西

美 敎育の方針...日 本 の 風 土 は 美 に す 日 本 の 土 地 は 山 嶽 溪 流 に 富 み 四 圍 の 海 濱 は な り 順 和 の 天 候 は 卉 草 木 の

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  • ▲日本の風土は美

    日本の土地は山嶽溪流に富み四圍の海濱は

    なり順和の天候は

    卉草木の生育に

    し至る

    の肥田沃野

    は國民の生計を簡易にして世路の艱險を知らざらしむ之を西歐の天地に比すれば宛然たる樂

    なり此の如

    き國柄は美

    の培

    當の

    素を有して古來一種の藝

    開け歐洲の藝

    と其趣を異にし世に賞賛せらるヽ

    も宜なり就中繪畵は最も奇拔なる趣味を存し其

    法は練熟したり東洋の一孤島たる日本が歐洲に多少の勢

    力を

    ぼしたるものは國力の富强なるが故にあらず歐

    かなるが爲にもあらず

    く此奇拔なる一種の藝

    あるが爲なりされば此藝

    頽に陷らしめず益々之を開發して國光を揚ん事は國民の等く希圖せざる

    べからざる

    なり然るに現今の狀態を察するに徒らに其美

    國なるを恃みて漫然我繪畵は世界の特

    たるを誇

    るも之が發

    ずるに冷淡にして今の美

    は枯

    自滅の悲

    したるを奈何せん

    日本の繪畵は其

    法を唐宋に學びたるも我國に移

    して一種の方法に發

    したるが

    代外國

    の始りてより

    新に

    りたるは四條圓山の

    謂寫生

    なり此

    の天然を究めたりし結果は

    鳥畵の

    功に一種の

    步をあら

    はしたりといふべし明治年代に入り歐洲の

    物移入せらるヽや洋畵の

    法模倣せらるヽに至りて繪畵は

    其本據を失ひ亂雜名狀すべからざる觀を呈したり今之を現時の實況に徵すれば畧下の如きものあり

    敎育の方針

    黑田淸輝 

  • ▲方今の現狀

    從來の繪畵を作るものに二

    あり舊

    は古法を墨守するものなるを以て其畵風ハ沈着したりと雖現今の時

    勢に

    せず其

    は日を

    ふて

    縮し古人の開きたる範圍以外に天然の

    趣を敍し若くは自己の思想を表す

    るの能力を失ひたり新

    は世變に應じ開發を謀らんとするものにして其

    義は賞すべく其製作に見るべきも

    のありと雖修

    るを以て完

    なる

    功を見るべき

    なく動もすれば奇狂に奔るの

    に陷る洋畵を

    學ぶものにも亦二

    あり一は唯洋風の外形を模倣するものにして天然を寫す

    を爲さず一は天然を

    として

    むものにして其方法は將來に向て

    あれども未だ想を寫す

    の熟したる

    能なきが故に世人を滿足せしめざる

    なり以上を槪言するに方今の藝

    は或は古人の筆法雄快なるに

    じて時代の變

    れ或は洋畵の變

    自在な

    るに驚きて其理を究むるを知らず或は理想の重んずべきを知りて之を描くの手段を

    ぜず或は

    を寫すに勉

    めて想を寫すの域に

    せず斯く種種なる方向を模索したれども世は既に藝

    の萌芽を生せんとするの時期なれ

    ば此際確乎たる將來の方針を

    究して其

    路を開かんこと極めて切

    なるを

    むるなり

    『二六新報』

    明治三三年三月二九日

    美 敎育の方針 (五)