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1. はじめに 10 健康・スポーツ科学セミナー 荻田亮 「ダイエットと身体活動の基礎知識」 「ダイエット」「メタボ」という言葉が流行言葉のように使われていることか らもわかるように、生活習慣病や健康に対する関心は高まるばかりである。脱 メタボを目指して、生活習慣の改善やダイエットと日々格闘している人も少な くはないであろう。本来、健康な身体を構築するために行うダイエットや生活 習慣の改善も、一歩間違えると健康被害を招くことにもなりかねない。今回の 講座では、「ダイエットとは?」や「メタボとは?」といった基礎知識とともに、 健康づくりのための「運動(身体活動)」について解説した。 2. ダイエットとは 「ダイエット」という言葉は日常生活において頻繁に使用されており、我々 の関心が向けられていることが判る。巷では「痩せる」ことが広義のダイエツ トと捉えられている場合も少なくはない。「痩せる」とは「肉が落ち、からだが 細くなる(大辞泉より)」という意味である。 一方、ダイエット(diet )とは「健 康または美容上、肥満を防ぐために食事を制限すること(大辞泉より)」を意味 する。すなわち、ダイエットとは単に痩せることのみを目的とすることではな く、健康的な身体を構築するための一つの方法・手段である。さらに、生涯に わたって健康的で活動的な生活を営むことを望んでいるならば、継続的に行う エネルギーバランスコントロールとしてダイエットを捉えることが必要である。 ( 1 )過食や運動不足によってエネルギー収支のバランスが崩れると肥満にな る(図 1 摂取力ロリ- =消費カロリー バランスがとれた状態 摂取カロリー>消費力 G')- 過食や運動不足によって バランスがとれていない状態 1 エネルギー収支のバランス 7

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1. はじめに

第 10回 健康・スポーツ科学セミナー

荻田亮

「ダイエットと身体活動の基礎知識」

「ダイエット」「メタボ」という言葉が流行言葉のように使われていることか

らもわかるように、生活習慣病や健康に対する関心は高まるばかりである。脱

メタボを目指して、生活習慣の改善やダイエットと日々格闘している人も少な

くはないであろう。本来、健康な身体を構築するために行うダイエットや生活

習慣の改善も、一歩間違えると健康被害を招くことにもなりかねない。今回の

講座では、「ダイエットとは?」や「メタボとは?」といった基礎知識とともに、

健康づくりのための「運動(身体活動)」について解説した。

2. ダイエットとは

「ダイエット」という言葉は日常生活において頻繁に使用されており、我々

の関心が向けられていることが判る。巷では「痩せる」ことが広義のダイエツ

トと捉えられている場合も少なくはない。「痩せる」とは「肉が落ち、からだが

細くなる(大辞泉より)」という意味である。 一方、ダイエット(diet)とは「健

康または美容上、肥満を防ぐために食事を制限すること(大辞泉より)」を意味

する。すなわち、ダイエットとは単に痩せることのみを目的とすることではな

く、健康的な身体を構築するための一つの方法・手段である。さらに、生涯に

わたって健康的で活動的な生活を営むことを望んでいるならば、継続的に行う

エネルギーバランスコントロールとしてダイエットを捉えることが必要である。

( 1 )過食や運動不足によってエネルギー収支のバランスが崩れると肥満にな

る(図 1)。

摂取力ロリ- =消費カロリー

バランスがとれた状態

摂取カロリー>消費力G')-

過食や運動不足によってバランスがとれていない状態

図1 エネルギー収支のバランス

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(図 2)。( 2)基礎代謝量は発育段階や年齢によって異なる

1000

12-1‘15-17 18-29 30-49 so-ι9

王手書店 (Al)

年齢別標準基礎代謝量(日本人の食事摂取基準 2010版より引用)

70叫

16α3

1500

{位三

gM)幽嘱泌ど繊岨欄

1‘00 1300

1200

1100

図 2

3. メタボとは

俗に言う「メタボ」とは、メタボリツクシンドローム(内臓脂肪症候群)

ことであり、基準となる腹部周囲径(男性: 85 c m、女性: 90 cm)以上

であるという条件に加えて、高血圧、脂質異常、高血糖のうち 2項目を合わせ

持った状態のことをしづ。内蔵肥満症を基盤として高血圧、脂質異常、高血糖

が複数重なることによって、生命に関わる病気の危険性を急激に高める。

σコ

(予( 1 )男性で 2人に一人、女性で 5人に一人がメタボリツクシンドローム

備軍を含む)と判定される(図 3)。

% 100

80

51.5 53.1

26‘1

53.守

1ヲ.9

52.2

39.8

60

40

20

。歳40-74 70-ω醐 6950申 5940珊 49

の割合(予備軍を含む)

(平成 18年国民栄養調査より作図)

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メタボリツクシンドローム図 3

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( 2 )メタボリツクシンドロームは「氷山」として例えられることがある。高

血糖、高血圧、脂質異常のそれぞれを個別に治療することよりも、代謝

調節異常の根源である内臓肥満を解消することが重要である(図 4)。

高脇島高ftil穂 高血圧

メタポリツクシンドローム代謝機能の不調 .

内線肥満

図4 氷山として例えられるメタボリツクシンドローム

4. 身体組成とは

人間の身体は大きく分けると脂肪組織と除脂肪組織に分類される。脂肪組織

は蓄積する場所によって内臓脂肪と皮下脂肪に分類され、骨格や筋などは除脂

肪組織に分類される(図 5)。

身体

脂肪組織

〈体鎚IJ1j)

[ 肪一晴の燭りiこ喜喜綴しやすいが、五重要企によりま~~[こ満喫することが出来る

皮下腿飴一四段下{こ蓄積鎗t;潟エネ)[,~ーのため、

除館筋組織 結肪組織以外の組織

(脅、筋など) f号、筋、内線、愈波などで4務長~~れ、身体;ち豪語を行うためや、エネルギーな減策するための釜主主主主役容jを担う

図 5 身体組成の分類

( 1 )脂肪組織は、とかく悪者のように扱われがちであるが、身体の機能にお

いて、①生命活動のためのエネルギー貯蔵と供給、②体温維持のための

断熱作用、③内臓の位置を保つ、④性ホルモンの分泌、⑤生理活性物質

(アディポサイトカイン)の分泌、といった重要なはたらきを担ってい

る。

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( 2 )アディポサイ トカイ ンとは脂肪細胞から分泌される生理活性物質の総称

であり、善玉 (良い作用) と悪玉 (悪い作用) に分けられる (図 6)。

少玉川

善恥肥

悪玉肥満により治加

図6 アディポサイトカインとその働き

5.健康づくりのための身体活動とは

人間は断食などによってエネルギー供給を絶っと、 自身の身体組織を分解(破

壊)し生命を維持するためのエネルギーを作り出すよ うになり、筋肉や骨など

の量も減少する状態に陥る。肉が落ちからだが細く なり、いわゆる 「痩せるJ

ということである。「痩せる」という身体の変化は、運動機能の低下だけではな

く、基礎代謝量の減少をも招くことになりかねない。メタボから脱出し、 健康

的な身体を獲得するためには食事の制限だけに頼るのではなく、運動によって

消費エネルギー量を増やし、 それと同時に筋肉や骨などの除脂肪体重を維持す

ることが重要である (図7)。

己司0己己己

自旨肪組織とともに除脂肪組織が減少・ .基礎代謝の減少身体活動能の低下リバウンドに陥りやすい

脂肪綿織だけが減少・..

基礎代訟の維持身体活動能の維持リバウンド{こ焔りにくい

少減の織総肪

&上司叩

加加向く

憎唱揃喝のに

のの能。

織謝動な

組代活に

筋礎体満

脂基身肥

徐山》司己

図 7 ウエイトコントロールと身体組成

10

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(図 8)。( 1 )運動強度の違いによって供給されるエネルギー源は異なる

%

100 棒銀迷

、ャ『ゐ

件H

50

。% 100 80 40 60

運動強度20

運動強度に対する脂質と糖質の燃焼の割合(Astrandら 1970を改変)図 8

(図 9)。( 2 )運動継続時聞が長いほど脂質からのエネルギー供給率は高まる

麗質

幽閉揺駆縦割幽

寝堅実

240 (分〉120

運動時間

運動継続時間とエネルギーの供給源(Ahlb時 ら 1974を改変)図 9

まとめ(健康な身体を獲得するためのダイエットと身体活動)

( 1 )ダイエットとは「痩せる」ことではなく、摂取エネルギーの量とバラン

6.

スを継続的にコントロールすることである。

( 2 )内臓脂肪の過剰な蓄積を予防することが重要である。

( 3 )ウエイトコントロールとは体重を減らすのではなく、余剰な体脂肪(内

臓脂肪)を減少させることである。

( 4)運動強度や運動継続時間を工夫することによって、効果的に体脂肪を消

費することが期待できる。

( 5)体脂肪を減少させると同時に除脂肪組織の機能を維持することが重要で

11

ある。