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第4章 目標達成に向けた取組の方向 28 第4章 目標達成に向けた取組の方向 1 取組の方針 低炭素社会は、新技術の導入はもとより、新しい価値観、文化などが相乗的に影響 しあって実現するものであり、街区、交通など街の骨格を形成する「都市の構造」、街 の活力を支える「産業の構造」、価値観を形成する「市民の意識」、日常の「市民の生活」 といった都市活動全ての要素からアプローチする必要がある。また、経済のグローバ ル化が進むなか、地域も「国際社会との関わり」がより重要となっている。 したがって、本市は、単なる対策に留まることなく、街づくりそのものを包含した 総合的視点からCO を削減するため、次の5つの方針の下、計画を策定する。それ ぞれの取組では、既存の概念にとらわれず、あるべき姿を市民皆で議論し、目標イメ ージを共有しながら進めていくバックキャスティング手法を可能な限り取り入れる。 (1)環境が先進の街を創る(低炭素社会を実現するストック型都市への転換) 北九州市の高度な素材技術、工場とまちの近接性などの都市構造の特性を活かし、 長寿命で環境負荷の少ないコンパクトな都市を目指すとともに、都市内の効率的・ 効果的なエネルギー利用、さらにCO 吸収源としての緑の拡大を図り、低炭素で 豊かな生活ができるストック型都市づくりを推進する。 (2)環境が経済を拓く(低炭素化に貢献する産業クラスターの構築) 北九州市でこれまで培ってきたものづくりの町としての技術やノウハウを発展 させ、低炭素社会が求める技術開発、製品製造、サービス提供を行い、低炭素社会 に求められる環境付加価値の高い産業構造への変革を図る。また、大量生産、大量 消費という「ものづくり」のあり方から、使用に見合う生産いわゆるオンデマンド的 な「ものづくり」のあり方への移行も検討していく。さらに、オフィスや工場での 新エネルギー導入やグリーンIT、デジタルオフィス化に率先して取組むとともに、 工場の持つエネルギーポテンシャルを都市のエネルギー供給拠点として様々な用 途に活用する。 (3)環境が人を育む(低炭素社会を学び行動する学習・活動システムの整備) 持続可能な社会の構築を図るため、国連など世界規模で進められている「持続可 能な開発のための教育(ESD)」を、北九州ESD協議会を中心に、市民、企業、 大学等と連携しながら推進する。このESDを軸としながら、本市でこれまで整備 してきた環境学習施設、施策と豊かな自然を結びつけて、低炭素社会の観点から体 系化し、あらゆる世代が実践的、総合的に学べる環境学習システムを強化・構築す る。また、このシステムを活用して、市民・NPO、企業等による環境活動の促進を はじめ、各主体による協働の取組みをリードし、環境行動の変革を導く人財を育成 し、世界の環境首都づくりに向けて活力を一層高めていく。さらに、次代のアジア 地域に求められる低炭素技術、システムの専門家の輩出拠点を築く。 (4)環境が豊かな生活を支える(低炭素社会づくりを通じた豊かな生活の創造) 環境モデル都市の認定で高まった北九州市民の意識・意欲を、望まれる社会変革 につないでいくため、低炭素社会推進に関わる全市民的運動を持続的に展開する。

第4章 目標達成に向けた取組の方向 · 図 4-1低炭素社会実現に向けた方向性について(イメージ図) 検討会」とりまとめ(2015 年12月17日)

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Page 1: 第4章 目標達成に向けた取組の方向 · 図 4-1低炭素社会実現に向けた方向性について(イメージ図) 検討会」とりまとめ(2015 年12月17日)

第4章 目標達成に向けた取組の方向

28

第4章 目標達成に向けた取組の方向

1 取組の方針

低炭素社会は、新技術の導入はもとより、新しい価値観、文化などが相乗的に影響

しあって実現するものであり、街区、交通など街の骨格を形成する「都市の構造」、街

の活力を支える「産業の構造」、価値観を形成する「市民の意識」、日常の「市民の生活」

といった都市活動全ての要素からアプローチする必要がある。また、経済のグローバ

ル化が進むなか、地域も「国際社会との関わり」がより重要となっている。

したがって、本市は、単なる対策に留まることなく、街づくりそのものを包含した

総合的視点からCO2を削減するため、次の5つの方針の下、計画を策定する。それ

ぞれの取組では、既存の概念にとらわれず、あるべき姿を市民皆で議論し、目標イメ

ージを共有しながら進めていくバックキャスティング手法を可能な限り取り入れる。

(1)環境が先進の街を創る(低炭素社会を実現するストック型都市への転換)

北九州市の高度な素材技術、工場とまちの近接性などの都市構造の特性を活かし、

長寿命で環境負荷の少ないコンパクトな都市を目指すとともに、都市内の効率的・

効果的なエネルギー利用、さらにCO2吸収源としての緑の拡大を図り、低炭素で

豊かな生活ができるストック型都市づくりを推進する。

(2)環境が経済を拓く(低炭素化に貢献する産業クラスターの構築)

北九州市でこれまで培ってきたものづくりの町としての技術やノウハウを発展

させ、低炭素社会が求める技術開発、製品製造、サービス提供を行い、低炭素社会

に求められる環境付加価値の高い産業構造への変革を図る。また、大量生産、大量

消費という「ものづくり」のあり方から、使用に見合う生産いわゆるオンデマンド的

な「ものづくり」のあり方への移行も検討していく。さらに、オフィスや工場での

新エネルギー導入やグリーンIT、デジタルオフィス化に率先して取組むとともに、

工場の持つエネルギーポテンシャルを都市のエネルギー供給拠点として様々な用

途に活用する。

(3)環境が人を育む(低炭素社会を学び行動する学習・活動システムの整備)

持続可能な社会の構築を図るため、国連など世界規模で進められている「持続可

能な開発のための教育(ESD)」を、北九州ESD協議会を中心に、市民、企業、

大学等と連携しながら推進する。このESDを軸としながら、本市でこれまで整備

してきた環境学習施設、施策と豊かな自然を結びつけて、低炭素社会の観点から体

系化し、あらゆる世代が実践的、総合的に学べる環境学習システムを強化・構築す

る。また、このシステムを活用して、市民・NPO、企業等による環境活動の促進を

はじめ、各主体による協働の取組みをリードし、環境行動の変革を導く人財を育成

し、世界の環境首都づくりに向けて活力を一層高めていく。さらに、次代のアジア

地域に求められる低炭素技術、システムの専門家の輩出拠点を築く。

(4)環境が豊かな生活を支える(低炭素社会づくりを通じた豊かな生活の創造)

環境モデル都市の認定で高まった北九州市民の意識・意欲を、望まれる社会変革

につないでいくため、低炭素社会推進に関わる全市民的運動を持続的に展開する。

Page 2: 第4章 目標達成に向けた取組の方向 · 図 4-1低炭素社会実現に向けた方向性について(イメージ図) 検討会」とりまとめ(2015 年12月17日)

第4章 目標達成に向けた取組の方向

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どの世代の市民も、「気軽に」「楽しく」「お得な」気持ちで参加できる仕組みを導入し、

日常の環境行動や環境活動の支援を図る。また、施策の実施を通してまちのにぎわ

いや市内各地区のコミュニティ活動の深化にも寄与していく。

(5)環境がアジアの絆を深める(低炭素社会づくりのアジア地域への移転)

北九州市で育まれてきた低炭素社会づくりの取組を「北九州モデル」として整理

し、アジア諸都市との環境協力ネットワークをベースに総合的に海外へ移転するこ

とで、アジアを中心とした低炭素社会の実現と豊かな社会発展に貢献する。

2 削減の内訳

本市の取組等を基に推計した 2050年の削減量の内訳を、5つの方針に沿って、家

庭や業務、産業などの部門別にまとめる。

表 4-1 2050年における温室効果ガス削減量(2005年度比)の内訳

取組方針 取組部門

(1)環境が先進の 街を創る

(2)環境が 経済を拓く

(3)環境が 人を育む

(4)環境が豊かな 生活を支える

BAU 減少※1

市域分 小計※2

(5)環境がアジア の絆を深める

計※2

家庭 0 15 0 23 28 67 96 163

業務 14 79 1 0 -33 61 0 61

運輸 44 1 0 3 55 102 0 102

産業 390 138 0 0 17 545 1,978 2,523

エネルギー転換 0 1 0 0 3 4 0 4

工業プロセス 31 0 0 0 -24 7 0 7

廃棄物 0 0 0 5 34 39 266 305

森林吸収源 5 0 0 0 0 5 0 5

計 484 234 1 31 80 830 2,340 3,170 ※1 BAU減少は、人口減少や電源の低炭素化など本市の施策以外での減少量。 ※2 集計値の端数処理の関係で、各値の合計が合計値と異なる場合がある。

3 目標達成に向けた中期・長期の取組の位置づけ

低炭素社会づくりを目指して取り組む地球温暖化対策は、従来の施策の延長や拡大

ではなく、あるべき姿を描きながら、検証や目標の共有化を積み重ねて進めていく必

要がある。環境モデル都市行動計画の第1期(2009-2013)は、本市の産業や自然な

どの資産を低炭素社会づくりに活かしながら取組む、いわゆる「基盤づくり」に位置

付けられる期間であった。具体的には、「低炭素社会のあるべき姿の具体的提案」、

「新しい技術・システムに関する全市民的運動の展開の促進」、「低炭素社会に関わ

る市民の環境力を高めるための《見える化・感じる化》の機能を備えた環境学習シス

テム、環境活動システムの構築」などを掲げ、取組を進めてきた。

本計画においては、これまでの取組の実績を踏まえ、取組の積み重ねプロセスを、

本計画期間、中期及び長期の目標に応じて、以下のとおり進めていくこととする。

(1)本計画期間における取組(~2020年)

前期間中の取組の成果、検証結果を踏まえ、施策の改善や新たな追加などを織

り込みながら、全市的、本格的な低炭素社会への改革に取り組む。

(単位:万㌧ CO2)

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第4章 目標達成に向けた取組の方向

30

また、市の新たな方針である「新成長戦略」(平成 24 年度策定)の一翼を担

えるように取組を拡充し、「緑の成長(グリーングロース)」を果たしていく。

前期間に引き続き、率先垂範の考えの下、公共施設の新エネ・省エネ導入、環

境に配慮した公共工事の推進などに積極的に取組む。

取組で得られた成果は、広く公表、周知を図るとともに、次の展開に役立てる

ため、精緻な検証を行い、成果や課題を取りまとめる。

(2)中期における取組(~2030年)

本行動計画の目標から長期目標の達成に到る中間地点と位置付け、従前の計画

に基づく取組の成果、検証結果を踏まえ、施策の改善や新たな追加などを織り

込みつつ、全市的、本格的な低炭素社会改革に取り組む。

低炭素社会づくりと経済社会づくりの融合を図る。

取組で得られた成果を、新しい価値観、文化に基づいたまちづくりモデル、ビ

ジネスモデル、コミュニティモデルとして世界に向けて発信、提案する。

(3)長期における取組(~2050年)

低炭素社会づくりの最終目標として、新しい価値観、文化、整備された様々な

インフラの下、活力があり、市民が将来の世代にわたって安心して豊かに暮ら

せる「ストック型社会」の構築を進める。

国が目指す 2050 年 80%削減の低炭素社会を実現するためには、大幅な社会変

革が必要不可欠であり、その方向性としては、①エネルギー消費量の削減、②

使用するエネルギーの低炭素化、③利用エネルギーの転換を総合的に進めてい

くことが重要である。

構造物や都市インフラ等は寿命が長く、現在の意思決定が長期にわたって影響

を及ぼし続けるため、長期的視点に基づく対策の実施が重要である。

低炭素社会の方向性については、技術の進展や社会の変化等に応じて適時見直

していくことが必要である。

図 4-1低炭素社会実現に向けた方向性について(イメージ図)

出典:環境省「温室効果ガス削減中長期ビジョン検討会」とりまとめ(2015 年12月17日)

① ①

② ② ③

熱 電気

2050年のCO2排出量

①エネルギー消費量の削減 ・可能な限りエネルギー需要の削減 ・機器のエネルギー効率改善 等

電気

②エネルギーの低炭素化 ・低炭素電源(再生可能エネルギー等)の利用拡大

熱 電気

③利用エネルギーの転換 ・ガソリン自動車から電気自動車 ・暖房・給湯のヒートポンプ利用等

電気 熱

電気 熱

エネルギー消費量

CO2

排出強度

現状のCO2排出量

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第4章 目標達成に向けた取組の方向

31

4 環境基本計画との関係

本計画の上位計画である「北九州市環境基本計画」に定める「政策目標」及び「基

本施策」と本計画の「取組の方針」との関係を以下に示す。

図 4-2 環境基本計画と地球温暖化対策実行計画・環境モデル都市行動計画の関係

取組の方針と代表的な施策

環境基本計画

基本施策

(a)家庭:新エネルギー等導入促進(b)業務:グリーン電力普及拡大事業 (c)運輸:エコドラ北九州プロジェクト(d)産業:環境産業ネットワーク形成事業 (g) :市民によるリサイクル活動推進 (h)森林:水源地交流事業 など

(a)家庭:持続可能な開発のための教育推進 (b)業務:市民センターの省エネ化推進 (d)産業:次世代エネルギーパーク構想推進 (g) :わが街わが校の環境作戦事業 (h)森林:

など

(a)家庭: (b)業務: (d)産業:グリーン成長戦略の普及 (g) :

など

(a)家庭:(b)業務:(c)運輸:公共交通の利便性の向上 (d)産業:生産プロセスの改善 (e)エネ転:市民太陽光発電所事業 (f) :生産プロセスの改善【再掲】 (g) :(h)森林:緑の基本計画の策定 など

(a)家庭:(b)業務:(c)運輸:水素エネルギー社会構築推進事業 (d)産業: (e)エネ転:風力発電関連産業の集積促進 (g) :浄水汚泥の有効活用

など

(4)環境が豊かな生活を支える

(3)環境が人を育む

(5)環境がアジアの絆を深める

(1)環境が先進の街を創る

(2)環境が経済を拓く

生物多様性を大切に したまちづくり

安心して暮らせる 快適なまちづくり

都市の資産(たから)を 活かしたまちづくり

開発事業における 環境配慮の推進

最適な「地域循環圏」 の構築

環境産業拠点都市 の形成

低炭素社会、自然共生 社会への貢献

低炭素社会を支える ストック型社会への転換

低炭素化に貢献する 産業クラスターの構築

次世代エネルギー拠点の総合的な形成

北九州市民環境力の

持続的な発展

環境活動と地域コミュニティ活性化の好循環

優れた環境人財 の育成

環境情報の 共有と発信

国際的な協働・ ビジネスの推進