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2009 年度秋学期
「刑法 II(各論)」講義
2009 年 10 月 16 日
【第 6 回】強盗の罪(その 2)
2 事後強盗罪[238 条] 《山口刑法 pp. 301-303 /西田各論 pp. 165-170、山口各論 pp. 223-229》
強盗罪の拡張類型として、事後強盗罪(典型例として〈第 11 講・問題 2〉参照)と昏酔強盗罪[239
条](後掲 3 参照)を規定。
「強盗として論ずる」
→法定刑のみならず、強盗致死傷罪[240 条]、強盗強姦罪・同致死罪[241 条]、強盗予
備罪[237 条](←ただし、この点については議論あり。後掲 2-4 参照)との関係で強
盗罪[236 条]と同様に扱われる。
2-1 主体
「窃盗」=窃盗犯人
本罪の未遂は窃盗が未遂の場合をいうと解されている(後掲 2-3 参照)ことから、上記窃盗犯
人とは窃盗既遂犯人を意味することになる。
(窃盗未遂犯人も含むと解した場合は、(とりわけ逮捕免脱目的で)これが暴行・脅迫した場合は直ちに本罪の
既遂罪が成立することとなり不当である。)
※ 本罪の主体を窃盗既遂犯人と解した場合は窃盗未遂犯人が本罪の主体から事実上排除されることになり
不当であるとして、238 条の法文を「窃盗の罪を犯し、…… 暴行又は脅迫をした者は」の意味に解すべきと
の見解あり。 ←本罪を非身分犯とする理解(後掲 2-5 参照)に基づく。
※ なお、主体の要件を満たしていない事例として、〈第 11 講・問題 3〉を参照。
2-2 暴行・脅迫
強盗罪におけると同様の程度のものを要する(〈第 11 講・問題 4〉参照)(判例(263)参照)。
暴行・脅迫の相手方は窃盗の被害者のみならず、追跡・逮捕しようとした第三者や警察官も含
まれる。
暴行・脅迫は
(i) 財物の取返しを防ぐ目的、
(ii) 逮捕を免れる目的、または
(iii) 罪跡を隠滅する目的
でなされる必要(ただし暴行・脅迫がなされれば足り、目的達成の有無は関係がない)。
窃盗の犯行現場または窃盗の機会の継続中に行われる必要(〈第 11 講・問題 5〉参照)(判例
(267)参照)。
→暴行・脅迫は窃盗行為と時間的・場所的に接着した機会に行われ、被害者等による財物
の取返し、犯人逮捕の可能性が存在する状態、あるいは証人となる被害者等が身近に存
在する状況においてなされる必要がある(このような場合に、これを回避するために行
う暴行・脅迫について、強盗罪・同未遂罪にも近似した犯罪性を肯定できるから)。
2009 年度秋学期「刑法 II(各論)」講義資料
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[具体例]
* 肯定例として、判例(264)(265)(267)などを参照。
* 否定例として、判例(266)(268)(269)などを参照。
2-3 未遂および既遂
本罪の既遂・未遂は先行する窃盗罪の既遂・未遂によって決する(〈第 11 講・問題 6〉参照)(最
判昭和 24 年 7 月 9 日刑集 3 巻 8 号 1188 頁など)。
なお、財物の取返しを防ぐ目的による暴行・脅迫の場合は、本罪の未遂はあり得ない。
※ 先行する窃盗罪が既遂の場合でも、最終的に財物を取り戻された場合に本罪の未遂とする見解もあるが、
238 条の法文の構成にそぐわない解釈と言わざるを得ないのではないか。
2-4 予備(〈第 11 講・問題 9〉)
A. 肯定説(判例(262)参照)
B. 否定説
[理由]
* 事後強盗罪の規定[238 条]は強盗予備罪の規定[237 条]よりも後に置かれている。
* 事後強盗予備を処罰することは、不可罰である窃盗予備を処罰することと同じではな
いか。
[批判]
* 条文の位置は決定的な論拠ではない。
(※ より後ろに規定がある昏酔強盗罪については、その予備を認める見解が多数である。後掲 3
参照。)
* 居直り強盗の未必的意思がある場合にも強盗予備罪の成立を否定すべきことになる
が、妥当でない。
なお、事後強盗罪は現実に暴行・脅迫に出た場合に結果として成立するに過ぎない犯罪と解す
べきではないか、との観点からは、A 説の解釈にはなお疑問が残る。
2-5 共犯
[問]先行行為者が窃盗(または窃盗未遂)をおこなったのち、238 条所定の目的でなされた暴
行・脅迫にのみ関与した後行行為者の罪責如何?(〈第 11 講・問題 8〉)
(事後強盗罪の共犯 or 暴行・脅迫罪の共犯?)
←この問題との関連で、事後強盗罪の構造の理解が問題となる。
A. 構成的身分犯説(判例(272)参照)
(★ 身分犯の問題については総論における議論《山口刑法 pp. 163-166 を参照》を確認されたい。)
65 条 1 項の構成的身分犯(真正身分犯)と解する。
→上記[問]の後行行為者には事後強盗罪の共犯が成立。
B. 加減的身分犯説(なお、判例(270)(271)参照)
65 条 2 項の加減的身分犯(不真正身分犯)と解する。
→上記[問]の後行行為者には暴行・脅迫罪の共犯が成立。
C. 複合身分犯説
構成的身分犯と加減的身分犯の 2 つの類型に区別する。
(例えば、財物取返しを防止する場合を構成的身分犯、逮捕免脱・罪跡隠滅の場合を加
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減的身分犯とする。)
→上記[問]の後行行為者については、事後強盗罪の共犯の場合と暴行・脅迫罪の
共犯の場合に分かれる。
D. 結合犯説(非身分犯説)
窃盗罪と暴行・脅迫罪の結合犯と解する。
→上記[問]の後行行為者の罪責については、承継的共犯《山口刑法 pp. 173-174 を参
照》の問題となる。
(肯定説の場合は事後強盗罪の共犯、否定説の場合は暴行・脅迫罪の共犯となる。)
[各説に対する批判]
身分犯説各説に対して:
* 身分としての「窃盗」に窃盗未遂犯人も含むと解した場合は、先行する窃盗が未遂
の場合、逮捕免脱・罪跡隠滅目的で暴行・脅迫しただけで直ちに本罪の既遂罪が成立
することとなり、一般的な解釈と齟齬を生ずる(前掲 2-1 および 2-3 参照)。
* 身分犯説によれば、暴行・脅迫を事後強盗罪の構成要件該当行為と解し、同罪を暴
行・脅迫罪の加重類型と解することになるが、加重の理由を、
(i) 窃盗犯人であることが暴行・脅迫の違法性を加重する点に求める場合(→ A 説)
は、先行する窃盗が既遂の場合には財物返還請求権に対する 2 項強盗類似行為と
して説明できるものの、窃盗が未遂の場合には妥当しない。
(ii) 窃盗犯人であることが暴行・脅迫の責任を加重する点に求める場合(→ B 説・C
説)は、単なる責任加重により強盗罪・同未遂罪と同様な可罰性を肯定することを
説明できるか疑問であり、またこの場合は別途窃盗罪の成立を認めるしかなく(財
物奪取の違法性を事後強盗罪で評価できないから)、事後強盗罪・同未遂罪と窃盗罪
・同未遂罪の併合罪とせざるを得ない点が問題である。
結合犯説に対して:
* この場合は窃盗行為も構成要件該当行為であることになるので、窃盗未遂の段階で
常に事後強盗未遂罪の成立を認めることになりかねないのではないか。
2-6 窃盗罪との関係
* いわゆる「居直り強盗」の場合(=窃盗に着手し、またはそれ以前の段階で発見されたため、
改めて財物強取の目的で暴行・脅迫をおこなった場合。〈第 11 講・問題 1〉参照)
→強盗罪[236 条]が成立
* 窃盗既遂の後に、さらに暴行・脅迫により財物を強取した場合
→包括して強盗既遂罪一罪が成立(高松高判昭和 28 年 7 月 27 日高刑集 6 巻 11 号 1442 頁)
* 窃盗既遂の後に、強盗の犯意で暴行・脅迫を行ったが、逮捕されそうになったため、暴行・
脅迫により逃走した場合
A. 窃盗既遂罪と強盗未遂罪の包括一罪
←強盗に着手することなく暴行・脅迫により逃走した場合に事後強盗既遂罪となること
との均衡を失する。
B. 全体として事後強盗既遂罪一罪が成立(広島高判昭和 32 年 9 月 25 日高刑集 10 巻 9 号 701 頁)
* 窃盗既遂の後に強盗に着手したが、パトカーのサイレンが聞こえたのでそのまま逃走した場
合
→窃盗既遂罪と強盗未遂罪の観念的競合
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3 昏酔強盗罪[239 条] 《山口刑法 pp. 303-304 /西田各論 p. 170、山口各論 pp. 230-231》
「昏酔」=睡眠薬や麻酔薬、アルコール等により、人の意識作用に一時的または継続的に障害を
生じさせること。(※ 意識喪失までは不要である。東京高判昭和 49 年 5 月 10 日東高刑時報 25 巻 5 号 37 頁、
横浜地判昭和 60 年 2 月 8 日刑裁月報 17 巻 1=2 号 11 頁参照。)
あくまでも人を昏酔させることが必要であり、人が昏酔状態にあることに乗じて財物を盗取する
ことでは足りない。
人を昏酔させる手段は問わないが、暴行を用いて昏酔させた場合は通常の強盗罪[236 条]が成
立する。
昏酔による意識障害それ自体は、本罪の構成要件において当然の前提とされているものであるか
ら、強盗致傷罪[240 条前段]にいう「負傷」にはあたらない。
昏酔強盗罪の予備の処罰については、肯定説が多数である。
4 強盗致死傷罪[240 条] 《山口刑法 pp. 304-306 /西田各論 pp. 159-161, 171-173、山口各論 pp. 231-237》
4-1 主体
「強盗」=強盗犯人を意味し、強盗未遂犯人を含む(最判昭和 23 年 6 月 12 日刑集 2 巻 7 号 676 頁
参照)。
また、強盗として扱われる事後強盗罪、昏酔強盗罪(これらの未遂罪を含む)の犯人をも含む
(大判昭和 6 年 7 月 8 日刑集 10 巻 319 頁参照)。
※ なお、主体の要件を満たしていない事例として、〈第 12 講・問題 1〉を参照。
4-2 死傷結果の原因行為
本罪の成立の肯定のためには、死傷結果はいかなる行為から生じたことが必要か?
A. 手段説
強盗の手段である暴行・脅迫から死傷結果が生じた場合に限定。
[批判]
* 事後強盗罪の場合の 238 条所定の目的でなされた窃盗犯人による暴行・脅迫、ある
いは昏酔強盗罪の場合の財物盗取の目的で昏酔させる行為から死傷結果が生じた場合に
も本罪の成立を肯定することになるが、これとの均衡上、強盗犯人が 238 条所定の目
的で行う暴行・脅迫から死傷結果が生じた場合も含めるべきではないか?
B. 機会説(〈第 12 講・問題 7〉参照)
(大判大正 6 年 10 月 29 日刑集 10 巻 511 頁、判例(274)(=〈第 12 講・問題 4〉参照)、最判昭和 25
年 12 月 14 日刑集 4 巻 12 号 2548 頁(以上、肯定の事案)、最判昭和 23 年 3 月 9 日刑集 2 巻 3 号 140
頁、最判昭和 32 年 7 月 18 日刑集 11 巻 7 号 1861 頁(以上、否定の事案))
強盗の機会に死傷結果が生じれば足りる。
[批判]
* 本罪の成立範囲を拡張しすぎる。
* 本罪に規定された重い法定刑を正当化できない。
C. 密接関連性説(〈第 12 講・問題 8〉参照)
手段としての暴行・脅迫から死傷結果が生じた場合のみならず強盗の機会に行われた原
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2009 年度秋学期「刑法 II(各論)」講義資料
因行為から生じた場合も含まれるが、原因行為は強盗行為と密接な関連性を有するものに
限定される。
[批判]
* その限界が不明瞭。
D. 拡張された手段説
強盗の手段である暴行・脅迫および事後強盗類似の状況における暴行・脅迫から死傷結
果が生じた場合に本罪の成立を肯定。
← A 説に対する批判を考慮したもの。
4-3 主観的要件
[問]本罪に死傷結果について故意のある場合を含むか?(〈第 12 講・問題 2〉)
死亡結果について故意ある場合について、
A. 殺人罪と強盗致死罪の観念的競合(大判明治 43 年 10 月 27 日刑録 16 輯 1764 頁)
[批判]死亡結果の二重評価となり不当。
B. 殺人罪と強盗罪の観念的競合
[批判]死亡結果に過失がある場合(=強盗致死罪)よりも刑が軽くなり、均衡を失する。
C. 240 条後段のみ適用
(大連判大正 11 年 12 月 22 日刑集 1 巻 815 頁、最判昭和 32 年 8 月 1 日刑集 11 巻 8 号 2065 頁)
→この考え方から、傷害結果に故意のある場合も 240 条前段のみを適用するのが妥当。
[問]原因行為の主観的要件として、どのようなものが要求されるか?
前掲 4-2 で A 説・D 説を採用した場合
→暴行・脅迫の故意が必要([拡張された]手段の主観的要件として)。
前掲 4-2 で B 説・C 説を採用した場合
→暴行・脅迫以外の行為も原因行為に含まれるため、問題となる。
ただし、強盗致傷について暴行の認識を必要とし、強盗致死についてもこれとの均衡上暴行
の認識を要求する見解が主張されている(〈第 12 講・問題 9〉参照。また、最決昭和 28 年 2 月 19 日
刑集 7 巻 2 号 280 頁参照)。
←原因行為を広く捉えているのを主観的要件で限定を図っているものといえる。
(※ もっとも、判例(273)は脅迫から傷害結果が生じた場合(〈第 12 講・問題 10〉参照)について強盗致傷
罪の成立を認めており、また判例(275)は行為者が認識していない客体に傷害結果が生じた場合について
同罪の成立を認めている。)
4-4 傷害の程度
(【第 4 回】「暴行および傷害の罪」2-2「傷害概念の相対性」をも参照。)
A. 非限定説(大判大正 4 年 5 月 24 日刑録 21 輯 661 頁、東京高判昭和 62 年 12 月 21 日判時 1270 号 159 頁、
判例(51)など)
B. 限定説(大阪地判昭和 54 年 6 月 21 日判時 948 号 128 頁、判例(52)など)
←強盗罪の要件とされている暴行・脅迫は相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の強度
を備えたものである必要があり、それに伴い軽度の傷害が生じることは当然のことと
考えられるので、軽度の傷害は強盗罪に包括されると解すべき。
4-5 強盗殺人罪と強取の範囲
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強盗の意思で人を殺害してから財物を奪取する場合、強盗殺人罪が成立(大判大正 2 年 10 月 21
日刑録 19 輯 982 頁など)。
* 殺害によって財物が占有離脱物となった結果殺人罪と占有離脱物横領罪が成立する、と
いうわけではない点に注意。(財物奪取の意思で)被害者を殺害したことによって財物の占
有を離脱させ、その後にその占有を取得したものであり、強盗(殺人)罪が成立する。
* なお、前掲 4-1 および後掲 4-6 にあるように、殺害結果が生じた場合は財物奪取に有無
にかかわらず強盗殺人罪が成立するが、その前提として少なくとも強盗未遂罪の成立が必
要であり、そのためには強盗の意思が認められる必要。
↑
このような強盗の意思を肯定しうるか、の判断において、強取とみうる財物奪取の範囲が問題
となる。
(さらに、強盗殺人罪も財産犯であることからその範囲は量刑上重要であること、財物の取得の
みに関与した者がある場合についていかなる罪の共犯が成立するかに影響することが指摘され
る。)
この点について、
* 殺害は占有を喪失させる究極的手段であるので、強取の意思で殺害すれば、その殺害と
その後の財物奪取との間には時間的・場所的接着性を要せず、すべて強盗殺人となる、と
の見解(東京高判昭和 53 年 9 月 13 日判時 916 号 104 頁参照)。
しかし、例えば、
* 殺害時は被害者の所持する現金のみが目的であったが、1 週間後に被害者宅にある置物
の存在を思い出してそれを取りに行った場合、などについてまで強盗殺人罪の成立を認め
ることは妥当ではないのではないか。
他方、
* 被害者の所持金を奪取する目的で殺害したところ、他に宝石も所持していたのでそれも
奪取した場合には、強盗殺人罪の成立を認めてよい。
(その意味で、殺害時に強取を予定していた財物に限られるわけではない。)
↓
殺害によって既に財物の占有を離脱させているのであるから、殺害時の強取の意思の継続性、
単一性が認められる範囲での財物取得は、強取と解すべきことになる。
従って、
* 被害者を殺害して目的とした金銭を奪い、2 日後に死体を埋める際に死体のそばで新た
に発見した別の金銭を取った場合はこれに含まれず、占有離脱物横領罪(死者の占有を肯
定する場合は窃盗罪)するに過ぎない(仙台高判昭和 31 年 6 月 13 日判時 916 号 104 頁=窃盗罪
成立)。
なお、
* はじめから計画していた場合には、例えば、殺害現場から離れた被害者宅から財物を奪
取する場合は強取が認められる(判例(247)参照)。
4-6 未遂[243 条]
* 結果的加重犯である強盗致傷罪・強盗致死罪の場合
死傷結果が生じた場合は、強盗が未遂であっても本罪は既遂となる(判例(276)、最判昭和 23
年 6 月 12 日刑集 2 巻 7 号 676 頁参照)。
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2009 年度秋学期「刑法 II(各論)」講義資料
→結果的加重犯である強盗致傷罪・強盗致死罪については未遂は存在しないことに。
* 強盗傷人罪の場合(〈第 12 講・問題 5〉)
強盗傷人罪について、傷害の故意をもってしたにもかかわらず傷害が発生しなかった場合は、
強盗の手段である暴行がなされたに過ぎないとして、強盗罪[236 条]の成立を肯定するにと
どめる。
←もし強盗傷人未遂罪を認めるとなると、傷害の故意がある場合にかえって未遂減軽が可
能となり、均衡を失することを理由とする。
* 強盗殺人罪の場合(〈第 12 講・問題 6〉)
殺人の故意をもってしたにもかかわらず死亡結果が発生しなかった場合に、強盗殺人未遂罪
が成立(大連判大正 11 年 12 月 22 日刑集 1 巻 815 頁参照)。
※ 強盗が未遂に場合に強盗殺人未遂罪の成立を肯定する見解があるが、殺人既遂後に強盗のみを
中止した場合に中止犯の余地を認めることになり、疑問。
← 240 条の罪の未遂はこの場合に限定される。
5 強盗強姦罪・強盗強姦致死罪[241 条]
《山口刑法 pp. 306-307 /西田各論 pp. 173-174、山口各論 pp. 237-240》
5-1 強盗強姦罪
強盗罪と強姦罪の結合犯(〈第 13 講・問題 1〉参照)。
主体たる強盗犯人には、強盗未遂犯人を含む。
本罪の既遂・未遂は強姦の既遂・未遂により決する。
強盗の現場または強盗の機会に強姦が行われる必要。
強盗の着手後に強姦意思が生じた場合であっても本罪の対象となる(最判昭和 30 年 12 月 23 日刑
集 9 巻 14 号 2957 頁)。
強姦の後に強盗の意思を生じて強盗した場合(〈第 13 講・問題 2〉参照)は、強盗罪と強姦罪の
併合罪となる(最判昭和 24 年 12 月 24 日刑集 3 巻 12 号 2114 頁)。
5-2 強盗強姦致死罪
強姦行為またはその手段である暴行・脅迫から死亡結果が生じた場合に成立する。
[問]強盗強姦致死罪は死亡結果について故意ある場合を含むか?(〈第 13 講・問題 4〉)
A. 消極説 ←本罪は結果的加重犯であるとの理解に基づく。
(大判昭和 10 年 5 月 13 日刑集 14 巻 514 頁、大阪高判昭和 42 年 5 月 29 日高刑集 20 巻 3 号 330 頁)
A-1. 強盗強姦致死罪と殺人罪の観念的競合
←死亡結果を二重評価している点に疑問。
A-2. 強盗強姦罪と殺人罪の観念的競合
←殺意なき強盗致死罪よりも刑が軽くなる点に疑問。
A-3. 強盗殺人罪と強盗強姦罪の観念的競合(前掲大判昭和 10 年 5 月 13 日)
←強盗を二重評価している点、前掲 4 における機会説に立たない限り強盗殺人罪
の成立を肯定し得ない点に疑問。
B. 積極説 ←前掲 4-2 における拡張された手段説を前提に、刑の均衡の観点に基づく。
[問]強盗強姦致死罪の未遂犯[243 条]とはどんな場合を指すか?
上記 A 説 →強姦が未遂の場合のみ(〈第 13 講・問題 6〉参照)。
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ただし、前掲 4-2 における機会説からは、強盗致死罪との法定刑の均衡上、(死亡結果
が発生している以上)強盗強姦致死罪の成立を肯定。
拡張された手段説からは、強姦から死亡結果が発生しても強盗致死罪は不成立。→刑の
不均衡は生じない。
上記 B 説 →姦淫後死亡することについての予見があったが、死亡結果が発生しなかった
場合を含む(〈第 13 講・問題 5〉参照)。
[問]強盗強姦致傷の場合については特に規定されていないが、この場合の処理は?(〈第 13
講・問題 3〉)
A. 強盗強姦罪のみの成立
(大判昭和 8 年 6 月 29 日刑集 12 巻 1269 頁、東京地判平成元年 10 月 31 日判時 1363 号 158 頁)
←強盗致傷罪と法定刑が同一であったことを考慮するものであるが、強姦が未遂(特
に中止未遂)に終わった場合は強盗強姦未遂罪となり、強盗致死傷罪との刑の均衡
を失する。
B. 強盗強姦罪と強盗致傷罪の観念的競合(浦和地判昭和 32 年 9 月 27 日判時 131 号 43 頁)
←前掲 4-2 における機会説を否定する場合、強盗致傷罪の成立を認められない。
C. 強盗強姦罪と強姦致傷罪の観念的競合
←強盗強姦罪よりも法定刑の軽い強姦致傷罪の成立に実際上意味がない。
《参考文献》
2 について
* 山口厚「強盗罪の諸問題」『問題探究 刑法各論』pp. 126-145 のうち、pp. 135-139 の部分
* 伊東研祐「事後強盗の共犯」『刑法の争点』pp. 178-179
* 山口厚「事後強盗罪の成立範囲」『新判例から見た刑法[第 2 版]』pp. 177-189(検討の素材は判例(267)(268))
3 について
* 山口厚「強盗罪の諸問題」『問題探究 刑法各論』pp. 126-145 のうち、pp. 134-135 の部分
4 について
* 町野朔「強盗殺人罪の限界」『犯罪各論の現在』pp. 163-177
* 山口厚「強盗罪の諸問題」『問題探究 刑法各論』pp. 126-145 のうち、pp. 140-145 の部分
* 内田浩「強盗致死傷罪をめぐる論点」『刑法の争点』pp. 180-181