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~ 27 ~ 平成23年度種苗発生状況等調査事業実施報告書 A31 調 A 種苗発生状況緊急調査(1)調査 (ⅰ)母貝生息状況調査 担当者名 宮城県漁業協同組合 善之、菅原 潤(経済事業部) 佐々木良( 水産総合研究センター 桑田 博(東北区水産研究所資源生産部) 協力機関名 宮城県水産技術総合センター 1.調査目的 鮫浦湾は宮城県牡鹿半島東岸にあり、湾口幅約 1.3km、奥行き約 3.5km のリアス式海岸であ る。湾内では養殖漁業が盛んで、ホヤ、ホタテ、カキ、ワカメなどが養殖されている。特に、 ホヤの養殖量が多く全国生産の約 1/3 となる 3,0004,000 トン/年を水揚げしていた他、種苗 生産地として県内外へ養殖種苗を供給してきた。 今回の東日本大震災の大津波により湾内養殖施設は全て流失したことから、これまで母貝と して機能してきた養殖ホヤも全滅した。しかし、津波後間もない 2011 6 月の被害調査にお いて湾口泊地先海底で天然ホヤの分布を視認し、その後も断片的であるが他の潜水調査を通 じ天然ホヤの分布が県内各地で確認されている。 鮫浦湾内で従来から行われてきたホヤの天然採苗は養殖と天然ホヤ両群の産卵母貝でまかな われてきたが、今回の養殖ホヤの滅失により産卵母貝は天然ホヤのみとなり、今シーズンの 産卵量の減少は間違いない状況にある。 湾内の天然ホヤは断片的に確認されているものの、今回の大津波に伴う海底面の変容でその 分布も相当のダメージを受けていることが想定される。そこで天然ホヤの残存状況を把握し 今シーズンの母貝量すなわち産卵量を推定することは今後のホヤ天然採苗ならびに養殖事業 を復興させていく第一歩となる。 2.調査内容 鮫浦湾では宮城県漁業協同組合所属の寄磯、前網、鮫浦、谷川、泊の 5 支所がホヤ養殖を行っ ており、各地区には天然ホヤの生息する岩礁海底が発達している。天然ホヤの分布状況を明らか にするため、各地区海底の立地を代表する地先をそれぞれ選定し、潜水調査を実施する。 1 寄磯 2 前網 3 鮫浦 4 谷川 5 泊 1 km 鮫浦湾内の潜水調査実施地域の位置図 (湾奥は砂地、湾口は岩礁帯が優占)

A31...A31 調 査 名 A 種苗発生状況緊急調査(1)調査 課 題 名 ③ ホ ヤ (ⅰ)母貝生息状況調査 機 関 名 担当者名 宮城県漁業協同組合 渋

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  • ~ 27 ~

    平成23年度種苗発生状況等調査事業実施報告書

    A31 調 査 名 A 種苗発生状況緊急調査(1)調査

    課 題 名 ③ ホ ヤ (ⅰ)母貝生息状況調査

    機 関 名

    担当者名

    宮城県漁業協同組合 渋 善之、菅原 潤(経済事業部)

    佐々木良( 同 ) 水産総合研究センター 桑田 博(東北区水産研究所資源生産部)

    協力機関名 宮城県水産技術総合センター

    1. 調査目的

    ・ 鮫浦湾は宮城県牡鹿半島東岸にあり、湾口幅約 1.3km、奥行き約 3.5km のリアス式海岸である。湾内では養殖漁業が盛んで、ホヤ、ホタテ、カキ、ワカメなどが養殖されている。特に、

    ホヤの養殖量が多く全国生産の約 1/3 となる 3,000~4,000 トン/年を水揚げしていた他、種苗生産地として県内外へ養殖種苗を供給してきた。

    ・ 今回の東日本大震災の大津波により湾内養殖施設は全て流失したことから、これまで母貝と

    して機能してきた養殖ホヤも全滅した。しかし、津波後間もない 2011 年 6 月の被害調査において湾口泊地先海底で天然ホヤの分布を視認し、その後も断片的であるが他の潜水調査を通

    じ天然ホヤの分布が県内各地で確認されている。 ・ 鮫浦湾内で従来から行われてきたホヤの天然採苗は養殖と天然ホヤ両群の産卵母貝でまかな

    われてきたが、今回の養殖ホヤの滅失により産卵母貝は天然ホヤのみとなり、今シーズンの

    産卵量の減少は間違いない状況にある。 ・ 湾内の天然ホヤは断片的に確認されているものの、今回の大津波に伴う海底面の変容でその

    分布も相当のダメージを受けていることが想定される。そこで天然ホヤの残存状況を把握し

    今シーズンの母貝量すなわち産卵量を推定することは今後のホヤ天然採苗ならびに養殖事業

    を復興させていく第一歩となる。

    2.調査内容

    鮫浦湾では宮城県漁業協同組合所属の寄磯、前網、鮫浦、谷川、泊の 5支所がホヤ養殖を行っ

    ており、各地区には天然ホヤの生息する岩礁海底が発達している。天然ホヤの分布状況を明らか

    にするため、各地区海底の立地を代表する地先をそれぞれ選定し、潜水調査を実施する。

    1 寄磯

    2 前網

    3 鮫浦

    4 谷川

    5 泊

    1 km

    鮫浦湾内の潜水調査実施地域の位置図 (湾奥は砂地、湾口は岩礁帯が優占)

  • ~ 28 ~

    3.調査方法 (1)母貝分布調査

    ・ 天然ホヤの分布調査を実施する地点は各地区 2ラインの計 10ラインとする。潜水調査はライ

    ントランセクト法として岸から沖方向に 50~100mのロープを延ばし、それぞれ幅 5m、長さ

    5~10mセル内に出現する天然ホヤの個体数を計数した。

    ・ 天然ホヤの計数とあわせてライン上の水深、底質など生息環境を記録した。天然ホヤの分布

    量は水深、底質、内湾・外海など立地類型別の平均密度を算出し、地元からの聞き取り結果

    を元に試算する漁場面積で階層化し推定した。

    ・ 各地区における天然ホヤの分布状況を水中撮影(カメラ、ビデオ)により記録化し、ホヤ生

    産者ほか関係機関への説明資料とした。また、ホヤの産卵は昼前一斉に行われることから、

    可能であれば産卵状況を撮影し漁業後継者の育成や一般広報用に資する。

    (2)母貝測定調査

    ・ ここ数年間の産卵母貝は天然ホヤ集団に依存せざるを得ないことから、今後の産卵母貝への

    加入群がどの程度か天然個体群の年齢構成を調査した。なお、ホヤの年齢形質が不明なこと

    から個体重量で代替する。

    ・ 天然ホヤの産卵量は個体重量ごとの抱卵量を測定し、上記の母貝分布調査で得られたデータ

    を用いて試算した。

    4.結果と考察 (1)母貝分布調査 ① 成体ホヤの分布状況と現存量の試算

    各地先における100m長のライン・トランセクト(5m幅×10m長)で得られた水深、底質、分布個体数データを一覧表に整理した(表1)。調査ライン数は湾奥3、湾中間域26、湾口~外海域14、その他後述する当歳・成体ホヤの湾内12の計55ラインである。また、湾奥3ラインの岸近くは岩礁帯であるが間もなく砂泥優占の底質に移行し、成体ホヤの分布は稀少であることからここ

    ではデータ表示を割愛した。なお、12月22日この湾奥谷川地区ライン調査時にこれまで見落としていた1cm未満の当歳ホヤが確認されたことからその後別途に調査ラインを設けた(表2)。

    表1 鮫浦湾周辺における成体ホヤの分布状況(5m幅×10m長/地点)

    地名 距離 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 合計

    寄磯大根 水深 6.8 7.1 9.1 10.5 10.0 9.0 10.7 9.7 9.2 11.0

    A 70 80 60 20 40 120 60 90 200 50 790

    B 20 50 40 30 200 150 100 200 400 300 1 ,490

    丸島埼 水深 5.1 4.5 5.7 9.6 9.8 9.9 12.0 13.5 14.3 15.0

    A 20 10 5 0 10 80 70 150 50 50 445

    B 5 2 3 2 5 50 120 110 60 40 397

    C 30 10 0 0 0 0 0 0 10 20 70

    D 0 0 0 0 20 100 150 200 50 10 530

    シビ浜 水深 3.3 4.1 4.4 4.9 5.8 6.2 6.8 7.6 9.0 10.3

    A 0 0 0 3 5 5 15 10 5 15 58

    B 0 0 0 3 20 15 30 10 5 5 88

    千鳥島 水深 5.0 6.2 9.5 6.3 8.5 13.0 13.0 14.0 14.0 14.0

    A 0 0 0 50 100 50 0 0 0 0 200

    B 0 5 0 60 150 60 0 0 0 0 275

    C 10 0 20 45 150 30 40 100 30 0 425

    D 5 0 20 50 100 10 10 20 30 5 250

    大根崎 水深 5.5 6.4 7.5 8.5 5.6 2.5 3.0 4.0 7.8 11.2

    A 20 0 5 10 40 40 20 10 20 10 175

    B 10 0 0 5 50 20 5 5 20 5 120

    C 10 0 20 5 5 5 15 15 10 0 85

    D 10 5 45 25 15 5 15 10 10 5 145

    1寄磯

    1寄磯

    1寄磯

    2前網

    2前網

  • ~ 29 ~

    地名 距離 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 合計

    松下 水深 7.5 7.6 8.0 11.0 13.5 15.0 16.0 17.0 18.0 19.0

    A 1 1 30 40 0 0 0 0 0 0 72

    B 0 10 70 30 0 0 0 0 0 0 110

    C 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 2

    D 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

    オサ崎 水深 5.8 6.0 7.0 7.2 7.6 7.6 7.9 6.8 8.6 9.0

    A 0 6 20 10 20 16 0 5 5 5 87

    B 1 4 7 12 20 6 5 10 5 6 76

    C 1 5 20 20 15 10 5 5 20 5 106

    D 0 5 5 10 15 15 20 10 20 0 100

    三洞 水深 6.0 7.3 7.9 8.5 9.6 11.6 15.0 15.0 16.0 16.5

    A 5 5 0 5 0 0 20 40 0 0 75

    B 5 5 20 30 1 0 2 5 0 0 68

    C 20 25 30 5 20 5 30 1 0 0 136

    D 5 0 50 100 150 200 200 150 150 15 1 ,020

    サキカマ 水深 6.1 6.8 8.1 8.5 9.0 9.5 11.2 9.3 6.5 8.1

    A 0 0 0 10 20 10 0 10 20 10 80

    B 0 10 20 10 10 30 20 10 10 20 140

    C 15 25 40 15 20 5 5 5 25 50 205

    D 10 25 5 50 30 50 50 10 20 15 265

    イチゴ浜 水深 7.2 2.8 8.0 10.5 11.5 11.2 9.5 12.5 13.5 6.0

    A 10 5 50 40 60 30 100 80 10 10 395

    B 10 30 30 60 90 50 90 70 30 20 480

    C 5 10 20 25 20 15 0 130 0 0 225

    D 30 5 20 10 50 40 30 50 1 0 236

    モミの木 水深 7.5 8.4 10.5 11.2 11.8 13.4 14.3 16.5 17.6 19.2

    A 0 0 0 0 5 0 23 10 0 0 38

    B 0 0 10 15 8 5 18 5 0 0 61

    C 0 30 3 0 20 3 0 20 0 0 76

    D 0 5 0 0 0 5 0 1 3 0 14

    平均値 8 9 17 20 37 31 32 34 30 17 24

    4谷川

    5 泊

    5 泊

    3鮫浦

    3鮫浦

    4谷川

    成体ホヤの分布量を推定するにあたり、海岸線長は湾北側のオサ崎~丸山崎3km、丸山崎~大根2km、湾南側の三洞~サキカマ2km、サキカマ~モミの木3kmとし、延べで湾内域5km、湾外域5kmとした。そして、ホヤの主分布域を距岸範囲100mとすると分布面積は湾内域、湾外域ともに50万㎡で計100万㎡と推定された。 分布個体数について、湾内域26ラインの平均密度は1ライン(500㎡)当たり168個体であることから分布面積50万㎡を乗じると168,000個体、同様に湾外域14ラインの平均密度は1ライン当たり375個体であることから375,000個体の合計543,000個体と推定された。 分布重量について、今回調査で得たホヤの体重組成(後述)から天然ホヤの平均体重を200gとすると、湾内域34トン、湾外域75トンの合計109トンと推定された。 天然ホヤの分布量推定はその密度計算方法、海岸線長、距岸範囲等で変動することからさらに

    検討の余地はあるが、往時の養殖生産量3,000~4,000トンに比し一桁下がった量といえる。

    表2 当歳ホヤの分布状況((2.5m幅×2m長/地点)) 距離(m) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

    水深(m) 4.0 4.7 4.9 5.6 6.2 7.1 8.1 8.9 10.0 10.7 11.9 12.5 12.5

    当歳ホヤ 2 2 1 18 42 28 85 80 58 10 20 30

    成体ホヤ 6 15 23 25 23 60 26 47 29 3 7 9

    距離(m) 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

    水深(m) 12.3 12.8 13.3 13.6 13.6 13.7 13.4 13.5 13.9 14.3 14.3 14.8 15.3

    当歳ホヤ 73 90 15 25 3 50 130 85 85 33 65 75 85

    成体ホヤ 15 4 5 13 3 10 26 8 9 3 5 3 2

    千鳥島2前網

  • ~ 30 ~

    距離(m) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

    水深(m) 10.0 9.5 8.4 6.7 5.2 5.4 7.4 8.4 9.3 9.8 10.7 9.9 9.8

    当歳ホヤ 2 25 15 45 38 35 50 75 50 3 1 4

    成体ホヤ 4 10 20 28 30 18 20 25 41 2 2 7

    距離(m) 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

    水深(m) 9.0 8.3 8.4 7.8 8.8 10.5 9.9 9.4 8.5 8.2 8.0 7.2 6.8

    当歳ホヤ 2 8 5 12 3 0 0 8 3 0 0 0 0

    成体ホヤ 5 28 19 42 16 0 2 16 2 2 1 0 0

    距離(m) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

    水深(m) 4.9 5.6 5.5 5.1 4.6 4.4 4.7 5.5 5.3 5.7 5.5 5.8 6.0

    当歳ホヤ 0 5 3 0 0 0 0 0 3 1 0 3

    成体ホヤ 5 3 13 0 10 2 3 2 7 4 8 6

    距離(m) 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

    水深(m) 6.0 5.8 5.8 4.9 5.0 4.2 3.5 3.6 4.3 4.5 4.8 4.9 6.0

    当歳ホヤ 4 0 25 15 10 0 20 15 18 0 0 0 15

    成体ホヤ 11 6 10 9 6 7 10 11 20 7 2 2 1

    三洞4谷川

    サキカマ4谷川

    0

    5

    10

    15

    20

    0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

    0

    50

    100

    150

    0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

    ホヤ(当歳)

    ホヤ(成体)

    0

    5

    10

    15

    0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

    0

    50

    100

    0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

    ホヤ(当歳)

    ホヤ(成体)

    図1 当歳ホヤ、成体ホヤの5㎡当たり分布状況と調査海底のプロフィール

    海底水深(m)

    海底水深(m)

    前網地区の千鳥島

    谷川地区の三洞

    沖 側 岸 側

    外海側 湾内側

  • ~ 31 ~

    ② 当歳ホヤの分布状況 湾口に位置する千鳥島、サキカマならびに湾内の三洞における当歳ホヤの分布水深は地先によ

    って異なるが、概ね5~15mに認められた(表2)。調査した中で最も分布密度が高かったのは湾口の千鳥島であったが、湾奥~湾内の多くの場所で当歳群は確認された。一方、外海に位置する

    寄磯大根や泊地先ではこれまでのところ当歳群は確認されていない。すなわち外海では成体ホヤ

    の分布量が多いにもかかわらず当歳群は認められず、湾内では成体ホヤの分布量は小さいが当歳

    群の加入量が多かったことになり、稚仔の発生と湾内環境の関係は今後の課題である。 (2)母貝測定調査 成体ホヤの分布調査時に測定した体重組成を集計したところ(図2)、いくつかのモードが表れた。第1群は体重20gほどに形成され、当初このモードを1齢群としたが、その後体長1cm前後の当歳群が各地区で確認され、その体重組成から1齢群の平均体重は約0.4gと推定した(図4)。したがって、図2の第1群は2齢群に相当すると考えられ、順次3~5齢群が定められた。 ホヤの体重-抱卵数の関係は以前養殖ホヤで測定されており(図3)、現在の天然ホヤの平均体重を約200gとするとその抱卵数は34万粒となる。前述した成体ホヤの現存量にこの抱卵量を乗じると、湾内域で570億粒、湾外域で1,275億粒の計1,845億粒と推定された。

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    160

    0 40 80 120

    160

    200

    240

    280

    320

    360

    400

    440

    480

    N:1,005

    ⅢⅣ

    養殖ホヤ2年コの体重: 64g (受精後24ヶ月)3年コの体重:197g

    天然ホヤ1年コの体重:  1g (受精後12ヶ月)2年コの体重: 20g3年コの体重:120g4年コの体重:200g5年コの体重:320g

    図2 成体ホヤ分布調査における天然群の体重組成

    図3 養殖ホヤの体重-抱卵数の関係

    y = 0.0008x2.036

    R2 = 0.886

    0

    50

    100

    150

    0 100 200 300 400 500

    全 重 (g)

    卵 数

    (万

    粒)

    4歳ホヤ

    3歳ホヤ

    2歳ホヤ 0

    10

    20

    30

    40

    0.1 0.3 0.5 0.7 0.9 1.1 1.3 1.5 1.7 1.9

    体重(g)

    N:180平均:0.42g前網千鳥島2012年1月27日

    図4 当歳ホヤの体重組成

  • ~ 32 ~

    5.成果の概要 ・ 三陸沿岸域における天然ホヤの分布生態に関する調査事例はこれまで皆無であったことから、今

    後の天然ホヤの動態を検討する上での基礎的知見が得られた。

    ・ 鮫浦湾内に生息する天然ホヤの分布量すなわち母貝量を推定することにより、今シーズンの

    産卵母貝量と従来の養殖親ホヤを主体とした産卵母貝量との具体的な比較が可能となった。

    ・ 種苗発生状況調査における浮遊幼生の出現データと照合することにより、天然ホヤ分布量(産

    卵母貝量)と幼生付着量(採苗量)との量的関係について検討が可能となった。

    6.成果の利活用

    調査結果は普及速報として宮城県漁業共同組合の鮫浦湾内の支所、ホヤ養殖関係者に情報提供

    する。ホヤ養殖および採苗関係者はこの結果と海洋環境状況調査と種苗発生状況調査結果を合わ

    せることによりホヤ天然採苗を効率化に実施することが可能となる。

    7.委託業務

    なし

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    大地震、大津波で転石などが崩落・撹乱された海底の状況 ホヤ調査海底のライン

    外海岩礁の成体ホヤ ホヤの分布は一定水深の礁根側面や下部に多く認められる

    成体ホヤと当歳ホヤの混在 当歳ホヤの分布状況(支持棒先端部の大きさは7×15mm)

    写真:鮫浦湾調査地区における海底地形ならびに成体・当歳ホヤの分布状況など

  • 平成23年度種苗発生状況等調査事業実施報告書

    A32 調 査 名 A 種苗発生状況緊急調査(1)調査

    課 題 名 ③ホヤ(ⅱ)海域環境情報調査

    機 関 名

    担当者名

    (独)水産総合研究センター東北区水産研究所

    伊藤進一(資源海洋部海洋動態グループ グループ長) 筧 茂穂(資源海洋部海洋動態グループ 主任研究員) 和川 拓(資源海洋部海洋動態グループ 任期付研究員) 桑田 博(資源生産部部長) 栗田 豊(資源生産部 沿岸資源グループ グループ長)」 村岡大祐(資源生産部 沿岸資源グループ 主任研究員) 朝日航洋株式会社

    渡部敏昭(東京空情支社計測コンサルタント部解析・編集G リーダー)

    白井慎太郎(東北空情支社仙台支店 営業事務担当)

    協力機関名 宮城県水産技術総合センター

    1. 調査目的

    ホヤの養殖業は宮城県において基幹となる重要な漁業の一つであり、当該地域の水産業の復興

    には、ホヤの養殖業の一日も早い復興・再生が急務である。東北地方太平洋沖地震に伴う津波に

    よって、親ホヤの分布状況が変化し、また沿岸域の漁場環境も一変した。このため、従来までの

    経験に基づいた採苗時期・場所では種苗を確保できない恐れがある。被災地域における今後の効

    率的・安定的な養殖生産を確立するために、津波後の新たな海域環境下における好適採苗場所を

    特定する必要がある。本課題では、ホヤ幼生の採苗が盛んな鮫浦湾を対象に、海流構造を調査し、

    好適採苗場所を推定する。また、鮫浦湾では地盤沈下の影響により陸上から海面への泥水の流出

    が継続しており、ホヤの親と幼生への影響が懸念されるため、濁度の変化を調べる必要がある。

    さらに、ホヤの成熟と産卵に重要な水温情報と、幼生輸送方向を判断するのに重要な海流情報を

    リアルタイムで漁業者に提供するシステムを構築し、効率的・安定的な養殖生産を支援すること

    を目的とする。 2.調査内容

    (1)宮城県のホヤ採苗が盛んであった鮫浦湾では、宮城県漁業協同組合谷川・鮫浦・前網・寄

    磯の 4 支所が津波によって大きな被害にもかかわらず、ホヤの採苗に向けた準備を進めている。親ホヤの分布も一変していることが予想されるため、鮫浦湾内の面的な循環を把握し、採苗最適

    場所を推定する必要がある。鮫浦湾内でのホヤ幼生の輸送パターンを把握するため、海洋短波レ

    ーダーを用いて鮫浦湾内の表層流の連続観測を 2 週間程度実施する。海洋短波レーダーによって得られる約 500 m 格子間隔の面的な表層流速場が潮時によってどのように変化するかを把握し、鮫浦湾内でのホヤ幼生輸送経路を推定する。 (2)ホヤ養殖が甚大な被害を受けた南三陸町歌津付近に、テレメーター式の水温・海流ブイを

    設置し、リアルタイムで水温・海流情報を監視できる体制を整える。また、これらのデータを、

    インターネット・携帯アプリケーションを通じて配信できるシステムを構築する。 (3)ホヤ採苗の中心地である鮫浦湾では、A33 課題で宮城県漁業協同組合が担当して種苗発生

    状況調査のためプランクトンネットの曳網調査を実施する。その際には、採集地点の水深別の海

    洋環境を把握して、幼生採集状況と環境との比較検討を行う。

     ~ 33 ~ 

  • (4)ホヤ採苗の中心地である鮫浦湾は、地盤沈下の影響と思われる陸上からの泥水の流出が続

    いている。泥水は、懸濁物食者であるホヤの親と幼生に、摂餌不良等の影響を与える可能性があ

    る。そこで、連続測定が可能な小型メモリ濁度計を幼生採苗の盛んな谷川地先の4水深に垂下し、

    水深別の濁度変化を測定する。 図1.調査対象海域。

    3.調査方法

    (1)海洋短波レーダーによる鮫浦湾表層流調査 海洋短波レーダーの設置位置を決定するため、鮫浦湾周辺を踏査し、宮城県漁業協同組合谷

    川・鮫浦・前網・寄磯の 4 支所および宮城県水産技術総合センターと協議し設置場所を最終決定した(図2)。なお、鮫浦湾においては湾幅が狭いために、短波の干渉によって良質な

    データが取得できない場合も想定されるため、踏査時に短波送受信試験を行い、調査対象海

    域の変更も含め事前検討を入念に行った。 42MHz帯のVHF短波レーダーは、鮫浦湾を囲むように2局設置し(付図1)、アンテナから海面に短波帯の電波を照射し、海面の波浪による後方散乱波を受信して周波数解析することに

    より流向・流速を観測した。また、観測は15昼夜連続観測を実施し、観測結果から対象海域でのホヤ幼生輸送経路を推定した。

    (2)水温・海流ブイによる南三陸町周辺海域リアルタイム海洋環境モニタリング

    水温・海流ブイを設置する場所を決めるため、志津川湾周辺を踏査し、宮城県漁業協同組合

    歌津支所および宮城県水産技術総合センター気仙沼水産試験場と協議の上決定する。 テレメーター式の水温・海流ブイを購入・設置し、リアルタイムで水温・海流情報を監視で

    きる体制を整える。 これらのデータを陸上サーバーで自動受信し、データベース化するとともに、インターネッ

    ト上でデータを表示、図化できるようなシステムを構築する。また、漁業者がより使用し易

    くするため、携帯電話からも情報を閲覧できるようなシステムを構築する。 (3)種苗発生状況調査時の採集定点の環境観測

    A33課題で宮城県漁業協同組合が担当して実施する種苗発生状況調査でのプランクトンネッ

    トの曳網調査時に、同一定点で水深別の環境観測を実施する。直読式総合水質計の納品後に

    、水深別の水温、塩分、クロロフィル、濁度、DO、pH、光量子を測定する。調査結果は、A3

    3課題の幼生分布調査結果と合わせて、AI課題として漁業者への情報提供を行う。

    (4)濁度のモニタリング

    小型メモリ濁度計を幼生採苗の盛んな谷川地先の4水深に垂下し、水深別の濁度の連続測定

    を実施する。

     ~ 34 ~ 

  • 図2.短波レーダー観測配置図及び観測範囲図

    4.結果と考察

    (1)海洋短波レーダーによる鮫浦湾表層流調査 海洋短波レーダーによる流況観測は、1 月 21 日から 2 月 4 日までの 15 昼夜連続観測を実施

    し、観測インターバルは 30 分間隔で表層流を取得した。期間中 1月 21 日、22 日は湾口から

    湾内に向かって西向きの流れが卓越しており、1月 23 日からは湾内から湾口へ東の流れに逆

    転している。これらは、風の影響を強く受けていることが、両日の気象データより確認され

    ている。特に湾口は風の影響が大きく吹送流と考えられる。湾奥は三方山に囲まれているた

    め、風の影響は少なく、湾内は西から東向きの流れ、湾口部は反時計回りの流れが主流とな

    っている(付図2)。

    次に、A33 課題で 2 月 1 日に祝浜付近で観測された幼生の産卵場所(母貝分布域)推定を行

    なった(付図3)。湾口に近くこの時期、東向きの吹送流が卓越しており、寄磯地区で産卵

    された幼生はほとんど寄磯の海岸に付着するか、湾外に移動する結果となった。祝浜付近に

    漂着する幼生は、祝浜の対岸にあたる北側の鮫浦地区から東の前網浜に至る区間から放出さ

    れたものと推定された(図3)。なお、ホヤの幼生は中層~下層においてその浮遊層が確認

    されている。従って、海洋短波レーダーで観測された表層流は、吹送流の影響を大きく受け

    ており、実際の浮遊経路を再現していない可能性がある。以上のことを踏まえ、吹送流の成

    分を極力抑えたデータを抽出できるよう今後検討が必要である。

    また、鮫浦湾の幅が南北約 1 km と狭く、短波レーダーの距離分解能レンジが 500 m(ベク

    トル図は半径 300 m平均計算を行い格子間隔 200 mで作成)であることより、観測データ

    の欠測による取得率の低下と観測精度を確認する上で、ADCP 観測を実施し、データの比較を行なった結果、表層部分の観測結果は、ほぼ同様な流れを示した。ただし、海底面上 2~5

    mの底層で表層に比べ西から東への流れが非常に大きく観測されている。また、表層と底層

    の流れが逆転しているところも見られた(付図4,5)。

    短波レーダー

    (大谷局)

    短波レーダー

    (寄磯局)

    ADCP観測点

     ~ 35 ~ 

  • 図3.祝浜に流れ着くホヤ幼生の輸送経路(1 月 29 日 1:30)の推定例。

    (2)水温・海流ブイによる南三陸町周辺海域リアルタイム海洋環境モニタリング

    南三陸町歌津地区に水温・海流ブイを設置し、水温・流向・流速データをインターネットお

    よび携帯サイトから漁業者向けに公開した(付図6)。 (3)種苗発生状況調査時の採集定点の環境観測

    2/8-3/7 の期間、鮫浦湾内の水深 2, 5, 8 m における水温測定(濁度計にセンサー付属)を

    行ったところ、7.1~5.3℃の範囲内で推移し、水深の違いによる顕著な傾向は認められなか

    った。

    (4)濁度のモニタリング

    2/8-3/7 の期間、鮫浦湾内の水深 2, 5, 8 m における濁度の観測を行った。観測開始から 2/22

    頃までの濁度はおおよそ 1.0 FTU 以下で推移したが、2/23 の降水(24 mm/day;気象庁江ノ

    島データ引用)に伴い濁度が増加し、その後も比較的高い水準で推移した。3/5 の 60 mm/day

    の降水後、水深 2 m(浅所)において 9.1 FTU の観測期間最高値を記録した。濁度を水深別

    に見ると、水深 2m の浅所の方が 5 m,8 m(中層・深所)と比べておおむね高い濁度を維持し

    ていた。マボヤの浮遊幼生は、中層の分布密度が最も高く、浅所や深所の密度は低いことが

    知られている。今回のモニタリングの結果、降水に伴って濁度は増加するが、顕著な増加は

    幼生密度の低い浅所にて起こることが明らかとなった。このことから、仮に濁度(水中懸濁

    物)が浮遊幼生着生に何らかの影響を及ぼすとしても、高密度で分布する中層への影響は限

    定的であると推察された。一方、今回のモニタリングは約 1ヶ月間と短く、実施期間も採苗

    終期からオフシーズンであったため、濁度がマボヤ浮遊幼生に与える影響を明らかにできた

    とは言い難い。次シーズン以降の継続調査を行うことが望ましいと考える。 5.成果概要

    ・鮫浦湾内での海流パターンが把握でき、ホヤ幼生の採苗最適場所に関する情報を提供した。

    ・ホヤの成熟と産卵に重要な水温情報と、幼生輸送方向を判断するのに重要な海流情報をリア

    ルタイムで漁業者に提供するシステムを構築した。 ・湾内の濁度の影響は、ホヤ幼生輸送の主深度となる中層では限定的であることが示された。

    6.成果の利活用

    海洋短波レーダーの観測によって得られた二次元的な流向・流速データを調和分解することで、

    任意の時期の二次元的な流況について推算する事が可能となり、好適採苗場所・時期を特定で

    き、被災地域における今後の効率的・安定的な養殖生産に寄与できる。

     ~ 36 ~ 

  • 【補足説明】

    (1)海洋短波レーダーによる鮫浦湾表層流調査

    付図1.海洋短波レーダーの大谷局(左)と寄磯局(右)の設置状況。

    付図2-1. 日平均流速図(平成 24 年 1 月 21 日)。

    平均流速出現状況

    観測開始時刻:2012/01/21 00:00

    観測終了時刻:2012/01/22 00:00

    単位:cm/sec

    cm/sec

    50403020100

    50 cm/sec

    38°22' 38°22'

    141°

    30'

    141°30'

    141°

    32'

    141°32'

    大谷局

    ◎寄磯局

    鮫浦

    前網浜

    祝浜

    寄 磯

    寄磯局

    大谷

     ~ 37 ~ 

  • 付図2-2.平均流速図(平成 24 年 2 月 23 日:大潮)。

    付図2-3.平均流速図(平成 24 年 2 月 1日)。

    平均流速出現状況

    観測開始時刻:2012/01/23 00:00

    観測終了時刻:2012/01/24 00:00

    単位:cm/sec

    cm/sec

    50403020100

    50 cm/sec

    38°22' 38°22'

    141°30'

    141°

    30'

    141°32'

    141°

    32'

    大谷局

    ◎寄磯局

    鮫浦

    前網浜

    祝浜

    寄 磯

    寄磯局

    大谷

    平均流速出現状況

    観測開始時刻:2012/02/01 00:00

    観測終了時刻:2012/02/02 00:00

    単位:cm/sec

    cm/sec

    50403020100

    50 cm/sec

    38°22' 38°22'

    141°

    30'

    141°

    30'

    141°

    32'

    141°

    32'

    大谷局

    ◎寄磯局

    鮫浦

    前網浜

    祝浜

    寄 磯

    寄磯局

    大谷

     ~ 38 ~ 

  • ②①

    ⑨⑧

    ⑤④

    ホヤの産卵場所(母貝分布域)の推定については以下に示す手順で行った。ホヤ幼生は、A33

    の潜水調査の結果から、寄磯浜地区の水深 10~15 m付近の岩礁部で産卵すると推定された。

    このため、寄磯浜地区の格子点 4点をホヤ発生地点として、追跡経路を推定してみた。ホヤ

    幼生は産卵後 3~5日間ほど浮遊した後、付着突起で適当な着底基盤に付着するものであり、

    観測期間中の 2月 1日に祝浜付近で 100 個体以上の幼生が確認されたことより、1月 27 日~

    29 日にかけて、寄磯浜地区の 4 点ほか全 10 地点を発生源と仮定し、観測データから追跡経

    路を推定した。付図3より寄磯地区①~④の4点は、湾口に近くこの時期、東向きの吹送流

    が卓越しており、殆ど寄磯の海岸に付着するか、湾外に移動する結果となった。祝浜付近に

    漂着するパターンは祝浜の対岸にあたる北側の鮫浦地区から東の前網浜に至る区間の⑤~⑦

    地点から放出した場合に祝浜付近に漂着するものと推定された。その他⑧~⑩地点の発生源

    では南側海岸への付着又は湾外への移動が殆どで、祝浜付近への移動は見られなかった。

    なお、ホヤの幼生は中層~下層においてその浮遊層が確認されている。従って、海洋短波レ

    ーダーで観測された表層流は、吹送流の影響を大きく受けており、実際の浮遊経路を再現し

    ていない可能性がある。以上のことを踏まえ、本報告では間に合わなかったが、吹送流の成

    分を極力抑えたデータを抽出できるよう検討している。

    付図3-1.ホヤ幼生の輸送経路の推定。地点①から(2 月 1 日 12:00)。

    付図3-2.ホヤ幼生の輸送経路の推定。地点④から(1 月 29 日 00:00)。

     ~ 39 ~ 

  • 付図3-3.ホヤ幼生の輸送経路。地点⑤から(1 月 29 日 1:30)。

    付図3-4.ホヤ幼生の輸送経路。地点⑦から(1 月 28 日 12:00)。

     ~ 40 ~ 

  • N -0.2 E 0.4 期間:2012/01/20 14:30 - 2012/02/05 08:00緯度: 38.3759759 経度:141.5045776

    流 速

    (cm/s)

    流 向

    (DEG)

    北方分速

    (cm/s)

    東方分速

    (cm/s)

    ベクトル

    (cm/s)

    25h移動平均

    (cm/s)

    01/200 12

    01/210 12

    01/220 12

    01/230 12

    01/240 12

    01/250 12

    01/260 12

    01/270 12

    01/280 12

    01/290 12

    01/300 12

    01/310 12

    02/010 12

    02/020 12

    02/030 12

    02/040 12

    02/050 12

    02/060

    01/200 12

    01/210 12

    01/220 12

    01/230 12

    01/240 12

    01/250 12

    01/260 12

    01/270 12

    01/280 12

    01/290 12

    01/300 12

    01/310 12

    02/010 12

    02/020 12

    02/030 12

    02/040 12

    02/050 12

    02/060

    2012

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    360

    270

    180

    90

    0

    50

    25

    0

    -25

    -50

    50

    25

    0

    -25

    -50

    50

    25

    0

    25

    50

    50

    25

    0

    25

    50

    付図3-5.ホヤ幼生の輸送経路。地点⑧から(2 月 1日 12:00)。

    鮫浦湾の幅が南北約 1 km と狭く、短波レーダーの距離分解能レンジが 500 m(ベクトル図

    は半径 300 m平均計算を行い格子間隔 200 mで作成)であることより、観測データの欠測

    による取得率の低下と観測精度を確認する上で、ADCP 観測を実施し、データの比較を行なった。付図4に短波レーダー(海面下約 0.3m)、付図5に ADCP の 1 m間隔の流向流速の15 昼夜時系列グラフを示した。表層部分の観測結果は、ほぼ同様な流れを示していた。ただ、

    今回の ADOP 観測結果より、海底面上 2~5 mの底層で表層に比べ西から東への流れが非常に大きく観測されている。また、表層と底層の流れが逆転しているところも見られた。

    付図4.海洋短波レーダーの時系列データ(鮫浦湾:N=-0.2km,E=0.4km)

     ~ 41 ~ 

  • 付図5.ADCP の時系列データ(鮫浦湾:N=-0.2km,E=0.4km)

    海洋短波レーダーの観測により、本調査では二次元的な観測結果が得られ、多くの観測点で

    15 昼夜連続の流向・流速データが得られた。これらのデータを調和分解することで、任意の

    時期の二次元的な流況について推算する事が可能となり、将来の採苗位置の選定に際しては

    有効な資料となり得るポテンシャルを有すると考える。また、今後、地形条件、境界条件等

    を整備する事で、三次元流況モデル、粒子移動解析シミュレーションモデル等の構築も可能

    となり、より精度の高いホヤ幼生の浮遊経路や、産卵箇所の同定が可能となると考える。

     ~ 42 ~ 

  • (2)水温・海流ブイによる南三陸町周辺海域リアルタイム海洋環境モニタリング

    付図6.歌津地区に設置した水温・海流ブイで取得された流向・流速データ。

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    2012/2/20 2012/2/25 2012/3/1 2012/3/6 2012/3/11 2012/3/16 2012/3/21

    velo

    city

    (cm

    /sec

    )

    0

    90

    180

    270

    360

    dire

    ctio

    n (d

    egre

    e)

    vel.dir.

     ~ 43 ~