陸ジオ編の調査方法

(1)調査対象

平成30年度「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」に参加した児童 48名 (2)調査時期

平成30年7月14日(土)~16日(月・祝)

(3)調査方法

質問紙法によって調査を行った。児童には、事業開始時に事前アンケート、事業終了時に事後アン

ケートを配付し、それぞれその場で記入してもらい、回収した。 (4)回収数

参加者調査(配付数:48人 回収数:48人 回収率:100%) (5)調査内容

調査内容は以下のとおりである。

〔事前アンケート〕 ア.教育効果(探究心、道徳心、コミュニケーション力) 〔事後アンケート〕 ア.教育効果(探究心、道徳心、コミュニケーション力)

イ.体験活動に対する意識 ウ.安全・安心に対する意識

4.子ども環境探検隊・三陸ジオ編の探究心・道徳心・コミュニケーション力の変容

三陸ジオの参加者の事前と事後を t 検定を用いて比較した結果、「探究心」(t(1,47)=-2.41、p<.05)、「コミュニケーション力(t(1,47)=-1.14、p<.01)」において事前から事後にかけて有意な向上が見ら

れた(表 4-2-1)。対象事業に参加した子どもたちは、3 日間の活動を行ったことで「探究心」「コミュ

ニケーション力」が向上したと考えられる。 表 4-2-1.「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」の探究心・道徳心・コミュニケーション力の変容(N=48)

5.探究の対話(p4c)キャンプと子ども環境探検隊・三陸ジオ編の比較

p4c キャンプと三陸ジオの調査結果を調査時期(事前・事後)とプログラム(p4c キャンプ・三陸

ジオ)の二要因分散分析を行った結果は、次のとおりである(表 4-2-2、図 4-2-1)。 全ての項目において、交互作用の有意差は認められなかった。調査時期、プログラムの主効果にお

いて有意な結果がみられ、それぞれのプログラムを行うことで参加者の「探究心」「道徳力」「コミュ

ニケーション力」が向上したことがわかる。 さらにそれぞれの事業の効果を検証するため、効果量(d)※4-2-1を算出し比較した。

各事業の効果量の数値をみると、p4c キャンプでは、「探究心」(d=.53)、「道徳心」(d=.41)、「コ

ミュニケーション力」(d=.44)と、中程度の効果量であった。一方、三陸ジオでは、「探究心」(d=.27)、「道徳心」(d=.15)、「コミュニケーション力」(d=.35)と、比較的小程度の効果量であり、いずれの

項目においても、p4c キャンプの効果量の方が高いことが読み取れる。

探究心 3.45 (0.50) 3.59 (0.52) 0.27 -2.41 * 道徳心 3.57 (0.38) 3.63 (0.42) 0.15 -1.14

コミュニケーション力 3.45 (0.39) 3.59 (0.42) 0.35 -2.98 ***p<.05 **p<.01 ***p<.001

変数得点M(SD)

効果量(d) t値事前 事後

3.子ども環境探検隊・三陸ジオ編の調査方法

(1)調査対象

平成30年度「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」に参加した児童 48名 (2)調査時期

平成30年7月14日(土)~16日(月・祝)

(3)調査方法

質問紙法によって調査を行った。児童には、事業開始時に事前アンケート、事業終了時に事後アン

ケートを配付し、それぞれその場で記入してもらい、回収した。 (4)回収数

参加者調査(配付数:48人 回収数:48人 回収率:100%) (5)調査内容

調査内容は以下のとおりである。

〔事前アンケート〕 ア.教育効果(探究心、道徳心、コミュニケーション力) 〔事後アンケート〕 ア.教育効果(探究心、道徳心、コミュニケーション力)

イ.体験活動に対する意識 ウ.安全・安心に対する意識

4.子ども環境探検隊・三陸ジオ編の探究心・道徳心・コミュニケーション力の変容

三陸ジオの参加者の事前と事後を t 検定を用いて比較した結果、「探究心」(t(1,47)=-2.41、p<.05)、「コミュニケーション力(t(1,47)=-1.14、p<.01)」において事前から事後にかけて有意な向上が見ら

れた(表 4-2-1)。対象事業に参加した子どもたちは、3 日間の活動を行ったことで「探究心」「コミュ

ニケーション力」が向上したと考えられる。 表 4-2-1.「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」の探究心・道徳心・コミュニケーション力の変容(N=48)

5.探究の対話(p4c)キャンプと子ども環境探検隊・三陸ジオ編の比較

p4c キャンプと三陸ジオの調査結果を調査時期(事前・事後)とプログラム(p4c キャンプ・三陸

ジオ)の二要因分散分析を行った結果は、次のとおりである(表 4-2-2、図 4-2-1)。 全ての項目において、交互作用の有意差は認められなかった。調査時期、プログラムの主効果にお

いて有意な結果がみられ、それぞれのプログラムを行うことで参加者の「探究心」「道徳力」「コミュ

ニケーション力」が向上したことがわかる。 さらにそれぞれの事業の効果を検証するため、効果量(d)※4-2-1を算出し比較した。

各事業の効果量の数値をみると、p4c キャンプでは、「探究心」(d=.53)、「道徳心」(d=.41)、「コ

ミュニケーション力」(d=.44)と、中程度の効果量であった。一方、三陸ジオでは、「探究心」(d=.27)、「道徳心」(d=.15)、「コミュニケーション力」(d=.35)と、比較的小程度の効果量であり、いずれの

項目においても、p4c キャンプの効果量の方が高いことが読み取れる。

探究心 3.45 (0.50) 3.59 (0.52) 0.27 -2.41 * 道徳心 3.57 (0.38) 3.63 (0.42) 0.15 -1.14

コミュニケーション力 3.45 (0.39) 3.59 (0.42) 0.35 -2.98 ***p<.05 **p<.01 ***p<.001

変数得点M(SD)

効果量(d) t値事前 事後

44

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両者の数値について、統計的な差異は検討していないものの、特に「探究心」「道徳心」において、

p4c キャンプの方が効果が大きくなることが推察された。また、「コミュニケーション力」においては

その差はあまりなく、どちらのプログラムも「コミュニケーション力」に効果を及ぼすと考えられる。

表 4-2-2.「探究の対話(p4c)キャンプ」と「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」の比較

図 4-2-1.「探究の対話(p4c)キャンプ」と「子ども環境探検隊・三陸ジオ編」の比較

6.まとめ

p4c キャンプの効果を明らかにするため、プログラムに探究の対話(p4c)を取り入れていない事

業(三陸ジオ)との比較検証を行った。

その結果、どちらの事業も参加者の「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」の向上に影響を

及ぼしていることがわかった。

項目別に見てみると、「探究心」「道徳心」においては、p4c キャンプの方が効果が大きくなること

が推察された。

p4c キャンプのプログラムの特徴として、探究の対話(p4c)が毎日行われ、異年齢の集団がお互

いの意見を発表し対話を重ねることで、よい人間関係づくり、思考力・表現力の育成を目的に行われ

ていた。一方、三陸ジオのプログラムでは、異年齢の集団が様々な活動を行い自然環境について学ぶ

ことを目的に行われていた。

以上のことから、探究の対話(p4c)を行うことで、「探究心」「道徳心」の向上に影響を及ぼすこ

とが推察できる。また、異年齢の集団での様々な活動を行うことや、共同生活を送ることは「コミュ

多重比較

測定時期 交互作用 群間 主効果(測定時期)

p4cキャンプ(N=51)

3.01 (0.53 ) 3.29 (0.53 ) 0.53 -

三陸ジオ(N=48)

3.45 (0.50 ) 3.59 (0.52 ) 0.27 -

p4cキャンプ(N=51)

3.31 (0.45 ) 3.49 (0.42 ) 0.41 -

三陸ジオ(N=48)

3.57 (0.38 ) 3.63 (0.42 ) 0.15 -

p4cキャンプ(N=51)

3.25 (0.46 ) 3.45 (0.46 ) 0.44 -

三陸ジオ(N=48)

3.45 (0.39 ) 3.59 (0.42 ) 0.35 -

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

道徳心 11.92 *** 2.81 7.13 **

効果量(d)分散分析(F)

事前 事後

コミュニケーション力 29.40 *** 1.01 4.28 *

変数 時期得点M(SD)

探究心 31.49 *** 3.91 14.63 ***

45

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ニケーション力」の育成に効果を及ぼすと考えられる。 注

※4-2-1 効果量の算出方法及び効果量の目安は「第3章 探究の対話(p4c)キャンプの教育効果」(p. 32)

を参照。

<引用・参考文献>

1)国立花山青少年自然の家「平成30年度教育事業 環境教育学習プログラム開発事業『子ども環

境探検隊・三陸ジオ編』報告書」、

https://hanayama.niye.go.jp/wp-content/uploads/2018/08/4c1dbcecc5c26e02ea97a7aca90c6776.pdf

46

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分析3.新規評価項目による検証

国立青少年教育振興機構総務企画部調査・広報課 調査情報係員 庄子 佳吾

1.はじめに

文部科学省1)は次期学習指導要領改訂において、育成すべき資質・能力として、①知識及び技能が

習得されるようにすること、②思考力、判断力、表現力等を育成すること、③学びに向かう力、人間

性等を涵養することを三つの柱として挙げている。上記、①に関しては全国学力・学習状況調査等が

存在し、②に関しては探究の対話(p4c)中の児童・生徒の様子、ワークシートから見取ることがで

きると考えられる。また、③については、これまでの「探究の対話(p4c)キャンプ」(以下、「p4cキャンプ」という。)にて、「探求心」「道徳心」「コミュニケーション力」を測定し、一定の教育効果

があることを明らかにしてきた。 つまり、これまでの p4c キャンプでは「学びに向かう力」に焦点を当てて研究してきたといえ、教

育再生実行会議2)の「主体的な学び(探求心に該当)」「他者との協働(道徳心、コミュニケーション

力に該当)」を行っている児童生徒ほど自己肯定感と関連の見られる項目に関する意識が高いという

見解とも密接な関係があると考えられる。 そこで、本稿では、探究の対話(p4c)の基盤であるセーフティは、より良い人間関係と安心でき

る居場所づくりの構築につながり、自己肯定感や自尊感情の高まりが期待できるという庄子ら3)の研

究に依拠し、自己肯定感や自尊感情などを意味する「自尊心」を新規評価項目として設定し、p4c キ

ャンプにおける教育効果をより多角的に検討した。

2.自尊心の測定と各変数との関係

(1)自尊心の測定

「自尊心」の尺度構成は、国立青少年教育振興機構による調査4)などで自己肯定感を測定した項目

を参考にしながら、今回新たに以下の 5 項目で作成した。なお、調査対象及び調査時期、調査方法等

の詳細については、第3章を参照されたい(p.20)。

また、「自尊心」の内的整合性を確認するため、 Cronbach の α係数を算出※4-3-1したところ、α=.843

であり、十分な内部一貫性を有していることが確認できた。 (2)自尊心と各変数の関係

先に挙げた教育再生実行会議の見解を検証するため、「自尊心」と「探究心」「道徳心」「コミュニ

ケーション力」の Pearson の積率相関係数を算出した。分析の結果、事前調査、事後調査ともに、自

尊心は「探究心」「道徳心」「コミュニケーション力」のいずれとも正の相関※4-3-2 (r=.20 以上)が見

られた(表 4-3-1、4-3-2)。なお、相関係数は事前より事後の方が高かった。

〔自尊心〕 ・今の自分が好きだ。 ・自分には、自分らしさがある ・思い通りにいかないこともあるが今の自分に満足している。 ・今の自分の気持ちを言葉で表すことができる ・すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている。

47

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表 4-3-1.事前調査の自尊心と各変数の相関分析の結果(N=51)

表 4-3-2.事後調査の自尊心と各変数の相関分析の結果(N=51)

これらの結果は教育再生実行会議の見解を支持するものであり、また、p4c キャンプ実施前よりも実

施後の方が「自尊心」と各変数の間には密接な関係があることが明らかになった。 3.自尊心の変容 (1)自尊心の事前事後の変容

「自尊心」が p4c キャンプの事前と事後でどのように変容しているかを把握するため、平均点の比

較(対応のある t 検定)を行った。分析の結果、事前から事後にかけて有意な向上が見られ(t(1,50)=4.32、 p<.001)、効果量※4-3-3(d=.39)は、小~中程度であった(表 4-3-3、図 4-3-1)。

さらに変容の詳細を把握するため、「自尊心」を構成する 5 項目の割合を事前と事後で比較した(図

4-3-2)。その結果、各項目の「とてもあてはまる」と回答した生徒の割合はいずれも事前から事後に

かけて向上しており、特に「今の自分が好きだ」「すぐにできなくても、大切なことは、やり続ける

ようにしている」はともに 11.8 ポイント向上していた。また、Wilcoxon の符号付順位検定※4-3-4を用

いて、分析した結果、「今の自分が好きだ」(z=-4.18、p<.001)、「思い通りにいかないこともあるが

今の自分に満足している」(z=-2.40、p<.05)、「今の自分の気持ちを言葉で表すことができる」(z=-2.36、p<.05)、「すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている」(z=-1.97、p<.05)で有

意な変化が認められた。

表 4-3-3.自尊心の変容(N=51)

1 2 3 41.自尊心(事前) - .538 *** .392 ** .654 ***2.探究心(事前) - .407 ** .687 ***3.道徳心(事前) - .557 ***4.コミュニケーション力(事前) -

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

変数相関係数

1 2 3 41.自尊心(事後) - .610 *** .548 *** .687 ***2.探究心(事後) - .539 *** .727 ***3.道徳心(事後) - .655 ***4.コミュニケーション力(事後) -

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

変数相関係数

自尊心(N=51) 2.75 (0.63) 3.00 (0.66) 0.39 4.32 ***

*p<.05 **p<.01 ***p<.001

変数得点M(SD)

効果量(d) t値事前 事後

48

Page 16: 第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的 …...第4章 探究の対話(p4c)キャンプにおける教育効果の多角的分析 分析1.昨年度の夏のデータとの比較

図 4-3-1.自尊心の変容(N=51)

図 4-3-2.自尊心(各項目)の変容(N=51)

(2)「体験・対話・安全安心」による比較

第3章(p.27)と同様に「体験・対話・安全安心」※4-3-5が「自尊心」の変容に及ぼす影響について

検証した。検証に当たっては、「体験・対話・安全安心」の高群と低群の自尊心の変容について分析

(二要因分散分析)を行った。 分析の結果、「体験・対話・安全安心」の高群(N=18)、低群(N=12)ともに、いずれも事前と事

後の間に有意差が見られた(表 4-3-4、図 4-3-3)。また、効果量は高群(d=.40)で小~中程度、低群

(d=.21)で小程度であった。なお、交互作用の有意差は認められなかったため、その後の多重比較

は行っていない。

平均値「とてもあてはまる」

の回等の差

(事後-事前)

2.22 事前

2.71 事後

3.04 事前

3.18 事後

2.63 事前

2.84 事後

2.69 事前

2.92 事後

3.18 事前

3.35 事後

今の自分の気持ちを言葉で表すことができる。 *

+5.9 ポイント

すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている。 *

+11.8 ポイント

今の自分が好きだ。***

+11.8 ポイント

自分には、自分らしさがある。

+9.8 ポイント

思い通りにいかないこともあるが今の自分に満足している。 *

+9.9 ポイント

7.8

19.6

31.4

41.2

17.6

27.5

19.6

25.5

33.3

45.1

25.5

41.2

41.2

37.3

33.3

35.3

35.3

45.1

51.0

45.1

47.1

29.4

27.5

19.6

43.1

31.4

39.2

25.5

15.7

9.8

19.6

9.8

0.0

2.0

5.9

5.9

5.9

3.9

0.0

0.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

とてもあてはまる 少しあてはまる あまりあてはまらない まったくあてはまらない(Wilcoxon signed-rank test, *p<.05 **p<.01 ***p<.001)

図 4-3-1.自尊心の変容(N=51)

図 4-3-2.自尊心(各項目)の変容(N=51)

(2)「体験・対話・安全安心」による比較

第3章(p.27)と同様に「体験・対話・安全安心」※4-3-5が「自尊心」の変容に及ぼす影響について

検証した。検証に当たっては、「体験・対話・安全安心」の高群と低群の自尊心の変容について分析

(二要因分散分析)を行った。 分析の結果、「体験・対話・安全安心」の高群(N=18)、低群(N=12)ともに、いずれも事前と事

後の間に有意差が見られた(表 4-3-4、図 4-3-3)。また、効果量は高群(d=.40)で小~中程度、低群

(d=.21)で小程度であった。なお、交互作用の有意差は認められなかったため、その後の多重比較

は行っていない。

平均値「とてもあてはまる」

の回等の差

(事後-事前)

2.22 事前

2.71 事後

3.04 事前

3.18 事後

2.63 事前

2.84 事後

2.69 事前

2.92 事後

3.18 事前

3.35 事後

今の自分の気持ちを言葉で表すことができる。 *

+5.9 ポイント

すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている。 *

+11.8 ポイント

今の自分が好きだ。***

+11.8 ポイント

自分には、自分らしさがある。

+9.8 ポイント

思い通りにいかないこともあるが今の自分に満足している。 *

+9.9 ポイント

7.8

19.6

31.4

41.2

17.6

27.5

19.6

25.5

33.3

45.1

25.5

41.2

41.2

37.3

33.3

35.3

35.3

45.1

51.0

45.1

47.1

29.4

27.5

19.6

43.1

31.4

39.2

25.5

15.7

9.8

19.6

9.8

0.0

2.0

5.9

5.9

5.9

3.9

0.0

0.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

とてもあてはまる 少しあてはまる あまりあてはまらない まったくあてはまらない(Wilcoxon signed-rank test, *p<.05 **p<.01 ***p<.001)

49

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表 4-3-4.「体験・対話・安全安心」高低群別 自尊心の二要因分散分析の結果

図 4-3-3.「体験・対話・安全安心」高低群別 自尊心の二要因分散分析の結果

さらに、「体験・対話・安全安心」高低群別に「自尊心」を構成する 5 項目の割合を事前と事後で

比較した(図 4-3-4、4-3-5)。その結果、「体験・対話・安全安心」高群の自尊心の各項目を見ると、

特に「今の自分が好きだ。」は 27.8 ポイント向上、「自分には自分らしさがある」「思い通りにいかな

いこともあるが今の自分に満足している。」はともに 16.7 ポイント向上していた。また、「すぐにで

きなくても、大切なことは、やり続けるようにしている。」のポイント向上は見られなかったものの、

「体験・対話・安全安心」高群の平均値は事前事後ともに全体平均を上回っていた。 一方、「体験・対話・安全安心」低群の自尊心の各項目を見ると、「自分には、自分らしさがある。」

「すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている。」はともに 8.3 ポイント向上して

いたものの、その他の項目のポイント向上は見られず、「今の自分の気持ちを言葉で表すことができ

る。」の平均値には減少が見られた。また、「自分には、自分らしさがある。」「今の自分の気持ちを言

葉で表すことができる。」は「まったくあてはまらない」のポイントが 8.3 ポイント向上しており、「体

験・対話・安全安心」低群の平均値は事前事後ともに全体平均を下回っていた。 これらの分析結果より、前述の対応のある t 検定の結果を含め、「自尊心」は事前から事後にかけて

得点が向上するが、その増え方は「体験・対話・安全安心」による群分けによらなかったこと、「体

験・対話・安全安心」の高群は「自尊心」が高く、低群は「自尊心」が低い傾向にあり、その群間に

よって「自尊心」の多寡に差があることが示唆された。

多重比較

測定時期 交互作用 群間 主効果(測定時期)

高群(N=18)

3.17 (0.58) 3.40 (0.60) 0.40 -

低群(N=12)

2.58 (0.49) 2.70 (0.64) 0.21 -

効果量(d)分散分析(F)

事前 事後

自尊心 12.99 *** 0.70 7.31 **

**p<.01 ***p<.001

変数 時期得点M(SD)

50

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図 4-3-4.「体験・対話・安全安心」高群の自尊心(各項目)の変容(N=18)

図 4-3-5.「体験・対話・安全安心」低群の自尊心(各項目)の変容(N=12)

(3)自尊心の多寡による特性の把握

「自尊心」の高低による生徒の特性を把握するため、先の「体験・対話・安全安心」の多寡の分類

を用いて、クロス集計を行った(図 4-3-6、4-3-7、4-3-8、4-3-9)。 その結果、「p4c キャンプで楽しみにしていること」の項目では、楽しみにしていることが「ある」

の回答の差は 61.1 ポイントであり、低群の方が楽しみにしてない傾向が示された。

平均値「とてもあてはまる」

の回等の差

(事後-事前)

2.72 事前

3.17 事後

3.44 事前

3.61 事後

3.17 事前

3.39 事後

3.06 事前

3.33 事後

3.44 事前

3.50 事後

今の自分の気持ちを言葉で表すことができる。

+11.1 ポイント

すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている。

±0 ポイント

「体験・対話・安全安心」高群(N=18)

今の自分が好きだ。 +27.8 ポイント

自分には、自分らしさがある。

+16.7 ポイント

思い通りにいかないこともあるが今の自分に満足している。

+16.7 ポイント

16.7

44.4

50.0

66.7

38.9

55.6

38.9

50.0

55.6

55.6

38.9

27.8

44.4

27.8

38.9

27.8

27.8

33.3

33.3

38.9

44.4

27.8

5.6

5.6

22.2

16.7

33.3

16.7

11.1

5.6

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

とてもあてはまる 少しあてはまる あまりあてはまらない まったくあてはまらない

平均値「とてもあてはまる」

の回等の差

(事後-事前)

2.00 事前

2.25 事後

2.75 事前

2.75 事後

2.42 事前

2.58 事後

2.67 事前

2.58 事後

3.08 事前

3.33 事後

今の自分の気持ちを言葉で表すことができる。

±0 ポイント

すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている。

+8.3 ポイント

「体験・対話・安全安心」低群(N=12)

今の自分が好きだ。 ±0 ポイント

自分には、自分らしさがある。

+8.3 ポイント

思い通りにいかないこともあるが今の自分に満足している。

±0 ポイント

0.0

0.0

16.7

25.0

8.3

8.3

8.3

8.3

33.3

41.7

16.7

41.7

41.7

33.3

33.3

50.0

50.0

50.0

41.7

50.0

66.7

41.7

41.7

33.3

50.0

33.3

41.7

33.3

25.0

8.3

16.7

16.7

0.0

8.3

8.3

8.3

0.0

8.3

0.0

0.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

とてもあてはまる 少しあてはまる あまりあてはまらない まったくあてはまらない

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図 4-3-6.「体験・対話・安全安心」高低群別 楽しみにしていること(N=30)

「p4c キャンプで不安に思っていること」の項目では、不安に思っていることが「ある」の回答の

差は 63.9 ポイントであり、低群の方が不安を感じている傾向が示された。

図 4-3-7.「体験・対話・安全安心」高低群別 不安に思っていること(N=30)

「年齢や学校の違う人たちと生活してみてよかったと感じたこと」の項目では、よかったと感じる

ことが「ある」の回答の差は 27.7 ポイントであり、低群の方が共同生活をしてみてよかったと感じ

ることが少ない傾向が示された。

キャンプの活動の中で「ふだんの家庭や学校の生活で役立つ、生かせると思ったこと」の項目では、

生かせると思ったことが「ある」の回答の差は 33.9 ポイントであり、低群の方が生かせると思った

ことが少ない傾向が示された。

高群(N=18)

低群(N=12)

「探究の対話(p4c)キャンプin花山」で楽しみにしていること(事前)

「体験・対話・安全安心」

94.4

33.3

5.6

66.7

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ある

ない

高群(N=18)

低群(N=12)

「探究の対話(p4c)キャンプin花山」で不安に思っていること(事前)

「体験・対話・安全安心」

11.1

75.0

88.9

25.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ある

ない

高群(N=18)

低群(N=12)

年齢や学校の違う人たちと生活してみてよかったと感じたこと(事後)

「体験・対話・安全安心」

94.4

66.7

5.6

33.3

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ある

ない

図4-3-8.「体験・対話・安全安心」高低群別 年齢や学校の違う人たちと生活してみてよかったと感じたこと(N=30)

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また、高低群別に「中学校がいっしょになることに不安を感じること」の割合を事前と事後で比較

した(図 4-3-10)。その結果、不安を感じることが「ある」の回答の差は、事前は 44.1 ポイント、事

後は 36.1 ポイントであり、低群の方が不安を感じている割合が多い傾向があること、事前から事後

にかけて不安を感じている割合は微減しているものの依然高い割合であること示された。

図 4-3-10.「体験・対話・安全安心」高低群別 中学校統合に対する不安の変容(N=30)

4.おわりに

本稿では、探究の対話(p4c)の基盤であるセーフティによる自己肯定感や自尊感情の高まりとい

う観点から「自尊心」を新規評価項目として設定し、p4c キャンプにおける教育効果をより多角的に

検討することを目的とした。その結果により得られた知見は次のとおりである。 ① 自尊心と各変数は互いに相関を示しており、教育再生実行会議の見解を支持するものであった。 ② 自尊心は事前から事後にかけて得点が向上したが、その増え方は「体験・対話・安全安心」によ

る群分けによらなかった。 ③ 「体験・対話・安全安心」の群間によって自尊心の多寡に差があり、それによりキャンプへの期

待や不安、集団生活における学び、中学校統合への不安のいずれにも差があることがわかった。

高群(N=18)

低群(N=12)

ふだんの家庭や学校の生活で役立つ、生かせると思ったこと(事後)

「体験・対話・安全安心」

77.8

41.7

22.2

58.3

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ある

ない

事前

事後

事前

事後

中学校がいっしょになることに不安を感じること

「体験・対話・安全安心」高群(N=18)

「体験・対話・安全安心」低群(N=12)

5.9

5.6

50.0

41.7

94.1

94.4

50.0

58.3

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ある ない

図 4-3-9.「体験・対話・安全安心」高低群別 ふだんの家庭や学校の生活で役立つ、生かせると思ったこと(N=30)

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以上より、p4c キャンプは、探究心・道徳心・コミュニケーション力のみならず自分自身を肯定的

に受け止める「自尊心」を高める教育効果があったことが明らかになった。特に質問項目の「今の自

分が好きだ」「すぐにできなくても、大切なことは、やり続けるようにしている」の向上は、探究の

対話(p4c)のセーフティが確立され、対話を通じて考えを深めたことや体験活動の中で他者と協働

して共通の体験を行うことで得られた相乗効果ではないかと示唆された。 しかしながら、体験活動や対話へ苦手意識を感じている参加者はキャンプへの期待度の低さや不安

感があり、期間中、それが払拭されなかったことが統合への不安軽減や集団生活での学びにつながら

ず、結果として自尊心が低水準に留まった可能性がある。そこでプログラム構成上、次のような工夫

を行うことでさらなる教育効果が期待できると考える。

① はじめにアイスブレイクで緊張をほぐすことでキャンプへの期待を高めるとともに、特定の友人

との関わりや既に固まっているグループをあえて崩すことで集団生活への不安を払拭し、探究の

対話(p4c)や体験活動へのスムーズな接続が期待できる。 ② 探究の対話(p4c)や体験活動を通して得た学びや感想などを一日の活動終了後にグループで話

し合い、互いに何を感じたのか、それを次にどのように生かすのかを共有する振り返りの機会を

設けることで、探究の対話(p4c)の時間で伝えきれなかった考えや興味関心があることなどを

共有でき、他者理解だけではなく自己理解も促進されると考えられる。これには、日頃の生活か

ら離れた環境の設定として教員以外の学生ボランティアによる介入的振り返りも有効ではない

かと考えられる。 ③ 登山等の冒険的で活動量の多い克服的な活動やプログラムの中で参加者が自ら考え、行動する機

会を増やすことで、活動中に様々な学びや考え、助け合いのきっかけを創出することができる。

こうした非日常的、 異なる環境における共通の体験を経た上での対話は深い学びにもつながる

ことが期待できる。 注

※4-3-1 Cronbach のαは、信頼性の指標となる信頼性係数の1種で、α係数は、心理尺度に使われた項目

の回答にどの程度一貫性があるかを示し、通常、α係数が 0.8 以上であれば一貫性があると見なさ

れる。 ※4-3-2 相関関係とは二つの変数の関連度合いを示す統計学的指標である。相関係数による相関関係の強さの

一般的な目安は以下のとおり。 0.0〜±0.2:ほとんど相関がない ±0.2〜±0.4:やや相関がある ±0.4〜±0.7:相関がある

±0.7〜±0.9:強い相関がある ±0.9〜±1.0:極めて強い相関がある ※4-3-3 効果量の算出方法及び効果量の目安は「第3章 探究の対話(p4c)キャンプの教育効果」(p. 32)

を参照。 ※4-3-4 ノンパラメトリック検定の採用理由及び分析方法については「第3章 探究の対話(p4c)キャンプ

の教育効果」(p.33)を参照。 ※4-3-5 「体験・対話・安全安心」の得点化及び多寡の分類は「第3章 探究の対話(p4c)キャンプの教

育効果」(p.27)を参照。

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<引用・参考文献>

1)文部科学書「幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント」、 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/06/16/1384662_2.pdf

2)教育再生実行会議「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向け

た、学校、家庭、地域の教育力の向上(第十次提言)」、

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai10_1.pdf 3)庄子修・堀越清治「教科等の授業における p4c(子どもの哲学)活用の可能性を探る」『宮城教

育大学 教育復興支援センター紀要』第4巻、2016、pp.61-73. 4)国立青少年教育振興機構「子供の頃の体験がはぐくむ力とその成果に関する調査研究」、2018

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