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技術解説
Body DWIの現状と撮像技術
丹治 一
(Tanji Hajime)
(財)北福島医療センター 画像センター 〒960-0502 福島県伊達郡伊達町箱崎字東23-1
Key words: MRI, Body DWI, DWIBS
1. はじめに
体幹部のDWI(以下Body DWI)は、まだまだ未知な部分も多い。本稿では、Body DWI の一般現状を臨床効果と撮像技術の観点からまとめると共
に、当院での検査状況を紹介する。図版は必要最
低限にとどめ、文章による解説を試みた。Body DWIの基本的理解の一助となれば幸いである。
2. Body DWIの経過
Body DWIは、2004年 5月に東海大の高原らによる Diffusion PET graphy(DWIBS)が話題となり、全国的な“流行”となった。この経過から、Body DWI=DWIBS と思われがちであるが、実際の目的は微妙に異なっている。この違いが議論されない
まま Body DWI という同じ括りの中で、“精度や技術話が行われては平行線をたどる”と言ったやり取
りが幾度も繰り返され、なかなか Body DWI のevidenceがまとまらない状況にある。 体幹部への DWI の応用は、1998 年ころから行われているが 1)~3)、2002年に国立がんセンター東病院の那須らが、Parallel imaging の応用として“SENSE-DWI”を唱えたのが印象に残っている 4)。
彼らはその中で、「Body DWI においては、多くの癌が高信号に描出されると思われ、これは、癌の
細胞密度を反映している可能性が高い。」また、
「Body DWIの信号は基本的に非特異的ではあるが、T2-EPI(b=0)の画像と比較することによって癌と良性疾患の区別が可能であることが多い。」と述
べており、性状の判断材料として Body DWI が位置づけられている。一方、高原らは、Body DWIの「拾上げ能力」に着目し、それを目的とした全身検
索法としてDWIBS(Diffusion weighted whole body imaging with background body signal suppression)を発表した 6)。この両者の主目的には、“性状判断
のための拡散画像”と、“拾上げ検索のための拡散
画像”という違いがある。 パラメータ間の trade off で成り立っている MRIの撮像技術からすると、Body DWI と DWIBSの両立は困難な部分も多く、“二兎を追うもの一兎をも
得ず”の例えのごとくなりかねない。また、この 2 つを同じ括りの中で議論しても、現行の装置性能の
中でまとめるのは困難と思われる。そのため、精度
や撮像技術の向上を図るには、この 2 つを分離して考え、夫々の方法論に合った撮像法の組み立
てと目的に応じた使い分けが重要と思われる。
3. Body DWIの原理
3-1 生体の拡散現象
生体の拡散現象は多くの要因を含んでいる。す
なわち、MR 画像をつかさどるプロトン自体の拡散や、細胞密度に依存する分子拡散、熱・温度・粘
性変化に起因する拡散、さらには、 Intra-voxel incoherent motion(IVIM)で知られる灌流の影響やイオン化、組織機能によるプロトンの変異などの
影響を受けることが知られている。 体幹部領域では、比較的にプロトン自体の拡散
が大きいと言われており、画像の著明な信号低下
の要因はそこにあると考えられている。その極めて
低い拡散画像の信号の中でも、夫々に細胞密度
が異なる臓器が淡いコントラストを作っている。この
中で、細胞密度が低い組織にあって、腫瘍細胞に
よる細胞密度の変化が大きく見られた場合に、画
像コントラストとして描出されるものと考えられてい
る。ただし、これらの病変を拾い上げるメカニズム
については未だ謎の部分もあり、詳細の解明には
もう少し時間を要すると思われる。 3-2 癌に見られる細胞変化
正常細胞は、新しい細胞の増殖と不用になった
細胞の除去を繰り返すアポトーシスと言われる機
能を備えている。正常細胞はこの機能により生体
の各々の器官の大きさや機能を常に一定に保っ
ているが、がん細胞にはこの機能を有していない。
そのため、がん細胞は自ら死んでいくことなく増殖
だけを繰り返し、周囲の正常細胞をも次第に圧迫
し、やがて破壊してしまうのである。 このガン細胞に見られる特異的な密度変化を
Body DWIで捉えて、拡散の程度を知れば良悪性の鑑別が可能ではないかとの期待から Body DWIは始められたのである。現在では、Body DWIに反映される変化はガン細胞に特異的とは言えないこ
とが解っており、それを補う評価基準を ADC 値に求めて鑑別に用いる試みが始められている。 3-3 拡散現象と拡散強調画像の違い
生体の拡散現象は前述したような変化により起
るが、拡散強調画像に反映されるものはこれらだ
けではない。拡散を画像に捉えるには、motion probing gradient(MPG)と言われる RFを、リフォーカスパルスの前後に一対の形で加
え、その印加時間内に動く
プロトンの信号をスピードに
応じて低下させて、その動作
の鈍いもののみを画像に反
映させることになる。このスピ
ードコントロールに用いられ
るものを b factor(s/m2)と呼
ぶ。b factorは、MPGの印加時間(Tn)や間隔(Tin)、傾斜磁場強度(Gn)などをコン
トロールして、b=γ2∑〔Gn2 Tn2(2Tn/3+Tin)〕で与えられる。 これによって得られた画像の DWI 信号は、
DWI=kSD×(-TE/T2)×(-b×ADC)で表され、MPG の強さ(b)や拡散程度(ADC)の他に、T2 値にも影響されることが解る。例えば、この式より拡散
強調画像で高信号になる条件を導くと、拡散が鈍
く、なおかつ、T2 値が周囲と同等であれば高信号となるし、さらに T2 値が高ければ、より高信号となる。逆に、拡散自体は周囲と同等でも、T2 値が周囲より高ければ高信号にもなるのである。このよう
なT2値の影響をT2-shinethroughと言い、特に、体幹部の拡散画像には多く見られる現象であるため
に注意が必要である。 3-4 組織の信号変化と ADC値
T2-shinethrough の影響を排除し、生体の拡散現象に近い情報のみを得るためには、MPG 印加前後の変化(傾き)を、見かけ上の拡散係数(ADC値)= log {SI(b0) / SI(bx)} /{(bx)-(b0)}として求
めて指標とすることが出来る。図 1 に、組織毎のMPG を印加しない場合(b=0)の信号強度と MPGを印加した場合(b=1000)の信号強度、およびADC 値の関係を示めす。MPG を印加しない場合(b=0)の信号強度と印加した場合(b=1000)の信号強度に相関は見られず、MPGを印加した時には、各々の組織の持つプロトン自体の拡散や細胞密
度によ る拡散の違い 、 さ らには前述した
T2-shinethroughによってコントラストが生じている。 図 1に示す胆嚢(胆汁)と脾臓のMPGを印加した場合(b=1000)の信号強度はほぼ同程度である
1.5
1.0
0.5
0
500
1000
1500
2000
2500
尿 胆嚢
脳脊髄液
腎盂
前立腺
椎間板
子宮
脾臓
睾丸
白質
膵臓
肝臓
腰筋
椎体
b0b1000ADC
Sign
al in
tens
ityA
DC
( *1
0-3 m
m2/s
ec)
高信号
低信号
高拡散
低拡散
1.5
1.0
0.5
0
500
1000
1500
2000
2500
尿 胆嚢
脳脊髄液
腎盂
前立腺
椎間板
子宮
脾臓
睾丸
白質
膵臓
肝臓
腰筋
椎体
b0b1000ADC
Sign
al in
tens
ityA
DC
( *1
0-3 m
m2/s
ec)
高信号
低信号
高拡散
低拡散
図1:DWIにおける組織信号強度と ADC値
が、ADC 値では明らかな差異が生じている。この差から読み取れるものが、拡散強調画像に含まれ
る T2-shinethrough と言うことができる。 また、体幹部の拡散画像を脳白質の拡散画像と
比較すると、殆どの場合信号強度が低下している
ことから、撮像においては頭部以上の SNR確保が課題となる。 3-5 Body DWIにおける ADC値の信頼性
上述した理由で、T2-shinethrough を知る意味でADC 値を得ることは有用と思われる。また、ADC測定によって良悪性の鑑別を行おうという動向もあ
る。ただし、良悪性の鑑別に関しては賛否両論が
あり、ADCで鑑別が可能であるとの論文もあれば、良悪性間のオーバーラップは多く存在しており、
ADC 計測での完全な鑑別は不可能であるとする論文もある 9)。 現段階では、様々な癌の ADC 測定により知見を蓄積することも必要不可欠なものと思われるが、
ADC 値の信頼性を撮像技術の観点から考えると多くの問題が存在するのが実情である。 体幹部においては、体動(呼吸動・心拍動・腸管
の蠕動)の影響を強く受け、また、形状や消化管ガ
スなどによる磁化率の違いによる影響も受けること
となる。これらの状況の中でMPG印加前後の画像位置精度が保たれるとは言い難いものがある。東
海大の室らは、「拡散現象は Intra-voxel incoherent motion (IVIM)の影響を受けるが、Body DWI での体動の影響は incoherent motionであり、ADCに関与しない」と報告しているが、これは、あくまでも
体動が拡散現象をあまり左右しないことを示唆した
ものであり、ADC値がその影響を受けないという事ではない。また、体動による影響を受けない頭部
DWI にあっても、MPG 印加前後の画像変化や印
加軸による位置ズレの問題点が指摘されており、
拡散テンソルなどの画像解析においては、渦電流
による歪み・位置ズレまでも Affine アルゴリズムによって補正しようという試みがなされている。 体動という大きなハンディキャップがあるなか、
微小病変の ADC値の信頼性を向上させるのは極めて困難と思われ、「・・・かも」「・・・のようだ」の域
から脱しないという見方が大半を占めている現状
である。
4. 臨床における注意点
4-1 Body DWIでの b値設定
複数臓器からなる Body DWIでは、臓器毎に信号強度や拡散の程度が異なる。よって、臨床上の
b 値の最適化は、それぞれの正常組織の信号強度とそこに発生する腫瘍との相対感度にしたがっ
て行われる。一般には、b 値を上げることで病変と正常組織のコントラストが増し、病変の拾上げに効
果的な画像が得られる傾向がある。しかしながら、
もともと SNの確保が難しいなかでの b値の増大は、さらに SN の低下をきたすため、SN を十分に考慮した b値設定が望ましいと考える(図 2)。
b 値設定においては、400s/m2~500s/m2程度で
T2 値の影響が半減され、拡散情報が優位になるため、それ以上の b 値が使われている。それでも様々な要因により、T2-shinethroughが強く見られる場合がある。すなわち、TE などの設定条件によってT2値の関与する程度は異なることとなる。したがって、撮像技術上は目的臓器や隣接組織に関与
が予想される T2-shinethrough の影響を指標として条件の設定と b 値の最適化を図ることが重要である。
最近、Body DWI の応用例として、低 b 値を用いたT2-shinethrough の評価や、拡散よりもマクロな現象であ
る灌流の影響や流れのみを
除外して血管を反転描出す
る試み、あるいは、脈管情報
が病変描出の妨げになるこ
とを防止する技術として用い
られることもある。
b=500
b=750 b=1000
b=250b=0
Matrix 112×90RC +SPIR + (FatSAT)
Scan time 1:10
b=500
b=750 b=1000
b=250b=0
Matrix 112×90RC +SPIR + (FatSAT)
Scan time 1:10
図 2 BodyDWIにおける b値と信号強度変化
4-2 当院での b値設定
現在当院では、撮像面中で最も T2 値の長い組織信号を指標にして、その影響が及ばない b 値を選択している。上腹部(肝膵腎)では胆嚢(胆汁)
および腎盂(尿)を指標とし、また、下腹部では膀
胱(尿)を指標としている。その結果、多くの場合は
b値を 800s/m2~1000s/m2位に設定している。乳房
DWI においては、腫瘍性状を把握するとともに、その波及程度(広がり診断)の判断材料として、b値 250s/m2、500s/m2、750s/㎡、1000s/㎡の 4 種を撮像し、正常乳腺組織の変化と、腫瘍本体の変化、
ならびに、腫瘍周囲組織の変化を検討している
(図 3)。また、前立腺においては正常組織の DWI信号が高く、腫瘍との境界が不明瞭な場合が多い
ことから、正常組織信号をある程度抑えるために b値 2000s/m2 を用いている。但し、この場合は著明
な SNR 低下を補うために十数回の加算平均化処理を施し、撮像時間も 5~7分を要している。 4-3 Body DWIの脂肪抑制法
Body DWIの脂肪抑制には CHESS系の手法とSTIR 法が用いられる。磁化率の違いによる影響を受け易い CHESS系では、その均一性の保持に加え、Body アレイコイルによる高輝度な表在信号と皮下脂肪間に起こる抑制の低下に注意を払う必要
がある。これによって残存した表在脂肪信号は、
Parallel Imagingの際の Cut line artifact として画像中央に現れ易く、診断の妨げになることがある(図
4)。特に、前立腺のような解剖学的位置関係の場合には、この対策が重要となる。また、DWIBSのような投影像による評価を行う場合には、後処理に
労力を要することになる。 STIR法では、磁化率の違いによる影響を受け難く、胸
部などの内外的な空気との
接点が豊富な場所でも均一
な画像が得られるメリットがあ
る。また、DWIBS のような投影像を主目的として得る場
合には簡便で適当な方法と
考えられる。しかし、その代
償として大きな SN の犠牲を払うことになる(図 5)。 肝臓実質の信号を例に挙
げると、STIRでは加算回数を 8倍も多く繰り返えさないとCHESS系と同等なSNを確保することができない。Matrixに換算すれば 71%削減して粗にする必要があるし、Slice厚で言えば 2.8倍も厚くしなければならない。SN 事情の悪い Body DWI では、CHESS 系脂肪抑制が無難な選択肢と思われ、その抑制効果の均一性保持に努力することが肝要
であると考える。 4-4 画像歪みとアーチファクト
シングルショット EPI による拡散強調像では、磁化率アーチファクトによって生じる歪が問題となる。
この歪みは、極めて強い傾斜磁場が与えられる読
b=500 b=750 b=1000b=250b=0
CHESS
STIR
b=500 b=750 b=1000b=250b=0
CHESS
STIR
図 5 脂肪抑制法の違いとb値による信号強度変化
b-1000b-1000
図 4 様々なアーチファクト
b-0 b-250 b-500
b-750 b-1000 ADC imege
b-0 b-250 b-500
b-750 b-1000 ADC imege
図3 乳房DWIの b値変化(悪性腫瘍)
み出し方向への影響は少なく、その読み出し傾斜
磁場を連続反転させて行うデータ収集の時間と、
位相エンコード傾斜磁場の強さに比例して、位相
エンコード方向に発生する。このため、収集プロフ
ァイル数の削減や、サンプリング時間(BW)の短縮などによって、歪み軽減策を講じる必要がある。
Parallel ImagingやRectangular FOVのようなスキッププロファイル収集法は歪み対策には効果的であ
る。他にReduced acquisitionと言われる、高い周波数成分側を 0 で補填して収集プロファイル数を削減する方法(128×128を128×64にする等)があるが、この場合には、実プロファイル収集に与えられ
る位相エンコード傾斜磁場量が 1/2 となるため、歪みの改善には寄与しない。抜本的解決法として、
位相エンコーディングを行わずに k 空間トラジェクトリを回転充填していく Propeller 法等の Radial Scan の応用が盛んに行われているが、SN や新たなアーチファクト等の諸問題を抱えており、その実
用化にはもうしばらく時間を要するであろう。 歪みと同様な収集過程によって、位相エンコー
ド方向に発生する Chemical shift artifact も Body DWI の問題点となる。この改善策も、“歪み”に準ずるが、直接的に位相エンコード傾斜磁場の強さ
をコントロールできないため、その改善には限度が
あり、現行のシステムパフォーマンスにおいては、
10mm~50mm程の脂肪のずれが生じる(図 4)。また、この対策として脂肪抑制は不可欠なものとなる
が、4‐3 で述べたような問題により、未だ課題が残るところである。 他に見られるアーチファクトとしてN/2アーチファクトが挙げられる。N/2 アーチファクトは位相エンコード傾斜磁場が弱いことに加えて、局所磁場の僅
かなズレや読み出しタイミングのズレなどに起因す
るものであるが、最近ではシステムパフォーマンス
の向上によってこの影響は少なくなっている。 Parallel Imagingに起因するアーチファクトと N/2
アーチファクトは、その特徴上、同部位に重なるよ
うに発生することがある。また、Chemical shift も相当量みられることから、画像上のアーチファクトがこ
れらのどれに該当するのかを判断し、的確にその
改善策を講じることが画質改善に必要となる。 4-5 体動の影響と描出能
前述のよ うに、 「拡散現象は Intra-voxel
incoherent motion ( IVIM)の影響を受けるが、Body DWIでの体動の影響は incoherent motionであり、ADC に関与しない」との報告の通り、実際に体動抑制を施さずに拡散現象を捉えることが十分
可能であることは臨床例で多数経験している。しか
し、通常の MRI と同様に、ボケや、数ミリ単位の病変の欠落には留意する必要がある。
Shingle-shot EPI系では、数十ms単位の撮像でもあり、画像面内に直接的な体動の影響を見ること
は少ないが、SN確保のための加算平均化処理(この場合はコンポジット処理)と、Z 軸方向の位置ずれは、呼吸同期を加えたものと比べて著明に異な
ることになる。また、DWIBS のような投影処理を加えると、体動に起因するゼブラアーチファクトと言
われるスライスずれが見られることもある。 ADC 測定も踏まえた性状判断のための Body
DWI では、なんらかの呼吸抑制措置を講じることは必須であり、また、拾上げ検索のための DWIBSにおいても、その精度向上には重要な課題と考え
る。
5. Body DWIとDWIBSの違い
前述のように、Body DWI の精度向上には幾つかの高いハードルがあり、それを超えなければなら
ない。その先に望まれるものは、通常のコントラスト
画像と同様に、正確な解剖学的情報および病変
情報の取得とその診断精度にある。これらの実現
には、現状では“時間”との trade-offが不可欠であり、呼吸の同期やMulti-shot化、あるいは、数十回にわたる加算平均化処理を施すなどの工夫を要
する。DWIBS をこの延長上の手法と考えてしまうと、この工夫を全身に施す必要があり、多くの時間
を費やすことになる。しかし、実際の DWIBS がこのような high performance で advanced な技術かと言うとそうではない。DWIBS はあくまでも全身検索・病変の拾い出しに特化して用いるものと考える
のが妥当である。そのために、あえて SN よりも画像均一性を求めた脂肪抑制法(STIR)を用い、広範囲を簡便に観察できるよう投影像として表現する
手法を用いている 6)。また、時間と体動影響を
trade-off して、無呼吸抑制下で行われている 7)。 これらの方法論からも分かるように、DWIBS では、通常のBody DWIに求められている鑑別精度を代
償に、ある意味、“広さと速さ”を求めていると言え
る。その結果として、ADC 値の評価や脂肪抑制のあり方・考え方に相違が生じるのである。
6. Body DWIの臨床
6-1 乳房
乳房 DWIでは、高 b値により背景となる正常乳腺信号の抑制が可能で、腫瘍の拾い上げに貢献
している。しかし、乳房形状による脂肪抑制の不均
一とそれによる Chemical shift artifact の影響を受けやすく、その対策が必要となる。正常乳腺と悪性
腫瘍の信号格差はb値=250s/m2~500s/m2程度で
確立し、それ以降は、ほぼ一定量で信号が減少す
る(図 3)。しかし、腫瘍本体周囲の特定乳腺(炎症等に見られる変化)はその限りではなく、b 値=750s/m2~1000s/m2 程度までは、周辺組織に対
する腫瘍のCNRは上昇する。そのため、悪性腫瘍のみの拾い上げには高い b値が適当と思われ、また、周囲への広がりを判断したい場合には
中程度の b値も効果的と考えられる。 6-2 肺・縦隔
肺や縦隔では、肺動静脈や心拍動の影
響、また、磁化率の違いによる影響を強く
受け、拡散強調の効果は望めないものと言
われてきたが、最近では、これを覆す発表
がある。肺動脈・心臓の影響を受ける縦隔
近傍であっても、非呼吸同期、非心拍同期
下で有用であったケースの報告があり、期
待が持たれている(図 6)。また、空気との磁化率の違いによる影響が懸念される肺癌な
どの描出も可能と報告されている。大原総
合病院の森谷らは、胸部 37病変中 89%の描出が可能であり、その内、癌・悪性腫瘍
病変群のみでは 96%の描出能があったと好成績の報告もある 9)。 6-3 肝臓
肝臓においては、細胞密度の高い
転移性肝腫瘍の描出効果は高く、数
mm のものでさえ的確に捉えることが可能と思われる。肝細胞癌(図 7)においては、高分化ほど描出信号は低いと
言われているように 1)、その描出は様々である。前
情報として肝細胞癌の存在が解っていれば、見逃
しは少ないと思われるが、“拾い出し検索”となると
課題が残る部分と言うことができる。良性病変であ
る血管腫は、大きさにも依存すると思われるが、殆
どの場合で高信号に描出される。これは、T2 強調画像における描出形態からも想像がつく通り、
T2-shinethroughの影響が極めて大きいためと言われている。ADC 値を測定すると、b 値に対する信号強度の変化が大きいことが分かる。今後システ
ムパフォーマンスが向上して、短い TEで高い b値が設定できる環境が整えば、描出形態が変わるこ
とが予想される。肝臓の良性病変としては嚢胞も挙
げられるが、自由水に近いプロトンで構成される嚢
胞は、DWIでは描出されない(b=500s/m2 ~)。 6-4 前立腺・膀胱
前立腺 DWI は、ADC マップによる判断が不可欠と言われた時期もあったが、b 値を上げることに
DWI 4:55 (STIR) DWI 4:55 (STIR)
図 6 縦隔リンパ節転移(ホジキン病)
DWICT (early phase) b-1000DWICT (early phase) b-1000
図7 肝細胞癌 (呼吸同期)
より正常の前立腺組織の信号を抑制可能で、視覚
的に前立腺癌部分を描出しやすくなるとの印象が
ある。実際に、b 値による信号変化を比較すると、b=750s/m2 程度で変化傾向は穏やかなものになり、
それ以降も少しずつではあるが CNR の上昇を見ることができる。熊本中央病院の片平は、前立腺
癌の ADC値の平均は 0.99×10-3mm2/secであり、非癌部は 2.12×10-3mm2/secと発表している(図 8)。また、通常、診断の難しかった内腺癌やホルモン
療法後の経過観察においても拡散強調画像から
有用な情報を得ることが可能であると述べている。 膀胱腫瘍に対するMRIの有用性は深達度の診断が主であるが、しばしば存在診断や質的な診断
に難渋することも多い現状である。Body DWIはこれらを補うに十分な描出能を持っているといわれ、
分解能の向上等によっては、更に期待が持てると
思われる(図 9)。
7. DWIBSの臨床
7-1 DWIBSの実際
当院では、臨床研究の一つとして院内倫理委員
会を通し、血液疾患患者(悪性リンパ腫)の全身検
索を試みている。悪性リンパ腫は、良性あるいは転
移リンパ節よりADC値が低く、短径10mm以下のリンパ節も描出が可能であり、高い sensitivityを有すると思われる。しかし、悪性リンパ腫の評価に重要
な扁桃、脾、赤色髄は常に高信号の傾向にあり、
特に骨髄浸潤の評価には課題が残っている(図
10)。 7-2 投影像から学んだ撮像技術
DWIBSの投影像として表現する方法は、これからの Body DWI のあり方のなかで、様々な議論の的になると思われるが、この手法によって学んだこ
ともある。それは、拡散強調像で生じる歪は、極め
て強い傾斜磁場が与えられる読み出し方向への
影響は少なく、位相エンコード側に方向性を持っ
た形で生じることである。前述
のとおり、理論的には当然のこ
とであるが、実際に DWIBS の投影像を見て、このことを改め
て実感した人は多いのではな
いだろうか。これを逆手にとっ
てDWIBSというものを語れば、DWIBS投影は、歪みを無視できる技術であるとも言うことがで
きる。位相エンコード方向を変
えてさえ収集すれば、全く歪み
対策を施さずにも、歪みのない
投影像を得ることができ、装置
RI(67Ga)DWIBS RI(67Ga)DWIBS
図 10 DWIBS と腫瘍シンチの比較(ML)
b-1000 b-2000
Invert image
b-1000 b-2000
Invert image
図8 前立腺癌 (片平先生提供)
4:55 (STIR)
b-1500
4:55 (STIR)
b-1500
4:55 (STIR)
b-1500
図9 膀胱腫瘍
パフォーマンスに依存しないで行
うことも可能である(図 11)。このことは、将来の高分解能化にも繋が
るし、歪み補正にも役立てること
が可能と思われ、一手段として今
後の発展に期待が出来ると考え
ている。
8. まとめ
現行での Body DWI は、技術的課題も多く、発展途上の段階にあるが、癌を含めた病変部を高い
感度で描出する能力を持つことが次第に解ってき
た。おそらく、撮像を経験したほとんどの方々が、
なんらかの前向きな感触を得たに違いない。現在
の MRI で、病変検索能が高いと言われる脂肪抑制併用 T2 強調画像と比べても、格段に腫瘍性病変の拾い上げ能力に優れているという意見も聞か
れるほどである。 また、この延長上にはDWIBSのような全身検索法も控えている。SN 対策や呼吸対策などの今後
の展開によっては、十分に病変部の拾い上げの手
段としての効果が期待でき、検診的な役目を担う
可能性も大きいものと考えられる。今後の発展に
期待するのは勿論であるが、Body DWI と DWIBSの方向性をより明確化して、各々に進化してくこと
を期待している。
謝辞
本稿は平成 17年 8月 27日に行われた宮城 MR技術研究会での講演内容を基にしている。講演の場を与えてくださった宮城 MR 技術研究会の世話人の皆様と、講演に際して貴重な資料をお貸し下さった熊本中央病院の片平和博先生、国立がんセンター東病院の那須克宏先生、当センターの田村亮先生、そして、ご意見を賜った東海大学の高原先生、室氏に感謝いたします。 最後に、快く本稿の監修ならびに編集・校正を引き受けてくださった東北労災病院の引地健生氏に深謝いたします。
参考文献
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7) 室伊三男 : Diffusion における intravoxel coherent と incoherent(IVIM)について. (日放技学会発表, 2005.4.10).
8) Takahara T, Yamashita T, et al. : Imaging of peripheral nerve disease pathology using diffusion weighted neurography (DWN).
9) Obara M, Yamada M, Takahara T, et al. : Special feature of DWI. Japanese journal of diagnostic imaging, 25(6), (2005).
Phase encored A-P Phase encored R-L
ANT LAT ANT LAT
Phase encored A-P Phase encored R-L
ANT LAT ANT LAT
図 11 位相方向と画像の歪み(内蔵 Bodyコイル使用)