30
104 第 3 章 流体励起振動 風が吹くと,シュロの葉や旗がパタパタとなびき,窓際のブラインドがビーンと音をたて て振動する.高層ビル,煙突,つり橋,高速道路や橋梁にある照明柱なども風によって大き な振動を生じることがあり,この振動が構造物の疲労破壊へと導いたり,機能低下を引き起 こす.そのときの風は突風でもなければ,台風時の強風でもない.ごくありきたりの一様な 風によって大きな振動が引き起こされるのである.ここでは,流体によって引き起こされる これらの自励振動を概観する (1)(2) 3.1 カルマン渦 3.1 左図のように,流体の一様流れの中に円形断面の構造物が置かれると,構造物の後 流で交互に渦が剥離する.これをカルマン渦(Karman vortex)と呼ぶ.右図は溜まり水の中で黒 インクを付けた箸を左から右へ移動させてカルマン渦を発生させたときの渦の模様である. 実際は水が右から左へ流れたときに相当する.箸の直径,箸の移動速度,箸の掴み具合を調 整して初めてカルマン渦の発生が実現できる.構造物の中心を通り,流れに平行な軸を設定 すると,この軸に対して非対称な渦(非対称渦と呼ぶ)が発生し,構造物の後流で交互に渦 を巻く.この渦がカルマン渦と呼ばれる.そのため,構造物には流れの方向の抗力のほかに, 流れと直角な揚力方向に交番的な流体力が発生し,それが構造物を流れと直角方向に振動さ せる.すなわち,振動的な流体の流れではなく,一様流速の流れから円形断面の構造物の後 流に発生するカルマン渦によって流れに直角な方向に構造物が揺さぶられ,自励振動を発生 させる.これを渦励振振動(Vortex induced vibration)と呼ぶ.カルマン渦は構造物の円形断面の 直径 D (m)と一様流れの流速 U (m/s)が特定の関係にあるときにのみ発生する.すなわち,カ ルマン渦の発生は次のストローハル数(Strouhal number) t S に依存する. t Df S U = ·······································(3.1) ここに,f (Hz)は流出渦の振動数である.空気や水によっても異なるが,通常のレイノルズ数 の範囲(R e =10 3 10 5 )では, 0.18 t S = 0.21 でカルマン渦の発生が顕著である. 渦励振振動の特性を図 3.2 に概略図示する.横軸は構造物の固有振動数が n f (Hz)のときの 無次元流速(Dimensionless flow velocity) / r n V U Df = ,縦軸は応答振幅と直径との比 D a / およ び流出渦の振動数 f (Hz)である.流速の上昇とともに,流出渦の振動数も比例して高くなる. この流出渦の振動数 f が流体中の構造物の固有振動数 n f に一致すると激しい構造物の渦励振 3.1 カルマン渦(左図は九州大学 辰野正和教授提供,右図は Web site から)(Video3-1) 溜まり水

第3章 流体励起振動 - Oita Universitymachls.cc.oita-u.ac.jp/.../download/self-excited/chap3.pdf104 第3章 流体励起振動 風が吹くと,シュロの葉や旗がパタパタとなびき,窓際のブラインドがビーンと音をたて

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第 3章 流体励起振動

風が吹くと,シュロの葉や旗がパタパタとなびき,窓際のブラインドがビーンと音をたて

て振動する.高層ビル,煙突,つり橋,高速道路や橋梁にある照明柱なども風によって大き

な振動を生じることがあり,この振動が構造物の疲労破壊へと導いたり,機能低下を引き起

こす.そのときの風は突風でもなければ,台風時の強風でもない.ごくありきたりの一様な

風によって大きな振動が引き起こされるのである.ここでは,流体によって引き起こされる

これらの自励振動を概観する(1)(2).

3.1 カルマン渦

図 3.1 左図のように,流体の一様流れの中に円形断面の構造物が置かれると,構造物の後

流で交互に渦が剥離する.これをカルマン渦(Karman vortex)と呼ぶ.右図は溜まり水の中で黒

インクを付けた箸を左から右へ移動させてカルマン渦を発生させたときの渦の模様である.

実際は水が右から左へ流れたときに相当する.箸の直径,箸の移動速度,箸の掴み具合を調

整して初めてカルマン渦の発生が実現できる.構造物の中心を通り,流れに平行な軸を設定

すると,この軸に対して非対称な渦(非対称渦と呼ぶ)が発生し,構造物の後流で交互に渦

を巻く.この渦がカルマン渦と呼ばれる.そのため,構造物には流れの方向の抗力のほかに,

流れと直角な揚力方向に交番的な流体力が発生し,それが構造物を流れと直角方向に振動さ

せる.すなわち,振動的な流体の流れではなく,一様流速の流れから円形断面の構造物の後

流に発生するカルマン渦によって流れに直角な方向に構造物が揺さぶられ,自励振動を発生

させる.これを渦励振振動(Vortex induced vibration)と呼ぶ.カルマン渦は構造物の円形断面の

直径 D (m)と一様流れの流速 U (m/s)が特定の関係にあるときにのみ発生する.すなわち,カ

ルマン渦の発生は次のストローハル数(Strouhal number) tS に依存する.

tDfSU

= ·······································(3.1)

ここに,f (Hz)は流出渦の振動数である.空気や水によっても異なるが,通常のレイノルズ数

の範囲(Re=103~105)では, 0.18tS = ~0.21 でカルマン渦の発生が顕著である. 渦励振振動の特性を図 3.2 に概略図示する.横軸は構造物の固有振動数が nf (Hz)のときの

無次元流速(Dimensionless flow velocity) /r nV U Df= ,縦軸は応答振幅と直径との比 Da / およ

び流出渦の振動数 f (Hz)である.流速の上昇とともに,流出渦の振動数も比例して高くなる.

この流出渦の振動数 f が流体中の構造物の固有振動数 nf に一致すると激しい構造物の渦励振

図 3.1 カルマン渦(左図は九州大学 辰野正和教授提供,右図は Web site から)(Video3-1)

溜まり水

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渦の振動数

6.5

応答振幅

5.0n

rDf

UV =

Da/

Df

U

Da/

nf固有振動数

発生流速域

f

1.2

応答振幅

0.1

2.5 3.0 5.0rV

Da/

図 3.2 渦励振振動の発生状況 図 3.3 色々な渦による振動形態

図 3.4 カルマン渦と渦列 (Video3-2)

振動が生じる.構造物が大きく振動している流速域では,流出渦の振動数は構造物の固有振

動数にロックインされる ( )nf f= .無次元流速が 5.0rV = ~6.5 ( 0.18tS = ~0.21)の範囲で大きい

応答振幅を示している.振幅はかなり大きいが,発生する振動数は低く,数 Hz 程度である. 一方,図 3.3 に示すように上述のカルマン渦による自励振動のほかに,流速がカルマン渦

のときの半分以下のかなり低い rV =2.0( 0.5tS = )の周りでも構造物の後流に対称渦を生じ,そ

れが流れと同じ抗力方向に振動を発生させる.これが高速増殖炉「もんじゅ」の 2 次冷却系

配管の温度計鞘を疲労破壊へと導いた振動である.振幅は小さいが,発生振動数はかなり高

く,200Hz 程度に及ぶ.この種の自励振動が発生すると,発生する応力は高く一気に疲労破

壊へと繋がる.もんじゅでは,温度計の設置の仕方に他のものと特殊性があったとは言え,

48 本のうちの 1 本の温度計鞘が疲労破壊を起こし,ナトリウムの漏洩に繋がった.さらに,

それらの中間の流速域には,非対称渦で抗力方向の振動を生じる領域もある. 図 3.4 に示すように,水流の中に円柱ブロックを一つ置いて,円柱ブロックのすぐ上流に

インクを垂らしてカルマン渦の発生を確認することができる.その状態で,ブロックをある

間隔で配置していき,数を増やしていくと水は流れと直角方向にどんどん大きく波を打って

振動するようになる.この水の振動により,ブロックは水流と直角方向に振動させられる.

ボイラの管群の振動もこの現象と同じである.管群の管同士が振動で接触するぐらい大きな

振動を発生し,大きな音をも伴う衝突振動により管の破裂に至るときもある. 今,図 3.5 に示す高さ 70m の単列の煙突の先端が 11 月の季節風で 1m 近くも揺れている.

カルマン渦による自励振動である.煙突が壊れないかどうかの判定を頼まれたら君ならどう

する?ただし,煙突の形状、高さおよび自励振動時の煙突の先端の振幅は既知としよう.

カルマン渦

水の振動 墨

rn

UVDf

=rV

/a D

f

nf

f D U /a D /a D0.05

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図 3.5 カルマン渦による煙突の振動 (Video3-3)

【学生と教授の会話】 A 君「カルマン渦をどう取り扱うの? モデル化が重要だと教授が言ってたなあ.」

B 君「カルマン渦による強制変動力はどこにいくら作用するんだ?それがわかれば強制振動

解析できるのだが.待てよ,これは自励振動じゃなかったかな.」

A 君「自励振動じゃカルマン渦のモデル化がわかっても非線形振動解析が非常に難しい.手

に負える問題じゃないよ.目の前で起こっている現象なのになあ.」

B 君「待てよ.煙突は片持ちはりの形状をし,煙突の先端が大きく揺れているよね.だった

ら最大曲げモーメントは煙突の根元で生じる.壊れるときは,煙突の付け根からだよ.」

こんな会話が聞かれそうである.ここで落ち着いて考え直してみよう.

S 教授「煙突の振動が自励振動であるなら,その振動数は煙突の固有振動数にほぼ一致し,

煙突はほぼ固有モードで振動しているはずだ.」

A 君「そうなんだ.それなら煙突の線形自由振動解析を行って固有振動数と固有モードを求

めればいいじゃないか.固有モードがわかれば,曲げモーメントが計算できるぞ.」

B 君「でも固有モードは大きさが不定だよ.」

A 君「だったら自励振動している煙突の振幅測定からモード振幅の大きさを決定すれば振動

中の発生応力が求められないの?たとえば,煙突先端の振幅を観測するとか.」

A・B 君「やったぜ!」

このように,自励振動の発生メカニズムそのものの探求ではなく,結果として生じた自励

振動に対する定量的な検討が最重要課題である場合には,自励振動は自由振動解析で十分な

場合もしばしばある.難しく考える必要はないのである.難しい問題を如何にできるだけ簡

単な問題に置き換えて考えるかが技術者としてのセンスの見せどころである.

煙突の固有振動数と対応したモードを計算する手法には,次の例題のように簡単な一様片

持ちはりでは直接偏微分方程式を解く方法もあるが,形状が複雑になると伝達マトリックス

法,および伝達マトリックス法をより高速かつより高精度解析できるように拡張した伝達影

響係数法(3)を適用すればパソコンで簡単に計算できる.

【例題 3.1】煙突に一様な風が当たっている.煙突を外径 D=4.25m,内径 d=4.2m,長さ l=70mの鋼製片持ちはり様円筒と仮定すると,どのくらいの風速でカルマン渦によって大きく揺れ

始めるか.風がそれよりもさらに強くなると状況はどのように変化するか.

【解】煙突の曲げ振動の運動方程式は,2 4

2 4 0y yA EIt x

ρ ∂ ∂+ =

∂ ∂である.ここに, ρ は煙突の

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密度,A は断面積,EI は曲げ剛性,x は長手方向座標,y は横変位である. ( )cosy Y x tω= と変 数分離する.境界条件:根元 0x = で固定( 0, / 0Y dY dx= = ),先端 x l= で自由( 2 2/ 0,d Y dx =

3 3/ 0d Y dx = ) を適用すると,振動数方程式は cosh cos 1 0λ λ + = (4) となる.ここに,4 4 2 /Al EIλ ρ ω= .この超越方程式を数値的に解くと,無次元固有振動数λの小さい方から,

1 1.875,λ = 2 34.694, 7.855λ λ= = を得る.これらはそれぞれ 1 次,2 次,3 次モードに相当する. カルマン渦が発生する条件をストローハル数 / 0.2tS Df U= = と仮定し,流出渦の振動数 f

として煙突の固有振動数 if ( 1,2,3i = )を用いると,i次モードでカルマン渦が発生する流速は, 2

2,0.2 2

i ii i

Df EIU fAl

λρπ

= = で計算できる.ここで, ρ = 7.8×103 kg/m3, E = 2.06×1011N/m2,

2 2( ) / 4A D dπ= − = 0.3318m2, I 4 4( )D dπ= − / 64 = 0.74045m4を上式に代入すると,i 次振動モ ードで発生する流速はそれぞれ 1U = 18.6m/s, 2U = 116.7m/s, 3U = 326.9m/s となる.

したがって,風速が 1U = 18.6m/s の近くになると,煙突の 1 次モードでカルマン渦による渦

励振振動が発生する.そのときの振動数は 0.877Hz である.2, 3 次モードの渦励振振動は事実

上発生しない.カルマン渦による振動は台風のような強風によって生じるものではなく,し

ばしば 11 月や 2 月の一様な季節風によって引き起こされる(12). なお,煙突の内壁には耐火レンガが敷き詰められている.組まれたレンガの剛性は低いが

質量を持つため,上記の計算にその効果を考慮する必要があるところを簡単のため省略して

いる.

Tea Time 3.1 カルマン渦の発生を防止する

カルマン渦は一様流れの中に置かれた柱状構造物の後流によく発生する.それを防止する

ためには、構造物の後流にカルマン渦を生じさせない方策を考える必要がある.

イギリスに行くと,ビーカー内部を掃除するブラシの形状をしたものを,石炭を焚く煙突

の周りに螺旋状に巻きつけている光景をよく見かける.これは煙突の後流にカルマン渦が発

生しないように流れに乱れを生じさせる効果がある.円形断面をもつ構造物は美しい.しか

し,そのまわりに巻かれたブラシは景観を損ねかねない.渓谷に架かった美しい吊り橋がカ

ルマン渦による渦励振振動を生じているとき,その対策として円形断面部材にブラシを巻き

つけることは技術者としても許すわけにはいかないであろう.

円形断面がカルマン渦を生じやすいのであれば,その断面形状を変更することが考えられ

る.よく試みられている断面は八角形や六角形である.ある構造物では八角形断面の構造物

が渦励振振動に強く,他の構造物では円形断面の方が八角形よりも渦励振振動に強いことも

ある.この辺の十分な理論的根拠は未だ与えられていないようである.関門橋などの大きな

橋や高速道路脇の照明柱には八角形のものも良く見かける.その効果はどうなのだろうか.

高速走行する自転車に乗った競輪選手の丸いヘルメットの後流にカルマン渦が生じて頭が

左右に揺さぶられる.それを防止するために,流線型のヘルメットが使用されるようになっ

たらしい.また,いかだを何本も直列に連結して水上を船で牽引すると,いかだはまっすぐ

に進まず,蛇のように蛇行しながら進む.この防止法はあるのだろうか.一方,地上の空港

で活躍する荷物運搬連結車が蛇行するのを見たことはない.対策はされているのだろうか.

Tea Time 3.2 地球上の疑似カルマン渦

カルマン渦は等身大の構造物の回りに発生するだけではない.図 3.6 の写真は西風が約

2000m の高さで,富士山のような形をした韓国の済州島のハンナ山にぶつかり,その後流に

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108

図 3.6 疑似カルマン渦(東京大学,木村教授提供)

1000km 以上にわたりカルマン渦もどきが発生しているのを静止衛星が捉えたものである.等

身大の実験室では,カルマン渦はレイノルズ数 2/ 10Re DV ν= = ~ 310 のときに観察される.

ここに, 5 210 m /sν −≈ は空気の動粘性係数,D は構造物の代表寸法,V は空気の流速である.

しかし,10km より大きなスケールの現象では,普通の空気とは異質の乱流気体と考えられ,

新たに乱流粘性 210Tν = ~ 310 2m /s を分子粘性の代わりに採用すれば,この地球規模のカルマ

ン渦もレイノルズ数が 210 ~ 310 となり,流体力学的な相似則を得ることができる(5).

Tea Time 3.3 レインバイブレーション

カルマン渦による渦励振振動ではないが,名港大橋の建設時につり橋のロープが多数大き

く振動する現象が生じた.調査の結果,雨が降るとこの斜張ロープが振動することが判明し

た.適度の雨,風向きおよび風とロープとの迎え角の条件が整うとロープは大きく振動する.

雨がロープを伝わりながらゆっくりと落ちていくときに風によって引き起こされる振動であ

る.これはレインバイブレーション(Rain vibration)と名付けられた. 3.2 ギャロッピング

次に渦励振と異なる流れによって誘起される振動を考える.山岳地帯など強風で雪のふる

寒冷な地域で送電線に氷結が生じ,その断面形状が円形から変化すると,一様な強風の中で

送電線が大きく振動することがある.このギャロッピング(Galloping)と呼ばれる不安定振動を

考察する(2).ギャロッピングは北欧や北アメリカなどの地域でしばしば観測される.日本に

おいても,平成 17 年 12 月 22 日,ギャロッピングによる送電線の振動が原因で新潟下越地域

に 1 週間にわたる大規模停電が起こった.送電線を 1 本ずつ自由にするよりも,4 本を四角

形状に束ねる方式の送電線が大きく振動したという報告もある.このような背景からも,安

定な電力供給のためには,ギャロッピング現象の解明と対策が大きな課題となっている.

図 3.7 は丸太棒の断面を半分に切った木片をばねで水平に支持し,カットされた平面に向

かって扇風機で強風を当てる.すると,木片は風と直角な方向に振動し始め(風方向には振

動しない),その振幅は徐々に大きくなって定常的なギャロッピングと呼ばれる自励振動に到

達する.扇風機の風を弱めると,ギャロッピングの振幅は小さくなるか,生じなくなる.ま

た,風を木片の反対側(円筒形状側)から当てても,ギャロッピングは決して生じない.ギ

ャロッピングの発生には,振動物体の断面形状,風の強さとその向きが関与している.ギャ

ロッピングは細長い物体に強風がぶつかるときに発生する.図 3.3 で言えば,カルマン渦に

よる渦励振振動域よりももっと高速側での現象である.

←九州

済州島

韓国

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図 3.7 ギャロッピング (Video3-4)

図 3.8 ギャロッピングの解析モデル

図 3.8 に示すような流速U の一様流れの中に置かれた単位長さ当たりの質量m (kg/m)の物

体が単位長さ当たりのばね定数 k (N/m2),減衰係数 c (Ns/m2)で支持され,流れと垂直方向に 振動する 2 次元 1 自由度系を考える.無次元流速が大きいときに発生する流体力の特性は物

体が流れに向かう角度(迎え角α )に依存し,次式の揚力 LF (N/m)と抗力 DF (N/m)で表現さ

れる.

212L LF U DCρ= , 21

2D DF U DCρ= ⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅ (3.2)

ここに,ρは流体の密度, relU U≅ (U y>> ), relU は相対速度,Dは代表寸法および ,L DC Cはそれぞれ揚力係数,抗力係数で迎え角 /y Uα− = の関数である.物体に作用する揚力や抗力

は流体の密度に比例し,流速の二乗に比例する.物体の振動方向の流体力 yF は,

21cos sin2y L D yF F F U DCα α ρ= + = ⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅ (3.3)

となる.ここに, ( )cos ( )siny L DC C Cα α α α= + である.流体力係数 ( )y yC C α= を迎え角の関数

として,α について( 0α = の周りでテイラー展開して)1 次まで考慮すると,

(0) [ (0) (0)] (0)y L L D L yy yC C C C C C

U U′ ′≅ − + = − .ここに, (0) (0)y L DC C C′ ′= + ⋅⋅⋅ (3.4)

そのとき,物体の運動方程式は, ymy cy ky F+ + = だから,次式を得る.

21 1 (0)2 2y Lmy c UDC y ky U DCρ ρ⎡ ⎤′+ + + =⎢ ⎥⎣ ⎦

⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅ (3.5)

強 風

強 風

ばね

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110

フルビッツの安定判別法から,上式がギャロッピングを生じるための条件としては, y の係

数が負のとき,すなわち,負性抵抗が原因のときである.

1 02 yc UDCρ ′+ < ⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅ (3.6)

上式が成り立つためには, 0yC′ < でなければならない.そのとき,流速 U が

2

y

cUDCρ

> −′ ⇒ 2

4 2 0n y

U mf D C D

πζρ

> − >′

⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅ (3.7)

のときに,ギャロッピングが生じることになる.ここに, / / 2nf k m π= , / 2c mkζ = .

物体の断面形状によっては 0yC′ < となり,ギャロッピングが発生する.図 3.7 で言えば,木

片のカットされた平面に風を当てるとき, 0yC′ < となり,逆に円筒形状側から風を当てると

き, 0yC′ > か yC′が小さな負の値であると推測される.

ギャロッピングは負性抵抗によって発生する自励振動であることがわかった.この振動を

動吸振器で防振することを考えよう.そのため,ここではギャロッピングを起こす主系と動

吸振器からなる系を 2 自由度系とする.レイリーの方程式(Rayleigh’s equation)が流体励起振動

を近似できることを利用して,主系をレイリーの方程式でモデル化し,この解析モデルでど

こまで実験と解析結果が符合するかを確かめる.そして,この負性抵抗による自励系に対し

て動吸振器の備えるべき機能についても検討する. 図 3.9 に示すように,レイリー系とした主系に動吸振器を取り付けたものを扱う.主系の

変位を 1x ,質量を 1m ,(レイリー系の)減衰力を 1 1( )f x とする.また,動吸振器の変位を 2x ,

質量を 2m ,ばね定数を 2k ,減衰係数を 2c とする.運動方程式は次式で表される. 1 1 1 1 1 1 2 1 2 2 1 2( ) ( ) ( ) 0m x f x k x c x x k x x+ + + − + − = ······························································ (3.8a) 2 2 2 2 1 2 2 1( ) ( ) 0m x c x x k x x+ − + − = ·················································································(3.8b) ここで, 3

1 1 0 1 0 1( ) ( )f x x xε α= − − であり, 0 0,α ε を定数とする. 動吸振器を取り付けていない主系単体を考える.このときの主系単体の運動方程式は,

31 1 0 1 0 1 1 1( ) 0m x x x k xε α− − + = ····························································································(3.9)

で表せる.また, 1tτ ω= , 11

1

km

ω = ,dxxdτ

′ = と置き換えると,式(3.9)は,

2 30

1 1 0 1 1 11 1

( ) 0x x x xmε α ωω

′′ ′ ′− − + = ·······················································································(3.10)

と変形できる.この近似解は次式で与えられる.

2k 2c

( )1 1f x

2m

1m

1k

2x

1x

図 3.9 レイリー形自励系の動吸振器による制振

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111

cosx A τ= ここに, 20 1

43

Aα ω

= ··············································································· (3.11)

次に, 1tτ ω= , 11

xyA

= , 22

xyA

= と置くと,式(3.8a, b)はそれぞれ次式となる.

31 1 1 1 1 2 2 1 2

4 ( ) 2 ( )3

y y y y y y y yε κ ζ κμ⎛ ⎞′′ ′ ′ ′ ′+ = − − − − −⎜ ⎟⎝ ⎠

··············································· (3.12a)

2 2 2 2 2 1 12 2y y y y yκ κ κ κζ ζμ μ μ μ

′′ ′ ′+ + = + ·····································································(3.12b)

ここに, 0

1 1m kε

ε = , 2

1

kk

κ = , 2

1

mm

μ = , 22

2 22cm k

ζ = .

式(3.12)の非線形振動系の周期解を求めるため,シューティング法とルンゲ・クッタ・ギル

(RKG)法を適用する.パラメータ値を 1 10.3kg, 1650 N/m, 0.05m k μ= = = および 0.10ε = とする.

また, 主系の固有振動数を 1 1 1/ / 2f k m π= ,動吸振器の固有振動数を 2 2 2/ / 2f k m π= と置

く.主系と動吸振器の質量比が 5%だから,ギャロッピングの振動数は主系の固有振動数 1f に

ほぼ一致する.主系と動吸振器の固有振動数を一致させるときが最も動吸振器の制振効果が

大きいので,ここでは, 1 2 11.8Hzf f= = ( 0.05κ = )のときの計算結果のみを示す. 図 3.10 は,動吸振器の減衰比 2ζ と系の振幅比( 1 2,y y )の関係を表している.主系の振幅比

1 1y < のところが動吸振器の効果がある領域である.減衰比 2 0.065 ~ 0.23ζ = の領域では,周期

解が存在していない.RKG 法にてランダムに初期条件を与えてこの領域を計算したところ,主

系と動吸振器の振幅はともにゼロに収束していく結果が得られた.よって,この領域では振幅が

ゼロの安定解であることがわかる.このように,動吸振器の固有振動数を主系の固有振動数に

一致させると,図 3.10 に示すような横軸の実太線(黒い線)で示す自励振動が発生しない(分

枝のない)領域が出現する.また,減衰比が小さいところではタイプ A と B の 2 種類の安定

周期解が得られた.タイプ A は主系と動吸振器が同位相の分枝,タイプ B は逆位相の分枝で

ある.減衰比が大きな領域での安定周期解は,減衰比が大きくなるにつれて両者間の位相が

同位相となる分枝である.2 つの主系と動吸振器の対の分枝を比較すると,動吸振器の方が

主系よりも振動振幅が大きい.解析結果から,ギャロッピングを動吸振器で制振するために

は,主系と動吸振器の固有振動数を一致させ( 1 2f f= ),動吸振器の減衰比を 2 0.065 ~ 0.23ζ = に セットすれば,主系および動吸振器とも完全に振幅を 0 にできることがわかった.

0.1 0.2 0.30

1

2

3

減衰比 ζ2

振幅比

図 3.10 1 2f f= の場合の数値計算結果(主系の振幅比 1y は赤の線,動吸振器の振幅比 2y は青の線)

タイプ A

タイプ B

0

動吸振器 2y

主系 1y

動吸振器 2y

主系 1y

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112

(a) 装置の概略

(b) 動吸振器とそのレイアウト

図 3.11 ギャロッピングの実験装置 (Video3-5, Video3-6)

上述の解析結果を確かめるため,実験を行なった.実験装置と動吸振器を図 3.11 に示す.

主系は 4 個のばねで上下方向に支持された断面がコの字形のアルミ材で,強風をアルミ材の

横平面に当ててギャロッピングを発生させた.動吸振器は図に示す形状をしており,ゴムの

ばねで支持されている.シャフト部はシリンダーに挿入され,そこに注入される油の種類で

減衰効果を調整する.実験装置のパラメータは数値計算に用いた値と同じである.

図 3.12 は動吸振器がないときのギャロッピング現象の加速度波形とその周波数分析結果を

示す.振動数 11.8Hz のギャロッピングが発生している.図 3.13 は,主系と動吸振器の固有振

動数を一致させ( 1 2f f= ),動吸振器の減衰比を図 3.9 でギャロッピングが全く発生しなかった

領域内の 2 0.13ζ = に設定したときの主系と動吸振器の加速度波形とその周波数分析結果を表

している.図 3.12 と図 3.13 の周波数分析結果を比較すると,動吸振器によってほぼ完全に制

振されていることが見て取れる.この結果を見ると,実験結果と解析結果の良い一致が得ら

0 1 2 3 4 5-0.10

-0.05

0.00

0.05

0.10

Acc

eler

atio

n V

Time s 0 10 20 30 40 50

-80

-60

-40

-20

0

11.8 Hz-23.75 dBVr

Spec

trum

dBV

r

Frequency Hz 図 3.12 動吸振器がない場合の主系の加速度波形と周波数分析結果

コの字形 アルミ材

ばね

動吸振器

ゴムばね

リニアガイド

動吸振器

加速度ピックアップ

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113

0 1 2 3 4 5-0.10

-0.05

0.00

0.05

0.10

Acc

eler

atio

n V

Time s

0 10 20 30 40 50-80

-60

-40

-20

0

11.8 Hz-72.20 dBVr

Spec

trum

dB

Vr

Frequency Hz (a) 主系の加速度波形と周波数分析

0 1 2 3 4 5-0.10

-0.05

0.00

0.05

0.10

Acc

eler

atio

n V

Time s 0 10 20 30 40 50

-80

-60

-40

-20

0

11.6 Hz-64.22 dBVr

Spec

trum

dB

Vr

Frequency Hz (b) 動吸振器の加速度波形と周波数分析

図 3.13 動吸振器を取り付けたときの実験結果( 1 2f f= , 2 0.13ζ = の場合)

0.1 0.2 0.3-50

-40

-30

-20

Spec

trum

dif.

dBV

r

Damping ratio 0.1 0.2 0.3

-180

-135

-90

-45

0

dζDamping ratio

Phas

e di

f. de

g.

(a) 動吸振器がないときとのスペクトル差 (b) 主系と動吸振器との位相差

図 3.14 実験結果( 1 2f f= の場合)

れた.ギャロッピングは負性抵抗による自励振動であるので,動吸振器でそれを制振しよう

とすると,動吸振器の減衰に最適値があることを示している. 図 3.14 に, 1 2f f= のときの実験データとその傾向を近似的に表した曲線を示す.左図の横

軸は動吸振器の減衰比 2ζ を,縦軸は動吸振器がないときの加速度振幅のピーク値( 23.75dB− ) と動吸振器があるときのピーク値の差を dB で示している.右図は主系と動吸振器との位相差

を示している.図 3.14 から,以下のことがわかる. (1) 動吸振器の固有振動数をギャロッピングの振動数にチューニングすると.最も抑制効果

が大きい.もっとも抑制効果が大きいとき,主系の振幅に 50dB ほどの低下が見られた.

これは動吸振器のない場合の約1 300 であり振動はほとんど目視できなかった.

(2) 主系が全く振動しない動吸振器の最適な減衰比がどの範囲なのか明確ではないが,本実

験では 2 0.05 ~ 0.15ζ = 付近にあると推定される.

動吸振器

主系

2ζ2ζ

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114

(3) 最適な減衰比のとき,主系と動吸振器の間の位相差は / 4π− 近くである.

主系と動吸振器の固有振動数を一致させないとき,たとえば, 1 2/f f =0.8 または 1.2 では,

若干抑制効果は減少するものの,主系が最も制振される動吸振器の減衰比は 0.1~0.2 の間で

ある. ギャロッピングをレイリーの方程式でモデル化して動吸振器による制振を試みたが,実験

と解析とでは,特に動吸振器の減衰比が小さいところの挙動に不一致が存在した.したがっ

て,このレイリー方程式によるモデル化ではまだ不十分であることがわかる.

図 3.15 ストックブリッジダンパ (Video3-7)

Tea Time 3.4 ストックブリッジダンパ

山岳地帯にある大容量送電線のギャロッピングなどによる振動を防振するため,ヤジロベ

ーの形をしたストックブリッジダンパ(Stockbridge damper)が送電線に取り付けられている.

このダンパは長さ 1m 程度,けたたましいほどの数のストックブリッジダンパが支柱の近く,

および支柱間に設置されているのを見たことがないだろうか(図 3.15 参照).このダンパは

風によって送電線が鉄塔間で 20~30 次という高次の振動モードで跳躍するのを防止するた

め,ダンパの固有振動数は送電線の高次の固有振動数の振動数にチューニングされている(1).

3.3 曲げ・ねじりフラッタ

航空機の翼も飛行中に何らかの外乱を受けると,それによって翼に付加的な空気力が作用

して,その空気力が翼に曲げ・ねじり振動を増大させることがある.飛行機の速度が限界値

を超えると,空気による流力励振力が翼にある構造減衰力に打ち勝って自励振動を生じるの

である.ここでは,図 3.16 に示すような簡単な 2 次元翼の曲げ・ねじりフラッタ(Flexural- torsional flutter)を扱う.

翼は長さ l2 ,翼のせん断中心(せん断力がこの点にかかってもねじりを生じない位置)Cでせん断ばね k,減衰係数 yc と回転方向のばね K,減衰係数 θc で支持されている.翼の中心

O の静的平衡位置を原点とし,水平方向に x 軸,上側に y 軸をとる.OC lξ= とする.空気の

流速を U,翼に働く揚力を yF ,モーメントを MF ,回転角変位を時計方向にθ,点 C の y 方

向変位を y とする.点 x での変位 Y は, ( )Y y x lξ θ= − − だから,翼弦方向の単位長さ当たり

の質量を dm とすると,運動エネルギーT およびポテンシャルエネルギーV は次式で表せる.

2 2 21 1 12 2 2

l

lT Y dm my I Syθ θ

−= = + −∫ , 2 21 1

2 2V ky Kθ= + ············································(3.13)

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115

y

U

k

K

l

⌧l C

O

x

図 3.16 曲げ・ねじりフラッタの解析モデル

ここに,l

lm dm

−= ∫ , ( )

l

lS x l dmξ

−= −∫ , 2( )

l

lI x l dmξ

−= −∫ .

翼が振動すると,翼にかかる空気力の揚力とモーメントには固定翼にかかる以外の空気力

が付加される.この非定常空気力を流体力学における非定常翼理論から計算すると,並進変

位 y と回転角θの定常振動を行う翼に対して, 212y yF U DCρ= , 2 21

2M MF U D Cρ= で与えられ

る.ここに,係数 My CC , は迎え角α の関数である.

流速 U に比べて y とθ が小さいとすると,3.2 節のギャロッピングと同様に,迎え角は,

y lUθα θ+

= − + となる.流体力とモーメントの係数を 0=α のまわりにテイラー展開し,変

数に対して 1 次まで考慮すると,ラグランジュの運動方程式から変分量に関する運動方程式

は次式で与えられる.

+ + =Mx Cx Kx 0 ⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅ (3.14) ここに, (0)M MC C′ ′= ,および,肩号 T を転置記号として, [ ]Ty θ=x ,

m SS I

−⎡ ⎤= ⎢ ⎥−⎣ ⎦

M ,2 2

1 12 2

1 12 2

y y y

M M

c UDC UDlC

UD C c UD lCθ

ρ ρ

ρ ρ

⎡ ⎤′ ′+⎢ ⎥= ⎢ ⎥⎢ ⎥′ ′+⎢ ⎥⎣ ⎦

C ,

2

2 2

12102

y

M

k U DC

K U D C

ρ

ρ

⎡ ⎤′−⎢ ⎥= ⎢ ⎥⎢ ⎥′−⎢ ⎥⎣ ⎦

K

·················(3.15) 減衰行列,剛性行列の非対称性から,ある流速以上で曲げ・ねじりフラッタが発生する.

3.4 マジックパイプ

フルート,尺八などもある程度以上の強さの空気流れを口から管楽器に供給することによ

って管内の空気の自励振動を誘発して音を出す楽器である.今から紹介するマジックパイプ

や管楽器に入る空気の流れも決して振動的ではない. 長さ 850mm,内径 25mm 程度で内部がベローズ構造をしている塩化ビニール製薄肉パイプ

をマジックパイプ(Magic pipe)と呼ぶ.おみやげ屋でよく売られている玩具である.図 3.17 の

ように,この一端を掴んで手で振り回すと澄んだ音が出る.図 3.18 に,そのときの発生音の

振動数とパイプ回転数の関係を示す.パイプを速く回転させるとパイプ内の空気の流速が速

くなる.パイプを速く回転させるにつれて,次々に高い音の方へ不連続に移り変わっていく.

θ

lξ x

y

k

KU

l

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116

図 3.17 マジックパイプ (Video3-8) 図 3.18 発生音の振動数と回転数の関係

図 3.19 マジックパイプ(左)と洗濯機の排水パイプ(右)の内部構造

発生音はあるパイプの回転数範囲で特定の振動数(振動モード)の音にロックインされる.

その中で音圧レベルが最も高いもののところを●印で示している.さらに回転数を増大させる

とさらに高い音の方に飛び移っていく.パイプの両端は穴の開いた開口端である.なんとも

不思議なヨーロッパ生まれの玩具である(6)-(9). 何が振動して音を出しているのだろうか.手元の開口部を手でふさぐと,音は全く発生し

ない.パイプが両端開口であることが一つのポイントで,遠心力のためにパイプ内に手元か

ら先端に向かって空気流が発生し,その流れによって音が生まれていると考えられる.しか

し,手でパイプを振り回しているだけなので,パイプ内部の空気には変動的な外力は作用し

ていない. パイプ内を空気が流れただけで,音が発生するだろうか.図 3.19 に,マジックパイプと洗

濯機の排水パイプの内部構造を示す.洗濯機の排水パイプを使ってマジックパイプと同様に

手で振り回しても全く音は出てこない.排水パイプの外側はベローズ構造をしているものの,

内部は平坦な構造をしている.やはり,パイプ内部の凹凸(ベローズ構造)に沿う空気の管

内流が音の発生に関与しているらしい.マジックパイプたる所以である. ベローズ構造のように,空気の流れ場に凹形のくぼみがあると,ある流速以上で空気はエ

ッジトーン(Edge tone)を発生する.笛をある程度強く吹くと,音が出るのと同じ原理である.

図 3.20 に,エッジトーンの発生状況を簡単に示す.くぼみの上流端ではく離したせん断層が

マジックパイプの回転数

発生する音の振動数

2f3f

4f5f

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117

V ➪ 空気

D

図 3.20 エッジトーンの発生メカニズム

鋭い下流端の存在によって発信するのである.このメカニズムによって空気の流れがベロー

ズ構造をしたマジックパイプの内部を流れてエッジトーンを発生し,澄んだ音を出していた

のである.変動外力のない空気の振動であるので,パイプ内の空気の振動は自励振動である.

空気の流速を V,ベローズ間隔を D,流出渦の振動数を f とすると,エッジトーン発生時のス

トローハル数は, / 0.39tS fD V= = とほぼ一定となる.また,くぼみの深さには依存しない.

では,音の振動数はどのように決まるのであろうか.現象が自励振動となると,音の振動

数はパイプ内の空気の固有振動数に一致するはずである.自励振動の発生メカニズムが判明

したので,結果として生じる自励振動の固有振動数を得るためには,自由振動解析で十分で

ある.そこで,細長い両端開口パイプ内の音波はパイプの軸に垂直な平面波で伝播するとし

て,空気の気柱振動の固有振動数を計算する(10). 1 次元の波動方程式は次のように表される.

2 2

22 2c

t xφ φ∂ ∂=

∂ ∂ ···········································································································(3.16)

ここに,φ は速度ポテンシャル, /c K ρ= は音波の伝播速度, xはパイプ軸方向座標, t は

時間,K は空気の体積弾性率,ρは空気の密度である.式(3.16)に, ( , ) ( ) j tx t x e ωφ Φ= ( 1j = − )

を代入すると,

2

22 0d k

dxΦ Φ+ = ,ここに, k

= (波長定数). ··························································(3.17)

波長は, / 2 /c f kλ π= = で表せる.ここに, f は振動数である.式(3.17)の一般解は, jkx jkxAe BeΦ −= + ➪ ( ) ( )( , ) j t kx j t kxx t Ae Beω ωφ − += + ··············································(3.18) ここに, ,A B は積分定数で,複素数である.速度ポテンシャルφ と音圧 p および空気の粒子 速度uの関係は,次式で表せる.

( ) ( )

( ) ( )

( , ) [ ]

( , ) [ ]

j t kx j t kx

j t kx j t kx

p x t j Ae Bet

u x t jk Ae Bex

ω ω

ω ω

φρ ρω

φ

− +

− +

∂ ⎫= = + ⎪⎪∂⎬∂ ⎪= − = −⎪∂ ⎭

································································(3.19)

パイプの長さを l とすると,両端開口パイプの境界条件は,両端で圧力が零だから,次式で

表される. 0x = で (0, ) 0p t = および x l= で ( , ) 0p l t = ·························································(3.20) 式(3.19)を式(3.20)に代入すると, 0, 0jkl jklA B Ae Be−+ = + = が得られるので,特性方程式は,

1 1

0jkl jkle e− = ➪ sin 0kl = ·····················································································(3.21)

したがって, 2, , ,

2 2nn

n nc c l nk f ll l f nπ λλ= = = = = ··········································································(3.22)

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118

ここに, 1, 2,n = .音圧の固有モードは sin ( )k l x− 、および粒子速度の固有モードは cos ( )k l x−

で示される. 上述の共鳴周波数の算出において,マジックパイプの開口端で完全に音圧が 0 となるとし

たが,現実には開口端から少し外に出たところまで空気が振動する.これを補正するために,

半径 a の開口端の補正管長を 0.6l aΔ = とする(開口端補正).したがって,上記のパイプの長

さ l を 2l lΔ+ に置き換えて式(3.20)を変更すればよい. 図 3.21 に実験で得られた固有振動数と固有モードを示す.マジックパイプを振り回して回

転を上昇させると, 2 3 43 2, , ,2

c c cf f fl l l

= = = の振動数の音が発生する.この振動数列は等

間隔に分布している.しかし,1 次モードの音はエネルギーが小さく,普通は人の耳ではそ

の発生を確認することはできない.

図 3.21 マジックパイプの粒子速度の固有振動数と固有モード

3.5 カルマン渦により振動する照明柱の制振

自励振動を制振する手法としては,(1)減衰を付加する,(2)動吸振器等の受動型制振装置を

設置する,(3)能動型制振装置を設置するなどが考えられる.自励振動や係数励振の不安定振

動の制振には減衰能の付加は大きな効果がある.それによって,これらの不安定振動を完全

に抑制し得る.自励振動に能動型制振装置を搭載することは製造コスト,ランニングコスト

の面からも受け入れられないであろう.ここでは,大きな振動体にも適用でき,低コストの

自励振動制振装置として,受動型制振装置を用いた対策を紹介する(11)(12).

建設中のつり橋は減衰効果のあるロープもまだないため,風による振動には無防備である.

高さ 100m を越える主塔の先端の振動振幅は数 m に達し,船酔いのために工事に障害を引き

起こす.これを防止するために,以前はスライディングブロックが使われた.スライディン

グブロックは主塔の高いところからロープで水の入ったタンクと結びつけ,タンクが主塔の

振動で斜面をすべるときに生じる摩擦によって主塔の振動を防止するものである.発生する

振動の振動数が非常に低いため防振には困難を伴う. 「高速道路や橋梁に設置される照明柱は渦励振や交通車両のために揺れ,フィラメントが

切れて再三交換に行かねばならない.管理費と人件費,交通規制が大変だ.制振費用は本体

の 5%以内で頼む.振動を完全に抑えられなくても,フィラメントが切れない程度に振動を 抑えられないか.何とかしてくれ.」と言われたら君ならどうする.

渦励振によって図 3.22 に見るような高速道路用照明柱が自励振動を生じ,その頭部に取り

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119

(a) ベイブリッジの照明柱 (b) レインボーブリッジの照明柱

図 3.22 インパクトダンパを利用した照明柱 (Video3-9)

図 3.23 照明柱の防振方法

付けられた電灯のフィラメントが切れる事故がしばしば発生する.コストパーフォーマンス

の見地から,これを完全に防ぐのではなく,フィラメントが切れない程度に制振するために

は,電灯の振動加速度があるレベル以下になる必要がある.防振対策として,図 3.23 に示す

ような照明柱の内部にチェーンを吊り下げてチェーンを内壁と衝突させることによって振動

エネルギーを吸収する方法,インパクトダンパ(11) (Impact damper)を装着して防振する方法,

流体内蔵ダンパを搭載する方法(Tea Time 3.6 参照)などが試みられてきた.

図 3.24 に鋼球を配した高さ 8m の Γ形照明柱(図 3.22,図 3.23 参照)の風洞実験結果を示

す.図の縦軸は電灯の位置(柱の頂部)での Γ 平面に垂直な方向の面外変位であり,横軸は

風速である.風速 4m/s における 1 次モードと 9m/s における 2 次モードはいずれもインパク

トダンパを用いることにより十分に防振されている.このように,カルマン渦による渦励振

振動は台風のような強風時ではなく,そよ風によって引き起こされていることがわかる.こ

の照明柱に耳を付けると,カチカチカチ, (無音),カチカチカチ, (無音)と間欠的

に鋼球がポリウレタンでコーディングされた内壁に衝突している音が聞こえ,鋼球の間欠的

な衝突により照明柱の大きな振幅の自励振動をある振幅範囲内に抑制している様子が伺える. 照明柱の渦励振振動の発生に伴い,インパクトダンパが作用し始め,鋼球と照明柱内壁と

衝撃ダンパ

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120

図 3.24 インパクトダンパによる照明柱の制振効果(11)

の衝突が始まる.衝突の反力が壁に作用し,それによって,照明柱は振動の向きとは逆の衝

撃力を受け,振動は減衰させられる.反力が大きければ大きいほど,すなわち,渦励振振動

が大きければ大きいほど照明柱は強く減衰させられる.鋼球の衝突によって照明柱の振動が

小さくなると,それ以後鋼球は壁に衝突しなくなる.すると,照明柱は渦励振振動を発生し

て大きな振動に成長して行く.この過程を繰り返して,照明柱は渦励振のもと,振幅が大き

くなったり,小さくなったりを繰り返す.このインパクトダンパによるメカニズムでは,定

常的に振幅を抑制することはできない.照明柱のフィラメントが切れない程度に振動加速度

を減少させるという目的には好都合な制振装置である. また,風の向きによって照明柱の振動数や振動モードが異なる.渦励振振動であるので,Γ

形照明柱の Γ 平面に垂直な方向(面外)からの風によって照明柱は Γ 平面内の面内振動を発

生し,照明柱の Γ平面内方向の風によって照明柱は Γ平面に垂直な面外振動を発生する.よ

って,固有振動数の異なる照明柱の両方向の自励振動を自動的に制振せねばならない.その

ために,柱の断面は 10 数 cm の円形ではあるが,その内部に正方形断面の個室(図 3.25 参照)

を数個設け,その断面の方向を照明柱の面外および面内方向に一致させる.これにより,鋼

球が旋回することもなく,面外,面内方向の振動を区別して制振できる.インパクトダンパ

はダンパの振動数のチューニングもなく,面内,面外おのおのに対応した制振装置を考える

必要もないのである.円形断面などによる鋼球の旋回は防振に悪影響を与えるので,絶対に

旋回させてはいけない.制振効果を上げるためには,鋼球の質量を大きくするのも策である.

しかし,照明柱の円形断面に四角形の制振装置をはめ込むのであるから,鋼球の直径にも制

限がある.

まだ鋼球と内壁との隙間をどのように取ればよいかという問題が残る.実験結果から,制

振効果を最大にする最適隙間が存在することがわかった.隙間が狭ければ,制振装置の即応

性が確保されるが,衝撃力は弱くなるからである.実際に使用されている制振装置の鋼球の

数は 1~2 個,図 3.25 に見るように鋼球の直径は約 50mm,内壁との隙間は c=2~3mm 程度と

非常に狭い. 一般に,インパクトダンパの欠点は騒音の問題があることである.衝撃壁にはゴムを貼り

衝撃音を緩和させている.照明柱から少し離れれば,騒音の問題はない.しかし,インパク

○:インパクトダンパなし ●:インパクトダンパあり

Steel ballCasing

Clearance c

台風

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121

図 3.25 インパクトダンパの構造(鋼球直径 50.8mmd = ,遊間距離 2.3mmc = )

図 3.26 インパクトダンパなし(左)とあり(右) 図 3.27 インパクトダンパ系の解析モデル

トダンパのこの欠点から,使用される環境も市街地ではなく,高速道路、湾岸道路,橋梁な

どの環境下で使用されることが多い. 図 3.26 はインパクトダンパを装備した場合とそうでない場合の面外振動の防振状況を示し

たものである.面内方向からの風によるカルマン渦に起因した照明柱の面外振動をインパク

トダンパは明らかに防止することを実験で確認した(11). このインパクトダンパの特徴は,高周波の振動にも追従可能であり,即応性に富み,コス

トパーフォーマンスが極めて良いことである.チェーンや流体内蔵ダンパによる防振に比べ

て即応性が秀でている.風の流速が大きくなって生じるカルマン渦による照明柱の高次の固

有モードの渦励振振動や,地震等のような突然に大きな振動を開始する場合にも有効である

利点がある.このタイプのダンパは,横浜ベイブリッジ,東京湾レインボーブリッジ,羽田

空港など多くの橋梁に設置されている(図 3.22 参照). 鋼球は壁に衝突し,その反力によって照明柱の面内振動および面外振動を同時に防振でき

る.このメカニズムは衝突に起因する間欠性カオスを利用した防振である(13).

また,照明柱の断面を円形から八角形に変更した対策も多く見られるが,その効果は常に

あるとは言えない.逆効果になるときもある.

次に,図 3.27 に示す振動モデルを用いて上記のインパクトダンパの特徴を解析してみよう(13).1 自由度自励系の防振のためにインパクトダンパを適用する問題である.自励系の非線

形減衰力が速度の 3 次関数で表されるレイリー形を仮定する.一般に,摩擦振動や渦励振振

動の要因を表すための最も簡単なモデルとしてレイリー形の関数がしばしば用いられる.す

なわち,渦励振振動を発生する主系をレイリー形自励系とし,それを 1 つの鋼球と衝突壁か

ら構成されるインパクトダンパで制振するモデルを解析する.系の運動方程式は次式で表さ

d d+2c

70

風 風

振幅大 振幅小

70

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122

れる. 1 0 1 1( ) 0Mx f x kx+ + = ······································································································(3.23) 2 0mx = ···························································································································(3.24)

ここに,M および m はそれぞれ主系およびボールの質量,k はばね定数,x1および x2は主系

およびボールの変位, 0 1( )f x は次式で表されるレイリー形非線形減衰力を表す. 3

0 1 0 1 0 1( ) ( )f x x xε α= − − ···································································································(3.25) ここに, 0 00, 0ε α> > は定数である. インパクトダンパがないときの 1x の近似解 xは,式(3.23)から次式となる.

cosx A τ= ·······················································································································(3.26)

ここに, 20, / , 2 / 3t k M Aτ ω ω α ω= = = .

式(3.23),(3.24)を次のように無次元化する. 3

1 1 1 1( 4 / 3 ) 0y y y yε′′ ′ ′− − + = ·························································································(3.27) 2 0y′′ = ··························································································································(3.28)

ここに,“ '”はτ に関する微分を表し,

01 21 2, ,x xy y

A A Mεεω

= = = ·····························································································(3.29)

次に,衝突の条件を求める.ある時刻 iτ に衝突が発生するとすれば,次式が成立する. 2 1( ) ( )i iy yτ τ δ− = ,ここに, /d Aδ = ·······································································(3.30)

ここに,d は隙間(図 3.27 参照)である.隙間と変位は主系のみの場合の自励振動振幅 A で

無次元化している. 主系とボールの衝突速度の条件は次式となる.

1 1 1 2 2

2 3 1 4 2

( ) ( ) ( )( ) ( ) ( )

i i i

i i i

y y yy y yτ α τ α ττ α τ α τ

+ − −

+ − −

′ ′ ′= + ⎫⎬′ ′ ′= + ⎭ ·····················································································(3.31)

ここに,

1

1 1 2 1

3 1 4 1

/ , 1(1 ) / , (1 ) /

(1 ) / , ( ) /

m Me ee e

μ μ μα μ μ α μ μα μ α μ μ

= = + ⎫⎪= − = + ⎬⎪= + = − ⎭

···············································································(3.32)

また,下添字-,+はそれぞれ衝突直前,直後を表し, e は反発係数である. 数値計算において,式(3.27)および(3.28)にルンゲ・クッタ・ギル(RKG)法を適用する.式(3.30)を満たす衝突時刻 iτ は,時間刻み幅を小さく変化させることで精度良く求める必要がある.

衝突直後の主系とボールの速度は,式(3.31)から求める.適当な初期値から数値積分を行い,

1000 回程度の衝突を行った後の数値解を解として採用する.使用したパラメータは,

0.005,μ = 0.65, 0.007e ε= = である.

数値計算の結果得られた解は,周期解と非周期解に分類される.代表的な振動波形を図 3.28に示す.図 3.28(a),(b)および(c)が周期解で,それぞれ 1 周期当たりの衝突回数が 2 回の対称波

形,2 回の非対称波形,3 回の非対称波形である.図(a)~(c)の主系の変位 1y の波形は衝突回

数,波形の対称・非対称にはほとんど影響されないことがわかる.図 3.28(d)~(f)は非周期解

の波形である. 図 3.29 に無次元隙間δ を変化させたときの分岐線図を示す.δ の領域を拡大して示してい

る.縦軸はボールが主系の衝突壁に衝突した時刻における主系の変位である.図 3.29 には図

3.28 の(a)~(e)の波形に対応した隙間δ の位置を(a)~(e)の記号で示した.ただし,図 3.28(f)は

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図 3.28 振動波形の数値計算結果 ( 0.005, 0.65, 0.007eμ ε= = = )

2.0δ = での波形で図 3.28 には表示されていない.図 3.29 には大きく分けて 2 つの分岐が存在

する.一つは, 1.175δ ≤ に存在する 1 周期当たりの衝突回数が 2 回,3 回, の周期解(Periodic vibration)やそれらが周期倍分岐(Period doubling bifurcation)した解からなり,衝突時の主系の変

位は比較的絶対値の大きなところまで分布している.0.78 0.82δ≤ ≤ の領域で 1 周期当たりの

衝突回数が 3 回の周期解と 1 周期当たりの衝突回数が 4 回,8 回,16 回, の周期解,およ

びカオスが共存しているのが見える.他の分岐(Chaos, Intermittency)は, 1.075δ ≥ に存在し,

図では幅広い帯状の形をなして見える分枝である.このように見えるのは,あるδ に対し主

系が 1 0y = を挟むある範囲の至るところで衝突するためである.そして,この主系の衝突位置

の範囲はδ の増加と共に広がっている.これら 2 種類の分枝は,1.075 1.175δ≤ ≤ の領域で共

存している.前述の図 3.28(a)~(d)の波形はすべて前者の分枝であり,図 3.28(e),(f)の波形は

後者の分枝である.また,図 3.28(a)と(e)の波形は,同じ隙間の値 1.1δ = において異なる初期

値によって得られた波形であり,解の多価性を示している.

(a) 周期解(対称波形, 1.1δ = ) (d) カオス(周期倍分岐後, 0.62δ = )

(b) 周期解(非対称波形, 0.9δ = ) (e) カオス(間欠性, 1.1δ = )

(b)周期解(非対称波形, 0.9δ = ) (e)カオス(間欠性, 1.1δ = ) (c) 周期解(非対称波形, 0.8δ = ) (f) カオス(間欠性, 2.0δ = )

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図 3.29 衝突時の主系の変位と隙間の関係

図 3.30 ポアンカレ写像 図 3.31 ポアンカレ写像

( 0.005, 0.65, 0.007, 0.62eμ ε δ= = = =  ) ( 0.005, 0.65, 0.007, 2.0eμ ε δ= = = = ) 図 3.29 から,図 3.28(d)の 0.62δ = の非周期解は,図 3.28(c)の 1 周期当たりの衝突回数が 3回の非対称波形を持つ周期解がδ の減少とともに周期倍分岐を繰り返した後発生したもので

ある.図 3.30 に,このときのポアンカレ写像(Poincare map)を示す.図の縦軸と横軸は主系の

変位が極大の瞬間におけるボールの速度である.この図からも図 3.28(d)の非周期解は周期倍

分岐の結果生じたカオスであることがわかる.この解の最大のリアプノフ指数(Lyapunov exponent)を計算した結果,0.0224 であった.図 3.28(d)の変位波形は周期倍分岐の結果生じた

カオスでありながら,その主系の変位波形からは周期解とカオスとの区別は全くつかない.

また,図 3.28(f)に対するポアンカレ写像を図 3.31 に示す.図から傾き 1 の直線との間に狭い

チャンネルが見て取れ,図 3.28(f) の解は間欠性カオスと推察される.この解の最大のリアプ

ノフ指数は,0.0158 であった.図 3.29 の分岐線図に存在する 1 0y = を挟んだ幅の広い帯状の

分枝はすべてこの間欠性カオスである. 主系の防振に及ぼす各パラメータの影響を図 3.32 および 3.33 に示す.各図の縦軸は主系の

変位振幅,横軸はそれぞれ隙間δ およびボールと主系の質量比 μであり,パラメータはそれ

ぞれ反発係数 e および隙間δ である.解としてカオスの場合もあるので,これらについては

Periodic Vibration

Chaos(Period Doubling)

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図 3.32 隙間と振幅の関係 ( 0.005, 0.007μ ε= = ) 図 3.33 質量比と振幅の関係 ( 0.65, 0.007e ε= = )

1 000 回程度の振幅の平均値を用いて表示した.変位は主系のみの場合の自励振動系の振幅で

無次元化しているので,振幅が 1 より小さければ主系は防振されていることになる. まず,各図において振幅はすべて 1 よりも小さいことから,これらのパラメータの範囲内

では,インパクトダンパを用いることにより主系の振幅は必ず小さくなることがわかる.図

3.32 の振動特性では,横軸のδ が 0 から大きくなるにつれて振幅が 1 から徐々に減少する右

下がりの分枝と,少しばらついた右上がりの分枝の 2 つの分枝が存在している.図 3.29 との

関係では,前者の分枝は図 3.29 における周期解や周期倍分岐後のカオスからなる分枝に対応

し,後者の分枝は図 3.29 で 1 0y = を挟んで幅の広い帯状の形を形成していた間欠性カオスに

相当する.また,図 3.33 では,横軸の μが 0 から大きくなるにつれ振幅が 1 から徐々に減少

している振幅の大きな分枝と,ばらつきながらもごくわずかに右下がりの特性を持つ振幅の

小さな分枝の二つの分枝が存在している.前者が周期解や周期倍分岐後のカオスからなる分

枝で,後者が間欠性カオスからなる分枝である. 図 3.32 と図 3.33 には,各パラメータの値に対してこの二つの分枝による解の多価性が見ら

れる.すなわち,図 3.32 においては,反発係数 0.3e = のとき,δ の小さい領域に広い解の多

価性が見られ,反発係数が 0.65,0.8 と大きくなるに従い解の多価性の存在する領域が狭くな

る.図 3.33 では,いずれのδ の場合でも解の多価性の存在する領域はわずかである. 図 3.32 から,例えば,反発係数 0.65e = の場合,解の多価性を考慮すると,主系の振幅を最

小にするためには,隙間δ の値を 1.175(赤い矢印)よりも少し大きな値に設定し,平均振幅

の小さい間欠性カオスを発生させてやればよい.このことは,カオスを積極的に利用して自

励振動の最適防振を図ろうとするものである.他の反発係数についてもほぼ同様に最適隙間

が存在し,そのときの主系の振幅は 0.2~0.22 程度で反発係数にはほとんど依存しない. 図 3.33 から,質量比の効果については,現象が周期解や周期倍分岐後のカオスならば質量

比が大きいほど振幅は小さくなり,その防振効果は増す.一方,間欠性カオスならば周期解

や周期倍分岐後のカオスに比較して防振効果は大きいが,質量効果はほとんどない. 照明柱の渦励振振動のインパクトダンパによる防振を実験で概略確かめる.実験装置の概

要を図 3.34 に示す.長さ 380mm,外径 60mm,内径 50mm のアクリル管を 2 本の板ばねで上

下に支持したものを用い,インパクトダンパには直径 11mm の鋼球を内径 12mm のアクリル

管で水平に支持したものを使用した.風洞の測定部の断面は高さ 400mm×幅 300mm である.

衝突壁は厚さ 1mm のゴム,あるいは厚さ 1mm の塩化ビニールを軟鋼の先端に貼り付けた.

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図 3.34 実験装置(単位:mm) 図 3.35 渦励振振動の実験結果(鋼球なし)

図 3.36 主系の振動波形(鋼球なし) 図 3.37 隙間と振幅の関係(鋼球あり)

図 3.38 鋼球があるときの振動波形 ( 1.23m/s, 0.64V e= = )

鋼球との反発係数はそれぞれ 0.32 と 0.64 である.主系の変位は板ばねに貼り付けたひずみゲ

ージで測定し,鋼球の変位は測定していない.また,鋼球のない場合の主系の固有振動数は,

3.4Hz,鋼球と主系の質量比は,0.0081 であった.

(a) 0.2 mmd = (周期波形) (c) 1.5mmd = (間欠性カオス)

(b) 0.9mmd = (周期波形と間欠カオス) (e) 3.9mmd = (間欠性カオス)

(d) 3.1mmd = (間欠性カオス)

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127

まず,図 3.35 にインパクトダンパがないときの風速 V と振幅の関係を示す.最大振幅は風

速 1.23m/sV = における 8.5mm であった.このときの周期振動波形を図 3.36 に示す.また,

図 3.37 に,風速 1.23m/sV = のときの隙間 d と振幅の関係を示す.ただし,不規則な波形に対

しては,十分長いデータからの平均値を採用した.また,図 3.37 中の代表的な振動波形を図

3.38 に示す.図 3.37 で,いずれの反発係数の場合においても,図 3.32 の数値計算結果のよう

に,隙間 d の増加とともに振幅が大きな値から減少していく右下がりの分枝と,振幅が小さ

な値から増加していく右上がりの分枝が存在する.さらに,隙間 d が小さいところで解の多

価性が存在している.このように,数値計算結果と同様に,防振のための最適な隙間の存在

が確認された.すなわち, 0.32e = のときは, 1.0d ≅ ~1.1mm 程度, 0.64e = のときは, 1.4d ≅

~1.5mm 程度が最適である.

Tea Time 3.5 渦励振振動の制振実験

図 3.34 の実験装置を用いた渦励振振動の発生と鋼球を用いたインパクトダンパによる制振

効果をビデオで紹介しよう (Video3-10).図 3.34 の紙面に垂直方向に一定流速の風を流して,

板ばね(Plate spring)で支持された円筒にカルマン渦を発生させ,渦励振振動が生じる状態で,

インパクトダンパがないときとあるときの比較をしよう.インパクトダンパがないときは円

筒形の物体は流れと直角(左右)方向に大きな振幅で振動する.板ばねの振動の様相が上下

方向に向きを変えて示されている.円筒の大きな振幅の振動波形がシンクロで計測され,そ

の周波数分析結果が見える(図 3.36).次に,インパクトダンパが搭載されたときには円筒形

の物体の振幅は小さくなっており,インパクトダンパの鋼球は周期的ではなく,間欠的な動

きをしている.円筒の振動波形も間欠性カオスの様相を示している(図 3.38(c)や(d)の間欠性

カオスに相当する).インパクトダンパの制振効果とそのときの様相を見ることができる.

Tea Time 3.6 照明柱の制振対策

カルマン渦や車両交通による照明柱の振動を制振する対策の特許には,以下の 3 つがある. (1) 照明柱の内部にチェーンを上からぶら下げて照明柱の振動に伴ってチェーンと照明柱

の内壁を衝突させ,チェーンの減衰能を利用する(図 3.23 参照) (2) ここで紹介した鋼球を使ったインパクトダンパ(図 3.23 参照) (3) 流体を容器に入れ,振動に伴ってスロッシングする流体からの反力を利用した流体内蔵

の動吸振器 (Video3-11, Video3-12) 現在,インパクトダンパが最も即応性があり,制振性能が高く,流体内蔵の動吸振器が最

も即応性が低く,制振性能が低い評価である. Tea Time 3.7 風や地震によるビルやタワーの制振

建物を振動させる原因には,大きく分けて地震と風がある.ここでは,地震や風による建

物の過渡応答を防振している実例を示そう.地震に関しては,ビルの高さが高くなるにした

がって振動による倒壊の厳しさは減少する.なぜならば,高層ビルは柔軟構造物であるので,

地震が起きたらしなやかに応答してくれて建物の基礎のダメージは少ない.低いビルは構造

自体が剛であるので,地震によってその基礎が大きく損壊する.一方,風に関しては,地震

とは逆に,ビルの高さが高くなるにしたがって倒壊の厳しさはますます増加する.風と地震

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の建物への影響が同等になるのは,高さ 300m と言われる. 現在,日本にある高層ビル,タワーとして,1960 年には 150m の霞ヶ関ビルが,さらに,

1993 年には 296m のランドマークタワーが,そして,2012 年には 634m の東京スカイツリー,

2014 年には 300m のあべのハルカスが建てられた.これらの構造物にはどのような防振装置

が搭載されているのだろうか.

図 3.39 ランドマークタワー

ランドマークタワーの概観を図 3.39 に示す.73 階建てのランドマークタワーの 71 階にセ

ミアクティブに制御される 3 段振り子式防振装置(図 3.40(a)参照)が 2 機取り付けられてい

る.1 機の質量は 170ton である.ビルの振動をビルの多くの位置に設置されたセンサーで検

知し,風の向きと振動の大きさから振り子の振れ角と振れ面をコンピュータで計算する.振

り子の位置設定はACサーボモータでボールネジを回転させることにより行われる(図3.40(b)参照).振り子が振れると,振り子を吊っているロープの張力に水平方向成分が生じる.この

張力をビルが振動する向きと逆向きになるようにして張力から復元力を得ている.ランドマ

ークタワーの 1 次の固有周期はかなり長く,約 6 秒である.振り子の固有周期もこのランド

マークタワーの 1 次の固有周期に一致させて,振り子を動かすためのエネルギーを極小化し

ている.また,3 段振り子にした理由は,1 段の単振り子を利用しようとすると,6 秒の振り

子を作るためには長さが 9m 必要になる.これは 3 階分の防振装置用空間がいる勘定となる.

また,振り子の振れを確保するためには大きな平面が必要である.この空間をできるだけ小

さくするために,3 段振り子(1 階分の 3m)の採用となったと思われる.多段にして相当振

り子長さを長くする工夫がされている. では,3 段振り子の原理を図 3.41 の 2 段振り子の解析モデルを使って説明する.ある距離

離れた水平天井から長さ l の 2 本の糸で質量のない剛体フレームがつり下げられている.剛

体フレームの上部中央から長さ l の糸と質量 m からなる振り子が取り付けられている.この

2 段振り子の固有振動数を求めてみよう(14). 静的平衡点( 1 2 0θ θ= = )からの質点の水平方向変位を x,垂直方向変位を y とすると,

1 2 1 2

1 1 2 2 1 1 2 2

(sin sin ), (2 cos cos )

( cos cos ), ( sin sin )

x l y l

x l y l

θ θ θ θ

θ θ θ θ θ θ θ θ

= + = − −

= + = +

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129

(a) 3 段振り子のフレーム (b) 振り子の制御

①振動体,②ロープ,③鉄製フレーム,④固有周期調整装置,⑤枠間ダンパ,⑥AC サーボモ-タ

⑦ボールネジ,⑧X・Y ビーム,⑨摺動結合部

図 3.40 ランドマークタワーの多段振り子

図 3.41 2 段振り子の解析モデル

運動エネルギーT,ポテンシャルエネルギーU は,

2

2 2 2 21 1 2 1 2 2 1 2

1 ( ) { 2 cos( ) }, (2 cos cos )2 2

mlT m x y U mgy mglθ θ θ θ θ θ θ θ= + = + − + = = − −

これらから,ラグランジュの方程式は次式となる.

2

1 2 1 2 2 1 2 12

1 1 2 1 1 2 2 2

{ cos( ) sin( )} sin 0

{ cos( ) sin( ) } sin 0

l g

l g

θ θ θ θ θ θ θ θ

θ θ θ θ θ θ θ θ

⎧ + − + − + =⎪⎨

− − − + + =⎪⎩

上式を 1 2,θ θ を微小として線形化すると,

1 2 1

1 2 2

( ) 0

( ) 0

l g

l g

θ θ θ

θ θ θ

⎧ + + =⎪⎨

+ + =⎪⎩ ···························································································(3.33)

上式を辺々引き算すると, 1 2( ) 0g θ θ− = ,したがって, 1 2θ θ= となる.運動方程式は, 2 0l gθ θ+ = ········································································································(3.34) ここに, 1 2θ θ θ= = .固有振動数 nf は,次式となる.

1

2 2ngflπ

= ·······································································································(3.35)

したがって,振り子を 2 段にすると,相当長さは 1 段の 2 倍,2l となる.同様にして,振り

Massless rigid frame

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子を 3 段にすると,相当長さは 3l となる.

図 3.42 東京スカイツリーの制振装置(Web site から)

Tea Time 3.8 東京スカイツリーの制振装置

図 3.42 の左図に示す東京スカイツリーには 2 種類の制振装置が設定されている.一つは心

柱制振,他のひとつはゲイン塔の動吸振器による制振である.ともにパッシブ制御である.

高さ 125m までは心柱と塔体が一体となるように固定され,125m から 375m の間は心柱と

塔体は相対運動が可能で,相互間にはオイルダンパが円周方向に 3 箇所取り付けられている.

心柱は長さ 375m,コンクリート製で 11,000ton の質量を有する下側が固定された片持ちはり

である.心柱と塔体の相対運動による減衰効果が期待される.一方,タワーの先端部のゲイ

ン塔には放送用アンテナが取り付けられるので,その先端部に電波を乱さないために,65tonある TMD (Tuned Mass Damper)が 2 台階層状に搭載されている.図 3.42 の右図に示す TMD は

倒立振り子型であるので,4 つのばねで支えられたウエイトはあたかも頭が首を軸にして動

くかのような運動をする.その固有振動数はタワーのそれにチューニングされている. 3.6 ナックルボールのフラッタ現象

プロ野球では,投手が直球,カーブ,スライダー,フォークと色々な球種を投げてバッタ

ーに立ち向かう.アメリカ大リーグ元レッドソックスの Wakefield 投手がナックルボール

(Knuckle ball)を投げていた.ボールの速度は直球の約半分で,軌跡は S 字を描き,ボールは

ほとんど回転しない.ナックルボールはどのように変化するのかボールに聞かないと投手に

もわからない.投手と捕手の間の距離は約 18.4m,理論的にはナックルボールは捕手の位置

でおよそ 1.4m も変化できる.ナックルボールの投げ方にも色々あるが,図 3.43 にその一例

を示す. ここでは,ナックルボールの横揺れをフラッタ実験で見ることにする.図 3.44 は風洞から

の風をボールに当て,ナックルボールの挙動を見る実験装置である.ナックルボールの初速

はおよそ 76km/h,それにほぼ等しい流速 21m/s の気流の中に垂直な細い棒で支えた硬式野球

TMD

心柱制振

TMD

ゲイン塔

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図 3.43 ナックルボールの一つの 図 3.44 ナックルボールの実験装置

投げ方 (福岡工業大学 溝田教授提供)

(Video3-13,Video3-14,Video3-15,Video3-16,Video3-17,Video3-18)

図 3.45 Wakefield 選手のナックルボール(NHK 映像から)(Video3-19)

ボールを置く.それを水平面上で気流と直角(左右)方向に自由に動く台車に乗せ,細い棒

の回りにモータでボールを回転させる.ボールの回転速度を 0.6Hz から 0.12Hz へと徐々に下 げていく.ボールの回転速度が速いと,ボールの揺れは小さく,遅いと大きく不規則に右に

動いたり左に動いたりする.だからマグナス効果を利用したカーブとは明らかに異なる.こ

の揺れの幅はボールの回転速度の二乗に逆比例する.ナックルボールを大きく揺らすために

は,ボールの回転をできるだけ与えないことが必要である. ナックルボールという魔球が発生するのは,ボールの回転にともなって大きな横力が発生

するからである.その大きさは抗力と同じ程度にまでなる.その原因は縫い目の位置が変化

すると,ボール後方の流れ(これを Wakefield と呼ぶ)に変化を生じることにある.ボール表

面の境界層の外側の速度は,ボール前面の淀み位置付近ではほとんど 0m/s であるが,側面で

は 30m/s 以上になる.ボールの回転に伴って縫い目はボール表面で動くが,境界層外側の流

れが速い位置に縫い目があると境界層を層流から乱流に遷移させるトリガーの作用をする.

その結果,流れのはく離位置は側面から大きく背面側に後退する.そのとき,一様流の方向

は進行方向から傾いた方向に曲げられるから,流体の運動量の反力としてボールには反対方

向の横力が作用する.ボール回転によって縫い目位置が変化して,Wakefield が規則的に左右

ボール 風

台車→

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に振動している様子がわかる. 図 3.45 は,Wakefield 投手がナックルボールを投げたときのボールの回転状況を示す.投手

から捕手まで到達する間に,1 周分も回転しない.そのため,ボールの軌跡は大きく S 字を

描く. ゴルフの球,軟式野球の球などはなぜボールの表面がでこぼこしているのであろうか.そ

れは,でこぼこを付けて境界層を乱流化してできるだけボールの後方まではく離が生じない

ようにして抗力を低下させ,ボールを遠くに飛ばすためである.一方,ゴルフボールの表面 を乱流境界層にするために,くぼみ(ディンプル)の表面形状を過度に粗くすると,今度は 流体との摩擦力が増大し,抗力が増加するという相反する効果もある.よって,抗力を最小

にする表面のディンプルの最適形状,粗さが存在するのであろう.ゴルフボールの製造会社

の知恵の見せどころである. サッカーボールは直径に比較して余り凸凹がない.回転しないボールを蹴ると,ゴールキ

ーパも取れないほどの激しい複雑な変化をする.回転していると,その変化の割に球筋は穏

やかである.

(a) ねじりを伴う流体励起振動

(b) 崩壊直後

図 3.44 タコマ橋の崩壊(「振動の世界」(15)から)(Video3-20)

Tea Time 3.9 タコマ橋の崩壊

1940 年,アメリカワシントン州の大きな吊り橋であったタコマ橋が折からの 17m/s の横風

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によって渦励振振動をし始め,風速が 19m/s になるとねじり振動のモードに変わり,振動が

増大して 1 時間後に橋が崩壊してしまった事故は余りにも有名である.図 3.44 は近くの写真

屋さんが捕らえた崩壊時の写真である.橋に吹き付けた風が橋の構造によって曲げられたた

めに生じた流体励起振動とも言われている.タコマ橋はできる限りスリムに作られた橋であ

ったが,完成後たったの 1 ケ月余りで崩壊に至ったのである.風によって構造物が振動し,

自然の破壊力を見せつけた歴史的な流体励起振動の貴重な事例である.その後,流体励起振

動の研究が急速に進展していった. 現在,つり橋の形式には 2 つある.一つは,風が橋に当たっても極力風の向きを変えない

ように,風を構造系から通す設計である.他の一つは,橋の桁部を流線型に囲んで風の影響

を小さくする設計である.前者は日本式,後者はフランス式である.

第 3章の文献

(1) 日本機械学会編,機械工学便覧基礎編 α2 機械力学, (2004), pp.109-129,丸善. (2) Den Hartog(谷口修, 藤井澄二訳),機械振動論(第 16 刷),(1976), pp.332-344,コロナ社. (3) 末岡淳男・近藤孝広・横道勲・綾部隆・田村英之,パーソナル・コンピュータによる振動解析(伝達

影響係数法の提案),機論,52-484, C(1986), pp.3090-3099. (4) 末岡淳男・金光陽一・近藤孝広,機械振動学,(2000), pp.122-125, 朝倉書店. (5) 甲斐昌一,パターンと階層性,機講論 No.96-5, I, Vol.A, (1996), pp.12-15. (6) 中村泰治・深町信尊,マジックパイプにおける音の発生,ながれ, 3 (1984), pp.199-203. (7) 戸田盛和,統一おもちゃセミナー, (1979), pp.83-91, 日本評論社. (8) 中村泰治・深町信尊,マジックパイプの発音機構,九州大学応用力学研究所所報 59 号, (1983),

pp.61-66. (9) Rockwell, D., Naudascher, E., Self-sustained oscillations of flow past cavities, J. of Fluids Engineering,

ASME, 100(1978), pp.152-165. (10) 文献(4)の pp.157-166. (11) 城郁夫・金子忠男・永津省吾・高橋千代丸・木村正夫,耐風照明柱の開発,川崎製鉄技報,20-4, (1988),

pp.308-314. (12) 松崎実・牛尾正之・南条正洋, 独立状態の吊橋主塔の渦励振に関する実験的研究, 土木学会論文報

告集, 399, (1983), pp.13-22. (13) 吉武裕・末岡淳男, インパクトダンパによる自励振動の防振, 機論, 60-569, C(1994), pp.50-56. (14) 末岡淳男・雉本信哉・松崎健一郎・井上卓見・劉孝宏,機械力学演習,(2004),pp.154-155,森北出版. (15) 亘理厚監修, ビデオ「振動の世界」, (1971), 神鋼電機(株).