20
114 (1) 水産物需給の動向 (我が国の魚介類の需給構造) 平成27(2015)年度の我が国における魚介類の国内消費仕向量は、767万トン(原魚換算 ベース、概算値)となり、そのうち614万トン(80%)が食用消費仕向け、153万トン(20%) が非食用(飼肥料用)消費仕向けでした(図Ⅱ−3−1)。国内消費仕向量を平成17(2005) 年度と比べると、国内生産量が98万トン(19%)、輸入量が152万トン(26%)減少したこと から、需給の規模は253万トン(25%)縮小しています。 (単位:万トン) 非食用 国内消費仕向量 234 食用魚介類の 国民1人1年当たり供給量 【粗食料ベース】61.5kg 【純食料ベース】34.6kg 国内生産量 515 食 用 449 非食用 66 輸入量 578 食 用 396 非食用 183 食用国内 消費仕向量 786 生鮮・冷凍 339 加 工 品 447 食用国内 消費仕向量 614 生鮮・冷凍 240 加 工 品 374 輸出量 65 食 用 57 非食用 8 在庫増加 9 食 用 2 非食用 7 資料:農林水産省「食料需給表」 注:1)数値は原魚換算したものであり(純食料ベースの供給量を除く)、鯨類及び海藻類を含まない。 2) 粗食料とは、廃棄される部分も含んだ食用魚介類の数量であり、純食料とは、粗食料から通常の食習慣において廃棄される部分(魚の 頭、内臓、骨等)を除いた可食部分のみの数量。 非食用 国内消費仕向量 153 国内消費仕向量 767 食用魚介類の 国民1人1年当たり供給量 【粗食料ベース】48.3kg 【純食料ベース】25.8kg 国内生産量 418 食 用 362 非食用 55 輸入量 426 食 用 315 非食用 111 輸出量 63 食 用 62 非食用 0 在庫増加 14 食 用 1 非食用 13 〈平成17(2005)年度〉 (単位:万トン) 〈平成27(2015)年度(概算値)〉 国内消費仕向量 1,020 図Ⅱ-3-1 我が国の魚介類の生産・消費構造の変化 (食用魚介類自給率の動向) 平成27(2015)年度における我が国の食用魚介類の自給率(概算値)は、前年度から1ポ イント減少して59%となりました(図Ⅱ−3−2)。これは、主に国内生産量が減少したこ とによるものです。 食用魚介類自給率は、平成12(2000)~14(2002)年の53%を底として回復基調にありま すが、自給率は国内消費仕向量に占める国内生産量の割合であるため、国内生産量が減少し ても、国内消費仕向量がそれ以上に減少すれば上昇します。このため、自給率の増減を考え る場合には、その数値だけでなく、算定の根拠となっている国内生産量や国内消費仕向量に も目を向けることが重要です。 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

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Page 1: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

114

第Ⅱ章

第1部

(1) 水産物需給の動向

(我が国の魚介類の需給構造) 平成27(2015)年度の我が国における魚介類の国内消費仕向量は、767万トン(原魚換算ベース、概算値)となり、そのうち614万トン(80%)が食用消費仕向け、153万トン(20%)が非食用(飼肥料用)消費仕向けでした(図Ⅱ−3−1)。国内消費仕向量を平成17(2005)年度と比べると、国内生産量が98万トン(19%)、輸入量が152万トン(26%)減少したことから、需給の規模は253万トン(25%)縮小しています。

(単位:万トン)非食用

国内消費仕向量234

食用魚介類の国民1人1年当たり供給量【粗食料ベース】61.5kg【純食料ベース】34.6kg

国内生産量515

食 用 449非食用 66

輸入量578

食 用 396非食用 183

食用国内消費仕向量786

生鮮・冷凍 339加 工 品 447

食用国内消費仕向量614

生鮮・冷凍 240加 工 品 374

輸出量65

食 用 57非食用 8

在庫増加9

食 用 2非食用 7

資料:農林水産省「食料需給表」注:1) 数値は原魚換算したものであり(純食料ベースの供給量を除く)、鯨類及び海藻類を含まない。

2) 粗食料とは、廃棄される部分も含んだ食用魚介類の数量であり、純食料とは、粗食料から通常の食習慣において廃棄される部分(魚の頭、内臓、骨等)を除いた可食部分のみの数量。

非食用国内消費仕向量

153

国内消費仕向量767

食用魚介類の国民1人1年当たり供給量【粗食料ベース】48.3kg【純食料ベース】25.8kg

国内生産量418

食 用 362非食用 55

輸入量426

食 用 315非食用 111

輸出量63

食 用 62非食用 0

在庫増加14

食 用 1非食用 13

〈平成17(2005)年度〉(単位:万トン)

〈平成27(2015)年度(概算値)〉

国内消費仕向量1,020

図Ⅱ-3-1 我が国の魚介類の生産・消費構造の変化

(食用魚介類自給率の動向) 平成27(2015)年度における我が国の食用魚介類の自給率(概算値)は、前年度から1ポイント減少して59%となりました(図Ⅱ−3−2)。これは、主に国内生産量が減少したことによるものです。 食用魚介類自給率は、平成12(2000)~14(2002)年の53%を底として回復基調にありますが、自給率は国内消費仕向量に占める国内生産量の割合であるため、国内生産量が減少しても、国内消費仕向量がそれ以上に減少すれば上昇します。このため、自給率の増減を考える場合には、その数値だけでなく、算定の根拠となっている国内生産量や国内消費仕向量にも目を向けることが重要です。

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

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115

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

資料:農林水産省「食料需給表」注:自給率(%)=(国内生産量÷国内消費仕向量)×100  国内消費仕向量=国内生産量+輸入量-輸出量±在庫増減量

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0

万トン120

100

80

60

40

20

0

食用魚介類の消費仕向量

国民1人1年当たり食用魚介類供給量(粗食料、kg)

    

食用魚介類の自給率(%)

昭和35(1960)

40(1965)

45(1970)

50(1975)

55(1980)

60(1985)

平成2(1990)

7(1995)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

27(2015)(概算値)

年度

国内生産量

輸入量

自給率(右目盛)

国民1人1年当たり食用魚介類供給量(粗食料、右目盛)

食用魚介類国内消費仕向量(左目盛)

昭和39(1964)年度自給率ピーク:113%

平成27(2015)年度(概算値)自給率:59%

図Ⅱ-3-2 食用魚介類の自給率の推移

(2) 水産物消費の状況

(水産物消費の動向) 我が国における魚介類の1人当たりの消費量は減少を続けています。「食料需給表」によれば、食用魚介類の1人1年当たりの消費量*1は、平成13(2001)年の40.2kgをピークに減少しており、平成27(2015)年度には、前年より0.8kg少ない25.8kgとなりました(図Ⅱ−3−3、純食料ベース)。これは、昭和30年代後半とほぼ同じ水準です。我が国では、近年、1人当たりのたんぱく質の消費量自体も減少傾向にあり、この背景には、高齢化の進行やダイエット志向等もあるものと考えられます。 また、「国民健康・栄養調査」に基づいて年齢階層別の魚介類摂取量をみてみると、若い層ほど摂取量が少なく、特に40代以下の世代の摂取量は50代以上の世代と比べて顕著に少なくなっています(図Ⅱ−3−4)。ただし、近年では、40~60代の摂取量の減少が大きくなっている一方で、15~19歳及び70歳以上の年齢階層の摂取量はここ数年横ばいから漸増傾向で推移しているなど、年齢階層によって下げ止まりの兆しもみられます。

*1 農林水産省では、国内生産量、輸出入量、在庫の増減、人口等から「食用魚介類の1人1年当たり供給純食料」を算出している。この数字は、「食用魚介類の1人1年当たり消費量」とほぼ同等と考えられるため、ここでは「供給純食料」に代えて「消費量」を用いる。

Page 3: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

116

第Ⅱ章

第1部

平成21年(2009)

22(2010)

23(2011)

26(2014)

25(2013)

27(2015)

24(2012)

図Ⅱ-3-4 年齢階層別の魚介類の1人1日当たり摂取量

図Ⅱ-3-3 食用魚介類及び肉類の1人1年当たり消費量(純食料)とたんぱく質の1人1日当たり消費量の推移

資料:農林水産省「食料需給表」 資料:厚生労働省「国民健康・栄養調査」に基づき水産庁で作成

50

40

30

20

10

0

kg/人年 100

80

60

40

20

0

g/人日

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

g/人日

27(2015)

21(2009)

25(2013)

17(2005)

9(1997)

13(2001)

5(1993)

平成元(1989)

年度

平成27(2015)年度(概算値)77.7g/人

平成27(2015)年度(概算値)30.7kg/人

平成元(1989)年度25.8kg/人

魚介類(左目盛)

たんぱく質(右目盛)

肉類(左目盛)平成27(2015)年度(概算値)

25.8kg/人

1~6

7~14

15~19

20~29

30~39

40~49

50~59

70歳以上

60~69

平成13(2001)年度ピーク:40.2kg/人

 生鮮魚介類の1世帯当たりの年間支出金額と購入量では、購入量が一貫して減少する一方、近年、支出金額は横ばいから漸増傾向となっています。水産物の価格が上昇傾向にある中で、購入量は減少しているものの、消費者の購買意欲自体が衰退しているわけではないとも考えられます(図Ⅱ−3−5)。

資料:総務省「家計調査」注:二人以上の世帯。

平成19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

25(2013)

26(2014)

28(2016)

27(2015)

24(2012)

60

50

40

30

20

10

0

千円45

40

35

30

25

20

15

10

5

0

kg

支出金額(左目盛)

購入量(右目盛)

55.052.1 50.3

48.045.4 44.5 45.1 45.8 46.5 45.8

38.4 36.3 36.3 34.0 32.1 31.0 30.6 28.6 28.0 27.2

図Ⅱ-3-5 生鮮魚介類の1世帯当たり年間支出金額・購入量の推移

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117

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

(水産物に対する消費者の意識) 水産物消費量は減少し続けていますが、消費者の間にはもっと魚を食べたいという意識も根強くあります。主菜となる各食材について、今後の摂取量に関する意向を尋ねた株式会社日本政策金融公庫による調査では、魚介類の摂取量を増やしたいとの回答が肉類を大きく上回りました(図Ⅱ−3−6)。 その反面で、調理する際の考え方では、「できるだけ簡単にしたい」との回答が「おいしいものを作りたい」等を上回って最も多くなり、簡便化志向が強いことがうかがわれます(図Ⅱ−3−7)。

図Ⅱ-3-7 消費者の「調理すること」に関する考え方

資料:(株)日本政策金融公庫「平成28年度上半期消費者動向調査」(平成28(2016)年7月1日~7月12日実施、インターネットによるアンケート調査、全国の20~70歳代の男女2,000人(男女各1,000人))

注:四捨五入の関係上、合計が一致しない場合がある。

資料:(株)日本政策金融公庫「平成28年度上半期消費者動向調査」(平成28(2016)年7月1日~7月12日実施、インターネットによるアンケート調査、全国の20~ 70歳代の男女2,000人(男女各1,000人))

注:四捨五入の関係上、合計が一致しない場合がある。

0%

10080604020

魚介類

鶏肉

豚肉

牛肉

大豆・大豆製品

0 5 10 15 20 25 30 35%

40

できるだけ簡単にしたい

おいしいものを作りたい

なるべく手作りしたい

お金がかからないようにしたい

栄養バランスがとれたものにしたい

豪勢なものを作りたい

その他

増やしたい 減らしたい 変わらない

全体男性女性

34.839.3

31.629.431.7

27.711.4

7.314.3

7.49.3

6.216.1

10.320.2

0.40.9

0.51.2

40.7 4.0 55.4

36.3 4.4 59.4

15.6 9.1 75.4

13.4 11.4 75.2

12.6 13.8 73.7

図Ⅱ-3-6 主菜となる食材の今後の摂取量に関する消費者の意向

 また、農林水産省が平成28(2016)年12月~29(2017)年1月に実施した「食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」において、子どもの頃と比べて魚介類を食べる量が増えたか減ったかを尋ねたところ、およそ3割が「増えた」、4割が「減った」、3割が「変わらない」との回答でした(図Ⅱ−3−8)。このうち、子どもの頃と比べて魚介類を食べる量が減ったとした消費者に複数回答でその理由を尋ねたところ、「価格が高くなったと感じるから」という回答が最も多くなりました。これに加え、「調理が難しい・面倒だから」「生ごみの処理等片付けが面倒だから」等、魚介類の調理・利用面における問題を挙げた消費者も多く、調理の簡便さが求められる中、こうした課題が魚介類の消費量の減少につながっているものとみられます。他方、子どもの頃より魚介類を食べる量が増えたとした消費者にその理由を尋ねたところ、「健康に気を遣うようになったから」及び「おいしいと思うようになったから」という回答がそれぞれ6割以上となり、魚介類が持つ健康効果やおいしさについては、高く評価している消費者が多いことがうかがわれます。

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118

第Ⅱ章

第1部

資料:農林水産省「食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」(平成28(2016)年12月~ 29(2017)年1月実施、農林水産省消費者モニター 987人が対象(回収率90.1%))

0%

5040302010 0%

80604020

価格が高くなったと感じるから

調理が難しい・面倒だから

生ゴミの処理等片付けが面倒だから

料理の際の臭いや煙が気になるから

家族(大人)が嫌いだから

子どもが嫌いだから

食べにくいと感じるようになったから

豪華な感じがしないから

健康に気を遣うようになったから

おいしくないと思うようになったから

お酒にあまり合わないから

その他

無回答

健康に気を遣うようになったから

おいしいと思うようになったから

ご飯と合うと思うようになったから

家族(大人)が好きだから

お酒によく合うから

調理が簡単だから

価格が安くなったと感じるから

子どもが好きだから

豪華な感じがするから

その他

無回答

ボリュームのあるおかずが作りづらいから

鮮度が悪くなりやすく、保存しにくいから

ご飯にあまり合わないと思うようになったから

43.2

31.5

26.5

23.2

19.7

18.5

15.9

10.6

10.3

9.7

5.0

3.5

2.6

0.6

0.3

18.5

2.6

70.7

65.0

43.7

40.7

30.4

29.7

24.0

21.7

19.8

16.0

12.5

11.8

7.6

7.6

6.1

9.1

2.3

〈子どもの頃と比べて魚介類を食べる量が増えたかどうか〉

〈理由〉 〈理由〉

増えた29.6%減った

38.2%

変わらない31.9%

鮮度や品質の良い魚介類が入手しにくくなったと感じるから

鮮度や品質の良い魚介類が入手しやすいから

季節感や旬を楽しめると思うようになったから

地域の特色を感じることができると思うようになったから

バラエティに富んでいると感じるから

調理が楽しいから、作りがいがあるから

食べやすいと感じるようになったから

図Ⅱ-3-8 子どもの頃と比べて魚介類を食べる量が増えたかどうかとその理由

(水産物の健康効果) 水産物の摂取が健康に良い効果を与えることが、様々な研究から明らかになっています(図Ⅱ−3−9)。 魚肉は水分のほか、たんぱく質、脂質等で構成されていますが、このうち魚肉たんぱく質は、畜肉類のたんぱく質と並び、私たちが生きていく上で必要な9種類の必須アミノ酸をバランス良く含む良質のたんぱく質です。大豆たんぱく質や乳たんぱく質と比べて魚肉のたん

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119

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

ぱく質は消化されやすく、たんぱく質が体内に取り込まれやすいという特徴もあります。また、魚肉のたんぱく質は、栄養素として優れているだけでなく、健康上の機能も有している可能性が示唆されています。例えば、魚肉たんぱく質を主成分とするかまぼこをラットに与える実験では、血圧や血糖値の上昇の抑制等の効果が確認されています。さらに、鯨肉に多く含まれるアミノ酸物質であるバレニンは疲労の回復に、イカやカキに多く含まれるタウリンは肝機能の強化や視力の回復に効果があることなどが示されています。 魚の脂質には、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)といったn- 3系多価不飽和脂肪酸が多く含まれています(図Ⅱ−3−10)。これらの物質については、すい臓がん、肝臓がんや男性の糖尿病の予防、肥満の抑制、心臓や血管疾患リスクの低減等、様々な効果があることが数々の研究で明らかにされており、その幅広い健康効果が知られています。 さらに、小魚を丸ごと食べることで不足しがちなカルシウムを摂取することができるほか、海藻類はビタミンやミネラルに加え食物繊維にも富んでいます。水産物は、優れた栄養特性と機能性を持つ食品であり、様々な魚介類をバランス良く摂取することにより、健康の維持・増進が期待されます。

○血栓の形成抑制効果((独)水産総合研究センター)魚食には、魚油の血液凝固抑制作用に加え、魚肉タンパク質の血栓溶解作用がある。

(平成16(2004)年10月、欧州の栄養学雑誌「Annals of Nutrition and Metabolism」に掲載)

○体脂肪の蓄積や血糖の上昇を抑制(愛媛大学)スケトウダラのたんぱく質の摂取により筋肉量が増加し、体脂肪の蓄積や血糖の上昇を抑制。

(平成22(2010)年12月、日本の医学雑誌「Biomedical Research」に掲載)

資料:各種資料に基づき水産庁で作成

たんぱく質に関するもの

○心筋梗塞の予防(厚生労働省研究班)日本人で魚を週に8回食べる人は1回しか食べない人に比べ、心筋梗塞の発症リスクが6割低い。

(平成18(2006)年1月、米国の医学雑誌「Circulation」に掲載)

○男性の糖尿病予防効果((独)国立がん研究センター)小・中型魚や脂の多い魚の摂取により、日本人男性の糖尿病発症リスクが低下。

(平成23(2011)年8月、米国の栄養学雑誌「American Journal of Clinical Nutrition」に掲載)

○肝臓がんの予防((独)国立がん研究センター)肝臓がんの発生リスクは、n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚を多く摂っているグループで低い。

(平成24(2012)年6月、米国の消化器病学雑誌「Gastroenterology」に掲載)

○脳卒中や心臓病の予防(厚生労働省研究班)食事から摂取した魚介類由来の脂肪酸が多いほど、その後の循環器疾患死亡リスクが低い。

(平成26(2014)年2月、欧州の動脈硬化学会誌「Atherosclerosis」に掲載)

○膵臓がんの予防((独)国立がん研究センター)魚由来のn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いグループは、少ないグループに比べ、膵臓がんの発生リスクが3割低い。

(平成27(2015)年11月、米国の栄養学雑誌「American Journal of Clinical Nutrition」に掲載)

不飽和脂肪酸に関するもの

図Ⅱ-3-9 水産物の摂取による健康効果に関する研究例

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120

第Ⅱ章

第1部

0 2,000 4,000 2,500 5,000

可食部100g当たりmg

可食部100g当たりmg

1,700

1,300

870

770

690

610

13

500

530

6

0

〈DHA〉 〈EPA〉

3,100

2,800

2,400

1,800

3,200

3,400

1,200

970

950

1,500

880

780

300

330

450

450

0

0

0

4,300

1,400

2,200

2,100

2,200

940

750

560

400

400

資料:文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)脂肪酸成分表編」

クジラ・本皮(生)

クロマグロ・脂身(生)

サバ類・開き干し(生)

サンマ・皮なし(刺身)

シロサケ・すじこ

クジラ・うねす(生)

ブリ・成魚(生)

ウナギ(かば焼)

サンマ・皮つき(焼き)

カツオ・秋獲り(生)

マアジ・開き干し(生)

マイワシ(生)

ニシン(生)

イカ類(加工品・塩辛)

マダイ・天然(生)

ホッケ(生)

イカナゴ(つくだ煮)

中型種豚・かたロース・脂身つき(生)

成鶏肉・もも・皮つき(生)

和牛肉・かたロース・脂身つき(生)

0

クジラ・本皮(生)

クロマグロ・脂身(生)

サバ類・開き干し(生)

サンマ・皮なし(刺身)

シロサケ・すじこ

クジラ・うねす(生)

ブリ・成魚(生)

ウナギ(かば焼)

サンマ・皮つき(焼き)

カツオ・秋獲り(生)

マアジ・開き干し(生)

マイワシ(生)

ニシン(生)

イカ類(加工品・塩辛)

マダイ・天然(生)

ホッケ(生)

イカナゴ(つくだ煮)

中型種豚・かたロース・脂身つき(生)

成鶏肉・もも・皮つき(生)

和牛肉・かたロース・脂身つき(生)

図Ⅱ-3-10 DHA、EPAを多く含む食品の例

(魚食普及に向けた取組)○学校給食等での食育の重要性 近年、若年層の魚介類の摂取量が減少していることが問題となっています。食に対する簡便化・外部化志向が強まり、家庭において食育の機会を十分に確保することが難しくなる中で、若いうちから魚食習慣を身につけるためには、学校給食等を通じ、子どものうちから水産物に親しむ機会をつくることが重要です。 しかし、水産物の利用には、一定の予算内で提供しなければならないといった費用の問題に加え、事前に献立が決められていたり、大量の材料を利用したりするために水揚げが不安定な魚介類をその日に確実に提供できるのかという供給の問題や、調理に一定の設備や技術が必要となること等の問題があることから、安価で安定供給が期待でき、規格の定まった食材が求められ、輸入水産物も使われているのが現状です。 これらの問題を解決し、おいしい国産の魚介類を給食で提供するためには、地域の水産関係者と学校給食関係者が連携していくことが必要です。そこで、近年では、漁業者や加工・流通業者等が中心となり、食材を学校給食に提供するだけでなく、魚介類を用いた給食用の献立の開発や、漁業者自らが出前授業を行って魚食普及を図る活動が活発に行われています。 また、「第3次食育推進基本計画」においては、学校給食における地場産物の使用割合を30%以上にする目標値が定められるなど、地産地消の取組が推進されています。この方針の下、地元産の魚介類の使用に積極的に取り組む自治体も現れ、学校給食の栄養士、調理師等から漁業者や加工・流通業者へ地元の魚介類の提供を働きかける例も出てきています。

Page 8: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

楽しくおいしい給食で「ぎょしょく教育」(愛媛県愛あいなんちよう

南町)

赤ちゃん時代から魚食の習慣を

事 例

事 例

事 例

事 例

121

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

 学校給食を通じて若い世代に魚になじんでもらおうという取組が広がっていますが、子どもたちが魚

食習慣を身に付けるためには、「体に良いから食べなさい」、「何でも残さず食べなさい」といった価値観

を押し付けるのではなく、心から「魚を食べたい」と思うような、楽しく、おいしい給食を提供するこ

とが大切です。

 愛南漁業協同組合、久ひさよし

良漁業協同組合、愛媛大学及び愛南町が一丸となって始めた「ぎょしょく教育」

では、幅広い魚食普及活動が行われていますが、その一環として、子どもたちと一緒に魚介類について

学んだり、調理をして食べたりすることで、楽しく、おいしい給食を提供する活動が実施されています。

 漁業協同組合職員等が郷土料理の鯛たい

めしを地元の子どもたちと作り、一緒に給食を食べたり、年中行

事で節分の日に魔よけにイワシを使うことや、人生行事としてお食い初めでタイを食べることを学んだ

り、民謡などを口承する取組を行っています。

 また、愛南町ではマダイの養殖やカツオの一本釣りが盛んです。そこで、天然マダイと養殖マダイの

違いを実物のマダイを使って学んだり、実物の竿さお

を使ってカツオの一本釣りを模擬体験したりする出前

授業を、県内だけでなく、東京都等の都市部でも幅広く行っています。このような体験は子どもたちに

とって「食」の意義を考えるきっかけになり、給食の残食率が大幅に低下したり、朝食を食べる率が増

加したりといった効果も出ているとのことです。

 こうした取組は採算が取りづらい上に効果も測りづらいため、継続することが難しいものではありま

す。しかしながら、子どもたちが大人になって親となったとき、この体験を思い出して今度は自分の子

どもたちに伝える、そういった連続性を生み出す原動力となります。長い目で見たとき、その効果は現

在の魚食普及や食育にとどまらず、日本の魚食文化の世代を超えた継承につながるなど、未来に向けて

も貴重なものとなるでしょう。

 赤ちゃんが人生で最初に食べる離乳食。その時期から魚に親しんでもらおうという取組も行われてい

ます。低脂肪で柔らかく、消化されやすい魚は、離乳食にうってつけの食材です。離乳食期は味覚が形

成されるとともに、一生の嗜し こ う

好を決める大切な時期だといわれています。赤ちゃんのときから旬のおい

しい魚に親しむことにより、魚食習慣が根付くことが期待されます。

都内で天然マダイと養殖マダイの違いを説明(写真提供:愛南町)

一緒に郷土料理を作って味わう(写真提供:愛南町)

Page 9: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

122

第Ⅱ章

第1部

1.離乳食のための魚の通販(三重県紀きほくちょう

北町 (株)ディーグリーン) 三重県の(株)ディーグリーンでは、地元長

ながしま

島港と尾お わ せ

鷲港で

水揚げされる旬の魚を使った離乳食と幼児食材の通販サービス

を行っています。地元の旬の魚の中から、管理栄養士が離乳食

向けの魚を選定。新鮮なうちにカットし、手作業で骨を取って、

1食分ごとに真空包装し、離乳食や幼児食作りの負担を軽減す

る工夫をしています。特徴は皮付きのままの製品があることで

す。皮と身の間の脂はうまみがたっぷりで、脳の発達に必要だ

といわれるDHAやEPA等を豊富に含んでいます。皮はまだ食べ

られなくとも、身と皮を一緒に調理することでこれらの栄養素

もとることができます。

2.「フィッシュスタート」の取組(長崎県長崎市) 長崎市では、地元のおいしい魚を赤ちゃんの頃から食べ、大好きになっ

てほしいという思いから、魚食普及による市民の健康増進を目指す「魚の

まち長崎応援女子会」と連携して、長崎の豊富で新鮮な魚を使った離乳食

レシピ集を制作し、市の4か月児検診で配布する「フィッシュスタート」

の取組を行っています。このレシピ集に掲載されたレシピの特徴は、大人

の料理から材料を少しだけ取り分けて離乳食作りができることです。簡単

かつ経済的で、時間のない子育て世代のニーズにぴったりマッチしていま

す。また、「魚のまち長崎応援女子会」の協力の下、「おさかな離乳食教室」

も開催し、広く普及に努めています。

○「魚の国のしあわせ」プロジェクト 「魚の国のしあわせ」プロジェクトは、漁業者、水産関係団体、流通業者、食品製造業者、教育関係者、行政等、水産物に関わるあらゆる関係者による官民協働の取組として、平成24

(2012)年8月に開始された魚食普及のための取組です。 このプロジェクトの下、水産物の消費拡大に資する様々な取組を行っている企業・団体を登録・公表し、魚食普及という共通の目的に向かい個々の活動の連携を図る「魚の国のしあわせ」プロジェクト実証事業を行っています。平成29(2017)年3月末までに114事業の取組が登録され、優良な取組は「魚の国のしあわせ」推進会議によって魚の国のしあわせ大賞実証事業部門として表彰されています。 また、全国各地で魚食文化の普及・伝承に努めている方々を後押しするため、水産庁長官による「お魚かたりべ」の任命も行われており、平成29(2017)年3月末までに140名の「お魚かたりべ」が任命されています。学校での出前授業や親子料理教室を開催するなどして、子どもやその家族に魚のおいしさを伝えるとともに、魚料理に関する書籍の出版やテレビ番組の企画、出演等、メディアを活用した一般消費者への日常的な魚食の普及など、様々な魚食普及活動を展開しています。 一般に調理が面倒だと敬遠されがちな水産物を、手軽・気軽においしく食べられるように

(写真提供:(株)ディーグリーン)

(資料提供:長崎市)

Page 10: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

第4回 Fish −1グランプリコ

ラム

コラ

123

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

することも魚食普及の一つです。電子レンジで温めるだけだったり、フライパンでいためるだけだったりと、ひと手間加えるだけで手軽においしく食べられるような商品及びその食べ方を選定する「ファストフィッシュ」の取組も「魚の国のしあわせ」プロジェクトの一環として行われています。これまでに3千を超える商品が「ファストフィッシュ」として選定され、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの売場に定着してきました。さらに、市場のニーズが多様化してきている中で、単に手軽・気軽というだけでなく、より個々のライフスタイルや嗜好に合う形の商品を提案することにより、魚の消費の裾野を更に広げていくことが期待されます。このため、子どもが好み、家族の食卓に並ぶ商品や食べ方を対象とする「キッズファストフィッシュ」、及び国産魚や地方独特の魚を利用した商品や食べ方を対象とする「ふるさとファストフィッシュ」というカテゴリーを平成28(2016)年度から新たに設け、従来の「ファストフィッシュ」と合わせて3つのカテゴリーで選定を行っています。平成29(2017)年3月末現在で、延べ3,243商品が「ファストフィッシュ」、6商品が「キッズファストフィッシュ」、46商品が「ふるさとファストフィッシュ」に登録されています。

○「プライドフィッシュ」の取組 新鮮な旬の魚を日常的に食べる機会を持たない消費者もいる中で、魚介類の本当のおいしさを消費者に伝えることは、魚食普及に不可欠です。全国漁業協同組合連合会では、平成26

(2014)年度より、水産物の消費拡大に向けた取組として、地域ごと、季節ごとに漁師自らが自信を持って勧める水産物を「プライドフィッシュ」として選定・紹介する取組を始めました。全国各地のスーパーマーケットや百貨店でフェアやコンテスト等を開催するとともに、

「プライドフィッシュ」を味わえるご当地の飲食店や購入できる店舗をインターネットにより紹介する取組も行っています。

 年に1度の魚の祭典「Fish−1グランプリ」が、平成28(2016)年11月20日、国産水産物流通促進セ

ンターの主催により東京都内で開催され、全国各地の漁師自慢の旬の魚を使った「プライドフィッシュ

料理コンテスト」と、国産魚を使った手軽・気軽に食べられる「国産魚ファストフィッシュ商品コンテ

スト」の2つのコンテストやステージイベント等が行われました。

 「プライドフィッシュ料理コンテスト」では、60件以上の応募の中から予選を勝ち抜いた6団体による

本選が行われ、来場者による投票の結果、淡水魚では初めて本選に出場した滋賀県漁業協同組合連合会(滋

賀県漁業協同組合連合会青年会)の「天然ビワマスの親子丼」がグランプリを獲得しました。同会は、

琵び わ こ

琶湖の固有種であるビワマスを通じて、琵琶湖や滋賀県の食べ物のおいしさを消費者に知ってほしい

という思いから、生のビワマスやお米、水を運んだそうです。グランプリ取得をきっかけに、食べてみ

たいという消費者の声や、取り扱いたいという飲食店の要望が増加しています。

 また、「国産魚ファストフィッシュ商品コンテスト」では、静岡県伊い と う

東港で水揚げされた新鮮なサバの

Page 11: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

124

第Ⅱ章

第1部

すり身を使用した「いとうナゲット」がグランプリを獲得しました。「いとうナゲット」は魚独特の臭み

がなく、地元や県外の学校給食にも採用されるなど、子どもたちに大変人気の商品です。

 一方、ステージでは、地元水産物の普及活動を行う水産・海洋高校生による発表や東日本大震災から

の復興PR、さかなクントークショーに加え、平成27(2015)年度魚の国のしあわせ実証事業部門最優

秀賞を受賞した水産卸売業者の(株)昭和による「親子お魚教室」が行われました。親子お魚教室では、

ステージ上に親子連れが招かれ、サケに関するクイズや実物のサケを用いた観察等に挑戦しました。「し

っぽの形が違う」と雌雄の違いに気がついたり、「初めて

触った」と感動したりと、普段、大きな丸ごとの魚を目

にする機会のあまりない子どもたちは目を輝かせていま

した。

 Fish−1グランプリは、魚の本当のおいしさを伝えたり、

新たな食べ方を提供したり、子どもの頃から魚に親しむ

機会をつくったりと、魚食普及には様々なアプローチの

仕方があることを教えてくれる祭典です。こういった様々

な関係者による活動の積み重ねが、いつか大きな成果と

なって現れ、水産物の消費拡大につながっていくことが

期待されます。

○小売現場での国産魚介類の販売の取組 かつては、街の魚屋さんが魚介類の旬や産地、おいしい食べ方等を消費者に教え、調理方法に合わせた下処理のサービス等も提供して人々の食生活を支えていましたが、鮮魚専門の小売店の数は減少し、消費者の多くはスーパーマーケット等の量販店で魚介類を買うことが多くなっています。大手量販店を中心とする流通では、定量・定時・定規格・定価格での供給が重要とされますが、我が国の国産水産物は、沿岸漁業を中心として、魚種構成やサイズが多様である上、生産量も日により変化します。こうしたことも背景として、量販店の店頭には安定供給が可能な冷凍輸入品が多く並ぶ状況になっています。 しかしながら、南北に長い海岸線を有し、世界でも有数の好漁場に恵まれた我が国では、多種多様な魚介類が水揚げされます。また、四季がはっきりしており、それぞれの魚種ごとに旬もあります。それらが安定供給や規格の面では不利に働きますが、一方で、旬の魚を食べることで季節を感じ、同じ魚でも調理の仕方で食感や風味も変わるなど、食の楽しみにもつながります。そこで、近年では、特色ある売場づくりを目指す地域の食品スーパー等において、国産魚介類の販売拡大を目指した取組が成果を上げる例が出てきています。また、消

サケに触れる子どもたち

いとうナゲット 「プライドフィッシュ料理コンテスト」の受賞者

(写真提供(全て):全国漁業協同組合連合会)

天然ビワマスの親子丼

Page 12: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

都会の新しい魚屋さん(東京都 s

サ カ ナ

akana bバ ッ カ

acca)事 例

事 例

125

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

費者は食べ方が想像できないとなかなか商品を買ってくれないことから、魚介類の調理に詳しい人が店頭に立って、消費者との対面販売を試みたり、地産地消をスローガンに、地域の新鮮な魚介類を提供する曜日を設けたりしているところもあります。こういった様々な関係者による魚食普及の取組が、私たちが健康で豊かな食生活を送る一助となることが期待されます。

 魚屋さんときくと「鉢巻きを巻いてゴムエプロンをかけた大将が

威勢の良い声でお客さんを呼び込んでいる」というようなイメージ

があります。ところが、そのようなイメージを覆すような鮮魚店が

注目を集めています。その店の名は「sakana bacca」。「産地のお

いしい水産品をもっと楽しく」をモットーに、平成26(2014)年

12月に1号店をオープンさせて以来、東京都内に6店舗を展開して

います。カフェかインテリアショップを思わせるような店内に、様々

な魚が丸ごと陳列され、まるで海外のマルシェのようです。

 「sakana bacca」ではITを駆使して各地で獲れる魚をデータ化し、

価格決定とマッチングを即時に行い、集荷・分荷、決済を簡略化することで、産地からの商品の迅速な

調達を可能にしました。産地から直送されてくる魚は、獲れた翌日には店頭に並ぶような体制を整えて

います。

 また、独自の商品開発も手掛けており、小さくて骨が多いことから需要の少ないコノシロを生ハムや

スモークにして売るなど、市場価値の低い魚を加工して付加価値を生み出す取組も行っています。

 このようにお店のデザインや経営システムは斬新な一方で、

販売する際には従来の魚屋さんのように消費者との対話を重視

しています。初めて目にするような魚もたくさん並ぶ中で、消

費者はそれぞれの魚に合ったさばき方や調理方法等を店員に教

えてもらい、店員は消費者の注文に応じて魚を提供します。そ

して、その対話の中で得られた消費者の声を産地へフィードバ

ックすることで、消費者の求める魚を生産者から「sakana

bacca」に送ることを可能にしています。

(3) 消費者への情報提供や知的財産保護のための取組

(水産物に関する食品表示) 消費者が店頭で食品を選択する際、安全・安心、品質等の判断材料の一つとなるのが、食品の名称、原産地、原材料、消費期限等の情報を提供する食品表示です。食品表示は、食品を摂取する際の安全性や自主的かつ合理的な食品の選択を確保する上で重要な役割を担っています。水産物を含む食品の表示は、平成27(2015)年より、「食品表示法*1」の下で包括的・一元的に行われています。

(写真提供:(株)フーディソン)

(写真提供:(株)フーディソン)

*1 平成25(2013)年法律第70号

Page 13: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

126

第Ⅱ章

第1部

(原料原産地表示に関する動き) 食品表示のうち、加工食品の原料原産地表示については、平成28(2016)年1月に「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」が設置され、実行可能性を確保しつつ、制度の拡大に向けた検討が行われてきました。その結果、同年11月、国内で製造されている全ての加工食品について、製品に占める重量割合上位1位の原材料を義務表示の対象とすること等を内容とする中間取りまとめが公表されました。 水産加工食品については、これまでもいくつかの製品が原料原産地表示義務の対象とされてきました。今回の中間取りまとめでは、国民食であるおにぎりののりについて、重量割合としては低いものの、消費者が商品を選ぶ上で重要な情報と考えられること、表示義務付けの実行可能性があると見込まれることなどから、表示義務の対象とすることが盛り込まれました。今後、この取りまとめを踏まえ、「食品表示法」に基づく「食品表示基準」(内閣府令)の改正が消費者庁においてなされる予定です。

(水産エコラベルの動き) エコラベルとは環境に配慮した商品であることを示すラベルの総称です。水産物についても、生態系や資源の持続性に配慮して漁獲・収獲されたものであることを示す「水産エコラベル認証」の動きが、欧米を中心として、世界的に広がりつつあります。 世界には民間の運営団体による様々な水産エコラベル認証が存在します。英国に本部を置く海洋管理協議会(MSC : Marine Stewardship Council)による「MSC漁業認証」では、世界30か国以上の312漁業が認証を受けており、MSCの報告書によれば、平成27(2015)年の世界の漁船漁業生産量の9.4%がMSC認証漁業によるとされています。我が国では、北海道におけるホタテガイの垂下式養殖及びけた網漁業並びに京都府におけるアカガレイの底びき網漁業の2漁業に加え、平成28(2016)年には、宮城県におけるカツオ及びビンナガを対象とした一本釣り漁業がMSC認証のうち漁業者に対する「漁業認証」をそれぞれ取得し、我が国におけるMSC漁業認証は4件となりました。また、加工・流通過程でのトレーサビリティが確保されていることを認証する「CoC(Chain of Custody)認証」では、平成29(2017)年3月末現在で114件が認証を受けています。 一方、MSCの認証取得には、費用が高額であり小規模漁業者による取得が難しい、多魚種を漁獲対象とする漁業を想定していないといった問題が指摘されてきました。そこで、我が国においては、水産業界、流通加工業界、環境保護団体及び消費者団体の代表から構成される一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会(M

メ ル

EL-J)による水産エコラベル認証が実施されています。同協議会による認証は、多様性に富んだ我が国の漁業実態を十分に考慮しつつ、科学的根拠に基づく生態系の保全や資源管理を重視していることが特徴となっています。平成29(2017)年3月末現在でMEL-Jの「生産段階認証」で28件、「流通加工段階認証」で57件が認証を受けています。 このほか、養殖を対象とする水産エコラベルとして、我が国のアクアカルチャーエコラベル(AEL)、英国に本部を置く水産養殖管理協議会(ASC : Aquaculture Stewardship Council)等も存在しています。

Page 14: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会と水産物コ

ラム

コラ

127

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

 平成32(2020)年に開催される2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会。(公財)東京オ

リンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、この大会を持続可能性に配慮した大会とするため、

自らが調達する物品・サービスに適用する「持続可能性に配慮した調達コード」を策定しており、その

中には、大会関係施設で提供される飲食サービスに使用する水産物についての「持続可能性に配慮した

水産物の調達基準」も設けられています。組織委員会から大会における飲食サービス提供を受託する事

業者は、この調達基準に従って水産物を調達することが求められます。

 水産物の調達基準では、①FAOの「責任ある漁業のための行動規範」や漁業関係法令等の遵守、②天

然水産物については計画的な資源管理と生態系保全への配慮、③養殖水産物については計画的な漁場環

境の維持・改善と生態系保全への配慮並びに食材の安全性確保、及び④作業者の労働安全の確保の4つ

の要件を満たして漁獲・生産されていることが必要とされています。

 MEL-J、MSC、AEL、ASC等 の

水産エコラベル認証を受けた水産

物は、上記の4つの要件を満たす

ものとして認められています。ま

た、これらの認証を受けた水産物

以外を必要とする場合は、国又は

都道府県の確認を受けた資源管理

計画や漁場改善計画に基づいて漁

獲・生産されており、かつ、労働

安全の確保について確認されてい

るもの等も、要件を満たすものと

して認められています。

 さらに、こうした水産物を選択

するに当たっては、我が国の水産業の振興と、それを通じた漁業・漁村の多面的機能の発揮等への貢献

を考慮し、国産の水産物を優先的に選択することが推奨されています。

 我が国は、世界でも有数の魚食文化を有しており、我が国の誇る多種多様な水産物を2020年東京オリ

ンピック・パラリンピック競技大会で活用することが大いに期待されています。資源管理や良好な養殖

環境の維持、生態系の保全等、持続可能性に配慮して生産された我が国の水産物が、大会期間中、選手

村等で提供される食事を通して世界のトップアスリートたちを支えることが望まれます。また、大会を

契機として、持続可能性に配慮したより高いレベルの取組が生産者に更に定着・拡大していくことが期

待されます。

(地理的表示保護制度) 地理的表示保護制度は、品質や社会的評価等の特性が産地と結びついている産品について、その名称を知的財産として保護する制度です。我が国では、「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)*1」に基づいて平成27(2015)年からスタートしました。

「持続可能性に配慮した水産物の調達基準」の概要

○生鮮食品:調達基準を満たすものを調達。○加工食品:主要な原材料である水産物が調達基準を満たすものを可能な限り優先的に調達。

国内水産業の振興とそれを通じた漁業・漁村の多面的機能の発揮等への貢献を考慮し、国産水産物を優先的に選択すべき

要件①漁獲・生産が、FAOの「責任ある漁業のための行動規範」や漁業関係法令等に照らして適切に行われていること。②天然水産物:科学的な情報を踏まえ、計画的に水産資源の管理が行われ、生態系の保全に配慮されている漁業によって漁獲されていること。③養殖水産物:科学的な情報を踏まえ、計画的な漁場環境の維持・改善により生態系の保全に配慮するとともに、食材の安全を確保するための適切な措置が講じられている養殖業によって生産されていること。④作業者の労働安全を確保するため、漁獲又は生産に当たり、関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。

―MEL-J、MSC、AEL、ASC、その他のFAOガイドラインに準拠したものとして組織委員会が認める認証スキームの認証水産物―資源管理に関する計画であって、行政機関による確認を受けたものに基づいて行われている漁業により漁獲され、かつ要件④について確認されているもの―漁場環境の維持・改善に関する計画であって、行政機関による確認を受けたものにより管理されている養殖漁場において生産され、かつ要件④について確認されているもの―認証取得を目指した改善計画によるものを含め、要件①~④を満たすことが確認されているもの

(要件①~④を満たすもの)

*1 平成26(2014)年法律第84号

Page 15: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

水産物の地理的表示事 例

事 例

128

第Ⅱ章

第1部

この制度により、生産者にとっては地域ブランド産品としての付加価値の向上やブランドの不正使用からの保護が図られるほか、消費者にとっても、地理的表示として保護された名称の下で流通するものは一定の品質が維持されたもののみであることから、品質の保証された産品を選択できるという利点があります。また、「GIマーク」を貼り付けて我が国の真正な特産品であることを明示することにより、海外展開にも寄与することが期待されます。 さらに、諸外国との地理的表示の相互保護を円滑に実現する制度の整備に向け、「地理的表示法」が改正され、平成28(2016)年12月26日に施行されました。今後、海外でも我が国の地理的表示産品の保護が実現することで、農林水産物・食品の輸出促進が期待されます。 水産物に関しては、平成29(2017)年3月末までに、「下

しものせき

関ふく」及び「十じゅうさんこ

三湖産大和しじみ」の2件が地理的表示に登録されています。

1. 下関ふく 平成28(2016)年10月、水産物として初めて「下関ふく」が地理的表示に登録されました。

 トラフグ産地が近く、昔からふぐ食文化が発達していた山口県下関市は、今日も我が国におけるトラ

フグ流通の中心地となっており、下関市地方卸売市場南は え ど ま り

風泊市場には全国で生産されたトラフグが集ま

ってきます。

 「下関ふく」は、南風泊市場に入荷したトラフグを、「活かし込み」及び「みがき処理」の一連の工程

を経て「みがきふぐ」としたものです。活魚として南風泊市場に入荷したトラフグは、移送によるスト

レスをなくし、体内に残った餌や老廃物を排出させて身を引き締めるため、活魚水槽やいけすで1~4

日程度絶食状態に置かれます。これが「活かし込み」です。そして、状態の良いトラフグだけが選別され、

ふぐ処理師により、卵巣、肝臓等の有毒部位の除去と拭き上げが行われます。これが「みがき処理」です。

こうした工程を経て「下関ふく」の生産業者が生産した「みがき

ふぐ」は、最高品質のトラフグとして全国のふぐ料理店等に出荷

されています。「下関ふく」は、目利きとふぐ処理の高い技術に対

するブランドなのです。

 登録申請を行った下関唐か ら と

戸魚市場仲卸協同組合では、地理的表

示によりブランド力を更に高めるとともに、安全・安心なフグの

ブランドとして、アジア諸国や米国等への輸出の促進にも取り組

んでいきたいとのことです。

2. 十三湖産大和しじみ 「十三湖産大和しじみ」は、平成28(2016)年12月に地理的表示に登録されました。

 青森県津軽半島北部にある十三湖は、白しらかみさんち

神山地に源を発する岩い わ き が わ

木川の最下流域にあり、日本海に接続

する汽水湖です。塩分や水質、底質の環境が年間を通してヤマトシジミの生育に特に適しているとされ、

この地で生産されるヤマトシジミは、だしやうまみがよく出る高品質なシジミとして市場で高い評価を

受けています。

 十三湖の漁業者は、殻長12mm以上のシジミのみを採捕するサイズの制限、母貝保護等のための禁漁

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129

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

区の設定、操業期間・時間の制限、1日当たりの漁獲量の制限等の操業制限により、徹底した資源管理

に取り組むと同時に、操業期間中に漁獲したヤマトシジミを個人管理区域に移植・蓄養し、計画的に出

荷することで、周年での供給を実現しています。こうした取組による安定的な供給も、市場での高評価

につながっています。

 しかしながら、産地では、輸入品を含む他産地のシジミが

十三湖産として流通される産地偽装に頭を悩ませていました。

この問題に対処するため、産地では、品質等の特性が産地と結

びついている産品についてその名称を保護し、不正使用に対し

ては行政による取締りが行われることとなる地理的表示の登録

を申請することとしました。登録申請を行った十三漁業協同組

合は、この制度を通じて消費者が本物の「十三湖産大和しじみ」

を味わえるようになってほしいと話しています。

(4) 水産物貿易の動向

(水産物輸入の動向) 我が国の水産物輸入量(製品重量ベース)は、平成13(2001)年に382万トンでピークとなった後、国際的な水産物需要の高まりや国内消費の減少等に伴って減少傾向で推移しており、平成28(2016)年には前年から4%減の238万トンとなりました(図Ⅱ−3−11)。また、水産物輸入金額は、リーマンショックの影響を受けた平成21(2009)年以降増加してきましたが、平成28(2016)年には、前年から7%減の1兆5,979億円となりました。 輸入品目の上位を占めるのは、エビ、マグロ・カジキ類、サケ・マス類等の品目です(図Ⅱ−3−12)。輸入相手国は品目に応じて様々ですが、エビはベトナム、インド、インドネシア等、マグロ・カジキ類は台湾、中国、韓国等、サケ・マス類はチリ、ノルウェー等から多く輸入されています(図Ⅱ−3−13)。

400

350

300

250

200

150

100

50

0

万トン18,000

16,000

14,000

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

億円

資料:財務省「貿易統計」に基づき水産庁で作成

輸入量(左目盛)

輸入金額(右目盛)

平成13(2001)

16(2004)

15(2003)

14(2002)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

25(2013)

26(2014)

28(2016)

27(2015)

24(2012)

平成28(2016)年 1兆5,979億円

平成28(2016)年 238万トン

図Ⅱ-3-11 我が国の水産物輸入量・輸入金額の推移

Page 17: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

130

第Ⅱ章

第1部

(水産物輸出の動向) 我が国の水産物輸出額は、平成20(2008)年のリーマンショックや平成23(2011)年の東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」といいます。)の事故による諸外国の輸入規制の影響等により落ち込んだ後、平成25(2013)年以降は増加傾向で推移してきました。しかしながら、平成28(2016)年には再び減少に転じ、輸出量は前年から3%減の54万トン、輸出金額は4%減の2,640億円となりました(図Ⅱ−3−14)。これは、主に、平成26(2014)年と27(2015)年に2年連続でオホーツク海沿岸に来襲した爆弾低気圧の影響等により、輸出の主力品目であるホタテガイの漁獲量が大幅に減少したことによるものです。また、平成28(2016)年の年初から為替相場が円高方向へ動いたことも、水産物輸出の拡大にとっては逆風となった可能性があります。 主な輸出相手国・地域は香港、中国、米国で、これら3か国・地域で輸出金額の約6割を占めています(図Ⅱ−3−15)。品目別には、中国等向けに輸出されるホタテガイ、主に香港向けに輸出される真珠等が上位となっています(図Ⅱ−3−16)。

その他49.5%

エビ12.4%

エビ調製品4.3%

タラ類3.3%

イカ3.1%

マグロ・カジキ類12.0%

資料:財務省「貿易統計」(平成28(2016)年)に基づき水産庁で作成

ベトナム6.0%

タイ6.6%

その他29.4%

韓国5.2%

米国8.5%チリ7.5%

ロシア7.0%

ノルウェー6.6%

中国18.0%

カニ4.1%

インドネシア5.2%

〈輸入相手国・地域〉 〈輸入品目〉

平成28年(2016)1兆5,979億円

平成28年(2016)1兆5,979億円

農林水産物総輸入額に占める割合:18.7%

サケ・マス類11.2%

図Ⅱ-3-12 我が国の水産物輸入相手国・地域及び品目内訳

中国36.3%

韓国5.2%

その他31.3%

タイ17.0%

ベトナム10.1%

アルゼンチン5.6%

その他7.6%

米国79.4%

その他14.9%

カナダ16.6%

米国14.7% ロシア

53.8%

その他4.3%

チリ53.5%

米国5.5%

ロシア10.2%

ノルウェー26.5%

メキシコ5.5%

中国14.4%

その他33.5%

韓国10.7%

マルタ6.9%

豪州6.8%

台湾22.2%

インドネシア15.8%

タイ6.5%

インド17.5%

中国5.1%

その他21.8%

アルゼンチン7.5%

カナダ6.7%

ベトナム19.1%

カニ注2

655億円タラ類524億円

イカ501億円

サケ・マス類1,795億円

マグロ・カジキ類1,915億円

エビ注1

1,987億円

資料:財務省「貿易統計」(平成28(2016)年)注:1) エビについては、このほかエビ調製品(694億円)が輸入されている。2) カニについては、このほかカニ調製品(131億円)が輸入されている。

ニュージーランド7.3%

図Ⅱ-3-13 我が国の主な輸入水産物の輸入相手国・地域及び品目内訳

Page 18: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

131

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

(水産物輸出の拡大に向けた取組) 国内の水産物市場が縮小する一方で、世界の水産物市場はアジアを中心に拡大しています。世界市場に向けて我が国の高品質で安全な水産物を輸出していくことは、販路拡大や漁業者

70

60

50

40

30

20

10

0

万トン3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

億円

資料:財務省「貿易統計」に基づき水産庁で作成

輸出量(左目盛)

輸出金額(右目盛)

平成13(2001)

16(2004)

15(2003)

14(2002)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

25(2013)

26(2014)

28(2016)

27(2015)

24(2012)

平成28(2016)年 2,640億円

平成28(2016)年 54万トン

図Ⅱ-3-14 我が国の水産物輸出量・輸出金額の推移

その他46.4%

資料:財務省「貿易統計」(平成28(2016)年)に基づき水産庁で作成

〈輸出相手国・地域〉 〈輸出品目〉

平成28年(2016)2,640億円

平成28年(2016)2,640億円

農林水産物総輸出額に占める割合:35.2%

ホタテガイ20.8%

真珠12.5%

サバ類6.8%ブリ5.1%

ナマコ調製品3.6%

ベトナム6.4%

タイ5.4%

その他16.0%

韓国5.8%

米国13.2%

中国16.0%

香港30.3%

ホタテガイ調製品4.9%

台湾6.9%

図Ⅱ-3-15 我が国の水産物輸出相手国・地域及び品目内訳

米国84.7%

その他15.3%

ブリ135億円

資料:財務省「貿易統計」(平成28(2016)年)注:1) ホタテガイについては、このほかホタテガイ調製品(128億円)が輸出されている。2) ナマコについては、このほかナマコ調製品(乾燥)(87億円)及びナマコ(調製品以外)(22億円)が輸出されている。

その他30.7%

サバ類180億円

インドネシア5.7%

ナイジェリア5.0%

タイ18.5%

フィリピン6.0%

ベトナム7.7%

ガーナ10.0%

エジプト16.3%

米国9.8%

その他10.9%

真珠329億円

香港79.3%

その他1.2%

ナマコ調製品注2

(乾燥以外)95億円

香港98.8%

米国13.9%

中国52.1%

その他14.4%

ホタテガイ注1

548億円韓国6.4%香港7.2%

台湾6.0%

図Ⅱ-3-16 我が国の主な輸出水産物の輸出相手国・地域及び品目内訳

Page 19: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

世界で愛される 錦にしき

鯉ごい

コラ

ムコ

ラム

132

第Ⅱ章

第1部

等の所得向上にもつながる重要な手段であり、我が国の水産業の体質強化を図る上で欠かせない視点です。国では、平成28(2016)年5月に「農林水産業の輸出力強化戦略」を取りまとめました。輸出の取組の主役である農林漁業者等のチャレンジや創意工夫が一層引き出され、意欲的な取組が行われるよう側面から支援していくとともに、外国の規制等に対しては政府として全力で対応することとしています。この中で、水産物の輸出力強化に関しては、適切な資源管理により資源を増大しつつ、高品質な冷凍水産物の生産のための新技術の導入等を支援することや、自然災害等があっても養殖品の輸出が落ち込むことのないよう、養殖生産の一層の拡大と安定した生産体制の構築を図り、輸出の拡大に向けた国内の生産体制を整備していくこととしています。 また、海外市場の拡大を図るため、平成27(2015)年に発足した「水産物・水産加工品輸出拡大協議会」によるオールジャパンでの輸出促進の取組を支援しています。平成28(2016)年度からは新たに、輸出先国・地域の事情に精通した現地の海外コンサルタントを活用して現地のニーズに即したプロモーション活動を行ったり、米、日本酒等の消費の相乗効果が期待できる産品と連携して我が国の水産物の魅力をアピールしたりする取組を開始しました。 さらに、輸出先国・地域の衛生基準等に適合した輸出環境を整備することも重要です。このため、国では、欧米への輸出時に必要とされる水産加工施設のHACCP対応や、輸出拠点となる漁港における高度な品質・衛生管理体制の構築等を支援しています。また、東電福島第一原発事故に伴う輸入規制を維持している国・地域に対しては、規制の撤廃・緩和を粘り強く働きかけるとともに、輸出先国・地域によって必要とされる衛生証明書や漁獲証明書等の輸出に関する証明書類の発行手続の簡素化・迅速化にも取り組んでいます。 平成28(2016)年8月に閣議決定された「未来への投資を実現する経済対策」では、平成31(2019)年に農林水産物・食品輸出額1兆円を達成することを目指すこととされており、水産物についても、平成31(2019)年に輸出額を3,500億円とすることを目指しています。

 紅、白、黄、金などの鮮やかな色に彩られた錦鯉は、200年ほど前に新潟県の山間部で生まれ、それ以降様々

な品種がつくられてきました。高価なものでは1尾2千万円もの値が付くといわれる「泳ぐ宝石」です。

 近年、アジアやヨーロッパなど海外での錦鯉の人気が高まっており、それに伴って輸出額が増加しています

(図)。平成28(2016)年の輸出額は、前年から

若干減少しましたが、35億円となりました。また、

平成15(2003)年にコイヘルペスウイルス病が

発生して以降、我が国から中国への錦鯉の輸出は

停止されていましたが、平成28(2016)年4月、

我が国の6か所の養鯉場が輸出可能施設として

中国当局に登録され、同年12月にはこのうちの

1か所から輸出が再開されました。中国の富裕層

の間でも我が国の錦鯉は高い人気を誇っており、

今後、中国向けの輸出の増加も期待されます。資料:財務省「貿易統計」

40

30

20

10

0

億円

27.0 29.2 29.2

36.8 34.8

観賞用の淡水魚(金魚を除く)の輸出額の推移

平成24(2012)

28(2016)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

その他インドネシア英国ドイツ米国オランダ香港

Page 20: 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き117 第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き 第Ⅱ章 第1部 (水産物に対する消費者の意識)

133

第3節 我が国の水産物の需給・消費をめぐる動き

第Ⅱ章

第1部

 新潟県等の産地では、アジア諸国からの富裕層を中心とした錦鯉の買い付けツアーの一行が高価な錦

鯉を購入する姿がみられます。また、外国人が購入した錦鯉の飼育をそのまま日本の養鯉場に委託する

場合も多く、海外での人気は輸出額の増加以上に高まっているともいえそうです。

 いまや、錦鯉に対する需要の7~8割が海外の愛好者によるものといわれていますが、我が国国内での人

気復活を目指す動きもみられます。錦鯉は、池のある庭園がなければ飼え

ないと思われがちですが、飼育される空間の広さに応じて成長が抑制され

るため、室内の水槽でも小さいまま飼うことが可能です。こうした現代の

住宅事情にマッチした新しい錦鯉の飼い方を提案することにより、新たな

国内需要を喚起していこうとする取組も行われています。

 我が国で育まれてきた錦鯉。世界中で末長く愛されてほしいものです。

(5) 水産物に関する貿易交渉をめぐる情勢

(TPPに関する動き) 環太平洋パートナーシップ(TPP)については、平成28(2016)年2月4日に協定の署名が行われました。我が国では同年3月8日にTPP協定承認案及び関連法案が国会へ提出され、同年12月9日にTPP協定が承認され、関連法案は可決・成立しました。これを受けて、我が国政府は平成29(2017)年1月、寄託国であるニュージーランドに国内手続が完了した旨の通報を行い、TPP協定を締結しました。 米国政府は、平成29(2017)年1月、新大統領が署名したTPP離脱に関する大統領覚書に基づき、TPPの締約国となる意図がない旨をTPP署名国に通知しました。同年3月にチリで行われたTPP閣僚会合においては、米国を除くTPP署名11か国が出席し、共同声明を発出しました。この共同声明ではTPPのバランスの取れた成果及び戦略的・経済的意義を再確認するとともに、5月のアジア太平洋経済協力(APEC)貿易大臣会合の際に開催することとされたTPP閣僚会合に向けて引き続き協議することとなりました。我が国としては、我が国がTPPにおいて持っている求心力を生かしながら、今後どのようなことができるかを、関係国と議論していきます。

(WTOに関する動き) 平成13(2001)年に開始された世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド交渉においては、過剰漁獲能力及び過剰漁獲を抑制する観点から、各国の漁業補助金に関するWTO協定の規律を策定するための議論が行われてきました。しかしながら、ドーハ・ラウンド交渉の行方は不透明となっており、平成27(2015)年に開催された第10回WTO閣僚会議においても、漁業補助金の取扱いを含め、明確な結論は得られていません。 こうした中、平成28(2016)年9月、米国をはじめとする13か国が漁業補助金に関する議論を少数の有志国で進める旨の共同声明を発表しましたが、一方で、全ての加盟国の参加による合意を目指すべきという立場からも継続的な議論が行われています。これまで我が国は、政策上必要な補助金は認められるべきであり、禁止される補助金は、真に過剰漁獲能力・過剰漁獲につながるものに限定すべきとの立場で交渉に臨んできました。今後ともこのような我が国の立場を主張する必要があります。