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-4- 第2章 スリランカの水産業 2-1 水産業を取り巻く環境 スリランカの大陸棚は沿岸からの距離は平均約 22km、その総面積は 30,000km 2 である。EEZ積は 517,000km 2 、沿岸線の長さは 1,785kmあり、沿岸域には生態的機能や生物多様性を育む河口 域やラグーン(158,000ha)、マングローブ域や干潟(71,000ha)、その他藻場、サンゴ礁、砂浜・砂 丘等の様々な環境がある。また、スリランカの水域は、淡水域(260,000ha)や汽水域(120,000ha)有し、それら水域では様々な漁業活動が行われている。 スリランカの水産分野の貢献度は、国内総生産(GDP)が約 1.18 %(2009 )、雇用が 240 万人、 動物性タンパク摂取量の内水産物の占める割合が 70%、そして水産物による外貨収入が 21,015 万ルピー(2009 )である。 2-2 漁業生産 スリランカの漁業形態は大きく以下の3つに分類できる。沿岸漁業は主に小型漁船による流網 漁や地曳網漁(イワシ、アジ、サバが主体)、沖合漁業は主に中型漁船による流網漁や延縄漁(マグ ロ、カツオが主体)、内水面漁業・養殖は、河川や溜池などでの小型漁業、溜池での淡水魚の養殖 漁業形態別の生産量を表 2-1 に示す。 2-1 漁業形態別の年間生産量の推移 出典:Fisheries Statistics 2010 を改変 また、2006 年から 2010 年までの各州の年別の漁業生産は下記の通りである。 単位:トン 1980 1985 1990 1995 2004 2005 2006 2007 2008 2009 沿岸漁業 165264 140270 134120 157500 154470 63690 121360 150110 165320 180410 沖合漁業 2148 2400 11670 60000 98720 66710 94620 102560 109310 112760 内水面漁業 20266 32740 38190 18250 33180 32830 35290 38380 44490 46560 2-2 各州の漁業生産量 単位:トン 出典:Central Bank of Srilanka

第2章 スリランカの水産業 - maff.go.jp...11 カ所、政府(CFC)が20 カ所である。1 施設あたりの平均的な規模は政府が平均69.8 トン、民間 が8.8

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第2章 スリランカの水産業

2-1 水産業を取り巻く環境 スリランカの大陸棚は沿岸からの距離は平均約 22km、その総面積は 30,000km2である。EEZ面

積は 517,000km2、沿岸線の長さは 1,785kmあり、沿岸域には生態的機能や生物多様性を育む河口

域やラグーン(158,000ha)、マングローブ域や干潟(71,000ha)、その他藻場、サンゴ礁、砂浜・砂

丘等の様々な環境がある。また、スリランカの水域は、淡水域(260,000ha)や汽水域(120,000ha)を

有し、それら水域では様々な漁業活動が行われている。

スリランカの水産分野の貢献度は、国内総生産(GDP)が約 1.18 %(2009 年)、雇用が 240 万人、

動物性タンパク摂取量の内水産物の占める割合が 70%、そして水産物による外貨収入が 21,015 百

万ルピー(2009 年)である。

2-2 漁業生産 スリランカの漁業形態は大きく以下の3つに分類できる。沿岸漁業は主に小型漁船による流網

漁や地曳網漁(イワシ、アジ、サバが主体)、沖合漁業は主に中型漁船による流網漁や延縄漁(マグ

ロ、カツオが主体)、内水面漁業・養殖は、河川や溜池などでの小型漁業、溜池での淡水魚の養殖

漁業形態別の生産量を表 2-1 に示す。

表 2-1 漁業形態別の年間生産量の推移

出典:Fisheries Statistics 2010 を改変

また、2006 年から 2010 年までの各州の年別の漁業生産は下記の通りである。

単位:トン年 1980 1985 1990 1995 2004 2005 2006 2007 2008 2009

沿岸漁業 165264 140270 134120 157500 154470 63690 121360 150110 165320 180410

沖合漁業 2148 2400 11670 60000 98720 66710 94620 102560 109310 112760内水面漁業 20266 32740 38190 18250 33180 32830 35290 38380 44490 46560

表 2-2 各州の漁業生産量

単位:トン

出典:Central Bank of Srilanka

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(1)海面漁業

1)沿岸漁業

沿岸漁業の年間生産量は毎年 12~18 万トンとなっている。2004 年 12 月に西部を除く沿岸域

はスマトラ大地震による津波被害を受けたため、2005 年の沿岸漁業生産量は急激に落ち込んだ。

しかし、その後、被災漁村への復興支援により漁具・漁船が提供されたことから、2007 年まで

に沿岸漁業生産量はほぼ元のレベルまで回復した。

2)沖合漁業

沖合漁業の年間生産量は 1980 年代 0.2 万トンであったものが 1990 年代 6 万トンとなり、2004

年以降は 9~11 万トンで推移している。2004 年末の津波により多くの中型漁船に被害が及んだ

が、沿岸漁業のような急激な生産量の落ち込みは見られなかった。これは中型漁船が多い西部

が津波被害を免れたことが関係していると思われる。

3)漁獲対象種の構成

沿岸・沖合漁業で、一番多く漁獲されている魚種はカツオ・マグロ類であり、漁獲量全体の

35 %に達している。また、沿岸域にて小型ボートで漁獲され統計上の分類が難しい混獲魚の漁

獲量も多く、漁獲量全体の約 30 %にあたる。スリランカで高級魚にあたるサワラやギンガメア

ジの漁獲量は、カツオやマグロに比べてかなり少ない。

図 2-2 沿岸・沖合漁業の魚種・項目別の年間漁獲量(2007 年)

出典:Fisheries Statistics 2007, 漁業省

4)推定漁業資源量

沿岸及び沖合域の水産資源量に関する調査は、1979-80 年に RV Dr. Fridtjoff Nansen により実

施されている。その調査において推定された年間の漁獲可能量は、沿岸域で 250,000 トン、沿

岸域を除いた EEZ 内で 90,000~150,000 トンであると見積もられている(Ten year development

policy framework of the fisheries and aquatic resources sector 2007-2016)。

単位:トン

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(2)内水面漁業・養殖

内水面漁業・養殖の生産量は 1~4 万トンで、海面漁業を含めた全体の生産量のうち約 11~20%

を占めており、2004 年以降は生産量が伸びている。

河川や湖沼などの内水面での漁獲量は、43,010 トン(2009 年)であり、その内訳は年間を通じて

利用可能な水域(39,030 トン)と季節的に利用可能な水域(3,980 トン)である。

エビ(shrimp)の生産量は 21,120 トン(2010 年)、内水面漁業・養殖に占めるエビ生産の割合は約

40%であり、エビの生産量のうち漁獲と養殖生産の内訳は 84%と 16%である。

その他の養殖の対象種は、コイ、テラピア、淡水エビである。

2-3 漁船 スリランカで利用されている漁船は、以下の形態に大きく分けられる。

・ 沖合用の中型漁船(船内機):Multi-day Boat with Inboard Engine

・ 沿岸用の小型漁船(船内機):Single-day Boat with Inboard Engine

・ 小型 FRP 船(船外機付):FRP Boat with Outboard Engine

・ 小型木造船(船外機付):Motorized Traditional Boat

・ 無動力船(地引き網船):Non-motorized Traditional Boat

・ 内水面漁船:Inland Fishing Craft

表 2-3 形態別漁船数の推移

その他に北西部州の漁村では、「テッパン」と呼ばれる大型のサーフボードを用いて漁を行う零

細漁業者も見られる。

2-4 水産施設 (1)漁港、漁船停泊地および水揚げ場

スリランカの主な漁港は 18 箇所(2010 年)ある。津波被災後に南部の 10 カ所の漁港再建設が、

中国、アメリカ、日本、UNDP&UNOPS により実施され、津波被災後 3 年間で工事が完了した。

リハビリされた漁港は、Panadura、Beruwala、Hikkaduwa、Galle、Mirissa、Puranawella、Kudawella、

Tangalle、Kirinda、Cod Bay である。また、デンマークの支援により北部州の Gurunagar (ジャフナ

県)、Sillavathurai(マナー県)、南部州の Gandara(マテラ県) の漁港が建設中である。

その他スリランカ沿岸には、漁船の停泊地が 40 箇所、小規模な水揚場が 891 箇所(2010 年)あ

る。

年 1990 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

沖合用の中型漁船(船内機) 2364 1639 1430 1572 1614 1530 1581 1328 2394 2460 2809 2934沿岸用の小型漁船(船内機) - 1357 1170 993 1112 1486 1493 1164 907 1060 1940 958小型FRP船(船外機付) 9758 8564 8690 8744 9033 11020 11559 11010 13860 15200 14747 17193小型木造船(船外機付) 973 1060 1205 640 776 618 674 1660 1842 1680 3179 2126無動力船(地引き網船) 14580 14649 15100 15200 15600 15040 15260 14739 16347 16640 18178 18243内水面漁船 - 3900 4700 5200 5600 5800 6000 6200 7046 6600 7170 7560

出典:Fisheries Statistics 2010

単位:隻

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図 2-3 スリランカの水揚げ地および停泊地

出典:CFHC ホームページ

(2)製氷・冷蔵施設

スリランカには運営中のアイスプラントが 80箇所あり、製氷能力の合計は2,152トン/日である。

運営形態では民間が 70 カ所、政府(CFC/CFHC)が 10 カ所である。1 施設あたりの平均的な規模は

それぞれ 28.8 トン/日、14 トン/日と、民間が大型の施設を運営している傾向がある。2010 年のブ

ロックアイスの値段は 50kg あたり全国的には 120~190 ルピーで販売されているが、ジャフナで

は 420 ルピーと高い。また氷の値段は 2004 年と比較すると全国的に高騰している傾向がある。

運営中の冷蔵施設は全国に 31 カ所、それらの冷蔵能力の合計は 1,492 トン、運営形態は民間が

11 カ所、政府(CFC)が 20 カ所である。1 施設あたりの平均的な規模は政府が平均 69.8 トン、民間

が 8.8 トンと政府が大型の施設を運営している。

2-5 漁民数・組織 全国・各地域での沿岸・沖合漁業に従事する漁業者は、2010 年で漁家数 16.5 万戸、漁業者数

22.3 万人とされている。1972 年の漁家数 4.3 万戸、漁業者数 5.8 万人と比較すると、漁家数と漁

業者数ともに 3.8 倍に増加している。

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しかし、津波災害を被った南部州の漁村では、津波復興支援により漁具や漁船が現状復帰以上

に供与されたため、過去に漁業に従事していなかった住民も漁を始めるようになり、実際の漁業

従事者数は津波災害前と比べて増えたこと、また北部や東部では内戦終決後の移動難民の漁業参

入により漁業者は増加していることが予想される。

スリランカの 1 漁家あたりの平均的な家族は夫婦 2 人と子供 2~3 人の 4.7 人である。この数字

を 2010 年の全国の漁家数にあてはめると、沿岸漁業に生計を依存している人口は 約 78 万人に達

すると推測される。

また、2007 年の漁業省の統計データによると、東部州は他地域と比べて、漁家数も漁業者数も

多く、他州よりも漁業の依存度が高いことが推察される。

表 2-4 全国・州での沿岸域の漁村数、漁家数、漁業者数(2007 年)

漁村数 漁家数 漁業者数 北西部州 148 21,260 23,010 西部州 142 18,820 19,740 南部州 278 18,340 20,000 東部州 550 51,610 62,420 北部州 219 29,370 33,480 全国 1,337 139,400 158,650

出典 Fisheries Statistics 2007, 漁業省

スリランカでは、沿岸域・内水面域の漁村ごとに漁業協同組合(以下、漁協:FCS, Fisheries

Cooperative Society)が組織されている。漁協の規模は様々で、一般的に数百人の組合員が所属して

いるが、大きな漁協では千人以上の規模に達する。漁協の主な目的は地域漁業者の漁業活動や生

計を支援することであり、主な業務は以下の通り。

・漁業者向けの銀行としての機能(貯蓄の管理・運用、低利ローンの提供など)

・水揚げされた鮮魚や加工魚の販売の仲介(競りや相対取引など)

・漁業資材の共同購入と組合員への低価格での販売

その他に、漁業省から委託を受けて漁業者向けの年金制度の窓口業務や、漁業活動中に小さな

子供を預かる保育所の経営など、組合員対象の社会サービスを積極的に行っている漁協もある。

しかし、このような組合活動に日常から取り組んでいる漁協は全体の 7 割程度で、残りの 3 割の

漁協は組織面や経営面の問題から組合活動が停滞している。

特に西部州での漁協の活動率が低く、約 3 割の漁協しか適切な組合活動を実施していない。し

かし、西部州には組合員が千人を超える組合経営が安定した大型の漁協もある。漁協活動が盛ん

な地域は、紛争地帯にあたる東部州や北部州であり、漁協の活動率は約 8 割と高い。

スリランカには日本と同じように全国漁業協同組合連合会(全漁連:National Union of Fisheries

Cooperative Societies)があり、漁業省と連携して、全国に千以上ある地方漁協を取りまとめている。

また、日本の全漁連とも長年に亘り協力関係にある。この全漁連事務所は、漁業が盛んな西部州

のニゴンボに設置されている。

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表 2-9 漁業協同組合の数と活動状況(2008 年)

活動中の漁協数 休止中の漁協数 漁協数 活動率 北西部州 78 62 140 55.7 % 西部州 22 59 81 27.2 % 南部州 87 103 190 45.8 % 東部州 308 94 402 76.6 % 北部州 206 35 241 85.5 % 全国 701 353 1054 66.5 %

出典:組合開発局提供資料

2-6 水産物需要 島国で海に囲まれているスリランカでは、水産物は貴重な動物タンパク源である。国民が摂取

する動物タンパク質の中では、魚介類の依存率は約 70%であると言われている。また、1人あた

りの水産物の年間消費量は 14.5kg(2010 年)程度で、世界平均の 22kg に及ばないことから、漁業

省ではさらに水産物の消費を増やす必要があるとしている。

また、統計省が実施した消費調査では、2006/2007 年の1人あたりの水産物消費量(13.6kg/年)

を表 2-5 のように推定している。鮮魚としての消費が全体の 7 割に及ぶが、残りの 3 割は主に乾

燥魚での消費である。スリランカ料理にはカツオの乾燥品である「モルディブフィッシュ」を用

いた料理が多くみられ、日常の食事で乾燥魚の用途が高いこと、また、氷の供給が不足して鮮魚

での輸送が難しい地域では、多くの漁獲魚を乾燥魚に加工して販売することが、乾燥魚の消費率

が高いことに関係していると思われる。

表 2-5 水産物の1人あたりの年間消費量(2006 / 2007 年)

水産品の種類 1人あたりの

年間消費量(kg/年)

鮮魚

大型海水魚 3.9 小型海水魚 3.3 淡水魚 1.6 他の魚介類 0.2

乾燥魚

海水魚 3.8

淡水魚 0.1 魚肉缶詰 0.7 合計 13.6

出典:Household Income and Expenditure Survey Report, 統計省

2-7 加工・流通 (1)流通

水揚げされた漁獲魚の多くは、漁業組合による競りや個別の相対取引を通じて仲買業者に買い

取られる。仲買業者には、漁村から消費地であるコロンボ、周辺の都市、内陸部に鮮魚をトラッ

クで運搬・販売する大規模な業者と、漁村周辺の農村や町まで自転車やバイクで鮮魚を運搬・販

売する小規模な業者がある。漁業者や漁業者組合が直接近くの町まで鮮魚を運び、小売販売する

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事例はあるものの、ほとんどの場合は仲買業者が鮮魚の運搬・販売を担っている。乾燥魚などの

加工品も、ほぼ鮮魚と同じ経路で流通している。

図 2-4 一般的な水産物の流通経路

鮮魚の取引価格では、サワラ及びエビ(Prawns)が特に高値で、コロンボ市場の卸売価格がそれ

ぞれ Rp. 691 / kg および Rp. 631/ kg に達する。またサワラ及びエビに次いでギンガメアジやカジキ

の価格が高い。カツオ・マグロ類は他魚種に比べて漁獲量が多いため、市場では上記の魚種と比

較して取引価格は低く、平均卸値は Rp. 217~319 / kg である。イワシ類に代表される小型浮魚の

価格帯は低く、卸値で Rp. 110 / kg 程度である。また、テラピアに代表される淡水魚の価格帯も低

く、卸値で Rp. 161 / kg 程度である。

2000 年と比較すると、2010 年の鮮魚の値段は 2~3 倍ほど高くなっている。

表 2-6 コロンボ地域における鮮魚の値段(2010 年)

主要魚種 卸値(購入価格)

Rs/kg 小売値(販売価格)

Rs/kg イワシ 110 149 ニシン 200 281 カツオ 217 410 マグロ 319 609 サワラ 691 950

ギンガメアジ 349 587 サメ 289 447

カジキ 440 693 サバ 265 362 ボラ 305 445 エビ 631 737

テラピア 161 266 出典 Fisheries Statistics 2010,漁業省

コロンボでは、ADB のローン事業により 2011 年 3 月に中央魚市場が建設された。この魚市場

は水産物の卸売および小売り業者を対象として、近代的な衛生基準の施設を備え、活況を呈して

漁業者 仲買

コロンボ

内陸部

周辺都市

地元住民

漁業者組合

販売の仲介

運搬

トラック

運搬 自転車・バイク

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いる。

(2)加工

EU 等の HACCP 承認を得ている水産加工施設は、1999 年には 27 施設であったが、2009 年には

60 施設に増加している。

乾燥魚の年間生産・輸入量を以下の図 2-5 に示した。スリランカでは国内産の乾燥魚だけでは

供給不足であるため、乾燥魚を近隣諸国から輸入している。2007 年の資料によると、乾燥魚の輸

入量は国内の生産量を上回る。国内産の乾燥魚の約 8 割は紛争地域である北部州・東部州で生産

され、残りの約 2 割の乾燥魚は北西部州(プトラム県)で生産されている。それ以外の州での生産

量はわずかである。

図 2-5 乾燥魚の国内生産量と輸入量(2000 年~2007 年)

出典 Fisheries Statistics 2007, 漁業省

2-8 水産物貿易 (1)輸出

スリランカの 2009 年の水産物輸出量は 18,714 トン、輸出金額は 21,014 百万ルピーで、主な輸

出対象国は EU(イギリス、フランス、イタリア)、日本、アメリカである。輸出金額全体に占める

水産物の割合は 2.57%である。

スリランカから輸出される主な水産物はマグロであり(水産物全体金額の約 2~3 割)、鮮魚・冷

凍魚として輸出されている。マグロ以外の魚類ではカツオ、ハタ、フエダイ、サワラなどが輸出

され、海産エビの輸出量も依然として高く、チャンク貝、イセエビ、カニの輸出が増えている。

また、サンゴ礁域で捕獲できる観賞用熱帯魚も輸出されている。

表 2-7 主要水産物の輸出量・輸出額(2010 年)

水産物の種類 輸出量 輸出額 トン 百万 Rs

鮮魚 n.a. 919 エビ 1, 262 1,521

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出典 Fisheries Statistics 2010, 漁業省

(2)輸入

スリランカは近隣諸国から乾燥魚を大量に輸入しており、その割合は輸入水産物全体の約 4 割

に及ぶ。さらにスリランカは水産缶詰(主にイワシ・サバのトマト煮)を大量に輸入しており、輸

入量は輸入水産物全体の約 2 割にあたる。

カツオをくん製・乾燥加工した「モルディブフィッシュ」(Maldive Fish)はスリランカ料理に欠

かせない材料である。しかし、国内生産では需要を満たせないため、大量のモルディブフィッシ

ュをモルディブから輸入しているのが現状である。

表 2-8 主要水産物の輸入量・輸入額(2010 年)

水産物の種類 輸入量 輸入額

トン 百万 Rs

乾燥魚 17,555 2,208

乾燥イワシ類 27,364 3,905

モルディブフィッシュ 2,871 1,292

水産缶詰 16,863 3,731

食用魚 12,961 2,429

鮮魚 25 69

その他 1,047 241

合計 78,687 13,875

出典 Fisheries Statistics 2010, 漁業省

2-9 水産教育・研究機関 ・国立漁業航海技術研究センター:NIFNE(National Institute of Fisheries and Nautical Engineering)

NIFNE は、漁業、海洋、船舶技術に関する学術・専門的教育及び職業訓練を行う機関であり、

コロンボに本部があり、全国に 8 校の訓練施設がある。

・漁業資源研究開発庁:National Aquatic Resources Research and Development Agency(NARA)

ロブスター 166 470 カニ 1,848 917 ナマコ 178 649 その他二枚貝 496 261 フカヒレ 69 172 魚の浮き袋 1 4 チャンク貝とその他の貝類 617 401 食用魚 13,372 14,294 その他 317 225

合計 18,325 19,834

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NARA はスリランカにおけるすべての水域の生物及び非生物資源に関する調査と研究を行っ

ている機関である。また、水産資源の開発と管理および保全について責任を負っており、関連

知識の普及活動や関連事業に関する助言を行っている。

・養殖開発庁:National Aquaculture Development Authority (NAQDA)

NAQDA は養殖および内水面漁業に関する持続的開発と管理に関する事業を実施している。

水生資源利用の為の新技術を開発・導入することにより、淡水域および汽水域の水生生物の生

産量を増加させて、地方の社会経済状況の改善に貢献することを目的としている。

2-10 水産行政 (1)組織

スリランカの水産行政は、漁業・海洋資源省(以下、漁業省)が水産政策の策定・実施監理を

主に担当している。6 つの下部組織があり、漁業・海洋資源局(以下、漁業局:Department of

Fisheries and Aquatic Resources(DFAR))は現場での漁獲データ収集や水産行政サービスの提供を

担当している。また、漁業局には全国 15 ヶ所ある地方水産事務所(DFAR Divisional Office)が属

しており、地方水産事務所に配属している漁業監査官(Fisheries Inspector)が漁村に出入りし、直

接漁業者や漁業組合と連絡を取りながら、水産行政サービスを提供している。

図 2-1 漁業・海洋資源省の組織図

漁業省の各組織(漁業局以外)の主な担当業務は下記の通りである。

・セイロン漁業公社(CFC):水産物の市場での管理業務

・漁業資源研究庁(NARA):水産資源や開発に関する科学的調査業務

・セイロン漁港公社(CFHC):漁港や漁船の停泊地の管理と開発業務

・養殖開発庁(NAQDA):内水面漁業と養殖の開発業務

・セイ・ノール基金公社(Cey-nor):水産関連資機材の提供業務

(2)国家開発計画

2007年1月に開催されたスリランカ開発フォーラムにおいて「10カ年開発計画2006~2016」が

公表され、当計画に基づき、現在スリランカ政府は、市場経済育成、貧困削減、財政改革等に

努めている。

その中で、最重要開発課題は地方開発を通じた地域格差是正であり、農漁業・畜産セクター

開発については、地域的に公平な経済成長、農村の生計向上、自給率向上による食糧安全保障

漁業・海洋資源省 MFARD

漁業・ 海洋資源局

DFAR

養殖開発庁 NAQDA

漁業資源 研究庁 NARA

セイロン 漁業公社

CFC

セイロン 漁港公社

CFHC

セイ・ノール 基金公社 Cey-nor

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の確保を掲げており、2016年までに年率5%以上の成長率達成を目標としている。

(3)貧困削減戦略文書(PRSP)策定状況:

2008年にPRSPが策定されている。

(4)水産政策

漁業省は、2006年「The National Fisheries and Aquatic Resources Policy」を策定した。

政策目標は以下の5つである。

・国内水産物生産を増やすことにより、栄養状況と食糧安全保障を改善する。

・ポストハーベストロスを最小限にし、水産物の品質安全を改善する。

・漁業や水産関連産業における雇用機会を増やし、漁村の社会経済状況を改善する。

・水産物からの収入を増やす。

・水域環境を保全する。

さらに、漁業省が行う資源管理について、サブセクター毎に53の具体的な予防手段が挙げら

れている。

(5)漁業・海洋資源セクターにおける 10 年開発政策の枠組み:2007 年-2016 年

漁業省は 2007 年に、津波被害からの復興に関する水産分野の中期的な開発計画として、「漁

業・海洋資源セクターにおける 10 年開発政策の枠組み:2007-2016 年」(Ten Year Development

Policy Framework of the Fisheries and Aquatic Resources Sector 2007-2016)を策定した。本開発計画

は、3 フェーズ (Short term(2007-2009 年)、Medium term(2010-2013 年)及び Long-term(2014-2016

年) )に分けて実施される予定である。

現在はこの開発計画の方針に基づき、様々な水産開発事業が計画・実施されているが、水産

分野が抱える課題・問題点として以下の 14 項目を提示している。

1. 水産資源に関する信頼できるデータ収集ができない。

2. 漁業管理活動を実施する体制ができていない。

3. ポストハーベストの鮮度管理が不徹底なため、漁獲物の市場価値を下げている。

4. 沖合での漁業資源(主にマグロ、カツオ)には開発の余地がある。

5. 東部と北部は紛争や自然災害により、水産インフラの多くが破壊されている。

6. 適切な漁法が実施されておらず、水産加工の技術も未熟である。

7. 内水面の漁業・養殖の開発に進捗が見られない。

8. 漁港や保冷庫など、漁業インフラの整備が後れている。

9. 漁場監視が難しく、違法漁業や未登録漁船の操業などを取り締まれない。

10. 水産分野への民間投資が進んでいない。

11. 水産分野の研究、技術開発、研修・訓練が遅れている。

12. 海洋汚染による沿岸環境の悪化が漁業に影響を与えている。

13. 津波災害地の中には更なる復興支援を必要している所がある。

14. 北部や東部ではマルチデイボートや水産関連インフラ整備が不十分である。

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(6)水産業開発戦略 2010-2013

現在は、中期戦略である「水産業開発戦略 2010-2013」(FISHERIES SECTOR DEVELOPMENT

STRATEGY 2010-2013)に基づいて政策が実施されている。

水産開発戦略の目標として下記の項目が示されている。

1.国民の栄養状態を強化するために水産物の生産量を増加させる。

2.新しい技術の導入により、持続的な水産資源の利用を促進する。

3.気候変動や沿岸の災害のような変化へ適応させるため水産業を多様化させる。

4.漁業コミュニティーの社会経済状況を強化する。

5.北部及び東部地域の水産インフラ開発を行う。

さらに具体的な行動プログラムとして下記の項目が示されている。

・漁業生産強化

・漁業社会コミュニティー開発

・水産業への投入増加

・訓練と普及

・調査、人材育成

・インフラ開発

・魚市場整備

・貿易と投資促進

・資源保全

・北部の水産業開発

(7)漁村振興に係る関係行政組織からの支援

漁村振興を実施していく際、漁業省のみならず他の省庁との連携・協働が必要になる。現場

レベルでは、協同組合省と農業省等の出先機関との関係が比較的深い。

・組合開発局

漁業協同組合の活動は、漁業省と組合開発局(Department of Cooperative Development)が共同

で支援している。組合開発局の地方事務所は、漁協に対して、その許認可権を有しており、組

合の経営指導などを行っている。多くの漁協は主に組合員に対する小規模貸付を行っているた

め、組合開発局からの指導はこの部分が中心になっている。また、ドナーからの支援などを漁

協に供与し、貸付資金の原資としている事例もある。

基本的には、組合開発局の活動は主に協同組合の指導に限られており、実際の漁業活動支援

などは限定的にしか行われていない。

・農業省

漁村で農業関係の仕事に従事している漁業者などは、漁業省だけでなく、農業省の支援を受

けている場合もある。漁業者でありながら小規模な農業に従事している漁家に対して、農業普

及員は 1 ヶ月に 1~2 回程度現場を訪問して、農業技術等の相談に当たっている。その際には、

野菜作りや果樹生産の技術提供や、援助機関から供与された種子・肥料の支給などが行われて

いる。

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淡水魚養殖は主に内陸部の大きな灌漑用ダム湖や天然湖で行われているが、それ以外の地域

ではあまり普及していない。米作では 2 期作・3 期作が行われており、米の需要が高いことも

あり、休耕している水田が無い。基本的に灌漑用水があれば、米や野菜を生産した方が、魚を

養殖するよりも収入が良いとのことである。

・経済開発省

経済開発省による国家プロジェクトである”Divinaguma Programme”が実施されている。

漁業省は本事業の水産分野について、水産物供給による食糧の安全保障、代替生計手段創出、

水産物の増産および訓練等による貧困削減を目的とした事業を実施している。具体的には、淡

水域でのエビや魚類養殖、種苗放流、観賞魚(水草)養殖、海面での貝類・海藻類養殖、水産物

加工等に関する事業である。

2-11 海外との関係 (1)水産関連国際条約

主な水産関連国際条約加盟状況は下記の通り。

・インド洋まぐろ類委員会(Indian Ocean Tuna Commission: IOTC):加盟している。

・絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約):1979 年より

加盟している。

・国際捕鯨委員会(IWC):加盟していない。

・特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約):1990 年に加

盟した。現在、登録されている地域は 5 つ、それら総面積は 32,372 ヘクタールである。

(2)我が国との入漁協定

現時点では、日本漁船の入漁の実績はない。

(3) 水産分野支援でのドナーの動き

・カナダ

1)沿岸水域の海洋資源調査と資源管理に関する水産研究所の能力強化(Capacity enhancement

of NARA for marine resource surveys and stock assessments in coastal waters of Sri Lanka)

カナダ国際開発庁(Canadian International Development Agency: CIDA)の事業、2008 年~2012

年、事業予算 1,177,686US ドル

北西部州(プトラム県)、南部州(ハンバントラ県)、東部州(アンパラ県)の 3 地区で、重要水

産魚種(ナマコ、チャンク貝、イセエビ、エビ、観賞用魚)の生態分布図を作成するため、スク

ーバ潜水や底曳網を用いた生物調査を実施する。各魚種の生態分布を把握した後、各地区で 10

村を対象にして漁業者が参加するワークショップを開き、その地域の沿岸資源管理計画を策定

する。調査時点(2009 年 1 月)では北西部州の生態分布図の作成はほぼ終了し、残り半年で漁業

者と共同で資源管理計画を作成する予定。その後、南部州に調査域を移動する。

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2)関係者参加による水揚場施設の改修と運営改善(Restoration and improvement of fish landing

centers with stakeholder participation in management)

CIDA の事業、2008 年~2011 年、事業予算 4,713,083 US ドル

南部州と東部州の津波被災した水揚場の施設・機材を改修し、改修を終えた水揚場施設・機

材の適切な運営管理について、参加型アプローチで地域漁業者などの関係者と協議および指導

を行う。

・スペイン

1)津波被災漁村を対象とした漁獲物取扱方法の標準化と漁獲後の鮮魚損失の減少(Minimum

standards for fish handling and reduced post-harvest losses in selected tsunami-affected communities)

スペイン政府の無償事業、2009 年~2010 年、事業予算 521,799 US ドル

南部州の津波被災漁村を対象に、漁獲後の鮮魚損失を減らすために、漁獲後の船上や流通で

の鮮魚の品質管理を指導する。NIFNE が担当して、対象漁村の漁協(FCS)を通じて研修プログ

ラムを実施する。

2)Regional Fisheries Livelihoods Programme for South and Southeast Asia(RFLP)

2009 年から 2013 年までスペイン政府の資金により FAO が実施している事業で、ネゴンボ、

チラウ及びプタラム県での零細漁業者の生計向上と水産資源の持続的利用を支援するための組

織や人材育成のサポートを行っている。

・FAO

1)ポスト津波復興事業

FAO スリランカ事務所は、2005 年から津波被災した沿岸漁村の復興支援に集中して取り組ん

できた。津波復興支援には一応の目処がついたことから、2008 年からはポスト津波復興事業と

して、沿岸資源管理、漁獲物の品質改善、漁業施設の管理運営に関する案件に着手している。

2)南部州での養殖開発(Aquaculture Development in the Southern Province)

2009年7月から2011年12月まで、南部州を対象として、持続的な養殖開発マスタープランの準

備と養魚家や政府職員の人材育成、および地方の漁業者や養魚家の生活改善を目的とした事業

を実施している。

・国連開発計画(UNDP)

スリランカの紛争影響地域(北部・東部の5県)において、水産業、農業、畜産業の各分野で、

帰還した国内避難民を含む地域住民が生計維持の手段を確保するための事業が2008年3月から

2011年2月までの期間実施された。この中で、水産分野の支援として、網・漁船の修復センター

やアクセス道路等水産業を営むにあたり必要なインフラを整備するとともに、内水面漁業の方

法や付加価値の高い水産加工品の生産等のワークショップを開催した。

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・ADB

ADB が漁業省と共同で、海洋資源開発・品質改善プロジェクト(Aquatic Resource Development

and Quality Improvement Project)を実施している。このプロジェクトは内水面漁業や淡水養殖の

施設整備・技術指導、魚市場、製氷施設などの水産流通施設の整備を主な目的としている。養

殖としては、ラグーン内のアカメ生簀養殖の導入を進めている。また、アカメの人工種苗生産

を行う公営ハッチェリーの建設を行っている。

その他の ADB の水産関連プロジェクトとして、沿岸資源管理プロジェクト(Coastal Resource

Management Project)が実施されている。

また、コロンボでは 2011 年に中央魚市場が建設され、全国から漁獲物が集まり、コロンボで

の流通の拠点となっている。

・国際農業開発基金:IFAD(International Fund for Agricultural Development)

IFAD は 2007 年から 2013 年まで、Post Tsunami Coastal Rehabilitation and Resource Management

Programme を実施しており、津波の影響を受けた地域において、伝統漁業の再開とその他の経

済活動により住民の生計向上をサポートしている。

・NGO 等

スリランカ最大のローカル NGO「セワランカ財団」(Sewalanka Foundation)は、2005 年から

は南部州と東部州の津波被災漁村への復興支援に取り組んでおり、最近では復興支援を受けた

漁村での地場産業育成に力を入れている。

プトラム県のカンダコリア村(Kandakuliya)では、乾燥魚の加工技術の改良指導とマイクロク

レジットを組み合わせた漁村コミュニティによる小規模ビジネスの育成をアイスランド政府の

支援により実施している。乾燥魚の品質改善を促すために、南部州のタンガラ(Tangala)などの

スリランカ各地で漁業者を対象とした乾燥魚の加工技術改善セミナーを 2007 年から日本国際

シルバーボランティア協会の加工技術専門家の協力を得て開催している。

また、津波被災を受けた南部州の漁村には、出漁が難しいモンスーン時期の生計を支えるた

めに、マイクロクレジットによる新しい収入源の確保を支援することや、東部州の内陸部には

大きな湖や溜池を利用したインドコイやテラピアの生簀養殖による、農村部住民の生計向上を

計画している。

2-12 我が国からの水産関連協力 (1)スリランカに対する我が国 ODA 概況

1952年に我が国と国交を樹立し、我が国は1960年代より円借款供与を開始した。また1980年に

は青年海外協力隊派遣取極を、2005年には技術協力協定を締結している。

重点分野:

(イ)平和定着と復興支援

(a)人道/復旧支援

(b)国造り支援

(ロ)中・長期ビジョンに沿った支援

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(a)経済基盤の整備に向けた制度改革支援

(b)外貨獲得能力向上に対する支援

(c)貧困対策支援

その他留意点・備考点:

対スリランカ ODA の実施に際しては、平和の定着の促進や社会経済開発支援の観点から、治

安情勢並びに地域及び民族のバランスに十分配慮して進めていく必要がある。

(2)国別援助方針

外務省はこれまでの「国別援助計画」と「事業展開計画」を統合し、原則ODA対象国すべてに

対し「国別援助方針」を策定する方針であり、2011年度にスリランカに対する「国別援助方針」

が策定される予定である。

1)対スリランカ国別援助計画

2004 年 4 月に対スリランカ国別援助計画が作成されている。その中で、我が国経済協力の目指

すべき方向性は、「平和の定着・復興プロセス」への支援、及び「リゲイニング・スリランカ」

を踏まえた中・長期的支援であるとしている。 参考:「リゲイニング・スリランカ」とは 2002 年 12 月スリランカ政府が作成した、今後 5 年間の開発の枠

組みを示した経済再生政策「リゲイニング・スリランカ(Regaining Sri Lanka: Vision and Strategy for

Accelerated Development)」。政府と LTTE(タミル・イーラム解放の虎)との内戦により国内が疲弊した

ことから、「雇用創出」、「財政危機の克服」、「国家復興」及び「国民所得拡大、生産性向上及び投

資の拡大」することが課題であるされている。

2)対スリランカ事業展開計画

2009 年 6 月 1 日現在の対スリランカ事業展開計画の概要として、援助重点分野及び開発課題

は表 2-10 の通りである。

表 2-10 我が国外務省の対スリランカ事業展開計画 援助重点分野 開発課題 協力プログラム名

平和の定着 (人道復旧支援等)

紛争影響地域住民生活、社会環境

改善 ・紛争影響地域住民生活・社会環境

改善 ・ガバナンス改善

経済基盤整備 電力事業の改善 ・電力 交通運輸インフラ整備 ・道路輸送力増強(道路・橋梁・公

共交通の整備) ・港湾及び空港

都市環境の改善 ・都市環境改善 外貨獲得能力支援 産業振興・投資促進 ・産業振興

観光振興 ・観光振興支援 貧困対策支援 農漁村・地方開発 ・農漁村・地方開発

社会サービスの改善 ・保健医療 ・基礎教育

防災 災害対策 ・防災 その他の支援分野 クールアース・パートナーシップ -

出典:外務省

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3)平成23年度国際協力重点方針

東日本大震災からいち早く復興するため、国際社会とも協力しつつ、官民一体となった「開か

れた復興」の実現に資するためODAを活用することを最優先課題とする。

その観点から、途上国支援に関わるアクターと連携しつつ被災地の復興と防災対応に直接貢献

し(重点①)、日本再生・復興を支える力強い経済成長に貢献するために途上国支援を活用する(重

点②)。また、今回の震災に際して示された各国からの信頼に応えるため、我が国の国際的コミッ

トメントを誠実に実現していくための支援等を実施する(重点③)。

スリランカは重点③の平和構築の対象国として具体的に国名があがっている。

(3)水産関連協力

1)水産無償資金協力実績

これまで 12 件約 56 億円の水産無償資金協力が実施されている。

表 2-11 水産無償資金協力の実績 年

度 案件名 E/N 金額

(百万円) 概要

73 遠洋漁業訓練用漁船(Ⅰ/Ⅱ) 95 遠洋かつお一本釣り船、訓練用機材

73 遠洋漁業訓練用漁船(Ⅱ/Ⅱ) 60 訓練用機材

79 漁業振興計画 600 マグロ延縄漁業訓練船(鋼製 110ft,170t)1 隻、 漁業訓練船 1 隻(FRP:50ft:15t),製氷機、冷蔵

82 漁港建設計画(Ⅰ/Ⅱ)(キリン

ダ) 677 漁港施設建設(主防波堤 395m、副防波堤

55m)

83 漁港建設計画(Ⅱ/Ⅱ)(キリン

ダ) 739 漁港施設及び付帯施設建設(防波堤 240m、岸

壁 150m、冷蔵庫、事務所、倉庫、修理施設) 87 漁港管理計画 562 自航グラブ浚渫船(320t)1 隻、浚渫機材 91 キリンダ漁港改修計画(国債) 28 キリンダ漁港改修

92 キリンダ漁港改修計画(国債

Ⅰ/Ⅲ) 737 キリンダ漁港改修

93 キリンダ漁港改修計画(国債

Ⅱ/Ⅲ) 1029 キリンダ漁港改修

94 キリンダ漁港改修計画(国債

Ⅲ/Ⅲ) 212 キリンダ漁港改修

99 タンガラ漁業関連施設整備計画

(Ⅰ/Ⅱ) 389 製氷冷蔵施設、スリップウェイ、ワークショ

ップ、漁網整備場、漁業者サービスセンター

00 タンガラ漁業関連施設整備計画

(Ⅱ/Ⅱ) 472 荷捌施設、漁網修理施設、食堂等

2)草の根技術協力

・南部州アンバランゴダにおける省資源型定置網漁業の導入による漁村活性化支援事業:

南部州アンバランゴダにて、2010年10月~2012年3月まで、日本の定置網漁業を導入するこ

とにより、現地漁業者の所得の向上、雇用の創出に伴う漁村の活性化を図る事を目的として

実施されている。

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・ジャフナ県乾燥魚プロジェクト:

北部州のジャフナ県にて、2010年10月~2013年9月まで、漁村の貧困女性を対象に、乾燥魚

の加工技術向上を通じた収入向上を図ることを目的として実施されている。

3)研修

集団研修「漁業コミュニティ開発計画」(2004~2008 年度)と国別研修「スリランカ沿岸漁業

管理」(2004~2007 年度)が実施された。帰国した研修員は JICA 帰国研修員同窓会の水産部会を

設立し、定期的に関係者が集まり、セミナーや研修会などを行っている。

4)津波による水産業被害への復興支援

2004年の津波被害により漁業分野では、漁船、漁港、水産物流通と多岐にわたり被害が発生し

た。下記2件の緊急開発調査により、水産分野では、漁船修復機材配布、漁船漁具無償貸与、水

産物流通機材配置、漁港修復および訓練船造船に関する支援が行われた。

・スリランカ国南部地域津波災害復旧・復興支援プロジェクト:

2005年3月~2006年3月まで、ゴール漁港とタンガラ漁港に関する復興計画の策定、入札図書

案の作成、施工監理技術支援が実施された。

・スリランカ国津波被災地域コミュニティ復興支援プロジェクト:

2005年3月~2008年1月まで、北東部州における漁業復興計画の策定に関する支援が行われた。

5)内戦復興支援

2009 年 5 月に終結した内戦により、8 万人を超える国内避難民(IDP)が発生したことに関する支援

のため、下記 2 件の調査が行われている。

・ジャフナ県復興開発促進計画プロジェクト:

2010 年 3 月~2011 年 12 月まで、北部州ジャフナ県におけるコミュニティ(農協、水産・漁

業、多目的組合等、各種共同体)対象として、内戦からの復興計画の作成を目的とする。パイロ

ットプロジェクトでは、収入源創出を目的として海藻やナマコの養殖が実施されている。

・マナー県再定住コミュニティ緊急復旧計画プロジェクト:

2010 年 3 月~2012 年 3 月まで、北部州マナー県に帰還した IDP に対する再定住のための支

援を行うことを目的とする。

6)(財)海外漁業協力財団 インド洋まぐろ類委員会(IOTC)を通じて、多くの関係沿岸国が加盟している地域漁業管理機

関による資源管理活動を促進するため、2002 年 4 月~2007 年 3 月および 2007 年 6 月~2010 年

3 月、スリランカを含めた加盟国の漁獲統計等の漁業情報の整備活動の支援と技術指導が行わ

れた。